説明

音響減衰積層体を迅速に加熱する炉および音響減衰積層体を製造する装置並びに方法

互いに向き合って配置されるデカップラ繊維層(12)と質量層(14)を有する音響減衰積層体(10)を成形する装置と方法に関する。積層体(10)のデカップラ繊維層(12)と質量層(14)は、それぞれ、熱風源(36)と加熱されたプラテン(34)によって実質的に同一の時間内に選択された温度に加熱される。加熱された積層体(10)は型(40)に移送され、型(40)によって所定の三次元形状に成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は2002年10月29日出願の米国仮出願第60/421、914号の利益を主張するものであり、この仮出願の開示内容を参照することによってその全体を本明細書の一部とする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は一般的に音響減衰物品に関し、さらに詳細には音響減衰物品を製造する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0003】
車両の乗客区画内の騒音レベルを低減させることが一般的に望まれている。乗客区画から生じる騒音と共に路面の騒音、エンジンの騒音、振動などの外部騒音は種々の音響材料を用いることによって減衰させることができる。自動車のような車両用の音響減衰材料は、従来、床パネル用のカーペットと連携するダッシュボード、車輪格納部、トランク区画、フード下、ヘッドライナの一部、A−ピラーなどに用いられている。
【0004】
騒音を減衰するように設計された床カバー、ダッシュボードのインシュレータ、フェンダー格納カバー、内装トリム部品などは熱可塑性質量層およびその質量層に取り付けられたデカップラ層(音源から質量層を隔てる層)としての繊維層を備えた積層体から形成されることが多い。通常、質量層は多量の充填剤を含む熱可塑性材料、例えば、80%の炭酸カルシウムなどを含むエチレン酢酸ビニル(EVA)で形成されている。他の材料として、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられる。繊維層は1種以上の熱可塑性繊維からなる詰め綿状の層であるとよい。
【0005】
床カバー、ダッシュボードのインシュレータ、フェンダー格納カバー、内装トリム部品などは通常それらが取り付けられる車両部品の外形と一致する三次元寸法に成形されている。積層体は通常成形の前に強制的に加熱された空気によって所定の温度に予熱される。積層体の繊維層は強制的に加熱された空気を用いることによって著しく迅速に加熱されるが、質量層は成形に必要な温度に到達するのに非常に長い時間がかかる。この時間の遅れは製造時間を増し、その結果、製造コストを高くする。このような事情から、車両の製造メーカは車両用の繊維/質量層からなる音響部品の製造における時間とコストを低減させることができる方法を長年にわたって求めている。
【発明の開示】
【0006】
上記の検討に基づき、互いに向き合って配置されるデカップラ繊維層と質量層とを備えた音響減衰積層体を製造する装置が提供される。本装置は積層体を選択された温度に加熱する炉と、加熱された積層体を所定の三次元形状に成形する型と、炉と型に対して操作可能に連携され、加熱された積層体を炉と型との間において移送するように構成されたコンベヤとを備えている。本発明の実施態様によれば、炉は、空洞と、加熱されたプラテンと、熱風源とを備えている。プラテンは空洞内に配置され、プラテンと接触する質量層を支持し、質量層を選択された温度に加熱するように構成されている。熱風源は空洞内に配置され、加熱された空気をデカップラ繊維層に導き、デカップラ繊維層を選択された温度に加熱するように構成される。熱風源とプラテンは、それぞれ、デカップラ繊維層と質量層を実質的に同一の時間内に選択された温度に加熱する。型は加熱された積層体を所定の三次元形状に成形するように構成されている。
【0007】
本発明の実施態様によれば、互いに向き合って配置されたデカップラ繊維層と質量層を有する音響減衰積層体を成形する方法が提供される。本方法は積層体を所定の温度に加熱する段階と、加熱された積層体を型に移送する段階と、加熱された積層体を型によって所定の三次元形状に成形する段階を備えている。積層体のデカップラ繊維層と質量層は、それぞれ、熱風源と加熱されたプラテンによって実質的に同一の時間内において選択された温度に加熱される。
【0008】
明細書の一部をなす添付の図面は本発明の代表的な実施例を示している。これらの図面とそこに示す実施例の説明によって、本発明はさらに十分に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を好ましい実施例を示す添付の図面に基づいてさらに詳細に説明する。しかし、本発明は多くの異なった形態で実施することが可能であり、ここに述べる実施例に制限されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施例はその開示内容を綿密かつ完全なものとし、当業者に本発明の範囲を十分に理解せしめることを意図してなされたものである。
【0010】
図面において、線、層、および領域の厚みは理解しやすいように誇張している部分がある。なお、ある要素が他の要素の「上に配置されている」と述べた場合、その要素は他の要素の上に直接的または介在要素を介して配置されていることを意味する。対照的に、ある要素が他の要素の「上に直接的に配置されている」と述べた場合、その要素は他の要素の上に介在要素を介さずに配置されていることを意味する。また、ある要素が他の要素に「接続または取付けられている」と述べた場合、その要素は他の要素に直接的または介在要素を介して接続または取り付けられていることを意味する。対照的に、ある要素が他の要素に「直接的に接続または取り付けられている」と述べた場合、その要素は他の要素に介在要素を介さずに接続または取り付けられていることを意味する。また、「上方」、「下方」、「垂直」、「水平」などの用語は単に記述的な用語として用いているにすぎず、本発明を制限するものではない。
【0011】
本発明の実施例は種々の用途、特に自動車用途に用いられる音響減衰および/または吸収積層体を提供する。音響減衰および/または吸収積層体が適用される具体的な自動車用途として、特に制限するわけではないが、床カバー、ドアパネル、トランクライナ、ヘッドライナ、種々の内装トリム部品、車輪格納ライナ(wheel well liners)などが挙げられる。
【0012】
図1は本発明の実施例による車両用の音響減衰積層体10を製造する装置20を例示している。音響減衰積層体10は互いに向き合って配置される繊維層12と質量層14を備えている。繊維層12は熱成形可能な材料、例えば、天然および/または合成繊維から得られる材料の詰め綿状繊維層である。質量層14は比較的密度が高く、通常の状態においては通気性を有せず、かつ熱成形が可能な材料からなる。質量層14は高質量充填剤を含む実質的にどのようなプラスチックまたはゴム材料から形成されていてもよい。質量層の材料として、特に制限するわけではないが、質量を増すためにガラス、炭酸カルシウム、または硫酸バリウムのような高質量充填剤を含むエチレン酢酸ビニル(EVA),ポリエチレン(PE),またはポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
【0013】
図示の装置20は炉(オーブン)30、型40、および炉30と型40に対して操作可能に連結しているコンベヤ50を備えている。炉30は、音響減衰積層体10を選択された温度に迅速に加熱するように構成され、空洞32、プラテン(熱板)34、および熱風源36を備えている。プラテン34と熱風源36は各々空洞32と操作可能に連携している。あるいは、炉30は単独でまたは熱風源36と連携して音響減衰積層体10を迅速に加熱することができる赤外線源を備えていてもよい。
【0014】
プラテン34は、1つ以上の選択された温度に加熱されるように構成され、そのプラテン34と接触する音響減衰積層体10の質量層14を支持するように構成されている。プラテン34は当業者によって知られている種々の材料、例えば、特に制限はしないが、アルミニウム、鋼、および他の熱伝導性を有する金属などの材料から形成されるとよい。熱風源36は加熱された空気を積層体のデカップラ層12に導くように構成されている。図示の実施例において、プラテン34と熱風源36は炉30内において互いに正反対に向き合って配置されている。ただし、プラテン34と熱風源36の相対的な位置は逆であってもよい。例えば、プラテン34が最上部に配置され、熱風源36が底に配置されてもよい。プラテン34の形状、寸法、および配置は種々変更可能である。
【0015】
プラテン34は曲面形状であってもよいし、あるいは略平面形状であってもよい。さらに、多数のプラテン34が用いられてもよい。熱風源36も多数の熱風源によって構成されてもよい。また、熱風は種々の形式のダクトおよびノズルを介して積層体に導かれてもよい。
【0016】
プラテン34は熱風源36によってデカップラ繊維層12を加熱するのに必要な時間と略同一の時間内において質量層14を所定の温度に加熱することができる。従来の炉内において熱風によって質量層14を加熱する方法は質量層34を成形に必要な温度まで加熱するのに非常に長い時間が必要である。一方、加熱されたプラテン34と熱風源36(あるいは赤外線源)のこのような組合せは積層体10の迅速かつ効率な加熱を容易に実現することができる。
【0017】
型40は炉30によって加熱された後の積層体10を所定の3次元形状に成形するように構成されている。図示の型40は上半型42aおよび下半型42bからなる。上下半型42a,42bは当業者によってよく知られているので、ここではこれ以上の説明を省略する。図示のコンベヤ50は加熱された積層体を炉30から型40に移送するように構成されている。コンベヤ50は加熱された積層体を炉30から型40に移送することができるどのような種類の移送装置であってもよい。
【0018】
図2および図3は本発明の実施例による音響減衰積層体を成形する操作を例示している。互いに向き合って配置されたデカップラ繊維層と質量層を有する積層体は必要な温度に迅速に加熱される(ブロック100)。この操作は質量層をその質量層と接触している加熱されたプラテンを介して所定の温度に加熱する操作(ブロック102)と繊維層をその繊維層に導かれる熱風(および/または赤外線)によって加熱する操作(ブロック104)を含んでいる。次に、加熱された積層体は型に移送され、型によって所定の3次元形状に成形される(ブロック110)。当業者によく知られているように、加熱された積層体は所定の形状と所定の外観の表面を有する音響減衰積層体を製造するのに十分な型内の条件(例えば、圧力および/または温度)下において成形される。成形操作の後、音響減衰積層体10は脱型され、その音響減衰積層体10にトリミングおよび/または他の仕上げ処理を施す操作がなされる(ブロック120)。
【0019】
以上、本発明について説明したが、それらの説明は単なる例示にすぎず、本発明を限定すると解釈されるべきではない。本発明のいくつかの具体的な実施例について説明したが、当業者には容易に理解されるように、それらの実施例に基づいて多くの変形例を本発明の新規の示唆および利点から実施的に逸脱することなくなすことが可能である。従って、このような変形例は請求項において定義される本発明の範囲内に包含される。すなわち、本発明は請求項とそこに含まれる等価物によって定義されると見なされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例による多層音響減衰構造体を迅速に加熱および成形する装置を示す図である。
【図2】本発明の実施例による音響減衰積層体を成形する操作を示す図である。
【図3】本発明の実施例による音響減衰積層体を成形する操作を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向き合って配置されるデカップラ繊維層と質量層とを備えた音響減衰積層体を迅速に加熱する炉において、
空洞と、
前記空洞内に配置され、選択された温度に加熱され、接触する前記質量層を支持するように構成されたプラテンと、
前記空洞内に配置され、加熱された空気を前記デカップラ繊維層に導くように構成された熱風源と
を備え、
前記熱風源および前記プラテンは、前記デカップラ繊維層および前記質量層のそれぞれを同一の時間内に選択された温度に加熱するように構成されていることを特徴とする音響減衰積層体を迅速に加熱する炉。
【請求項2】
前記熱風源および前記プラテンが前記空洞を間に置いて互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の音響減衰積層体を迅速に加熱する炉。
【請求項3】
前記プラテンがアルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の音響減衰積層体を迅速に加熱する炉。
【請求項4】
互いに向き合って配置されるデカップラ繊維層と質量層とを備えた音響減衰積層体を製造する装置において、
前記積層体を選択された温度に加熱する炉と、
加熱された積層体を所定の三次元形状に成形する型と
を備え、
前記炉は
空洞と、
前記空洞内に配置され、選択された温度に加熱され、接触する前記質量層を支持するように構成されたプラテンと、
前記空洞内に配置され、加熱された空気を前記デカップラ繊維層に導くように構成された熱風源と
を備え、前記熱風源および前記プラテンは、前記デカップラ繊維層および前記質量層のそれぞれを実質的に同一の時間内に選択された温度に加熱するように構成されていることを特徴とする音響減衰積層体を製造する装置。
【請求項5】
前記炉と前記型に対して操作可能に連携され、加熱された積層体を前記炉と前記型との間において移送するように構成されたコンベヤを備えていることを特徴とする請求項4に記載の音響減衰積層体を製造する装置。
【請求項6】
前記熱風源および前記プラテンが前記空洞を間に置いて互いに対向して配置されていることを特徴とする請求項4に記載の音響減衰積層体を製造する装置。
【請求項7】
前記プラテンがアルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項4に記載の音響減衰積層体を製造する装置。
【請求項8】
互いに向き合って配置されるデカップラ繊維層と質量層とを備えた音響減衰積層体を成形する方法において、
前記積層体を所定の温度に迅速に加熱する段階であって、前記段階は、前記質量層をその質量層と接触している加熱されたプラテンによって所定の温度に加熱する段階と、前記繊維層を所定の温度に加熱する段階とを含み、前記デカップラ繊維層および前記質量層を同一の時間内に選択された温度に加熱する段階と、
加熱された前記積層体を型に移送する段階と、
加熱された前記積層体を前記型によって所定の三次元形状に成形する段階と
を含むことを特徴とする音響減衰積層体を成形する方法。
【請求項9】
前記型から前記積層体を取り出し、その積層体に1以上の仕上げ処理を施す段階を含むことを特徴とする請求項8に記載の音響減衰積層体を成形する方法。
【請求項10】
前記繊維層を所定の温度に加熱する前記段階は、熱風を前記繊維層に導く段階を含むことを特徴とする請求項8に記載の音響減衰積層体を成形する方法。
【請求項11】
前記繊維層を所定の温度に加熱する前記段階は、赤外線を前記繊維層に導くことを含むことを特徴とする請求項8に記載の音響減衰積層体を成形する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−507143(P2006−507143A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548279(P2004−548279)
【出願日】平成15年6月17日(2003.6.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/019214
【国際公開番号】WO2004/040074
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(504135033)コリンズ・アンド・エイクマン・プロダクツ・カンパニー (8)
【Fターム(参考)】