説明

p53突然変異体の安定化において使用するための化合物

Y220C突然変異を保有するp53タンパク質の安定化において使用するための、式(I):
【化1】


の化合物
(式中、XはCR及びNから選択され、RN1はH、及びSH又はハロによって置換されていてもよいC1〜4アルキルから選択され、RG1はH及びSHから選択され、RC2はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、RC3はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、RはH、OH及びNHから選択され、RC4は(i)必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、(ii)C(=O)NRN5N6(式中、RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、(iii)C(=O)ORO1(式中、RO1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、(iv)C(=O)NHNHSOS1(式中、RS1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、(v)OC(=O)RC8(式中、RC8はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、(vi)OC(=O)NRN7N8(式中、RN7及びRN8は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN7及びRN8と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、並びに(vii)C(=O)CHNH C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択され、RC5はH、OH及びNHから選択され、又はRC4及びRC5が、それらが結合する炭素原子と共に、5個若しくは6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【化2】


(式中、QはO、N又はCRQ1=CRQ2(式中、RQ1及びRQ2は独立してH、OH及びNHから選択される)を表す)の芳香環を形成し、RC6はH、OH及びNHから選択され、RC7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され、RN2及びRN3は独立してII、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成し、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)から選択され、RC4及びRC5が結合していない場合、RC3をさらにOR02(式中、RO2はC1〜4アルキル基である)及びC(=O)ORO3(式中、RO3はC1〜4アルキル基である)から選択することができ、RC2をさらにハロから選択することができる)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p53タンパク質分子に結合する能力を有する化合物、及びかかる化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍抑制タンパク質p53は、細胞周期を制御し、癌の発生の予防において重要な役割を果たす393個のアミノ酸から成る転写因子である。p53は、紫外線照射、低酸素状態及びDNA損傷等の細胞ストレスに応答して、G1及びG2細胞周期停止並びにアポトーシスと関連する多数の遺伝子の転写を誘導する(参照文献1〜参照文献3)。約50%のヒト癌において、p53遺伝子におけるミスセンス突然変異の結果としてp53が不活性化されている(参照文献4、参照文献5)。
【0003】
p53の多機能性は、その構造の複雑さに反映されている。p53四量体の各々の鎖は、幾つかのドメインから構成される。明確に規定されたDNA結合ドメイン及び四量体化ドメイン、並びに非常に流動的な、ほとんど構造化されていない領域が存在する(参照文献6〜参照文献11)。大抵のp53癌突然変異は、このタンパク質のDNA結合コアドメインに位置する(参照文献4)。このドメインは、その同族DNAとの複合体においてはX線結晶学によって構造的に特徴づけられており(参照文献6)、その溶液中の遊離形態においてはNMRによって構造的に特徴づけられている(参照文献12)。このドメインは、DNA結合表面の基本骨格となる、中央の2つの逆平行βシートのβサンドイッチから成る。DNA結合表面は、亜鉛イオン及びループ−シート−ヘリックスモチーフによって安定化される2つのβターンループ(L2及びL3)から構成される。これらの構造要素は共に、正荷電アミノ酸に富む伸長DNA結合表面を形成し、様々なp53応答エレメントと特異的に接触する。ヒト癌において最も頻繁に突然変異する6つのアミノ酸残基は、DNA結合表面内又はその近くに位置する(www-p53.iarc.frのp53突然変異データベースのリリース(release)R10を参照されたい)(参照文献4)。これらの残基は、DNAに直接接触するか、又はDNA結合表面の構造的完全性の維持に一定の役割を果たすかによって、「接触」(Arg248、Arg273)又は「構造」(Arg175、Gly245、Arg249、Arg282)残基として分類される(参照文献6)。
【0004】
しかしながら、癌関連突然変異はDNA結合表面に限定されず、このタンパク質のβサンドイッチ領域においても見られる。DNA結合表面以外の最も一般的な突然変異はY220Cである。Y220Cは、β鎖S7とS8とを接続するターンの始まりにあるβサンドイッチの末端部に位置する。Tyr220のベンゼン部分は、βサンドイッチの疎水性コアの一部を形成し、一方でヒドロキシル基は溶媒の方を向いている。
【0005】
体温でわずかにしか安定でないp53が、非常に動的で本質的に不安定なものへと進化したという証拠が増えている(参照文献12)。
【0006】
「T−p53C」と称される、p53の熱安定性の機能的合成変異体が使用されてきた。この変異体は置換M133L、V203A、N239Y及びN268Dを有する。それ以外は本質的に野生型の特徴を有するこの変異体は、X線結晶学によるそれらの構造の決定を可能にする形態のp53の様々な既知の発癌突然変異を保有するベクターとして使用されてきた。
【0007】
Y220C突然変異を有するT−p53Cの構造が記載されている(参照文献13)。220位のチロシンと共に、Tyr−220のベンゼン部分はβサンドイッチの疎水性コアの一部を形成し、一方でヒドロキシル基は溶媒の方を向いている。システインが存在する突然変異体においては、突然変異は規定の位置に水分子で満たされた溶媒が接近可能な亀裂を生じさせるが、コアドメインの全体構造は無傷なままである。突然変異時の構造変化は、T−p53C−Y220Cにおいて野生型に既存の2つの幾らか浅い表面亀裂を連結し、突然変異部位がその最深部である、長く広がった裂け目を形成する。βサンドイッチのコア中に位置する、隣接する疎水性側鎖の位置は大きく移動することはない。しかしながら、この突然変異は、疎水性相互作用の喪失及びこれらの疎水性コア残基の最適以下の(suboptimal)パッキングをもたらす。しかし、構造全体を通して0.9Åを超えるCα変位はない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、インドール、カルバゾール又は関連の骨格を含有する多数の化合物がT−p53C−Y220Cに結合し、その融解温度を上昇させるようタンパク質を安定化することを発見した。
【0009】
したがって一態様では、本発明は、Y220C突然変異を保有するp53タンパク質を安定化する方法であって、p53を、式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
の化合物(並びにその異性体、塩、溶媒和物、保護形態及びプロドラッグ)と接触させることを含む、方法を提供する
(式中、XはCR及びNから選択され、
N1はH、及びSH又はハロによって置換されていてもよいC1〜4アルキルから選択され、
C1はH及びSHから選択され、
C2はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
C3はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
はH、OH及びNHから選択され、
C4
(i)必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、
(ii)C(=O)NRN5N6(式中、RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、
(iii)C(=O)ORO1(式中、RO1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(iv)C(=O)NHNHSOS1(式中、RS1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(v)OC(=O)RC8(式中、RC8はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(vi)OC(=O)NRN7N8(式中、RN7及びRN8は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN7及びRN8と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、並びに
(vii)C(=O)CHNH、C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択され、
C5はH、OH及びNHから選択され、
又はRC4及びRC5が、それらが結合する炭素原子と共に、5個若しくは6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、QはO、N又はCRQ1=CRQ2(式中、RQ1及びRQ2は独立してH、OH及びNHから選択される)を表す)の芳香環を形成し、
C6はH、OH及びNHから選択され、
C7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成し、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)から選択され、
C4及びRC5が結合していない場合、RC3をさらにORO2(式中、RO2はC1〜4アルキル基である)及びC(=O)ORO3(式中、RO3はC1〜4アルキル基である)から選択することができ、RC2をさらにハロから選択することができる)。
【0014】
別の態様では、本発明は、p53がY220C突然変異を保有している細胞を処理する方法であって、該細胞を式(I)の化合物と接触させることを含む、方法を提供する。
【0015】
上記態様は、in vivo又はin vitroで実行することができる。
【0016】
別の態様では、本発明は、p53がY220C突然変異を保有している病変又は腫瘍を有する被験体を治療する方法であって、該被験体に式(I)の化合物を投与することを含む、方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、p53がY220C突然変異を保有している病変又は腫瘍を有する被験体を治療する方法において使用するための式(I)の化合物を提供する。
【0018】
本発明は、Y220C突然変異を保有するp53に対する分子の結合を決定する方法であって、該分子を、式(I)の化合物と競合させて該p53と接触させること、及び該化合物のいずれか一方の結合又は変位を測定することを含む、方法をさらに提供する。本発明のこの態様では、化合物の一方又は両方が、、放射標識、発色団、フルオロフォア等の標識、又は磁気共鳴法を用いた競合ベースの19F−スクリーニングのためにフッ素官能基を保有し得る。
【0019】
本発明の別の態様は、式(I)の化合物を、薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明の別の態様は、治療方法において使用するための式(I)の化合物を提供する。
【0021】
本発明のさらなる態様は、式(I)の範囲内の新規の化合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の化合物PK083との複合体における、T−p53C−Y220Cの結晶構造を様々に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
アルキル:本明細書中で使用される場合、「アルキル」という用語は、(特に指定のない限り)1個〜20個の炭素原子を有する炭化水素化合物の炭素原子から水素原子を分離する(removing)ことによって得られる、脂肪族であっても又は脂環式であってもよく、飽和であっても又は不飽和(例えば部分不飽和、完全不飽和)であってもよい一価の部分に関する。したがって、「アルキル」という用語は、下記で論考されるアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル(cycloalkyenyl)、シクロアルキニル(cylcoalkynyl)等のサブクラスを含む。
【0024】
アルキル基との関連においては、接頭辞(例えばC1〜4、C1〜7、C2〜7、C3〜7等)は、炭素原子数又は炭素原子数の範囲を表す。例えば、「C1〜4アルキル」という用語は、本明細書中で使用される場合、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基に関する。アルキル基の群の例としては、C1〜4アルキル(「低級アルキル」)及びC1〜7アルキルが挙げられる。最初の接頭辞は他の限定によって変化し得ることに留意されたい。例えば、不飽和アルキル基については、最初の接頭辞は少なくとも2でなくてはならず、環状アルキル基については、最初の接頭辞は少なくとも3でなくてはならない等である。
【0025】
(非置換)飽和アルキル基の例としては、メチル(C)、エチル(C)、プロピル(C)、ブチル(C)、ペンチル(C)、ヘキシル(C)、ヘプチル(C)、オクチル(C)、ノニル(C)、デシル(C10)、ウンデシル(C11)及びドデシル(C12)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
(非置換)飽和直鎖アルキル基の例としては、メチル(C)、エチル(C)、n−プロピル(C)、n−ブチル(C)、n−ペンチル(アミル)(C)、n−ヘキシル(C)及びn−ヘプチル(C)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
(非置換)飽和分岐アルキル基の例としては、イソプロピル(C)、イソブチル(C)、sec−ブチル(C)、tert−ブチル(C)、イソペンチル(C)及びネオペンチル(C)が挙げられる。
【0028】
アルケニル:本明細書中で使用される場合、「アルケニル」という用語は、1つ又は複数の炭素−炭素二重結合を有するアルキル基に関する。アルケニル基の群の例としては、C2〜4アルケニル、C2〜7アルケニル及びC2〜12アルケニルが挙げられる。
【0029】
(非置換)不飽和アルケニル基の例としては、エテニル(ビニル、−CH=CH)、1−プロペニル(−CH=CH−CH)、2−プロペニル(アリル、−CH−CH=CH)、イソプロペニル(1−メチルビニル、−C(CH)=CH)、ブテニル(C)、ペンテニル(C)及びへキセニル(C)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
アルキニル:本明細書中で使用される場合、「アルキニル」という用語は、1つ又は複数の炭素−炭素三重結合を有するアルキル基に関する。アルキニル基の群の例としては、C2〜4アルキニル、C2〜7アルキニル及びC2〜12アルキニルが挙げられる。
【0031】
(非置換)不飽和アルキニル基の例としては、エチニル(ethynyl)(エチニル(ethinyl)、−C≡CH)及び2−プロピニル(プロパルギル、−CH−C≡CH)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
シクロアルキル:本明細書中で使用される場合、「シクロアルキル」という用語は、シクリル(cyclyl)基でもあるアルキル基、すなわち炭素環式化合物の炭素環(飽和であっても又は不飽和(例えば部分不飽和、完全不飽和)であってもよい)の脂環式環原子から水素原子を分離することによって得られる、3個〜7個の環原子を含む(特に指定のない限り)3個〜7個の炭素原子を有する一価の部分に関する。したがって、「シクロアルキル」という用語は、シクロアルケニル及びシクロアルキニルのようなサブクラスを含む。好ましくは、各々の環は3個〜7個の環原子を有する。シクロアルキル基の群の例としては、C3〜7シクロアルキル及びC3〜12シクロアルキルが挙げられる。
【0033】
シクロアルキル基の例としては、
飽和単環式炭化水素化合物:
シクロプロパン(C)、シクロブタン(C)、シクロペンタン(C)、シクロへキサン(C)、シクロヘプタン(C)、メチルシクロプロパン(C)、ジメチルシクロプロパン(C)、メチルシクロブタン(C)、ジメチルシクロブタン(C)、メチルシクロペンタン(C)、ジメチルシクロペンタン(C)、メチルシクロへキサン(C)、ジメチルシクロへキサン(C)及びメンタン(C10)、
不飽和単環式炭化水素化合物:
シクロプロペン(C)、シクロブテン(C)、シクロペンテン(C)、シクロヘキセン(C)、メチルシクロプロペン(C)、ジメチルシクロプロペン(C)、メチルシクロブテン(C)、ジメチルシクロブテン(C)、メチルシクロペンテン(C)、ジメチルシクロペンテン(C)、メチルシクロヘキセン(C)及びジメチルシクロヘキセン(C)、
飽和多環式炭化水素化合物:
ツジャン(C10)、カラン(C10)、ピナン(C10)、ボルナン(C10)、ノルカラン(C)、ノルピナン(C)、ノルボルナン(C)、アダマンタン(C10)及びデカリン(デカヒドロナフタレン)(C10)、並びに
不飽和多環式炭化水素化合物:
カンフェン(C10)、リモネン(C10)及びピネン(C10)から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
ヘテロシクリル:本明細書中で使用される場合、「ヘテロシクリル」という用語は、複素環式化合物の環原子から水素原子を分離することによって得られる、(特に指定のない限り)3個〜7個の環原子を有する(そのうち1個〜4個が環ヘテロ原子である)一価の部分に関する。好ましくは、各々の環は3個〜7個の環原子を有し、そのうち1個〜4個が環ヘテロ原子である。
【0035】
この関連においては、接頭辞(例えばC3〜7、C5〜6等)は、炭素原子か又はヘテロ原子かを問わず、環原子数又は環原子数の範囲を表す。例えば、「C5〜6ヘテロシクリル」という用語は、本明細書中で使用される場合、5個又は6個の環原子を有するヘテロシクリル基に関する。ヘテロシクリル基の群の例としては、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7ヘテロシクリル及びC5〜6ヘテロシクリルが挙げられる。
【0036】
単環式ヘテロシクリル基の例としては、
:アジリジン(C)、アゼチジン(C)、ピロリジン(テトラヒドロピロール)(C)、ピロリン(例えば3−ピロリン、2,5−ジヒドロピロール)(C)、2H−ピロール又は3H−ピロール(イソピロール、イソアゾール)(C)、ピペリジン(C)、ジヒドロピリジン(C)、テトラヒドロピリジン(C)、アゼピン(C)、
:オキシラン(C)、オキセタン(C)、オキソラン(テトラヒドロフラン)(C)、オキソール(ジヒドロフラン)(C)、オキサン(テトラヒドロピラン)(C)、ジヒドロピラン(C)、ピラン(C)、オキセピン(C)、
:チイラン(C)、チエタン(C)、チオラン(テトラヒドロチオフェン)(C)、チアン(テトラヒドロチオピラン)(C)、チエパン(C)、
:ジオキソラン(C)、ジオキサン(C)及びジオキセパン(C)、
:トリオキサン(C)、
:イミダゾリジン(C)、ピラゾリジン(ジアゾリジン)(C)、イミダゾリン(C)、ピラゾリン(ジヒドロピラゾール)(C)、ピペラジン(C)、
:テトラヒドロオキサゾール(C)、ジヒドロオキサゾール(C)、テトラヒドロイソオキサゾール(C)、ジヒドロイソオキサゾール(C)、モルホリン(C)、テトラヒドロオキサジン(C)、ジヒドロオキサジン(C)、オキサジン(C)、
:チアゾリン(C)、チアゾリジン(C)、チオモルホリン(C)、
:オキサジアジン(C)、
:オキサチオール(C)及びオキサチアン(チオキサン)(C)、並びに
:オキサチアジン(C)から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
置換(非芳香族)単環式ヘテロシクリル基の例としては、環状の糖類、例えばアラビノフラノース、リキソフラノース、リボフラノース及びキシロフラノース(xylofuranse)等のフラノース(C)、並びにアロピラノース、アルトロピラノース、グルコピラノース、マンノピラノース、グロピラノース、イドピラノース、ガラクトピラノース及びタロピラノース等のピラノース(C)から誘導されるものが挙げられる。
【0038】
N含有ヘテロシクリル:本明細書中で使用される場合、「N含有ヘテロシクリル」という用語は、窒素環原子を含有する複素環式化合物の環原子から水素原子を分離することによって得られる、(特に指定のない限り)3個〜7個の環原子を有する(そのうち1個〜4個が環ヘテロ原子である)一価の部分に関する。好ましくは、各々の環は3個〜7個の環原子を有し、そのうち1個〜4個が環ヘテロ原子である。例は上記に提示している。
【0039】
5〜20アリール:本明細書中で使用される場合、「C5〜20アリール」という用語は、C5〜20芳香族化合物(1つの環又は2つ以上の環(例えば縮合した)を有し、5個〜20個の環原子を有し、環(複数可)の少なくとも1つが芳香環である)の芳香環原子から水素原子を分離することによって得られる一価の部分に関する。好ましくは、各々の環は5個〜7個の環原子を有する。
【0040】
環原子は「カルボアリール基」のように全て炭素原子であってもよいが、その場合でも、基が便宜上「C5〜20カルボアリール」基と称される場合もある。
【0041】
環ヘテロ原子を有しないC5〜20アリール基(すなわちC5〜20カルボアリール基)の例としては、ベンゼン(すなわちフェニル)(C)、ナフタレン(C10)、アントラセン(C14)、フェナントレン(C14)及びピレン(C16)から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
代替的には、環原子は、「ヘテロアリール基」のように、1つ又は複数のヘテロ原子(酸素、窒素及び硫黄を含むが、これらに限定されない)を含み得る。この場合、基が便宜上「C5〜20ヘテロアリール」基と称される場合もあり、「C5〜20」は炭素原子か又はヘテロ原子かを問わず、環原子を表す。好ましくは、各々の環は5個〜7個の環原子を有し、そのうち0個〜4個が環ヘテロ原子である。
【0043】
5〜20ヘテロアリール基の例としては、フラン(オキソール)、チオフェン(チオール)、ピロール(アゾール)、イミダゾール(1,3−ジアゾール)、ピラゾール(1,2−ジアゾール)、トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、テトラゾール及びオキサトリアゾールから誘導されるCヘテロアリール基、並びにイソオキサジン、ピリジン(アジン)、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン、例えばシトシン、チミン、ウラシル)、ピラジン(1,4−ジアジン)及びトリアジンから誘導されるCヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
ヘテロアリール基は炭素原子又はヘテロ環原子を介して結合していてもよい。
【0045】
縮合環を含むC5〜20ヘテロアリール基の例としては、ベンゾフラン、イソべンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、イソインドールから誘導されるCヘテロアリール基、キノリン、イソキノリン、ベンゾジアジン、ピリドピリジン(pyridopyridine)から誘導されるC10ヘテロアリール基、アクリジン及びキサンテンから誘導されるC14ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
上記のアルキル基、ヘテロシクリル基及びアリール基は、単独であるか又は別の置換基の一部であるかを問わず、それ自体が、それ自体及び下記に挙げるさらなる置換基から選択される1つ又は複数の基によって必要に応じて置換されていてもよい。
【0047】
ハロ:−F、−Cl、−Br及び−I。
【0048】
ヒドロキシ:−OH。
【0049】
エーテル:−OR(Rはエーテル置換基、例えば、C1〜7アルキル基(C1〜7アルコキシ基とも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルオキシ基とも称される)又はC5〜20アリール基(C5〜20アリールオキシ基とも称される)、好ましくはC1〜7アルキル基である)。
【0050】
ニトロ:−NO
【0051】
シアノ(ニトリル、カルボニトリル):−CN。
【0052】
アシル(ケト):−C(=O)R(Rはアシル置換基、例えばH、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアシル若しくはC1〜7アルカノイルとも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルアシルとも称される)又はC5〜20アリール基(C5〜20アリールアシルとも称される)、好ましくはC1〜7アルキル基である)。アシル基の例としては、−C(=O)CH(アセチル)、−C(=O)CHCH(プロピオニル)、−C(=O)C(CH(ブチリル)及び−C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
カルボキシ(カルボン酸):−COOH。
【0054】
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):−C(=O)OR(Rはエステル置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基(C1〜7アルキルエステル)である)。エステル基の例としては、−C(=O)OCH、−C(=O)OCHCH、−C(=O)OC(CH及び−C(=O)OPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキサミド):−C(=O)NR(R及びRは独立して、アミノ基に関して規定されたようなアミノ置換基である)。アミド基の例としては、−C(=O)NH、−C(=O)NHCH、−C(=O)N(CH、−C(=O)NHCHCH及び−C(=O)N(CHCH、並びにR及びRが、それらが結合する窒素原子と共に、例えばピペリジノカルボニル、モルホリノカルボニル、チオモルホリノカルボニル及びピペラジニルカルボニルにおいて見られるような複素環式構造を形成するアミド基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
アミノ:−NR(R及びRは独立してアミノ置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアミノ若しくはジC1〜7アルキルアミノとも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基若しくはC5〜20アリール基、好ましくはH若しくはC1〜7アルキル基であるか、又は「環状」アミノ基の場合、R及びRは、それらが結合する窒素原子と共に、4個〜8個の環原子を有する複素環式環を形成する)。アミノ基の例としては、−NH、−NHCH、−NHCH(CH、−N(CH、−N(CHCH及び−NHPhが挙げられるが、これらに限定されない。環状アミノ基の例としては、アジリジニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、パーヒドロジアゼピニル、モルホリノ及びチオモルホリノが挙げられるが、これらに限定されない。環状アミノ基はその環上で、本明細書中で規定された置換基のいずれか、例えばカルボキシ、カルボキシレート及びアミドによって置換されていてもよい。
【0057】
アシルアミド(アシルアミノ):−NRC(=O)R(Rはアミド置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはH又はC1〜7アルキル基、最も好ましくはHであり、Rはアシル置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。アシルアミド基の例としては、−NHC(=O)CH、−NHC(=O)CHCH及び−NHC(=O)Phが挙げられるが、これらに限定されない。R及びRは共に、例えばスクシンイミジル、マレイミジル及びフタルイミジル:
【0058】
【化3】

【0059】
において見られるような環状構造を形成し得る。
【0060】
ウレイド:−N(R)CONR(R及びRは独立して、アミノ基に関して規定されたようなアミノ置換基であり、Rはウレイド置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくは水素又はC1〜7アルキル基である)。ウレイド基の例としては、−NHCONH、−NHCONHMe、−NHCONHEt、−NHCONMe、−NHCONEt、−NMeCONH、−NMeCONHMe、−NMeCONHEt、−NMeCONMe、−NMeCONEt及び−NHC(=O)NHPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
アシルオキシ(逆エステル(reverse ester)):−OC(=O)R(Rはアシルオキシ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。アシルオキシ基の例としては、−OC(=O)CH(アセトキシ)、−OC(=O)CHCH、−OC(=O)C(CH、−OC(=O)Ph、−OC(=O)CF及び−OC(=O)CHPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
チオール:−SH。
【0063】
チオエーテル(スルフィド):−SR(Rはチオエーテル置換基、例えばC1〜7アルキル基(C1〜7アルキルチオ基とも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。C1〜7アルキルチオ基の例としては、−SCH及び−SCHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
スルホキシド(スルフィニル):−S(=O)R(Rはスルホキシド置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホキシド基の例としては、−S(=O)CH及び−S(=O)CHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
スルホニル(スルホン):−S(=O)R(Rはスルホン置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホン基の例としては、−S(=O)CH(メタンスルホニル、メシル)、−S(=O)CF、−S(=O)CHCH及び4−メチルフェニルスルホニル(トシル)が挙げられるが、これらに限定されない。スルホン置換基は、場合によっては上記で規定されたようなアミノ基であってもよい。これらの基は「アミノスルホニル」基と称され得る。
【0066】
チオアミド(チオカルバミル):−C(=S)NR(R及びRは独立して、アミノ基に関して規定されたようなアミノ置換基である)。アミド基の例としては、−C(=S)NH、−C(=S)NHCH、−C(=S)N(CH及び−C(=S)NHCHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
スルホンアミノ:−NRS(=O)R(Rはアミノ基に関して規定されたようなアミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基又はC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホンアミノ基の例としては、−NHS(=O)CH、−NHS(=O)Ph及び−N(CH)S(=O)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
シロキシ(シリルエーテル):−OSiR(RはH又はC1〜7アルキル基である)。シリルオキシ基の例としては、−OSiH、−OSiH(CH)、−OSiH(CH、−OSi(CH、−OSi(Et)、−OSi(iPr)、−OSi(tBu)(CH及び−OSi(tBu)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
上述したように、上記で挙げた置換基、例えばC1〜7アルキル、C3〜20ヘテロシクリル及びC5〜20アリールを形成する基は、それ自体が置換されていてもよい。したがって、上記定義は置換された置換基を包含する。
異性体、塩、溶媒和物、保護形態及びプロドラッグ
或る特定の化合物は、シス型及びトランス型;E型及びZ型;c型、t型及びr型;エンド型及びエキソ型;R型、S型及びメソ型;D型及びL型;d型及びl型;(+)型及び(−)型;ケト型、エノール型及びエノレート型;シン型及びアンチ型;シンクリナル型及びアンチクリナル型;α型及びβ型;アキシアル型及びエカトリアル型;舟型、いす型、ねじれ型、エンベロープ型及び半いす型;並びにそれらの組み合わせを含む(がこれらに限定されない)1つ又は複数の特定の幾何異性体型、光学異性体型、鏡像異性体型、ジアステレオマー(diasteriomeric)型、エピマー型、立体異性体型、互変異性型、立体配座型又はアノマー型(以下、「異性体」(又は「異性体形態」)と総称される)で存在し得る。
【0070】
化合物が結晶形態である場合、化合物は多数の異なる多形形態(polymorphic forms)で存在し得る。
【0071】
本明細書中で使用される場合、互変異性型に関して下記で論考される場合を除いて、「異性体」という用語から、構造(structural (or constitutional))異性体(すなわち空間内での原子の位置だけでなく、原子間の結合が異なる異性体)が明確に除外されることに留意されたい。例えば、メトキシ基−OCHへの言及は、その構造異性体であるヒドロキシメチル基−CHOHへの言及とは解釈されない。同様に、オルト−クロロフェニルへの言及は、その構造異性体であるメタ−クロロフェニルへの言及とは解釈されない。しかしながら、或る構造群への言及は、その群の範囲内の構造異性体(structurally isomeric)形態を含み得る(例えば、C1〜7アルキルはn−プロピル及びイソプロピルを含み、ブチルはn−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチルを含み、メトキシフェニルはオルト−メトキシフェニル、メタ−メトキシフェニル及びパラ−メトキシフェニルを含む)。
【0072】
上記の除外は、例えば、以下の互変異性対:ケト/エノール、イミン/エナミン、アミド/イミノアルコール、アミジン/アミジン、ニトロソ/オキシム、チオケトン/エンチオール(enethiol)、N−ニトロソ/ヒドロキシアゾ(hyroxyazo)、及びニトロ/アシニトロにおいて見られるような互変異性型、例えばケト型、エノール型及びエノレート型には関連しない。
【0073】
「異性体」という用語には、1つ又は複数の同位体置換を有する化合物が明確に含まれることに留意されたい。例えば、HはH、H(D)及びH(T)を含む任意の同位体形態であってもよく、Cは12C、13C及び14Cを含む任意の同位体形態であってもよく、Oは16O及び18Oを含む任意の同位体形態であってもよい等である。
【0074】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、その(完全な又は部分的な)ラセミ混合物及び他の混合物を含む、全てのかかる異性体形態を含む。かかる異性体形態の調製方法(例えば不斉合成)及び分離方法(例えば分別結晶及びクロマトグラフ手段)は、当該技術分野で既知であるか、又は本明細書中で教示される方法若しくは既知の方法を、既知の様式で応用することによって容易に得られる。
【0075】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、例えば下記で論考されるようなそのイオン形態及び塩形態も含む。
【0076】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、例えば下記で論考されるようなその溶媒和物も含む。
【0077】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、例えば下記で論考されるようなそのプロドラッグも含む。
【0078】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、例えば下記で論考されるようなその保護形態も含む。
【0079】
特に指定のない限り、特定の化合物への言及は、例えば下記で論考されるようなその種々の多形形態も含む。
【0080】
活性化合物の対応する塩、例えば薬学的に許容される塩を調製する、精製する及び/又は取り扱うのが好都合であるか又は望ましい場合がある。薬学的に許容される塩の例は、Berge, et al., "Pharmaceutically Acceptable Salts", J. Pharm. Sci., 66, 1-19 (1977)において論考されている。
【0081】
例えば、化合物が陰イオン性であるか、又は陰イオン性であり得る官能基(例えば、−COOHは−COOであり得る)を有する場合、塩は好適な陽イオンによって形成され得る。好適な無機陽イオンの例としては、Na及びK等のアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+等のアルカリ土類陽イオン、並びにAl3+等の他の陽イオンが挙げられるが、これらに限定されない。好適な有機陽イオンの例としては、アンモニウムイオン(すなわちNH)及び置換アンモニウムイオン(例えばNH、NH、NHR、NR)が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの好適な置換アンモニウムイオンの例は、エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミン、並びにリシン及びアルギニン等のアミノ酸から誘導されるものである。一般的な第四級アンモニウムイオンの一例はN(CHである。
【0082】
化合物が陽イオン性であるか、又は陽イオン性であり得る官能基(例えば、−NHは−NHであり得る)を有する場合、塩は好適な陰イオンによって形成され得る。好適な無機陰イオンの例としては、以下の無機酸:塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸及び亜リン酸から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。好適な有機陰イオンの例としては、以下の有機酸:酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール(gycolic)酸、ステアリン酸、パルミチン酸、乳酸、リンゴ酸、パモ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、桂皮酸、ピルビン酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセチルオキシ安息香(acetyoxybenzoic)酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、吉草酸及びグルコン酸から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。好適な高分子陰イオンの例としては、以下の高分子酸:タンニン酸、カルボキシメチルセルロースから誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
活性化合物の対応する溶媒和物を調製する、精製する及び/又は取り扱うのが好都合であるか又は望ましい場合がある。「溶媒和物」という用語は、本明細書中では、従来の意味で、溶質(例えば活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒との複合体を指すために使用される。溶媒が水である場合、溶媒和物は便宜上、水和物、例えば一水和物、二水和物、三水和物等と称され得る。
【0084】
活性化合物を化学的に保護された形態で調製する、精製する及び/又は取り扱うのが好都合であるか又は望ましい場合がある。「化学的に保護された形態」という用語は、本明細書中で使用される場合、1つ又は複数の反応性官能基が望ましくない化学反応から保護されている、すなわち保護(protected or protecting)基(マスキング(masked or masiking)基又はブロック(blocked or blocking)基としても知られる)の形態である化合物に関する。反応性官能基を保護することによって、他の保護されていない反応性官能基が関与する反応を、保護基に影響を与えることなく行うことができる。保護基は、通常は後続工程において、分子の残りの部分に実質的に影響を与えることなく除去することができる。例えば、"Protective Groups in Organic Synthesis" (T. Green and P. Wuts; 3rd Edition; John Wiley and Sons, 1999)を参照されたい。
【0085】
例えば、ヒドロキシ基はエーテル(−OR)又はエステル(−OC(=O)R)、例えばt−ブチルエーテル;ベンジル、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)、又はトリチル(トリフェニルメチル)エーテル;トリメチルシリル又はt−ブチルジメチルシリルエーテル;又はアセチルエステル(−OC(=O)CH、−OAc)として保護され得る。
【0086】
例えば、アルデヒド基又はケトン基は、それぞれアセタール又はケタールとして保護され得るが、ここでカルボニル基(>C=O)は、例えば第一級アルコールとの反応によってジエーテル(>C(OR))へと変換される。アルデヒド基又はケトン基は、酸の存在下で大過剰の水を用いた加水分解によって容易に再生される。
【0087】
例えば、アミン基は、例えばアミド又はウレタン、例えばメチルアミド(−NHCO−CH)、ベンジルオキシアミド(−NHCO−OCH、−NH−Cbz)、t−ブトキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Boc)、2−ビフェニル−2−プロポキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Bpoc)、9−フルオレニルメトキシアミド(−NH−Fmoc)、6−ニトロベラトリルオキシアミド(−NH−Nvoc)、2−トリメチルシリルエチルオキシアミド(−NH−Teoc)、2,2,2−トリクロロエチルオキシアミド(−NH−Troc)、アリルオキシアミド(−NH−Alloc)、2(−フェニルスルホニル)エチルオキシアミド(−NH−Psec)、又は好適な場合にはN−オキシド(>NO・)として保護され得る。
【0088】
例えば、カルボン酸基はエステル、例えばC1〜7アルキルエステル(例えばメチルエステル、t−ブチルエステル)、C1〜7ハロアルキルエステル(例えばC1〜7トリハロアルキルエステル)、トリC1〜7アルキルシリル−C1〜7アルキルエステル、若しくはC5〜20アリール−C1〜7アルキルエステル(例えばベンジルエステル、ニトロベンジルエステル)、又はアミド、例えばメチルアミドとして保護され得る。
【0089】
例えば、チオール基はチオエーテル(−SR)、例えばベンジルチオエーテル、アセトアミドメチルエーテル(−S−CHNHC(=O)CH)として保護され得る。
【0090】
活性化合物をプロドラッグの形態で調製する、精製する及び/又は取り扱うのが好都合であるか又は望ましい場合がある。「プロドラッグ」という用語は、本明細書中で使用される場合、(例えばin vivoで)代謝されると所望の活性化合物を生じる化合物に関する。典型的には、プロドラッグは不活性であるか、又は活性化合物よりも活性が低いが、有利な取扱特性、投与特性又は代謝特性をもたらし得る。
【0091】
例えば、幾つかのプロドラッグは活性化合物のエステル(例えば生理学的に許容される、代謝的に不安定な(metabolically labile)エステル)である。代謝中にエステル基(−C(=O)OR)が切断されて活性薬物を生じる。かかるエステルは、例えば親化合物中の任意のカルボン酸基(−C(=O)OH)のエステル化(適切な場合には、事前に親化合物中に存在する任意の他の反応性基を保護し、続いて必要に応じて脱保護する)によって形成することができる。かかる代謝的に不安定なエステルの例としては、RがC1〜20アルキル(例えば−Me、−Et)、C1〜7アミノアルキル(例えばアミノエチル、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、2−(4−モルホリノ)エチル)並びにアシルオキシ−C1〜7アルキル(例えばアシルオキシメチル、アシルオキシエチル、例えばピバロイルオキシメチル、アセトキシメチル、1−アセトキシエチル、1−(1−メトキシ−1−メチル)エチル−カルボニルオキシエチル(carbonxyloxyethyl)、1−(ベンゾイルオキシ)エチル、イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル、1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル、1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル及び1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)であるものが挙げられる。
【0092】
さらに好適なプロドラッグ形態としては、ホスホン酸塩及びグリコール酸塩が挙げられる。特に、ヒドロキシ基(−OH)を、クロロジベンジルホスファイトと反応させた後、水素化して、ホスホン酸基−O−P(=O)(OH)を形成することによってホスホン酸プロドラッグとすることができる。かかる基は代謝中にホスファターゼ(phosphotase)酵素によって取り除かれ、ヒドロキシ基を有する活性薬物が生じ得る。
【0093】
また、幾つかのプロドラッグは酵素によって活性化され、活性化合物、又はさらなる化学反応を受けて活性化合物を生じる化合物を生じる。例えば、プロドラッグは糖誘導体若しくは他のグリコシド抱合体(conjugate)であっても、又はアミノ酸エステル誘導体であってもよい。
さらなる実施形態
N1
幾つかの実施形態では、RN1はH及び非置換C1〜4アルキルから選択される。特に、RN1はH、エチル及びプロピル(例えばイソプロピル)から選択され得る。他の実施形態では、RN1はメチル及びシクロプロピルから選択され得る。
C1
幾つかの実施形態では、RC1はHである。
C2
幾つかの実施形態では、RC2はHである。
【0094】
他の実施形態では、RC2は必要に応じて置換されたC1〜7アルキルであり、ここで必要に応じた置換基はC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択され得る。
【0095】
C2がハロである場合、ハロはブロモであり得る。
C3
幾つかの実施形態では、RC3はHである。
【0096】
他の実施形態では、RC3は必要に応じて置換されたC1〜7アルキルであり、ここで必要に応じた置換基はC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択され得る。
【0097】
C3がORO2である場合、RO2はメチル基であり得る。
【0098】

幾つかの実施形態では、RはHである。
C4及びRC5
幾つかの実施形態では、RC4は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリルであり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。
【0099】
これらの実施形態では、RC4は窒素環原子又は炭素環原子を介して結合していてもよい。RC4が炭素原子を介して結合している場合、RC4は単環式、二環式又は三環式であり得る。RC4が単環式である場合、RC4は5員環又は6員環、例えばピロリジン、ピペリジン、ピペラジンであり得る。特に注目される基はピロリン−2,5−ジオンをベースとし、その窒素環原子は、例えばC5〜6アリール基(例えば4−ヒドロキシフェニル)によって置換されていてもよい。RC4が三環式である場合、RC4はヘキサヒドロ−2,5a−ジアザ−シクロペンタ[c]ペンタレン−1−オンであり得る。
【0100】
他の実施形態では、RC4はC(=O)NRN5N6であり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され得るか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する。これらの実施形態の幾つかにおいては、RN5はH及びC1〜4アルキル(例えばメチル、エチル、プロピル)から選択され、RN6はH、必要に応じて置換されたC1〜4アルキル(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル)から選択され、ここで必要に応じた置換基はヒドロキシ、アミノ(例えばジメチルアミノ)及びC5〜9アリール(例えばフェニル、インドリル)、並びに必要に応じて置換されたC5〜6ヘテロシクリル(例えばピペリジニル)(必要に応じた置換基としてはC1〜4アルキル(例えばメチル)を挙げることができる)から選択され得る。これらの実施形態の他のものにおいては、RN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基(ピペリジニル及びピペラジニルであり得る)を形成するが、これは1つ又は複数(例えば2つ)の必要に応じた置換基であってもよい。必要に応じた置換基はC1〜7アルキル(例えばメチル、ヒドロキシエチル)、ヒドロキシ、C5〜7ヘテロシクリル(例えばモルホリノ、ヒドロキシピペリジニル、ピペリジニル、ヒドロキシエチルピペラジニル(hyroxyethylpiperazinyl)、ピペラジニル)、C5〜7アリール(例えばトリアゾリル、フェニル)、アミノ(ピリジルエチル−、メチル−アミノ)及びアシル(例えばチオフェニルカルボニル)から選択され得る。
【0101】
他の実施形態では、RC4はC(=O)ORO1であり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。RO1は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、好ましくは必要に応じて置換されたC1〜4アルキル、例えば必要に応じて置換されたメチル及びエチルであり得る。必要に応じた置換基はエーテル、オキシウレイド(−CON(R)CONR)、C5〜6アリール及びアミドから選択され得る。アルキルの必要に応じた置換基がエーテルである場合、これはC5〜6アリールオキシ、例えば、フェノキシであり得る。アリールオキシ基自体が、例えばアシル(例えばメチルカルボニル)基によってさらに置換されていてもよい。アルキルの必要に応じた置換基(substitutent)がオキシウレイドである場合、ウレイド置換基(R)はHであり、アミノ置換基(R、R)はHと、H及びC1〜7アルキル(例えばメチル、エチル、エチレニル、シクロペンチル)から選択される基とであり得る。アルキルの必要に応じた置換基がC5〜6アリールである場合、これは1つ又は複数の窒素環原子を含有するCアリール基(例えばピリジン、ピラジン、トリアジン)であり得る。C5〜6アリール基自体が、例えばアミノ基(例えばNH、NMe)によって置換されていてもよい。アルキルの必要に応じた置換基がアミドである場合、アミノ置換基はC1〜7アルキル基(例えばCHCF)又はC5〜6アリール基、例えばオキサゾリル等のCアリール基であり得る。
【0102】
他の実施形態では、RC4はC(=O)NHNHSOS1であり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。RS1は必要に応じて置換されたC5〜20アリール基、より好ましくは必要に応じて置換されたC5〜6アリール基、例えばフェニルであり得る。必要に応じた置換基としては、アルコキシ(例えばOCF)、エーテル(例えばC(=O)OMe)及びC1〜7アルキル(例えばCF)を挙げることができる。
【0103】
他の実施形態では、RC4はOC(=O)NRN7N8であり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。RN7はHであり得る。RN8は必要に応じて置換されたC5〜20アリール、例えばC5〜6アリール(フェニル等)であり得る。必要に応じた置換基としてはハロ(例えばCl)を挙げることができる。
【0104】
他の実施形態では、RC4はOC(=O)RC8であり、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。RC8は必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル(例えば2,3−ジヒドロ−ベンゾ[1,4]ジオキシニル)であり得る。
【0105】
他の実施形態では、RC4はC(=O)CHNH、C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択され、RC5はH、OH及びNHから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいては、RC5はHである。
【0106】
他の実施形態では、RC4及びRC5は、それらが結合する炭素原子と共に、5個又は6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【0107】
【化4】

【0108】
(式中、QはO、N又はCRQ1=CRQ2(式中、RQ1及びRQ2は独立してH、OH及びNHから選択される)を表し、
C6はH、OH及びNHから選択され、
C7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4から選択される)の芳香環を形成する。
【0109】
このため、芳香環はベンゼン、フラン又はピロールであり得る。
【0110】
幾つかの実施形態では、RC6はHである。
【0111】
幾つかの実施形態では、RC7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリルである。これらの実施形態では、RC7は窒素環原子又は炭素環原子を介して結合していてもよい。RC7が炭素原子を介して結合している場合、RC7は単環式、二環式又は三環式であり得る。RC7が単環式である場合、RC7は5員環又は6員環、例えばピロリジン、ピペリジン、ピペラジンであり得る。特に注目される基はピロリン−2,5−ジオンをベースとし、その窒素環原子は、例えばC5〜6アリール基(例えば4−ヒドロキシフェニル)によって置換されていてもよい。RC7が三環式である場合、RC7はヘキサヒドロ−2,5a−ジアザ−シクロペンタ[c]ペンタレン−1−オンであり得る。
【0112】
他の実施形態では、RC7はNHC(=O)RC9(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)である。RC9は、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され得る。
【0113】
これらの実施形態の幾つかにおいては、RC9はC1〜7アルキル基、特にC1〜4アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル)である。必要に応じた置換基はC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ、チオエステル及びチオールから選択され得る。特に、必要に応じた置換基はアシルオキシ、C5〜7アリール、アミノ、チオエステル及びC3〜7ヘテロシクリルから選択される。RC9置換基がアシルオキシである場合、アシルオキシ置換基はC5〜6ヘテロシクリル(例えばピロリジノン)及びC5〜6アリール(例えばフェニル、フラニル)から選択され得るが、ここでC5〜6アリール基はC5〜6アリール(例えばテトラゾリル)、アシルアミド(例えばシアノメチルアシルアミノ)、ニトロ及びエステル(例えばメチルエステル)から選択される1つ又は複数の置換基(例えば2つの置換基)を有していてもよい。C5〜6アリール基のさらに可能性のある置換基としては、スルホンアミドが挙げられる。RC9置換基(subsituent)がアシルオキシである場合、アシルオキシ置換基は、例えばエステル、アシルアミド又はC5〜6アリールによってそれ自体が置換されていてもよいC1〜4アルキル(例えばメチル、エチレニル)からも選択され得る。RC9置換基がC5〜7アリールである場合、これは例えばアミノスルホニル基(例えばアミノ基がモルホリノであるもの)を有し得るCヘテロアリール基(例えばチオフェニル)であっても、又はCアリール基(例えばピリミジノン)であってもよい。RC9置換基がアミノである場合、アミノ置換基は独立してC1〜4アルキル(例えばメチル、エチル、イソプロピル)から選択され得る。アミノ置換基(susbtituents)の一方又は両方が、それ自体が例えばアミド(例えば−C(=O)NH)によって置換されていてもよい。
【0114】
代替的には、アミノ基は環状、例えばモルホリノ又はピペラジニル(それ自体がN−置換基、例えばアミドメチル(例えば−CH−C(=O)NH)を有していてもよい)であり得る。RC9置換基がチオエステルである場合、エステル置換基はCアリール(例えばチアジアゾール(thiadazole))又はCアリール(例えばピリミジノン)であり得るが、これらの基はアミノ(例えば−NH)置換基を有していてもよい。RC9置換基がC3〜7ヘテロシクリルである場合、これはジオキソイミダゾリジニル(dioxo-imidzaolininyl)であり得る。
【0115】
これらの実施形態の他のものにおいては、RC9はC5〜20アリール基、特にC5〜6アリール基、例えばフェニルである。必要に応じた置換基はC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択され得る。幾つかの実施形態では、(例えばアミド(例えば−C(=O)NH)によって)それ自体がさらに置換されていてもよい単一の必要に応じた置換基、例えばエーテル(例えばメトキシ)が存在する。
【0116】
これらの実施形態の他のものにおいては、RC9はC3〜20ヘテロシクリル基、特にC4〜6ヘテロシクリル基、例えば5,6−ジヒドロ−[1,4]ジオキシニルである。
【0117】
他の実施形態では、RC7はCHNRN2N3(式中、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)である。
【0118】
幾つかの実施形態では、RN2はH及びC1〜4アルキル(例えばメチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、プロペニル)から選択され、RN3は必要に応じて置換されたC1〜4アルキル(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル)から選択されるが、ここで必要に応じた置換基はヒドロキシ、アミノ(例えばジメチルアミノ、エトキシアミノ)及びC5〜9アリール(例えばフェニル、インドリル)、並びに必要に応じて置換されたC5〜6ヘテロシクリル(例えばピペリジニル)(必要に応じた置換基としてはC1〜4アルキル(例えばメチル)を挙げることができる)から選択され得る。
【0119】
他の実施形態では、RN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する。これらの実施形態の幾つかにおいては、N含有C5〜7ヘテロシクリル基は、1つ又は複数(例えば2つ)の必要に応じた置換基を有していてもよいピペリジニル及びピペラジニルであり得る。必要に応じた置換基はC1〜7アルキル(例えばメチル、ヒドロキシエチル)、ヒドロキシ、C5〜7ヘテロシクリル(例えばモルホリノ、ヒドロキシピペリジニル、ピペリジニル、ヒドロキシエチルピペラジニル、ピペラジニル、イミダゾリノニル)、C5〜7アリール(例えばトリアゾリル、フェニル)、アミノ(ピリジルエチル−、メチル−アミノ)及びアシル(例えばチオフェニルカルボニル)から選択され得る。必要に応じた置換基はスルホニルからも選択され得るが、この場合スルホン置換基はC5〜7アリール基(例えばフェニル)であり得る。必要に応じた置換基(subsitituent)がC1〜7アルキル基(例えばメチル)である場合、これは例えばフェニル等のC5〜7アリール基によって置換されていてもよい。これらの実施形態の他のものにおいては、N含有C5〜7ヘテロシクリル基はホモピペリジニル及びホモピペラジニルであり得るが、これらは論考されたピペリジニル(piperdinyl)基及びピペラジニル基と同様の形で置換されていてもよい。
【0120】
さらなる実施形態では、RC7はNHC(=S)NHRN4(式中、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル(例えばC1〜4アルキル)、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル(例えばC5〜7ヘテロシクリル)及び必要に応じて置換されたC5〜20アリール(例えばC5〜7アリール)から選択される)である。これらの基の必要に応じた置換基はC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ、アミノスルホニル及びチオールから選択され得る。これらの実施形態の幾つかにおいては、RN4は必要に応じて置換されたC5〜6アリール基(フェニル等)であり、アミノスルホニル(例えばジメチルアミノスルホニル)及びC1〜4アルキル置換基(例えばメチル)を有していてもよい。これらの実施形態の他のものにおいては、RN4は非置換であってもよいC1〜4アルキル基(例えばエチル)である。
【0121】
幾つかの実施形態では、QはCRQ1=CRQ2(式中、RQ1はH及びOHから選択され、RQ2はHである)である。
或る特定の実施形態の組み合わせ
或る特定の実施形態の組み合わせにおいては、本発明の化合物は式I’:
【0122】
【化5】

【0123】
の化合物である
(式中、XはCR及びNから選択され、
N1はH、及びSHによって置換されていてもよいC1〜4アルキルから選択され、
C1はH及びSHから選択され、
C2はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
C3はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
はH、OH及びNHから選択され、
C4は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、及びC(=O)NRN5N6(式中、RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)から選択され、
C5はH、OH及びNHから選択され、
又はRC4及びRC5が、それらが結合する炭素原子と共に、5個若しくは6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【0124】
【化6】

【0125】
(式中、QはO、N又はCRQ1=CRQ2(式中、RQ1及びRQ2は独立してH、OH及びNHから選択される)を表す)の芳香環を形成し、
C6はH、OH及びNHから選択され、
C7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成し、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)から選択される)。
【0126】
或る特定の実施形態の組み合わせにおいては、本発明の化合物は式(Ia):
【0127】
【化7】

【0128】
の化合物(並びにその異性体、塩、溶媒和物、保護形態及びプロドラッグ)である
(式中、RN1はH及びC1〜4アルキルから選択され、
Q1はH及びOHから選択され、
C7はNHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成し、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)から選択される)。
【0129】
別の或る特定の実施形態の組み合わせにおいては、本発明の化合物は式(Ib):
【0130】
【化8】

【0131】
の化合物(並びにその異性体、塩、溶媒和物、保護形態及びプロドラッグ)である
(式中、RN1はH及びC1〜4アルキルから選択され、
C4は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリルである)。
【0132】
別の或る特定の実施形態の組み合わせにおいては、本発明の化合物は式(Ic):
【0133】
【化9】

【0134】
の化合物(並びにその異性体、塩、溶媒和物、保護形態及びプロドラッグ)である
(式中、RN1はH及びC1〜4アルキルから選択され、
C4
(i)必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、
(ii)C(=O)NRN5N6(式中、RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、
(iii)C(=O)ORO1(式中、RO1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(iv)C(=O)NHNHSOS1(式中、RS1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(v)OC(=O)RC8(式中、RC8はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(vi)OC(=O)NRN7N8(式中、RN7及びRN8は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN7及びRN8と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、並びに
(vii)C(=O)CHNH、C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択される)。
【0135】
上記に示したRC4、RC7及びRQ1に関して上記に示した実施形態は、上記化合物にも適用される。
【0136】
これらの例の化合物は本発明の特定の実施形態である。
略語
便宜上、多くの化学的部分を、メチル(Me)、エチル(Et)、n−プロピル(nPr)、イソプロピル(iPr)、n−ブチル(nBu)、tert−ブチル(tBu)、n−ヘキシル(nHex)、シクロヘキシル(cHex)、フェニル(Ph)、ビフェニル(biPh)、ベンジル(Bn)、ナフチル(naph)、メトキシ(MeO)、エトキシ(EtO)、ベンゾイル(Bz)及びアセチル(Ac)を含む(これらに限定されない)既知の略称を用いて表す。
【0137】
便宜上、多くの化合物(chemical compounds)を、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロパノール(i−PrOH)、メチルエチルケトン(MEK)、エーテル又はジエチルエーテル(EtO)、酢酸(AcOH)、ジクロロメタン(塩化メチレン、DCM)、トリフルオロ酢酸(TFA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む(これらに限定されない)既知の略称を用いて表す。
合成
本発明の化合物は市販されているか、又は容易に合成することができる。
本発明の方法
p53タンパク質
本発明では、Y220C突然変異を保有するp53タンパク質は、野生型の哺乳動物、特にヒトのタンパク質、又はその安定化した変種(version)であり得る。配列番号1(AAC12971)は野生型のヒトp53配列である。ヒトp53の使用が好ましい。
【0138】
p53タンパク質はDNA結合ドメインを含む切断されたp53であってもよい。かかるドメインは概して、ヒト配列の残基95〜289に対応する領域を含む。
【0139】
かかるドメインの例は、Joerger et al(参照文献13)に見られ、例えばヒト配列の残基94〜312に対応する領域又はその切断型(94〜293等)である。
【0140】
概して、本発明の方法が、p53をin vitro又は他のモデル系において提供するもののような方法に関する場合、本発明は上記のように完全長p53タンパク質又は切断p53タンパク質を使用することができ、1つ又は複数の安定化した変化、例えばT−p53Cにおいて見られる1つ又は複数の置換を含んでいてもよい。病変又は腫瘍の治療に関連する本発明の方法に関しては、p53はそれが存在する細胞に対して固有である。概して、それが存在する細胞に対して固有のp53は、配列番号1の残基220に相当する位置での置換を除けば野生型のp53配列に一致する。しかしながら、タンパク質が1つ又は複数の他の突然変異を含むことも可能である。
p53を安定化する方法
一態様では、本発明は、Y220C突然変異を保有するp53タンパク質を安定化する方法であって、p53を式(I)の化合物と接触させることを含む、方法を提供する。かかる方法は例えば、付随の実施例において説明されるような遠心分離分析(analytical centrifugation)又は示差走査熱量測定によってin vitroで実施することができる。
【0141】
「p53を安定化する」とは、Y220C突然変異を有するp53タンパク質の融解温度を上昇させること、及び/又はかかるタンパク質の半減期を延長することを意味する。
【0142】
本発明の方法は、例えばヒト細胞等の哺乳動物の細胞培養物中の、Y220C突然変異を保有するp53を発現する細胞に対しても実施することができる。非ヒト哺乳動物細胞の場合、固有のp53タンパク質に加えて、又はその代わりにヒトp53 Y220Cタンパク質を発現するように細胞を遺伝子操作してもよい。培養物中の細胞は、例えばヒト若しくは非ヒト哺乳動物被験体の腫瘍、又は細胞株から誘導される初代細胞であり得る。
【0143】
一態様では、上記の方法は、細胞におけるp53機能の回復又は改善における式(I)の化合物の有効性を求めるために、Y220Cp53タンパク質を有するか、又は有する疑いがあるヒト病変又は腫瘍の初代細胞株又は試料に対して実施することができる。例えば、かかる改善又は回復は、細胞培養物におけるアポトーシス速度が、式(I)の化合物で処理していない同じ細胞の培養物と比較して増大することを特徴とし得る。
【0144】
さらなる態様では、細胞株又は試料に対して実施される上記の本発明の方法がp53機能の改善又は回復をもたらす場合、本発明は、試料を得た被験体に式(I)の化合物を投与する工程をさらに含み得る。
【0145】
「病変」とは、細胞の非癌性増殖、例えば良性又は前癌性の増殖等を意味する。「腫瘍」とは、制御されない細胞分裂が、少なくとも一部はY220C突然変異の存在に起因するp53機能の喪失の結果として起こる任意の細胞の癌性増殖を意味する。場合によっては、この突然変異は、細胞中に存在する他の遺伝子に対する1つ又は複数の他の突然変異(癌性細胞の増殖及び拡散に影響を及ぼす)と共に存在する。
【0146】
幾つかの態様では、本発明の化合物は、p53 Y220C突然変異を有する病変又は腫瘍を治療するためにヒト等の哺乳動物被験体に投与され得る。概して、本発明は、p53機能を改善又は回復するよう有効量の式(I)の化合物を被験体に投与することを含む。
【0147】
本発明をヒトp53 Y220C細胞株が存在する非ヒト動物に対して実施し得ることも想定される。この細胞株は異種移植細胞株であってもよく、又は非ヒト動物が、そのp53遺伝子をヒトY220Cp53遺伝子で置き換えたトランスジェニック非ヒト哺乳動物であってもよい。必要に応じて、遺伝子を、例えば一時的に(すなわち発生の或る特定の時点で)、細胞特異的に又は誘導されることによって(例えばテトラサイクリン誘導性プロモータ)活性化可能なプロモータに連結してもよい。
【0148】
非ヒト哺乳動物は齧歯類であり得る。齧歯類としては、ラット、マウス、モルモット、チンチラ、及び実験室研究において使用される同程度の大きさの他の小齧歯類が挙げられる。
【0149】
本発明は、任意の或る特定の細胞型にではなく、p53機能がY220C突然変異の存在によって損なわれている任意の病変又は腫瘍によって限定される。かかる突然変異は、例えば白血病、リンパ腫、骨髄腫、プラスマ細胞腫等、及び固形腫瘍に見ることができる。固形腫瘍の例としては、大腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、腎細胞癌、肝癌、子宮頚癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、黒色腫、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。
投与
活性化合物又は活性化合物を含む医薬組成物は、全身投与/末梢投与又は所望の作用部位での投与に関わらず、経口投与(例えば服用(ingestion)による);局所投与(例えば経皮投与、鼻腔内投与、眼投与、口腔投与及び舌下投与を含む);経肺投与(例えば、例えば口又は鼻を経た、例えばエアロゾルを用いた吸入療法又は吹送療法による);直腸投与;膣内投与;非経口投与、例えば皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、心臓内投与、髄腔内投与、脊髄内投与、嚢内(intracapsular)投与、嚢下投与、眼窩内投与、腹腔内投与、気管内投与、表皮下投与、関節内投与、くも膜下投与及び胸骨内(intrasternal)投与を含む注射による投与;デポー剤の植え込み(例えば皮下又は筋肉内への)を含む(これらに限定されない)任意の好都合な投与経路によって被験体に投与することができる。
【0150】
被験体は真核生物、動物、脊椎動物、哺乳動物、齧歯類(例えばモルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科(例えばマウス)、イヌ科(例えばイヌ)、ネコ科(例えばネコ)、ウマ科(例えばウマ)、霊長類、サル目(simian)(例えばサル(monkey)又は類人猿(ape))、サル(例えばマーモセット、ヒヒ)、類人猿(例えばゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)又はヒトであり得る。
製剤
活性化合物を単独で投与することは可能であるが、少なくとも1つの上記で規定された活性化合物を、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、滑沢剤又は当業者に既知の他の材料、及び必要に応じて他の治療薬又は予防薬と共に含む医薬組成物(例えば製剤)として与えるのが好ましい。
【0151】
したがって、本発明は、上記で規定された医薬組成物、並びに少なくとも1つの上記で規定された活性化合物を、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、安定化剤又は本明細書中に記載される他の材料と共に混合することを含む、医薬組成物を製造する方法をさらに提供する。
【0152】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、正しい医学的判断の範囲内で、過度の毒性、炎症、アレルギー反応又は他の症状(problem)又は合併症なしに、妥当なリスク・ベネフィット比に応じて被験体(例えばヒト)の組織と接触させて使用するのに好適な化合物、材料、組成物及び/又は投与形態に関する。担体、賦形剤等は各々、製剤の他の成分と相溶性であるという意味でも「許容される」でなくてはならない。
【0153】
好適な担体、希釈剤、賦形剤等は、標準的な薬学のテキスト中に見ることができる。例えば、"Handbook of Pharmaceutical Additives", 2nd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2001 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA)、"Remington's Pharmaceutical Sciences", 20th edition, pub. Lippincott, Williams & Wilkins, 2000、及び"Handbook of Pharmaceutical Excipients", 2nd edition, 1994を参照されたい。
【0154】
製剤は単位投与形態で都合よく与えることができ、薬学の分野で既知の任意の方法によって調製することができる。かかる方法は活性化合物を、1つ又は複数の副成分を構成する担体と混合する工程を含む。概して、製剤は、活性化合物を液体担体若しくは微粉化した固体担体、又はその両方と均一かつ密接に混合し、その後必要に応じて生成物を成形することによって調製される。
【0155】
製剤は液体、液剤、懸濁液、エマルション、エリキシル剤、シロップ剤、錠剤、ロゼンジ(losenges)、顆粒剤、散剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、坐剤、ペッサリー、軟膏剤、ジェル、ペースト、クリーム、スプレー、ミスト、フォーム、ローション剤、オイル、ボーラス、舐剤又はエアロゾル剤の形態であり得る。
【0156】
経口投与(例えば服用による)に好適な製剤は、各々が所定量の活性化合物を含有するカプセル剤、カシェ剤若しくは錠剤等の個別の単位、散剤若しくは顆粒剤、水性液体又は非水性液体中の液剤若しくは懸濁液、又は水中油型液体エマルション若しくは油中水型液体エマルション、ボーラス、舐剤、又はペーストとして与えることができる。
【0157】
錠剤は、必要に応じて1つ又は複数の副成分と共に、従来の手段、例えば圧縮又は成型することによって製造することができる。圧縮錠剤は、必要に応じて1つ又は複数の結合剤(例えばポビドン、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、トラガカント、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤又は希釈剤(例えばラクトース、微結晶性セルロース、リン酸水素カルシウム)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ)、崩壊剤(例えばデンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、及び保存剤(例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸)と混合した、易流動性の状態(粉末又は顆粒等)の活性化合物を好適な機械において圧縮することによって製造することができる。成型錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物を、好適な機械において成型することによって製造することができる。錠剤は必要に応じてコーティング又は分割してもよく、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースを、所望の放出プロファイルをもたらすために様々な割合で用いることで、活性化合物の持続放出又は制御放出をもたらすように調剤してもよい。錠剤は必要に応じて、胃以外の消化管の一部での放出をもたらす腸溶コーティングを備えていてもよい。
【0158】
局所投与(例えば経皮投与、鼻腔内投与、眼投与、口腔投与及び舌下投与)に好適な製剤は、軟膏剤、クリーム、懸濁液、ローション剤、散剤、液剤、ペースト(past)、ジェル、スプレー、エアロゾル剤又はオイルとして調剤することができる。代替的には、製剤は、活性化合物及び必要に応じて1つ又は複数の賦形剤若しくは希釈剤を含浸させたパッチ又はドレッシング剤(dressing)(包帯若しくは絆創膏等)を含み得る。
【0159】
口腔内での局所投与に好適な製剤としては、風味付けした基剤(basis)(通常はスクロース及びアラビアゴム又はトラガカント)中に活性化合物を含むロゼンジ、不活性基剤(ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアラビアゴム)中に活性化合物を含むトローチ(pastilles)、並びに好適な液体担体中に活性化合物を含む洗口液が挙げられる。
【0160】
眼への局所投与に好適な製剤としては、活性化合物が好適な担体、特に活性化合物用の水性溶媒中に溶解又は懸濁されている点眼薬も挙げられる。
【0161】
経鼻投与に好適な製剤(担体が固体である)としては、鼻から吸い込む形で、すなわち鼻に近づけた粉末の容器からの鼻腔を介した急速吸入によって投与される、例えば約20ミクロン〜約500ミクロンの範囲内の粒径を有する粗粉末が挙げられる。例えば鼻腔用スプレー、点鼻薬としての投与、又は噴霧器によるエアロゾル投与による投与に好適な製剤(担体が液体である)としては、活性化合物の水性溶液又は油性溶液が挙げられる。
【0162】
吸入による投与に好適な製剤としては、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン(dichoro-tetrafluoroethane)、炭酸ガス又は他の好適なガス等の好適な噴射剤を用いる、加圧パックからのエアロゾルスプレーとして与えられるものが挙げられる。
【0163】
皮膚を介した局所投与に好適な製剤としては、軟膏剤、クリーム及びエマルションが挙げられる。軟膏剤に調剤する場合、活性化合物は必要に応じて、パラフィン系軟膏基剤又は水混和性軟膏基剤のいずれかと共に使用され得る。代替的には、活性化合物は水中油型クリーム基剤と共にクリームに調剤してもよい。必要に応じて、クリーム基剤の水相は例えば、多価アルコール、すなわち2つ以上のヒドロキシル基を有するアルコール(プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール及びポリエチレングリコール並びにそれらの混合物等)を少なくとも約30%(w/w)含んでいてもよい。局所製剤は、皮膚又は他の患部を介した活性化合物の吸収又は浸透を促進する化合物を含み得るのが望ましい。かかる皮膚浸透促進剤としては、ジメチルスルホキシド及び関連類似体が挙げられる。
【0164】
局所エマルションとして調剤する場合、油性相は必要に応じて、乳化剤(別名、エマルジェント(emulgent)として知られる)のみを含んでいても、又は少なくとも1つの乳化剤と、脂肪若しくは油、又は脂肪及び油の両方との混合物を含んでいてもよい。好ましくは、親水性乳化剤は安定化剤として働く親油性乳化剤と共に含まれる。油及び脂肪の両方を含むのも好ましい。乳化剤(複数可)は安定化剤(複数可)と共に又はそれなしで、いわゆる乳化ろうを構成し、ろうは油及び/又は脂肪と共に、クリーム製剤の油性分散相を形成するいわゆる乳化軟膏基剤を構成する。
【0165】
好適なエマルジェント及びエマルション安定化剤としては、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリン及びラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。製剤に好適な油又は脂肪の選択は、医薬エマルション製剤に使用されることが多い大抵の油における活性化合物の溶解度は非常に低い場合があるため、所望のコスメティック(cosmetic)特性を達成するという点に基づく。したがって、クリームは、チューブ又は他の容器からの漏れを避けるのに好適な粘稠度を有し、べとつかず、着色せず、水で落とせる製品であるのが好ましい。直鎖又は分岐鎖、一塩基性又は二塩基性のアルキルエステル、例えばジイソアジペート(di-isoadipate)、ステアリン酸イソセチル、ヤシ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、又はCrodamol CAPとして知られる分岐鎖エステルの混合物等を使用することができ、最後の3つが好ましいエステルである。これらは所要の特性に応じて単独で使用しても、又は組み合わせて使用してもよい。代替的には、白色軟パラフィン及び/又は流動パラフィン等の高融点脂質、又は他の鉱油を使用してもよい。
【0166】
直腸投与に好適な製剤は、例えばココアバター又はサリチレートを含む好適な基剤を伴う坐剤として与えられ得る。
【0167】
膣内投与に好適な製剤は、活性化合物に加えて、当該技術分野で適切であると知られる担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、フォーム又はスプレー製剤として与えられ得る。
【0168】
非経口投与(例えば皮膚注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射及び皮内注射を含む注射による)に好適な製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、保存剤、安定化剤、静菌剤、及び製剤を対象とする受容者の血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の等張、パイロジェンフリーの滅菌注射液;並びに懸濁剤及び増粘剤、並びに化合物を血液成分又は1つ又は複数の器官に標的付けるように設計されたリポソーム又は他の微粒子系を含み得る、水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。かかる製剤において使用される好適な等張媒体の例としては、塩化ナトリウム注射液、リンガー溶液又は乳酸加リンガー注射液が挙げられる。典型的には、溶液中の活性化合物の濃度は、約1ng/ml〜約10μg/ml、例えば約10ng/ml〜約1μg/mlである。製剤は、単回投与又は複数回投与(multi-dose)用の密閉容器、例えばアンプル及びバイアルに入れて与えても、使用の直前に滅菌液体担体、例えば注射用蒸留水を添加するだけで済むフリーズドライ(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilised))状態で保管してもよい。即時注射液及び懸濁液は滅菌した粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。製剤は、活性化合物を血液成分又は1つ又は複数の器官に標的付けるように設計されたリポソーム又は他の微粒子系の形態であってもよい。
用量
活性化合物及び活性化合物を含む組成物の適切な用量は、患者毎に変わり得ることを理解されよう。最適用量の決定は概して、治療効果のレベルと本発明の治療の任意のリスク又は有害な副作用との釣り合いを取ることを含む。選択される用量レベルは、特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、化合物の排泄率、治療期間、併用される他の薬物、化合物及び/又は材料、並びに患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康(general health)及び既往歴を含む(これらに限定されない)様々な因子に依存する。化合物の量及び投与経路は、最終的に医師の判断により決定されるが、用量は一般に、危険な又は有害な副作用を実質的に引き起こすことなく、所望の効果を達成する局所濃度を作用部位で達成するものである。
【0169】
in vivo投与は、治療の全過程にわたって単回投与で、連続的又は断続的に(例えば適切な間隔での分割投与で)達成することができる。最も効果的な投与手段及び用量を決定する方法は当業者に既知であり、治療法に使用される製剤、治療法の目的、処理される標的細胞及び治療される被験体によって異なる。単回投与又は複数回投与は、治療を行う医師によって選択される服用レベル及びパターンで行うことができる。
【0170】
式(I)の化合物は、他の抗癌剤と併用して投与してもよい。投与は同時投与、個別投与又は連続投与であり得る。「同時」投与とは、式(I)の化合物及び第2の抗癌剤を、被験体に同じ投与経路によって単回で投与することを意味する。
【0171】
「個別」投与とは、式(I)の化合物及び第2の抗癌剤を、被験体に同時に行われる2つの異なる投与経路によって投与することを意味する。これは例えば、一方の薬剤が点滴によって投与され、他方が点滴中に経口で与えられる場合に行われ得る。
【0172】
「連続」投与とは、2つの薬剤を異なる時点で投与することを意味するが、但し、第2の薬剤を投与する時点で、先に投与された薬剤の活性は被験体中に存在し、維持されている。例えば、被験体中の腫瘍細胞に損傷を与えるように別の抗癌剤を先に投与し、続いて式(I)の化合物をp53機能がもたらされ、アポトーシスが誘導されるように投与することができる。概して、連続投与(dose)は、2つの薬剤の2つ目を第1の薬剤の48時間以内、好ましくは24時間以内、例えば12時間、6時間、4時間、2時間又は1時間以内に投与するよう行われる。
【0173】
被験体に投与する式(I)の化合物の量は最終的に、治療される被験体及び疾患の性質によって決まる。
【0174】
第2の薬剤は、治療される疾患に関して望ましい特性を有する任意の既知の薬剤であり得る。かかる薬剤としては、Taxol(登録商標)、Taxotere(登録商標)等のタキソイド、又は他の化学療法剤、例えばシスプラチン(及び他のプラチンインターカレート化合物)、エトポシド及びリン酸エトポシド、ブレオマイシン、マイトマイシンC、CCNU、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、イホスファミド等が挙げられる。薬剤は生物剤、例えばインターフェロン(IFN)−γ、腫瘍壊死因子(TNF)−α、TNF−β及び同様のサイトカイン等(これらに限定されない)の腫瘍増殖を阻害するタンパク質、又はアンジオスタチン及びエンドスタチン等の抗血管新生因子、又は可溶型の血管新生因子受容体(可溶性VGF/VEGF受容体を含む(これらに限定されない))等のFGF若しくはVEGFの阻害剤であってもよい。
【0175】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0176】
実験手順
タンパク質の発現及び精製
結晶学的実験については、T−p53Cの残基94〜312をコードするDNAである、ヒトp53コアドメイン突然変異体M133L/V203A/N239Y/N268Dを、NdeI制限部位及びEcoRI制限部位を用いて、pRSET(A)ベクターからpET−24a(+)ベクター(Novagen)のポリリンカー領域へとサブクローニングした(13)。Y220Cのさらなる点突然変異を、QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて導入し、「構築物1」を得た。この突然変異体を、大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)又はC41(DE3)(球状タンパク質及び膜タンパク質の可溶性発現の改善のために選択したBL21の派生株)において発現させた(参照文献A1)。
【0177】
他の全ての実験については、T−p53Cの残基94〜312をコードするDNAを、BamHI制限部位及びEcoRI制限部位を用いて、改良型pET−24a(+)ベクターに挿入した。N末端6x−Hisタグ及びC末端TEVプロテアーゼ切断部位ENLYFQG(GS)(参照文献A3)と融合させた、バチルス・ステアロサーモフィルス(B. stearothermophilus)のジヒドロリポイルアセチルトランスフェラーゼドメイン(リポイルドメイン、EC 2.1.12、(参照文献A2))のアミノ酸1〜85をコードする配列を、pET−24a(+)のNdeI部位とBamHI部位との間に挿入し、この改良型ベクターを作製した。Y220Cのさらなる点突然変異を、QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて導入し、「構築物2」を得た。
【0178】
精製プラスミドDNAのシークエンシングをLark Technologies, Inc.(Essex)に委託した。どちらの鎖も標準のT7プロモータプライマー及びT7ターミネータプライマーを用いてシークエンシングされた。どちらの構築物(1及び2)も正しいDNA配列を有することが確認された。
【0179】
全てのベクターを、冷凍保存コンピテント大腸菌細胞(BL21(DE3)又はC41(DE3))に熱パルス形質転換した。形質転換したばかりのBL21/C41細胞を、37℃で12時間〜16時間TYE/Kan/Glu寒天プレート上で増殖させた。その後、細胞コロニーを、50μg/mlのカナマイシン(最終濃度)を含有する10ml〜1000ml(発現培地の総量によって決まる)の2×TY培地に移した。このスターター培養物を、37℃、250rpmでおよそ3時間、又は600nmでの光学密度(OD600)が約0.5に達するまでインキュベートした。次いで、培養物を、最終濃度50μg/mlのカナマイシン(抗生物質耐性に応じて異なる)を添加した、0.8Lの2×TY培地又はM9最小培地(NMR研究用の15N及び/又は13C同位体標識p53の発現のため)を含有する2L容フラスコに対する接種材料として使用した。スターター培養物の1000倍希釈物を、発現培養物を接種するのに使用した。培養物を37℃、250rpmでOD600が0.6〜0.9に達するまでインキュベートした。温度を18℃に下げ、発現培養物に100μM ZnSOを添加し、1mMイソプロピルβ−D−チオガラクトシド(IPTG)を用いて発現を誘導し、18℃の誘導温度、250rpmで14時間〜18時間増殖させた。細胞を、4℃に冷却したSorvall RC 3B Plusローターにおける4500rpmで30分間の遠心分離によって採取した。タンパク質精製をすぐに行わない場合は、細胞ペレットを液体窒素中で急速冷凍し、−20℃で保管した。
【0180】
15N又は13C/15N標識タンパク質の発現については、2×TYの代わりにM9最小培地を以下の処方に従って使用した:12.8gのNaHPO(無水)、3.0gのNaHPO、0.5gのNaCl、2mlの1M MgSO、2mlのSolution Q、1.0gの15NHCl、30mlの6g/lグルコース溶液又は30mlの4g/l 13C−グルコース溶液及び10mlのビタミンミックス。「Solution Q」は、1000mlのHO中、5gのFeCl・4HO、184mgのCaCl・2HO、64mgのHBO、18mgのCoCl・6HO、4mgのCuCl・2HO、340mgのZnCl、605mgのNaMoO・2HO、40mgのMnCl・4HO、8mlの5M HClから成る。「ビタミンミックス」は、100mlの1×M9塩溶液中、50mgのチアミン、10mgのd−ビオチン、10mgの塩化コリン、10mgの葉酸、10mgのナイアシンアミド、10mgのD−パントテン酸、10mgのピリドキサール、1mgのリボフラビンから成る。
【0181】
精製クロマトグラフィーを、Biocad Visionシステム及びAKTAシステムを用いて行った。全てのバッファーは使用前に0.22μmフィルタを用いて濾過した。
「構築物1」を以下のプロトコルを用いて精製した:
採取した細胞ペレットをまず、50mM Tris−HCl(pH7.2)、5mM DTT、1錠/50mlの「Complete」EDTAフリープロテアーゼ阻害剤、並びに少量のDNアーゼ及びRNアーゼから成る溶解バッファー中に再懸濁し、ホモジナイズした。これは常に氷上に置いていた。元の細胞培養物1L当たり25mlの溶解バッファーを使用した。細胞をEmulsiflex C5高圧ホモジナイザー(Glen Creston)を用いて破砕した。溶解物を、4℃に冷却したSorvall SS34ローターにおいて17000rpmで40分間遠心分離した。上清を0.22μm Stericup(商標)ディスポーザブル真空フィルタ装置(Millipore)を用いて濾過した。これを次いで25mM NaPi(pH7.5)+5mM DTTで予め平衡化したPoros 20HQ陽イオン交換カラムに充填し、0−1MのNaCl勾配で20カラム体積にわたって溶出させた。プールした画分を予冷した25mM NaPi(pH7.5)+5mM DTTで10倍に希釈し、塩濃度を50mM未満とした。これを次いでHeparin HPカラムにロードし、10CVの洗浄後、NaCl濃度を2段階で400mM(5CV)及び1M(5CV)まで増加させることによって溶出させた。最終精製工程を、25mM NaPi(pH7.5)、150mM NaCl及び5mM DTTから成るバッファーで平衡化したSuperdex(登録商標)75 26/60 Prep Grade HiLoadカラム(Amersham)を用いて行った。画分をプールし、4℃に予冷したMegafuge 2R(Heraeus)卓上遠心分離機において、分画分子量10000のCentriprep遠心濃縮装置(Ultracel YM−10)を用いて濃縮した。タンパク質の純度をSDS PAGEによって判定したが、純度は95%超であった。試料を液体窒素中で急速冷凍し、−80℃で保管した。
「構築物2」を以下のプロトコルを用いて精製した:
採取した細胞ペレットをまず、50mM NaHPO/NaHPOバッファー(NaPi)(pH8.0)、300mM NaCl、10mM イミダゾール、5mM TCEP、1錠/50mlの「Complete」EDTAフリープロテアーゼ阻害剤、並びに少量のDNアーゼ及びRNアーゼから成る溶解バッファー中に再懸濁し、ホモジナイズした。これは常に氷上に置いていた。元の細胞培養物1L当たり25mlの溶解バッファーを使用した。細胞をEmulsiflex C5高圧ホモジナイザー(Glen Creston)を用いて破砕した。溶解物を、4℃に冷却したSorvall SS34ローターにおいて17000rpmで40分間遠心分離した。上清を0.22μm Stericup(商標)ディスポーザブル真空フィルタ装置(Millipore)を用いて濾過した。これを次いで50mM NaPi(pH8.0)、300mM NaCl、10mM イミダゾール、5mM TCEPで予め平衡化した4×5ml HisTrap(商標)FF粗Niカラムにロードし、10−250mMのイミダゾール勾配で6カラム体積にわたって溶出させた。タンパク質発現の収率に応じて、溶解物を少量ずつロードするか、及び/又はフロースルーをT−p53C−Y220Cの大部分が回収されるまで再ロードした。プールした画分を、発現タンパク質から6×HIS+リポイル部を、ENLYFQとGGSとの間のTEV認識部位で切ることによって切断するタバコエッチウイルスプロテアーゼ(TEV)で4℃で一晩消化させた。切断の程度をMALDI−TOF質量分析及びSDS−PAGEによってモニタリングした。切断の完了後、溶液を予冷した25mM NaPi(pH7.5)、5mM DTTで10倍に希釈し、塩濃度を30mM未満とした。これを次いでHeparin HPカラムにロードし、10CVの洗浄後、NaCl濃度を、6CVを400mMまでの勾配で増加させ、その後2段階で1M(5CV)及び2M(5CV)まで増加させることによって溶出させた。タンパク質の純度をSDS PAGEによって判定した。純度が95%超である場合、タンパク質を直接25mM NaPi(pH7.2)、150mM NaCl、5mM DTTに対して6時間〜8時間透析し、これを透析バッファーを交換した後少なくとも1回繰り返した。純度が95%未満のタンパク質画分を、最終精製工程として、25mM NaPi(pH7.2)、150mM NaCl及び5mM DTTから成るバッファーで平衡化したSuperdex(登録商標)75 26/60 Prep Grade HiLoadカラム(Amersham)を用いたゲル濾過に供した。画分をプールし、4℃に予冷したMegafuge 2R(Heraeus)卓上遠心分離機において、分画分子量10000のCentriprep遠心濃縮装置(Ultracel YM−10)を用いて濃縮した。タンパク質の純度をSDS PAGEによって判定したが、純度は95%超であった。試料を液体窒素中で急速冷凍し、−80℃で保管した。
【0182】
タンパク質濃度を、Gill and von Hippel(参照文献A4)によって記載されるように分光光度法により測定した。T−p53C−Y220Cの280nmでのモル吸光係数(ε280)をそのアミノ酸配列から算出したが、ε280=16590cm−1−1であった。
試料調製及びH/15N−HSQCを用いたNMRスクリーニング
T−p53C−Y220Cの均一に15N標識したコアドメインを発現させ、上記のプロトコルに従って精製した。低分子量化合物をd−DMSO中に溶解し、10mM原液を作製した。化合物混合物を化学シフトマッピングによってスクリーニングするために、各10μlの4つの異なる化合物を混ぜ合わせ、この混合物25μlを25μlのDO及び500μlの70μM T−p53C−Y220C(25mM NaPi、150mM NaCl及び5mM DTT中、pH7.2)に添加した。各々の化合物の最終濃度は、d−DMSO濃度4.5%(v/v)で114μMであった。NMR試料は調製した直後に(freshly prepared)、NMRチューブを低圧下で(チューブを軽くタッピングしながら)ポンピングし、アルゴンガス流を用いて大気圧に戻すサイクルを繰り返すことによって脱気した後、アルゴン下で密閉しておいた。これは試料の安定性を維持するために行った。
【0183】
H/15N HSQCスペクトルは、H/13C/15N三重共鳴反転(inverse)低温5mmプローブを用いたBrukerのAvance II+700分光計及びAvance800分光計(Bruker)で、以下のパラメータ:16スキャン、t1における複合ポイント数(complex points)128、リサイクル時間(recycle time)0.95秒、及びt2における総ポイント数1024を用いて293Kで得た。BrukerのTopSpin 2.0ソフトウェアを用いて、t1における複合ポイント数を前方複素線形予測によって2倍にし、シフト二乗サインベル窓関数を両方の次元に適用した後、ゼロ充填及びフーリエ変換を行った。H周波数次元においては2.0Hz/ポイント、15N周波数次元においては4.7Hz/ポイントのデジタル分解能を使用した。スペクトルをSparky 3.113(A5)を用いて分析した。化学シフトは、加重平均(average weighted)H/15N化学シフト差(Δδ(H/15N)=|Δδ(H)|+|Δδ15N|)/5)が0.04ppmを超える場合に有意であると見なした(Hajduk et al., 1997)。独自の(in-house)スクリプトを使用して、化学シフト差を分析し、それらをPDBタンパク質構造上にマッピングした。
【0184】
結合が検出された場合、個々の化合物の4つの別個の試料(各々227μMの最終濃度で存在する)をスクリーニングすることによってデコンボリューションを遂行した。
【0185】
或る特定の化合物については、異なる濃度のアレイを使用し、飽和結合方程式(Δδ=c+a[L]/(K+[L]))を関連のシフトするピークの濃度依存化学シフト変化に当てはめることによって、K値(K NMR)を導いた。
キャピラリーDSCを用いた熱変性研究
示差走査熱量測定(DSC)を用いてT−p53C−Y220Cに対するリガンドの安定化効果を調べた。可逆2状態システムについては、融解温度Tは、折り畳まれた状態と折り畳まれていない状態とが等しく存在する転移温度である。しかしながら、p53は温度上昇とともに可逆的に変性しないため、観測されたTは真の融解温度ではなく見かけの融解温度(Tapp)であり、派生データは加熱速度に応じて半定量的である。
【0186】
DSC実験を、有効セル容量が約125μlのMicrocalのVPキャピラリーDSC機器(Microcal,Amherst,MA)を用いて行った。タンパク質試料を、25mM NaPi(pH7.2)、150mM NaCl、5mM DTTにバッファー交換した。測定における試料及び参照セル又は試料セルと、ベースラインスキャンにおける両方のセルとの間の違いがタンパク質の存在のみとなるように、このバッファー+各濃度のリガンド/DMSOをベースラインスキャンに使用した。最終濃度20μMのT−p53C−Y220Cを使用した。2.5バールの圧力(窒素)をセルに加えた。10℃〜85℃の温度を250℃/時間の速度、4秒間のデータの取り込み時間間隔(filtering period)で、フィードバックゲイン/モードを中に設定してスキャンした。データをORIGINソフトウェア(Microcal)で分析した。
蛍光を用いた熱変性研究
これは古典的手順(例えば参照文献A6)を適用して行った。熱変性(Thermal unfolding)を、270K/時間で、25mM NaPi、150mM NaCl及び5mM DTT(pH7.2)中、10μMのタンパク質濃度で、Rotor−gene 6000(Corbett Life Science)を用いて、色素Syproオレンジ(5×)の結合によりモニタリングした。
分析超遠心(AUC)によるT−p53C−Y220Cへの小分子の結合の測定
分析超遠心は、重力下での分子の分布を研究するものである。平衡沈降実験では、溶質はセルの底部に集まり、濃度勾配が形成される。この勾配の傾斜度(steepness)は、溶質の分子量に依存し、分子が重いほど勾配が急になる。小分子は500Da程度の分子量を有するものであり、p53コアドメインは24.5kDaの巨大タンパク質分子である。選択された実験条件下では、小分子は非常に浅く、事実上無視することのできる勾配を形成するが、p53は非常に明確な沈降プロファイルを示す。小分子がp53に結合する場合、小分子はp53の沈降プロファイルを呈する。小分子の分散を、シグナルがタンパク質の吸光度(例えば310nm、340nm及び380nm)によって影響されないよう、300nm超の波長での吸光度によりモニタリングすることによって(この方法を成功させるにはリガンドはこのスペクトル範囲で光を吸収する必要がある)、小分子がタンパク質に結合しているかを決定することが可能であり、多くの場合、解離定数を測定することが可能である。この方法はタンパク質によるリガンドの完全な結合を必要としないため、弱い(10μM〜1mM)解離定数を測定するのに特に適している。この方法はタンパク質濃度が解離定数にほぼ等しい場合に最も効果的である。データ分析の詳細な説明については参照文献(参照文献A7)を参照されたい。
【0187】
平衡沈降実験は、Ti−50ローター及び6セクターセルを用いたBeckmanのXL−I超遠心機で、30000rpm及び40000rpmの速度、10℃で行った。最大で21個の試料を同時に分析した。バッファー条件は25mM NaPi、150mM NaCl、5mM DTTであった。試料は、選択された波長の1つ及び100μMのT−p53−Y220Cで吸光度が0.3〜0.5であり、15μM〜40μMの濃度でリガンドを含有していた。
時間依存蛍光研究
アンフォールディング速度解析を、Friedler et al.(参照文献A8)に記載されるように50mM Hepes(pH7.2)、1mM トリス−2−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)中37℃で、Cary Eclipse蛍光分光光度計(付属の(supplied)Caryソフトウェアによって制御される)を用いて、280nmでの励起に対する340nmでのトリプトファンの発光に従って行った。
化合物
試験した化合物は、Asinexから入手したPK390〜PK392、並びにInterBioScreenから入手したPK402、PK407及びPK408以外は、全てENAMINE Ltd.(23 Alexandra Matrosova Street,01103 KIEV,Ukraine)から入手した。
結果
以下の表は、キャピラリーDSCを用いた熱変性研究の結果を示すが、ΔTとは250μMの試験化合物を添加した際のTの上昇分である。与えられたダネット有意性検定(P)値は、Tの変化が有意でない確率の計算値である。
【0188】
【化10】

【0189】
【表1−1】

【0190】
【表1−2】

【0191】
【表1−3】

【0192】
【表1−4】

【0193】
【化11】

【0194】
【表2】

【0195】
【化12】

【0196】
【表3】

【0197】
H/15N−HSQC
化合物PK059:
【0198】
【化13】

【0199】
【表4】

【0200】
AUC
【0201】
【表5】

【0202】
熱安定化及び変性速度
示差走査熱量測定から、PK083がT−p53C−Y220Cを濃度依存的に安定化することが観察された。T−p53C−Y220Cは不可逆的に変性し、その見かけのTは加熱速度に応じて変化する。非常に急速な加熱では、この不可逆的プロセスが平衡よりも遅いため、測定されたTはその真の値に近似となる。Tは2.5mM PK083によって316Kから2℃近く上昇し、データは単純結合によって安定化に関して予想される方程式に適合し、K近似値は316K〜318Kで140±73μMである。
【0203】
T−p53C−Y220Cの310K(37℃)での変性速度を、PK083に対する単純結合モデルに適合させた。リガンドの非存在では、タンパク質は3.8分の半減期を有していた。これはPK083の飽和濃度では15.7分に増大した。
X線結晶学方法
非対称単位中の分子が2つである空間群P2のT−p53C−Y220Cの結晶を、以前に記載された条件下(参照文献B1)でシッティングドロップ蒸気拡散法によって21℃で成長させた。PK083を、PhiKan083の濃度を2時間にわたって増加させ、低温バッファー(19%ポリエチレングリコール4000、20%グリセロール、100mM Hepes(pH7.2)、150mM KCl)の段階的添加によって、T−p53C−Y220Cの結晶中に浸漬させた。最終濃度が10mMに達した後、浸漬をさらに30分間継続し、その後結晶を液体窒素中で急速冷凍した。1.5Å分解能に設定したX線データは、Diamond Light SourceにてビームラインI04上で100Kで収集した。データ処理はMosflm(参照文献B2)及びScala(参照文献B3)を用いて行った。構造解析(solution)及びリファインメントをCNS(参照文献B4)を用いて行った。開始モデルとして遊離T−p53C−Y220C(PDBエントリー:2J1X)の構造を用いた初回の剛体リファインメントの後、複合体の構造を、CNSによるリファインメントの反復サイクル及びMAINによる手動モデル構築(参照文献B5)によってリファインメントした。水分子を、CNS及び手動モデル構築内において実行される水ピック(water pick)オプションを用いて構造に付加した。リファインメントのこの段階では、PK083は鎖Bのモデルに組み込まれており、構造をさらにリファインメントした(選択された側鎖の代替的立体配座の取り込みを含む)。鎖A中のキャビティについては、鎖Bと同じ結合様式であるが、低占有率で結合するPK083、及び非結合状態の水分子ネットワーク(配位結合(coordinates)は最終モデルに含まれない)に起因する密度の有意差が観察された。データ収集及びリファインメントの統計値は表1中に示す。
【0204】
PK083との複合体におけるT−p53C−Y220Cの結晶構造を図1に示す。図1Aは、PK083との複合体におけるT−p53C−Y220C(鎖B)の全体的なリボン構造の図である。PK083はその分子表面との棒モデルとして緑色で示される。PK083は、該タンパク質の既知の機能性界面から離れたタンパク質表面上の突然変異によって誘導された亀裂と結合する。2つの代替的立体配座をとる突然変異部位でのCys220の側鎖は橙色で強調している。図1Bは、3.0σで等高線を示した(contoured)、T−p53C−Y220Cの鎖Bに結合したPK083の|F−F|シミュレーテッドアニーリングオミットマップである。図1Cは、PhiKan083結合部位の立体図である。リガンドから5Åの距離内の選択されたp53残基は、灰色の棒モデルで示される。タンパク質表面は半透明の灰色で強調される。図1Dは、T−p53C−Y220Cの、その遊離形態(PDBコード:2J1X 鎖B;緑色)及びPK083結合形態(黄色)における重ね合わせであり、リガンド結合の際の小さな構造変化を示す。PK083は灰色の棒モデルとして示される。小さな赤色の球は、リガンド結合の際に変位するリガンド非結合(ligand-free)構造中の水分子を示す。
【0205】
中央のカルバゾール部分は亀裂中にほとんど埋もれており、9−エチル基が疎水性ポケットの最深部を占める(図1C)。結合には疎水性パッキング相互作用が大きく寄与するようである。エチル基は、2つの代替的立体配座をとる突然変異残基Cys220のスルフヒドリル基、及び多数の疎水性側鎖(Phe109、Leu145、Val 147及びLeu257)に密着しており、それによりリガンドをポケットに繋ぎ止める。平面カルバゾール環系は、結合亀裂の片側のPro222及びPro223、並びに反対側のVal 147及びPro 151の疎水性側鎖間に挟まれる。環窒素は、野生型構造中のチロシン残基のヒドロキシル基の位置に隣接する(1.0Å距離)。N−メチルメタンアミン部分は、Asp228の主鎖カルボニルと水素結合を形成する(2.8Å距離)。突然変異体へのリガンド結合の際には非常に小さな構造変化しか起こらない。PhiKan083から5Å範囲内の残基(残基109、145〜147、150、151、220〜223、228〜230及び257)を重ね合わせると、二乗平均平方根偏差は0.3Åとなる(全原子)。最も有意な変化がThr150の側鎖で観察されたが、これは結合時に最大で1.4Å変位し、それによりポケットの入り口を広げる(図1D)。
【0206】
【表6】

【0207】
さらなる結果
インドール誘導体1H−インドール−3−カルボキサミド:
【0208】
【化14】

【0209】
及びN−(9−エチル−9H−カルバゾール−3−イル)−2,2,2−トリフルオロ−アセトアミド:
【0210】
【化15】

【0211】
は、T−p53C−Y220Cに結合することがNMR分光法によって示され、その融解温度を上昇させることが示されている。
【0212】
蛍光を用いたさらなる熱変性研究を、上記に記載される以下の化合物に対して行い、下記表に提示される結果を得た。記載される場合、S.E.は計算標準誤差である。
【0213】
【表7】

【0214】
蛍光を用いた熱変性研究を以下の化合物に対して行い、下記表に提示される結果を得た。記載される場合、S.E.は計算標準誤差である。
【0215】
【化16】

【0216】
【表8−1】

【0217】
【表8−2】

【0218】
【表8−3】

【0219】
【表8−4】

【0220】
【化17】

【0221】
【表9】

【0222】
【化18】

【0223】
【表10】

【0224】
【表11】

【0225】
【化19】

【0226】
【表12−1】

【0227】
【表12−2】

【0228】
【表12−3】

【0229】
【化20】

【0230】
【表13−1】

【0231】
【表13−2】

【0232】
【表13−3】

【0233】
【化21】

【0234】
【表14】

【0235】
【表15−1】

【0236】
【表15−2】

【0237】
或る特定の化合物の結合を測定するさらなる研究を上記のNMR技法を用いて行ったが、幾つかの化合物は修正値を得るためにさらに試験した。結果を下記に提示する。
【0238】
【表16】

【0239】
【表17−1】

【0240】
【表17−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53がY220C突然変異を保有している病変又は腫瘍を有する被験体を治療する方法において使用するための、式(I):
【化1】

の化合物
(式中、XはCR及びNから選択され、
N1はH、及びSH又はハロによって置換されていてもよいC1〜4アルキルから選択され、
C1はH及びSHから選択され、
C2はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
C3はH及び必要に応じて置換されたC1〜7アルキルから選択され、
はH、OH及びNHから選択され、
C4
(i)必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、
(ii)C(=O)NRN5N6(式中、RN5及びRN6は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、
(iii)C(=O)ORO1(式中、RO1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(iv)C(=O)NHNHSOS1(式中、RS1はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(v)OC(=O)RC8(式中、RC8はH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)、
(vi)OC(=O)NRN7N8(式中、RN7及びRN8は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN7及びRN8と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)、並びに
(vii)C(=O)CHNH、C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択され、
C5はH、OH及びNHから選択され、
又はRC4及びRC5が、それらが結合する炭素原子と共に、5個若しくは6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【化2】

(式中、QはO、N又はCRQ1=CRQ2(式中、RQ1及びRQ2は独立してH、OH及びNHから選択される)を表す)の芳香環を形成し、
C6はH、OH及びNHから選択され、
C7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択され、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成し、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)から選択され、
C4及びRC5が結合していない場合、RC3をさらにORO2(式中、RO2はC1〜4アルキル基である)及びC(=O)ORO3(式中、RO3はC1〜4アルキル基である)から選択することができ、RC2をさらにハロから選択することができる)。
【請求項2】
N1がH、エチル、プロピル及びシクロプロピルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
C1がHである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
C2がHである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
C2が必要に応じて置換されたC1〜7アルキルであり、該必要に応じた置換基がC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
C3がHである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
C3が必要に応じて置換されたC1〜7アルキルであり、該必要に応じた置換基がC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択され得る、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
がHである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
C4が必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリルであり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
C4がC(=O)NRN5N6であり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
N5がH及びC1〜4アルキルから選択され、RN6がH、必要に応じて置換されたC1〜4アルキル(該必要に応じた置換基はヒドロキシ、アミノ及びC5〜9アリールから選択される)及び必要に応じて置換されたC5〜6ヘテロシクリル(該必要に応じた置換基はC1〜4アルキルである)から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
N5及びRN6と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたピペリジニル又はピペラジニルを形成し、該必要に応じた置換基がC1〜7アルキル、ヒドロキシ、C5〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、アミノ及びアシルから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
C4がC(=O)ORO1であり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
O1が必要に応じて置換されたC1〜4アルキルであり、該必要に応じた置換基がエーテル、オキシウレイド、C5〜6アリール及びアミドから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
C4がC(=O)NHNHSOS1であり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
S1が必要に応じて置換されたC5〜6アリール基であり、該必要に応じた置換基がアルコキシ、エーテル及びC1〜7アルキルから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
C4がOC(=O)NRN7N8であり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
N7がHであり、RN8が必要に応じて置換されたC5〜6アリールであり、該必要に応じた置換基がハロから選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
C4がOC(=O)RC8であり、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
C8が必要に応じて置換されたC5〜7ヘテロシクリルである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
C4がC(=O)CHNH、C(=O)NHNH、CHC(CN)、CHC(CN)C(=O)NH及びカルボキシから選択され、RC5がHである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
C4及びRC5が、それらが結合する炭素原子と共に、5個若しくは6個の環原子を含有する必要に応じて置換された式:
【化3】

(式中、QはCRQ1=CRQ2(式中、RQ1はH及びOHから選択され、RQ2はHである)であり、
C6はH、OH及びNHから選択され、
C7は必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリル、NHC(=O)RC9、CHNRN2N3及びNHC(=S)NHRN4から選択される)の芳香環を形成する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
C6がHである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
C7が必要に応じて置換されたN含有C3〜12ヘテロシクリルである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
C7がNHC(=O)RC9(式中、RC9は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
C9が必要に応じて置換されたC1〜4アルキル基であり、該必要に応じた置換基がアシルオキシ、C5〜7アリール、アミノ、チオエステル及びC3〜7ヘテロシクリルから選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
C9が必要に応じて置換されたC5〜6アリール基であり、該必要に応じた置換基がC1〜7アルキル、C3〜7ヘテロシクリル、C5〜7アリール、ハロ、ヒドロキシ、エーテル、ニトロ、シアノ、アシル、カルボキシ、エステル、アミド、アミノ、アシルアミド、ウレイド、アシルオキシ及びチオールから選択され得る、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
C7がCHNRN2N3(式中、RN2及びRN3は独立してH、必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択されるか、又はRN2及びRN3と、それらが結合する窒素原子とが、必要に応じて置換されたN含有C5〜7ヘテロシクリル基を形成する)である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項29】
C7がNHC(=S)NHRN4(式中、RN4は必要に応じて置換されたC1〜7アルキル、必要に応じて置換されたC3〜20ヘテロシクリル及び必要に応じて置換されたC5〜20アリールから選択される)である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項30】
p53がY220C突然変異を保有している細胞を処理する方法であって、該細胞と、請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物とを接触させることを含む、方法。
【請求項31】
p53がY220C突然変異を保有している病変又は腫瘍を有する被験体を治療する方法であって、該被験体に請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項32】
Y220C突然変異を保有するp53タンパク質を安定化する方法であって、該p53を、請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物と接触させることを含む、方法。
【請求項33】
Y220C突然変異を保有するp53に対する分子の結合を決定する方法であって、該分子を、請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物と競合させて前記p53と接触させること、及び前記化合物のいずれか一方の結合又は変位を測定することを含む、方法。
【請求項34】
前記化合物の一方又は両方が、、放射標識、発色団、フルオロフォア等の標識、又は磁気共鳴法を用いた競合ベースの19F−スクリーニングのためにフッ素官能基を保有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物を、薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物。
【請求項36】
治療方法において使用するための、請求項1〜29のいずれか一項において規定される式(I)の化合物。

【図1】
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【公表番号】特表2011−519908(P2011−519908A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507992(P2011−507992)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001160
【国際公開番号】WO2009/136175
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【Fターム(参考)】