説明

車両の駆動装置

【課題】電動機に接続されたインバータの数を低減することの可能な車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】前輪2に接続された第1電動機MG2と、後輪3に接続された第2電動機MG3と、第1電動機MG2および第2電動機MG3に電力を供給する電気回路39と、電気回路39に接続されたインバータ38とを有する車両の駆動装置において、第2電動機MG3が誘導機モータであり、インバータ38は第1電動機MG2の回転数を制御するように周波数を制御する構成であり、第1電動機MG2のトルクが前輪2に伝達されているときに、第1電動機MG2の回転数と第2電動機MG3の回転数差が予め定めた値以下である場合は、第2電動機MG3はトルクを発生しない一方、前輪2がスリップして第1電動機MG2の回転数と第2電動機MG3の回転数差が予め定めた値を越えた場合は、第2電動機MG3がトルクを発生するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前後方向に第1の車輪および第2の車輪が設けられており、その第1の車輪および第2の車輪に、個別に電動機が接続されている、車両の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前輪および後輪に電動機を接続した四輪駆動車が知られており、その四輪駆動車の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された四輪駆動車は、エンジンのトルクが第1トランスミッションおよび第2ディファレンシャルギヤを経由して前輪に伝達されるように構成され、誘導電動機のトルクが、第2トランスミッションおよび第2ディファレンシャルを経由して後輪に伝達される構成となっている。さらに、エンジンの回転駆動力で駆動されて三相交流電力を発電する発電機が備えられている。さらに、誘導電動機と発電機とが三相強電ラインによって接続されている。そして、全後輪にスリップが生じていない場合は、エンジントルクが前輪に伝達されて前輪で駆動力が発生する。この走行状態では、発電機の発電により誘電電動機に電力が供給されても、前輪と後輪とが等速度で回転しているため、誘電電動機の回転子の速度が、通電により生じる回転磁界の速度と等しく、誘電電動機ではトルクが生じない。これに対して、前輪にスリップが生じて、前輪と後輪とに回転数差が生じると、発電機の発電により誘電電動機に供給される電力で回転磁界が生じたとき、誘電電動機の回転紙の回転速度が回転磁界の速度よりも遅くなり、誘電電動機でトルクが生じて四輪駆動車となる。なお、前輪および後輪に電動機が接続された四輪駆動車の例は、特許文献2にも記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−264086号公報
【特許文献2】特開2005−185006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載された四輪駆動車では前輪に接続された電動機または発電機と、後輪に接続された電動機について、それぞれにインバータを設けることとなり、部品点数が増加して、車両に対する搭載性が悪化し、かつ、製造コストが増加する問題があった。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、インバータの数を低減することの可能な車両の駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両の前後方向に配置された第1の車輪および第2の車輪と、第1の車輪と動力伝達可能に接続された第1電動機と、第2の車輪と動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記第1電動機および第2電動機に電力を供給する電気回路と、この電気回路に接続されたインバータとを有する車両の駆動装置において、前記電気回路内に前記第1電動機および第2電動機が直列に配置されており、
前記第2電動機が誘導機モータであり、前記インバータは、前記第1電動機の回転数を制御するように、前記電気回路に供給される電力の周波数を制御する構成であり、前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力を発生しているときに、前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数差が予め定めた値以下である場合は、前記第2の電動機はトルクを発生しない一方、前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力が発生しているときに、前記第1の車輪がスリップして前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数差が予め定めた値を越えた場合は、前記第2の電動機がトルクを発生するように構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、車両の前後方向に配置された第1の車輪および第2の車輪と、第1の車輪と動力伝達可能に接続された第1電動機と、第2の車輪と動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記第1電動機および第2電動機に電力を供給する電気回路と、この電気回路に接続されたインバータとを有する車両の駆動装置において、前記電気回路内に前記第1電動機および第2電動機が直列に配置されており、前記インバータは、前記第1電動機の回転数を制御するように、前記電気回路に供給される電力の周波数を制御する構成であり、前記第1の電動機の回転数と前記第1の車輪の回転数との変速比と、前記第2の電動機の回転数と前記第2の車輪の回転数との変速比とが異なる構成であり、前記インバータと前記第2電動機との間に形成された電気回路を接続および遮断する切替スイッチを設け、前記第1電動機に電力を供給して第1の車輪で駆動力を発生させ、かつ、前記第1電動機の回転数と第2電動機の回転数との差が予め定めた値を越えているときは、前記切替スイッチにより前記電気回路を接続する制御をおこなう第1の切替手段と、前記車両が惰力走行して車両の運動エネルギを第1電動機に伝達して発電をおこなうときは、前記切替スイッチにより前記電気回路を遮断する制御をおこなう第2の切替手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記第1の車輪に制動力を与える制動装置が設けられており、前記第1の車輪がスリップし、かつ、前記第2の車輪がスリップしていない場合は、前記第1の車輪に与える制動力を増加して第1の車輪のスリップを抑制する第1スリップ抑制手段と、前記第1の車輪および第2の車輪が共にスリップした場合は、前記第1の電動機から第1の車輪に伝達されるトルクを低下させることにより、前記第1の車輪のスリップおよび第2の車輪のスリップを抑制する第2スリップ抑制手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、第2電動機が誘導機モータであるため、インバータから第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、第1の車輪で駆動力を発生しているときに、第1の車輪がスリップしていなければ、第1電動機の回転数と第2電動機の回転数差が予め定めた値以下であり、第2の電動機はトルクを発生しない。一方、第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、第1の車輪で駆動力が発生しているときに、第1の車輪がスリップして第1電動機の回転数と第2電動機の回転数差が予め定めた値を越えた場合は、第2電動機が誘導機モータであるため、インバータから第2の電動機に供給される電力で第2の電動機がトルクを発生し、四輪駆動状態になる。このように、請求項1の発明によれば、単数のインバータを用いて、第1の電動機および第2の電動機に電力を供給できるため、部品点数の増加を抑制できる。したがって、車両における搭載性の悪化を抑制し、かつ、製造コストの増加を抑制できる。
【0010】
請求項2の発明によれば、第1電動機を力行制御して、そのトルクを第1の車輪に伝達して車両が走行しており、第1の車輪の回転数と第2の車輪の回転数とが同じであるとき、第1電動機の回転数と第2電動機の回転数とが異なるため、第2電動機も力行制御されて、そのトルクが第2の車輪に伝達されて、四輪駆動状態となる。これに対して、車両が惰力走行して車両の運動エネルギを第1電動機に伝達して発電をおこなうときは、電気回路が遮断されるため、第1電動機で発電された電力が第2電動機で消費されることを防止できる。
【0011】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、第1の車輪がスリップし、かつ、第2の車輪がスリップしていない場合は、1の車輪に与える制動力を増加して第1の車輪のスリップを抑制するため、前輪および後輪にトルクが伝達される状態に維持される。これに対して、第1の車輪および第2の車輪が共にスリップした場合は、第1の電動機から第1の車輪に伝達されるトルクを低下させることにより、第1の車輪のスリップおよび第2の車輪のスリップを抑制する。すなわち、必要以上に電力が消費されることを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明においては、第1の車輪が前輪であり、かつ、第2の車輪が後輪である車両、または、第1の車輪が後輪であり、かつ、第2の車輪が前輪である車両のいずれでもよい。この発明における制動装置は、摩擦力または電磁力を利用して第1の車輪に制動力を与える装置であり、第1電動機とは別に設けられている。この発明において、「第1電動機の回転数と第2電動機の回転数との差が予め定めた値以下である」には、回転数に所定の値以下の差があることの他に、第1電動機の回転数と第2電動機の回転数とに差が無いこと(回転数差が零)が含まれる。この発明において、「第1電動機の回転数と第2電動機の回転数との差が予め定めた値を越えた」には、回転数に所定の値を越える差があることの他に、第1電動機の回転数と第2電動機の回転数とに差があること自体(回転数差「1」)が含まれる。
【0013】
(第1具体例)
まず、第1具体例を図1に基づいて説明する。この第1具体例は、請求項1に対応する。図1に示された車両1には、その前後方向で異なる位置に前輪2および後輪3が設けられている。この車両1は前輪2および後輪3で駆動力を発生させることのできる四輪駆動車であり、まず、前輪2にトルクを伝達する駆動力源について説明する。前輪2にトルクを伝達する駆動力源としてエンジン4が搭載されている。このエンジン4は、燃料を燃焼させたときに生じる熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置である。このエンジン4としては内燃機関、例えば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンを用いることができる。
【0014】
また、エンジン4の出力軸であるクランクシャフト5と前輪2との間の動力伝達経路に動力分配装置6が設けられている。この動力分配装置6は遊星機構、具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。この動力分配装置6は、同軸上に配置されたサンギヤ7およびリングギヤ8と、サンギヤ7およびリングギヤ8に噛合されたピニオンギヤ9と、このピニオンギヤ9を自転かつ公転可能に支持するキャリヤ10とを有している。そして、サンギヤ7およびリングギヤ8が、前記クランクシャフト5と同軸上に配置されており、キャリヤ10とクランクシャフト5とが動力伝達可能に接続されている。
【0015】
さらに、車両1にはモータ・ジェネレータMG1が搭載されており、このモータ・ジェネレータMG1はロータ11およびステータ12を有している。そして、ロータ11がサンギヤ7と動力伝達可能に接続されている。前記リングギヤ9はコネクティングドラム(環状部材)13の内周に形成された内歯であり、そのコネクティングドラム13の外周にはスプロケット14が形成されている。また、左右の前輪2同士の間には、フロントデファレンシャル15が設けられており、フロントデファレンシャル15のケーシング16の外周にはスプロケット17が形成されている。このスプロケット17およびスプロケット14には、無端状のチェーン18が巻き掛けられている。さらに、フロントデファレンシャル15には、左右のアクスルシャフト19,20が接続されており、アクスルシャフト19には左側の前輪2が接続され、アクスルシャフト20には右側の前輪2が接続されている。このように、フロントデファレンシャル15およびアクスルシャフト19,20を介して、コネクティングドラム13と前輪2とが動力伝達可能に接続されている。
【0016】
また、前輪2にトルクを伝達するために、エンジン1以外の駆動力源としてモータ・ジェネレータMG2が設けられている。このモータ・ジェネレータMG2はロータ21およびステータ22を有している。このモータ・ジェネレータMG2および前記モータ・ジェネレータMG1は交流モータ、より具体的には磁気形同期モータ(IPMモータ)であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。このロータ21はクランクシャフト5と同軸上に配置されており、クランクシャフト5の回転中心となる軸線(図示せず)に沿った方向で、前記エンジン4とモータ・ジェネレータMG2との間に、前記動力分配装置6が配置されている。
【0017】
また、前記軸線に沿った方向で動力分配装置6とモータ・ジェネレータMG2との間には減速機23が配置されている。この減速機23は、モータ・ジェネレータMG2からコネクティングドラム13に至る動力伝達経路を構成する機構であり、減速機23は歯車伝動装置により構成されている。この減速機23は、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。具体的に説明すると減速機23は、同軸上に配置されたサンギヤ24およびリングギヤ25と、サンギヤ24およびリングギヤ25に噛合されたピニオンギヤ26と、このピニオンギヤ26を自転かつ公転可能に支持するキャリヤ27とを有している。そして、サンギヤ24とロータ21とが動力伝達可能に接続され、キャリヤ27は回転不可能に固定されている。さらに、リングギヤ25は前記コネクティングドラム13の内周に形成された内歯である。
【0018】
つぎに、後輪3にトルクを伝達する駆動力源について説明する。この駆動力源としてモータ・ジェネレータMG3が設けられている。このモータ・ジェネレータMG3は交流モータ、具体的には三相かご形誘導機モータ(IMモータ)を用いている。このモータ・ジェネレータMG3は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。モータ・ジェネレータMG3はロータ28およびステータ29を有している。ロータ28には出力軸30が動力伝達可能に接続されており、出力軸30にはギヤ31が形成されている。さらに、左右の後輪3同士の間には、リヤデファレンシャル32が設けられており、リヤデファレンシャル32のケーシング33の外周にはリングギヤ34が形成されている。このリングギヤ34とギヤ31とが噛合されている。リヤデファレンシャル32には、左右のアクスルシャフト35,36が接続されており、アクスルシャフト35には左側の後輪3が接続され、アクスルシャフト36には右側の後輪3が接続されている。このように、リヤデファレンシャル32およびアクスルシャフト35,36を介して、モータ・ジェネレータMG3と後輪3とが動力伝達可能に接続されている。なお、第1具体例では、エンジン4は車体(図示せず)に搭載されており、モータ・ジェネレータ1,MG2,MG3は、何れも車体にケーシング(図示せず)を介して、または直接車体に取り付けられている。これに対して、前輪2および後輪3は、車体に対して懸架装置(図示せず)を介在させて取り付けられている。
【0019】
さらに、この具体例では、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同じであるとき、モータ・ジェネレータMG2のロータ21の回転数と、モータ・ジェネレータMG3のロータ29の回転数とが一致する構成である。具体的には、モータ・ジェネレータMG2の回転数と前輪2の回転数との間の変速比、およびモータ・ジェネレータMG3の回転数と後輪3の回転数との間の変速比の設計により、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同じであるとき、モータ・ジェネレータMG2のロータ21の回転数と、モータ・ジェネレータMG3のロータ29の回転数とが一致するようになっている。
【0020】
さらに、前輪2および後輪3に制動力を与える制動装置44が設けられている。この制動装置44は、前輪2および後輪3に対して個別に制動力を与えることができる構成であり、例えば、前輪2および後輪3に個別に設けられたホイールシリンダおよびブレーキパッドおよび油圧室、この油圧室に接続された油圧回路、この油圧室に設けられたソレノイドバルブなどを有する摩擦式の制動装置44を用いることができる。この制動装置44は、ブレーキペダルが踏み込まれたときに前輪2および後輪3に制動力を与えることができる他、ブレーキペダルが踏み込まれていない場合でも、前輪2および後輪3に制動力を与えることができる構成である。
【0021】
つぎに、モータ・ジェネレータMG1,MG2,MG3の電気系統、および車両1の制御系統を、図2に基づいてついて説明する。車両1には電源37が設けられている。この電源37は充電および放電可能な二次電池、例えば、バッテリまたはキャパシタを有している。また、電源37は燃料電池を有していてもよい。さらに、電源37には、単数のインバータ38および電気回路39を介在させて、モータ・ジェネレータMG2およびモータ・ジェネレータMG3が接続されている。インバータ38は、直流電力を交流電力に変換する装置である。この電気回路39は、三相、つまり、U相およびV相およびW相のそれぞれに対応するコイル40,41,42を有している。これらのコイル40,41,42は、いずれがU相で、いずれがV相で、いずれがW相でもよい。また、コイル40,41,42は、モータ・ジェネレータMG2およびモータ・ジェネレータMG3で共用化されている。具体的には、電気回路39内に、モータ・ジェネレータMG2およびモータ・ジェネレータMG3が直列に配置されている。さらにまた、電源37とモータ・ジェネレータMG1とがインバータ45を介して接続されている。
【0022】
さらにまた、車両1に搭載されたシステムを制御する電子制御装置43が設けられている。この電子制御装置43には、前輪2の回転数、後輪3の回転数、車速、エンジン1の回転数およびトルク、モータ・ジェネレータMG1,MG2,MG3の回転数およびトルク、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、運転者により選択されるシフトポジションなどを示す信号が入力される。電子制御装置43からは、エンジン1の回転数およびトルクを制御する信号、インバータ38,45を介してモータ・ジェネレータMG1,MG2を制御する信号、制動装置44により前輪2および後輪3に個別に与えられる制動力を制御する信号などが出力される。モータ・ジェネレータMG1,MG2を制御することには、モータ・ジェネレータMG1,MG2を回生制御するか力行制御するかを決定すること、モータ・ジェネレータMG1,MG2の回転数およびトルクを制御すること、モータ・ジェネレータMG1,MG2の回転方向を制御することが含まれる。
【0023】
つぎに、第1具体例の作用を説明する。まず、車両1を前進させるシフトポジションが選択されているときに、アクセルペダルの操作状態、および車速に基づいて、車両1における要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて、エンジン1の目標出力およびモータ・ジェネレータMG2の目標出力が求められる。エンジントルクが動力分配装置6のキャリヤ10に伝達されると、モータ・ジェネレータMG1が反力を受け持ち、リングギヤ8が出力要素となる。このとき、モータ・ジェネレータMG1の回転方向および回転数を制御すると、サンギヤ7およびキャリヤ10およびリングギヤ8の差動作用により、動力分配装置6の入力要素であるキャリヤ10の回転数と、動力分配装置6の出力要素であるリングギヤ8の回転数との間の変速比を、無段階に変更することができる。つまり、動力分配装置6は無段変速機としての機能を有する。このようにして、リングギヤ8およびコネクティングドラム13が正方向に一体回転する。ここで、正方向とは、エンジン4の回転方向と同じ回転方向である。コネクティングドラム13のトルクは、チェーン18を経由してリングギヤ17に伝達され、そのリングギヤ17も正方向に回転する。このようにして、エンジントルクがフロントデファレンシャル16に伝達されると、そのトルクがアクスルシャフト19,12を経由して前輪2に伝達され、前輪2で駆動力が発生する。
【0024】
一方、電源37から電気回路39に電力が供給されて、モータ・ジェネレータMG2が力行制御されると、そのモータ・ジェネレータMG2から出力されたトルクが、減速機23のサンギヤ24に伝達される。電源37から、インバータ39を経由して電気回路39に供給される交流電流は、その電圧の周波数が、モータ・ジェネレータMG2の実回転数を目標回転数に近づけるように同期制御される。ここで、モータ・ジェネレータMG2は逆方向に回転する。すると、固定されているキャリヤ27が反力要素となり、リングギヤ25からトルクが出力される。モータ・ジェネレータMG2からリングギヤ25に伝達されたトルクは、コネクティングドラム13を経由し、前述と同様にして前輪2に伝達される。このように、第1具体例においては、エンジン1のトルク、またはモータ・ジェネレータMG2のトルクの少なくとも一方を前輪2に伝達することができるハイブリッド車である。前記のように、モータ・ジェネレータMG1が反力トルクを受け持つとき、回生制御される場合は、発電された電力を電源37に充電することができる。
【0025】
上記のように、モータ・ジェネレータMG2のトルクが前輪2に伝達されて、前輪2で駆動力が発生しているとき、その前輪2がスリップすることなく車両1が走行している場合は、後輪3は車両1の運動エネルギにより従動回転(空転)する。このとき、前輪2の回転数および後輪3の回転数は同じである。また、後輪3にはモータ・ジェネレータMG3が動力伝達可能に接続されているため、車輪3のトルクがアクスルシャフト35,36を経由してモータ・ジェネレータMG3のロータ28に伝達されて、そのロータ28が従動回転、つまり、空転しており、モータ・ジェネレータMG2の回転数とモータ・ジェネレータMG3の回転数(空転回転数)とが同一になっている。このとき、電気回路39を経由してモータ・ジェネレータMG3のステータ29に交流電力が供給されているが、モータ・ジェネレータMG3が誘導機モータの特性として、ステータ29に供給される交流電流で発生する回転磁界の速度と、車両1の運動エネルギにより空転されているロータ28の回転速度とが等速度であるときには、ロータ28を駆動するトルクは発生しない。つまり、前輪2で駆動力が発生し、後輪3では駆動力が発生しない二輪駆動状態である。したがって、電源37の電気エネルギが必要以上に消費されることを回避でき、エンジン4の燃費の悪化を抑制できる。
【0026】
これに対して、モータ・ジェネレータMG2のトルクが前輪2に伝達されて、前輪2で駆動力が発生して車両1が走行しているとき、その前輪2がスリップすると、前輪2の回転数と後輪3の回転数とに差が生じる。具体的には、後輪3の回転数の方が前輪2の回転数よりも低くなる。すると、ステータ29に交流電流が供給されて発生する回転磁界の速度よりも、車両1の運動エネルギにより空転するロータ28の回転速度の方が遅くなり、誘導機モータの特性により、ロータ28が駆動されて後輪3にトルクが伝達される。このようにして、前輪2および後輪3で駆動力が発生する四輪駆動状態となり、車両1の走破性を確保することができる。また、第1具体例では、単一のインバータ38をモータ・ジェネレータMG2,MG3で共用するため、部品点数の増加を抑制できる。したがって、車両1における搭載性の悪化を抑制でき、かつ、製造コストの上昇を抑制できる。つまり、低コストでコンパクトなシステムを実現できる。
【0027】
ここで、モータ・ジェネレータMG3の特性を図3に基づいて説明する。この図3では、横軸に回転数が示され、縦軸にトルクが示されている。図3のように、モータ・ジェネレータMG2の回転数が回転数N1にあるとき、前輪2がスリップせずにモータ・ジェネレータMG3が回転数N1であれば、実線で示すように、回転数N1ではモータ・ジェネレータMG3からトルクは出力されない。これに対して、前輪2がスリップしてモータ・ジェネレータMG2の回転数が、回転数N1から回転数N2まで上昇すると、実線で示す特性のように、回転数N1にあるモータ・ジェネレータMG3からトルクが出力される。つまり、モータ・ジェネレータMG3の回転数がN2未満の範囲では、そのモータ・ジェネレータMG3からトルクが出力される。
【0028】
ここで、第1具体例と、この発明の構成との対応関係を説明すると、車両1が、この発明の車両に相当し、前輪2が、この発明の第1の車輪に相当し、後輪3が、この発明の第2の車輪に相当し、モータ・ジェネレータMG2が、この発明の第1電動機に相当し、モータ・ジェネレータMG3が、この発明の第2電動機に相当し、電気回路39が、この発明の電気回路に相当し、インバータ38が、この発明のインバータに相当する。また、モータ・ジェネレータMG3が誘導機モータであることが、この発明の「前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力を発生しているときに、前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数差が予め定めた値以下である場合は、前記第2の電動機はトルクを発生しない一方、前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力が発生しているときに、前記第1の車輪がスリップして前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数差が予め定めた値を越えた場合は、前記第2の電動機がトルクを発生するように、前記第2電動機が構成されている」に相当する。
【0029】
(第2具体例)
つぎに、この発明の駆動装置の第2具体例を、図4および図5に基づいて説明する。この第2具体例は、請求項2に対応する。図4は車両1の模式図であり、図5は、図4に示された車両1の電気系統および制御系統を示す模式図である。図4の構成において、図1の構成と同じ構成部分については、図1と同じ符号を付してある。図5の構成において、図2の構成と同じ構成部分については、図2と同じ符号を付してある。第1具体例と第2具体例との相違点を説明すると、第2具体例では、電気回路39におけるモータ・ジェネレータMG2とモータ・ジェネレータMG3との間に、切替スイッチ46が設けられている。この切替スイッチ46は、インバータ38とモータ・ジェネレータMG3との間で電気回路39を接続または遮断する機構である。この切替スイッチ46がオンされると、インバータ38とモータ・ジェネレータMG3との間で電気回路39が接続される。これに対して、切替スイッチ46がオフされると、インバータ38とモータ・ジェネレータMG3との間で電気回路39が遮断される。
【0030】
また、第2具体例では、モータ・ジェネレータMG2のトルクが前輪2に伝達され、かつ、その前輪2がスリップしていないとき、具体的には、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが一致しているときに、モータ・ジェネレータMG2の回転数と前輪2の回転数との間の変速比と、モータ・ジェネレータMG3の回転数と後輪3の回転数との間の変速比とが異なるように、減速機23の変速比、およびコネクティングドラム13とリングギヤ17との間の変速比、およびギヤ31とリングギヤ34との間の変速比が設計されている。より具体的には、モータ・ジェネレータMG2の回転数を前輪2の回転数で除した変速比の方が、モータ・ジェネレータMG3の回転数を後輪3の回転数で除した変速比よりも大きく構成されている。このため、第2具体例では、前輪2および後輪3が共に回転し、かつ、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同一であるとき、モータ・ジェネレータMG2の回転数とモータ・ジェネレータMG3の回転数とが異なる。なお、第2具体例では、エンジン4およびモータ・ジェネレータ1,MG2,MG3は、何れも車体(図示せず)に搭載されており、前輪2および後輪3は、車体に対して懸架装置を介在させて取り付けられている。
【0031】
この第2具体例において、第1具体例と同じ構成部分については、第1具体例と同様の作用が生じる。つぎに、第2具体例で示す車両1で実行可能な制御例を、図6に基づいて説明する。まず、モータ・ジェネレータMG2が力行制御され、そのモータ・ジェネレータMG2のトルクを前輪2に伝達して車両1が走行している(力行)か否かが判断される(ステップS1)。このステップS1で肯定的に判断された場合は、切替スイッチ46がオンされて(ステップS2)、この制御ルーチンを終了する。例えば、前輪2がスリップしておらず、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同一であるときは、モータ・ジェネレータMG2の回転数とモータ・ジェネレータMG3の回転数とが異なる。ここで、前記切替スイッチ46がオンされると、交流電流がモータ・ジェネレータMG3に供給され、モータ・ジェネレータ3では誘導機モータの特性で、第1具体例と同じ原理により、後輪3に伝達するトルクを発生する。このように、第2具体例では、前輪2がスリップしていないときでも四輪駆動状態となり、車両1の走破性を確保できる。
【0032】
これに対して、ステップS1の判断時点で、車両1が惰力走行しており、車両1の運動エネルギを前輪2からモータ・ジェネレータMG2に伝達して、そのモータ・ジェネレータMG2で回生制御をおこなっている場合は、ステップS1で否定的に判断される。このように、ステップS1で否定的に判断された場合は、切替スイッチ46がオフされ(ステップS3)、この制御ルーチンを終了する。このステップS3の処理がおこなわれると、モータ・ジェネレータMG3がインバータ38から遮断されるため、モータ・ジェネレータMG2で発電された電力を電源37に充電しているときに、「その電力の一部がモータ・ジェネレータMG3に供給されて力行制御されること」を防止できる。したがって、モータ・ジェネレータMG2による回生効率を向上できる。
【0033】
ここで、第2具体例で説明した構成と、請求項2の構成との対応関係を説明すると、切替スイッチ46が、この発明の切替スイッチに相当する。なお、その他の構成と、請求項2の発明の構成との対応関係は、第1具体例の構成と、請求項1の構成との対応関係と同じである。さらに、図6に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS2が、この発明の第1の切替手段に相当し、ステップS3が、この発明の第2の切替手段に相当する。
【0034】
つぎに、図1および図2に示された車両1、または図4および図5に示された車両1の何れでも実行可能な制御例を、図7に基づいて説明する。この制御例は、請求項3の発明に相当する。まず、前輪2または後輪3のうち、少なくとも一方でスリップが発生したか否かが判断される(ステップS11)。車輪がスリップしたか否かは、車速と各車輪の回転数とを比較することで判断可能である。このステップS11で肯定的に判断された場合は、前輪2および後輪3が共にスリップしたか、つまり、4輪が全てスリップしたか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12の判断時点で、前輪23がスリップしており、かつ、後輪3がスリップしておらず、ステップS12で否定的に判断された場合は、前輪3のスリップ量(スリップ率)が、予め定められた閾値以上であるか否かが判断される(ステップS13)。このステップS13の判断に用いる閾値は、実験またはシミュレーションによって求められた値であり、予め電子制御装置43に記憶されている。また、車輪のスリップ量の推定方法は、特開2002−274356号公報、特開平6−258196号公報などに記載されているように周知であるので、具体的な説明を省略する。このステップS13で肯定的に判断された場合は、制動装置44を制御して前輪2に制動力を与える制御(ブレーキTRC)をおこない(ステップS15)、この制御ルーチンを終了する。
【0035】
例えば、図1に示された車両1において、モータ・ジェネレータMG2のトルクを前輪2に伝達して前輪2で駆動力が発生しているとき、前輪2がスリップしてモータ・ジェネレータMG3が力行制御されて四輪駆動状態となり、ステップS12からステップS14に進んだ場合は、四輪駆動状態が確保される。一方、図4に示された車両1においては、モータ・ジェネレータMG2の回転数とモータ・ジェネレータMG3の回転数とに差があれば四輪駆動状態にあり、そのときに前輪2がスリップして、ステップS12からステップS14に進んだ場合は、四輪駆動状態が確保される。このように、図1または図4に示された車両1の何れにおいても、後輪3に伝達されるトルクを最大化した状態で、前輪2のスリップを抑制することができる。なお、ステップS13で否定的に判断された場合は、そのまま制御ルーチンを終了する。
【0036】
一方、前記ステップS12で肯定的に判断された場合は、モータ・ジェネレータMG2から前輪2に伝達されるトルクを制限して前輪2のスリップを抑制し(ステップS15)、この制御ルーチンを終了する。例えば、図1に示された車両1において、モータ・ジェネレータMG2のトルクを前輪2に伝達して前輪2で駆動力が発生しているとき、前輪2がスリップしてモータ・ジェネレータMG3が力行制御されて四輪駆動状態となり、ステップS12からステップS15に進んだ場合は、四輪駆動状態が確保されるが、前輪2に伝達されるトルクが制限される。一方、図4に示された車両1においては、モータ・ジェネレータMG2の回転数とモータ・ジェネレータMG3の回転数とに差があれば四輪駆動状態にあり、そのときに前輪2がスリップして、ステップS12からステップS15に進んだ場合は、四輪駆動状態が確保されるが、前輪2に伝達されるトルクが制限される。なお、ステップS11で否定的に判断された場合は、そのまま制御ルーチンを終了する。このように、図1または図4に示された車両1の何れにおいても、後輪2に伝達されるトルクを制限するため、モータ・ジェネレータMG2に必要以上の電力が供給されることを防止できる。ここで、図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS14が、この発明の第1スリップ抑制手段に相当し、ステップS15が、この発明の第2スリップ抑制手段に相当する。
【0037】
(第3具体例)
つぎに、駆動装置の第3具体例を図8に基づいて説明する。図8に示された車両1には、その前後方向で異なる位置に前輪2および後輪3が設けられている。この車両1は前輪2および後輪3で駆動力を発生させることのできる四輪駆動車であり、まず、後輪3にトルクを伝達する駆動力源について説明する。後輪3にトルクを伝達する駆動力源としてエンジン4が搭載されている。また、エンジン4の出力軸であるクランクシャフト5と後輪3との間の動力伝達経路に動力分配装置6が設けられている。この動力分配装置6は第1具体例と同様に構成されている。この動力分配装置6のリングギヤ8にはプロペラシャフト47が動力伝達可能に接続されている。そして、プロペラシャフト47にはデファレンシャル48が動力伝達可能に接続され、デファレンシャル48には、アクスルシャフト49を介して左側の後輪3が接続され、アクスルシャフト50を介して右側の後輪3が接続されている。
【0038】
また、後輪3に動力伝達可能に接続されるモータ・ジェネレータMG2が車体に搭載されている。このモータ・ジェネレータMG2は減速機51を介在させて、プロペラシャフト47に動力が伝達される構成である。減速機51は、モータ・ジェネレータMG2の回転数よりもプロペラシャフト47の回転数を低くするための変速機である。減速機51としては、遊星歯車機構を備えた減速機を用いることができる。
【0039】
一方、前輪2に動力伝達可能に接続されるモータ・ジェネレータMG3は、右側の前輪2および左側の前輪2に対して個別に設けられている。また、モータ・ジェネレータMG3は、前輪2の一部を構成するホイールの内側に配置され、そのモータ・ジェネレータMG3が前輪2と共に懸架装置を介在させて車体で支持されている。つまり、モータ・ジェネレータMG3はインホイールモータである。さらに、モータ・ジェネレータMG3から前輪2に至る動力伝達経路にも減速機を設けることが可能である。そして、この第3具体例においても、図2に示された電気系統および制御系統、または図5に示された電気系統および制御系統のいずれか一方を用いることができる。
【0040】
この第3具体例において、図2の電気系統を用いる場合は、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同じである場合、モータ・ジェネレータMG2の回転数と、モータ・ジェネレータMG3の回転数とが同じとなるように、減速機51の変速比、デファレンシャル48の変速比、モータ・ジェネレータMG3の減速機の変速比が設計される。この第3具体例においても、モータ・ジェネレータMG2は磁気形同期モータであり、モータ・ジェネレータMG3は三相かご形誘導機モータであり、モータ・ジェネレータMG3の特性は、第1具体例の場合と同じである。なお、第3具体例において、第1具体例または第2具体例と同じ構成部分については、第1具体例または第2具体例と同じ符号を付してある。
【0041】
そして、モータ・ジェネレータMG2を力行制御して、そのトルクを後輪3に伝達して車両1が走行中に、後輪3がスリップしていないときは、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同じになるため、第1具体例で説明した原理と同じ原理により、モータ・ジェネレータMG3からトルクは出力されない。つまり、後輪3で駆動力が生じる二輪駆動状態になる。これに対して、モータ・ジェネレータMG2を力行制御して、そのトルクを後輪3に伝達して車両1が走行中に、後輪3がスリップしたときは、前輪2の回転数と後輪3の回転数とに差が生じて、第1具体例で説明した原理と同じ原理により、モータ・ジェネレータMG3からトルクが出力される。つまり、前輪2および後輪3で駆動力が発生する四輪駆動状態になる。このように、第3具体例においても、単数のインバータ38がモータ・ジェネレータMG2,MG3で共用化されるため、第1具体例と同様の効果を得られる。
【0042】
つぎに、第3具体例の車両1で、図5に示された電気系統を用いるとともに、車両1が走行中に、前輪2の回転数と後輪3の回転数とが同じであるときに、モータ・ジェネレータMG2の回転数と、モータ・ジェネレータMG3の回転数とが異なるように、減速機51の変速比、デファレンシャル48の変速比、モータ・ジェネレータMG3の減速機の変速比を設計することもできる。この構成を採用すると、図6の制御を実行することができる。すなわち、モータ・ジェネレータMG2を力行制御して後輪3にトルクを伝達して車両が走行しているか否かが判断される(ステップS1)。ステップS1で肯定判断されたときに切替スイッチ64をオンする(ステップS2)と、第2具体例と同じ原理により、2個のモータ・ジェネレータMG3が共に電動機として駆動され、四輪駆動状態となる。これに対して、車両1が惰力走行しており、車両1の運動エネルギを後輪3からモータ・ジェネレータMG2に伝達してモータ・ジェネレータMG2で回生制御をおこなっているときは、ステップS1で否定的に判断されて切替スイッチ46がオフされ(ステップS3)、この制御ルーチンを終了する。すると、第2具体例と同様にして、モータ・ジェネレータMG3がインバータ38から遮断されるため、モータ・ジェネレータMG2の回生効率が向上する。このように、第3具体例の車両1において、図5の電気系統を用いて図6の制御を実行すると、第2具体例の制御で説明したことと同様の作用効果を得られる。
【0043】
さらに、第3具体例の車両1で、図2に示された電気系統を用いる場合、または図5に示された電気系統を用いる場合の何れにおいても、図7の制御を実行可能である。この場合、ステップS12の判断時点で後輪3だけがスリップしており、そのステップS12で否定的に判断された場合は、ステップS13に進み、後輪3のスリップ量が閾値以上であるか否かが判断される。このステップS13で否定的に判断された場合はそのまま制御ルーチンを終了し、ステップS13で肯定的に判断された場合は、ステップS14に進み、制動装置44を制御して後輪3に与える制動力を増加する。このようにして、四輪駆動状態を維持したまま、後輪3のスリップが抑制される。これに対して、ステップS12で肯定的に判断された場合は、モータ・ジェネレータMG2から後輪3に伝達されるトルクを制限し(ステップS15)、後輪3および前輪2のスリップを抑制する。このように、第3具体例の車両で図7の制御をおこなった場合も前記と同様の効果を得られる。この第3具体例では、後輪3が、この発明の第1の車輪に相当し、前輪2が、この発明の第2の車輪に相当する。
【0044】
なお、第1具体例ないし第3具体例において、減速機23,51としては、遊星歯車機構を備えた減速機に代えて、常時噛み合い式の減速機、選択歯車式の減速機を用いることも可能である。減速機23,51としては、変速比が固定される減速機、または変速比を変更可能な減速機の何れを用いてもよい。また、第1の具体例および第2の具体例において、後輪3に動力を伝達するモータ・ジェネレータMG3を左右の後輪3毎に別個に設け、かつ、インホイール形の構成を採用することもできる。また、動力分配装置6は遊星歯車機構を用いた装置に代えて、遊星ローラ機構を用いた動力分配装置6を構成することもできる。これは、遊星歯車機構の各ギヤをローラに変更したものであり、作動油のせん断力で動力伝達をおこなうトラクション伝動装置である。つまり、動力分配装置6は、入力要素と反力要素と出力要素との差動作用により、その変速比を無段階に制御可能な無段変速機であればよい。さらに、制動装置44は、摩擦式に代えて電磁式のものを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の第1具体例を示す車両の模式図である。
【図2】図1に示された車両の電気系統および制御系統を示す模式図である。
【図3】図1に示されたモータ・ジェネレータの特性を示す線図である。
【図4】この発明の第2具体例を示す車両の模式図である。
【図5】図4に示された車両の電気系統および制御系統を示す模式図である。
【図6】図4に示された車両でおこなわれる制御例を示すフローチャートである。
【図7】この発明の各具体例の車両でおこなわれる制御例を示す他のフローチャートである。
【図8】この発明の第3具体例を示す車両の模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1…車両、 2…前輪、 3…後輪、 38…インバータ、 39…電気回路、 46…切替スイッチ、 MG2,MG3…モータ・ジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に配置された第1の車輪および第2の車輪と、第1の車輪と動力伝達可能に接続された第1電動機と、第2の車輪と動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記第1電動機および第2電動機に電力を供給する電気回路と、この電気回路に接続されたインバータとを有する車両の駆動装置において、
前記電気回路内に前記第1電動機および第2電動機が直列に配置されており、前記第2電動機が誘導機モータであり、
前記インバータは、前記第1電動機の回転数を制御するように、前記電気回路に供給される電力の周波数を制御する構成であり、
前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力を発生しているときに、前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数との差が予め定めた値以下である場合は、前記第2の電動機はトルクを発生しない一方、前記第1電動機に電力が供給されてトルクを発生し、かつ、前記第1の車輪で駆動力が発生しているときに、前記第1の車輪がスリップして前記第1電動機の回転数と前記第2電動機の回転数との差が予め定めた値を越えた場合は、前記第2の電動機がトルクを発生するように構成されていることを特徴とする車両の駆動装置。
【請求項2】
車両の前後方向に配置された第1の車輪および第2の車輪と、第1の車輪と動力伝達可能に接続された第1電動機と、第2の車輪と動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記第1電動機および第2電動機に電力を供給する電気回路と、この電気回路に接続されたインバータとを有する車両の駆動装置において、
前記電気回路内に前記第1電動機および第2電動機が直列に配置されており、
前記インバータは、前記第1電動機の回転数を制御するように、前記電気回路に供給される電力の周波数を制御する構成であり、
前記第1の電動機の回転数と前記第1の車輪の回転数との変速比と、前記第2の電動機の回転数と前記第2の車輪の回転数との変速比とが異なる構成であり、
前記インバータと前記第2電動機との間に形成された電気回路を接続および遮断する切替スイッチを設け、
前記第1電動機に電力を供給して第1の車輪で駆動力を発生させ、かつ、前記第1電動機の回転数と第2電動機の回転数との差が予め定めた値を越えているときは、前記切替スイッチにより前記電気回路を接続する制御をおこなう第1の切替手段と、
前記車両が惰力走行して車両の運動エネルギを第1電動機に伝達して発電をおこなうときは、前記切替スイッチにより前記電気回路を遮断する制御をおこなう第2の切替手段とを備えていることを特徴とする車両の駆動装置。
【請求項3】
前記第1の車輪に制動力を与える制動装置が設けられており、
前記第1の車輪がスリップし、かつ、前記第2の車輪がスリップしていない場合は、前記1の車輪に与える制動力を増加して第1の車輪のスリップを抑制する第1スリップ抑制手段と、
前記第1の車輪および第2の車輪が共にスリップした場合は、前記第1の電動機から第1の車輪に伝達されるトルクを低下させることにより、前記第1の車輪のスリップおよび第2の車輪のスリップを抑制する第2スリップ抑制手段と
を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−268265(P2009−268265A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115189(P2008−115189)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】