説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 エンジン始動前に電気走行モードからハイブリッド走行モードへのモード切り替え要求がキャンセルされた際の排気および運転性の悪化を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 統合コントローラ20は、EVモードからHEV走行モードへのモード切り替え要求に伴うエンジン始動要求がなされた後、エンジン始動前に当該モード切り替え要求がキャンセルされた場合、既にエンジン回転数Neが上昇を開始しているとき、すなわちエンジン1がクランキング中であるときには、エンジン始動後にエンジン1を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の制御装置では、電気走行モードからハイブリッド走行モードへのモード切り替え要求に伴うエンジン始動要求がなされた場合、エンジンおよび電動モータ間に介在する第1クラッチを締結進行させてエンジンを始動させている。ここで、特許文献1および2に記載のものは、エンジン始動前に前記モード切り替え要求がキャンセルされた場合、エンジン始動を中断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−143423号公報
【特許文献2】特開2010−149783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、エンジンのクランキング開始後にエンジン始動が中断されることでエンジンが空回しされるため、不燃焼混合気の排出による排気の悪化、およびエンジン回転数が共振帯域に長く滞留することによるエンジン振動に伴う運転性の悪化を招くという問題があった。なお、共振帯域とは、エンジンから電動モータに至る動力伝達系統において、固有振動数付近で振動が大きくなる回転数帯域をいう。
本発明の目的は、エンジン始動前に電気走行モードからハイブリッド走行モードへのモード切り替え要求がキャンセルされた際の排気および運転性の悪化を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、モード切り替え要求に伴うエンジン始動要求によるエンジン始動前に当該モード切り替え要求がキャンセルされた場合、エンジン回転数が上昇を開始しているときには、一旦エンジンを始動させてからエンジンを停止させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明にあっては、一旦エンジンを始動させることで、不燃焼混合気の排出およびエンジン回転数の共振帯域での滞留を抑え、排気および運転性の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のハイブリッド車両の制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
【図2】図1に示したパワートレインの制御システムを示すブロック線図である。
【図3】図2に示した制御システムにおける統合コントローラの機能別ブロック線図である。
【図4】図3における目標駆動力演算部が目標駆動力を求めるときに用いる目標駆動力の特性線図である。
【図5】ハイブリッド車両の電気走行(EV)モード領域およびハイブリッド走行(HEV)モード領域を示す領域線図である。
【図6】ハイブリッド車両のバッテリ蓄電状態に対する目標充放電量特性を示す特性線図である。
【図7】車速に応じた最良燃費線までのエンジントルクの上昇経過を示すエンジントルク上昇経過説明図である。
【図8】エンジン完爆連続判定カウント許可フラグの切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】エンジン完爆連続判定カウンタCNTのカウント処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】エンジン停止許可判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】従来の目標駆動トルクに応じてエンジン始動を行うハイブリッド車両の制御装置において、エンジン始動が行われる場合の目標駆動力のタイムチャートである。
【図12】従来の目標駆動トルクに応じてエンジン始動を行うハイブリッド車両の制御装置において、エンジン始動が中断された場合の目標駆動力のタイムチャートである。
【図13】従来のハイブリッド車両の制御装置において、エンジン始動が中断された場合のエンジン回転数のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、本発明のハイブリッド車両の制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
実施例1のハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したもので、1はエンジンであり、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ(電動モータ)5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源として備える。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータおよびジェネレータとして作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで、第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0011】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って、自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0012】
ところで、図1においては、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7として専用のものを新設するのではなく、自動変速機3内に既存する変速摩擦要素を流用する。
この場合、第2クラッチ7が締結により上記の変速段選択機能(変速機能)を果たして自動変速機3を動力伝達状態にするのに加え、第1クラッチ6の解放・締結との共働により、後述するモード選択機能を果たし得ることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0013】
上記した図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を動力伝達状態にする。
なお第2クラッチ7は、自動変速機3内の変速摩擦要素のうち、現変速段で締結させるべき変速摩擦要素であって、選択中の変速段ごとに異なる。
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0016】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図2に示すようなシステムにより制御する。
図2の制御システムは、パワートレインの動作点を統合制御する統合コントローラ20を備え、パワートレインの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0017】
統合コントローラ20には、上記パワートレインの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、車両への要求負荷を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号とを入力する。
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1に示すように配置することができる。
【0018】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTmはモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
【0019】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTmが目標モータ/ジェネレータトルクtTmとなるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0020】
統合コントローラ20は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2の演算を、図3の機能別ブロック線図で示すように実行する。
目標駆動力演算部30では、図4に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFoを演算する。
【0021】
運転モード選択部40では、図5に示すEV−HEV領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モードを決定する。
図5に示すEV−HEV領域マップから明らかなように、高負荷・高車速時はHEVモードを選択し、低負荷・低車速時はEVモードを選択し、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り替え線を越えてHEV領域に入るとき、EVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへのモード切り替えを行い、また、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り替え線を越えてEV領域に入るとき、HEVモードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEVモードへのモード切り替えを行うものとする。
【0022】
図3の目標充放電演算部50では、図6に示す充放電量マップを用いて、バッテリ蓄電状態SOCから目標充放電量(電力)tPを演算する。
動作点指令部60では、アクセル開度APOと、目標駆動カtFoと、目標運転モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらを動作点到達目標として、時々刻々の過渡的な目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1に対応した目標ソレノイド電流Is1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを演算する。
また、現在の動作点から図7に示す最良燃費線までエンジントルクを上げるのに必要な出力を演算し、これと上記目標充放電量(電力)tPとを比較し、小さい方の出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0023】
変速制御部70では、上記の目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを入力され、これら目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段SHIFTが達成されるよう自動変速機3内の対応するソレノイドバルブを駆動する。
これにより図1の自動変速機3は、第2クラッチ7を目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2が達成されるよう締結制御されつつ、目標変速段SHIFTが選択された動力伝達状態になる。
【0024】
[エンジン始動処理]
動作点指令部60は、目標運転モードがEVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへ切り替わったとき、エンジン1を始動させるエンジン始動処理を実行する。動作点指令部60は、EVモードからHEVモードへのモード切り替え要求に伴うエンジン始動要求がなされた場合、第1クラッチ6を締結進行させてエンジン1を始動させるエンジン始動制御手段である。
ここで、エンジン始動処理は、以下のような処理である。
目標運転モードがEVモードからHEVモードへ切り替わったとき、先ず第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を、エンジン始動要求直前の変速機出力軸トルクに対応したものとなるように設定し、その後モータ/ジェネレータ5の駆動力を増大させる。
このとき、モータ/ジェネレータ5に作用する負荷は、第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2に相当する値を上限とし、これを超えた負荷がモータ/ジェネレータ5に作用することはなく、モータ/ジェネレータ5は、上記駆動力の増大により第2クラッチ7をスリップさせつつ、回転数Nmを上昇することとする。
【0025】
次いで、係る第2クラッチ7のスリップおよびモータ/ジェネレータ回転数Nmの上昇が完了したと見込まれる時より、解放状態であった第1クラッチ6の伝達トルク容量tTc1を所定値まで上昇させて第1クラッチ6を締結進行させ、エンジン1をクランキングしてエンジン回転数Neを引き上げると共に、燃料噴射および点火を行う。これによりエンジン1が始動、すなわち、エンジン1が完爆し、自立運転可能な回転数に達して、第1クラッチ6の前後回転差(エンジン回転数Neとモータ/ジェネレータ回転数Nmとの差)が無くなったら、第1クラッチ6を完全締結させると共に第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を本来の値に増大復帰させて、エンジン始動処理を終了する。
【0026】
[エンジン停止許可判定処理]
動作点指令部60は、図8〜10に示す制御プログラムを並列して実行することでエンジン停止許可判定を行い、判定結果に応じてエンジン1を停止させる。
【0027】
(エンジン完爆連続判定カウント許可フラグ切り替え処理)
図8は、エンジン完爆連続判定カウント許可フラグ(以下、カウント許可フラグ)Fの切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS11では、エンジン始動が完了しているか否かを判定し、YESの場合にはステップS13へ進み、NOの場合はステップS12へ進む。ここで、エンジン始動完了は、エンジン1が完爆(初爆後、エンジン1が自立運転可能な状態)しているか否かにより判定し、エンジン1が完爆している場合、エンジン始動完了と判定する。ここで、エンジン始動完了は、第2クラッチ7のスリップが終了し、伝達トルク容量tTc2が本来の値に増大復帰しているか否かにより判定してもよい。2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2が本来の値に復帰している場合、上述したエンジン始動処理が全て終了し、エンジン1が完爆、すなわちエンジン始動完了と判断できるからである。
【0028】
ステップS12では、HEVモードからEVモードへの移行が完了したか否かを判定し、YESの場合にはステップS14へ進み、NOの場合にはステップS15へ進む。ここでは、燃料噴射および点火が停止し、第1クラッチ6が完全解放状態となったとき、EVモードへの移行完了と判定する。
ステップS14では、カウント許可フラグFをONして制御を終了する。
ステップS15では、カウント許可フラグFをOFFして制御を終了する。
ステップS16では、カウント許可フラグFをONして制御を終了する。
【0029】
(エンジン完爆連続カウンタのカウント処理)
図9は、エンジン完爆連続判定カウンタ(以下、カウンタ)CNTのカウント処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS21では、カウント許可フラグFがONであるか否かを判定し、YESの場合にはステップS22へ進み、NOの場合にはステップS23へ進む。
ステップS22では、カウンタCNTをカウントアップする。
ステップS23では、カウンタCNTの前回値を保持する。
ステップS24では、カウント許可フラグFがOFFからONへ切り替わったか否か、またはエンジンクランキング中であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS25へ進み、NOの場合にはステップS26へ進む。ここで、クランキング中であるか否かの判定は、第1クラッチ6が締結側へ動作を開始したか否かにより判定する。
ステップS25では、カウンタCNTをクリア(=0)する。
ステップS26では、カウント許可フラグFがONからOFFへ切り替わったか否かを判定し、YESの場合にはステップS27へ進み、NOの場合には制御を終了する。
ステップS27では、カウンタCNTをカウント最大値CNTmaxとして制御を終了する。
【0030】
(エンジン停止許可判定処理)
図10は、エンジン停止許可判定処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS31では、カウンタCNTがカウント閾値CNTth(<CNTmax)よりも大きいか否かを判定し、YESの場合にはステップS32へ進み、NOの場合にはステップS24へ進む。
ステップS32では、その他エンジン停止許可条件が停止許可であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS33へ進み、NOの場合にはステップS34へ進む。その他エンジン停止許可条件としては、例えば、バッテリ蓄電状態SOCが低下した場合はエンジン停止不許可とする。また、エンジン1を停止させると運転性が悪化する可能性がある場合、エンジン停止不許可としてもよい。
ステップS33では、エンジン停止許可判定とし、制御を終了する。
【0031】
ステップS34では、エンジン停止不許可判定とし、制御を終了する。
動作点指令部60は、図10のエンジン停止許可判定処理においてエンジン停止許可判定がなされた場合、エンジン1を停止させ、エンジン停止不許可判定がなされた場合、エンジン1を不停止、すなわちエンジン1の運転を継続する。動作点指令部60は、エンジン始動前にEVモードからHEVモードへのモード切り替え要求がキャンセルされた場合、エンジン1の回転数が上昇を開始しているときには、エンジン始動後にエンジン1を停止させるエンジン停止制御手段である。
【0032】
[エンジン停止許可判定処理作用]
特開2010-143423号公報には、車速とアクセル開度で決まる動作点がモードマップ上で電気走行モード領域からハイブリッド走行モード領域へ移動したとき、第1クラッチを締結進行させてエンジンのクランキングを開始し、エンジン回転数が所定値に達したとき燃料噴射および点火によりエンジンを始動させることが開示されている。この従来技術では、エンジン始動前に動作点が再びEVモード領域に戻った場合、EVモードからHEVモードへの移行をキャンセルし、エンジン始動を中断している。
また、特開2010-149783号公報には、図11に示すように、車両の目標駆動トルクがクランキング要求判定閾値を超えたとき第1クラッチを締結進行させてエンジンのクランキングを開始し、目標駆動力がクランキング要求判定閾値よりも大きなエンジン始動要求判定閾値を超えたとき、燃料噴射および点火によりエンジンを始動させることが開示されている。この従来技術では、図12のようにエンジン始動前に目標駆動力がクランキング要求判定閾値以下となった場合、EVモードからHEVモードへの移行をキャンセルし、エンジン始動を中断している。
【0033】
つまり、上記従来のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン始動前、すなわち、エンジンが完爆する前にEVモードからHEVモードへの移行がキャンセルされた際には、エンジン始動を中断しているため、エンジンから不燃焼混合気が排出されることで、排気が悪化するという問題があった。
また、エンジンを始動させた場合には、エンジン回転数が一気にアイドル回転数まで引き上げられるのに対し、エンジン始動を中断した場合には、クランキングに伴う惰性回転によりエンジン回転数が共振帯域(アイドル回転数よりも低い回転数であって、エンジンから電動モータに至る動力伝達系統において、固有振動数付近で振動が大きくなる回転数帯域)に長く滞留してしまうため、エンジン振動が大きくなり、運転性の悪化が懸念される。図13に示すように、エンジン始動を中断した場合の共振帯域滞留時間T2は、エンジンを始動させた場合のエンジン回転数の共振帯域滞留時間T1よりも大幅に長くなっている。
【0034】
これに対し、実施例1では、エンジン始動前にEVモードからHEVモードへの移行がキャンセルされた場合、エンジン回転数Neが上昇を開始しているとき、つまりエンジン1のクランキングが開始しているときには、一旦エンジン1を始動させた後、エンジン1を停止させる。すなわち、ステップS11でエンジン始動完了(エンジン完爆)と判定した場合、ステップS13へと進んでカウント許可フラグFをONする。これにより、ステップS24でカウント許可フラグFがOFFからONへ切り替わったと判定してカウンタCNTをクリアした後、ステップS21からステップS22へ進む流れを繰り返すことでカウンタCNTをカウントアップし、ステップS31でカウンタCNTがカウント閾値CNTthを超えたと判定し、かつ、ステップS32でその他エンジン停止条件がエンジン停止許可であると判定した場合、ステップS33へと進んでエンジン停止許可判定を行い、エンジン1を停止させる。
よって、エンジン始動によりエンジン1に供給された混合気を燃焼させることができるため、エンジン1からの不燃焼混合気の排出を抑え、排気の悪化を抑制できる。また、エンジン始動によりエンジン回転数Neをアイドル回転数まで一気に引き上げるため、エンジン回転数Neが上述した共振帯域に滞留する時間を短くでき、運転性の悪化を抑制できる。
【0035】
ここで、実施例1では、エンジン始動前にEVモードからHEVモードへの移行がキャンセルされた場合であっても、エンジン回転数Neが上昇を開始していないときには、エンジン1を始動させることなくHEVモードへの移行をキャンセルする。すなわち、ステップS11でエンジン始動完了ではないと判定してステップS12へと進み、ステップS12では、第1クラッチ6が締結進行を開始しておらず、燃料噴射および点火も行われていないため、ステップS14へと進んでカウント許可フラグFをONとする。これにより、ステップS26でカウント許可フラグFがONからOFFへ切り替わったと判定してステップS27へ進み、カウンタCNTを最大値CNTmaxとする。これにより、ステップS31からステップS32を経てステップS33へと進み、エンジン停止許可判定を行う。
エンジン回転数Neが上昇していない段階でEVモードからHEVモードへの移行がキャンセルされた場合には、エンジン1を始動させなくても上述した排気および運転性の悪化は生じないため、エンジン1の始動は不要だからである。
【0036】
また、実施例1では、第1クラッチ6が締結側へ動作を開始したとき、エンジンクランキング中、すなわちエンジン回転数Neが上昇を開始したと判定する。例えば、エンジン回転数Neが上昇し始めるタイミングの判定をエンジン回転センサ11からの信号に基づいて行った場合、判定に遅れが生じる可能性があり、実際にエンジン回転数Neが上昇し始めているにもかかわらず、エンジン回転数Neが上昇し始めたと誤判定し、エンジン始動を中断するおそれがある。この場合、排気および運転性の悪化を招く。一方、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1がクランキングのための所定値まで上昇したことをもって判定を行う場合、油圧で動作する第1クラッチ6には応答遅れがあるため、実際にはエンジン回転数Neが上昇を開始していないにもかかわらず、エンジン回転数Neが上昇を開始したと誤判定し、エンジン1を不要に始動させてしまうおそれがある。よって、第1クラッチ6の動作開始タイミングをエンジン回転数Neの上昇開始タイミングとすることで、エンジン1のクランキング開始をより正確に判定でき、上述した誤判定による不具合の発生を抑制できる。
【0037】
さらに、実施例1では、エンジン始動完了から一定時間経過後にエンジン1を停止させる。すなわち、ステップS11でエンジン始動完了判定を行ってからカウンタCNTをクリアした後、ステップS31でカウンタCNTがカウント閾値CNTthであると判定した場合、ステップS33でエンジン停止許可判定を行い、エンジン1を停止させる。つまり、エンジン1を一定時間燃焼させることで、不燃焼混合気が排出されるのをより確実に低減できる。また、エンジン回転数Neをアイドル回転数(>共振帯域の回転数)まで一定時間引き上げておくことで、エンジン回転数Neが共振帯域に滞留する時間をより確実に短くでき、エンジン振動による運転性の悪化を低減できる。
【0038】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 動力源としてエンジン1およびモータ/ジェネレータ5を備え、エンジン1およびモータ/ジェネレータ5間に伝達容量を変更可能な第1クラッチ6を介在させ、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2間に伝達トルクを変更可能な第2クラッチ7を介在させ、エンジン1を停止させ、第1クラッチ6を解放すると共に第2クラッチ7を締結することによりモータ/ジェネレータ5からの動力のみによるEVモードを選択可能で、第1クラッチ6および第2クラッチ7を共に締結することによりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5からの動力によるHEVモードを選択可能なハイブリッド車両の制御装置において、EVモードからHEV走行モードへのモード切り替え要求に伴うエンジン始動要求がなされた場合、第1クラッチ6を締結進行させてエンジン1を始動させるエンジン始動制御手段(動作点指令部60)と、エンジン始動制御手段によるエンジン始動前にEVモードからHEVモードへのモード切り替え要求がキャンセルされた場合、エンジン回転数Neが上昇を開始しているときには、エンジン始動後にエンジン1を停止させるエンジン停止制御手段(動作点指令部60)と、を備えた。
これにより、エンジン1に供給された混合気を燃焼させることができるため、エンジン1からの不燃焼混合気の排出を抑え、排気の悪化を抑制できる。また、エンジン回転数Neを一気にアイドル回転数まで引き上げることができるため、エンジン回転数Neが共振帯域に滞留する時間を短くでき、運転性の悪化を抑制できる。
【0039】
(2) エンジン停止制御手段(動作点指令部60)は、第1クラッチ6が締結側へ動作を開始したとき、エンジン回転数Neが上昇を開始したと判定するため、エンジン1のクランキング開始をより正確に判定でき、誤判定による排気および運転性の悪化や不要なエンジン始動を抑制できる。
【0040】
(3) エンジン停止制御手段(動作点指令部60)は、エンジン始動完了から一定時間経過後(カウンタCNTが)にエンジン1を停止させるため、エンジン回転数Neをアイドル回転数まで一定時間引き上げておくことで、エンジン回転数Neが共振帯域に滞留する時間をより確実に短くでき、エンジン振動に伴う運転性の悪化を低減できる。
【0041】
(他の実施例)
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に記載の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は本発明の範囲に含まれる。
例えば、自動変速機3は、有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
目標モータ/ジェネレータトルクtTmに代えて、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを用い、モータ/ジェネレータ5の回転数Nmが目標モータ/ジェネレータ回転数tNmとなるようにモータ/ジェネレータ5を制御する構成としてもよい。
第2クラッチ7は自動変速機3内に既存する変速摩擦要素ではなく、専用のものを新設してもよい。この場合、第2クラッチ7は自動変速機3の入力軸3aとモータ/ジェネレータ軸4との間に設けたり、自動変速機3の出力軸3bと後輪駆動系との間に設けたりすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン
5 モータジェネレータ(電動モータ)
6 第1クラッチ
7 第2クラッチ
60 動作点指令部(エンジン始動制御手段、エンジン停止制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジンおよび電動モータを備え、前記エンジンおよび前記電動モータ間に伝達容量を変更可能な第1クラッチを介在させ、前記電動モータおよび駆動車輪間に伝達トルクを変更可能な第2クラッチを介在させ、
前記エンジンを停止させ、前記第1クラッチを解放すると共に前記第2クラッチを締結することにより前記電動モータからの動力のみによる電気走行モードを選択可能で、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチを共に締結することにより前記エンジンおよび前記電動モータからの動力によるハイブリッド走行モードを選択可能なハイブリッド車両の制御装置において、
電気走行モードからハイブリッド走行モードへのモード切り替え要求に伴うエンジン始動要求がなされた場合、前記第1クラッチを締結進行させて前記エンジンを始動させるエンジン始動制御手段と、
前記エンジン始動制御手段によるエンジン始動前に前記モード切り替え要求がキャンセルされた場合、前記エンジンの回転数が上昇を開始しているときには、エンジン始動後に前記エンジンを停止させるエンジン停止制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、前記第1クラッチが締結側へ動作を開始したとき、前記エンジン回転数が上昇を開始したと判定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン停止制御手段は、エンジン始動完了から一定時間経過後に前記エンジンを停止させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−86679(P2012−86679A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235224(P2010−235224)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】