説明

直流電動機の整流子診断装置及び整流子診断方法

【課題】整流子の軸方向の異常に対して、定量的な診断を行うことが可能な直流電動機の整流子診断装置及び整流子診断方法を提供する。
【解決手段】変位量測定手段2から照射したY軸レーザ光L1により、変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離を測定し、位置検出手段8から照射したX軸レーザ光L2により、変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量を検出し、変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離の測定結果を含む変位量測定信号S1と、変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量の検出結果を含む移動量検出信号S2を、表面形状診断手段10へ出力し、変位量測定手段2から出力される変位量測定信号S1と、位置検出手段8から出力される移動量検出信号S2に基づいて、整流子12の表面形状を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電動機が有する整流子の表面形状を診断する整流子診断装置及び整流子診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼製造ライン等、各種製造設備等の駆動動力源として、直流電動機が多く用いられている。
このような直流電動機は、例えば、界磁手段、電機子、ブラシ、整流子等を備えた構成となっている。
界磁手段は、電磁石または永久磁石から形成されており、磁界を形成する機能を有している。電機子は、巻回されたコイルを備えており、界磁手段により形成される磁界の作用によって回転運動を行う。ブラシは、整流子に対して付勢されており、整流子と、整流子の径方向で対向して摺接して、整流子へ電流を供給する。
【0003】
整流子は、電機子と共に周方向へ回転し、ブラシから供給される電流を電機子のコイルへ一定方向に供給する。また、整流子は、複数の整流子片が環状に配設されて構成されており、各整流子片の形状及び配列は、整流子の表面の外形が真円に沿うように設計されている。
このような直流電動機では、各整流子片に生じる磨耗や欠損等により、整流子の表面形状に異常が発生し、整流子の表面の外形が真円から外れると、整流子の表面に荒損が生じて、ブラシの寿命が短縮されてしまうおそれがある。また、整流子の表面形状に異常が発生して、整流子の表面の外形が真円から外れたり、条痕や段磨耗が発生すると、ブラシと整流子との接触状態が悪化して、整流状態の悪化、火花の発生、更にはフラッシュオーバーが発生するおそれがある。このため、直流電動機の保守作業においては、整流子の表面形状を診断することが重要なウエイトを占めている。
【0004】
しかしながら、整流子の表面形状の診断は、保守作業員の目視や手による触診が主体であるため、保守作業員の経験に依存する部分が多く、定量的な診断を行うことが困難である。経験豊富な保守作業員は、高齢化に伴い減少していくことが予測されるが、一方、鉄鋼製造ライン等を備える製鉄所では、まだまだ多くの直流電動機が稼動を継続すると予測される。
【0005】
このため、経験の少ない保守作業員であっても、少ない人的誤差で異常の判断を行うことが可能であり、また、異常進行の傾向管理を行うことが可能な装置及び方法として、整流子の表面形状並びに表面の磨耗量を、定量的に測定可能な装置及び方法が必要とされている。
このような要望に対し、従来では、接触式ダイヤル距離計を整流子の円周方向に移動させることによって、整流子の偏心や、ハイバー、ローバーの測定を行い、整流子の表面形状並びに表面の磨耗量を、定量的に測定する直流電動機の整流子診断方法が用いられている。
【0006】
また、接触式ダイヤル距離計を用いる方法以外には、例えば、特許文献1に記載されているように、レーザ変位計を用い、整流子が回転している状態において、ブラシの整流子との摺接面に略直交する方向の変位量を非接触で測定し、整流子の真円度を測定する直流電動機の整流子診断方法がある。
この方法では、整流子が回転している状態で整流子の真円度を測定するため、レーザ変位計は、整流子の円周方向に沿って、ブラシの整流子との摺接面に略直交する方向の変位量を測定することとなる。
【特許文献1】特開2006−71533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、接触式ダイヤル距離計を用いた診断方法では、整流子の円周方向に沿って、整流子の偏心や、ハイバー、ローバーの測定といった、整流子の表面形状を診断している。
このため、例えば、条痕や段磨耗等、整流子の軸方向の異常を診断するためには、保守作業員の目視や手による触診を主体とすることとなり、経験豊富な保守作業員が必要となるとともに、保守作業員の経験に依存する部分が多く、定量的な診断を行うことが困難である。
【0008】
また、特許文献1に記載した直流電動機の整流子診断方法では、直流電動機の稼働中において、整流子の真円度を測定することが可能であるが、接触式ダイヤル距離計を用いた診断方法と同様に、整流子の円周方向に沿って、整流子の表面形状を診断している。
このため、接触式ダイヤル距離計を用いた診断方法と同様、整流子の軸方向の異常を診断するためには、経験豊富な保守作業員が必要となるとともに、定量的な診断を行うことが困難である。
本発明は、上述したような問題点に着目してなされたもので、整流子の軸方向に沿って、整流子の表面形状を診断することが可能な、直流電動機の整流子診断装置及び整流子診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、整流子と、当該整流子と整流子の径方向で対向して摺接するブラシと、を有する直流電動機において、
前記整流子における前記ブラシとの摺接面の変位量を測定する変位量測定手段を備えた直流電動機の整流子診断装置であって、
前記整流子の軸方向に沿って延在し、且つ前記変位量測定手段が前記整流子の軸方向へ移動可能に取り付けられる案内手段と、
前記案内手段を前記直流電動機へ着脱自在に取り付ける着脱手段と、
前記変位量測定手段の前記整流子の軸方向に沿った位置を検出する位置検出手段と、
前記変位量測定手段で測定した変位量及び前記位置検出手段で検出した位置に基づいて前記整流子の表面形状を診断する表面形状診断手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によると、変位量測定手段が、整流子の軸方向へ移動可能に取り付けられているため、整流子の軸方向に沿って、整流子におけるブラシとの摺接面の、ブラシに対する変位量を測定することが可能となる。
このため、測定された変位量と、変位量測定手段の位置に基づいて、整流子の軸方向に沿った部位毎に、整流子の軸方向に沿って、整流子の表面形状を診断することが可能となる。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記案内手段は、前記変位量測定手段を前記整流子の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えることを特徴とするものである。
本発明によると、案内手段が、変位量測定手段を整流子の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えているため、変位量測定手段を手動で移動させる場合と比較して、作業員の手間を減少させることが可能となる。
【0012】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記着脱手段は、前記案内手段の両端部をそれぞれ前記整流子の軸方向両側において両持ち梁状態で前記直流電動機へ着脱自在に取り付けることを特徴とするものである。
本発明によると、着脱手段が、案内手段の両端部を、それぞれ、整流子の軸方向両側において両持ち梁状態で直流電動機へ着脱自在に取り付けるため、整流子に対する変位量測定手段の位置を安定させることが可能となる。
【0013】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記着脱手段は、前記案内手段を磁力によって前記直流電動機へ着脱自在に取り付ける磁力着脱手段であることを特徴とするものである。
本発明によると、着脱手段が、案内手段を磁力によって直流電動機へ着脱自在に取り付ける磁力着脱手段であるため、直流電動機に対する案内手段の着脱が容易となり、直流電動機に対する整流子診断装置の着脱が容易となる。
【0014】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1から4のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記案内手段は、前記整流子の軸方向と前記変位量測定手段の移動方向とのなす角度を調節可能な角度調節手段を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、案内手段が、整流子の軸方向と変位量測定手段の移動方向とのなす角度を調節可能な角度調節手段を備えているため、変位量測定手段の移動方向を、整流子の軸方向に合致させることが容易となり、整流子の表面形状を精度良く診断することが可能となる。
【0015】
次に、請求項6に記載した発明は、整流子と、当該整流子と整流子の径方向で対向して摺接するブラシと、を有する直流電動機に対し、前記整流子における前記ブラシとの摺接面の変位量を測定する直流電動機の整流子診断方法であって、
前記変位量を前記整流子の軸方向に沿って整流子の部位毎に測定し、この測定した部位毎の変位量に基づいて前記整流子の表面形状を診断することを特徴とするものである。
【0016】
本発明によると、整流子におけるブラシとの摺接面のブラシに対する変位量を、整流子の軸方向に沿って整流子の部位毎に測定し、この測定した変位量に基づいて、整流子の表面形状を診断している。
このため、測定した変位量に基づいて、整流子の軸方向に沿った部位毎に、整流子の軸方向に沿って、整流子の表面形状を診断することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、整流子の軸方向に沿って、整流子の軸方向に沿った部位毎に、整流子の表面形状を診断することが可能となるため、条痕や段磨耗等、整流子の軸方向の異常を診断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置(以下、「整流子診断装置」と記載する)の構成を説明する。
図1は、本実施形態の整流子診断装置1の具体的な構成を示す図であり、図2は、整流子診断装置1の一部の概略構成を示す図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態の整流子診断装置1は、直流電動機Mに取り付けられており、変位量測定手段2と、案内手段4と、着脱手段6と、位置検出手段8と、表面形状診断手段10を備えている。この整流子診断装置1は、直流電動機Mが有する整流子12に対して、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の軸方向に沿った部位毎に、整流子12の表面形状を診断する際に用いるものである。
【0020】
直流電動機Mは、整流子12と、ブラシ14を有しており、例えば、鉄鋼製造ラインの各種製造設備等に用いられる。なお、本実施形態では、直流電動機Mが、整流子12の軸方向が水平または略水平となるように設置されている場合について説明する。
整流子12は、同軸に固定された回転子軸16を有しており、この回転子軸16と、電機子18と共に周方向へ回転し、ブラシ14から供給される電流を、電機子18のコイル(図示せず)へ一定方向に供給する。また、整流子12は、複数の整流子片20が環状に配設されて構成されており、各整流子片20の形状及び配列は、整流子12の表面の外形が真円に沿うように設定されている。
【0021】
ブラシ14は、整流子12の上方に配置されたブラシホルダーアーム22によって、整流子12の上方で支持されており、整流子12に対し、整流子12の径方向で対向した状態で摺接することにより、整流子12を介して電機子18へ電流を供給する。
また、ブラシ14は、バネ等の弾性部材(図示せず)により下方に付勢力を付与された状態で、ブラシホルダーアーム22に設けられた開口部(図示せず)に上下動自在に嵌合されており、整流子12の表面形状に応じて、ブラシホルダーアーム22に対して揺動(本実施形態では図1中における上下動)する。
【0022】
変位量測定手段2は、例えば、レーザ距離計等、非接触式の距離計によって形成されており、案内手段4により整流子12の軸方向へ移動可能に取り付けられて、整流子12の上方に配置されている。本実施形態では、変位量測定手段2を、レーザ距離計とした場合を例に挙げて説明する。
また、変位量測定手段2は、Y軸レーザ光L1を、整流子12の表面に向けて略鉛直下方に照射し、その反射光を検出することにより、レーザ出射面からレーザ照射面までの距離、すなわち、変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離を測定する機能を有している。
【0023】
また、変位量測定手段2は、変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離の測定結果を含む情報信号を、変位量測定信号S1として、表面形状診断手段10へ出力する機能を有している。なお、本実施形態では、変位量測定手段2として、測定分解能1μm(測定レンジ100mm)のレーザ距離計を用いた場合を例に挙げて説明する。
案内手段4は、案内部24と、二つの角度調節手段26a,26bを備えており、アクチュエータ(図示せず)を介して、変位量測定手段2が整流子12の軸方向へ移動可能に取り付けられている。
【0024】
案内部24は、例えば、リニアガイド装置が備える案内レール等、その軸方向が、整流子12の軸方向に沿って延在する形状の部材から形成されており、変位量測定手段2が、アクチュエータを介して、整流子12の軸方向へ移動可能に取り付けられている。なお、本実施形態では、一例として、案内部24を、リニアガイド装置が備える案内レールとした場合について説明する。
【0025】
また、案内部24は、整流子12の径方向から見て、整流子12よりも、整流子12の軸方向外側にそれぞれ突出する二つの突出部28a,28bを有している。
各突出部28a,28bには、それぞれ、軸を上下方向へ向けて配置された軸棒30a,30bが固定されており、軸棒30a,30bには、それぞれ、角度調節手段26a,26bを介して、着脱手段6a,6bが取り付けられている。
【0026】
各角度調節手段26a,26bは、ワンタッチレバー等、簡易な操作によって固定状態と解放状態を切り替え可能な部材によって形成されており、整流子12の軸方向と変位量測定手段2の移動方向とのなす角度を、所望の状態に調節可能となっている。具体的には、角度調節手段26aは、解放状態において、着脱手段6aに対する軸棒30aの整流子12の軸方向に対する角度や、着脱手段6aと突出部28aとの距離を変化させることが可能となっている。そして、所望の角度及び距離に調整した状態で、固定状態とすることにより、着脱手段6aに対する軸棒30aの整流子12の軸方向に対する角度や、着脱手段6aと突出部28aとの距離を固定することが可能となっている。また、角度調節手段26bも、角度調節手段26aと同様、着脱手段6bに対する軸棒30bの整流子12の軸方向に対する角度や、着脱手段6bと突出部28bとの距離を、所望の角度や距離で固定することが可能となっている。
【0027】
各着脱手段6a,6bは、磁力を調節可能な電磁石(図示せず)等を有しており、この電磁石の磁力を調節する磁力調節レバー32a,32bが、それぞれ、設けられている。磁力調節レバー32a,32bを操作して、電磁石の磁力を増加させると、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付けることが可能となり、電磁石の磁力を減少させると、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mから取り外すことが可能となる。なお、各着脱手段6a,6bを、磁力を調節可能な電磁石ではなく、磁力が一定な磁石を有する構成としてよい。すなわち、本実施形態では、着脱手段6を、磁力によって直流電動機Mに着脱自在に取り付ける磁力着脱手段によって構成している。
【0028】
各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付けると、各軸棒30a,30b及び角度調節手段26a,26bを介して、各突出部28a,28bが、それぞれ、整流子12の軸方向両側において、両持ち梁状態で直流電動機Mへ取り付けられる。なお、図1中では、着脱手段6aをロッカーリング33に取り付けるとともに、着脱手段6bを電機子18の外側面に取り付けた状態を示している。
【0029】
アクチュエータは、例えば、リニアガイド装置等の直動案内装置に備えられるモータ等の回転動力源によって形成されている。なお、本実施形態では、一例として、アクチュエータを、案内レールに相対移動可能に取り付けられたスライダを移動させるためのモータとした場合を説明する。したがって、本実施形態のアクチュエータは、スライダに変位量測定手段2を取り付け、モータ等の回転動力源を回転させることにより、変位量測定手段2を整流子12の軸方向へ移動させる機能を有している。ここで、モータ等の回転動力源を回転させた際に、回転動力源の回転角を含む情報信号が、回転角信号として、表面形状診断手段10へ出力される構成としてもよい。
【0030】
位置検出手段8は、変位量測定手段2と同様に、レーザ距離計によって形成されており、レーザ光が変位量測定手段2へ向けて照射されるとともに、レーザ光の照射方向が、変位量測定手段2の移動方向と同一となるように配置されている。
また、位置検出手段8は、X軸レーザ光L2を、変位量測定手段2に向けて水平方向に照射し、その反射光を検出することにより、レーザ出射面からレーザ照射面までの距離、すなわち、変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量を検出する機能を有している。
【0031】
また、位置検出手段8は、変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量の検出結果を含む情報信号を、移動量検出信号S2として、表面形状診断手段10へ出力する機能を有している。なお、本実施形態では、位置検出手段8として、変位量測定手段2と同様に、測定分解能1μm(測定レンジ100mm)のレーザ距離計を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0032】
表面形状診断手段10は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータから構成されており、変位量測定手段2及び位置検出手段8の入出力インタフェースを備えるとともに、ディスプレイ等、整流子12の表面形状の診断結果を出力する診断結果出力手段(図示せず)が接続されている。
また、表面形状診断手段10には、変位量測定手段2から出力される変位量測定信号S1と、位置検出手段8から出力される移動量検出信号S2に基づいて、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の表面形状を診断するためのプログラムがインストールされている。
【0033】
以下、表面形状診断手段10における処理を説明する。
変位量測定信号S1と移動量検出信号S2が表面形状診断手段10に入力されると、表面形状診断手段10にインストールされているプログラムに基づき、まず、移動量検出信号S2に含まれる変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量から、変位量測定手段2の整流子12の軸方向に沿った位置が検出される。ここで、回転角信号が入力されている場合には、移動量検出信号S2とともに、この回転角信号を参照することにより、移動量の検出精度を向上させることが可能となる。なお、測定単位となる整流子12の部位は、位置検出手段8の測定分解能に応じて設定すればよい。
【0034】
そして、変位量測定信号S1に含まれる変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離と、変位量測定手段2の整流子12の軸方向に沿った位置に基づいて、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の部位毎に測定される。
そして、この測定した部位毎における、変位量測定手段2から整流子12の表面までの距離に基づいて、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の表面形状を診断し、その診断結果を診断結果出力手段に出力する。
【0035】
具体的には、表面形状診断手段10に、予め、距離測定値の最大値と最小値の差の上限閾値Lを記憶しておき、距離測定値の最大値と最小値の差が上限閾値Lを超えているか否かを判断する。そして、距離測定値の最大値と最小値の差が上限閾値Lを超えている場合、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面形状が、異常であると診断して、その診断結果を診断結果出力手段に出力する。なお、診断結果出力手段に出力される診断結果は、診断結果出力手段をディスプレイ等の画像出力装置とした場合には、診断結果を画像として画面に表示し、診断結果出力手段をスピーカー等の音声出力装置とした場合には、診断結果を警報等の音声として発音すればよい。
【0036】
次に、図1及び図2に基づき、図3を参照しつつ、本実施形態の整流子診断装置1を用いて、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の表面形状を診断する方法の作用・効果等を説明する。
直流電動機Mの稼動時には、ブラシ14が整流子12の表面に押圧付勢された状態で、整流子12が周方向に回転するため、ブラシ14と摺接する整流子12の表面では、直流電動機Mの稼動に応じて磨耗が生じることとなる。
【0037】
整流子12の表面に磨耗が生じると、ブラシ14と整流子12との接触状態が悪化して、整流状態が不安定となるため、整流状態を正常に回復させるためには、整流子12の表面形状を診断する必要が生じる。
整流子12の表面に生じた磨耗の状態を測定し、整流子12の表面形状を診断する作業は、整流子12の回転が停止している状態、すなわち、直流電動機Mの稼動が停止している状態で行う。
【0038】
整流子12の回転が停止している状態で、各着脱手段6a,6bが有する電磁石の磁力を増加させて、各着脱手段6a,6bを、それぞれ、直流電動機Mに取り付ける(図1参照)。
このとき、案内部24の軸方向が整流子12の軸方向と平行となるとともに、各突出部28a,28bが、それぞれ、整流子12の軸方向両側において、両持ち梁状態となるように、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付ける。
【0039】
また、案内部24の軸方向、すなわち、変位量測定手段2の移動方向が、診断対象となる整流子12の表面に対し、整流子12の軸方向と平行となるように、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付ける。ここで、診断対象となる整流子12の表面とは、具体的には、診断対象となる整流子片20の表面であり、診断対象となる整流子片20は、例えば、一つの整流子12に対して複数設定する。複数設定された各整流子片20は、例えば、互いに等間隔に配設された複数の整流子片20とする。
【0040】
各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付けた状態で、整流子12の軸方向と変位量測定手段2の移動方向とのなす角度が、所望の状態となっていない場合、すなわち、整流子12の軸方向と変位量測定手段2の移動方向とのなす角度が、水平方向及び上下方向から見て平行となっていない場合は、各角度調節手段26a,26bにより、整流子12の軸方向と変位量測定手段2の移動方向とのなす角度を、所望の状態に調節する。
そして、アクチュエータによって、変位量測定手段2を整流子12の軸方向へ移動させるとともに、変位量測定手段2によって、変位量測定手段2から診断対象となる整流子片20の表面までの距離を測定し、変位量測定信号S1を、表面形状診断手段10へ出力する(図1及び図2参照)。
【0041】
また、変位量測定手段2による測定とともに、位置検出手段8によって、変位量測定手段2の整流子12の軸方向への移動量を検出し、移動量検出信号S2を、表面形状診断手段10へ出力する(図1及び図2参照)。
変位量測定信号S1と移動量検出信号S2が入力された表面形状診断手段10は、変位量測定信号S1に含まれる変位量測定手段2から診断対象となる整流子片20の表面までの距離を、整流子12の軸方向に沿って、診断対象となる整流子片20の部位毎に測定する(図2参照)。
【0042】
ここで、上述した測定結果の一例を、図3を参照して説明する。
図3は、変位量測定手段2から診断対象となる整流子片20の表面までの距離を、整流子12の軸方向に沿って、診断対象となる整流子片20の部位毎に測定した結果を示すイメージ図であり、図3(a)は、整流子12の表面を示す写真、図3(b)は、図3(a)に対応した測定結果を示すグラフである。なお、図3(a)中では、診断対象となる整流子片20の位置を破線で示している。また、図3(b)中に示す測定結果は、図3(a)中に破線で示された整流子片20に対する測定結果である。また、図3(b)中では、変位量測定手段2から診断対象となる整流子片20の表面までの距離を縦軸Yで示し、診断対象となる整流子片20の部位を横軸Xで示している。
【0043】
図3中に示されているように、変位量測定信号S1と移動量検出信号S2に基づいた測定では、測定した部位毎における整流子片20の表面形状を、二次元で表すことが可能となる。
そして、この測定した部位毎における、変位量測定手段2から診断対象となる整流子片20の表面までの距離に基づいて、診断対象となる整流子片20の表面形状を診断して、その診断結果を診断結果出力手段に出力する。
【0044】
ここで、診断対象となる整流子片20の表面形状の診断結果が異常である場合、すなわち、距離測定値の最大値と最小値の差が予め定めた上限閾値Lを超えている場合、整流子片20の表面がフラットとなるように、診断対象となる整流子片20に対して切削加工等を行う。図3中では、診断対象となる整流子片20が、整流子12の軸方向の一部が上限閾値Lを超えている場合を示している。
【0045】
距離測定値の最大値と最小値の差が予め定めた上限閾値Lの範囲内となるように、診断対象となる整流子片20に対して切削加工等を行うと、ブラシ14と整流子12との接触状態が良好なものとなり、整流状態が安定するため、整流状態が正常に回復する。
そして、一つの整流子12に対して複数設定された、全ての診断対象となる整流子片20に対し、上述した手順と同様の手順によって、表面形状の診断を行う。
【0046】
このとき、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mから取り外す際には、各着脱手段6a,6bが有する電磁石の磁力を減少させて、各着脱手段6a,6bを、それぞれ、直流電動機Mから取り外す。そして、診断が終了した整流子片20から、次の診断対象となる整流子片20の位置まで、整流子診断装置1を移動させて、変位量測定手段2の移動方向が、診断対象となる整流子12の表面に対し、整流子12の軸方向と平行となるように、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付ける。なお、整流子12を周方向に回転させることにより、変位量測定手段2からY軸レーザ光L1が、診断対象となる整流子12の表面に対して照射される状態として、各着脱手段6a,6bを直流電動機Mに取り付けてもよい。
【0047】
このような診断作業は、直流電動機Mの稼働時間等に基づいて、所定の間隔で数回行い、その都度、同じ整流子片20に対する診断結果を蓄積することにより、例えば、整流子片20の磨耗量や、部位毎の磨耗量に基づく磨耗状態の傾向等を、定量的に把握することが可能となる。この場合、表面形状診断手段10の構成を、例えば、診断データの蓄積及び参照が可能なデータベース部や、診断データを演算処理してグラフ化することが可能な演算処理部や、蓄積された診断データに基づいて、部位毎の磨耗状態の傾向を管理する傾向管理部等を備えた構成とすることが好適である。
【0048】
さらに、上記のような診断作業を複数の整流子片20に対して行うことにより、二次元で表される測定した部位毎における整流子片20の表面形状を、整流子12の周方向に沿って、三次元で表すことが可能となる。
したがって、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1であれば、案内手段4によって、変位量測定手段2が、整流子12の軸方向へ移動可能に取り付けられているため、整流子12の軸方向に沿って、整流子12におけるブラシ14との摺接面の、ブラシ14に対する変位量を測定することが可能となる。
【0049】
このため、整流子12におけるブラシ14との摺接面の、ブラシ14に対する変位量と、変位量測定手段2の移動量に基づいて、整流子12の軸方向に沿った部位毎に、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の表面形状を診断することが可能となる。
その結果、保守作業員の目視や手による触診を必要とせずに、条痕や段磨耗等、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面の異常を診断することが可能となる。
【0050】
また、表面形状診断手段10を、変位量測定信号S1と移動量検出信号S2に基づいて、整流子12の軸方向に沿って、整流子12の表面形状を診断するためのプログラムがインストールされているパーソナルコンピュータから構成しているため、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面の異常に対して、定量的な診断を行うことが可能となる。
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1であれば、直動案内装置等が備えるモータ等の回転動力源によって構成された、変位量測定手段2を整流子12の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えている。
【0051】
その結果、変位量測定手段2を手動で移動させる場合と比較して、作業員の手間を減少させることが可能となるため、整流子診断装置1を用いた、整流子12の表面形状を診断する作業効率を向上させることが可能となる。
さらに、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1であれば、案内手段4を直流電動機Mへ着脱自在に取り付ける着脱手段6を、案内手段4を磁力によって直流電動機Mへ着脱自在に取り付ける磁力着脱手段によって構成している。
【0052】
その結果、直流電動機Mに対する変位量測定手段2の着脱が容易となるため、整流子診断装置1を用いた、整流子12の表面形状を診断する作業効率を向上させることが可能となる。
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1であれば、二つの着脱手段6a,6bによって、各突出部28a,28bが、それぞれ、整流子12の径方向から見て整流子12よりも、整流子12の軸方向両側に配置された状態で、変位量測定手段2が直流電動機Mへ取り付けられる。
【0053】
その結果、変位量測定手段2を、整流子12の軸方向両側から両持ち梁状態で支持することが可能となるため、整流子12に対する変位量測定手段2の位置を安定させることが可能となり、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面形状を、精度良く診断することが可能となる。
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1であれば、案内手段4が、整流子12の軸方向と変位量測定手段2の移動方向とのなす角度を調節可能な角度調節手段26を備えている。
その結果、変位量測定手段2の移動方向を、整流子12の軸方向に対して微調整することが可能となり、変位量測定手段2の移動方向を、整流子12の軸方向に合致させることが容易となるため、整流子12の表面形状を精度良く診断することが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、変位量測定手段2を整流子12の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えた構成としたが、これに限定されるものではなく、アクチュエータを備えていない構成としてもよい。この場合、変位量測定手段2を、手動で整流子12の軸方向へ移動させてもよい。もっとも、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1のように、変位量測定手段2を整流子12の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えた構成とすることが、整流子診断装置1を用いた、整流子12の表面形状を診断する作業効率を向上させることが可能となるため、好適である。
【0055】
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、着脱手段6を、磁力によって直流電動機Mに着脱自在に取り付ける磁力着脱手段によって構成したが、これに限定されるものではなく、案内手段4を、例えば、着脱手段6を、ボルト等の締結部材によって構成してもよい。もっとも、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1のように、着脱手段6を、磁力によって直流電動機Mに着脱自在に取り付ける磁力着脱手段によって構成することが、直流電動機Mに対する変位量測定手段2の着脱が容易となるため、好適である。
【0056】
さらに、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、二つの着脱手段6a,6bによって、変位量測定手段2を、整流子12よりも整流子12の軸方向外側において、整流子12の軸方向両側から両持ち梁状態で支持する構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、一つの着脱手段6のみによって、変位量測定手段2を、整流子12よりも整流子12の軸方向外側において、整流子12の軸方向片側から片持ち梁状態で支持する構成としてもよい。もっとも、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1のように、変位量測定手段2を整流子12の軸方向両側から両持ち梁状態で支持する構成とすることが、整流子12に対する変位量測定手段2の位置を安定させることが可能となるため、好適である。
【0057】
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、案内手段4が、角度調節手段26を備えている構成としたが、これに限定されるものではなく、案内手段4が、角度調節手段26を備えていない構成としてもよい。もっとも、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1のように、案内手段4が、角度調節手段26を備えている構成とすることが、変位量測定手段2の移動方向を、整流子12の軸方向に合致させることが容易となり、整流子12の表面形状を精度良く診断することが可能となるため、好適である。
【0058】
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、位置検出手段8を、レーザ距離計、すなわち、非接触式の距離計によって形成したが、これに限定されるものではなく、位置検出手段8を、例えば、接触式ダイヤル距離計等の接触式の距離計によって形成してもよい。
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1を用いた整流子診断方法では、一つの直流電動機Mに対して、一箇所のみに整流子診断装置1を取り付けて診断作業を行ったたが、これに限定されるものではなく、複数個の整流子診断装置1を用い、一つの直流電動機Mに対して、複数個所に整流子診断装置1を取り付けて、診断作業を行ってもよい。
【0059】
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、直流電動機Mが、整流子12の軸方向が水平または略水平となるように設置されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、直流電動機Mが、整流子12の軸方向が水平方向に対して傾斜するように設置されている場合に適用してもよい。この場合、例えば、直流電動機Mの構成が、ブラシ14が整流子12の水平方向に摺接する構成である場合には、変位量測定手段2から照射されるY軸レーザ光L1を、整流子12の表面に向けて略水平方向に照射すればよい。要は、ブラシ14の整流子12との摺接面に略直交する方向の変位量を測定することが可能となるように、ブラシ14の位置に応じて、変位量測定手段2から照射されるY軸レーザ光L1の照射方向を設定すればよい。
【0060】
また、本実施形態の直流電動機の整流子診断装置1では、距離測定値の最大値と最小値の差が、予め定めた上限閾値Lを超えているか否かによって、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面形状が、異常であると診断する構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、距離測定値の最大値及び最小値が、それぞれ、上限閾値Lの上限値及び下限値を超えているか否かによって、整流子12の軸方向に沿った整流子12の表面形状を診断するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態の整流子形状測定装置の具体的な構成を示す図である。
【図2】整流子形状測定装置の一部の概略構成を示す図である。
【図3】変位量測定手段から診断対象となる整流子片の表面までの距離を、整流子の軸方向に沿って、診断対象となる整流子片の部位毎に測定した結果を示すイメージ図であり、(a)は、整流子の表面を示す写真、(b)は、(a)に対応した測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 整流子診断装置
2 変位量測定手段
4 案内手段
6 着脱手段
8 位置検出手段
10 表面形状診断手段
12 整流子
14 ブラシ
16 回転子軸
18 電機子
20 整流子片
22 ブラシホルダーアーム
24 案内部
26 角度調節手段
28 突出部
30 軸棒
32 磁力調節レバー
33 ロッカーリング
M 直流電動機
L1 Y軸レーザ光
L2 X軸レーザ光
S1 変位量測定信号
S2 移動量検出信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子と、当該整流子と整流子の径方向で対向して摺接するブラシと、を有する直流電動機において、
前記整流子における前記ブラシとの摺接面の変位量を測定する変位量測定手段を備えた直流電動機の整流子診断装置であって、
前記整流子の軸方向に沿って延在し、且つ前記変位量測定手段が前記整流子の軸方向へ移動可能に取り付けられる案内手段と、
前記案内手段を前記直流電動機へ着脱自在に取り付ける着脱手段と、
前記変位量測定手段の前記整流子の軸方向に沿った位置を検出する位置検出手段と、
前記変位量測定手段で測定した変位量及び前記位置検出手段で検出した位置に基づいて前記整流子の表面形状を診断する表面形状診断手段と、を備えることを特徴とする直流電動機の整流子診断装置。
【請求項2】
前記案内手段は、前記変位量測定手段を前記整流子の軸方向へ移動させるアクチュエータを備えることを特徴とする請求項1に記載した直流電動機の整流子診断装置。
【請求項3】
前記着脱手段は、前記案内手段の両端部をそれぞれ前記整流子の軸方向両側において両持ち梁状態で前記直流電動機へ着脱自在に取り付けることを特徴とする請求項1または2に記載した直流電動機の整流子診断装置。
【請求項4】
前記着脱手段は、前記案内手段を磁力によって前記直流電動機へ着脱自在に取り付ける磁力着脱手段であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載した直流電動機の整流子診断装置。
【請求項5】
前記案内手段は、前記整流子の軸方向と前記変位量測定手段の移動方向とのなす角度を調節可能な角度調節手段を備えることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載した直流電動機の整流子診断装置。
【請求項6】
整流子と、当該整流子と整流子の径方向で対向して摺接するブラシと、を有する直流電動機に対し、前記整流子における前記ブラシとの摺接面の変位量を測定する直流電動機の整流子診断方法であって、
前記変位量を前記整流子の軸方向に沿って整流子の部位毎に測定し、この測定した部位毎の変位量に基づいて前記整流子の表面形状を診断することを特徴とする直流電動機の整流子診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−249364(P2008−249364A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87915(P2007−87915)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】