説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン始動時にクラッチを係合する際に、エンジンが逆回転するのを抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両に搭載され、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、動力伝達機構と、クラッチ同期制御手段と、ポンピングロス制御手段と、を備える。動力伝達機構は、相互に差動回転可能な複数の回転要素を備える。クラッチ同期制御手段は、第1走行モードから、第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、エンジンの始動前に、第1回転電機のトルクに基づきクラッチの係合要素の回転を同期させる制御を行う。ポンピングロス制御手段は、上述の制御時に、ポンピングロスを大きくする制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、発電機として主に機能する第1回転電機と、駆動輪に連結された駆動軸に動力を供給する電動機として主に機能する第2回転電機と、内燃機関の出力トルクを第1回転電機側と駆動軸及び第2回転電機側とに分配する動力分配機構を備えるハイブリッド車両が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンと第1及び第2回転電機とを備えるとともに、第2回転電機とエンジンとの結合状態をクラッチにより切り替え可能なハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両は、クラッチの締結時には所謂シリーズパラレル式のハイブリッド走行を行い、クラッチを解放することで、エンジンを切り離して第2回転電機によるEV(Electric Vehicle)走行を行う。また、特許文献2には、エンジンの回転抵抗が所定の回転抵抗下限値以下である場合には、エンジンの逆回転を抑制するため、EV走行を規制又は禁止する制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2009−012618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第2回転電機とエンジンとの結合状態をクラッチにより切り替え可能なハイブリッド車両において、クラッチが解放状態にあるEV走行時からクラッチを係合させてエンジンを始動させる場合であって、第1回転電機によりクラッチの係合要素の回転を同期させる際に、エンジンが逆回転する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジン始動時にクラッチを係合する際に、エンジンが逆回転するのを抑制することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点では、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、前記クラッチを解放状態にし、前記エンジンを停止させて前記第2回転電機により走行を行う第1走行モードから、前記クラッチを係合状態にし、前記エンジンを駆動させて走行を行う第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、前記エンジンの始動前に、前記第1回転電機のトルクに基づき前記クラッチの係合要素の回転を同期させる制御を行うクラッチ同期制御手段と、前記クラッチ同期制御手段が、前記制御を実行している場合、ポンピングロスを大きくする制御を行うポンピングロス制御手段と、を備える。
【0008】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両に搭載され、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、動力伝達機構と、クラッチ同期制御手段と、ポンピングロス制御手段と、を備える。動力伝達機構は、相互に差動回転可能な複数の回転要素を備える。具体的には、動力伝達機構は、第1回転電機に連結された第1回転要素と、第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、エンジンと連結する第3回転要素とを備える。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。クラッチ同期制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、第1走行モードから、第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、エンジンの始動前に、第1回転電機のトルクに基づきクラッチの係合要素の回転を同期させる制御(単に「クラッチ同期制御」とも呼ぶ。)を行う。ここで、第1走行モードは、クラッチが解放状態の場合の走行モードであり、エンジンを停止させたEV走行を指す。第2走行モードは、クラッチが係合状態にしてエンジンを駆動させた走行モードであり、この場合、エンジンから出力された動力は動力伝達機構により2つに分配され、一部は機械的な動力のまま駆動軸に出力されると共に、残余は電力に変換されて駆動軸に出力される。ポンピングロス制御手段は、例えばECUであり、クラッチ同期制御時に、ポンピングロスを大きくする制御を行う。
【0009】
一般に、クラッチ同期制御時に、エンジンの回転抵抗が第1回転電機により伝達されるトルクよりも小さい場合には、エンジンが逆回転するおそれがある。これに対し、ハイブリッド車両の制御装置は、クラッチ同期制御時に、ポンピングロスを大きくすることで、エンジンの回転抵抗を増加させる。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、クラッチ同期制御時でのエンジンの逆回転を抑制することができる。
【0010】
上記ハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記ポンピングロス制御手段は、後進走行時に前記第1走行モードから前記第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、ポンピングロスを小さくする。
【0011】
一般に、後進走行でのクラッチ同期制御時には、第1回転電機のトルクは、クランキングさせる方向と同様の正回転方向へエンジンに作用する。従って、この態様では、ハイブリッド車両の制御装置は、クラッチ同期制御と同時にエンジンのクランキングを促進させることができ、エンジン始動までの時間を短縮することができる。
【0012】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記ポンピングロス制御手段は、前記エンジンの吸気弁及び排気弁を開弁状態とすることで、ポンピングロスを大きくする。これにより、好適に、ハイブリッド車両の制御装置は、ポンピングロスを増加させることができる。
【0013】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記ポンピングロス制御手段は、前記エンジンの吸気弁及び排気弁を閉弁状態とすることで、ポンピングロスを小さくする。これにより、好適に、ハイブリッド車両の制御装置は、ポンピングロスを低減させることができる。
【0014】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記ポンピングロス制御手段は、前記第1回転電機の回転数の変化速度が所定値以上の場合、ポンピングロスを大きくする。ここで、「所定値」とは、第1回転電機によりエンジンを回転させようとするトルクがエンジンの回転抵抗を上回ると判断される第1回転電機の回転数(回転速度)の変化速度であり、例えば実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、ポンピングロスを増加させる必要がある場合に限定してポンピングロスを増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】エンジンの概略構成図の一例である。
【図4】(a)EV走行時のハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。(b)クラッチ同期制御時のハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図5】第1実施形態に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図6】(a)は、比較例に係るクラッチ同期制御後のハイブリッド駆動装置の動作状態を例示する動作共線図である。(b)は、第2実施形態に係るクラッチ同期制御後のハイブリッド駆動装置の動作状態を例示する動作共線図である。
【図7】第2実施形態に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
[全体構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0018】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「クラッチ同期制御手段」及び「ポンピングロス制御手段」として機能する。なお、本発明に係るこれらの手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれらの手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0019】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0020】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0021】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0022】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0023】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0024】
[ハイブリッド駆動装置の構成]
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0025】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン20、動力分割機構30、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸40、クラッチCL、ブレーキBR、減速機構60、及びオイルポンプ70を備える。
【0026】
エンジン20は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する。エンジン20の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸40に連結されている。
【0027】
モータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた、本発明に係る「第1回転電機」の一例たる電動発電機である。
【0028】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい本発明に係る「第2回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備える。モータMG2は、モータMG1及びエンジン20と異なり、ハイブリッド車両1の駆動軸(以後、「駆動軸OUT」と呼ぶ。)に対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0029】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。
【0030】
動力分割機構30は、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる複合型遊星歯車機構である。動力分割機構30は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備える。
【0031】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。リングギヤR1は、クラッチCLの係合要素RCLと連結する。また、クラッチCLのもう一方の係合要素OCLは、減速機構60に連結されている。従って、リングギヤR1は、クラッチCLを介して減速機構60に連結されている。リングギヤR1の回転数は、係合要素RCLの回転数と等価であり、係合要素OCLの回転数は、駆動軸OUTの回転数(「出力回転数Nout」とも呼ぶ。)と等価である。従って、クラッチCLが締結された場合には、リングギヤR1の回転数は、出力回転数Noutと等価である。
【0032】
キャリアC1は、エンジン20のクランク軸に連結された入力軸40と連結されており、その回転数は、エンジン20の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0033】
動力分割機構30は、上述した構成の下で、エンジン20から入力軸40に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構30は、エンジン20の動力を2系統に分割する。
【0034】
減速機構60は、モータMG2のロータと連結すると共に、クラッチCLを介してリングギヤR1と連結する。そして、減速機構60は、駆動軸OUTの回転を、減速機構60を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形でモータMG2に伝達する。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。また、減速機構60は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤと、デファレンシャルとを含む。そして、各車軸の回転数は、減速機構60により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。
【0035】
オイルポンプ70は、ハイブリッド駆動装置10の各部に潤滑油を供給する。オイルポンプ70は、入力軸40にて伝達された動力にて駆動される。
【0036】
また、破線枠A1に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。この回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、MG1回転数Nmg1を検出する。検出されたMG1回転数Nmg1は、ECU100に対し一定又は不定の周期で送出される。
【0037】
尚、本発明に係る「動力伝達機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構30のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達機構は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0038】
[エンジンの構成]
図3は、図1に示したエンジン20の概略構成図の一例を示す。図中の実線矢印はガスの流れの一例を示している。
【0039】
エンジン20は、主に、吸気通路110と、スロットルバルブ120と、燃料噴射弁140aと、吸気弁140bと、点火プラグ140cと、排気弁140dと、電磁駆動機構(所謂、電磁カム)140e、140fと、気筒150aと、燃焼室150bと、ピストン150cと、コンロッド150dと、排気通路160と、を有する。なお、図3においては、説明の便宜上、1つの気筒150aのみを示しているが、実際にはエンジン20は複数の気筒150aを有する。
【0040】
吸気通路110には外部から導入された吸気(空気)が通過し、スロットルバルブ120は吸気通路11を通過する吸気の流量を調整する。スロットルバルブ120は、ECU100から供給される制御信号S120によって開度が制御される電子スロットルバルブである。吸気通路110を通過した吸気は、燃焼室150bに供給される。また、燃焼室150bには、燃料噴射弁(インジェクタ)140aによって噴射された燃料が供給される。
【0041】
更に、燃焼室150bには、吸気弁140bと排気弁140dとが設けられている。吸気弁140bは、開閉することによって、吸気通路110と燃焼室150bとの連通及び遮断を制御する。排気弁140dは、開閉することによって、排気通路160と燃焼室150bとの連通及び遮断を制御する。吸気弁140b及び排気弁140dは、それぞれ電磁駆動機構140e、140fによって開弁時期及び閉弁時期(以後、「バルブタイミング」と呼ぶ。)、並びにリフト量などが制御される。この場合、電磁駆動機構140e、140fは、ECU100から供給される制御信号S140e、S140fによって制御される。
【0042】
燃焼室150b内では、上記のように供給された吸気と燃料との混合気が、点火プラグ140cによって点火されることで燃焼される。この場合、燃焼によってピストン150cが往復運動し、当該往復運動がコンロッド150dを介してクランク軸(不図示)に伝達され、クランク軸が回転する。燃焼室150bでの燃焼により発生した排気ガスは、排気通路160より排出される。
【0043】
[制御方法]
まず、ECU100が実行するクラッチCLの制御について説明する。
【0044】
ECU100は、EV走行を行う場合、クラッチCLを解放状態とし、エンジン20を停止させ、モータMG2により走行を行う。このように、ECU100は、EV走行時にクラッチCLを解放状態とすることで、EV走行時でのモータMG1及び動力分割機構30の各ギヤ並びにベアリングの引き摺りによる損失を抑制する。上述のEV走行は、本発明における「第1走行モード」の一例である。
【0045】
一方、ECU100は、クラッチCLを係合状態とし、エンジン20を駆動させることで、ハイブリッド車両1を、所謂シリーズパラレル式ハイブリッド車両として機能させる。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20からの動力を動力分割機構30により分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータMG1、MG2により電力に変換して駆動軸OUTに出力する。この場合の走行モードを、以後では、「シリーズパラレル式走行」とも呼ぶ。シリーズパラレル式走行は、本発明における「第2走行モード」の一例である。
【0046】
従って、ECU100は、EV走行からシリーズパラレル式走行へ切り替える場合には、クラッチCLの係合要素RCL、OCLの回転数を同期させる制御(「クラッチ同期制御」とも呼ぶ。)を行った後、クラッチCLを解放状態から係合状態へ遷移させ、エンジン20を始動させる。以後の第1実施形態及び第2実施形態では、このクラッチ同期制御時にECU100が実行する制御方法について説明する。
【0047】
<第1実施形態>
第1実施形態では、ECU100は、エンジン20の始動前のクラッチ同期制御時に、エンジン20が逆回転する虞のある場合、エンジン20の吸気弁140b及び排気弁140dを開弁してポンピングロスを発生させる。これにより、ECU100は、摩擦トルクであるエンジン20の回転抵抗(「回転抵抗Tr」とも呼ぶ。)を一時的に増加させ、クラッチ同期制御中にエンジン20が逆回転するのを抑制する。
【0048】
これについて、図4を参照して説明する。図4(a)は、EV走行時のハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。図4(b)は、クラッチ同期制御時のハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。図4(a)、(b)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順に、サンギヤS1(一義的に、モータMG1)、キャリアC1(一義的に、エンジン20)、係合要素RCL(一義的に、リングギヤR1)、係合要素OCL(一義的に、駆動軸OUT)及びモータMG2を表す。また、図4(a)、(b)では、モータMG2の力行トルク、走行抵抗により発生するトルク、及びモータMG1の力行トルクをそれぞれ矢印「Y1」、「Y2」、「Y3」により表示している。また、動作点「Pe0」は、エンジン回転数Neが「0」の場合のエンジン20の動作点を示す。
【0049】
図4(a)に示すように、EV走行時では、エンジン回転数Ne、MG1回転数Nmg1、及び係合要素RCLの回転数は、ともに「0」となる。そして、図4(b)に示すクラッチ同期制御時では、ECU100は、エンジン回転数Neが「0」であることから、図4(a)の共線図の関係に基づき、図2の破線枠A1に相当する回転センサにより検出したMG1回転数Nmg1から係合要素RCLの回転数を特定する。そして、ECU100は、エンジン20の回転抵抗Trを利用して、エンジン20の動作点Pe0を支点として、MG1トルクTmg1を矢印Y3の方向に加え、係合要素RCLの回転数を係合要素OCLの回転数と同期させる(実線「L1」参照)。
【0050】
一方、クラッチ同期制御時にモータMG1からエンジン20のクランク軸へ伝達されるトルク(単に、「エンジン回転トルクTc」とも呼ぶ。)がエンジン20の回転抵抗Trよりも大きくなった場合には、エンジン20が回転してしまう(破線「L2」参照)。このとき、エンジン20は、破線L2に示すように、逆回転となる。そして、エンジン20が逆回転した場合、ECU100は、エンジン回転数Ne及び係合要素RCLの回転数を特定するのが困難となり、クラッチ同期制御が複雑化する。
【0051】
以上を勘案し、ECU100は、クラッチCLの係合による各トルクの変動が大きく、回転抵抗Trを増加させる必要がある場合に、エンジン20の吸気弁140b及び排気弁140dを開弁してポンピングロスを増加させる。これにより、ECU100は、構成要素を新たに必要とすることなくエンジン20の回転抵抗Trを制御し、クラッチ同期制御中でのエンジン20の回転発生によるエンジン20の引き摺りによる損失の増加を防ぐと共に、エンジン20の逆回転を抑制することができる。
【0052】
次に、クラッチ同期制御中にポンピングロスを増加させる制御(「ポンピングロス増加制御」とも呼ぶ。)を行う条件について具体的に説明する。ECU100は、図2の破線枠A1に相当する回転センサにより検出したMG1回転数Nmg1の変化速度(「MG1回転数変化dNmg1」とも呼ぶ。)に基づき、エンジン20の回転抵抗Trを増加させる必要があるか否か判断する。具体的には、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が所定の閾値(「閾値dNth」とも呼ぶ。)以上の場合、エンジン回転トルクTcがエンジン20の回転抵抗Trを上回り、エンジン20が逆回転し始める可能性があると判断し、ポンピングロスを増加させる制御を行う。上述の閾値dNthは、エンジン回転トルクTcが回転抵抗Trを上回る可能性があるMG1回転数変化dNmg1の下限値であり、例えば実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ECU100は、比較的高精度に検出可能なMG1回転数Nmg1に基づき、ポンピングロス増加制御を実行すべきか否か判断することが可能となる。
【0053】
また、好適には、上述の条件に加え、ECU100は、車両の前進時にポンピングロス増加制御を実行する。車両の前進時では、図4(a)に示すように、出力回転数Nout及び係合要素OCLの回転数が正回転であるため、クラッチ同期制御により係合要素RCLを正回転にする必要がある。この場合、クラッチ同期制御時に矢印Y3に示す方向にMG1トルクTmg1を作用させる必要が生じ、その結果、図4(b)で説明したように、エンジン20が逆回転する虞がある。従って、ECU100は、車両の前進時にポンピングロス増加制御を実行することで、クラッチ同期制御時にエンジン20が逆回転するのを抑制することができる。
【0054】
(処理フロー)
図5は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図5に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0055】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判定する(ステップS101)。即ち、ECU100は、走行モードを、クラッチCLが解放状態にあるEV走行から、クラッチCLを係合状態に移行させてシリーズパラレル式走行へ切り替えるべき走行状態であるか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求があると判断した場合(ステップS101;Yes)、エンジン20の始動制御へ移行可能か否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、エンジン20の始動制御へ移行可能であると判断した場合(ステップS102;Yes)、ステップS103へ処理を進める。
【0056】
一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がないと判断した場合(ステップS101;No)、又は、エンジン20の始動制御へ移行可能ではないと判断した場合(ステップS102;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0057】
次に、ECU100は、クラッチ同期制御を開始する(ステップS103)。具体的には、ECU100は、係合要素RCLの回転数が、係合要素OCLの回転数と同期するように、MG1トルクTmg1を調整する。
【0058】
そして、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth以上か否か判定する(ステップS104)。そして、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth以上であると判断した場合(ステップS104;Yes)、ポンピングロス増加制御を行う(ステップS105)。具体的には、ECU100は、エンジン20の吸気弁140b及び排気弁140dを開弁してポンピングロスを発生させる。これにより、ECU100は、エンジン20が回転する虞がある場合に、回転抵抗Trを増加させ、エンジン20の逆回転を抑制することができる。
【0059】
一方、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth未満であると判断した場合(ステップS104:No)、エンジン回転トルクTcが回転抵抗Trを上回るおそれがないと判断し、ステップS106へ処理を進める。
【0060】
そして、ECU100は、クラッチCLを係合状態へ移行させる(ステップS106)。そして、ECU100は、クラッチCLの係合後、エンジン20の始動制御を実施する(ステップS107)。具体的には、ECU100は、モータMG1によりエンジン回転トルクTcを発生させて、エンジン20のクランキングを行う。
【0061】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加え、又はこれに代えて、ECU100は、後進走行中にクラッチ同期制御を実行する場合、エンジン20の吸気弁140b及び排気弁140dを閉弁してポンピングロスを低減させる制御(「ポンピングロス低減制御」とも呼ぶ。)を行う。これにより、ECU100は、クラッチ同期制御の実行時期と同時期にエンジン20のクランキングを実行し、エンジン20の始動時間の短縮、及びエンジン20のクランキングに要するエネルギを低減させる。
【0062】
これについて、図6を参照して説明する。図6(a)、(b)は、後進時でのクラッチ同期制御後のハイブリッド駆動装置10の動作状態を例示する動作共線図である。そして、図6(a)は、ポンピングロス低減制御を実行しない場合の比較例に相当し、図6(b)は、ポンピングロス低減制御を実行した場合の第2実施形態に基づく例に相当する。また、動作点「Pe1」は、正の回転数に対応するエンジン20の動作点を指す。
【0063】
図6(a)に示すように、比較例のクラッチ同期制御直後では、エンジン回転数Neは「0」である。従って、この場合、ECU100は、クラッチ同期制御後、エンジン20を回転させるためのクランキングを別途実行する必要がある。
【0064】
一方、図6(b)に示すように、クラッチ同期制御と共にポンピングロス低減制御を実行した場合のクラッチ同期制御後では、エンジン20の動作点は、動作点Pe1にあり、エンジン回転数Neが正回転数となる。即ち、この場合、ECU100は、ポンピングロス低減制御を行うことで、エンジン20の回転抵抗Trを低減し、エンジン回転トルクTcによりクラッチ同期制御時にエンジン20を回転させている。また、後進時では、クラッチ同期制御時のモータMG1によるエンジン回転トルクTcは、クランキングを行う場合と同様に正回転方向に作用するため、エンジン20は逆回転しない。従って、この場合、ECU100は、クラッチ同期制御の実行と同時に、エンジン20のクランキングを実行することができる。従って、ECU100は、エンジン20の始動に要する時間を短縮すると共に、エンジン20のクランキングに要する消費エネルギを低減させることができる。
【0065】
(処理フロー)
図7は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図7に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0066】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判定する(ステップS201)。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求があると判断した場合(ステップS201;Yes)、エンジン20の始動制御へ移行可能か否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、エンジン20の始動制御へ移行可能であると判断した場合(ステップS202;Yes)、ステップS203へ処理を進める。
【0067】
一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がないと判断した場合(ステップS201;No)、又は、エンジン20の始動制御へ移行可能ではないと判断した場合(ステップS202;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0068】
次に、ECU100は、クラッチ同期制御を開始し(ステップS203)、後進時であるか否か判定する(ステップS204)。そして、ECU100は、後進時であると判断した場合(ステップS204;Yes)、ポンピングロス低減制御を実施する(ステップS205)。具体的には、ECU100は、エンジン20の吸気弁140b及び排気弁140dを全閉状態にする。これにより、ECU100は、エンジン20の回転抵抗Trを低減させ、クラッチ同期制御時にエンジン20を正回転させてクランキングを行い、エンジン20の始動時間の短縮化及び消費エネルギの低減化を促進させることができる。
【0069】
一方、ECU100は、後進時ではないと判断した場合(ステップS204;No)、即ち前進時であると判断した場合、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth以上か否か判定する(ステップS206)。そして、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth以上であると判断した場合(ステップS206;Yes)、ポンピングロス増加制御を行う(ステップS207)。これにより、ECU100は、エンジン20が回転する虞がある場合に、回転抵抗Trを増加させ、エンジン20の逆回転等を抑制することができる。一方、ECU100は、MG1回転数変化dNmg1が閾値dNth未満であると判断した場合(ステップS206:No)、エンジン20が回転する虞はないと判断し、ステップS208へ処理を進める。
【0070】
そして、ECU100は、ステップS208でクラッチCLを係合状態へ移行させる(ステップS208)。そして、ECU100は、クラッチCLの係合後、エンジン20の始動制御を実施する(ステップS209)。なお、ECU100は、ステップS205でポンピングロス低減制御を実行し、クラッチ同期制御の実行時に既にエンジン20が始動していた場合には、ステップS209の処理を実行しない。従って、この場合、ECU100は、エンジン20の始動に要する時間及び消費エネルギを抑制することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
20 エンジン
30 動力分割機構
40 入力軸
60 減速機構
100 ECU
MG1、MG2 モータジェネレータ
CL クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
第1回転電機と、
第2回転電機と、
前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、
前記クラッチを解放状態にし、前記エンジンを停止させて前記第2回転電機により走行を行う第1走行モードから、前記クラッチを係合状態にし、前記エンジンを駆動させて走行を行う第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、前記エンジンの始動前に前記第1回転電機のトルクに基づき前記クラッチの係合要素の回転を同期させる制御を行うクラッチ同期制御手段と、
前記クラッチ同期制御手段が、前記制御を実行している場合、ポンピングロスを大きくする制御を行うポンピングロス制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記ポンピングロス制御手段は、後進走行時に前記第1走行モードから前記第2走行モードへ走行モードを切り替える場合、ポンピングロスを小さくする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記ポンピングロス制御手段は、前記エンジンの吸気弁及び排気弁を開弁状態とすることで、ポンピングロスを大きくする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記ポンピングロス制御手段は、前記エンジンの吸気弁及び排気弁を閉弁状態とすることで、ポンピングロスを小さくする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記ポンピングロス制御手段は、前記第1回転電機の回転数の変化速度が所定値以上の場合、ポンピングロスを大きくする制御を行う請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126323(P2012−126323A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281239(P2010−281239)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】