自動車ブレーキ用モータ駆動装置
【課題】3相モータまたはその制御系統の部品の温度上昇による損傷を抑制できる自動車ブレーキ用モータ駆動装置を提供する。
【解決手段】コイル温度が、コイル又はコイル近傍の部品の耐熱温度(例えば180℃)などに基づいて予め定められた基準温度(例えば170℃)に達したことが、ECUにより判断されると、各相コイル(U、V、W相コイル)を流れる電流(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置になるように、ロータの回転を進め、V、W相電流の絶対値が同等で、U相電流が0(最低値)となる位置〔液圧が4Mpaより大きくなる位置で、(v)位置〕でロータの回転を停止する。すると、W相コイルは、その温度が低下し、これに伴い、ECUは、モータコイル温度の上昇を抑制できる。
【解決手段】コイル温度が、コイル又はコイル近傍の部品の耐熱温度(例えば180℃)などに基づいて予め定められた基準温度(例えば170℃)に達したことが、ECUにより判断されると、各相コイル(U、V、W相コイル)を流れる電流(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置になるように、ロータの回転を進め、V、W相電流の絶対値が同等で、U相電流が0(最低値)となる位置〔液圧が4Mpaより大きくなる位置で、(v)位置〕でロータの回転を停止する。すると、W相コイルは、その温度が低下し、これに伴い、ECUは、モータコイル温度の上昇を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキシステム等に用いられる自動車ブレーキ用モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両ブレーキシステム等での自動車ブレーキ用モータ駆動装置に用いられるものの一例として、特許文献1に記載された電動倍力装置がある。この電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に配置されたアシスト部材と、モータ駆動装置に駆動されて前記アシスト部材を進退移動させる電動モータと、前記アシスト部材に対して前記入力部材を相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、を備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて、前記電動モータにより前記アシスト部材を移動させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-191133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記電動モータとしては、3相交流電流(例えばU、V、W相電流)の供給を各相に対応して受ける3相のコイル(U、V、W相コイル)を有する3相モータを用いることが望ましい。
【0005】
ところで、上記従来技術において、使用態様によっては、電動モータ(3相モータ)のロータを静止した状態(ロータの回転を停止した状態)でコイル(3相のコイル)に長時間通電することがある。この際、3相交流電流(U、V、W相電流)は、位相が異なることによって、夫々のコイルに流れる通電電流の大きさ(絶対値)が異なる(電流の偏りを示す)ことが多い。そして、上述したようにロータを静止した状態で、例えば、3相のコイルのうち1相のコイル(例えばU相コイル)にはピーク値またはその前後の大きな電流が供給されて温度が大きく上昇する一方、他の相のコイル(V、W相コイル)に流れる電流は小さくて温度上昇も低いことがある。
このため、温度が大きく上昇する前記1相のコイル(例えばU相コイル)またはその制御系統の部品に損傷を生じる虞があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、3相モータまたはその制御系統の部品の温度上昇による損傷を抑制できる自動車ブレーキ用モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、3相モータの3相のコイルに通電状態で前記ロータの回転が停止した後、所定条件となるまで前記ロータの回転停止が継続されたときに、前記3相のコイルに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、前記3相のコイルに通電している実効電流を変更して前記ロータの回転位置を移動させる制御を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、3相モータまたはその制御系統の部品の温度上昇による損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置について、マスタシリンダ、ブレーキペダル及びECU(モータ駆動装置)を含めて模式的に示す断面図である。
【図2】図1の電動モータ(3相モータ)の3相のコイル及び電流センサを模式的に示す回路図である。
【図3】図1の電動モータの3相のコイルの温度推定を説明するための図である。
【図4】図1の電動モータの3相のコイルの温度推定を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1の電動モータに供給される3相交流電流を示す波形図である。
【図6】図1の電動モータに供給される3相交流電流について液圧に対応して示した波形図である。
【図7】図1の電動モータの3相のコイルの温度変化を示す特性図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置の作用を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る電動ディスクについて、ECU(モータ駆動装置)を含めて模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る電動モータに供給される3相交流電流について電気角度に対応して示した波形図である。
【図11】第3実施形態を説明するための3相のコイルの温度変化を示す特性図である。
【図12】本発明の第4実施形態における電動モータの3相のコイルに供給される電流について、液圧との対応関係がヒステリシス特性を有することを模式的に示す図である。
【図13】第4実施形態の3相のコイルに供給される電流を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置を図1ないし図6に基づいて説明する。
【0011】
図1において、電動倍力装置1は、タンデム型のマスタシリンダ10と、このマスタシリンダ10のピストンとしてのピストン組立体30と、このピストン組立体30を直動移動させる回転−直動機構としてのボールねじ機構50と、このボールねじ機構50を作動させるための3相モータとしての電動モータ40と、この電動モータ40を駆動制御するためのECU(電子制御装置)70とを有している。
電動倍力装置1は、マスタシリンダ10のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体30を内装したハウジング2を備えている。ハウジング2は、有底筒状のハウジング本体3と、フロントカバー4と、リヤカバー6とからなっている。フロントカバー4は、ハウジング本体3の底板部3aに形成した開口部3bに環状ボス部4aを嵌合させて径方向に位置決めされると共に、図示を略すボルトにより底板部3aに重ねて固定されている。リヤカバー6は、カップ形状に形成され、ハウジング2の後端開口部に嵌合されると共に、ボルト5によりハウジング本体3の端面に固定されている。ハウジング2は、そのリヤカバー6に植立したスタッドボルトSを利用して、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁Wに固定される。一方、このハウジング2には、そのフロントカバー4に植立したスタッドボルトS´を利用してマスタシリンダ10が連結される。
【0012】
フロントカバー4は、その中心部にハウジング本体3内に延びる段付きの筒状ガイド部7を備えている。この筒状ガイド部7内には、前記ピストン組立体30が嵌挿されている。一方、リヤカバー6は、その中心部に隔壁Wを挿通して車室内へ延ばされる筒状ガイド部8を備えている。この筒状ガイド部8には、図示しないブレーキペダルと連動する入力ロッド9が挿入されている。なお、前記2つの筒状ガイド部7、8は同軸に配置されている。
【0013】
タンデム型マスタシリンダ10は、有底のシリンダ本体11とリザーバ12とを備えている。シリンダ本体11内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30(以下、便宜上、ピストン30ともいう。)と対をなすカップ形状のセカンダリピストン13が配設されている。本実施形態において、ピストン組立体30およびセカンダリピストン13は、シリンダ本体11内に嵌合したスリーブ14の両端側に配置した2つのリングガイド15、16により摺動案内されるようになっている。シリンダ本体11内には、前記ピストン組立体30とセカンダリピストン13とにより2つの圧力室17、18が画成されている。シリンダ本体11の壁には、各圧力室17、18を外部に開通させる吐出ポート19、20が各独立に設けられている。
【0014】
また、シリンダ本体11、スリーブ14およびリングガイド15、16には、各圧力室17、18内とリザーバ12とを連通するリリーフポート21、22が形成されている。各リングガイド15、16の前後には、前記リリーフポート21、22を挟む態様で、ピストン組立体30、セカンダリピストン13との間をシールする各一対のシール部材23、24が配設されている。各圧力室17、18は、前記両ピストン30、13の前進に応じて、前記各一対のシール部材23、24が対応するピストン30、13の外周面に摺接することで、リリーフポート21、22に対して閉じられるようになる。また、各圧力室17、18内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30、セカンダリピストン13を後退方向へ付勢する戻しばね25、26がそれぞれ配設されている。
【0015】
上記したマスタシリンダ10の構成は、プライマリピストンとしてのピストン組立体30を除けば、従来汎用のタンデム型マスタシリンダと同じである。マスタシリンダ10は、両ピストン30、13の前進に応じて各圧力室17、18内に封じ込められているブレーキ液が、吐出ポート19、20から外部へ吐出される。本実施形態において各吐出ポート19、20には、液圧回路(図示省略)から延ばされたブレーキ配管28、28´がそれぞれ接続されている。各圧力室17、18内のブレーキ液は、前記液圧回路で圧力調整されて対応するディスクブレーキのキャリパ等のホイールシリンダ(図示省略)へ供給されるようになっている。
【0016】
ピストン組立体30は、筒状をなすブースタピストン31と、このブースタピストン31内にこれと相対移動可能に配設された入力ピストン(入力部材)32とからなっている。ブースタピストン31は、前記フロントカバー4の筒状ガイド部7およびマスタシリンダ10内のリングガイド15に摺動可能に嵌挿されている。ブースタピストン31の前端部は、マスタシリンダ10の圧力室(プライマリ室)17内に延出されている。一方、入力ピストン32は、ブースタピストン31の内周に形成した環状壁31aに摺動可能に嵌挿されている。入力ピストン32の前端部は、ブースタピストン31の前端部と同じく圧力室27内に延出されている。なお、ブースタピストン31の前端部およびセカンダリピストン13の前端部には、前記マスタシリンダ6内のリリーフポート21、22に連通可能な貫通孔(図示省略)がそれぞれ穿設されている。ブレーキ非作動時には、これら貫通孔を通じて各圧力室17、18とリザーバタンク12とが連通状態となる。
【0017】
ここで、上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31と入力ピストン32との間は、ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材(符号省略)によりシールされている。このシール部材と前記したリングガイド15の両端側のシール部材23とにより、圧力室17からマスタシリンダ10外へのブレーキ液の漏出が防止されている。ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材は、ブースタピストン31に内装されて圧力室17内の戻しばね25の一端を受ける筒状部材36によって位置固定されている。また、ハウジング2のフロントカバー4の筒状ガイド部7の内周面とブースタピストン31との間には、両者の間への異物の侵入を防止するシール部材37が介装されている。
【0018】
一方、入力ピストン32の後端部には、前記ブレーキペダルと連動する入力ロッド9の先端部が揺動可能に連結されている。入力ピストン32は、前記ブレーキペダルの操作によりブースタピストン31内を進退移動するようになっている。また、入力ロッド9の途中には、フランジ部38が一体に形成されている。フランジ部38がリヤカバー6の筒状ガイド部8の後端に一体に形成した内方突起39に当接していることにより、入力ロッド9の後方(車室側)への移動が規制されている。なお、入力ロッド9は、その先端の球形部9aを入力ピストン32の後端に形成された球面状凹部32aに嵌合させた状態で連結されている。これにより入力ロッド9の揺動が許容されている。
【0019】
本電動倍力装置1のハウジング2内には、3相交流電流の供給を受けて作動する3相モータとしての電動モータ40と、この電動モータ40の回転を直線運動に変換して上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31に伝達する回転-直動変換機構としてのボールねじ機構50とが配設されている。電動モータ40は、ブレーキペダルからの踏力をアシストする動力を発生させることで、前記ブースタピストン31を移動させ、各圧力室17、18に液圧を発生させて車両のブレーキ力を発生させるようになっている。当該電動モータ40としては3相の集中巻きのDCブラシレスモータが用いられている。電動モータ40は、ハウジング2内に収められるステータ41、中空のロータ42、回転位置検出器としてのレゾルバ等の回転センサ66からなっている。ステータ41は、ハウジング本体3およびリヤカバー6の相互間に位置固定的に配設されている。本実施形態では、ステータ41は16極18スロットで構成されている。ロータ42は、ハウジング本体3およびリヤカバー6に軸受43、44を介して回動自在に支持されている。本実施形態では、ロータ42は、16極分の永久磁石がその外周に貼付されている。
【0020】
ボールねじ機構50は、電動モータ40のロータ43にキー(図示省略)を介して回転不能に嵌合されたナット部材52と、このナット部材52にボール53を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)54とからなっている。ねじ軸54の後端部には軸方向に延びるスリット55が形成されている。このスリット55には、前記リヤカバー6の後端の内方突起39が挿入されている。すなわち、ねじ軸54は、ハウジング2内に回動不能にかつ軸方向移動可能に配設されている。これによりロータ42と一体にナット部材52が回転すると、ねじ軸54が直動することになる。一方、ねじ軸54は、そのスリット55の始端部分に内方フランジ56を備えている。この内方フランジ部56には、ブースタピストン31の延長筒部57の後端に形成した外方フランジ部57aが当接するようになっている。
【0021】
車室内の固定部には、ブレーキペダルの動きを介して車体に対する入力ピストン32(入力ロッド9)の絶対変位を検出するポテンショメータ65(図1への図示省略)が配設されている。一方、ハウジング2内には、電動モータ40の回転変位から車体に対するブースタピストン31の絶対変位を検出する回転センサ66(レゾルバ)が配設されている。また、マスタシリンダ10と前記液圧回路とを接続するブレーキ配管の一方28には、マスタシリンダ10の圧力室17内のブレーキ液圧を検出する圧力センサ69が設けられている。図2に示すように、これらポテンショメータ65、回転センサ66、および圧力センサ69、並びに後述する温度センサ80(サーミスタ)の検出信号は、モータ駆動装置としてのECU(電子制御装置)70に送出されるようになっている。
【0022】
ECU70は、ハウジング2における電動モータ40の外周側に画成されて配置されており、上記の各センサの信号に基づいて電動モータ40(ロータ43)の回転を制御する。ECU70は、電動モータ40へ電流を供給するインバータ回路71と、該インバータ回路のスイッチング素子を作動させるドライバ回路72と、ドライバ回路を制御する制御回路73とを有している。上述したポテンショメータ65、回転センサ66、圧力センサ69、および温度センサ80は制御回路73に接続されている。制御回路73は、回転センサ66の信号から、電動モータ40のロータ42の回転位置である回転角を認識する。そして、制御回路73は、ステータ41の3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)へ回転角に応じた位相の電流を流すようにドライバ回路を駆動してインバータ回路71により3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)へ電流を流すことにより、電動モータ40(ロータ42)の回転を制御している。
【0023】
前記温度センサ80は、ECU70内におけるハウジング2との接合面付近に配置されており、ハウジング2の温度及びECU70の温度の両方を測定するようにしている。
【0024】
本実施形態の電動倍力装置1では、ブレーキペダルの踏込み、すなわち入力ピストン32の前進をポテンショメータ65で検出し、この検出値に応じて電動モータ40を回転させる。電動モータ40の回転がボールねじ機構50によって直線運動に変換されて、ブースタピストン31が前進する。これにより、ブレーキペダルから入力ピストン32に付与される入力推力と電動モータ40からブースタピストン31に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ10内の圧力室17、18に発生する。
そして、この電動倍力装置1では、ブレーキペダルの踏込みが保持されて一定の液圧を発生しているときには、電動モータ40に電流が流れてトルクは発生しているが、電動モータ40のロータ42は回転しておらず静止した状態となる。そして、電動モータ40として3相のDCブラシレスモータを使用していることにより、電動モータ40の各相に流れる相電流は電気角度で120°位相がずれている。電動モータ40が一定のトルクを発生しながら静止していたとすると、U、V、W相コイル81U,81V,81Wに流れる相電流の電流値の絶対値は、各相で異なり、各相のコイル81U,81V,81Wの温度に差を生じることになる。したがって、各相のコイル81U,81V,81Wのうちで、相電流の電流値の絶対値が最も大きい相のコイルは、その温度が最も大きいコイルとなる。
【0025】
ここで、本実施形態では、サーミスタ等の温度センサ80を1個設けて、各相のコイル81U,81V,81Wには温度センサを設けない構成としており、上記温度センサ80の検出値を利用して、各相のコイル81U,81V,81Wの温度を推定し、この推定値を後述するロータ回転位置移動制御に利用するようにしている。
本実施形態の作用の説明に先立って、各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度の算出方法並びに液圧(この電動倍力装置がマスタシリンダ10の圧力室17内に発生する液圧)と各相コイル電流(U、V、W相電流)との対応関係などついて説明する。
【0026】
電動モータ40は、3相(U、V、W相)に対応した3つのコイル81U,81V,81Wを有している。各相のコイル81U,81V,81Wは、ECU70に延びる配線を介してインバータ回路71に接続されている。ECU70内における配線には、それぞれカレントセンサ83U,83V,83Wが設けられている。カレントセンサ83U,83V,83Wは、U、V、W相コイル81U,81V,81Wに流れる電流を計測して検出信号を制御回路73に出力する。なお、カレントセンサは必ずしも3個必要ではなく、2つの相のコイルの電流を測定し、残る1つの相のコイルの電流を計算により求めることもできる。
【0027】
まず、各相のコイル81U,81V,81Wの発熱は、各相のコイル81U,81V,81Wの抵抗と各相のコイル81U,81V,81Wの電流値(U、V、W相電流)の2乗の積である。このことから、各コイル81U,81V,81Wの温度上昇は各コイル81U,81V,81Wの電流値から推測することができる。すなわち、各相のコイル81U,81V,81Wの電流による温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1は、比例定数k1と各コイル電流Iu,Iv,Iwの2乗と通電時間(単位時間)Δtの積で決まる。温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1は、それぞれ(1)、(1)’、(1)”のように表すことができる。
【0028】
ΔTu1=k1・Iu2×Δt・・・・・(1)
ΔTv1=k1・Iv2×Δt・・・・・(1)’
ΔTw1=k1・Iw2×Δt・・・・・(1)”
【0029】
この式を用いて、発熱体(コイル)の断熱条件の温度上昇が分かる。なお、本実施形態においては、精度向上のため、以下のように、各相のコイル81U,81V,81Wからハウジング2等への熱伝達の特性を把握するようにしている。
各相のコイル81U,81V,81Wで発生した熱は、ステータ41の鉄心を通してハウジング2側ヘ流れると共に、ステータ41の鉄心を通して隣接する他の相のコイルヘも流れる。本実施形態では、この2つの熱伝達経路の特性を把握し、ハウジング2の材料及び形状について良好な熱伝達特性を得るように設定し、かつ温度分布が少ないように設定している。熱伝達については、図3に示すようにモデル化されるものになっている。
【0030】
そして、各相のコイル81U,81V,81Wからハウジング2への熱伝達によるコイルの温度変化は、コイル温度Tu,Tv,Twと温度センサ80によるハウジング温度Thとの差と、各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2間の熱伝達の特性から求めることができる。k2をコイルとハウジング間の熱伝達の定数とすると、単位時間Δtにおける、コイルの温度変化分ΔTu2,ΔTv2,ΔTw2は、それぞれ式(2)、(2)’、(2)”のように示すことができる。
【0031】
ΔTu2=(Tu−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)
ΔTv2=(Tv−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)’
ΔTw2=(Tw−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)”
【0032】
また、ステータ41の一の相のコイル(例えば、U相コイル81U)から、他の相のコイル(V、W相コイル81V,81W)への熱伝達による前記一の相のコイル(U相コイル81U)の温度変化(ΔTu3)は、各相のコイル温度の差とコイル間の熱伝達の特性とから求めることができる。すなわち、k3をコイル間の熱伝達の定数とすると、単位時間ΔtにおけるU相コイル81Uの温度変化ΔTu3は、V相との温度差と、W相との温度差の影響を受け、(3)式のようになる。また、V、W相コイル81V,81Wの温度変化分ΔTv3,ΔTw3は、それぞれ(3)’、(3)”式のようになる。
【0033】
ΔTu3=(Tu−Tv)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tu−Tw)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)
ΔTv3=(Tv−Tw)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tv−Tu)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)’
ΔTw3=(Tw−Tu)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tw−Tv)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)”
【0034】
(1)、(1)’、(1)”式のコイル通電電流から求めた各相のコイル81U,81V,81Wの温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1から、(2)、(2)’、(2)”式の各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2間の熱伝達の特性による温度減少分ΔTu2,ΔTv2,ΔTw2と、(3)、(3)’、(3)”式の各相のコイル81U,81V,81W間の熱伝達による温度減少分ΔTu3,ΔTv3,ΔTw3と、を減算すれば、単位時間Δtあたりの各相のコイル81U,81V,81Wの温度変化分を推定することができる。そして、これら各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度変化分に、ハウジングに取り付けた温度センサ80の実測温度(初期値)に基づいて推定された前回の各相のコイル温度の推定値を加算すれば、現在の各相のコイル温度Tu(n)、Tv(n)、Tw(n)を推定することができる。このときの計算式は以下の(4)、(4)’、(4)”のようになる。
【0035】
Tu(n)=(k1×Iu2)×Δt−(Tu(n−1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tu(n−1)−Tv(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tu(n−1)−Tw(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
+Tu(n−1)・・・(4)
Tv(n)=(k1×Iv2)×Δt-(Tv(n−1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tv(n−1)−Tw(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tv(n−1)−Tu(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
+Tv(n−1)・・・(4)’
Tw(n)=(k1×Iw2)×Δt−(Tw(n-1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tw(n−1)−Tu(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tw(n−1)−Tv(n−1))×(1−EXP(k3×Δ)t))
+Tw(n-1)・・・(4)”
【0036】
上記の各相のコイル温度Tu、Tv、Twの推定は、ブレーキシステムが稼動している間、単位時間Δtごとに行われており、上記式(4)、(4)’、(4)”のTu(n−1),Tv(n−1),Tw(n−1)は、前回の各相のコイル温度の推定値を記憶したものである。また、コイル温度の初期値Tu(1)、Tv(1)、Tw(1))は、それぞれブレーキシステム起動時のハウジング温度Th(上記初期値となる実測温度)が記憶されるようになっている。
【0037】
各コイルの温度推定をフローチャートに示すと、図4のようになる。この各コイルの温度推定処理は、ブレーキシステムが起動している間、継続的に制御回路73により行われるようになっている。
【0038】
ステップS1にて、例えば、イグニッションキーがオンされ、ブレーキシステムが起動すると、各相のコイル81U,81V,81Wには電流Iが流れていないため、各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2との温度は等しくなっていると判断し、各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度は、初期値としてハウジング温度(システム起動時にハウジング温度Thを計測)と同じに設定する。
【0039】
ステップS2でハウジング温度Thを計測し、ステップS3で、単位時間Δtの間の各相のコイル81U,81V,81Wの温度変化分と、前回の各コイル温度推定値Tu(n−1),Tv(n−1),Tw(n−1)とを加算することにより、現在の各コイル温度推定値Tu(n),Tv(n),Tw(n))を求めることができる。そして、ステップS4でブレーキシステムが停止したか否かが判断され、ブレーキシステムの稼働中はステップS2とS3とが繰り返される。イグニッションキーがオフされ、ステップS4でブレーキシステムが停止したときに、各コイルの温度推定を終了する。
【0040】
つぎに、本実施形態における電動モータの制御の概要を説明する。
車両の走行中のブレーキ動作においては、発生液圧が低い場合は、各相のコイルの発熱量が少なく、また、発生液圧が高い場合には短時間で車両が減速又は停止するため、電動倍力装置のモータの温度上昇は一般に大きくはない。むしろ、電動倍力装置の電動モータにとっての温度上昇が厳しいのは、停車中にブレーキペダルが強く踏み続けられた場合となっている。
特に、電動モータ40の回転が停止し、マスタシリンダ10に発生させる液圧を一定液圧に保持する場合には、3相のコイル81U,81V,81Wのうちの電流値の絶対値が大きい相のコイルの発熱が大きくなる。そして、コイルの温度上昇が進み、仮に1相のコイルでもその温度が、その耐熱温度を超えてしまうと、コイルの焼損を惹起する虞がある。
【0041】
ECU70(制御回路73)は、回転センサ66により検出されるロータ42の回転位置に応じて効率的に電流を流すようモータの電気角度を決定し、これに基づき、電動モータ40の3相のコイル81U,81V,81Wに流れる電流は、図5に示すようにモータの電気角度で各相の電流配分が決まる。モータが回転しているときには、各相に同様な電流の振幅があるため各相、同様に温度上昇する。しかし、回転が停止した状態で、トルクを発生していると、モータ位置により発熱は異なり、交流のピーク電流(ピーク値を示す電流)が流れる位置のときにコイルの発熱は最大になる。図5中の(i)の位置では、U相コイル、(ii)の位置ではW相コイル、(iii)の位置ではV相コイルの発熱が最大となる。
【0042】
上述したように、本実施形態では、マスタシリンダ10内の圧力室17、18でブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ10の発生液圧とモータのU,V,W各相のコイル電流(U、V、W相電流)とは、例えば、図6に示すような対応関係を有している。
電動モータ40は、3相の実効電流に比例してトルクを発生し、液圧が高くなると電動モータ40に必要なトルクが大きくなるため、電流の振幅(実効電流)が大きくなる。
電動モータ40の発熱は、電流の2乗に比例するため、発生液圧が高いほど実効電流が大きくなって発熱が大きくなる。
通常、電動倍力装置1の発生液圧は、ブレーキペダルの踏力に応じて発生させる。しかし、ブレーキペダルが、強い力で、かつ、長時間にわたって踏まれた場合には、電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wの焼損防止を図るとともに、マスタシリンダ10による液圧発生時間を長くする必要がある。
【0043】
すなわち、例えば、図6に示すように、発生液圧が4MPaの位置〔(iv)〕で連続して通電していると、W相コイル81Wを流れる電流(W相電流)がピーク値となるために、W相コイル81Wの温度上昇が大きくなる。
例えば、エンジンルーム内の温度が100℃で、電動倍力装置も100℃になっている際に、図6に示すように、発生液圧が4MPaの位置で通電を開始した場合、各相コイルの温度は、例えば、図7に示すような変化を呈し、電流がピーク値となっているW相コイル81Wの温度上昇が早く進み、通電開始後、約1200秒で170℃に達する。
【0044】
そして、W相コイル81Wにピーク電流が流れ続けた場合には、約2500秒でW相コイル81Wの温度が、各コイル81U,81V,81W、又は、これらコイル近傍の部品の耐熱温度である180℃に達してしまう。本実施形態においては、コイルの温度上昇を上記耐熱温度まで到達しないように制限するための基準温度T0を170℃として、この基準温度T0に達したときに電流をピーク値からずれるようにロータ42を移動させる制御を行なう。すなわち、2相間(W-V間)に通電してV、W相電流について絶対値を同等とし、U相電流を0(最低値)とする状態とするために、例えば、図5の(ii)の電気角度150°の状態から電気角度を30°ずらして電気角度180°となるように電流振幅を増大させる制御を行なう。この電流振幅の増大に応じてロータ42が電気角度30°分に対応する角度だけ回転し、電気角度が150°の状態から180°にずれることになる。これにより、W相コイル81Wの温度を160℃まで下げることができ、電動モータ40のコイル温度の上昇を抑制することができる。また、上記のように1回の制御により、耐熱温度180℃に達する時間は、約7000秒に延びる。この結果、マスタシリンダ10による液圧発生時間を長くすることが可能となる。なお、上記時間は、コイルの材質、線径、コイル近傍の部品またはECU70内の部品の耐熱温度等により変わってくるものであり、例えば、コイルとしてより細い線径のものを使用するとコイルの耐熱性が落ちるので、上記時間は、より短い時間となる。
【0045】
本実施形態では、上述したようにして電動モータ40の各相のコイル温度の上昇を抑制できる。また、電動モータ40の各相のコイル温度の上昇を抑制するために、ロータ位置を移動させずに効率のよくない電気角度にして位相をずらす制御を行なうことも考えられるが、この場合にはモータの効率が下がり、発生するモータトルクが小さくなってしまう。本実施形態ではこのようなことを回避できる。
【0046】
つぎに、本実施形態における電動モータの制御の詳細を説明する。
上述した電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wの焼損防止を図るために、ECU70(制御回路73)により図8のフローチャートに示す通電電流制御を行なう。
まず、この制御は、ブレーキペダルが踏まれたことをポテンショメータ65により検出した後に、ブースタピストン31を推進するための電動モータ40への制御と並列して行われるようになっている。
【0047】
ステップS11で、ブレーキペダルの踏込みが一定の力で踏み続けられているかを、回転角センサ66の検出信号に基づいて、ロータ42が所定時間その回転停止が継続しているか否かで判定する。このステップS11でロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された場合には、ステップ12へ進む。ここで、この所定時間は、マスタシリンダ10の最大液圧時における最大ピーク電流値を各相のコイル81U,81V,81Wに流したときの耐熱温度に達するまでの時間よりも短い時間で設定されている。また、本発明において「ロータ42の回転停止が継続している」とは、ロータ42が完全に回転を停止している場合の他、電気角度の変化が3相のコイル81U,81V,81Wのうちのいずれかの相がピーク値またはその前後の大きな電流値から逸脱しない範囲でごく僅かにロータ42が回転する場合をも含むものとして用いている。
【0048】
ステップS12では、上述した図4のフローチャートに示す各コイルの温度推定結果を取得して、ステップ13に移る。ステップ13では、各相のコイル81U,81V,81Wのうち、いずれかのコイル温度Tu,Tv,Twが、上述した耐熱温度(例えば、180℃)などに基づいて予め定められた基準温度T0(例えば、170℃)に達したか否かを判断する。この判断は、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達するまで行われ、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めたことを回転角センサ66の検出信号に基づいてステップS14で判定した場合には、このフローチャートの制御を終了させる。
【0049】
ステップS13で、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達した場合には、ステップS15において、各相のコイル81U,81V,81Wを流れる電流値(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置となるように、マスタシリンダ10の発生液圧が大きくなる方向(ブースタピストン31が前進する方向)、すなわち、ロータ42が電気角度で60°進角する方向に正回転するように制御する。この制御においては、例えば、ロータ42の電気角度が、図5の(ii)位置、すなわち、図6の(iv)位置となっている状態でW相コイル81Wのコイル温度Twが基準温度T0に達したときに、ロータ42を電気角度で60°大きくなる方向に回転させるようにしている。
【0050】
この場合、W相コイル81Wは、そのコイル電流がピーク値からずれて小さくなることで、その温度が低下してW相コイル81Wの電流値の絶対値が同等の電流値となるU相コイル81Uの温度と同等値になる。なお、このとき、ロータ42をブースタピストン31が前進する方向に回転させることで、マスタシリンダ10の圧力室17の液圧が増大することになり、その分の反力が入力ロッド17を介してブレーキペダルに伝達されてしまうことになるが、本実施形態において、電気角度の60°はロータ42の回転角で7.5°となっているため、液圧の上昇はわずかであり、ブレーキペダルは強い力で踏まれているため、運転者に然程、違和感を与えることはない。
【0051】
つぎに、ステップS16では、再びステップ12と同様に各コイルの温度推定結果を取得して、ステップ17に移る。ステップ17では、ステップ13と同様に、各相のコイル81U,81V,81Wのうち、いずれかのコイル温度Tu,Tv,Twが、基準温度T0に達したか否かを判断する。この判断は、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達するまで行われ、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めたことを回転角センサ66の検出信号に基づいてステップS18で判定した場合には、このフローチャートの制御を終了させる。
【0052】
ステップS17で、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達した場合には、ステップS19において、各相のコイル81U,81V,81Wを流れる電流(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置となるように、ブースタピストン31が後退するする方向、すなわち、ロータ42が電気角度で60°小さくなる方向に逆回転するように制御する。この制御においては、ステップS15の処理によって、ロータ42の電気角度が、図5の(iii)位置となっている状態であるため、電流がピーク値となっているV相コイル81Vのコイル温度Tvが基準温度T0に達したときに、ロータ42を電気角度で60°小さくなる方向に回転させて、元の回転角度の位置にロータ42を戻すようにしている。この場合、V相コイル81Vは、そのコイル電流がピーク値からずれて小さくなることで、その温度が低下してV相コイル81Vの電流値の絶対値が同等の電流値となるU相コイル81Uの温度と同等値になる。また、この場合、ブレーキ力が僅かに弱くなるが、先のステップS15でブレーキ力を僅かに強くしているので、元のブレーキ力に戻るだけであり、支障が生じることはない。
【0053】
そして、このステップS19の処理が終了すると、再びステップS12に戻り、ステップS14またはステップ18において、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めるまで、各相のコイル81U,81V,81Wいずれかのコイル温度が基準温度T0に達する度毎に、図5における電気角度の(ii)位置と(iii)位置との間でロータ42の正逆回転を繰り返し行なうことで、電流の電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wのコイル温度の上昇を抑制することができる。なお、ステップ15の処理で、増大することになるマスタシリンダ10の発生液圧は、ステップS19の処理によりロータ42をブースタピストン31が後退する方向に回転させることで、マスタシリンダ10の発生液圧が減少して、元の液圧に戻ることになる。この際には、ステップS11で、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回らないようにする。このように交番的にロータ42の回転位置を移動させることにより、ブレーキペダルを踏み続けることでマスタシリンダ10の発生液圧が増大し続けることがないため、運転者に違和感を与えることはない。なお、交番的にロータ42の回転位置を移動させる際には、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回らないようにすれば、上記のように2点間の移動でなくても良く、色々な移動パターンを取り得るものである。また、水平路面に停車している等の停車状況でマスタシリンダ10の発生液圧が十分に大きい場合には、停車に支障が無い範囲で、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回るようにすることも可能である。さらに、上記図8のフローチャートにおいて、ステップS11の所定時間が短い場合にはこれを省略しても良い。
【0054】
上記第1実施形態では、通電電流及び温度センサ80の検出値から各相のコイル81U,81V,81Wの温度を推定するように構成した場合を例にしたが、インバータ回路71にFETが設けられる場合には、そのFETのジャンクション温度を通電電流と温度センサ80の検出値から推定することも可能である。なお、この場合には、第1実施形態で実行されるように1個の温度センサ80がモータの過熱保護を図るのに加えて、1個の温度センサ80がECU70の過熱保護をも合わせて図ることが可能となる。この場合、温度センサ80をより効率的に利用できることになる。また、各相のコイル81U,81V,81W毎に温度センサを設けて各相のコイル81U,81V,81Wの温度推定を行なわないようにしてもよいことはもちろんである。
【0055】
上記実施形態では電動モータ40の制御が、電動モータ40の駆動後にロータ42の位置が保持されて当該保持の際に3相のコイル81U,81V,81Wのうち流れる電流がピーク値となる1相のコイル(上記例では、W相コイル81W)が所定温度となったときに行われる場合を例にした。これに代えて、電動モータ40の制御を、コイル温度の検出値または推定値に関係なく、コイル温度の温度上昇を見越した所定時間を設定し、電動モータ40の駆動後にロータ42の回転位置停止が上記所定時間経過したときに行なうように構成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、3相のコイル81U,81V,81Wに通電状態でロータ42の回転停止した後からロータ42の回転停止が継続されたことを回転角センサ66の検出信号に基づいて検出するようにし、3相のコイル81U,81V,81Wのうち流れる電流が最も大きい電流値となる1相のコイル(W相コイル81W)が所定温度となったときに電動モータ40の制御を行なう場合を例にした。これに代えて、ロータ42の回転停止が継続されたことを、マスタシリンダ10の発生液圧が一定に保持されていることを圧力センサ69の検出信号に基づいて検出するように構成してもよい。さらに、ロータ42の回転停止が継続されたことを、ポテンショメータ65により検出される入力ピストン(入力部材)32の移動が一定に保持されたことにより検出するように構成してもよい。
また、本発明が適用される電動倍力装置は、本実施形態に示された電動倍力装置に限られるもので無く、3相モータを用いてマスタシリンダへ直動方向の力を作用するものであれば良く、例えば、WO2004−5095号に示されるような電動倍力装置のモータ駆動装置に適用することもできる。
【0057】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、自動車ブレーキ用モータ駆動装置としてのECU70及び3相モータとしての電動モータ40が、電動倍力装置に用いられる場合を例にしたが、これに限らず、電動ディスクブレーキに用いるようにしてもよい。この一例(第2実施形態)を図9に基づき、図1〜図3を参照して説明する。なお、当然ながら、本発明を電動ディスクブレーキに用いる場合であってもこの第2実施形態に限定されるものではなく、他の3相モータを用いた他の電動ディスクブレーキにも適用できるものである。
図9において、第2実施形態に係る電動ディスクブレーキ1Aは、第1実施形態のECU70及び電動モータ40に代わるECU70A及び電動モータ40Aを備えている。
また、温度センサ80に代えて電動モータ40Aのロータ25Aの温度を検出する図示しないロータ温度センサ80Aを備えている。
【0058】
電動ディスクブレーキ1Aは、運転者による図示しないブレーキペダルの操作に基づいて、ECU70Aによってインバータ回路71Aから制御電流を供給して電動モータ40Aのロータ25Aを回転させる。ロータ25Aの回転は、差動減速機構100によって所定の減速比で減速され、ボールランプ機構101によって直線運動に変換されてピストン102を前進させる。ピストン102の前進によって、一対のブレーキパッド103,104のうち一方のブレーキパッド103がディスクロータ106に押圧される。このピストン102の押圧の反力によってキャリパ本体107が移動して爪部108が他方のブレーキパッド104をディスクロータ106に押圧して制動力を発生させる。また、制動動作後、運転者がブレーキペダルを放すと、ブレーキパッド103,104は初期位置まで戻るようになっている。
【0059】
ブレーキパッド103,104の摩耗に対しては、パッド摩耗補償機構109の調整スクリュー110が摩耗分だけ前進してボールランプ機構101を前進させるようになっている。このパッド摩耗補償機構109により非制動時におけるディスクロータ106とブレーキパッド103,104とのパッドクリアランスが一定に保たれるようになっている。
【0060】
ECU70Aは、電動モータ40A(3相モータ)の通電状態でロータ25Aの位置が保持されたときに、いずれかのコイル温度(各相のコイル81U,81V,81Wの温度)〔図2参照〕が、コイル又はコイル近傍の部品の耐熱温度(例えば180℃)などに基づいて予め定められた所定温度以上に達したと判断した場合、上記第1実施形態の場合と同様に、3相のコイル81U,81V,81Wに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、3相のコイル81U,81V,81Wに通電している実効電流を変更して、ブレーキパッド103の押圧力が大きくなる方向にロータ25Aの回転位置を移動させるように電動モータ40Aを制御する。
【0061】
第2実施形態では、電動ディスクブレーキ1AにECU70A及び電動モータ40Aを用いているが、この第2実施形態でも、ECU70Aが上述したように電動モータ40Aが制御することにより、上記第1実施形態と同様に、各相のコイル81U,81V,81W、ひいては電動モータ40Aの温度上昇を抑制できる。なお、当然ながら、本発明を電動ディスクブレーキに用いる場合であってもこの第2実施形態に限定されるものではなく、3相モータを用いた他の形式の電動ディスクブレーキにも適用できるものである。
【0062】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を、図10、11に基づいて説明する。本第3実施形態は、第1実施形態に示した電動倍力装置1における制御に関するものであるため、適宜、図1、2を参照して説明する。上述の第1実施形態においては、ロータ42の回転停止が継続されたときに、3相のコイルのうちのいずれかの相のコイルの電流がピーク値にあるものと仮定して単純に電気角度で30°若しくは60°進角させるものとして説明した。しかし、必ずしも温度が最も高い相のコイルがピーク値にあるとはかぎらない。このようにピーク値に無い場合でも、60°程度またはこれ以上の適当な電気角度分を進角させれば、十分に適用できるものであるが、本第3実施形態では、ロータ42の回転停止が所定時間継続されたときに温度が最も高い相のコイルがピーク値にない場合でも、より確実にコイルの温度上昇を抑制できる形態について説明する。
図10は、本発明の第3実施形態に係る電動モータ40に供給される3相交流電流について1サイクルを360°とした電気角度に対応して示した波形図である。図11は、本発明の第3実施形態を説明するための3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)の温度変化を示す特性図である。
【0063】
前記図6と同様に、図2に示される3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)には、図10に示すように3相電流(U、V、W相電流)が通電される。
そして、本実施形態においては、電動モータ40の通電状態で図1に示すロータ42の回転停止が所定時間継続されたときに、3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)のうちのいずれの相のコイルの温度が最も高くなっているかを判断する。このとき、温度が最も高くなっている相のコイルの相電流の電流値の絶対値は、他の2相の相電流の電流値の絶対値よりも大きくなっており、各コイルによって所定の幅の電気角度となっている。この場合、他の2相のコイルのうちの一方が最大ピーク電流値となる電気角度になるようにロータ42を回転移動させることで、温度が最も高くなっている相のコイルの相電流の電流値の絶対値は小さくなる。上述した各コイルによって異なる所定の幅の電気角度とロータ42を回転移動させるべき電気角度との関係は、各コイルごとに、以下のようになっている。
【0064】
U相コイル81Uの温度が最も高く、基準温度T0である170℃に達した場合には、電気角度が30°以上150°未満の間となっているか、または、210°以上330°未満の間となっている場合である。電気角度が30°以上150°未満の間の場合には、電気角度で150°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が210°以上330°未満の間となっている場合には、電気角度で330°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0065】
また、W相コイル81Wの温度が最も高、基準温度T0である170℃に達した場合は、電気角度が90°以上210°未満の間となっているか、または、0°以上30°未満の間及び270°以上360°以下の間となっている場合である。電気角度が0°以上30°未満の間の場合には、電気角度で30°となる回転位置にロータ42を移動させる。電気角度が270°以上360°以下の間の場合には、次のサイクルの電気角度で30°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が90°以上210°未満の間となっている場合には、電気角度で210°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0066】
さらに、V相コイル81Vの温度が最も高く、基準温度T0である170℃に達した場合には、電気角度が0°以上90°未満の間及び330°以上360°以下の間となっているか、または、150°以上270°未満の間となっている場合である。電気角度が0°以上90°未満の間の場合には、電気角度で90°となる回転位置にロータ42を移動させる。電気角度が270°以上360°以下の間の場合には、次のサイクルの電気角度で90°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が150°以上270°未満の間となっている場合には、電気角度で270°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0067】
そして、例えば、電動モータ40の通電状態で図1に示すロータ42の回転停止が、電気角度80°の位置に通電しているときに行なわれた場合、U相コイル81Uへの電流値が最も大きい電流値の絶対値となっており、U相コイル81Uの温度が高くなっていることになる。U相コイル81Uの温度が基準温度T0である170℃に達した場合、現在、通電している電気角度が80°であるので、この現在の電気角度から電気角度で150°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させる。このことで、U相コイル81Uの相電流の電流値の絶対値を小さくすることができる。
【0068】
さらに、このときの経過時間とコイル温度との関係は、図11に示すようになっている。すなわち、電気角度80°に通電を開始し、経過時間約1400秒後に、U相コイル81Uの温度が基準温度T0である170℃に達している。ここで、上述したように電気角度で150°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させると、U相コイル81Uの温度は低下する。
【0069】
しかしながら、W相コイル81Wの電流が最大ピーク電流値となるため、今度はW相温度が上昇し、経過時間約1750秒で170℃に到達する。
したがって、今度は、W相コイル81Wの温度が最も高い温度となるため、電気角度で210°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させてU相コイル81Uの温度を低下させる。つぎに、約2000秒でV相コイル81Vの温度が170℃に達すると、V相コイル81Vの温度が最も高い温度となるため、次のサイクルの電気角度で90°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させてV相コイル81Vの温度を低下させる。
以下、上述した処理が繰り返し行なわれる(150°→210°→次のサイクルの90°)。このような繰り返す処理が行なわれることにより、モータコイル温度の上昇を抑制できる。
【0070】
この第3実施形態では、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)を流れる電流(U、V、W相電流)が最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度となるように、電動モータ40のロータ42の回転位置を移動させる制御を行っている。このため、前記第1実施形態と同様に、モータコイル温度の上昇を抑制できる。また、モータコイル温度の上昇防止を図るためにモータ実効電流を下げるようにした従来技術に比して、発生するモータトルクを不要に小さくすることを避けることができ、これに伴いトルク発生時間を極めて長くするようなことを回避できる。なお、本実施形態では、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)の温度が基準温度T0となる度に、マスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させるようにしたが、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)分の温度低下が一巡したところで、マスタシリンダ10の液圧を下降させる側の回転位置にロータ42を移動させるようにしてもよい。これを一巡毎に繰り返すことで、時間経過に伴うマスタシリンダの液圧の増加が膨大になってしまうことを防止することができる。
【0071】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る電動倍力装置を、図12及び図13に基づいて説明する。本第4実施形態は、第1実施形態に示した電動倍力装置1の構造における制御に関するものであるため、適宜、図1、2を参照して説明する。第4実施形態に係る電動倍力装置は、これに含まれる電動モータ(3相モータ)の電流‐発生液圧特性が液圧の昇圧・降圧時にヒステリシス特性を有することを利用している。
図12は、本発明の第4実施形態における電動モータ40(図1参照)の3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W;図2参照)に供給される電流について、液圧との対応関係がヒステリシス特性を有することを模式的に示す図である。
【0072】
図13は、第4実施形態の3相のコイルル81U,81V,81Wに供給される電流を示す波形図である。
第4実施形態において、図12に示すように、電動モータ40の実効電流を増加させると、マスタシリンダ10の発生液圧が高くなる。また、マスタシリンダ10の発生液圧を増加させるときと、減少させるときでは必要な電流が異なり、上述したように、電動モータ40の電流−発生液圧特性がヒステリシス特性を有する。
一方、液圧対応の3相のコイル81U,81V,81Wに流れる電流(U、V、W相電流)は、図11に示すように、昇圧時には細線で、降圧時には太線で、夫々示す波形となる。
【0073】
この第4実施形態では、一度、図13の例えば(vi)の位置でマスタシリンダ10の発生液圧として4MPaを発生するように、電流を流し、その後、(vii)の位置まで、降圧させて、液圧を保持する。
【0074】
第4実施形態によれば、ヒステリシス特性が利用でき、電流(発熱)低減の効果が大きくなる。第4実施形態に係る電動倍力装置を自動ブレーキに用いた場合、当該自動ブレーキにおいては、一度、目標の液圧より大きな圧力を発生させ、少し戻した位置で保持することにより、発熱を効率よく、抑制することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…電動倍力装置、10…マスタシリンダ、32…入力ピストン(入力部材)、40…電動モータ(3相モータ)、42…ロータ、50…ボールねじ機構(回転-直動変換機構)、70…ECU(モータ駆動装置)、81U,81V,81W…U、V、W相コイル(3相のコイル)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキシステム等に用いられる自動車ブレーキ用モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両ブレーキシステム等での自動車ブレーキ用モータ駆動装置に用いられるものの一例として、特許文献1に記載された電動倍力装置がある。この電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に配置されたアシスト部材と、モータ駆動装置に駆動されて前記アシスト部材を進退移動させる電動モータと、前記アシスト部材に対して前記入力部材を相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、を備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて、前記電動モータにより前記アシスト部材を移動させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-191133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記電動モータとしては、3相交流電流(例えばU、V、W相電流)の供給を各相に対応して受ける3相のコイル(U、V、W相コイル)を有する3相モータを用いることが望ましい。
【0005】
ところで、上記従来技術において、使用態様によっては、電動モータ(3相モータ)のロータを静止した状態(ロータの回転を停止した状態)でコイル(3相のコイル)に長時間通電することがある。この際、3相交流電流(U、V、W相電流)は、位相が異なることによって、夫々のコイルに流れる通電電流の大きさ(絶対値)が異なる(電流の偏りを示す)ことが多い。そして、上述したようにロータを静止した状態で、例えば、3相のコイルのうち1相のコイル(例えばU相コイル)にはピーク値またはその前後の大きな電流が供給されて温度が大きく上昇する一方、他の相のコイル(V、W相コイル)に流れる電流は小さくて温度上昇も低いことがある。
このため、温度が大きく上昇する前記1相のコイル(例えばU相コイル)またはその制御系統の部品に損傷を生じる虞があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、3相モータまたはその制御系統の部品の温度上昇による損傷を抑制できる自動車ブレーキ用モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、3相モータの3相のコイルに通電状態で前記ロータの回転が停止した後、所定条件となるまで前記ロータの回転停止が継続されたときに、前記3相のコイルに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、前記3相のコイルに通電している実効電流を変更して前記ロータの回転位置を移動させる制御を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、3相モータまたはその制御系統の部品の温度上昇による損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置について、マスタシリンダ、ブレーキペダル及びECU(モータ駆動装置)を含めて模式的に示す断面図である。
【図2】図1の電動モータ(3相モータ)の3相のコイル及び電流センサを模式的に示す回路図である。
【図3】図1の電動モータの3相のコイルの温度推定を説明するための図である。
【図4】図1の電動モータの3相のコイルの温度推定を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1の電動モータに供給される3相交流電流を示す波形図である。
【図6】図1の電動モータに供給される3相交流電流について液圧に対応して示した波形図である。
【図7】図1の電動モータの3相のコイルの温度変化を示す特性図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置の作用を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る電動ディスクについて、ECU(モータ駆動装置)を含めて模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る電動モータに供給される3相交流電流について電気角度に対応して示した波形図である。
【図11】第3実施形態を説明するための3相のコイルの温度変化を示す特性図である。
【図12】本発明の第4実施形態における電動モータの3相のコイルに供給される電流について、液圧との対応関係がヒステリシス特性を有することを模式的に示す図である。
【図13】第4実施形態の3相のコイルに供給される電流を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置を図1ないし図6に基づいて説明する。
【0011】
図1において、電動倍力装置1は、タンデム型のマスタシリンダ10と、このマスタシリンダ10のピストンとしてのピストン組立体30と、このピストン組立体30を直動移動させる回転−直動機構としてのボールねじ機構50と、このボールねじ機構50を作動させるための3相モータとしての電動モータ40と、この電動モータ40を駆動制御するためのECU(電子制御装置)70とを有している。
電動倍力装置1は、マスタシリンダ10のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体30を内装したハウジング2を備えている。ハウジング2は、有底筒状のハウジング本体3と、フロントカバー4と、リヤカバー6とからなっている。フロントカバー4は、ハウジング本体3の底板部3aに形成した開口部3bに環状ボス部4aを嵌合させて径方向に位置決めされると共に、図示を略すボルトにより底板部3aに重ねて固定されている。リヤカバー6は、カップ形状に形成され、ハウジング2の後端開口部に嵌合されると共に、ボルト5によりハウジング本体3の端面に固定されている。ハウジング2は、そのリヤカバー6に植立したスタッドボルトSを利用して、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁Wに固定される。一方、このハウジング2には、そのフロントカバー4に植立したスタッドボルトS´を利用してマスタシリンダ10が連結される。
【0012】
フロントカバー4は、その中心部にハウジング本体3内に延びる段付きの筒状ガイド部7を備えている。この筒状ガイド部7内には、前記ピストン組立体30が嵌挿されている。一方、リヤカバー6は、その中心部に隔壁Wを挿通して車室内へ延ばされる筒状ガイド部8を備えている。この筒状ガイド部8には、図示しないブレーキペダルと連動する入力ロッド9が挿入されている。なお、前記2つの筒状ガイド部7、8は同軸に配置されている。
【0013】
タンデム型マスタシリンダ10は、有底のシリンダ本体11とリザーバ12とを備えている。シリンダ本体11内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30(以下、便宜上、ピストン30ともいう。)と対をなすカップ形状のセカンダリピストン13が配設されている。本実施形態において、ピストン組立体30およびセカンダリピストン13は、シリンダ本体11内に嵌合したスリーブ14の両端側に配置した2つのリングガイド15、16により摺動案内されるようになっている。シリンダ本体11内には、前記ピストン組立体30とセカンダリピストン13とにより2つの圧力室17、18が画成されている。シリンダ本体11の壁には、各圧力室17、18を外部に開通させる吐出ポート19、20が各独立に設けられている。
【0014】
また、シリンダ本体11、スリーブ14およびリングガイド15、16には、各圧力室17、18内とリザーバ12とを連通するリリーフポート21、22が形成されている。各リングガイド15、16の前後には、前記リリーフポート21、22を挟む態様で、ピストン組立体30、セカンダリピストン13との間をシールする各一対のシール部材23、24が配設されている。各圧力室17、18は、前記両ピストン30、13の前進に応じて、前記各一対のシール部材23、24が対応するピストン30、13の外周面に摺接することで、リリーフポート21、22に対して閉じられるようになる。また、各圧力室17、18内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30、セカンダリピストン13を後退方向へ付勢する戻しばね25、26がそれぞれ配設されている。
【0015】
上記したマスタシリンダ10の構成は、プライマリピストンとしてのピストン組立体30を除けば、従来汎用のタンデム型マスタシリンダと同じである。マスタシリンダ10は、両ピストン30、13の前進に応じて各圧力室17、18内に封じ込められているブレーキ液が、吐出ポート19、20から外部へ吐出される。本実施形態において各吐出ポート19、20には、液圧回路(図示省略)から延ばされたブレーキ配管28、28´がそれぞれ接続されている。各圧力室17、18内のブレーキ液は、前記液圧回路で圧力調整されて対応するディスクブレーキのキャリパ等のホイールシリンダ(図示省略)へ供給されるようになっている。
【0016】
ピストン組立体30は、筒状をなすブースタピストン31と、このブースタピストン31内にこれと相対移動可能に配設された入力ピストン(入力部材)32とからなっている。ブースタピストン31は、前記フロントカバー4の筒状ガイド部7およびマスタシリンダ10内のリングガイド15に摺動可能に嵌挿されている。ブースタピストン31の前端部は、マスタシリンダ10の圧力室(プライマリ室)17内に延出されている。一方、入力ピストン32は、ブースタピストン31の内周に形成した環状壁31aに摺動可能に嵌挿されている。入力ピストン32の前端部は、ブースタピストン31の前端部と同じく圧力室27内に延出されている。なお、ブースタピストン31の前端部およびセカンダリピストン13の前端部には、前記マスタシリンダ6内のリリーフポート21、22に連通可能な貫通孔(図示省略)がそれぞれ穿設されている。ブレーキ非作動時には、これら貫通孔を通じて各圧力室17、18とリザーバタンク12とが連通状態となる。
【0017】
ここで、上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31と入力ピストン32との間は、ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材(符号省略)によりシールされている。このシール部材と前記したリングガイド15の両端側のシール部材23とにより、圧力室17からマスタシリンダ10外へのブレーキ液の漏出が防止されている。ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材は、ブースタピストン31に内装されて圧力室17内の戻しばね25の一端を受ける筒状部材36によって位置固定されている。また、ハウジング2のフロントカバー4の筒状ガイド部7の内周面とブースタピストン31との間には、両者の間への異物の侵入を防止するシール部材37が介装されている。
【0018】
一方、入力ピストン32の後端部には、前記ブレーキペダルと連動する入力ロッド9の先端部が揺動可能に連結されている。入力ピストン32は、前記ブレーキペダルの操作によりブースタピストン31内を進退移動するようになっている。また、入力ロッド9の途中には、フランジ部38が一体に形成されている。フランジ部38がリヤカバー6の筒状ガイド部8の後端に一体に形成した内方突起39に当接していることにより、入力ロッド9の後方(車室側)への移動が規制されている。なお、入力ロッド9は、その先端の球形部9aを入力ピストン32の後端に形成された球面状凹部32aに嵌合させた状態で連結されている。これにより入力ロッド9の揺動が許容されている。
【0019】
本電動倍力装置1のハウジング2内には、3相交流電流の供給を受けて作動する3相モータとしての電動モータ40と、この電動モータ40の回転を直線運動に変換して上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31に伝達する回転-直動変換機構としてのボールねじ機構50とが配設されている。電動モータ40は、ブレーキペダルからの踏力をアシストする動力を発生させることで、前記ブースタピストン31を移動させ、各圧力室17、18に液圧を発生させて車両のブレーキ力を発生させるようになっている。当該電動モータ40としては3相の集中巻きのDCブラシレスモータが用いられている。電動モータ40は、ハウジング2内に収められるステータ41、中空のロータ42、回転位置検出器としてのレゾルバ等の回転センサ66からなっている。ステータ41は、ハウジング本体3およびリヤカバー6の相互間に位置固定的に配設されている。本実施形態では、ステータ41は16極18スロットで構成されている。ロータ42は、ハウジング本体3およびリヤカバー6に軸受43、44を介して回動自在に支持されている。本実施形態では、ロータ42は、16極分の永久磁石がその外周に貼付されている。
【0020】
ボールねじ機構50は、電動モータ40のロータ43にキー(図示省略)を介して回転不能に嵌合されたナット部材52と、このナット部材52にボール53を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)54とからなっている。ねじ軸54の後端部には軸方向に延びるスリット55が形成されている。このスリット55には、前記リヤカバー6の後端の内方突起39が挿入されている。すなわち、ねじ軸54は、ハウジング2内に回動不能にかつ軸方向移動可能に配設されている。これによりロータ42と一体にナット部材52が回転すると、ねじ軸54が直動することになる。一方、ねじ軸54は、そのスリット55の始端部分に内方フランジ56を備えている。この内方フランジ部56には、ブースタピストン31の延長筒部57の後端に形成した外方フランジ部57aが当接するようになっている。
【0021】
車室内の固定部には、ブレーキペダルの動きを介して車体に対する入力ピストン32(入力ロッド9)の絶対変位を検出するポテンショメータ65(図1への図示省略)が配設されている。一方、ハウジング2内には、電動モータ40の回転変位から車体に対するブースタピストン31の絶対変位を検出する回転センサ66(レゾルバ)が配設されている。また、マスタシリンダ10と前記液圧回路とを接続するブレーキ配管の一方28には、マスタシリンダ10の圧力室17内のブレーキ液圧を検出する圧力センサ69が設けられている。図2に示すように、これらポテンショメータ65、回転センサ66、および圧力センサ69、並びに後述する温度センサ80(サーミスタ)の検出信号は、モータ駆動装置としてのECU(電子制御装置)70に送出されるようになっている。
【0022】
ECU70は、ハウジング2における電動モータ40の外周側に画成されて配置されており、上記の各センサの信号に基づいて電動モータ40(ロータ43)の回転を制御する。ECU70は、電動モータ40へ電流を供給するインバータ回路71と、該インバータ回路のスイッチング素子を作動させるドライバ回路72と、ドライバ回路を制御する制御回路73とを有している。上述したポテンショメータ65、回転センサ66、圧力センサ69、および温度センサ80は制御回路73に接続されている。制御回路73は、回転センサ66の信号から、電動モータ40のロータ42の回転位置である回転角を認識する。そして、制御回路73は、ステータ41の3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)へ回転角に応じた位相の電流を流すようにドライバ回路を駆動してインバータ回路71により3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)へ電流を流すことにより、電動モータ40(ロータ42)の回転を制御している。
【0023】
前記温度センサ80は、ECU70内におけるハウジング2との接合面付近に配置されており、ハウジング2の温度及びECU70の温度の両方を測定するようにしている。
【0024】
本実施形態の電動倍力装置1では、ブレーキペダルの踏込み、すなわち入力ピストン32の前進をポテンショメータ65で検出し、この検出値に応じて電動モータ40を回転させる。電動モータ40の回転がボールねじ機構50によって直線運動に変換されて、ブースタピストン31が前進する。これにより、ブレーキペダルから入力ピストン32に付与される入力推力と電動モータ40からブースタピストン31に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ10内の圧力室17、18に発生する。
そして、この電動倍力装置1では、ブレーキペダルの踏込みが保持されて一定の液圧を発生しているときには、電動モータ40に電流が流れてトルクは発生しているが、電動モータ40のロータ42は回転しておらず静止した状態となる。そして、電動モータ40として3相のDCブラシレスモータを使用していることにより、電動モータ40の各相に流れる相電流は電気角度で120°位相がずれている。電動モータ40が一定のトルクを発生しながら静止していたとすると、U、V、W相コイル81U,81V,81Wに流れる相電流の電流値の絶対値は、各相で異なり、各相のコイル81U,81V,81Wの温度に差を生じることになる。したがって、各相のコイル81U,81V,81Wのうちで、相電流の電流値の絶対値が最も大きい相のコイルは、その温度が最も大きいコイルとなる。
【0025】
ここで、本実施形態では、サーミスタ等の温度センサ80を1個設けて、各相のコイル81U,81V,81Wには温度センサを設けない構成としており、上記温度センサ80の検出値を利用して、各相のコイル81U,81V,81Wの温度を推定し、この推定値を後述するロータ回転位置移動制御に利用するようにしている。
本実施形態の作用の説明に先立って、各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度の算出方法並びに液圧(この電動倍力装置がマスタシリンダ10の圧力室17内に発生する液圧)と各相コイル電流(U、V、W相電流)との対応関係などついて説明する。
【0026】
電動モータ40は、3相(U、V、W相)に対応した3つのコイル81U,81V,81Wを有している。各相のコイル81U,81V,81Wは、ECU70に延びる配線を介してインバータ回路71に接続されている。ECU70内における配線には、それぞれカレントセンサ83U,83V,83Wが設けられている。カレントセンサ83U,83V,83Wは、U、V、W相コイル81U,81V,81Wに流れる電流を計測して検出信号を制御回路73に出力する。なお、カレントセンサは必ずしも3個必要ではなく、2つの相のコイルの電流を測定し、残る1つの相のコイルの電流を計算により求めることもできる。
【0027】
まず、各相のコイル81U,81V,81Wの発熱は、各相のコイル81U,81V,81Wの抵抗と各相のコイル81U,81V,81Wの電流値(U、V、W相電流)の2乗の積である。このことから、各コイル81U,81V,81Wの温度上昇は各コイル81U,81V,81Wの電流値から推測することができる。すなわち、各相のコイル81U,81V,81Wの電流による温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1は、比例定数k1と各コイル電流Iu,Iv,Iwの2乗と通電時間(単位時間)Δtの積で決まる。温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1は、それぞれ(1)、(1)’、(1)”のように表すことができる。
【0028】
ΔTu1=k1・Iu2×Δt・・・・・(1)
ΔTv1=k1・Iv2×Δt・・・・・(1)’
ΔTw1=k1・Iw2×Δt・・・・・(1)”
【0029】
この式を用いて、発熱体(コイル)の断熱条件の温度上昇が分かる。なお、本実施形態においては、精度向上のため、以下のように、各相のコイル81U,81V,81Wからハウジング2等への熱伝達の特性を把握するようにしている。
各相のコイル81U,81V,81Wで発生した熱は、ステータ41の鉄心を通してハウジング2側ヘ流れると共に、ステータ41の鉄心を通して隣接する他の相のコイルヘも流れる。本実施形態では、この2つの熱伝達経路の特性を把握し、ハウジング2の材料及び形状について良好な熱伝達特性を得るように設定し、かつ温度分布が少ないように設定している。熱伝達については、図3に示すようにモデル化されるものになっている。
【0030】
そして、各相のコイル81U,81V,81Wからハウジング2への熱伝達によるコイルの温度変化は、コイル温度Tu,Tv,Twと温度センサ80によるハウジング温度Thとの差と、各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2間の熱伝達の特性から求めることができる。k2をコイルとハウジング間の熱伝達の定数とすると、単位時間Δtにおける、コイルの温度変化分ΔTu2,ΔTv2,ΔTw2は、それぞれ式(2)、(2)’、(2)”のように示すことができる。
【0031】
ΔTu2=(Tu−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)
ΔTv2=(Tv−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)’
ΔTw2=(Tw−Th)×(1−EXP(k2×Δt))・・・・(2)”
【0032】
また、ステータ41の一の相のコイル(例えば、U相コイル81U)から、他の相のコイル(V、W相コイル81V,81W)への熱伝達による前記一の相のコイル(U相コイル81U)の温度変化(ΔTu3)は、各相のコイル温度の差とコイル間の熱伝達の特性とから求めることができる。すなわち、k3をコイル間の熱伝達の定数とすると、単位時間ΔtにおけるU相コイル81Uの温度変化ΔTu3は、V相との温度差と、W相との温度差の影響を受け、(3)式のようになる。また、V、W相コイル81V,81Wの温度変化分ΔTv3,ΔTw3は、それぞれ(3)’、(3)”式のようになる。
【0033】
ΔTu3=(Tu−Tv)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tu−Tw)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)
ΔTv3=(Tv−Tw)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tv−Tu)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)’
ΔTw3=(Tw−Tu)×(1−EXP(k3×Δt))+(Tw−Tv)×(1−EXP(k3×Δt))・・(3)”
【0034】
(1)、(1)’、(1)”式のコイル通電電流から求めた各相のコイル81U,81V,81Wの温度上昇分ΔTu1,ΔTv1,ΔTw1から、(2)、(2)’、(2)”式の各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2間の熱伝達の特性による温度減少分ΔTu2,ΔTv2,ΔTw2と、(3)、(3)’、(3)”式の各相のコイル81U,81V,81W間の熱伝達による温度減少分ΔTu3,ΔTv3,ΔTw3と、を減算すれば、単位時間Δtあたりの各相のコイル81U,81V,81Wの温度変化分を推定することができる。そして、これら各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度変化分に、ハウジングに取り付けた温度センサ80の実測温度(初期値)に基づいて推定された前回の各相のコイル温度の推定値を加算すれば、現在の各相のコイル温度Tu(n)、Tv(n)、Tw(n)を推定することができる。このときの計算式は以下の(4)、(4)’、(4)”のようになる。
【0035】
Tu(n)=(k1×Iu2)×Δt−(Tu(n−1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tu(n−1)−Tv(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tu(n−1)−Tw(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
+Tu(n−1)・・・(4)
Tv(n)=(k1×Iv2)×Δt-(Tv(n−1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tv(n−1)−Tw(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tv(n−1)−Tu(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
+Tv(n−1)・・・(4)’
Tw(n)=(k1×Iw2)×Δt−(Tw(n-1)−Th)×(1−EXP(k2×Δt))
−(Tw(n−1)−Tu(n−1))×(1−EXP(k3×Δt))
−(Tw(n−1)−Tv(n−1))×(1−EXP(k3×Δ)t))
+Tw(n-1)・・・(4)”
【0036】
上記の各相のコイル温度Tu、Tv、Twの推定は、ブレーキシステムが稼動している間、単位時間Δtごとに行われており、上記式(4)、(4)’、(4)”のTu(n−1),Tv(n−1),Tw(n−1)は、前回の各相のコイル温度の推定値を記憶したものである。また、コイル温度の初期値Tu(1)、Tv(1)、Tw(1))は、それぞれブレーキシステム起動時のハウジング温度Th(上記初期値となる実測温度)が記憶されるようになっている。
【0037】
各コイルの温度推定をフローチャートに示すと、図4のようになる。この各コイルの温度推定処理は、ブレーキシステムが起動している間、継続的に制御回路73により行われるようになっている。
【0038】
ステップS1にて、例えば、イグニッションキーがオンされ、ブレーキシステムが起動すると、各相のコイル81U,81V,81Wには電流Iが流れていないため、各相のコイル81U,81V,81Wとハウジング2との温度は等しくなっていると判断し、各相のコイル81U,81V,81Wの推定温度は、初期値としてハウジング温度(システム起動時にハウジング温度Thを計測)と同じに設定する。
【0039】
ステップS2でハウジング温度Thを計測し、ステップS3で、単位時間Δtの間の各相のコイル81U,81V,81Wの温度変化分と、前回の各コイル温度推定値Tu(n−1),Tv(n−1),Tw(n−1)とを加算することにより、現在の各コイル温度推定値Tu(n),Tv(n),Tw(n))を求めることができる。そして、ステップS4でブレーキシステムが停止したか否かが判断され、ブレーキシステムの稼働中はステップS2とS3とが繰り返される。イグニッションキーがオフされ、ステップS4でブレーキシステムが停止したときに、各コイルの温度推定を終了する。
【0040】
つぎに、本実施形態における電動モータの制御の概要を説明する。
車両の走行中のブレーキ動作においては、発生液圧が低い場合は、各相のコイルの発熱量が少なく、また、発生液圧が高い場合には短時間で車両が減速又は停止するため、電動倍力装置のモータの温度上昇は一般に大きくはない。むしろ、電動倍力装置の電動モータにとっての温度上昇が厳しいのは、停車中にブレーキペダルが強く踏み続けられた場合となっている。
特に、電動モータ40の回転が停止し、マスタシリンダ10に発生させる液圧を一定液圧に保持する場合には、3相のコイル81U,81V,81Wのうちの電流値の絶対値が大きい相のコイルの発熱が大きくなる。そして、コイルの温度上昇が進み、仮に1相のコイルでもその温度が、その耐熱温度を超えてしまうと、コイルの焼損を惹起する虞がある。
【0041】
ECU70(制御回路73)は、回転センサ66により検出されるロータ42の回転位置に応じて効率的に電流を流すようモータの電気角度を決定し、これに基づき、電動モータ40の3相のコイル81U,81V,81Wに流れる電流は、図5に示すようにモータの電気角度で各相の電流配分が決まる。モータが回転しているときには、各相に同様な電流の振幅があるため各相、同様に温度上昇する。しかし、回転が停止した状態で、トルクを発生していると、モータ位置により発熱は異なり、交流のピーク電流(ピーク値を示す電流)が流れる位置のときにコイルの発熱は最大になる。図5中の(i)の位置では、U相コイル、(ii)の位置ではW相コイル、(iii)の位置ではV相コイルの発熱が最大となる。
【0042】
上述したように、本実施形態では、マスタシリンダ10内の圧力室17、18でブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ10の発生液圧とモータのU,V,W各相のコイル電流(U、V、W相電流)とは、例えば、図6に示すような対応関係を有している。
電動モータ40は、3相の実効電流に比例してトルクを発生し、液圧が高くなると電動モータ40に必要なトルクが大きくなるため、電流の振幅(実効電流)が大きくなる。
電動モータ40の発熱は、電流の2乗に比例するため、発生液圧が高いほど実効電流が大きくなって発熱が大きくなる。
通常、電動倍力装置1の発生液圧は、ブレーキペダルの踏力に応じて発生させる。しかし、ブレーキペダルが、強い力で、かつ、長時間にわたって踏まれた場合には、電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wの焼損防止を図るとともに、マスタシリンダ10による液圧発生時間を長くする必要がある。
【0043】
すなわち、例えば、図6に示すように、発生液圧が4MPaの位置〔(iv)〕で連続して通電していると、W相コイル81Wを流れる電流(W相電流)がピーク値となるために、W相コイル81Wの温度上昇が大きくなる。
例えば、エンジンルーム内の温度が100℃で、電動倍力装置も100℃になっている際に、図6に示すように、発生液圧が4MPaの位置で通電を開始した場合、各相コイルの温度は、例えば、図7に示すような変化を呈し、電流がピーク値となっているW相コイル81Wの温度上昇が早く進み、通電開始後、約1200秒で170℃に達する。
【0044】
そして、W相コイル81Wにピーク電流が流れ続けた場合には、約2500秒でW相コイル81Wの温度が、各コイル81U,81V,81W、又は、これらコイル近傍の部品の耐熱温度である180℃に達してしまう。本実施形態においては、コイルの温度上昇を上記耐熱温度まで到達しないように制限するための基準温度T0を170℃として、この基準温度T0に達したときに電流をピーク値からずれるようにロータ42を移動させる制御を行なう。すなわち、2相間(W-V間)に通電してV、W相電流について絶対値を同等とし、U相電流を0(最低値)とする状態とするために、例えば、図5の(ii)の電気角度150°の状態から電気角度を30°ずらして電気角度180°となるように電流振幅を増大させる制御を行なう。この電流振幅の増大に応じてロータ42が電気角度30°分に対応する角度だけ回転し、電気角度が150°の状態から180°にずれることになる。これにより、W相コイル81Wの温度を160℃まで下げることができ、電動モータ40のコイル温度の上昇を抑制することができる。また、上記のように1回の制御により、耐熱温度180℃に達する時間は、約7000秒に延びる。この結果、マスタシリンダ10による液圧発生時間を長くすることが可能となる。なお、上記時間は、コイルの材質、線径、コイル近傍の部品またはECU70内の部品の耐熱温度等により変わってくるものであり、例えば、コイルとしてより細い線径のものを使用するとコイルの耐熱性が落ちるので、上記時間は、より短い時間となる。
【0045】
本実施形態では、上述したようにして電動モータ40の各相のコイル温度の上昇を抑制できる。また、電動モータ40の各相のコイル温度の上昇を抑制するために、ロータ位置を移動させずに効率のよくない電気角度にして位相をずらす制御を行なうことも考えられるが、この場合にはモータの効率が下がり、発生するモータトルクが小さくなってしまう。本実施形態ではこのようなことを回避できる。
【0046】
つぎに、本実施形態における電動モータの制御の詳細を説明する。
上述した電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wの焼損防止を図るために、ECU70(制御回路73)により図8のフローチャートに示す通電電流制御を行なう。
まず、この制御は、ブレーキペダルが踏まれたことをポテンショメータ65により検出した後に、ブースタピストン31を推進するための電動モータ40への制御と並列して行われるようになっている。
【0047】
ステップS11で、ブレーキペダルの踏込みが一定の力で踏み続けられているかを、回転角センサ66の検出信号に基づいて、ロータ42が所定時間その回転停止が継続しているか否かで判定する。このステップS11でロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された場合には、ステップ12へ進む。ここで、この所定時間は、マスタシリンダ10の最大液圧時における最大ピーク電流値を各相のコイル81U,81V,81Wに流したときの耐熱温度に達するまでの時間よりも短い時間で設定されている。また、本発明において「ロータ42の回転停止が継続している」とは、ロータ42が完全に回転を停止している場合の他、電気角度の変化が3相のコイル81U,81V,81Wのうちのいずれかの相がピーク値またはその前後の大きな電流値から逸脱しない範囲でごく僅かにロータ42が回転する場合をも含むものとして用いている。
【0048】
ステップS12では、上述した図4のフローチャートに示す各コイルの温度推定結果を取得して、ステップ13に移る。ステップ13では、各相のコイル81U,81V,81Wのうち、いずれかのコイル温度Tu,Tv,Twが、上述した耐熱温度(例えば、180℃)などに基づいて予め定められた基準温度T0(例えば、170℃)に達したか否かを判断する。この判断は、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達するまで行われ、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めたことを回転角センサ66の検出信号に基づいてステップS14で判定した場合には、このフローチャートの制御を終了させる。
【0049】
ステップS13で、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達した場合には、ステップS15において、各相のコイル81U,81V,81Wを流れる電流値(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置となるように、マスタシリンダ10の発生液圧が大きくなる方向(ブースタピストン31が前進する方向)、すなわち、ロータ42が電気角度で60°進角する方向に正回転するように制御する。この制御においては、例えば、ロータ42の電気角度が、図5の(ii)位置、すなわち、図6の(iv)位置となっている状態でW相コイル81Wのコイル温度Twが基準温度T0に達したときに、ロータ42を電気角度で60°大きくなる方向に回転させるようにしている。
【0050】
この場合、W相コイル81Wは、そのコイル電流がピーク値からずれて小さくなることで、その温度が低下してW相コイル81Wの電流値の絶対値が同等の電流値となるU相コイル81Uの温度と同等値になる。なお、このとき、ロータ42をブースタピストン31が前進する方向に回転させることで、マスタシリンダ10の圧力室17の液圧が増大することになり、その分の反力が入力ロッド17を介してブレーキペダルに伝達されてしまうことになるが、本実施形態において、電気角度の60°はロータ42の回転角で7.5°となっているため、液圧の上昇はわずかであり、ブレーキペダルは強い力で踏まれているため、運転者に然程、違和感を与えることはない。
【0051】
つぎに、ステップS16では、再びステップ12と同様に各コイルの温度推定結果を取得して、ステップ17に移る。ステップ17では、ステップ13と同様に、各相のコイル81U,81V,81Wのうち、いずれかのコイル温度Tu,Tv,Twが、基準温度T0に達したか否かを判断する。この判断は、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達するまで行われ、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めたことを回転角センサ66の検出信号に基づいてステップS18で判定した場合には、このフローチャートの制御を終了させる。
【0052】
ステップS17で、いずれかの相のコイル温度Tu,Tv,Twが基準温度T0に達した場合には、ステップS19において、各相のコイル81U,81V,81Wを流れる電流(U、V、W相電流)がピーク値からずれる位置となるように、ブースタピストン31が後退するする方向、すなわち、ロータ42が電気角度で60°小さくなる方向に逆回転するように制御する。この制御においては、ステップS15の処理によって、ロータ42の電気角度が、図5の(iii)位置となっている状態であるため、電流がピーク値となっているV相コイル81Vのコイル温度Tvが基準温度T0に達したときに、ロータ42を電気角度で60°小さくなる方向に回転させて、元の回転角度の位置にロータ42を戻すようにしている。この場合、V相コイル81Vは、そのコイル電流がピーク値からずれて小さくなることで、その温度が低下してV相コイル81Vの電流値の絶対値が同等の電流値となるU相コイル81Uの温度と同等値になる。また、この場合、ブレーキ力が僅かに弱くなるが、先のステップS15でブレーキ力を僅かに強くしているので、元のブレーキ力に戻るだけであり、支障が生じることはない。
【0053】
そして、このステップS19の処理が終了すると、再びステップS12に戻り、ステップS14またはステップ18において、ブレーキペダルが操作されてロータ42が再回転し始めるまで、各相のコイル81U,81V,81Wいずれかのコイル温度が基準温度T0に達する度毎に、図5における電気角度の(ii)位置と(iii)位置との間でロータ42の正逆回転を繰り返し行なうことで、電流の電動モータ40の各相のコイル81U,81V,81Wのコイル温度の上昇を抑制することができる。なお、ステップ15の処理で、増大することになるマスタシリンダ10の発生液圧は、ステップS19の処理によりロータ42をブースタピストン31が後退する方向に回転させることで、マスタシリンダ10の発生液圧が減少して、元の液圧に戻ることになる。この際には、ステップS11で、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回らないようにする。このように交番的にロータ42の回転位置を移動させることにより、ブレーキペダルを踏み続けることでマスタシリンダ10の発生液圧が増大し続けることがないため、運転者に違和感を与えることはない。なお、交番的にロータ42の回転位置を移動させる際には、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回らないようにすれば、上記のように2点間の移動でなくても良く、色々な移動パターンを取り得るものである。また、水平路面に停車している等の停車状況でマスタシリンダ10の発生液圧が十分に大きい場合には、停車に支障が無い範囲で、ロータ42が所定時間その回転を停止していると判定された時点におけるマスタシリンダ10の発生液圧を下回るようにすることも可能である。さらに、上記図8のフローチャートにおいて、ステップS11の所定時間が短い場合にはこれを省略しても良い。
【0054】
上記第1実施形態では、通電電流及び温度センサ80の検出値から各相のコイル81U,81V,81Wの温度を推定するように構成した場合を例にしたが、インバータ回路71にFETが設けられる場合には、そのFETのジャンクション温度を通電電流と温度センサ80の検出値から推定することも可能である。なお、この場合には、第1実施形態で実行されるように1個の温度センサ80がモータの過熱保護を図るのに加えて、1個の温度センサ80がECU70の過熱保護をも合わせて図ることが可能となる。この場合、温度センサ80をより効率的に利用できることになる。また、各相のコイル81U,81V,81W毎に温度センサを設けて各相のコイル81U,81V,81Wの温度推定を行なわないようにしてもよいことはもちろんである。
【0055】
上記実施形態では電動モータ40の制御が、電動モータ40の駆動後にロータ42の位置が保持されて当該保持の際に3相のコイル81U,81V,81Wのうち流れる電流がピーク値となる1相のコイル(上記例では、W相コイル81W)が所定温度となったときに行われる場合を例にした。これに代えて、電動モータ40の制御を、コイル温度の検出値または推定値に関係なく、コイル温度の温度上昇を見越した所定時間を設定し、電動モータ40の駆動後にロータ42の回転位置停止が上記所定時間経過したときに行なうように構成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、3相のコイル81U,81V,81Wに通電状態でロータ42の回転停止した後からロータ42の回転停止が継続されたことを回転角センサ66の検出信号に基づいて検出するようにし、3相のコイル81U,81V,81Wのうち流れる電流が最も大きい電流値となる1相のコイル(W相コイル81W)が所定温度となったときに電動モータ40の制御を行なう場合を例にした。これに代えて、ロータ42の回転停止が継続されたことを、マスタシリンダ10の発生液圧が一定に保持されていることを圧力センサ69の検出信号に基づいて検出するように構成してもよい。さらに、ロータ42の回転停止が継続されたことを、ポテンショメータ65により検出される入力ピストン(入力部材)32の移動が一定に保持されたことにより検出するように構成してもよい。
また、本発明が適用される電動倍力装置は、本実施形態に示された電動倍力装置に限られるもので無く、3相モータを用いてマスタシリンダへ直動方向の力を作用するものであれば良く、例えば、WO2004−5095号に示されるような電動倍力装置のモータ駆動装置に適用することもできる。
【0057】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、自動車ブレーキ用モータ駆動装置としてのECU70及び3相モータとしての電動モータ40が、電動倍力装置に用いられる場合を例にしたが、これに限らず、電動ディスクブレーキに用いるようにしてもよい。この一例(第2実施形態)を図9に基づき、図1〜図3を参照して説明する。なお、当然ながら、本発明を電動ディスクブレーキに用いる場合であってもこの第2実施形態に限定されるものではなく、他の3相モータを用いた他の電動ディスクブレーキにも適用できるものである。
図9において、第2実施形態に係る電動ディスクブレーキ1Aは、第1実施形態のECU70及び電動モータ40に代わるECU70A及び電動モータ40Aを備えている。
また、温度センサ80に代えて電動モータ40Aのロータ25Aの温度を検出する図示しないロータ温度センサ80Aを備えている。
【0058】
電動ディスクブレーキ1Aは、運転者による図示しないブレーキペダルの操作に基づいて、ECU70Aによってインバータ回路71Aから制御電流を供給して電動モータ40Aのロータ25Aを回転させる。ロータ25Aの回転は、差動減速機構100によって所定の減速比で減速され、ボールランプ機構101によって直線運動に変換されてピストン102を前進させる。ピストン102の前進によって、一対のブレーキパッド103,104のうち一方のブレーキパッド103がディスクロータ106に押圧される。このピストン102の押圧の反力によってキャリパ本体107が移動して爪部108が他方のブレーキパッド104をディスクロータ106に押圧して制動力を発生させる。また、制動動作後、運転者がブレーキペダルを放すと、ブレーキパッド103,104は初期位置まで戻るようになっている。
【0059】
ブレーキパッド103,104の摩耗に対しては、パッド摩耗補償機構109の調整スクリュー110が摩耗分だけ前進してボールランプ機構101を前進させるようになっている。このパッド摩耗補償機構109により非制動時におけるディスクロータ106とブレーキパッド103,104とのパッドクリアランスが一定に保たれるようになっている。
【0060】
ECU70Aは、電動モータ40A(3相モータ)の通電状態でロータ25Aの位置が保持されたときに、いずれかのコイル温度(各相のコイル81U,81V,81Wの温度)〔図2参照〕が、コイル又はコイル近傍の部品の耐熱温度(例えば180℃)などに基づいて予め定められた所定温度以上に達したと判断した場合、上記第1実施形態の場合と同様に、3相のコイル81U,81V,81Wに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、3相のコイル81U,81V,81Wに通電している実効電流を変更して、ブレーキパッド103の押圧力が大きくなる方向にロータ25Aの回転位置を移動させるように電動モータ40Aを制御する。
【0061】
第2実施形態では、電動ディスクブレーキ1AにECU70A及び電動モータ40Aを用いているが、この第2実施形態でも、ECU70Aが上述したように電動モータ40Aが制御することにより、上記第1実施形態と同様に、各相のコイル81U,81V,81W、ひいては電動モータ40Aの温度上昇を抑制できる。なお、当然ながら、本発明を電動ディスクブレーキに用いる場合であってもこの第2実施形態に限定されるものではなく、3相モータを用いた他の形式の電動ディスクブレーキにも適用できるものである。
【0062】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を、図10、11に基づいて説明する。本第3実施形態は、第1実施形態に示した電動倍力装置1における制御に関するものであるため、適宜、図1、2を参照して説明する。上述の第1実施形態においては、ロータ42の回転停止が継続されたときに、3相のコイルのうちのいずれかの相のコイルの電流がピーク値にあるものと仮定して単純に電気角度で30°若しくは60°進角させるものとして説明した。しかし、必ずしも温度が最も高い相のコイルがピーク値にあるとはかぎらない。このようにピーク値に無い場合でも、60°程度またはこれ以上の適当な電気角度分を進角させれば、十分に適用できるものであるが、本第3実施形態では、ロータ42の回転停止が所定時間継続されたときに温度が最も高い相のコイルがピーク値にない場合でも、より確実にコイルの温度上昇を抑制できる形態について説明する。
図10は、本発明の第3実施形態に係る電動モータ40に供給される3相交流電流について1サイクルを360°とした電気角度に対応して示した波形図である。図11は、本発明の第3実施形態を説明するための3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)の温度変化を示す特性図である。
【0063】
前記図6と同様に、図2に示される3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)には、図10に示すように3相電流(U、V、W相電流)が通電される。
そして、本実施形態においては、電動モータ40の通電状態で図1に示すロータ42の回転停止が所定時間継続されたときに、3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)のうちのいずれの相のコイルの温度が最も高くなっているかを判断する。このとき、温度が最も高くなっている相のコイルの相電流の電流値の絶対値は、他の2相の相電流の電流値の絶対値よりも大きくなっており、各コイルによって所定の幅の電気角度となっている。この場合、他の2相のコイルのうちの一方が最大ピーク電流値となる電気角度になるようにロータ42を回転移動させることで、温度が最も高くなっている相のコイルの相電流の電流値の絶対値は小さくなる。上述した各コイルによって異なる所定の幅の電気角度とロータ42を回転移動させるべき電気角度との関係は、各コイルごとに、以下のようになっている。
【0064】
U相コイル81Uの温度が最も高く、基準温度T0である170℃に達した場合には、電気角度が30°以上150°未満の間となっているか、または、210°以上330°未満の間となっている場合である。電気角度が30°以上150°未満の間の場合には、電気角度で150°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が210°以上330°未満の間となっている場合には、電気角度で330°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0065】
また、W相コイル81Wの温度が最も高、基準温度T0である170℃に達した場合は、電気角度が90°以上210°未満の間となっているか、または、0°以上30°未満の間及び270°以上360°以下の間となっている場合である。電気角度が0°以上30°未満の間の場合には、電気角度で30°となる回転位置にロータ42を移動させる。電気角度が270°以上360°以下の間の場合には、次のサイクルの電気角度で30°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が90°以上210°未満の間となっている場合には、電気角度で210°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0066】
さらに、V相コイル81Vの温度が最も高く、基準温度T0である170℃に達した場合には、電気角度が0°以上90°未満の間及び330°以上360°以下の間となっているか、または、150°以上270°未満の間となっている場合である。電気角度が0°以上90°未満の間の場合には、電気角度で90°となる回転位置にロータ42を移動させる。電気角度が270°以上360°以下の間の場合には、次のサイクルの電気角度で90°となる回転位置にロータ42を移動させる。また、電気角度が150°以上270°未満の間となっている場合には、電気角度で270°となる回転位置にロータ42を移動させる。
【0067】
そして、例えば、電動モータ40の通電状態で図1に示すロータ42の回転停止が、電気角度80°の位置に通電しているときに行なわれた場合、U相コイル81Uへの電流値が最も大きい電流値の絶対値となっており、U相コイル81Uの温度が高くなっていることになる。U相コイル81Uの温度が基準温度T0である170℃に達した場合、現在、通電している電気角度が80°であるので、この現在の電気角度から電気角度で150°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させる。このことで、U相コイル81Uの相電流の電流値の絶対値を小さくすることができる。
【0068】
さらに、このときの経過時間とコイル温度との関係は、図11に示すようになっている。すなわち、電気角度80°に通電を開始し、経過時間約1400秒後に、U相コイル81Uの温度が基準温度T0である170℃に達している。ここで、上述したように電気角度で150°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させると、U相コイル81Uの温度は低下する。
【0069】
しかしながら、W相コイル81Wの電流が最大ピーク電流値となるため、今度はW相温度が上昇し、経過時間約1750秒で170℃に到達する。
したがって、今度は、W相コイル81Wの温度が最も高い温度となるため、電気角度で210°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させてU相コイル81Uの温度を低下させる。つぎに、約2000秒でV相コイル81Vの温度が170℃に達すると、V相コイル81Vの温度が最も高い温度となるため、次のサイクルの電気角度で90°となるようにマスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させてV相コイル81Vの温度を低下させる。
以下、上述した処理が繰り返し行なわれる(150°→210°→次のサイクルの90°)。このような繰り返す処理が行なわれることにより、モータコイル温度の上昇を抑制できる。
【0070】
この第3実施形態では、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)を流れる電流(U、V、W相電流)が最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度となるように、電動モータ40のロータ42の回転位置を移動させる制御を行っている。このため、前記第1実施形態と同様に、モータコイル温度の上昇を抑制できる。また、モータコイル温度の上昇防止を図るためにモータ実効電流を下げるようにした従来技術に比して、発生するモータトルクを不要に小さくすることを避けることができ、これに伴いトルク発生時間を極めて長くするようなことを回避できる。なお、本実施形態では、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)の温度が基準温度T0となる度に、マスタシリンダ10の液圧を上昇させる側の回転位置にロータ42を移動させるようにしたが、各相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W)分の温度低下が一巡したところで、マスタシリンダ10の液圧を下降させる側の回転位置にロータ42を移動させるようにしてもよい。これを一巡毎に繰り返すことで、時間経過に伴うマスタシリンダの液圧の増加が膨大になってしまうことを防止することができる。
【0071】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る電動倍力装置を、図12及び図13に基づいて説明する。本第4実施形態は、第1実施形態に示した電動倍力装置1の構造における制御に関するものであるため、適宜、図1、2を参照して説明する。第4実施形態に係る電動倍力装置は、これに含まれる電動モータ(3相モータ)の電流‐発生液圧特性が液圧の昇圧・降圧時にヒステリシス特性を有することを利用している。
図12は、本発明の第4実施形態における電動モータ40(図1参照)の3相のコイル(U、V、W相コイル81U,81V,81W;図2参照)に供給される電流について、液圧との対応関係がヒステリシス特性を有することを模式的に示す図である。
【0072】
図13は、第4実施形態の3相のコイルル81U,81V,81Wに供給される電流を示す波形図である。
第4実施形態において、図12に示すように、電動モータ40の実効電流を増加させると、マスタシリンダ10の発生液圧が高くなる。また、マスタシリンダ10の発生液圧を増加させるときと、減少させるときでは必要な電流が異なり、上述したように、電動モータ40の電流−発生液圧特性がヒステリシス特性を有する。
一方、液圧対応の3相のコイル81U,81V,81Wに流れる電流(U、V、W相電流)は、図11に示すように、昇圧時には細線で、降圧時には太線で、夫々示す波形となる。
【0073】
この第4実施形態では、一度、図13の例えば(vi)の位置でマスタシリンダ10の発生液圧として4MPaを発生するように、電流を流し、その後、(vii)の位置まで、降圧させて、液圧を保持する。
【0074】
第4実施形態によれば、ヒステリシス特性が利用でき、電流(発熱)低減の効果が大きくなる。第4実施形態に係る電動倍力装置を自動ブレーキに用いた場合、当該自動ブレーキにおいては、一度、目標の液圧より大きな圧力を発生させ、少し戻した位置で保持することにより、発熱を効率よく、抑制することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…電動倍力装置、10…マスタシリンダ、32…入力ピストン(入力部材)、40…電動モータ(3相モータ)、42…ロータ、50…ボールねじ機構(回転-直動変換機構)、70…ECU(モータ駆動装置)、81U,81V,81W…U、V、W相コイル(3相のコイル)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータの3相のコイルにそれぞれ位相の異なる交流の相電流を通電して該3相モータのロータを回転させてブレーキ力を発生させるための自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、
前記3相モータの3相のコイルに通電状態で前記ロータの回転が停止した後、所定条件となるまで前記ロータの回転停止が継続されたときに、前記3相のコイルに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、前記3相のコイルに通電している実効電流を変更して前記ロータの回転位置を移動させる制御を行なうことを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、当該モータ駆動装置は、ブレーキペダルと連動して3相モータを駆動し、該3相モータのロータの回転力が伝達される回転-直動変換機構により直動方向の力をマスタシリンダのピストンに作用してこれを移動させ、該マスタシリンダに液圧を発生させる電動倍力装置の3相モータを駆動するものであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、当該モータ駆動装置は、前記3相モータの作動により摩擦パッドをディスクロータに対して押圧することで制動力を発生させる電動ディスクブレーキの3相モータを駆動するものであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記所定条件は、前記ロータが回転停止した後から所定時間経過したときであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記所定条件は、前記3相のコイルのうちいずれかの相のコイルの温度が所定温度以上となったときであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項6】
請求項2に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記マスタシリンダの発生液圧が大きくなる方向に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項7】
請求項3に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記摩擦パッドの押圧力が大きくなる方向に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、6、7のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転停止が継続された状態で、前記3相のコイルのうちいずれかの相のコイルが所定温度以上となる度毎に行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項9】
請求項1、2、6のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転位置の移動が複数回となる場合、前記マスタシリンダの発生液圧が大きくなる方向と小さくなる方向とに交番的に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項10】
請求項1、3、7のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転位置の移動が複数回となる場合、前記摩擦パッドの押圧力が大きくなる方向と小さくなる方向とに交番的に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項1】
3相モータの3相のコイルにそれぞれ位相の異なる交流の相電流を通電して該3相モータのロータを回転させてブレーキ力を発生させるための自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、
前記3相モータの3相のコイルに通電状態で前記ロータの回転が停止した後、所定条件となるまで前記ロータの回転停止が継続されたときに、前記3相のコイルに供給される各相電流のうち最も大きな電流値となる相のコイルの電流値の絶対値が小さくなる電気角度位置となるように、前記3相のコイルに通電している実効電流を変更して前記ロータの回転位置を移動させる制御を行なうことを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、当該モータ駆動装置は、ブレーキペダルと連動して3相モータを駆動し、該3相モータのロータの回転力が伝達される回転-直動変換機構により直動方向の力をマスタシリンダのピストンに作用してこれを移動させ、該マスタシリンダに液圧を発生させる電動倍力装置の3相モータを駆動するものであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、当該モータ駆動装置は、前記3相モータの作動により摩擦パッドをディスクロータに対して押圧することで制動力を発生させる電動ディスクブレーキの3相モータを駆動するものであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記所定条件は、前記ロータが回転停止した後から所定時間経過したときであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記所定条件は、前記3相のコイルのうちいずれかの相のコイルの温度が所定温度以上となったときであることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項6】
請求項2に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記マスタシリンダの発生液圧が大きくなる方向に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項7】
請求項3に記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記摩擦パッドの押圧力が大きくなる方向に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、6、7のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転停止が継続された状態で、前記3相のコイルのうちいずれかの相のコイルが所定温度以上となる度毎に行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項9】
請求項1、2、6のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転位置の移動が複数回となる場合、前記マスタシリンダの発生液圧が大きくなる方向と小さくなる方向とに交番的に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【請求項10】
請求項1、3、7のいずれかに記載の自動車ブレーキ用モータ駆動装置において、前記ロータの回転位置移動制御は、前記ロータの回転位置の移動が複数回となる場合、前記摩擦パッドの押圧力が大きくなる方向と小さくなる方向とに交番的に前記ロータ回転位置を移動させるように行われることを特徴とする自動車ブレーキ用モータ駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−220807(P2009−220807A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39855(P2009−39855)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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