説明

ハイブリッド車両のエンジン始動装置

【課題】スタータモータによる始動と押しがけ始動とを運転条件に基づいて切り替え制御することで運転性や燃費を向上させる。
【解決手段】
本発明は、ハイブリッド車両のエンジン始動装置において、モータジェネレータ(2、3)の駆動力で走行中にエンジン(1)を始動させるとき、車両の運転状態に応じて第1始動手段(S190、S250、S340)及び第2始動手段(S150、S240、S330)の少なくとも一方によってエンジン(1)を始動することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のエンジン始動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両における走行中のエンジン始動方法として、エンジンに直結されたスタータモータによってクランキングして始動する方法、及び車輪の回転エネルギーを利用した押しがけ始動が知られている。
【0003】
また、スタータモータによる始動と押しがけ始動を運転領域によって選択可能な技術が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−107763
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記従来の技術では、スタータモータによる始動は押しがけ始動のフェールセーフ機能として存在するものであり、スタータモータによる始動と押しがけ始動とを積極的に切り替え制御するものではないので、車両の運転性や燃費を向上させることはできない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、スタータモータによる始動と押しがけ始動とを運転条件に基づいて切り替え制御することで運転性や燃費を向上させることができるハイブリッド車両のエンジン始動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、駆動軸(6)を介して駆動輪に接続されるエンジン(1)と、エンジン(1)よりも駆動輪側において駆動軸(6)に接続されるモータジェネレータ(2、3)と、エンジン(1)の出力軸(7)と駆動軸(6)とを断続するクラッチ(5)と、エンジン(1)に接続されエンジン(1)を始動する始動用モータ(2、3)と、クラッチ(5)を開放状態にして始動用モータ(2、3)よってクランキングすることでエンジン(1)を始動する第1始動手段(S190、S250、S340)と、クラッチ(5)を締結状態にして駆動軸(6)の回転によってクランキングすることでエンジン(1)を始動する第2始動手段(S150、S240、S330)とを備え、モータジェネレータ(2、3)の駆動力で走行中にエンジン(1)を始動させるとき、車両の運転状態に応じて第1始動手段(S190、S250、S340)及び第2始動手段(S150、S240、S330)の少なくとも一方によってエンジン(1)を始動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータジェネレータの駆動力のみで走行中にエンジンを始動させるときは、車両の運転状態に応じて始動用モータによる始動と駆動軸の回転による始動とを切り替え制御するので、車両の運転性を向上させながら燃費の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置を示す全体構成図である。本実施形態のハイブリッド車両はエンジン1とモータジェネレータ(MG)2、3とを駆動力源としており、運転条件に応じてエンジン1及びMG2、3の少なくとも一つを駆動させて走行する。
【0011】
エンジン1は車両の駆動力源の一つであり、発生させた駆動力を駆動軸6を介して駆動輪へと伝達する。
【0012】
スタータモータ(始動用モータ)4はエンジン1と直結するように設けられ、駆動することでエンジン1をクランキングする。燃料噴射弁17はエンジン1の各気筒18ごとに設けられており、エンジン始動時はクランキングと連動して燃料を噴射してエンジン1を始動させる。
【0013】
MG(モータジェネレータ)2、3は車両の駆動力源の一つであり、エンジン1より駆動輪側に設けられる。MG2、3の駆動力は駆動軸6を介して駆動輪へと伝達されるとともに、エンジン始動時にはエンジン出力軸7を介してエンジン1に伝達される。
【0014】
クラッチ5はエンジン1とMG2、3との間でエンジン1の出力軸7を断続するように設けられ、運転条件に応じて締結及び開放が切り替えられる。
【0015】
ハイブリッド変速機8は付近に2つのMG2、3を有し、エンジン1及びMG2、3の回転速度を変速して駆動輪へと伝達する。
【0016】
強電バッテリ9はMG2、3に電力を供給する。バッテリ16はスタータモータ4に電力を供給する。車速センサ10は車速を検出して統合コントローラ11へ送信する。APOセンサ12はアクセル開度(APO)を検出して統合コントローラ11へ送信する。
【0017】
エンジンコントローラ13及びMGコントローラ14は、それぞれエンジン1及びMG2、3の出力を制御する。クラッチコントローラ15はクラッチ5の締結力を制御する。統合コントローラ11は車速、アクセル開度(APO)及びバッテリ9の蓄電状態(SOC)に基づいてエンジンコントローラ13、MGコントローラ14、クラッチコントローラ15及びスタータモータ4を制御する。
【0018】
次にハイブリッド変速機8の構造について図2を用いてさらに詳しく説明する。図2は本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置で使用するハイブリッド変速機8の全体構成図である。ハイブリッド変速機8は第1遊星歯車列P1のキャリアCと第2遊星歯車列P2のキャリアCとを共有化するように同軸的に組み合わせた複合遊星歯車機構によって構成される。
【0019】
第2遊星歯車列P2のリングギアR2にはエンジン1の出力軸7がクラッチ5及び変速機入力軸19を介して接続され、サンギアS2にはMG3の出力軸3aが接続される。リングギアR2とサンギアS2との間で噛み合いながら回転する内側ピニオンp2は第1遊星歯車列P1と共有するキャリアCに回転可能に支持される。
【0020】
第1遊星歯車列P1のリングギアR1には回転を制動するローブレーキBが設けられており、サンギアS1にはMG2の出力軸2aが接続される。リングギアR1とサンギアS1との間で噛み合いながら回転する外側ピニオンp1は第2遊星歯車列P2と共有するキャリアCに回転可能に支持される。キャリアCは駆動軸6に連結され、エンジン1及びMG2、3の回転速度が変速されて駆動軸6へと出力される。
【0021】
これらの構成によりエンジン1及びMG2、3の回転速度を制御することで変速比を無段階に設定することができる。また、エンジン1とリングギアR2との間はクラッチ5によって断続されているので、エンジン1がフリクションとなる条件においてはクラッチ5を開放して2つのMG2、3によってMG2、3の回転速度を無段階に変速することができる。
【0022】
次に本実施形態におけるハイブリッド車両の走行モードについて説明する。本実施形態ではエンジン1及びMG2、3の回転速度をハイブリッド変速機8によって変速して駆動軸6へ出力しており、MG2、3のみの駆動力で走行するEVモードとエンジン1及びMG2、3の駆動力で走行するEIVTモードとを備えている。さらに、EVモードにおいてリングギアR1をローブレーキBによって制動したEVLBモード及びEIVTモードにおいてリングギアR1をローブレーキBによって制動したLBモードを備えている。ここで、リングギアR1をローブレーキBによって制動するとエンジン1の駆動力が入力されるリングギアR1の回転速度と、駆動力が出力されるキャリアCの回転速度との変速比を1未満の一定の変速比に固定することができる。本実施形態のハイブリッド車両は以上の4つの走行モードを運転状態に応じて切り替えて走行する。
【0023】
次に統合コントローラ11で行う制御について図3を参照しながら説明する。図3は本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。本制御は、ハイブリッド車両がモータ走行からエンジン走行へと移行するときに車両の運転条件によって押しがけ始動とスタータモータ4による始動とを選択することで、エンジン始動時の運転性を向上させながら燃費の向上を図ろうとするものである。
【0024】
ステップS110では、バッテリ9のSOCが所定値より大きいか否かを判定する。SOCが所定値より大きければステップS120へ進み、所定値以下であればステップS190へ進みスタータモータ4による始動を行う。押しがけ始動ではMG2、3に定常時より大きな出力が要求されるので、押しがけ始動中に供給電力が不足する可能性がある。所定値とは、押しがけ始動を行ってもMG2、3への供給電力が不足しないSOCの値であり、予め実験などによって求めておく。
【0025】
ステップS120では、リミッタが作動しているか否かを判定する。リミッタが作動していなければステップS130へ進み、作動していればステップS190へ進みスタータモータ4による始動を行う。リミッタとは、MG2、3のトルクまたは出力を制限することでMG2、3に加わる電圧及び電流値を制限してMG2、3を保護する機能であり、MG2、3の発生トルクが閾値を超えると作動する。また、リミッタはバッテリ9の出力電圧を制限することでMG2、3に加わる電圧及び電流値が閾値を超えると作動するものであってもよい。なお、閾値は予め実験などによって求めておく。
【0026】
またここで、ステップS120ではリミッタによるMG2、3のトルクまたは出力もしくはバッテリ9の出力電圧の制限が作動中であるか否かを判定しているが、押しがけ始動によってエンジン1を始動させるために必要なMG2、3の駆動力に運転者の要求駆動力を加えた合計駆動力に基づいて、押しがけ始動を行ったときにリミッタが作動することを予測するようにしてもよい。
【0027】
ステップS130では、APOが所定値A1より小さいか否かを判定する。APOが所定値A1より小さければステップS140へ進み、所定値A1以上であればステップS160へ進む。所定値A1はMG2、3に押しがけ始動のための余裕トルクがあると判断できる値であり、予め実験などによって求めておく。
【0028】
ステップS140では、クラッチ5の回転速度Ncが所定値B1より低いか否かを判定する。クラッチ回転速度Ncが所定値B1より低ければステップS150へ進み、所定値B1以上であればステップS160へ進む。クラッチ回転速度Ncはクラッチ5のハイブリッド変速機側の回転速度である。所定値B1は押しがけ始動のためにクラッチ5を締結しても締結時のショック及びクラッチ5の過熱が問題とならないと判断できる値であり、予め実験などによって求めておく。
【0029】
ステップS150では、エンジン1を押しがけ始動する。押しがけ始動は、クラッチ5を締結することでハイブリッド変速機8のリングギアR2から伝達される駆動力によってエンジン1をクランキングする始動方法である。
【0030】
一方、ステップS130、S140において条件を満たさないときは、ステップS160に進んで燃費優先モードであるか否かを判定する。燃費優先モードであればステップS170へ進み、作動していなければステップS190へ進みスタータモータ4による始動を行う。燃費優先モードとは、動力性能より燃費の向上を優先的に行う走行モードである。これとは逆に燃費の向上より動力性能を優先的に確保する走行モードがあり、本実施形態ではこの二つの走行モードを切り替えて走行している。
【0031】
ステップS170では、APOが所定値A2より小さいか否かを判定する。APOが所定値A2より小さければステップS180へ進み、所定値A2以上であればステップS190へ進みスタータモータ4による始動を行う。所定値A2はMG2、3に押しがけ始動のための余裕トルクがあると判断できるA1より大きな値であり、予め実験などによって求めておく。なお、ステップS130における所定値A1も本ステップにおける所定値A2もMG2、3に押しがけ始動のための余裕トルクがあると判断できる値であるが、本ステップでは燃費優先モードであることを考慮してより大きな所定値A2によって判断している。
【0032】
ステップS180では、クラッチ回転速度Ncが所定値B2より低いか否かを判定する。クラッチ回転速度Ncが所定値B2より低ければステップS150へ進んで押しがけ始動を行い、所定値B2以上であればステップS190へ進む。所定値B2は押しがけ始動のためにクラッチ5を締結しても締結時のショック及びクラッチ5の過熱が問題とならないと判断できるB1より大きな値であり、予め実験などによって求めておく。なお、ステップS140における所定値B1と本ステップにおける所定値B2との関係は、ステップS170において説明した所定値A1とA2の関係と同様である。
【0033】
ステップS190では、スタータモータ4によってエンジン1を始動する。スタータモータ4によるエンジン始動は、クラッチ5を開放した状態でスタータモータ4を回転させエンジン1をクランキングする始動方法である。
【0034】
次に本実施形態の作用について説明する。本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置は、モータ走行中に運転者の要求駆動力の増大などによってエンジン始動を行う必要があるとき、押しがけ始動を行うかスタータモータ4による始動を行うかを以下のようにして判断する。
【0035】
バッテリ9のSOCが所定値より大きく、リミッタが作動中でなく、APOが所定値A1より小さく、クラッチ5の回転速度が所定値B1より小さければ押しがけ始動を行い、これらの条件のうち1つでも満たさなければスタータモータ4による始動を行う。
【0036】
ただし、燃費優先モードである場合はAPOが所定値A2より小さく、かつクラッチ回転速度Ncが所定値B2より小さい場合に限り、押しがけ始動を行う。
【0037】
これにより、適切なエンジン始動方法を選択することができるので、エンジン始動によるクラッチ締結ショック及び燃費の向上を図りながら確実にエンジン始動を行うことができる。
【0038】
以上のように本実施形態では、MG2、3の駆動力のみで走行中にエンジン1を始動させるときは、車両の運転状態に応じてスタータモータ4による始動と駆動軸6の回転による押しがけ始動とを使い分けるので、クラッチ締結に伴うショックを抑制しながら燃費を向上させることができる。
【0039】
また、運転者の要求駆動力に応じて始動方法を選択するので、MGトルクに余裕がある低負荷時は押しがけ始動を行うことで燃費を向上させることができる。また、MGトルクに余裕がない高負荷時はスタータモータ4による始動を行うことでMGトルクを低下させることがないので車両の運転性の悪化を防止できる。
【0040】
さらに、クラッチ5の回転速度に応じて始動方法を選択するので、クラッチ5の回転速度が低いときは押しがけ始動を行うことで燃費を向上させることができる。また、クラッチ5の回転速度が高いときはクラッチ5の締結によるショックの発生及びクラッチ5の過熱を抑制することができる。
【0041】
さらにまた、バッテリ9のSOCが低いときはスタータモータ4によって始動するので、押しがけ始動中にMG2、3のリミッタが作動することによるショックの発生を抑制できる。
【0042】
さらにまた、MG2、3のトルクまたは出力を制限するリミッタが作動しているときはスタータモータ4による始動を行うので、MG2、3のトルクが低下することによるショックの発生を抑制することができる。また、MG2、3のトルクまたは出力の制限によってエンジン始動に要する時間が長期化することを防止できる。
【0043】
さらにまた、エンジン始動に要するMG2、3の駆動力に運転者の要求駆動力を加えたトルクに基づいて、押しがけ始動を行うとMG2、3のトルクまたは出力を制限するリミッタが作動すると予測されるときはスタータモータ4による始動を行うので、MG2、3のトルクが低下することによるショックの発生をより確実に抑制することができる。また、MG2、3のトルクまたは出力の制限によってエンジン始動に要する時間が長期化することをより確実に防止できる。
【0044】
さらにまた、バッテリ9の供給電力を制限するリミッタが作動しているときはスタータモータ4による始動を行うので、バッテリ電力の制限によってMG2、3のトルクが低下することによるショックの発生を抑制することができる。また、MG2、3のトルクの低下によってエンジン始動に要する時間が長期化することを防止できる。
【0045】
さらにまた、エンジン始動に要するMG2、3の駆動力に運転者の要求駆動力を加えたトルクに基づいて、押しがけ始動を行うとバッテリ9の供給電力を制限するリミッタが作動すると予測されるときはスタータモータ4による始動を行うので、バッテリ電力の制限によってMG2、3のトルクが低下することによるショックの発生をより確実に抑制することができる。また、MG2、3のトルクの低下によってエンジン始動に要する時間が長期化することをより確実に防止できる。
【0046】
さらにまた、燃費優先モードにおけるエンジン始動時は押しがけ始動を行うので、よりよく燃費を向上させることができる。
【0047】
(第2実施形態)
本実施形態では全体構成は第1実施形態と同一であり、その制御が異なっている。図4は、本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。本制御は、ハイブリッド車両がモータ走行からエンジン走行へと移行するときにエンジン1の回転速度に基づいて押しがけ始動とスタータモータ4による始動とを選択することで、バッテリ負担の軽減及び燃費の向上を図ろうとするものである。なお、以下の実施形態において同様の制御を行う部分についてはその説明を適宜省略する。
【0048】
ステップS210では、エンジン回転速度Neが所定値B3以上であるか否かを判定する。エンジン回転速度Neが所定値B3以上であればステップS220へ進み、所定値B3未満であればステップS250へ進んでスタータモータ4による始動を行う。所定値B3はエンジン始動方法をスタータモータ4による始動から押しがけ始動へと切り替えるタイミングを判断するエンジン回転速度であり、予め実験などによって求めておく。
【0049】
ステップS220では、リミッタが作動しているか否かを判定する。リミッタが作動していればステップS230へ進み、作動していなければステップS240へ進む。
【0050】
ステップS230では、燃料噴射制御を行う。ここでは、ステップS220においてリミッタが作動中と判定されたので、MG2、3のトルクまたは出力が低下してハイブリッド変速機8の出力トルクが低下しないように燃料噴射量を増量させて不足トルクを補う。
【0051】
ステップS240では、押しがけ始動を行う。
【0052】
一方、ステップS210においてエンジン回転速度Neが所定値B3未満であると判定されたときはステップS250へ進んでスタータモータ4による始動を行う。
【0053】
ここで、ステップS240またはステップS250におけるエンジン始動時に、エンジン1の各気筒18ごとのクランク角に応じて順次燃料噴射を開始させるシーケンシャル噴射を行ってもよい。これにより、エンジン始動に要する燃料消費量を低減させることができる。
【0054】
次に図5を参照しながら本実施形態の作用について説明する。図5は本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したタイムチャートである。図5(a)はスタータモータ4のON信号、図5(b)はクラッチ5のハイブリッド変速機側回転速度、図5(c)はエンジン回転速度、図5(d)はクラッチトルク、図5(e)はMGトルク、図5(f)は燃料噴射要求を示している。
【0055】
時刻t0において車両はMG2、3の駆動力のみで走行している。時刻t1において要求駆動力の上昇などによってエンジン始動が必要であると判断されると、スタータモータ4を駆動させエンジン1をクランキングするので、エンジン回転速度は上昇する(図5(a)、(c))。
【0056】
時刻t2においてエンジン回転速度が所定値B3を超えると、スタータモータ4の駆動を停止してクラッチ5の締結を開始することで押しがけ始動を開始する(図5(a)、(c))。このとき、クラッチトルクをエンジン1の回転速度の上昇が可能なトルクまで瞬時に立ち上げる(図5(d))。その後クラッチ5の締結力を増大させるとエンジン1を連れ回すことによって発生するトルクによって駆動力変動を生じるので、このトルクをMG2、3によって補償する。よって、MGトルクの上昇に伴ってクラッチトルクも上昇する(図5(d)、(e))。
【0057】
時刻t3においてMGトルクが上限値に達すると燃料噴射を開始するので、エンジン1が自立回転へ移行し、その後MGトルクを低下させる(図5(e)、(f))。ここで、燃料噴射量はMGトルクに応じてトルクが大きいほど少なくする。時刻t4においてクラッチ5を完全締結とするとエンジン回転速度はクラッチ回転速度と等しくなる(図5(b)〜(d))。
【0058】
また時刻t2以降の押しがけ始動中にリミッタが作動するとMG2、3のトルクは低下するので、この低下分を補うようにリミッタが作動を開始した時点でエンジン1の燃料噴射量の増量を開始する。
【0059】
以上のように本実施形態では、エンジン始動時にエンジン1の回転速度が所定値になるまではスタータモータ4による始動を行うので、強電バッテリ9にかかる負担を軽減することができる。
【0060】
また、押しがけ始動中にMG2、3のトルクまたは出力を制限するリミッタ及びバッテリ9の供給電力を制限するリミッタの少なくとも一方が作動するときは、MG2、3の駆動力の不足分を補うようにエンジン1の燃料噴射量を増量させるので、バッテリ9やMG2、3に過大な負荷をかけることなく燃費を向上させることができる。
【0061】
さらに、押しがけ始動中の燃料噴射量の増量はモータジェネレータ制限手段及び前記電力制限手段の少なくとも一方が作動した時点で開始するので、バッテリ9やMG2、3に過大な負荷をかけることなくより確実に燃費を向上させることができる。
【0062】
さらにまた、押しがけ始動中に燃料噴射を行うときはMG2、3の駆動力が大きいほど燃料噴射量を少なくする。MG2、3の駆動力が大きいほどエンジン1の自立回転によって発生すべき駆動力は小さくなるので、その分燃料噴射量を少なくすることで燃費を向上させることができる。
【0063】
さらにまた、エンジン始動時に気筒18ごとのクランク角に応じて順次燃料噴射を開始するシーケンシャル噴射を行うので、全気筒同時に燃料噴射を開始する場合に比べて燃費を向上させることができる。
【0064】
(第3実施形態)
本実施形態では全体構成は第1実施形態と同一であり、その制御が異なっている。図6は、本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。本制御は、ハイブリッド車両がモータ走行からエンジン走行へと移行するときに、走行モードの変化に基づいて押しがけ始動とスタータモータ4による始動とを選択することで、クラッチ締結ショックの抑制及び走行モードの遷移時間短縮を図ろうとするものである。
【0065】
ステップS310では、走行モードがEVモードか否かを判定する。走行モードがEVモードであればステップS320へ進み、EVモードでなければ、すなわちEVLBモードであればステップS340へ進んでスタータモータ4による始動を行う。なお、本実施形態の制御はエンジン1を始動させる際に始動方法を選択する判定を行うものであるので、エンジン1が運転中のモードは考慮する必要がない。
【0066】
ステップS320では、EVモードをEIVTモードへ切り替えるのか否かを判定する。EIVTモードへの切り替えであればステップS330へ進み、EIVTモードへの切り替えでなければ、すなわちLBモードへの切り替えであればステップS340へ進む。
【0067】
ステップS330では、押しがけ始動を行う。
【0068】
一方、ステップS310において走行モードがEVモードでないと判定され、またはステップS320においてEIVTへの切り替えでないと判定されたときは、ステップS340へ進んでスタータモータ4による始動を行う。
【0069】
次に本実施形態の作用について説明する。本実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置は、走行モードをEVモードからEIVTモードへ切り替えるときのみ押しがけ始動を行って、それ以外の場合はスタータモータ4による始動を行う。
【0070】
EVLBモードからLBモードへの切り替え時はローブレーキBの制動力により変速機入力軸19の回転速度と駆動軸6の回転速度との比が1未満に固定されているので、駆動軸6の回転速度に対して変速機入力軸19の回転速度は相対的に高くなる。これにより、クラッチ5の締結によるショックが駆動力に与える影響がEVモードからEIVTモードへの切り替え時に比べて大きくなるので、スタータモータ4による始動を行ってエンジン回転速度と変速機入力軸19の回転速度とをあわせてからクラッチ5を締結する。
【0071】
また、EVモードからLBモード及びEVLBモードからEIVTモードへの切り替え時に押しがけ始動を行なうと、エンジン始動とローブレーキBの開放または締結とを順番に行うことになる。そこで、スタータモータ4によって始動してエンジン始動とローブレーキBの開放または締結を略同時期に行うことで、走行モードの切り替えに要する時間を短縮することができる。
【0072】
以上のように本実施形態では、一対の遊星歯車列P1、P2によって構成される差動装置を用いて、EVモードにおいてエンジンを始動するときは押しがけ始動を行い、EVLBモードにおいてエンジン1を始動するときはスタータモータ4によって始動する。これにより、クラッチ締結時に発生するショックが大きいEVLBモードからLBモードへの遷移時にクラッチ締結ショックを防止できる。また、クラッチ締結ショックが比較的小さいEVモードからEIVTモードへの遷移時は押しがけ始動を行って燃費を向上させることができる。
【0073】
また、EVモードにおいてエンジン1を始動させながらブレーキBの締結を行うとき、またはEVLBモードにおいてエンジン1を始動させながらブレーキBの開放を行うときはスタータモータ4によってエンジン1を始動する。これにより、EVモードからLBモードへの遷移時はエンジン始動とブレーキBの締結を同時に行うことができるので、モード遷移に要する時間を短縮することができる。また、EVLBモードからEIVTモードへの遷移時はエンジン始動とブレーキBの開放を同時に行うことができるので、モード遷移に要する時間を短縮することができる。
【0074】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明と均等であることは明白である。
【0075】
例えば、本実施形態では変速機として複合遊星歯車機構であるハイブリッド変速機8を用いているが、これに限定されることなくMG2、3とエンジン1との回転速度を変速して駆動軸6へ伝達することができるものであれば何でもよい。
【0076】
また、第2実施形態ではエンジン回転速度が所定値B3を超えるとスタータモータ4の駆動を停止してクラッチ5の締結を開始することで押しがけ始動を行うが、このときスタータモータ4の駆動が停止する前にクラッチ5の締結を開始して押しがけ始動を開始してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第1実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の全体構成図である。
【図2】第1実施形態におけるハイブリッド変速機の構成図である。
【図3】第1実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。
【図4】第2実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。
【図5】第2実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したタイムチャートである。
【図6】第3実施形態におけるハイブリッド車両のエンジン始動装置の制御を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン
2 モータジェネレータ(MG)
2a モータジェネレータ(MG)の出力軸
3 モータジェネレータ(MG)
3a モータジェネレータ(MG)の出力軸
4 スタータモータ
5 クラッチ
6 駆動軸
7 エンジン出力軸
8 ハイブリッド変速機
9 強電バッテリ
10 車速センサ
11 統合コントローラ
12 APOセンサ
13 エンジンコントローラ
14 モータコントローラ
15 クラッチコントローラ
16 バッテリ
17 燃料噴射弁
18 気筒
19 変速機入力軸
P1 遊星歯車列
P2 遊星歯車列
S1 サンギア
S2 サンギア
p1 ピニオンギア
p2 ピニオンギア
C キャリア
R1 リングギア
R2 リングギア
B ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を介して駆動輪に接続されるエンジンと、
前記エンジンよりも前記駆動輪側において前記駆動軸に接続されるモータジェネレータと、
前記エンジンの出力軸と前記駆動軸とを断続するクラッチと、
前記エンジンに接続され前記エンジンを始動する始動用モータと、
前記クラッチを開放状態にして前記始動用モータよってクランキングすることで前記エンジンを始動する第1始動手段と、
前記クラッチを締結状態にして前記駆動軸の回転によってクランキングすることで前記エンジンを始動する第2始動手段と、
を備え、
前記モータジェネレータの駆動力で走行中に前記エンジンを始動させるとき、車両の運転状態に応じて前記第1始動手段及び前記第2始動手段の少なくとも一方によって前記エンジンを始動することを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項2】
運転者の要求駆動力が所定値より小さいとき前記第2始動手段によって前記エンジンを始動し、前記要求駆動力が前記所定値以上であるとき前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項3】
前記クラッチの出力軸の回転速度が所定値より小さいとき前記第2始動手段によって前記エンジンを始動し、前記クラッチの出力軸の回転速度が前記所定値以上であるとき前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項4】
前記モータジェネレータ及び前記始動用モータに電力を供給するバッテリをさらに備え、
前記バッテリの蓄電状態が所定値より小さいとき前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項5】
前記モータジェネレータのトルク及び出力の少なくとも一方が制限されているときは前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項6】
前記第2始動手段によって前記エンジンを始動させるために必要な前記モータジェネレータの駆動力に運転者の要求駆動力を加えた合計駆動力に基づいて、前記第2始動手段を始動させたときに、前記モータジェネレータのトルク及び出力の少なくとも一方が制限されることを予測するモータジェネレータ制限予測手段をさらに備え、
前記モータジェネレータのトルク及び出力の少なくとも一方が制限されると予測されるときは前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項7】
前記バッテリの供給電力が制限されているときは前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項8】
前記第2始動手段によって前記エンジンを始動させるために必要な前記モータジェネレータの駆動力に運転者の要求駆動力を加えた合計駆動力に基づいて、前記第2始動手段を始動させたときに前記バッテリの供給電力が制限されることを予測する電力制限予測手段をさらに備え、
前記バッテリの供給電力が制限されると予測されるときは前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項9】
動力性能より燃費の向上を優先させるように車両の運転状態を制御する第1モードと、
燃費の向上より動力性能を優先させるように車両の運転状態を制御する第2モードと、
前記第1モードと第2モードとを切り替える走行モード切替手段と、
をさらに備え、
前記走行モード切替手段によって前記第1モードが選択されているときは、前記第2始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項10】
前記第1始動手段によって前記エンジンの始動を開始し、前記エンジンの回転速度が所定値以上となったとき前記第2始動手段によって前記エンジンの始動を開始することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項11】
前記モータジェネレータのトルク及び出力の少なくとも一方を制限するモータジェネレータ制限手段と、
前記バッテリの供給電力を制限する電力制限手段と、
前記第2始動手段によって前記エンジンの始動を開始した後に前記モータジェネレータ制限手段及び前記電力制限手段の少なくとも一方が作動するときは、前記モータジェネレータの駆動力の不足分を補うように前記エンジンの燃料噴射量を増量させる燃料噴射制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項10に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項12】
前記燃料噴射制御手段は、前記モータジェネレータ制限手段及び前記電力制限手段の少なくとも一方が作動した時点で前記エンジンの燃料噴射量を増量させることを特徴とする請求項11に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項13】
前記第2始動手段作動中に燃料噴射を行うときは前記モータジェネレータの駆動力が大きいほど燃料噴射量を少なくすることを特徴とする請求項10に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項14】
前記エンジンを始動する際に前記エンジンの各気筒のクランク角に応じて順次燃料噴射を行うことを特徴とする請求項10に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項15】
一対の遊星歯車列を互いに1つの要素を共有するように同軸的に配置し、各要素に前記エンジンからの入力、2つの前記モータジェネレータからの入力及び前記駆動軸への出力を割り当て、前記各要素以外の5番目の要素の回転を制動することで前記エンジンの入力回転速度に対する前記駆動軸の出力回転速度の比を1未満の一定の変速比に固定するブレーキを有する差動装置と、
前記ブレーキによる制動を行わない状態で前記2つのモータジェネレータの駆動力のみで走行するEVモードと、
前記ブレーキによる制動を行った状態で前記2つのモータジェネレータの駆動力のみで走行するEVLBモードと、
を備え、
前記EVモードにおいて前記エンジンを始動するときは前記第2始動手段によって始動し、前記EVLBモードにおいて前記エンジンを始動するときは前記第1始動手段によって始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。
【請求項16】
一対の遊星歯車列を互いに1つの要素を共有するように同軸的に配置し、各要素に前記エンジンからの入力、2つの前記モータジェネレータからの入力及び前記駆動軸への出力を割り当て、前記各要素以外の5番目の要素の回転を制動することで前記エンジンの入力回転速度に対する前記駆動軸の出力回転速度の比を1未満の一定の変速比に固定するブレーキを有する差動装置と、
前記ブレーキによる制動を行わない状態で前記2つのモータジェネレータの駆動力のみで走行するEVモードと、
前記ブレーキによる制動を行った状態で前記2つのモータジェネレータの駆動力のみで走行するEVLBモードと、
をさらに備え、
前記EVモードにおいて前記エンジンを始動させながら前記ブレーキの締結を行うとき、または前記EVLBモードにおいて前記エンジンを始動させながら前記ブレーキの開放を行うときは前記第1始動手段によって前記エンジンを始動することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−183547(P2006−183547A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377392(P2004−377392)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】