説明

駆動トルク伝達システム

【課題】デファレンシャル装置において、アクチュエータの電気的な作動制御に対応する機械的な進展を図ることを可能とする。
【解決手段】エンジン11からの駆動トルクを前輪17,19に分配して伝達可能なフロント・デファレンシャル装置3と、分配アクチュエータにより動作して分配を調整するトルク配分調整機構5と、分配アクチュエータの作動を制御するコントローラ7とを備えた駆動トルク伝達システム1であって、差動歯車機構9は、駆動トルクの入力を受けるデフ・ケース21と、デフ・ケース21と共に公転可能に支持され且つ自転可能な円筒状のピニオン・ギヤ23と、ピニオン・ギヤ23にそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のフェース・ギヤ25,27とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに供される駆動トルク伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のデファレンシャル装置は、駆動源からの駆動トルクを左右一対の車輪又は前後一対の車輪に出力するものであり、差動歯車機構を備えている。この差動歯車機構は、車輪間の差動回転を許容しながら駆動トルクを分配出力することが可能であり、一般にベベル・ギヤの差動歯車が用いられている。
【0003】
このベベル・ギヤを用いた差動歯車機構は、駆動トルクの入力を受けるデフ・ケースと、このデフ・ケースに支持され、公転可能且つ自転可能なピニオン・ギヤと、このピニオン・ギヤにそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のサイド・ギヤとからなっている。
【0004】
ベベル・ギヤ式の差動歯車機構を用いる利点は、鍛造成形により大量生産可能なピニオン・ギヤ及びサイド・ギヤ、鋳造可能なデフ・ケースを備えることにより、他の形式の差動歯車機構に比べ格段に製造コストが安く、シンプルな構造であって、強度、耐久性に優れることである。
【0005】
一方、近年多くの車両では、ドライバビリティ向上のためトルク配分調整機構が付加された駆動力伝達システムを採用し、デファレンシャル装置によって車輪側に配分される駆動トルクを積極的に制御するようにしている。
【0006】
特許文献1に記載されたものは、デファレンシャル装置のデフ・ケースと一方の車軸との間に増減速ギヤ組及び2組の多板クラッチを介在させた構造であり、油圧式のアクチュエータを用いて多板クラッチを断続制御し左右輪間で駆動トルクの受け渡しを行うトルク配分調整機構としたものである。なお、デファレンシャル装置は、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構が用いられている。
【0007】
特許文献2に記載のものは、車輪と路面との限界駆動力が小さい方の車輪に、油圧式のアクチュエータを用いてブレーキを作動させることにより、車輪と路面との限界駆動力が大きい方の車輪の実駆動トルクを増大するトルク配分調整機構としたものである。なお、特許文献1と同様にデファレンシャル装置はベベル・ギヤ式の差動歯車機構が用いられている。
【0008】
これらトルク配分調整機構では、車両に備えられた各種センサーにより検出された信号に基づき、コントローラが車両の走行状態に適するようにアクチュエータを作動制御するものである。
【0009】
今後、車両のドライバビリティをさらに向上させるために、より緻密なアクチュエータの作動制御を行う必要が生ずる。
【0010】
具体的には、車輪が路面に対してスリップしながら駆動トルクを伝達する状態では、アクチュエータの作動レベルを逐次変化させるように中間制御する必要がある。
【0011】
アクチュエータの作動制御については、油圧アクチュエータに用いられる電磁バルブのPWM制御、電磁アクチュエータのPWM制御、モータ・アクチュエータによる回転角制御等、技術レベルに応じて進歩している。
【0012】
しかし、トルク配分調整機構と組み合わされるデファレンシャル装置においては、アクチュエータの電気的な作動制御に対応する機械的な進展が図られていない状況であった。
【0013】
つまり、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構は、前述のように多くの利点を備えているものの、ベベル・ギヤ自体の噛み合い率が小さく、回転噛み合い変動が大きな構造であり、トルク配分調整機構を緻密に中間制御する場合に車輪側に連結されるドライブ・シャフトなどに共振振動が生じ、聴感ギヤ・ノイズが発生するという問題があった。
【0014】
【特許文献1】特開平8−145191号公報
【特許文献2】特開平10−217932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
解決しようとする問題点は、トルク配分調整機構と組み合わされるデファレンシャル装置においては、アクチュエータの電気的な作動制御に対応する機械的な進展が図られておらず、トルク配分調整機構を緻密に中間制御する場合に車輪側に連結されるドライブ・シャフトなどに共振振動が生じ、或いは聴感ギヤ・ノイズが発生する点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の駆動トルク伝達システムは、トルク配分調整機構と組み合わされるデファレンシャル装置において、アクチュエータの電気的な作動制御に対応する機械的な進展を図るために、差動歯車機構を備え駆動源からの駆動トルクを対の車輪に分配して伝達可能なデファレンシャル装置と、前記駆動源及び車輪間の駆動経路に配置され分配アクチュエータにより動作して前記分配を調整するトルク配分調整機構と、前記分配アクチュエータの作動を制御する制御部とを備えた駆動トルク伝達システムであって、前記差動歯車機構は、前記駆動トルクの入力を受けるデフ・ケースと、このデフ・ケースと共に公転可能に支持され且つ自転可能な円筒状のピニオン・ギヤと、このピニオン・ギヤにそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のフェース・ギヤとからなることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、差動歯車機構を備え駆動源からの駆動トルクを対の車輪に分配して伝達可能なデファレンシャル装置と、前記駆動源及び車輪間の駆動経路に配置され分配アクチュエータにより動作して前記分配を調整するトルク配分調整機構と、前記分配アクチュエータの作動を制御する制御部とを備えた駆動トルク伝達システムであって、前記差動歯車機構は、前記駆動トルクの入力を受けるデフ・ケースと、このデフ・ケースと共に公転可能に支持され且つ自転可能な円筒状のピニオン・ギヤと、このピニオン・ギヤにそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のフェース・ギヤとからなるため、ピニオン・ギヤとフェース・ギヤとの回転軸線が直交又は交差する状態で配置される構成ではあるが、ピニオン・ギヤとフェース・ギヤとの噛み合い状態は、正面と歯幅方向の重なり噛合部分を有しているので、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構に比べて接触弧が長くなり、噛み合い率を大きく設定できる。
【0018】
また、円筒状のピニオン・ギヤがフェース・ギヤと噛み合った際、ピニオン・ギヤの回転軸方向の噛み合い反力は、デフ・ケースに殆ど入力されない。そのため、差動歯車機構の回転方向の振動と、ピニオン・ギヤの回転軸方向の振動が抑制され、トルク配分調整機構を緻密に制御してもギヤ・ノイズも大幅に低減することができ、車輪側と連結するドライブ・シャフトなどに生じる共振振動を抑制することができる。
【0019】
さらに、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構と同様に鍛造成形も可能であり、ピニオン・ギヤにおいては円筒状をなすので成形方法は、コストを考慮して種々選定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
トルク配分調整機構と組み合わされるデファレンシャル装置において、アクチュエータの電気的な作動制御に対応する機械的な進展を可能にするという目的を、フェース・ギヤにより実現した。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係る駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブ(FF)二輪駆動車のスケルトン平面図、図2は、フロント・デファレンシャル装置の断面図である。
【0022】
図1のように、駆動トルク伝達システム1は、フロント・デファレンシャル装置(デファレンシャル装置)3とトルク配分調整機構5とコントローラ7とを備えている。
【0023】
図1,図2のように、フロント・デファレンシャル装置3は、差動歯車機構9を備え駆動源であるエンジン11からトランスミッション13を介してリング・ギヤ15に駆動トルクが入力されるようになっている。フロント・デファレンシャル装置3は、この駆動トルクを対の車輪である左右の前輪17,19に分配して伝達可能となっている。
【0024】
差動歯車機構9は、デフ・ケース21とピニオン・ギヤ23とフェース・ギヤ25,27とからなっている。
【0025】
デフ・ケース21は、トランスミッション13に結合されたベル・ハウジング29にベアリングを介して回転自在に支持され、前記リング・ギヤ15を備えて駆動トルクの入力を受けるようになっている。
【0026】
ピニオン・ギヤ23は、円筒状に形成され、ピニオン・シャフト31によりデフ・ケース21に回転自在に支持されている。従って、ピニオン・ギヤ23は、デフ・ケース21に支持され公転可能且つ自転可能となっている。
【0027】
フェース・ギヤ25,27は、左右一対備えられ、ピニオン・ギヤ23にそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能となっている。
【0028】
フロント・デファレンシャル装置3には、左右の車軸33,35を介して、左右の前輪17,19が連動連結されている。
【0029】
左右の前輪17,19及び後輪37,39には、ブレーキ機構41,43,45,47が設けられている。ブレーキ機構41,43,45,47は、マスターシリンダ等を備えた油圧機構がブレーキ・ペダルの踏み込みに応じて動作し、ブレーキ液圧を発生する。
【0030】
前輪17,19のブレーキ機構41,43は、エンジン11及び前輪17,19間の駆動経路に配置された構成であり、分配アクチュエータにより動作してフロント・デファレンシャル装置3から左右の前輪17,19への駆動トルクの分配を調整するトルク配分調整機構5を兼ねている。このためブレーキ機構41,43には、油圧機構に油圧ポンプ及び電磁バルブが設けられて分配アクチュエータが構成されている。
【0031】
トルク配分調整機構5は、前輪17,19の一方を制動調整して車輪と路面との限界駆動力が大きい方の実駆動トルクを増大させる(機能1)。
【0032】
コントローラ7は、分配アクチュエータの電磁バルブをPWM制御する制御部であり、各種センサ49からの信号が入力されるようになっている。各種センサ49からの信号は、例えばエンジン回転数、前後左右輪回転数、アクセル開度、ステアリング角度等である。
【0033】
従って、エンジン11からトランスミッション13を介してフロント・デファレンシャル装置3のリング・ギヤ15に駆動トルクが入力されると、車軸33,35を介して左右の前輪17,19へ駆動トルクの伝達が行われる。
【0034】
ブレーキ・ペダルの踏み込みにより、前後2系統の油圧機構が応答してブレーキ機構41,43,45,47が作動し、自動車の制動が行われる。
【0035】
コントローラ7は、各種センサ49からの入力信号によりトルク配分調整機構5の分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、左右のブレーキ機構41,43の何れかを作動させ、前輪17,19の一方を制動する。
【0036】
例えば、左の前輪17がスリップすると、フロント・デファレンシャル装置3へ入力された駆動トルクは、左の前輪17を空転させるように伝達される。このときブレーキ機構41を作動させて左の前輪17を制動調整するとフロント・デファレンシャル装置3から左の前輪17側へ主に伝達された駆動トルクが差動歯車機構9を介して右の前輪19側へ伝達される。右の前輪19がスリップするときはブレーキ機構43が同様に制動調整される。
【0037】
こうして、前輪17,19間において車輪と路面との限界駆動力が大きい方の実駆動トルクを増大させることができ、悪路などでの走破性を向上することができる。また、トルク配分調整機構5によりハンドリング特性、ヨーモーメントなどの調整も可能である。
【0038】
(実施例の効果)
本発明実施例は、差動歯車機構9を備えエンジン11からの駆動トルクを前輪17,19に分配して伝達可能なフロント・デファレンシャル装置3と、前記エンジン11及び前輪17,19間の駆動経路に配置され分配アクチュエータにより動作して前記分配を調整するトルク配分調整機構5と、前記分配アクチュエータの作動を制御するコントローラ7とを備えた駆動トルク伝達システム1であって、前記差動歯車機構9は、前記駆動トルクの入力を受けるデフ・ケース21と、このデフ・ケース21と共に公転可能に支持され且つ自転可能な円筒状のピニオン・ギヤ23と、このピニオン・ギヤ23にそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のフェース・ギヤ25,27とからなるため、ピニオン・ギヤ23とフェース・ギヤ25,27との回転軸線が直交又は交差する状態で配置される構成ではあるが、ピニオン・ギヤ23とフェース・ギヤ25,27との噛み合い状態は、正面と歯幅方向の重なり噛合部分を有しているので、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構に比べて接触弧が大きくなり、噛み合い率を大きく設定できる。
【0039】
また、円筒状のピニオン・ギヤ23がフェース・ギヤ25,27と噛み合った際、ピニオン・ギヤ23の回転軸方向の噛み合い反力は、デフ・ケース21に殆ど入力されない。そのため、差動歯車機構9の回転方向の振動と、ピニオン・ギヤ23の回転軸方向の振動が抑制され、トルク配分調整機構5を緻密に制御してもギヤ・ノイズも大幅に低減することができ、前輪17,19側と連結する車軸33、35などに生じる共振振動を抑制することができる。
【0040】
さらに、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構と同様に鍛造成形も可能で低コストであり、ピニオン・ギヤ23においては円筒状をなすので成形方法は、コストを考慮して種々選定可能である。また、ベベル・ギヤ式の差動歯車機構に比べて軸方向のコンパクト化を図ることができる。
【実施例2】
【0041】
図3は、本発明の実施例2に係る駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図1と対応する構成部分には同符号又は同符号にAを付して説明する。
【0042】
本発明の実施例2に係る駆動トルク伝達システム1Aaは、トランスファ51に適用され、駆動トルク伝達システム1Abは、終減速部52に適用されている。
【0043】
トランスファ51には、エンジン11Aからトランスミッション13Aを介して駆動トルクの伝達が行われるようになっている。
【0044】
トランスファ51のトラスファ・ケース53には、センター・デファレンシャル装置(デファレンシャル装置)55とトルク配分調整機構であるトルク配分調整クラッチ57とが収容支持されている。
【0045】
センター・デファレンシャル装置55は、駆動トルクを対の車輪である前後輪33,35,37,39に分配して伝達可能とするものであり、
デフ・ケース59、一体回転可能に連結された径の異なるピニオン・ギヤ61,63、径の異なるフェース・ギヤ65,67、ピニオン・シャフト69からなる差動歯車機構9Aaを備えている。
【0046】
デフ・ケース59は、トランスミッション13Aの出力軸71に結合され、駆動トルクの入力を受けるようになっている。大径のフェース・ギヤ65は、大径のピニオン・ギヤ61に噛み合うと共に、このフェース・ギヤ65に第1伝動軸73が結合されている。小径のフェース・ギヤ67は、小径のピニオン・ギヤ63に噛み合うと共に、フェース・ギヤ67に中空伝動軸75が結合されている。
【0047】
トルク配分調整クラッチ57は、電磁クラッチで構成され、エンジン11A及び前後輪33,35,37,39間の駆動経路に配置され電磁石で構成された分配アクチュエータにより動作して差動歯車機構9Aaの差動を制限する(機能2)。この差動歯車機構9Aaの差動制限によりセンター・デファレンシャル装置55から前後輪33,35,37,39への駆動トルクの分配を調整する。
【0048】
トルク配分調整クラッチ57のアウター・プレートを係合したクラッチ・ハウジングは、中空伝動軸75に結合され、同インナー・プレートを係合したクラッチ・ハブは、第1伝動軸73に結合されている。
【0049】
中空伝動軸75には、スプロケット77が結合されている。スプロケット77には、他方のスプロケット79との間にチェーン81が掛け回されている。スプロケット79は、第2伝動軸83に固定されている。
【0050】
第2伝動軸83には、プロペラ・シャフト85が連結され、プロペラ・シャフト85は、フロント・デファレンシャル装置87側のドライブ・ピニオン・シャフト89に結合されている。フロント・デファレンシャル装置87は、デフ・キャリヤ91に回転自在に支持されている。フロント・デファレンシャル装置87のリング・ギヤ93は、ドライブ・ピニオン・シャフト89のドライブ・ピニオン・ギヤ95に噛み合っている。
【0051】
フロント・デファレンシャル装置87には、トルク配分調整機構は設けられず、差動歯車機構は、ベベル・ギヤ式が採用されている。
【0052】
第1伝動軸73には、リヤ側のプロペラ・シャフト97が連結され、プロペラ・シャフト97は、終減速部52におけるリヤ・デファレンシャル装置99(デファレンシャル装置)側のドライブ・ピニオン・シャフト101に結合されている。リヤ・デファレンシャル装置99は、トルク配分調整機構であるトルク配分調整クラッチ105,107と共にデフ・キャリヤ109に収容支持されている。
【0053】
リヤ・デファレンシャル装置99は、駆動トルクを対の車輪である左右後輪37,39に分配して伝達可能とするものであり、デフ・ケース111、ピニオン・ギヤ113、フェース・ギヤ115,117、ピニオン・シャフト119からなる差動歯車機構9Abを備えている。
【0054】
デフ・ケース111に取り付けられたリング・ギヤ121は、ドライブ・ピニオン・シャフト101のドライブ・ピニオン・ギヤ123に噛み合っている。
【0055】
トルク配分調整クラッチ105,107は、電磁クラッチで構成され、エンジン11A及び後輪37,39間の駆動経路に配置され電磁石で構成された分配アクチュエータにより動作して差動歯車機構9Abの差動を制限する(機能2)。この差動歯車機構9Abの差動制限によりリヤ・デファレンシャル装置99から後輪37,39への駆動トルクの分配を調整する。
【0056】
トルク配分調整クラッチ105,107のアウター・プレートは、デフ・ケース111に結合され、同インナー・プレートは、左右中間軸125,127に結合されている。
【0057】
リヤ・デファレンシャル装置87には、中間軸125,127を含めた左右の車軸129,131を介して左右の後輪37,39が連動連結されている。
【0058】
従って、エンジン11Aから出力された駆動トルクは、トランスミッション13Aからトランスファ51のセンター・デファレンシャル装置55へ伝達される。センター・デファレンシャル装置55からは、第1伝動軸73を介して後輪側のプロペラ・シャフト97へトルク伝達が行われると共に、中空伝動軸75、スプロケット75、チェーン81、スプロケット79、第2伝動軸83を介して前輪側のプロペラ・シャフト85へもトルク伝達が行われる。
【0059】
後輪側のプロペラ・シャフト97からは、ドライブ・ピニオン・シャフト101、ドライブ・ピニオン・ギヤ123、リング・ギヤ121を介してリヤ・デファレンシャル装置99へトルク伝達が行われ、リヤ・デファレンシャル装置99から左右中間軸125,127を含めた左右車軸129,131を介して左右の後輪37,39へトルクが伝達される。
【0060】
コントローラ7は、各種センサ49からの入力信号によりトルク配分調整クラッチ57,105,107の分配アクチュエータ(電磁石)を走行状態に応じて制御し、差動歯車機構9Aa,9Abの差動を調整する。
【0061】
例えば、前輪17,19の何れか又は双方がスリップすると、センター・デファレンシャル装置55へ入力された駆動トルクは、差動歯車機構9Aaの差動回転により前輪17,19の何れか又は双方を空転させるように伝達される。このときトルク配分調整クラッチ57を作動させて差動歯車機構9Aaの差動回転を調整するとセンター・デファレンシャル装置55から前輪17,19の何れか又は双方側へ主に伝達された駆動トルクが差動歯車機構9Aaを介して後輪37,39側へ伝達される。後輪37,39がスリップするときもトルク配分調整クラッチ57が同様に作動され、差動歯車機構9Aaの差動回転が調整される。
【0062】
こうして、前後輪17,19,37,39間において車輪と路面との限界駆動力が大きい方の実駆動トルクを増大させることができ、悪路などでの走破性を向上することができる。また、トルク配分調整クラッチ57によりハンドリング特性、ヨーモーメントなどの調整も可能である。
【0063】
また、例えば左の後輪37がスリップすると、リヤ・デファレンシャル装置99へ入力された駆動トルクは、左の後輪37を空転させるように伝達される。このときトルク配分調整クラッチ105を作動させて差動歯車機構9Abの差動回転を調整するとリヤ・デファレンシャル装置99から後輪37へ主に伝達された駆動トルクが差動歯車機構9Abを介して右の後輪39側へ受け渡される。右の後輪39がスリップするときもトルク配分調整クラッチ107が同様に作動し、差動歯車機構9Abの差動回転が調整される。
【0064】
こうして、左右後輪37,39間において車輪と路面との限界駆動力が大きい方の実駆動トルクを増大させることができ、悪路などでの走破性を向上することができる。また、トルク配分調整クラッチ105,107によりハンドリング特性、ヨーモーメントなどの調整も可能である。
【0065】
このようなトルク配分調整クラッチ57,105,107のコントローラ7による制御において、センター・デファレンシャル装置55、リヤ・デファレンシャル装置99をフェース・ギヤ式としているため、実施例1と同様な作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0066】
図4は、本発明の実施例3に係る駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図1,図3と対応する構成部分には同符号又は同符号にBを付し、或いは符号のAをBに代えて説明する。
【0067】
本発明の実施例3に係る駆動トルク伝達システム1Baは、トランスファ51Bに適用され、駆動トルク伝達システム1Bbは、終減速部52Bに適用されている。
【0068】
駆動トルク伝達システム1Baは、実施例1の駆動トルク伝達システム1と同機能(機能1)である。この場合、後輪37,39側のブレーキ機構45B,47Bは、前輪17,19側のブレーキ機構41,43と同構造であり、コントローラ7によりトルク配分調整機構5Bの分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、前後輪17,19,37,39の一方を制動して駆動トルクの分配を前後輪17,19,37,39間で調整することができる(機能1)。
【0069】
駆動トルク伝達システム1Bbは、増速ギヤ機構129,131及びトルク配分調整クラッチ105B,107Bを備える構成とし、左右後輪37,39間で駆動トルクの受け渡しを行う(機能3)。
【0070】
増速ギヤ機構129,131は、デフ・ケース111と左右中間軸125,127との間に介設した。トルク配分調整クラッチ105B,107Bは、増速ギヤ機構129,131の遊星キャリヤ133,135とデフ・キャリヤ109との間に介設した。
【0071】
トルク配分調整クラッチ105Bを作動させて遊星キャリヤ133にブレーキ力を作用させると増速ギヤ機構129を介してデフ・ケース111から中間軸125へ直接的に増速して回転を伝達することができる。トルク配分調整クラッチ107Bは、作動させないため、中間軸125が増速する分、中間軸127の駆動トルクが減少する。
【0072】
トルク配分調整クラッチ107Bを作動させ遊星キャリヤ135にブレーキ力を作用させた場合も同様に機能し、デフ・ケース111から中間軸127へ直接的に増速して回転を伝達することができ、トルク配分調整クラッチ105Bは、作動させないため、中間軸127が増速する分、中間軸125の駆動トルクが減少する。
【0073】
こうして本実施例においても、フェース・ギヤを用いたセンター・デファレンシャル装置55B、リヤ・デファレンシャル装置99Bにより上記とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【実施例4】
【0074】
図5は、本発明の実施例4に係る駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図1と対応する構成部分には同符号又は同符号にCを付して説明する。
【0075】
本発明の実施例4に係る駆動トルク伝達システム1Caは、トランスファ51Cに適用され、駆動トルク伝達システム1Cbは、終減速部52Cに適用されている。
【0076】
トランスファ51Cは、デフ・ケース21に結合された中空伝動軸137に傘歯車139が取り付けられ、この傘歯車139に噛み合う傘歯車141が、後輪37,39側への出力軸143に取り付けられたものである。このトランスファ51Cによりデフ・ケース21から後輪37,39側への駆動トルクの伝達を可能としている。
【0077】
駆動トルク伝達システム1Caは、実施例2の駆動トルク伝達システム1Aaの機能2と同機能である。駆動トルク伝達システム1Caは、トルク配分調整機構であるトルク配分調整クラッチ57Cが電動モータ145を備えた分配アクチュエータ147により動作して差動歯車機構9Caの差動を制限する(機能2)。
【0078】
分配アクチュエータ147は、減速ギヤ機構149及びカム機構151を備え、電動モータ145により減速機構149を介しカム機構151が動作する。このカム機構151の動作でトルク配分調整クラッチ57Cが締結調整される。
【0079】
駆動トルク伝達システム1Cbは、主駆動輪である前輪17,19側を駆動トルク主伝達系とし、後輪37,39側を駆動トルク副伝達系として、主伝達系から副伝達系へ駆動トルクを伝達する(機能4)。
【0080】
トルク配分調整機構であるトルク配分調整クラッチ153は、リヤ・デファレンシャル装置99Cの入力側において、回転軸155及びドライブ・ピニオン・シャフト101間に介設されている。
【0081】
コントローラ7の制御により電磁石等の分配アクチュエータを動作させ、トルク配分調整クラッチ153を締結させると、リヤ・デファレンシャル装置99Cへ駆動トルクを伝達することができる。
【0082】
こうして本実施例においても、フェース・ギヤを用いたフロント・デファレンシャル装置3C、リヤ・デファレンシャル装置99Cにより上記とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【実施例5】
【0083】
図6は、本発明の実施例5に係る駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図1、図5と対応する構成部分には同符号又は同符号にDを付し、或いは符号のCをDに代えて説明する。
【0084】
本発明の実施例5に係る駆動トルク伝達システム1Daは、トランスファ51に適用され、駆動トルク伝達システム1Dbは、終減速部52Dに適用されている。
【0085】
駆動トルク伝達システム1Daは、実施例1の駆動トルク伝達システム1と同機能(機能1)であり、コントローラ7によりトルク配分調整機構5Da(ブレーキ機構41,43)の分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、前輪17,19の一方を制動して駆動トルクの分配を前輪17,19間で調整することができる。
【0086】
駆動トルク伝達システム1Dbは、実施例1の駆動トルク伝達システム1及び実施例4の駆動トルク伝達システム1Cbの機能(機能1及び機能4)を併せ持つ。
【0087】
この場合、後輪37,39側のブレーキ機構45D,47Dは、前輪17,19側のブレーキ機構41,43と同構造であり、コントローラ7によりトルク配分調整機構5Db(ブレーキ機構45D,47D)の分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、後輪37,39の一方を制動して駆動トルクの分配を後輪37,39間で調整することができる。
【0088】
こうして本実施例においても、フェース・ギヤを用いたフロント・デファレンシャル装置3、リヤ・デファレンシャル装置99Dにより上記とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【実施例6】
【0089】
図7は、本発明の実施例6に係る駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図1、図4と対応する構成部分には同符号又は同符号にEを付し、或いは符号のBをEに代えて説明する。
【0090】
本発明の実施例6に係る駆動トルク伝達システム1Eaは、フロント・デファレンシャル装置3Eに適用され、駆動トルク伝達システム1Ebは、終減速部52Eに適用されている。
【0091】
駆動トルク伝達システム1Eaは、実施例1の駆動トルク伝達システム1と同機能(機能1)であり、コントローラ7によりトルク配分調整機構5Ea(ブレーキ機構41,43)の分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、前輪17,19の一方を制動して駆動トルクの分配を前輪17,19間で調整することができる。
【0092】
本実施例では、後輪37,39側が駆動トルク主伝達系であり、前輪17,19側が駆動トルク副伝達系である。この駆動トルク副伝達系のフロント・デファレンシャル装置3Eの差動歯車機構9Ea及びエンジン11間の駆動経路に配置された駆動トルク断続機構157が備えられている。駆動トルク断続機構157は、断続アクチュエータ159により動作して駆動経路を断続可能とし、フロント・デファレンシャル装置3Eをフリーランニング・デフとして機能させる(機能5)。
【0093】
フロント・デファレンシャル装置3Eは、デフ・ケース21Eがアウター・ケース21Ea及びインナー・ケース21Ebからなっている。アウター・ケース21Eaには、リング・ギヤ15Eが取り付けられ、アウター・ケース21Eaに可動支持された可動部161及びインナー・ケース21Eb間に、噛合部163が設けられている。可動部161が、断続アクチュエータ159により駆動され、アウター・ケース21Ea及びインナー・ケース21Eb間の断続が行われる。
【0094】
トランスファ51Eには、2−4切換アクチュエータ165により動作する2−4切換機構167が設けられている。2−4切換機構167は、出力軸71Eとスプロケット77との結合を断続する。
【0095】
断続アクチュエータ159及び2−4切換アクチュエータ165による断続動作及び2−4切換動作は、運転席のスイッチやシフトノブ操作によりドライバーの意思により行われる。
【0096】
駆動トルク伝達システム1Ebは、実施例1の駆動トルク伝達システム1の機能(機能1)と同機能である。
【0097】
この場合、後輪37,39側のブレーキ機構45E,47Eは、前輪17,19側のブレーキ機構41,43と同構造であり、コントローラ7によりトルク配分調整機構5Eb(ブレーキ機構45E,47E)の分配アクチュエータ(油圧ポンプ及び電磁バルブ)を制御し、後輪37,39の一方を制動して駆動トルクの分配を後輪37,39間で調整することができる。
【0098】
こうして本実施例においても、フェース・ギヤを用いたフロント・デファレンシャル装置3E、リヤ・デファレンシャル装置99Eにより上記とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【実施例7】
【0099】
図8は、本発明の実施例7に係る駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。尚、図7と対応する構成部分には同符号又は同符号にFを付し、或いは符号のEをFに代えて説明する。
【0100】
本発明の実施例7では、実施例6の駆動トルク断続機構157に代えて、アクスル・ディスコネクト・タイプの駆動トルク断続機構169とした(機能6)。従って、車軸35の中間軸171に噛合断続部173が設けられ、噛合断続部173が断続アクチュエータ175により断続する。断続アクチュエータ175の動作は、運転席のスイッチやシフトノブ操作によりドライバーの意思により行われる。
【0101】
こうして本実施例においても、フェース・ギヤを用いたフロント・デファレンシャル装置3F、リヤ・デファレンシャル装置99Fにより上記とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブ(FF)二輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例1)。
【図2】フロント・デファレンシャル装置の断面図である(実施例1)。
【図3】駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例2)。
【図4】駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例3)。
【図5】駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブ(FF)二輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例4)。
【図6】駆動トルク伝達システムを備えた横置きフロントエンジン・フロントドライブ(FF)二輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例5)。
【図7】駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例6)。
【図8】駆動トルク伝達システムを備えた縦置きフロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例7)。
【符号の説明】
【0103】
1,1Aa,1Ab,1Ba,1Bb,1Ca,1Cb,1Da,1Db,
1Ea,1Eb,1Fa,1Fb 駆動トルク伝達システム
3,3E,3F フロント・ファレンシャル装置(デファレンシャル装置)
5,5B,5Da,5Db,5Ea,5Eb,5Fa,5Fb トルク配分調整機構
7 コントローラ(制御部)
9,9Aa,9Ab,9Ba,9Bb,9Cb,9Db,9Ea,9Eb,9Fa,9Fb 差動歯車機構
11,11A,11B,11E,11F エンジン(駆動源)
17,19 前輪(車輪)
21,59,111 デフ・ケース
23,61,63,113 ピニオン・ギヤ
25,27,65,67,115,117 フェース・ギヤ
37,39 後輪(車輪)
41,43,45,45B,45D,45E,45F,47,47B,47D,47E,47F ブレーキ機構
55 センター・デファレンシャル装置(デファレンシャル装置)
57,57C,153 トルク配分調整クラッチ(トルク配分調整機構)
99,99B,99C,99D,99E,99F リヤ・デファレンシャル装置(デファレンシャル装置)
105,105B,107,107B トルク配分調整クラッチ(トルク配分調整機構)
147 分配アクチュエータ
157,169 駆動トルク断続機構
159,175 断続アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動歯車機構を備え駆動源からの駆動トルクを対の車輪に分配して伝達可能なデファレンシャル装置と、
前記駆動源及び車輪間の駆動経路に配置され分配アクチュエータにより動作して前記分配を調整するトルク配分調整機構と、
前記分配アクチュエータの作動を制御する制御部と、
を備えた駆動トルク伝達システムであって、
前記差動歯車機構は、前記駆動トルクの入力を受けるデフ・ケースと、このデフ・ケースと共に公転可能に支持され且つ自転可能な円筒状のピニオン・ギヤと、このピニオン・ギヤにそれぞれ噛み合い配置され相対回転可能な一対のフェース・ギヤとからなる、
ことを特徴とする駆動トルク伝達システム。
【請求項2】
請求項1記載の駆動トルク伝達システムであって、
前記トルク配分調整機構は、前記差動歯車機構の差動を調整する、
ことを特徴とする駆動トルク伝達システム。
【請求項3】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記トルク配分調整機構は、前記対の車輪間の駆動トルクの受け渡しを行う、
ことを特徴とする駆動トルク伝達システム。
【請求項4】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記トルク配分調整機構は、前記対の車輪の一方を制動調整する、
ことを特徴とする駆動トルク伝達システム。
【請求項5】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記駆動源及び車輪間の駆動経路に配置され断続アクチュエータにより動作して駆動経路を断続可能な駆動トルク断続機構を備えた、
ことを特徴とする駆動トルク伝達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−185073(P2008−185073A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17008(P2007−17008)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】