説明

車両制御システム

【課題】自車の進路上の障害物を回避する際に、ドライバの保舵状態の違いによって車両挙動制御装置の制御が影響を受けることを抑制して、障害物回避能力を向上させる。
【解決手段】操舵角に基づいて車両の挙動を制御するEPSコントローラ1、VSAコントローラ2、RTCコントローラ3、及び左右駆動力配分コントローラ4と、自車の進路上の障害物を検知するレーダー装置18と、障害物を回避するドライバの操作を判別して各コントローラを制御する障害物回避制御部5とを有し、この障害物回避制御部が、ドライバの保舵状態が変則的か否かを判別して、保舵状態が変則的である場合には、障害物回避制御中に各コントローラの制御値が増大補正されるように制御する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を制御する車両挙動制御装置を有すると共に、自車の進路上の障害物を回避するドライバによる操作を支援する制御を行う車両制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には、走行安定性の向上などを目的として車体の挙動を制御する各種の車両挙動制御装置が搭載されている。例えばドライバの手動操舵力を補助するアシスト力を制御して走行安定性を向上させる電動パワーステアリング制御を行うもの(特許文献1参照)や、各車輪の制動力を個別に制御して走行安定性を向上させる制動力制御を行うもの(特許文献2参照)や、左右の後輪のトー角を個別に制御して旋回性能や走行安定性を向上させる後輪トー角制御を行うもの(特許文献3参照)や、左右の車輪間での駆動力の配分を変更して旋回性能を向上させる左右駆動力配分制御を行うもの(特許文献4参照)などが知られている。
【0003】
また、自車の進路上の障害物をレーダーにより検知して、その障害物を回避するためのドライバによる操作がなされると、その障害物回避操作を支援する制御を行うようにした技術が知られている(特許文献1参照)。この技術では、ドライバによる障害物を回避するためのステアリング操作がなされたものと判定されると、電動パワーステアリング装置において、電動モータのアシスト力を増大して、ステアリングホイールを回動操作する際の操舵反力が小さくなるように制御し、これにより障害物を回避する方向へのステアリング操作を円滑且つ迅速に行うことができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3110891号公報
【特許文献2】特許第3214824号公報
【特許文献3】特許第3179271号公報
【特許文献4】特許第3340038号公報
【特許文献5】特開2007−8402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、前記の各種の車両挙動制御装置は、旋回性の向上や旋回時の走行安定性の向上に寄与するものであり、自車の進路上の障害物を回避する能力を高める機能を有するが、これらの車両挙動制御装置では、ドライバのステアリング操作に応じて変化する操舵角に基づいて制御が行われるため、ドライバのステアリング操作に影響を及ぼす保舵状態の違いによって車両挙動制御装置の制御が影響を受け、車両挙動制御装置の本来の性能を十分に発揮することができないという問題があった。
【0006】
すなわち、ドライバがステアリングホイールを両手で適度に強く保持している標準的な保舵状態では、障害物を回避するためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができるが、ドライバがステアリングホイールを片手で保持している片手保舵状態や、ステアリングホイールを両手で軽く保持している軽保舵状態といった変則的な保舵状態では、障害物回避のためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができない。このため、ステアリング操作が不十分となり、車両挙動制御装置の制御が不足する傾向がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、自車の進路上の障害物を回避する際に、ドライバの保舵状態の違いによって車両挙動制御装置の制御が影響を受けることを抑制して、障害物回避能力を向上させることができるように構成された車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、操舵角に基づいて車両の挙動を制御する車両挙動制御装置(EPSコントローラ1、VSAコントローラ2、RTCコントローラ3、及び左右駆動力配分コントローラ4)と、自車の進路上の障害物を検知する障害物検知手段(レーダー装置18)と、この障害物検知手段により検知された障害物を回避するドライバの操作を判別して前記車両挙動制御装置を制御する障害物回避制御手段(障害物回避制御部5)とを有し、この障害物回避制御手段が、ドライバの保舵状態が変則的か否かを判別して、保舵状態が変則的である場合には、障害物回避制御中に前記車両挙動制御装置の制御値が増大補正されるように制御する構成とする。
【0009】
これによると、ドライバの保舵状態が変則的な場合に、車両挙動制御装置の制御値が増大補正されることで、制御の不足分が補われるため、保舵状態の違いによる影響を抑制して、車両挙動制御装置の本来の性能を十分に発揮することが可能になり、障害物回避能力を向上させることができる。また、車両挙動制御装置における制御ロジックを変更することなく、車両挙動制御装置から出力される制御値を増大補正するだけで済むため、コストの上昇を抑えることができる。
【0010】
前記課題を解決するためになされた第2の発明は、前記第1の発明において、前記障害物回避制御手段が、ドライバによるステアリングホイールの把持強度を判別して、前記車両挙動制御装置の制御値を増大補正する制御ゲインを把持強度が小さくなるのに応じて高くなるように設定する構成とする。
【0011】
これによると、ドライバによるステアリングホイールの把持強度が小さくなるのに応じて増大する制御の不足分が適切に補われるため、障害物回避能力をより一層向上させることができる。
【0012】
前記課題を解決するためになされた第3の発明は、前記第1・第2の発明において、ステアリングホイール(51)に設けられた圧力センサ(16)をさらに有し、前記障害物回避制御手段が、前記圧力センサの検出結果に基づいて、ドライバの保舵状態が変則的か否かを判別する構成とする。
【0013】
これによると、ドライバの保舵状態を精度良く判別することができる。
【0014】
前記課題を解決するためになされた第4の発明は、前記第1〜第3の発明において、車両が走行レーンから逸脱しないようにドライバのステアリング操作を誘導するレーンキープアシスト制御手段(19)をさらに有し、前記障害物回避制御手段が、前記レーンキープアシスト制御手段においてレーンキープアシスト制御が行われている場合に、ドライバの保舵状態が変則的であると判別する構成とする。
【0015】
これによると、レーンキープアシスト制御が行われている場合、ドライバの保舵状態が変則的である、具体的にはドライバーがステアリングホイールを両手で軽く保持している軽保舵状態である可能性が高く、レーンキープアシスト制御が行われているか否かで、ドライバの保舵状態を判別することができる。
【0016】
ここで、レーンキープアシスト制御とは、例えば、ドライバがステアリングホイールを回動操作する際の操舵反力を調整して、車両が走行レーンの中央付近を走行するようにドライバのステアリング操作を誘導するものである。
【0017】
なお、車両挙動制御装置は、障害物回避時の旋回性の向上や旋回時の走行安定性の向上に寄与するものであり、例えばドライバの手動操舵力を補助するアシスト力を制御して走行安定性を向上させる電動パワーステアリング制御を行うものや、各車輪の制動力を個別に制御して走行安定性を向上させる制動力制御を行うものや、左右の後輪のトー角を個別に制御して旋回性能や走行安定性を向上させる後輪トー角制御を行うものや、左右の車輪間での駆動力の配分を変更して旋回性能を向上させる左右駆動力配分制御を行うものなどがある。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、片手保舵や軽保舵といった変則的な保舵状態の場合に、車両挙動制御装置の制御値が増大補正されることで、制御の不足分が補われるため、保舵状態の違いによる影響を抑制して、車両挙動制御装置の本来の性能を十分に発揮することが可能になり、障害物回避能力を向上させる上で大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による車両制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】自車の進路上にある障害物を回避する状況を車両の上方から見た模式図である。
【図3】ドライバの保舵状態の例を示す正面図である。
【図4】図1に示した制御ゲイン算出部で用いられる制御ランク関数及び制御ゲイン算出関数の特性を示す図である。
【図5】図1に示した障害物回避制御部で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【図6】図5に示した保舵状態判定の手順を示すフロー図である。
【図7】図5に示した制御ゲイン算出の手順を示すフロー図である。
【図8】図5に示した保舵状態判定の手順の別例を示すフロー図である。
【図9】図5に示した制御ゲイン算出の手順の別例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
本発明による車両制御システムは、4輪自動車に適用されるものであり、図1に示すように、車両挙動制御装置として、EPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4と、障害物回避制御部(障害物回避制御手段)5とを有している。
【0022】
EPSコントローラ1は、車速センサ11、舵角センサ12、操舵トルクセンサ13、及びヨーレートセンサ14により検出される車速、操舵角(前輪舵角)、操舵トルク、及びヨーレートなどに基づいて、ドライバの手動操舵力を補助するアシスト力を発生するアクチュエータ6、具体的には、ステアリングホイールから左右の前輪のナックルに至る操舵機構上に設けられた電動モータを制御するものであり、これによりアシスト力を制御して走行安定性を向上させることができる。
【0023】
VSAコントローラ2は、車速センサ11、舵角センサ12、ヨーレートセンサ14、及び横加速度センサ15により検出される車速、操舵角、ヨーレート、及び横加速度などに基づいて、車輪の制動力を発生するアクチュエータ7、具体的には、前後左右の各車輪ごとのブレーキシリンダにブレーキ液圧を供給する液圧ユニットを制御するものであり、これにより各車輪の制動力を個別に制御して走行安定性を向上させることができる。
【0024】
RTCコントローラ3は、車速センサ11、舵角センサ12、ヨーレートセンサ14、及び横加速度センサ15により検出される車速、操舵角、ヨーレート、及び横加速度などに基づいて、後輪の操舵力を発生するアクチュエータ8、具体的には、左右の後輪のサスペンションに設けられて押し引き動作により後輪を転舵させる直動アクチュエータなどを制御するものであり、これにより左右の後輪のトー角を個別に制御して旋回性能や走行安定性を向上させることができる。
【0025】
左右駆動力配分コントローラ4は、車速センサ11、舵角センサ12、ヨーレートセンサ14、及び横加速度センサ15により検出される車速、操舵角、ヨーレート、及び横加速度などに基づいて、左右駆動力配分ユニットを駆動するアクチュエータ9、具体的には、左右駆動力配分ユニット内の電磁クラッチなどを制御するものであり、これにより左右の車輪間での駆動力の配分を変更して旋回性能を向上させることができる。
【0026】
EPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4では、制御値算出部21〜24にてアクチュエータ6〜9の制御値(制御目標値)が算出され、この制御値に基づいてアクチュエータ6〜9が制御されるが、特にここでは、制御値算出部21〜24から出力される制御値に制御ゲインK1〜K4を乗じる乗算器26〜29が設けられている。制御ゲインK1〜K4は、以下に詳しく説明するように障害物回避制御部5で求められる。
【0027】
障害物回避制御部5は、障害物回避判定部31と、保舵状態判定部32と、制御ゲイン算出部33とを有している。
【0028】
障害物回避判定部31は、レーダー装置18により自車の進路上に障害物があることが検知された場合に(図2参照)、舵角センサ12により検出される操舵角の変化に基づいて、ドライバによる障害物を回避するためのステアリング操作がなされたか否かを判定するものであり、この障害物回避判定部31でドライバによる障害物回避操作がなされたものと判定されると、EPSコントローラ1においてそのドライバによる障害物回避操作を支援する制御が行われる。
【0029】
EPSコントローラ1では、車両に生じるヨーレートに応じてアクチュエータ6が発生するアシスト力を調整する操舵力アシスト制御(ヨーレート反力制御)が行われており、ドライバによる障害物を回避するステアリング操作がなされたものと判定されると、アクチュエータ6のアシスト力を増大して、ステアリングホイールを回動操作する際の操舵反力が小さくなるように制御し、これにより障害物を回避する方向へのステアリング操作を円滑且つ迅速に行うことができる。
【0030】
なお、EPSコントローラ1の他に、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ2〜4でもドライバによる障害物回避操作を支援する制御が行われるように構成することも可能である。
【0031】
保舵状態判定部32は、図3に示すように、ステアリングホイール51に設けられた圧力センサ16の出力に基づいてドライバの保舵状態を判定するものである。圧力センサ16は、ステアリングホイール51のリム部52に全周に渡って設けられており、この圧力センサ16により検出される圧力の分布状態から、ドライバがステアリングホイールを両手で保持しているか片手で保持しているかの保持形態を判別することができ、さらに圧力センサ16により検出される圧力の大きさから、ドライバがステアリングホイールを強く保持しているか軽く保持しているかの把持強度を判別することができる。
【0032】
図1に示した制御ゲイン算出部33は、保舵状態判定部32で判定された保舵状態に基づいて、EPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4ごとに制御ゲインK1〜K4を算出するものであり、ここで算出された制御ゲインK1〜K4が各コントローラ1〜4に向けて出力される。
【0033】
図3(A)に示すように、ドライバがステアリングホイール51を両手で適度に強く保持している標準的な保舵状態では、障害物を回避するためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができる。一方、図3(B)に示すように、ステアリングホイール51を片手で保持している片手保舵状態や、図3(C)に示すように、ステアリングホイール51を両手で軽く保持している軽保舵状態といった変則的な保舵状態では、障害物回避のためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができない。このため、ステアリング操作が不十分となり、操舵角に基づいて車両の挙動を制御する各コントローラ2〜4の制御が不足気味となる。
【0034】
そこで、保舵状態判定部32にて片手保舵状態や軽保舵状態といった変則的な保舵状態と判定されると、各コントローラ1〜4の制御値算出部21〜24で算出された制御値が増大補正されるように、制御ゲイン算出部33にて制御ゲインK1〜K4が設定される(K1〜K4>1)。これにより、変則的な保舵状態の場合に、各コントローラ1〜4の制御値が増大補正されることで、制御の不足分が補われるため、各コントローラ1〜4の本来の性能を十分に発揮することが可能になり、障害物回避能力を向上させることができる。
【0035】
なお、保舵状態の判定では、圧力センサ16の検出結果からステアリングホイール51のリム部52において比較的高い圧力を示す部位が1箇所のみの場合には片手保舵状態と判定し、比較的高い圧力を示す部位が2箇所あり、且つその部位の圧力値が所定のしきい値を下回る場合には軽保舵状態と判定する。
【0036】
特にここでは、各コントローラ1〜4の制御値を増大補正する制御ゲインが、ドライバによるステアリングホイールの把持強度が小さくなるのに応じて高くなるように設定される。これにより、把持強度が小さくなるのに応じて増大する制御の不足分が適切に補われるため、障害物回避能力をより一層向上させることができる。
【0037】
具体的には、まず制御ランク関数を用いて把持強度から制御ランクが決定され、ついで制御ゲイン算出関数を用いて制御ランクから制御ゲインが求められる。
【0038】
制御ランク関数は、図4(A)に示すように、把持強度が小さくなるのに応じて制御ランクが高くなる特性に設定されている。なお、片手保舵状態か軽保舵状態かの別に応じて、ステアリングホイールを操作する力の大きさや迅速さの程度が異なるため、把持強度を示す圧力センサ16の検出値から制御ランクを求める制御ランク関数を、片手保舵状態の場合と軽保舵状態の場合とで別々に用意し、保舵状態に応じて使い分けるようにしても良い。
【0039】
制御ゲイン算出関数は、図4(B)に示すように、制御ランクが高くなる、すなわち把持強度が小さくなるのに応じて制御ゲインが高くなる特性に設定されている。この制御ゲイン算出関数は各コントローラ1〜4ごとに用意され、各コントローラ1〜4ごとに制御ゲインが算出される。
【0040】
ところで、図2に示したように、障害物43を回避した後に元の直進走行状態に戻る際に、車両42の安定性が低下した状態になることがあり、この場合、EPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4による車両安定化制御が行われるが、この車両安定化制御においても、前記の障害物回避制御と同様に、各コントローラ1〜4による制御が保舵状態の影響を受ける。
【0041】
すなわち、片手保舵状態や軽保舵状態といった変則的な保舵状態では、障害物回避後に元の直進走行状態に戻るためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができない。このため、ステアリング操作が不十分となり、操舵角に基づいて車両の挙動を制御する各コントローラ2〜4の制御が不足気味となる。そこで、各コントローラ1〜4の制御値算出部21〜24で算出された制御値が増大補正されるように制御ゲインK1〜K4が設定される。
【0042】
次に、障害物回避制御部5で行われる処理の手順について説明する。障害物回避制御部5では、図5に示すように、保舵状態判定部32による保舵状態判定(ST101)と、障害物回避判定部31による障害物回避判定(ST102)と、制御ゲイン算出部33による制御ゲイン算出(ST103)の各処理が順次行われる。
【0043】
保舵状態判定(ST101)では、図6に示すように、直進状態と判定され(ST201でYes)、且つ片手保舵状態または軽保舵状態と判定されると(ST202でYes)、片手・軽保舵フラグが1に設定されると共に(ST203)、把持強度から制御ランク関数を用いて制御ランクが求められる(ST205)。直進状態の判定(ST201)では、車速が所定のしきい値を上回り且つヨーレートが所定のしきい値を下回る状態が、所定時間継続した場合に車両が直進状態にあると判定する。
【0044】
一方、直進状態でないと判定され(ST201でNo)、また、片手保舵状態及び軽保舵状態のいずれでもない、すなわち標準的な保舵状態と判定されると(ST202でNo)、制御ランクが初期化される(ST204)。
【0045】
図5の障害物回避判定(ST102)では、レーダー装置18の検知結果と、舵角センサ12により検出される操舵角の変化に基づいて、ドライバによる障害物を回避するためのステアリング操作がなされたか否かが判定される。
【0046】
図5の制御ゲイン算出(ST103)では、図7に示すように、片手・軽保舵フラグが1である、すなわち片手保舵状態または軽保舵状態であると判定されると(ST301でYes)、次に図5の障害物回避判定(ST102)でドライバによる障害物回避操作ありの判定がなされたか否かが判定される(ST302)。
【0047】
ここで障害物回避操作ありの判定がなされていれば(ST302でYes)、各デバイス、すなわちEPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4ごとの制御ゲイン算出関数を用いて、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが、図6のST205で求めた制御ランクから算出され(ST303)、ついで回避制御フラグが1に設定される(ST304)。これにより、各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が乗算器26〜29にて増大補正される。
【0048】
一方、障害物回避操作ありの判定がなされていない場合には(ST302でNo)、回避制御フラグが1である、すなわち障害物回避制御が行われたか否かが判定され(ST305)、ここで障害物回避制御が行われたものと判定されると(ST305でYes)、次に障害物を回避した後の車両安定化制御が必要か否かの判定が行われる(ST306)。ここでは、例えば車両の不安定性を示すヨーレートや舵角が所定のしきい値より大である場合に車両の安定性が低下した状態にあるものと判断して車両安定化制御が必要と判定する。
【0049】
ここで、車両安定化制御が必要と判定されると(ST306でYes)、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲイン算出関数を用いて、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが制御ランクから算出される(ST307)。これにより、各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が乗算器26〜29にて増大補正される。
【0050】
また、片手・軽保舵フラグが1でない、すなわち標準的な保舵状態の場合には(ST301でNo)、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが1に設定され(ST308)、ついで回避制御フラグが初期化される(ST309)。これにより各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が補正されずに出力される。
【0051】
なお、この例では、圧力センサ16の出力に基づいてドライバの保舵状態を判定する構成としたが、操舵トルクセンサ13により検出される操舵トルクに基づいてドライバの保舵状態を判定することも可能である。片手保舵状態や軽保舵状態といった変則的な保舵状態では、ドライバがステアリングホイールに加える操舵トルクが小さく、また操舵トルクの変動幅が小さくなるため、保舵状態を判別することができる。
【0052】
また、この例では、変則的な保舵状態、すなわち標準的な保舵状態のように障害物回避のためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができない保舵状態として、片手保舵状態及び軽保舵状態の2つのケースを示したが、この他、ステアリングホイールを把持する位置など、ドライバのステアリング操作に影響を及ぼす条件を加えて、制御値の補正が必要な変則的な保舵状態か否かを判別するように構成することも可能である。
【0053】
また、この車両制御システムは、図1に示したように、レーンキープアシスト制御部(レーンキープアシスト制御手段)19を備えている。このレーンキープアシスト制御部19は、ドライバがステアリングホイール51を回動操作する際の操舵反力を調整して、車両が走行レーンの中央付近を走行するようにドライバのステアリング操作を誘導するものである。
【0054】
このレーンキープアシスト制御部19では、カメラにより撮像された車両の前方の画像から、路面上に設けられた走行レーンを区画する白線などのレーンマークを検知して、そのレーンマークと自車との位置関係などに基づいて、EPSコントローラ1にて行われる通常の操舵アシスト制御に付加される制御量が求められ、これにより走行レーンの維持のための適切な操舵反力が得られるように、EPSのアクチュエータ6が発生する補助操舵力が調整される。
【0055】
また、レーンキープアシスト制御部19では、レーンマークを正確に検出して車両が走行レーンに沿って走行している状態と判定されると、レーンキープアシスト制御を開始し、一方、進路変更のために方向指示器を操作した場合や、大きな力でステアリングホイール51を操作をした場合は、レーンキープアシスト制御が解除されて待機状態となる。
【0056】
このレーンキープアシスト制御部19においてレーンキープアシスト制御が行われている場合、直線路や緩やかな曲線路を走行レーンに沿って走行している状態となるため、図3(C)に示したように、ドライバーがステアリングホイール51を両手で軽く保持している軽保舵状態である可能性が高く、その場合は障害物回避のためのステアリング操作を十分に大きな力で素早く行うことができない。
【0057】
そこで、障害物回避制御部5では、レーンキープアシスト制御部19においてレーンキープアシスト制御が行われている場合に、ドライバの保舵状態が変則的であると判定し、各コントローラ1〜4の制御値算出部21〜24で算出された制御値が増大補正されるように、制御ゲイン算出部33にて制御ゲインK1〜K4が設定される(K1〜K4>1)。これにより、レーンキープアシスト制御が行われている場合に、各コントローラ1〜4の制御値が増大補正されることで、制御の不足分が補われるため、各コントローラ1〜4の本来の性能を十分に発揮することが可能になり、障害物回避能力を向上させることができる。
【0058】
この場合、図5に示したように、障害物回避制御部5の保舵状態判定部32で行われる保舵状態判定(ST101)では、図8に示すように、レーンキープアシスト制御が現在作動中であるか否かが判定され(ST401)、レーンキープアシスト制御が現在作動中であると判定されると(ST401でYes)、LKASフラグが1に設定されると共に(ST402)、把持強度から制御ランク関数を用いて制御ランクが求められる(ST404)。
【0059】
一方、レーンキープアシスト制御が現在作動中でないと判定されると(ST401でNo)、制御ランクが初期化される(ST403)。
【0060】
また、図5に示したように、障害物回避制御部5の障害物回避判定部31で行われる障害物回避判定(ST102)では、レーダー装置18の検知結果と、舵角センサ12により検出される操舵角の変化に基づいて、ドライバによる障害物を回避するためのステアリング操作がなされたか否かが判定される。
【0061】
また、図5に示したように、障害物回避制御部5の制御ゲイン算出部33で行われる制御ゲイン算出(ST103)では、図9に示すように、LKASフラグが1であるか否かが判定され(ST501)、LKASフラグが1である、すなわちレーンキープアシスト制御が現在作動中であると判定されると(ST501でYes)、次に図5の障害物回避判定(ST102)でドライバによる障害物回避操作ありの判定がなされたか否かが判定される(ST502)。
【0062】
ここで障害物回避操作ありの判定がなされていれば(ST502でYes)、各デバイス、すなわちEPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4ごとの制御ゲイン算出関数を用いて、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが、図8のST404で求めた制御ランクから算出され(ST503)、ついで回避制御フラグが1に設定される(ST504)。これにより、各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が乗算器26〜29にて増大補正される。
【0063】
一方、障害物回避操作ありの判定がなされていない場合には(ST502でNo)、回避制御フラグが1である、すなわち障害物回避制御が行われたか否かが判定され(ST505)、ここで障害物回避制御が行われたものと判定されると(ST505でYes)、次に障害物を回避した後の車両安定化制御が必要か否かの判定が行われる(ST506)。
【0064】
ここで、車両安定化制御が必要と判定されると(ST506でYes)、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲイン算出関数を用いて、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが制御ランクから算出される(ST507)。これにより、各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が乗算器26〜29にて増大補正される。
【0065】
また、LKASフラグが1でない、すなわちレーンキープアシスト制御が現在作動中でない場合には(ST501でNo)、各コントローラ1〜4ごとの制御ゲインが1に設定され(ST508)、ついで回避制御フラグが初期化される(ST509)。これにより各コントローラ1〜4では制御値算出部21〜24で算出された制御値が補正されずに出力される。
【0066】
なお、この図8・9に示した例では、把持強度から制御ランク関数を用いて制御ランクを決定して、その制御ランクから制御ゲイン算出関数を用いて制御ゲインを求めるものとしたが、把持強度に基づく制御ランクを用いない構成も可能である。この場合、図8の制御ランクの決定(ST404)は省略され、また図9の制御ゲインの算出(ST503・507)では、各コントローラ1〜4ごとに予め用意された値に制御ゲインが設定される。このようにすると、圧力センサ16を備えていないシステムにも適用することができる。
【0067】
なお、この例では、制御値算出部21〜24から出力される制御値に制御ゲインK1〜K4を乗じる乗算器26〜29を設けて、乗算により制御値を補正する構成としたが、加減算により制御値を補正する構成も可能である。
【0068】
また、この例では、ミリ波レーダーなどのレーダー装置18により自車の進路上の障害物を検知するようにしたが、自車の前方を撮影するカメラによる撮影画像の画像処理により取得した障害物情報や、GPSによるカーナビゲーション装置から提供される障害物情報に基づいて障害物を検知する構成も可能であり、さらにこれらの手法を適宜に組み合わせるようにしても良い。
【0069】
また、この例では、車両挙動制御装置としてのEPS、VSA、RTC、及び左右駆動力配分の各コントローラ1〜4の全てでドライバの保舵状態に応じた制御値の補正を行う構成としたが、これらの一部のみで制御値の補正を行う構成や、ここに例示されない車両挙動制御装置で制御値の補正を行う構成も可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 EPSコントローラ(車両挙動制御装置)
2 VSAコントローラ(車両挙動制御装置)
3 RTCコントローラ(車両挙動制御装置)
4 左右駆動力配分コントローラ(車両挙動制御装置)
5 障害物回避制御部(障害物回避制御手段)
6〜9 アクチュエータ
16 圧力センサ
18 レーダー装置
19 レーンキープアシスト制御部(レーンキープアシスト制御手段)
21〜24 制御値算出部
26〜29 乗算器
31 障害物回避判定部
32 保舵状態判定部
33 制御ゲイン算出部
42 車両
43 障害物
51 ステアリングホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角に基づいて車両の挙動を制御する車両挙動制御装置と、
自車の進路上の障害物を検知する障害物検知手段と、
この障害物検知手段により検知された障害物を回避するドライバの操作を判別して前記車両挙動制御装置を制御する障害物回避制御手段とを有し、
この障害物回避制御手段が、ドライバの保舵状態が変則的か否かを判別して、保舵状態が変則的である場合には、障害物回避制御中に前記車両挙動制御装置の制御値が増大補正されるように制御することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記障害物回避制御手段が、ドライバによるステアリングホイールの把持強度を判別して、前記車両挙動制御装置の制御値を増大補正する制御ゲインを把持強度が小さくなるのに応じて高くなるように設定することを特徴とする請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
ステアリングホイールに設けられた圧力センサをさらに有し、
前記障害物回避制御手段が、前記圧力センサの検出結果に基づいて、ドライバの保舵状態が変則的か否かを判別することを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
車両が走行レーンから逸脱しないようにドライバのステアリング操作を誘導するレーンキープアシスト制御手段をさらに有し、
前記障害物回避制御手段が、前記レーンキープアシスト制御手段においてレーンキープアシスト制御が行われている場合に、ドライバの保舵状態が変則的であると判別することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−20666(P2011−20666A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229589(P2009−229589)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】