説明

複合誘電体材料及びこれを用いたプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板

【課題】 高い比誘電率εr及びQ値を有し、比誘電率の温度変化率τfの小さな複合誘電体材料を提供する。
【解決手段】 誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料である。誘電体セラミックスとして、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物を用いる。この組成式において、0.8≦z<1.0であることが好ましい。また、誘電体磁器組成物には、MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを複合化した複合誘電体材料に関する。また、係る複合誘電体材料を用い回路基板材料に適したプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、及び多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、情報通信分野においては、使用周波数帯域が高周波数に移行する傾向にあり、衛星放送や衛星通信、携帯電話や自動車電話等の移動体通信では、ギガヘルツ(GHz)帯の高周波が使用されている。
【0003】
前述のような高周波帯域で使用される機器に搭載される回路基板や電子部品等では、使用する誘電体材料は、Qが高く高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが必要である。さらに、回路基板や電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高比誘電率εrを有する誘電体材料が必要である。特に小型化の点については、誘電体材料中の電磁波の波長が1/√εrによって短縮されるという原理に基づくものであり、比誘電率εrの大きい誘電体材料ほど回路基板や電子部品の小型化が可能である。また、コンデンサ機能を持たせた基板の要求もあることから、そのような誘電体材料を用いた高誘電率基板も必要とされている。
【0004】
誘電体材料としては、無機材料である誘電体セラミックスが広く用いられており、必要な特性に応じて様々な組成を有する誘電体セラミックスが開発されている。ただし、前記誘電体セラミックスを回路基板や電子部品に用いる場合、バルク焼結体の形態で用いるのが一般的であり、高温での焼成が必要なことから、適用範囲が制約されるという問題がある。また、高温での焼成工程で生ずる収縮や変形、さらには例えば内部導体の酸化による特性劣化等も問題になる。
【0005】
このような状況から、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料とを組み合わせた複合誘電体材料が提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。複合誘電体材料は、高温での焼成が不要であることから、広範な用途に使用可能であり、バルク焼結体の製造工程の一つにある焼成工程において収縮や変形、内部導体の特性劣化の問題もない。また、有機高分子材料を含有することから形状加工性の自由度が増し、軽量で、誘電体セラミックス粉末の配合割合により比誘電率εr等を任意に変えることができる等の利点を有する。
【0006】
例えば、特許文献1記載の発明には、樹脂(ポリビニルベンジルエーテル化合物)中にBaTiO系等のセラミックスを分散した複合誘電体が開示されている。特許文献1記載の発明においては、セラミックスの含有量を30体積%以上とすることで、10MHz以上の高周波数帯域で比誘電率10以上が実現されている。
【0007】
一方、特許文献2は、誘電体起電流型アンテナ用複合材料に関するものであり、比誘電率の温度変化特性が正の誘電体セラミックスと、比誘電率の温度変化特性が負の誘電体セラミックスと、高分子材料とを、全体の比誘電率の温度変化が±50ppm/℃以下となるように混合した誘電体起電流型アンテナ用複合材料が開示されている。
【特許文献1】特開2001−181027号公報
【特許文献2】特開平4−161461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、複合誘電体材料に要求される特性としては、比誘電率εrが高いことの他、損失の指標となるQ値が高いこと、温度係数が小さいこと等を挙げることができる。そして、回路基板や電子部品のさらなる高性能化を実現するためには、用いる複合誘電体材料は、これらの特性のいずれもが基準を満たすことが必要になる。
【0009】
このような観点から見たときに、例えば高い比誘電率εrを実現しながら高いQ値を得、さらには比誘電率εrの温度係数τεの絶対値を小さくすることは困難であり、いずれかの特性を犠牲にせざるを得ないのが実情である。例えば、特許文献1記載の発明では、ある程度の比誘電率εrは得られているが、Q値及び温度係数τεについては検討されていない。特許文献2記載の発明では、温度係数が重視されており、比誘電率εrについては、いずれの試料でも10以下である。Q値についても検討されていない。例えばアンテナ等の利得が重要なものには、高いQを有する低損失な誘電体材料が必要とされており、その改善が望まれる。
【0010】
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、高い比誘電率εrを実現し、高いQ値を有するとともに、比誘電率の温度変化率の小さな複合誘電体材料を提供することを目的とする。また、本発明は、前記複合誘電体材料の特性向上を利用して、例えば回路基板に使用した場合にこれを高性能化することが可能なプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述の課題を解決するために長期に亘り鋭意研究を行ってきた。その結果、いわゆるタングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物は、比誘電率εrやQfが高く、温度特性τfが十分に小さいこと、さらには、前記タングステンブロンズ型疑似固溶体において、製造コストの低減等を目的として希土類元素としてLaを使用する場合、希土類元素全体のイオン半径が重要で、これを適切な範囲に入るように組成を調整することで、優れた特性が得られることを知見するに至った。本発明の複合誘電体材料は、このような知見に基づいて案出されたものである。
【0012】
すなわち、本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、前記誘電体セラミックスとして、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物を含有することを特徴とする。
【0013】
タングステンブロンズ型疑似固溶体においては、特性面では優れた性能を発揮することが実証されているが、構成元素として希土類元素を用いる必要があるため、製造コスト等の点で課題が多い。希土類元素としては、一般にNdやSm等が用いられるが、これら元素は稀少であって価格も高い。そこで、希土類元素の中でも入手が容易で価格も安いLaを前記タングステンブロンズ型疑似固溶体の希土類元素として使用することができれば、製造コストを抑える上で有効と考えらる。
【0014】
しかしながら、本発明者らが種々検討を行ったところ、前記タングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用した場合、必ずしも満足な特性が得られないことがわかってきた。前記誘電体磁器組成物において、Laの量が多くなると、Qfが低下したり温度特性τfが悪くなる傾向にある。その原因について検討したところ、希土類元素のイオン半径が関与しているのではないかと推測された。タングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物においては、格子定数と誘電特性の相関が強いが、Laは希土類元素の中ではイオン半径が最も大きく、これを用いることで前記格子定数を変化させるものと考えられる。
【0015】
このような観点から、Laと組み合わせる希土類元素の種類や比率を変えて実験を行ったところ、組み合わせる希土類元素が変わっても、希土類元素全体のイオン半径の平均値が前記範囲内であれば、格子定数への影響が抑えられ、優れた誘電特性(具体的には、比誘電率εr≧90、Qf≧4000、−40℃〜85℃において|τf|≦50ppm/℃)が実現されることがわかった。
【0016】
そこで、本発明の複合誘電体材料では、前記組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物を誘電体セラミックスとして用いることで、比誘電率εrやQfが高く、比誘電率εrの温度特性τεが小さな複合誘電体材料を実現している。
【0017】
前述のように、本発明の複合誘電体材料において誘電体セラミックスとして用いられる誘電体磁器組成物では、いわゆるタングステンブロンズ型疑似固溶体の一部元素をBiで置換した誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用するとともに、希土類元素全体のイオン半径の平均値を1.08Å〜1.13Åの範囲内に設定しているので、格子定数の変化が最小限に抑えられ、イオン半径の大きなLaを用いたことによる誘電特性への影響が抑えられる。
【0018】
ここで、前記組成式で表される誘電体磁器組成物においては、zの値が焼結性に影響を及ぼし、z=1.00を境に焼結挙動が大きく異なる。z<1.0であれば、焼結し易くなり、低温焼結によっても安定に焼結が進行する。これを規定したのが本願の請求項3記載の発明であり、前記組成式において、0.8≦z<1.0であることを特徴とする。zの値を前記範囲に規定することにより、焼結密度のバラツキ、さらには比誘電率εrのバラツキが抑えられる。
【0019】
さらに、Mnを添加することにより、酸素分圧の変動に対して特性が変化し難くなる等、製造安定性が増すこともわかった。これを規定したのが、本願の請求項4記載の発明である。すなわち、本願の請求項4記載の発明は、前述の誘電体磁器組成物において、MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていることを特徴とする。Mnの添加により、誘電体磁器組成物の耐還元性が改善され、また焼成後の冷却速度が速くなっても十分なQf値が得られ、複合誘電体材料とした場合に十分な絶縁抵抗も得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物を誘電体セラミックスとして用いているので、製造コストを抑えながら優れた誘電特性を示す複合誘電体材料を提供することが可能である。具体的には、10以上の高い比誘電率εrを有し、200を超える高いQ値を有し、さらには比誘電率εrの温度変化率が±250ppm以内というような、優れた誘電特性を示す複合誘電体材料を提供することが可能である。したがって、本発明の複合誘電体材料を用いることで、高性能なプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板及び多層基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る複合誘電体材料について詳細に説明する。
【0022】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを複合化したものである。ここで、先ず、誘電体セラミックスと組み合わせる有機高分子材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これら樹脂の中から所望の特性等に応じて任意の樹脂を選択すればよいが、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれらの混合物等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂は、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群である。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、マレイミド系樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、ビニルベンジル系樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂も、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群であるが、熱硬化性樹脂を用いた場合、はんだプロセス等での耐熱性に優れた複合誘電体材料となる。特に、ポリビニルベンジルエーテル化合物等のビニルベンジル系樹脂は、温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性を有し、耐熱性にも優れた材料である。なお、熱硬化性樹脂を硬化させる際には硬化剤を存在させてもよく、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0024】
一方、誘電体セラミックスとしては、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表される誘電体磁器組成物を用いる。
【0025】
前記誘電体磁器組成物においては、組成式にも示す通り、希土類元素として、Laと、La以外の希土類元素REとを含んでいることが特徴の一つである。この場合、La以外の希土類元素REとしては、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y等を挙げることができ、これらの1種以上を用いることができるが、本発明においては、全ての希土類元素のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åの範囲内に入るように、組み合わせる希土類元素REの選定及び比率の設定を行う必要がある。
【0026】
表1に、各希土類元素のイオン半径を示す。希土類元素は、先の組成式で示される疑似タングステンブロンズ結晶構造の中で、主に8配位のサイトを3価の状態で占有すると考えられる。そこで、表1には、3価8配位での各希土類元素のイオン半径[R.D. Shannon, “Reviced Effective Ionic Radii and Systematic Studies of Interatonic Distances in Halides and Chalcogenides”, Acta Cryst. A32 751-767(1976)]を示してある。
【0027】
【表1】

【0028】
全希土類元素のイオン半径の平均値は、希土類元素の種類及び比率によって決まり、前記表1の値、及びLa以外の希土類元素REの比率wに基づいて算術平均することにより計算することができる。本発明では、前記により算出される全希土類元素のイオン半径の平均値を1.08Å〜1.13Åとすることが重要であり、これにより希土類元素としてLaを使用した場合の格子定数の変化を最小限に抑えることができ、タングステンブロンズ型疑似固溶体の一部元素をBiで置換した誘電体磁器組成物が有する優れた誘電体特性を維持することができる。例えば、前記イオン半径の平均値が、1.13Åを超えると、Qf値が小さくなるとともに、温度特性τfが大きくなり、所定の特性(Qf≧4000、−40℃〜85℃において|τf|≦50ppm/℃)を満たすことが難しくなる。逆に、前記イオン半径の平均値が、1.08Å未満であると比誘電率εrが90を下回るおそれがある。
【0029】
前述の希土類元素全体のイオン半径の平均値を考えると、Laと組み合わせる希土類元素REとしては、なるべくイオン半径の小さい希土類元素を選択することが好ましい。Laと組み合わせる希土類元素REとして、イオン半径の小さな希土類元素を選択することで、全希土類元素のイオン半径の平均値を前記範囲内に設定することが容易になる。例えば希土類元素としてSmを選択した場合、前記誘電体磁器組成物は、組成式{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zで表すことができる。
【0030】
前述の組成式において、各元素の比率w,x、y、zは、誘電体特性の観点から決められるものであり、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2である。例えばLa以外の希土類元素REの比率wが0.28未満であると、前記イオン半径に設定することが難しくなり、結果として誘電体特性を確保することが難しくなるおそれがある。逆に、希土類元素REの比率wが0.99を超えると、相対的にLaの比率が小さくなりすぎ、Laを用いることのメリットが失われる。
【0031】
Biの置換量yについては、置換量yの増加に伴って比誘電率εrが上昇すること、一方、置換量yの増加に伴ってQfが低下することを考慮し、さらには温度係数τfを考慮して設定したものである。すなわち、Biの置換量yが0.10未満であると、比誘電率εrが低下するおそれがある。逆に、Biの置換量yが0.27を超えると、Qf値が低下するおそれがある。また、前記範囲を外れると、温度特性τfが大きくなるおそれもある。
【0032】
Baと希土類元素(La,RE)+Biの比率の指標となるxが0.5未満であると、Qf値が小さくなるおそれがあり、温度係数τfも劣化するおそれがある。同様に、xが0.9を超えると、やはりQf値が低下するおそれがある。
【0033】
なお、希土類元素REとしてSmを選択した場合の組成式{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zにおいては、0.37≦w≦0.99、0.5≦x≦0.75、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であることが好ましい。これにより良好な誘電体特性を確保することが可能である。ただし、いずれの場合においても、前記組成範囲の中で、希土類元素全体のイオン半径の平均値を考慮してLa以外の希土類元素REの比率wを設定する必要がある。
【0034】
一方、前記組成式において、zの値は、通常はz=1.0に設定され、その近傍であれば特性的には問題はない。したがって、本発明においてはz≦1.2とする。ただし、このzの値については、本願発明者らの検討の結果、焼結性に影響を与えることがわかった。具体的には、焼結温度と焼結体の密度との関係を調べると、z=1.0を境に大きく変化する。したがって、z=1.0を選択すると、製造時に組成変動や混合の不均一さ等があった場合に、焼成物の反応状態や焼結の進行が場所によって大きくばらつく等の可能性があり、反応性や粒度分布といった観点で製造安定性に欠けることになる。したがって、前記zの値は、0.8≦z<1.0であることが好ましく、0.9≦z<1.0であることがより好ましい。さらには、0.95≦z≦0.99とすることで、製造安定性と誘電体特性を高いレベルで両立することが可能である。
【0035】
以上が誘電体セラミックスとして用いる誘電体磁器組成物の組成に関する規定であるが、さらに、製造安定性や耐還元性を向上することを目的に、前記誘電体組成物にMnを添加してもよい。Mnを添加することにより、焼成に際して、到達温度での焼成の後、冷却の際の冷却速度が速くなっても、十分な特性(Qf)が得られるという効果がある。さらに、冷却速度が速い条件で作製した前記誘電体磁器組成物を複合誘電体材料とした時に、絶縁抵抗が改善されるという効果もある。これらの現象はMnの添加によって耐還元性が付与されたためと考えられるが、この場合、Mnの添加量としては、MnO換算で0.04モル%〜1モル%とすることが好ましい。Mnの添加量が0.04モル%未満であると、前記効果が期待できない。逆に、Mnの添加量が1モル%を超えると、誘電体特性に影響を及ぼすおそれがある。
【0036】
本発明の複合誘電体材料は、前述の誘電体磁器組成物を含む誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを混合することにより得られる。このとき、誘電体セラミックスの混合割合は、任意に設定することができるが、20体積%以上、70体積%未満とすることが好ましい。有機高分子材料の混合割合は、30体積%以上、80体積%未満である。誘電体セラミックスの割合が20体積%未満であると、比誘電率εrが高い前記誘電体磁器組成物を含有させることの効果を十分に発現させることができなくなるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの割合が70体積%以上になると、得られる複合誘電体材料の緻密性が悪くなり、例えば水分の侵入が容易となって誘電特性が劣化する等の問題が生ずるおそれがある。
【0037】
ここで、誘電体セラミックス(前記誘電体磁器組成物)の比表面積は、有機高分子材料と混合した後の混合物の流動性に影響を及ぼす。誘電体セラミックスの比表面積が小さければ、混合物の流動性が向上し、Q特性の向上効果や、基板等を製造する際に成形性を向上させ、製造を容易とする効果等が得られる。こうした観点から、前記誘電体セラミックスの比表面積(SSA)は9m/cm以下であることが好ましい。例えば、複合誘電体材料を用いて基板を作製する場合、最低溶融粘度が500Pa・s以下であることが望ましいが、使用する誘電体セラミックスの比表面積(SSA)が9m/cmを超えると、前記最低溶融粘度が500Pa・sを超えるおそれがある。より好ましくは、前記比表面積(SSA)が8.5m/cm以下、さらに望ましくは、8m/cm以下である。
【0038】
なお、前記比表面積は、密度の異なる粒子(粉末)同士の比較を行うため、下記式(1)に基づいて単位体積あたりの値に換算して示している。
SSA(m/cm)=SSA(m/g)×ρ(g/cm) …(1)
SSA(m/g):BET法により測定した粒子の比表面積
ρ:比重ビンを用いて測定した粒子の密度
【0039】
また、用いる誘電体セラミックスの粒径については、特に制限はないが、有機高分子材料との混合を考えると、適正に選定することが好ましい。例えば、使用する誘電体セラミックスの粒径が小さくなりすぎると、有機高分子材料との混練が困難になるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの粒径が大きくなりすぎると、有機高分子材料との混合状態が不均一になり、誘電特性も不均一になるおそれがある。また、誘電体セラミックスの含有量が多い場合には、緻密な複合誘電体材料が得られなくなる可能性がある。これらの事項を考慮して、誘電体セラミックスの平均粒子径は、0.2μm以上、100μm以下とすることが好ましい。
【0040】
ただし、厚さの薄い誘電体基板の基板材料等に用いる場合には、前記誘電体セラミックスは、最大粒径を10μm以下とすることが望ましい。例えば、本発明の複合誘電体材料を用いて形成する基板の厚さが40μm程度の場合に、その厚さに対して前記最大粒径が大きすぎると、すなわち最大粒径が10μmを超えると、成形の妨げになるおそれがある。望ましい最大粒径は8μm以下、さらに望ましい最大粒径は6μm以下である。
【0041】
次に、本発明の複合誘電体材料の製造方法について説明する。複合誘電体材料を製造するには、先ず、誘電体セラミックス粉末を準備する必要がある。誘電体セラミックス(前記誘電体磁器組成物)は、通常、混合工程、焼成工程を経て作製される。
【0042】
誘電体セラミックス粉末の製造に際しては、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程)。主成分の原料粉末としては、各構成元素の酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0043】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、解砕、篩いかけをし、焼成工程を行う。焼成工程では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1300℃の温度範囲で所定時間保持する。このときの雰囲気は、特に規定されず、任意である。また、焼成における前記保持時間は、0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0044】
焼成工程で得られた焼成物を例えば平均粒径2.0μm程度になるまで粉砕することにより、誘電体セラミックスの粉末が得られる。このとき、一般に、粉砕により得られる粉末(粉砕物)の粒径は不均一であり、粉砕物には極微細な粉末も含まれている。誘電体セラミックスの粉末の粉砕工程において例えばボールミル等を用いた場合、この極微細な粉末をさらに繰り返し粉砕してしまうことになり、粉砕物中に極微細な粉末が比較的大量に含まれ比表面積の増大を招く。結果として、粉砕物である誘電体セラミックスの粉末と有機高分子材料とを混合したとき、混合物の流動性を悪化させるおそれがある。
【0045】
このような事態を回避するためには、前記粉砕工程において、粉砕機として気流式粉砕機を使用することが好ましい。気流式粉砕機は、一般に分級機能を備えているため、極微細な粉末の過剰な粉砕を抑制することができる。なお、この場合、前記粉砕工程においては、気流式粉砕機を使用する粉砕(微粉砕)に先立ち、粗粉砕を行ってもよい。
【0046】
以上のようにして得られた誘電体セラミックスと有機高分子材料とを混合して複合誘電体材料とするが、混合に際しては、最終的に得られる複合誘電体材料の比誘電率εrを考慮して、その配合を設定することが好ましい。具体的には、複合誘電体材料のマイクロ波域での比誘電率εrが10以上となるように配合比を調整することが好ましい。これにより、誘電体セラミックスとして用いる誘電体磁器組成物が有する誘電特性を、複合誘電体材料において十分に発揮させることが可能である。
【0047】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスのみからなるバルク焼結体とは異なり、誘電体セラミックスの粉末を有機高分子材料と複合化することにより構成される。したがって、比重を小さくすることができ、材料の軽量化を図ることが可能である。また、200℃程度の低温で複合誘電体材料を作製できることから、高温での焼成によって生ずる収縮や変形等は見られず、例えば銀や銅等からなる内部導体の特性劣化も防ぐことができるという利点も有する。
【0048】
以上の構成を有する複合誘電体材料は、例えば回路基板や回路基板用プリプレグ、各種電子部品等に用いることができる。例えば、回路基板に用いる場合には、いわゆるベースとなる基板に前記複合誘電体材料を用い、この上に配線パターンを形成し、必要な部品を実装することで、高周波用回路基板を構築することができる。また、前記複合誘電体材料からなる基板を複数層積層することで、多層基板とすることも可能である。例えば、前記複合誘電体材料をプリプレグとして用い、これを介して複合誘電体材料からなる基板を積層すれば、高性能な多層基板を構築することが可能である。
【0049】
以下、本発明の複合誘電体材料の使用形態としてのプリプレグや金属箔塗工物、成形体、さらにはこれらを用いた複合誘電体基板、多層基板について説明する。
【0050】
先ず、プリプレグを作製する場合についての好ましい方法について述べる。プリプレグを作製するには、有機高分子材料として、例えばポリビニルベンジルエーテル化合物を用い、質量百分率で表して、40〜60%の溶液を調製する。この時に使用する溶剤はトルエン、キシレン、メチルエチルケトン等の揮発性溶剤が好ましい。その後、混合攪拌機にて前記誘電体セラミックス粉末を添加混合する。混合はボールミル等での混合も可能で、最終的には粘度調整のためにトルエン等の揮発性溶剤を加え、混合攪拌機にて10〜20分撹拌する。この時、脱気しながら撹拌することが望ましい。これにより、複合誘電体基板材料組成溶液(スラリー)を得ることができる。
【0051】
このようにして得られた複合誘電体材料組成物溶液(スラリー)をガラスクロス等のクロス基材に塗工する。特に、クロス基材としては、ガラスクロスの使用が好ましい。ガラスクロスは市販されている布質量40g/m以下、厚み50μm以下のもの(例えば、商品名旭シュエーベル等)が、誘電体セラミックス粉末の充填率を向上する上で好ましい。布質量の下限及び厚みの下限に特に制限はないが、それぞれ25g/m及び30μm程度である。
【0052】
前記ガラスクロスは、電気的な特性に応じてEガラスクロス、Dガラスクロス、Hガラスクロス等を使い分けることができる。また、層間密着力向上等の目的で、ガラスクロスに対してカップリング処理等を行ってもよい。なお、クロス基材としては、前記ガラスクロスの他に、ヤーンを織ったアラミドやポリエステル等の不織布等を用いて強化材としてもよい。この場合、厚み等はガラスクロスと同様とすればよい。
【0053】
前記塗工の際の塗工厚みとしては、現実的には、Bステージ化した後の厚みで50〜200μmとすることが好ましいが、板厚、フィラー含有率に従い適時選択することが可能である。また、塗工方法は、縦型塗工機で所定の厚みに塗工する方法、ドクターブレードコート法によりクロス基材に塗工する方法等、公知のいずれの方法であってもよく、用途に応じた生産法を選択することができる。このため生産性が高い。このような方法でフィルム化されたものを100〜120℃、0.5〜3時間熱処理し、プリプレグ(Bステージ)を得る。この際の条件は、樹脂コンテント、所望の流動性等によって適時選択すればよい。
【0054】
ここで得られたプリプレグを使用し、例えば両面銅箔基板を作製する場合について説明すると、所定厚みとなるように、プリプレグを重ね、その積層体の両面を銅箔で挟持して成形する。成形方法は、熱プレス等の公知の方法にて行う。成形条件は100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間が好ましく、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0055】
このときに使用する金属箔は、一般的には銅を用いるが、これに限らず、例えば金、銀、アルミ等から選択することも可能である。また、ピール強度を確保したい場合は電解箔を、高周波特性を重視したい場合は表面凹凸による表皮効果の少ない圧延箔を使用することが好ましい。金属箔の厚みに関しては、8〜70μmであり、用途、要求特性(パターン幅及び精度、直流抵抗等)に応じて適正な厚さのものを選定して使用すればよい。
【0056】
また、前述のような銅箔等の金属箔上に前記の複合誘電体材料組成物溶液をドクターブレードコート法等により塗工し、乾燥し、金属箔塗工物を得てもよく、これにより複合誘電体基板を作製してもよい。この場合の塗工厚みは、前記のプリプレグと同様にすればよい。乾燥は、100〜120℃で0.5〜3時間程度とすればよい。
【0057】
また、プレス成形によって板状の成形体を作製する場合は、混合方法等は前述した方法と同じであるが、混合したスラリーを90〜120℃で乾燥し、混合体の固まりを作製する。さらに、この固まりを乳鉢または公知の方法で粉砕し、混合体の粉末を得る。この混合粉末を金型にて100〜150℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.1〜3時間でプレス成形し板状成形体を得る。板状成形体の厚みとしては、0.05〜5mmであることが好ましく、所望の板厚、誘電体セラミックス粉末含有率に応じて適時選択する。この成形体を100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間硬化させる。また、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0058】
以上のようにして作製したプリプレグ、銅箔等の金属箔塗工物、板状の成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等を適宜組み合わせて成形を行い、複合誘電体基板を作製する。成形条件は、100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、30〜120分とする。あるいは、前記プリプレグ、金属箔塗工物、成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等、さらにはこれらによって作製される複合誘電体基板等を積層要素とし、多層に重ねて積層することで、多層基板を構築することも可能である。
【0059】
以上の他、本発明の複合誘電体材料は、多層コンデンサや共振器、インダクタ、アンテナ等、種々の電子部品にも使用することが可能である。例えば、共振器の場合、前記複合誘電体材料からなる積層体の表面や積層体間に、ストリップ線路やグランドプレーン、外部導体、内部導体等を形成し、必要箇所を電気的に接続すればよい。本発明の複合誘電体材料を用いた共振器は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ等の各種フィルタや、これらフィルタを組み合わせた分波フィルタ、ディプレクサ、電圧制御発振器等に応用が可能である。また、本発明の複合誘電体基板及び多層基板は、500MHz以上の高周波帯域で用いられて好適である。なお、本発明の複合誘電体材料をこれら電子部品に使用する場合、誘電体セラミックスと有機高分子材料の配合比を調整することにより、使用環境に合わせて比誘電率εrの温度変化係数τεを制御することも可能である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0061】
誘電体磁器組成物の作製
原料粉末として、BaCO、Bi、La(OH)、TiO、さらには各希土類元素の酸化物を用意した。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜1.0μmである。
【0062】
これら原料粉末を、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、x=0.72、y=0.14、z=0.98)となるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中、1100℃〜1250℃で2時間保持する焼成を行い、焼成物を得た。この焼結物を気流粉砕機で粉砕し、誘電体セラミックス粉末を得た。
【0063】
以上の手順に従い、Laと組み合わせる希土類元素REの種類を変えて原料を選択し、全希土類元素のイオン半径の平均値(希土類イオン平均半径)が1.08〜1.13の範囲内に入るように設定して表2に示す誘電体磁器組成物(誘電体セラミックス1〜11)を作製した。
【0064】
【表2】

【0065】
複合誘電体材料の作製
誘電体セラミックス(誘電体セラミックス1〜11)と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)の体積比が所定の比率(誘電体セラミックス40体積%)となるように秤量し、トルエン中で十分に混合した。これを110℃で乾燥した後に粉砕して、誘電体セラミックスとポリビニルベンジルエーテル化合物の混合粉末を得た。この粉末を金型に入れて温間成形後、200℃で熱硬化し、板状の複合誘電体(試料1〜11)を作製した。そして、棒状試料(1mm×1mm×9mm)を切り出し、誘電特性の測定試料とした。また、誘電体セラミックス(誘電体セラミックス1〜11)と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)の混合物を銅箔に塗布して110℃で乾燥したシートをそれぞれ2枚ずつ用意した。2枚のシートの塗布面同士を合わせて温間成形し、200℃で硬化した。その後、ダイサーで切断し、電極面積5mm×5mm、層間50μmの両面銅張板を作製し、絶縁抵抗の測定試料とした。
【0066】
評価
作製した各試料について、空洞共振器摂動法(使用測定器:ヒューレットパッカード社製、商品名83620A、8757C、及び恒温槽デスパッチ製900シリーズ)により、2GHzでの比誘電率εrとQを温度20℃で測定した。また、比誘電率εrについて、−30℃〜+85℃の温度範囲で測定を行い、温度特性τεを求めた。また、超高抵抗計(アドバンテスト社製、商品名R8340A)により、絶縁抵抗(100V、1分値)を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3から明らかな通り、Laと組み合わせる希土類元素REの種類を変えた場合にも、希土類イオン平均半径が所定の範囲(1.08〜1.13Å)内に入っていれば、いずれも良好な誘電特性が得られている。具体的には、これら全てのサンプルにおいて、10を越える高い比誘電率εr、200以上のQf、±250ppm/℃以内の温度特性τεが達成されている。
【0069】
誘電体磁器組成物へのMnの添加
Ba3.68La1.42Sm4.26Bi0.89Ti1853.64(先の組成式において、w=0.75、x=0.65、y=0.14、z=0.98に相当)において、Mnの添加量を種々変更して焼結体の作製を行った。焼結に際しては、焼成温度パターンを昇温部(温度上昇)→安定部(到達温度で温度一定)→冷却部とし、前記冷却部の温度変化のスピード(冷却速度)を200℃/h及び500℃/hとした。得られた誘電体磁器組成物を用い、同様に複合誘電体材料を作製し、前記各冷却速度毎にMn添加量と誘電体特性及び絶縁抵抗の関係を調べた。結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
比誘電率εrについては、冷却速度の相違による特性の相違はほとんど認められなかったが、Qfや絶縁抵抗については、Mn未添加の場合、冷却速度500℃とすると低下が見られる。そして、これらQf値や絶縁抵抗の低下は、表4に示すように、Mn添加によって解消されていることがわかる。
【0072】
クロス基材塗工プリプレグ及びこれを用いた複合誘電体基板の作製
Ba3.68La1.42Sm4.26Bi0.89Ti1853.64(先の組成式において、w=0.75、x=0.65、y=0.14、z=0.98に相当)にMnを0.17モル%添加した誘電体セラミックスを用い、有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)とトルエン中で十分に混合した。このスラリーを布質量40g/m、厚み50μmのガラスクロス(旭シュエーベル製)に塗工機で塗工し、110℃で乾燥した後、これをプリプレグとした。このプリプレグの厚みは170μmであった。
【0073】
次に、作製したプリプレグ10枚を重ねて150℃でプレス圧4.0×10Paの加圧をした後、200℃で熱硬化を行い、厚み1.5mmの複合誘電体基板を作製した。そして、棒状試料(1.5mm×1.5mm×9mm)を切り出し、測定試料とした。
【0074】
この測定試料について、比誘電率εr、Q値、温度特性τε及び絶縁特性を測定した。その結果、比誘電率εr=7.1、Qf=251、温度特性τf=−118ppm/℃、絶縁抵抗1013以上と、優れた特性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、
前記誘電体セラミックスとして、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物を含有することを特徴とする複合誘電体材料。
【請求項2】
前記組成式において、La以外の希土類元素REがSmであり、0.37≦w≦0.99、0.5≦x≦0.75であることを特徴とする請求項1記載の複合誘電体材料。
【請求項3】
前記組成式において、0.8≦z<1.0であることを特徴とする請求項1または2記載の複合誘電体材料。
【請求項4】
前記誘電体磁器組成物において、MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項5】
前記誘電体セラミックスの最大粒径が10μm以下であり、比表面積が9m/cm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項6】
前記有機高分子材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項7】
前記有機高分子材料が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂がビニルベンジル系樹脂であることを特徴とする請求項7記載の複合誘電体材料。
【請求項9】
前記ビニルベンジル系樹脂は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を主体とするものであることを特徴とする請求項8記載の複合誘電体材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーがクロス基材に塗工され、乾燥されてなるプリプレグ。
【請求項11】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項10記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項11記載のプリプレグ。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーが金属箔上に塗工され、乾燥されてなる金属箔塗工物。
【請求項14】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項13記載の金属箔塗工物。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーを乾燥し、成形したことを特徴とする成形体。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を用いたことを特徴とする複合誘電体基板。
【請求項17】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグを加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項18】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグを金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項19】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項18記載の複合誘電体基板。
【請求項20】
請求項13又は14記載の金属箔塗工物がクロス基材の両面にそれぞれ塗工面が接するように貼り合わされ、この状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項21】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項20記載の複合誘電体基板。
【請求項22】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項21記載の複合誘電体基板。
【請求項23】
請求項15記載の成形体を加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項24】
請求項15記載の成形体を金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項25】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項24記載の複合誘電体基板。
【請求項26】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項16から25のいずれか1項記載の複合誘電体基板。
【請求項27】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグ、請求項13又は14記載の金属箔塗工物、請求項15記載の成形体、請求項16から26のいずれか1項記載の複合誘電体基板から選択される少なくとも1種を積層要素とし、当該積層要素を含む多層構造を有することを特徴とする多層基板。
【請求項28】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項27記載の多層基板。

【公開番号】特開2007−48703(P2007−48703A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234554(P2005−234554)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】