説明

熱伝導性樹脂シートおよびこれを用いたパワーモジュール

【課題】 熱硬化性樹脂に無機充填剤を添加した絶縁性を有する熱伝導性樹脂シートにおいて、熱伝導性をさらに向上させるとともに、この熱伝導性が向上した熱伝導性樹脂シートを用いた高性能のパワーモジュールを得る。
【解決手段】 熱硬化性樹脂と、熱伝導性で且つ絶縁性の無機充填剤とを備え、無機充填剤は扁平状無機充填剤と粒子状無機充填剤との混合充填剤である熱伝導性樹脂シートであって、混合充填剤中における扁平状無機充填剤の体積含有率Vと粒子状無機充填剤の体積含有率Vとの比率(V/V)が(30/70)〜(80/20)で、かつ粒子状無機充填剤の平均粒径Dは扁平状無機充填剤の平均長径Dの1〜6.1倍であり、扁平状無機充填剤は面方向に対して角度を持って分散される。リードフレームに上記熱伝導性樹脂シートを用いヒートシンク部材を接着してパワーモジュールを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器等の発熱対象部から放熱部材へ熱を伝達させるのに用いる熱伝導性樹脂シートに関し、特にパワーモジュールの発熱を放熱部材に熱を伝達させる絶縁性の熱伝導性樹脂シートとこの熱伝導性樹脂シートを用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子機器の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂膜層には、高熱伝導性と絶縁性との要求から、熱硬化性樹脂に無機の充填剤を添加した熱伝導性樹脂組成物が広く用いられている。
例えば、パワーモジュールにおいては,電力半導体素子を搭載したリードフレームの裏面と放熱部となる金属板との間に設ける熱伝導性の絶縁層として、無機粉体を含有した熱硬化性樹脂のシートや塗布膜がある。(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、CPU等の発熱性電子部品と放熱フィンとの間に介在させる熱伝導性樹脂組成物として、高熱伝導性の無機充填剤を配合した熱硬化性樹脂組成物のシートがある。(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−196495号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−167560号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器の小形化や電子部品の高性能化に伴い、電子機器や電子部品からの発熱量は大幅に増大しており、電気・電子機器の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂シートには、さらなる高熱伝導性が要求されている。
従来の熱硬化性樹脂に高熱伝導性の無機充填剤を添加する絶縁性を有する熱伝導性樹脂シートでは、添加する無機充填剤の含有率を増やすことにより熱伝導性を向上させている。しかし、無機充填剤の含有率の増加は熱伝導性樹脂シートの製造上の点から限界があり、さらに大きい熱伝導率を有する絶縁性の熱伝導性樹脂シートを得ることができないとの問題があった。
また、上記従来の絶縁性の熱伝導性樹脂シートを電力半導体素子を搭載した発熱部と放熱部であるヒートシンクとの間に設けたパワーモジュールでは、小形化と高容量化とが制限されるとの問題があった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、熱硬化性樹脂に無機充填剤を添加した絶縁性を有する熱伝導性樹脂シートにおいて、熱伝導性をさらに向上させるとともに、この熱伝導性が向上した熱伝導性樹脂シートを用いた高性能のパワーモジュールを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱伝導性樹脂シートは、熱硬化性樹脂と、熱伝導性で且つ絶縁性の無機充填剤とを備え、上記無機充填剤は扁平状無機充填剤と粒子状無機充填剤との混合充填剤である熱伝導性樹脂シートであって、上記混合充填剤中における上記扁平状無機充填剤の体積含有率Vと上記粒子状無機充填剤の体積含有率Vとの比率(V/V)が(30/70)〜(80/20)で、かつ上記粒子状無機充填剤の平均粒径Dは上記扁平状無機充填剤の平均長径Dの1〜6.1倍であり、上記扁平状無機充填剤は面方向に対して角度を持って分散されることを特徴とするものである。
【0007】
本発明のパワーモジュールは、リードフレームと、このリードフレームの第1の面に載置された電力半導体素子と、上記リードフレームの上記電力半導体素子が載置された面に対向する反対側の第2の面に設けられた熱伝導性樹脂シートの硬化体と、この熱伝導性樹脂シートの硬化体に密着するヒートシンク部材とを具備するパワーモジュールであって、上記熱伝導性樹脂シートが、本発明に係る熱伝導性樹脂シートあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶縁性を有するとともに、格段に優れた熱伝導性を有する熱伝導性樹脂シートを得ることができる。
【0009】
本発明によれば、電力半導体素子で発生した熱を高効率に伝達し放熱できるので、小形化と高容量化とを実現できるパワーモジュールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における熱伝導性樹脂シートの断面模式図である。
図1にあるように、熱伝導性樹脂シート1はマトリックスとなる熱硬化性樹脂2と、この熱硬化性樹脂2中に分散した無機の扁平状充填剤(扁平状充填剤と略記する)3と無機の粒子状充填剤(粒子状充填剤と略記する)4とから構成されている。
すなわち、発明者らは、熱伝導性樹脂シート中に含有される充填剤が、所定の割合の扁平状充填剤3と粒子状充填剤4との混合充填剤であると、扁平状充填剤または粒子状充填剤の単独の充填剤である場合に比べ、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性が大幅に向上することを見出して本発明を完成するにいたった。
【0011】
図2は比較のための、(a)扁平状充填剤を単独に含有する熱伝導性樹脂シートと(b)粒子状充填剤を単独に含有する熱伝導性樹脂シートを示す図である。
図2(a)に示すように、扁平状充填剤13を単独に含有する熱伝導性樹脂シート10では、多くの扁平状充填剤13が熱伝導性樹脂シート10の面内に水平に配向し、熱伝導性樹脂シート10の厚さ方向では、扁平状充填剤13間に樹脂層が多く介在し、熱伝導性樹脂シート10の厚さ方向の熱伝導率は大きくない。
また、図2(b)に示すように、粒子状充填剤14を単独に含有する熱伝導性樹脂シート11では、粒子状充填剤14が熱伝導性シート15中に均一に分散し、やはり、粒子状充填剤14間に樹脂層が多く介在し、熱伝導性樹脂シート11の厚さ方向の熱伝導率は大きくない。
【0012】
所定の割合の扁平状充填剤と粒子状充填剤との混合充填剤を含有する熱伝導性樹脂シートが単独充填剤を含有する熱伝導性樹脂シートより熱伝導性が大幅に向上するが、その機構は以下のとおりである。
まず、粒子状充填剤が扁平状充填剤より多い混合充填剤を含有する熱伝導性樹脂シートでは、粒子状充填剤間に扁平状充填剤が存在することになる。この扁平状充填剤が、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に分布する異なる粒子状充填剤と接触し、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に充填剤が連なった熱が伝達する経路を形成して、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向の熱伝導性が向上する。
【0013】
次に、扁平状充填剤が粒子状充填剤より多い混合充填剤を含有する熱伝導性樹脂シートでは、扁平状充填剤間に粒子状充填剤が介在し、熱伝導性樹脂シートの面内に配向している扁平状充填剤を熱伝導性樹脂シートの面方向に対して角度を持って分散するようになる。そのため、層状に重なっている扁平状充填剤同士が接触し、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に対し充填剤が連なった熱が伝達する経路を形成して、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向の熱伝導性が向上する。このとき、粒子状充填剤は、層状に重なっている扁平状充填剤の両方と接触して、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に連なる熱が伝達する経路の一部となる。
【0014】
扁平状充填剤と粒子状充填剤との配合比が50:50に近い混合充填剤を含有する熱伝導性樹脂シートでは、上記両方の機構により、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向の熱伝導性が向上する。
【0015】
扁平状充填剤3とは、平板状の充填剤であり、その外縁の形状は限定されないが、矩形の形状が、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱伝導性を向上させる効果が特に大きく好ましい。扁平状充填剤3の材質としては電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化硼素、炭化珪素などが挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。
本実施の形態で用いる扁平状充填材3の平均の長径(Dと略記する)は0.5μm〜100μmが好ましく、特に1〜50μmであれば熱伝導性樹脂シートを形成するために調製する熱伝導性樹脂組成物のチクソトロピック性が抑制できるので、さらに好ましい。
本実施の形態における扁平状充填材3の長径Lとは、図3に示すように扁平状充填剤3の平面部における最長の長さである。
【0016】
粒子状充填剤4は、略球形のものが好ましいが、粉砕された形状で多角体形状であってもよい。材質としては、電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素(シリカ)、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化硼素などが挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。
本実施の形態で用いる粒子状充填剤4の平均粒径(Dと略記する)は、Dの0.4〜3.6倍である。DがDが0.4倍未満であると、熱伝導性樹脂シート1中で、熱伝導性樹脂シート1の面内方向に対し角度をもって分散する扁平状充填剤3が少なく、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱伝導性の向上が小さい。また、DがDの3.6倍より大きいと、扁平状充填材3が粒子状充填剤4間をつなぐ効果が減少し、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱伝導性の向上が小さい。
【0017】
本実施の形態では、熱伝導性樹脂シート1に含有される混合充填剤における扁平状充填剤3と粒子状充填剤4との比率は、混合充填剤中の扁平状充填剤の体積含有率Vとし、混合充填剤中の粒子状充填剤の体積含有率Vとした場合、(V/V)=(30/70)〜(80/20)の範囲が好ましい。そして、上記比率(V/V)は、(34/66)〜(70/30)範囲が、熱伝導性向上効果が特に大きくなり、さらに好ましい。上記(V/V)が(30/70)未満であると、粒子状充填剤4間をつなぐ扁平状充填剤3が少なくなり、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱伝導性の向上効果が小さい。また、上記(V/V)が(80/20)より大きいと、熱伝導性樹脂シート1の面に水平な方向に対して角度をもって分散する扁平状充填剤3が少なくなり、多くの扁平状充填剤3の扁平な面が熱伝導性樹脂シート1の面に平行となる。そのため、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向に熱伝導をする充填剤の経路が少なくなり、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱伝導性の向上効果が小さい。
【0018】
熱伝導性樹脂シート1のマトリックスとなる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの組成物を用いることができるが、エポキシ樹脂は、熱伝導性樹脂シート1の製造が容易であるので、特に好ましい。
エポキシ樹脂組成物の主剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は2種以上を併用しても良い。
【0019】
エポキシ樹脂組成物の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。これらの硬化剤は2種以上を併用しても良い。
【0020】
熱伝導性樹脂シート1には、必要に応じてカップリング剤を含有させても良い。用いられるカップリング剤としては、例えばγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。上記カップリング剤は2種類以上併用しても良い。
熱伝導性樹脂シート1に上記のようなカップリング剤を含有させると、電気・電子機器の発熱部や放熱部に対する接着力が向上する。
【0021】
また、熱伝導性樹脂シート1のマトリックスとなる熱硬化性樹脂にエポキシ樹脂組成物を用いた場合、主剤の一部として数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂を併用すると、熱伝導性樹脂シート1の柔軟性が向上し、電気・電子機器の発熱部や放熱部に対する密着性が増して、好ましい。数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂の配合割合は、主剤の液状エポキシ樹脂100重量部に対して10〜40重量部である。この配合割合が10重量部未満では、上記の密着性の向上が認められない。この配合割合が40重量部より大きいと、熱伝導性樹脂シート硬化体の耐熱性が低下する。
【0022】
本発明の熱伝導性樹脂シート1は、以下に示す方法により製造する。
まず、所定量の熱硬化性樹脂の主剤とこの主剤を硬化させるのに必要な量の硬化剤とからなる熱硬化性樹脂組成物と、例えばこの熱硬化性樹脂組成物と同重量の溶剤とを混合し、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液とする。次に、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液に、扁平状充填剤と粒子状充填剤との混合充填剤を添加して予備混合する。この予備混合物を例えば3本ロールやニーダなどで混練し、熱伝導性樹脂シート用コンパウンドする。次に、得られたコンパウンドを、離型処理された樹脂シートや金属板上に、ドクターブレード法により塗布する。次に、この塗布物を乾燥し、塗布物中の溶剤を揮発させ、熱伝導性樹脂シート1を得る。この時、必要に応じて加熱をして、溶剤の揮発を促進させても良く、熱硬化性樹脂組成物の反応を進め、Bステージ化しても良い。
また、粘度が低い熱硬化性樹脂組成物の場合は、溶剤を添加することなしに、熱硬化性樹脂組成物そのものに、混合充填剤を添加しても良い。
また、カップリング剤などの添加剤は、熱硬化性樹脂組成物と混合充填剤との混練工程までに添加すれば良い。
【0023】
本発明の熱伝導性樹脂シート1は、例えば、以下に示すようにして使用できる。
上記方法で得られた熱伝導性樹脂シート1は、マトリックスの熱硬化性樹脂がBステージ状態であるので、電気・電子機器の発熱部と放熱部材とで挟んで加熱硬化して、発熱部と放熱部材とを接着するとともに電気絶縁する。この熱伝導性樹脂シートの硬化物は高熱伝導性を有するので、発熱部からの熱を放熱部材へ効率よく伝達する。
また、熱伝導性樹脂シート1を、電気・電子機器の発熱部と放熱部材の、いずれか一方に接着し、他方をこの硬化した熱伝導性樹脂シート面に圧接し、発熱部からの熱を放熱部材へ伝達させる。
また、熱伝導性樹脂シート1を硬化させ、硬化した熱伝導性樹脂シート硬化体を、電気・電子機器の発熱部と放熱部材とで挟んで、発熱部からの熱を放熱部材へ伝達させる。
【0024】
本発明の熱伝導性樹脂シート1は、熱硬化性樹脂のマトリックス中に無機の扁平状充填剤と無機の粒子状充填剤との混合充填剤を含有したものであり、絶縁性を有するとともに、無機の扁平状充填剤や無機の粒子状充填剤を単独で用いたものより、格段に優れた熱伝導性を有する。
また、本実施の形態に示す熱伝導性樹脂シート1は、充填剤の含有率を極限までに増やさなくても、高い熱伝導率を有するので、上記熱伝導性樹脂シート用コンパウンドの粘度を下げることができ、厚さが薄く、表面が平坦な熱伝導性樹脂シート1を得ることができる。
すなわち、厚さが薄くできるので、熱伝導性樹脂シート1の厚さ方向の熱抵抗が小さいという効果がある。また、得られる熱伝導性樹脂シート1の表面が平坦であるので、発熱部や放熱部材への密着性が優れており、接触熱抵抗が小さく、熱伝達性が優れている。
【0025】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2におけるパワーモジュールの断面模式図である。
図4に示すように、本実施の形態のパワ−モジュール20は、リードフレーム22の第1の面に電力半導体素子23が載置されており、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、実施の形態1の熱伝導性樹脂シート1の硬化体21を介してヒートシンク部材24が設けられている。電力半導体素子23は、やはりリードフレームに載置された制御用半導体素子25と金属線26で接続されている。そして、熱伝導性樹脂シート21、リードフレーム22、ヒートシンク部材24、電力半導体素子23、制御用半導体素子25、金属線26などのパワーモジュール構成部材はモールド樹脂27により封止されている。しかし、リードフレーム22の外部回路と接続する部分とヒートシンク部材24の熱伝導性樹脂シート21が接着された面と対向する面とはモールド樹脂27で覆われていない構造である。
【0026】
本実施の形態のパワーモジュール20は、以下のようにして製造される。まず、リードフレーム22の所定の部分に、電力半導体素子23や制御用半導体素子25を半田などにより接合する。次に、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、Bステージ状の熱伝導性樹脂シート1を介してヒートシンク部材24を積層し、加熱加圧して熱伝導性樹脂シートを硬化させ、ヒートシンク部材24を接着する。次に、電力半導体素子23と制御用半導体素子25とに、金属線26をワイヤボンド法により接合し、配線を行う。最後に、例えば、トランスファーモールド法により、モールド樹脂27で封止して、パワーモジュール20を完成する。
【0027】
本実施の形態のパワーモジュール20は、パワーモジュールの発熱部である電力半導体素子23を載置したリードフレーム22に、実施の形態1の熱伝導性樹脂シートの硬化体21を介してヒートシンク部材24が接着されている。実施の形態1の熱伝導性樹脂シートの硬化体21は、電気絶縁性と従来にはない優れた熱伝導性を有しており、電力半導体素子23で発生した熱を高効率にヒートシンク部材24に伝達し放熱できるので、パワーモジュールの小形化と高容量化とを実現できる。
【0028】
本実施の形態のパワーモジュール20は、ヒートシンク部材24が、熱伝導性樹脂シートの硬化体21の表面に接着された構造となっているが、図5の断面模式図に示すように、ヒートシンク部材24を熱伝導性樹脂シートの硬化体21内に埋没させた構造であっても良い。
このような構造とすると、上記の効果に加え、ヒートシンク部材24の熱伝導性樹脂シートの硬化体21に対する固着が強固となり、パワーモジュール運転時のヒートサイクルにより発生する応力による、ヒートシンク部材24の剥離の耐性が向上する。
また、ヒートシンク部材の表面に40〜100μmの凹凸を設けてもよく、これにより、熱伝導性樹脂シートへの接着性が向上する。
【0029】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3におけるパワーモジュールの断面模式図である。
図6に示すように、本実施の形態のパワ−モジュール30は、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された第1の面に対向する反対側の第2の面に、Bステージ状の熱伝導性樹脂シート1のみを積層し加熱硬化させ熱伝導性樹脂シート1の硬化体31を設け、金属板や無機板のヒートシンク部材を設けなかった以外は、実施の形態2のパワ−モジュール20と同様なものである。
本実施の形態のパワ−モジュール30は、実施の形態2のパワ−モジュール20の有する上記効果に加え、部品点数を少なくできコストを低減できる。それと、熱伝導性樹脂シート1の硬化体31は、金属板や無機板のヒートシンク部材より、封止用のモールド樹脂との熱膨張率差が小さく、パワーモジュール運転時のヒートサイクルにより封止用モールド樹脂に発生する応力を低減でき、パワーモジュールの耐クラック性が向上する。
【0030】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4におけるパワーモジュールの断面模式図である。
図7に示すように、本実施の形態のパワーモジュール40はケースタイプのパワーモジュールであり、無機の絶縁板からなるヒートシンク部材44と、ヒートシンク部材44の表面に形成された回路基板42と、この回路基板42に載置された電力半導体素子43と、ヒートシンク部材44の周縁部に接着されたケース45と、ケース内に注入され回路基板42および電力半導体素子43などを封止する注型樹脂46と、ヒートシンク部材44の回路基板42が設けられた面に対向する反対側の面に積層された実施の形態1の熱伝導性樹脂シートの硬化体41と、熱伝導性樹脂シートの硬化体41を介してヒートシンク部材44に接合されたヒートスプレッダー46とからなる。
本実施の形態のパワーモジュール40は、ヒートシンク部材44とヒートスプレッダー46とを接合する熱伝導性樹脂シートの硬化体41が、従来の絶縁性熱伝導性樹脂シートにはない優れた熱伝導性を有しており、パワーモジュールの小形化と高容量化を可能にする。
【実施例】
【0031】
本発明の熱伝導性樹脂シートについて、実施例にてさらに詳細に説明する。
【0032】
比較例1.
比較例1として、粒子状充填剤を用いた熱伝導性樹脂シートを調製した。
主剤である液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂{エピコート828:ジャパンエポキシレジン(株)社}100重量部と、硬化剤である1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール{キュアゾール2PN−CN:四国化成工業(株)社}1重量部とからなる熱硬化性樹脂組成物に、メチルエチルケトンの101重量部を添加、撹拌して、熱硬化性樹脂組成物の溶液を調製する。
【0033】
上記熱硬化性樹脂組成物の溶液に、上記熱硬化性樹脂組成物と同体積の、Dが5μmで粒子状の窒化珪素充填剤{SN−7:電気化学工業(株)}を添加し、予備混合する。この予備混合物をさらに、三本ロールにて混練し、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液中に、上記充填剤を均一に分散させたコンパウンドを得る。
次に、上記コンパウンドを厚さ100μmの片面離型処理したポリエチレンテレフタレートシートの離型処理面上にドクターブレード法で塗布し、110℃で15分間の加熱乾燥処理をし、厚さが80μmでBステージ状態の熱伝導性樹脂シートを作製する。
次に、上記熱伝導性樹脂シートを120℃で1時間と160℃で3時間の加熱を行い熱伝導性樹脂シートの硬化体とし、この硬化体の厚さ方向の熱伝導率Kをレーザーフラッシュ法で測定した。
【0034】
比較例2.
比較例2として、扁平状充填剤を用いた熱伝導性樹脂シートを調製した。充填剤として、Dが7μmで扁平状の窒化硼素充填材{GP:電気化学工業(株)}を用いた以外は、比較例1と同様にして熱伝導性樹脂シートを作製し、比較例1と同様にして、上記熱伝導性樹脂シートの硬化体の厚さ方向の熱伝導率Kをレーザーフラッシュ法で測定した。
【0035】
実施例1.
充填剤として、Dが7μmで扁平状の窒化硼素充填材{GP:電気化学工業(株)}とDが5μmで粒子状の窒化珪素充填剤{SN−7:電気化学工業(株)}とを、表1に示す各体積含有率の比率(V/V)で混合した混合充填剤を用いた以外は、比較例1と同様にして各熱伝導性樹脂シートのサンプル1〜サンプル6を作製した。各サンプルを比較例1と同様して硬化し、上記各熱伝導性樹脂シートサンプルの硬化体を得て、比較例1と同様の方法により各硬化体の厚さ方向の熱伝導率Kをレーザーフラッシュ法で測定した。
上記各サンプルの硬化体の熱伝導率Kと比較例1の粒子状充填剤を用いた熱伝導性樹脂シートの硬化体の熱伝導率Kとの比率(K/K)、上記各サンプルの硬化体の熱伝導率Kと比較例2の扁平状充填剤を用いた熱伝導性樹脂シートの硬化体の熱伝導率Kとの比率(K/K)、各熱伝導性樹脂シートサンプルに用いた混合充填剤における扁平状充填剤と粒子状充填剤との体積含有率の割合(V/V)、扁平状充填剤のDと粒子状充填剤のDとの比率(D/D)を表1に示した。
【0036】
上記実施例1の結果から、図8に、作製した各熱伝導性樹脂シートサンプルの硬化体の(K/K)値および(K/K)値と、各熱伝導性樹脂シートサンプルに用いた混合充填剤中の扁平状充填剤の体積含有率Vとの関係を示した。
【0037】
表1および図8から明らかなように、Vが30〜80%の範囲である熱伝導性樹脂シートの硬化体は、粒子状充填剤を単独で用いた熱伝導性樹脂シートおよび扁平状充填剤を単独で用いた熱伝導性樹脂シートのどちらの硬化体よりも、熱伝導率が大きくなり、熱伝導性が優れている。特に、Vが34〜70%の範囲にある熱伝導性樹脂シートの硬化体の熱伝導率は、扁平状充填剤を単独で用いた熱伝導性樹脂シートの硬化体の熱伝導率の1.2倍以上であり、特に熱伝導性向上効果が大きい。
【0038】
【表1】

【0039】
比較例3.
が7μmで扁平状の窒化硼素充填材{GP:電気化学工業(株)}とDが0.8μmで粒子状の炭化珪素充填剤{GC#9000:フジミインコーポレーテッド(株)}とを体積含有率の比率(V/V)=(50/50)で混合した(D/D)が0.11の混合充填剤を用いた以外は、実施例1と同様にして熱伝導性樹脂シートを作製し、実施例1と同様にして、上記熱伝導性樹脂シートの硬化体の厚さ方向の熱伝導率Kをレーザーフラッシュ法で測定した。
熱伝導性樹脂シートに用いた扁平状窒化硼素充填剤のグレードとD、粒子状炭化珪素充填剤の種類とD、(D/D)とを表2に示した。
【0040】
実施例2.
が7μmで扁平状の窒化硼素充填材{GP:電気化学工業(株)}と、表2に示す各Dとグレードの粒子状の炭化珪素充填剤とを(V/V)=(50/50)の体積含有率の比率で混合した混合充填剤を用いた以外は、比較例1と同様にして各熱伝導性樹脂シートのサンプル7〜サンプル11を作製し、比較例1と同様にして、上記各サンプルの硬化体の厚さ方向の熱伝導率Kをレーザーフラッシュ法で測定した。
上記サンプルの硬化体の熱伝導率Kと比較例3の熱伝導性樹脂シートの硬化体の熱伝導率Kとの比率(K/K)、各サンプルに用いた扁平状窒化硼素充填剤のグレードとD、粒子状炭化珪素充填剤のグレードとD、(D/D)とを、表2に示した。
【0041】
上記実施例2の結果から、図9に、作製した各熱伝導性樹脂シートサンプルの硬化体の(K/K)値と、各熱伝導性樹脂シートサンプルの混合充填剤に用いた粒子状充填剤のDと扁平状充填剤のDとの比率(D/D)との関係を示した。
【0042】
表2および図9に示すように、粒子状充填剤のDと扁平状充填剤のDとの比率(D/D)が、0.4〜3.6である混合充填剤を用いると、熱伝導性シートの硬化体の熱伝導性の向上効果が、特に大きくなる。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例3.
実施例1のサンプル2ないしサンプル5のいづれかの熱伝導性樹脂シート1を介して、実施の形態2のパワーモジュール20のリードフレーム22の第2の面と銅のヒートシンク部材24とを接着した。さらに、トランスファーモールド法により、モールド樹脂27で封止して、パワーモジュール20を完成した。
本実施例では、パワーモジュール20のリードフレーム22の第1の面と、銅のヒートシック部材24の中央部に熱電対を取り付け、パワーモジュール20をフルパワーで稼動させ、リードフレーム22とヒートシンク部材24との温度を測定した。サンプル2ないしサンプル5のいづれかの熱伝導性樹脂シート1を用いたパワーモジュール20とも、定常となった時のリードフレーム22とヒートシンク部材24との温度差は5℃と小さく、放熱性が優れており、本実施例のパワーモジュールは、小形・高容量化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における熱伝導性樹脂シートの断面模式図である。
【図2】(a)扁平状充填剤を単独に含有する熱伝導性樹脂シートと(b)粒子状充填剤を単独に含有する熱伝導性樹脂シートとを示す断面模式図である。
【図3】扁平状充填剤の長径を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図5】ヒートシンク部材を熱伝導性樹脂シートの硬化体内に埋没させた構造のパワーモジュールの断面模式図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図7】本発明の実施の形態4におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図8】各熱伝導性樹脂シートサンプルの硬化体の(K/K)値および(K/K)値と、各熱伝導性樹脂シートサンプルに用いた混合充填剤中の扁平状充填剤の体積含有率Vとの関係を示す図である。
【図9】各熱伝導性樹脂シートサンプルの硬化体の(K/K)値と、各熱伝導性樹脂シートサンプルに用いた混合充填剤中の粒子状充填剤のDと扁平状充填剤のDとの比率(D/D)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1,10,11 熱伝導性樹脂シート、2 熱硬化性樹脂、3,13 扁平状充填剤、4,14 粒子状充填剤、20,30,40 パワーモジュール、21,31,41 熱伝導性樹脂シートの硬化体、22 リードフレーム、23,43 電力半導体素子、24,44 ヒートシンク部材、47 ヒートスプレッダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、熱伝導性で且つ絶縁性の無機充填剤とを備え、上記無機充填剤は扁平状無機充填剤と粒子状無機充填剤との混合充填剤である熱伝導性樹脂シートであって、上記混合充填剤中における上記扁平状無機充填剤の体積含有率Vと上記粒子状無機充填剤の体積含有率Vとの比率(V/V)が(30/70)〜(80/20)で、かつ上記粒子状無機充填剤の平均粒径Dは上記扁平状無機充填剤の平均長径Dの1〜6.1倍であり、上記扁平状無機充填剤は面方向に対して角度を持って分散されることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項2】
熱硬化性樹脂が、液状のエポキシ樹脂と数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂との混合物を主剤に用いたエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項3】
リードフレームと、このリードフレームの第1の面に載置された電力半導体素子と、上記リードフレームの上記電力半導体素子が載置された面に対向する反対側の第2の面に設けられた熱伝導性樹脂シートの硬化体と、この熱伝導性樹脂シートの硬化体に密着するヒートシンク部材とを具備するパワーモジュールであって、上記熱伝導性樹脂シートが、請求項1あるいは請求項2に記載の熱伝導性樹脂シートあることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
ヒートシンク部材が、熱伝導性樹脂シートの硬化体内に埋没され、放熱面のみを露出した構造であることを特徴とする請求項3に記載のパワーモジュール。
【請求項5】
リードフレームと、このリードフレームの第1の面に載置された電力半導体素子と、上記リードフレームの上記電力半導体素子が載置された面に対向する反対側の第2の面にヒートシンク部材として熱伝導性樹脂シートの硬化体を設けたパワーモジュールであって、上記熱伝導性樹脂シートが、請求項1あるいは請求項2に記載の熱伝導性樹脂シートあることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
ヒートシンク部材と、このヒートシンク部材の表面に形成された回路基板と、この回路基板に載置された電力半導体素子と、上記ヒートシンク部材の周縁部に接着されたケースと、このケース内に注入され上記回路基板および上記電力半導体素子を封止する注型樹脂と、上記ヒートシンク部材の上記回路基板が設けられた面に対向する反対側の面に積層された熱伝導性樹脂シートの硬化体と、この熱伝導性樹脂シートの硬化体を介して上記ヒートシンク部材に接合されたヒートスプレッダーとを具備するパワーモジュールであって、上記熱伝導性樹脂シートが、請求項1あるいは請求項2に記載の熱伝導性樹脂シートあることを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−101227(P2008−101227A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336768(P2007−336768)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願2004−43250(P2004−43250)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】