説明

エンジン出力トルクモニタ装置、車両制御装置、及びエンジン出力トルクモニタ方法

【課題】エンジンの出力トルクが零付近である場合の出力トルク推定精度を向上させる。
【解決手段】本発明のエンジン出力トルクモニタ装置は、エンジンの運転状態を示す指標を利用してエンジンの出力トルク推定値を演算する出力トルク演算部50と、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から出力トルク補正量を演算する補正量演算部52と、出力トルク演算部により演算された出力トルク推定値を出力トルク補正量を用いて補正する出力トルク補正演算部54と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの運転状態からエンジンの出力トルクをモニタするための装置及び方法に関する。また、得られた出力トルク値を用いて車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいてエンジンの基本トルクを算出し、この基本トルクを吸気温度や大気圧などに基づいて補正してエンジンの出力トルクを検出するエンジンの出力トルク検出方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。あるいは、エンジンのトルク変動は磁歪式トルクセンサにより検出される場合もある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、車両の旋回挙動の悪化を防止するための車両挙動制御装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。この装置によれば、目標車体速度を演算するためのパラメータを検出するセンサに零点オフセットが発生しても、この零点オフセットに起因する目標車体速度への悪影響が実質的に相殺され、エンジン出力調整量を適正に演算し車両の挙動を適正に制御することができるとされている。
【特許文献1】特開平5−149184号公報
【特許文献2】特開平11−295164号公報
【特許文献3】特開2001−82201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの出力トルクは、予め作成されたエンジントルクマップを用いて求められる場合がある。エンジントルクマップは、エンジン回転数やスロットル開度などのエンジンの運転状態を示す指標とエンジン出力トルク値との関係を示すものである。エンジントルクマップを参照することにより、これらの指標が特定の値であるときの出力トルク値を求めることができる。しかしながら、実際にはこの方法で求められる出力トルクの精度は特に出力トルクが零付近の場合に必ずしも高くなく、最大出力トルク値に対して例えば5〜10%程度の誤差を有する場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、エンジンの出力トルクが零付近である場合の出力トルク推定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のエンジン出力トルクモニタ装置は、エンジンの運転状態を示す指標を利用してエンジンの出力トルク推定値を演算する出力トルク演算部と、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から出力トルク補正量を演算する補正量演算部と、出力トルク演算部により演算された出力トルク推定値を出力トルク補正量を用いて補正する出力トルク補正演算部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、エンジンの出力トルク推定値がエンジンの運転状態を示す指標を利用して演算される。エンジンの運転状態を示す指標としては、例えばエンジン回転数や吸入空気量などが用いられる。演算された出力トルク推定値は、出力トルク補正量を用いて補正される。出力トルク補正量は、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から演算される。このような補正により、エンジン出力トルクが零付近である場合の出力トルクのモニタ精度を向上させることができる。
【0008】
ここで、補正量演算部は、トルクコンバータの入力回転数と出力回転数とが等しい場合にエンジンの出力トルクが零であると判定してもよい。トルクコンバータの入力回転数はエンジン回転数に相当し、トルクコンバータの出力回転数は例えば車輪速度と変速比とに基づいて演算することができる。よって、この態様によれば、トルクコンバータの入力回転数と出力回転数とを比較することにより、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態であるか否かを容易に判定することができる。
【0009】
本発明の別の態様は、エンジン出力制御装置である。この装置は、エンジンの運転状態を示す指標を利用してエンジンの出力トルク推定値を演算する出力トルク演算部と、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から出力トルク補正量を演算する補正量演算部と、出力トルク演算部により演算された出力トルク推定値を出力トルク補正量を用いて補正する出力トルク補正演算部と、出力トルク補正演算部による補正済出力トルク値に基づいて車両挙動安定化制御の開始または終了のタイミングを決定する車両挙動安定化制御部と、を備えてもよい。このようにすれば、精度の高い補正済出力トルク値を用いることにより、車両挙動安定化制御の実行タイミングをより適切に決定することができる。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、エンジン出力トルクモニタ方法である。この方法は、エンジンの運転状態を示す指標を利用して演算によりエンジンの出力トルクを推定するエンジン出力トルクモニタ方法であって、演算により算出された出力トルクの推定値を、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において取得された出力トルク推定値を用いて補正するというものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンの出力トルクが零付近である場合の出力トルク推定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン出力トルクモニタ装置が適用された車両を示す概略構成図である。この車両は後輪駆動車として構成されている。
【0013】
エンジン10は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)32により制御される。エンジンECU32は、エンジン10の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン10の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。
【0014】
エンジン10の出力は吸気通路に設けられたスロットルバルブにより制御される。スロットルバルブの開度は、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量等に応じてエンジンECU32により制御される。エンジン10から出力される駆動力はトルクコンバータ12及びトランスミッション14を介してプロペラシャフト18へ伝達される。プロペラシャフト18に伝達された駆動力はディファレンシャル16により左後輪車軸22L及び右後輪車軸22Rへ伝達される。これにより駆動輪である左右の後輪24RL及び24RRが回転駆動される。
【0015】
本実施形態においては、エンジンECU32は、エンジン回転数とスロットル開度とからなるエンジントルクマップを用いてエンジン10の出力トルクの値を演算する。演算された出力トルクモニタ値は、他の各ECUでの処理に供されるべく必要に応じてエンジンECU32から他の各ECUに送信される。
【0016】
一方左右の前輪24FL及び24FRは従動輪であると共に操舵輪である。前輪24FL及び24FRは、例えばラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置(図示せず)により操舵される。パワーステアリング装置は運転者によるステアリングホイールの転舵に応じて前輪24FL及び24FRを操舵する。
【0017】
左右の前輪24FL、24FR及び左右の後輪24RL、24RRの制動力は、車輪ごとに設けられたホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRに供給される液圧が制御されることによって制御される。各ホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRの液圧は、液圧ブレーキユニット20により制御される。液圧ブレーキユニット20は、各ホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRに供給される作動液を蓄圧する液圧源や種々の弁装置等を含む液圧アクチュエータ等を備えて構成される。液圧ブレーキユニット20は、ブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、液圧ブレーキユニット20の動作状態や運転者からの制動要求を検出する各種センサからの信号に基づいて各車輪24FL、24FR、24RL、24RRに付与される制動力を制御する。
【0018】
本実施形態に係る車両は、車両挙動安定化制御を実行可能に構成されている。車両挙動安定化制御として例えばVSC(Vehicle Stability Control)制御を実行することができる。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。VSC制御は、VSC用ECU40により実行される。VSC用ECU40は、エンジンECU32及びブレーキECU70と相互に通信可能であり、これらのECUからの制御信号や車両の挙動を検出する各種センサからの信号に基づいてVSC制御を実行する。VSC用ECU40には、操舵角や横加速度、車速、ヨーレート、車輪速などが各種センサにより測定され入力される。
【0019】
上述のエンジンECU10やブレーキECU70、VSC用ECU40は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されている。これらのECUは、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。これらのECUは、双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のマイクロコンピュータであってもよい。
【0020】
図2は、本実施形態に係るエンジン出力モニタ処理に関する制御ブロック図である。エンジンECU32には、出力トルク演算部50、補正量演算部52及び出力トルク補正演算部54が構築される。出力トルク演算部50にはスロットル開度センサ34及びクランク角センサ36が接続される。補正量演算部52にはクランク角センサ36及び車輪速センサ38が接続される。
【0021】
出力トルク演算部50は、エンジントルクマップを用いてエンジン10の出力トルクを演算する。エンジントルクマップは、エンジン回転数やスロットル開度などのエンジンの運転状態を示す指標とエンジン出力トルク値との関係を示すものである。エンジントルクマップを参照することにより、これらの指標が特定の値であるときの出力トルク値を求めることができる。エンジン回転数はクランク角センサ36の測定値から演算され、スロットル開度はスロットル開度センサ34により検出され、ともにエンジンECU32に送信される。エンジントルクマップは標準的な走行環境での測定値から予め作成され、エンジンECU32に記憶されている。
【0022】
補正量演算部52は、惰性走行中に出力トルク演算部50により得られた出力トルク値から出力トルクの補正量を演算する。出力トルク補正演算部54は、補正量演算部52により算出された出力トルク補正量を用い、出力トルク演算部50によりエンジントルクマップから求められた出力トルク値を補正して、補正済の出力トルク値を算出する。
【0023】
VSC用ECU40は、エンジンECU32の出力トルク補正演算部54に接続される。VSC用ECU40は、出力トルク補正演算部54から送信される補正済の出力トルク値に基づいてVSC制御の開始タイミング及び終了タイミングを決定する。VSC用ECU40は、開始タイミングの決定を受けてVSC制御を実行し、終了タイミングの決定を受けてVSC制御を終了する。
【0024】
図3は、本実施形態に係る出力トルクモニタ処理を説明するためのフローチャートである。図3に示される処理は、エンジンECU32により車両の駆動中に所定の周期、例えば数〜数十msecごとに繰り返し実行される。
【0025】
図3に示される出力トルクモニタ処理が開始されると、まずエンジンECU32の出力トルク演算部50は、エンジントルクマップを用いてエンジン10の出力トルクを演算する(S10)。測定されたエンジン回転数及びスロットル開度からエンジン出力トルクの値が演算により推定される。以下では適宜、ここでエンジントルクマップを用いて演算された出力トルクの推定値を「基本出力トルク値」と称する。
【0026】
次にエンジンECU32の出力トルク補正演算部54は、基本出力トルク値を補正する(S12)。基本出力トルク値の補正は、図4を参照して後述する出力トルク補正量を用いて行われる。本実施形態においては、出力トルク補正演算部54は、基本出力トルク値から出力トルク補正量を減算することにより補正済の出力トルク値を算出する。なお、出力トルク補正量の算出が完了するまでは、出力トルク補正量の値は初期値0に設定されている。以下では適宜、ここで補正された基本出力トルク値を補正済出力トルク値と称する。補正済出力トルク値が得られると、出力トルク補正演算部54は、この補正済出力トルク値をVSC用ECU40に送信する(S14)。これにより、図3に示される処理は終了する。
【0027】
図4は、本実施形態に係る出力トルク補正量の演算処理を説明するためのフローチャートである。図4に示される処理は、エンジンECU32により車両の駆動中に所定の周期、例えば数〜数十msecごとに繰り返し実行される。
【0028】
図4に示される出力トルク補正量演算処理が開始されると、まずエンジンECU32の補正量演算部52は、出力トルク演算部50により演算された基本出力トルク値を取得する(S20)。
【0029】
次いで、補正量演算部52は、車両が惰性走行中であるか否かを判定する(S22)。本実施形態における惰性走行とは、エンジン10の出力トルクが零であると見込まれる状態での走行を意味する。運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が完全に零でなくともよい。本実施形態における惰性走行中は、エンジン10による加速度もエンジンブレーキによる減速度もほぼ零となり、路面からの抵抗及び空気抵抗により減速しながら車両は走行する。
【0030】
本実施形態において補正量演算部52は、車両が惰性走行中であるか否かをトルクコンバータ12の入力回転数と出力回転数とが等しいか否かにより判定する。補正量演算部52は、具体的には例えば、トルクコンバータ12の入力回転数と出力回転数との差の絶対値が惰性走行判定閾値よりも小さい場合に惰性走行中であると判定する。逆に入出力回転数の差の絶対値が惰性走行判定閾値よりも大きい場合には補正量演算部52は惰性走行中ではないと判定する。ここで惰性走行判定閾値は、トルクコンバータ12の入出力回転数が実質的に等しいと判断できる程度に小さい値に適宜設定され、例えば数〜十数rpmに設定される。なお、ロックアップ時あるいはフレックスロックアップ制御中は、トルクコンバータ12の入力側と出力側とが機械的に接続されることとなるので、上述の惰性走行は行わずに惰性走行中ではないものとして取り扱う。
【0031】
トルクコンバータ12の入力回転数はエンジン回転数に等しいから、クランク角センサ36の測定値から求めることができる。トルクコンバータ12の出力回転数は、車輪速センサ38により測定される車輪速と現在の変速比とから演算することができる。このように、トルクコンバータ12の入力回転数及び出力回転数は既存のセンサの出力から求めることができる。よって、トルクコンバータ12の入出力回転数に基づいて惰性走行判定を行えば、新たなセンサ等の必要設備を追加することなく惰性走行中か否かを判定することができるという点で好ましい。
【0032】
惰性走行中ではないと判定された場合には(S22のNo)、補正量演算部52は図4に示される処理を終了し、次の実行タイミングで再度実行する。なお、惰性走行中ではないと判定された場合には、図3により説明した補正処理が基本出力トルク値に施され、補正済の出力トルク値がエンジンECU32からVSC用ECU40に送信される。
【0033】
一方、惰性走行中であると判定された場合には(S22のYes)、補正量演算部52は、演算された基本出力トルク値に平均化処理を施す(S24)。惰性走行中に得られた基本出力トルク値は、結果としてエンジントルクマップの誤差を示す値となる。なぜなら、エンジン10の出力トルクが零であると見込まれる状態である惰性走行中の出力トルク値は本来は零となるはずであるからである。
【0034】
平均化処理の一例として、補正量演算部52は、今回得られた基本出力トルク値と、以前の処理で惰性走行中に得られた基本出力トルク値の平均値とから新たに平均値を求める。この平均化処理により得られる平均値は、出力トルクが零付近でのエンジントルクマップの誤差の平均値を示す。
【0035】
ここで補正量演算部52は、上述の平均化処理の実行回数が補正量決定回数Kを超えたか否かを判定する(S26)。この補正量決定回数Kは、例えば惰性走行が数秒間、例えば2秒間経過する間に実行することができる平均化処理の回数として例えば数十回程度に設定することができる。惰性走行状態が例えば0.5秒というようにごく短時間に終わった場合であっても、以前からの平均化処理の実行回数が累計で補正量決定回数Kに達すれば、補正量決定回数Kを超えたものと判定する。
【0036】
平均化処理の実行回数が補正量決定回数Kを超えたと判定された場合には(S26のYes)、補正量演算部52は、そのときの平均値を出力トルク補正量と決定し(S28)処理を終了する。なお、補正量演算部52は、補正量が決定された時点で積算されていた平均化処理実行回数をリセットする。一方、実行回数が補正量決定回数Kを超えていないと判定された場合には(S26のNo)、補正量演算部52は、図4に示される処理を終了し、次の実行タイミングで再度実行する。
【0037】
本実施形態によれば、惰性走行状態における基本出力トルク値を平均して出力トルク補正量が演算される。この出力トルク補正量をエンジンの出力トルク推定値から減算することにより補正が行われる。このような補正により、エンジン出力トルクが零付近である場合の出力トルクの推定精度を向上させることができる。また、本実施形態によれば、車両の駆動中に出力トルク補正量が算出される。よって、仮に車両ごとに出力トルク特性にばらつきがあったとしても、このばらつきよる誤差も上述の出力トルク補正量により補正することができるという点で好ましい。
【0038】
なお、エンジンECU32は上述の処理を繰り返し実行して出力トルク補正量が決定されるたびに更新するようにしてもよいし、出力トルク補正量の更新頻度を適宜調整してもよい。一例として、車両の始動後に1度出力トルク補正量が決定された場合には、その後の1トリップ中は補正量の更新を省略してもよい。
【0039】
上述の補正処理により得られた補正済出力トルク値は、出力トルク補正演算部54からVSC用ECU40に送信される。VSC用ECU40は、VSC制御に要求されるVSC要求出力トルク値と、運転者のアクセルペダル操作量に応じて定まる運転者要求出力トルク値との大小関係に基づいてVSC制御の実行の開始タイミングを決める。VSC要求出力トルク値は、所定の周期例えば数〜数十msecごとにVSC用ECU40により演算される。運転者要求出力トルク値として、本実施形態ではVSC用ECU40は補正済出力トルク値を用いる。
【0040】
VSC制御には、トルクアップ制御とトルクダウン制御とが含まれる。VSC用ECU40は、運転者要求トルク値がVSC要求トルク値を下回ると判定されたことを1つの条件としてトルクアップ制御を実行する。トルクアップ制御により、VSC用ECU40は、エンジン10の出力トルクを運転者要求トルク値からVSC要求トルク値に増加させる。その後、運転者要求出力トルク値がVSC要求出力トルク値を超えればVSC用ECU40はトルクアップ制御を終了する。
【0041】
本実施形態においては、補正によりエンジン10の出力トルクが零付近である場合のモニタ精度が向上している。よって、例えば旋回中のタックイン挙動が生じたときのトルクアップ制御の開始タイミング及び終了タイミングをより正確に決定することができる。タックイン挙動とは、車両が定速で、あるいは弱く増速しながら旋回している際に運転者がアクセル操作を止めた場合に旋回半径が小さくなる現象をいう。すなわちタックイン挙動はアクセルペダルを急に戻したときのエンジンブレーキによって後輪荷重が減少することにより発生する。旋回中に当初正の値であったエンジン10の出力トルクはアクセル操作が弱くなるにつれて零に達し、アクセル操作が完全に中止されエンジンブレーキが発生するようになると出力トルクは負の値となる。運転者によるアクセル操作の中止に先立ってエンジン10の出力トルクは零となる。よって、エンジン10の出力トルクが零となる時点を精度よく検出してVSC制御を開始することにより、タックイン挙動の発生を未然に抑えることが可能となる。
【0042】
また、運転者要求出力トルク値がVSC要求出力トルク値を超えると判定されたことを1つの条件としてVSC用ECU40はトルクダウン制御を実行する。トルクダウン制御により、VSC用ECU40は、エンジン10の出力トルクを運転者要求トルク値からVSC要求トルク値に低減させる。その後、運転者要求出力トルク値が低下してVSC要求出力トルク値を下回ればVSC用ECU40はトルクダウン制御を終了する。
【0043】
本実施形態によれば、トルクダウン制御の開始タイミング及び終了タイミングもより正確に決定することができる。いわゆる低μ路と呼ばれるような滑りやすい路面を比較的低いエンジン出力で走行している場合には、運転者のアクセルペダルの踏込量の増加が微小であってもスリップが発生してしまう場合がある。本実施形態によれば、エンジン出力トルクを精度よくモニタすることができるので、トルクダウン制御の開始タイミング及び終了タイミングをより正確に決定することが可能となる。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、エンジン出力トルクを精度よく推定することができるので、より適切に車両挙動安定化制御の実行タイミングを決定することができる。その結果、車両の挙動をより安定化させることができる。また、エンジン出力トルクを用いて行う他の制御処理の品質も向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン出力トルクモニタ装置が適用された車両を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係るエンジン出力モニタ処理に関する制御ブロック図である。
【図3】本実施形態に係る出力トルクモニタ処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る出力トルク補正量の演算処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
10 エンジン、 12 トルクコンバータ、 32 エンジンECU、 40 VSC用ECU、 50 出力トルク演算部、 52 補正量演算部、 54 出力トルク補正演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの運転状態を示す指標を利用してエンジンの出力トルク推定値を演算する出力トルク演算部と、
エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から出力トルク補正量を演算する補正量演算部と、
前記出力トルク演算部により演算された出力トルク推定値を前記出力トルク補正量を用いて補正する出力トルク補正演算部と、
を備えることを特徴とするエンジン出力トルクモニタ装置。
【請求項2】
前記補正量演算部は、トルクコンバータの入力回転数と出力回転数とが等しい場合にエンジンの出力トルクが零であると判定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン出力トルクモニタ装置。
【請求項3】
エンジンの運転状態を示す指標を利用してエンジンの出力トルク推定値を演算する出力トルク演算部と、
エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において演算された出力トルク推定値から出力トルク補正量を演算する補正量演算部と、
前記出力トルク演算部により演算された出力トルク推定値を前記出力トルク補正量を用いて補正する出力トルク補正演算部と、
前記出力トルク補正演算部による補正済出力トルク値に基づいて車両挙動安定化制御の開始または終了のタイミングを決定する車両挙動安定化制御部と、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
エンジンの運転状態を示す指標を利用して演算によりエンジンの出力トルクを推定するエンジン出力トルクモニタ方法であって、
前記演算により算出された出力トルクの推定値を、エンジンの出力トルクが零であると見込まれる状態において取得された出力トルク推定値を用いて補正することを特徴とするエンジン出力トルクモニタ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−291856(P2007−291856A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117096(P2006−117096)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】