説明

タンク及びその製造方法

【課題】樹脂製ライナの熱劣化を防止できるタンクの製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材により樹脂製ライナの外周面を被覆する断熱材被覆工程S11と、熱硬化性樹脂とその熱硬化性樹脂を含浸した繊維とを含む樹脂含浸繊維により上記断熱材の外周面を被覆するFRP被覆工程S12と、上記熱硬化性樹脂を加熱により硬化する熱硬化工程S13とを含むタンクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば天然ガス自動車に搭載される燃料装置、及び燃料電池自動車に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として、高圧天然ガスタンクや高圧水素タンクが用いられる。このような高圧タンクは、タンク容器本体であるライナと、そのライナを被覆した繊維強化樹脂(以下、「FRP」と表記する)層とを備えている。かかる構成を有すると、ライナを薄肉化してもFRP層によりタンクの高い内圧に耐える強度が維持されるので、タンク自体の軽量化が図れる。FRP層は、例えば、熱硬化性樹脂を含浸した繊維をライナの外周面に巻き付け、その熱硬化性樹脂を加熱により熱硬化して形成される。
【0003】
従来、上記構成を有する高圧タンクとして、種々の目的でFRP層と他の層とを積層したものが提案されている。例えば特許文献1では、複合容器の製作段階において、使用後の再生資源としての利用を容易ならしめる工夫を加えることを意図して、金属製ライナの外周をFRPで補強した複合容器であって、金属製ライナとFRP層との間の全面又はその主要部分に離型用フィルムからなる固着防止層を形成させたことを特徴とする天然ガス自動車燃料装置用複合容器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−292899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載のものを始めとする従来のタンクについて詳細に検討を行ったところ、ライナが樹脂製ライナであると熱劣化することを知見した。そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、樹脂製ライナの熱劣化を防止できるタンクの製造方法及びその製造方法により得られるタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、FRP層の形成の際、熱硬化性樹脂の熱硬化に伴う発熱により樹脂製ライナが熱劣化することを見出した。つまり、熱硬化性樹脂の硬化反応は発熱反応であるため、樹脂製ライナの耐熱温度を考慮して熱硬化性樹脂に対する加熱温度を設定しても、樹脂製ライナが曝される温度は、熱硬化性樹脂の硬化時の発熱によって、設定した加熱温度よりも高くなる。その結果、樹脂製ライナの熱劣化が生じてしまうことを見出した。
【0007】
図6は、従来のタンクを製造するために、ポリアミド6製ライナの外周面をエポキシ樹脂を含浸した炭素繊維で被覆し、そのエポキシ樹脂を硬化するために加熱したときのライナの温度変化を示すチャートである。(a)がライナの温度、(b)が加熱に用いた硬化炉の炉内温度のプロットである。図6によると、硬化炉の炉内温度を約80℃に保持してエポキシ樹脂を硬化すると、ライナの温度は室温から徐々に上昇する。ところが、ある時点になるとそのライナの温度が急激に上昇し、最高で174℃に達する。ポリアミド6製ライナは、150℃以上に加熱されるとその破断伸びが急激に低下するため、かかる温度上昇はライナの熱劣化を引き起こす。そこで、本発明者は、樹脂製ライナの上記温度上昇を抑制すべく更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のタンクの製造方法は、熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材により樹脂製ライナの外周面を被覆する第1の工程と、熱硬化性樹脂とその熱硬化性樹脂を含浸した繊維とを含む樹脂含浸繊維により上記断熱材の外周面を被覆する第2の工程と、上記熱硬化性樹脂を加熱により硬化する第3の工程とを含む。
【0009】
上記本発明のタンクの製造方法によると、樹脂製ライナと繊維強化樹脂との間に熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材を挟んだ状態で、樹脂含浸繊維中の熱硬化性樹脂を加熱する。例えば、25℃、1気圧での乾燥空気の熱伝導率が約0.02W/m・Kであることからも明らかなように、本発明では、非常に断熱性能に優れた断熱材を採用する。これにより、たとえ熱硬化性樹脂を加熱した際にその樹脂が発熱しても、樹脂製ライナへの伝熱は抑制されるため、そのライナの熱劣化を十分に防止できる。
【0010】
本発明のタンクの製造方法において、上記断熱材は、ウレタンフォーム及びフェノールフォームからなる群より選ばれる1種以上の断熱材であってもよい。これらの断熱材は、0.03W/m・K以下の熱伝導率を有し得るので、本発明の目的を確実に達成することができる。また、断熱材が1mm以下の厚さを有すると、断熱材を備えることに伴うタンク外径の増大を抑えることができ、タンクを搭載する空間を小さくできるので好ましい。
【0011】
上記樹脂製ライナを構成する樹脂は、ポリアミド、ポリエチレン及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であると好ましい。また、上記熱硬化性樹脂は、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びポリビニルエステルからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であると好ましい。さらに、上記繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維であると好ましい。それら各材料の組合せは、樹脂製ライナを構成する前記樹脂がポリアミドであり、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、繊維が炭素繊維であり、かつ断熱材がウレタンフォーム及びフェノールフォームからなる群より選ばれる1種以上の断熱材である組合せが特に好ましい。
【0012】
また、本発明のタンクは、樹脂製ライナと、その樹脂製ライナの外周面を被覆する、熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材を含む断熱層と、その断熱層の外周面を被覆する、繊維と熱硬化性樹脂とを含む繊維強化樹脂層とを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂製ライナの熱劣化を防止できるタンクの製造方法及びその製造方法により得られるタンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示すタンクの製造方法の工程図である。
【図2】樹脂製ライナに断熱材を被覆する様子を模式的に示す図である。
【図3】樹脂含浸繊維により樹脂製ライナを被覆する様子を模式的に示す図である。
【図4】樹脂含浸繊維層の熱硬化性樹脂を加熱により硬化する様子を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態のタンクを模式的に示す断面図である。
【図6】従来のタンクを製造するために、樹脂製ライナの外周面を樹脂含浸繊維で被覆して加熱したときの樹脂製ライナの温度変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態のタンクの製造方法を示す工程図である。本実施形態のタンクの製造方法は、樹脂製ライナの外周面を断熱材で被覆する断熱材被覆工程S11と、上記断熱材の外周面を樹脂含浸繊維により被覆するFRP被覆工程S12と、上記樹脂含浸繊維に含まれる熱硬化性樹脂を加熱により硬化する熱硬化工程S13とを含む。
【0017】
まず、断熱材被覆工程S11について説明する。図2は、断熱材被覆工程S11において樹脂製ライナ21に断熱材22を被覆する様子を示す図である。まず、断熱材被覆工程S11に先立って、樹脂製ライナ21と、その樹脂製ライナ21の長手方向の両端部に取り付けられた口金23とを有する構造体24を準備する。樹脂製ライナ21は、例えば、両端が略半球状である円筒形状を有しており、本明細書ではその略半球状部分をドーム部、筒状胴体部分をストレート部といい、それぞれ符号21d、21sで表す。
【0018】
樹脂製ライナ21を構成する樹脂は、ガスバリア性に優れ、タンクに貯留するガスの外部への透過を抑制できるものであれば特に限定されず、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。ホモポリマーとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表されるポリオレフィン;ポリスチレン;ポリアミド;ポリイミド;ポリウレタン;エポキシ樹脂;ポリカーボネート;メラミンホルミアルデヒド;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル;ポリメタクリル酸メチルに代表されるアクリル樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンに代表されるポリハロオレフィン;並びに、ポリビニルアルコールが挙げられる。また、コポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルニトリル−スチレン共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0019】
樹脂製ライナ21を構成する樹脂は、ガスバリア性に一層優れる観点から、ポリアミド、ポリエチレン及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であると好ましい。ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T及びポリアミド612が挙げられる。ポリエチレンとしては、例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン、中低圧法高密度ポリエチレン、及びメタロセン触媒直鎖状短鎖分岐ポリエチレンが挙げられる。上述と同様の観点から、ポリエチレンは中低圧法高密度ポリエチレンであると好ましく、ポリアミドはポリアミド6であると好ましい。
【0020】
樹脂製ライナ21の両端には開口部が形成されており、その開口部に口金23が嵌入されている。口金23の一方は更に貫通孔を形成し、バルブと嵌合することによりガスの導入又は導出口として機能し、他方は封止されている。口金23は例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、例えばダイキャスト法等により所定の形状に製造されている。
【0021】
一方で、樹脂製ライナ21のドーム部21dを被覆するための断熱材22dと、樹脂製ライナ21のストレート部21sを被覆するための断熱材22sとを準備する。これらの断熱材22d及び22sは、最終的に樹脂製ライナ21を被覆する断熱材22を形成する。
【0022】
断熱材22は、通常、熱伝導率が0.03W/m・K以下のものであれば特に限定されず、繊維系断熱材及び発泡系断熱材のいずれであってもよい。これらの中では、より高断熱性を発揮できる観点から、発泡系断熱材が好ましい。繊維系断熱材としては、例えば、グラスウールに代表される無機繊維系断熱材、並びに、セルロースファイバー及び羊毛断熱材に代表される天然繊維系断熱材が挙げられる。また、発泡系断熱材としては、ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、高発泡ポリエチレンフォーム、及びアイシネンフォームが挙げられる。これらの中では、所望の断熱性を有し入手が容易な観点からウレタンフォーム及びフェノールフォームが好ましい。
【0023】
断熱材22は、公知の方法により製造してもよく、市販のモノを入手してもよい。また、断熱材22として、フィルム状又はシート状の断熱材を単層で用いてもよく、2層以上積層して用いてもよい。2層以上積層して用いる場合、各層の断熱材は互いに異なっていても同一であってもよい。
【0024】
断熱材22を公知の方法により製造する場合において、その熱伝導率を0.03W/m・K以下にするには、断熱材22を構成する固体部分の材質として熱伝導率が低い材質を選択したり、断熱材22が内包する気体部分の割合を多くしたりすればよい。
【0025】
また、断熱材22の耐熱性を高めるため、断熱材22の固体部分が難燃剤を含有するものであると好ましい。そのような難燃剤としては、例えば、臭素化合物、リン化化合物、無機系粒子(例えばシリカ、アルミナ)が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。難燃剤を添加することにより、断熱材22が例えば150℃以上に加熱されても、その熱劣化を抑制することができる。
【0026】
断熱材22の熱伝導率は、本発明の目的を達成すると共に、タンクを更に小型化する観点から、0.03W/m・K以下であると好ましい。なお、本明細書において、熱伝導率はレーザーフラッシュ法(JISR1611−1997)、熱線法(プローブ法)により測定される。
【0027】
断熱材22の厚さは特に限定されないが、1mm以下であるとタンクの更なる小型化を実現できるので好ましい。同様の観点から、断熱材22の厚さは2.0mm以下であるとより好ましく、1.0mm以下であると更に好ましい。
【0028】
本発明による作用効果をより確実かつ有効に奏する観点から、断熱材22は、熱伝導率と厚さとの積(熱伝導率×厚さ)が0.067m2・K/W以下であると好ましく、0.033067m2・K/W以下であるとより好ましい。
【0029】
また、断熱材22の厚さを部分的に変化させてもよい。例えば、後述の樹脂含浸繊維層26における熱硬化性樹脂は、その下地の形状によって発熱の程度が変化する。樹脂製ライナ21のドーム部21dに対応する部分での発熱の方が、ストレート部21sに対応する部分での発熱よりも小さい。そこで、断熱材22dの厚さを断熱材22sの厚さよりも薄くすることが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂の発熱に伴う樹脂製ライナ21の熱劣化を有効に防止すると同時に、タンクの小型化を効率的に図ることができる。
【0030】
断熱材被覆工程S11では、まず、円筒状の断熱材22sによって樹脂製ライナ21のストレート部21s外周面を被覆する。図2の(a)に示すように、断熱材22sは、予め円筒状に成形されていてもよい。あるいは、図示していないが、シート状又はフィルム状の断熱材を樹脂製ライナ21のストレート部21s外周面の全体に巻き付けた後、その両端を互いに接着することで、円筒状の断熱材22sを得てもよい。
【0031】
次いで、略半球状(ただし口金23に対応する部分は切り抜かれている。)の断熱材22dによって樹脂製ライナ21のドーム部21d外周面を被覆する。図2の(b)に示すように、断熱材22dは、予め略半球状に成形されていてもよい。あるいは、図示していないが、シート状又はフィルム状の断熱材であって、ドーム部21d外周面に被覆することで略半球状になるような平面形状に成形されていてもよい。なお、後者の場合、ドーム部21d外周面を被覆した後に、断熱材の所定の端部をそれぞれ互いに接着することで略半球状の断熱材22dが形成される。
【0032】
断熱材22s及び22dをフィルム状又はシート状のものとして用いることにより、樹脂製ライナ21への巻き付けが容易であり、しかも、断熱材を備えることに伴うタンクの大型化を最小限に留めることができる。
【0033】
続いて、図2の(c)に示すように、円筒状の断熱材22sの縁端部と略半球状の断熱材22dの縁端部とを接着テープ25により互いに接着して、樹脂製ライナ21全体の外周面を被覆した断熱材22を形成する。なお、接着テープ25に代えて粘着テープ又は液状の接着剤などを用いて上記縁端部同士を互いに接着してもよい。
【0034】
次に、FRP被覆工程S12について説明する。ここでは、フィラメントワインディング成形を利用して樹脂含浸繊維により樹脂製ライナを被覆する方法について例示して説明する。図3は、FRP被覆工程S12において用いられる樹脂含浸繊維の被覆システムの概略を示す図である。
【0035】
この被覆システム30は、繊維束供給部31と、張力測定器32と、樹脂含浸部33と、繊維束ガイド(アイロ)35と、樹脂製ライナ21及び口金23を有する構造体24と、制御部37とを備えている。
【0036】
繊維束供給部31には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図1においては3つ)のボビン34a〜34cが備えられている。繊維束供給部31は、繊維束f1〜f3の張力を調整して張力測定器32に送り出す。
【0037】
繊維束f1〜f3は、後の工程で得られるFRPにおいて強化繊維を構成するものである。その強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、金属繊維、並びに、アラミド繊維、ポリエチレン繊維及びポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維に代表される樹脂繊維が挙げられる。これらの中では、材質の熱容量が低く熱硬化性樹脂への伝熱を容易ならしめる観点及び入手の容易性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。強化繊維は常法により製造してもよく、市販品を入手してもよい。
【0038】
張力測定器32は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を制御部37に出力する。
【0039】
樹脂含浸部33は、未硬化の状態(液体又はゲル状)の熱硬化性樹脂が貯留された樹脂槽33aと、繊維束f1〜f3を樹脂槽33aの所定の位置に案内する含浸ローラ33b、33c及び33dとを備えており、繊維束f1〜f3に樹脂槽33a内の樹脂を含浸させる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂に代表される変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドが挙げられる。これらの中では、繊維との接着強度、耐環境性、耐熱性などの観点から、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリイミド樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。熱硬化性樹脂は常法により製造してもよく、市販品を入手してもよい。
【0041】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型が挙げられる。ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビス系ビニルエステル樹脂、ノボラック系ビニルエステル樹脂が挙げられる。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリアミド型、ポリアミック酸型が挙げられる。
【0042】
繊維束ガイド35は、熱硬化性樹脂を含浸した繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これを構造体24に案内する。繊維束ガイド50は、構造体24の長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、かつ、構造体24に対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている。
【0043】
構造体24は、その軸心を中心に回転可能となるように、支持部36aを介して回転駆動部36bに取り付けられている。回転駆動部36bは可変速モータを有しており、このモータによって構造体24を回転駆動する。
【0044】
加圧ポンプ36cは、樹脂含浸繊維層26の形成中に構造体24が凹むのを防ぐために、構造体24の内部を加圧する。
【0045】
制御部37は、樹脂含浸繊維の被覆システム30の運転を制御するプログラムを備えている。制御部37は、このプログラムに従って、例えば、繊維束供給部31の供給、樹脂含浸部33の回転、繊維束ガイド35の位置、構造体24の回転等、被覆システム30全体を制御するようになっている。
【0046】
FRP被覆工程S12では、まず、構造体24を、支持部36aを介して回転駆動部36bに取り付ける。次に、繊維束ガイド35を巻きつけ開始位置に配置する。そして、繊維束供給部31から繰り出された繊維束f1〜f3を、張力測定器32、樹脂含浸部33を経て繊維束ガイド35に導く。このとき、繊維束f1〜f3は、樹脂含浸部33にて樹脂が含浸される。
【0047】
次に、繊維束ガイド35にて、熱硬化性樹脂を含浸しかつ繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成する。その繊維束Fを構造体24に巻きつけていくことで、樹脂含浸繊維層26を形成する。より具体的には、回転駆動部36bのモータによって構造体24を回転駆動するとともに、繊維束ガイド50の往復運動とを同期させることにより、繊維束Fを構造体24に所定のパターンで巻き付け、複数層からなる樹脂含浸繊維層26を形成した。繊維束Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であってもよい。
【0048】
次いで、熱硬化工程S13について説明する。図4は、上記樹脂含浸繊維層26の熱硬化性樹脂を加熱により硬化する様子を模式的に示す図である。この工程S13では、まず、熱硬化性樹脂を加熱により硬化するための硬化炉(図示せず)内で、樹脂含浸繊維層26で被覆された構造体24を支持部41を介して回転駆動部42に取り付ける。次に、硬化炉のヒータ(図示せず)を作動させると共に、樹脂含浸繊維層26で被覆された構造体24を回転駆動部42のモータによって回転駆動する。ヒータによる加熱温度は、樹脂含浸繊維層26の熱硬化性樹脂が硬化するために十分な温度であって、かつ、樹脂製ライナ21や強化繊維を熱劣化させない温度であればよい。
【0049】
この際、熱硬化性樹脂の硬化反応に伴う発熱より、樹脂含浸繊維層26の温度は上記加熱温度よりも高い温度に上昇する。一方、樹脂含浸繊維層26と樹脂製ライナ21との間に断熱材22を挟み込んでいるため、樹脂含浸繊維層26から樹脂製ライナ21への伝熱は断熱材22によって阻害される。その結果、樹脂製ライナ21の温度は上記加熱温度以下か、加熱温度よりも僅かに高い程度の温度である。よって、例えばタンクの生産性を向上させるために熱硬化性樹脂を速硬化させても、従来発生した樹脂製ライナ21の熱劣化は十分に抑制される。
【0050】
こうして、樹脂含浸繊維層26が硬化して強化繊維樹脂層27となり、本実施形態のタンク50が得られる。図5は、そのタンク50の長手方向に垂直な方向に切断して現れる断面を模式的に示す図である。タンク50は、樹脂製ライナ21と、その樹脂製ライナ21の外周面を被覆し断熱材からなる断熱層22と、その断熱層22の外周面を被覆する強化繊維樹脂層27とを備える。
【0051】
そのタンク50において、強化繊維樹脂層27は、接着剤としても機能する熱硬化性樹脂の硬化により断熱層22に固着する。一方、断熱層22は樹脂製ライナ21に固着していない状態にある。従来のタンクにおいて、樹脂製ライナを被覆する層(例えば強化繊維樹脂層)を樹脂製ライナに接着する場合、実際にはそれらの間で不均一に接着する。そのため、タンク内にガスを補充したりタンクを加熱、冷却したりすることで樹脂製ライナが膨張及び収縮を繰り返すと、接着力が強い部分(例えばストレート部とドーム部との境界部分)に過度な応力が負荷され、樹脂製ライナの割れや変形が生じやすくなる。ところが、本実施形態のタンク50では、上述の通り、樹脂製ライナ21に断熱層22が固着していないため、樹脂製ライナ21に応力がかかり難くなる。その結果、樹脂製ライナ21が膨張及び収縮を繰り返しても、その割れや変形を十分に防止することができる。
【0052】
本実施形態のタンク50及びその製造方法において、樹脂製ライナ21を構成する樹脂がポリアミドであり、樹脂含浸繊維層26(強化繊維樹脂層27)における熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、繊維が炭素繊維であり、かつ、断熱材22がウレタンフォーム及びフェノールフォームからなる群より選ばれる1種以上の断熱材であると好ましい。エポキシ樹脂は、その入手の容易さ及びコストの面及び硬化後の機械的強度の観点から、炭素繊維は靱性に優れると共に発熱しやすくエポキシ樹脂の熱硬化を効率的に補助できる観点から、ポリアミドはガスバリア性に優れている観点から、それぞれ好ましい。また、ウレタンフォーム及びフェノールフォームからなる群より選ばれる1種以上の断熱材は、樹脂含浸繊維層26におけるエポキシ樹脂が硬化時に発熱しても、ポリアミド製であるライナ21への伝熱を十分に防止して、ライナ21の熱劣化(例えば破断伸び性の低下)を抑制することができる。
【0053】
本実施形態のタンク50は、その中に高圧ガスを貯留するタンクとして有用である。そのような高圧タンクとしては、例えば、燃料電池システム等において利用可能な水素タンク、CNG(圧縮天然ガス)を燃料として用いるCNG車両に利用される高圧圧力容器が挙げられる。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0055】
例えば、上記本実施形態では、断熱材被覆工程S11において、シート状又はフィルム状の断熱材を用いたが、それに代えて、断熱材としてウレタンフォーム等の発泡系断熱材を用いる場合、液状の樹脂(組成物)を樹脂製ライナ21の外周面全体に吹き付けると共に発泡させることで、断熱材を形成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
21…樹脂製ライナ、22…断熱材、23…口金、24…構造体、25…接着テープ、26…樹脂含浸繊維層、27…強化繊維樹脂層、30…被覆システム、50…タンク、S11…断熱材被覆工程、S12…被覆工程、S13…熱硬化工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材により樹脂製ライナの外周面を被覆する第1の工程と、
熱硬化性樹脂とその熱硬化性樹脂を含浸した繊維とを含む樹脂含浸繊維により前記断熱材の外周面を被覆する第2の工程と、
前記熱硬化性樹脂を加熱により硬化する第3の工程と、
を含むタンクの製造方法。
【請求項2】
前記断熱材は、ウレタンフォーム及びフェノールフォームからなる群より選ばれる1種以上の断熱材である、請求項1に記載のタンクの製造方法。
【請求項3】
前記断熱材は、1mm以下の厚さを有する、請求項1又は2に記載のタンクの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂製ライナを構成する樹脂は、ポリアミド、ポリエチレン及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びポリビニルエステルからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項6】
前記繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂製ライナを構成する前記樹脂はポリアミドであり、前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であり、前記繊維は炭素繊維である、請求項2に記載のタンクの製造方法。
【請求項8】
樹脂製ライナと、
前記樹脂製ライナの外周面を被覆する、熱伝導率が0.03W/m・K以下の断熱材を含む断熱層と、
前記断熱層の外周面を被覆する、繊維と熱硬化性樹脂とを含む繊維強化樹脂層と、
を備えるタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265932(P2010−265932A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115845(P2009−115845)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】