説明

自動二輪車

【課題】本発明は、パワーユニットの最低地上高を確保しつつ、このパワーユニットを吊り下げるメインフレーム部材の位置を低くできる自動二輪車を得ることにある。
【解決手段】自動二輪車は、フレーム(2)とパワーユニット(20)とを備えている。フレーム(2)は、ステアリングヘッドパイプ(3)から後方に延びるメインフレーム部材(4)を有している。パワーユニット(20)は、駆動源(21)と、駆動源(21)の出力端に付設された動力伝達装置(33,34)と、動力伝達装置(33,34)を収容するケース(31)とを有し、メインフレーム部材(4)から吊り下げられている。パワーユニット(20)のケース(31)は、メインフレーム部材(4)に向けて開放する凹部(65)を有し、この凹部(65)の底(65a)にメインフレーム部材(4)から吊り下げられるボス部(110)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンとベルト式連続無段変速装置とを一体化したパワーユニットを有する自動二輪車に係り、特にパワーユニットをフレームから吊り下げて支持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば通勤、ビジネス等を主な用途とする自動二輪車は、バックボーン形のフレームを備えている。このフレームは、フロントフォークを支持するステアリングヘッドパイプと、ステアリングヘッドパイプから後方に延びるメインフレーム部材とを有している。
【0003】
メインフレーム部材は、フレームの骨格となるものであり、このメインフレーム部材の中間部にエンジンのクランクケースを吊り下げるブラケットが固定されている。ブラケットは、メインフレーム部材から下向きに突出している。また、エンジンのクランクケースは、その前端上部および後端上部に夫々ボス部を有している。ボス部は、クランクケースの上面から上向きに突出しており、これらボス部がブラケットの下端部にボルトを介して固定されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−3723号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された自動二輪車では、ブラケットとボス部との連結部分がクランクケースの上面とメインフレーム部材との間に位置している。このような構成によると、クランクケースの上面とメインフレーム部材との間にボス部およびブラケットを収めるスペースを確保しなくてはならず、クランクケースとメインフレーム部材との間の間隔が広がるのを避けられない。
【0005】
すると、路面に対するエンジンの高さ位置は、例えばバンク角との兼ね合いにより自ずと定まるので、このエンジンの高さ位置を基準とした場合に、エンジンの上方を通過するメインフレーム部材の位置が高くなる。したがって、メインフレーム部材の上に支持されるシートが高くなり、足付き性が損なわれるといった不具合が生じてくる。
【0006】
本発明の目的は、パワーユニットの最低地上高を確保しつつ、このパワーユニットを吊り下げるメインフレーム部材の位置を極力低くできる自動二輪車を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係る自動二輪車は、
ステアリングヘッドパイプから後方に延びるメインフレーム部材と、
駆動源と、この駆動源の出力端に付設された動力伝達装置と、この動力伝達装置を収容するケースとを有し、上記メインフレーム部材から吊り下げられるパワーユニットと、を備えている。
上記パワーユニットのケースは、上記メインフレーム部材に向けて開放する凹部を有し、この凹部の底に上記メインフレーム部材から吊り下げるボス部を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボス部がパワーユニットのケースの上方に大きく突出することはなく、ケースとメインフレーム部材との間の間隔を狭めることができる。そのため、パワーユニットの最低地上高を確保しつつ、メインフレーム部材の位置を低くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1に示す自動二輪車1は、バックボーン形のフレーム2を有している。フレーム2は、ステアリングヘッドパイプ3、一本のメインフレーム部材4、左右のシートレール5a,5bおよび左右のシートピラーチューブ6a,6bを備えている。
【0011】
ステアリングヘッドパイプ3は、フレーム2の前端に位置するとともに、フロントフォーク7を介して前輪8を支持している。メインフレーム部材4は、フレーム2の骨格をなすものであり、例えば断面円形の鋼管が用いられている。メインフレーム部材4は、ステアリングヘッドパイプ3から後方に向けて延びるとともに、ステアリングヘッドパイプ3の後方に進むに従い下向きに傾斜している。
【0012】
シートレール5a,5bは、メインフレーム部材4の中間部から後方に向けて延びるとともに、車幅方向に間隔を存して並んでいる。シートピラーチューブ6a,6bは、メインフレーム部材4の後端部とシートレール5a,5bの中間部との間に架け渡されて、シートレール5a,5bを下方から支えている。
【0013】
シートレール5a,5bの上に燃料タンク9およびシート10が支持されている。燃料タンク9は、シートレール5a,5bの前半部に位置している。シート10は、燃料タンク9の上からシートレール5a,5bの後端部に向けて延びている。燃料タンク9およびフレーム2は、車体カバー11で覆われている。
【0014】
図2ないし図4に示すように、メインフレーム部材4の中間部に一対の第1のエンジンブラケット12a,12bが固定されている。第1のエンジンブラケット12a,12bは、メインフレーム部材4の中間部から下向きに突出するとともに、車幅方向に間隔を存して向かい合っている。
【0015】
メインフレーム部材4の後端部に一対のリヤアームブラケット13a,13bが固定されている。リヤアームブラケット13a,13bは、メインフレーム部材4の後端部から下向きに突出するとともに、車幅方向に間隔を存して向かい合っている。リヤアームブラケット13a,13bは、リヤアーム14を支持している。リヤアーム14は、リヤアームブラケット13a,13bから後方に延びており、このリヤアーム14の後端部に後輪15が支持されている。リヤアーム14の後端部は、油圧緩衝器16を介してフレーム2に懸架されている。
【0016】
後輪15を駆動するパワーユニット20は、メインフレーム部材4の下方に位置するようにフレーム2に支持されている。図3ないし図5に示すように、パワーユニット20は、例えば駆動源としての4サイクル単気筒エンジン21と、ベルト式連続無段変速装置(以下CVTと称する)22とを備えている。
【0017】
エンジン21は、クランクケース23と、このクランクケース23の前端に連結されたシリンダ24とを備えている。クランクケース23は、クランク軸25を収容している。クランク軸25は、クランクケース23に軸受26a,26bを介して支持されているとともに、車幅方向に沿って水平に配置されている。
【0018】
シリンダ24は、クランクケース23の前端から前方に向けて略水平に突出しており、その軸線O1がパワーユニット20の前後方向に沿って延びている。シリンダ24は、ピストン27を収容している。ピストン27は、コネクティングロッド28を介してクランク軸25のクランクウエブ29a,29bに連結されている。
【0019】
図4および図5に示すように、クランクケース23の後部に伝動ケース31が一体に形成されている。伝動ケース31は、クランク軸25の後方に位置している。クランクケース23および伝動ケース31は、第1のケースブロック32aと第2のケースブロック32bとを有し、これらケースブロック32a,32bは互いに突き合わされている。
【0020】
本実施の形態では、第1および第2のケースブロック32a,32bは、自動二輪車1の車幅方向に分けられている。言い換えると、第1のケースブロック32aは、シリンダ24の軸線O1の左側に位置し、第2のケースブロック32bは、シリンダ24の軸線O1の右側に位置している。
【0021】
伝動ケース31は、遠心式クラッチ33と歯車変速機34を収容している。遠心式クラッチ33および歯車変速機34は動力伝達装置の一例であり、クランク軸25の後方において車幅方向に並んでいる。
【0022】
遠心式クラッチ33は、第2のケースブロック32bの後端部に位置している。第2のケースブロック32bは、遠心クラッチ33を出し入れする開口部35を有している。開口部35は、第2のケースブロック32bの後端部の右側面に開口するとともに、円盤状のクラッチカバー36で塞がれている。
【0023】
遠心式クラッチ33は、出力軸38の上に支持されている。出力軸38は、クラッチカバー36および第2のケースブロック32bに夫々軸受39を介して支持され、上記クランク軸25と平行をなしている。さらに、出力軸38の右端部は、クラッチカバー36を貫通して伝動ケース31の右側に突出している。
【0024】
図6に示すように、遠心式クラッチ33は、円筒状のクラッチハウジング40と、このクラッチハウジング40の内側に位置するクラッチボス41とを備えている。クラッチハウジング40は、出力軸38と一体に回転するように、この出力軸38の上に支持されている。
【0025】
クラッチハウジング40は、複数のクラッチ板42を支持している。クラッチ板42は、クラッチハウジング40と一体に回転するとともに、出力軸38の軸方向に間隔を存して同軸状に並んでいる。
【0026】
クラッチボス41は、クラッチ板42の内側に位置するとともに、その中心部を出力軸38が貫通している。クラッチボス41と出力軸38との間に円筒状の中継軸45が介在されている。中継軸45は、出力軸38の上に一対の軸受46を介して回転自在に支持されている。さらに、中継軸45は、クラッチボス41と一体に回転するように、このクラッチボス41と噛み合っている。中継軸45は、出力歯車47を有している。出力歯車47は、出力軸38の上でクラッチボス41と並んでいる。
【0027】
クラッチボス41は、複数のフリクションプレート48を支持している。フリクションプレート48は、ピン49を介して同軸状に保持されているとともに、クラッチボス41と一体に回転するようになっている。フリクションプレート48は、クラッチ板42の間に介在されて、これらクラッチ板42と向かい合っている。
【0028】
図6に示すように、クラッチハウジング40に複数のカム面51が形成されている。カム面51は、クラッチハウジング40の径方向外側に進むに従いクラッチ板42に近づく方向に傾斜している。各カム面51と、このカム面51と向かい合う一つのクラッチ板42との間にローラウエイト52が介在されている。
【0029】
ローラウエイト52は、クラッチハウジング40の回転により生じる遠心力に応じてクラッチハウジング40の径方向に移動する。具体的には、ローラウエイト52に加わる遠心力が予め決められた値に達した時点で、ローラウエイト52がクラッチハウジング40の径方向外側に向けて移動を開始するとともに、カム面51に追従してクラッチ板42に押し付けられる。この結果、クラッチ板42とフリクションプレート48とが互いに圧着し、遠心式クラッチ33がトルクの伝達を可能とするクラッチインの状態となる。
【0030】
ローラウエイト52に加わる遠心力が低下すると、ローラウエイト52がクラッチハウジング40の径方向内側に向けて移動する。これにより、クラッチ板42とフリクションプレート48との圧着が解除され、遠心式クラッチ33がトルクの伝達を断つクラッチオフの状態に移行する。
【0031】
上記歯車変速機34は、遠心式クラッチ33の出力端に位置している。この歯車変速機34は、第1の変速軸54と第2の変速軸55とを有している。第1の変速軸54は、伝動ケース31の後部に複数の軸受56を介して支持されている。第1の変速軸54の右端部に入力歯車57が固定されている。入力歯車57は、中継軸45上の出力歯車47と噛み合っている。この噛み合いにより、遠心式クラッチ33のクラッチボス41と第1の変速軸54とが一体に回転するようになっている。
【0032】
第2の変速軸55は、伝動ケース31の後部および出力軸38の左端部に夫々軸受58を介して支持されており、出力軸38と同軸状に並んでいる。第2の変速軸55の出力軸38とは反対側の左端部は、伝動ケース31の左側に突出している。この第2の変速軸55の左端部にドライブスプロケット59が固定されている。ドライブスプロケット59と後輪15のドリブンスプロケット60との間にチェーン61が巻き掛けられている。
【0033】
第1および第2の変速軸54,55は、車幅方向に沿うとともに、互いに間隔を存して平行に配置されている。第1の変速軸54の回転は、歯車列62を介して第2の変速軸55に伝えられる。歯車列62は、第1の変速軸54と一体に回転する第1の変速歯車63aと、第2の変速軸55と一体に回転する第2の変速歯車63bとを有している。第1および第2の変速軸63a,63bは互いに噛み合っている。
【0034】
図5および図6に示すように、遠心式クラッチ33は、伝動ケース31の第2のケースブロック32bに収容されている。これに対し、第1および第2の変速歯車63a,63bは、伝動ケース31の第1のケースブロック32aに収容されている。第1および第2の変速歯車63a,63bを有する歯車列62と遠心式クラッチ33のクラッチハウジング40とは、車幅方向に隣り合っている。クラッチハウジング40は、歯車列62よりも外径が大きく形成されている。
【0035】
このため、伝動ケース31の後端部では、第2のケースブロック32bが第1のケースブロック32aよりも後方に張り出すとともに、第1のケースブロック32aの上面が第2のケースブロック32bの上面よりも一段低くなっている。このことから、伝動ケース31の後端部には、上記フレーム2のメインフレーム部材4に向けて開放する凹部65が形成されている。この凹部65は、遠心式クラッチ33を避けるようにこの遠心式クラッチの左側に位置している。
【0036】
図7に示すように、クランク軸25の左側のジャーナル部25aに交流マグネト発電機66および始動歯車67が取り付けられている。交流マグネト発電機66および始動歯車67は、第1のケースブロック32aの左側に位置している。交流マグネト発電機66は、ケースカバー68によって覆われている。ケースカバー68は、第1のケースブロック32aの前半部の左側面に固定されている。
【0037】
始動歯車67は、減速歯車69を介して始動用モータ70の回転軸71と噛み合っている。始動用モータ70は、第1のケースブロック32aの前端上部に支持され、クランク軸25の真上に位置している。始動用モータ70は、クランクケース23の外方に露出するとともに、このクランクケース23とメインフレーム部材4との間に位置している。
【0038】
クランクケース23の内部にバランサ軸73が収容されている。バランサ軸73は、クランク軸25の上方おいて、このクランク軸25と平行に配置されている。バランサ軸73は、第1のケースブロック32aと第2のケースブロック32bとの間に跨るとともに、第1および第2のケースブロック32a,32bに夫々軸受74を介して支持されている。バランサ軸73は、扇形のバランスウエイト75を有している。バランスウエイト75は、クランク軸25のクランクウエブ29a,29bの間に入り込むようになっている。
【0039】
バランサ軸73の左端部は、第1のケースブロック32aを貫通して第1のケースブロック32aの左側に突出している。バランサ軸73の左端部に第1の駆動歯車76aが固定されている。第1の駆動歯車76aは、クランク軸25のジャーナル部25aに固定した第2の駆動歯車76bと噛み合っている。そのため、バランサ軸73は、クランク軸25の回転方向とは逆方向に等速度で回転するようになっている。
【0040】
本実施の形態では、始動用モータ70のトルクをクランク軸25に伝える経路およびクランク軸25のトルクをバランサ軸73に伝える経路がエンジン21のシリンダ24の軸線O1の左側に集中している。
【0041】
図5に示すように、上記CVT22は、第2のケースブロック32bの右側面に取り付けられている。CVT22は、クランクケース23の右側面と伝動ケース31の右側面との間に跨っており、パワーユニット20の前後方向に沿って延びている。
【0042】
CVT22は、CVTケース80、プライマリシーブ81、セカンダリシーブ82およびベルト83を備えている。CVTケース80は、パワーユニット20の前後方向に延びる中空の箱状をなしている。クランク軸25の右側のジャーナル部25bおよび出力軸38の右端部は、CVTケース80の内部に突出している。CVTケース80は、上記プライマリシーブ81、セカンダリシーブ82およびベルト83を収容している。
【0043】
プライマリシーブ81は、CVTケース80の前端部に位置するとともに、クランク軸25の右側のジャーナル部25bの上に支持されている。プライマリシーブ81は、固定シーブ体84と可動シーブ体85とを備えている。固定シーブ体84は、ジャーナル部25bの軸端に固定されて、クランク軸25と一体に回転するようになっている。可動シーブ体85は、ジャーナル部25bの上に支持されている。可動シーブ体85は、固定シーブ体84に近づいたり遠ざかる方向にスライド可能であるとともに、ジャーナル部25bの周方向に回転可能となっている。
【0044】
固定シーブ体84および可動シーブ体85は、径方向に沿う外側に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。固定シーブ体84と可動シーブ体85との間に第1のベルト溝87が形成されている。第1のベルト溝87の幅は、可動シーブ体85のスライドにより調整可能となっている。
【0045】
ジャーナル部25bの上にカムプレート88が固定されている。カムプレート88はクランク軸25と一体に回転するとともに、可動シーブ体85と向かい合っている。カムプレート88と可動シーブ体85とは、一体に回転しつつ互いに近づいたり遠ざかる方向に移動可能となっている。
【0046】
可動シーブ体85は、カムプレート88と向かい合う複数のカム面89(一つのみを図示)を有している。各カム面89とカムプレート88との間にローラウエイト90が介在されている。ローラウエイト90は、クランク軸25の回転時に発生する遠心力に応じてカム面89に沿って移動する。この移動により、可動シーブ体85がジャーナル部25bの軸方向にスライドし、第1のベルト溝87の幅が変化するようになっている。
【0047】
セカンダリシーブ82は、CVTケース80の後端部に位置するとともに、出力軸38の右端部の上に支持されている。セカンダリシーブ82は、固定シーブ体92と可動シーブ体93とを備えている。固定シーブ体92は、その回転中心部に円筒状のカラー94を有している。カラー94は、出力軸38と一体に回転するように、出力軸38の右端部と噛み合っている。可動シーブ体93は、カラー94の上に軸方向にスライド可能に装着されているとともに、複数の係合ピン96を介してカラー94に引っ掛かっている。このため、可動シーブ体93は、固定シーブ体92と一体に回転しつつ、この固定シーブ体92に近づいたり遠ざかる方向に移動可能となっている。
【0048】
固定シーブ体92および可動シーブ体93は、径方向に沿う外側に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。固定シーブ体92と可動シーブ体93との間に第2のベルト溝97が形成されている。第2のベルト溝97の幅は、可動シーブ体93のスライドにより調整可能となっている。さらに、可動シーブ体93は、圧縮コイルスプリング98を介して第2のベルト溝97の幅を減じる方向に付勢されている。
【0049】
図5および図6に示すように、セカンダリシーブ82は、出力軸38の上で遠心式クラッチ33と隣り合っている。プライマリシーブ81およびセカンダリシーブ82は、遠心式クラッチ33のクラッチハウジング40と同等の直径を有している。このため、CVTケース80の高さ寸法は、第2のケースブロック32bの高さ寸法と同等となっている。このCVTケース80の後端部では、CVTケース80が第1のケースブロック32aの後端部よりも上方に張り出している。
【0050】
上記ベルト83は、プライマリシーブ81のトルクをセカンダリシーブ82に伝えるためのものである。ベルト83は、プライマリシーブ81の第1のベルト溝87とセカンダリシーブ82の第2のベルト溝97との間に無端状に巻き掛けられている。
【0051】
エンジン21がアイドリング運転をしている時のようにクランク軸25の回転数が低い状態では、ローラウエイト90はプライマリシーブ81の回転中心部に片寄っている。このため、可動シーブ体85は固定シーブ体84から最も離れた位置にあり、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が最小となっている。
【0052】
一方、セカンダリシーブ82では、可動シーブ体93が圧縮コイルスプリング98によって固定シーブ体92に最も近づく位置まで押圧されている。これにより、第2のベルト溝97に巻き掛けられたベルト83は、セカンダリシーブ82の外周部に押し出されており、セカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径が最大となっている。よって、CVT22の変速比が最大となる。
【0053】
クランク軸25の回転数が上昇するに従い、ローラウエイト90に加わる遠心力が増大する。このため、ローラウエイト90が可動シーブ体85の径方向外側に向けて移動を開始するとともに、可動シーブ体85のカム面89に押し付けられる。このローラウエイト90の移動により、可動シーブ体85が固定シーブ体84に向けてスライドし、第1のベルト溝87の幅が狭まる。この結果、ベルト83がプライマリシーブ81の径方向外側に押し出され、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が大きくなる。
【0054】
逆にセカンダリシーブ82にあっては、ベルト83がセカンダリシーブ82の回転中心部に向けて引っ張られる。これにより、可動シーブ体93が圧縮コイルスプリング98の付勢力に抗して固定シーブ体92から遠ざかる方向にスライドし、第2のベルト溝97の幅が広がる。このため、セカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径が小さくなる。よって、CVT22の変速比が小さくなり、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が最大となった時点でCVT22の変速比が最小となる。
【0055】
したがって、CVT22は、プライマリシーブ81およびセカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径を変化させることで減速比を無段階的に変えている。セカンダリシーブ82に取り出されたトルクは、固定シーブ体92から出力軸38、遠心式クラッチ33、中継軸45を介して歯車変速機34に伝えられる。
【0056】
このようなパワーユニット20は、クランクケース23の前端上部、伝動ケース31の後端上部および後端下部においてフレーム2のメインフレーム部材4に支持されている。図3および図4に示すように、メインフレーム部材4は、ステアリングヘッドパイプ3の後方に進むに従い下向きに傾斜しているので、クランクケース23の上面との間の間隔が後方に進むに従い小さくなっている。言い換えると、クランクケース23の前端に近づく程にクランクケース23の上面とメインフレーム部材4との間隔が広がっているので、このクランクケース23の前端上面に上向きに突出する第1のボス部101が形成されている。
【0057】
第1のボス部101は、上記第1のエンジンブラケット12a,12bの下端部間に入り込んでいる。第1のボス部101は、車幅方向に沿う貫通孔102を有している。貫通孔102の内側に一対のエンジンマウントダンパ103が装着されている。エンジンマウントダンパ103は、夫々インナスリーブ104と、インナスリーブ104を取り囲むアウタスリーブ105と、インナスリーブ104とアウタスリーブ105との間に介在された防振ゴム106とを備えている。
【0058】
一対のエンジンマウントダンパ103のインナスリーブ104は、第1のエンジンブラケット12a,12bの下端部間で挟み込まれるとともに、貫通孔102の内側で同軸状に突き当てられている。アウタスリーブ105は、貫通孔102の内面に圧入されている。
【0059】
第1のエンジンブラケット12a,12bの下端部間に第1のエンジンマウントボルト107が掛け渡されている。第1のエンジンマウントボルト107は、エンジンマウントダンパ103のインナスリーブ104を貫通しており、その貫通端にナット108がねじ込まれている。このねじ込みにより、第1のボス部101が第1のエンジンブラケット12a,12bの下端部に固定されるとともに、第1のエンジンブラケット12a,12bを介してメインフレーム部材4から吊り下げられている。
【0060】
図3および図4に示すように、伝動ケース31の後端部は、リヤアームブラケット13a,13bの直前に位置している。伝動ケース31を構成する第1のケースブロック32aの後端部は、後下がりに傾斜するメインフレーム部材4の後部の真下に位置している。この第1のケースブロック32aの後端部の上面は、後方に進むに従い下向きに傾斜している。この結果、伝動ケース31の後端部に位置する凹部65にしても、その底65aがメインフレーム部材4に沿うように後方に進むに従い下向きに傾斜している。
【0061】
図6に示すように、凹部65の底65aに上向きに突出する第2のボス部110が形成されている。第2のボス部110は、第1のケースブロック32aと一体化されている。第2のボス部110は、リヤアームブラケット13a,13bの前端部の間に位置するとともに、その上端部に車幅方向に延びる貫通孔111が形成されている。
【0062】
第2のボス部110は、凹部65の深さの範囲内に収まっている。言い換えると、第2のボス部110は、パワーユニット20を左側方から見た時に、第2のケースブロック32bの後端部やCVTケース80の後端部と重なり合う位置に設けられている。
【0063】
メインフレーム部材4の後部に一対の第2のエンジンブラケット112a,112bが固定されている。第2のエンジンブラケット112a,112bは、上記リヤアームブラケット13a,13bの前端部の間に位置している。第2のエンジンブラケット112a,112bは、メインフレーム部材4の後部から下向きに突出するとともに、車幅方向に間隔を存して向かい合っている。第2のエンジンブラケット112a,112bの下端部は、凹部65内に入り込むとともに、第2のボス部110を挟み込んでいる。
【0064】
第2のエンジンブラケット112a,112bの下端部の間に第2のエンジンマウントボルト113が掛け渡されている。第2のエンジンマウントボルト113は、第2のボス部110の貫通孔111を貫通しており、その貫通端にナット114がねじ込まれている。このねじ込みにより、第2のボス部101が第2のエンジンブラケット112a,112bを介してメインフレーム部材4の後部から吊り下げられている。第2のボス部101と第2のエンジンブラケット112a,112bとの連結部分は、凹部65内に収まっている。
【0065】
図2に示すように、パワーユニット20をメインフレーム部材4から吊り下げた状態では、エンジン21のシリンダ24の軸線O1が上記フレーム2の中心を通ってフレーム2の前後方向に延びる中心線X1に対しCVT22の方向に距離Lだけずれている。そのため、大径なプライマリシーブ81やセカンダリシーブ82を有する大きなCVT22と、大径な遠心式クラッチ33を収容する第2のケースブロック32bがメインフレーム部材4の右側に位置している。
【0066】
このような構成によると、伝動ケース31の後部の上面に、その上方を通過するメインフレーム部材4に向けて開放する凹部65を形成し、この凹部65の底65aに第2のボス部110を設けている。さらに、メインフレーム部材4の後部に下向きに突出する第2のエンジンブラケット112a,112bを設け、これら第2のエンジンブラケット112a,112bの下端部を第2のボス部110に連結することで、伝動ケース31の後部をメインフレーム部材4から吊り下げている。
【0067】
特に本実施の形態では、第2のエンジンブラケット112a,112bの下端部が凹部65内に入り込み、第2のエンジンブラケット112a,112bと第2のボス部110との連結部が凹部65内に位置している。言い換えると、パワーユニット20を左側方から見た時に、第2のボス部110が大きなCVT22を収容するCVTケース80の後端上部と重なり合うような位置関係に保持されている。
【0068】
このため、第2のボス部110が伝動ケース31やCVTケース80の上方に大きく突出することはなく、メインフレーム部材4の後部と伝動ケース31との間の間隔を狭めることができる。したがって、パワーユニット20の最低地上高を確保しつつ、メインフレーム部材4の位置を極力低く抑えることができる。よって、メインフレーム部材4の上のシート10の位置を下げることができ、足付き性が良好となるとともに、乗り降りも容易に行うことができる。
【0069】
なお、本発明は上記実施の形態に特定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施可能である。
【0070】
例えば、上記実施の形態では、CVTケースと伝動ケースとを別部品としているが、これらCVTケースと伝動ケースとを一体成形してもよい。
【0071】
さらに、ステアリングヘッドパイプから後方に延びるメインフレーム部材は一本に限らず、例えば二本でもよいとともに、一本のメインフレーム部材を途中から二本に分岐してもよい。
【0072】
また、メインフレーム部材は断面円形の鋼管を用いるものに特定されず、例えば鋼板をプレス成形したり、押し出し型材を溶接して箱状に組み立てたものであってもよい。
【0073】
加えて、パワーユニットの駆動源はエンジンに特定されるものではなく、例えばモータ又はモータとエンジンとを組み合わせたハイブリッドモジュールでも同様に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車の側面図。
【図2】本発明の実施の形態において、フレームとパワーユニットとの位置関係を示す平面図。
【図3】本発明の実施の形態において、フレームとパワーユニットとの位置関係を示す右側面図。
【図4】本発明の実施の形態において、フレームとパワーユニットとの位置関係を示す左側面図。
【図5】本発明の実施の形態に係るパワーユニットの内部構造を示す断面図。
【図6】本発明の実施の形態において、伝動ケースの後端部を吊り下げる第2のエンジンブラケットとベルト式連続無段変速装置のセカンダリシーブおよび遠心式クラッチとの位置関係を示す断面図。
【図7】本発明の実施の形態において、クランク軸、始動用モータおよびバランサ軸との位置関係を示すエンジンの断面図。
【図8】図3のF8−F8線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0075】
2…フレーム、3…ステアリングヘッドパイプ、4…メインフレーム部材、20…パワーユニット、21…駆動源(4サイクル単気筒エンジン)、22…ベルト式連続無段変速装置、31…ケース(伝動ケース)、33,34…動力伝達装置(遠心式クラッチ、歯車変速機)、65…凹部、65a…底、110…ボス部(第2のボス部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングヘッドパイプから後方に延びるメインフレーム部材と、
駆動源と、この駆動源の出力端に付設された動力伝達装置と、この動力伝達装置を収容するケースとを有し、上記メインフレーム部材から吊り下げられるパワーユニットと、を具備する自動二輪車であって、
上記パワーユニットのケースは、上記メインフレーム部材に向けて開放する凹部を有し、この凹部の底に上記メインフレーム部材から吊り下げられるボス部を設けたことを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
請求項1の記載において、上記メインフレーム部材は、下向きに突出するブラケットを有し、このブラケットの下端部が上記ボス部に連結されるとともに、上記ブラケットの下端部と上記ボス部との連結部分は上記凹部内に位置することを特徴とする自動二輪車。
【請求項3】
請求項1の記載において、上記動力伝達装置は、遠心式クラッチと、この遠心式クラッチの出力端に位置する歯車列とを有し、上記遠心式クラッチは上記歯車列よりも径が大きいとともに、上記凹部は上記遠心式クラッチを避けた位置に設けられていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項4】
請求項3の記載において、上記ケースは、上記歯車列を収容する第1のケースブロックと、上記遠心式クラッチを収容する第2のケースブロックとを有し、これら第1および第2のケースブロックは車幅方向に分けられるとともに、上記ボス部は上記第1のケースブロックに設けられていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項5】
請求項1の記載において、上記駆動源は、クランク軸を収容するクランクケースと、このクランクケースの前端から前方に向けて突出するシリンダとを有するエンジンであり、上記ケースは上記クランクケースの後部に位置するとともに、上記クランクケースと一体化されていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項6】
請求項5の記載において、上記メインフレーム部材は、上記ステアリングヘッドパイプの後方に進むに従い下向きに傾斜するとともに、上記凹部の底は、上記ケースの後方に進むに従い下向きに傾斜することを特徴とする自動二輪車。
【請求項7】
ステアリングヘッドパイプと、このステアリングヘッドパイプから後方に延びるメインフレーム部材とを有するフレームと、
上記フレームのメインフレーム部材から吊り下げられるパワーユニットと、を具備し、
上記パワーユニットは、ケースを有する駆動源と、この駆動源のケースに付設され、上記ケースよりも上方に張り出すベルト式連続無段変速装置とを備え、上記ケースは、その上部に上記メインフレーム部材から吊り下げられるボス部を有するとともに、このボス部は、上記パワーユニットを側方から見た時に、上記ベルト式連続無段変速装置の上部と重なり合う位置に設けられていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項8】
請求項7の記載において、上記ベルト式連続無段変速装置は、上記駆動源によって駆動されるプライマリシーブと、上記ケース内に収容された動力伝達装置に連動するセカンダリシーブと、上記プライマリシーブのトルクを上記セカンダリシーブに伝えるベルトと、上記プライマリシーブ、上記セカンダリシーブおよび上記ベルトを収容するCVTケースとを備え、上記CVTケースは、その上部が上記ケースよりも上方に張り出すとともに、上記ボス部に対し車幅方向に向かい合うことを特徴とする自動二輪車。
【請求項9】
請求項8の記載において、上記駆動源は、クランク軸を収容するクランクケースと、このクランクケースの前端から前方に向けて突出するシリンダとを有するエンジンであり、上記ケースは上記クランクケースの後部に位置するとともに、上記クランクケースと一体化されていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項10】
請求項9の記載において、上記ベルト式連続無段変速装置は、上記クランクケースの一側部と上記ケースの一側部との間に間が跨るように上記パワーユニットの前後方向に延びているとともに、上記エンジンのシリンダは、上記パワーユニットの前後方向に延びる軸線を有し、この軸線は、上記フレームの中心を通って上記フレームの前後方向に延びる中心線に対し上記ベルト式連続無段変速装置の方向にずれていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項11】
請求項8の記載において、上記動力伝達装置は、上記セカンダリシーブからトルクを受ける遠心式クラッチを有し、上記遠心式クラッチと上記セカンダリシーブは車幅方向に並んでいるとともに、上記ボス部は、上記遠心式クラッチおよび上記セカンダリシーブを避けた位置に設けられていることを特徴とする自動二輪車。
【請求項12】
請求項7の記載において、上記メインフレーム部材は、下向きに突出するブラケットを有し、このブラケットの下端部が上記ボス部に連結されるとともに、上記ボス部と上記ブラケットとの連結部分は、上記パワーユニットを側方から見た時に、上記ベルト式連続無段変速装置と重なり合うことを特徴とする自動二輪車。
【請求項13】
請求項7の記載において、上記メインフレーム部材は、上記ステアリングヘッドパイプの後方に進むに従い下向きに傾斜するとともに、上記ケースの上部は、上記ケースの後方に進むに従い下向きに傾斜し、上記ボス部は上記ケースの後端部に位置することを特徴とする自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−123791(P2006−123791A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315988(P2004−315988)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】