説明

真空成膜装置及び成膜方法

【課題】 吸着/反応した後の原料ガスの排出時間を短縮し、原料ガスの置換効率、原料ガスの利用効率を高めると共に、処理対象物以外に付着した薄膜の処理を容易にする真空成膜装置及び成膜方法の提供。
【解決手段】 原料ガスを反応室に供給し、反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物S上で原料ガスの反応により成膜する真空成膜装置1であって、真空成膜装置1の外壁で構成され、開閉自在の天板11aを備えた外チャンバー11と、外チャンバー11内の下方部分に設置され、開閉自在の天板12aを備えた反応室である内チャンバー12との二重構造チャンバーにより構成されており、内チャンバー12内に原料ガスを供給するガスノズル15が処理対象物Sの表面に平行になるように内チャンバー12内に設けられており、処理対象物S上で成膜されるように構成されている。この装置を用いて成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜装置及び成膜方法に関し、特に二重構造チャンバーにより構成されている真空成膜装置及びこの真空成膜装置を用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応室内に複数の原料ガスを交互に供給して処理対象物上に種々の薄膜を形成する手法の一例として、ALD法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このALD法は、例えば、反応室内に2種類の原料ガスを交互にパルス的に供給し、処理対象物表面での反応により、反応室内の支持ステージ上に載置された処理対象物上に成膜を行うものである。すなわち、1種類の原料ガスが処理対象物上で吸着されている状態で、この原料ガスと反応する別の原料ガスを供給することにより、二つの原料ガスが互いに接触して反応し、所望の薄膜を形成する。その際、原料ガスを吸着させた後、吸着しなかった原料ガスを排出し、次いで別の原料ガスを供給して吸着した原料ガスと反応させ、次いで反応しなかったこの別の原料ガスを排出するという操作を繰り返して行って、所望の膜厚を有する薄膜を形成する。原料ガスの材料としては、固体、液体、気体状態のいずれでも使用することができ、通常、窒素、アルゴン等のような不活性ガスからなるキャリアガスと共に供給される。
【0004】
従って、このようなALD法を行う真空成膜装置では、加熱手段を備えた処理対象物の支持ステージを設けると共に、ステージに対向して原料ガス導入手段を装置の天井部に配置しているのが通常である。例えば、2種類の原料ガスを、ガス導入手段を介して時間差をつけて装置内へ供給し、一方のガスの吸着工程と吸着したガスと他方のガスとの反応工程とを繰り返して行い、所定の膜厚を有する薄膜を形成するように構成されている装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、このようなALD装置は、その容積や、装置内部の表面積が大きいため、吸着/反応した後の原料ガスを排出するのに時間がかかり、原料ガスの置換効率、原料ガスの利用効率が低いという問題がある。
【0006】
なお、ALD装置では、例えば反応室の下流側に、圧力調整バルブや真空ポンプを設けて、装置内部を所定の圧力に設定できるようにしているが、反応室から排出される原料ガスがこの圧力調整バルブや真空ポンプを劣化させてしまうという問題がある。例えば、酸化アルミニウム(Al)を成膜する場合、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)及びHOガスを用いるが、このTMAは反応性が高いため、圧力調整バルブや真空ポンプ内に存在する水分等と反応してしまい、この生成物が圧力調整バルブ及び真空ポンプの故障や汚染の原因を形成するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−010888号公報
【特許文献2】特開2003−318174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、ALD装置である真空成膜装置の反応室の容積や、反応室内部の表面積を小さくし、吸着/反応した後の原料ガスの排出時間を短縮し、原料ガスの置換効率、原料ガスの利用効率を高めると共に、処理対象物以外に付着した薄膜の処理を容易にすることができる真空成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【0009】
また、反応室の下流側に設けた圧力調整バルブや真空ポンプの劣化を防止することができる真空成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の真空成膜装置は、複数の原料ガスを交互にパルス的に反応室に供給し、反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で原料ガスの反応により成膜する真空成膜装置であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、内チャンバー内に原料ガスを供給するガスノズルが処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられており、内チャンバー内に載置される処理対象物上で成膜されるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
第1の真空成膜装置において、内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、ガスノズルの周辺下部及び支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、そして内チャンバーの側壁にも側壁防着板が設けられていることを特徴とする。
【0012】
第1の真空成膜装置において、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板を開閉せしめる機構を備えていることを特徴とする。
【0013】
第1の真空成膜装置において、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えていることを特徴とする。
【0014】
第1の真空成膜装置において、複数の原料ガスのうちの少なくとも1種のガスを供給する供給手段の途中に、この原料ガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
第1の真空成膜装置において、複数の原料ガスがトリメチルアルミニウムガス及びHOガスの組み合わせであり、このトリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の真空成膜装置は、第1の原料ガスと第2の原料ガスとを交互にパルス的に反応室に供給し、反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により成膜する真空成膜装置であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、内チャンバー内に第1の原料ガス及び第2の原料ガスを供給するガスノズルが処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられており、第1の原料ガスを供給する供給手段の途中にこの原料ガスを充填されるバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0017】
第2の真空成膜装置において、内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、ガスノズルの周辺下部及び支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、そして内チャンバーの側壁にも側壁防着板が設けられていることを特徴とする。
【0018】
第2の真空成膜装置において、内チャンバー内のガスの排出径路には、成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスが導入されるトラップが設けられ、このトラップには、さらに第2の原料ガスの供給源からその原料ガスの一部が導入されるように構成されており、また、トラップの下流側には真空成膜装置内の圧力を調整するための圧力調整用バルブ及び排気系がこの順番で設けられていることを特徴とする。
【0019】
第2の真空成膜装置において、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板を開閉せしめる機構を備えていることを特徴とする。
【0020】
第2の真空成膜装置において、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えていることを特徴とする。
【0021】
第2の真空成膜装置において、第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガス、第2の原料ガスがHOガスであり、このトリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の成膜方法は、第1の原料ガスと第2の原料ガスとを交互にパルス的に反応室である内チャンバーに供給して、第1の原料ガスの供給と吸着と排出及び第2の原料ガスの供給と吸着した原料ガスとの反応と排出とを繰り返し実施し、内チャンバー内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上に成膜する方法であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた内チャンバー内の支持ステージ上に処理対象物を載置し、処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられているガスノズルから第1の原料ガス及び第2の原料ガスを内チャンバー内に交互にパルス的に供給して処理対象物上でこの2種のガスを反応させて成膜し、その際に、第1の原料ガスの供給を、第1の原料ガスの供給手段の途中に設けられたバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するようにして実施し、また、内チャンバー内の成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスを、内チャンバーの下流に設けられたトラップ内に導入すると共に、第2の原料ガスの供給源からこのガスの一部をこのトラップ内に導入して、成膜に寄与しなかった第1の原料ガスとトラップ内に導入された第2の原料ガスとを反応させて、成膜に寄与しなかった第1の原料ガスを処理することを特徴とする。
【0023】
本発明の成膜方法において、第1の原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガス、第2の原料ガスとしてHOガスを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、吸着/反応した後の原料ガスの排出時間を短縮し、原料ガスの置換効率、原料ガスの利用効率を高めると共に、処理対象物以外に付着した薄膜の処理を容易にすることができるという効果を奏する。
【0025】
また、反応室である内チャンバーの下流側に設けた真空ポンプやバルブの劣化を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の真空成膜装置の一構成例を模式的に示す断面図であり、成膜操作中の状態を示す。
【図2】本発明の真空成膜装置の一構成例を模式的に示す断面図であり、処理対象物を搬入・搬出する際の状態を示す。
【図3】本発明における内チャンバー内に設ける防着板の構成を模式的に示す構成図であり、(a)はその断面図であり、(b)はその平面図であり、(c)は別の下部防着板の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明におけるトラップの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の真空成膜装置と第1の原料ガス及び第2の原料ガスの供給手段及び排出手段等の流路とを組み合わせた成膜システム(本発明ではこのシステムも成膜装置と称する)の一構成例として、真空成膜装置へ供給される原料ガスシーケンスを説明するための模式図である。
【図6】本発明における内チャンバーへ供給されるガスシーケンスを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、実施の形態の概要を説明し、次いで個々の構成要素について詳細に説明する。本発明では、成膜装置本体も、また、この成膜装置本体がガス供給系等を備えた成膜システムも成膜装置と称する。
【0028】
本発明に係る真空成膜装置の第一の実施の形態によれば、この真空成膜装置は、真空排気系を備え、複数の原料ガスを交互にパルス的に反応室である内チャンバーに供給し、内チャンバー内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で原料ガスの反応により成膜する真空成膜装置であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、内チャンバー内に原料ガスを供給するガスノズルは、そのガス導入方向が処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられて、内チャンバー内に載置される処理対象物上で成膜されるように構成されており、また、内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、そしてガスノズルの周辺下部及び支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、内チャンバーの側壁にも側壁防着板が設けられていると共に、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えてなり、複数の原料ガスのうちの少なくとも1種のガスを供給する供給手段の途中に、この原料ガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されている。
【0029】
上記した処理対象物の裏面に設けられている下部防着板は、例えば、その中央部分がくり抜かれた構造を有し、処理対象物の裏面の少なくとも周縁部近傍に設けられていても良いし、又はその中央部分がくり抜かれていない構造を有し、その寸法が処理対象物の裏面の寸法と同じでも、該裏面の寸法より大きくてもよい。以下同じ。
【0030】
上記複数の原料ガスがトリメチルアルミニウムガス及びHOガスの組み合わせである場合、このトリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されている。
上記の真空排気系は、内チャンバーと外チャンバーとを所望の圧力に真空排気できるように、所望の位置に設けられていればよく、両チャンバーを一つの真空排気系で排気しても、それぞれのチャンバーを独立の真空排気系で排気してもよい。
【0031】
本発明に係る真空成膜装置の第二の実施の形態によれば、この真空成膜装置は、真空排気系を備え、第1の原料ガスと第2の原料ガスとを交互にパルス的に反応室である内チャンバーに供給し、内チャンバー内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により成膜する真空成膜装置であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、内チャンバー内に第1の原料ガス及び第2の原料ガスを供給するガスノズルは、そのガス導入方向が処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられて、内チャンバー内に載置される処理対象物上で成膜されるように構成されており、内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、ガスノズルの周辺下部及び支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、そして内チャンバーの側壁に側壁防着板が設けられており、内チャンバー内のガスの排出径路の下流側には、成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスが導入されるトラップが設けられ、このトラップは、さらに第2の原料ガスの供給源からその原料ガスの一部が導入されるように構成されており、また、トラップの下流側には真空成膜装置内の圧力を調整するための圧力調整用バルブ及び排気系がこの順番で設けられており、外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えてなり、さらに第1の原料ガスを供給する供給手段の途中にこの原料ガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されている。
【0032】
上記第二の実施の形態において、2種の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスとHOガスとの組み合わせである場合、このトリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されている。
【0033】
上記第二の実施の形態において、真空排気系は、内チャンバーと外チャンバーとを所望の圧力に真空排気できるように、所望の位置に設けられていればよく、両チャンバーを一つの真空排気系で排気しても、それぞれのチャンバーを独立の真空排気系で排気してもよい。
【0034】
この真空成膜装置を使用する際に使用され得る原料ガスの原材料として、例えば第1原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガス、第2の原料ガスとしてHOガスを使用することが好ましい。
【0035】
本発明に係る成膜方法の実施の形態によれば、この成膜方法は、第1の原料ガス(例えば、トリメチルアルミニウムガス)と第2の原料ガス(例えば、HOガス)とを交互にパルス的に内チャンバーに供給して、第1の原料ガスの供給と吸着と排出及び第2の原料ガスの供給と吸着した原料ガスとの反応と排出とを繰り返し実施し、内チャンバー内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上に成膜する方法であって、真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた内チャンバー内の支持ステージ上に処理対象物を載置し、処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられているガスノズルから第1の原料ガス及び第2の原料ガスを内チャンバー内に交互に供給して処理対象物上でこの2種のガスを反応させて成膜し、その際に、第1の原料ガスの供給を、第1の原料ガスの供給手段の途中に設けられたバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するようにして実施し、また、内チャンバー内の成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスを、内チャンバーの下流に設けられたトラップ内に導入すると共に、第2の原料ガスの供給源からこのガスの一部をこのトラップ内に導入して、成膜に寄与しなかった第1の原料ガスとトラップ内に導入された第2の原料ガスとを反応させて、成膜に寄与しなかった第1の原料ガスを処理することからなる。
【0036】
上記原料ガスとしては、トリメチルアルミニウムガスとHOガスとの組み合わせ以外に、トリメチルアルミニウムと酸素又はオゾンとの組み合わせ等を挙げることができる。
【0037】
支持ステージを昇降自在にするためには、公知の昇降機構を設ければよく、例えば、ステージの下面にリフトを設ければよい。
【0038】
処理対象物としては、特に限定はなく、通常、ALD法やCVD法で用いる処理対象物は全て使用でき、処理対象物上に薄膜が形成されているものでも、形成されていないものでもよい。
【0039】
外チャンバーは、公知のALD装置の外壁を構成する材質で構成されていればよく、その天板はモーターなどの駆動装置により開閉自在に構成されている。
【0040】
反応室である内チャンバーでは、複数の原料ガスが交互にパルス的に供給され、内チャンバー内に載置されている処理対象物上で反応を生じせしめ、所望の膜厚の薄膜を形成する。この内チャンバーの天板も外チャンバーの天板と同様に開閉自在に構成されており、真空成膜装置のメンテナンスの際に、上記外チャンバー及び内チャンバーの各天板を開放して、装置内のクリーニングや、防着板及びガスノズルの取り替え等ができるようになっている。なお、内チャンバーの天板は、昇降自在に構成され、それによって処理対象物の搬送ができる。
【0041】
本発明の真空成膜装置は、上記したように、外チャンバーと内チャンバーとからなる二重構造チャンバーにより構成されており、これにより、反応室である内チャンバーの容積を小さくすることができ、例えば、内チャンバーの底面と天板との間を2mm以上1cm以下の距離とすることができる。
【0042】
複数の原料ガスを供給するガスノズルは、そのガス導入方向が処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられていれば良く、そのノズルの形状は特に制限はなく、各原料ガスが処理対象物の上に一様に流れ得るように構成されている。
【0043】
内チャンバーの天板の内側の壁面には上部防着板が設けられ、かつガスノズルの周辺下部及び支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、内チャンバーの側壁にも側壁防着板が設けられている。この防着板は、原料ガスの反応により生成される薄膜が内チャンバーの内壁やガスノズル周辺に付着しないようにするために設けるものであり、真空成膜装置のメンテナンスの際に、ガスノズルや、これらの防着板を取り替えることができる。外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を駆動せしめて、各天板を開き、取り替えればよい。
【0044】
次に、上記した真空成膜装置について、二重構造チャンバーを主体に、本発明による真空成膜装置の側断面の概略を示す模式図である図1及び図2、並びに内チャンバー内に設ける防着板の構成を模式的に示す断面図及び平面図である図3(a)及び(b)を参照して説明する。図1は成膜操作中の真空成膜装置の状態を示し、図2は処理対象物を搬入・搬出する際の真空成膜装置の状態を示す。これらの図において、同じ構成要素は同じ参照番号を付けてある。
【0045】
図1及び2において、真空成膜装置1は、その外壁で構成されている外チャンバー11と、その内部の下方部分に設置されている内チャンバー(反応室)12と、外チャンバー11の側壁にゲートバルブ13を介して設けられた処理対象物Sの搬送室14とを備えている。真空成膜装置1は、外チャンバー11及び内チャンバー12のそれぞれの天板11a及び12aを開閉せしめるためのモーター等の駆動機構(図示せず)を備えている。
【0046】
内チャンバー12は、天板12aと底壁12bとから構成されており、天板12aと底壁12bとの間隔は、反応が起きる範囲内であればよく、できるだけ小さくすることが好ましい。真空成膜装置1を二重構造としたことにより内チャンバー12の容積を小さくし、その内表面積を小さくすることが可能となった。
【0047】
内チャンバー12の天板12aは昇降自在に構成されており、この天板12aが外チャンバー11内の、内チャンバー12の上方空間内に上昇して、搬送室14から処理対象物Sを内チャンバー12内に搬入及び搬出することができるように構成されている。内チャンバー12内に処理対象物Sを搬入して、支持部材16上に載置した後、天板12aを下降せしめて閉じた状態で、複数の原料ガス供給手段(図示せず)を介してガスノズル15から内チャンバー内に各原料ガスを交互にパルス的に供給するように構成されている。このガスノズルの形状は特に制限はなく、各原料ガスが均一に処理対象物S表面に供給されるようなものであればよい。
【0048】
図1に示す内チャンバー12の内部には、図3(a)及び(b)に示すように、天板12aのチャンバー内側に上部防着板17、下部防着板18及び19、及び側壁防着板20がボルト等で固定されて設けられている。上部防着板17は一枚のものであっても、分割されたものであってもよく、分割されたものの場合は、処理対象物Sの上部に設ける上部防着板17aとノズル周辺の上部に設ける上部防着板17bとに分割されたものであってもよい。防着板を分割するのは、ガスノズル周辺の汚れ(膜付着)が特にひどく、厚い膜が形成され易いので、ガスノズル周辺の防着板だけを交換できるようにするためである。下部防着板18はガスノズル周辺であって、内チャンバー12の底壁12bの上に設けられ、下部防着板19は、内チャンバー12内に載置される処理対象物Sの裏面の少なくとも周縁部近傍に設けられている。原料ガスは処理対象物Sの裏面に回り込み、裏面周縁が汚れ易いことから、下部防着板19を設けるのである。この下部防着板18及び19も独立して交換できる構造とすることが好ましい。さらに、ガスノズル15自体も独立して交換できる構造とすることが好ましい。下部防着板18及び19は、その中央部分がくり抜かれた構造を有している。
【0049】
上記処理対象物Sは、支持ステージとしての支持部材(リフト)16上に載置され、成膜工程中には内チャンバー12の底壁12bに載置され、成膜工程が終わって処理対象物Sを搬送する際には、天板12aの上昇と共に支持部材16を上昇せしめ、処理対象物を搬送室14へ搬送できるように構成されている。
【0050】
真空成膜装置1には、図示していないが、内チャンバー12の天板12a及び/又は底壁12b内にヒータ等の加熱手段が埋め込まれて、処理対象物の温度を設定できるように構成されている。
【0051】
上記内チャンバー12内へ供給する原料ガスのうちの少なくとも1種のガスを供給する供給手段の途中に設けられるバッファタンク(図示せず)は、このバッファタンク内に充填された1サイクルで用いる所定量の原料ガスをガスノズル15から内チャンバー内に供給するように構成されている。一定量の原料ガスを再現性良く、かつ正確に、等量で供給でき、そのため、原料ガスの利用効率も高い。また、バッファタンクは単なる容器であるため、故障も少ないという利点がある。このバッファタンクの上流側には、バッファタンクへの原料ガスの供給量をモニターするための真空計が設けられている。
【0052】
例えば、複数の原料ガスがトリメチルアルミニウムガス及びHOガスの組み合わせである場合、このトリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されている。
【0053】
上記したようなバッファタンクを用いない場合、例えば、バルブのみで原料ガスの供給量を制御する構造とした場合、バルブの開閉操作に要する時間が内チャンバー12への原料ガスの供給量に影響を与えてしまうという問題がある。また、マスフローコントローラーのみで原料ガスの供給量を制御する構造とした場合、マスフローコントローラーの故障が多いという問題や、流量の安定化のために原料ガスの一部を系外へ排出する必要が生じ、原料ガスの利用効率が悪くなるという問題もある。しかしながら、本発明のように、バッファタンクを用いて原料ガスを内チャンバーに供給する構造とすれば、上記したバルブのみやマスフローコントローラーのみを用いた場合に生じる問題もない。
【0054】
図3(a)に示した下部防着板19の代わりに、図3(c)に示す下部防着板21を設けても良い。図3(c)において、ガスノズル15、上部防着板17(17a、17b)、下部防着板18、側壁防着板20、及び処理対象物Sは、図3(a)との関係で説明したものと同じである。下部防着板21は、内チャンバー12内に載置される処理対象物Sの裏面全体(基板の寸法と同じであっても、基板の寸法より大きくても良い)に設けられ、その中央部分がくり抜かれていない構造を有している。この下部防着板21も独立して交換できる構造とすることが好ましい。
【0055】
本発明に係る真空成膜装置の上記した第二の実施の形態によれば、内チャンバー12内に存在するガスの排出径路に、成膜に寄与しなかった原料ガスが導入されるトラップが設けられる。このトラップには、さらに第2の原料ガスの供給源からその原料ガスの一部が導入されるように構成されており、また、トラップの下流側には真空成膜装置内の圧力を調整するための圧力調整用バルブ及び真空ポンプからなる排気系がこの順番で設けられてなる。
【0056】
この圧力調整用バルブは、例えば、内チャンバー内の圧力を制御するものであり、トラップのコンダクタンス変化に対応するものである。
【0057】
上記したように外チャンバー11及び内チャンバー12のそれぞれの天板11a及び12aに取り付けられたモーターの動作は、以下の通りである。
・処理対象物搬送時:内チャンバー12のみを開閉し、ヒータ等の加熱手段はONのままである。内チャンバー12を開く前に内チャンバー12内をパージする。
・メンテナンス時:ヒータ等の加熱手段をOFFにし、その後内チャンバー12を開け、外チャンバー11内をパージし、その後外チャンバー11を開ける。
【0058】
上記トラップについて、トラップの一構成例を模式的断面図として示す図4を参照して以下説明する。
【0059】
トラップ41の形状には特に限定はなく、内チャンバー12から排出される第1の原料ガス(例えば、トリメチルアルミニウムガス等)と、内チャンバー12から排出される第2の原料ガス(例えば、HOガス等)及び第2の原料ガスの供給源から内チャンバー12を経由せずに直接導入されるその原料ガスの一部とが接触して反応する構造とすればよい。トラップ41は、円筒状の外筒部材42と、内チャンバー12から排出された第1の原料ガス及び第2の原料ガスが導入される第1のガス導入口43が設けられた蓋部材44と、底部材45とからなる。この円筒状の外筒部材42の内部には、円筒状の内筒部材46が蓋部材44及び底部材45に直接的に接触しないように設けられている。また、外筒部材42の上部側壁には、上記第2の原料ガスの一部を導入する第2のガス導入口47が設けられている。さらに、外筒部材42と内筒部材46との間には、その上部に設けられた第2のガス導入口47に連絡してラビリンス形状(迷路形状)のガス拡散室48が設けられている。第2のガス導入口47から導入された第2の原料ガスは、ガス拡散室48を経て内筒部材46の内部に向かって流れ、内筒部材46の全体に一様に拡散するようになる。上記外筒部材42の側壁には、内筒部材46を経由した第2の原料ガスが排出される原料ガス排出口49が設けられている。トラップ41には、第1の原料ガスと第2の原料ガスとが反応して生成した反応生成物(トリメチルアルミニウムガス及びHOガスを使用する場合には、酸化アルミニウム)が原料ガス排出口49から排出されてしまうのを防止するために、原料ガス排出口49の上流側にフィルターを備えていることが好ましい。この原料ガス排出口49は圧力調整バルブを介して真空ポンプへ接続している。
【0060】
上記トラップ41では、図4の矢印Aに示すように、内チャンバー12から排出された第1の原料ガス及び第2の原料ガスが、交互にガス導入口43から外筒部材42内に設けられた内筒部材46内に導入され、また、図4の矢印Bに示すように、第2の原料ガスの一部が、内チャンバー12を経由せずに直接第2のガス導入口47からガス拡散室48を介して内筒部材46内へ導入され、この内筒部材46内で第1の原料ガスと第2の原料ガスとが反応し、反応生成物を形成した後、原料ガス排出口49から排出される。
【0061】
具体的には、第1のガス導入口43から第1の原料ガスがトラップ41内に導入されている時は、第2のガス導入口47から第2の原料ガスの一部が導入されるように構成されているので、内筒部材46内で第1の原料ガスと第2の原料ガスが接触されて反応する。また、第1のガス導入口43から第2の原料ガスがトラップ41内に導入されている時は、第2のガス導入口47からは第2の原料ガスの一部は導入されないように構成されているので、第2の原料ガスはそのまま原料ガス排出口49から排出される。
【0062】
なお、第2の原料ガスの一部を、内チャンバーを経由せずに直接トラップに導入する構造を採用しないと、内チャンバー12から排出された第1の原料ガス及び第2の原料ガスがトラップ41に交互に導入されるだけであり、第1の原料ガスと第2の原料ガスとはトラップ41内で常時接触することはなく、導入時間にタイムラグがあるため、本発明の目的を達成することが困難である。本発明においては、内チャンバー12から排出された第1の原料ガスがトラップ41へ導入される時には、第2の原料ガスの一部がトラップ41に導入されているので、第1の原料ガスと第2の原料ガスとをトラップ41内で効率よく反応させ、処理することができる。
【0063】
次に、図1及び2に示す真空成膜装置と第1の原料ガス及び第2の原料ガスの供給手段及び排出手段とを組み合わせた一構成例において、真空成膜装置へ供給される原料ガスシーケンスを示す図5を参照して詳細に説明する。図5中、図1、2及び3、4と同じ構成要素については、同じ参照番号を付し、説明の便宜上、図1〜4中の参照番号を用いて説明する。
【0064】
図5に示すように、真空成膜装置1は、図示していないが、処理対象物Sが載置される支持ステージが設けられた内チャンバー12を備えている。この内チャンバー12の底壁12bには、第1の原料ガスを供給する第1ガス供給系51及び第2の原料ガスを供給する第2ガス供給系52が接続されている。
【0065】
第1ガス供給系51は、第1の原料ガスの原料が入った第1原料容器(原料ガス供給源)51aと内チャンバー12とを連結するガス供給系であり、上流側から順に、バルブ51b、バルブ51c、第1の原料ガスを充填するバッファタンク51d、及びバルブ51eが接続されており、さらにバルブ51eと内チャンバー12との間には、必要に応じて逆流防止弁(図示せず)が設けられていても良い。また、バッファタンク51dの上流側には、バッファタンク51dへの第1の原料ガスの供給量をモニターするための真空計が設けられている。この場合、第1原料容器51a及び第2原料容器52aは、用いる原材料が固体又は液体の場合には、この原材料をガス化せしめる気化器等の装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0066】
第1ガス供給系51との関係で、第1の原料ガス用のキャリアガスとして用いる窒素やアルゴン等の不活性ガスの供給系53が、バルブ51eを経て内チャンバー12へ第1の原料ガスを供給する径路に接続されている。この不活性ガスの供給系53は、不活性ガス源53aと内チャンバー12との間に、上流側から順に、バルブ53b、不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラー53c、及びバルブ53dが接続されている。
【0067】
第2ガス供給系52は、第2の原料ガスの原料が入った第2原料容器52aと内チャンバー12とを連結する供給系であり、上流側から順に、バルブ52b、バルブ52c、第2の原料ガスの流量を調整するマスフローコントローラー52d、及びバルブ52eが接続されている。
【0068】
第2ガス供給系52との関係で、第2の原料ガス用のキャリアガスとして用いる窒素やアルゴン等の不活性ガスの供給系54が、バルブ52eを経て内チャンバー12へ第2の原料ガスを供給する径路に接続されている。この不活性ガスの供給系54は、不活性ガス源53aと内チャンバー12との間に、上流側から順に、バルブ54a、不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラー54b、及びバルブ54cが接続されている。
【0069】
なお、図5においては、同一の不活性ガス源53aから、第1ガス供給系51の第1の原料ガス及び第2ガス供給系52の第2の原料ガスのためのキャリアガスを流す構成にしてあるが、勿論異なる不活性ガス源からそれぞれのガス供給系51、52に流す構成としてもよい。
【0070】
また、マスフローコントローラー52dとバルブ52eとの間のガス径路で第2ガス供給系52を分岐せしめて、トラップ41に第2の原料ガスの一部を供給する第3ガス供給系55を設ける。第3ガス供給系55には、バルブ55aが介設されている。
【0071】
内チャンバー12の底壁12bには、成膜に寄与しない第1の原料ガス及び第2の原料ガス、すなわち、吸着や反応しない第1の原料ガス及び第2の原料ガスを排出するための、また、真空成膜装置1内を排気するための排出・排気系56が設けられ、内チャンバー12側から順に、バルブ56a、トラップ41、真空成膜装置1内の圧力を調整する圧力調整用バルブ57、及びドライポンプのような真空ポンプ58が設けられている。例えば、外チャンバだけを排気するために、真空成膜装置1からバルブを介して直接真空ポンプ58へ接続してもよい。
【0072】
なお、第1の原料ガス及び第2の原料ガスが液化しないように、第1の原料ガス及び第2の原料ガスの流路には、ヒータ等の温度制御手段(図示せず)が設けられている。場合によっては、温度を調整するために冷却手段を設けてもよい。
【0073】
また、上記したバルブの開閉はすべて、自動制御されている。バッファタンク51dの上流側及び下流側にそれぞれ設けられたバルブ51c及び51e、並びに第2の原料ガスのマスフローコントローラー52dの下流側に設けられたバルブ52e及び55aは、開閉の頻度が高いため、高耐久性バルブを用いることが好ましい。
【0074】
上記したように、内チャンバー12の下流側にトラップ41を設け、このトラップ41に第2の原料ガスの一部が内チャンバー12を経由せずに供給される構造の真空成膜装置1としてあるので、第1の原料ガスが圧力調整用バルブ57や真空ポンプ58に流れ込むことが抑制され、この圧力調整用バルブ57及び真空ポンプ58の劣化を抑制することができる。
【0075】
本発明の真空成膜装置1を用いて、第1の原料ガス及び第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスを用いて処理対象物S上に成膜する方法の一例を以下に示す。本発明では、窒素等の不活性ガスは、成膜中、常に供給されるようにしてある。
【0076】
まず、トリメチルアルミニウム等の第1の原料ガスの所定量をバッファタンク51dに充填する。
【0077】
次いで、内チャンバー12にバッファタンク51d内の第1の原料ガスを供給して、処理対象物Sの表面に第1の原料ガスを吸着させる。
【0078】
第1の原料ガスをバッファタンク51dに充填している時、第1の原料ガスをバッファタンク51dから内チャンバー12に供給している時、及び第1の原料ガスを内チャンバー12から排出している時は、HOガス等の第2の原料ガスは、第2原料容器52aから内チャンバー12へ供給せず、トラップ41に供給するようにする。この第2の原料ガスの流量は、マスフローコントローラー52dにより調整する。
【0079】
上記したように処理対象物Sの表面に第1の原料ガスを吸着させた後、バルブ51eを閉じ、バルブ56aを開けて、処理対象物Sに吸着しなかった第1の原料ガスを内チャンバー12から排出する。この時、不活性ガスの供給系53を経由して不活性ガスが内チャンバー12に供給されているので、不活性ガスにより第1の原料ガスが押し出され、第1の原料ガスを内チャンバー12からすみやかに排出することができる。排出された第1の原料ガスは、トラップ41に導入される。第1の原料ガスがトラップ41に導入される時、すなわち第1の原料ガスが内チャンバー12から排出されている時は、第2の原料ガスの一部が第3ガス供給系55を経てトラップ41に供給されているので、若干のタイムログはあるが、トラップ41内で第1の原料ガスと第2の原料ガスとが接触等して反応する。例えば、第1の原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガスを用い、第2の原料ガスとしてHOガスを用いた場合は、酸化アルミニウムの固形物が生じ、トラップ41内に残留する。従って、トリメチルアルミニウム等の第1の原料ガスがさらに下流側の圧力調整用バルブ57及び真空ポンプ58に流れ込むことが抑制されて、第1の原料ガスが圧力調整用バルブ57及び真空ポンプ58に流れ込むことにより生じる故障や汚染等の劣化が抑制できる。
【0080】
上記第1の原料ガスの吸着・排出が終了した後、内チャンバー12にHOガス等の第2の原料ガスを供給して、処理対象物Sの表面に吸着した第1の原料ガスと反応させる。
【0081】
上記したように、処理対象物Sの表面において第1の原料ガスと第2の原料ガスとを反応させた後、バルブ52eを閉じ、バルブ56aを開けて、内チャンバー12から第2の原料ガスを排出する。この時、不活性ガスの供給系54を経由して不活性ガスが内チャンバー12に供給されているので、不活性ガスにより第2の原料ガスが押し出され、第2の原料ガスを内チャンバー12からすみやかに排出することができる。そして排出された第2の原料ガスは、トラップ41に導入される。
【0082】
上記したように処理対象物Sの表面に第1の原料ガスを吸着させた後に内チャンバー12から第1の原料ガスを排出している時、内チャンバー12に第2の原料ガスを供給している時、処理対象物Sの表面において第1の原料ガスと第2の原料ガスとを反応させた後に内チャンバー12から第2の原料ガスを排出している時には、バルブ51eは閉じたままにしておき、バルブ51b及び51cを開けることにより、第1の原料ガスを第1原料容器51aからバッファタンク51dに導入しておく。バッファタンク51dに第1の原料ガスを導入した後はバルブ51cを閉めておくことにより、一定量の第1の原料ガスを内チャンバー12に供給する工程を行うことができる。
【0083】
上記したような内チャンバー12に第1の原料ガスを供給する工程、内チャンバー12から第1の原料ガスを排出する工程、内チャンバー12に第2の原料ガスを供給する工程、及び内チャンバー12から第2の原料ガスを排出する工程を順に行う操作(1サイクル)を繰り返すことにより、処理対象物S上に所望の膜厚の薄膜を形成することができる。
【0084】
上述した内チャンバー12へ供給される原料ガスのシーケンスを図6に示す。第1の原料ガスとしてTMAガスを、また、第2の原料ガスとしてHOガスを、キャリアガスの不活性ガスとして窒素ガス(Nガス)を例示している。ベースラインは原料ガス及びキャリアガスの供給されていない状態を示し、図面上、ベースラインから上に上がっている上方の線の時はガスが供給されている状態を示す。図6において、Nガス供給源から供給されTMAのキャリアガスであるNを「N(TMA)」と表記し、HOガスのキャリアガスであるNを「N(HO)」と表記する。また、バッファタンク51dに導入される第1の原料ガスのシーケンス(「TMA(バッファタンク)」と表記する。)、及び内チャンバー12へ供給されず、第2原料容器52aから直接トラップ41へ供給される第2の原料ガスのシーケンス(「HO(トラップ)」と表記する。)を図6に併せて示す。
【0085】
また、図6において、(1)がバッファタンク51dから内チャンバー12に第1の原料ガスを供給する工程、(2)が内チャンバー12から第1の原料ガスを排出する工程、(3)が内チャンバー12に第2の原料ガスを供給する工程、(4)が内チャンバー12から第2の原料ガスを排出する工程を示す。
【0086】
図6に示すように、内チャンバー12に第1の原料ガスと第2の原料ガスが交互にパルス的に供給され、内チャンバー12内に載置された処理対象物S上で、第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により成膜される。また、第2の原料ガスが内チャンバー12に供給されている時以外は、第2の原料ガスはトラップ41に供給されており、内チャンバー12から排出される第1の原料ガスは、トラップ41内で第2の原料ガスと接触し反応する。
【0087】
なお、図6においては、上記(3)の第2の原料ガスを供給する工程及び(4)の第2の原料ガスを排出する工程で、第1の原料ガスをバッファタンク51dに導入する場合を例示したが、(2)〜(4)の工程の間で第1の原料ガスをバッファタンク51dに導入するようにすればよい。
【0088】
ところで、第1の原料ガスの内チャンバー12への供給量(Q)は、バッファタンク51dの容量V(cc)、第1原料容器51aの圧力P(T)(Tは第1の原料ガスの温度)、大気圧Patmに依存し、例えば、Q=V×{P(T)/Patm}の関係が成り立つ。そのため、このバッファタンク51dの容量や第1原料容器51aの圧力を調整することにより、所望量の第1の原料ガスを内チャンバー12へ供給することができる。
【0089】
上述した真空成膜装置1を用いて、酸化アルミニウム(Al)を処理対象物S上に成膜する条件の一例を以下に示す。なお、下記の条件においては、バッファタンク51dの容量Vと処理対象物Sの表面積S(cm)とは、V=(4×10−5〜4×10−4)×{Patm/P(T)}×2.5Sの関係が成り立つ。
【0090】
第1の原料ガス:トリメチルアルミニウム(TMA)
第2の原料ガス:H
不活性ガス:N
流量:各1SLM
O流量:100sccm
TMAの原料容器の温度:20〜80℃
Oの原料容器の温度:20〜80℃
ガス流路系の温度:20〜80℃
処理対象物の表面積:8000cm
内チャンバー(成膜エリア)の容量:770mm×960mm×10mmt
内チャンバーの温度:90〜150℃
バッファタンク容量:14〜140cc
例えば、上記条件で、図6の(1)の工程の時間を2秒、(2)の工程の時間を20秒、(3)の工程の時間を2秒、及び(4)の工程の時間を20秒として、成膜することができる。
【0091】
原料ガスとして2種の第1の原料ガス及び第2の原料ガスを使用する場合は、互いに反応するガスであれば特に限定はない。例えば、上述した第1の原料ガスであるTMAと反応させる第2の原料ガスとしてHOガス以外にも、酸素やオゾン等の酸化剤を挙げることができる。本発明は、第1の原料ガスが内チャンバーの下流側に設けられる圧力調整用バルブや真空ポンプ等に流れ込み、悪影響を与えることを防ぐことができるという効果を発揮するものであるので、第1の原料ガスが反応性の高いガスである場合に、特に顕著に本発明の効果を奏することができる。
【0092】
また、上述した例では、第1の原料ガスや第2の原料ガスの原料が液体であるものを例示したが、各原料ガスの原料は、固体でも気体でもよい。固体及び液体の場合には、気化器等を設けて原料ガスを生成すればよい。
【0093】
そして、上述した例では、キャリアガスを供給したが、キャリアガスを用いないでも良い。しかしながら、ガス供給径路や内チャンバー内に一方の原料ガスが残留していると、他方の原料ガス等と反応して、内チャンバーへの原料ガスの供給量が変動したり、また、ガス供給径路や内チャンバーが汚染したりするなどの原因となるため、キャリアガスを常に流すことが好ましい。
【0094】
さらに、上述した例においては、第1の原料ガスの供給手段をバッファタンク51dを備えた構造としたが、バッファタンク51dを用いなくてもよく、例えばバルブやマスフローコントローラーを用いてもよい。しかしながら、上述したように内チャンバー12への安定した供給量、原料の利用効率や構成部材の故障等を考慮すると、バッファタンク51dを用いる構造が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、吸着/反応した後の原料ガスの排出時間を短縮し、原料ガスの置換効率、原料ガスの利用効率を高めると共に、処理対象物以外に付着した薄膜の処理を容易にする真空成膜装置及び成膜方法を提供できるので、薄膜を形成することが必要な技術分野で利用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 真空成膜装置 11 外チャンバー
11a 天板 12 内チャンバー
12a 天板 12b 底壁
13 ゲートバルブ 14 搬送室
15 ガスノズル 16 支持部材
17、17a、17b 上部防着板 18、19 下部防着板
20 側壁防着板 41 トラップ
42 外筒部材 43 第1のガス導入口
44 蓋部材 45 底部材
46 内筒部材 47 第2のガス導入口
48 ガス拡散室 49 原料ガス排出口
51 第1ガス供給系 51a 第1原料容器
51b、51c、51e バルブ 51d バッファタンク
52 第2ガス供給系 52a 第2原料容器
52b、52c、52e バルブ 52d マスフローコントローラー
53 供給系 53a 不活性ガス源
53b、53d バルブ 53c マスフローコントローラー
54 供給系 54a、54c バルブ
54b マスフローコントローラー 55 第3ガス供給系
55a バルブ 56 排出・排気系
56a バルブ 57 圧力調整用バルブ
58 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原料ガスを交互にパルス的に反応室に供給し、該反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で該原料ガスの反応により成膜する真空成膜装置であって、該真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、該外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、該内チャンバー内に該原料ガスを供給するガスノズルが該処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられており、該内チャンバー内に載置される該処理対象物上で成膜されるように構成されていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、前記ガスノズルの周辺下部及び前記支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、そして該内チャンバーの側壁にも側壁防着板が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の真空成膜装置。
【請求項3】
前記外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板を開閉せしめる機構を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空成膜装置。
【請求項4】
前記外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空成膜装置。
【請求項5】
前記複数の原料ガスのうちの少なくとも1種のガスを供給する供給手段の途中に、この原料ガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項6】
前記複数の原料ガスがトリメチルアルミニウムガス及びHOガスの組み合わせであり、該トリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、このトリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項7】
第1の原料ガスと第2の原料ガスとを交互にパルス的に反応室に供給し、該反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上で該第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により成膜する真空成膜装置であって、該真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバーと、該外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバーとの二重構造チャンバーにより構成されており、該内チャンバー内に該第1の原料ガス及び第2の原料ガスを供給するガスノズルが該処理対象物の表面に対して平行になるように内チャンバー内に設けられており、該第1の原料ガスを供給する供給手段の途中にこの原料ガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填された原料ガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項8】
前記内チャンバーの天板の内側の壁面に上部防着板が設けられ、前記ガスノズルの下部周辺及び前記支持ステージ上に載置される処理対象物の裏面に、それぞれ、下部防着板が設けられ、そして該内チャンバーの側壁に側壁防着板が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の真空成膜装置。
【請求項9】
前記内チャンバー内のガスの排出径路には、成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスが導入されるトラップが設けられ、このトラップには、さらに第2の原料ガスの供給源からその原料ガスの一部が導入されるように構成されており、また、該トラップの下流側には真空成膜装置内の圧力を調整するための圧力調整用バルブ及び排気系がこの順番で設けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載の真空成膜装置。
【請求項10】
前記外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板を開閉せしめる機構を備えていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項11】
前記外チャンバー及び内チャンバーのそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を備えていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項12】
前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスであり、前記第2の原料ガスがHOガスであり、トリメチルアルミニウムガスを供給する供給手段の途中に、トリメチルアルミニウムガスを充填するバッファタンクが設けられ、このバッファタンク内に充填されたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するように構成されていることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項13】
第1の原料ガスと第2の原料ガスとを交互にパルス的に反応室に供給して、第1の原料ガスの供給と吸着と排出及び第2の原料ガスの供給と吸着した原料ガスとの反応と排出とを繰り返し実施し、反応室内に設けられた昇降自在の支持ステージ上に載置される処理対象物上に成膜する方法であって、該真空成膜装置の外壁で構成され、開閉自在の天板を備えた外チャンバー内の下方部分に設置され、開閉自在の天板を備えた反応室である内チャンバー内の該支持ステージ上に処理対象物を載置し、該処理対象物の表面に対して平行になるように該内チャンバー内に設けられているガスノズルから第1の原料ガス及び第2の原料ガスを該内チャンバー内に交互にパルス的に供給して該処理対象物上でこの2種のガスを反応させて成膜し、その際に、第1の原料ガスの供給を、該第1の原料ガスの供給手段の途中に設けられたバッファタンク内に溜められたガスをガスノズルから内チャンバー内に供給するようにして実施し、また、該内チャンバー内の成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスを、該内チャンバーの下流に設けられたトラップ内に導入すると共に、該第2の原料ガスの供給源からこのガスの一部をこのトラップ内に導入して、該成膜に寄与しなかった第1の原料ガスと該トラップ内に導入された該第2の原料ガスとを反応させて、成膜に寄与しなかった第1の原料ガスを処理することを特徴とする成膜方法。
【請求項14】
前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスであり、第2の原料ガスがHOガスであることを特徴とする請求項13に記載の成膜方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−126977(P2012−126977A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281025(P2010−281025)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】