説明

連続薄膜の形成方法、形成装置、薄膜付きガラス基板及び半導体装置素子

【課題】基板上に各種薄膜を連続的に高速で形成することのできる連続薄膜の形成方法、形成装置、薄膜付きガラス基板及び半導体装置素子を提供する。
【解決手段】断面の厚さdと幅bからなるdb/(2(d+b))が0.015以上0.15以下の範囲の薄い帯状の基板10を導入口114から隔離部110に連続的に導入するとともに、供給口116から反応ガス11を加圧して供給し、基板10および反応ガス11を第1隔離ゾーン111内を通過させて所定の温度まで急速加熱し、続く第2隔離ゾーン112内でさらに加熱して反応ガス11を基板10上で分解し、続く第3隔離ゾーン113内を通過させて基板10を所定の温度勾配で急速冷却することにより、基板10上に反応ガス11の所定の成分からなる薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅に対して厚さが小さく長手方向に十分に長い帯状の基板上に所定の薄膜を連続して形成する連続薄膜形成方法等の技術に関するものであり、特にアモルファスシリコン又は多結晶シリコン(ポリシリコン)等の緻密なシリコン薄膜を形成するのに好適な連続薄膜形成方法等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
TFT、有機EL等では、ガラス基板上にシリコン薄膜を形成し、形成したシリコン薄膜上に駆動回路を形成している。このようなガラス基板上に各種薄膜を形成する成膜技術は、半導体製造技術の基礎となる重要な技術分野である。
【0003】
ガラス基板への成膜技術の一例として、TFT(Thin Film Transistor)等の成膜工程を説明する。TFTの製造工程においては、ガラス基板上にアモルファスシリコン膜、またはポリシリコン膜を形成し、該シリコン膜上に、液晶を駆動する駆動回路やトランジスタ等の半導体制御回路を形成している。最近の傾向として、高速動作の要請から、ガラス基板上にポリシリコン薄膜を形成する技術が注目されている。ポリシリコン膜を形成する従来技術においては、まず、アモルファスシリコンを成膜した後、アモルファスシリコンをレーザアニールや熱アニール法によりポリシリコンに変換している。
【0004】
通常、ガラス基板上にアモルファスシリコンを形成するのに、蒸着法、スパッタ法、または各種CVD法が用いられる。最も多用されているプラズマCVD法では、原料ガスのシラン(SiH)、シランジシラン(SiH)をグロー放電により分解し、アモルファスシリコン薄膜を基板上に成長させている。基板には結晶シリコン、ガラス、耐熱プラスチックなどが用いられ、通常400℃以下で成長させることができる。また、この方式では、大面積のものを作成することができるといったメリットがある。
【0005】
ガラス基板上にポリシリコン膜を形成する従来技術の一例を、特許文献1を用いて説明する。まず基板となるガラス基板の上に酸化膜を形成し、その上にCVD法等により水素含有のアモルファスシリコン膜を堆積する。その後、熱処理により脱水素処理を行い、エキシマレーザの照射によるアニール処理によりアモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に変化させる。その後、さらにいくつかの処理を経てポリシリコン膜を得ることができる。
【0006】
上記のような水素含有アモルファスシリコン膜は、CVD法あるいはプラズマCVD法により堆積されるのが一般的である。このようなCVD法、プラズマCVD法、プラズマ法等の処理は通常400℃程度の温度で行われ、脱水素処理も通常400℃〜500℃の温度下で60分程度行われる。
【0007】
上記のように、従来のポリシリコン膜を形成する処理は最高でも500℃程度で行われるため、基板材料として材料費の安い多成分ガラスなどを使用することができ、基板材料の選択自由度が高いという利点がある。
【特許文献1】特開平11−204794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、シラン等を原料とする成膜プロセスは、減圧プロセスを伴うためバッチプロセスとなり、既存の装置では成膜速度を大幅に高めて生産性を改善することは望めない。また、成膜速度を上昇させると、多くの場合膜厚が位置によって変化して膜厚分布が発生していた。このような事情から、生産性を向上させるには大型のガラス基板を用いるしかなく、それには大型の設備を導入する必要があり、大規模な設備投資が必要となっている。生産性を上げてコスト競争に勝ち抜くためには、次々と大型装置への更新を進めて投資競争を行っていく必要がある。成膜プロセスに用いる装置は真空装置であるためコストが高く、また成膜速度を大幅に向上させることが期待できないといった課題がある。
【0009】
また、特にシランを用いた真空プロセスの場合にはアモルファスシリコン薄膜中に水素を多く含有している。そのため、結晶粒径を大きくしてポリシリコンに変換するための熱アニールやレーザアニールの処理の前に、脱水素プロセスを長時間行う必要があった。この脱水素プロセスは、例えば60分にも及ぶ処理時間が必要となる等、生産性に大きな問題があった。
【0010】
一方、従来の成膜プロセスは低温プロセスのため安価な基板が使えるが、その半面バッチプロセスのため基板単独で自立できる強度が必要であり、そのためには所定の厚さが必要となる。また、従来の方法で成膜された基板では、その表面を研磨する必要がある。このような事情から、コスト的に石英ガラスのような高価なガラス基板を使用することはできない。特に、基板を大型化するためには、基板のコストがなおさら問題となる。一方、安価な基板を用いる場合には、基板のアルカリ金属やアルカリ土類金属等の拡散を防ぐために、酸化シリコン(SiOx)や窒化シリコン(SiNx)のバリア膜を成膜する必要があり、より多くの工程が必要となる。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題に鑑みてなされたもので、基板上に各種薄膜を連続的に高速で形成することのできる連続薄膜の形成方法、形成装置、薄膜付きガラス基板及び半導体装置素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の第1の態様は、断面の厚さをdとし幅をbとしたときdb/(2(d+b))が0.015以上0.15以下となるように形成された帯状の基板を、予備加熱部に設けられた第1隔離ゾーンと本加熱部に設けられた第2隔離ゾーンと冷却部に設けられた第3隔離ゾーンとを有する隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた導入口から連続的に導入するとともに、前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた供給口から反応ガスを加圧して供給し、前記基板および前記反応ガスを前記第1隔離ゾーン内を通過させて所定の温度まで急速加熱し、前記基板および前記反応ガスを前記第1隔離ゾーン通過後に前記第2隔離ゾーン内を通過させてさらに加熱して前記反応ガスを前記基板上に成膜させ、前記基板および前記反応ガスを前記第2隔離ゾーン通過後に前記第3隔離ゾーン内を通過させて前記基板を所定の温度勾配で急速冷却することにより、前記基板上に前記反応ガスの所定の成分からなる薄膜を形成することを特徴とする。
【0013】
このように、基板を薄い帯状にして熱容量を小さくしつつ表面積を大きくすることにより、基板を急速加熱、急速冷却することが可能になる。これにより、帯状の薄い基板を隔離部内を通過させるだけで基板上に反応ガスの所定の成分からなる緻密な薄膜を連続的に形成することが可能となる。
【0014】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記反応ガスの前記隔離部内の圧力は、前記隔離部内の不純物が所定値以下となるように加圧されることを特徴とする。反応ガスを加圧することで隔離部内への不純物の混入を抑制し、これにより基板上に形成される薄膜に不純物が混入するのを低減することができる。
【0015】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記反応ガスの前記隔離部内の圧力を前記隔離部外の圧力よりも高くし、前記供給口の圧力を前記第3隔離ゾーン側に設けられた排気口の圧力よりもさらに高くすることにより、前記隔離部内に外気が侵入するのを防止することを特徴とする。隔離部内の圧力をこのように設定することにより、基板上に形成される薄膜に不純物が混入するのを低減することができる。
【0016】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記基板は、前記第1隔離ゾーン、第2隔離ゾーン及び第3隔離ゾーンを6秒以下で通過するように制御されることを特徴とする。隔離部を高速に通過させることにより、基板上に高品質な薄膜を形成することができる。
【0017】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記薄膜は、多結晶構造を有していることを特徴とする。アニール処理を行うことなく多結晶構造の薄膜を形成することが可能となる。
【0018】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記基板上に形成する前記薄膜の厚さを、前記第2隔離ゾーンの長さと、前記基板が前記隔離部内を通過する速度と、前記反応ガスの流速によって調整することを特徴とする。これにより、基板上に形成される薄膜を所望の厚さに調整することができる。
【0019】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記第2隔離ゾーンの幅は、前記基板の幅の2倍以上5倍以下であることを特徴とする。基板幅を第2隔離ゾーンの幅より十分小さくすることで、基板の幅方向に均一な薄膜を形成することができる。
【0020】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記予備加熱部及び前記本加熱部は、熱CVDにより構成されていることを特徴とする。熱容量の小さな薄い基板を用いるため急速加熱、急速冷却が可能であり、例えば1200℃以上の高温が実現できる熱CVD処理を適用することができる。
【0021】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記予備加熱部及び前記本加熱部は、プラズマCVDにより構成されていることを特徴とする。熱容量の小さな薄い基板を用いるため急速加熱、急速冷却が可能であり、プラズマCVD処理を適用することが可能である。
【0022】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記基板は、厚さが30μm以上300μm以下の石英ガラスであることを特徴とする。基板厚さをこのように薄くすることにより、基板の急速加熱、急速冷却が可能となる。
【0023】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記基板を厚さが30μm以上300μm以下の石英ガラスで形成し、前記反応ガスとしてHガスとDCSガスとの混合ガスを用いて前記基板上にシリコン薄膜を形成することを特徴とする。基板上に水素を含有しない表面粗さの小さい緻密なシリコン薄膜を形成することができ、脱水素処理やアニール処理等の長時間を要する処理を省略することができる。
【0024】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記反応ガスは、Hガスに少なくとも2mol%以上20mol%以下のDCSガスを混合していることを特徴とする。ポリシリコン膜の成膜速度は、雰囲気中のDCS濃度に依存する。DCS濃度が2mol%を境に成膜速度が速まる。また、DCS濃度が20mol%以上となると、成膜されたシリコン薄膜がエッチングされてしまうことがある。そこで、反応ガスを上記のような構成とするのが好ましい。
【0025】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記反応ガスは、平均流速が0.5m/秒以上となるように供給されることを特徴とする。反応ガスの流速の増加に伴い成膜速度は高くなる。これは、高温雰囲気中の成膜のため所定流速以上で反応ガスを供給すると基板との境界に形成される層の厚さが減少し、これにより基板上により多くのシリコンが供給されるようになるためである。所定の流速に達するとシリコンの供給量が飽和し、反応ガスの流速と成膜速度との相関は弱くなる。
【0026】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記第2隔離ゾーンでは前記基板を1150℃以上1400℃以下に加熱して0.1秒以上0.5秒以下で通過し、前記第3隔離ゾーンの温度を900℃以下として前記基板を冷却することで前記シリコン薄膜を形成することを特徴とする。このような処理により、好適な薄膜を形成することができる。
【0027】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記第2隔離ゾーンでは前記基板を1175℃以上に加熱しかつ0.2秒以下の期間1050℃以上に維持し、前記第3隔離ゾーンでは平均10000℃/秒以上の冷却速度で900℃以下に冷却することにより前記シリコン薄膜を形成することを特徴とする。このような処理により、より高品質な薄膜を形成することができる。
【0028】
この発明にかかる連続薄膜形成方法の他の態様は、前記シリコン薄膜は、多結晶構造を有するポリシリコン薄膜であることを特徴とする。アニール処理等を行うことなく、ポリシリコン薄膜を形成することができる。
【0029】
この発明にかかるガラス基板の製造方法の第1の態様は、上記第1乃至第16の態様のいずれか1つの連続薄膜形成方法により製造された前記基板を所望の長さに切断して幅方向に接続することにより、前記薄膜を備えた板状基板を作製することを特徴とする。
【0030】
この発明にかかる連続薄膜形成装置の第1の態様は、帯状の基板を予備加熱する予備加熱部と、前記予備加熱部で加熱された前記基板をさらに加熱する本加熱部と、前記本加熱部で加熱された前記基板を冷却する冷却部とを備えて前記基板上に所定の反応ガスの成分からなる薄膜を形成する連続薄膜形成装置であって、前記予備加熱部に配置された第1隔離ゾーンと前記本加熱部に配置された第2隔離ゾーンと前記冷却部に配置された第3隔離ゾーンとを有する隔離部をさらに備え、前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた導入口から前記基板を連続的に導入して前記第1隔離ゾーンから前記第3隔離ゾーンまで順次通過させて引出口から引き出すとともに、前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた供給口から加圧された反応ガスを供給して前記第1隔離ゾーンから前記第3隔離ゾーンまで所定の流速で送流して排気口から排出することを特徴とする。
【0031】
この発明にかかる連続薄膜形成装置の他の態様は、前記導入口と前記供給口との間に設けられた第2の供給口と、前記排気口と前記引出口との間に設けられた第3の供給口と、をさらに備え、前記供給口の圧力よりも高い圧力で前記第2の供給口から前記隔離部内に不活性ガスを供給し、前記排気口の圧力よりも高い圧力で前記第3の供給口から前記隔離部内に不活性ガスを供給していることを特徴とする。前記供給口から排出口に向けて流れる反応ガスを挟むように、第2の供給口および第3の供給口から不活性ガスを供給する構成とすることで、反応ガスが外部に漏出するのを防止するとともに、外部から不純物が混入するのを防止することができる。
【0032】
この発明にかかる連続薄膜形成装置の他の態様は、前記導入口から前記供給口までの間の前記隔離部の断面積および前記排気口から前記引出口までの間の前記隔離部の断面積は、少なくとも前記第2隔離ゾーンの断面積より小さくして前記基板との隙間を小さくしていることを特徴とする。導入口近傍の断面積及び引出口近傍の断面積を小さくして基板との隙間をできるだけ狭めることにより、反応ガスが外部に漏出するのを防止するとともに、外部から不純物が混入するのを防止することができる。
【0033】
この発明にかかる連続薄膜形成装置の他の態様は、上記の連続薄膜形成装置において、帯状基板を供給する手段と成膜された基板を巻き取る手段が設けられていることを特徴とする。
【0034】
この発明にかかるガラス基板の第1の態様は、上記連続薄膜形成装置を用いて製造された帯状成膜ガラス基板である。
【0035】
この発明にかかるガラス基板の他の態様は、上記帯状成膜ガラス基板を所望の長さに切断して幅方向に接続して作製されることを特徴とする二次元成膜ガラス基板である。
【0036】
この発明にかかる半導体装置素子またはモジュールの第1の態様は、上記ガラス基板上に製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、基板上に各種薄膜を連続的に高速で形成することのできる連続薄膜の形成方法、形成装置、薄膜付きガラス基板及び半導体装置素子を提供することが可能となる。熱容量が小さく表面積が大きい薄い基板を、反応ガスを充満させた隔離部内を短時間で通過させて急速加熱、急速冷却することにより、基板上に所望の薄膜を高速で連続的に形成することが可能となる。
【0038】
また、他の態様によれば、基板の移動速度や加熱温度、反応ガスの流速等を制御することにより、基板上にパーティクルが少なく平滑度の高い緻密な薄膜を連続的に高速で成膜することができる。さらに、高速に成膜した場合でも長手方向の膜厚分布を十分に低減することができる。
【0039】
さらに、他の態様によれば、石英ガラス上に直接緻密なシリコン薄膜を形成でき、長時間を要する脱水素処理、アニール処理等が不要となる。基板に用いる石英ガラス自体は多成分ガラス等に比べて高価ではあるが、300μm以下の厚さに加工して用いることから、コストを大幅に低減することができる。特に、線引法で線状ガラス基板を作製して用いる場合には、基板の厚さ、表面粗さ、平坦度等を所望のものにすることができ、研削研摩等の工程を削減してコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態にかかる連続薄膜形成方法等について説明する。なお、以下の説明では、一例として石英ガラス基板にシリコン薄膜を形成する実施例を用いて説明するが、これに限定されることなく、反応ガスの種類に対応して所定の薄膜を形成することが可能である。また、基板には、石英ガラス基板に限らず、温度条件等に適合する各種ガラス基板やパイレックス(登録商標)等を用いることが可能である。
【0041】
本発明の実施の形態に係る連続薄膜形成方法及び連続薄膜形成装置を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の連続薄膜形成装置の一実施例を示す概略構成図である。図1において、連続薄膜形成装置100は、隔離部(反応管)110と、加熱部120と、基板10を移動させるための供給ドラム131および巻き取りドラム132とを備えている。供給ドラム131に巻き付けられた基板10は、隔離部110の導入口114から隔離部110の内部に導入され、隔離部110の内部で成膜された後引出口115から引き出されて巻き取りドラム132に巻き取られる。
【0042】
隔離部110は、その内部に基板10を導入するとともに、反応ガス11を反応ガス供給管141に接続された供給口116から吸気して排気口117から反応ガス回収管142に排気するように構成されている。隔離部110の内部では反応ガス11の成分からなる薄膜が基板10の表面上に形成されるが、隔離部110は反応ガス11以外の成分が薄膜に混入されるのを抑制している。隔離部110は、基板10上に薄膜を形成するプロセスに対応して、導入口114側から引出口115側に向けて第1隔離ゾーン111、第2隔離ゾーン112、および第3隔離ゾーン113に区分されている。第1隔離ゾーン111は基板10および反応ガス11を予備加熱するゾーン、第2隔離ゾーン112は基板をさらに高温に加熱して基板10上に薄膜を形成するゾーン、および第3隔離ゾーン113は基板10を所定の冷却速度で冷却するゾーンである。
【0043】
隔離部110の内部に反応ガス11以外の例えば大気が混入しないように、隔離部110内部の反応ガス11の圧力を外部(大気圧)より高くしている。また、反応ガス11が供給口116側から排気口117側に所定の流速で流れるように、隔離部110の内部で反応ガス11に好適な圧力勾配をもたせている。反応ガス11の隔離部110内での圧力や流速を制御するために、反応ガス供給管141にガス流量制御部143が設けられている。
【0044】
隔離部110は加熱部120の内部に配置され、隔離部110内に導入された基板10および反応ガス11が加熱部120に内蔵された熱源124で加熱される構成となっている。熱源124からの加熱量を制御する手段として、温度制御部126が設けられている。ここでは、加熱部120として熱CVDを用いた例を示しており、熱源124からは赤外線が放射される。図1に示す実施例では、加熱部120を熱CVDとしたが、これに限定されず、例えばプラズマCVD等を用いることも可能である。
【0045】
加熱部120は、隔離部110の第1隔離ゾーン111、第2隔離ゾーン112、および第3隔離ゾーン113の区分に対応して、予備加熱部121、本加熱部122、および予備冷却部123に区分されている。予備加熱部121では、第1隔離ゾーン111に移送されてきた基板10および反応ガス11を所定の温度まで急速加熱している。また、本加熱部122では、第2隔離ゾーン112に移送されてきた基板10をさらに高温まで加熱することで、基板10上で反応ガス11を分解して所定の薄膜を形成している。基板10をさらに高温まで加熱するために、隔離部110内部の第2隔離ゾーンの位置にサセプタ125を配置している。サセプタ125は、熱源124から放射される赤外線によって加熱されて高温となり、これに近接する基板10を例えば1200℃以上の温度まで加熱している。第2隔離ゾーンでは、基板温度を1050℃以上1300℃以下に加熱するのがよい。
【0046】
予備冷却部123は、第3隔離ゾーン113の一部に対応しており、本加熱部122で最高温度まで加熱された基板10を急速冷却している。第3隔離ゾーン113は、予備冷却部123に位置する部分と外気に露出した部分とで構成されており、ここで基板10が所定の冷却速度で冷却される。
【0047】
基板10には、幅が数mmから数十mm程度の長尺の帯状に加工されたものが用いられる。基板10の厚さは、例えば30μmから300μm程度に薄く加工されており、このように薄くすることで熱容量を小さくしている。本実施形態の連続薄膜形成方法および装置100では、熱容量を小さくするとともに表面積を大きくすることにより、基板10の急速加熱及び急速冷却を可能としており、基板10上に高速かつ連続的に薄膜を形成することが可能となっている。
【0048】
基板10の断面の寸法として幅をb、厚さをdとしたとき、bd/(2(b+d))が0.015以上0.15以下となるように寸法b、dを決定するのがよい。これにより、基板10に好適な熱容量を持たせることができる。基板10に石英ガラス基板を用いた場合には、加熱部120に熱CVDを用いてこれを1200度以上に加熱することができる。
【0049】
基板10に用いられる石英ガラス基板は、例えば加熱炉内において石英からなる母材ガラスの両面から同じ流速のガス流を形成して母材ガラスを延伸することにより形成することができる。このような方法により、石英ガラスを薄い帯状のガラス基板に形成することができる(例えば国際公開番号WO/2006/070527参照)。
【0050】
基板10は、その側面の平均表面粗さが200nm以下に形成されるのがよく、好ましくは10nm以下に形成されるのがよい。これにより、捻れ等に対する基板10のフレキシブル性が高まり、破断や破壊等が発生し難くなる。
【0051】
図1に示す実施例では、基板10が供給ドラム131から供給される構成としているが、基材を線引きして帯状ガラス基板を形成する線引炉から直接基板10を供給するように構成してもよい。また、基板10として被覆が施されたガラス基板を用いる場合には、隔離部110に供給する前に被覆を除去する工程と、薄膜が形成された基板10を隔離部110から引き出した後に再度被覆を施す工程を追加してもよい。基板10が隔離部110の内部を移動する速度を制御するために、本実施例では移動速度制御部133を設け、これにより供給ドラム131及び巻き取りドラム132の回転速度を制御している。
【0052】
本実施形態の連続薄膜形成装置100を用いて、基板10上に所定の薄膜を形成する本実施形態の連続薄膜形成方法について説明する。以下では、一例として石英ガラスからなる基板10上にシリコン薄膜を形成する方法を説明する。この場合、供給口116からは、反応ガス11としてHガスとDCSガス(ジクロロシラン:SiHCl)との混合ガスが所定の流速で供給される。
【0053】
連続薄膜形成装置100では、基板10が移動速度制御部133の制御により所定の速度で隔離部110の内部を移動するとともに、ガス流量制御部143の制御により反応ガス11が隔離部110の内部を所定の流速で供給される。まず、隔離部110の第1隔離ゾーン111を移動中の基板10は、熱源124からの加熱によって所定の温度まで急速加熱される。また、反応ガス11も第1隔離ゾーンを流れる間に加熱される。
【0054】
次に、第2隔離ゾーン112に移送された基板10は、サセプタ125からの加熱によりさらに温度が上昇し、最高温度が1050℃から1300℃位に達する。このような高温により、基板10上で反応ガス11が分解されてシリコン薄膜が形成される。第2隔離ゾーン112の移動方向の長さは70mm前後とするのがよく、基板10が第2隔離ゾーン112を0.1秒以上0.5秒以下、より好ましくは0.2秒程度の短時間で移動するのがよい。基板10上に形成される薄膜の厚さは、第2隔離ゾーン112の長さと、基板10が隔離部110内を通過する速度と、反応ガス11の流速によって調整することができる。
【0055】
基板10は、第2隔離ゾーン112を通過して第3隔離ゾーン113に移送されると、ここで急速冷却される。本実施例では、第3隔離ゾーン113が予備冷却部123の内部に位置する領域と外気で冷却される領域から構成されている。予備冷却部123の内部に位置する領域では、温度環境を900℃以下に制御するのが好ましい。
【0056】
あるいは、第2隔離ゾーン112において基板10を1175℃以上に加熱しかつ0.2秒以下の期間1050℃以上に維持し、第3隔離ゾーン113では平均10000℃/秒以上の冷却速度で900℃以下に冷却するようにしてもよい。いずれの場合でも、基板10が第1隔離ゾーン111、第2隔離ゾーン112及び第3隔離ゾーン113の全長を6秒以下で通過するように制御するのが好ましい。
【0057】
上記の本実施形態の連続薄膜形成方法によれば、基板10の厚さを薄くして熱容量を小さくすることにより、第1隔離ゾーン111及び第2隔離ゾーン112において基板10を急速加熱することが可能となっている。同様に、第3隔離ゾーン113では、基板10を急速冷却することが可能となっている。これにより、基板10上に30nmから500nm程度のシリコン薄膜を形成することが可能となる。
【0058】
第2隔離ゾーン112において高温で分解した反応ガス11から生成されたシリコンは、基板10の表面上に堆積した直後に第3隔離ゾーン113で急速冷却される。これにより、シリコンが基板10上でマイグレーションするのを抑制して基板10上に定着するようにしている。これに対し、第3隔離ゾーン113における冷却速度が遅く基板10が高温状態に持続されると、基板10上でシリコンパーティクルの生成が促進されるため、表面性のよい薄膜を生成するのが困難になる。
【0059】
第3隔離ゾーン113において、基板10を好適な温度勾配で冷却することにより、基板10上のシリコンを結晶化させることができる。すなわち、基板10の余熱を所定時間以上所定の高温に維持することにより、シリコンの結晶化を促進してポリシリコンを形成することができる。これに対し、基板10の温度低下が速く余熱が小さい場合には、結晶化されずにアモルファスシリコンとなる。
【0060】
隔離部110の内部を移動する間の基板10の温度変化の一例を、模式的に図2に示す。第1隔離ゾーン111において基板10が加熱される温度T1は、基板10の移動速度、熱源124からの加熱強度、第1隔離ゾーン111の長さ(および予備冷却部121の長さ)によって異なる。また、第2隔離ゾーン112における最高温度T2は、基板10の移動速度、熱源124からの加熱強度、および第2隔離ゾーン112の長さ(およびサセプタ125の長さ)によって異なる。さらに、第3隔離ゾーン113における基板10の冷却速度DT3は、基板10の移動速度、熱源124からの加熱強度、および予備冷却部123に位置する第3隔離ゾーン113の長さによって異なる。
【0061】
従って、隔離部110の各ゾーンの長さ、とりわけ第2隔離ゾーン112の長さを好適に設定し、基板10の移動速度、熱源124からの加熱強度、及び反応ガス11の流速を適切に制御することにより、基板10上に所望の厚さの薄膜を形成することができる。第3隔離ゾーン113における基板10の冷却速度DT3は、予備冷却部123の長さによって調整できる。また、基板10の密度や比熱等の材質によっても薄膜の厚さや品質等が変化することから、これらの影響を反映して基板10の移動速度等を制御するのがよい。
【0062】
さらには、基板10上に形成される薄膜の品質が第2隔離ゾーン112における最高温度T2の影響を受けることから、温度制御部126を制御して熱源124からの加熱量を調整することで、最高温度T2を好適な高さに維持するのがよい。そして、基板10上に形成される薄膜の厚さを、基板10の移動速度および反応ガス11の流速で調整するのがよい。基板10の移動速度および反応ガス11の流速は、それぞれ移動速度制御部133及びガス流量制御部143により制御される。反応ガス11の流速は、平均で0.5m/秒以上となるように供給されるのがよい。
【0063】
基板10の移動速度は、供給ドラム131に巻き付けられた基板10の長さによって変化する。供給ドラム131への巻き付け長さが10m程度の場合には、25〜500mm/秒前後の移動速度が望ましい。また、基板10の巻き付け長さが100mから数十kmの場合には、1〜10m/秒、巻き付け長さが100km以上の場合には、10〜50m/秒以上の移動速度が好ましい。
【0064】
上記説明のように本実施形態の連続薄膜形成方法によれば、基板10を第1隔離ゾーン111で予備加熱したのち第2隔離ゾーン112で極短時間だけ高温に加熱し、さらに第3隔離ゾーンで急速冷却することにより基板10上に薄膜を形成している。これにより、高速で連続的に薄膜を基板10上に形成できるだけでなく、パーティクルの生成や不純物の混入を大幅に低減することができ、平滑度の高い緻密な薄膜を備えた基板10を提供することが可能となる。基板10が隔離部110を移動する時間、すなわち第1隔離ゾーン111から第3隔離ゾーンまでを移動する時間は、1秒以下とするのが好ましい。また、反応ガス11の濃度は、例えば3mol%以上とすることにより、良好な成膜速度を得ることができる。さらに、反応ガス11は、Hガスに少なくとも2mol%以上20mol%以下のDCSガスを混合しているのがよい。
【0065】
つぎに、基板10の温度履歴を、周囲温度等の条件から算出する方法を以下に説明する。移動する基板10の熱移動と基板10の表面からの対流伝熱のバランス式は、
d×b×ρ×Cp×v×δT/δZ=−(2d+2b)×h×(T−T0) (1)
ここで、
T:基板温度(℃)
T0:周囲ガス(反応ガスまたは外気)の温度(℃)
d:基板厚さ
b:基板幅
ρ:基板の密度(石英では、2.2×10kg/m
Cp:基板の比熱(石英では、1.05×10J/kg・K)
v:基板の移動速度
h:周囲ガスへの対流熱伝達率(2000w/m・K)
Z:基板の移動方向の位置
となる。
【0066】
基板10の移動方向の位置Zを微小長さΔZで刻んだとき、位置Zにおける基板温度Tと位置Zi−1における温度Ti−1との関係は、式(1)より次の差分式で表される。
=(Ti−1−T0)
×exp[−2(d+b)/(d×b×ρ×Cp)×h×ΔZ/v)]+T0 (2)
【0067】
基板10に石英ガラスを用い、反応ガス11としてHガスとDCSガスとの混合ガスを用いる上記の実施例では、基板10の厚さd及び幅bをそれぞれ0.00009、及び0.00088m、とし、基板10の移動速度vを0.4m/秒、周囲ガスである反応ガス11の第2隔離ゾーン112での出口側温度を1250℃、第3隔離ゾーン113の予備冷却部123に対応する位置の平均温度を500℃、第3隔離ゾーン113の外気に露出した部分の温度を25℃として評価することができる。
【0068】
上記(2)式において、基板10の形状に依存するのはdb/(2(d+b))の部分であり、これは(単位長さあたりの体積)/(単位長さあたりの表面積)に相当する。その他の部分は、反応ガス11の条件及び加熱条件で決定される因子であり、それぞれの値が同じであれば、基板10は同等の温度履歴を受けることになる。対流熱伝達係数hは、反応ガス11の種類とその流速によって決定される。
【0069】
上記実施例では、基板10の片面のみに薄膜を形成する場合について説明したが、これに限らず、基板10の両面に反応ガス11を供給するように構成することで、基板10の両面に薄膜を形成させることも可能である。
【0070】
本発明の連続薄膜形成方法および装置の別の実施例を、図3を用いて以下に説明する。ここでは、図3に示す連続薄膜形成装置200を用いて基板10上にシリコン薄膜を形成した結果を示し、これに基づいて各成膜条件を説明する。
【0071】
連続薄膜形成装置200は、加熱炉201内に石英製の隔離部(反応管)210を設置し、隔離部210の周囲に熱源としての赤外線発生装置224を配置するとともに、隔離部210の内部にカーボン製のサセプタ(赤外線吸収体)225を配置している。図3では、サセプタ225の長さ、赤外線発生装置224の長さ、加熱炉201の長さ(=隔離部210の長さ)をそれぞれL1、L2、L3とし、第1隔離ゾーン211、第2隔離ゾーン212、第3隔離ゾーン213のそれぞれの長さをL4、L5、L6としている。
【0072】
サセプタ225の長さL1は、ライン速度(基板10の移動速度)にもよるが、1m/s以下の場合は10〜500mm程度に設定するのがよく、ライン速度により比例的に長くなる。赤外線発生装置224の長さL2は、サセプタ225の長さL1の3倍から20倍(ライン速度によって変化)とし、加熱炉201の長さL3は、炉の断熱設計によるがL2+(100〜500mm)とするのがよい。また、第2隔離ゾーン212の長さL5は、サセプタ225の長さL1の0.8倍から1.2倍程度とし、第3隔離ゾーン213の長さL6は、第2隔離ゾーン212の長さL5以上でサセプタ225の長さL1の8倍以下とするのがよく、膜厚を大きくする場合や残留応力のばらつきや欠陥を低減したい場合など、徐冷が必要な場合にはさらに長くする必要がある。
【0073】
より好ましくは、ライン速度が1m/s以下の場合、成膜する厚さにもよるが、サセプタ225の長さL1を40〜200mm、程度に設定するのがよく、赤外線発生装置224の長さL2をサセプタ225の長さL1の4倍から12倍、第3隔離ゾーン213の長さL6を、第1隔離ゾーン211の長さL4と等しいかより長くするのがよい。
【0074】
また、第3隔離ゾーン213をさらに、急冷するゾーンと徐冷するゾーンとに分けた構成としてもよい。急冷ゾーンでは、冷却用のガスを供給することでさらに急速冷却することが可能となる。徐冷ゾーンでは、ガスの流速が遅くなるように該ゾーンの断面積を大きくするか、あるいは急冷ゾーンの終端部に排気口を設けてガスを排気することで、流速を下げて冷却速度を変えることができる。
【0075】
隔離部210の内部には、反応ガスとしてHにDCS(SiHCl)ガスを9mol%混合した混合ガスを、平均流速1.3m/秒で供給した。図3(b)に、図3(a)のA−A’線方向の断面図を示す。図3(b)では、サセプタ225と基板10との位置関係が模式的に示されている。また、図3(c)に、隔離部210の別の例を示す。図3(b)又は(c)に示すように、基板10はサセプタ225と非接触の状態で移動されてもよく、あるいはサセプタ225に接触した状態で移動されてもよい。基板10上に形成される薄膜は、ライン速度を一定に制御できるので、長手方向の膜厚分布が十分小さくこれを無視することができるが、基板10の幅が広くなるにつれて幅方向の膜厚分布が無視できなくなる。幅方向の膜厚分布を抑制するためには、基板10の幅方向における隔離部210の内径を、基板10の幅の1.2〜10倍程度に大きくするのが望ましい。より好ましくは、隔離部210の内径を基板10の幅の2〜5倍程度にするのがよい。
【0076】
基板10として、厚さ90μm、幅0.88mmの断面矩形形状を有する十分に長い石英製長尺体を作製し、これを隔離部210に対する相対速度400mm/秒でその内部を移動させた。赤外線発生装置224の出力を制御し、サセプタ225が配置されている第2隔離ゾーンのガス温度が最高点で1300℃、出口側端部で1250℃となるように調整した。
【0077】
図3に示した連続薄膜形成装置200の各寸法の一実施例として、隔離部210の内径及び長さをそれぞれ6mm及び350mmとし、サセプタ225の長さL1=45mm、赤外線発生装置224の長さL2=300mm、加熱炉201の長さL3=350mm、第1隔離ゾーン211の長さL4=150mm、第2隔離ゾーン212の長さL5=50mm、第3隔離ゾーン213の長さL6=150mmとする。この条件で基板10が各隔離ゾーンに滞留する時間を算出すると、第2隔離ゾーン212での滞留時間が0.125秒、第3隔離ゾーン213での滞留時間が0.375秒となる。また、(2)式を用いて基板10の温度履歴算出すると、第2隔離ゾーン212で最高1197℃まで加熱され、1050℃以上の状態が0.075秒間持続している。第3隔離ゾーン213の出口では900℃まで冷却されており、第3隔離ゾーン213における平均冷却速度は12000K/秒となる。
【0078】
本発明の連続薄膜形成方法および装置の別の実施例を、図4を用いて以下に説明する。図4に示す連続薄膜形成装置300は、隔離部(反応管)310の導入口314側に反応ガス11を供給するための供給口316aに加えて第2の供給口316bを有しており、引出口315側にも反応ガス11を回収するための排気口317aに加えて第3の供給口316cを有している。また、供給口316a、316b、316c、および排気口317aが設けられている位置の隔離部310の断面積が、第1〜3隔離ゾーン311〜313の位置の断面積より小さくなるように、隔離部310の管の形状を細くしている。
【0079】
連続薄膜形成装置300では、供給口316bおよび316cから隔離部310の内部に不活性ガス(たとえばAr)を供給しており、導入口314および引出口315の近傍を不活性ガスでシールドするようにしている。これにより、反応ガス11が導入口314および引出口315から外部に漏れるのを防止するとともに、外部から不純物が混入するのを防止している。供給口316a、316b、316c、および排気口317が設けられている位置の隔離部310の断面積を小さくすることにより、導入口314および引出口315の近傍を不活性ガスで高圧にすることができ、これにより反応ガス11が導入口314および引出口315から漏洩するのを防止するとともに、外部から不純物が混入するのを防止することができる。
【0080】
隔離部310内部の圧力分布の一例を、模式的に図5に示す。供給口316aから供給された反応ガス11が排気口317の方向に流れるように、供給口316aの圧力P2を排気口317の圧力P3より高くしている。圧力差(P2−P3)は、反応ガス11の流速が所定の大きさとなるように決定される。また、供給口316bの圧力P1は圧力P2より高く設定されており、これにより供給口316aから供給される反応ガス11が、供給口316bから供給される不活性ガス(ここではArとする)によってシールドされ、導入口314から外部に漏出しないようにしている。さらに、供給口316cから圧力P3より高い圧力P4で不活性ガスを供給することにより、反応ガス11が引出口315から外部に漏出しないように、不活性ガスでシールドしている。
【0081】
(シリコン薄膜の形成例及びその評価)
上記実施例の連続薄膜形成装置200を用いて、基板10上にシリコン薄膜を作製して評価した結果を以下に説明する。上記条件を適宜変更して複数種類のシリコン薄膜を形成し、これらを比較検討した結果を表1に示す。なお、評価方法はAFMでシリコン薄膜の表面粗さを測定し、表面粗さがJIS規定のRms値で5nm以上のものを不合格とした。また、ラマンスペクトル測定により結晶性を評価し、ポリシリコン膜と判定できないものを不合格とした。このように、以下では表面粗さ及び結晶性評価の両面から好適なポリシリコン薄膜を判定している。
【0082】
基板10に用いた石英は、密度ρを2.2×10kg/m、比熱Cpを1.05×10J/kg・Kとし、これを用いて基板10の温度と冷却速度を計算した。また、第2隔離ゾーン212の温度として出口側の温度を用いており、第2隔離ゾーン212の温度にかかわらず第3隔離ゾーン213の温度を500℃、外気の温度を25℃とした。また、基板10の幅が所定値を超えるものについては、隔離部210の内側断面積を内径6mmのものと同等にして、基板10を内部に挿通可能となるように隔離部210の断面形状を変更して薄膜形成を行った。さらに、反応ガス11の構成及び供給時の流速は、いずれの場合も50nm以上の膜厚が得られるように適宜調整している。なお、表1では第2隔離ゾーン212を第一領域、第3隔離ゾーン213を中間領域と表記している。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の評価結果より、第2隔離ゾーン212の温度を一定とした場合、好適なポリシリコン薄膜が生成されるか否かは基板10の加熱速度と冷却速度に依存していることがわかる。従って、第2隔離ゾーン212の温度と長さを一定とした場合には、基板10の移動速度を制御することにより、好適なポリシリコン薄膜を形成することができる。
【0085】
さらに条件を変えてシリコン薄膜を形成したときの評価結果を表2に示す。成膜条件は表1と同じとしている。表2では、生成されたシリコン膜の種類を、アモルファスシリコン(a−Si)、微結晶シリコン(μc−Si)、及びポリシリコン(p−Si)の3種に分類して表示している。
【0086】
【表2】

【0087】
表2の結果より、成膜条件を適切に変更することで、アモルファスシリコン、微結晶シリコン、あるいはポリシリコンのいずれのシリコン薄膜でも生成可能であることがわかる。また、表1に示したサンプル番号14と表2に示したサンプル番号33,34の結果から、第2隔離ゾーン(表1,2の第一領域)212において1050℃以上の滞留時間が0.2秒より長くなると、表面粗さRmsが悪化することがわかる。これより、薄膜形成工程においては、1050℃以上の温度での滞留時間を0.2秒以下に短縮するのが望ましい。また、100nm以上の膜厚のシリコン薄膜を形成する場合には、0.2秒で100nm以上の連続成膜が可能となるように、成膜速度を500nm/秒以上とするのが望ましい。
【0088】
図6及び図7は、基板厚さd、基板幅b、及び基板加熱時の昇温レートの関係を示すグラフである。図6は、基板厚さdに対して基板幅bが十分大きい場合に、db/(2(d+b))の値を一定としたときの基板厚さdの基板幅bに対する依存性を示すグラフである。また図7は、昇温レートと基板厚さdとの関係を示すグラフである。図6から明らかなように、基板幅bが10mm程度以上の場合には、db/(2(d+b))が所定の値となる基板厚さdは、基板幅bに対しほぼ一定値となる。すなわち、db/(2(d+b))が所定の値となる基板厚さdは、基板幅bが大きくなってもほとんど変わらないことがわかる。(2)式より、db/(2(d+b))の値が同じであれば同じ温度履歴となることから、基板幅bの大きさに依存することなく、基板はほぼ同じ温度履歴をたどることになる。
【0089】
図7には、第2隔離ゾーン212が温度1250℃、長さ50mmで、基板10が第2隔離ゾーン212に入るときの基板温度を500℃としたときの、基板厚さdと昇温レートとの関係が示されている。この関係は、基板幅を10mmとし昇温レートを基板厚さdのみの関数として算出したものである。図7に示すグラフから、例えば基板厚さdが30μmの場合には昇温レートが35000K/secとなり、基板厚さdが300μmの場合には昇温レートが3500K/secとなることがわかる。
【0090】
基板厚さdが300μm以上の場合は、0.2sec後の昇温レートが数千℃/sec以下となり、成膜時間0.2secで緻密な薄膜を得るには基板温度が低すぎて好ましくない。このときのdb/(2(d+b))の値は0.15となる。また、基板10の強度の面から、基板厚さdが30μm以下では破断する可能性が高くなり好ましくない。このときのdb/(2(d+b))の値は0.015となる。よって、基板の形状から決まるdb/(2(d+b))の値は、0.15から0.015の間が望ましい。
【0091】
図8に、反応ガス11の平均流速が1.3m/secのときのDCS濃度と成膜速度との関係を示す。同図において、DCS濃度が略2mol%のときに変曲点が見られることから、高速成膜のためにはDCS濃度を2mol%以上とするのが望ましいことがわかる。
【0092】
上記の薄膜形成装置200を用いた実施例において、基板10上に形成されたポリシリコン薄膜に混入された不純物の膜厚方向の分布の一例を図9に示す。同図に示すように、シリコン以外の元素は、膜厚方向の両端で増加傾向がみられるものの十分に低減されていることがわかる。本発明の薄膜形成方法および装置によれば、不純物を十分に低減した薄膜を基板上に形成することが可能となっている。
【0093】
上記では、基板及び反応ガスを加熱するのに熱CVDを用いた実施例を示したが、これに限らず例えばプラズマCVDあるいはその他の加熱手段を用いてもよい。
【0094】
本発明のガラス基板の製造方法は、上記説明の本発明の連続薄膜形成方法及び装置を用いて製造された薄膜を有する基板を、所定の長さに複数本切断してこれを幅方向に順次接続していく。これにより、所望の幅のガラス基板を作製することができる。また、このようにして作製されたガラス基板上に半導体装置を形成することができる。
【0095】
上記説明のように、本発明によれば基板上に各種薄膜を連続的に高速で形成することのできる連続薄膜の形成方法、形成装置、薄膜付き基板及び半導体装置を提供することができる。熱容量が小さく表面積が大きい薄い基板を、反応ガスを充満させた隔離部内を短時間で通過させて急速加熱、急速冷却することにより、基板上に所望の薄膜を高速で連続的に形成することが可能となる。基板の熱容量、表面積、移動速度、及び隔離部の温度、ガス流速を制御することにより、基板上にパーティクルが少なく平滑度の高い緻密な薄膜を連続的に高速で成膜することができる。さらに、高速に成膜した場合でも長手方向の膜厚分布の発生を十分低減することができる。
【0096】
本発明の連続薄膜形成方法により薄膜が形成された基板は、薄いフィルム状に形成されることから、これを用いた製品の軽量化を図るとともに、変形容易といったフレキシビリティに富んでいるので、剛性の高いガラス基板に比べてより多くの用途に使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態にかかる連続薄膜形成装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】隔離部の内部を移動する間の基板の温度変化を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる連続薄膜形成装置の別の実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる連続薄膜形成装置のさらに別の実施例を示す概略構成図である。
【図5】さらに別の実施例の隔離部内の圧力変化を模式的に示す図である。
【図6】基板厚さに対して基板幅が十分大きい場合のdb/(2(d+b))の変化を示すグラフである。
【図7】昇温レートと基板の厚さとの関係を示すグラフである。
【図8】DCS濃度とシリコン薄膜の成膜速度との関係を示すグラフである。
【図9】薄膜に混入された不純物の膜厚方向の分布の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
10 基板
11 反応ガス
100、200、300 連続薄膜形成装置
110、210、310 隔離部
111、211、311 第1隔離ゾーン
112、212、312 第2隔離ゾーン
113、213、313 第3隔離ゾーン
114、314 導入口
115、315 引出口
116、316a、316b、316c 供給口
117、317 排気口
120、320 加熱部
121、321 予備加熱部
122、322 本加熱部
123、323 予備冷却部
124、324 熱源
125、225、325 サセプタ
126 温度制御部
131 供給ドラム
132 巻き取りドラム
133 移動速度制御部
141、341a 反応ガス供給管
341b、341c 不活性ガス供給管
142、342 反応ガス回収管
143、343 ガス流量制御部
201 加熱炉
224 赤外線発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の厚さをdとし幅をbとしたときdb/(2(d+b))が0.015以上0.15以下となるように形成された帯状の基板を、予備加熱部に設けられた第1隔離ゾーンと本加熱部に設けられた第2隔離ゾーンと冷却部に設けられた第3隔離ゾーンとを有する隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた導入口から連続的に導入するとともに、前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた供給口から反応ガスを加圧して供給し、
前記基板および前記反応ガスを前記第1隔離ゾーン内を通過させて所定の温度まで急速加熱し、
前記基板および前記反応ガスを前記第1隔離ゾーン通過後に前記第2隔離ゾーン内を通過させてさらに加熱して前記反応ガスを前記基板上に成膜させ、
前記基板および前記反応ガスを前記第2隔離ゾーン通過後に前記第3隔離ゾーン内を通過させて前記基板を所定の温度勾配で急速冷却することにより、
前記基板上に前記反応ガスの所定の成分からなる薄膜を形成する
ことを特徴とする連続薄膜形成方法。
【請求項2】
前記反応ガスの前記隔離部内の圧力は、前記隔離部内の不純物が所定値以下となるように加圧される
ことを特徴とする請求項1に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項3】
前記反応ガスの前記隔離部内の圧力を前記隔離部外の圧力よりも高くし、前記供給口の圧力を前記第3隔離ゾーン側に設けられた排気口の圧力よりもさらに高くすることにより、前記隔離部内に外気が侵入するのを防止する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項4】
前記基板は、前記第1隔離ゾーン、第2隔離ゾーン及び第3隔離ゾーンを6秒以下で通過するように制御される
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項5】
前記薄膜は、多結晶構造を有している
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項6】
前記基板上に形成する前記薄膜の厚さを、前記第2隔離ゾーンの長さと、前記基板が前記隔離部内を通過する速度と、前記反応ガスの流速によって調整する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項7】
前記第2隔離ゾーンの幅は、前記基板の幅の2倍以上5倍以下である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項8】
前記予備加熱部及び前記本加熱部は、熱CVDにより構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項9】
前記予備加熱部及び前記本加熱部は、プラズマCVDにより構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項10】
前記基板は、厚さが30μm以上300μm以下の石英ガラスである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項11】
前記基板を厚さが30μm以上300μm以下の石英ガラスで形成し、前記反応ガスとしてHガスとDCSガスとの混合ガスを用いて前記基板上にシリコン薄膜を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項12】
前記反応ガスは、Hガスに少なくとも2mol%以上20mol%以下のDCSガスを混合している
ことを特徴とする請求項10または11に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項13】
前記反応ガスは、平均流速が0.5m/秒以上となるように供給される
ことを特徴とする請求項11または12に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項14】
前記第2隔離ゾーンでは前記基板を1150℃以上1400℃以下に加熱して0.1秒以上0.5秒以下で通過し、前記第3隔離ゾーンの温度を900℃以下として前記基板を冷却することで前記シリコン薄膜を形成する
ことを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項15】
前記第2隔離ゾーンでは前記基板を1175℃以上に加熱しかつ0.2秒以下の期間1050℃以上に維持し、前記第3隔離ゾーンでは平均10000℃/秒以上の冷却速度で900℃以下に冷却することにより前記シリコン薄膜を形成する
ことを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項16】
前記シリコン薄膜は、多結晶構造を有するポリシリコン薄膜である
ことを特徴とする請求項11乃至15に記載の連続薄膜形成方法。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の連続薄膜形成方法により製造された前記基板を所望の長さに切断して幅方向に接続することにより、前記薄膜を備えた板状基板を作製する
ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項18】
帯状の基板を予備加熱する予備加熱部と、前記予備加熱部で加熱された前記基板をさらに加熱する本加熱部と、前記本加熱部で加熱された前記基板を冷却する冷却部とを備えて前記基板上に所定の反応ガスの成分からなる薄膜を形成する連続薄膜形成装置であって、
前記予備加熱部に配置された第1隔離ゾーンと前記本加熱部に配置された第2隔離ゾーンと前記冷却部に配置された第3隔離ゾーンとを有する隔離部をさらに備え、
前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた導入口から前記基板を連続的に導入して前記第1隔離ゾーンから前記第3隔離ゾーンまで順次通過させて引出口から引き出すとともに、前記隔離部の前記第1隔離ゾーン側に設けられた供給口から加圧された反応ガスを供給して前記第1隔離ゾーンから前記第3隔離ゾーンまで所定の流速で送流して排気口から排出する
ことを特徴とする連続薄膜形成装置。
【請求項19】
前記導入口と前記供給口との間に設けられた第2の供給口と、
前記排気口と前記引出口との間に設けられた第3の供給口と、をさらに備え、
前記供給口の圧力よりも高い圧力で前記第2の供給口から前記隔離部内に不活性ガスを供給し、前記排気口の圧力よりも高い圧力で前記第3の供給口から前記隔離部内に不活性ガスを供給している
ことを特徴とする請求項18に記載の連続薄膜形成装置。
【請求項20】
前記導入口から前記供給口までの間の前記隔離部の断面積および前記排気口から前記引出口までの間の前記隔離部の断面積は、少なくとも前記第2隔離ゾーンの断面積より小さくして前記基板との隙間を小さくしている
ことを特徴とする請求項18または19に記載の連続薄膜形成装置。
【請求項21】
請求項18乃至20のいずれか一項に記載の連続薄膜形成装置において、帯状基板を供給する手段と成膜された基板を巻き取る手段が設けられている
ことを特徴とする連続薄膜形成装置。
【請求項22】
請求項18乃至21のいずれか一項に記載の連続薄膜形成装置を用いて製造された帯状成膜ガラス基板。
【請求項23】
請求項18乃至21のいずれか一項18の帯状成膜ガラス基板を所望の長さに切断して幅方向に接続して作製される
ことを特徴とする二次元成膜ガラス基板。
【請求項24】
請求項22に記載の帯状成膜ガラス基板または請求項23に記載の二次元成膜ガラス基板を用いて製造された半導体装置素子またはモジュール。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−299164(P2009−299164A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157067(P2008−157067)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】