車両の動力伝達制御装置
【課題】HV−MT車用の動力伝達制御装置において、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生した場合にて運転者の意に反する事態の発生を抑制すること。
【解決手段】この装置の手動変速機は、クラッチC/Tを介して内燃機関E/Gから動力が入力される入力軸Aiと、電動機M/Gから動力が入力される出力軸Aoとを備える。この変速機は、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されない(ニュートラルとは異なる)EV走行用の変速段(EV)と、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されるHV走行用の複数の変速段(2速〜5速)とを有する。この装置では、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサの異常発生時、表示パネルにセンサ異常の表示が行われ、モータM/Tの駆動トルクに制限が加えられ、EV走行(M/Tの駆動トルクのみを利用した走行)が禁止されることによって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【解決手段】この装置の手動変速機は、クラッチC/Tを介して内燃機関E/Gから動力が入力される入力軸Aiと、電動機M/Gから動力が入力される出力軸Aoとを備える。この変速機は、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されない(ニュートラルとは異なる)EV走行用の変速段(EV)と、動力伝達系統がAi−Ao間で確立されるHV走行用の複数の変速段(2速〜5速)とを有する。この装置では、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサの異常発生時、表示パネルにセンサ異常の表示が行われ、モータM/Tの駆動トルクに制限が加えられ、EV走行(M/Tの駆動トルクのみを利用した走行)が禁止されることによって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【0003】
近年、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたハイブリッド車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)に適用される動力伝達制御装置が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0005】
ハイブリッド車両では、内燃機関駆動トルクと電動機駆動トルクの両方を利用して車両が走行する状態(以下、「HV走行」と呼ぶ)が実現され得る。近年、このHV走行に加えて、内燃機関を停止状態(内燃機関の出力軸の回転が停止した状態)に維持しながら電動機駆動トルクのみを利用して車両が走行する状態(以下、「EV走行」と呼ぶ)が実現できるハイブリッド車両が開発されてきている。
【0006】
HV−MT車において、運転者がクラッチペダルを操作しない状態(即ち、クラッチが接合された状態)においてEV走行を実現するためには、変速機の入力軸が回転しない状態を維持しながら変速機の出力軸が電動機駆動トルクにより駆動される必要がある。このためには、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続されることに加え、変速機が「変速機の入力軸と変速機の出力軸との間で動力伝達系統が確立されない状態」に維持される必要がある。
【0007】
以下、「(クラッチを介して)内燃機関から動力が入力される入力軸」と「電動機から動力が入力される(即ち、電動機の出力軸が動力伝達可能に常時接続された)出力軸」とを備えた手動変速機を想定する。この手動変速機では、入力軸・出力軸間での動力伝達系統の確立の有無にかかわらず、電動機駆動トルクを手動変速機の出力軸(従って、駆動輪)に任意に伝達することができる。
【0008】
従って、この手動変速機を利用してHV走行に加えて上記のEV走行を実現するためには、手動変速機の変速段として、HV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立される変速段」(以下、「HV走行用変速段」と呼ぶ)に加えて、EV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない変速段」(ニュートラルとは異なる変速段。以下、「EV走行変速段」と呼ぶ)が設けられる必要がある。
【0009】
即ち、この手動変速機では、シフトレバーをシフトパターン上において複数のHV走行用変速段に対応するそれぞれのHV走行シフト完了位置に移動することにより、入力軸・出力軸間で、「減速比」が対応するHV走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統が確立され、シフトレバーをシフトパターン上においてEV走行用変速段に対応するEV走行シフト完了位置(ニュートラル位置とは異なる)に移動することにより、入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない。
【0010】
ところで、一般に、HV−MT車において、EV走行用の電動機駆動トルクの調整は、シフトレバーがEV走行シフト完了位置にあることが検出され、並びに、摩擦クラッチが接合状態にあることが検出されている場合に実行される。EV走行用の電動機駆動トルクの大きさは、加速操作部材(アクセルペダル)の操作量等に基づいて調整される。
【0011】
通常、シフトレバーがEV走行シフト完了位置にあるか否かはシフトレバーの位置を検出するシフト位置センサによって判定され、摩擦クラッチが接合状態にあるか否かはクラッチペダルの操作量を検出するクラッチ操作量センサによって判定される。従って、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生すると、好ましくない事態が発生し得る。
【0012】
具体的には、例えば、シフト位置センサの異常が発生している場合、シフトレバーが実際にはニュートラル位置にあるにもかかわらずEV走行シフト完了位置にあるとの誤判定がなされ得る。同様に、例えば、クラッチ操作量センサの異常が発生している場合、摩擦クラッチが実際には分断状態にあるにもかかわらず接合状態にあるとの誤判定がなされ得る。これらの場合、EV走行用の電動機駆動トルクの制御が実行されるべきではないにもかかわらず実行され得る。この結果、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ際、運転者の意に反してEV走行用の電動機駆動トルクが駆動輪に作用して、発進しないはずの車両が発進する事態が発生し得る。
【0013】
本発明の目的は、複数の「HV走行変速段」と「EV走行変速段」とを備えた手動変速機を備えたHV−MT車用の動力伝達制御装置であって、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生した場合において運転者の意に反する事態の発生を抑制できるものを提供することにある。
【0014】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置の特徴は、クラッチ操作部材の操作量を検出する第1検出手段(クラッチ操作量センサ)、又は、シフト操作部材の位置を検出する第2検出手段(シフト位置センサ)に異常が発生したと判定されたことに基づいて、前記異常の発生を運転者に知らせるための特定処理が行われることにある。これにより、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生した場合において運転者がその異常の発生を感知することができる。この結果、上述した「発進しないはずの車両が発進する事態」などの「運転者の意に反する事態」の発生が抑制され得る。
【0015】
前記特定処理としては、例えば、前記車両の所定位置に配置された表示パネルを利用して前記異常の発生を知らせるための表示が行われる。或いは、前記車両の所定位置に配置された警告音発生装置を利用して前記異常の発生を知らせるための警告音が発生させられる。
【0016】
また、前記特定処理として、EV走行用又はHV走行用の電動機駆動トルクの制御の実行中において、調整可能な電動機駆動トルクの範囲の上限値を小さくする電動機トルク制限処理が行われる。或いは、前記特定処理として、EV走行を実現不能とするEV走行禁止処理が行われる。これらによっても、運転者にその異常の発生を感知させることができ、且つ、運転者に注意を促すことができる。
【0017】
EV走行禁止処理としては、前記シフト操作部材の前記電動機走行シフト完了位置への移動を禁止する処理、或いは、「車両が停止状態にあるときに内燃機関のアイドリングを停止する停止手段」による「アイドリングの停止」を禁止する処理等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るHV−MT車用の動力伝達制御装置のN位置が選択された状態における概略構成図である。
【図2】N位置が選択された状態におけるS&Sシャフト及び複数のフォークシャフトの位置関係を示した模式図である。
【図3】「スリーブ及びフォークシャフト」とS&Sシャフトとの係合状態を示した模式図である。
【図4】シフトパターンの詳細を示した図である。
【図5】EV位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図6】EV位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図7】2速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図8】2速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図9】3速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図10】3速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図11】4速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図12】4速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図13】5速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図14】5速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図15】車速とMGトルクとの関係を示したグラフである。
【図16】アクセル開度とEGトルクとの関係を示したグラフである。
【図17】クラッチペダルストロークとクラッチトルクとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(以下、「本装置」と呼ぶ)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本装置は、「動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと、摩擦クラッチC/Tとを備えた車両」、即ち、上記「HV−MT車」に適用される。この「HV−MT車」は、前輪駆動車であっても、後輪駆動車であっても、4輪駆動車であってもよい。
【0020】
(全体構成)
先ず、本装置の全体構成について説明する。エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0021】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸Aeから動力が入力される入力軸Aiと、M/Gから動力が入力されるとともに車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸Aoと、を備える。入力軸Ai及び出力軸Aoは互いに平行に配置されている。出力軸Aoは、M/Gの出力軸そのものであってもよいし、M/Gの出力軸と平行であり且つM/Gの出力軸とギヤ列を介して常時動力伝達可能に接続された軸であってもよい。M/Tの構成の詳細は後述する。
【0022】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸AeとM/Tの入力軸Aiとの間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、Aeと一体回転するフライホイールに対する、Aiと一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0023】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサP1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0024】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)が出力軸Aoと一体回転するようになっている。即ち、M/Gの出力軸とM/Tの出力軸Aoとの間では動力伝達系統が常時確立されている。以下、E/Gの出力軸Aeの駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸(出力軸Ao)の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0025】
また、本装置は、クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量、クラッチペダルストローク等)を検出するクラッチ操作量センサP1と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサP2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサP3と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサP4と、を備えている。
【0026】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサP1〜P4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでEGトルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでMGトルクを制御する。
【0027】
(M/Tの構成)
以下、M/Tの構成の詳細について図1〜図4を参照しながら説明する。図1及び図4に示すシフトレバーSLのシフトパターンから理解できるように、本例では、選択される変速段(シフト完了位置)として、前進用の5つの変速段(EV、2速〜5速)、及び後進用の1つの変速段(R)が設けられている。以下、後進用の変速段(R)についての説明は省略する。「EV」は上述したEV走行用変速段であり、「2速」〜「5速」はそれぞれ上述したHV走行用変速段である。以下、説明の便宜上、「N位置」、「EV−2セレクト位置」、「5−Rセレクト位置」を含むセレクト操作が可能な範囲を総称して「ニュートラル範囲」と呼ぶ。
【0028】
M/Tは、スリーブS1、S2、及びS3を備える。S1、S2、及びS3はそれぞれ、出力軸Aoと一体回転する対応するハブに相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に嵌合された、「2速」用のスリーブ、「3速−4速」用のスリーブ、及び「5速」用のスリーブである。
【0029】
図2及び図3に示すように、スリーブS1、S2、及びS3はそれぞれ、フォークシャフトFS1、FS2、及びFS3と(フォークを介して)一体に連結されている。FS1、FS2、及びFS3(従って、S1、S2、及びS3)はそれぞれ、シフトレバーSLの操作と連動するS&Sシャフトに設けられたインナレバーIL(図2、図3を参照)によって軸方向(図2では上下方向、図1及び図3では左右方向)に駆動される。
【0030】
図2及び図3では、S&Sシャフトとして、シフトレバーSLのシフト操作(図1、図4では上下方向の操作)によって軸方向に平行移動し且つシフトレバーSLのセレクト操作(図1、図4では左右方向の操作)によって軸中心に回動する「セレクト回転型」が示されているが、SLのシフト操作によって軸中心に回動し且つSLのセレクト操作によって軸方向に平行移動する「シフト回転型」が使用されてもよい。
【0031】
図3に示すように、FS1、FS2、及びFS3にはそれぞれ、シフトヘッドH1、H2、及びH3が一体に設けられている。SLの位置がシフト操作(車両前後方向の操作)によって「ニュートラル範囲」から車両前方側及び後方側の何れの方向に移動しても、即ち、インナレバーILの軸方向位置(図3における左右方向の位置)が、SLの「ニュートラル範囲」に対応する基準位置から何れの方向に移動しても、ILがH1、H2、及びH3のうち選択された何れか一つを軸方向に押圧することによって、FS1、FS2、及びFS3(従って、S1、S2、及びS3)のうち選択された何れか一つが「中立位置」から移動する。以下、各変速段について順に説明していく。
【0032】
図1、2に示すように、シフトレバーSLが「N位置」(より正確には、ニュートラル領域)にある状態では、スリーブS1、S2、及びS3の全てが「中立位置」にある。この状態では、S1、S2、及びS3はそれぞれ、対応する何れの遊転ギヤとも係合していない。即ち、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されない。
【0033】
図5、6に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から(EV−2セレクト位置を経由して)「EVのシフト完了位置」に移動すると、S&SシャフトのILがFS1に連結されたヘッドH1の「EV側係合部」を「EV」方向(図6では上方向)に駆動することによって、FS1(従って、S1)のみが(図6では上方向、図5では右方向)に駆動される。この結果、スリーブS1が「EV位置」に移動する。スリーブS2、S3はそれぞれ「中立位置」にある。
【0034】
この状態では、S1と係合する遊転ギヤが存在しない。従って、図5に太い実線で示すように、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されず、M/Gと出力軸Aoとの間でのみ動力伝達系統が確立される。即ち、「EV」が選択された場合、E/Gを停止状態(E/Gの出力軸Aeの回転が停止した状態)に維持しながらMGトルクのみを利用して車両が走行する状態(即ち、上記「EV走行」)が実現される。即ち、この車両では、「EV」を選択することにより、EV走行による発進が可能である。この点において「EV位置」は、発進用に通常使用される「1速」に相当する。なお、「N位置」(ニュートラル領域)と「EV位置」との識別は、シフト位置センサP4の検出結果に基づいて達成される。
【0035】
図7、8に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から(EV−2セレクト位置を経由して)「2速のシフト完了位置」に移動すると、S&SシャフトのILがFS1に連結されたヘッドH1の「2速側係合部」を「2速」方向(図8では下方向)に駆動することによって、FS1(従って、S1)のみが(図8では下方向、図7では左方向)に駆動される。この結果、スリーブS1が「2速位置」に移動する。スリーブS2、S3はそれぞれ「中立位置」にある。
【0036】
この状態では、S1は、遊転ギヤG2oと係合し、遊転ギヤG2oを出力軸Aoに対して相対回転不能に固定している。また、遊転ギヤG2oは、入力軸Aiに固定された固定ギヤG2iと常時噛合している。この結果、図7に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、G2i及びG2oを介して「2速」に対応する動力伝達系統が確立される。即ち、「2速」が選択された場合、クラッチC/Tを介して伝達されるEGトルクと、MGトルクとの両方を利用して車両が走行する状態(即ち、上記「HV走行」)が実現される。
【0037】
以下、図9〜図14に示すように、シフトレバーSLが「3速」、「4速」又は「5速」にある場合も、「2速」の場合と同様、上記「HV走行」が実現される。即ち、「3速」、「4速」、「5速」ではそれぞれ、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、「G3i及びG3o」、「G4i及びG4o」、「G5i及びG5o」を介して、「3速」、「4速」、「5速」に対応する動力伝達系統が確立される。
【0038】
以上、本例では、「EV」のみがEV走行用の変速段であり、「2速」〜「5速」はHV走行用の変速段である。EGトルクの伝達系統について、「Aoの回転速度に対するAiの回転速度の割合」を「MT減速比」と呼ぶものとすると、「2速」から「5速」に向けてMT減速比(GNoの歯数/GNiの歯数)(N:2〜5)が次第に小さくなっていく。
【0039】
なお、上記の例では、スリーブS1〜S3の軸方向位置は、シフトレバーSLとスリーブS1〜S3とを機械的に連結するリンク機構(S&Sシャフトとフォークシャフト)等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に調整されている。これに対し、スリーブS1〜S3の軸方向位置が、シフト位置センサP4の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0040】
(E/Gの制御)
本装置によるE/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」又は「EV」が選択されているとき、E/Gが停止状態(燃料噴射がなされない状態)に維持される。E/Gの停止状態(EGトルク=0)において、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいて、E/Gが始動される(燃料噴射が開始される)。E/Gの稼働中(燃料噴射がなされている間)では、アクセル開度に基づいてEGトルクの大きさが制御される。E/Gの稼働中において、「N」又は「EV」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、E/Gが再び停止状態(EGトルク=0)に維持される。
【0041】
(M/Gの制御)
本装置によるM/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」が選択されているとき、M/Gが停止状態(MGトルク=0)に維持される。この状態にて、「EV」が選択されたことに基づいてEV走行用のMGトルク制御が実行され、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいてHV走行用のMGトルク制御が実行される。EV走行用のMGトルク制御、並びにHV走行用のMGトルク制御では、MGトルクは、アクセル開度及びクラッチペダルストロークに基づいて制御される。MGトルクは、クラッチペダルストロークが摩擦クラッチC/Tの分断状態に対応する範囲内にあるときには、ゼロに維持される。MGトルクは、クラッチペダルストロークが摩擦クラッチC/Tの接合状態(半接合状態、及び完全接合状態)に対応する範囲内にあるときには、アクセル開度に基づいてゼロより大きい値に調整され得る。この状態にて、「N」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、M/Gが再び停止状態(MGトルク=0)に維持される。
【0042】
以上、E/Gの制御、及びM/Gの制御において、クラッチペダルストロークはクラッチ操作量センサP1の検出結果に基づいて、何れの変速段が「選択」されているかはシフト位置センサP4の検出結果に基づいて、アクセル開度はアクセル操作量センサP3の検出結果に基づいて取得される。
【0043】
(シフト位置センサ及びクラッチ操作量センサの異常時の対処)
上述したように、本装置では、EV走行用のMGトルクの調整は、シフト位置センサP4の検出結果に基づいてシフトレバーSLが「EVのシフト完了位置」にあると判定され、且つ、クラッチ操作量センサP1の検出結果に基づいて摩擦クラッチC/Tが接合状態(半接合状態、又は完全接合状態)にあると判定されている場合に実行される。
【0044】
従って、発明の概要の欄で述べたように、シフト位置センサP4の異常の発生、又はクラッチ操作量センサP1の異常の発生に起因して、EV走行用のMGトルク制御が実行されるべきではないにもかかわらず実行され得る。この結果、運転者がアクセルペダルAPを踏み込んだ際、運転者の意に反してEV走行用のMGトルクが駆動輪に作用して、発進しないはずの車両が発進する事態が発生し得る。
【0045】
係る問題に対処するため、本装置では、シフト位置センサP4、又はクラッチ操作量センサP1に異常が発生したと判定された場合、運転者にセンサ異常の発生を感知させるために種々の処理(特定処理)が実行される。なお、センサ異常が発生したとの判定は、周知の手法の一つ(例えば、2系統の出力値の差が所定値を超えたこと)に従って判定される。以下、種々の特定処理について順に説明する。
【0046】
<表示パネルへの表示等>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、車両の所定位置に配置された表示パネル(図1のD1を参照)を利用して、センサ異常の発生を知らせるための表示が行われる。或いは、車両の所定位置に配置された警告音発生装置(図1のD2を参照)を利用して、センサ異常の発生を知らせるための警告音が発生させられる。これらによって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0047】
<MGトルクの制限>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、MGトルクの調整可能範囲の上限値が小さくされる処理(MGトルク制限処理)が行われる。MGトルク制限処理は、EV走行用のMGトルク制御の実行中であっても、HV走行用のMGトルク制御の実行中であっても実行され得る。このMGトルク制限処理の実行によって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0048】
図15は、MGトルクの上限値の特性の一例を示す。図15に示す例では、センサP1及びP4に異常が発生していないと判定された場合、MGトルクは、「通常時上限値」(図中の実線を参照)を超えない範囲内でアクセル開度に応じて調整される。
【0049】
一方、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、MGトルク制限処理の実行によって、MGトルクは、「通常時上限値」よりも小さい「故障時上限値」(図中の破線を参照)を超えない範囲内でアクセル開度に応じて調整される。この場合、車速が値V1を超えると、上限値がゼロに維持されるのでMGトルクはゼロに維持される。図中のハッチングされた領域は、MGトルク制限処理によるMGトルクの上限値の低減量を示す。なお、車速(従って、M/Gの回転速度)が増大するほど「通常時上限値」及び「故障時上限値」が減少するのは、モータM/Gが発生し得る最大トルクがモータM/Gの回転速度の増大に応じて減少することに基づく。
【0050】
<EV走行の禁止>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、EV走行を禁止するための処理(EV走行禁止処理)がなされる。このEV走行禁止処理の実行によって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0051】
具体的には、EV走行禁止処理として、シフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を禁止する処理がなされ得る。この処理によって、EV走行が禁止される。この処理は、例えば、EVシフト禁止装置W(図4の破線を参照)を用いて実行される。EVシフト禁止装置Wは、例えば、シフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を直接防止する装置、或いは、S&Sシャフトの「EVシフト完了位置」に対応する位置への移動を禁止することによってシフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を間接的に防止する装置等であり、周知のソレノイド等を利用して構成され得る。
【0052】
また、車両が停止状態にあるときにE/Gのアイドリングを停止する停止手段が備えられている場合、EV走行禁止処理として、停止手段による「E/Gのアイドリングの停止」を禁止する処理がなされ得る。EV走行中はE/Gのアイドリングが停止される。従って、「E/Gのアイドリングの停止」を禁止することは、EV走行の禁止を意味する。
【0053】
上述したEV走行禁止処理は、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合において、車速に係わらずに常に実行されてもよい。或いは、上述した「MGトルク制限処理」の実行中においては、上述したEV走行禁止処理は、車速が図15に示す値V1以上のとき(即ち、MGトルクがゼロに維持される領域)にのみ実行されてもよい。これにより、「EVシフト完了位置」への無駄なシフト操作の実行が抑制される。
【0054】
また、EV走行禁止処理の実行中は、EV走行による車両の発進が不能となるので、「2速」などのHV走行用の変速段を利用して車両を発進させる必要がある。従って、車両発進の際、駆動トルクが不足気味となる。この駆動トルクの不足を補償するため、M/Gによるアシストトルクを駆動輪に付与してもよい。
【0055】
このアシストトルクを付与するためには、具体的には、MGトルクが、センサP1及びP4に異常が発生していない通常時に決定される値(即ち、上述したEV走行用のMGトルク制御、又はHV走行用のMGトルク制御によって決定される値。ゼロの場合を含む。)にアシストトルク分を加えた値に調整される。
【0056】
アシストトルク分は、例えば、アクセル開度、及びクラッチペダルストロークに基づいて算出され得る。この場合、アクセル操作量センサP3の検出結果に基づいて運転者が要求する駆動トルク(要求駆動トルクR)が算出される。また、実際の駆動トルク(実駆動トルクF)が、例えば、図16に示すマップにアクセル操作量センサP3の検出結果から得られるアクセル開度を代入して得られるEGトルクTeと、図17に示すマップにクラッチ操作量センサP1(正常の場合)の検出結果から得られるクラッチペダルストロークを代入して得られるクラッチトルクTcと、のうち小さい方の値に決定され得る。なお、クラッチトルクTcとは、摩擦クラッチC/Tが伝達し得るトルクの最大値である。アシストトルク分は、要求駆動トルクRから実駆動トルクFを減じて得られる値に決定され得る。
【0057】
また、アシストトルク分は、アクセル開度及びクラッチペダルストロークに加えて、或いはこれらに代えて、車速、路面の勾配等に基づいて算出され得る。センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合において、上述した種々の特定処理の全てが同時に実行されてもよいし、何れか1つのみが実行されてもよいし、何れか2つ以上が実行されてもよい。
【0058】
(作用・効果)
上記のように、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置では、シフト位置センサP4、又はクラッチ操作量センサP1に異常が発生したと判定された場合、運転者にセンサ異常の発生を感知させるために種々の処理(特定処理)が実行される。この結果、運転者がそのセンサ異常の発生を感知することができる。この結果、上述した「発進しないはずの車両が発進する事態」などの「運転者の意に反する事態」の発生が抑制され得る。
【0059】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、スリーブS1〜S3が共に入力軸Aiに設けられているが、スリーブS1〜S3が共に出力軸Aoに設けられていてもよい。また、スリーブS1〜S3のうちの一部が出力軸Aoに残りが入力軸Aiに設けられていてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、スリーブS1(前記「特定スリーブ」)の軸方向位置によって「EV」と「2速」とが切り替えられるようになっているが、スリーブS1の軸方向位置によって「EV」と「2速以外のHV走行用変速段」(「3速」〜「5速」の何れか)が切り替えられるように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、Ae…エンジンの出力軸、Ai…変速機の入力軸、Ao…変速機の出力軸、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、P1…クラッチ操作量センサ、P3…アクセル操作量センサ、P4…シフト位置センサ、ECU…電子制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【0003】
近年、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたハイブリッド車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)に適用される動力伝達制御装置が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0005】
ハイブリッド車両では、内燃機関駆動トルクと電動機駆動トルクの両方を利用して車両が走行する状態(以下、「HV走行」と呼ぶ)が実現され得る。近年、このHV走行に加えて、内燃機関を停止状態(内燃機関の出力軸の回転が停止した状態)に維持しながら電動機駆動トルクのみを利用して車両が走行する状態(以下、「EV走行」と呼ぶ)が実現できるハイブリッド車両が開発されてきている。
【0006】
HV−MT車において、運転者がクラッチペダルを操作しない状態(即ち、クラッチが接合された状態)においてEV走行を実現するためには、変速機の入力軸が回転しない状態を維持しながら変速機の出力軸が電動機駆動トルクにより駆動される必要がある。このためには、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続されることに加え、変速機が「変速機の入力軸と変速機の出力軸との間で動力伝達系統が確立されない状態」に維持される必要がある。
【0007】
以下、「(クラッチを介して)内燃機関から動力が入力される入力軸」と「電動機から動力が入力される(即ち、電動機の出力軸が動力伝達可能に常時接続された)出力軸」とを備えた手動変速機を想定する。この手動変速機では、入力軸・出力軸間での動力伝達系統の確立の有無にかかわらず、電動機駆動トルクを手動変速機の出力軸(従って、駆動輪)に任意に伝達することができる。
【0008】
従って、この手動変速機を利用してHV走行に加えて上記のEV走行を実現するためには、手動変速機の変速段として、HV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立される変速段」(以下、「HV走行用変速段」と呼ぶ)に加えて、EV走行用の「変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない変速段」(ニュートラルとは異なる変速段。以下、「EV走行変速段」と呼ぶ)が設けられる必要がある。
【0009】
即ち、この手動変速機では、シフトレバーをシフトパターン上において複数のHV走行用変速段に対応するそれぞれのHV走行シフト完了位置に移動することにより、入力軸・出力軸間で、「減速比」が対応するHV走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統が確立され、シフトレバーをシフトパターン上においてEV走行用変速段に対応するEV走行シフト完了位置(ニュートラル位置とは異なる)に移動することにより、入力軸・出力軸間で動力伝達系統が確立されない。
【0010】
ところで、一般に、HV−MT車において、EV走行用の電動機駆動トルクの調整は、シフトレバーがEV走行シフト完了位置にあることが検出され、並びに、摩擦クラッチが接合状態にあることが検出されている場合に実行される。EV走行用の電動機駆動トルクの大きさは、加速操作部材(アクセルペダル)の操作量等に基づいて調整される。
【0011】
通常、シフトレバーがEV走行シフト完了位置にあるか否かはシフトレバーの位置を検出するシフト位置センサによって判定され、摩擦クラッチが接合状態にあるか否かはクラッチペダルの操作量を検出するクラッチ操作量センサによって判定される。従って、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生すると、好ましくない事態が発生し得る。
【0012】
具体的には、例えば、シフト位置センサの異常が発生している場合、シフトレバーが実際にはニュートラル位置にあるにもかかわらずEV走行シフト完了位置にあるとの誤判定がなされ得る。同様に、例えば、クラッチ操作量センサの異常が発生している場合、摩擦クラッチが実際には分断状態にあるにもかかわらず接合状態にあるとの誤判定がなされ得る。これらの場合、EV走行用の電動機駆動トルクの制御が実行されるべきではないにもかかわらず実行され得る。この結果、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ際、運転者の意に反してEV走行用の電動機駆動トルクが駆動輪に作用して、発進しないはずの車両が発進する事態が発生し得る。
【0013】
本発明の目的は、複数の「HV走行変速段」と「EV走行変速段」とを備えた手動変速機を備えたHV−MT車用の動力伝達制御装置であって、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生した場合において運転者の意に反する事態の発生を抑制できるものを提供することにある。
【0014】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置の特徴は、クラッチ操作部材の操作量を検出する第1検出手段(クラッチ操作量センサ)、又は、シフト操作部材の位置を検出する第2検出手段(シフト位置センサ)に異常が発生したと判定されたことに基づいて、前記異常の発生を運転者に知らせるための特定処理が行われることにある。これにより、シフト位置センサ又はクラッチ操作量センサに異常が発生した場合において運転者がその異常の発生を感知することができる。この結果、上述した「発進しないはずの車両が発進する事態」などの「運転者の意に反する事態」の発生が抑制され得る。
【0015】
前記特定処理としては、例えば、前記車両の所定位置に配置された表示パネルを利用して前記異常の発生を知らせるための表示が行われる。或いは、前記車両の所定位置に配置された警告音発生装置を利用して前記異常の発生を知らせるための警告音が発生させられる。
【0016】
また、前記特定処理として、EV走行用又はHV走行用の電動機駆動トルクの制御の実行中において、調整可能な電動機駆動トルクの範囲の上限値を小さくする電動機トルク制限処理が行われる。或いは、前記特定処理として、EV走行を実現不能とするEV走行禁止処理が行われる。これらによっても、運転者にその異常の発生を感知させることができ、且つ、運転者に注意を促すことができる。
【0017】
EV走行禁止処理としては、前記シフト操作部材の前記電動機走行シフト完了位置への移動を禁止する処理、或いは、「車両が停止状態にあるときに内燃機関のアイドリングを停止する停止手段」による「アイドリングの停止」を禁止する処理等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るHV−MT車用の動力伝達制御装置のN位置が選択された状態における概略構成図である。
【図2】N位置が選択された状態におけるS&Sシャフト及び複数のフォークシャフトの位置関係を示した模式図である。
【図3】「スリーブ及びフォークシャフト」とS&Sシャフトとの係合状態を示した模式図である。
【図4】シフトパターンの詳細を示した図である。
【図5】EV位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図6】EV位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図7】2速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図8】2速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図9】3速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図10】3速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図11】4速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図12】4速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図13】5速位置が選択された状態における図1に対応する図である。
【図14】5速位置が選択された状態における図2に対応する図である。
【図15】車速とMGトルクとの関係を示したグラフである。
【図16】アクセル開度とEGトルクとの関係を示したグラフである。
【図17】クラッチペダルストロークとクラッチトルクとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(以下、「本装置」と呼ぶ)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本装置は、「動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと、摩擦クラッチC/Tとを備えた車両」、即ち、上記「HV−MT車」に適用される。この「HV−MT車」は、前輪駆動車であっても、後輪駆動車であっても、4輪駆動車であってもよい。
【0020】
(全体構成)
先ず、本装置の全体構成について説明する。エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0021】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸Aeから動力が入力される入力軸Aiと、M/Gから動力が入力されるとともに車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸Aoと、を備える。入力軸Ai及び出力軸Aoは互いに平行に配置されている。出力軸Aoは、M/Gの出力軸そのものであってもよいし、M/Gの出力軸と平行であり且つM/Gの出力軸とギヤ列を介して常時動力伝達可能に接続された軸であってもよい。M/Tの構成の詳細は後述する。
【0022】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸AeとM/Tの入力軸Aiとの間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、Aeと一体回転するフライホイールに対する、Aiと一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0023】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサP1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0024】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)が出力軸Aoと一体回転するようになっている。即ち、M/Gの出力軸とM/Tの出力軸Aoとの間では動力伝達系統が常時確立されている。以下、E/Gの出力軸Aeの駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸(出力軸Ao)の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0025】
また、本装置は、クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量、クラッチペダルストローク等)を検出するクラッチ操作量センサP1と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサP2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサP3と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサP4と、を備えている。
【0026】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサP1〜P4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでEGトルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでMGトルクを制御する。
【0027】
(M/Tの構成)
以下、M/Tの構成の詳細について図1〜図4を参照しながら説明する。図1及び図4に示すシフトレバーSLのシフトパターンから理解できるように、本例では、選択される変速段(シフト完了位置)として、前進用の5つの変速段(EV、2速〜5速)、及び後進用の1つの変速段(R)が設けられている。以下、後進用の変速段(R)についての説明は省略する。「EV」は上述したEV走行用変速段であり、「2速」〜「5速」はそれぞれ上述したHV走行用変速段である。以下、説明の便宜上、「N位置」、「EV−2セレクト位置」、「5−Rセレクト位置」を含むセレクト操作が可能な範囲を総称して「ニュートラル範囲」と呼ぶ。
【0028】
M/Tは、スリーブS1、S2、及びS3を備える。S1、S2、及びS3はそれぞれ、出力軸Aoと一体回転する対応するハブに相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に嵌合された、「2速」用のスリーブ、「3速−4速」用のスリーブ、及び「5速」用のスリーブである。
【0029】
図2及び図3に示すように、スリーブS1、S2、及びS3はそれぞれ、フォークシャフトFS1、FS2、及びFS3と(フォークを介して)一体に連結されている。FS1、FS2、及びFS3(従って、S1、S2、及びS3)はそれぞれ、シフトレバーSLの操作と連動するS&Sシャフトに設けられたインナレバーIL(図2、図3を参照)によって軸方向(図2では上下方向、図1及び図3では左右方向)に駆動される。
【0030】
図2及び図3では、S&Sシャフトとして、シフトレバーSLのシフト操作(図1、図4では上下方向の操作)によって軸方向に平行移動し且つシフトレバーSLのセレクト操作(図1、図4では左右方向の操作)によって軸中心に回動する「セレクト回転型」が示されているが、SLのシフト操作によって軸中心に回動し且つSLのセレクト操作によって軸方向に平行移動する「シフト回転型」が使用されてもよい。
【0031】
図3に示すように、FS1、FS2、及びFS3にはそれぞれ、シフトヘッドH1、H2、及びH3が一体に設けられている。SLの位置がシフト操作(車両前後方向の操作)によって「ニュートラル範囲」から車両前方側及び後方側の何れの方向に移動しても、即ち、インナレバーILの軸方向位置(図3における左右方向の位置)が、SLの「ニュートラル範囲」に対応する基準位置から何れの方向に移動しても、ILがH1、H2、及びH3のうち選択された何れか一つを軸方向に押圧することによって、FS1、FS2、及びFS3(従って、S1、S2、及びS3)のうち選択された何れか一つが「中立位置」から移動する。以下、各変速段について順に説明していく。
【0032】
図1、2に示すように、シフトレバーSLが「N位置」(より正確には、ニュートラル領域)にある状態では、スリーブS1、S2、及びS3の全てが「中立位置」にある。この状態では、S1、S2、及びS3はそれぞれ、対応する何れの遊転ギヤとも係合していない。即ち、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されない。
【0033】
図5、6に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から(EV−2セレクト位置を経由して)「EVのシフト完了位置」に移動すると、S&SシャフトのILがFS1に連結されたヘッドH1の「EV側係合部」を「EV」方向(図6では上方向)に駆動することによって、FS1(従って、S1)のみが(図6では上方向、図5では右方向)に駆動される。この結果、スリーブS1が「EV位置」に移動する。スリーブS2、S3はそれぞれ「中立位置」にある。
【0034】
この状態では、S1と係合する遊転ギヤが存在しない。従って、図5に太い実線で示すように、入力軸Aiと出力軸Aoとの間では動力伝達系統が確立されず、M/Gと出力軸Aoとの間でのみ動力伝達系統が確立される。即ち、「EV」が選択された場合、E/Gを停止状態(E/Gの出力軸Aeの回転が停止した状態)に維持しながらMGトルクのみを利用して車両が走行する状態(即ち、上記「EV走行」)が実現される。即ち、この車両では、「EV」を選択することにより、EV走行による発進が可能である。この点において「EV位置」は、発進用に通常使用される「1速」に相当する。なお、「N位置」(ニュートラル領域)と「EV位置」との識別は、シフト位置センサP4の検出結果に基づいて達成される。
【0035】
図7、8に示すように、シフトレバーSLが「N位置」から(EV−2セレクト位置を経由して)「2速のシフト完了位置」に移動すると、S&SシャフトのILがFS1に連結されたヘッドH1の「2速側係合部」を「2速」方向(図8では下方向)に駆動することによって、FS1(従って、S1)のみが(図8では下方向、図7では左方向)に駆動される。この結果、スリーブS1が「2速位置」に移動する。スリーブS2、S3はそれぞれ「中立位置」にある。
【0036】
この状態では、S1は、遊転ギヤG2oと係合し、遊転ギヤG2oを出力軸Aoに対して相対回転不能に固定している。また、遊転ギヤG2oは、入力軸Aiに固定された固定ギヤG2iと常時噛合している。この結果、図7に太い実線で示すように、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、G2i及びG2oを介して「2速」に対応する動力伝達系統が確立される。即ち、「2速」が選択された場合、クラッチC/Tを介して伝達されるEGトルクと、MGトルクとの両方を利用して車両が走行する状態(即ち、上記「HV走行」)が実現される。
【0037】
以下、図9〜図14に示すように、シフトレバーSLが「3速」、「4速」又は「5速」にある場合も、「2速」の場合と同様、上記「HV走行」が実現される。即ち、「3速」、「4速」、「5速」ではそれぞれ、M/Gと出力軸Aoとの間で動力伝達系統が確立されることに加えて、入力軸Aiと出力軸Aoとの間で、「G3i及びG3o」、「G4i及びG4o」、「G5i及びG5o」を介して、「3速」、「4速」、「5速」に対応する動力伝達系統が確立される。
【0038】
以上、本例では、「EV」のみがEV走行用の変速段であり、「2速」〜「5速」はHV走行用の変速段である。EGトルクの伝達系統について、「Aoの回転速度に対するAiの回転速度の割合」を「MT減速比」と呼ぶものとすると、「2速」から「5速」に向けてMT減速比(GNoの歯数/GNiの歯数)(N:2〜5)が次第に小さくなっていく。
【0039】
なお、上記の例では、スリーブS1〜S3の軸方向位置は、シフトレバーSLとスリーブS1〜S3とを機械的に連結するリンク機構(S&Sシャフトとフォークシャフト)等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に調整されている。これに対し、スリーブS1〜S3の軸方向位置が、シフト位置センサP4の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0040】
(E/Gの制御)
本装置によるE/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」又は「EV」が選択されているとき、E/Gが停止状態(燃料噴射がなされない状態)に維持される。E/Gの停止状態(EGトルク=0)において、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいて、E/Gが始動される(燃料噴射が開始される)。E/Gの稼働中(燃料噴射がなされている間)では、アクセル開度に基づいてEGトルクの大きさが制御される。E/Gの稼働中において、「N」又は「EV」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、E/Gが再び停止状態(EGトルク=0)に維持される。
【0041】
(M/Gの制御)
本装置によるM/Gの制御は、大略的に以下のようになされる。車両が停止しているとき、或いは、「N」が選択されているとき、M/Gが停止状態(MGトルク=0)に維持される。この状態にて、「EV」が選択されたことに基づいてEV走行用のMGトルク制御が実行され、HV走行用の変速段(「2速」〜「5速」の何れか)が選択されたことに基づいてHV走行用のMGトルク制御が実行される。EV走行用のMGトルク制御、並びにHV走行用のMGトルク制御では、MGトルクは、アクセル開度及びクラッチペダルストロークに基づいて制御される。MGトルクは、クラッチペダルストロークが摩擦クラッチC/Tの分断状態に対応する範囲内にあるときには、ゼロに維持される。MGトルクは、クラッチペダルストロークが摩擦クラッチC/Tの接合状態(半接合状態、及び完全接合状態)に対応する範囲内にあるときには、アクセル開度に基づいてゼロより大きい値に調整され得る。この状態にて、「N」が選択されたこと、或いは、車両が停止したことに基づいて、M/Gが再び停止状態(MGトルク=0)に維持される。
【0042】
以上、E/Gの制御、及びM/Gの制御において、クラッチペダルストロークはクラッチ操作量センサP1の検出結果に基づいて、何れの変速段が「選択」されているかはシフト位置センサP4の検出結果に基づいて、アクセル開度はアクセル操作量センサP3の検出結果に基づいて取得される。
【0043】
(シフト位置センサ及びクラッチ操作量センサの異常時の対処)
上述したように、本装置では、EV走行用のMGトルクの調整は、シフト位置センサP4の検出結果に基づいてシフトレバーSLが「EVのシフト完了位置」にあると判定され、且つ、クラッチ操作量センサP1の検出結果に基づいて摩擦クラッチC/Tが接合状態(半接合状態、又は完全接合状態)にあると判定されている場合に実行される。
【0044】
従って、発明の概要の欄で述べたように、シフト位置センサP4の異常の発生、又はクラッチ操作量センサP1の異常の発生に起因して、EV走行用のMGトルク制御が実行されるべきではないにもかかわらず実行され得る。この結果、運転者がアクセルペダルAPを踏み込んだ際、運転者の意に反してEV走行用のMGトルクが駆動輪に作用して、発進しないはずの車両が発進する事態が発生し得る。
【0045】
係る問題に対処するため、本装置では、シフト位置センサP4、又はクラッチ操作量センサP1に異常が発生したと判定された場合、運転者にセンサ異常の発生を感知させるために種々の処理(特定処理)が実行される。なお、センサ異常が発生したとの判定は、周知の手法の一つ(例えば、2系統の出力値の差が所定値を超えたこと)に従って判定される。以下、種々の特定処理について順に説明する。
【0046】
<表示パネルへの表示等>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、車両の所定位置に配置された表示パネル(図1のD1を参照)を利用して、センサ異常の発生を知らせるための表示が行われる。或いは、車両の所定位置に配置された警告音発生装置(図1のD2を参照)を利用して、センサ異常の発生を知らせるための警告音が発生させられる。これらによって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0047】
<MGトルクの制限>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、MGトルクの調整可能範囲の上限値が小さくされる処理(MGトルク制限処理)が行われる。MGトルク制限処理は、EV走行用のMGトルク制御の実行中であっても、HV走行用のMGトルク制御の実行中であっても実行され得る。このMGトルク制限処理の実行によって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0048】
図15は、MGトルクの上限値の特性の一例を示す。図15に示す例では、センサP1及びP4に異常が発生していないと判定された場合、MGトルクは、「通常時上限値」(図中の実線を参照)を超えない範囲内でアクセル開度に応じて調整される。
【0049】
一方、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、MGトルク制限処理の実行によって、MGトルクは、「通常時上限値」よりも小さい「故障時上限値」(図中の破線を参照)を超えない範囲内でアクセル開度に応じて調整される。この場合、車速が値V1を超えると、上限値がゼロに維持されるのでMGトルクはゼロに維持される。図中のハッチングされた領域は、MGトルク制限処理によるMGトルクの上限値の低減量を示す。なお、車速(従って、M/Gの回転速度)が増大するほど「通常時上限値」及び「故障時上限値」が減少するのは、モータM/Gが発生し得る最大トルクがモータM/Gの回転速度の増大に応じて減少することに基づく。
【0050】
<EV走行の禁止>
本装置では、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合、EV走行を禁止するための処理(EV走行禁止処理)がなされる。このEV走行禁止処理の実行によって、センサ異常の発生が運転者に感知させられる。
【0051】
具体的には、EV走行禁止処理として、シフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を禁止する処理がなされ得る。この処理によって、EV走行が禁止される。この処理は、例えば、EVシフト禁止装置W(図4の破線を参照)を用いて実行される。EVシフト禁止装置Wは、例えば、シフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を直接防止する装置、或いは、S&Sシャフトの「EVシフト完了位置」に対応する位置への移動を禁止することによってシフトレバーSLの「EVシフト完了位置」への移動を間接的に防止する装置等であり、周知のソレノイド等を利用して構成され得る。
【0052】
また、車両が停止状態にあるときにE/Gのアイドリングを停止する停止手段が備えられている場合、EV走行禁止処理として、停止手段による「E/Gのアイドリングの停止」を禁止する処理がなされ得る。EV走行中はE/Gのアイドリングが停止される。従って、「E/Gのアイドリングの停止」を禁止することは、EV走行の禁止を意味する。
【0053】
上述したEV走行禁止処理は、センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合において、車速に係わらずに常に実行されてもよい。或いは、上述した「MGトルク制限処理」の実行中においては、上述したEV走行禁止処理は、車速が図15に示す値V1以上のとき(即ち、MGトルクがゼロに維持される領域)にのみ実行されてもよい。これにより、「EVシフト完了位置」への無駄なシフト操作の実行が抑制される。
【0054】
また、EV走行禁止処理の実行中は、EV走行による車両の発進が不能となるので、「2速」などのHV走行用の変速段を利用して車両を発進させる必要がある。従って、車両発進の際、駆動トルクが不足気味となる。この駆動トルクの不足を補償するため、M/Gによるアシストトルクを駆動輪に付与してもよい。
【0055】
このアシストトルクを付与するためには、具体的には、MGトルクが、センサP1及びP4に異常が発生していない通常時に決定される値(即ち、上述したEV走行用のMGトルク制御、又はHV走行用のMGトルク制御によって決定される値。ゼロの場合を含む。)にアシストトルク分を加えた値に調整される。
【0056】
アシストトルク分は、例えば、アクセル開度、及びクラッチペダルストロークに基づいて算出され得る。この場合、アクセル操作量センサP3の検出結果に基づいて運転者が要求する駆動トルク(要求駆動トルクR)が算出される。また、実際の駆動トルク(実駆動トルクF)が、例えば、図16に示すマップにアクセル操作量センサP3の検出結果から得られるアクセル開度を代入して得られるEGトルクTeと、図17に示すマップにクラッチ操作量センサP1(正常の場合)の検出結果から得られるクラッチペダルストロークを代入して得られるクラッチトルクTcと、のうち小さい方の値に決定され得る。なお、クラッチトルクTcとは、摩擦クラッチC/Tが伝達し得るトルクの最大値である。アシストトルク分は、要求駆動トルクRから実駆動トルクFを減じて得られる値に決定され得る。
【0057】
また、アシストトルク分は、アクセル開度及びクラッチペダルストロークに加えて、或いはこれらに代えて、車速、路面の勾配等に基づいて算出され得る。センサP1又はP4に異常が発生したと判定された場合において、上述した種々の特定処理の全てが同時に実行されてもよいし、何れか1つのみが実行されてもよいし、何れか2つ以上が実行されてもよい。
【0058】
(作用・効果)
上記のように、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置では、シフト位置センサP4、又はクラッチ操作量センサP1に異常が発生したと判定された場合、運転者にセンサ異常の発生を感知させるために種々の処理(特定処理)が実行される。この結果、運転者がそのセンサ異常の発生を感知することができる。この結果、上述した「発進しないはずの車両が発進する事態」などの「運転者の意に反する事態」の発生が抑制され得る。
【0059】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、スリーブS1〜S3が共に入力軸Aiに設けられているが、スリーブS1〜S3が共に出力軸Aoに設けられていてもよい。また、スリーブS1〜S3のうちの一部が出力軸Aoに残りが入力軸Aiに設けられていてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、スリーブS1(前記「特定スリーブ」)の軸方向位置によって「EV」と「2速」とが切り替えられるようになっているが、スリーブS1の軸方向位置によって「EV」と「2速以外のHV走行用変速段」(「3速」〜「5速」の何れか)が切り替えられるように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、Ae…エンジンの出力軸、Ai…変速機の入力軸、Ao…変速機の出力軸、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、P1…クラッチ操作量センサ、P3…アクセル操作量センサ、P4…シフト位置センサ、ECU…電子制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関(E/G)と電動機(M/G)とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関から動力が入力される入力軸(Ai)と、
前記電動機から動力が入力されるとともに前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(Ao)と、
運転者により操作されるシフト操作部材(SL)をシフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の両方の駆動力を利用し得る状態で走行するための複数のハイブリッド走行用変速段(2速〜5速)に対応するそれぞれのハイブリッド走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である変速機減速比が対応するハイブリッド走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統を確立し、前記シフト操作部材を前記シフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の駆動力のうち前記電動機の駆動力のみを利用して走行するための電動機走行用変速段(EV)に対応する電動機走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統を確立しない変速機変速機構(M)と、
を備えた、トルクコンバータを備えない手動変速機(M/T)と、
前記内燃機関の出力軸(Ae)と前記手動変速機の入力軸(Ai)との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材(CP)の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチ(C/T)と、
前記クラッチ操作部材の操作量を検出する第1検出手段(P1)と、
前記シフト操作部材の位置を検出する第2検出手段(P4)と、
前記検出されたクラッチ操作部材の操作量及び前記検出されたシフト操作部材の位置に基づいて、前記電動機のトルクを制御する制御手段(ECU)と、
を備えた車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記第1検出手段又は前記第2検出手段に異常が発生したか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常が発生したと判定されたことに基づいて、前記異常の発生を運転者に知らせるための特定処理を行う処理手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、前記車両の所定位置に配置された表示パネル(D1)を利用して前記異常の発生を知らせるための表示を行う、又は、前記車両の所定位置に配置された警告音発生装置(D2)を利用して前記異常の発生を知らせるための警告音を発生するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、
調整可能な前記電動機のトルクの範囲の上限値を小さくする電動機トルク制限処理を行うように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、
前記内燃機関及び前記電動機の駆動力のうち前記電動機の駆動力のみを利用して走行するEV走行を実現不能とするEV走行禁止処理を行うように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理として、
前記シフト操作部材の前記電動機走行シフト完了位置への移動を禁止するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記車両が停止状態にあるときに前記内燃機関のアイドリングを停止する停止手段を備え、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理として、
前記停止手段による前記内燃機関のアイドリングの停止を禁止するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記電動機トルク制限処理を行うように構成され、
前記電動機トルク制限処理の実行中においては、前記車両の速度が、前記電動機のトルクの範囲の上限値がゼロに維持される車速領域(V1以上)にあるときにのみ、前記EV走行禁止処理を行うように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理の実行中においては、前記車両の発進の際、前記電動機によるアシストトルクを発生するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記電動機によるアシストトルクの大きさを、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量、及び、運転者により操作される加速操作部材(AP)の操作量に基づいて決定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項1】
動力源として内燃機関(E/G)と電動機(M/G)とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関から動力が入力される入力軸(Ai)と、
前記電動機から動力が入力されるとともに前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(Ao)と、
運転者により操作されるシフト操作部材(SL)をシフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の両方の駆動力を利用し得る状態で走行するための複数のハイブリッド走行用変速段(2速〜5速)に対応するそれぞれのハイブリッド走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である変速機減速比が対応するハイブリッド走行用変速段に対応するそれぞれの値に設定される動力伝達系統を確立し、前記シフト操作部材を前記シフトパターン上において前記内燃機関及び前記電動機の駆動力のうち前記電動機の駆動力のみを利用して走行するための電動機走行用変速段(EV)に対応する電動機走行シフト完了位置に移動することによって、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統を確立しない変速機変速機構(M)と、
を備えた、トルクコンバータを備えない手動変速機(M/T)と、
前記内燃機関の出力軸(Ae)と前記手動変速機の入力軸(Ai)との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材(CP)の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチ(C/T)と、
前記クラッチ操作部材の操作量を検出する第1検出手段(P1)と、
前記シフト操作部材の位置を検出する第2検出手段(P4)と、
前記検出されたクラッチ操作部材の操作量及び前記検出されたシフト操作部材の位置に基づいて、前記電動機のトルクを制御する制御手段(ECU)と、
を備えた車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記第1検出手段又は前記第2検出手段に異常が発生したか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常が発生したと判定されたことに基づいて、前記異常の発生を運転者に知らせるための特定処理を行う処理手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、前記車両の所定位置に配置された表示パネル(D1)を利用して前記異常の発生を知らせるための表示を行う、又は、前記車両の所定位置に配置された警告音発生装置(D2)を利用して前記異常の発生を知らせるための警告音を発生するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、
調整可能な前記電動機のトルクの範囲の上限値を小さくする電動機トルク制限処理を行うように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記特定処理として、
前記内燃機関及び前記電動機の駆動力のうち前記電動機の駆動力のみを利用して走行するEV走行を実現不能とするEV走行禁止処理を行うように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理として、
前記シフト操作部材の前記電動機走行シフト完了位置への移動を禁止するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記車両が停止状態にあるときに前記内燃機関のアイドリングを停止する停止手段を備え、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理として、
前記停止手段による前記内燃機関のアイドリングの停止を禁止するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記電動機トルク制限処理を行うように構成され、
前記電動機トルク制限処理の実行中においては、前記車両の速度が、前記電動機のトルクの範囲の上限値がゼロに維持される車速領域(V1以上)にあるときにのみ、前記EV走行禁止処理を行うように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記EV走行禁止処理の実行中においては、前記車両の発進の際、前記電動機によるアシストトルクを発生するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記処理手段は、
前記電動機によるアシストトルクの大きさを、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量、及び、運転者により操作される加速操作部材(AP)の操作量に基づいて決定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−1182(P2013−1182A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132114(P2011−132114)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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