説明

繰返し加熱における抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜およびNi合金電極膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】 低電気抵抗で、かつ繰返しの加熱環境にあって抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜、そのNi合金電極膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】 基板上に形成される電極膜であって、0.5〜2.0原子%のWを含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなる組成を有し、抵抗率が30μΩcm以下である繰返し加熱における抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜である。また、繰返し加熱に曝される電極膜形成用に用いられる0.5〜2.0原子%のWを含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなる組成を有するNi合金電極膜形成用スパッタリングターゲットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に使用される繰返し加熱における抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜およびその電極膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガラス基板やSiウェハー上に薄膜を積層して製造される平面表示装置等の電子部品の配線膜・電極膜等の導電膜には、製造中や使用環境において耐熱性、耐食性等が要求されており、高融点金属の純Cr膜、純Ta膜、純Ti膜等の純金属膜またはそれらの合金膜が用いられている。
また、これらの導電膜には、環境雰囲気、特に湿度に対する耐性も重要な特性になってきている。これは、湿度の影響で膜が変質すること、簡単に言えば酸化により錆びてしまうという現象により、電気的な接点としての特性(コンタクト性)の劣化が起こるというものである。
そこで、耐湿性を改善する導電膜として、Niをベースとして、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wを添加元素として加えたNi合金の導電膜が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−93571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐湿性が要求される電子部品の電極膜には、純Ni膜や上述の特許文献1に開示されるNi合金膜が適用されている。
一方、電子部品の用途の中には、電極膜が製造プロセス中あるいは使用環境において、繰返しの加熱環境に曝されるものが存在する。このような用途においては、加熱されるごとに電気抵抗が変化すると安定的に電極膜として使用できない場合があることが判明した。また、電極膜としては、電気抵抗が一定以上の値となる場合には、高い電圧をかける必要があるため、望ましくないという問題もある。
本発明の目的は、低電気抵抗で、かつ繰返しの加熱環境にあって抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜、そのNi合金電極膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、検討の結果、Niをベースとして、Wを微量に添加することで、上記の目的を達成できることを見いだし本発明に到達した。
すなわち本発明は、基板上に形成される電極膜であって、0.5〜2.0原子%のWを含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなる組成を有し、抵抗率が30μΩcm以下である繰返し加熱における抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜である。
また、上記のNi合金電極膜は、同一組成のスパッタリングターゲットによって形成可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のNi合金電極膜は、繰返しの加熱環境において抵抗率の安定性に優れるため、電気信号を繰り返し印加して作動させる電子デバイスを安定動作させる事が可能となる効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
上述したように、本発明の重要な特徴は繰返しの加熱環境において低電気抵抗で、かつ抵抗率の安定性に優れた電極膜として、Wを微量に添加したNi合金を適用したことにある。
以下、本発明に適用するNi合金について説明する。
【0008】
本発明のNi合金電極膜は、Wを0.5〜2.0原子%含有するものである。その理由は、耐湿性を有するNiにWを添加することにより、加熱環境下での抵抗率の変化を大幅に抑制できる効果を有するためである。その効果はWの添加量0.5原子%より明確となり、添加量の増加に伴いその効果は増加する。NiへのWの添加により抵抗率の変化を抑制できる理由は明確ではないが、通常、基板上にスパッタリングにより形成された金属薄膜を加熱すると再結晶化することにより結晶粒が成長して抵抗率は低下する。WはNiに対して10原子%程度固溶できる元素であるため、Ni中に固溶したWは加熱環境下でNiから分離したり化合物を形成することなく、Ni中に安定的に存在でき、マトリクスであるNi原子の移動を抑制することができるためと考えられる。
【0009】
また、電極膜としては、電気信号の遅延、さらには電極膜の発熱を抑制するために、抵抗率は低い事が望まれており、一般に抵抗率を30μΩcm以下に制御する。Wの添加量の増加に伴いNi合金膜の抵抗率も増大し、2原子%を越えると30μΩcm以下の低い抵抗率を確保できなくなる。このため、Wの含有量は2.0原子%以下とする必要がある。
さらに、より低い20μΩcm以下の抵抗率を得るにはWの添加量を1原子%以下とすることが望ましい。
なお、Niに0.5〜2.0原子%のWを含有させたNi合金電極膜とすることで、抵抗率を30μΩcm以下に容易に制御できると同時に、250℃での繰返しの加熱において抵抗率の変化が±10%以下と抵抗率の安定性に優れる電極膜が得られる。
【0010】
電子部品の電極膜は、製造プロセス中に大気雰囲気または真空雰囲気中で、250℃程度の温度で加熱されることがある。また、電極膜として使用される際に通電時の自己発熱によって250℃程度の温度に繰返し曝される場合がある。本発明のNiにWを含有したNi合金電極膜は、Niが本来有する耐熱性と高い耐湿性を有したまま、250℃までの加熱温度に対して成膜時からの抵抗率の変化が少なく、また、電極膜として繰返し加熱環境に曝された際の抵抗率の変化も抑制できるため有効である。
【0011】
また、電子部品の電極膜としては膜剥がれの抑制等のために、成膜時の膜の引張り応力の低減も必要である。本発明者の検討によれば、Wの添加量の増加に伴いNiの有する引張り応力が低減されるため、Wを0.5〜2.0原子%含有するNi合金膜は膜応力の低減の観点からも有効である。
【0012】
本発明のNi合金電極膜においては、Niは耐湿性や低い電気抵抗を実用上兼ね備えた元素であるため必須元素であるとともに、添加含有させるW以外の残部を占めるベースとなる元素である。それゆえ、残部はできるだけ不可避的不純物含有量が少ないことが望まれるが、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、Cu、半金族のAl,Si等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Fe、Cuは200質量ppm以下、Al、Siは100質量ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度として99.9%以上であれば良い。
【0013】
本発明のNi合金電極膜を形成する基板は、特に限定されるものではなく、ガラス基板、シリコン基板、ステンレス基板、樹脂基板等に適用できる。特に耐熱性が高く平面平滑性に優れるガラス基板やシリコン基板上に形成することが特に好適である。
【0014】
また、本発明の電極膜用Ni合金膜を形成する場合には、Ni合金膜と同じ組成を有する電極膜形成用スパッタリングターゲット材を用いたスパッタリングが最適である。スパッタリング法では、ターゲット材とほぼ同組成の膜が形成できるためであり、本発明のNi合金膜を安定に形成することが可能となる。
【実施例1】
【0015】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まず、以下に述べる方法でNi合金タ−ゲット材を製造した。
表1に示すNi−W合金膜の目標組成と実質的に同一組成となるように、高純度電解Niに高純度Wを所定量加えて、真空誘導溶解炉にて溶解した後、金属製鋳型に鋳造することでNi合金インゴットを作製した。次に得られたNi合金インゴットを機械加工により直径100mm、厚さ3mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
また、比較例として同一寸法の純Ni、Ni−7原子%Vのスパッタリングターゲット材も同様の方法によりに作製した。
【0016】
上記で作製した種々の組成のターゲット材を用いてスパッタリング法により、基板上にNi膜およびNi合金膜を形成した。なお、スパッタリング法による各膜の形成には、マグネトロンスパッタリング装置(アルバック製CS−200)を用い、サマリウム−コバルト磁石を用いてタ−ゲット表面での漏洩磁束を確保してスパッタリングを行った。スパッタリング時のAr圧力は0.5Pa、投入電力は500Wとした。また、基板には平面寸法100mm×100mmの平滑なガラス基板を用いて、その上に、膜厚200nmの純Ni膜およびNi合金膜を形成した。
【0017】
上記で形成した各膜について、以下の通り、成膜時の抵抗率評価および加熱環境における抵抗率変化の評価を行った。
まず、上記でガラス基板上に形成した純Ni膜およびNi合金膜について、4端子薄膜抵抗率計(三菱油化製、MCP-T400)を用いて、成膜時の抵抗率を測定した。続いて、ガラス基板上に形成した純Ni膜およびNi合金膜の各試料を25mm×50mmの大きさに切断し、大気中で温度250℃、30分の加熱処理を5回実施し、加熱処理を繰返した際の抵抗率の変化を評価した。抵抗率は、上記と同様に4端子薄膜抵抗率計を使用し、各加熱処理ごとに加熱処理後に試料を室温まで冷却した後に測定した。なお、抵抗率の変化は、成膜時の抵抗率と各加熱処理後の抵抗率との変化として、変化率=(成膜時抵抗率−各加熱後抵抗率)/成膜時抵抗率×100(%)として評価した。以上の結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から、純Ni膜の抵抗率は成膜時14.8μΩcmと低いが、250℃の加熱処理後に低下し、抵抗率の変化率は大きく25%を越える。Ni−7原子%Vの膜の抵抗率は60μΩcmを超えて非常に高く、電極膜としては望ましくない。それに対して本発明例のNiにWを0.5〜2原子%含有した試料No.1〜4のNi−W合金膜では抵抗率は30μΩcm以下と低く、加熱処理後の抵抗率の変化率も10%以下と小さい。また、Wの添加量の増加とともに抵抗率は増加するが、抵抗率の変化率は少なくなる。ただし、Wの添加量が3原子%を越えると抵抗率が30μΩcmを越え、低い抵抗率を維持できないため、電極膜としては望ましくない。以上から、Wの添加量は0.5〜2.0原子%とすることで30μΩcm以下の低い抵抗率を維持した上で、繰返し加熱における抵抗率安定性に優れることが分かる。また、試料No.1および2から、さらに低い20μΩcm以下の抵抗率を得るにはWの添加量は1原子%以下が好ましいことがわかる。
【0020】
また、純Ni膜およびNi合金膜の各試料について、温度85℃、相対湿度85%の環境下に300時間放置する耐湿性試験を行なったところ、試料No.1〜7のいずれの試料においても表面変色が確認できず、十分な耐湿性を有していることを確認した。
【実施例2】
【0021】
また、実施例1で作製した各スパッタリングターゲット材を使用して、実施例1と同様の方法で直径101.6mmのSiウェハ−上に膜厚200nmの純Ni膜およびNi合金膜を形成した。続いて、形成した各膜について、薄膜応力測定装置FLX−2320S(東邦テクノロジ−製)を用いてSiウェハ−のそりから膜応力を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2から、純Ni膜は膜応力が450MPaと大きな引張り応力を有していることが分かり、Ni−7原子%Vの膜では多量のV添加により膜応力が低下していることが分かる。それに対して、本発明例のWを1.0原子%、2.0原子%含有するNi−W合金膜では、わずかな添加量のWにより、膜応力を低減できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は電子部品の電極膜に必要な耐湿性に優れ、低電気抵抗で、かつ繰返しの加熱環境にあって抵抗率安定性に優れるため、電気信号を繰返し印加して作動させる電子デバイスを安定的に動作させることが必要となる電子部品の電極膜に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される電極膜であって、0.5〜2.0原子%のWを含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなる組成を有し、抵抗率が30μΩcm以下であることを特徴とする繰返し加熱における抵抗率安定性に優れるNi合金電極膜。
【請求項2】
繰返し加熱に曝される電極膜形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、0.5〜2.0原子%のWを含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とするNi合金電極膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2011−122212(P2011−122212A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281639(P2009−281639)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】