説明

複数内燃機関

【課題】 確実かつ迅速にサブエンジンによりメインエンジンを起動可能とした複数内燃機関を提供する。
【解決手段】 サブエンジン2によりメインエンジン1を起動可能とした複数内燃機関において、メインエンジン1の始動要求後、サブエンジン2のスロットルバルブ23を開き、吸入空気量を増大させるとともに、点火時期を遅角化させることで、その回転数・トルクを略一定の状態に維持する。メインエンジン1とサブエンジン2とを係合させる電磁クラッチ80の係合が完了したら、点火時期を進角させて、サブエンジン2のトルクを一気に上昇させて、メインエンジン1を駆動してその始動を行い、始動完了後、電磁クラッチを切り離す際には、再度、点火時期を遅角化させて、サブエンジン2のトルクを通常時に戻し、振動・騒音の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動用のメインエンジンと、独立したサブエンジンとを備える複数内燃機関に関し、特に、サブエンジンによるメインエンジンの始動を可能とした複数内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動用のメインエンジンから独立してサブエンジンを設けた複数内燃機関において、このサブエンジンによりメインエンジンを始動させる技術が知られている(特許文献1参照)。例えば、メインエンジンは走行専用とし、補機の駆動はこれより小型のサブエンジンを利用する。信号待ちなどの車両停止時にはメインエンジンを停止し、エアコン等の電力はサブエンジンにより発電した電力を供給する。そして、メインエンジンの始動、再始動はサブエンジンにより行うこととし、サブエンジン自体の始動にスタータモータを用いることで、スタータモータやバッテリの小型化と、メインエンジン・サブエンジンの効率化が実現できる。
【特許文献1】特開昭57−76263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
サブエンジンより大型のメインエンジンを停止状態から始動させるためには、慣性エネルギーと駆動エネルギーを合わせた大きな始動エネルギーを必要とする。電動モータは回転数が低いほどトルクが大きくなる特性を有するが、内燃機関は回転数が落ちるとトルクも低下する。このため、サブエンジンに急激に負荷がかかると、メインエンジンの始動に至らないばかりか、サブエンジン自体が停止してしまうおそれがある。
【0004】
これを防止するために、特許文献1では、サブエンジンと負荷(パワステポンプ等の補機)との間の動力伝達を一時的に切り離して、サブエンジンの出力を上昇させている。しかし、特許文献1のようにメインエンジンを始動させるのに十分な出力となるようにサブエンジンの出力を上昇させると、この出力上昇に起因にしてサブエンジンからの摂動や騒音が増加してしまう。
【0005】
そこで本発明は、確実かつ迅速にサブエンジンによりメインエンジンを起動可能とした複数内燃機関を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる複数内燃機関は、車両駆動用のメインエンジンと、このメインエンジンとは別に独立して設けられた補機駆動用のサブエンジンと、サブエンジンとメインエンジンの出力軸の係合/非係合を切り替えるとともに、係合時に両者間の動力伝達を可能とする動力伝達機構と、動力伝達機構を係合状態に切り替えてサブエンジンによりメインエンジンを駆動してメインエンジンの始動を行うメインエンジン始動手段と、を備える複数内燃機関において、メインエンジン始動手段によるメインエンジンの始動操作に先立ってサブエンジンの吸気量を所定の第1吸気量よりも増加させる吸気量増加手段と、吸気量増加手段による吸気量増加に伴うサブエンジンのトルク上昇を抑制するトルク上昇抑制手段と、メインエンジン始動手段によるメインエンジンの始動の際に、トルク上昇抑制手段の作動を停止させるトルク抑制停止手段と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
メインエンジンの始動に先立ってサブエンジンの吸気量を所定の第1吸気量(サブエンジン単独で運転する際の通常運転時の吸気量とするとよい。)を上回る状態まで増加させる。単純に吸気量を増大させると、回転数の増加とこれによりトルク上昇が起こるが、トルク上昇抑制手段によりトルクと回転数を第1吸気量に近い状態に保っている。始動の際(係合手段による係合開始直前から係合完了直後までのいずれかの時点)でトルク抑制手段の作動を停止させることで、トルクを上昇せしめることで、円滑にメインエンジンの起動を行う。
【0008】
トルク上昇抑制手段は、第1吸気量に対する吸気量の増加量が多いほどサブエンジンの点火時期を遅角させるか、サブエンジンへの燃料供給量を減少させるか、サブエンジンの負荷を増大させるとよい。点火時期の遅角化、燃料供給量の減少により、同一吸気量でもトルクを低下させる。サブエンジンへの負荷を増大させることで、負荷を増大しない場合に比較して出力トルクの増大を抑制する。
【0009】
吸気量増加手段による増加後の吸気量は、トルク上昇抑制手段によるトルク上昇抑制量に応じて設定され、設定された増加後の吸気量がメインエンジン始動時の目標吸気量を下回る値に設定された場合は、吸気量増加手段は、トルク抑制停止手段によりトルク上昇抑制手段の作動を停止させる際に、サブエンジンの吸気量を所定目標空気量まで増大させることが好ましい。
【0010】
トルク上昇抑制手段によるトルク抑制量に限界がある場合には、吸気量の増加量をトルク抑制可能な程度に抑制しておき、作動を停止させる際(作動停止に多少先立っている場合を含む。)に吸気量を所望のレベルまで増大させることで、トルク上昇抑制手段作動中のトルクを抑制する。
【0011】
メインエンジン始動手段は、動力伝達機構を非係合状態に切り替えた後、サブエンジンの吸気量が第1吸気量まで減少するまでの間、トルク上昇抑制手段を作動させるとよい。メインエンジンの始動後に動力伝達機構を非係合状態に切り替えると、負荷の急減によってサブエンジンの回転数上昇、トルク上昇が発生しうるため、吸気量が通常状態に戻るまでの間、トルク上昇抑制手段により、回転数上昇、トルク上昇を抑制する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メインエンジンの始動前にサブエンジンへの吸気量を予め増大しておく一方、トルク上昇抑制手段により回転数・トルクの上昇を抑制しているため、始動前に負荷の小さいサブエンジンから振動や騒音が発生するのを抑制することができる。そして、始動の際にトルク上昇抑制手段の作動を停止することで速やかにトルクを増大させて小型のサブエンジンでメインエンジンを確実に作動させることができる。吸気量増加によるトルクの増大には比較的応答時間を要するが、これより応答性の速い手段によりトルクを制御しておくことで、例えば、信号待ちにおけるメインエンジン停止状態からの再始動を速やかに行うことが可能となる。
【0013】
トルク上昇抑制手段としては、点火時期、燃料供給量や補機等の駆動によるサブエンジンへの負荷調整を行うと、メインエンジン始動時に応答性よくトルクを増大させることが可能となる。
【0014】
トルク上昇抑制手段によるトルク抑制量によっては、吸気量の増大を2段階で設定してもよい。この場合には、トルク上昇抑制手段作動中は、サブエンジンの回転数、トルクの増大を確実に抑制して振動や騒音の発生を抑制する。
【0015】
非係合状態に切り替える際に、吸気量が確実に減少するまでの間、トルク抑制手段を作動させることで、サブエンジンの切り離しに伴う吹き上がりの発生を抑制し、サブエンジンからの騒音・振動の発生を確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明にかかる排ガス浄化装置を備えた車両の駆動系の概略構成図である。この車両は駆動用のメインエンジン1とは別に補機駆動用のサブエンジン2を備えている。メインエンジン1、サブエンジン2とも例えばガソリンを燃料とする内燃機関であり、サブエンジン2は、メインエンジン1より排気量が小さい内燃機関であって、例えば、メインエンジン1は多気筒式であるのに対して、サブエンジン2は、単気筒式とされる。
【0018】
メインエンジン1には、吸気マニホールド15を介して吸気管12が、排気マニホールド16を介して排気管17がそれぞれ接続されている。この吸気管12上には、上流側からエアクリーナ11、スロットルバルブ13、燃料噴射弁14が配置されている。一方、排気管17上には、排気浄化触媒40が配置され、その上流側と下流側にそれぞれOセンサ42、43が配置されるほか、触媒40には、温度センサ41が接続されている。触媒40の下流側にはマフラー44が配置される。メインエンジン1の出力軸はトランスミッション3へと接続され、トランスミッション3からは図示していない駆動輪へと駆動力が伝達される。
【0019】
サブエンジン2には、吸気管22と排気管27が接続されており、吸気管22上には、メインエンジン1の吸気管12と同様に上流側からエアクリーナ21、スロットルバルブ23、燃料噴射弁24が配置されている。一方、排気管27は、メインエンジン1の排気管17の触媒40上流位置へと接続されている。以下、この接続部分を集合部18と称する。サブエンジン2の出力軸は図示していないエアコンのコンプレッサや発電機へと接続されており、補機類の駆動を行う。
【0020】
図2は、サブエンジン2本体の概略構成図である。サブエンジン2は、シリンダ201が形成されたシリンダブロック200と、シリンダブロック200の上部に固定されたシリンダヘッド210とを備えている。シリンダブロック200には、クランクシャフト220が回転自在に支持されている。クランクシャフト220には、シリンダ201内を図の上下方向に往復移動可能に装填されたピストン202がコンロッド(コネクティングロッド)203により連結されており、これにより、ピストン202の往復運動がクランクシャフト220の回転運動に変換される。また、クランクシャフト220には、クランク回転角を検出するクランク角センサ215が配置されている。
【0021】
ピストン202の上方にはピストン202の頂面とシリンダ201の壁面およびシリンダヘッド210の底面とに囲まれて燃焼室204が形成される。シリンダヘッド210の底面には、燃焼室204に臨むように点火プラグ205が取り付けられている。
【0022】
シリンダヘッド210の吸気管22との接続口は、シリンダヘッド210に進退自在に支持された吸気弁206によって開閉されるようになっている。この吸気弁206の開弁・閉弁タイミングおよびそのリフト量は、シリンダヘッド210に設けられた吸気弁駆動部208により調整可能である。
【0023】
同様に、シリンダヘッド210の排気管27との接続口は、シリンダヘッド210に進退自在に支持された排気弁207によって開閉されるようになっている。この排気弁207の開弁・閉弁タイミングおよびそのリフト量は、シリンダヘッド210に設けられた排気弁駆動部209により調整可能である。
【0024】
メインエンジン1とサブエンジン2とは電磁クラッチ80とベルトドライブ81により係合/非係合状態を切り替えることが可能となっている。メインエンジン1とサブエンジン2を係合させ、サブエンジン2によりメインエンジン1を始動可能な構成となっている。サブエンジン2自体は、スタータモータ70と電磁クラッチ71により係合させてスタータモータ70により始動される。
【0025】
メインエンジン1とサブエンジン2は、エンジンECU5によって制御される。エンジンECU5は、CPU、ROM、RAM等によって構成されており、温度センサ41、Oセンサ42、43、クランク角センサ215の出力が入力されるとともに、スロットルバルブ13、23、燃料噴射弁14、24、吸気弁・排気弁の各駆動部208、209、点火プラグ205の作動を制御する。燃料噴射弁14、24には燃料タンク6から燃料が供給される。
【0026】
本実施形態の動作について簡単に説明する。まず、始動時には、スタータモータ70とサブエンジン2とを電磁クラッチ71により係合させてスタータモータ70によりサブエンジン2を駆動させ、その回転速度が所望の回転数に達したら、燃料噴射弁24から燃料を噴射し、点火プラグ205により点火を行うことでサブエンジン2の燃焼を開始し、これによりサブエンジン2を起動させる。起動後は、電磁クラッチ71を切り離し、スタータモータ70の駆動を停止させる。
【0027】
メインエンジン1は、電磁クラッチ80とベルトドライブ81により、サブエンジン2と係合させて、サブエンジン2によってメインエンジン1を駆動させ、同様に所望の回転数に達したら、燃料噴射弁14から燃料を噴射し、燃焼をスタートさせることでその起動を行う。
【0028】
車両の走行時には、メインエンジン1からトランスミッション3を通じて駆動輪へと駆動力を伝達する。一方、サブエンジン2は、補機等の駆動を行う。信号待ち等で車両が停止している場合には、メインエンジン1を停止させることで、排ガスの排出を抑制し、燃費を向上させる。一方、エアコン等の補機の駆動はサブエンジン2により行うため、補機の駆動のためのみにメインエンジン1を駆動する必要がなく、車両停止時等にはメインエンジン1を確実に停止させることができる。また、メインエンジン1の作動中もメインエンジン1の駆動力を走行用にのみ用いることができるため、走行状態に応じた適切な運転条件に設定することができ、その応答性も向上する。
【0029】
なお、サブエンジン2は、補機の駆動の必要がない場合(補機の負荷がない場合のほか、バッテリ容量が十分でかつ、バッテリからの電力供給で補機の負荷をまかなえる場合を含む。)には、メインエンジン1の駆動中でも停止させる場合がある。ただし、メインエンジン1を信号待ち等で停止させる場合には、その再始動に備えてサブエンジン2を再始動させておくことが好ましい。
【0030】
以下、サブエンジン2によるメインエンジン1の始動・再始動制御について具体的に説明する。図3は、この始動・再始動制御の第1の制御形態を示すフローチャートである。
【0031】
まず、メインエンジン1が停止中、サブエンジン2が運転中、メインエンジン1の始動要求あり、始動条件成立の全ての要件を満たしているか否かを判定する(ステップS1)。ここで、メインエンジン1の始動要求としては、始動時であれば、エンジンの始動スイッチのオン操作であり、車両停止状態からの運転者による発進操作がこれに該当する。始動条件としては、アクセルペダルの踏み込み等が挙げられる。
【0032】
いずれかの条件を満たさない場合には、サブエンジン2によるメインエンジン1の始動・再始動は行えないと判定して処理を終了する。全ての条件が満たされている場合のみ、実際の始動制御へと移行する。
【0033】
始動制御においては、まず、スロットルバルブ23の開度θを現在より所定量Δθだけ増加させる(ステップS2)。そして、サブエンジン2の点火時期tを現在より所定量Δtだけ遅らせる(ステップS3)。スロットル開度を開くことで空気量が増し、通常は回転数・トルクが増大するが、点火時期を遅らせることで、このトルクの上昇は抑制される。このため、始動に先立ってサブエンジン2の回転数が増大することによる騒音や振動の発生が抑制される。
【0034】
次に、サブエンジン2の回転数増加量が所定値以上か、燃焼変動が設定値以内であるかを判定する(ステップS4)。条件を満たす場合には、トルクの抑制量が不足しており、かつ、さらにトルク抑制が可能と判定してステップS3へと戻る。一方、条件のいずれかが満たされていない場合には、トルク抑制は十分であるか、これ以上の抑制はサブエンジン2の燃焼状態を不安定にすると判定し、ステップS5へと移行する。
【0035】
ステップS5では、吸入空気量が目標の空気量(メインエンジン1を始動する運転条件において目標とされる空気量)に達しているか否かを判定する。吸入空気量が目標の空気量に達していない場合には、ステップS2へと戻ることで、さらにスロットルバルブ23の開度を開く。目標空気量に達したらステップS6へと移行する。これにより、メインエンジン1の始動に先立ってサブエンジン2への供給空気量を増大せしめる。ここで、ステップS2におけるΔθをステップS2〜S4までの処理が完了する間に、空気量増加が実際に追従しうるレベルに設定しておくことで、空気量を確実に調整することが可能となり好ましい。
【0036】
ステップS6では、エンジンECU5から電磁クラッチ80に対して係合を指示する。そして、ステップS7では、電磁クラッチ80の結合完了まで待機する。結合が完了したと判定したら、点火時期を進角させて、所定の点火時期に設定する(ステップS8)。これにより、トルク抑制が解除され、サブエンジン2のトルクは瞬時に増大するが、メインエンジン1が係合されているため、その回転数は略同一に維持される。これにより、メインエンジン1を確実に始動することができる。
【0037】
続く、ステップS9では、メインエンジン1の始動完了まで待機し、メインエンジン1の始動が完了したら、スロットルバルブ23を絞り、スロットル開度と点火時期を通常の作動条件へ戻して(ステップS10)処理を終了する。
【0038】
図4は、この始動制御時のタイミングチャートである。時刻tにおいて、メインエンジン1の始動要求をオンにすると、これより、少し遅れてサブエンジン2のスロットルバルブ23を開き始め、これに合わせて点火時期を遅角化していく。吸入空気量の上昇に伴う回転数・トルクの上昇を点火時期の遅角化によって抑制するため、回転数・トルクは略一定に維持される。
【0039】
スロットルバルブ23の開度がメインエンジン1の始動を行う際の設定開度に設定されたら(時刻t)、少し遅れて電磁クラッチ80により、メインエンジン1とサブエンジン2を係合させる(時刻t)。係合を確認したら、点火時期を瞬時に進角させる(時刻t)。これにより、サブエンジン2のトルクは瞬時に上昇するが、メインエンジン1が負荷となるため、サブエンジン2の回転数は増大せず、略一定に保たれる。
【0040】
なお、スロットル開度増大には、スロットルバルブ23を駆動するモータの特性上、時刻t〜tまでの時間を要するうえ、吸気管22の容積や流動抵抗等の影響でスロットルバルブ23を開いてから実際に燃焼室204への吸入空気量が増大するのにも時間遅れが発生する。このため、係合後に吸入空気量を増大させた場合には、トルク上昇に遅れが発生してしまう。図5は、電動モータの場合とガソリンエンジン等の内燃機関の場合における典型的な回転数−トルク特性を比較したグラフであるが、低回転でも高トルクを発生することが可能な電動モータに比較し、ガソリンエンジン等は回転数がある所定値以下になると急速にトルクが低下する特性を有する。このため、運転中のサブエンジン2を停止中のメインエンジン1に係合させてメインエンジン1を始動させようとする場合に、サブエンジン2のトルク上昇が小さいと、メインエンジン1が負荷となることでサブエンジン2の回転数が低下し、これによりさらにトルクも低下してしまうため、メインエンジン1の始動に失敗するだけでなく、サブエンジン2自体もこれにより、停止してしまうおそれがある。
【0041】
本実施形態では、予め吸入空気量を増大させておき、点火時期を進角させることで係合後にトルクを瞬時に増大させているため、このような回転数低下、トルク低下の発生を防止し、サブエンジン2を停止させることなく、メインエンジン1を確実に始動させることができる。また、係合前には点火時期を遅角化させて発生するトルクを抑制し、回転量を通常時と同様の回転量に維持しているので、サブエンジン2からの騒音・振動の発生を抑制することができる。
【0042】
メインエンジン1自体の回転数は電磁クラッチ80のすべりの影響もあって、電磁クラッチ80の係合完了から少し遅れて(時刻t)増大し始め、所定の回転数に達した時点で燃料噴射弁14からの燃料噴射と点火が行われて始動される。
【0043】
メインエンジン1の始動後その回転数が所定の回転数に達したら(時刻t5)、電磁クラッチ80を切り離し、同時にサブエンジン2の点火時期を遅角させる。これにより、サブエンジン2のトルク、回転数を時刻tまでの時点と同一に戻す。そして、スロットルバルブ23の開度を戻していくが、これには時刻t〜tまで要するので、この間は、スロットルバルブ23の開度に合わせて点火時期を遅角化させているので、サブエンジン2のトルク、回転数の上昇を抑制でき、サブエンジン2から発生する騒音・振動を抑制することができる。
【0044】
本実施形態によれば、比較的慣性エネルギーの小さいサブエンジン2によってもメインエンジン1の始動が可能となるため、カウンターウェイト等の運動部品の質量が小さくて済み、その回転数を増大させる必要もないため、これらから発生する騒音・振動を低減する効果も得られる。
【0045】
なお、点火時期には、燃焼室204内での燃焼を安定的に行うために進角−遅角範囲にも制限がある。このため、点火時期の制御によるトルク制御量にも限界がある。そして、メインエンジン1の始動の際に設定される吸入空気量(始動時空気量と称する。)に制御すると、通常時より増大すると予想されるトルク量を最大に遅角させた場合でも完全に抑制することはできない場合には、遅角化によりトルク抑制が可能な程度に吸入空気量の増大幅をとどめておき、電磁クラッチ80による係合の際(係合の直前から直後までを含む。)に吸入空気量を始動時空気量に増大せしめるとよい。
【0046】
図6は、この制御形態(第2の制御形態)の処理フローチャートであり、図7はこの場合のタイミングチャートを示している。
【0047】
ステップS1〜S4の処理は、基本的に上述した第1の制御形態と同様である。ただし、ステップS5に代えて、点火時期のさらなる遅角化が可能か否かを判定する。さらに遅角化することが可能な場合のみステップS2へと戻り、限界に達している場合には、ステップS6へと移行する。これにより、メインエンジン1の始動前に予め吸入空気量をトルク・回転数を維持できる範囲で最大に増大させておく。
【0048】
ステップS6、S7において、電磁クラッチ80によるサブエンジン2とメインエンジン1の係合が完了したら、ステップS8に移行し、点火時期を所定量だけ進角させる。これによりトルク抑制が解除され、サブエンジン2のトルクは瞬時に増大する。このあと、スロットルバルブ23の開度θを開度θを現在より所定量Δθだけ増加させ(ステップS12)。そして、サブエンジン2の点火時期tを現在より所定量Δtだけ速める(ステップS13)。これにより、トルクをさらに増大させる。次に、サブエンジン2の回転数が所定回転数に達したか否かを判定する(ステップS14)。条件が満たされていない場合には、さらにトルクを増大させる必要があると判定して、ステップS12へと戻り、条件を満たしている場合には、トルク増大処理を完了して次のステップS9へと移行し、メインエンジン1の始動完了まで待機する。メインエンジン1の始動が完了したら、スロットルバルブ23を絞り、スロットル開度と点火時期を通常の作動条件へ戻して(ステップS10)処理を終了する。
【0049】
この制御形態においても第1の制御形態と同様の効果が得られる。図7に示されるように、本制御形態では、図4に示される第1の制御形態と同様に、電磁クラッチ80によるメインエンジン1とサブエンジン2の係合に際して、サブエンジン2の回転数を略同一に維持することができる。また、サブエンジン2のトルクについても係合時にサブエンジン2のトルクを瞬時に増大させ、また、切り離しにあたって瞬時にトルクを減少させることができるため、騒音・振動の発生を効果的に抑制することができる。
【0050】
メインエンジン1との係合前のサブエンジン2のトルク抑制制御としては、上述した点火時期の遅角化のほかにも、燃料噴射量による制御や補機等の負荷増加により行うことが可能である。以下、これらの制御形態の処理について説明する。
【0051】
図8は、第3の制御形態の処理フローチャートである。処理の基本は第1の制御形態と同様である。まず、始動要件を判定し(ステップS1)、スロットルバルブ23の開度θを現在より所定量Δθだけ増加させる(ステップS2)点は第1の制御形態と同一である。次に、燃料噴射弁24からの燃料噴射量を所定量だけ減らしてリーンにする(ステップS21)。スロットル開度を開くことで空気量が増し、通常は回転数・トルクが増大するが、燃料噴射量を減らしてリーン燃焼させることで、このトルクの上昇は抑制される。このため、始動に先立ってサブエンジン2の回転数が増大することによる騒音や振動の発生が抑制される。
【0052】
その後のステップS4〜S7の処理は、第1の制御形態と共通する。結合が完了したと判定したら、燃料噴射量を増やして理論空燃比付近またはこれよりリッチ状態にする(ステップS22)。これにより、トルク抑制が解除され、サブエンジン2のトルクは瞬時に増大するが、メインエンジン1が係合されているため、その回転数は略同一に維持される。これにより、メインエンジン1を確実に始動することができる。
【0053】
続く、ステップS9では、メインエンジン1の始動完了まで待機し、メインエンジン1の始動が完了したら、スロットルバルブ23を絞っていき、燃料噴射量もこれに合わせて減らし、理論空燃比を維持し(ステップS23)処理を終了する。
【0054】
本制御形態でも、応答性の劣る吸入空気量については予め増大しておき、応答性のよい燃料噴射量を調整することで、メインエンジン1との係合前はサブエンジン2の回転数・トルクの上昇を抑制しておき、係合の際に燃料噴射量を増量して理論空燃比付近で燃焼を行わせることで一気にトルクを増大せしめ、メインエンジン1を確実に始動させることができる。そして、サブエンジン2からの騒音・振動の発生を効果的に抑制できる。
【0055】
図9は、第4の制御形態の処理フローチャートである。処理の基本は第1、第3の制御形態と同様である。まず、始動要件を判定し(ステップS1)、スロットルバルブ23の開度θを現在より所定量Δθだけ増加させる(ステップS2)点は第1、第3の制御形態と同一である。次に、補機の負荷を増大させる(ステップS31)。例えば、発電機による発電量を増加させたり、パワーステアリングポンプやエアコンのコンプレッサーの仕事量を増大させたりすればよい。スロットル開度を開くことで空気量が増し、通常は回転数・トルクが増大するが、補機等の負荷が増加することで、回転数の増加が抑えられるため、トルクの上昇は抑制される。このため、始動に先立ってサブエンジン2の回転数が増大することによる騒音や振動の発生が抑制される。
【0056】
その後のステップS4〜S7の処理は、第1の制御形態と共通する。結合が完了したと判定したら、増加させていた補機等の負荷を減少させる(ステップS22)。これにより、トルク抑制が解除され、サブエンジン2のトルクは瞬時に増大するが、メインエンジン1が係合されているため、その回転数は略同一に維持される。これにより、メインエンジン1を確実に始動することができる。このとき、補機の負荷を通常時より軽減するとサブエンジン2のトルクのうち、メインエンジン1の始動に用いることのできるトルク量が増大できるので好ましい。
【0057】
続く、ステップS9では、メインエンジン1の始動完了まで待機し、メインエンジン1の始動が完了したら、スロットルバルブ23を絞っていき(ステップS23)処理を終了する。メインエンジン1の始動時に補機等の負荷を通常時より軽減していた場合には、ここで補機等の負荷を通常時に戻すとよい。
【0058】
本制御形態でも、応答性の劣る吸入空気量については予め増大しておき、応答性のよい補機等の負荷を調整することで、メインエンジン1との係合前はサブエンジン2の回転数・トルクの上昇を抑制しておき、係合の際に補機等の負荷を減少させることで一気にトルクを増大せしめ、メインエンジン1を確実に始動させることができる。そして、サブエンジン2からの騒音・振動の発生を効果的に抑制できる。
【0059】
これら、第1〜第4の制御形態を適宜組み合わせたり、置き換えたりしてもよい。例えば、第1、第3の制御形態を組み合わせて、トルク抑制を燃料噴射量と点火時期の両方で行うようにするといずれか一方のみで行う場合に比べて調整量を大きくすることができる。
【0060】
また、以上の説明では、始動要求後にスロットル開度を開けて、トルク抑制制御を実行し、電磁クラッチの係合が完了してからトルク抑制を解除して、トルクを増大させる制御を説明してきたが、制御タイミングはこれに限られるものではない。
【0061】
例えば、信号待ち等でメインエンジン1を停止させている場合には、停止中はサブエンジン2のスロットル開度を開き、トルク抑制制御を実行しておき、運転者が発進操作をした段階で、電磁クラッチを係合し、トルク抑制を解除するようにしてもよい。このようにすると、発進時の始動性が向上する。また、トルク抑制の解除は、電磁クラッチの係合が完了した直後に限られるものではない。電磁クラッチの係合指令に若干先立って行うか、係合指令と同時にトルク抑制の解除を行ってもよいし、電磁クラッチ71が係合してからクラッチのすべりにより、メインエンジン1の駆動が始まる間に行ってもよい。また、この間に徐々にトルク抑制を解除してもよい。
【0062】
ここでは、ガソリンを燃料として、吸気管12、22に燃料を噴射して予混合気を形成するタイプのメインエンジン1、サブエンジン2について説明したが、いずれか、または、両方を燃料を筒内に直接噴射するタイプのエンジンとしてもよい。また、ディーゼルエンジンやLPG(液化石油ガス)等を燃料とする複数内燃機関に対しても本発明は好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明にかかる排ガス浄化装置を備えた車両の駆動系の概略構成図である。
【図2】図1のサブエンジン2本体の概略構成図である。
【図3】図1のメインエンジン1の始動・再始動制御の第1の制御形態を示すフローチャートである。
【図4】図3の制御時のタイミングチャートである。
【図5】電動モータとガソリンエンジンにおける典型的な回転数−トルク特性を比較したグラフである。
【図6】図1のメインエンジン1の始動・再始動制御の第2の制御形態を示すフローチャートである。
【図7】図6の制御時のタイミングチャートである。
【図8】図1のメインエンジン1の始動・再始動制御の第3の制御形態を示すフローチャートである。
【図9】図1のメインエンジン1の始動・再始動制御の第4の制御形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1…メインエンジン、2…サブエンジン、3…トランスミッション、5…エンジンECU、6…燃料タンク、11、21…エアクリーナ、12、22…吸気管、13、23…スロットルバルブ、14、24…燃料噴射弁、15…吸気マニホールド、16…排気マニホールド、17、27…排気管、18…集合部、40…排気浄化触媒、41…温度センサ、42…Oセンサ、44…マフラー、70…スタータモータ、71、80…電磁クラッチ、81…ベルトドライブ、200…シリンダブロック、201…シリンダ、202…ピストン、204…燃焼室、205…点火プラグ、206…吸気弁、207…排気弁、208…各駆動部、208…吸気弁駆動部、209…排気弁駆動部、210…シリンダヘッド、215…クランク角センサ、220…クランクシャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用のメインエンジンと、前記メインエンジンとは別に独立して設けられた補機駆動用のサブエンジンと、前記サブエンジンと前記メインエンジンの出力軸の係合/非係合を切り替えるとともに、切り替え時に両者間の動力伝達を可能とする動力伝達機構と、前記動力伝達機構を係合状態に切り替えて前記サブエンジンにより前記メインエンジンを駆動して前記メインエンジンの始動を行うメインエンジン始動手段と、を備える複数内燃機関において、
前記メインエンジン始動手段による前記メインエンジンの始動操作に先立って前記サブエンジンの吸気量を所定の第1吸気量よりも増加させる吸気量増加手段と、
前記吸気量増加手段による吸気量増加に伴う前記サブエンジンのトルク上昇を抑制するトルク上昇抑制手段と、
前記メインエンジン始動手段による前記メインエンジンの始動の際に、前記トルク上昇抑制手段の作動を停止させるトルク抑制停止手段と、
を備えていることを特徴とする複数内燃機関。
【請求項2】
前記トルク上昇抑制手段は、前記第1吸気量に対する吸気量の増加量が多いほど前記サブエンジンの点火時期を遅角させることを特徴とする請求項1記載の複数内燃機関。
【請求項3】
前記トルク上昇抑制手段は、前記第1吸気量に対する吸気量の増加量が多いほど前記サブエンジンへの燃料供給量を減少させることを特徴とする請求項1記載の複数内燃機関。
【請求項4】
前記トルク上昇抑制手段は、前記第1吸気量に対する吸気量の増加量が多いほど前記サブエンジンの負荷を増大させることを特徴とする請求項1記載の複数内燃機関。
【請求項5】
前記吸気量増加手段による増加後の吸気量は、前記トルク上昇抑制手段によるトルク上昇抑制量に応じて設定され、設定された増加後の吸気量が前記メインエンジン始動時の目標吸気量を下回る値に設定された場合は、前記吸気量増加手段は、前記トルク抑制停止手段により前記トルク上昇抑制手段の作動を停止させる際に、前記サブエンジンの吸気量を所定目標空気量まで増大させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複数内燃機関。
【請求項6】
前記メインエンジン始動手段は、前記動力伝達機構を非係合状態に切り替えた後、前記サブエンジンの吸気量が前記第1吸気量まで減少するまでの間、前記トルク上昇抑制手段を作動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複数内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−29211(P2006−29211A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209097(P2004−209097)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】