説明

Cu膜の成膜方法および記憶媒体

【課題】表面性状が良好でかつ高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができるCu膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】チャンバー1内にウエハWを収容し、チャンバー1内にカルボン酸第1銅錯体、例えばCHCOOCuとこれを還元する還元剤とを気相状態で導入して、ウエハW上にCVD法によりCu膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板等の基板にCVDによりCu膜を成膜するCu膜の成膜方法および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、半導体デバイスの高速化、配線パターンの微細化等に呼応して、Alよりも導電性が高く、かつエレクトロマイグレーション耐性等も良好なCuが配線、Cuメッキのシード層、コンタクトプラグの材料として注目されている。
【0003】
このCuの成膜方法としては、スパッタリングに代表される物理蒸着(PVD)法が多用されていたが、半導体デバイスの微細化にともなってステップカバレッジが悪いという欠点が顕在化している。
【0004】
そこで、Cu膜の成膜方法として、Cuを含む原料ガスの熱分解反応や、当該原料ガスの還元性ガスによる還元反応にて基板上にCuを成膜する化学気相成長(CVD)法が用いられつつある。このようなCVD法により成膜されたCu膜(CVD−Cu膜)は、ステップカバレッジ(段差被覆性)が高く、細長く深いパターン内への成膜性に優れているため、微細なパターンへの追従性が高く、配線、Cuメッキのシード層、コンタクトプラグの形成には好適である。
【0005】
このCVD法によりCu膜を成膜するにあたり、成膜原料(プリカーサー)にヘキサフルオロアセチルアセトナート・トリメチルビニルシラン銅(Cu(hfac)TMVS)等のCu錯体を用い、これを熱分解する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
一方、Cuの密着層やバリアメタルとして、CVD法によるRu膜(CVD−Ru膜)を用いる技術が知られている(特許文献2)。CVD−Ru膜は、ステップカバレッジが高く、Cu膜との密着性も高いため、Cuの密着層やバリアメタルに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−282242号公報
【特許文献2】特開平10−229084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来から使用されている成膜原料であるCu(hfac)TMVSは、原料の不均化反応に基づいて熱分解によりCu膜を成膜するが、その際に発生する副生成物の蒸気圧が低いため、それがCu粒界および下地界面に吸着し、Cuの下地膜(例えばCVD−Ru膜)に対する濡れ性低下や成膜原料の吸着阻害が発生する。その結果、Cuの初期核密度低下、Cu膜表面の表面性状悪化、Cu膜と下地膜(例えばCVD−Ru膜)の密着力低下、Cu膜の品質低下が生じる。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、表面性状が良好でかつ高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができるCu膜の成膜方法を提供することを目的とする。
また、そのような成膜方法を実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、成膜原料としてカルボン酸第1銅錯体を用い、所定の還元剤で還元することにより、蒸気圧の低い副生成物が発生しないため、下地膜に対する濡れ性低下や成膜原料の吸着阻害が発生せずに、Cu膜を成膜可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、処理容器内に基板を収容し、前記処理容器内にカルボン酸第1銅錯体と該カルボン酸第1銅錯体を還元する還元剤とを気相状態で導入して、基板上にCVD法によりCu膜を成膜することを特徴とするCu膜の成膜方法を提供する。
【0012】
本発明において、前記還元剤としてHを用いることができる。また、前記還元剤としてNHを用いることができる。また、前記還元剤としてHOを用いることができる。さらに、前記還元剤として還元性Si化合物を用いることもできる。還元性Si化合物としては、ジエチルシラン系化合物を用いることができる。
【0013】
前記カルボン酸第1銅錯体としては、酢酸第1銅(CHCOOCu)、または蟻酸第1銅(HCOOCu)を用いることができる。
【0014】
前記処理容器内に前記カルボン酸第1銅錯体と前記還元剤とを同時に供給してCu膜を成膜することができる。また、前記カルボン酸第1銅錯体と前記還元剤とを、パージガスの供給を挟んで交互的に供給してもよい。
【0015】
前記カルボン酸第1銅錯体の分解を抑制し、反応室まで安定に供給するために、安定化剤として配位子となるカルボン酸を前記カルボン酸第1銅錯体と同時に供給することが望ましい。
【0016】
前記基板として、表面にCVD法により成膜したRu膜を有するものを用い、そのRu膜の上にCu膜を成膜することが好ましい。前記Ru膜としては、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜されたものが好適である。前記Ru膜は拡散防止膜の全部または一部として用いることができる。この場合に、前記拡散防止膜は、前記Ru膜の下層として、高融点材料膜を有するものとすることができる。前記高融点材料膜としては、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、および酸化マンガンのいずれかからなるものを用いることができる。
【0017】
得られたCu膜は、配線材として用いてもよいし、Cuメッキのシード膜として用いてもよい。
【0018】
本発明はまた、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、処理容器内にカルボン酸第1銅錯体と当該カルボン酸第1銅錯体を還元する還元剤とを気相状態で導入して、基板上にCVD法によりCu膜を成膜するので、蒸気圧の低い副生成物を生成させることなく成膜することができる。このため、表面性状が良好でかつ高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のCu膜の成膜方法を実施する成膜装置の構成の一例を示す略断面である。
【図2】本発明のCu膜の成膜方法が適用される基板である半導体ウエハの構造を示す断面図である。
【図3】成膜シーケンスの一例を示すタイミングチャートである。
【図4】成膜シーケンスの他の例を示すタイミングチャートである。
【図5】図2の構造の半導体ウエハに対してCVD−Cu膜を配線材として形成した状態を示す断面図である。
【図6】図2の構造の半導体ウエハに対してCVD−Cu膜をCuメッキのシード膜として形成した状態を示す断面図である。
【図7】図5の構造の半導体ウエハに対してCMPを行った状態を示す断面図である。
【図8】図6の構造の半導体ウエハに対してCuメッキを施した状態を示す断面図である。
【図9】図8の構造の半導体ウエハに対してCMPを行った状態を示す断面図である。
【図10】本発明のCu膜の成膜方法が適用される基板である半導体ウエハの他の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
<本発明の成膜方法を実施するための成膜装置の構成>
図1は、本発明の成膜方法を実施する成膜装置の構成の一例を示す略断面である。
この成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板である半導体ウエハWを水平に支持するためのサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2はAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられており、熱電対7の信号はヒーターコントローラ8に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ8は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。
【0023】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜用のガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その上部には、成膜原料ガスとしてカルボン酸第1銅錯体、例えば酢酸第1銅(CHCOOCu)が導入される第1の導入路11と、チャンバー1内に還元剤が導入される第2の導入路12とを有している。これら第1の導入路11と第2の導入路12とはシャワーヘッド10内で別個に設けられおり、成膜原料ガスと還元剤とは吐出後に混合されるようになっている。
【0024】
シャワーヘッド10の内部には上下2段に空間13、14が設けられている。上側の空間13には第1の導入路11が繋がっており、この空間13から第1のガス吐出路15がシャワーヘッド10の底面まで延びている。下側の空間14には第2の導入路12が繋がっており、この空間14から第2のガス吐出路16がシャワーヘッド10の底面まで延びている。すなわち、シャワーヘッド10は、成膜原料としてのカルボン酸第1銅錯体ガスと還元ガスとがそれぞれ独立して吐出路15および16から吐出するようになっている。
【0025】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0026】
チャンバー1の側壁には、ウエハ搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブGとが設けられている。また、チャンバー1の壁部には、ヒーター26が設けられており、成膜処理の際にチャンバー1の内壁の温度を制御可能となっている。
【0027】
ガス供給機構30は、例えばカルボン酸第2銅水和物を加熱分解させて冷却捕集することにより得られるカルボン酸第1銅錯体、例えば酢酸第1銅(CHCOOCu)を成膜原料として貯留する成膜原料タンク31を有している。カルボン酸第1銅錯体としては、他に、トリフルオロ酢酸第1銅(CFCOOCu)または蟻酸第1銅(HCOOCu)を好適に用いることができる。
【0028】
成膜原料タンク31の周囲にはヒーター32が設けられている。また、成膜原料タンク31の底部からは、キャリアガスとして例えばArガスを供給するキャリアガス配管33が挿入されている。キャリアガス配管33には、マスフローコントローラ34およびマスフローコントローラ34を挟んで2つのバルブ35が設けられている。また、成膜原料タンク31には、上方から成膜原料供給配管36が挿入されており、成膜原料供給配管36の他端は第1の導入路11に接続されている。そして、ヒーター32により加熱されて蒸気状になったカルボン酸第1銅錯体がキャリアガス配管33から供給されたキャリアガスにキャリアされて成膜原料配管36および第1の導入路11を経てシャワーヘッド10へ供給される。成膜原料供給配管36の周囲には、蒸気状の成膜原料が液化しないように、ヒーター37が設けられている。また、成膜原料供給配管36には、流量調整バルブ38と、そのすぐ下流側の開閉バルブ39と、第1の導入路11の直近に設けられた開閉バルブ40とが設けられている。
【0029】
シャワーヘッド10の第2の導入路12には、気体状の還元剤を供給する還元剤供給配管44が接続されている。この還元剤供給配管44には還元剤供給源46が接続されている。また、この還元剤供給配管44の第2の導入路12近傍にはバルブ45が介装されている。さらに、この還元剤供給配管44には、マスフローコントローラ47およびマスフローコントローラ47を挟んで2つのバルブ48が設けられている。還元剤供給配管44のマスフローコントローラ47の上流側にはキャリアガス供給配管44aが分岐しており、そのキャリアガス配管44aにはキャリアガス供給源41が接続されている。そして、還元剤供給源46から還元剤供給配管44およびシャワーヘッド10を通って、チャンバー1内にカルボン酸第1銅錯体を還元する還元剤が供給される。また、キャリアガス供給源41からキャリアガス供給配管44a、還元ガス供給配管44およびシャワーヘッド10を通ってチャンバー1内にキャリアガスとして例えばArガスを供給給するようになっている。還元剤としては、H、NH、還元性Si化合物、HOを用いることができる。
【0030】
成膜装置100は制御部50を有し、この制御部50により各構成部、例えばヒーター電源6、排気装置23、マスフローコントローラ34,47、流量調整バルブ38、バルブ35,39,40,45,48等の制御やヒーターコントローラ8を介してのサセプタ2の温度制御等を行うようになっている。この制御部50は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース52は、プロセスコントローラ51に接続されており、オペレータが成膜装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置100の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続されており、この記憶部53には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0031】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0032】
<本発明の実施形態に係るCu膜の成膜方法>
次に、以上のように構成された成膜装置を用いた本実施形態のCu膜の成膜方法について説明する。
【0033】
ここでは、CVD法により成膜されたRu膜(CVD−Ru膜)の上にCVD法によりCu膜(CVD−Cu膜)を成膜する。例えば、図2に示すように、CVD−Ru膜102を介して下層のCu配線層101が形成された下層の配線絶縁層103の上に、キャップ絶縁膜104を介して層間絶縁膜105が形成され、その上にハードマスク層106を介して上層の配線絶縁層107が形成され、ハードマスク層106、層間絶縁膜105、キャップ絶縁膜104を貫通し、下層のCu配線層101に達するビアホール108が形成され、上層配線絶縁層107に配線溝であるトレンチ109が形成され、さらにビアホール108とトレンチ109の内壁および上層の配線絶縁層107の上にバリア層(拡散防止層)としてCVD−Ru膜110が形成されたウエハWに対し、CVD−Cu膜を成膜する。
【0034】
CVD−Ru膜は、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜したものであることが好ましい。これにより、これにより、高純度のCVD−Ruを得られるため、清浄かつ強固なCuとRuの界面を形成することができる。CVD−Ru膜を成膜する装置としては、常温で固体であるRu(CO)12を加熱して発生した蒸気を供給するようにした以外は、図1の装置と同様に構成されたものを用いることができる。
【0035】
Cu膜の成膜に際しては、まず、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置により上記構成のウエハWをチャンバー1内に導入し、サセプタ2上に載置する。次いで、チャンバー1内を排気装置23により排気してチャンバー1内の圧力を1.33〜266.6Pa(10mTorr〜2Torr)とし、ヒーター5によりサセプタ2を加熱してサセプタ2の温度を150〜350℃とし、キャリアガス供給源41、キャリアガス供給配管44a、還元剤供給配管44、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内に100〜1500mL/min(sccm)の流量でキャリアガスを供給して安定化を行う。
【0036】
安定化を所定時間行って条件が安定した時点で、ヒーター32により加熱されている成膜原料タンク31に配管33からキャリアガスを100〜1500mL/min(sccm)の流量で供給し、カルボン酸第1銅錯体、例えば酢酸第1銅(CHCOOCu)の蒸気を成膜原料供給配管36からシャワーヘッド10を介してチャンバー1内に導入し、さらに還元剤供給源46から気体状の還元剤を還元剤供給配管44およびシャワーヘッド10を介してチャンバー1内に導入してCu膜の成膜を開始する。
【0037】
還元剤としては、成膜原料であるカルボン酸第1銅錯体を還元可能なものが用いられ、上述したように、H、NH、還元性Si化合物、HOを好適に用いることができる。還元性Si化合物としてはジエチルシラン系化合物、例えばジエチルシラン、ジエチルジクロロシラン等を好適なものとして挙げることができる。
【0038】
成膜処理におけるカルボン酸第1銅錯体の流量は、酢酸第1銅(CHCOOCu)を用いた場合に、上記キャリアガス流量では、液体換算として100〜500mg/min程度となる。また、還元剤の流量は還元剤によっても異なるが、
0.1〜100mL/min(sccm)程度である。
【0039】
ところで、従来成膜原料として用いられていたCu(hfac)TMVSは、以下の(1)式に示す不均化反応により分解され、Cuを生成していた。
2Cu(hfac)TMVS→Cu+Cu(hfac)+2TMVS…(1)
【0040】
副生成物として生成するCu(hfac)は蒸気圧が低く、それがCu粒界および下地膜であるCVD−Ru膜に吸着し、CuのCVD−Ru膜に対する濡れ性低下や成膜原料の吸着阻害が発生する。その結果、Cuの初期核密度低下、Cu膜表面の表面性状悪化、Cu膜とCVD−Ru膜の密着力低下、Cu膜の品質低下をもたらしていた。
【0041】
これに対し、本実施形態では、酢酸第1銅(CHCOOCu)に代表されるカルボン酸第1銅錯体を還元剤により還元してCuを発生させる。具体的には、例えば、還元剤としてHを用いる場合には以下の(2)式によりCuを発生させることができる。
2CHCOOCu+H → 2Cu+2CHCOOH (2)
【0042】
上記還元剤でカルボン酸第1銅錯体を還元することによって生成するのは、ほぼ気体成分のみであり、蒸気圧の低い副生成物は発生しない。このため、蒸気圧の低い副生成物がCu粒界および下地膜であるCVD−Ru膜に吸着することはなく、このためCuのCVD−Ru膜に対する濡れ性低下や成膜原料の吸着阻害は発生しない。したがって、Cuの初期核密度は高く、表面性状が良好でかつ高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができる。
【0043】
CHCOOCuと同時に配位子となるCHCOOHを供給した場合、(2)の式におけるCHCOOH分率が上がるため、分解反応を抑制できる。これにより安定に反応室への供給化を促進することができる。
【0044】
成膜のシーケンスとしては、図3に示すように、カルボン酸第1銅と還元剤とを同時に供給するものを挙げることができる。また、図4に示すように、カルボン酸第1銅と還元剤とを、パージを挟んで交互に行う、いわゆるALD的手法を用いることもできる。パージはキャリアガスを供給することで行うことができる。このALD的手法により、成膜温度をより低下することができる。
【0045】
そして、このようにしてCu膜を成膜した後、パージ工程を行う。パージ工程では、成膜原料タンク31へのキャリアガスの供給を停止してカルボン酸第1銅錯体(例えばCHCOOCu)の供給を停止した後、排気装置23の真空ポンプを引き切り状態とし、キャリアガス供給源41からキャリアガスをパージガスとしてチャンバー1内に流してチャンバー1内をパージする。この場合に、できる限り迅速にチャンバー1内をパージする観点から、キャリアガスの供給は断続的に行うことが好ましい。
【0046】
パージ工程が終了後、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置により、搬入出口24を介してウエハWを搬出する。これにより、1枚のウエハWの一連の工程が終了する。
【0047】
以上のようにして成膜されたCVD−Cu膜は、配線材として用いることもできるし、Cuメッキのシード層として用いることもできる。CVD−Cu膜を配線材として用いる場合には、図5に示すように、ビアホール108およびトレンチ109をすべて埋まるまでCVD−Cu膜111を成膜して、配線およびプラグをすべてCVD−Cu膜111で形成する。また、Cuメッキのシード膜として用いる場合には、図6に示すように、CVD−Cu膜111をCVD−Ru膜110の表面に薄く形成する。
【0048】
図7のように配線およびプラグをすべてCVD−Cu膜111で形成する場合には、図5の状態から、CMP(化学機械研磨)を行って余分なCu部分を除去し、図7に示すように、配線絶縁膜107とCVD−Cu膜111が面一となるようにする。また、図6のようにCVD−Cu膜111をCuメッキのシード膜として薄く形成する場合には、その後、図8に示すようにCuメッキ112を形成して配線およびプラグを形成し、その状態からCMP(化学機械研磨)を行って余分なCu部分を除去し、図9に示すように配線絶縁膜107とCuメッキ層112が面一となるようにする。
【0049】
なお、上記例では、バリア層(拡散防止層)としてCVD−Ru膜110の単層を用いた例を示したが、図10に示すように、上層のCVD−Ru膜110と下層としての高融点材料膜113との積層構造であってもよい。この場合に、下層としては、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、酸化マンガン等のいずれかを用いることができる。
【0050】
<本発明の他の適用>
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態においては、成膜原料を構成するカルボン酸第1銅錯体として、酢酸第1銅(CHCOOCu)、蟻酸第1銅(HCOOCu)を例示したが、これに限るものではなく、プロピオン酸第1銅(CHCHCOOCu)、酪酸第1銅(CH(CHCOOCu)、吉草酸第1銅(CH(CHCOOCu)、トリフルオロ酢酸第1銅(CFCOOCu)等を用いることもできる。また、還元剤としても上記のものに限るものではない。さらに、成膜の下地としてCVD−Ru膜を用いた場合について示したが、これに限るものでもない。
【0051】
また、成膜原料であるカルボン酸第1銅の供給手法についても上記実施形態の手法に限定する必要はなく、種々の方法を適用することができる。さらに、成膜装置についても上記実施の形態のものに限らず、例えば、成膜原料ガスの分解を促進するためにプラズマを形成する機構を設けたもの等、種々の装置を用いることができる。
【0052】
さらにまた、被処理基板の構造は図2、図10のものに限るものではない。さらにまた、被処理基板として半導体ウエハを用いた場合を説明したが、これに限らず、フラットパネルディスプレイ(FPD)基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1;チャンバー
2;サセプタ
3;支持部材
5;ヒーター
10;シャワーヘッド
23;排気装置
30;ガス供給機構
31;成膜原料タンク
33;キャリアガス供給配管
36;成膜原料供給配管
41;キャリアガス供給源
44;還元剤供給配管
46;還元剤供給源
50;制御部
51;プロセスコントローラ
52;ユーザーインターフェース
53;記憶部(記憶媒体)
W;半導体ウエハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に基板を収容し、前記処理容器内にカルボン酸第1銅錯体と該カルボン酸第1銅錯体を還元する還元剤とを気相状態で導入して、基板上にCVD法によりCu膜を成膜することを特徴とするCu膜の成膜方法。
【請求項2】
前記還元剤は、Hであることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項3】
前記還元剤は、NHであることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項4】
前記還元剤は、還元性Si化合物であることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項5】
前記還元性Si化合物は、ジエチルシラン系化合物であることを特徴とする請求項4に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項6】
前記還元剤は、HOであることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項7】
前記カルボン酸第1銅錯体は、酢酸第1銅(CHCOOCu)、蟻酸第1銅(HCOOCu)、およびトリフルオロ酢酸第1銅(CFCOOCu)のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項8】
前記処理容器内に前記カルボン酸第1銅錯体と前記還元剤とを同時に供給してCu膜を成膜することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項9】
前記カルボン酸第1銅錯体と前記還元剤とは、パージガスの供給を挟んで交互的に供給することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項10】
前記カルボン酸第1銅錯体と同時に配位子となるカルボン酸を供給することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項11】
前記基板として、表面にCVD法により成膜したRu膜を有するものを用い、そのRu膜の上にCu膜を成膜することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項12】
前記Ru膜は、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜されたものであることを特徴とする請求項11に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項13】
前記Ru膜は拡散防止膜の全部または一部として用いられることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項14】
前記拡散防止膜は、前記Ru膜の下層として、高融点材料膜を有することを特徴とする請求項13に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項15】
前記高融点材料膜は、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、および酸化マンガンのいずれかからなることを特徴とする請求項14に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項16】
得られたCu膜を配線材として用いることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項17】
得られたCu膜をCuメッキのシード膜として用いることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項18】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項17のいずれかの成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−202947(P2010−202947A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51866(P2009−51866)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】