説明

計測装置

【課題】計測装置の測長軸の調整を不要とし、簡便な取り付け及び光学素子の汚染防止の点で有利な技術を提供する。
【解決手段】参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置であって、光源からの光を分割させる光分割素子と、前記参照面、前記被検面及び前記光分割素子を内部に収納すると共に、前記内部において前記参照面及び前記光分割素子を固定するハウジングと、前記ハウジングの外部に設けられ、前記光分割素子から前記参照面までの第1の光路長と前記光分割素子から前記被検面までの第2の光路長とが等しくなるときの前記被検面の位置を示す測長基点を表示する第1の表示部と、前記ハウジングの外部に設けられ、前記第2の光の光路に平行な軸を示す測長軸を表示する第2の表示部と、前記参照面と前記被検面からの反射光との干渉信号から前記参照面と前記被検面との間の距離を算出する処理部と、を有することを特徴とする計測装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械装置などにおいて、距離の計測に使用可能な高精度、且つ、高分解能を実現する測長システムとして、レーザ干渉計(計測装置)が知られている(非特許文献1参照)。工作機械装置においてレーザ干渉計を使用する際には、工作機械装置で発生する油など(即ち、光学素子を汚染する汚染物質)からのレーザ干渉計の保護、及び、工作機械装置で発生する熱などに起因した温度変化に対する測長値の保証が重要になる。
【0003】
そこで、非特許文献1では、レーザ干渉計を構成する各光学素子を工作機械装置に組み込んだ(取り付けた)後に、レーザ干渉計の全体を覆うカバーを取り付け可能とする技術が提案されている。また、非特許文献1では、カバーの内部をクリーンドライエアでパージすることで、レーザ干渉計の計測環境のクリーン化を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】HS10 Laser scale system technical manual (RENISHAW社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のレーザ干渉計では、測長基準となる参照面と被検面とが別体として工作機械装置に組み込まれるため、レーザ干渉計を覆うカバーを取り付ける前に、レーザ干渉計の光軸(測長軸)を工作機械装置上で調整することが不可欠となる。その結果、レーザ干渉計の組み込みに時間を要すると共に、レーザ干渉計(を構成する光学素子)が汚染度の高い工作機械装置の環境内に長時間曝されるため、光学素子の汚染リスクを高めてしまっていた。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、計測装置の測長軸の調整を不要とし、簡便な取り付け及び光学素子の汚染防止の点で有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての計測装置は、参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置であって、光源からの光を第1の光と第2の光とに分割し、前記第1の光を前記参照面に入射させ、前記第2の光を前記被検面に入射させる光分割素子と、前記参照面、前記被検面及び前記光分割素子を内部に収納すると共に、前記内部において前記参照面及び前記光分割素子を固定するハウジングと、前記ハウジングの外部に設けられ、前記光分割素子から前記参照面までの前記第1の光の光路長と前記光分割素子から前記被検面までの前記第2の光の光路長とが等しくなるときの前記被検面の位置を示す測長基点を表示する第1の表示部と、前記ハウジングの外部に設けられ、前記第2の光の光路に平行な軸を示す測長軸を表示する第2の表示部と、前記参照面で反射された前記第1の光と前記被検面で反射された前記第2の光との干渉信号から得られる前記参照面と前記被検面との間の光路長に対応する位相に基づいて、前記参照面と前記被検面との間の距離を算出する処理部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、計測装置の測長軸の調整を不要とし、簡便な取り付け及び光学素子の汚染防止の点で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態における計測装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す計測装置の位相検出部の構成を示す概略図である。
【図3】レーザ干渉計における測長基点と測長軸との関係を示す図である。
【図4】図1に示す計測装置の取り付けを説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における計測装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態における計測装置1の構成を示す概略図である。計測装置1は、参照面と被検面との間の距離を計測する光波干渉計測装置である。計測装置1は、光源101と、ファイバ102と、コリメータユニット103と、偏光ビームスプリッタ(PBS)104と、参照面105と、ベンダー106と、被検面107と、位相検出部108と、処理部109とを有する。また、計測装置1は、PBS104、参照面105、ベンダー106、被検面107を収納するための中空ハウジング110と、キャリッジ111とを有する。また、計測装置1は、中空ハウジング110の外部から測長座標を明示するために、測長軸を表示する測長軸表示部(第2の表示部)112と、測長基点を表示する測長基点表示部(第1の表示部)113とを有する。また、計測装置1は、環境検出部115と、チューブ116と、シール117とを有する。
【0013】
光源101から射出された光は、ファイバ102を介して、コリメータユニット103に伝播される。コリメータユニット103は、中空ハウジング110に保持され、光源101からの光を空間伝播の平行光に変換する。光源101は、本実施形態では、波長が安定化された単一縦周波数レーザを使用し、光源101からは、直線偏光を有する光が射出される。但し、光源101は、ヨウ素安定化HeNeレーザやガス吸収線などに安定化されたDFB(Distributed Feed−Back)レーザを使用してもよい。ファイバ102は、安定した偏光の伝播を実現するために、偏波面保存タイプのシングルモードファイバを使用する。
【0014】
PBS104は、コリメータユニット103からの光を2つの光(第1の光及び第2の光)に分割する。PBS104で分割される2つの光のうち、PBS104で反射される光(第1の光)は、参照面105に入射し、PBS104を透過する光(第2の光)は、被検面107に入射する。このように、PBS104は、光源101からの光を2つの光に分割し、一方の光を参照面105に入射させ、他方の光を被検面107に入射させる光分割素子として機能する。コリメータユニット103から射出される光の直線偏光の角度を、PBS104の偏光軸に対して45度にすることで、PBS104で反射される光の光量とPBS104を透過する光の光量とを等しくすることができる。
【0015】
参照面105は、ブラケット(不図示)を介して、中空ハウジング110(の内部)に固定されている(取り付けられている)。参照面105は、例えば、複数の反射面からなるコーナキューブで構成され、PBS104からの光(PBS104で反射された光)を入射角度と同一の角度で反射する。参照面105で反射された光(以下、「参照光」とする)は、PBS104で反射され、位相検出部108に入射する。
【0016】
被検面107は、例えば、複数の反射面からなるコーナキューブで構成され、PBS104からの光(PBS104を透過した光)を入射角度と同一の角度で反射する。被検面107で反射された光(以下、「被検光」とする)は、PBS104を透過し、位相検出部108に入射する。本実施形態では、光の伝播方向を偏向するベンダー106がPBS104と被検面107との間の光路に配置され、被検面107とベンダー106との間の光路における被検光と参照面105とPBS104との間の光路における参照光とを平行にしている。ここで、被検面107は、被検体を載置するキャリッジ111に固定されている(取り付けられている)。また、キャリッジ111の移動と中空ハウジング110(の内部)の気密性とを両立させるために、中空ハウジング110におけるキャリッジ111の移動範囲は、シール117で保護されている。なお、計測装置1を使用していない状態において、キャリッジ111が中空ハウジング110から滑落することを防止するために、キャリッジ111は、中空ハウジング110の内部に設けられたガイド(不図示)で緩く拘束されている。
【0017】
位相検出部108は、参照光と被検光との干渉光を検出し、かかる干渉光に対応する干渉信号(参照光と被検光との干渉信号)を生成する。図2は、位相検出部108の構成を示す概略図である。位相検出部108は、λ/4板221と、グレーティングビームスプリッタ222と、偏光子アレイ223と、3つの既知の位相差の干渉信号を検出するための3つの光量検出器224a、224b及び224cとを含む。
【0018】
位相検出部108に入射する被検光と参照光とは、互いに直交する直線偏光を有し、偏光方向に対して45度の角度に軸を有するλ/4板221を透過して、それぞれ右回りの円偏光と左回りの円偏光とに変換される。グレーティングビームスプリッタ222は、位相型の回折格子で構成され、λ/4板221を透過した光を3つの光(0次光及び±1次光)に均等に分割する。
【0019】
グレーティングビームスプリッタ222で分割された光は、それぞれの光に対して異なる透過軸を有する偏光子となるように構成された偏光子アレイ223を透過し、光量検出器224a、224b及び224cで検出される。光量検出器224a、224b及び224cのそれぞれで検出される干渉信号Ia、Ib及びIcは、偏光子アレイ223における偏光子の透過軸の角度に応じた既知の位相差を含む信号となる。例えば、既知の位相差を120度とすると、光量検出器224a、224b及び224cのそれぞれで検出される干渉信号Ia、Ib及びIcは、以下の式(1)で表される。ここでは、被検光と参照光との間の光路長(光路長差)に対応する位相差をφとしている。
【0020】
【数1】

【0021】
処理部109は、位相検出部108の検出結果(即ち、被検光と参照光との干渉信号)から、参照面105と被検面107との間の距離を算出する。処理部109は、例えば、AD変換回路を介して、式(1)で表される3つの干渉信号Ia、Ib及びIcをデジタル化し、以下の式(2)に従って、参照光と被検光との位相差φを波長単位で算出する。
【0022】
【数2】

【0023】
本実施形態では、被検光と参照光との干渉信号の検出方式として、複数の既知の位相差を含む干渉信号を同時に検出するホモダイン検出を採用しているが、被検光の波長と参照光の波長とをわずかにずらしてビート信号を検出するヘテロダイン検出を採用してもよい。
【0024】
また、処理部109は、環境検出部115の検出結果に基づいて、被検光の光路(の媒質)の屈折率を求める。環境検出部115は、中空ハウジング110の内部をパージするためのチューブ116(の吹き出し口)の近傍に配置される。環境検出部115は、中空ハウジング110の内部の環境を検出する様々なセンサを含み、少なくとも、中空ハウジング110の内部の温度及び気圧を検出する。本実施形態では、チューブ116からは、湿度が十分に低く、且つ、計測装置1が配置される雰囲気内(例えば、工作機械装置内)のオイルミストを除去したドライクリーンエアが吹き出されるものとする。処理部109は、環境検出部115で検出された温度t[℃]及び気圧p[Pa]からEdlenの式を用いて、以下の式3で表される被検光の光路の屈折率n(λ)を求める。
【0025】
【数3】

【0026】
そして、処理部109は、参照面105と被検面107との間の光路長に対応する位相を被検光の光路の屈折率で除算することで参照面105と被検面107との間の幾何学的な距離を算出する。具体的には、処理部109は、光源101からの光の波長λ、参照光と被検光との位相差φ及び被検光の光路の屈折率n(λ)を用いて、以下の式(4)から参照面105と被検面107との間の幾何学的な距離Dを算出する。ここで、Nは、整数値の干渉次数である。
【0027】
【数4】

【0028】
本実施形態では、被検光の光路の屈折率を求める際に、中空ハウジング110の内部の温度及び気圧と被検光の光路の屈折率との関係を表すモデル式を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、同一距離を有する真空光路と大気光路との測長値差を計測する差分干渉計を中空ハウジング110の内部に配置して屈折率を計測することでモデル式の精度に起因する誤差を補正することが可能である。また、中空ハウジング110の内部の屈折率分布が無視できない場合には、2波長干渉計と空気の屈折率分散(既知の分散特性)を利用して屈折率を補正する方法、所謂、2色法を採用してもよい。2色法では、湿度による空気の屈折率分散が代表的な精度阻害要因となるが、クリーンドライエアでパージされた環境においては、その影響を低減することができる。なお、湿度の影響を補正する必要がある場合には、水蒸気の赤外吸収を利用して測長光路と同一光路における水蒸気圧を計測し、かかる計測結果に基づいて空気の屈折率分散を補正することで、湿潤環境下においても高精度な2色法を実現することができる。
【0029】
本実施形態では、処理部109で求められる参照光と被検光との位相差φは端数(0〜1[wave])であるため、位相検出部108の検出結果のみから干渉次数Nを決定することができない。干渉次数Nを決定するためには、被検面107が既知の位置に存在することを示すリミットセンサ(不図示)を配置すればよい。そして、被検面107がリミットセンサを通過したときに干渉次数をリセットし、それ以降は、位相検出部108の検出結果(履歴)に基づいて干渉次数を増減させる。なお、計測装置1のシャットダウンなどで位相検出部108による干渉信号の検出が途切れない限り、干渉次数の再リセットは不要である。
【0030】
また、互いに異なる複数の波長の光を射出する光源を光源101に用いることで、計測装置1は、参照面105と被検面107との間の絶対距離を計測することも可能である。この場合、処理部109は、複数の波長の光のそれぞれについて位相検出部108で検出される干渉信号(即ち、複数の波長の光に対応する複数の干渉信号)から得られる参照面105と被検面107との間の光路長に対応する位相に基づいて、絶対距離を算出する。
【0031】
計測装置1で計測された距離Dは、工作機械装置などにおける被検側基準体と参照側基準体(例えば、図4で後述する被検側基準体432と参照側基準体431)との位置計測に用いることができる。但し、計測装置1の測長基点と測長軸(の方向)を、被検側基準体と参照側基準体のそれらに一致させる必要がある。ここで、測長基点とは、測長の基準となる点であって、計測装置1が熱膨張や熱収縮した際にも測長値が変化しない点であり、特に、工作機械装置内などの温度変化が大きい環境において重要な基準となる。また、測長軸は、測長方向を示す軸である。
【0032】
計測装置1における測長軸及び測長基点について詳細に説明する。レーザ干渉計を用いた計測装置1では、参照光の光路長に対する被検光の光路長により測長を行うため、測長軸は、被検光の光路に平行な軸(被検光の光軸)となる。また、熱膨張や熱収縮により測長値が変化しないための条件(第1条件)は、「測長基点から被検光の光路に向けて垂線を降ろし、被検光の光路と垂線との交点の位置に被検面を配置したときの被検光の光路長が参照光の光路長と等しい」こととなる。また、温度が変化しても第1条件を満たすためには、被検光及び参照光の光路長を構成する硝材光路長と大気光路長とが等しいことが必要となる。従って、「被検光の光路を構成する硝材光路長と参照光の光路を構成する硝材光路長とが等しい」ことも条件(第2条件)となる。但し、第2条件は、温度による硝材の屈折率の変化に起因する光路長の影響に依存する条件であるため、温度を計測してその差を補正すれば必ずしも必要ではない。
【0033】
図3(a)乃至図3(c)は、レーザ干渉計における測長基点と測長軸との関係を示す図である。図3(a)は、マイケルソン干渉計における測長基点と測長軸とを示しており、第2条件を満たしている。図3(a)を参照するに、第1条件を満たす測長基点は、被検光の光路長と被検光の光路長とが等しくなるときの被検面の位置を通り、被検光の光路に垂直な平面A内の任意の点となる。図3(b)は、マイケルソン干渉計の変形例(本実施形態の計測装置1と同様な構成)における測長基点と測長軸とを示しており、測長基点は、平面A内の任意の点となる。図3(b)は、差分干渉計における測長基点と測長軸とを示しており、測長基点は、平面A内の任意の点となる。
【0034】
図3(a)乃至図3(c)から明らかなように、いずれのレーザ干渉計においても、測長基点を測長ストロークの近接端から離すほど、測長基点と光分割素子とが離れる傾向にある。従って、従来技術のように、光分割素子と被検面とが独立した構成では、測長基点及び測長軸を保証することが困難となる。特に、工作機械装置における測長システムでは、測長ストロークの中点に測長基点を設定する場合が多いため、測長基点及び測長軸を保証することができない。
【0035】
本実施形態の計測装置1では、参照面105、被検面107及びPBS104を中空ハウジング110に収納(ユニット化)し、その内部において参照面105及びPBS104を固定することで、測長基点及び測長軸を保証している。具体的には、被検光の光路に平行な軸を示す測長軸は、測長軸表示部112の基準底面112aと基準底面112bとを結ぶ直線で保証される。なお、測長軸表示部112は、中空ハウジング110の外部に設けられる際に、基準底面112aと基準底面112bとを結ぶ直線が被検光の光路に対して所望の平行度となるように調整される。また、PBS104から参照面105までの参照光の光路長とPBS104から被検面107までの被検光の光路長とが等しくなるときの被検面107の位置を示す測長基点は、測長基点表示部113の指標113aで保証される。なお、測長基点表示部113は、中空ハウジング110の外部に設けられる際に、指標113aが第1条件を満たす位置を示すように調整される。
【0036】
本実施形態では、参照面105と測長基点表示部113とは、中空ハウジング110を介して固定されている。但し、参照面105と測長基点表示部113とを連結する連結部材を介して、参照面105と測長基点表示部113とを中空ハウジング110に固定してもよい。この場合、中空ハウジング110と参照面105との位置関係を外部から変更可能とすることで、測長基点の切り替えを容易に行うことができる。
【0037】
図4(a)及び図4(b)を参照して、工作機械装置などへの計測装置1の取り付けについて説明する。図4(a)及び図4(b)は、参照側基準体431を基準として、走り軸に沿って1軸方向のスライドが可能な被検側基準体432の位置を計測装置1が計測する場合を示している。図4(a)は、参照側基準体431及び被検側基準体432に取り付けられた計測装置1の状態を示す図であって、図4(b)は、図4(a)に示す矢印α方向からの計測装置1の状態を示す図である。
【0038】
図4(a)及び図4(b)に示すように、中空ハウジング110を参照側基準体431に取り付け、キャリッジ111を被検側基準体432に取り付ける。この際、被検側基準体432の走り軸と、測長軸表示部112の基準底面112aと基準底面112bとを結ぶ直線とが平行となり、測長基点表示部113の指標113aと参照側基準体431の基準点とが一致するように、中空ハウジング110が取り付けられる。また、温度が変化した場合であっても、測長基点表示部113(指標113a)が参照側基準体431に対して変化しないことが必要であるため、中空ハウジング110は、測長基点表示部113において参照側基準体431に締結される。中空ハウジング110と参照側基準体431との他の締結部には、ヒンジ機構などを設けることで、中空ハウジング110を保持しながら熱変形をかわすようにする。
【0039】
従来技術では、レーザ干渉計を取り付ける際に、レーザ干渉計を構成する光学素子がばらばらに組み込まれるため、被検側基準体の走り軸と測長軸とが一致するように、かかる光学素子を調整しなければならない。一方、本実施形態では、計測装置1を構成するPBS104、参照面105、ベンダー106、被検面107などが中空ハウジング110に収納(ユニット化)され、測長軸を表示する測長軸表示部112が中空ハウジング110の外部に設けられている。従って、計測装置1を取り付ける際には、測長軸表示部112を用いて中空ハウジング110の位置及び姿勢を調整すればよく、計測装置1を構成するPBS104、参照面105、ベンダー106、被検面107などを調整することが不要となる。その結果、計測装置1を容易(簡便)に取り付けることができ、計測装置1の取り付けに要する時間を短縮することが可能となる。また、計測装置1の主な利用用途として想定される工作機械装置の環境、即ち、大気中に油分が含まれやすい環境に計測装置1を構成する光学素子を曝す必要がなくなるため、かかる光学素子の汚染を防止することができる。また、測長基点をメカ的な構成と光学的な構成とで実現しているため、高精度な保証が可能である。
【0040】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の第2の実施形態における計測装置1Aの構成を示す概略図である。計測装置1Aは、参照面と被検面との間の距離に加えて、被検面の姿勢を計測する光波干渉計測装置である。計測装置1Aは、計測装置1と同様な構成を有するが、非偏光ビームスプリッタ(NPBS)130と、ベンダー131と、コーナキューブ132a及び132bとを更に有する。また、計測装置1Aは、位相検出部108の代わりに、第1の位相検出部108aと、第2の位相検出部108bとを有する。
【0041】
NPBS130は、コリメータユニット103からの光を2つの光に分割する。NPBS130で分割される2つの光のうち、NPBS130を透過する光(第1の計測光)は、PBS104に入射し、NPBS130で反射される光(第2の計測光)は、ベンダー131を介して、PBS104に入射する。このように、NPBS130は、光源101からの光を複数の光に分割し、かかる複数の光をPBS104に入射させる光学素子として機能する。
【0042】
NPBS130からの第1の計測光は、PBS104で2つの光に分割される。PBS104で分割された2つの光のうち、PBS104で反射された光(第1の光)は、λ/4板133を透過することで円偏光に変換され、参照面105の位置105aで反射される。参照面105(の位置105a)で反射された光(第1の参照光)は、λ/4板133を再び透過することで直線偏光に変換され、PBS104に入射する。PBS104に入射した第1の参照光は、PBS104を透過してコーナキューブ132aで反射され、PBS104を再び透過する。PBS104を透過した第1の参照光は、λ/4板133、参照面105(の位置105a)、λ/4板133を順に通過してPBS104で反射され、第1の位相検出部108aに入射する。また、PBS104で分割された2つの光のうち、PBS104を透過した光(第2の光)は、λ/4板133を透過し、被検面107の位置107aで反射される。被検面107(の位置107a)で反射された光(第1の被検光)は、λ/4板133及びPBS104を透過してコーナキューブ132aで反射され、PBS104を再び透過する。PBS104を透過した第1の被検光は、λ/4板133、被検面107(の位置107a)、λ/4板133を順に通過してPBS104で反射され、第1の位相検出部108aに入射する。
【0043】
一方、NPBS130からの第2の計測光は、PBS104で2つの光に分割される。PBS104で分割された2つの光のうち、PBS104で反射された光(第1の光)は、λ/4板133を透過することで円偏光に変換され、参照面105の位置105bで反射される。参照面105(の位置105b)で反射された光(第2の参照光)は、λ/4板133を再び透過することで直線偏光に変換され、PBS104に入射する。PBS104に入射した第2の参照光は、PBS104を透過してコーナキューブ132bで反射され、PBS104を再び透過する。PBS104を透過した第2の参照光は、λ/4板133、参照面105(の位置105b)、λ/4板133を順に通過してPBS104で反射され、第2の位相検出部108bに入射する。また、PBS104で分割された2つの光のうち、PBS104を透過した光(第2の光)は、λ/4板133を透過して、被検面107の位置107bで反射される。被検面107(の位置107b)で反射された光(第2の被検光)は、λ/4板133及びPBS104を透過してコーナキューブ132bで反射され、PBS104を再び透過する。PBS104を透過した第2の被検光は、λ/4板133、被検面107(の位置107b)、λ/4板133を順に通過してPBS104で反射され、第2の位相検出部108bに入射する。
【0044】
第1の位相検出部108aは、第1の参照光と第1の被検光との干渉光を検出し、かかる干渉光に対応する干渉信号を生成する。同様に、第2の位相検出部108bは、第2の参照光と第2の被検光との干渉光を検出し、かかる干渉光に対応する干渉信号を生成する。
【0045】
処理部109は、第1の位相検出部108aの検出結果(即ち、第1の被検光と第1の参照光との干渉信号)から、参照面105の位置105aと被検面107の位置107aとの間の距離を算出する。また、処理部109は、第2の位相検出部108bの検出結果(即ち、第2の被検光と第2の参照光との干渉信号)から、参照面105の位置105bと被検面107の位置107bとの間の距離を算出する。このように、本実施形態では、光源101からの光を第1の計測光と第2の計測光とに分割して、被検面107の異なる複数の位置(位置107a及び107b)を測長しているため、被検面107の姿勢を算出することが可能である。例えば、参照面105の位置105aと被検面107の位置107aとの間の距離(第1の計測光による測長結果)をDm1、参照面105の位置105bと被検面107の位置107bとの間の距離(第2の計測光による測長結果)をDm2とする。また、被検面107における位置107aと位置107bとの間の距離をdとする。この場合、処理部109は、以下の式(5)から被検面107の姿勢θを算出する。
【0046】
【数5】

【0047】
キャリッジ111は、第1の実施形態で説明したように、被検側基準体432に取り付けられるため、被検面107の姿勢(姿勢変化)は、被検側基準体432の姿勢(姿勢変化)と等価である。被検面107(被検側基準体432)の姿勢変化に起因する測長誤差は、一般的に、アッベ誤差と呼ばれるが、被検面107(被検側基準体432)の姿勢が式(5)から明らかになれば、その補正が可能となる。
【0048】
このように、本実施形態の計測装置1Aは、複数の測長軸を比較的容易に実現できる干渉計の長所を利用し、被検面107の姿勢を計測することでアッベ誤差の補正を可能にしている。なお、本実施形態では、第1の計測光と第2の計測光のそれぞれを被検面の複数の位置及び参照面の複数の位置に入射させているが、これに限定されるものではない。例えば、第1の計測光に対応する参照面及び被検面と第2の計測光に対応する参照面及び被検面とを別々に配置してもよい。具体的には、第1の計測光及び第2の計測光(複数の計測光)のそれぞれに対応する参照面部分をそれぞれ含み、かかる参照面部分で参照面を形成する複数の参照面部材を配置する。更に、第1の計測光及び第2の計測光(複数の計測光)のそれぞれに対応する被検面部分をそれぞれ含み、かかる被検面部分で被検面を形成する複数の被検面部材を配置する。このような構成であっても、被検面の姿勢を計測することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置であって、
光源からの光を第1の光と第2の光とに分割し、前記第1の光を前記参照面に入射させ、前記第2の光を前記被検面に入射させる光分割素子と、
前記参照面、前記被検面及び前記光分割素子を内部に収納すると共に、前記内部において前記参照面及び前記光分割素子を固定するハウジングと、
前記ハウジングの外部に設けられ、前記光分割素子から前記参照面までの前記第1の光の光路長と前記光分割素子から前記被検面までの前記第2の光の光路長とが等しくなるときの前記被検面の位置を示す測長基点を表示する第1の表示部と、
前記ハウジングの外部に設けられ、前記第2の光の光路に平行な軸を示す測長軸を表示する第2の表示部と、
前記参照面で反射された前記第1の光と前記被検面で反射された前記第2の光との干渉信号から得られる前記参照面と前記被検面との間の光路長に対応する位相に基づいて、前記参照面と前記被検面との間の距離を算出する処理部と、
を有することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記光源からの光を複数の光に分割し、前記複数の光を前記光分割素子に入射させる光学素子を更に有し、
前記光分割素子は、前記複数の光のそれぞれを前記第1の光と前記第2の光とに分割し、複数の前記第1の光のそれぞれを前記参照面の複数の位置に入射させ、複数の前記第2の光のそれぞれを前記被検面の複数の位置に入射させ、
前記処理部は、前記参照面で反射された複数の前記第1の光のそれぞれと前記被検面で反射された複数の前記第2の光のそれぞれとの複数の干渉信号から得られる前記参照面の複数の位置のそれぞれと前記被検面の複数の位置のそれぞれとの間の光路長に対応する位相に基づいて、前記被検面の姿勢を算出することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記光源からの光を複数の光に分割し、前記複数の光を前記光分割素子に入射させる光学素子と、
前記複数の光のそれぞれに対応する複数の参照面部分をそれぞれ含み、前記複数の参照面部分で前記参照面を形成する複数の参照面部材と、
前記複数の光のそれぞれに対応する複数の被検面部分をそれぞれ含み、前記複数の被検面部分で前記被検面を形成する複数の被検面部材と、
を更に有し、
前記光分割素子は、前記複数の光のそれぞれを前記第1の光と前記第2の光とに分割し、複数の前記第1の光のそれぞれを対応する前記複数の参照面部材に入射させ、複数の前記第2の光のそれぞれを対応する前記複数の被検面部材に入射させ、
前記処理部は、前記複数の参照面部材で反射された複数の前記第1の光のそれぞれと前記複数の被検面部材で反射された複数の前記第2の光のそれぞれとの複数の干渉信号から得られる前記複数の参照面部材のそれぞれと前記複数の被検面部材のそれぞれとの間の光路長に対応する位相に基づいて、前記被検面の姿勢を算出することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記参照面と前記第1の表示部とを連結する連結部材を更に有し、
前記参照面及び前記第1の表示部は、前記連結部材を介して、前記内部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項5】
前記光源は、互いに異なる複数の波長の光を射出し、
前記処理部は、前記複数の波長の光のそれぞれにおける前記参照面で反射された前記第1の光と前記被検面で反射された前記第2の光との複数の干渉信号から得られる前記参照面と前記被検面との間の光路長に対応する位相に基づいて、前記参照面と前記被検面との間の絶対距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
前記ハウジングの内部の温度及び気圧を検出する検出部を更に有し、
前記処理部は、前記検出部で検出された温度及び気圧から前記ハウジングの内部の屈折率を求め、前記干渉信号から得られる前記参照面と前記被検面との間の光路長に対応する位相を前記屈折率で除算することで前記参照面と前記被検面との間の幾何学的な距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項7】
前記光源は、互いに異なる複数の波長の光を射出し、
前記処理部は、前記複数の波長の光のそれぞれにおける前記参照面で反射された前記第1の光と前記被検面で反射された前記第2の光との複数の干渉信号から得られる前記参照面と前記被検面との間の光路長に対応する位相と、前記内部の媒質の既知の分散特性とに基づいて、前記参照面と前記被検面との間の幾何学的な距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24748(P2013−24748A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160302(P2011−160302)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】