説明

GaN薄膜貼り合わせ基板およびその製造方法、ならびにGaN系高電子移動度トランジスタおよびその製造方法

【課題】バッファリーク電流およびゲートリーク電流が抑制された高性能のHEMTを提供する。
【解決手段】本GaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法は、GaNバルク結晶10の主表面から0.1μm以上100μm以下の深さの面10iへの平均注入量が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下の水素イオン注入工程と、水素イオン注入されたGaNバルク結晶10の上記主表面へのGaNと化学組成が異なる異組成基板20の貼り合わせ工程と、GaNバルク結晶10の熱処理によりGaNバルク結晶10を水素イオンが注入された深さの面10iにおいて分離することによる異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aの形成工程と、を含む。GaN系HEMTの製造方法は、上記GaN薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10a上への少なくとも1層のGaN系半導体層30の成長工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系高電子移動度トランジスタに好適なGaN薄膜貼り合わせ基板およびその製造方法、ならびにかかるGaN薄膜貼り合わせ基板を含むGaN系高電子移動度トランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系高電子移動度トランジスタ(以下、GaN系HEMTともいう。)は、SiC基板などを用いて、GaN層、InxGa1-xN層(0<x<1)、AlxGa1-xN層(0<x<1)などのGaN系半導体層をチャネル層に、AlyGa1-yN層(0<x<y<1)などのGaN系半導体層をバリア層に用いたHEMT(高電子移動度トランジスタ)である。かかるGaN系HEMTは、電子濃度、熱伝導率、電子移動度などに優れ、たとえば、AlyGa1-yN層とGaN層との界面に生じたピエゾ電界により高濃度の2次元電子ガスが発生するため、その低抵抗化に有利である。また、バンドギャップの大きいGaN系半導体層を用いることで高い耐圧が得られるため、パワーデバイスなどとして注目されている。
【0003】
たとえば、信学技法、ED25005−134(2005)(非特許文献1)は、Si基板などのGaNとは化学組成の異なる異組成基板上にGaN層およびAlxGa1-xN層(0<x<1)のヘテロ構造を有するGaN系HEMTを開示する。
【0004】
また、応用電子物性分科会会誌、第12巻、第1号(非特許文献2)は、転位密度の低い自立GaN基板を用いたGaN系HEMTを開示する。
【0005】
また、特開2010−177281号公報(特許文献1)は、導電性自立GaNの表面にイオン注入層を形成することによりその表面を高抵抗化することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177281号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】信学技法、ED25005−134(2005)
【非特許文献2】応用電子物性分科会会誌、第12巻、第1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、信学技法、ED25005−134(2005)(非特許文献1)に開示されるようなSiC基板などの異組成基板を用いたGaN系HEMTは、SiC基板上に形成されるGaN層およびAlGaN層が、SiC基板との格子定数および熱膨張係数の差により、貫通転位が導入され転位密度が高くなり、また、表面にピット、くぼみ、亀裂などの欠陥が発生するため、ゲートリーク電流が発生するという問題がある。
【0009】
また、応用電子物性分科会会誌、第12巻、第1号(非特許文献2)に開示されるような転位密度が低い自立GaN基板を用いたGaN系HEMTは、自立GaN基板がその基板製作の制約上一般的にn型導電性であり、形成されたHEMT(高電子移動度トランジスタ)は、自立GaN基板にリーク(バッファリーク)電流が流れるため、トランジスタとしての作動をほとんどしないという問題がある。
【0010】
また、特開2010−177281号公報(特許文献1)に開示されるように、自立GaN基板と能動層であるGaN系半導体層との間に高抵抗層を介在させても、高周波動作時に導電性の自立GaN基板とゲート電極と間の電気容量に起因して利得が得られないという問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決して、バッファリーク電流およびゲートリーク電流が抑制された高性能のHEMTを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、GaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法であって、GaNバルク結晶の主表面から0.1μm以上100μm以下の深さの面に、水素イオンを平均注入量が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下で注入する工程と、水素イオンが注入されたGaNバルク結晶の上記主表面に、GaNと化学組成が異なる異組成基板を貼り合わせる工程と、GaNバルク結晶に熱処理することにより、GaNバルク結晶を水素イオンが注入された上記深さの面において分離して、異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜を形成する工程と、を含むGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、GaN系高電子移動度トランジスタの製造方法であって、上記のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法により製造されたGaN薄膜貼り合わせ基板のGaN薄膜上に、少なくとも1層のGaN系半導体層を成長させる工程を含むGaN系高電子移動度トランジスタの製造方法である。
【0014】
また、本発明は、GaNと化学組成が異なる異組成基板と、異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜と、を含み、GaN薄膜は、その厚さが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であるGaN薄膜貼り合わせ基板である。
【0015】
本発明にかかるGaN薄膜貼り合わせ基板において、GaN薄膜の転位密度を1×109cm-2以下とすることができる。また、GaN薄膜のキャリア濃度を1×1015cm-3以下とすることができる。また、GaN薄膜のシート抵抗を1×104Ω/□以上とすることができる。
【0016】
また、本発明は、GaNと化学組成が異なる異組成基板と、異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜と、GaN薄膜上に形成された少なくとも1層のGaN系半導体層と、を含み、GaN薄膜は、その厚さが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であるGaN系高電子移動度トランジスタである。
【0017】
本発明にかかるGaN系高電子移動度トランジスタにおいて、GaN薄膜の転位密度を1×109cm-2以下とすることができる。また、GaN薄膜のキャリア濃度を1×1015cm-3以下とすることができる。また、GaN薄膜のシート抵抗を1×104Ω/□以上とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バッファリーク電流およびゲートリーク電流が抑制された高性能のHEMTを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかるGaN薄膜貼り合わせ基板およびGaN系高電子移動度トランジスタの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかるGaN薄膜貼り合わせ基板の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明にかかるGaN系高電子移動度トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明にかかるGaN薄膜貼り合わせ基板およびGaN系高電子移動度トランジスタの製造において、水素イオンの平均注入量とGaN薄膜のシート抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態1]
図1を参照して、本発明の一実施形態であるGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法は、GaNバルク結晶10の主表面から0.1μm以上100μm以下の深さDの面10iに、水素イオンIを平均注入量が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下で注入する工程(図1(A))と、水素イオンが注入されたGaNバルク結晶10の上記主表面に、GaNと化学組成が異なる異組成基板20を貼り合わせる工程(図1(B))と、異組成基板20が貼り合わされたGaNバルク結晶10を熱処理することにより応力を加えることで、GaNバルク結晶10を水素イオンが注入されて脆化した上記深さの面10iにおいて分離して、異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aを形成する工程(図1(C))と、を含む。
【0021】
本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法により、GaNと化学組成が異なる異組成基板20と、異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aと、を含み、GaN薄膜10aは、その厚さTDが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であるGaN薄膜貼り合わせ基板1が効率よく得られる。かかるGaN薄膜貼り合わせ基板1は、バッファリーク電流およびゲートリーク電流が抑制された高性能のGaN系HEMT2の製造に好適に用いられる。
【0022】
(水素イオンの注入工程)
まず、図1(A)を参照して、本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法は、GaNバルク結晶10の主表面から0.1μm以上100μm以下の深さDの面10iに、水素イオンIを平均注入量が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下で注入する工程(水素イオンの注入工程)を含む。
【0023】
ここで、GaNバルク結晶10は、特に制限はないが、結晶性の高いGaN薄膜を得る観点から、転位密度は1×109cm-2以下が好ましく、1×107cm-2以下がより好ましい。GaNバルク結晶10の製造方法は、特に制限はないが、結晶性の高いGaNバルク結晶を得る観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線成長)法、昇華法などの気相法、フラックス法。高窒素圧溶液法などの液相法などが好ましい。
【0024】
水素イオンを注入する深さDは、作製される貼り合わせ基板のGaN薄膜上にGaN系半導体層をエピタキシャル成長させる際の雰囲気温度において熱分解によるGaN薄膜の消失を避けるとともに、作製される貼り合わせ基板における導電性のGaN薄膜を薄くする観点から、GaNバルク結晶10の主表面から0.1μm以上100μm以下が好ましい。
【0025】
水素イオンの平均注入量(平均ドーズ量)は、GaN薄膜のシート抵抗を十分に大きくしてHEMT形成後のバッファリーク電流を低減するとともに、GaN薄膜の転位などの欠陥を抑制してHEMT形成後のゲートリーク電流を低減する観点から、1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下が好ましい。
【0026】
(異組成基板の貼り合わせ工程)
次に、図1(B)を参照して、本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法は、水素イオンが注入されたGaNバルク結晶10の上記主表面に、GaNと化学組成が異なる異組成基板20を貼り合わせる工程(異組成基板の貼り合わせ工程)を含む。
【0027】
異組成基板20は、特に制限はないが、HEMTを製造するのに好適な観点から、サファイア基板、Si基板、MgO基板、ZnO基板、ZnS基板、ZnSe基板、石英基板、カーボン基板、ダイヤモンド基板、Ga23基板などが好適に挙げられる。
【0028】
異組成基板20の貼り合わせ方法は、特に制限はないが、比較的低温で均一に貼り合わせる観点から、表面活性化法、フュージョンボンディング法などが好ましい。ここで、表面活性化法とは貼り合わせ面をプラズマに曝すことによりその表面を活性化させた後貼り合わせる方法をいい、フュージョンボンディング法とは洗浄した表面(貼り合わせ面)どうしを加圧加熱して貼り合わせる方法をいう。
【0029】
(GaN薄膜の形成工程)
次に、図1(C)を参照して、本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法は、GaNバルク結晶10を熱処理することにより、GaNバルク結晶10を水素イオンが注入されて脆化した上記深さの面10iにおいて熱応力を加えることにより分離して、異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aを形成する工程(GaN薄膜の形成工程)を含む。
【0030】
GaNバルク結晶10を熱処理することにより、GaNバルク結晶10を水素イオンが注入された上記深さの面10iが脆化され、かかる面でGaNバルク結晶10が異組成基板20に貼り合わされたGaN薄膜10aと残りのGaNバルク結晶10bとに分離される。また、かかる熱処理により、GaN薄膜10a中のドナー性不純物が注入された水素イオンによってパッシベーションされるため、GaN薄膜10aは高抵抗となる。なお、上記熱処理後にGaN薄膜中に存在する水素原子(注入された水素イオンがドナー性不純物をパッシベーションすることにより水素原子となったもの)は、拡散係数が非常に低いため、GaN薄膜上に成長させるGaN系半導体層に拡散することがほとんどない。
【0031】
GaNバルク結晶の熱処理条件は、GaNバルク結晶10をGaN薄膜10aと残りのGaNバルク結晶10bとに分離することができ、かつ、GaN薄膜10a中のドナー性不純物が注入された水素イオンによってパッシベーションされる条件であればよい。
【0032】
上記のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法により、GaN薄膜貼り合わせ基板1が効率よく得られる。このようにして得られたGaN薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10aの厚さTDは、GaNバルク結晶10に注入される水素イオンの深さDとほぼ同じとなるため、0.1μm以上100μm以下となる。ここで、GaN薄膜の厚さTDは、段差計、断面SEM(走査型電子顕微鏡)像などにより測定することができる。また、GaN薄膜10aの水素シート濃度(GaN薄膜の主表面における単位面積当りの水素濃度をいう。以下同じ。)は、GaNバルク結晶10に注入した水素イオンの平均注入量とほぼ同じとなるため、1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下となる。ここで、GaN薄膜の水素シート濃度は、SIMS(2次イオン質量分析法)などにより測定することができる。
【0033】
[実施形態2]
図2を参照して、本発明の別の実施形態であるGaN薄膜貼り合わせ基板1は、GaNと化学組成が異なる異組成基板20と、異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aと、を含み、GaN薄膜10aは、その厚さTDが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下である。
【0034】
本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板1は、GaN薄膜10aの厚さTDが0.1μm以上100μm以下であり、GaN薄膜10aの水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であることから、GaN薄膜10aの抵抗が高いため、GaN系HEMT2の製造に好適である。
【0035】
本実施形態のGaN薄膜貼り合わせ基板1において、GaN薄膜10aの転位密度は、HEMT形成後のゲートリーク電流を低減する観点から、1×109cm-2以下であることが好ましく、1×107cm-2以下であることがより好ましい。ここで、GaN薄膜10aの転位密度は、薬液処理後のエッチピット観察などにより測定できる。また、GaN薄膜のキャリア濃度は、HEMT形成後のドレイン(バッファ)リーク電流を低減し、また、高周波動作利得を高める(すなわち電流利得カットオフ周波数を高める)観点から、1×1015cm-3以下であることが好ましい。ここで、GaN薄膜10aのキャリア濃度は、ホール測定、非接触渦電流測定などにより測定できる。また、GaN薄膜のシート抵抗は、HEMT形成後のドレイン(バッファ)リーク電流を低減し、また、高周波動作利得を高める(すなわち電流利得カットオフ周波数を高める)観点から、1×104Ω/□以上であることが好ましい。ここで、GaN薄膜10aのシート抵抗は、ホール測定、非接触渦電流測定などにより測定できる。
【0036】
[実施形態3]
図1(特に、図1(D))を参照して、本発明にかかるさらに別の実施形態であるGaN系HEMT(GaN系高電子移動度トランジスタ)の製造方法は、実施形態1のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法により製造された実施形態2のGaN薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10a上に、少なくとも1層のGaN系半導体層30を成長させる工程(GaN系半導体層の成長工程)を含む。
【0037】
GaN系半導体層30を成長させる方法は、特に制限はないが、GaN薄膜10a上に結晶性の高いGaN系半導体層30をエピタキシャル成長させる観点から、MOCVD法、HVPE法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが好ましく挙げられる。
【0038】
GaN系半導体層30は、GaN系HEMTの機能を発現させるものであれば特に制限はなく、たとえば、i型GaN層32およびi型Al0.25Ga0.75N層34とすることができる。ここで、i型GaN層32は電子走行層として機能し、i型Al0.25Ga0.75N層34は電子供給層として機能する。
【0039】
さらに、図1(E)を参照して、本実施形態のGaN系高電子移動度トランジスタの製造方法は、GaN系半導体層30上に、ソース電極42、ドレイン電極44およびゲート電極46を形成する工程(電極の形成工程)を含むことができる。
【0040】
ソース電極42、ドレイン電極44およびゲート電極46を形成する方法は、これらの電極の形成に適している限り特に制限はなく、フォトリソブラフィ法およびリフトオフ法などが好適に挙げられる。
【0041】
また、これらの電極は、これらの電極の機能を発現するものであれば特に制限はなく、ソース電極42およびドレイン電極44としてはAl層/Ti層/Au層を合金化させたものなどが、ゲート電極46としてはAu層などが、それぞれ好適に挙げられる。
【0042】
上記のGaN系HEMTの製造方法により、GaN系HEMT2が効率よく得られる。このようにして得られたGaN系HEMT2のGaN薄膜10aの厚さTDは、GaN系薄膜貼り合わせ基板のGaN薄膜の厚さTDと同じであり、0.1μm以上100μm以下となる。また、GaN系HEMT2のGaN薄膜10aの水素シート濃度は、GaN系薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10aの水素シート濃度と同じであり、1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下となる。
【0043】
[実施形態4]
図3を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるGaN系HEMT2は、GaNと化学組成が異なる異組成基板20と、異組成基板20上に貼り合わされたGaN薄膜10aと、GaN薄膜10a上に形成された少なくとも1層のGaN系半導体層30と、を含み、GaN薄膜10aは、その厚さが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下である。
【0044】
本実施形態のGaN系HEMT2は、GaN薄膜10aの厚さTDが0.1μm以上100μm以下であり、GaN薄膜10aの水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であることから、GaN薄膜10aの抵抗が高いため、バッファリークおよびゲートリークが抑制され、高性能が発現する。
【0045】
本実施形態のGaN系HEMT2は、たとえば、GaNと化学組成が異なる異組成基板20上に、厚さTDが0.1μm以上100μm以下かつ水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下のGaN薄膜10aが配置され、GaN薄膜10a上に、少なくとも1層のGaN系半導体層30として、i型GaN層32(電子走行層)およびi型Al0.25Ga0.75N層34(電子供給層)とが順次配置され、i型Al0.25Ga0.75N層34上に、ソース電極42、ドレイン電極44およびゲート電極46がそれぞれ配置されている。
【0046】
本実施形態のGaN系HEMT2において、GaN薄膜10aの転位密度は、HEMTのゲートリーク電流を低減する観点から、1×109cm-2以下であることが好ましく、1×107cm-2以下であることがより好ましい。また、GaN薄膜のキャリア濃度は、HEMTのドレイン(バッファ)リーク電流を低減し、また、高周波動作利得を高める(すなわち電流利得カットオフ周波数を高める)観点から、1×1015cm-3以下であることが好ましい。また、GaN薄膜のシート抵抗は、HEMTのドレイン(バッファ)リーク電流を低減し、また、高周波動作利得を高める(すなわち電流利得カットオフ周波数を高める)観点から、1×104Ω/□以上であることが好ましい。ここで、HEMTにおけるGaN薄膜10aの転位密度、キャリア濃度およびシート抵抗は、HEMTを分解してGaN薄膜10aを露出させた後、そのGaN薄膜10aについて上述の測定方法により測定することができる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
1.水素イオンの注入
HVPE法により成長させた後、研削および研磨により主表面が鏡面に加工された直径が2インチ(5.08cm)で厚さが10mmのGaNバルク結晶10を準備した。このGaNバルク結晶10について、転位密度は薬液処理後のエッチピット観察により測定したところ1×106cm-2、キャリア濃度はホール測定により測定したところ5×1014cm-3、シート抵抗はホール測定により測定したところ5×104Ω/□であった。
【0048】
図1(A)を参照して、上記のGaNバルク結晶10のN原子主表面側から、N原子主表面からの深さDが0.3μmの面に、水素イオンを平均注入量(平均ドーズ量)が1×1014cm-2で注入した。
【0049】
2.異組成基板の貼り合わせ
異組成基板20として、直径が2インチ(5.08cm)で厚さが400μmのサファイア基板を準備した。
【0050】
図1(B)を参照して、水素イオンが注入されたGaNバルク結晶10のN原子主表面を塩素ガスでエッチングして清浄面とした。サファイア基板(異組成基板20)の主表面をアルゴンガスでエッチングして清浄面とした。
【0051】
水素イオンが注入されたGaNバルク結晶10の清浄化されたN原子主表面と、サファイア基板(異組成基板20)の清浄化された主表面とを、表面活性化法により、貼り合わせた。
【0052】
3.GaN薄膜の形成
図1(C)を参照して、サファイア基板(異組成基板20)に貼り合わされたGaNバルク結晶10を、窒素雰囲気中で60℃で熱処理することにより、GaNバルク結晶10を水素イオンが注入された上記深さの面において分離して、サファイア基板(異組成基板20)上に貼り合わされたGaN薄膜10aを形成することにより、サファイア基板(異組成基板20)にGaN薄膜10aが貼り合わされたGaN薄膜貼り合わせ基板1を得た。
【0053】
得られたGaN薄膜貼りあわせ基板1について、GaN薄膜の厚さTDは断面SEM像観察により測定したところ0.3μmであり、GaN薄膜の水素シート濃度はSIMSにより測定したところ5×1015cm-2であり、GaN薄膜の転位密度は薬液処理後のエッチピット観察により測定したところ1×106cm-2、GaN薄膜のキャリア濃度はホール測定により測定したところ5×1014cm-3、GaN薄膜のシート抵抗はホール測定により測定したところ1×105Ω/□であった。このように、GaN薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10aの厚さTDは、GaNバルク結晶10に注入される水素イオンの深さDとほぼ同じであった。また、GaN薄膜10aの水素シート濃度は、GaNバルク結晶10に注入した水素イオンの平均注入量とほぼ同じであった。
【0054】
4.GaN系高電子移動度トランジスタの製造
図1(D)を参照して、GaN薄膜貼り合わせ基板1のGaN薄膜10a上に、MOCVD法により、GaN系半導体層30として厚さ3μmのi型GaN層32および厚さ20nmのi型Al0.25Ga0.75N層34を順次成長させた。
【0055】
図1(E)を参照して、i型Al0.25Ga0.75N層34上に、フォトリソグラフィ法およびリフトオフ法を用いて、ソース電極42、ドレイン電極44、およびゲート電極46を形成した。ここで、ソース電極42およびドレイン電極44は、いずれも厚さ50nmのTi層、厚さ100nmのAl層および厚さ200nmのAu層を積層し、800℃で30秒間熱処理することにより合金化することにより形成した。ゲート電極46は、厚さ300μmのAu層を、ゲート幅が2μm、ゲート長さが150μmになるように形成した。
【0056】
(実施例2)
GaNバルク結晶10に水素イオンを平均注入量(平均ドーズ量)が1×1015cm-2で注入したこと以外は、実施例1と同様にして、GaN薄膜貼り合わせ基板1を得た。得られたGaN薄膜貼り合わせ基板1は、GaN薄膜の厚さTDが0.3μmであり、GaN薄膜の水素シート濃度が5×1015cm-2であり、GaN薄膜の転位密度が1×106cm-2であり、GaN薄膜のキャリア濃度が5×1014cm-3であり、GaN薄膜のシート抵抗が5×104Ω/□であった。
【0057】
(実施例3)
GaNバルク結晶10に水素イオンを平均注入量(平均ドーズ量)が1×1017cm-2で注入したこと以外は、実施例1と同様にして、GaN薄膜貼り合わせ基板1を得た。得られたGaN薄膜貼り合わせ基板1は、GaN薄膜の厚さTDが0.3μmであり、GaN薄膜の水素シート濃度が1×1017cm-2であり、GaN薄膜の転位密度が1×107cm-2であり、GaN薄膜のキャリア濃度が5×1014cm-3以下であり、GaN薄膜のシート抵抗が2×106Ω/□であった。
【0058】
(比較例1)
GaNバルク結晶10に水素イオンを平均注入量(平均ドーズ量)が1×1013cm-2で注入したこと以外は、実施例1と同様にして、GaN薄膜貼り合わせ基板1を得た。得られたGaN薄膜貼り合わせ基板1は、GaN薄膜の厚さTDが0.3μmであり、GaN薄膜の水素シート濃度が1×1013cm-2であり、GaN薄膜の転位密度が1×106cm-2であり、GaN薄膜のキャリア濃度が 5×1016cm-3であり、GaN薄膜のシート抵抗が1×102Ω/□であった。
【0059】
上記の実施例1〜3および比較例1について、GaNバルク結晶に注入した水素イオンの平均注入量とGaN薄膜のシート抵抗との関係を図4に示した。図4に示すように、GaNバルク結晶に注入した水素イオンの平均注入量を1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下とすることにより、GaN薄膜のシート抵抗が1×104Ω/□以上のGaN薄膜貼り合わせ基板およびGaN系HEMTが得られ、かかるGaN系HEMTが高性能であることがわかった。
【0060】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 GaN薄膜貼り合わせ基板、2 GaN系HEMT、10,10b GaNバルク結晶、10a GaN薄膜、10i 面、20 異組成基板、30 GaN系半導体層、32 i型GaN層、34 i型Al0.25Ga0.75N層、42 ソース電極、44 ドレイン電極、46 ゲート電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法であって、
GaNバルク結晶の主表面から0.1μm以上100μm以下の深さの面に、水素イオンを平均注入量が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下で注入する工程と、
前記水素イオンが注入された前記GaNバルク結晶の前記主表面に、GaNと化学組成が異なる異組成基板を貼り合わせる工程と、
前記GaNバルク結晶を熱処理することにより、前記GaNバルク結晶を前記水素イオンが注入された前記深さの面において分離して、前記異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜を形成する工程と、を含むGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法。
【請求項2】
GaN系高電子移動度トランジスタの製造方法であって、
請求項1のGaN薄膜貼り合わせ基板の製造方法により製造された前記GaN薄膜貼り合わせ基板の前記GaN薄膜上に、少なくとも1層のGaN系半導体層を成長させる工程を含むGaN系高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項3】
GaNと化学組成が異なる異組成基板と、前記異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜と、を含み、
前記GaN薄膜は、その厚さが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であるGaN薄膜貼り合わせ基板。
【請求項4】
前記GaN薄膜の転位密度が1×109cm-2以下である請求項3に記載のGaN薄膜貼り合わせ基板。
【請求項5】
前記GaN薄膜のキャリア濃度が1×1015cm-3以下である請求項3または請求項4に記載のGaN薄膜貼り合わせ基板。
【請求項6】
前記GaN薄膜のシート抵抗が1×104Ω/□以上である請求項3から請求項5のいずれかに記載のGaN薄膜貼り合わせ基板。
【請求項7】
GaNと化学組成が異なる異組成基板と、前記異組成基板上に貼り合わされたGaN薄膜と、前記GaN薄膜上に形成された少なくとも1層のGaN系半導体層と、を含み、
前記GaN薄膜は、その厚さが0.1μm以上100μm以下であり、その水素シート濃度が1×1014cm-2以上3×1017cm-2以下であるGaN系高電子移動度トランジスタ。
【請求項8】
前記GaN薄膜の転位密度が1×109cm-2以下である請求項7に記載のGaN系高電子移動度トランジスタ。
【請求項9】
前記GaN薄膜のキャリア濃度が1×1015cm-3以下である請求項7または請求項8に記載のGaN系高電子移動度トランジスタ。
【請求項10】
前記GaN薄膜のシート抵抗が1×104Ω/□以上である請求項7から請求項9のいずれかに記載のGaN系高電子移動度トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−243792(P2012−243792A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109233(P2011−109233)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】