説明

クロック生成回路

【課題】広帯域の周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けてもロックする時間を短くできるクロック生成回路を簡易な回路構成で実現。
【解決手段】基準クロックを第1の個数の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nで遅延させて第1の遅延クロックを生成し、第2の個数の電圧制御遅延素子12−1〜12−Kで遅延させて第2の遅延クロックを生成する遅延部11と、前記基準クロックの位相と前記第1の遅延クロックの位相とを比較する位相比較部21と、遅延制御電流を出力するチャージポンプ22と、遅延制御部23と、前記基準クロックの位相と前記第2の遅延クロックの位相とを比較し、前記基準クロックと前記第1の遅延クロックとの位相差を判定する判定部13aと、前記位相差が閾値より大きい場合、前記遅延制御電流が第1の値になり、前記閾値以下の場合、前記第1の値より小さい第2の値になるように制御するチャージ制御部13bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック生成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
遅延同期ループ回路(以下DLL回路と略す。DLL; Delay Locked Loop)は、基準クロックと、電圧制御遅延線(以下VCDLと略す。VCDL; Voltage Controlled Delay Line)から出力された基準クロックに対する遅延クロックの遅延量をロックさせる回路である。DLL回路は、その遅延クロックを半導体集積回路へ出力することにより、その半導体集積回路のクロックの同期がとられるようにする。DLL回路には、ロックするまでの時間を短くすることが要求されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、ロックするまでの時間を短くするための技術が記載されている。
【0004】
特許文献1に示されたDLL回路では、制御電圧VCを生成するための回路として、位相比較器21、チャージポンプ22及びループフィルタ23のほかに、設定値判定回路26および電圧設定回路27が設けられている。また、位相比較器21、チャージポンプ22及びループフィルタ23により制御電圧VCを生成する状態と、設定値判定回路26および電圧設定回路27により制御電圧VCを生成する状態とを切り替えるために、タイマ28及び電源制御回路29が設けられている。すなわち、特許文献1に示されたDLL回路では、制御電圧VCを生成するための回路が2系統設けられているとともに、その2系統のいずれをアクティブにするのか切り替えるための回路が設けられているため、全体として回路構成が複雑になる。これにより、チップ面積が増大する可能性がある。
【0005】
特許文献2には、特許文献2の図1に示されたPLL回路100の具体的な構成として、特許文献2の図5に示されたPLL回路300が記載されている。PLL回路300では、ロック検出回路6が、充電回路15、NチャネルMOSトランジスタ(放電回路)20、及びキャパシタ21を含んでいる。充電回路15は、位相比較器51’から受けた信号UP又は信号DOWNに応じてキャパシタ21へ充電電流を供給することにより、キャパシタ21を充電する。NチャネルMOSトランジスタ20は、ドレイン側のノードN15からソース側の固定電位Vsへ微小電流Iをリークさせることにより、キャパシタ21を放電する。
【0006】
ここで、NチャネルMOSトランジスタ20等のデバイス特性を高精度に設計しなければならない。すなわち、キャパシタ21からNチャネルMOSトランジスタ20への放電電流Iが、ロック時における充電回路15からキャパシタ21への充電電流より小さければ、チャージポンプ10の電流が止まり、PLL回路300が動作しなくなる。また、逆に、キャパシタ21からNチャネルMOSトランジスタ20への放電電流Iが、ロック時における充電回路15からキャパシタ21への充電電流より大きければ、位相比較器21は、次のような動作を行ってしまう。位相比較器21は、放電電流Iと充電電流とを合わせるためにオフセットを持ったUP信号とDOWN信号を出力したままとなる。
【0007】
すなわち、特許文献2に示されたPLL回路(又はDLL回路)は、位相関係(又は遅延量)がロックしたとき、充電回路15からの充電電流とNチャネルMOSトランジスタ20への放電電流Iとが完全に同じでないと、安定して動作できない。このように充電電流と放電電流Iとが完全に同じになるようにPLL回路(又はDLL回路)を設計することは、現実的に困難である。
【特許文献1】特開2006−025131号公報
【特許文献2】特許第3561035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、DLL回路が用いられる機器では、基準クロックの周波数が広帯域に渡る場合がある。この場合、広帯域に渡る連続的な周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックをDLL回路が受けても、DLL回路がロックするまでの時間を短くする必要がある。
【0009】
また、DLL回路が用いられる機器には、小型化が要求されている機器もある。この場合、DLL回路の実装面積を減らすために、DLL回路のチップ面積を低減する必要がある。そのためには、DLL回路の構成を簡略化する必要がある。
【0010】
本発明の目的は、広帯域に渡る周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けてもロックするまでの時間を短くできるクロック生成回路を簡易な回路構成で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの側面に係るクロック生成回路は、直列に接続された第1の個数の電圧制御遅延素子を含み、基準クロックを前記第1の個数の電圧制御遅延素子で遅延させることにより前記基準クロックに対して第1の遅延量を有した第1の遅延クロックを生成して出力するとともに、前記基準クロックを前記第1の個数の電圧制御遅延素子の一部である第2の個数の電圧制御遅延素子で遅延させることにより前記基準クロックに対して前記第1の遅延量より小さい第2の遅延量を有した第2の遅延クロックを生成する遅延部と、前記基準クロックの位相と前記第1の遅延クロックの位相とを比較し、比較結果に応じた上昇信号又は下降信号を出力する位相比較部と、前記上昇信号又は前記下降信号に応じて、遅延制御電流を出力するチャージポンプと、前記遅延制御電流に応じて遅延制御電圧を生成し、生成した前記遅延制御電圧を前記第1の個数の電圧制御遅延素子のそれぞれに供給することにより、前記基準クロックに対して前記第1の遅延クロックが同期するように前記第1の遅延量を制御する遅延制御部と、前記基準クロックの位相と前記第2の遅延クロックの位相とを比較することにより前記基準クロックと前記第1の遅延クロックとの位相差が閾値以下であるか否かを判定する判定部と、前記位相差が前記閾値より大きいと前記判定部により判定された場合、前記遅延制御電流が第1の値になり、前記位相差が前記閾値以下であると前記判定部により判定された場合、前記遅延制御電流が前記第1の値より小さい第2の値になるように、前記チャージポンプを制御するチャージ制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広帯域に渡る周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けてもロックするまでの時間を短くできるクロック生成回路を簡易な回路構成で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1実施形態に係るDLL回路1を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るDLL回路1の構成を示す図である。以下、pチャンネル型MOSトランジスタはpMOS、nチャンネル型MOSトランジスタはnMOSと省略する。
【0014】
DLL回路(クロック生成回路)1は、基準クロックCK0を受けて、基準クロックCK0に対して遅延した遅延クロックCK−Nを出力する。DLLは、Delay Locked Loop(遅延同期ループ)の略である。基準クロックCK0は、デューティー比rを有する。
【0015】
DLL回路1は、VCDL(遅延部)11、位相比較器(位相比較部)21、インバータ35、チャージポンプ22、ループフィルタ(遅延制御部)23、及び判定回路13を含む。ここで、VCDLは、Voltage Controlled Delay Line(電圧制御遅延線)の略である。
【0016】
VCDL11は、直列に接続されたN個(第1の個数)の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nを含む。N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nのそれぞれは、ループフィルタ23から受けた制御電圧VCに応じた伝播遅延量を有する。N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nの伝播遅延量は、互いに同じであることが好ましい。また、例えば、N=32である。
【0017】
VCDL11は、基準クロックCK0をN個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nで遅延させることにより、基準クロックCK0に対して第1の遅延量を有した遅延クロック(第1の遅延クロック)CK−Nを生成して出力する。第1の遅延量は、N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nの伝播遅延量の合計に対応している。
【0018】
それとともに、VCDL11は、基準クロックCK0をN個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nの一部であるK個(第2の個数)の電圧制御遅延素子12−1〜12−Kで遅延させる。これにより、VCDL11は、基準クロックCK0に対して第2の遅延量を有した遅延クロック(第2の遅延クロック)CK−Kを生成する。第2の遅延量は、第1の遅延量より小さい。K個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Kは、N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−NにおけるN個より少なくN個に(1−r)を掛けた数より多くの電圧制御遅延素子である。すなわち、
N×(1−r)<K<N・・・数式1
である。例えば、基準クロックCK0の有するデューティー比r=0.5のとき、
N/2<K<N・・・数式2
である。例えば、r=0.5、N=32である場合、数式2より、K=17である。
【0019】
ここで、第2の遅延量は、K個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Kの伝播遅延量の合計に対応している。すなわち、第2の遅延量は、用いる電圧制御遅延素子の個数に依存しているので、基準クロックCK0の周波数がどのような周波数であっても、第1の遅延量より小さくなる。
【0020】
位相比較器21は、外部から基準クロックCK0を受け、VCDL11から遅延クロックCK−Nを受ける。位相比較器21は、基準クロックCK0の位相と遅延クロックCK−Nの位相とを比較し、比較結果に応じた上昇信号UP又は下降信号DOWNをチャージポンプ22へ出力する。下降信号DOWNは、例えば、Hレベルがアクティブレベルである。
【0021】
インバータ35は、位相比較器21から上昇信号UPを受けた際に、上昇信号UPの論理レベルを反転して、論理レベルが反転された上昇信号UP ̄をチャージポンプ22へ出力する。上昇信号UP ̄は、例えば、Lレベルがアクティブレベルである。
【0022】
チャージポンプ22は、上昇信号UP ̄又は下降信号DOWNに応じて、遅延制御電流をループフィルタ23へ出力する。チャージポンプ22は、出力ノードNCP、充電部221、及び放電部222を含む。充電部221は、上昇信号UP ̄に応じて、出力ノードNCPへ充電電流を流し出す。放電部222は、下降信号DOWNに応じて、出力ノードNCPから放電電流を吸い込む。
【0023】
充電部221は、ソース電流源(充電電流源)29、付加ソース電流源(可変電流源)33、及びpMOSスイッチ31を含む。放電部222は、シンク電流源(放電電流源)30、付加シンク電流源(可変電流源)34、及びnMOSスイッチ32を含む。
【0024】
出力ノードNCPは、pMOSスイッチ31のドレイン、nMOSスイッチ32のドレイン、及びループフィルタ23の入力端子を互いに接続している。出力ノードNCPは、遅延制御電流を出力するためのノードである。
【0025】
ソース電流源29は、定電流を流し出す定電流源である。付加ソース電流源33は、判定回路13から供給されたチャージ制御信号CRに応じた電流を流し出す可変電流源である。
【0026】
pMOSスイッチ31は、アクティブレベル(例えばLレベル)の上昇信号UP ̄を受けた際に、ソース電流源29及び付加ソース電流源33と出力ノードNCPとを接続するようにオンする。これにより、ソース電流源29が流し出す定電流と付加ソース電流源33が流し出す電流との合計が充電電流として出力ノードNCPを介してループフィルタ23へ供給される。すなわち、チャージポンプ22は、チャージポンプ22からループフィルタ23へ向かう方向の充電電流を遅延制御電流としてループフィルタ23へ出力する。
【0027】
シンク電流源30は、定電流を吸い込む定電流源である。付加シンク電流源34は、判定回路13から供給されたチャージ制御信号CRに応じた電流を吸い込む可変電流源である。
【0028】
nMOSスイッチ32は、アクティブレベル(例えばHレベル)の下降信号DOWNを受けた際に、シンク電流源30及び付加シンク電流源34と出力ノードNCPとを接続するようにオンする。これにより、シンク電流源30が吸い込む定電流と付加シンク電流源34が吸い込む電流との合計が放電電流としてループフィルタ23から出力ノードNCPを介して吸い込まれる。すなわち、チャージポンプ22は、ループフィルタ23からチャージポンプ22へ向かう方向の放電電流を遅延制御電流としてループフィルタ23へ出力する。
【0029】
ループフィルタ23は、遅延制御電流に応じて遅延制御電圧VCを生成する。すなわち、ループフィルタ23は、遅延制御電流の高周波成分を取り除くことにより遅延制御電流を平滑化する。ループフィルタ23は、平滑化された遅延制御電流を遅延制御電圧VCに変換することにより、遅延制御電圧VCを生成する。ループフィルタ23は、生成した遅延制御電圧VCをN個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nのそれぞれに供給する。また、ループフィルタ23は、遅延制御ノードNCにおける遅延制御電圧VCの変動を緩和し、遅延クロックCK−Nのジッタを小さくする働きも行う。これにより、ループフィルタ23は、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとが同期したロック状態になるように制御する。言い換えると、ループフィルタ23は、基準クロックCK0に対して第1の遅延クロックが同期するように第1の遅延量を制御する。
【0030】
判定回路13は、判定部13a及びチャージ制御部13bを含む。
【0031】
判定部13aは、外部から基準クロックCK0を受け、電圧制御遅延素子12−Kの出力端子(中間タップ)から遅延クロックCK−Kを受ける。判定部13aは、基準クロックCK0の位相と遅延クロックCK−Kの位相とを比較することにより、DLL回路1がロック状態の近傍にあるか否かを判定する。具体的には、判定部13aは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であるか否かを判定する。
【0032】
例えば、判定部13aは、基準クロックCK0に同期したタイミングにおいて遅延クロックCK−Kのレベルが第1の論理レベル(例えばLレベル)にある場合、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値より大きいと判定する。判定部13aは、基準クロックCK0に同期したタイミングにおいて遅延クロックCK−Kのレベルが第2の論理レベル(例えばHレベル)にある場合、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であると判定する。判定部13aは、判定結果をチャージ制御部13bへ供給する。
【0033】
チャージ制御部13bは、判定結果に応じてチャージ制御信号CRを生成し、生成したチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNI経由でチャージポンプ22へ供給する。これにより、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値より大きいと判定部13aにより判定された場合、遅延制御電流が第1の値になるように、チャージポンプ22を制御する。チャージ制御部13bは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であると判定部13aにより判定された場合、遅延制御電流が第1の値より小さい第2の値になるように、チャージポンプ22を制御する。
【0034】
具体的には、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値より大きいと判定部13aにより判定された場合、次のような制御を行う。チャージ制御部13bは、充電部221が第1の充電電流を流し出す又は放電部222が第1の放電電流を吸い込むように、充電部221及び放電部222を制御する。
【0035】
チャージ制御部13bは、DLL回路1が基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であると判定部13aにより判定された場合、次のような制御を行う。チャージ制御部13bは、充電部221が第2の充電電流を流し出す又は放電部222が第2の放電電流を吸い込むように、充電部221及び放電部222を制御する。第2の充電電流は、第1の充電電流より小さい。第2の放電電流は、第1の放電電流より小さい。
【0036】
例えば、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値より大きいと判定された場合、アクティブレベル(例えばHレベル)のチャージ制御信号CRを付加ソース電流源33及び付加シンク電流源34へ供給する。これにより、付加ソース電流源33がオンするので、充電部221が、ソース電流源29の流し出す定電流と付加ソース電流源33の流し出す電流とを合わせた第1の充電電流を出力ノードNCPへ流し出す。あるいは、付加シンク電流源34がオンするので、放電部222が、シンク電流源30の吸い込む定電流と付加ソース電流源33の吸い込む電流とを合わせた第1の放電電流を出力ノードNCPから吸い込む。
【0037】
例えば、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であると判定された場合、ノンアクティブレベル(例えばLレベル)のチャージ制御信号CRを付加ソース電流源33及び付加シンク電流源34へ供給する。これにより、付加ソース電流源33がオフするので、充電部221が、アクティブレベルの上昇信号UP ̄に応じて、ソース電流源29の流し出す定電流を第2の充電電流として出力ノードNCPへ流し出す。あるいは、付加シンク電流源34がオフするので、放電部222が、アクティブレベルの下降信号DOWNに応じて、シンク電流源30の吸い込む定電流を第2の放電電流として出力ノードNCPから吸い込む。
【0038】
このように、N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nを用いて遅延クロックCK−Nを生成し、N個より少ないK個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Kを用いて遅延クロックCK−Kを生成する。そして、基準クロックCK0の位相と遅延クロックCK−Kの位相とを比較することにより基準クロックCK0と遅延クロックCK−Nとの位相差が閾値以下であるか否かを判定する。これにより、出力すべき遅延クロックCK−Nと基準クロックCKとが同期した状態になる前に遅延クロックCK−Nと基準クロックCK0とが同期した状態に近づいたことを判定することができる。
【0039】
また、遅延クロックCK−Nと基準クロックCK0とが同期した状態すなわちロック状態から遠いときに大きな第1の値の遅延制御電流に応じてロック動作を行うので、DLL回路がロック状態の近傍になるまでのロック動作を高速に行うことができる。また、DLL回路がロック状態の近傍にあるときに小さな第2の値の遅延制御電流に応じてロック動作を行うので、遅延制御電圧の変動を低減できる。すなわち、広帯域に渡る周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けても、ロック状態から遠いときに大きなロック動作を高速に行うことができるとともに、ロック状態の近傍における遅延制御電圧の変動を低減できる。これにより、広帯域に渡る周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けても、ロックするまでの時間を短くできる。
【0040】
また、遅延制御電圧を生成するための回路が、位相比較器21、判定回路13、チャージポンプ22、及びループフィルタ23を含む1系統の回路となっている。このため、全体として回路構成が簡易になっている。さらに、判定回路13は、基準クロックCK0と遅延クロックCK−Kとの位相比較を行い、その比較結果に応じた制御信号を出力する機能を有していれば良いので、簡易な回路構成で実現可能である。この点からも、全体として回路構成が簡易になっている。
【0041】
したがって、本実施形態によれば、広帯域に渡る周波数範囲におけるどの周波数の基準クロックを受けてもロックするまでの時間を短くできるDLL回路を簡易な回路構成で実現することができる。
【0042】
また、ロック状態の近傍における遅延制御電圧の変動を低減できるので、ロック状態になる前からDLL回路のジッタを低減できる。
【0043】
また、チャージポンプを複数設けるのでなく、チャージポンプの付加電流源(付加ソース電流源、付加シンク電流源)でチャージポンプの電流を増加させている。このため、位相比較器が駆動するゲート数が少なく、位相比較器の負担が小さい。
【0044】
さらに、チャージポンプの付加電流源として、付加ソース電流源と付加シンク電流源との両方を用意しているため、チャージポンプのバランスが良い。
【0045】
次に、N個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nのそれぞれの内部構成を、図2を用いて説明する。図2は、本発明の第1実施形態におけるN個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nのそれぞれの内部構成を示す図である。
【0046】
電圧制御遅延素子12−Kは、nMOS121〜124、及びpMOS125,126を含む。nMOS123及び125はインバータINV1として動作し、nMOS124及び126はインバータINV2として動作する。nMOS121,122はそれぞれインバータINV1,INV2の応答時においてほぼ定電流源と見なすことができる。この電流値に依存して本遅延素子の伝播遅延量がほぼ決まる。これにより、電圧制御遅延素子12−Kは、入力された遅延クロックCK−(K−1)に対してその決定された伝播遅延量に応じた遅延量を有する遅延クロックCK−Kを出力端子T−Kへ出力する。
【0047】
ここで、遅延制御電圧VCが遅延制御ノードNCを介してnMOS121、122のゲートへ供給される。すなわち、nMOS121、122のゲート電圧を制御することによりnMOS121、122のドレイン電流値を制御することが可能であり、その結果、本遅延素子の伝播遅延量を制御することが可能である。図2の場合、nMOS121、122のゲート電圧が上がると、遅延素子の伝播遅延量が小さくなる。
【0048】
このように、複数のnMOS及び複数のpMOSを用いて各電圧制御遅延素子が構成されているので、各電圧制御遅延素子を簡易な回路構成で実現することができる。
【0049】
なお、他の電圧制御遅延素子12−1〜12−(K−1),12−(K+1)〜12−Nの内部構成も、電圧制御遅延素子12−Kの内部構成と同様である。
【0050】
次に、判定回路13の内部構成を、図3を用いて説明する。図3は、本発明の第1実施形態における判定回路13の内部構成を示す図である。
【0051】
判定回路13は、CK端子の立ち上がりエッジ検出型のDフリップフロップ14を含む。すなわち、判定部13a及びチャージ制御部13bは、Dフリップフロップ14を含む。
【0052】
判定部13aは、Dフリップフロップ14におけるD端子及びCK端子に対応した部分を含み、D端子及びCK端子の一方で基準クロックCK0を受け、D端子及びCK端子の他方で遅延クロックCK−Kを受ける。図3には、D端子で基準クロックCK0を受け、CK端子で遅延クロックCK−Kを受ける場合が例示されている。
【0053】
判定部13aは、CK端子で受けた基準クロックCK0の立ち上がり時に、D端子で受けた遅延クロックCK−KのレベルがLレベルならば、DLL回路1がロック状態の近傍にないと判定する。この場合、判定部13aは、ロック状態の近傍にないことを示すLレベルの信号を、基準クロックCK0の次の立ち上がり時まで、判定結果としてチャージ制御部13bへ供給しつづける。
【0054】
判定部13aは、CK端子で受けた基準クロックCK0の立ち上がり時に、D端子で受けた遅延クロックCK−KのレベルがHレベルならば、DLL回路1がロック状態の近傍にあると判定する。この場合、判定部13aは、ロック状態の近傍にあることを示すHレベルの信号を、基準クロックCK0の次の立ち上がり時まで、判定結果としてチャージ制御部13bへ供給しつづける。
【0055】
チャージ制御部13bは、DフリップフロップにおけるQ端子又はQB端子に対応した部分を含み、Q端子又はQB端子からチャージポンプを制御するためのチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIへ出力する。図3には、QB端子からチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIへ出力する場合が例示されている。
【0056】
チャージ制御部13bは、ロック状態の近傍にないことを示すLレベルの信号を判定部13aから受けた場合、遅延制御電流が第1の値になるように、QB端子からHレベルの信号をチャージ制御信号CRとして出力する。この場合、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0の次の立ち上がり時まで、Hレベルのチャージ制御信号CRをQB端子から出力しつづける。すなわち、チャージ制御部13bは、DLL回路1がロック状態の近傍にないと判定部13aにより判定されている間、アクティブレベル(例えばHレベル)のチャージ制御信号CRを付加ソース電流源33及び付加シンク電流源34へ供給しつづける。
【0057】
チャージ制御部13bは、ロック状態の近傍にあることを示すHレベルの信号を判定部13aから受けた場合、遅延制御電流が第2の値になるように、QB端子からLレベルの信号をチャージ制御信号CRとして出力する。この場合、チャージ制御部13bは、基準クロックCK0の次の立ち上がり時まで、Lレベルのチャージ制御信号CRをQB端子から出力しつづける。すなわち、チャージ制御部13bは、DLL回路1がロック状態の近傍にあると判定部13aにより判定されている間、ノンアクティブレベル(例えばLレベル)のチャージ制御信号CRを付加ソース電流源33及び付加シンク電流源34へ供給しつづける。
【0058】
このように、本実施形態では、判定部13a及びチャージ制御部13bを含む判定回路13がDフリップフロップを含むので、判定部13a及びチャージ制御部13bを簡易な回路構成で実現することができる。
【0059】
次に、充電部221におけるソース電流源29及び付加ソース電流源33のそれぞれの内部構成と、放電部222におけるシンク電流源30及び付加シンク電流源34のそれぞれの内部構成とを、図4を用いて説明する。図4は、本発明の第1実施形態におけるソース電流源29、付加ソース電流源33、シンク電流源30、及び付加シンク電流源34のそれぞれの内部構成を示す図である。
【0060】
ソース電流源29は、pMOS291を含む。pMOS291は、ソースが電源電圧VDDに接続され、ドレインがpMOSスイッチ31に接続されている。ソース電流源29は、定電圧供給回路(図示せず)から定電圧(例えばグランド電圧)がゲートに供給されている。これにより、pMOS291は、一定のドレイン電流を定電流としてpMOSスイッチ31側へ流し出す。
【0061】
付加ソース電流源33は、pMOS331、インバータ333、及びpMOS332を含む。
【0062】
pMOS331は、ソースが電源電圧VDDに接続され、ドレインがpMOS332に接続され、定電圧供給回路(図示せず)から定電圧(例えばグランド電圧)がゲートに供給されている。これにより、pMOS331は、pMOS332側へ電流を流し出す。
【0063】
インバータ333は、チャージ制御ノードNIとpMOS332のゲートとの間に接続されている。インバータ333は、チャージ制御ノードNIを介してチャージ制御信号CRを受け、論理レベルが反転されたチャージ制御信号CR ̄を生成する。チャージ制御信号CRは、例えばHレベルがアクティブレベルである。チャージ制御信号CR ̄は、例えばLレベルがアクティブレベルである。インバータ333は、生成したチャージ制御信号CR ̄をpMOS332のゲートへ供給する。例えば、インバータ333は、Hレベルのチャージ制御信号CRを受けた際にLレベルのチャージ制御信号CR ̄をpMOS332のゲートへ供給する。例えば、インバータ333は、Lレベルのチャージ制御信号CRを受けた際にHレベルのチャージ制御信号CR ̄をpMOS332のゲートへ供給する。
【0064】
pMOS332は、ソースがpMOS331に接続され、ドレインがpMOSスイッチ31に接続されている。pMOS332は、インバータ333からチャージ制御信号CR ̄がゲートに供給されている。これにより、pMOS332は、アクティブレベル(例えばLレベル)のチャージ制御信号CR ̄がゲートに供給された際にオンすることにより、pMOS331とともにチャージ制御信号CR ̄に応じた電流をpMOSスイッチ31側へ流し出す。
【0065】
ここで、ソース電流源29が流し出す電流をIc29、付加ソース電流源33が流し出す電流をIc33とすると、
Ic29<Ic33・・・数式3
であることが好ましい。例えば、Mを1より大きい整数とすると、
Ic29+Ic33=M×Ic29・・・数式4
であることが好ましい。この場合、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍の充電電流を遅延制御電流として流すことができる。
【0066】
例えば、Ic29=5μA、Ic33=45μAのとき、M=10となる。この場合、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍の充電電流を遅延制御電流として流すことができるので、10倍高速にロック動作を行うことができる。
【0067】
一方、シンク電流源30は、nMOS301を含む。nMOS301は、ソースがグランド電圧GNDに接続され、ドレインがnMOSスイッチ32に接続されている。シンク電流源30は、定電圧(例えば電源電圧)がゲートに供給されている。これにより、nMOS301は、一定のドレイン電流を定電流としてnMOSスイッチ32側から吸い込む。
【0068】
付加シンク電流源34は、nMOS341、及びnMOS342を含む。
【0069】
nMOS341は、ソースがグランド電圧GNDに接続され、ドレインがnMOS342に接続され、定電圧供給回路(図示せず)から定電圧(例えばグランド電圧)がゲートに供給されている。これにより、nMOS341は、nMOS342側から電流を吸い込む。
【0070】
nMOS342は、ソースがnMOS341に接続され、ドレインがnMOSスイッチ32に接続されている。nMOS342は、チャージ制御ノードNIを介してチャージ制御信号CRがゲートに供給されている。これにより、nMOS342は、アクティブレベル(例えばHレベル)のチャージ制御信号CRがゲートに供給された際にオンすることにより、nMOS341とともにチャージ制御信号CRに応じた電流をnMOSスイッチ32側から吸い込む。
【0071】
ここで、シンク電流源30が吸い込む電流をId29、付加シンク電流源34が吸い込む電流をId33とすると、
Id29<Id33・・・数式5
であることが好ましい。例えば、Mを1より大きい整数とすると、
Id29+Id33=M×Id29・・・数式6
であることが好ましい。この場合、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍の放電電流を遅延制御電流として流すことができるので、M倍高速にロック動作を行うことができる。
【0072】
例えば、Id29=5μA、Id33=45μAのとき、M=10となる。この場合、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍の充電電流を遅延制御電流として流すことができる。
【0073】
このように、本実施形態では、DLL回路1が、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍の充電電流又はM倍の放電電流を遅延制御電流として流すことができる。これにより、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに比べて、ロック状態から遠いときに、M倍(例えば10倍)高速にロック動作を行うことができる。
【0074】
また、DLL回路1は、ロック状態から遠いときに比べて、ロック状態の近傍にあるときに、1/M倍の充電電流又は1/M倍の放電電流を遅延制御電流として流すことができる。これにより、DLL回路1は、ロック状態の近傍にあるときに、遅延制御電圧の変動が発生する期間を効果的に低減することができる(図6参照)。
【0075】
さらに、複数のpMOSと1つのインバータを用いて充電部221が構成され、複数のnMOSを用いて放電部222が構成されているので、チャージポンプ22を簡易な回路構成で実現することができる。
【0076】
次に、DLL回路1の動作を、図5を用いて説明する。図5は、本発明の第1実施形態に係るDLL回路1の動作を示すタイミングチャートである。
【0077】
図5(a)は、DLL回路1の起動時におけるDLL回路1の動作を示す。図5(b)は、DLL回路1のロック状態の近傍におけるDLL回路1の動作を示す。図5(c)は、DLL回路1のロック状態におけるDLL回路1の動作を示す。
【0078】
「CK0」は、基準クロックCK0の波形を示す。「CK−K」は、遅延クロックCK−Kの波形を示す。「CK−N」は、遅延クロックCK−Nの波形を示す。「UP」は、上昇信号UPの波形を示す。「DOWN」は、下降信号DOWNの波形を示す。「CR」は、チャージ制御信号CRの波形を示す。なお、チャージ制御信号CR ̄の波形は、チャージ制御信号CRの波形を反転させたものとなる。
【0079】
図5(a)に示すように、DLL回路の起動時は、VCDL11の遅延制御ノードNCの遅延制御電圧VCのレベルが電源電圧VDDのレベルになっている。このため、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b1は、基準クロックCK0の立ち上がり時a1に対する遅延時間が小さくなっている。
【0080】
判定回路13に入力される遅延クロックCK−Kは、起動時、図5(a)に示すようなパルスとなっている。つまり、基準クロックCK0の立ち上がり時(a1またはc1)、遅延クロックCK−KはHレベルである。このため、図3のDフリップフロップ14のQB出力すなわちチャージ制御信号CRはHレベルとなり、付加ソース電流源33と付加シンク電流源34とをオンさせる設定となる。このとき、チャージポンプ22は、例えば50μAの電流を流しており、付加ソース電流源33と付加シンク電流源34とが無い場合に比べ、約M(例えば10)倍速くロック状態の近傍に近づく。
【0081】
DLL回路1は、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b1と基準クロックCK0の立ち上がり時c1とが同時になるように、N個の電圧制御遅延素子のそれぞれの伝播遅延量を制御する。このため、位相比較器21は、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b1と基準クロックCK0の立ち上がり時c1との時間差と同じ時間の下降信号DOWNを出力する。すると、出力ノードNCPからシンク電流源30と付加シンク電流源34とにより第1の放電電流が吸い込まれるため、出力ノードNCPの電圧が下がる。すると、ループフィルタ23から遅延制御ノードNCへ出力される遅延制御電圧VCのレベルも下がり、N個の電圧制御遅延素子のそれぞれの伝播遅延量が大きくなっていく。それにともない、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b1の位置が後ろにずれていく。
【0082】
図5(b)に示すように、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時a2と基準クロックCK0の立ち上がり時d2との位置がある程度近づいたが十分近づいていない状態では、DLL回路1がロック状態の近傍の直前となっている。DLL回路1がロック状態の近傍直前となっているときには、基準クロックCK0の立ち上がり時a2に遅延クロックCK−KがLレベルであるため、チャージ制御信号CRがHレベルである。
【0083】
そして、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b2と基準クロックCK0の立ち上がり時c2との位置が十分近づくと、DLL回路1はロック状態の近傍となる。DLL回路1がロック状態の近傍となっているときには、基準クロックCK0の立ち上がり時c2に遅延クロックCK−KがHレベルであるため、チャージ制御信号CRがLレベルになる。このため、基準クロックCK0の立ち上がり時c2以降、チャージ制御信号CRはLレベルとなる。よって、付加ソース電流源33と付加シンク電流源34とがオフする設定になり、チャージポンプには例えば5μAしか電流が流れなくなる。この状態でも、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b2と基準クロックCK0の立ち上がり時c2との時間差に応じ、位相比較器21は下降信号DOWNを出力している。このため、さらに遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b2はさらに遅れてロック状態に近づいていく。
【0084】
そして、図5(c)に示すように、遅延クロックCK−Nの立ち上がり時b3と基準クロックCK0の立ち上がり時c3とが同時となると、DLL回路1はロック状態になる。ロック状態では、位相比較器21の下降信号DOWNと上昇信号UPとのパルス幅が同じになり、チャージ制御ノードNCにおける電圧変動が遷移すべき電圧範囲内に収まるようになる。この状態では、チャージポンプ22は例えば5μAという小さな電流で動いており、消費電流を下げられるばかりでなく、チャージ制御ノードNCにおける電圧変動が小さいため、遅延クロックCK−Nのジッタが小さくなる。
【0085】
このように、基準クロックCK0の位相と、基準クロックCK0に対してロック状態における位相差が(1―r)周期より大きくかつ1周期より小さくなるような遅延クロックCK−Kの位相とを比較する。これにより、DLL回路1がロック状態の近傍か否かを判定できる。
【0086】
次に、本発明の効果を明確にするため、本発明の第1実施形態に係るDLL回路1における遅延制御電圧VCの時間的な変化のシミュレーション結果を、図6に示す。図6は、本発明の第1実施形態に係るDLL回路1における遅延制御電圧VCの時間的な変化のシミュレーション結果を示す図である。
【0087】
図6では、VCDL11の遅延制御ノードNCにおける遅延制御電圧VCのレベルの、DLL回路1の起動時からの時間的変化が示されている。DLL回路1の起動からタイミングdまでの間は、チャージポンプ22が、シンク電流源30と付加シンク電流源34とをオンさせて、50μAの電流を流している。このため、シンク電流源30のみで5μAの電流しか流さない場合に比べ、約10倍速くロック近傍のタイミングdに辿りつける。そして、タイミングd以降は、付加ソース電流源33と付加シンク電流源34とがオフとなり、ソース電流源29とシンク電流源30とにより、遅延制御電圧VCは緩やかにロックタイミングeまで変化する。ロックタイミングe以降は、ソース電流源29とシンク電流源30とが流す電流が釣り合うため、遅延制御電圧VCは遷移すべき電圧範囲内で変動するようになる。すなわち、タイミングd〜eの期間において、遅延制御電圧VCが遷移すべき電圧範囲を超えて変動することがなく、遅延制御電圧VCの変動が低減されている。
【0088】
以上のように、本実施形態によれば、判定回路の論理による判定で、チャージポンプの電流を増減するので、基準クロックの周波数が広帯域にわたっても、ロック状態までの時間を短くすることができる。また、ロック状態では、遅延クロックCK−Nのジッタを小さくすることができ、位相オフセットも小さい。
【0089】
また、判定回路は論理回路からなるので、中間電圧を用意する必要がないうえに充電回路も必要ない。よって、本実施形態に係るDLL回路は簡易な回路構成であり占有面積も小さい。
【0090】
次に、本発明の第2実施形態に係るDLL回路1iを説明する。
【0091】
DLL回路1iは、チャージポンプ22iを備える。チャージポンプ22iは、図7に示すように、充電部221iを含む。充電部221iは、付加ソース電流源33(図4参照)を含まない。図7は、本発明の第2実施形態におけるチャージポンプ22iの構成を示す図である。
【0092】
ここで、電圧制御遅延素子に第1実施形態同様のnMOS電流源制御型の電圧制御遅延素子を用いる。よって、DLL回路1iの起動時におけるVCDL11に対する遅延制御電圧VCのレベルは、アクティブレベルである電源電圧VDDのレベルである。このため、ロック状態から遠い電流増加モードときチャージポンプ22iは、付加ソース電流源を必要としない。よって、付加ソース電流源を除去し、付加電流源は、付加シンク電流源34のみとしている。これにより、pMOSで構成される付加ソース電流源が必要ないので、占有面積を小さくできる効果がある。
【0093】
以上の説明は、電圧制御遅延素子に第1実施形態同様のnMOS電流源制御型の電圧制御遅延素子を用いた例で説明した。一方、電圧制御遅延素子にpMOS電流源制御型の電圧制御遅延素子を用いた場合、DLL回路の起動時におけるVCDLに対する遅延制御電圧VCのレベルは、アクティブレベルである接地電圧GNDのレベルになる。この場合は、付加電流源は、付加ソース電流源のみとし、付加シンク電流源を省くのが望ましい。
【0094】
次に、本発明の第3実施形態に係るDLL回路1jを、図8を用いて説明する。図8は、本発明の第3実施形態に係るDLL回路1jの構成を示す図である。
【0095】
DLL回路1jは、チャージポンプ46−1〜46−LをL個すなわち複数備え、判定回路13jを備える。
【0096】
L個のチャージポンプ46−1〜46−Lのそれぞれは、第1実施形態におけるチャージポンプ22から付加ソース電流源33及び付加シンク電流源34を除いたものと同様である。
【0097】
判定回路13jは、チャージ制御部13bjを含む。チャージ制御部13bjは、ロック状態の近傍にないと判定部13aにより判定された場合、L個のチャージポンプ46−1〜46−Lにおける第3の個数Q1(≦L)のチャージポンプ46−1〜46−Q1を動作させる。チャージ制御部13bjは、ロック状態の近傍にあると判定部13aにより判定された場合、L個のチャージポンプ46−1〜46−Lにおける第4の個数Q2のチャージポンプ46−1〜46−Q2を動作させる。第4の個数Q2は、第3の個数Q1より少ない。すなわち、
0<Q2<Q1≦L・・・数式7
である。
【0098】
例えば、L=2である場合、数式7より、例えば、Q1=2、Q2=1である。この場合、チャージ制御部13bjは、DLL回路がロック状態から遠く判定回路13jの出力するチャージ制御信号がHレベルのとき、2個のチャージポンプ46−1及び46−2を動作させる。DLL回路がロック状態近傍になり判定回路13jの出力するチャージ制御電流がLレベルになれば、チャージポンプ46−2をオフして、1個のチャージポンプ46−1を動作させる。
【0099】
この構成は、ロック状態の近傍で使用するpMOSスイッチ31とnMOSスイッチ32のソース電極に寄生する拡散容量が小さい利点がある。
【0100】
なお、上記の第1〜第3実施形態において、判定回路13は、図9(a)〜9(d)に示す構成であっても良い。図9は、本発明の第1〜第3実施形態における判定回路13の他の内部構成例を示す図である。
【0101】
図9(a)では、判定回路13がCK端子の立ち上がりエッジ検出型のDフリップフロップ41からなっている点で、図3の構成と同様であるが、D端子及びCK端子に入力される信号が異なっている。基準クロックCK0をD端子に入力し、遅延クロックCK−KをCK端子に入力している。そして、Q端子からチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIに出力している。判定回路13に入力する遅延クロックCK−Kと基準クロックCK0とは、ロック状態でのパルスの立ち上がり位相差が、基準クロックCK0における正のデューティ比が例えば0.5である場合、半周期より大きく1周期より小さいという関係を満たしている。また、判定回路13に入力する遅延クロックは、基準クロックCK0における正のデューティ比が0.3であれば、0.7(=1−0.3)周期より大きく1周期より小さいという関係を満たすような遅延クロックを使うのが良い。例えば、N=32の場合における遅延クロックCK−22〜CK−31を使うのが良い。
【0102】
図9(b)では、判定回路13がCK端子の立ち上がりエッジ検出型のDフリップフロップ41からなっている点で、図3の構成と同様であるが、D端子及びCK端子に入力される信号が異なっている。遅延クロックCK−KをD端子に入力し、遅延クロックCK−NをCK端子に入力している。そして、Q端子からチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIに出力している。判定回路13に入力する遅延クロックCK−Kと遅延クロックCK−Nとは、ロック状態でのパルスの立ち上がり位相差は、基準クロックCK0における正のデューティ比が例えば0.5である場合、半周期より大きく1周期より小さいという関係を満たしている。
【0103】
図9(c)では、判定回路13がANDゲート43とDラッチ44からなっている。基準クロックCK0には、正のデューティ比が0.5のものを使う。ANDゲート43の入力には、遅延クロックCK−(K−2)と遅延クロックCK−Kとを入力し、その出力をDラッチ44のD端子に接続する。Dラッチ44のCK端子には、基準クロックCK0を入力する。そして、Q端子からチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIに出力している。Dラッチ44のD端子への入力パルスは、ANDゲート43を介すことにより、その正のデュティ比を小さくしている。判定回路13に入力するクロックのうち、少なくとも2つである遅延クロックCK−Kと基準クロックCK0とは、ロック状態でのパルスの立ち上がり位相差が、半周期より大きく1周期より小さいという関係を満たしている。
【0104】
図9(d)では、判定回路13がCK端子の立ち上がりエッジ検出型のJKフリップフロップ45からなっている。基準クロックCK0には、正のデューティ比が0.5のものを使う。J端子には遅延クロックCK−N、CK端子には遅延クロックCK−K、K端子には基準クロックCK0を入力している。そして、Q端子からチャージ制御信号CRをチャージ制御ノードNIに出力している。判定回路13に入力するクロックのうち、少なくとも2つである遅延クロックCK−Kと基準クロックCK0とは、ロック状態でのパルスの立ち上がり位相差が、半周期より大きく1周期より小さいという関係を満たしている。
【0105】
以上の説明では、判定回路は、立ち上がりパルス同期型の論理回路で説明したが、これに代えて、立ち下がり同期型の論理回路で構成されてもよい。
【0106】
VCDL11は、nMOS電流源制御型の電圧制御遅延素子であったが、本発明の電圧制御遅延素子はこれに限られない。例えば、pMOS電流源制御型の電圧制御遅延素子であっても良いし、nMOS−pMOS両電流源制御型の電圧制御遅延素子であっても良いし、入力差動−出力差動型の電圧制御遅延素子であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1実施形態に係るDLL回路1の構成を示す図。
【図2】本発明の第1実施形態におけるN個の電圧制御遅延素子12−1〜12−Nのそれぞれの内部構成を示す図。
【図3】本発明の第1実施形態における判定回路13の内部構成を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態におけるソース電流源29、付加ソース電流源33、シンク電流源30、及び付加シンク電流源34のそれぞれの内部構成を示す図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るDLL回路1の動作を示すタイミングチャート。
【図6】本発明の第1実施形態に係るDLL回路1における遅延制御電圧VCの時間的な変化のシミュレーション結果を示す図。
【図7】本発明の第2実施形態におけるチャージポンプ22iの構成を示す図。
【図8】本発明の第3実施形態に係るDLL回路1jの構成を示す図。
【図9】本発明の第1〜第3実施形態における判定回路13の他の内部構成例を示す図。
【符号の説明】
【0108】
1、1i、1j DLL回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された第1の個数の電圧制御遅延素子を含み、基準クロックを前記第1の個数の電圧制御遅延素子で遅延させることにより前記基準クロックに対して第1の遅延量を有した第1の遅延クロックを生成して出力するとともに、前記基準クロックを前記第1の個数の電圧制御遅延素子の一部である第2の個数の電圧制御遅延素子で遅延させることにより前記基準クロックに対して前記第1の遅延量より小さい第2の遅延量を有した第2の遅延クロックを生成する遅延部と、
前記基準クロックの位相と前記第1の遅延クロックの位相とを比較し、比較結果に応じた上昇信号又は下降信号を出力する位相比較部と、
前記上昇信号又は前記下降信号に応じて、遅延制御電流を出力するチャージポンプと、
前記遅延制御電流に応じて遅延制御電圧を生成し、生成した前記遅延制御電圧を前記第1の個数の電圧制御遅延素子のそれぞれに供給することにより、前記基準クロックに対して前記第1の遅延クロックが同期するように前記第1の遅延量を制御する遅延制御部と、
前記基準クロックの位相と前記第2の遅延クロックの位相とを比較することにより前記基準クロックと前記第1の遅延クロックとの位相差が閾値以下であるか否かを判定する判定部と、
前記位相差が前記閾値より大きいと前記判定部により判定された場合、前記遅延制御電流が第1の値になり、前記位相差が前記閾値以下であると前記判定部により判定された場合、前記遅延制御電流が前記第1の値より小さい第2の値になるように、前記チャージポンプを制御するチャージ制御部と、
を備えたことを特徴とするクロック生成回路。
【請求項2】
前記基準クロックの位相と前記第2の遅延クロックの位相との差は、前記基準クロックに対して前記第1の遅延クロックが同期した状態において、前記基準クロックのデューティー比をrとするとき、前記基準クロックの周期の(1―r)倍より大きく前記基準クロックの周期より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載のクロック生成回路。
【請求項3】
前記判定部は、前記基準クロックに同期したタイミングにおいて前記第2の遅延クロックのレベルが第1の論理レベルにある場合、前記位相差が前記閾値より大きいと判定し、前記基準クロックに同期したタイミングにおいて前記第2の遅延クロックのレベルが第2の論理レベルにある場合、前記位相差が前記閾値以下であると判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクロック生成回路。
【請求項4】
前記判定部及び前記チャージ制御部は、Dフリップフロップを含み、
前記判定部は、前記DフリップフロップにおけるD端子及びCK端子に対応した部分を含み、前記D端子及び前記CK端子の一方で前記基準クロックを受け、前記D端子及び前記CK端子の他方で前記第2の遅延クロックを受け、
前記チャージ制御部は、前記DフリップフロップにおけるQ端子又はQB端子に対応した部分を含み、前記Q端子又は前記QB端子から前記チャージポンプを制御するための信号を出力する
ことを特徴とする請求項3のクロック生成回路。
【請求項5】
前記チャージポンプは、
出力ノードと、
前記上昇信号に応じて、前記出力ノードへ充電電流を流し出す充電部と、
前記下降信号に応じて、前記出力ノードから放電電流を吸い込む放電部と、
を含み、
前記チャージ制御部は、前記位相差が前記閾値より大きいと前記判定部により判定された場合、前記充電部が第1の充電電流を流し出し又は前記放電部が第1の放電電流を吸い込み、前記位相差が前記閾値以下であると前記判定部により判定された場合、前記充電部が前記第1の充電電流より小さい第2の充電電流を流し出す又は前記放電部が前記第1の放電電流より小さい第2の放電電流を吸い込むように、前記充電部及び前記放電部を制御する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のクロック生成回路。
【請求項6】
前記クロック生成回路は、前記チャージポンプを複数備え、
前記チャージ制御部は、前記位相差が前記閾値より大きいと前記判定部により判定された場合、前記複数の前記チャージポンプにおける第3の個数の前記チャージポンプを動作させ、前記位相差が前記閾値以下であると前記判定部により判定された場合、前記複数の前記チャージポンプにおける前記第3の個数より少ない第4の個数の前記チャージポンプを動作させる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のクロック生成回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−157923(P2010−157923A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335226(P2008−335226)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】