説明

3層磁気素子およびその製造方法と、そのような素子を使用する磁界センサ、磁気メモリおよび磁気論理ゲート

本発明の3層磁気素子は、基板上に、水素化物−酸化物または窒化物−酸化物の第1の層Oを含み、その上に金属磁気層Mが設けられ、金属磁気層Mの上に水素化物−酸化物または窒化物−酸化物の第2の層O’、あるいは非強磁性体金属層M’が設けられる。層Mは連続しており、1〜5nmの厚さを有し、その磁化は、層OおよびO’が無い状態で層面に平行である。室温以上のある温度範囲で、層Mの実際の消磁磁界を低減できる、あるいは層Mの磁化を層面に対しほぼ垂直に向けることができる、界面O/MおよびM/O’の層面に垂直な界面磁気等方性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料の分野に関し、特に磁界センサとして使用する目的の、あるいは電子システムにおいてデータを記憶し読み出すために使用される磁気メモリ内で使用する、または再書き込み可能な論理デバイスの分野で使用できる構成要素の作製にも使用する目的の磁性材料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が関連する応用例の1つは、異常ホール効果を測定することに基づいて磁界を検出するために使用される磁気素子に関する。
【0003】
ホール効果には、正常ホール効果および異常ホール効果の2種類がある。正常ホール効果は、金属材料またはドープされた半導体で生じ、磁界の影響を受けた電子に作用するローレンツ力に起因する。異常ホール効果は、強磁性体材料中の限られた範囲で起こる、強磁性体材料の磁気モーメントとのスピン−軌道相互作用による電子の拡散の結果である。
【0004】
ホール効果の特性パラメータの1つは、次式で与えられるホール抵抗である。
ρxy=(Vxy/I)t=RH+4πR (1)
ここで
xyは、薄膜の面内で電流の方向に垂直な方向で測定されたホール電圧、
Iは薄膜の面内に流れる電流の強度、
tは薄膜の厚さ、
は正常ホール係数、
Hは印加磁界の振幅、
は異常ホール係数であり、Mは薄膜の磁化の垂直成分である。
【0005】
式(1)の第1項のRHは正常ホール抵抗に相当し、第2項の4πRは異常ホール抵抗に相当する。比較的弱い磁界では、正常ホール効果は一般に、異常ホール効果よりも大きさが数桁小さく、したがって無視することができる。
【0006】
強磁性体膜の磁化が面に平行である場合、これは薄膜で一般的なことであり、その垂直成分Mは印加される面外磁界と共に、飽和磁化Mに達するまで直線的に増大する。したがって、MがMより小さい限り、異常ホール電圧は印加磁界に比例する。
【0007】
図1は、磁化が面に平行な薄膜磁性材料について、ホール抵抗の変化を印加磁界の関数として示す。H<4πMsでは、抵抗は印加磁界と共に、ρxy=4πRに達するまで直線的に変化する。この点を超えると、抵抗は印加磁界と共に、先に示したはるかに小さい傾斜R(式(1)の第1項)で直線的に変化する。したがって、この原理に基づく磁界センサの有効動作領域は、4πM未満の磁界値に限られる。ここでMは、この磁性材料の飽和磁化である。
【0008】
このようなセンサの磁界感度を決定するのは、テスラ当たりマイクロオームセンチメートル(μΩcm/T)の単位で表される傾斜のρxy(H)傾斜である。この傾斜はまた、薄膜の厚さtを考慮に入れ、かつρxy=t×Rxyの関係に依拠すると、テスラ当たりオーム(Ω/T)の単位で表すこともできる。この傾斜を最大にするには、異常ホール効果の項Rを増大させるか、あるいは垂直飽和磁界が低減するように材料の面磁気異方性を低減させればよい。
【0009】
を最大にするには、高い縦方向抵抗および高いスピン−軌道拡散を有する材料を選択することが有効である。このような高い縦方向抵抗はまた利点にもなる。というのは、小型デバイスで、前記デバイスに流れる電流を、不可逆的な構造変化(エレクトロマイグレーション現象)を引き起こす値に満たない、耐えることができる値に制限しながら、十分な電圧応答性を維持することが可能になるからである。
【0010】
高い縦方向抵抗は、材料(例えば不規則合金)の原子の不規則性を増大させることによって、または膜の厚さを減少させることによって得られる(極めて薄い膜では、電気抵抗が膜の厚さにほぼ反比例して変化することが知られている)。スピン−軌道拡散による寄与は、原子番号が大きい元素、例えば白金、パラジウム、金、またはランタニド系列中の金属を含む材料を選択することによって増大する。
【0011】
しかしながら、満足の行く強磁性体合金の磁気特性を維持するには、このような材料の混合は、その材料の濃度に関して必ず制限されなければならないことに留意されたい。
【0012】
ρxy(H)曲線の傾斜を増大させる第2の方法は、材料の面磁気異方性を低減させること、すなわち従来の項4πMに反対符号の追加項を導入することである。Hで示されるこの項の起源は、弾性成長歪み、または界面電子相互作用による界面異方性によって誘導される磁性結晶起源(magnetocrystalline origin)の体積異方性(volume anisotropy)とすることができる。例えば、コバルト、ニッケルまたは鉄の磁気層と接触する白金の層の作用は、典型的な事例である。
【0013】
この追加項がある場合、垂直異方性磁界Hは次式で表すことができる。
=4πM−H (2)
【0014】
したがって定性的には、垂直異方性磁界Hは、Hが増大するにつれて均一性を減少させることになり、Hが4πMを超えたときに、磁気層の磁化がそれを上回ると自発的に(すなわち、全く印加磁界なしで)層面に垂直になる限度であるゼロに接近するまで、磁気層の磁化は常にその面に平行である。この後者の場合、磁性材料は、ゼロ磁界内で2つの安定状態を有し、したがって、磁気メモリまたは磁気論理ゲートなどのデバイスに組み込むことができる。
【0015】
図2は、こうした状態で得られた、Pt1.8nm/Co0.6nm/Pt1.8nmの構成を有する典型的な試料についての磁化曲線の概略図である。この曲線は、従来の磁気計による測定、ホール効果の測定、カー効果またはファラデー磁気光学効果の測定のいずれかによって得ることができる。
【0016】
矢印は、x軸上に示された励磁磁界Hが印加されたときの磁気周期の進行方向を示す。一方向矢印は不可逆周期変化を表し、二方向矢印は可逆周期変化を表す。磁化レベルは、y軸上に任意の単位で示される。
【0017】
印加磁界を例えば正の値からゼロの値まで徐々に低減させることによって、磁気層の磁化は、その面に対して垂直の、前の印加磁界の方向に向いたままになる。次に、その面に対しやはり垂直の方向であるが反対方向に、すなわち新しい印加磁界の方向に層の磁化を再配向するには、ある程度大きな振幅を有する反対方向の磁界を印加する必要がある。
【0018】
この変化を得るために必要な磁界、より正確には、全磁区にわたって平均した磁化がゼロになるように印加しなければならない磁界は抗磁界と呼ばれ、図2にHcで示されている。この抗磁界の値により、外部磁気擾乱にさらされた場合に、磁化安定性がどちらかの方向で決定することになる。
【0019】
そのような擾乱にさらされた場合、この抗磁界が強いほど材料はより安定である。しかし、これによりまた、例えば材料が、磁化方向によって情報が実際に符号化される磁気メモリとして使用される場合などでは、垂直磁界を印加することによって磁化方向を故意に変更することがより困難にもなる。
【0020】
したがって、外部磁界擾乱に対してデバイスを磁気的に「遮蔽する」必要が場合によって伴うが、磁化を変更するのに必要なエネルギーが少なくなる弱い抗磁界が好ましいことがあり、あるいは強い抗磁界が、デバイスをより安定にするので好ましいこともある(ただし、デバイスに情報を書き込むときにより多くのエネルギーを消費する)。
【0021】
磁気層の磁化の向きおよび振幅を決定する別の方法を使用できること、例えば、入射光と磁気層の磁気モーメントの間の相互作用により入射光の偏光面が回転して軸比が変更される磁気光学効果を使用できることについてもまた、言及しなければならない。
【0022】
この磁気層の磁化の向きを決定するために、第2の磁気層を追加することもできる。この第2の磁気層は、非磁性金属の層によって、またはこの既知の第2の層の磁化方向を有する酸化層によって、第1の層から分離されている。この積層の電気抵抗は、両方の磁化が平行である場合には、磁化が逆平行であるときと比較して小さくなるので(よく知られている巨大磁気抵抗現象またはトンネル磁気抵抗現象)、このような3層構造の電気抵抗を測定することによって、第1の磁気層の磁化方向を決定することができる。電流は層の面に流れることができ、あるいは、1μm以下程度の横寸法を有する柱の形に試料が切断されている場合には、層面に垂直の方向に流れることができる。
【0023】
この磁気層の磁化の向きを決定するために、この層に近接して、この層の磁区から放射される磁界の影響が及ぶ磁気抵抗読出しヘッドを配置することもできる。
【0024】
本文献は、以上で説明した特性の一部を有することができるいくつかの材料の例を含む。
【0025】
諸例には、高い垂直磁気異方性を有するよく知られたコバルト/白金多層系が含まれる。白金およびコバルトの単層の厚さ、(Co/Pt)パターン繰返し数、および白金バッファ層の存在に応じて、自発的に(ゼロ磁界で)層面に垂直になる磁化、または層面内であるが極めて高い垂直磁気感受性(曲線の傾斜M=f(H))を有する磁化のいずれかを有する系を得ることができる。残念ながら、これらの材料は、その金属成分の抵抗が低いことにより縦方向抵抗が低い。
【0026】
本発明のものに類似の構造もまた検討されている(B. Rodmacq、S. Auffret、B. Dieny、S. Monso、P. Boyer、「Crossovers from in−plane to perpendicular anisotropy in magnetic tunnel junctions as a function of the barrier degree of oxidation」、Journal of Applied Physics、2003年、Vol. 93、7513頁参照)。これらは、基板上に白金、コバルトおよびアルミナから成る連続層を積層すること、または本発明で提案する積層の1つを逆に積層することに本質がある。
【0027】
これらの構造におけるホール効果の振幅は、その構造内に流れる電流のうちの無視できない部分が流れを変えて入る比較的厚い白金層が存在することが主な理由で、比較的小さい。
【0028】
本発明のものに類似の積層された層は、上記の文献ですでに提案されているが、磁界センサ、磁気メモリ、または磁気論理構成要素の類のデバイスでの応用を目的としていない。
【0029】
まず、アルミニウム層(Al)と交互になっているコバルト層で構成されている多層についての研究を引用することができる(Ch. Morawe、H. Zabel、「Structure and thermal stability of sputtered metal/oxide multilayers: the case of Co/Al」、Journal of Applied Physics、1995年、Vol. 77、1969頁参照)。この出版物の著者は、本発明の主題であるこれらの材料の垂直磁気異方性特性については何も言及していない。
【0030】
加えて、本発明と対照的に、著者は、これらの材料を磁界センサ、磁気メモリ、または磁気論理構成要素の領域で、特に異常ホール効果を測定することに基づいて使用することを意図していない。実際のところ、著者はこれらの材料を使用することを、X線鏡に関連するその構造的特性だけを理由として提案している。この研究は、本発明で言及する適用領域外にある。
【0031】
また、二酸化シリコンSiOまたはアルミナAlの層と交互になっているコバルトまたはコバルト−鉄合金の層を含む「不連続」多層についての研究を引用することもできる(B. Dieny、S. Sankar、M. R. McCartney、D. J. Smith、P. Bayle−Guillemaud、A. E. Berkowitz、「Spin−dependent tunnelling in discontinuous metal/insulator multilayers」、Journal of Magnetism and Magnetic Materials、1998年、Vol.185、283頁参照)。著者は「不連続」という語を、コバルトまたはコバルト−鉄合金の層が、実質上均一の厚さの薄膜の形ではなく、むしろ酸化物マトリクスを被覆したコバルトまたはコバルト−鉄の集合体の形であることを指すために用いている。
【0032】
これらの系は、カソードスパッタリングで磁性金属の層と酸化物層を交互に堆積させることによって調製される。コバルトまたはコバルト−鉄の原子は、不連続な小塊の形に合体する傾向があり、その結果、分離マトリクス中に埋め込まれた堆積金属の厚さに応じて、ある程度独立した集合体から成る平面構造が得られる。
【0033】
これらの構造には、このコバルトまたはコバルト−鉄の薄い層から成る「メモリ」だけが保持され、この状況は、本発明で考えられているものと全く異なる。不連続な金属/絶縁体の多層に関するこれらの研究論文では、これらの材料の垂直磁気異方性特性について何も言及されていない。最後に、著者は、これらの材料を磁界センサ、磁気メモリ、または磁気論理構成要素の領域で、特に異常ホール効果を測定することに基づいて使用することを意図していない。したがって、この研究は、本発明で言及する適用領域外にある。
【0034】
また、コバルト−鉄合金を堆積させ、その後にこの合金表面が酸素の存在下で自然酸化することによって製造される多層を扱った研究を引用することもできる(G. S. D. Beach、A. E. Berkowitz、「Co−Fe metal/native−oxide multilayers: a new direction in soft magnetic thin film design I. Quasi−static properties and dynamic response」、IEEE Transactions on Magnetics、2005年、Vol. 41、2043頁、およびG. S. D. Beach、A. E. Berkowitz、「Co−Fe metal/native−oxide multilayers: a new direction in soft magnetic thin film design II. Microscopic characteristics and interactions」、IEEE Transactions on Magnetics、2005年、Vol. 41、2053頁参照)。
【0035】
これらの多層は、高い電気抵抗、強い磁気モーメント、および相当な磁気「柔軟性」(磁化が層面に平行な方向で飽和しうることの容易さ)を有する。著者は、異常ホール効果の振幅に関する特別な特性について何も言及していない。
【0036】
著者は、特定の垂直異方性が薄い磁性金属で生じる傾向を示すように見える結果を提示しているが、その結果のより詳細な調査では、観察された垂直異方性磁界Hの振幅の減少は、垂直異方性の項Hによるいかなる寄与にも起因するのではなく、項4πM(式(2)参照)の減少に本質的に起因することが示されている。
【0037】
同様に、著者は、1.1nm未満の磁性金属の厚さでは磁化が自発的に層面に垂直になることを予測しているが、同時に1.0nmの厚さ、すなわちこの限界未満であるにもかかわらず、この場合に磁化が層面に対して垂直ではなく平行であることを明白に示す結果も提示している。
【0038】
最後に、NiO酸化物層によって分離された2つの多層(Pt/Co)と(Co/Pt)を含む積層を扱った研究を引用することができる(C. ChristidesおよびTh. Speliotis、「Polarity of anomalous Hall effect hysteresis loops in (Pt/Co)15/AF/(Co/Pt)15 (AF= FeMn, NiO) multilayers with perpendicular anisotropy」、Journal of Applied Physics、2005年、Vol. 97、013901頁参照)。
【0039】
この文献では、NiO層の両側の2つの多層は、NiO酸化物層が無い場合に層面に垂直な磁化を有するようである。これは、013901−3頁の図2(NiO層あり)と図3(NiO層なし)を比較すると明らかであり、これらの図は、両方の場合で磁気層の磁化が層面に対して直角に向いていることを示している。したがって、本発明と対照的に、この層にその垂直磁気異方性特性を与えるのは、分離NiO層が存在することではない。
【0040】
以上の考察は、現在知られている磁性材料では、磁界センサまたは磁気メモリとして使用するために必要なすべての特性、すなわち高い縦方向抵抗(少なくとも数百μΩcm)、高いホール抵抗(縦方向抵抗の数パーセント)、および高い垂直磁気感受性(面磁化を有する従来の磁性材料よりも少なくとも10倍高い、すなわち面外飽和磁界が数十ミリテスラ程度)を兼ね備え、あるいは磁気メモリまたは磁気論理ゲートの類の用途ではゼロ磁界中での垂直磁化さえも兼ね備えるものがないことを示す。
【0041】
さらに、磁気メモリまたは磁気論理ゲートの類の用途に関し、(Pt/Co)型またはランタニド系列/遷移金属合金の既知の材料は、この類の用途で必要な特性(高い電子スピン分極(信号を検出するのに磁気抵抗が使用される場合)、アニーリング時の良好な熱安定性、少ない腐食)のすべては有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】米国特許第6920062号明細書
【非特許文献】
【0043】
【非特許文献1】B. Rodmacq、S. Auffret、B. Dieny、S. Monso、P. Boyer、「Crossovers from in−plane to perpendicular anisotropy in magnetic tunnel junctions as a function of the barrier degree of oxidation」、Journal of Applied Physics、2003年、Vol. 93、7513頁
【非特許文献2】Ch. Morawe、H. Zabel、「Structure and thermal stability of sputtered metal/oxide multilayers: the case of Co/Al203」、Journal of Applied Physics、1995年、Vol. 77、1969頁
【非特許文献3】B. Dieny、S. Sankar、M. R. McCartney、D. J. Smith、P. Bayle−Guillemaud、A. E. Berkowitz、「Spin−dependent tunnelling in discontinuous metal/insulator multilayers」、Journal of Magnetism and Magnetic Materials、1998年、Vol.185、283頁
【非特許文献4】G. S. D. Beach、A. E. Berkowitz、「Co−Fe metal/native−oxide multilayers: a new direction in soft magnetic thin film design I. Quasi−static properties and dynamic response」、IEEE Transactions on Magnetics、2005年、Vol. 41、2043頁
【非特許文献5】G. S. D. Beach、A. E. Berkowitz、「Co−Fe metal/native−oxide multilayers: a new direction in soft magnetic thin film design II. Microscopic characteristics and interactions」、IEEE Transactions on Magnetics、2005年、Vol. 41、2053頁
【非特許文献6】C. ChristidesおよびTh. Speliotis、「Polarity of anomalous Hall effect hysteresis loops in (Pt/Co)15/AF/(Co/Pt)15 (AF= FeMn, NiO) multilayers with perpendicular anisotropy」、Journal of Applied Physics、2005年、Vol. 97、013901頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明は、非磁性体/磁性体/非磁性体の3層磁気素子を作製する手段を提案する。この素子の磁気層の磁化は、2つの非磁性層が無い状態では層面に平行であり、その消磁磁界に近いまたはそれを超える値の面外異方性磁界を有し、その結果、磁気素子は、異常ホール効果を測定することによって、あるいは磁気抵抗、カー効果またはファラデー磁気光学効果を測定することによって検出できる磁界に対し非常に感度が高くなり、あるいは印加磁界が無い状態で自発的に層面に対し垂直になる磁化を有するようになる。
【0045】
使用される材料により、上述の様々な材料の利点を組み合わせることが可能になる。すなわち、高い垂直異方性により、薄膜の固有の形状異方性と、ホール効果が測定される特定の場合では、高い縦方向抵抗および高い異常ホール係数とを補償し、それを超えることさえ可能になる。
【0046】
すなわち、本発明は3層磁気素子に関し、この素子は、基板上に、酸化物、水素化物または窒化物の層Oを含み、その上に金属磁気層Mが設けられ、金属磁気層Mの上に酸化物、水素化物または窒化物の第2の層O’、あるいは非強磁性体金属層M’が設けられ、それによって、層Mが連続している全体的にはO/M/OまたはO/M/M’型の構造が作製される。
【0047】
上述の高い垂直磁気異方性は、コバルト/白金の多層の場合のように、磁気層と酸化物、水素化物または窒化物の層との間の界面における歪みおよび界面電子複合化効果(interfacial electronic hybridization effect)によって得られる。したがって、(Co/Pt)系の場合のように、磁気層は、これらの界面効果が、層の面内に磁化を保持する傾向がある体積形状異方性(volume shape anisotropy)と比較してごくわずかになることがないように、薄くなければならない(数nm)。
【0048】
高い縦方向抵抗は、したがって、1つまたは複数の酸化物、窒化物または水素化物の層と接触して起こる界面拡散の果たす重要な役割により高抵抗になる磁気薄膜を使用することによって得られる。したがって、積層全体の電気抵抗が高くなる。
【0049】
本発明によれば、磁気金属層Mは、1〜5nmの厚さを有し、磁性材料、磁性合金、または交互になっている一連の非磁性材料と磁性材料で形成された多層から成り、磁性材料はFe、Ni、Coまたはこれらの合金を含む群から選択される。
【0050】
さらに、酸化物、水素化物または窒化物の層OおよびO’は、少なくとも0.3nmの厚さを有し、Al、Mg、Ru、Ta、Cr、Zr、Hf、Ti、V、Si、Cu、W、Co、Ni、Fe、またはこれらの合金と、より一般的には、安定した酸化物、水素化物または窒化物を形成できる任意の材料または合金とを含む群から選択された元素をベースとする。
【0051】
有利には、上述の積層を受ける基板は、2〜500nmの深度まで熱的にまたは自然に酸化又は窒化されたシリコンで被覆されたシリコンでできている。
【0052】
しかし、前記基板はまた、例えばガラスまたは酸化マグネシウムなどの透明材料で作製することもできる。
【0053】
本発明の別の有利な態様によれば、磁性金属層Mは、この層の垂直磁気異方性特性を改変するために使用される追加の非磁性金属PdまたはPtを含有する、あるいは、この層の電気抵抗および/またはその単位体積当たりの磁化を改変するために使用されるSi、C、B、P、Nを含む群から選択された元素を含有する。
【0054】
本発明によれば、層OおよびO’は、同一の非磁性材料でできている。しかし、層Oのうちの1つの層の化学組成は、他の層と異なることがある。さらに、層OとO’は、両方が同じ厚さを有することも有さないこともある。
【0055】
本発明によれば、層OまたはO’の少なくとも一方自体を、酸化物、水素化物または窒化物でできた複数の層で構成することができる。
【0056】
有利には、
磁性金属層Mは1〜5nmの厚さを有し、
層OまたはO’は0.3〜5nmの厚さを有し、
非強磁性体層M’は0.3〜20nmの厚さを有する。
【0057】
本発明による磁気素子は、有利には1μm未満の横寸法を有する。
【0058】
本発明はまた、上記磁気素子を作製する方法にも関する。この方法は、
電気絶縁面上に層Oを成す第1の金属層をカソードスパッタリングによって堆積させる段階と、
この第1の層Oを酸化、水素化または窒化する段階と、
この第1の層O上、または直接基板上に磁性金属層Mをカソードスパッタリングによって堆積させる段階と、
この磁性金属層M上に、層O’を成してその後に酸化、窒化または水素化される第2の金属層、あるいは金属層M’をカソードスパッタリングによって堆積させる段階と、
電流を注入し電圧を測定することによって磁気素子の特性を測定する必要がある場合には、層Mとの電気的接点を確立する段階とを含む。
【0059】
別法として、第1および第2の段階は、例えば酸化物、水素化物または窒化物の層を、対応する酸化物、水素化物または窒化物を含むターゲットを使用した高周波スパッタリングによって、単一の段階、すなわち直接堆積だけで構成することもできる。
【0060】
本発明による方法を使用する場合、素子は、横寸法が数百nm以下である正方形、長方形、円形、または楕円形の基部を有する柱の形に切断される。これはまた、同一の寸法範囲を引き続き保持しながら、異常ホール効果を測定することによって磁気信号を検出することが可能になる形状に切断されることもある。
【0061】
本発明の一変形形態によれば、層OまたはO’は、金属層の自然酸化、水素化または窒化によって得られる。
【0062】
本発明の一変形によれば、層OまたはO’は、金属層のプラズマ酸化、水素化または窒化によって得られる。
【0063】
本発明のさらに別の変形形態によれば、層OまたはO’は、堆積チャンバ内部の雰囲気中の酸素、水素または窒素の中で、金属層の反応性スパッタリングによって得られる。
【0064】
本発明のさらに別の変形形態によれば、層OまたはO’は、複合金属酸化物、水素化物または窒化物のターゲット材料を使用する高周波カソードスパッタリングで酸化物、水素化物または窒化物を直接堆積させることによって得られる。
【0065】
本発明のさらに別の変形形態によれば、基板自体が酸化物、窒化物または水素化物を含み、またはそれで被覆され、層Oとして機能する。
【0066】
本発明によれば、特定の層は、周囲温度と異なる温度で堆積される。例えば、酸化物、水素化物または窒化物の層の構造的特性は、それまたはそれらを高温(例えば200℃)で成長させた場合に改善されうる。また、層の堆積後に、前記堆積温度よりも高い温度の熱処理を続けることもある。これは例えば、層の酸化または窒化を促進するため、または非晶質層の結晶化を可能にするためである。
【0067】
さらに、堆積段階を完了すると、こうして得られたアセンブリに、磁気素子の構造および/または電気輸送特性および/または磁気特性を改変するために、希薄な雰囲気中で、あるいは特定のガスまたは、例えば酸素、水素もしくは窒素など異なるガスの混合物の存在下で、熱処理を長時間または短時間施すことができる。
【0068】
積層を構成する様々な層を堆積させる、あるいはこれらの層の一部または全部を熱処理する諸段階は、積層全体の磁気特性を改変できる外部磁界の存在下で実施することができる。
【0069】
本発明は、本発明による3層磁気素子で構成されている磁界センサに関し、この素子は、その消磁磁界をほとんど相殺する垂直異方性磁界を有する。
【0070】
本発明はまた、外部磁界が無い状態で磁気層の磁化が層面に垂直になる、上記3層磁気素子で構成されている磁気メモリに関する。
【0071】
本発明はまた、外部磁界が無い状態で磁気層の磁化が層面に垂直になる、前記3層磁気素子で構成されている磁気論理ゲートに関する。
【0072】
本発明はまた、一般的に言って、例えば米国特許第6920062号で提案されているシフトレジスタなどの磁壁移動デバイスに使用することもできる。これらのデバイスでは、情報は一連の磁区の形で記憶され、その磁化は「上」または「下」に向いている。すべての磁区が1つの情報ビットを表す。これらの磁区は磁壁で分離されている。磁壁と、それゆえに磁区とは、電流を注入することによってこれらの構造物内で有利に移動させることができ、この電流の流れは、スピン注入(spin−transfer)効果により磁壁に力を作用させる。デバイスの近くまたは上の所与の位置に配置された磁気抵抗センサまたはホール効果センサが、磁壁および磁区の移動を検出し、それによって、デバイス内に書き込まれた磁気情報と元通り関係付けられることが可能になる。
【0073】
磁気素子の磁気層の磁化の向きを決定するには、
層面に対し平行な方向に電流を注入することによって異常ホール効果を測定する、
または、層面に垂直または平行な方向に電流を注入することによって磁気抵抗を測定する、
または、カー効果もしくはファラデー磁気光学効果を測定する、
または、磁気素子に近接して置かれた磁気抵抗読出しヘッドに影響が及ぶ、磁区から放射される磁界を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】従来技術による磁気素子の特徴的な磁化曲線の概略図である。
【図2】垂直磁気異方性を有する材料での、磁界の関数としての典型的な磁化の変化の概略図である。
【図3】本発明による磁気素子の第1の実施形態の概略図である。
【図4】SiO/Co 0.6nm/Pt 3.0nmタイプの構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として示す図である。
【図5】SiO/Co 1.5nm/Pt 3.0nmタイプの構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として示す図である。
【図6】本発明による磁気素子の第2の実施形態の概略図である。
【図7】SiO/AlOx 2.0nm/Co 1.5nm/Pt 3.0nmタイプの構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として示す図である。アルミニウム層を酸化させるのに酸素プラズマを使用した。
【図8】本発明による磁気素子の第3の実施形態の概略図である。
【図9】本発明による磁気素子の第4の実施形態の概略図である。
【図10】本発明による磁気素子の第5の実施形態の概略図である。
【図11】本発明による磁気素子の第6の実施形態の概略図である。
【図12】SiO/Co 1.5nm/Pt 3.0nmタイプの構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として様々なアニーリング温度で示す図である。
【図13】SiO/AlOx 0.6nm/Co 1.5nm/Pt 3.0nmタイプの構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として様々なアニーリング温度で示す図である。自然酸化を用いてアルミニウム層を酸化させた。
【図14】様々なアニーリング温度のSiO/AlOx 2.0nm/Co 1.5nm/Pt 3.0nm型の構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として示す図である。アルミニウム層を酸化させるのに酸素プラズマを使用した。
【図15】様々なアニーリング温度のSiO/MgOx 1.4nm/Co 1.5nm/Pt 3.0nm型の構造について、ホール抵抗の変化を垂直磁界の関数として示す図である。マグネシウム層を酸化させるのに自然酸化を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0075】
諸実施形態で使用される材料および技法を非限定的に、また例示的にのみ以下で説明する。
【0076】
図3は、本発明の第1の実施形態の概略図である。ここではコバルトから成り、概して薄い磁気層Mが基板上に堆積され、この基板は、層Oに取って代わるために必要な特性を有するとともに、例えば酸化シリコンまたは窒化シリコンで覆われ、あるいは、例えばガラスまたは酸化マグネシウムで構成される。この厚さが、層Mに使用される材料によって、ならびにこの磁気層Mに接触する材料との界面相互作用の強度によって決まる特定の値を超える場合、知られているように、面内層の磁化を保持する傾向がある層Mの体積形状異方性により、磁化はもはや層面に対して垂直にならない。
【0077】
この層Mについて、その厚さが選択されるが、とりわけ連続金属層を得る能力によって決定される。実際、前に論じたように、一部の磁性金属は、二酸化シリコンまたはアルミナなどの酸化物上では十分に濡れない。場合によっては、磁性金属は、堆積金属の厚さにより、ある程度不連続な小塊の形に合体する傾向がある。
【0078】
次に、有利には、この磁気層M上に、このように作製された構造全体をその後の自然酸化に対して保護するため、または電流が流れやすくするために、例えば白金である非強磁性体金属M’の層を堆積させることができる。
【0079】
図4は、この実施形態を示す。積層は、酸化シリコン基板上に、3nm厚の白金層上に設けた0.6nm厚のコバルトの磁化層を含む。ホール抵抗の変化は、層面に対し垂直に印加された外部磁界の関数として測定する。
【0080】
この図4は、例えば図1に示された、磁化に比例する第1の寄与(異常寄与)と、より強い印加磁界に対して印加磁界に比例する第2の寄与(正常寄与)との2つのホール抵抗への直線寄与を区別することが容易であった状況とは異なる、磁界が増大するにつれて定形の非直線で増大するホール抵抗を示す。これは、図4に示された場合で、コバルト層の磁化を磁界に平行の方向に完全にそろえることが、高強度磁界でも可能ではないことを意味する。これは、いわゆる「超常磁性」材料の特性であり、これらの材料では、コバルトの小塊が熱擾乱の存在下で磁気的に十分に安定ではない。
【0081】
別の場合では、表面張力効果が弱すぎて小塊への合体が起こらない。その場合、金属層は連続的になりうる。金属の連続層を得ることが可能になる厚さの範囲は、酸化物の表面エネルギー、金属の表面エネルギー、酸化物/金属界面の界面エネルギー、および金属フィラー層による堆積表面の濡れ性によって決まる。したがって、連続金属層を得るための実施可能な厚さの範囲は、金属Mと酸化物の両方によって決まる。
【0082】
さらに別の場合では、磁気層の厚さをわずかに増大させると、上述の小塊が互いに接触するところまで部分表面被覆性を高めることが可能になり、それによって、所望の磁気特性を得ることが可能になる。
【0083】
所与の基材Mに対して、磁気層の厚さを変更することができ、あるいは、この磁性材料に、金属の表面エネルギーを低減させて酸化物/金属界面の界面エネルギーを改善することによって基板上の濡れ性を改善できる元素を加えることで、所望の磁気特性を復活させることができる。一般的な製造方法の1つを用いるとすれば、この材料は、厚さが1〜5nm、一般に1.5nmのコバルトなどの磁性金属である。
【0084】
これは、図5に示された事例であり、この図は、(基板/Co 1.5nm/Pt 3.0nm)型の積層について、ホール抵抗の変化を層面に対し垂直に印加された外部磁界の関数として示すこの場合には、ホール抵抗の変化は、約8kOeの強度を有する外部磁界の方向にコバルト層の磁化をそろえることが可能であるので、図1の変化と一致する。
【0085】
式(2)を念頭におくと、この場合には、無視できない垂直異方性寄与H=4πM−H=18−8=10kOeがあることが明らかである。ただしこの式では、コバルトの層の磁化を1430uem/cmと想定している。
【0086】
特に垂直磁気異方性に関して、デバイスの磁気特性をその目的の用途(磁界センサ、メモリデバイス、または論理ゲート)に適合させ、改善された性能を得るために、コバルト層を可変濃度のCoFe1−x合金で、またはCoNiFe100−x−y三元合金で置き換え、あるいはホウ素、シリコン、リンおよび/または炭素など他の非磁性元素を有する1つまたは複数のこれら磁性材料の結晶化された合金、または非晶質の合金で置き換えることができる。また、磁性材料および非磁性材料を含む合金または多層を使用することもできる。
【0087】
図6は、本発明の第2の実施形態の概略図である。
【0088】
上述の基板上に、好ましくは酸化アルミニウムでできた層Oを堆積させる。層の厚さは0.3〜5nmであるが、後の方の数字はあまり重要ではない。この層は一般に、例えば酸化されているアルミニウムなどの堆積金属から成る。しかし、アルミニウムは、酸素と結合して高品質の酸化物を薄い層に形成できる他の任意の元素、すなわち例を挙げると、マグネシウム、ルテニウム、シリコン、タンタル、クロム、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、コバルト、ニッケル、鉄、銅、タングステン、ならびに、より一般的には、安定した酸化物を形成できる任意の材料または合金で置き換えることができる。また、これらの材料から成る合金または多層は、いくつか特定の実施形態で基本酸化物層として使用することもできる。
【0089】
プラズマ酸化法を使用する代わりに、堆積チャンバ内部の雰囲気中に特定量の酸素が存在する状態で、上記元素の反応性スパッタリングという既知の技法を使用することによって、または自然酸化法を使用することによって、あるいは複合MOxターゲット材料の高周波スパッタリングにより酸化物を直接堆積させることによって、酸化物を生成することも可能である。ここでMは上述の金属の1つを示し、Oxは酸素を示す。
【0090】
酸化ではなく窒化または水素化を行うことによっても、同様の結果が得られる。
【0091】
次に、この酸化物、水素化物または窒化物の第1の層Oの上に、例えばコバルトである磁気層Mを堆積させ、次いで、該当する場合には、図3に関連して説明した本発明の第1の実施形態で示された、例えば白金である最後の非強磁性体金属層M’を堆積させる。
【0092】
この第2の実施形態が図7に示されている。その積層は、酸化シリコン基板上に、堆積後に酸素雰囲気にさらされる0.6nm厚のアルミニウム層、次に、3nm厚の白金層上に設けた1.5nmのコバルト層を含む。ホール抵抗の変化は、層面に対し垂直に印加される外部磁界の関数として測定する。
【0093】
図5の場合のように、ホール抵抗の変化は、約8kOeの強度を有する外部磁界の方向にコバルト層の磁化をそろえることが可能であるので、図1の変化と一致する。したがって、無視できない垂直異方性寄与が存在することも明らかである。
【0094】
図8および図9は、本発明による第3および第4の実施形態の概略図である。
【0095】
この場合には、第1および第2の実施形態で使用されている上部の非強磁性体金属層M’は、酸化物層Oで置き換えられている。これらの実施形態で興味を引き付ける主な点は、層面に平行な方向に注入された電流はどれもすべて磁気層にだけ流れることである。したがって、このことにより例えば、この電流がホール電圧を測定するために使用される場合、あるいはこの電流が、デバイスの磁気状態を操作して、例えば米国特許第6920062号に記載のように磁区壁を移動させるために使用される場合、デバイスの効率が著しく改善する。
【0096】
これら最後の2つの実施形態では、第2の酸化物層の性質、化学的組成、厚さおよび製造方法は、基板または第1の酸化物層のものと必ずしも同じである必要はない。
【0097】
図10に概略的に示された第5の実施形態では、ここではコバルトでできている、対象とする層Mを、IrMn、PtMn、FeMnまたはNiMnの合金などの、前記層Mとの交換異方性結合を誘導することが知られている反強磁性材料M’の層と接触させることが可能である。
【0098】
図11に概略的に示された第6の実施形態では、例えば白金である、0.1〜1nmの厚さを有する非磁性金属層を前記層Mと、前記層Mとの交換結合を誘導することが知られている前記材料との間に挿入することも可能である。
【0099】
上記の実施形態のどれについても、連続する層、またはそのような層の一部を、周囲温度と異なる温度に保持されている基板上に堆積させることが可能である。外部磁界の存在下で材料を堆積させることもまた有効なことがある。
【0100】
さらに、堆積段階を完了すると、こうして得られたアセンブリに、デバイスの構造および/または電気輸送特性および/または磁気特性を改変するために、希薄な雰囲気中で、あるいは特定のガスまたは、例えば酸素、水素もしくは窒素など異なるガスの混合物の存在下で、外部磁界が存在する、または無い状態において、熱処理を長時間または短時間施すことができる。
【0101】
このような堆積後の熱処理の効果は、第1の実施形態を用いた図12、ならびに第2の実施形態を用いた図13、14および15に示されている。これらの場合には、図3および図6に概略的に示された積層は、堆積後に、希薄にした10−6mbarの雰囲気中で30分間、20℃〜400℃のある温度に保持され、次いで、その磁気特性を再度測定する前に周囲温度まで冷却された。
【0102】
図12は、基板/M/M’型(第1の実施形態)の積層に対応し、ここで基板は、500nmのシリコン酸化物で覆われたシリコンで構成され、Mは、3nm厚の白金層M’で覆われた厚さ1.5nmのコバルト層を表す。
【0103】
まず、様々な熱処理の後にホール抵抗の振幅の相当な増加があることが図で明らかである。実際、この振幅は、積層の堆積直後に測定された振幅と比較して、400℃の温度での熱処理後では2倍に増加する。
【0104】
さらに、垂直飽和磁界H(式(2)参照)は、それが400℃の熱処理後に負になるまで、アニーリング温度が上昇するにつれ徐々に減少する(コバルト層の磁化は、その後自発的に層面に垂直になる)。中間のアニーリング温度では、曲線R(H)の勾配が非常に高い値に達することができ、そのためこの積層を磁界センサとして使用することが可能になる。
【0105】
図13、14および15は、図6に示された第2の実施形態に対応し、ホール抵抗の変化を層面に対し垂直に印加された磁界の関数として、使用された様々な種類の酸化物について、様々な温度のアニーリング後で示す。図13は、引き続き酸素雰囲気にさらされた0.6nm厚のアルミニウム層に対応する。図14は、プラズマ処理によって酸化された1.6nmのアルミニウム層に対応し、図15は、引き続き酸素雰囲気にさらされた1.4nmのマグネシウム層に対応する。
【0106】
これら3つの場合では、適切な熱処理により、印加磁界なしで層面に垂直な方向にコバルト層の磁化を安定化させることが可能になる。
【0107】
次に、第2、第5または第6の実施形態で、図6、10または11で概略的に示された積層のうちの層Oの前に、やはり層面に垂直な磁化を有する第1の磁気層を堆積させる場合では、これにより、層面に垂直な磁化を有する磁気トンネル結合型の構造が作製される。
【0108】
したがって、ホール抵抗を最大にし、かつ/または目的の用途に応じて外部磁界(すなわちその抗磁界)に対する磁化安定性を調節するために、このタイプの材料の磁気特性を必要に応じて熱処理によって改変することが完全に可能になる。これらの熱処理にはまた、その後のどんな温度変動に対しても磁気素子を構造的にはるかに安定にするという利点もある。
【0109】
このパラメータ(図2に関連して定義した抗磁界)はまた、図13、14および15に示された堆積後熱処理の温度を変更することによってだけではなく、積層の構成(層の厚さ、強磁性体材料の性質、第2の層O’の有無)を変更することによっても、堆積条件(速度、温度、磁界)を変更することによっても、あるいは異なる技法または酸化条件(酸素圧、酸化時間、プラズマ電力など)を用いることによっても調整できることをもう一度想起されたい。
【0110】
本発明はまた、上記による磁気素子を製造する方法にも関連する。この方法は以下のように定義される。この説明は、特許請求の範囲を網羅的にするものではない。
【0111】
ここで説明する各積層の様々な層は、500nmの熱酸化シリコンで覆われたシリコン基板上に、0.1nm/s程度の堆積速度でカソードスパッタリングによって堆積される。
【0112】
酸化層、水素化層または窒化層は、まず、対応する材料の層を堆積させ、次に、この層のプラズマ酸化、プラズマ水素化またはプラズマ窒化を10W程度のプラズマ電力で、3×10−3mbarの酸素、水素または窒素の圧力において数秒から数分間実施することによって生成される。
【0113】
まず、例えば、0.3〜5nm程度の厚さを有するアルミニウムの層を堆積させる。次に、試料を例えば、圧力、電力および時間が明確に規定された条件のもとで酸素プラズマにかける。これにより、金属アルミニウムを酸化アルミニウムに変換することが可能になる。
【0114】
このアルミナ層は電気的に絶縁性であるので、その厚さは、他の金属層の厚さよりも重要度がはるかに低いことが明らかである。これはしかし、対象とする金属の酸化物(または水素化物、または窒化物)が導電性である場合には当てはまらない。絶縁層の場合には、その厚さの決定は、表面粗さが層の厚さと共に増大し、それによって後続の層の成長品質に悪影響を及ぼしうる層の成長特性と、全体厚さによって変わることがありうる酸化機構との両方に依存する。以下の例は、1.6nmのアルミニウムの厚さに関する。この厚さは、その金属層が酸化された後のアルミナの2nmにほぼ相当する。
【0115】
第1の層Oを堆積させるこの第1の段階は、実際の基板(酸化物または窒化物をベースとする基板)が第1の層Oを構成している場合には省略してもよい。
【0116】
次に、一般に薄いコバルト層を堆積させる。下記の例では、コバルト層の厚さは1.5nmと指定された。厚さを比較的薄く選択するとまた、この層の抵抗を、より厚い層の抵抗と比較して低下させすぎないようにもできる。
【0117】
逆に、この厚さを過度に減少させると、この層の固有の磁化を減少させる、またはその磁気秩序温度をかなり低減させる可能性がある。どちらの場合も、このことが、磁気素子の動作温度で、つまり周囲温度の近くでこの層の効果的な磁化を低減させる結果になる。式(1)によれば、このことがホール抵抗の低下をもたらし、したがって、デバイスからの出力信号が小さくなる。本発明で説明する別の種類の用途では、磁気層の厚さを5nmまで増加させることができる。
【0118】
この酸化物/磁性金属、または水素化物/磁性金属、または窒化物/磁性金属の二層は、非強磁性体金属の層で上部を覆うことが場合により可能であり、その目的は、こうして作製された構造全体をその後の自然酸化に対して保護すること、または電流が流れやすくすること、またはさらに磁気層との磁気交換結合を誘導することでもある。
【0119】
この酸化物/磁性金属、または水素化物/磁性金属、または窒化物/磁性金属の二層は、上述の技法の1つを用いて製造された酸化物層、水素化物層または窒化物層で上部を覆うことが場合により可能であり、こうして作製された構造全体をその後の自然酸化に対して保護することができるようになり、上述の場合とは異なり、それによって積層の電気抵抗を低下させることはない。
【0120】
最後に、積層の堆積中または堆積後に熱処理または磁気処理を実行することが可能である。
【0121】
「熱処理」という用語は、こうして用意された材料を、それが堆積された温度よりも高い温度で、希薄な雰囲気中あるいは特定のガスまたは、例えば酸素、水素もしくは窒素などの異なるガスの混合物の存在下で、長時間または短時間さらすことを意味する。
【0122】
「磁気処理」という用語は、慎重に選ばれた強度および方向を有する磁界を、積層を構成する様々な層を堆積させるための1つまたは複数の段階中に、または上記の各熱処理段階の1つの間にわたり印加することを意味する。
【0123】
このような熱処理および/または磁気処理の目的は、できるだけ磁気層を乱し、かつ/またはその界面に合金を形成することによって、積層の縦方向抵抗を増加させることである。これらの処理はまた、層の化学的または結晶学的構造を改変し、結果として、こうして作製された積層の磁気特性を改変することを目的とすることもある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層磁気素子であって、基板上に、酸化物、水素化物または窒化物の第1の層Oを含み、その上に金属磁気層Mが設けられ、前記金属磁気層Mの上に酸化物、水素化物または窒化物の第2の層O’、あるいは非強磁性体金属層M’が設けられ、
層Mが連続しており、1〜5nmの厚さを有し、その磁化が、層OおよびO’が無い状態で層面に平行であり、
周囲温度以上のある温度範囲で、層Mの有効消磁磁界を低減できる、または層Mの磁化を前記層面に対しほぼ垂直に向けることができる、界面O/MおよびM/O’の層面に垂直な界面磁気異方性がある、3層磁気素子。
【請求項2】
磁気金属層Mが、磁性材料、磁性合金、または交互になっている一連の非磁性材料と磁性材料で形成された多層から成り、前記磁性材料がFe、Ni、Coまたはこれらの合金を含む群から選択されること、ならびに
前記酸化物、水素化物または窒化物の層OおよびO’が少なくとも0.3nmの厚さを有し、Al、Mg、Ru、Ta、Cr、Zr、Hf、Ti、V、Si、Cu、W、Co、Ni、Fe、またはこれらの合金と、より一般的には、安定した酸化物、水素化物または窒化物を形成できる任意の材料または合金とを含む群から選択された元素をベースとすることを特徴とする、請求項1に記載の3層磁気素子。
【請求項3】
前記基板が、1〜500nmの深度まで熱的にまたは自然に酸化または窒化されたシリコンで被覆されたシリコンでできていることを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項4】
前記基板が透明材料、特にガラスまたは酸化マグネシウムでできていることを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項5】
前記基板が第1の層Oとして機能することを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項6】
層Mが、追加の非磁性金属PdまたはPtを含有する、あるいはSi、C、B、Pを含む群から選択された元素を含有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項7】
層OとO’が同一の非磁性金属でできていることを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項8】
層OとO’が同一の厚さを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項9】
層OとO’の厚さが異なることを特徴とする、請求項1または2に記載の3層磁気素子。
【請求項10】
金属層Mが1〜5nmの厚さを有し、
層OおよびO’が0.3〜5nmの厚さを有することを特徴とする、請求項5から9のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項11】
層OとO’の化学組成が異なることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項12】
層OおよびO’の少なくとも一方自体が、酸化物、水素化物または窒化物でできた複数の層から成ることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項13】
非強磁性体層M’が、磁気層Mとの交換異方性結合を誘導することが知られている反強磁性材料、例えばFeMn、IrMn、PtMn、NiMnでできていることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項14】
0.1〜1nmの厚さを有する非磁性金属層が、層Mと、前記層Mとの交換異方性結合を誘導することが知られている層M’との間に挿入されていることを特徴とする、請求項13に記載の3層磁気素子。
【請求項15】
低減された有効消磁磁界、または前記層面にほぼ垂直に向けられた磁化のいずれかを有する第1の磁気層の上部に、この素子自体が堆積されていることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項16】
横方向寸法が1μm未満であることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の3層磁気素子。
【請求項17】
3層磁気素子を作製する方法であって、
カソードスパッタリングによって電気絶縁面上に第1の層Oを堆積させる段階と、
この第1の層Oを酸化、窒化または水素化する段階と、
この第1の層O上に磁気層Mを堆積させる段階と、
場合により前記第1および第2の段階を繰り返す、または前記層M上に非強磁性体層M’を堆積させる段階とを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
第1の層Oを堆積させ、次に酸化、窒化または水素化する前記段階を省略することを特徴とする、請求項17に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項19】
層OまたはO’が、前記対応する金属層を堆積させ、次に自然酸化、水素化または窒化することによって得られることを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項20】
層OまたはO’が、前記対応する金属層を堆積させ、次にプラズマ酸化、水素化または窒化することによって得られることを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項21】
層OまたはO’が、堆積チャンバ内部の雰囲気中に酸素、水素または窒素が存在する状態で、対応する金属層の反応性スパッタリングによって得られることを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項22】
層OまたはO’が、複合金属酸化物、水素化物または窒化物ターゲット材料を使用する高周波カソードスパッタリングによる酸化物、水素化物または窒化物の直接堆積によって得られることを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項23】
特定の層の堆積を周囲温度と異なる温度で行うことを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項24】
特定の層の堆積の後に前記堆積温度よりも高い温度の熱処理が続くことを特徴とする、請求項17または18に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項25】
前記堆積段階を完了した後に、こうして得られたアセンブリに、前記磁気素子の構造および/または電気輸送特性および/または磁気特性を改変するために、希薄な雰囲気中で、長時間または短時間熱処理を施すことを特徴とする、請求項17から24のいずれか一項に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項26】
前記堆積段階を完了した後に、こうして得られたアセンブリに、前記磁気素子の構造および/または電気輸送特性および/または磁気特性を改変するために、特定のガス、または異なるガスの混合物が存在する状態で、長時間または短時間熱処理を施すことを特徴とする、請求項17から24のいずれか一項に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項27】
堆積中または堆積後のこれら様々な熱処理を、前記磁気素子の磁気特性を改変できる外部磁界の存在下で実施することを特徴とする、請求項25または26に記載の3層磁気素子を作製する方法。
【請求項28】
その消磁磁界をほとんど相殺する垂直異方性磁界を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の3層磁気素子で構成されていることを特徴とする磁界センサ。
【請求項29】
前記磁気層の磁化が、外部磁界が無い状態で層面に垂直である請求項1から16のいずれか一項に記載の3層磁気素子で構成されていることを特徴とする磁気メモリ。
【請求項30】
前記磁気層の磁化が上方と下方に交互に向く磁区の形で層面に垂直である請求項1から16のいずれか一項に記載の3層磁気素子で構成されていることを特徴とする磁気メモリ。
【請求項31】
前記磁気層の磁化が、外部磁界が無い状態で層面に垂直である請求項1から16のいずれか一項に記載の3層磁気素子で構成されていることを特徴とする磁気論理ゲート。
【請求項32】
前記磁気素子の前記磁気層の磁化の向きが、前記層面に平行な方向に電流を注入して異常ホール効果を測定することによって検出されることを特徴とする、請求項28から31のいずれか一項に記載の磁界センサ、磁気メモリまたは磁気論理ゲートを使用する方法。
【請求項33】
前記磁気素子の前記磁気層の磁化の向きが、カー効果またはファラデー磁気光学効果を測定することによって検出されることを特徴とする、請求項28から31のいずれか一項に記載の磁界センサ、磁気メモリまたは磁気論理ゲートを使用する方法。
【請求項34】
前記磁気素子の前記磁気層の磁化の向きが、前記層面にほぼ垂直の方向に電流を注入して磁気抵抗を測定することによって検出されることを特徴とする、請求項28から31のいずれか一項に記載の磁界センサ、磁気メモリまたは磁気論理ゲートを使用する方法。
【請求項35】
前記磁気素子の前記磁気層の磁化の向きが、前記磁気素子に近接して置かれた磁気抵抗センサの磁気抵抗を測定することによって検出されることを特徴とする、請求項28から31のいずれか一項に記載の磁気メモリまたは磁気論理ゲートを使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−525300(P2011−525300A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513030(P2011−513030)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051062
【国際公開番号】WO2010/001018
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【Fターム(参考)】