説明

ハイブリッド電気自動車の変速制御装置

【課題】第2歯車機構のプレシフト要求と走行モードの切換要求とが相前後して発生したとき、これに応じたエンジン吹き上がり制御による燃料消費の増大及び騒音発生を抑制できるハイブリッド電気自動車の変速制御装置を提供する。
【解決手段】電動機単独走行中において偶数歯車機構G2に対するプレシフト要求があったときに(S2,4)、エンジン・電動機併用走行への走行モードの切換要求があるまで待機し、この走行モードの接続要求があると(S6がYes)、インナクラッチC1を接続し、電動機3の駆動力を0にしていくと共にエンジン駆動力を増加させて(S8,10)、電動機3の駆動力の瞬断を防止しつつ偶数歯車機構G2に対するプレシフトを実行し(S12)、同時にエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換を完了する(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の変速制御装置に係り、詳しくは、動力伝達を行いながら次に予測される変速段に予め切り換えることにより、変速時においても連続的に動力伝達可能なデュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド電気自動車の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機として、平行に設けられた入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成したいわゆる平行軸式の変速機が知られている。平行軸式の変速機において変速段の切換を行う場合、同一の入力軸上で2つの変速段が同時に選択された状態とすることはできないため、その時点で選択されている変速段のギヤ抜き操作を行った後に、次の変速段のギヤ入れ操作を行う。
【0003】
しかしながら、このような変速段の切換を行う際にはエンジンなどの動力源から変速装置への駆動力伝達が一時的に遮断されるため、運転者がアクセルペダルを踏んでいても駆動輪への連続的な駆動力伝達が行われず、運転フィーリングが悪化するという問題点があった。
そこで、このような問題点を解決するため、例えば、エンジンに対して内外2重に配設したインナクラッチ及びアウタクラッチをそれぞれ接続し、インナクラッチに複数の変速段を構成する第1歯車機構を接続すると共に、アウタクラッチに複数の変速段を構成する第2歯車機構に接続した、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が開発されている。
【0004】
このデュアルクラッチ式変速機では、例えば第1歯車機構の何れかの変速段が選択されてエンジンの駆動力がインナクラッチを介して伝達されているときには、アウタクラッチが切断されることによって、第2歯車機構にはエンジンからの駆動力が伝達されないようになっている。このとき第2歯車機構において次に予測される次変速段に予め切り換え(以下、この操作をプレシフトという)、シフトマップに基づき変速段の切換指示があるとインナクラッチを切断していきながらアウタクラッチを接続していくことにより、駆動輪への動力伝達を連続的に行うようにして運転フィーリングを改善している。
【0005】
このデュアルクラッチ式変速機は、エンジン及び電動機の駆動力を任意に駆動輪に伝達可能なパラレル型ハイブリッド電気自動車にも採用されている。例えば特許文献1に記載されたハイブリッド電気自動車では、アウタクラッチの外周側に電動機を配設し、その電動機の駆動力を第2歯車機構に伝達している。
【0006】
このように構成したデュアルクラッチ式変速機において電動機単独で走行する場合には、インナクラッチ及びアウタクラッチを共に切断し、第2歯車機構の何れかの変速段を選択する。エンジンからの駆動力は第1歯車機構にも第2歯車機構にも伝達されなくなり、電動機の駆動力は第2歯車機構の変速段を介して駆動輪側に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−035168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにハイブリッド電気自動車に備えられたデュアルクラッチ式変速機は、その構造上、電動機をアウタクラッチの出力側に配設せざるを得ないことから、結果として電動機の駆動力は常に第2歯車機構に伝達される。
第2歯車機構を次変速段に切り換えるには、同期装置を利用したギヤ入れ操作やギヤ抜き操作を実行する必要があるが、これらのギヤ入れ操作やギヤ抜き操作のためには第2歯車機構の動力伝達を中断する必要がある。このため、特許文献1に記載された技術では、次変速段への切換に際して第2歯車機構の動力伝達を中断すべく、電動機の駆動力を一旦0まで減少させる制御を要する。
【0009】
ところが、この電動機単独の走行時には電動機の駆動力のみを利用して車両を走行させているため、第2歯車機構の変速の際、次変速段へのギヤ入れの完了により電動機の作動が再開されるまでの間に駆動力の瞬断が生じてしまい、駆動輪に伝達される駆動力が一時的に消失して運転者に違和感を与えるという問題がある。
そこで、このような不具合を鑑みて、第2歯車機構の変速中にインナクラッチを接続し、中断されている電動機の駆動力に代えて第1歯車機構を介してエンジンの駆動力を駆動輪側に伝達することにより駆動力の瞬断を防止する、いわゆるトルク補償制御が考えられる。
なお、第2歯車機構の変速による駆動力の瞬断は、電動機単独走行のみならずエンジン・電動機併用走行でも発生することから、このような場合にも上記トルク補償制御が有効となる。
【0010】
また、例えばバッテリの残存容量(SOC:State Of Charge)の低下などにより電動機単独走行が継続不能となったときには、電動機単独走行から電動機・エンジン併用走行に走行モードが切り換えられる。このような場合もインナクラッチを接続し、第1歯車機構を介してエンジンの駆動力を駆動輪側に伝達する操作が行われる。
以上の電動機単独走行やエンジン・電動機併用走行時の第2歯車機構の変速(以下、このときの変速操作をプレシフトと称する)、及びSOC低下などに起因する走行モードの切換に際してインナクラッチを接続するには、共にエンジンを吹き上がらせてクラッチ入出力の回転を同期させる制御を要する。
【0011】
例えば図5は電動機単独走行中に第2歯車機構G2のプレシフト要求があり、その後にSOC低下などで走行モードの切換要求があった場合の動作順序を示す模式図であり、上段から下段の順に動作が行われており、動力伝達中の経路を太線で示すと共に、各歯車機構G1,G2で選択されている変速段に丸印を付している。また、この例では、第1歯車機構G1を奇数変速段(1,3,5速段)により構成し、第2歯車機構G2を偶数変速段(2,4,6速段)により構成している。
電動機単独走行ではインナクラッチC1及びアウタクラッチC2が共に切断され、例えば第2歯車機構G2では第2速が選択され、この第2速を介して電動機3の駆動力が駆動輪14側に伝達されることで車両が走行している(図中の最上段)。第2速から第4速へのプレシフト要求があると、エンジン1を吹き上がらせてクラッチ入出力の回転を同期させながらインナクラッチC1が接続される(図中の2段目)。
【0012】
そして、電動機3の駆動力が運転者の要求トルクから0まで次第に低下されると共に、エンジン1の駆動力が0から要求トルクまで増加され、エンジン1の駆動力を第1歯車機構G1の例えば第3速を介して駆動輪14側に伝達することにより、トルク補償制御が行われる。
この状態で第2歯車機構G2において第2速から第4速へのプレシフトが行われ、プレシフトの完了後に再びエンジン1の駆動力が0まで低下されると共に電動機3の駆動力が要求トルクまで増加されてインナクラッチC1が切断され、第4速を介して電動機単独走行が継続される(図中の3段目)。
【0013】
その後、SOC低下などに起因して、電動機単独走行からエンジン・電動機併用走行への走行モード切換要求があると、再びエンジン1を吹き上がらせて回転同期を行いながらインナクラッチC1が接続され、エンジン1の駆動力が第1歯車機構G1を介して駆動輪14側に伝達され始める。電動機3の駆動力とエンジン1の駆動力とは所定比率、例えばそれぞれ50%に調整され、エンジン・電動機併用走行が開始される(図中の最下段)。
従って、この場合には、第2歯車機構G2のプレシフト時と走行モードの切換時との2回にわたってエンジン1の吹き上がり制御が実行される。
【0014】
また、図6はSOC低下などで走行モードの切換要求があり、その後に第2歯車機構G2のプレシフト要求があった場合の動作順序を示す模式図である。
第2速を介した電動機単独走行において(図中の最上段)、エンジン・電動機併用走行への走行モード切換要求があると、エンジン1を吹き上がらせて回転同期を行いながらインナクラッチC1が接続され、エンジン1の駆動力が第1歯車機構G1を介して駆動輪14側に伝達され始める。これと並行して電動機3の駆動力とエンジン1の駆動力とが所定比率、例えばそれぞれ50%に調整され、エンジン・電動機併用走行が開始される(図中の2段目)。
【0015】
その後、第2速から第4速へのプレシフト要求があると、電動機3の駆動力の瞬断防止のためにトルク補償制御を実行する。このときには既にインナクラッチC1が接続されているため、電動機3の駆動力が要求トルクから0まで次第に低下されると共に、エンジン1の駆動力が0から要求トルクまで増加される(図中の3段目)。この場合には、エンジン1が吹き上がることはないが、エンジン1の駆動力を増加させるため、燃料消費量は増大することとなる。
この状態で第2歯車機構G2において第2速から第4速へのプレシフトが行われ、プレシフトの完了後に電動機3の駆動力とエンジン1の駆動力とが例えばそれぞれ50%に調整される(図中の最下段)。
【0016】
従って、この場合には、走行モードの切換時にエンジン1の吹き上がり制御が実行され、第2歯車機構のプレシフト時にはエンジン1の吹き上がり制御は不要なものの、 エンジン駆動力の増加制御が実行される。
これらのエンジン1の吹き上がり制御及びエンジン駆動力の増加制御は何れも余分な燃料を消費することから、このような制御を立て続けに実行することは燃費悪化の要因になってしまう。また、連続したエンジン1の吹き上がりによる騒音は乗員に不快感を与えると共に、住宅地などでは迷惑になり得るという問題もある。
【0017】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電動機単独走行中において、第2歯車機構のプレシフト要求とSOC低下などによる走行モードの切換要求とが相前後して発生したとき、これに応じたエンジン吹き上がり制御やエンジン駆動力の増加制御による燃料消費の増大及び騒音発生を抑制することができるハイブリッド電気自動車の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジンと電動機とがクラッチを介して接続され、エンジン及び電動機の駆動力が変速機を介して駆動輪に伝達されるハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、変速機が、第1クラッチを介してエンジンと接続され、第1クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力を複数の変速段に変速して駆動輪に出力する第1変速機構と、第2クラッチを介してエンジンと接続されると共に、第2クラッチの出力側に電動機が配設され、第2クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力、及び電動機の駆動力を複数の変速段に変速して駆動輪に出力する第2変速機構とを備えており、第1クラッチ及び第2クラッチを切断した状態で、第2変速機構の何れかの変速段によって運転者の要求トルクに応じた電動機の駆動力のみで走行中において、第2変速機構の変速段を別の変速段にプレシフトする要求があったとき、第1クラッチの接続要求があるまで待機し、第1クラッチの接続要求があると第1クラッチを接続し、電動機の駆動力を0にしていくと共にエンジンの駆動力を要求トルクまで増加させて、第2変速機構に対するプレシフトを実行する第1の制御手段を備えたものである。
【0019】
請求項2の発明は、エンジンと電動機とがクラッチを介して接続され、エンジン及び電動機の駆動力が変速機を介して駆動輪に伝達されるハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、変速機が、第1クラッチを介してエンジンと接続され、第1クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力を複数の変速段に変速して駆動輪に出力する第1変速機構と、第2クラッチを介してエンジンと接続されると共に、第2クラッチの出力側に電動機が配設され、第2クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力、及び電動機の駆動力を複数の変速段に変速して駆動輪に出力する第2変速機構とを備えており、第1クラッチ及び第2クラッチを切断した状態で、第2変速機構の所定の変速段によって運転者の要求トルクに応じた電動機の駆動力のみで走行中において、第1クラッチの接続要求があったとき、第2変速機構の変速段を所定の変速段にプレシフトする要求がない場合であっても、電動機の回転速度が予め設定された第1の判定値以上であることを条件として第1クラッチを接続し、電動機の駆動力を0にしていくと共にエンジンの駆動力を要求トルクまで増加させて、第2変速機構の変速段をプレシフトする第2の制御手段を備えたものである。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1において、第1の制御手段が、プレシフト要求後の待機中において、プレシフト後の所定変速段へのシフトアップ線を上限として予め設定された第2の判定値に電動機の回転速度が達したときに、第1クラッチの接続要求があったものと見なすものである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、電動機の駆動力のみで走行中において、第2変速機構に対する所定の変速段へのプレシフト要求があったときに、第1クラッチの接続要求、即ちエンジンの駆動力を第1クラッチから第1変速機構に伝達することによるエンジン単独走行やエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換要求があるまで待機し、この第1クラッチ接続要求があると第1クラッチを接続し、電動機の駆動力を0にしていくと共にエンジン駆動力を増加させて、電動機の駆動力の瞬断を防止しつつ第2変速機構に対するプレシフトを実行するようにした。
よって、1回の第1クラッチの接続により第2変速機構のプレシフトと走行モードの切換とを同時に実行でき、第1クラッチ接続時の回転同期のためのエンジンの吹き上がり制御も1回実行するだけで済むことから、このエンジン吹き上がり制御による燃料消費の増大及び騒音発生を抑制することができる。
【0022】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、電動機の駆動力のみで走行中において、第1クラッチの接続要求、即ちエンジンの駆動力を第1クラッチから第1変速機構に伝達することによるエンジン単独走行やエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換要求があったときに、第2変速機構に対する所定の変速段へのプレシフト要求がない場合であっても、電動機の回転速度が第1の判定値以上であることを条件として第1クラッチを接続し、電動機の駆動力を0にしていくと共にエンジン駆動力を増加させて、電動機の駆動力の瞬断を防止しつつ第2変速機構に対するプレシフトを実行するようにした。
よって、1回の第1クラッチの接続により第2変速機構のプレシフトと走行モードの切換とを同時に実行でき、第1クラッチ接続時の回転同期のためのエンジンの吹き上がり制御も1回実行するだけで済むことから、このエンジン吹き上がり制御による燃料消費の増大及び騒音発生を抑制することができる。また、電動機の回転速度が第1の判定値以上のときに第1クラッチを接続してプレシフトを行うため、シフトアップ後に電動機の回転速度が急落して運転者に違和感を与える事態を未然に防止することができる。
【0023】
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、請求項1に加えて、プレシフト要求後の待機中に、電動機の回転速度が所定変速段へのシフトアップ線を上限とした第2の判定値に達したときに、第1クラッチの接続要求があったものと見なすようにした。よって、プレシフトの実行及びその後の第1クラッチの接続による走行モードの切換が過剰に遅延されたときの不具合を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態のハイブリッド電気自動車の変速制御装置を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態のECUが実行するプレシフト・走行モード制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第1及び第2実施形態のプレシフト・走行モード制御ルーチンに基づく動作順序を示す模式図である。
【図4】第2実施形態のECUが実行するプレシフト・走行モード制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態に対応する先行技術による動作順序を示す模式図である。
【図6】第2実施形態に対応する先行技術による動作順序を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の変速制御装置の第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド電気自動車の変速制御装置を示す全体構成図である。車両には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1は、加圧ポンプによりコモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁に供給し、各燃料噴射弁の開弁に伴って筒内に噴射する所謂コモンレール式機関として構成されている。
【0026】
エンジン1の出力軸1aは車両後方(図の右方)に突出し、自動変速機(以下、単に変速機という)2の入力軸2aに接続されている。変速機2は前進6段(1速段〜6速段)及び後退1段を備えており、エンジン1の動力は入力軸2aを介して変速機2に入力された後に、変速段に応じて変速されて出力軸2bから差動装置12及び駆動軸13を介して左右の駆動輪14に伝達されるようになっている。
言うまでもないが、変速機2の変速段は上記に限ることなく任意に変更可能である。
【0027】
変速機2は、所謂デュアルクラッチ式変速機として構成されており、走行用動力源としての電動機3を内蔵している。当該デュアルクラッチ式変速機の詳細は、例えば特開2009−035168号公報などに記載されているため、本実施形態では概略説明にとどめる。このため、図1では変速機2を実際の機構とは異なる模式的な表現で示しており、以下の説明でも変速機2の構成及び作動状態を概念的に述べる。
周知のようにデュアルクラッチ式変速機は、奇数変速段と偶数変速段とを相互に独立した動力伝達系として設け、何れか一方で動力伝達しているときに他方を次に予測される次変速段に予め切り換えておくことで、動力伝達を中断することなく次変速段への切換を完了するシステムである。
【0028】
即ち、図1に示すように、変速機2の入力軸2aにはクラッチC1(第1クラッチ)を介して奇数変速段(1,3,5速段)からなる奇数歯車機構G1(第1変速機構)が接続されると共に、同じく入力軸2aにはクラッチC2(第2クラッチ)及び電動機3を介して偶数変速段(2,4,6速段)からなる偶数歯車機構G2(第2変速機構)が接続されている。これらの歯車機構G1,G2の出力側は上記した共通の出力軸2bに連結されている。
なお、図1では説明の便宜上、後退変速段を省略している。
【0029】
図示はしないが、電動機3は内外2重に配設されたロータ及びステータから構成され、ロータを回転可能に支持する回転軸がクラッチC2の出力側に接続されている。電動機3にはインバータ4を介して走行用のバッテリ5が電気的に接続され、後述するように、インバータ4により電動機3の力行制御及び回生制御が行われるようになっている。即ち、力行制御では、バッテリ5に蓄えられた直流電力がインバータ4により交流電力に変換されて電動機3に供給され、電動機3がモータとして作動して駆動力を偶数歯車機構G2に入力する。
また、車両減速時の回生制御では、駆動輪側からの逆駆動により電動機3がジェネレータとして作動して回生制動力を発生すると共に、発電した交流電力がインバータ4により直流電力に変換されてバッテリ5に充電される。
【0030】
ここで、変速機2内のスペース効率化のために両クラッチC1,C2は、奇数変速段側のクラッチC1を内周側とし、偶数変速段側のクラッチC2を外周側とした内外2重に配設されている。そこで、以下の説明では、奇数変速段側のクラッチC1をインナクラッチと称し、偶数変速段側のクラッチC2をアウタクラッチと称する。
インナクラッチC1及びアウタクラッチC2にはそれぞれ油圧シリンダ6が接続され、両油圧シリンダ6は電磁弁7が介装された油路8を介して油圧供給源9に接続されている。電磁弁7の開弁時には油圧供給源9から油路8を介して油圧シリンダ6に作動油が供給され、油圧シリンダ6が作動して対応するクラッチC1,C2が接続状態から切断状態に切り換えられる。
一方、電磁弁7が閉弁すると、作動油の供給中止により油圧シリンダ6が作動しなくなることから、クラッチC1,C2は図示しないプレッシャスプリングにより切断状態から接続状態に切り換えられる。
なお、クラッチC1,C2の駆動方式はこれに限ることはなく、例えば油圧駆動に代えてエア駆動を採用してもよい。
【0031】
また、変速機2の奇数歯車機構G1及び偶数歯車機構G2にはそれぞれギヤシフトユニット10が設けられている。図示はしないがギヤシフトユニット10は、歯車機構G1,G2内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数の油圧シリンダ、及び各油圧シリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット10は油路11を介して上記した油圧供給源9と接続されており、図示していない各電磁弁の開閉に応じて油圧供給源9からの作動油が夫々に対応する図示していない油圧シリンダに供給され、その油圧シリンダが作動してシフトフォークを切換操作すると、切換操作に応じて対応する歯車機構G1,G2の変速段が切り換えられる。
【0032】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されており、エンジン1、変速機2、電動機3、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2の総合的な制御を行う。
ECU21の入力側には、エンジン1の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ22、インナクラッチC1の出力側の回転速度Nc1を検出するインナクラッチ回転速度センサ23、アウタクラッチC2の出力側の回転速度Nc2(=電動機3の回転速度)を検出するアウタクラッチ回転速度センサ24、歯車機構G1,G2の変速段を検出するギヤ位置センサ25、アクセルペダル26の開度θaccを検出するアクセルセンサ27、及び変速機2の出力軸2bに設けられて車速Vを検出する車速センサ28などのセンサ類が接続されている。
【0033】
また、ECU21の出力側には、上記したインバータ4,クラッチC1,C2の電磁弁7、ギヤシフトユニット10の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、コモンレール蓄圧用の加圧ポンプや各気筒の燃料噴射弁などが接続されている。なお、このように単一のECU21で総合的に制御することなく、例えばECU21とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0034】
そして、ECU21は、アクセルセンサ27により検出されたアクセル開度θaccや車速センサ28により検出された車速Vなどの検出情報に基づき、運転者の要求トルクを車両加速時や定速走行時には正の値として、車両減速時には負の値として算出する。そして、求めた要求トルク、車両の走行状態、エンジン1及び電動機3の運転状態、或いはバッテリ5の残存容量(SOC:State Of Charge)などに基づき走行モード(エンジン単独走行、電動機単独走行、エンジン・電動機併用走行)を選択し、選択した走行モードに基づき要求トルクを達成すべくエンジン1や電動機3を運転すると共に、適宜変速機2の変速制御を実行する。
【0035】
例えば、バッテリ5のSOCが極端に低下して正常な電動機3の作動が望めないとき(低SOC状態)には、走行モードとしてエンジン単独走行を選択する。
エンジン単独走行では、インナクラッチC1またはアウタクラッチC2の何れか一方を接続することにより、対応する側の歯車機構G1,G2の何れかの変速段を介してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達して車両を走行させる。また、このときエンジン1に更に余裕がある場合は 電動機3をジェネレータとして作動させて発電電力をバッテリ5に充電すると共に、車両減速時には電動機3からの回生電力をバッテリ5に充電してSOCの回復を図る。
【0036】
変速制御は所定のシフトマップから求めた目標変速段に基づき実行されるが、この目標変速段への変速に先だって車両の加減速などから予測した次変速段への切換が行われる(以下、この操作をプレシフトと称する)。例えば車両加速時には、まず動力伝達中の現変速段に隣接する高ギヤ側の変速段が次変速段として予測され、この次変速段へのプレシフト要求に基づき、動力伝達を中断している歯車機構G1,又はG2が予め次変速段に切り換えられる。
【0037】
その後、車両加速に伴って上昇中の車速Vが上記シフトマップ上の次変速段へのシフトアップ線を横切ると、目標変速段を現変速段から次変速段に変更した上で、クラッチC1,C2の断接状態を逆転させることにより目標変速段を達成する。このように事前のプレシフトにより次変速段への切換を完了しておくことで、クラッチC1,C2の断接状態を逆転させるだけで動力伝達を中断することなく変速が完了する。
また、このときのエンジン制御では、動力伝達中の変速段を考慮した上で、運転者の要求トルクからエンジン1が出力すべき駆動力を算出し、算出した駆動力に基づき燃料噴射量や燃料噴射時期を制御する。
【0038】
一方、バッテリ5のSOCが所定値未満でそれほど余裕がないとき(中SOC状態)、或いは要求トルクが所定値以上のときなどには、走行モードとしてエンジン・電動機併用走行を選択する。
エンジン・電動機併用走行ではエンジン単独走行と同様に、インナクラッチC1とアウタクラッチC2との何れか一方を接続してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達すると共に、同時に電動機3をモータとして作動させる。これにより、インナクラッチC1の接続時には、奇数歯車機構G1を介して伝達されるエンジン1の駆動力と偶数歯車機構G2を介して伝達される電動機3の駆動力とが合流した後に駆動輪14側に伝達され、またアウタクラッチC2の接続時には、エンジン1の駆動力及び電動機3の駆動力が共に偶数歯車機構G2を介して駆動輪14側に伝達される。
【0039】
詳細は説明しないが、この場合にも変速段へのプレシフトを実行した後にシフトマップに基づき目標変速段への変速が行われる。また、この場合には、エンジン1及び電動機3の駆動力により運転者の要求トルクが達成されることから、要求トルクをエンジン1側と電動機3側とに割り振り、個々の要求トルクに基づき変速段を考慮してそれぞれが出力すべき駆動力を算出してエンジン制御や電動機3の制御を実行する。
【0040】
一方、例えばバッテリ5のSOCが所定値以上で余裕が大であり(高SOC状態)、且つ運転者の要求トルクが所定値未満のときには、走行モードとして電動機単独走行を選択する。
電動機単独走行ではインナクラッチC1及びアウタクラッチC2を共に切断し、電動機3をモータとして作動させる。これにより、電動機3の駆動力が偶数歯車機構G2の何れかの変速段を介して駆動輪14側に伝達される。なお、このときエンジン1はアイドル運転に保持する。但し、これに限ることはなく、電動機単独走行中にエンジン1を一時的に停止させてもよい。
【0041】
そして、このように電動機単独走行では奇数歯車機構G1の変速段を介した走行が不可能であることから、シフトマップ上の奇数変速段の領域は偶数変速段により代替し、この代替した偶数変速段を介した動力伝達により奇数変速段のときと同様の要求トルクを達成する必要がある。そこで、シフトマップ上の第1速が動力伝達すべき領域(シフトマップより第1速が設定される要求トルク及び車速Vの領域)については、第1速に代えて第2速を選択する。
また、第3速が動力伝達すべき領域については所定の切換ポイントを境界として低速ギヤ側と高速ギヤ側に2分した上で、低速ギヤ側の領域では第3速に代えて第2速を選択し、高速ギヤ側の領域では第3速に代えて第4速を選択する。同様に第5速が動力伝達すべき領域についても所定の切換ポイントを境界として低速ギヤ側の領域では第5速に代えて第4速を選択し、高速ギヤ側の領域では第5速に代えて第6速を選択する。なお、切換ポイントは領域内の中央に設定してもよいし、低ギヤ側或いは高ギヤ側にオフセットした位置に設定してもよい。
【0042】
結果として電動機単独走行では、各奇数変速段の切換ポイントにおいて低速ギヤ側の偶数変速段と高速ギヤ側の偶数変速段との間で切換が行われることにより、シフトアップ時には第2速、第4速、第6速の順に、シフトダウン時には第6速、第4速、第2速の順に変速段が切り換られる。
そして、シフトマップ上の奇数変速段の領域では、このときに達成されるべき要求トルクを偶数変速段で達成すべく電動機3の駆動力が制御される。具体的には、各奇数変速段の領域において低速ギヤ側の偶数変速段が選択されているときには電動機3の駆動力を減少方向に制御し、高速ギヤ側の偶数変速段が選択されているときには電動機3の駆動力を増加方向に制御している。
【0043】
ところで、以上のように制御される電動機単独走行において、シフトマップに基づき偶数歯車機構G2を次変速段に切り換えるには、同期装置を利用したギヤ入れ操作やギヤ抜き操作を実行するため偶数歯車機構G2の動力伝達を中断する必要があり、このために電動機3の駆動力を一旦0まで減少させると、変速完了により電動機3の作動が再開されるまでの間に駆動力の瞬断が生じてしまう。
その対策として本実施形態では、偶数歯車機構G2のシフトアップ中にインナクラッチC1を接続し、中断されている電動機3の駆動力に代えて奇数歯車機構G1を介してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達することにより駆動力の瞬断を防止する、いわゆるトルク補償制御を実行している。
【0044】
なお、車両減速中には駆動力の瞬断が発生したとしても運転者に違和感を与えないため、シフトダウンではトルク補償制御を実行しない 。但し、シフトアップ時に加えてシフトダウン時にも同様のトルク補償制御を実行するようにしてもよい。
そして、このような偶数歯車機構G2の変速は、上記した通常の変速時のプレシフトとは目的が相違するものの、奇数歯車機構G1を介した動力伝達中に予め偶数歯車機構G2を次変速段に切り換える点で動作順序は同様である。そこで、トルク補償制御の際に偶数歯車機構G2で実行される変速操作についても、以降の説明ではプレシフトと称する。
【0045】
また、電動機単独走行において、奇数歯車機構G1は何れの変速段にあっても走行への影響はないが、本来電動機3が発生すべき駆動力をエンジン1の駆動力により補償するトルク補償制御の趣旨を鑑みて、プレシフト前後の変速段の間の変速段を奇数歯車機構G1で選択している。例えば第2速から第4速へのプレシフト時には奇数歯車機構G1で第3速を選択し、第4速と第6速へのプレシフト時には奇数歯車機構G1で第5速を選択している。
一方、電動機単独走行を継続したことによりバッテリ5のSOCが低下したとき、或いはアクセル踏込みに伴って電動機3の発生トルクでは要求トルクを達成できなくなったとき、ECU21は電動機単独走行を継続不能と見なして走行モードをエンジン・電動機併用走行に切り換える。
【0046】
このような電動機単独走行からエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換(以下、単に「走行モードの切換」と称する場合もある)時においても、インナクラッチC1を接続して奇数歯車機構G1を介してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達する操作が行われる。
そして、上記したように電動機単独走行時のエンジン1はアイドル運転中であるため、偶数歯車機構G2のプレシフト、及びSOC低下などに起因する走行モードの切換に際してインナクラッチC1を接続するには、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、エンジン1を吹き上がらせたりエンジン駆動力を増加したりする制御が必要となり、燃料消費を増大させるという問題が生じる。
【0047】
そこで、本実施形態では、電動機単独走行中にプレシフト要求があり、その後にSOC低下などで走行モードの切換要求があった場合に、これらの処理を同時に実行することにより燃料消費が増大する機会を低減する対策を講じており、以下、当該対策のためにECU21が実行する処理を詳述する。
図2はECU21が実行するプレシフト・走行モード制御ルーチンを示すフローチャート、図3はプレシフト・走行モード制御ルーチンに基づきエンジン1、電動機3、クラッチC1,C2及び歯車機構G1,G2が切り換えられたときの動作順序を示す模式図である。なお、図3では上段から下段の順に動作が行われており、動力伝達中の経路を太線で示すと共に、各歯車機構で選択されている変速段に丸印を付している。本実施形態では、図2のルーチンを実行するときのECU21が第1の制御手段として機能する。
【0048】
まず、ステップS2で電動機単独走行であるか否かを判定し、判定がNo(否定)のときには一旦ルーチンを終了する。また、電動機単独走行であるとしてステップS2でYes(肯定)の判定を下したときには、ステップS4に移行する。図3の上段に示すように、電動機単独走行ではインナクラッチC1及びアウタクラッチC2が共に切断され、例えば偶数歯車機構G2では第2速が選択され、この第2速を介して電動機3の駆動力が駆動輪14側に伝達されることにより、運転者の要求トルクを達成しながら車両が走行している。
上記のように第2速は奇数変速段である第3速の領域中の切換ポイントより低速ギヤ側でも選択され、当該領域では、第3速相当の要求トルクを達成するように電動機3の駆動力が制御されている。なお、電動機単独走行中のエンジン1はアイドル運転に保持され、また、奇数歯車機構G1では第3速が選択されている。
【0049】
ステップS4では偶数歯車機構G2に対してシフトアップ側のプレシフトが要求されたか否かを判定し、判定がNoのときにはルーチンを終了する。シフトアップ側のプレシフト要求(第2速から第4速、或いは第4速から第6速の何れかであるが、以下、第2速から第4速の場合を例示する)によりステップS4の判定がYesになると、ステップS6でSOC低下などに起因して電動機単独走行からエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換が要求されたか否かを判定し、Noの間はステップS6の処理を繰り返して待機する。
そして、走行モードの切換要求によりステップS6の判定がYesになると、ステップS8でインナクラッチC1を接続する。このときのクラッチ接続は、エンジン1を吹き上がらせてクラッチ入出力の回転を同期させながら行われる。続くステップS10では、電動機3の駆動力を要求トルクから0まで次第に低下させると共に、エンジン1の駆動力を0から要求トルクまで増加させる処理を行う。
【0050】
以上の処理によりトルク補償制御が行われ、図3の中段に示すように、中断されている電動機3の駆動力に代えて奇数歯車機構G1を介してエンジン1の駆動力が駆動輪14側に伝達されることにより駆動力の瞬断が防止される。
ステップS12では偶数歯車機構G2で第2速から第4速へのプレシフトを実行し、プレシフトが完了するとステップS14に移行して、電動機3の駆動力とエンジン1の駆動力とを所定比率、例えばそれぞれ50%に割り振って調整する。これにより図3の下段に示すように、電動機3の駆動力がプレシフト後の第4速を介して駆動輪14側に伝達されるようになり、エンジン・電動機併用走行が開始される。
【0051】
ここで、走行モードの切換要求までプレシフトを実行せずに待機するが、無制限に待機するものではない。即ち、走行モードの切換要求は、バッテリ5のSCO低下のみならず、電動機3の発生トルクでは要求トルクを達成不能になった場合も行われる。このため、プレシフトの実行が遅延されて電動機3の回転速度(=Nc2)が上昇すると、トルク曲線に従って電動機3の駆動力が次第に低下して要求トルクを達成不能となり、自ずとエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換要求がなされる。このため、プレシフトの実行及びその後の走行モードの切換が不適切なタイミングまで遅延されることが防止される。
【0052】
以上のように本実施形態では、電動機単独走行中に偶数歯車機構G2に対するプレシフト要求があり、その後にSOC低下などで走行モードの切換要求がある場合、プレシフト要求に応じたプレシフトの実行を走行モードの切換要求があるまで待機することにより、1回のインナクラッチC1の接続により偶数歯車機構G2のプレシフトと走行モードの切換とを同時に実行している。
このため、インナクラッチ接続時の回転同期のためのエンジン1の吹き上がり制御も1回実行するだけで済む。エンジン吹き上がり制御は燃料消費の増大や騒音発生の要因になるが、その回数を減少できることから燃料消費の増大及び騒音発生を抑制できるという優れた効果が得られる。
【0053】
ところで、上記のように待機中のプレシフトは、要求トルクを達成不能と判断した走行モードの切換要求に基づき自ずと実行されるが、より確実な対策を実施することもできる。
例えば、プレシフトの待機中にアウタクラッチ回転速度Nc2を監視し、第2速から第4速へのプレシフト時であれば、シフトマップ上の第4速へのシフトアップ線を上限として予め設定された第2の判定値Nbにアウタクラッチ回転速度Nc2が達したときに、強制的に走行モードの切換要求を行うようにしてもよい。
このように構成すれば、プレシフトの実行及びその後の走行モードの切換が過剰に遅延されたときの不具合、例えばシフトアップの遅延や電動機単独走行の継続により、アクセル操作に応じた要求トルクを達成不能に陥るなどの不具合を確実に防止することができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、本発明を別のハイブリッド電気自動車の変速制御装置に具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の変速制御装置の全体構成は図1に示す第1実施形態と同様である。相違点は、第1実施形態では電動機単独走行中にプレシフト要求があり、その後に走行モードの切換要求があった場合を想定したのに対し、本実施形態では電動機単独走行中に走行モードの切換要求があり、その後にプレシフト要求があった場合を想定した対策を実施することにある。
このため、本実施形態のECU21は、第1実施形態で述べた図2のフローチャートに代えて図4のフローチャートを実行している。なお、この図4のプレシフト・走行モード制御ルーチンに基づく動作順序は、第1実施形態で用いた図3のものと相違ないため、同図に従って説明する。本実施形態では、図4のルーチンを実行するときのECU21が第2の制御手段として機能する。
【0055】
まず、ステップS22で電動機単独走行であるか否かを判定し、判定がNoのときにはルーチンを終了し、判定がYesのときにはステップS24に移行する。このときの車両は、図3の上段に示すように、偶数歯車機構G2の第2速を介して電動機3の駆動力を駆動輪14側に伝達しながら電動機単独走行を行っている。
ステップS24ではSOC低下などに起因して電動機単独走行からエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換が要求されたか否かを判定し、Noのときにはルーチンを終了する。走行モードの切換要求がなされてステップS24の判定がYesになると、ステップS26でアウタクラッチ回転速度センサ24により検出されたクラッチ回転速度Nc2が予め設定された第1の判定値Na以上であるか否かを判定する。
【0056】
以下に述べるように本実施形態では、本来は走行モードの切換よりも遅れて実行されるはずの偶数歯車機構G2のプレシフトタイミング(以下、第2速から第4速の場合を例示する)を走行モードの切換タイミングまで早めている。このため、プレシフトタイミングを過剰に早めた場合には、電動機3の回転速度が十分に上昇せずにシフトアップが行われ、シフトアップ後の電動機3の回転速度が有効トルク域を下回ることにより失速感を運転者に与えてしまう。そこで、第1の判定値Naは、第2速から第4速へのシフトアップ後の電動機3の回転低下が許容できる程度の値として設定されている。
ステップS26の判定がNoのときにはルーチンを終了し、車両加速と共にクラッチ回転速度Nc2が上昇してステップS26の判定がYesになるとステップS28に移行する。ステップS28ではエンジン1を吹き上がらせてクラッチ入出力の回転を同期させながら、インナクラッチC1を接続する。
【0057】
続くステップS30では、電動機3の駆動力を要求トルクから0まで次第に低下させると共に、エンジン1の駆動力を0から要求トルクまで増加させる処理を行う。以上の処理によりトルク補償制御が行われ、図3の中段に示すように、中断されている電動機3の駆動力に代えて奇数歯車機構G1を介してエンジン1の駆動力が駆動輪14側に伝達されることにより駆動力の瞬断が防止される。
その後、ステップS32では偶数歯車機構G2で第2速から第4速へのプレシフトを実行し、プレシフトが完了するとステップS34に移行して、電動機3の駆動力とエンジン1の駆動力とを例えばそれぞれ50%に割り振って調整する。これにより図3の下段に示すように、電動機3の駆動力がプレシフト後の第4速を介して駆動輪14側に伝達されるようになり、エンジン・電動機併用走行が開始される。
【0058】
以上のように本実施形態では、電動機単独走行中に走行モードの切換要求があり、その後にプレシフト要求がある場合、クラッチ回転速度Nc2が第1の判定値Na未満で支障なくシフトアップ可能なときには、プレシフト要求に応じたプレシフトの実行を走行モードの切換要求まで早めることにより、1回のインナクラッチC1の接続により走行モードの切換と偶数歯車機構G2のプレシフトとを同時に実行している。
このため、インナクラッチ接続時の回転同期のためのエンジン1の吹き上がり制御も1回実行するだけで済み、このエンジン吹き上がり制御に起因する燃料消費の増大及び騒音発生を抑制することができる。
【0059】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、前進6段の変速機3として具体化したが、変速段の数はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
また、奇数歯車機構G1や偶数歯車機構G2を構成する変速段や、各変速段の配列、並びに各変速段における変速段の切換機構など、変速機3の構成についても、上記実施形態のものに限定されるものではなく、ハイブリッド電気自動車に求められる運転性能や商品性などに応じて変更することが可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2を内外2重に配設したが、これに限ることはなく、両クラッチC1,C2を併設するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、第1クラッチの接続要求として、電動機単独走行からエンジン・電動機併用走行への走行モードの切換要求を想定したが、これに限ることはなく、例えば、電動機単独走行からエンジン単独走行への走行モードの切換要求としてもよい。
また、上記第1実施形態で述べた図2のルーチン及び第2実施形態で述べた図3のルーチンを共に実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン
2 変速機
3 電動機
21 ECU(第1の制御手段、第2の制御手段)
G1 奇数歯車機構(第1変速機構)
G2 偶数歯車機構(第2変速機構)
C1 インナクラッチ(第1クラッチ)
C2 アウタクラッチ(第2クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機とがクラッチを介して接続され、該エンジン及び電動機の駆動力が変速機を介して駆動輪に伝達されるハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、
上記変速機は、
第1クラッチを介して上記エンジンと接続され、該第1クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力を複数の変速段に変速して上記駆動輪に出力する第1変速機構と、
第2クラッチを介して上記エンジンと接続されると共に、該第2クラッチの出力側に電動機が配設され、該第2クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力、及び上記電動機の駆動力を複数の変速段に変速して上記駆動輪に出力する第2変速機構とを備えており、
上記第1クラッチ及び第2クラッチを切断した状態で、上記第2変速機構の何れかの変速段によって運転者の要求トルクに応じた上記電動機の駆動力のみで走行中において、上記第2変速機構の変速段を別の変速段にプレシフトする要求があったとき、上記第1クラッチの接続要求があるまで待機し、上記第1クラッチの接続要求があると該第1クラッチを接続し、上記電動機の駆動力を0にしていくと共に上記エンジンの駆動力を上記要求トルクまで増加させて、上記第2変速機構に対するプレシフトを実行する第1の制御手段を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
【請求項2】
エンジンと電動機とがクラッチを介して接続され、該エンジン及び電動機の駆動力が変速機を介して駆動輪に伝達されるハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、
上記変速機は、
第1クラッチを介して上記エンジンと接続され、該第1クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力を複数の変速段に変速して上記駆動輪に出力する第1変速機構と、
第2クラッチを介して上記エンジンと接続されると共に、該第2クラッチの出力側に電動機が配設され、該第2クラッチを介して伝達されるエンジンの駆動力、及び上記電動機の駆動力を複数の変速段に変速して上記駆動輪に出力する第2変速機構とを備えており、
上記第1クラッチ及び第2クラッチを切断した状態で、上記第2変速機構の所定の変速段によって運転者の要求トルクに応じた上記電動機の駆動力のみで走行中において、上記第1クラッチの接続要求があったとき、上記第2変速機構の変速段を所定の変速段にプレシフトする要求がない場合であっても、上記電動機の回転速度が予め設定された第1の判定値以上であることを条件として上記第1クラッチを接続し、上記電動機の駆動力を0にしていくと共に上記エンジンの駆動力を上記要求トルクまで増加させて、上記第2変速機構の変速段をプレシフトする第2の制御手段を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
【請求項3】
上記第1の制御手段は、上記プレシフト要求後の待機中において、上記プレシフト後の所定変速段へのシフトアップ線を上限として予め設定された第2の判定値に上記電動機の回転速度が達したときに、上記第1クラッチの接続要求があったものと見なすことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−116350(P2012−116350A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268418(P2010−268418)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】