説明

車両制御装置

【課題】 サスペンション装置のダンパーの減衰力の制御に異常が発生したときに車輪の制動力への影響を最小限に抑える。
【解決手段】 減衰力制御手段Udによるダンパー14の減衰力の制御に異常が発生し、ダンパー14が低減衰力の状態で固定されたとき、アンチロック制御を行う制動力制御手段Ubがロック傾向になった車輪Wのホイールシリンダに伝達されるブレーキ油圧を通常時よりも早めに減少させるか、ブレーキ油圧の減少量を通常時よりも大きくすることで、アンチロック制御における車輪Wのスリップ率を適正に維持して制動距離の増加を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転状態に応じて各車輪の制動力をに制御可能な制動力制御手段と、車両の運転状態に応じて各車輪のサスペンション装置のダンパーの減衰力を制御可能な減衰力制御手段とを備えた車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減衰力可変型ショックアブソーバを含むサスペンション装置と、アンチロック制御装置とを具備した車両において、アンチロック制御装置の作動時にショックアブソーバの減衰力を高めることで、アンチロック制御に伴うブレーキトルクの変動をショックアブソーバで吸収して車体のピッチングを抑制するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開昭63−34213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、減衰力可変型ダンパーが故障して低減衰力に固定された状態で車輪がロック傾向になると、車体がピッチングしたときの戻り速度が高減衰力のときに比べて速くなるため、車輪の接地荷重が早めに減少して車輪がロックし易くなる。従って、ダンパーの故障時に通常時のアンチロック制御をそのまま行うと、車輪のロック傾向が強まって制動距離が増加してしまう可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ダンパーの減衰力の制御に異常が発生したときに車輪の制動力への影響を最小限に抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両の運転状態に応じて各車輪の制動力を制御可能な制動力制御手段と、車両の運転状態に応じて各車輪のサスペンション装置のダンパーの減衰力を制御可能な減衰力制御手段とを備えた車両制御装置において、減衰力制御手段によるダンパーの減衰力の制御に異常が発生したときに、制動力制御手段は各車輪の制動力の制御特性を変更することを特徴とする車両制御装置が提案される。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の構成によれば、減衰力制御手段によるダンパーの減衰力の制御に異常が発生すると制動力制御手段が各車輪の制動力の制御特性を変更するので、異常によるダンパーの減衰力低下に伴って車輪のスリップ率が変化するのを防止して車両挙動を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0008】
図1〜図4は本発明の一実施例を示すもので、図1は車両のサスペンション装置の正面図、図2は可変減衰力ダンパーの拡大断面図、図3はサスペンションのモデルを示す図、図4はスカイフック制御の説明図である。
【0009】
図1に示すように、四輪の自動車の車輪Wを懸架するサスペンション装置Sは、車体11にナックル12を上下動自在に支持するサスペンションアーム13と、サスペンションアーム13および車体11を接続する可変減衰力のダンパー14と、サスペンションアーム13および車体11を接続するコイルバネ15とを備える。ダンパー14の減衰力を制御する電子制御ユニットよりなる減衰力制御手段Udには、バネ上加速度を検出するバネ上加速度センサSaからの信号と、ダンパー14のストロークを検出するストロークセンサSbからの信号と、車速を検出する車速センサScからの信号と、ヨーレートを検出するヨーレートセンサSdからの信号とが入力される。
【0010】
減衰力制御手段Udには、ブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置の油圧ポンプ30、加圧バルブ31および減圧バルブ32の作動を制御する電子制御ユニットよりなる制動力制御手段Ubが接続される。制動力制御手段Ubにはブレーキペダル踏力センサSeで検出したブレーキペダルの踏力と、各車輪Wの車輪速センサSfで検出した車輪速とが入力される。
【0011】
制動力制御手段Ubは、車輪Wがロック傾向にない通常時には、ブレーキペダル踏力センサSeで検出したブレーキペダルの踏力に応じて加圧バルブ31を開弁することで、油圧ポンプ30で発生したブレーキ油圧をホイールシリンダに伝達し、各車輪Wに前記ブレーキペダルの踏力に応じた制動力を発生させる。本実施例のブレーキ装置はアンチロック機能を備えるもので、各車輪Wの車輪速から各車輪Wのスリップ率を算出し、そのスリップ率が閾値を超えて車輪Wがロック傾向にあると判断されたときに、加圧バルブ31を閉弁して減圧バルフ32を開弁することで、各車輪Wのホイールシリンダに伝達されるブレーキ油圧を減圧してロックを抑制する。上述したブレーキ油圧の減圧によって車輪Wのロック傾向が解消されると、制動力制御手段Ubは、加圧バルブ31を開弁して減圧バルフ32を閉弁することで、ホイールシリンダに伝達されるブレーキ油圧を加圧して制動力を増加させる。このように、車輪Wがロック傾向になったときに、加圧バルブ31および減圧バルブ32を短い時間間隔で交互に開閉することで、車輪Wのロックを回避しながら最大限の制動力を確保して制動距離を短縮することができる。
【0012】
図2に示すように、ダンパー14は、下端がサスペンションアーム13に接続されたシリンダ21と、シリンダ21に摺動自在に嵌合するピストン22と、ピストン22から上方に延びてシリンダ21の上壁を液密に貫通し、上端を車体に接続されたピストンロッド23と、シリンダの下部に摺動自在に嵌合するフリーピストン24とを備えており、シリンダ21の内部にピストン22により仕切られた上側の第1流体室25および下側の第2流体室26が区画されるとともに、フリーピストン24の下部に圧縮ガスが封入されたガス室27が区画される。
【0013】
ピストン22にはその上下面を連通させるように複数の流体通路22a…が形成されており、これらの流体通路22a…によって第1、第2流体室25,26が相互に連通する。第1、第2流体室25,26および流体通路22a…に封入される磁気粘性流体は、オイルのような粘性流体に鉄粉のような磁性体微粒子を分散させたもので、磁界を加えると磁力線に沿って磁性体微粒子が整列することで粘性流体が流れ難くなり、見かけの粘性が増加する性質を有している。ピストン22の内部にコイル28が設けられており、減衰力制御手段Udによりコイル28への通電が制御される。コイル28に通電されると矢印で示すように磁束が発生し、流体通路22a…を通過する磁束により磁気粘性流体の粘性が変化する。
【0014】
ダンパー14が収縮してシリンダ21に対してピストン22が下動すると、第1流体室25の容積が増加して第2流体室26の容積が減少するため、第2流体室26の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22a…を通過して第1流体室25に流入し、逆にダンパー14が伸長してシリンダ21に対してピストン22が上動すると、第2流体室26の容積が増加して第1流体室25の容積が減少するため、第1流体室25の磁気粘性流体がピストン22の流体通路22a…を通過して第2流体室26に流入し、その際に流体通路22a…を通過する磁気粘性流体の粘性抵抗によりダンパー14が減衰力を発生する。
【0015】
このとき、コイル28に通電して磁界を発生させると、ピストン22の流体通路22a…に存在する磁気粘性流体の見かけの粘性が増加して該流体通路22aを通過し難くなるため、ダンパー14の減衰力が増加する。この減衰力の増加量は、コイル28に供給する電流の大きさにより任意に制御することができる。
【0016】
尚、ダンパー14に衝撃的な圧縮荷重が加わって第2流体室26の容積が減少するとき、ガス室27を縮小させながらフリーピストン24が下降することで衝撃を吸収する。またダンパー14に衝撃的な引張荷重が加わって第2流体室26の容積が増加するとき、ガス室27を拡張させながらフリーピストン24が上昇することで衝撃を吸収する。更に、ピストン22が下降してシリンダ21内に収納されるピストンロッド23の容積が増加したとき、その容積の増加分を吸収するようにフリーピストン24が下降する。
【0017】
しかして、減衰力制御手段Udは、バネ上加速度センサSaで検出したバネ上加速度、ストロークセンサSbで検出したダンパー14のストローク、車速センサScで検出した車速およびヨーレートセンサSdで検出したヨーレート等に基づいて、各車輪Wの合計4個のダンパー14の減衰力を個別に制御することで、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑えて乗り心地を高めるスカイフック制御のような乗り心地制御と、車両の旋回時のローリングや車両の急加速時や急減速時のピッチングを抑える操縦安定制御とを、車両の運転状態に応じて選択的に実行する。
【0018】
次に、図3および図4に基づいて、車両の動揺を抑えて乗り心地を高めるためのスカイフック制御について説明する。
【0019】
図3に示すサスペンション装置のモデルから明らかなように、路面にタイヤの仮想的なバネ17を介してバネ下質量18が接続され、バネ下質量18にダンパー14およびコイルバネ15を介してバネ上質量19が接続される。ダンパー14の減衰力はコイル28への通電により可変である。バネ上質量19の変位X2の変化率dX2/dtは、バネ上加速度センサSaで検出したバネ上加速度の出力を積分したバネ上速度に相当する。またバネ上質量19の変位X2およびバネ下質量18の変位X1の差の変化率d(X2−X1)/dtは、ストロークセンサSbの出力を微分したダンパー速度に相当する。
【0020】
dX2/dt×d(X2−X1)/dt>0
のとき、つまりバネ上速度とダンパー速度とが同方向(同符号)であるとき、ダンパー14は減衰力を増加させる方向に制御される。一方、
dX2/dt×d(X2−X1)/dt≦0
のとき、つまりバネ上速度とダンパー速度とが逆方向(逆符号)であるとき、ダンパー14は減衰力を減少させる方向に制御される。
【0021】
従って、図4に示すように車輪Wが路面の突起を乗り越す場合を考えると、(1)に示すように車輪Wが突起の前半に沿って上昇する間は、車体11が上向きに移動してバネ上速度(dX2/dt)が正値になり、ダンパー14が圧縮されてダンパー速度d(X2−X1)/dtが負値になるため、両者が逆符号となってダンパー14は圧縮方向の減衰力を減少させるように制御される。
【0022】
また(2)に示すように車輪Wが突起の頂点を乗り越した直後は、車体11が慣性で依然として上向きに移動してバネ上速度(dX2/dt)が正値になり、車体11の上昇によりダンパー14が伸長されてダンパー速度d(X2−X1)/dtが正値になるため、両者が同符号となってダンパー14は伸長方向の減衰力を増加させるように制御される。
【0023】
また(3)に示すように車輪Wが突起の後半に沿って下降する間は、車体11が下向きに移動してバネ上速度(dX2/dt)が負値になり、車輪Wが車体11よりも速く下降することによりダンパー14が伸長されてダンパー速度d(X2−X1)/dtが正値になるため、両者が逆符号となってダンパー14は伸長方向の減衰力を減少させるように制御される。
【0024】
また(4)に示すように車輪Wが突起を完全に乗り越した直後は、車体11が慣性で依然として下向きに移動してバネ上速度(dX2/dt)が負値になり、車輪Wが下降を停止することによりダンパー14が圧縮されてダンパー速度d(X2−X1)/dtが負値になるため、両者が同符号となってダンパー14は圧縮方向の減衰力を増加させるように制御される。
【0025】
ところで、減衰力制御手段Udが故障するとダンパー14のコイル28への通電が遮断されるため、ダンパー14の減衰力が最小の状態に固定されてしまう。このようにダンパー14の減衰力が低下した状態で車輪Wがロック傾向になると、車体がピッチングしたときの戻り速度が高減衰力のときに比べて速くなり、車輪Wの接地荷重が早めに減少してしまうため、車輪Wが一層ロックし易くなる。そこでアンチロック制御時に減衰力制御手段Udが故障すると、それに接続された制動力制御手段Ubがブレーキキャリパに伝達されるブレーキ油圧を通常時よりも早めに減少させるか、ブレーキ油圧の減少量を通常時よりも大きくすることで、アンチロック制御中の車輪Wのスリップ率を適正に維持して制動距離の増加を最小限に抑えることができる。
【0026】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0027】
例えば、実施例では制動力制御手段Ubがブレーキ装置のアンチロック機能を制御しているが、本発明の制動力制御手段Ubは、旋回内輪および旋回外輪に制動力差を発生させることで車両の旋回を補助あるいは抑制するヨーモーメントを発生させるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】車両のサスペンション装置の正面図
【図2】可変減衰力ダンパーの拡大断面図
【図3】サスペンションのモデルを示す図
【図4】スカイフック制御の説明図
【符号の説明】
【0029】
S サスペンション装置
Ub 制動力制御手段
Ud 減衰力制御手段
14 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転状態に応じて各車輪(W)の制動力を制御可能な制動力制御手段(Ub)と、車両の運転状態に応じて各車輪(W)のサスペンション装置(S)のダンパー(14)の減衰力を制御可能な減衰力制御手段(Ud)とを備えた車両制御装置において、
減衰力制御手段(Ud)によるダンパー(14)の減衰力の制御に異常が発生したときに、制動力制御手段(Ub)は各車輪(W)の制動力の制御特性を変更することを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−55407(P2007−55407A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242410(P2005−242410)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】