説明

ブレーキ装置

【課題】電子制御によるブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置において、電子制御不能時にもブレーキペダルの操作により的確に制動力を生じさせることができるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】マスタシリンダに対する軸芯方向の位置に応じてマスタシリンダに液圧を発生させる出力ピストン43と、出力ピストン43と同軸芯状に設けられ、出力ピストン43に対して軸芯方向に相対移動可能であり、ブレーキペダルの変位に連動する入力ロッド44と、入力ロッド44と出力ピストン43との間に設けられ、モータMの駆動力により入力ロッド44と出力ピストン43との係合を離脱するクラッチ機構60とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両用のブレーキ装置に関し、特に電子制御によるブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車両用ブレーキ装置として特許文献1の技術が知られている。この特許文献1の技術では、正逆転自在なモータと、モータに連動するナットの回動を、回動が規制されるボルトの軸方向への直動に変換するボールねじ直動機構と、ボルトを押動可能にボルト後端に連係するブレーキ操作子と、車輪ブレーキが接続される液圧室に前端を臨ませるマスタピストン後端にボルト前端が連係されるマスタシリンダとを備えている。また、ナットは、軸方向に進退動可能にされかつ回動自在にハウジングに後退限が規制されるとともに、ブレーキ操作子に連結される入力伝達部材とナットとの相対距離を、ブレーキ操作子の入力に対応して短縮可能なストロークシミュレータを備えている。ナットの進出時には前記ストロークシミュレータに具備する弾性部材がナットに連なって進出可能にするとともに、入力伝達部材の推力をボルトに伝達可能にして、ストロークシミュレータに消費されるブレーキ操作子のストロークと入力とを規制可能な構成としている。
【0003】
特許文献1の技術では、上述のような構成により、モータが作動している場合にはブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置として機能し、モータの故障等によりモータが作動していない場合には、ブレーキ操作子の推力を直接マスタピストンに伝達することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4088802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、モータが作動している場合にはモータの回転力によりナットが後退限に押し付けられ、その力が入力伝達部材からの押動力に打ち勝つように構成されている。そのため、回生制御等の場合にモータのトルクを弱めると、ナットを後退限に押し付ける力が弱まり、入力伝達部材からの押動力がマスタピストンに伝達されるおそれがある。この場合には、マスタピストンへの伝達力が入力伝達部材からの押動力以下に抑えることができず、十分な回生制御を行うことができない。
【0006】
また、緊急のブレーキ操作等の場合には、ブレーキペダルの踏み込みからモータの作動までにタイムラグが生じるおそれがある。この場合には、モータが作動するまでは入力伝達部材は、ボルト後端部との隙間を詰めた後に直接ボルトを押動し、マスタシリンダに圧力を生じさせている。その後、モータが作動するとナットが後退限に押し付けられ、ボルトと入力伝達部材とが離れるのに伴いブレーキペダルへの反力がマスタシリンダ反力からストロークシミュレータの反力に切り換る。したがって、モータの作動時点において、ブレーキペダルに与えられる反力の大きさが不連続となり、運転者に違和感が生じる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子制御によるブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置において、電子制御不能時にもブレーキペダルの操作により的確に制動力を生じさせることができるブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダルの変位に連動する入力部材と、前記入力部材とは相対移動可能に個別に設けられ、マスタシリンダに液圧を発生可能な出力部材と、前記マスタシリンダに発生した液圧により車輪に制動力を付与する制動機構と、前記出力部材を前記入力部材と独立して駆動可能な駆動手段と、前記入力部材と前記出力部材との間に設けられ、前記駆動手段により前記出力部材が駆動されないときに前記入力部材と前記出力部材とが一体移動可能となるように前記入力部材と前記出力部材とを係合し、前記駆動手段により前記出力部材が駆動されるときに前記入力部材と前記出力部材との係合を離脱するクラッチ機構と、を備えている。
【0009】
この構成では、駆動手段により出力部材が駆動される場合には、クラッチ機構により入力部材と出力部材との係合が離脱され、入力部材と出力部材とは相対移動可能となる。一方、駆動手段により出力部材が駆動されない場合には、クラッチ機構の係合により、入力部材と出力部材とが一体移動可能となる。したがって、駆動手段が正常に動作する場合には、入力部材の変位とは独立して駆動手段により出力部材が駆動可能(すなわち、バイワイヤ制御が可能)になり、入力部材からの押動力がマスタシリンダに伝達されず、回生制御を十分に行うことができる。また、ブレーキペダルの操作に関係なく出力部材を駆動すること(すわなち、自動ブレーキ制御)も可能となる。駆動手段が故障等により作動しない、または、緊急ブレーキ等で駆動手段の作動が間に合わず、瞬間的に作動しない場合でも、ブレーキペダルに連動する入力部材とクラッチ機構により一体となった出力部材により、ブレーキペダルの変位に応じてマスタシリンダに液圧を発生させ、確実に車輪に制動力を付与することができる。
【0010】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記入力部材と前記出力部材とを収容するハウジングを備え、前記駆動手段は、モータと、前記ハウジング内に設けられ、前記モータの回転に応じて進退移動を規制されつつ回転する回転部材と、前記回転部材に係合し、前記回転部材の回転に応じて前記マスタシリンダに設けたマスタピストンの進退移動方向に引退移動可能に構成され、前記マスタピストンの進出方向への推力を前記出力部材に伝達する直動部材と、を備えている。
【0011】
この構成では、効率よくモータの回転力をマスタシリンダの進出方向への推力に変換し、出力部材に伝達することができる。
【0012】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記クラッチ機構は、前記出力部材の内面に形成されたテーパー面と、前記テーパー面と前記入力部材の外面との間に介在する転動体と、前記転動体を前記テーパー面と前記入力部材の側面とに当接する方向に付勢する付勢体と、前記出力部材の側面に形成された開口部に挿通され、前記直動部材の側と前記入力部材の側とに突出し、前記直動部材の前記マスタピストンの側への移動に伴って、前記転動体を前記当接する方向とは反対方向に押圧するよう揺動可能なリンク部材と、を備えている。
【0013】
この構成では、ブレーキ操作により直動部材がマスタピストン側へ移動する際に、リンク部材の端部を押圧する。これにより、リンク部材が揺動し、押圧された端部と反対側の端部が転動体を当接する方向とは反対方向に押圧する。これにより、クラッチ機構が離脱し、入力部材と出力部材は相対移動可能となる。したがって、モータが作動する場合にはクラッチ機構は離脱し、モータが作動しない場合にはクラッチ係合するため、モータの作動と関係なく、的確に制動力を発生させることができる。
【0014】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記ブレーキペダルの操作力を前記入力部材へ伝達する伝動系に、前記ブレーキペダルの操作力に応じて当該ブレーキペダルに反力を与えるストロークシミュレータを備えている。この構成では、バイワイヤ制御が行われている際にも、運転者に適度な操作感を与えることができる。
【0015】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記直動部材は、前記モータの初期回転により微小回転可能であり、前記ストロークシミュレータは、前記ハウジングと係合する係合部と、前記直動部材とスラスト係合するスラスト係合部とを備え、前記係合部は、前記モータに電流が印加されない状態では前記ハウジングと係合せず、前記モータが駆動する際には、前記スラスト係合部を介して前記直動部材から受けた回転力により前記係合部が前記ハウジングと係合する。
【0016】
この構成では、モータが作動する場合には、直動部材の微小回転によりストロークシミュレータはハウジングと係合し、モータが作動しない場合にはストロークシミュレータはハウジングとは係合していない。そのため、モータが作動しない場合にはストロークシミュレータは入力部材と共に進出し、ブレーキペダルに反力を与えることはない。したがって、ブレーキペダルには、ブレーキバイワイヤ制御が行われている場合にはストロークシミュレータからの反力が、ブレーキバイワイヤ制御が行われていない場合には、マスタシリンダからの反力が伝達され、いずれの場合にも運転者には適度な操作感を与えることができる。
【0017】
また、このようなブレーキ装置では、ブレーキ操作が行われた直後にストロークシミュレータが移動するよりも、若干のタイムラグを有していることが望ましい。単にモータの作動にタイムラグが生じているだけの場合に、ブレーキ操作直後にストロークシミュレータがハウジングから離脱して入力部材と共に進出すると、モータが作動しブレーキバイワイヤ制御が行われると、ブレーキペダルには反力が与えられなくなり、運転者に違和感を生じさせることとなる。これを解決するために、本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記付勢体の両端部のうち前記転動体の側とは反対側の端部が、前記ストロークシミュレータの前記マスタシリンダの側の底部に当接している。
【0018】
この構成では、ストロークシミュレータのマスタシリンダ側の底部に付勢体の両端部のうち転動体とは反対側の端部が当接しているため、付勢体の付勢力がブレーキ操作直後のストロークシミュレータの移動を妨げている。これにより、ブレーキ操作から若干の間をおいてモータが作動しても、ストロークシミュレータはハウジングに係合し、ブレーキペダルに反力を与えることができる。
【0019】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記制御手段は、前記ブレーキペダルの非操作時に、前記クラッチ機構の係合を離脱するのに必要な電流を前記モータに印加する。この構成では、ブレーキ操作時のタイムラグを少なくすることができる。
【0020】
本発明のブレーキ装置の好適な実施形態の一つでは、前記ハウジングの側の内面に形成されたテーパー面と、前記テーパー面と前記ストロークシミュレータの外面との間に介在する転動体と、前記転動体を前記テーパー面と前記ストロークシミュレータの外面とに当接する方向に付勢する付勢体と、を有するとともに、前記直動部材の前記マスタピストンとは逆側への移動に伴って、前記転動体を前記当接する方向とは反対方向に押圧するようなクラッチ機構を備えている。
【0021】
この構成では、クラッチ機構により、直動部材の移動に伴ってストロークシミュレータとハウジングとの連結/切り離しを実現している。そのため、簡単な構造でありながらも、モータの駆動状態に応じたストロークシミュレータとハウジングとの連結/切り離しを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明におけるブレーキ装置の概略を表す図である。
【図2】非動作時における加圧機構の断面を表す図である。
【図3】ブレーキ操作時にモータが正常動作している場合の加圧機構の断面を表す図である。
【図4】ブレーキ操作時にモータが正常動作していない場合の加圧機構の断面を表す図である。
【図5】クラッチ機構の連結の状態を示す図である。
【図6】ストロークシミュレータとハウジングの係合の状態を示す図である。
【図7】実施例3の形態におけるブレーキ装置の加圧機構の断面を表す図である。
【図8】実施例4の形態におけるブレーキ装置の加圧機構の断面を表す図である。
【図9】ストロークシミュレータのクラッチ機構の連結の状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
本発明のブレーキ装置の第1の実施例を、図面を用いて説明する。本発明のブレーキ装置は、運転者が加えたブレーキペダルBPへの操作量を計測するブレーキ操作センサBS
、液圧により作動し車輪Wに制動力を加える制動機構C、制動機構Cに液圧を伝達する液圧回路10、液圧回路10内のブレーキオイルに液圧を生じさせるマスタシリンダ30、マスタシリンダ30にブレーキオイルを供給するマスタリザーバ32、ブレーキペダルBPの操作に応じてマスタシリンダ30に液圧を生じさせる加圧機構A、ブレーキ操作センサBSの計測結果に応じた電流を加圧機構Aに印加する制御手段Bを備えている。
【0024】
制動機構Cは、各々の車輪W(右前車輪WFR,左前車輪WFL,右後車輪WRR,左後車輪WRL)に備えられたホイールシリンダWC(WCFR,WCFL,WCRR,WCRL)と、各々のホイールシリンダWCの作動力により各々の車輪に摩擦力による制動力を生じさせるブレーキパッド(図示せず)から構成されている。
【0025】
マスタシリンダ30の内部には、進退移動可能にマスタピストン31が備えられており、その進退移動により液圧回路10のブレーキオイルに対する液圧を発生させている。本実施形態では、マスタシリンダ30はいわゆるタンデム型に構成されており、第1液圧室30aおよび第2液圧室30bを有している。マスタリザーバ32は2つの流路を有しており、それぞれの流路は第1液圧室30aおよび第2液圧室30bと連通されている。
【0026】
液圧回路10は、マスタシリンダ30と接続される第1液圧回路10aおよび第2液圧回路10bにより構成されている。第1液圧回路10aは、第1液圧室30aと、右後ホイールシリンダWCRRおよび左後ホイールシリンダWCRLとを連通している。第2液圧回路10bは、第2液圧室30bと、右前ホイールシリンダWCFRおよび左前ホイールシリンダWCFLとを連通している。
【0027】
第1液圧回路10aはさらに第1分岐路11aと第2分岐路15aとに分岐し、それぞれが右後ホイールシリンダWCRRと左後ホイールシリンダWCRLにそれぞれ接続されている。第1分岐路11aには、連通位置と遮断位置との2位置に切換可能で常開の第1常開制御弁12aを設けている。また、第1常開制御弁12aに対して並列する位置に、右後ホイールシリンダWCRRから加圧機構A側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する第1逆止弁14aを設けている。一方、第2分岐路15aにも第1分岐路11aと同様に、連通位置と遮断位置との2位置に切換可能で常開の第2常開制御弁16a、第2常開制御弁16aに対して並列する位置に、左後ホイールシリンダWCRLから加圧機構A側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する第2逆止弁18aを設けている
【0028】
第1分岐路11aの第1常開制御弁12aよりも右後ホイールシリンダWCRR側から分岐された流路部分と、第2分岐路15aの第2常開制御弁16aよりも左後ホイールシリンダWCRL側から分岐された流路部分とが合流し、第1分岐路11aと第2分岐路15aとの分岐点に接続する分岐合流路19aを設けている。また、分岐合流路19aの第1分岐路11aから分岐された部分には、連通位置と遮断位置とが切換可能で常閉の第1常閉制御弁13aを設けている。同様に、分岐合流路19aの第2分岐路15aから分岐された部分には、連通位置と遮断位置とが切換可能で常閉の第2常閉制御弁17aを設けている。分岐合流路19aにおける、第1常閉制御弁13aからの流路と、第2常閉制御弁17aとの合流点から、第1分岐路11aと第2分岐路15aとの分岐点までの流路には、第3逆止弁20a、液圧ポンプ21a、第4逆止弁22aを順に設けている。液圧ポンプ21aは、モータCMにより駆動され、ブレーキ液を吐出するように構成されている。また、分岐合流路19aにおける、第1常閉制御弁13aおよび第2常閉制御弁17aと第3逆止弁20aとの間にリザーバ23aを設けている。
【0029】
以上、液圧回路10における第1液圧回路10aの構成を説明したが、第1液圧回路10aと第2液圧回路10bとは同様の構成としている。したがって、第2液圧回路10bにも第1液圧回路10aと同様の部材を設けている。そのため、図面において第1液圧回路に設けた部材と同様の部材には、第1液圧回路10aにおける符号のうち「a」を「b」に置き換えたものを付しており、第2液圧回路の詳細な説明は省略する。以下、特に区別する必要があるときを除き、符号中の「a」または「b」を省略するものとする。
【0030】
モータCMは、第1液圧回路10aの液圧ポンプ21aと第2液圧回路10bの液圧ポンプ21bとを回転駆動するように構成している。
【0031】
また、第2液圧回路10bには、マスタシリンダ30の液圧を計測するマスタシリンダ液圧センサ24が設けられている。
【0032】
図1に示すように、本発明のブレーキ装置には、各種制御を行う制御手段Bが備えられている。制御手段Bは、マイクロコンピュータを中核部材とするECU(electronic control unit)、加圧機構Aに電流を印加するモータドライバMD等から構成されている。
また、EUCやモータドライバMDには電力を供給するバッテリBTが接続されている。制御手段Bは、後述するように車輪Wに加える制動力を制御する際に、モータM、液圧回路10の各種制御弁の制御等を行っている。また、本発明に係るブレーキ装置は、いわゆるブレーキバイワイヤ型に構成されたものであり、制御手段BはブレーキペダルBPの操作量を計測するブレーキ操作センサBSからの入力を受け、ブレーキペダルBPの操作量に対応する電流を加圧機構Aへ印加する。なお、本実施形態では、ブレーキペダルBPの操作量として、ブレーキペダルBPのストローク量、運転者のブレーキペダルBPへの踏力を用いる。そのため、ブレーキ操作センサBSは、ストロークセンサおよび踏力センサが用いられている。
【0033】
制御手段Bは、以下の制御により各々の車輪Wに加わる制動力の制御を行う。車輪Wに制動力を加える場合、すなわち、ホイールシリンダWCの圧力を増圧する場合には、第1常開制御弁12a等を連通位置とし、第1常閉制御弁13a等を遮断位置に切り替える。一方、車輪Wの制動力を弱める場合、すなわち、ホイールシリンダWCの圧力を減圧する場合には、第1常開制御弁12a等を遮断位置とし、第1常閉制御弁13a等を連通位置に切り替える。他方、車輪Wの制動力を保持する場合、すなわち、ホイールシリンダWCの圧力を保持する場合には、第1常開制御弁12a等と第1常閉制御弁13a等とを遮断位置に切り替える。
【0034】
図2は、本発明のブレーキ装置における加圧機構Aの構成を表す図である。加圧機構Aは、制御手段Bからの印加電流に応じて回転するモータM、モータMの回転軸と一体回転するよう構成されている小平歯車40、小平歯車40の歯と嵌合する歯を有し、小平歯車40の歯数よりも多い歯数を有する大平歯車41、大平歯車41と同一軸芯を有し、大平歯車41の内側に備えられ、大平歯車41の回転をマスタピストン31の進退方向の直動に変換する直動変換機構50、直動変換機構50の内部に挿入され、マスタピストン31の進退方向に移動可能な出力ピストン43(本発明の出力部材の例)、シャフト101を介してブレーキペダルBPと接続され、ブレーキペダルBPの操作量に応じてマスタピストン31の進退方向に移動可能な入力ロッド44(本発明の入力部材の例)、入力ロッド44の進退に応じてブレーキペダルBPに対して反力を与えるストロークシミュレータ70、直動変換機構50をマスタピストン31の後退方向に付勢する弾性部材46を備えている。なお、以下の説明では、ブレーキオイルを加圧する際のマスタピストン31の移動方向を進出、減圧する方向を後退と表現する。また、これらを合わせて進退と表現する。
【0035】
直動変換機構50は、大平歯車41の内側に同一軸芯を持つように挿通され、進退方向の移動を規制されつつ大平歯車41と一体回転する回転部材51、回転部材51の内側に同一軸芯を持つように挿通され、進退方向に移動可能な直動部材52とを備えている。大平歯車41と回転部材51とは、固定部材45により一体に固定され、大平歯車41の回転に伴い、回転部材51も一体回転する。また、大平歯車41は、スラストベアリング42を介してハウジング100に回転可能に固定されている。直動部材52は、ハウジング100の回転規制部100aと、スラスト移動可能で、スラスト係合部52aにより回転規制部100aに回転力を伝達するよう係合している。本発明では、このような係合をスラスト係合と称する。また、回転部材51の内壁と直動部材52の外壁とには、互いに螺合可能な溝が形成されている。そのため、回転部材51の回転に伴い、直動部材52は回転を開始する。しかし、スラスト係合部52aが回転規制部100aと当接するため、直動部材52は回転が規制され、進退方向に移動する。
【0036】
直動部材52の内部には、同一軸芯を持つ出力ピストン43が挿入されている。直動部材52の径方向内側には出力ピストン43に進出方向の推力を伝達する推力伝動部52cが、出力ピストン43の径方向外側には推力伝動部52cからの推力を受ける推力受動部43aが備えられている。図2に示すように、非動作時には、推力伝動部52cと推力受動部43aとの間には、進退移動方向において若干の隙間が設けられている。直動部材52が進出する際には、この隙間が詰まり、推力伝動部52cと推力受動部43aとが当接した後、直動部材52と出力ピストン43とが一体的に進出する。また、ハウジング100はマスタシリンダ30側に開口しており、この開口からマスタピストン31の端部が延出している。出力ピストン43が進出する際には、この延出したマスタピストン31の端部を押動することにより、マスタシリンダ30内のブレーキオイルが加圧され、その液圧が液圧回路10を介してホイールシリンダWCに伝達される。
【0037】
出力ピストン43は、マスタシリンダ30とは逆側の端部に開口する空洞部43bを有しており、その開口から入力ロッド44が挿入されている。図2に示すように、入力ロッド44のマスタシリンダ30側の端部44aと、出力ピストン43の空洞部43bの底面43cとは、所定の間隔があくように構成されている。通常のブレーキ操作時には、ブレーキペダルBPの踏み込み操作と共に、入力ロッド44がマスタシリンダ30側に進出するが、同時にモータMの働きにより出力ピストン43も進出する。そのため、入力ロッド44の端部44aが出力ピストン43の空洞部43bの底面43cを押動することがない。すなわち、ブレーキペダルBPの踏み込み操作は、直接マスタピストン31に伝達されるのではなく、ブレーキペダルBPの操作量に応じて印加された電流によりマスタピストン31に力が加えられる。また、入力ロッド44と出力ピストン43とは、後述するクラッチ機構60により連結/切り離しが切換可能となっている。このような構成によりブレーキバイワイヤが実現されている。
【0038】
ブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置では、モータMが正常作動している場合にはその機能を発揮することができるが、モータMの故障等によりモータMが作動しない場合には機能を発揮することができない。そのため、モータMが作動しない場合には、ブレーキペダルBPの踏み込み操作を直接出力ピストン43に伝達する必要がある。そのため、本発明のブレーキ装置は、以下のクラッチ機構60を備えている。
【0039】
クラッチ機構60は、モータMの駆動状態により、入力ロッド44と出力ピストン43との連結/切り離しを行う。図2および図5に示すように、出力ピストン43の側面には、空洞部43bから直動部材52の内壁面側に貫通する開口部43dが設けられ、クラッチ機構60は、出力ピストン43の空洞部43bの内壁面に形成されたテーパー面43e、テーパー面43eと入力ロッド44の外側面との間に介在する転動体61、転動体61をテーパー面43eと入力ロッド44の外側面とに当接する方向に付勢する付勢体62、開口部43dに挿通され、出力ピストン43の側壁面により支持され、直動部材52側と入力ロッド44側に突出し、進退方向に揺動可能なリンク部材63、転動体61を保持すると共にリンク部材63の入力ロッド44側の端部を嵌合する凹部を備えた固定部材64、直動部材52に設けられ、直動部材52が進出する際に、リンク部材63を進出方向に押圧する突出部52bにより構成されている。また、付勢体62のストロークシミュレータ70側の端部62aは、ストロークシミュレータ70の第1ケーシング71の底面71aに固定されている。なお、転動体61、リンク部材63は周方向に数個備えられており、突出部52bおよび固定部材64は、その数に適合するように構成されている。
【0040】
このような構成により、クラッチ機構60は、モータMが作動している場合には入力ロッド44と出力ピストン43とを切り離し、モータMが作動していない場合には入力ロッド44と出力ピストン43とを結合し、一体的に進出可能にしている。これにより、モータMが作動している場合にはブレーキバイワイヤの機能を発揮し、モータMが作動しない場合にはブレーキペダルBPへの踏力を直接マスタシリンダ30に伝達することができる。なお、クラッチ機構60の動作の詳細は後述する。
【0041】
上述のようなブレーキバイワイヤ型に構成されたブレーキ装置では、ブレーキペダルBPを踏み込んでもマスタピストン31からの反力がなく、運転者に違和感を生じさせる。通常、ブレーキバイワイヤ型のブレーキシステムでは、この違和感を解消するためにストロークシミュレータを用いている。ストロークシミュレータは、ブレーキペダルBPのストロークに応じた反力を発生させ、運転者にブレーキ操作の感触を与えるものである。
【0042】
本発明のストロークシミュレータ70は、図2に示すように2層構造を有している。外側の第1ケーシング71の内壁面に沿うように第1弾性部材72が設けられており、底面71aには入力ロッド44を挿通する孔が形成されている。第1弾性部材72の一の端部は、第1ケーシング71の底面71aの内側に当接している。また、内側の第2ケーシング73は、入力ロッド44とシャフト101とを連結する連結部材75を挿通する孔が底面73aに形成され、第1弾性部材72の他の端部が当接する顎部73bが設けられている。第2ケーシング73に挿通された連結部材75は、入力ロッド44にねじ止めされ、シャフト101の進出する推力を入力ロッド44に伝達している。また、第2ケーシング73の内側には、一の端部が第2ケーシング73の底面73aの内側に当接し、他の端部が連結部材75の顎部75aに当接する第2弾性部材74を備えている。
【0043】
なお、本実施形態では、第1弾性部材72および第2弾性部材74はコイルバネを用い、第2弾性部材74のバネ定数は第1弾性部材72のバネ定数よりも小さく設定している。これにより、ブレーキペダルBPの踏み込み当初には第2弾性部材74により小さな反力を生じ、その後第1弾性部材72により大きな反力を生じることとなる。これにより、従来のディスクブレーキと同様の反力を生じることができ、運転者に違和感を生じさせることを回避することができる。
【0044】
上述したように、ストロークシミュレータ70はブレーキバイワイヤ型のブレーキシステムにおいて、運転者に対してブレーキペダルBPの操作に対する反力を与えるためのものである。したがって、ストロークシミュレータ70が生じさせる反力は、ブレーキバイワイヤとしての機能が正常に動作している場合には必要である。しかし、本発明のブレーキ装置では、モータMが駆動しない場合には、後述するようにブレーキペダルBPの踏力が直接マスタピストン31に伝達されるため、その反力がブレーキペダルBPに伝達される。このとき、ストロークシミュレータ70が反力を生じると、運転者は通常の2倍程度の踏力を必要とされる。このような問題を解決するために、本発明のブレーキ装置では、モータMが作動しない場合に、ストロークシミュレータ70がハウジング100から切り離されるよう、下記の構成としている。
【0045】
図6は、加圧機構Aの軸芯方向視における断面図である。図2に示すように、第1ケーシング71は、径方向外側に突出する係合部71cを有している。また、第1ケーシング71に対して付勢力を与えるトーションバネ76が備えられている。図6(a)および(b)の右の図は、係合部71cを通る断面からみた断面図であり、左の図はトーションバネ76を通る断面からみた断面図である。図6に示すように、ハウジング100は、係合部71cと係合することにより第1ケーシング71を進出方向への移動を規制するように係止する係止部100bを備えている。また、図2に示すように、第1ケーシング71は、直動部材52に設けられた回転力伝動部52dと当接し直動部材52からの回転力を受けるスラスト係合部71bを備え、直動部材52とスラスト係合している。
【0046】
図6(a)はモータMが作動していない状態である。このとき、第1ケーシング71はトーションバネ76により図面における反時計方向への付勢力を与えられており、この状態では係合部71cと係止部100bとは係合していない。そのため、第1ケーシング71、すなわちストロークシミュレータ70は進出方向に移動可能となっている。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれ、モータMが作動しない場合には、ストロークシミュレータ70は反力を生じることなく入力ロッド44と共に進出する。このとき、上述のようにクラッチ機構60により入力ロッド44は出力ピストン43と結合されているため、出力ピストン43が進出し、マスタピストン31の端部を押動する。したがって、ブレーキペダルBPにはマスタピストン31による反力のみが伝達される。
【0047】
一方、モータMが駆動されると、回転部材51の回転に伴い直動部材52も回転を始める。図6(b)に示すように、直動部材52が回転するとスラスト係合部52aが回転規制部100aに当接し、直動部材52の回転が規制される。このとき、直動部材52の回転が回転力伝動部52dからスラスト係合部71bを介して第1ケーシング71に伝達され、その回転力がトーションバネ76の付勢力に打ち勝ち、第1ケーシング71が回転する。この回転により、係合部71cと係止部100bとが係合し、第1ケーシング71の進出が規制される。このとき、上述のようにクラッチ機構60により入力ロッド44と出力ピストン43とは切り離され、これらは独立して移動可能になっているため、入力ロッド44は出力ピストン43からの反力は受けない。したがって、ブレーキペダルBPにはストロークシミュレータ70からの反力のみが伝達される。
【0048】
このように、本発明のブレーキ装置では、ストロークシミュレータ70は、モータMの作動時にはハウジング100に固定され、非作動時にはハウジング100から切り離される。すなわち、ストロークシミュレータ70は、モータMが作動している場合には反力を発生し、モータMが作動していない場合には反力を生じなくしている。これにより、モータMが作動しない場合には、ストロークシミュレータ70の反力による操作力のロスが回避される。
【0049】
ブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置では、ブレーキペダルBPが踏み込まれていない場合にも、モータMに電流を印加し続けることで制動力を維持することができる。しかしながら、このような制御は電流消費の面からは好ましくない。そのため、本発明のブレーキ装置では、モータMに印加する電流を止めた際にも制動力を保持するために、モータMの逆回転を規制するラチェット102を備えている。ラチェット102は、モータMの回転軸と同一軸芯を持ち、一体回転する歯車102aと、歯車102aの溝に嵌合し歯車102aがモータMの逆回転方向に回転するのを規制する爪102bとから構成されている。また、爪102bは、モータMの回転軸芯と同じ方向の軸芯を持つ揺動軸に揺動可能に支持されおり、一端が歯車102aの溝と嵌合し、他端がソレノイド103に接続されている。ソレノイド103は、制御手段Bからの電流により可動芯を進退移動させる。制御手段Bは、制動力を保持したい場合にはソレノイド103に電流を印加し、それよりソレノイド103の可動芯が進出する。これに伴い、爪102bが揺動し、歯車102aの溝に嵌合する。これにより、歯車102aの逆回転が規制されると共に、モータMの回転軸も逆回転が規制される。したがって、モータMの回転が停止した際には、マスタシリンダ30の液圧により減圧方向の力が生じるが、ラチェット102により減圧方向の力を受け止めることができ、マスタシリンダ30の液圧を保持することができる。
【0050】
〔モータが正常作動する場合の動作〕
以下に、モータMが正常作動する場合における本発明のブレーキ装置の動作を説明する。図3は、運転者がブレーキペダルBPを操作した際の加圧機構Aの断面図である。
【0051】
まず、運転者によりブレーキペダルBPが踏み込み操作されると、ブレーキ操作センサBSにより、ストローク量および/または踏力が測定される。測定された測定値は、ブレーキ操作センサBSからECUに送信される。測定値を取得したECUは、測定値に応じた制動力を生じさせるために、モータドライバMDに対して測定値に応じた電流を加圧機構Aに印加するよう制御を行う。このとき、ブレーキ操作量と印加すべき電流/電圧の大きさを予め保持しておけば、演算等を行うことなく電流量等を決定できるため好適である。
【0052】
モータドライバMDから電流が印加された加圧機構AのモータMは、印加された電流に応じて回転する。上述したように、小平歯車40はモータMの回転軸と一体回転するため、小平歯車40はモータMの回転量と同じだけ回転する。このとき、小平歯車40の歯と嵌合する歯を有する大平歯車41も、小平歯車40の回転に伴い回転する。上述したように、小平歯車40の歯数よりも大平歯車41の歯数の方が多いため、これらは減速機構として機能する。
【0053】
また、上述したように、回転部材51は大平歯車41と一体回転し、マスタピストン31の進退移動方向への移動が規制されるように構成されている。そのため、回転部材51は大平歯車41と同じだけ回転する。さらに、回転部材51の内壁面に形成された溝と直動部材52の外側面に形成された溝とが螺合しているため、回転部材51の回転に伴い直動部材52も回転を始める。直動部材52がわずかに回転すると、直動部材52のスラスト係合部52aが、ハウジング100の回転規制部100aに当接し、直動部材52の回転が規制される。このとき、上述したようにストロークシミュレータ70の第1ケーシング71も回転し、第1ケーシング71はハウジング100に係止される。これにより、ストロークシミュレータ70は、運転者のブレーキペダルBPの踏み込みに対する反力を発生させることができる。その後、直動部材52は回転部材51の回転に伴い弾性部材46を圧縮しつつ進出する。
【0054】
直動部材52が進出を始めると、直動部材52の推力伝動部52cと出力ピストン43の推力受動部43aとの間にあった隙間が埋められる。出力ピストン43はその後、推力伝動部52cおよび推力受動部43aを介して直動部材52の進出する推力を受け、直動部材52と共に進出する。
【0055】
このとき、出力ピストン43の端部が加圧機構Aに延出しているマスタピストン31の端部を押動する。これにより、液圧回路10内の液圧を増圧し、ホイールシリンダWCはその液圧により車輪Wに制動力を加える。
【0056】
また、このときのクラッチ機構60の動きを図5(b)に示す。直動部材52が進出を始めた際に、直動部材52に設けられた突出部52bがリンク部材63の直動部材52側に突出している端部を進出方向に押圧する。これにより、リンク部材63の押圧された端部と逆側の端部が後退方向に揺動する。このリンク部材63の揺動により、付勢体62の付勢力に打ち勝って転動体61がテーパー面43eから離間する。これにより、入力ロッド44と出力ピストン43との連結が切り離され、入力ロッド44と出力ピストン43とは独立に進出することができる。
【0057】
このような構成とすることにより、運転者に適切な反力を与えつつ、ブレーキバイワイヤを実現することができる。
【0058】
また、図3から明らかなように、ブレーキ操作が行われた際にも、出力ピストン43の空洞部43bの底面43cと入力ロッド44の端部44aとの間には隙間が生じている。この隙間により、回生制御やABS(Anti-lock Brake System)制御等を行った場合でも底面43cが端部44aを押動することを回避することができる。すなわち、回生制御やABS制御等を行った場合でも、マスタピストン31から出力ピストン43に伝達された反力が入力ロッド44に伝達されたり、入力ロッド44の推力が出力ピストン43を介してマスタピストン31に伝達されることがないため、運転者に対して不要な反力を与えず、運転者の操作感を損なったり、運転者の操作力が伝達されて、最適な回生制御が損なわれることがない。
【0059】
〔モータが正常作動しない場合の動作〕
図4は、ブレーキ操作が行われてもモータMが動作しない場合の加圧機構Aの断面図である。
【0060】
まず、運転者がブレーキペダルBPを踏み込むと、ブレーキ操作センサBSからブレーキペダルBPの操作量が測定され、ECUに送信される。ECUはモータドライバMDを介して測定値に応じた電流を加圧機構Aに印加するが、モータMは回転しない。
【0061】
このとき、図6(a)に示すように、トーションバネ76の付勢力により第1ケーシング71とハウジング100との係合は解除されているため、ストロークシミュレータ70は進出可能である。
【0062】
本実施例では、付勢体62の取付加重は第2弾性部材74よりも大きく設定されている。そのため、ブレーキペダルBPの踏み込みに応じてシャフト101が進出すると、先に第2弾性部材74が縮み始め、その後ストロークシミュレータ70の第1ケーシング71が進出を開始する。仮に、タイムラグ等によりモータMの駆動が遅れているだけであり、ストロークシミュレータ70の第1ケーシング71が進出する前にモータの駆動が開始されれば、その回転により第1ケーシング71がハウジング100に係止され、上述のような通常動作となる。
【0063】
また、入力ロッド44が進出を開始してもモータMが回転しない場合には、図5(a)に示すように、付勢体62の付勢力により転動体61がテーパー面43eと入力ロッド44の側面とに付勢され、入力ロッド44と出力ピストン43との連結状態も保持される。これにより、シャフト101の進出力が入力ロッド44に伝達され、クラッチ機構60により入力ロッド44に連結された出力ピストン43が入力ロッド44と共に進出する。このとき、出力ピストン43の先端がマスタピストン31を押動し、ブレーキオイルを増圧することができる。
【0064】
このように、モータMが正常動作しない場合には、ブレーキペダルBPの踏み込み力が直接出力ピストン43に伝達され、ブレーキ液を増圧することができる。また、ストロークシミュレータ70はハウジング100から切り離されて入力ロッド44と一体的に進出するため、ストロークシミュレータ70は反力を生じることはない。すなわち、運転者はマスタピストン31が進出する際にブレーキオイルから受ける反力のみを受け、ブレーキペダルBPへの操作力を全てブレーキへの制動力に変換することができる。
【実施例2】
【0065】
上述の実施例では、ブレーキ装置が動作していない状態では、クラッチ機構60の働きにより入力ロッド44と出力ピストン43とは連結状態にある。また、緊急にブレーキ操作がなされた場合等には、モータMの駆動がブレーキ操作よりも遅れる可能性がある。このような場合には、クラッチ機構60により入力ロッド44と出力ピストン43とが連結状態にあり、ストロークシミュレータ70はハウジング100に係止されていない状態にある。入力ロッド44が進出した後にモータMが駆動すると、クラッチ機構60により入力ロッド44と出力ピストン43との連結が解除される。しかし、ストロークシミュレータ70はハウジング100に係止されていないため反力を生じることができないため、この時点で運転者には違和感が生じる。このような問題を解決するために、上述の構成としているが、本実施例では他の方法として、下記の制御も行うことができる。
【0066】
本実施例では、制御手段Bはブレーキ操作がなされていない状態で、モータMに対して所定の電流を印加し、クラッチ機構60により入力ロッド44と出力ピストン43とを切り離している。そのため、所定の電流は、突出部52bがリンク部材63を揺動するために直動部材52が進出するのに必要十分な大きさである。このとき、ストロークシミュレータ70は直動部材52の回転によりハウジング100に係止されている。これにより、ブレーキペダルBPが踏み込まれると同時に、ブレーキバイワイヤ型のブレーキ装置として機能することができる。
【0067】
上述の制御に必要な電流量はモータに印加した電流量を計測することで実現することができる。また、マスタシリンダ30の液圧を測定することでも実現することができる。この場合には、クラッチ機構60による切り離し動作と同時に、直動部材52の推力伝動部52cと出力ピストン43の推力受動部43aとの隙間がなくなるように構成しておく。このような構成とすると、出力ピストン43の推力受動部43aとの隙間がなくなる以上に直動部材52が進出すると、マスタシリンダ30の液圧が増圧されるため、マスタシリンダ30の液圧が増加を始めた時点までの電流を前述の所定の電流として決定することができる。
【0068】
上述のような制御を行った後は入力ロッド44と出力ピストン43とが切り離され、ストロークシミュレータ70はハウジング100に係止されているので、上述の制御後にモータMに故障が発生した際のブレーキ操作に支障が生じるおそれがある。しかしながら、本発明のブレーキ装置では、仮に、上述の制御を行った直後にモータMに故障が発生したとしても、モータMのトルクがなくなると直動部材52は弾性部材46の付勢力により後退し、リンク部材63に作用している突出部52bの推力もなくなるため、クラッチ機構60は入力ロッド44と出力ピストン43とを連結する。また、トーションバネ76の付勢力により、第1ケーシング71とハウジング100との係合も解除される。これにより、非常時における所望のブレーキ操作は可能となる。したがって、上述の制御を行った後にモータMに故障が発生しても問題は生じない。
【0069】
上述の制御は電流を必要とするため、必要以外に行うと不要な電力を消費する。そのため、ブレーキ操作がなされることが予測された時点で上述の制御を行うことが望ましい。そのために、ECUはブレーキ操作予測手段として機能させる。このとき、ECUには、図示しない種々のセンサ等が接続されている。例えば、車両の速度を計測する速度センサ、車両の加速度を計測する加速度センサ、アクセルの操作量を計測するアクセル操作センサ、前方の車両との距離を計測する距離センサ、車両の周囲の画像を取得するカメラ等である。
【0070】
例えば、アクセル操作センサによりアクセルペダル(図示せず)に加えられた踏力が解除されたことにより、ブレーキ操作を予測することができる。さらに、緊急ブレーキ操作の際には瞬時にアクセルペダルから足が離されるため、アクセルペダルに対する踏力が解除される速さを加味すると、より的確にブレーキ操作を予測することができる。また、距離センサやカメラ等からの入力により前方車両との車間を計測し、車間が一定以下になった場合にブレーキ操作がなされると判定することもできる。
【0071】
EUCは、これらのセンサ等からの入力に基づきブレーキ操作が行われる可能性を判定する。ブレーキ操作が行われると判定した場合には、モータドライバMDを介して上述の所定の電流をモータMに印加する。これにより、不要な電力の消費を抑えつつ、適切なブレーキ操作を可能にしている。
【実施例3】
【0072】
上述の実施例では、クラッチ機構60の付勢体62は第1ケーシング71の底面71aに固定されていたが、図7に示すように、付勢体62のストロークシミュレータ70側の後に固定部材65を備える構成とすることもできる。この固定部材65は、固定リング66によりストロークシミュレータ70側の端部を固定されている。この構成では、付勢体62は、固定部材64と固定部材65との間に圧縮された状態で挟まれるため、固定部材64と固定部材65とには伸張方向の力を加えている。固定部材64に対する力は、転動体61をテーパー面43eに付勢する力として働く。一方、固定部材65に対する力は、固定リング66からの反力により相殺される。そのため、マスタピストン31の図示しない戻しばねの取付加重を付勢体62の取付加重以上に設定する必要がなくなるため、上述の実施例とは異なり、ブレーキペダルBPの踏み込み時の踏力を小さくすることができる。
【実施例4】
【0073】
図8および9を用いて、本実施例におけるブレーキ装置を説明する。なお、上述の実施例における部材と同様の部材には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0074】
図8は、本実施例の形態における加圧機構Aの構成を表す図である。加圧機構Aは、上述の実施例と同様に、制御手段Bからの印加電流に応じて回転するモータM、モータMの回転軸と一体回転するよう構成されている小平歯車110を備えているが、上述の実施例と異なり、モータMの回転軸はマスタピストン31の進退方向と直交する方向となるように構成されている。また、小平歯車110と嵌合する歯を有し、小平歯車110の歯数よりも多い歯数を有する大平歯車111、大平歯車111と同一軸芯を有し、大平歯車と一体回転するように構成されているピニオン歯車112が備えられている。
【0075】
一方、直動部材52には、ピニオン歯車112と嵌合するラック歯車52eが形成されている。これにより、モータMの回転力は、小平歯車110,大平歯車111およびピニオン歯車112を介してラック歯車52eに伝達され、直動部材52の直動力に変換される。したがって、ピニオン歯車112とラック歯車52e(直動部材52)とにより、本実施例における直動変換機構150を構成することとなる。このように、本実施例における直動変換機構150では、ラックアンドピニオン機構によりモータMの回転力を直動部材52の直動力に変換しているが、これにより、ボールネジ機構に比べて、コスト削減、静音性、組み立ての容易性等のメリットが得られる。
【0076】
また、本実施例における加圧機構Aには、上述の実施例と同様に、直動部材52の内部に挿入され、マスタピストン31の進退方向に移動可能な出力ピストン43,入力ロッド44,シャフト101を介してブレーキペダルBPと接続されている。ブレーキペダルBPの操作量に応じてマスタピストン31の進退方向に移動可能である入力ロッド44は、さらに入力ロッド44の進退に応じてブレーキペダルBPに対して反力を与えるストロークシミュレータ70や直動変換機構150をマスタピストン31の後退方向に付勢する弾性部材46、モータMの駆動状態により入力ロッド44と出力ピストン43との連結/切り離しを行うクラッチ機構60も備えられている。なお、これらの構成は上述の実施例と同じであり、ブレーキ操作による直動部材52の直動以降の動作も上述の実施例と同じであるため、説明は省略する。
【0077】
上述の実施例1等の形態では、モータMの回転により直動部材52が微小回転し、その微小回転を利用してストロークシミュレータ70とハウジング100との連結/切り離しを制御していた。しかし、本実施形態では直動部材52の微小回転がないため、以下のクラッチ機構170によりストロークシミュレータ70とハウジング100との連結/切り離しを制御している。なお、ストロークシミュレータ70自体の構成は、上述の実施例と同じである。
【0078】
本実施例におけるクラッチ機構170は、ハウジング100の内側に固定的に備えられたハウジング内側部材105の内面に形成されたテーパー面105a、テーパー面105aとストロークシミュレータ70の第1ケーシング71の外側面71cとの間に備えられた転動体77、転動体77の進退方向の移動を規制する固定部材78、固定部材78を介して転動体77を進出方向に付勢する付勢体79、および、直動部材52の後退方向側の端面52fとにより構成されている。なお、図では一の転動体77が表されているが、転動体77の数は適宜変更可能である。
【0079】
図9(b)は、ブレーキ操作によってモータMが駆動され、直動部材52が進出方向に微小移動(クラッチ機構60が離脱する程度の移動量)した状態のクラッチ機構170の拡大図である。この状態では、直動部材52の端面52fと固定部材78との当接が解除されている。したがって、付勢体79の付勢力により固定部材78が進出方向に付勢される。転動体77は固定部材により進退方向への移動が規制されているため、固定部材78が進出方向に付勢されるに伴って、転動体77も進出方向に付勢され、テーパー面105aと第1ケーシング71の外側面71cとに当接する。この転動体77の当接によりハウジング100と第1ケーシング71すなわちストロークシミュレータ70との連結が実現される。したがって、モータMが正常に作動する場合には、クラッチ機構170により、ストロークシミュレータ70とハウジング100とが連結されるため、ストロークシミュレータ70はシャフト101に対して反力を与えることができる。なお、図9(b)に示すように、ストロークシミュレータ70とハウジング100とが連結された状態では、固定部材78の進出側端部はハウジング内側部材105の進出側端部から突出している。
【0080】
一方、ブレーキペダルBPに対する踏力が解除されると、モータMが上述とは逆回転し、直動部材52が後退方向に移動する。この直動部材52の移動により、直動部材52の端面52fが固定部材78の進出側端部に当接し、さらに直動部材52が後退方向に移動し、直動部材52が初期位置(モータMからの駆動力が伝達されていない状態)まで後退した状態では、直動部材52の押圧力が付勢体79の固定部材78に対する付勢力に勝ち、付勢体79を圧縮する。これにより、転動体77はテーパー面105aから離脱し、ストロークシミュレータ70はハウジング100から切り離される(図9(a)参照)。
【0081】
上述のように、モータMの駆動力が直動部材52に伝達されていない状態では、クラッチ機構170の作用により、ストロークシミュレータ70はハウジング100から切り離された状態にある。この状態で、ブレーキペダルBPに対してブレーキ操作が行われると、モータMが正常に動作する場合には、上述したように直動部材52の移動に伴い、クラッチ機構170の作用によりストロークシミュレータ70とハウジング100とが連結されるため、シャフト101を介してブレーキペダルBPに対して反力を伝達することができる。一方、ブレーキ操作に対してモータMが動作しない場合には、離脱状態にあるストロークシミュレータ70はブレークペダルBPへの踏力に応じて前進方向に移動するため、ブレーキペダルBPには、マスタピストン31による反力のみが伝達されることとなる。
【0082】
なお、このようなクラッチ機構170は、ラックアンドピニオン機構を用いた加圧機構Aだけでなく、上述の実施例のようなボールネジ機構を用いた加圧機構Aにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
ブレーキペダルの操作を電気信号に変換し、電気信号に応じてマスタシリンダの液圧を生じさせることにより、車輪に制動力を加えるブレーキ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
A:加圧機構
B:制御手段
BP:ブレーキペダル
C:制動機構
M:モータ
30:マスタシリンダ
31:マスタピストン
40:小平歯車
41:大平歯車
50:直動変換機構
51:回転部材
52:直動部材
43:出力ピストン(出力部材)
44:入力ロッド(入力部材)
60:クラッチ機構
43e:テーパー面
61:転動体
62:付勢体
62a:端部
63:リンク部材
64:固定部材
70:ストロークシミュレータ
71:第1ケーシング
71b:スラスト係合部
72:第1弾性部材
73:第2ケーシング
74:第2弾性部材
75:連結部材
77:転動体
79:付勢体
100:ハウジング
101:シャフト
102:ラチェット
103:ソレノイド
105a:テーパー面
170:クラッチ機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの変位に連動する入力部材と、
前記入力部材とは相対移動可能に個別に設けられ、マスタシリンダに液圧を発生可能な出力部材と、
前記マスタシリンダに発生した液圧により車輪に制動力を付与する制動機構と、
前記出力部材を前記入力部材と独立して駆動可能な駆動手段と、
前記入力部材と前記出力部材との間に設けられ、前記駆動手段により前記出力部材が駆動されないときに前記入力部材と前記出力部材とが一体移動可能となるように前記入力部材と前記出力部材とを係合し、前記駆動手段により前記出力部材が駆動されるときに前記入力部材と前記出力部材との係合を離脱するクラッチ機構を備えたブレーキ装置。
【請求項2】
前記入力部材と前記出力部材とを収容するハウジングを備え、
前記駆動手段は、
モータと、
前記ハウジング内に設けられ、前記モータの回転に応じて進退移動を規制されつつ回転する回転部材と、
前記回転部材に係合し、前記回転部材の回転に応じて前記マスタシリンダに設けたマスタピストンの進退移動方向に引退移動可能に構成され、前記マスタピストンの進出方向への推力を前記出力部材に伝達する直動部材と、を備えている請求項1記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記クラッチ機構は、
前記出力部材の内面に形成されたテーパー面と、
前記テーパー面と前記入力部材の外面との間に介在する転動体と、
前記転動体を前記テーパー面と前記入力部材の側面とに当接する方向に付勢する付勢体と、
前記出力部材の側面に形成された開口部に挿通され、前記直動部材の側と前記入力部材の側とに突出し、前記直動部材の前記マスタピストンの側への移動に伴って、前記転動体を前記当接する方向とは反対方向に押圧するよう揺動可能なリンク部材と、を備えた請求項2記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記ブレーキペダルの操作力を前記入力部材へ伝達する伝動系に、前記ブレーキペダルの操作力に応じて当該ブレーキペダルに反力を与えるストロークシミュレータを備えた請求項3記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記直動部材は、前記モータの初期回転により微小回転可能であり、
前記ストロークシミュレータは、前記ハウジングと係合する係合部と、前記直動部材とスラスト係合するスラスト係合部とを備え、
前記係合部は、前記モータに電流が印加されない状態では前記ハウジングと係合せず、前記モータが駆動する際には、前記スラスト係合部を介して前記直動部材から受けた回転力により前記係合部が前記ハウジングと係合する請求項4記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記付勢体の両端部のうち前記転動体の側とは反対側の端部が、前記ストロークシミュレータの前記マスタシリンダの側の底部に当接している請求項5記載のブレーキ装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルの非操作時に、前記クラッチ機構の係合を離脱するのに必要な電流を前記モータに印加する請求項1から6いずれか一項記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記ハウジングの側の内面に形成されたテーパー面と、
前記テーパー面と前記ストロークシミュレータの外面との間に介在する転動体と、
前記転動体を前記テーパー面と前記ストロークシミュレータの外面とに当接する方向に付勢する付勢体と、を有するとともに、前記直動部材の前記マスタピストンとは逆側への移動に伴って、前記転動体を前記当接する方向とは反対方向に押圧するクラッチ機構を備えている請求項4記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−184699(P2010−184699A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224325(P2009−224325)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】