説明

薄層石英ガラスクロスを含むプリプレグ、およびそれを用いた配線板

【課題】加工性を劣化させること無く、誘電正接、重量、厚さ、コストを低減した高周波対応配線板材料およびそれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】石英ガラス繊維の密集度が疎の石英ガラスクロスを基材とし、誘電正接が低い熱硬化性樹脂組成物を含浸したプリプレグとその硬化物を絶縁層とする電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号に対応するための誘電損失の小さな多層配線板、配線板ならびにそれを製造するために用いるプリプレグ、多層プリント板などの積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。電気信号の伝送損失は、誘電損失と導体損失と放射損失の和で表され、電気信号の周波数が高くなるほど誘電損失、導体損失、放射損失は大きくなる関係にある。伝送損失は電気信号を減衰させ、電気信号の信頼性を損なうので、高周波信号を取り扱う配線板においては誘電損失、導体損失、放射損失の増大を抑制する工夫が必要である。誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根、誘電正接および使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、絶縁体として比誘電率および誘電正接の小さな絶縁材料を選定することによって誘電損失の増大を抑制することができる。
【0003】
代表的な低誘電率、低誘電正接樹脂材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂は、比誘電率および誘電正接がともに低いため、古くから高周波信号を扱う基板材料に使用されている。これに対して、有機溶剤によるワニス化が容易で、成型温度、硬化温度が低く、取り扱い易い、非フッ素系の低誘電率、低誘電正接の絶縁材料も種々検討されてきた。例えば、(特許文献1)に記載のポリブタジエン等のジエン系ポリマーをガラスクロスに含浸して過酸化物で硬化した例が挙げられる。また、(特許文献2)に記載のように、シアネートエステル、ジエン系ポリマーおよびエポキシ樹脂を加熱してBステージ化した例がある。(特許文献3)に記載のアリル化ポリフェニレンエーテルおよびトリアリルイソシアネート等からなる樹脂組成物の例や、(特許文献4)、(特許文献5)に記載の全炭化水素骨格の多官能スチレン化合物を架橋成分として用いる例など多数が挙げられる。
【0004】
一方、配線板の絶縁層には基材としてガラスクロスが含まれる場合が多く、基材の低誘電率、低誘電正接化の検討も種々行われてきた。例として(特許文献6)に記載の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素等の配合比を規定したNEガラスクロス、(特許文献7)に記載の石英ガラス繊維と非石英ガラス繊維とを複合化したガラスクロス、(特許文献8)に記載の直径7μm以下の細線石英ガラス繊維、それを用いたクロスの製造方法等を挙げることができる。低誘電率、低誘電正接である樹脂組成物と、ガラスクロスを複合化することにより、誘電特性、強度等の機械特性、熱膨張等の熱特性がともに優れた配線板向けの絶縁材料を得ることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平08−208856号公報
【特許文献2】特開平11−124491号公報
【特許文献3】特開平09−246429号公報
【特許文献4】特開2002−249531号公報
【特許文献5】特開2005−89691号公報
【特許文献6】特開平9−74255号公報
【特許文献7】特開2005−336695号公報
【特許文献8】特開2006−282401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(特許文献6)に記載のNEガラスクロス、(特許文献7)に記載の石英ガラス繊維と非石英ガラス繊維から製造されるガラスクロスは、石英ガラスクロスに比べてドリル等による穴あけ加工性の改善が見込まれるものの、誘電正接の値は石英ガラスクロスに比べて大きく、今後の高周波向け基板材料の基材としては十分に満足できるものではない。今後の高周波機器用基板材料には石英ガラスレベルの低損失性、即ち低誘電正接性が求められる。前記、(特許文献5)においては、誘電正接の値が極めて低い多官能スチレン化合物を架橋成分とする樹脂組成物を石英ガラスクロスに含浸したプリプレグ、積層板、配線板、多層配線板等の配線板材料が開示されており、その絶縁層の誘電正接は10GHzにおいて0.0009と極めて優れた特性を示す。しかし、本構成の積層板、配線板、多層配線板は、穴あけ加工性に対する配慮が欠けている。即ち、石英ガラスクロスは非常に硬く、ドリル等による穴あけ加工性が一般ガラスクロスを用いた場合に比べて劣る。また、石英ガラスクロスの作製に用いられる石英ガラス繊維は生産性が低く、安定供給性、コストにおいて課題があった。(特許文献8)に記載の細線石英ガラス繊維から作製される石英ガラスクロスは、石英ガラス繊維を細くすることによって穴あけ加工性の改善を図るものであり、加工性の観点からは有望であるが、フィラメント径が4μmの繊維を用いており、このような細い石英ガラス繊維は切断しやすいためクロスを織る際の生産性が低下する恐れがある。
【0007】
本発明は、プリプレグを構成する材料として、石英ガラス繊維の密集度が疎の石英ガラスクロスを適用することにより、石英ガラス繊維使用量を低減し、石英ガラス繊維の少生産量に対応しつつ、配線板の穴あけ加工性を向上させ、また石英ガラス繊維の適用によるコスト増加を抑制する薄葉タイプのプリプレグ、積層板およびそれを用いた配線板、多層配線板を提供することを第一の目的とする。さらに本発明では、石英ガラス繊維の密集度が疎である石英ガラスクロスの効果により、プリプレグの成形硬化過程においてプリプレグ中の石英ガラスクロスの糸を開繊し、積層板、配線板および多層配線板の絶縁層をいっそう薄層化する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)石英ガラス繊維を主成分とする石英糸を用いて作製される、石英ガラス繊維の密集度が疎の石英ガラスクロスと、硬化後の誘電正接の値が0.003以下である熱硬化性樹脂組成物とが複合化され、厚さが30〜60μmであるプリプレグ。
(2)石英ガラスクロスが、フィラメント径が5〜9μmの石英ガラス繊維を15〜49本含有する石英糸を用いて作製され、縦糸および横糸の織り密度がそれぞれ30〜70本/25mmである上記(1)に記載のプリプレグ。
(3)石英ガラスクロスにおける石英糸が開繊している上記(1)または(2)に記載のプリプレグ。
(4)プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の含有率が、50〜80重量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグ。
(5)熱硬化性樹脂組成物が、式(1)で表されるポリブタジエン、式(2)で表される多官能スチレン化合物、式(3)で表されるビスマレイミド化合物、および熱硬化性ポリフェニレンエーテルから選ばれる少なくとも一つの架橋成分と、水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体と、酸化ケイ素フィラーと、式(4)または式(5)で表される構造を有する難燃剤とを含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプリプレグ。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

(ただし、式(2)中、Rは炭化水素骨格を表し、Rは同一または異なって水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R、RおよびRは同一または異なって水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、mは1〜4の整数であり、nは2以上の整数であり、式(2)で表される多官能スチレン化合物のポリスチレン換算重量平均分子量は1000以下である。)
【0011】
【化3】

(ただし、式(3)中、Rは同一または異なって炭素数1〜4の炭化水素基を表し、lは1〜4の整数を表す。)
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
(6)熱硬化性樹脂組成物が、さらに重合禁止剤または重合開始剤を含有する上記(5)に記載のプリプレグ。
(7)熱硬化性樹脂組成物の硬化物の50〜100℃における熱膨張係数が、50ppm/℃以下である上記(5)または(6)に記載のプリプレグ。
(8)熱硬化性樹脂組成物の硬化物の20℃における貯蔵弾性率が、300〜1700MPaである上記(5)または(6)に記載のプリプレグ。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の両面または片面に導体層を有する積層板。
(10)絶縁層の厚さが10〜50μmである上記(9)に記載の積層板。
【0015】
(11)石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している上記(9)または(10)に記載の積層板。
(12)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の両面または片面に導体配線を有する配線板。
(13)絶縁層の厚さが10〜50μmである上記(12)に記載の配線板。
(14)石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している上記(12)または(13)に記載の配線板。
(15)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の複数を、導体配線の層を介して積層させてなる多層配線板。
【0016】
(16)絶縁層の厚さが10μm〜50μmである上記(15)に記載の多層配線板。
(17)石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している上記(15)または(16)に記載の多層配線板。
(18)1GHz以上の電気信号を伝送する回路を有する電子部品であって、該電子部品の絶縁層に上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を用いる電子部品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プリプレグが、低誘電正接の樹脂および石英ガラスクロスから構成されるため、誘電率、誘電正接が低く、高周波用電子部品の絶縁材料として好適である。また、薄葉タイプのプリプレグを積層板、配線板、多層配線板の出発材料として用いる本発明により、石英ガラス繊維の使用量を抑制することができ、不安定な石英ガラス繊維供給量に対応でき、低コスト化が図られるとともに、穴あけ加工性が従来の石英ガラスクロスを用いた場合に比べて改善される。さらに絶縁層の単位面積当たりの石英ガラスクロス、樹脂材料、ワニス化溶媒等の使用量を低減できることから、高周波用電子部品の製造による環境負荷の低減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
配線板材料分野において、絶縁層を低誘電正接化するためには、樹脂材料の誘電正接の低減とともに基材となるクロス材料の誘電正接も低減する必要がある。従来知られているクロス材料の中では石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzにおいて0.001未満と最も優れている。しかし、石英ガラスクロスは、石英ガラス繊維の生産性の低さから生産量が少なく高価であること、ドリル加工性が低く加工性に課題があることなどの理由から民生分野では普及していない。本発明は、石英ガラス繊維を主成分とする石英糸を用いて作製される、石英ガラス繊維の密集度が疎の石英ガラスクロスと、硬化後の誘電正接が0.003以下である熱硬化性樹脂組成物とを複合化した厚さ30〜60μmの薄葉タイプのプリプレグを用いることによって、絶縁層1層当たりの石英ガラス繊維使用量を低減し、穴あけ加工性の改善と単位面積当たりの樹脂、クロス材料使用量およびコストの低減、絶縁層の誘電正接の低減を両立するものである。ここで「石英ガラス繊維の密集度が疎である」とは、石英糸が個々の石英ガラス繊維に解けた場合に、石英糸間の空間に石英ガラス繊維が均一に分配され、全体としてより薄い石英ガラス繊維の層を形成し得る程度に、石英糸を構成する石英ガラス繊維の本数が低減された状態をいう。本手法によれば、石英ガラス繊維の直径を著しく低減することなく、石英ガラスクロスおよびプリプレグ、その硬化物で構成する積層板の層厚を低減することができる。石英ガラス繊維径の低減によるプリプレグの薄層化は、細線石英ガラス繊維が切断しやすいことに起因して、クロスの生産性、品質に課題が残る。
【0019】
本発明で用いる石英ガラスクロスの好ましい構成は、フィラメント径が5〜9μmである溶融石英ガラス繊維を15〜49本含有する石英糸を用いて作製される石英ガラスクロスであって、縦糸と横糸の織り密度が30〜70本/25mmであり、単位面積当たりの重量が10〜18g/m、厚さが15〜30μmである疎な石英ガラスクロスである。この石英ガラスクロスに低誘電正接の熱硬化性樹脂組成物を含浸し、乾燥し、必要によって含浸した樹脂組成物を半硬化状態にすることによって薄葉タイプのプリプレグを得る。
【0020】
本発明のプリプレグに用いられる石英ガラスクロスは、石英糸をエアブロー等により開繊しても良い。開繊とは、糸を形成する繊維を解すことである。このような処理によって石英ガラスクロスをいっそう薄くすることができる。
【0021】
プリプレグ中の樹脂組成物の含有率は、50〜80重量%とすることが好ましい。石英ガラスクロスに対し上記範囲で熱硬化性樹脂組成物を含浸すると、積層板を作製するための後のプレス加工時に石英ガラスクロスの開繊が生じ、もとのプリプレグの厚さに比べてプリプレグ硬化物の厚さを60〜80%に薄くすることができる。開繊した石英ガラスクロスを含有する積層板は、面内の石英ガラス繊維密度のばらつきが小さく、石英ガラス繊維が集中して存在する箇所が少なくなるので穴あけ加工性をいっそう向上できる。
【0022】
プレス加工時に開繊を生じさせるためには、繊維が移動するための流動性とスペースの確保が重要である。糸を構成する繊維数が多いと繊維の絡み合いにより流動性が低下して十分な開繊が生じない。一方、繊維数が少なすぎるとクロスのハンドリング性が低下するので、糸を形成する繊維数は15本から49本、より好ましくは30本から40本の範囲であることが好ましい。また、糸の織り密度が高いと繊維の移動スペースが少なくなるので十分に開繊しない。また、織り密度が低すぎるとクロスのハンドリング性が低下するので好ましくない。以上のことから好ましい織り密度は、30〜70本/25mmである。好ましい石英ガラス繊維の直径は、繊維の生産性、ハンドリング性の観点から5〜9μmである。このような条件を満たす石英ガラスクロスは、単位面積当たりの重量が10〜18g/m、厚さが15〜30μmとなる。
【0023】
本発明において、プリプレグ中の樹脂組成物の含有率は、50重量%よりも低いと十分な流動性を確保することができず、開繊が不十分となる場合があり、80重量%を超えると熱硬化性樹脂組成物の誘電特性の影響により十分な低誘電正接性が得られない場合がある。好ましい樹脂組成物の含有率の範囲は50〜80重量%である。
【0024】
本発明で用いる石英ガラスクロスは、繊維表面にシランカップリング剤による表面処理を施すことが好ましい。これによってクロス基材と樹脂との密着性を一層改善することができ、吸湿はんだ耐熱性等の熱特性が一層改善される。シランカップリング剤の具体的な例としては、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。特に、処理表面が安定で熱硬化性樹脂組成物と化学的に結合可能な官能基を有するビニル系のシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0025】
熱硬化性樹脂組成物としては、その硬化物の誘電正接が電子部品の使用周波数において0.003以下であることが好ましく、さらに好ましくは10GHzにおいてその硬化物の誘電正接が0.003以下であることが好ましい。また、樹脂組成物の硬化物の20℃における貯蔵弾性率が300〜1700MPaであることが好ましい。そのような樹脂組成物の例としては、ポリブタジエン、多官能スチレン化合物、ビスマレイミド化合物、熱硬化性ポリフェニレンエーテルから選ばれる少なくとも一つの架橋成分と、水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体と、酸化ケイ素フィラーと、難燃剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。
【0026】
本発明で好ましく使用される酸化ケイ素フィラーの粒径には特に制限は無いが、熱硬化性樹脂組成物のワニス中で著しい沈殿を生じず、且つ表面積が大きいことに起因して樹脂材料の低熱膨張化への寄与が大きい小径フィラーの添加が好ましい。このような観点から酸化ケイ素フィラーの粒径は、10μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜3μmの範囲であることが好ましい。酸化ケイ素フィラーは、その表面をシラン系カップリング剤にて表面処理して用いることが、誘電特性、低吸湿性、はんだ耐熱性を改善する観点から好ましい。カップリング剤による酸化ケイ素フィラーの表面処理は、予め表面処理を実施したフィラーを樹脂組成物に添加しても良いし、樹脂組成物中にシラン系カップリング剤を添加して樹脂組成物調整中に表面処理を実施しても良い。本発明において好ましく用いられるシラン系カップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等を例示することができる。このような処理を施した酸化ケイ素フィラーの添加量は、樹脂材料と複合化した樹脂組成物の硬化物の50〜100℃における熱膨張係数が50ppm/℃以下、さらに好ましくは30ppm/℃以下となるように調整することが好ましい。具体的には、樹脂そのものの熱膨張係数に影響されるが、概ね、樹脂成分100重量部に対して150重量部以上、さらに好ましくは300重量部以上添加することが好ましい。酸化ケイ素フィラーの添加量の限界は球形フィラーでは概ね75vol%とされており、樹脂成分の比重を1g/cm、酸化ケイ素の比重を2.65g/cmとした場合には、樹脂成分100重量部に対して796重量部である。なお、成形性、接着性等を考慮した場合の酸化ケイ素フィラーの添加量は、およそ400重量部以下であることが望ましい。このような低熱膨張性の熱硬化性樹脂組成物を用いて作製されるプリプレグは、リジッドタイプの積層板、配線板、多層配線板に適用することが好ましい。
【0027】
本発明における樹脂組成物の架橋成分としては、硬化物の誘電正接低減の観点から炭化水素骨格から形成されるポリブタジエン化合物、多官能スチレン化合物が好ましく、また、構造中にヘテロ原子を有する化合物の中では特定構造のビスマレイミド化合物、硬化性ポリフェニレンエーテル化合物が好ましく用いられる。これら架橋成分を含む硬化物は低い誘電正接を有する。以下、架橋成分の具体例について説明する。
【0028】
ポリブタジエン化合物の例としては、下式(1)に示すような、側鎖にビニル基を有するポリブタジエンを挙げることができ、好ましくは1,2−結合が構造中90重量%以上であるポリブタジエンが硬化性、硬化物の耐熱性の改善の観点から好ましい。具体例として、数平均分子量1000〜3000の液状ポリブタジエン化合物である日本曹達(株)製のB1000、B2000、B3000や、数平均分子量が10万を超える固形ポリブタジエン化合物であるJSR(株)製のRB810、RB820、RB830を挙げることができる。これら分子量の異なるポリブタジエン化合物は単独あるいは複合化して用いることができる。また、本発明のポリブタジエン化合物は、ラジカル重合開始剤等の重合開始剤の添加量によって、その硬化物の弾性率を任意に調整することができる。低弾性な硬化物を与える樹脂組成物から作製されるプリプレグは、フレキシブルな積層板、配線板、多層配線板に適用することが好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
多官能スチレン化合物としては、下式(2)に示すような化合物を用いることができる。ただし式中、Rは炭化水素骨格を表し、Rは同一または異なって水素、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R、RおよびRは同一または異なって水素、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭素数1〜6の炭化水素基を表し、mは1〜4の整数であり、nは2以上の整数である。
【0031】
【化7】

【0032】
上記のような多官能スチレン化合物の具体例として、特開平9−74255号公報に記載の全炭化水素骨格の多官能スチレン化合物が挙げられる。特に1,2−ビス(p−ビニルフェニル)エタン、1,2−ビス(m−ビニルフェニル)エタン、1−(p−ビニルフェニル)−2−(m−ビニルフェニル)エタン、ビス(p−ビニルフェニル)メタン、ビス(m−ビニルフェニル)メタン、p−ビニルフェニル−m−ビニルフェニルメタン、1,4−ビス(p−ビニルフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1−(p−ビニルフェニル)−4−(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(p−ビニルフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1−(p−ビニルフェニル)−3−(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1,6−ビス(p−ビニルフェニル)ヘキサン、1,6−ビス(m−ビニルフェニル)ヘキサン、1−(p−ビニルフェニル)−6−(m−ビニルフェニル)ヘキサン、および側鎖にビニル基を有するジビニルベンゼン重合体(オリゴマー)等を好ましく用いることができる。これらは単独あるいは二種類以上の混合物として使用される。多官能スチレン化合物のポリスチレン換算重量平均分子量は1000以下であることが好ましい。これら多官能スチレン化合物を架橋成分として用いた場合、スチレン基の活性が高いため、重合開始剤を用いることなく樹脂組成物を硬化することが可能となり、重合開始剤の影響による誘電正接の増大を抑制できる点で高周波用絶縁材料の架橋成分として特に好ましい。
【0033】
ビスマレイミド化合物としては、下式(3)に示す構造を有する化合物を好適に用いることができる。なお、式(3)中、Rは同一または異なって直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭素数1〜4の炭化水素基を表し、lは1〜4の整数を表す。式(3)に示したビスマレイミド化合物は、多官能スチレン化合物には及ばないものの、その硬化物の誘電正接はビスマレイミド化合物としては低い。これは構造中に存在するアルキル基(R)の立体障害による分子内回転運動の抑制効果によるものと考えられる。このような特定構造のビスマレイミド化合物の例としては、ビス(3−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−n−ブチル−4−マレイミドフェニル)メタン等がある。
【0034】
【化8】

【0035】
硬化性ポリフェニレンエーテルは、架橋密度の上昇を抑制しつつ、系を硬化することができる。また、後述の反応性を持たない水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体と相溶し、系のTg向上、スチレン−ブタジエン共重合体の溶出の抑制に寄与するとともにタックフリー性を改善する。また、架橋密度の上昇が抑制されることから導体層とプリプレグ硬化物との接着性を改善する効果を有する。硬化性ポリフェニレンエーテルの具体例としては、特開平9−246429号公報に記載の無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル、アリル変性ポリフェニレンエーテル、特開2003−160662号公報、特開2003−252983号公報、特開2005−60635号公報に記載の比較的分子量の小さな硬化性ポリフェニレンエーテルを例として挙げることができる。これらポリフェニレンエーテル化合物は、ヘテロ原子を含有する化合物としては誘電特性が低い。
【0036】
これら架橋成分は、タックフリー性、熱特性、誘電特性、耐クラック性等を調整することを目的として複合化して用いることができる。さらに誘電特性の許容範囲内で、第2の架橋成分、例えばエポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂等を添加してもよい。
【0037】
水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体は、構造中に極性基を持たないため樹脂組成物の硬化物の誘電正接の低減に寄与する。誘電正接の低減効果は水素添加していないスチレン−ブタジエン共重合体よりも高い。さらに系の架橋密度を低減し、柔軟性を付与することから、導体層とプリプレグ硬化物との接着性の向上に寄与する。水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体の具体例としては、旭化成ケミカルズ(株)製、タフテック(登録商標)H1031、H1041、H1043、H1051、H1052等が挙げられる。多官能スチレン化合物、特定構造のビスマレイミド化合物を含有する樹脂組成物においては、スチレン残基の含有率が30〜70重量%の水素添加スチレン−ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これにより、硬化性ポリフェニレンエーテル化合物と併用した際に相分離が発生せず、高いガラス転移温度の硬化物を得ることができる。ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物の場合には、スチレン残基の含有率が10〜30重量%の水素添加スチレン−ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これにより、先の例と同様に硬化性ポリフェニレンエーテル化合物と併用した際に相分離の発生が抑制され、高いガラス転移温度の硬化物を得ることができる。また、水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体のような高分子量体は、樹脂ワニスの粘度を増加させ、成膜性を向上し、疎な石英ガラスクロスへの樹脂ワニスの付着性を安定化する働きを有する。このことから水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体の添加量は、架橋成分の総量を100重量部として10〜50重量部、さらに好ましくは10〜30重量部とすることが好ましい。この組成範囲において硬化物の耐溶剤性、強度、成膜性、タックフリー性等を調整することが望ましい。
【0038】
ラジカル重合開始剤等の重合開始剤は、系の硬化反応を迅速に進める効果を有する。ラジカル重合開始剤の種類によって硬化反応の開始温度を調整することができ、特にポリブタジエンを架橋成分とする熱硬化性樹脂組成物においては、ラジカル重合開始剤の添加量によって系の硬化度を調整することができる。ラジカル重合開始剤の例としてはイソブチルパーオキサイド、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカルボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、1−シクロへキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカルボネート、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカルボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジデカネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカルボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド等を挙げることができ、これらの重合開始剤は複合化して用いることができる。その添加量は、樹脂成分の総量を100重量部として0.0005〜20重量部の範囲で調整される。
【0039】
ラジカル重合禁止剤等の重合禁止剤は、ワニス、プリプレグ作製時の過熱による硬化反応を抑制するとともに、プリプレグ保管時の硬化反応の進行を抑制する効果を有する。これによりプリプレグの特性を安定化するものである。その例としてはハイドロキノン、p−ベンゾキノン、クロラニル、トリメチルキノン、4−t−ブチルピロカテコール等のキノン類および芳香族ジオール類が挙げられ、好ましい添加量の範囲は樹脂成分の総量を100重量部として0.0005〜5重量部である。
【0040】
電子部品においては安全性の観点から難燃性が求められる場合が多く、本発明においても樹脂組成物中に難燃剤を添加することが好ましい。難燃剤としては、下式(4)および(5)に示すような化合物が特に好適に用いられる。
【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
上記構造を有する難燃剤の誘電正接は低く、高周波信号を取り扱う電子部品の難燃化には好適である。特に本発明においてはポリブタジエン、特定構造のビスマレイミド化合物、硬化性ポリフェニレンエーテルを架橋成分とする熱硬化性樹脂組成物の硬化物の誘電正接の低減に寄与することから好ましい。さらに難燃剤の平均粒径を0.2〜3.0μmとすることにより、ワニス中における難燃剤の沈殿を抑制することができ、ワニスの保存安定性を改善できることから好ましい。ワニス粘度にもよるが、0.1〜1.0Pa・sのワニスにおいて上記粒径範囲の難燃剤、酸化ケイ素フィラーを用いると、その沈殿の発生を抑制することができる。難燃剤の添加量は、樹脂成分の総量を100重量部として、10重量部から150重量部の範囲で添加することが好ましく、求める難燃性のレベルに合せて配合量を決定することができる。
【0044】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂組成物のワニス化溶媒は、その沸点が140℃以下であることが好ましく、そのような溶媒としてはキシレンを例として挙げることができ、さらに好ましくは110℃以下であることが好ましく、そのような溶媒としてはトルエン、シクロヘキサン等が例示される。これらの溶媒は混合して用いても良く、さらにカップリング処理に使用されるメチルエチルケトン、メタノール等の極性溶媒を含有しても良い。
【0045】
プリプレグは、石英ガラスクロスの基材に前記ワニスを含浸、乾燥して作製することができる。乾燥条件は、好ましくは乾燥温度が80℃から150℃、さらに好ましくは80℃から110℃であり、乾燥時間は10分から90分の範囲とすることが好ましい。
【0046】
作製されたプリプレグの硬化物を絶縁層とし、その絶縁層の両面または片面に導体層を形成することによって積層板を製造することができる。導体層としては、通常、銅、ニッケル、アルミニウム等の各種金属からなる金属箔が好適に用いられる。金属箔の厚さは、特に限定されるものではないが比較的薄い方が好ましい。積層板は、必要に応じて複数枚を積層させたプリプレグの片面または両面上に金属箔を設置し、これらを真空プレス等により加圧、加熱してプリプレグを硬化させることによって得ることができる。加圧する際の圧力は1.0〜8.0MPa、加圧時間は30〜120分、加熱温度は170〜230℃とすることが好ましいが、樹脂組成物の組成によって異なるため上記範囲に限定されるものではない。硬化後の絶縁層の厚さは、石英糸が開繊される効果によって薄くなり、プリプレグ1層当たり好ましくは10〜50μm程度まで低減される。これにより絶縁層の厚さが薄く、穴あけ加工性が良い、低誘電正接性を有する積層板を得ることができる。なお、導体層は、従来知られた無電解めっき法や真空蒸着法を適宜採用して形成しても良い。そして、積層板の導体層に、フォトリソグラフィー等の手段により回路パターン(導体配線)を形成することによって配線板を得ることができる。導体配線は、フォトリソグラフィーにより金属箔から形成する以外に、予め導体配線のパターンを打ち抜いて作製した、いわゆるリードフレームを用い、このリードフレームをプリプレグの硬化物に貼着することにより配線板を製造しても良い。さらに、プリプレグの硬化物からなる絶縁層の複数を、間に導体配線の層を介して順次積層させることにより多層配線板を製造することができる。
【0047】
上記のようなプリプレグの硬化物は、誘電正接が低く、誘電損失が低いことから、高速サーバー等の、1GHz以上の電気信号を伝送する回路を有する電子部品の絶縁層として好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下に用いた試薬、および評価方法について示す。
(1)1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)の合成
多官能スチレン化合物として、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)を合成した。500mlの三口フラスコにグリニャール反応用粒状マグネシウム(関東化学(株)製)5.36g(220mmol)を取り、滴下ロート、窒素導入管およびセプタムキャップを取り付けた。窒素気流下、スターラーによってマグネシウム粒を撹拌しながら、系全体をドライヤーで加熱脱水した。乾燥テトラヒドロフラン300mlをシリンジに取り、セプタムキャップを通じて注入した。溶液を−5℃に冷却した後、滴下ロートを用いてビニルベンジルクロライド(東京化成工業(株)製)30.5g(200mmol)を約4時間かけて滴下した。滴下終了後0℃で20時間撹拌を続けた。反応終了後、反応溶液をろ過して残存マグネシウムを除き、エバポレーターで濃縮した。濃縮溶液をヘキサンで希釈して、3.6%塩酸水溶液で1回、純水で3回洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで脱水した。脱水溶液をシリカゲル(和光純薬工業(株)製ワコーゲルC300)/ヘキサンのショートカラムに通して精製し、最後に真空乾燥により目的のBVPEを得た。得られたBVPEは1,2−ビス(p−ビニルフェニル)エタン(pp体、固体)、1,2−ビス(m−ビニルフェニル)エタン(mm体、液体)、1−(p−ビニルフェニル)−2−(m−ビニルフェニル)エタン(mp体、液体)の混合物で収率は90%であった。
【0049】
H−NMRにより構造を調べたところ文献値と一致した(6H−ビニル:α−2H(6.7)、β−4H(5.7、5.2);8H−アロマティック(7.1〜7.4);4H−メチレン(2.9))。得られたBVPEを架橋成分として用いた。
【0050】
(2)その他の試薬
ビスマレイミド化合物:BMI−5100、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業(株)製
高分子量ポリブタジエン:RB810、スチレン換算数平均分子量130000、1,2−結合90%以上、JSR(株)製
低分子量ポリブタジエン:B3000、スチレン換算数平均分子量3000、1,2−結合90%以上、日本曹達(株)製
水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体:
タフテック(登録商標)H1031、スチレン含量率30重量%、旭化成ケミカルズ(株)製
タフテック(登録商標)H1051、スチレン含量率42重量%、旭化成ケミカルズ(株)製
硬化性ポリフェニレンエーテル:OPE2St、スチレン換算数平均分子量2200、両末端スチレン基、三菱ガス化学(株)製
重合開始剤:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(略称25B)、日本油脂(株)製
難燃剤:SAYTEX8010、1,2−ビス(ぺンタブロモフェニル)エタン、平均粒径1.5μm、アルべマール日本(株)製
酸化ケイ素フィラー:アドマファイン、平均粒径0.5μm、(株)アドマテックス製
カップリング剤:KBM−503、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、信越化学工業(株)製
銅箔:AMFN1/2Oz、カップリング処理付銅箔、厚さ18μm、Rz≒2.1μm、(株)日鉱マテリアルズ製
石英ガラスクロス:3種類の信越石英(株)製石英ガラスクロスを用いた。各石英ガラスクロスにおける石英ガラス繊維のフィラメント径、石英糸中の石英ガラス繊維の本数、および縦糸・横糸の織り密度は表1のように設定した。
【0051】
【表1】

【0052】
(3)石英ガラスクロスの表面処理
石英ガラスクロスを0.5重量%のKBM−503メタノール溶液に1時間浸し、次いで石英ガラスクロスをメタノール溶液から取り出し、大気中で100℃/30分間加熱して乾燥し、表面処理を実施した。
(4)ワニスの調製方法
所定量のカップリング剤、酸化ケイ素フィラーをメチルエチルケトン溶液中でボールミルにて2時間攪拌し、酸化ケイ素フィラーにカップリング処理を施した。次いで所定量の樹脂材料、難燃剤、重合開始剤、トルエンを加えて樹脂成分が完全に溶解するまで約8時間攪拌を続けてワニスを作製した。ワニス濃度は40〜45重量%とした。
【0053】
(5)プリプレグの作製方法
上記ワニスに石英ガラスクロスを浸漬した後、所定のギャップを有するスリットの間を一定速度で垂直に引き上げて、その後乾燥して作製した。スリットのギャップにより樹脂組成物の塗布量を調節した。乾燥条件は、100℃/10分間とした。
(6)銅張積層板の作製方法
上記で作製したプリプレグを所定の枚数積層し、上下面を銅箔でサンドイッチして、真空プレスにより、加圧、加熱して硬化した。硬化は、室温から6MPaに加圧し、一定速度(6℃/分)で昇温し、230℃で60分保持することによって行った。
【0054】
(7)樹脂板(参考例)の作製方法
上述の樹脂ワニスをPETフィルムに塗布して室温で一夜、100℃で10分間乾燥した後、これを剥離してPTFE製の厚さ1.0mmのスペーサ内に充填し、真空プレスによって加圧、加熱して硬化物(樹脂板)を得た。硬化は、真空下、室温から2MPaに加圧し、一定速度(6℃/分)で昇温し、230℃で60分間保持することによって行った。この樹脂板についても、参考例として比誘電率および誘電正接の測定を行った。
(8)比誘電率および誘電正接の測定
空洞共振法(8722ES型ネットワークアナライザー、アジレント・テクノロジー(株)製;空洞共振器、(株)関東電子応用開発製)によって、10GHzの値を測定した。銅張積層板から作製される試料は銅をエッチング除去した後、1.0×80mmの大きさに切り出して作製した。樹脂板から作製される試料は、樹脂板から1.0×1.5×80mmのサイズに切り出して作製した。
(9)熱、機械特性の評価
樹脂板の弾性率は、アイティー計測制御(株)製DVA−200型粘弾性測定装置(DMA)を用い、支点間距離20mm、測定周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件で観測した。サンプルサイズは1.0×1.5×30mmとした。
熱膨張係数は、アルバック理工(株)製TM9300型熱機械試験機を用い観測した。樹脂板および積層板を5×5mmのサイズに切り出し、サンプルとした。
【0055】
(実施例1)
実施例1は、石英ガラスクロスNo.1を用いた積層板の作製例である。測定結果を表2に示す。石英糸を構成する繊維数を20本に低減したことにより、石英ガラスクロスの厚さは20μmに、単位面積当たりの重さは10g/mに低減された。これにより石英ガラス繊維を極度に細線化することなく、糸内の繊維数を低減し、織り密度を疎にすることにより石英ガラスクロスの薄層化、軽量化がなされることを確認した。樹脂組成物含有率60重量%のプリプレグの厚さは23μmであるが、36枚を積層しプレス加工した後の厚さは590μm、1層当たりの絶縁層の厚さは16μmとなりプレス加工によって更なる薄層化が可能であった。また、積層板の10GHzにおける誘電率は3.0、誘電正接は0.0011と低い値を示し、高周波用の絶縁材料として好適であることが判明した。
【0056】
(実施例2)
実施例2は、石英ガラスクロスNo.2を用いた積層板の作製例である。測定結果を表2に示す。石英糸を構成する繊維数を40本に低減したことにより、石英ガラスクロスの厚さは21μmに、単位面積当たりの重さは14g/mに低減された。これにより石英ガラス繊維を極度に細線化することなく、糸内の繊維数を低減し、織り密度を疎にすることにより石英ガラスクロスの薄層化、軽量化がなされることを確認した。樹脂組成物含有率60重量%のプリプレグの厚さは33μmであるが、36枚を積層しプレス加工した後の厚さは688μm、1層当たりの絶縁層の厚さは19μmとなりプレス加工によって更なる薄層化が可能であった。また、積層板の10GHzにおける誘電率は3.0、誘電正接は0.0011と低い値を示し、高周波用の絶縁材料として好適であることが判明した。本積層板の断面を観察し、石英糸を構成する石英ガラス繊維が開繊していることを確認した。図1に、プレス加工前のプリプレグ中の石英糸とプレス加工後の積層板内の石英糸を比較して示した。これによりプレス加工によって石英糸内の石英ガラス繊維が開繊していることを確認した。本発明の疎な構造を有する石英ガラスクロスを用いたプリプレグは、プレス加工すると繊維の開繊が進行し、絶縁層のいっそうの薄層化に寄与することが判明した。
【0057】
(比較例1)
比較例1は、従来用いられているガラスクロスNo.3を用いた積層板の作製例である。測定結果を表1に示す。石英糸を構成する繊維数が200本と多いため、石英ガラスクロスの厚さは94μmに、単位面積当たりの重さは88g/mと厚く、重い。樹脂組成物含有率60重量%のプリプレグの厚さは135μm、プリプレグを6枚積層してプレス加工した後の厚さは790μm、1層当たりの厚さは131μmであり、プレス加工による薄層化は殆ど生じなかった。図2に断面写真を示した。糸を形成する繊維数が多く、石英ガラス繊維が緻密に配されているためプレス加工による開繊は殆ど生じていないことが確認された。従来構成の石英ガラスクロスを用いた場合、積層板の10GHzにおける誘電率は3.0、誘電正接は0.0011と低いものの、その絶縁層が厚く、石英ガラス繊維も緻密に配されているため穴あけ加工性の改善は望めない。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例3〜5)
実施例3〜5は、石英ガラスクロスNo.2を用い、樹脂組成物の含有率を変えたプリプレグを用いた例である。測定結果を表3に示す。樹脂組成物の含有率の低下にともない積層板の熱膨張係数が低減し、誘電正接の値も小さくなることが確認された。これにより本発明のプリプレグを用いた積層板、配線板、多層配線板は高周波特性と低熱膨張性がともに優れていることが判明した。
【0060】
【表3】

【0061】
(実施例6)
実施例6は、架橋成分として多官能スチレン化合物を含有する低熱膨張性熱硬化性樹脂組成物を用いた例である。その特性を表4に示した。樹脂組成物の硬化物を低熱膨張化したことにより、積層板のZ方向の熱膨張係数はいっそう低減され、高周波用多層基板材料として好ましいことが判明した。
【0062】
【表4】

【0063】
(実施例7)
実施例7は、架橋成分として特定構造のビスマレイミド化合物を含有する低熱膨張性熱硬化性樹脂組成物を用いた例である。その特性を表5に示した。樹脂組成物の硬化物を低熱膨張化したことにより、積層板のZ方向の熱膨張係数はいっそう低減され、高周波用多層基板材料として好ましいことが判明した。
【0064】
【表5】

【0065】
(実施例8)
実施例8は、熱硬化性低弾性率樹脂組成物と石英ガラスクロスを複合化した例である。その特性を表6に示した。樹脂の硬化物の弾性率が低く、基材が低熱膨張性を有する石英ガラスクロスであるため、積層板のXY方向の熱膨張係数が非常に低いことが確認された。また、積層板が薄いこと、硬化樹脂相の弾性率が低いことに起因して積層板には反りがほとんど生じなかった。また、積層板の誘電正接は、10GHzにおいて0.0009と非常に低い値を示した。熱硬化性低弾性率樹脂組成物と疎な石英ガラスクロスとを複合化したプリプレグからなる積層板、配線板、多層配線板は高い寸法安定性を有する高周波用多層基板材料であることが判明した。
【0066】
【表6】

【0067】
(実施例9)
実施例9では、実施例5のプリプレグを用いてアンテナ回路内蔵高周波基板を作製した。作製工程を図3に示す。
(A)実施例5のプリプレグ2を10×10cmに切断し、10枚積層して2枚の銅箔1で挟み込んだ。真空プレスによって、5MPaの圧力で加圧しながら、真空下、昇温速度6℃/分の条件で昇温し、230℃で1時間保持して両面銅張積層板を作製した。次いで両面銅張積層板を30℃のエッチング液(過硫酸アンモニウムペルオキシド200g/リッター、硫酸50g/リッター)に10分間浸し、銅層の厚さを8μmに低減した。
(B)銅張積層板の片面にフォトレジスト4(日立化成製HS425)をラミネートしてアンテナ回路接続用スルーホール部分にマスクを施し、露光した。次いで、もう一方の銅箔表面にフォトレジスト3(日立化成製HS425)をラミネートしてアンテナのテストパターンを露光し、両面の未露光部分のフォトレジストを1%炭酸ナトリウム液で現像した。
(C)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔をエッチング除去して、両面銅張積層板にアンテナパターン5とスルーホールパターン6を作製した。3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジストを除去した。
(D)スルーホールパターン6側に1枚のプリプレグ2を介して銅箔1を積層し、(A)と同様の条件でプレス加工して多層化した。
(E)新たに設置した導体層に(B)、(C)と同様の方法で、配線パターン7とスルーホールパターン6を加工した。
(F)外層のスルーホールパターン6をマスクとして、炭酸ガスレーザーによりスルーホール8を形成した。
(G)スルーホール8内に銀ペースト9を導入し、アンテナ回路と裏面の配線を接続し、アンテナ回路直下にシールド層を有するアンテナ回路内蔵高周波基板を作製した。10はグランドである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のプリプレグ、積層板、配線板、多層配線板は、薄く、軽量で加工性に優れ、誘電正接が低く、誘電損失が低いことから、高速サーバー、ルーター、ミリ波レーダー等の高周波対応電子機器の絶縁部材および配線板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のプリプレグのプレス加工前後の断面写真である。
【図2】従来の石英ガラスクロスを用いた積層板の断面写真である。
【図3】アンテナ回路内蔵高周波基板の作製工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 銅箔
2 プリプレグ
3 フォトレジストアンテナパターン
4 フォトレジストスルーホールパターン
5 アンテナパターン
6 スルーホールパターン
7 配線パターン
8 スルーホール
9 銀ペースト
10 グランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス繊維を主成分とする石英糸を用いて作製される、石英ガラス繊維の密集度が疎の石英ガラスクロスと、硬化後の誘電正接の値が0.003以下である熱硬化性樹脂組成物とが複合化され、厚さが30〜60μmであるプリプレグ。
【請求項2】
石英ガラスクロスが、フィラメント径が5〜9μmの石英ガラス繊維を15〜49本含有する石英糸を用いて作製され、縦糸および横糸の織り密度がそれぞれ30〜70本/25mmである請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
石英ガラスクロスにおける石英糸が開繊している請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の含有率が、50〜80重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
熱硬化性樹脂組成物が、式(1)で表されるポリブタジエン、式(2)で表される多官能スチレン化合物、式(3)で表されるビスマレイミド化合物、および熱硬化性ポリフェニレンエーテルから選ばれる少なくとも一つの架橋成分と、水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体と、酸化ケイ素フィラーと、式(4)または式(5)で表される構造を有する難燃剤とを含有する請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ。
【化1】

【化2】

(ただし、式(2)中、Rは炭化水素骨格を表し、Rは同一または異なって水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R、RおよびRは同一または異なって水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、mは1〜4の整数であり、nは2以上の整数であり、式(2)で表される多官能スチレン化合物のポリスチレン換算重量平均分子量は1000以下である。)
【化3】

(ただし、式(3)中、Rは同一または異なって炭素数1〜4の炭化水素基を表し、lは1〜4の整数を表す。)
【化4】

【化5】

【請求項6】
熱硬化性樹脂組成物が、さらに重合禁止剤または重合開始剤を含有する請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物の50〜100℃における熱膨張係数が、50ppm/℃以下である請求項5または6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物の20℃における貯蔵弾性率が、300〜1700MPaである請求項5または6に記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の両面または片面に導体層を有する積層板。
【請求項10】
絶縁層の厚さが10〜50μmである請求項9に記載の積層板。
【請求項11】
石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している請求項9または10に記載の積層板。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の両面または片面に導体配線を有する配線板。
【請求項13】
絶縁層の厚さが10〜50μmである請求項12に記載の配線板。
【請求項14】
石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している請求項12または13に記載の配線板。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を絶縁層とし、該絶縁層の複数を、導体配線の層を介して積層させてなる多層配線板。
【請求項16】
絶縁層の厚さが10μm〜50μmである請求項15に記載の多層配線板。
【請求項17】
石英ガラスクロスの石英糸が少なくとも部分的に開繊している請求項15または16に記載の多層配線板。
【請求項18】
1GHz以上の電気信号を伝送する回路を有する電子部品であって、該電子部品の絶縁層に請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を用いる電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−263569(P2009−263569A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117230(P2008−117230)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】