説明

車輌のロール剛性制御装置

【課題】前輪及び後輪の横力発生の余裕度合に応じて前後輪ロール剛性配分比を制御することにより、従来に比して車輌の旋回限界を向上させる。
【解決手段】前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算され(S20)、余裕度合Af及びArの差を低減するための前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算され(S70)、前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算され(S80、90)、車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され(S100)、最終目標ロール剛性配分比Rsdtにて目標アンチロールモーメントMatを達成するための前輪及び後輪の目標アンチロールモーメントMaft、Martが演算され(S110)、目標アンチロールモーメントMaft、Martが達成されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される(S120、130)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌のロール剛性制御装置に係り、更に詳細には前輪及び後輪の横力発生の余裕度合に応じて前後輪ロール剛性配分比を可変制御する車輌のロール剛性制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌のロール剛性制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、車輌の目標ヨーレートを演算し、車輌の実ヨーレートが目標ヨーレートに近づくよう前後輪ロール剛性配分比を制御するロール剛性制御装置が従来より知られている。
【0003】
かかるロール剛性制御装置によれば、車輌の実ヨーレートが目標ヨーレートに近づくよう前後輪ロール剛性配分比が制御されるので、例えば各車輪の制駆動力が制御されることにより車輌の実ヨーレートが目標ヨーレートに近づけられる場合の如く車輌の加減速に影響を及ぼすことなく車輌の旋回時の走行安定性を向上させることができる。
【特許文献1】特開平6−211018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、前後輪ロール剛性配分比を制御すると、左右輪の接地荷重の比が前輪側及び後輪側に於いて変化するので、各車輪が発生可能な前後力及び横力も変化し、車輌の旋回限界も変化する。しかるに上述の如き従来のロール剛性制御装置に於いては、各車輪が発生可能な力が考慮されておらず、車輌の旋回限界が向上するよう前後輪ロール剛性配分比を制御する上で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、従来のロール剛性制御装置に於ける上述の如き現状に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定し、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合に応じて前後輪ロール剛性配分比を制御することにより、従来に比して車輌の旋回限界を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輌の前後輪ロール剛性配分比可変手段と、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定する手段と、前記前輪の横力発生の余裕度合と前記後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前記前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする車輌のロール剛性制御装置によって達成される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、車輌は各車輪の制駆動力を制御することにより車輌のヨー運動を目標ヨー運動に近づけるヨー運動制御装置を有するよう構成される(請求項2の構成)。
【0008】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記制御手段は前記ヨー運動制御装置が異常であるときには前記ヨー運動制御装置が正常であるときに比して前後輪ロール剛性配分比を前輪寄りにするよう構成される(請求項3の構成)。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記制御手段は前記ヨー運動制御装置が異常であるときには前記ヨー運動制御装置が正常であるときに比して前記偏差の大きさの低減度合を小さくするよう構成される(請求項4の構成)。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の構成に於いて、前記制御手段は車輌のロールモーメントを推定し、前記車輌のロールモーメントの大きさが小さいときには前記車輌のロールモーメントの大きさが大きいときに比して前記偏差の大きさの低減度合を小さくするよう構成される(請求項5の構成)。
【0011】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至5の構成に於いて、前記前後輪ロール剛性配分比可変手段は前輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより前輪位置のロール剛性を変化させる前輪位置のロール剛性可変手段と、後輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより後輪位置のロール剛性を変化させる後輪位置のロール剛性可変手段とを含むよう構成される(請求項6の構成)。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項6の構成に於いて、前記制御手段は前記偏差の大きさを低減する目標前後輪ロール剛性配分比を演算し、車輌のロールモーメントを推定し、前記車輌のロールモーメントに基づき車輌の目標アンチロールモーメントを演算し、前後輪ロール剛性配分比が前記目標前後輪ロール剛性配分比になると共に車輌のアンチロールモーメントが前記目標アンチロールモーメントになるよう前記前輪位置のロール剛性可変手段及び前記後輪位置のロール剛性可変手段を制御するよう構成される(請求項7の構成)。
【発明の効果】
【0013】
上記請求項1の構成によれば、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されるよう前後輪ロール剛性配分比可変手段が制御されるので、前輪と後輪との間に於いて低い方の余裕度合を高くすると共に高い方の余裕度合を低くすることができ、これにより前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されない場合に比して車輌全体の横力を高くして車輌の旋回限界を向上させることができる。
【0014】
また上記請求項2の構成によれば、車輌は各車輪の制駆動力を制御することにより車輌のヨー運動を目標ヨー運動に近づけるヨー運動制御装置を有するので、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されるよう前後輪ロール剛性配分比可変手段が制御されることにより車輌のステア特性がオーバーステア側又はアンダーステア側へ変化されても、車輌の旋回状態が悪化することを効果的に防止することができ、また車輌がヨー運動制御装置を有しない場合に比して前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減度合を大きくし、車輌の旋回限界を確実に向上させることができる。
【0015】
また上記請求項3の構成によれば、ヨー運動制御装置が異常であるときにはヨー運動制御装置が正常であるときに比して前後輪ロール剛性配分比が前輪寄りにされるので、ヨー運動制御装置が異常でありヨー運動制御装置による車輌は旋回運動の安定化が行われない状況に於いて、車輌のステア特性をアンダーステア側へ変化させ、これにより車輌の旋回時の走行安定性を確実に向上させることができる。
【0016】
また上記請求項4の構成によれば、ヨー運動制御装置が異常であるときにはヨー運動制御装置が正常であるときに比して前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減度合が小さくされるので、ヨー運動制御装置が異常であり車輌の旋回運動が不安定になる虞れがある状況に於いて、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減に伴う車輌のステア特性の変化に起因して車輌の旋回運動が不安定になる虞れを確実に低減することができる。
【0017】
また一般に、前後輪ロール剛性配分比の制御は車輪の接地荷重−横力の関係の非線形領域の特性を利用して行われ、車輌のロールモーメントの大きさが小さい領域に於いては車輪の接地荷重−横力の関係が線形性を有するので、前後輪ロール剛性配分比の制御効果が低い。
【0018】
上記請求項5の構成によれば、車輌のロールモーメントの大きさが小さいときには車輌のロールモーメントの大きさが大きいときに比して前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減度合が小さくされるので、車輌のロールモーメントの大きさが小さい状況に於いて前後輪ロール剛性配分比が無駄に制御されることを防止し、前後輪ロール剛性配分比の制御頻度や制御によるエネルギの消費を低減することができる。
【0019】
また上記請求項6の構成によれば、前後輪ロール剛性配分比可変手段は前輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより前輪位置のロール剛性を変化させる前輪位置のロール剛性可変手段と、後輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより後輪位置のロール剛性を変化させる後輪位置のロール剛性可変手段とを含むので、前輪位置のロール剛性可変手段及び後輪位置のロール剛性可変手段の制御により確実に前後輪ロール剛性配分比を制御することができる。
【0020】
また上記請求項7の構成によれば、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減する目標前後輪ロール剛性配分比が演算され、車輌のロールモーメントが推定され、車輌のロールモーメントに基づき車輌の目標アンチロールモーメントが演算され、前後輪ロール剛性配分比が目標前後輪ロール剛性配分比になると共に車輌のアンチロールモーメントが目標アンチロールモーメントになるよう前輪位置のロール剛性可変手段及び後輪位置のロール剛性可変手段が制御されるので、車輌のロールモーメントに応じたアンチロールモーメントを発生させて車輌のロールを効果的に低減しつつ、前後輪ロール剛性配分比を目標前後輪ロール剛性配分比に制御して車輌の旋回限界を向上させることができる。
【0021】
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は前輪が発生可能な横力に対する前輪が増大可能な横力の比として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は後輪が発生可能な横力に対する後輪が増大可能な横力の比として演算されるよう構成される(好ましい態様1)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は左右前輪が発生可能な横力の和に対する左右前輪が増大可能な横力の和の比として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は左右後輪が発生可能な横力の和に対する左右後輪が増大可能な横力の和の比として演算されるよう構成される(好ましい態様2)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は前輪が発生可能な横力と前輪が発生している横力との差として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は後輪が発生可能な横力と後輪が発生している横力との差として演算されるよう構成される(好ましい態様3)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は左右前輪が発生可能な横力の和と左右前輪が発生している横力の和との差として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は左右後輪が発生可能な横力の和と左右後輪が発生している横力の和との差として演算されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減は、横力発生の余裕度合が高い方のロール剛性配分比を増大させると共に横力発生の余裕度合が低い方のロール剛性配分比を低下させることより行われるよう構成される(好ましい態様5)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、ヨー運動制御装置は車輌のスピンの程度を示すスピン状態量を演算し、スピン状態量に応じて車輌にスピン抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させることにより車輌の走行運動を安定化させるよう構成される(好ましい態様6)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、ヨー運動制御装置は車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量を演算し、ドリフトアウト状態量に応じて車輌にドリフトアウト抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させることにより車輌の走行運動を安定化させるよう構成される(好ましい態様7)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、制御手段は基本ロール剛性配分比と、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するためのロール剛性配分比増減量との和として目標前後輪ロール剛性配分比を演算し、目標前後輪ロール剛性配分比に基づき前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御し、ヨー運動制御装置が異常であるときには基本ロール剛性配分比を前輪寄りの値に変更するよう構成される(好ましい態様8)。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、制御手段はヨー運動制御装置が異常であるときには目標前後輪ロール剛性配分比に対するロール剛性配分比増減量の寄与度合を低下させることにより、前記偏差の大きさの低減度合を小さくするよう構成される(好ましい態様9)。
【0030】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5又は7の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度を検出し、検出された車輌の横加速度に基づいて車輌のロールモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様10)。
【0031】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5又は7の構成に於いて、制御手段は車速及び操舵角に基づき車輌の横加速度を推定し、推定された車輌の横加速度に基づいて車輌のロールモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様11)。
【0032】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5又は7の構成に於いて、ロール度合判定手段は車輌の横加速度を検出すると共に車速及び操舵角に基づき車輌の横加速度を推定し、推定された車輌の横加速度及び推定された車輌の横加速度に基づいて車輌のロール度合を判定するよう構成される(好ましい態様12)。
【0033】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、ロール剛性可変手段は二分割のスタビライザと該スタビライザのトーションバーを相対回転させるアクチュエータとを有するアクティブスタビライザを含み、アクチュエータの回転角度の増減によってアンチロールモーメントを増減することによりロール剛性を増減するよう構成される(好ましい態様13)。
【0034】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、ロール剛性可変手段はサスペンションスプリングのばね定数を増減することによってサスペンションの支持剛性を増減することによりロール剛性を増減するよう構成される(好ましい態様14)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
【0036】
図1は前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置が設けられた車輌に適用された本発明による車輌のロール剛性制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
【0037】
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌12の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動される図には示されていないパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。尚本発明のロール剛性制御装置が適用される車輌の駆動形式は前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動の何れであってもよい。
【0038】
左右の前輪10FL及び10FRの間にはアクティブスタビライザ装置16が設けられ、左右の後輪10RL及び10RRの間にはアクティブスタビライザ装置18が設けられている。アクティブスタビライザ装置16及び18はアンチロールモーメントを車輌(車体)に付与すると共に必要に応じてアンチロールモーメントを増減するアンチロールモーメント付与手段として機能する。
【0039】
アクティブスタビライザ装置16は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分16TL及び16TRと、それぞれトーションバー部分16TL及び16TRの外端に一体に接続された一対のアーム部16AL及び16ARとを有している。トーションバー部分16TL及び16TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の回りに回転可能に支持されている。アーム部16AL及び16ARはそれぞれトーションバー部分16TL及び16TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部16AL及び16ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右前輪10FL及び10FRの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
【0040】
アクティブスタビライザ装置16はトーションバー部分16TL及び16TRの間にアクチュエータ20Fを有している。アクチュエータ20Fは必要に応じて一対のトーションバー部分16TL及び16TRを互いに逆方向へ回転駆動することにより、左右の前輪10FL及び10FRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右前輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、前輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
【0041】
同様に、アクティブスタビライザ装置18は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分18TL及び18TRと、それぞれトーションバー部分18TL及び18TRの外端に一体に接続された一対のアーム部18AL及び18ARとを有している。トーションバー部分18TL及び18TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の回りに回転可能に支持されている。アーム部18AL及び18ARはそれぞれトーションバー部分18TL及び18TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部18AL及び18ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右後輪10RL及び10RRの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
【0042】
アクティブスタビライザ装置18はトーションバー部分18TL及び18TRの間にアクチュエータ20Rを有している。アクチュエータ20Rは必要に応じて一対のトーションバー部分18TL及び18TRを互いに逆方向へ回転駆動することにより、左右の後輪10RL及び10RRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右後輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、後輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
【0043】
尚アクティブスタビライザ装置16及び18の構造自体は本発明の要旨をなすものではないので、車輌のロール剛性を可変制御し得るものである限り当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよいが、例えば本願出願人の出願にかかる特願2003−324212(整理番号AT−5552)明細書及び図面に記載のアクティブスタビライザ装置、即ち一方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車が取り付けられた回転軸を有する電動機と、他方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車に噛合する従動歯車とを有し、駆動歯車及び従動歯車は駆動歯車の回転を従動歯車へ伝達するが、従動歯車の回転を駆動歯車へ伝達しない歯車であるアクティブスタビライザ装置であることが好ましい。
【0044】
アクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rは電子制御装置22により制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置22及び後述の電子制御装置36はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよく、必要に応じて相互に情報の授受を行う。
【0045】
各車輪の制動力は制動装置26の油圧回路28によりホイールシリンダ30FL、30FR、30RL、30RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図1には示されていないが、油圧回路28はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル32の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ34により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置36により個別に制御される。
【0046】
図1に示されている如く、電子制御装置22には横加速度センサ40により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、車速センサ42により検出された車速Vを示す信号、操舵角センサ44により検出された操舵角θを示す信号、回転角度センサ46F、46Rにより検出されたアクチュエータ20F及び20Rの実際の回転角度φF、φRを示す信号が入力される。
【0047】
他方、電子制御装置36には前後加速度センサ48により検出された車輌の前後加速度Gxを示す信号、ヨーレートセンサ50により検出された車輌のヨーレートγを示す信号、圧力センサ52により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、圧力センサ54FL〜54RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が入力される。
【0048】
尚横加速度センサ40、操舵角センサ44、回転角度センサ46F、46R、ヨーレートセンサ50はそれぞれ車輌の左旋回時に生じる値を正として横加速度Gy、操舵角θ、回転角度φF、φR、ヨーレートγを検出する。
【0049】
電子制御装置22は、図2及び図3に示されたフローチャートに従って前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arを演算し、余裕度合Af及びArの差を低減してこれらを同一にする前輪の目標ロール剛性配分比Rsdを演算する。
【0050】
また電子制御装置22は、少なくとも車輌の横加速度Gyに基づき車輌に作用するロールモーメントを推定し、ロールモーメントの大きさが基準値以上であるときには、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するよう車輌の目標アンチロールモーメントMatを演算する。
【0051】
そして電子制御装置22は、目標アンチロールモーメントMat及び前輪の目標ロール剛性配分比Rsdに基づき前輪の目標アンチロールモーメントMatf及び後輪の目標アンチロールモーメントMatrを演算し、目標アンチロールモーメントMatf及びMatrに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角度φFt、φRtを演算し、アクチュエータ20F及び20Rの回転角度φF、φRがそれぞれ対応する目標回転角度φFt、φRtになるよう制御し、これにより旋回時等に於ける車輌のロールを好ましい前後輪ロール剛性配分比にて低減する。
【0052】
かくしてアクティブスタビライザ装置16及び18、電子制御装置26、横加速度センサ40等は、車輌に過大なロールモーメントが作用するときにはアンチロールモーメントを増減させて車輌のロール剛性を増減するロール剛性可変装置として機能する。
【0053】
他方、電子制御装置36は車輌の走行に伴い変化する車輌の横加速度Gyの如き車輌状態量に基づき車輌のスリップ角βを推定し、車輌の目標スリップ角βtと車輌のスリップ角βとの偏差に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SSを演算する。また電子制御装置36はヨーレートγ偏差Δγに基づき車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算する。
【0054】
そして電子制御装置36はスピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌のヨー運動が目標のヨー運動になるよう車輌の旋回走行状態を安定化させるための各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の制動圧Piが目標制動圧Ptiになるよう制御し、これにより車輌にスピン抑制方向又はドリフトアウト抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させて車輌の旋回走行状態を安定化させる車輌の走行運動制御を行う。
【0055】
尚、上述の制動力の制御による車輌の走行運動制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、この制御は車輌のヨー運動が目標のヨー運動になるよう制御するものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
【0056】
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける前後輪ロール剛性配分比及びアンチロールモーメントの制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチが閉成されることにより開始され、イグニッションスイッチが開成されるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
【0057】
まずステップ10に於いては車速センサ38により検出された車速Vを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては図3に示されたフローチャートに従って後述の如く前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算される。
【0058】
ステップ40に於いては後述の図4に示されたフローチャートに従って実行される車輌の走行運動制御が正常であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ50に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御正常時の値Rsdnに設定され、否定判別が行われたときにはステップ60に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御異常時の値Rsdaに設定される。尚走行運動制御正常時の値Rsdnは例えば0.5程度の値であり、走行運動制御異常時の値Rsdaは走行運動制御正常時の値Rsdbよりも大きい例えば0.6程度の値である。
【0059】
ステップ70に於いてはKfを正の一定の係数として前後輪の横力発生の余裕度合Af、Arに基づき下記の式1に従って前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算される。
Rsd=Rsdb+Kf(Af−Ar)/(Af+Ar) ……(1)
【0060】
ステップ80に於いては車輌の横加速度Gyに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより重みWgが0以上1以下の値として演算され、ステップ90に於いては車輌の横加速度Gyの大きさが小さいときの前輪の目標ロール剛性配分比をRsds(例えば0.6程度の値)として、下記の式2に従って前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算される。
Rsdt=Rsds(1−Wg)+Rsd・Wg ……(2)
【0061】
ステップ100に於いては例えば車輌の横加速度Gyの大きさが大きいほど目標アンチロールモーメントMatが大きくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ110に於いてはそれぞれ下記の式3及び4に従って前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算される。
Maft=Rsdt・Mat ……(3)
Mart=(1−Rsdt)Mat ……(4)
【0062】
ステップ120に於いてはそれぞれ前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角φft及びφrtが演算され、ステップ120に於いてはそれぞれアクチュエータ20F及び20Rの回転角φf及びφrがそれぞれ目標回転角φft及びφrtになるよう制御される。
【0063】
次に図3に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける前後輪の横力発生の余裕度合Af、Ar演算ルーチンについて説明する。
【0064】
まずステップ22に於いては車輌の静止時に於ける各車輪の接地荷重Fzoi(i=fl、fr、rl、rr)、車輌の前後加速度Gx、車輌の横加速度Gyに基づき、当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の接地荷重Fzi(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、ステップ24に於いては図1には示されていないエンジン制御装置及び自動変速機制御装置よりの情報及び各車輪の制動圧Piに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の前後力Fxi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
【0065】
ステップ26に於いては各車輪のキャンバスラスト荷重依存係数をKi(i=fl、fr、rl、rr)として、下記の式5に従って各車輪のキャンバスラスト係数Kcami(i=fl、fr、rl、rr)が演算されると共に、当技術分野に於いて公知の要領にて推定される路面のキャンバ角(左下がり方向が正)をAcamとして、下記の式6に従って各車輪のキャンバスラストFcami(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Kcami=Fzi・Ki ……(5)
Fcami=Acam・Kcami ……(6)
【0066】
ステップ28に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて推定又は検出される路面の摩擦係数をμとして、下記の式7に従って各車輪の横力Fyi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Fyi=(μ2Fzi2−Fxi21/2 ……(7)
【0067】
ステップ30に於いては下記の式8に従って各車輪の発生可能な最大横力Fymaxi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Fymaxfl=Fyfl+Fcamfl
Fymaxfr=Fyfr−Fcamfr
Fymaxrl=Fyrl+Fcamrl
Fymaxrr=Fyrr−Fcamrr ……(8)
【0068】
ステップ32に於いては下記の式9に従って前輪の横力発生の余裕度合Afが演算される。
Af=1−(|Fyfl|+|Fyfr|)/(|Fymaxfl|+|Fymaxfr|) ……(9)
【0069】
同様に、ステップ34に於いては下記の式10に従って後輪の横力発生の余裕度合Arが演算される。
Ar=1−(|Fyrl|+|Fyrr|)/(|Fymaxrl|+|Fymaxrr|) ……(10)
【0070】
次に図4に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける挙動制御ルーチンについて説明する。
【0071】
まずステップ210に於いては車速Vを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ220に於いては横加速度Gyと車速V及びヨーレートYrの積VYrとの偏差Gy−V・Yrとして下記の式11に従って横加速度の偏差、即ち車輌の横すべり加速度Vydが演算され、横すべり加速度Vydが積分されることにより車輌の横すべり速度Vyが演算され、更に車輌の前後速度Vx(=車速V)に対する車輌の横すべり速度Vyの比Vy/Vxとして下記の式12に従って車輌の推定スリップ角βが演算される。
Vyd=Gy−V・γ ……(11) β=Vy/Vx ……(12)
【0072】
ステップ230に於いてはK1及びK2をそれぞれ正の定数として車輌の推定スリップ角β及びその微分値βdの線形和K1・β+K2・βdとしてスピン量SVが下記の式13に従って演算されると共に、例えばヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、スピン状態量SSが車輌の左旋回時にはSVとして、車輌の右旋回時には−SVとして演算され、演算結果が負の値のときにはスピン状態量は0とされる。
SV=K1・β+K2・βd ……(13)
【0073】
尚スピン量SVは車輌の目標スリップ角βtを0とする目標スリップ角βtと推定スリップ角βとの偏差及びその変化率に基づく値であり、スピン量SVは車輌のスリップ角β及び横すべり加速度Vydの線形和として下記の式14に従って演算されてもよい。
SV=K1・β+K2・Vyd ……(14)
【0074】
ステップ240に於いてはHをホイールベースとし、Khをスタビリティファクタとし、Rgをステアリングギヤ比として、車速V及び操舵角θに基づき下記の式15に従って基準ヨーレートγeが演算されると共に、Tを時定数としsをラプラス演算子として、下記の式16に従って車輌の目標ヨーレートγtが演算される。尚基準ヨーレートγeは動的なヨーレートを考慮すべく車輌の横加速度Gyを加味して演算されてもよい。
γe=V・(θ/Rg)/{(1+KhV2)H} ……(15)
γt=γe/(1+Ts) ……(16)
【0075】
ステップ250に於いては目標ヨーレートγtとヨーレートγとの偏差に基づき下記の式17に従ってドリフトバリューDVが演算されると共に、例えばヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、ドリフトアウト状態量DSが車輌の左旋回時にはDVとして、車輌の右旋回時には−DVとして演算され、演算結果が負の値のときにはドリフトアウト状態量は0とされる。尚ドリフトバリューDVは下記の式18に従って演算されてもよい。
DV=(γt−γ) ……(17)
DV=H・(γt−γ)/V ……(18)
【0076】
ステップ260に於いてはスピン状態量SSに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより旋回外側前輪の目標制動力Fssfoが演算され、ステップ270に於いてはドリフトアウト状態量DSに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより車輌全体の目標制動力Fsallが演算される。
【0077】
ステップ280に於いては旋回内側後輪の分配率をKsri(一般的には0.5よりも大きい正の定数)として下記の式19に従って旋回外側前輪、旋回内側前輪、旋回外側後輪、旋回内側後輪の目標制動力Fsfo、Fsfi、Fsro、Fsriが演算される。
Fsfo=Fssfo
Fsfi=0
Fsro=(Fsall−Fssfo)(1−Ksri)
Fsri=(Fsall−Fssfo)Ksri ……(19)
【0078】
ステップ290に於いては例えばヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定されることにより旋回内外輪が特定され、その特定結果に基づきKbを制動力より制動圧への変換係数として各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。即ち各車輪の目標制動圧Ptiが車輌の左旋回の場合及び右旋回の場合についてそれぞれ下記の式20及び式21に従って求められる。
【0079】
Ptfl=Fsfi・Kb
Ptfr=Fsfo・Kb
Ptrl=Fsri・Kb
Ptrr=Fsro・Kb ……(20)
Ptfl=Fsfo・Kb
Ptfr=Fsfi・Kb
Ptrl=Fsro・Kb
Ptrr=Fsri・Kb ……(21)
【0080】
ステップ300に於いては何れかの目標制動圧Ptiが正であるか否か(全てのPtiが0ではないか否か)の判別、即ち車輌の安定化制御による制動力の制御が必要であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ320へ進み、否定判別が行われたときにはステップ310に於いて各弁装置等が非制御位置に設定され、安定化制御による制動力の制御が実行されることなくステップ210へ戻る。
【0081】
ステップ320に於いては各車輪の制動圧Piがステップ290に於いて演算された目標制動圧Ptiになるよう制動装置26が制御されることにより車輌運動制御による制動力の制御が実行され、しかる後ステップ210へ戻る。
【0082】
かくしてステップ20に於いて前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算され、ステップ70に於いて前後輪の横力発生の余裕度合Af、Arに基づき余裕度合Af及びArの差を低減してこれらを同一にするための前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算され、ステップ80及び90に於いて前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算され、ステップ100に於いて車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ110に於いて最終目標ロール剛性配分比Rsdtにて目標アンチロールモーメントMatを達成するための前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算され、ステップ120及び130に於いて目標アンチロールモーメントMaft及びMartが達成されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
【0083】
従って車輌全体のアンチロールモーメントを目標アンチロールモーメントMatに制御して車輌のロールを効果的に低減することができると共に、前後輪ロール剛性配分比を最終目標ロール剛性配分比Rsdtに対応する前後輪ロール剛性配分比に制御し、これにより前輪の横力発生の余裕度合Afと後輪の横力発生の余裕度合Arとの偏差の大きさが低減されるので、余裕度合Af及びArの偏差の大きさが低減されない場合に比して車輌全体の横力を高くして車輌の旋回限界を向上させることができる。
【0084】
また図示の実施例によれば、車輌の旋回時のステア特性を自動的に好ましく変化させることができる。即ち車輌の前後輪ロール剛性配分比は一般に良好な旋回安定性を確保すべく前輪寄りに設定されるので、車輌が旋回を開始すると、まず前輪に旋回横力が発生して前輪の横力発生の余裕度合Afが低下し、これに対処して前後輪ロール剛性配分比が後輪寄り側へ変化され、車輌のステア特性がオーバーステア側へ変化され、車輌が容易に旋回し得るようになり、その後後輪の横力発生の余裕度合Arが低下した状況になると、これに対処して前後輪ロール剛性配分比が前輪寄り側へ変化され、車輌のステア特性がアンダーステア側へ変化され、車輌の良好な旋回安定性が確保される。
【0085】
特に図示の実施例によれば、ステップ40に於いて車輌の走行運動制御が正常であると判別されたときにはステップ50に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御正常時の値Rsdnに設定され、車輌の走行運動制御が異常であると判別されたときにはステップ60に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御異常時の値Rsdaに設定され、ステップ70に於いて前後輪の横力発生の余裕度合Af、Arに基づき上記式1に従って前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算される。
【0086】
従って車輌の走行運動制御が異常であるときには車輌の走行運動制御が正常であるときに比して前後輪ロール剛性配分比を前輪寄りに設定しつつ、余裕度合Af及びArの差を低減することができ、これにより車輌の走行運動制御が異常である場合に車輌のステア特性をアンダーステア側へ変化させて車輌の旋回安定性を確実に向上させることができる。
【0087】
また図示の実施例によれば、ステップ80に於いて車輌の横加速度Gyの大きさが小さい領域に於いては重みWgが小さくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づいて重みWgが0以上1以下の値として演算され、ステップ90に於いて上記式2に従って前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算されるので、車輌の横加速度Gyの大きさが小さく前後輪ロール剛性配分比の制御による前後輪の横力の増減効果が低い状況に於いて前後輪ロール剛性配分比の制御が無駄に実行されることを防止し、前後輪ロール剛性配分比の制御頻度や制御によるエネルギの消費を低減することができ、特に前輪のロール剛性が低下することに起因する操舵フィーリングの悪化を低減することができる。
【0088】
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0089】
例えば上述の実施例に於いては、前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arはそれぞれ上記式9及び10に従って演算されるようになっているが、前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arは各車輪の増大可能な横力の大きさを表わすよう、各車輪の発生可能な最大横力Fymaxiと各車輪の横力Fyiとの偏差Fymaxi−Fyiの絶対値として演算されてもよい。
【0090】
また前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arは各車輪の横力発生の余裕度合を間接的に表わすよう、それぞれ下記の式22及び23に従って各車輪の増大可能な力に対する横力の比である横力負荷率として演算されてもよく、その場合にはステップ70に於ける前輪の目標ロール剛性配分比Rsdは下記の式24に従って演算される。
Af=(|Fyfl|+|Fyfr|)/(|Fymaxfl|+|Fymaxfr|) ……(22)
Ar=(|Fyrl|+|Fyrr|)/(|Fymaxrl|+|Fymaxrr|) ……(23)
Rsd=Rsdb+Kf(Ar−Af)/(Af+Ar) ……(24)
【0091】
また上述の実施例に於いては、重みWgはステップ80に於いて車輌の横加速度Gyに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより演算されるようになっているが、重みWgは車速Vが低いほど小さく、路面の摩擦係数μが低いほど大きく、アクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rを駆動する電源電圧Veが低いほど小さくなるよう、車速V若しくは路面の摩擦係数μ若しくは電源電圧Veによっても可変設定されるよう修正されてもよい。
【0092】
また上述の実施例に於いては、車輌は走行運動制御装置を有し、車輌のヨー運動が目標ヨー運動になるようスピン制御及びドリフトアウト制御が行われるようになっているが、本発明のロール剛性制御装置はスピン制御又はドリフトアウト制御のみが行われる車輌に適用されてもよく、また走行運動制御装置を有しない車輌に適用されてもよい。車輌の走行運動制御は各車輪の制動力が制御されることにより実行されるようになっているが、走行運動制御は各車輪の制駆動力が制御されることにより達成されてもよい。
【0093】
また上述の実施例に於いては、走行運動制御が異常であるか否かにより前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが切り替え設定されるようになっているが、例えば図8に示されている如く、ステップ40に於いて車輌の走行運動制御が正常であると判別されたときには、ステップ50に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御正常時の値Rsdnに設定されると共に、係数Kfが走行運動制御正常時の値Kfn(正の定数)に設定され、車輌の走行運動制御が異常であると判別されたときには、ステップ60に於いて前輪の基本ロール剛性配分比Rsdbが走行運動制御異常時の値Rsdaに設定されると共に、係数Kfが走行運動制御異常時の値Kfa(Kfnよりも小さい正の定数)に設定されるよう修正されてもよい。
【0094】
また上述の実施例に於いては、重みWgはステップ80に於いて車輌の横加速度Gyに基づき0以上1以下の値として演算されるようになっているが、重みWgは推定される車輌のロールモーメント又は目標アンチロールモーメントMatに基づいて演算されるよう修正されてもよい。
【0095】
また上述の実施例に於いては、アクティブスタビライザ装置によりアンチロールモーメントを増減させて車輌のロールを低減すると共に前後輪ロール剛性配分比を可変制御するようになっているが、アンチロールモーメントを増減させる手段は例えばアクティブサスペンションの如く車輪の接地荷重を増減可能な当技術分野に於いて公知の任意の手段であってよい。
【0096】
また上述の実施例に於いては、車輌の横加速度Gyに基づき車輌の目標アンチロールモーメントMatが演算されるようになっているが、目標アンチロールモーメントMatは車速V及び操舵角θに基づいて演算される車輌の推定横加速度Gyhに基づいて演算されてもよい、また例えば車輌の横加速度Gy及び車輌の推定横加速度Gyhの線形和に基づいて演算されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置が設けられた車輌に適用された本発明による車輌のロール剛性制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
【図2】実施例に於ける前後輪ロール剛性配分比及びアンチロールモーメントの制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】実施例に於ける前後輪の横力発生の余裕度合Af、Ar演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施例に於ける走行運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】車輌の横加速度Gyと重みWgとの間の関係を示すグラフである。
【図6】スピン状態量SSと旋回外側前輪の目標制動力Fssfoとの間の関係を示すグラフである。
【図7】ドリフトアウト状態量DSと車輌全体の目標制動力Fsallとの間の関係を示すグラフである。
【図8】修正例に於ける前後輪ロール剛性配分比及びアンチロールモーメントの制御ルーチンの要部を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
16、18 アクティブスタビライザ装置
20F、20R アクチュエータ
22、36 電子制御装置
26 制動装置
34 マスタシリンダ
40 横加速度センサ
42 車速センサ
44 操舵角センサ
46F、46R 回転角センサ
48 前後加速度センサ
50 ヨーレートセンサ
52、54FL〜54RR 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の前後輪ロール剛性配分比可変手段と、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定する手段と、前記前輪の横力発生の余裕度合と前記後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前記前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする車輌のロール剛性制御装置。
【請求項2】
車輌は各車輪の制駆動力を制御することにより車輌のヨー運動を目標ヨー運動に近づけるヨー運動制御装置を有することを特徴とする請求項1に記載の車輌のロール剛性制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は前記ヨー運動制御装置が異常であるときには前記ヨー運動制御装置が正常であるときに比して前後輪ロール剛性配分比を前輪寄りにすることを特徴とする請求項2に記載の車輌のロール剛性制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は前記ヨー運動制御装置が異常であるときには前記ヨー運動制御装置が正常であるときに比して前記偏差の大きさの低減度合を小さくすることを特徴とする請求項3に記載の車輌のロール剛性制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は車輌のロールモーメントを推定し、前記車輌のロールモーメントの大きさが小さいときには前記車輌のロールモーメントの大きさが大きいときに比して前記偏差の大きさの低減度合を小さくすることを特徴とする請求項1乃至4に記載の車輌のロール剛性制御装置。
【請求項6】
前記前後輪ロール剛性配分比可変手段は前輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより前輪位置のロール剛性を変化させる前輪位置のロール剛性可変手段と、後輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより後輪位置のロール剛性を変化させる後輪位置のロール剛性可変手段とを含むことを特徴とする請求項1乃至5に記載の車輌のロール剛性制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は前記偏差の大きさを低減する目標前後輪ロール剛性配分比を演算し、車輌のロールモーメントを推定し、前記車輌のロールモーメントに基づき車輌の目標アンチロールモーメントを演算し、前後輪ロール剛性配分比が前記目標前後輪ロール剛性配分比になると共に車輌のアンチロールモーメントが前記目標アンチロールモーメントになるよう前記前輪位置のロール剛性可変手段及び前記後輪位置のロール剛性可変手段を制御することを特徴とする請求項6に記載の車輌のロール剛性制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−21594(P2006−21594A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200339(P2004−200339)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】