説明

プラズマCVD装置

【課題】欠陥が低く、高次シラン混入の少ない高品質なアモルファスシリコン薄膜を大面積で得るために、広い面積に渡り陰極凹部(ホロー)にプラズマを発生させることができるプラズマCVD装置を提供する。
【解決手段】真空容器2内に、被成膜基板13を置くための接地電極11と、該接地電極と2〜500mmの間隔を空けて配置され高周波電源15に接続された陰極3と、該陰極と前記接地電極との間に配置された電位シールド板8とを備え、前記陰極は、前記接地電極に対向する側に対向面5と複数の凹部4とを有する。前記電位シールド板は、前記陰極の各凹部と相対する各位置に、該各凹部の電位シールド板と平行な平面への投影面積の50〜250%の投影面積を有する貫通孔9が形成されている。前記陰極と前記電位シールド板とは、最近接部の間隔が0.1〜20mmとなるよう配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマCVD装置に関するものである。特にシリコン薄膜太陽電池や、薄膜トランジスタなどに利用される高品質なアモルファスシリコン薄膜を形成するためのプラズマCVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池の主流を成す単結晶シリコン系太陽電池または、多結晶シリコン系太陽電池と比較して、シリコン薄膜太陽電池は温度依存性が小さく、コスト的にも有利であるため次世代の太陽電池として注目されている。
【0003】
シリコン薄膜太陽電池に用いられるアモルファスシリコン薄膜を作製するための技術として例えば平行平板型プラズマケミカルベーパーデポジション(CVD)法が挙げられる(以下、ケミカルベーパーデポジションをCVDと略す)。従来の平行平板型プラズマCVD装置を図4に示す。図4に示すプラズマCVD装置1には排気口6を経て真空度を保持する排気系を有する真空容器2が備えられ、同真空容器2内には陰極3と、被成膜基板13を保持する接地電極11が設置されている。接地電極11の内部には基板を加熱するための加熱機構12が内蔵されている。陰極3の内部には絶縁物を介して複数の導入孔7aへとつながる原料ガス導入路7が設けられており、複数の導入孔7aを通じて、原料ガスは被成膜基板13上へ均一に導入される。また陰極3にはマッチングボックス14を介し高周波電源15が接続されている。かかる装置を用いて、排気系により一定の圧力に保持し、陰極3に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、接地電極11上に保持した被成膜基板13の表面にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
【0004】
しかし、このような平行平板型プラズマCVD法で作製されたアモルファスシリコン薄膜は光照射により、膜中の中性ダングリングボンド(欠陥)が増大し、光劣化を起こすことが知られている。この光劣化はStaeber−Wronski効果として30年以上前に見出されているにも関わらず、未だに解消されていない。
【0005】
この光劣化を起こすメカニズムに関して、現在明確に解明されたわけではないが、その光劣化と相関のあるものとして膜中のSi−H結合濃度が知られており、膜中のSi−H結合濃度が低いものは光劣化が少ないとの報告がされている(非特許文献1)。その中で膜中のSi−H結合濃度が増加する原因として、成膜中に発生する高次シランラジカル((SiH:n=2〜5)が原因であるとされており、高次シランラジカルはプラズマ中に生成したSiHラジカルが、Si−H結合に挿入する逐次反応によって成長し、膜中に混入することによって、Si−H結合の増加や、初期のダングリングボンドを膜中に形成するとされている。
【0006】
高次シランラジカルの生成に関してプラズマ中のガス温度は重要な因子である。高次シランを成長させる逐次反応は三体反応であることが知られ、これを抑える手段としてガス加熱が有効であるとされている。SiHラジカルのSi−H結合への挿入反応により生成した高次シランは余剰なエネルギーを第三体(親分子であるSiH)に吸収させることにより安定化を図る。そのため第三体がエネルギーを受け取れないような状態、つまり温度が高い状態であると三体反応が進行せず、高次シランの成長が抑制される。
【0007】
上記反応機構を考慮して、非特許文献2、特許文献1、特許文献2のような成膜方法が提案されている。
【0008】
非特許文献2は、トライオード法によりSi−H結合濃度を低くする成膜方法である。このトライオード法の成膜装置を図5に示す。トライオード法によるプラズマCVD装置は図5に示すように図4に示した平行平板型プラズマCVD装置の陰極3と接地電極11との間にメッシュ電極17を挿入し、このメッシュ電極には直流可変電源16が接続されている。このようにトライオード法も平行平板型のCVD法の1種であるが、陰極3と接地電極11との間にメッシュ電極17を挿入し、これに電位(通常負電位)を印加することによって、陰極3とメッシュ電極17との間にプラズマを閉じ込めることが可能になる。メッシュ電極17と接地電極11との間にはプラズマが生成しないため、成膜に寄与するラジカルは陰極3とメッシュ電極17との間で生成し、メッシュ電極17の空隙より拡散によって被成膜基板13へと到達する。ラジカルの拡散距離は分子量の逆数の平方根に比例する。高次シランラジカルは分子量が大きいため、SiHラジカルに比べ拡散距離が短いことを利用して、選択的にSiHラジカルを基板上へ輸送しようとするものである。これにより、非常に低いSi−H結合濃度を達成し、劣化率の低いアモルファスシリコン薄膜を得ている。
【0009】
しかし、この技術では、高次シランラジカルを取り除くためには、メッシュ電極と接地電極との間の距離が必要となる。そのため、この距離が不十分であると高次シランラジカルを十分取り除けなくなり、高次シランラジカルを取り除くためにこの距離を長くすると成膜速度が遅くなるという問題がある。
【0010】
特許文献1は、電極表面付近から被成膜基板と反対方向へ排気によって作られるガス流れにより拡散距離の短い高次シランラジカルを除去する成膜方法である。この方法の成膜装置を図6に示す。陰極3には、排気孔を兼ねる凹部(ホロー)4と原料ガス導入路7が備えられ、対向面5付近から被成膜基板13と反対方向のガス流れが作られる。主に凹部4内でプラズマが発生し高次シランラジカルが生成するが、ガス流れにより拡散距離の短い高次シランラジカルは選択的に排気されることで膜中のSi−H結合やダングリングボンドの低減を図るものである。また、対向面5には各凹部の間に溝(図示しない)を作りプラズマ安定化も図っている。この方法であれば、前述のトライオード法のようなメッシュ電極および高次シランラジカルを選択除去するためのスペースが不要のためトライオード法と比較して速い成膜速度を得ることができる。
【0011】
しかしながら、この電極構造では、陰極に備えられた凹部の外(例えば対向面や複数の凹部を連通する溝の中)にもプラズマが漏れるので、凹部の外で発生した高次シランラジカルは膜中に取り込まれ易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−214296
【非特許文献】
【0013】

【非特許文献1】松田彰久(A. Matsuda)他著,「ソーラーエナジーマテリアルズ アンド ソーラーセルズ( Solar Energy Materials & Sollar Cells ) ,2003年,第78巻, p3−26
【非特許文献2】清水諭(Satoshi Shimizu)他著,「ジャーナルオブアプライドフィジックス ( JOURNAL OF APPLIED PHYSICS),2007年,第101巻,p064911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで筆者らは図7のような複数の凹部(ホロー)4を備えた陰極3と電位シールド板8とを組み合わせ、プラズマを局在化する成膜方法を考えた。電位シールド板8を接地電位あるいは負電位に保つことにより、接地電極11に保持された被成膜基板上へのプラズマの流出を防ぎ、原料ガス中に含まれる高次シランを排気口6より真空容器外へ排気し、プラズマ化した原料ガス中に含まれるSiHラジカルを被成膜基板上に優先的に到達させるものである。電位シールド板と対向面との距離を成膜条件に合わせて適切に設定することで対向面にプラズマを発生させなくすることが可能で、特許文献1の方法よりもより一層プラズマ局在化ができ、また、トライオード法よりも高速に高品質なアモルファスシリコン薄膜を得ることができる。
【0015】
一方、電位シールド板によりプラズマを局在化させると、プラズマの点火に際し、陰極上のすべての凹部(ホロー)にプラズマを発生させるには、条件の設定を厳密に行う必要があるという新たな課題を発見した。点火条件が不適切である場合、プラズマが発生していない凹部(ホロー)が生じ、その部分では原料ガスの励起、分解が起こらず、被成膜基板上の対向する部分の膜厚が薄く、薄膜の膜厚分布が不均一になってしまう。膜厚分布が不均一であると、例えばアモルファスシリコン太陽電池の場合では、セル毎の電流密度を揃えるのが困難になりモジュール化したときの変換効率が低下してしまう。
【0016】
この問題は、陰極が大面積になると顕著になることが想定され、将来大面積化による生産性向上を阻害する問題となる可能性がある。
【0017】
点火時のみ投入電力を大きくすることで点火性を改善することは可能ではあるが、製造設備に高価な大容量電源を必要とする。更に、大きな電力を投入することで下地層や下地層と成膜層との界面を傷める問題もある。
【0018】
また、点火時のみ圧力を下げてプラズマの局在化を緩和すると、プラズマが凹部(ホロー)からはみ出し点火性は向上するものの、第一の目的であった高次シランを選択的に排気する機能が不十分になる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の構成をとる。すなわち、真空容器と、該真空容器内を減圧下に保持するための排気手段と、高周波電力を印加する高周波電源と、原料ガス導入手段と、
前記真空容器内に、被成膜基板を置くための接地電極と、該接地電極と2〜500mmの間隔を空けて配置され前記高周波電源に接続された陰極と、該陰極と前記接地電極との間に配置された電位シールド板とを備えたプラズマCVD装置であって、
前記陰極は、前記接地電極に対向する側に配置された複数の凹部と対向面とを有し、前記電位シールド板は、前記陰極の各凹部と相対する各位置に、該各凹部の電位シールド板と平行な平面への投影面積の50〜250%の投影面積を有する貫通孔が形成されたものであり、
かつ、前記陰極と前記電位シールド板とは、最近接部の間隔が0.1〜20mmとなるよう配置され、前記陰極の対向面と前記電位シールド板との間には間隔が、0.1〜20mmである第1の領域と凹部および/または貫通孔の間に陰極とシールド板との間隔が1〜30mmである連通路をなす第2の領域とが形成されるように、
陰極および/または電位シールド板に溝が形成されていることを特徴とするプラズマCVD装置である。
【0020】
本発明のプラズマCVD装置において使用される真空容器は、排気手段により、該真空容器内を減圧下に保持し、原料ガスの微量の存在下で、容器内の電極に高周波電力を印加することによりプラズマを発生させ成膜を行うものである。そのため、後述する排気手段によって100Pa以上の真空度に到達できる程度にリークの少ない構造である必要がある。
【0021】
本発明のプラズマCVD装置において使用される排気手段は、排気口を通じ真空ポンプによりなされる。排気口は真空容器にあってもよいし、陰極を中空として陰極に排気口を設けてもよい。陰極の凹部の先に排気口を設けると排気の流れによっても高次シランラジカルの選択除去ができるためより好ましい。真空ポンプは機械式ドライポンプやターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、イオンポンプ、油回転ポンプ、ソープションポンプなどを必要に応じて組み合わせて使うことができる。未反応の原料ガスや反応生成物、反応副生物を排気することになるため、ガス通路に油を使用しておらず油の劣化の恐れがない機械式ドライポンプがメンテナンス性において優れる。
【0022】
本発明のプラズマCVD装置において使用される高周波電力を印加する高周波電源は、電源の容量を有効利用できるようにインピーダンスを補整するマッチングボックスを介して陰極と接続される。この高周波電源の周波数は任意に選択が可能で、生産性および均一性の観点から、好ましくは100kHz以上100MHz以下、さらに好ましくは10MHz以上60MHz以下の周波数が選択できるものであればよい。
【0023】
本発明のプラズマCVD装置において使用される原料ガス導入手段は、マスフローコントローラーで流量を調整して原料ガス導入路、原料ガス導入孔を通じて行われる。原料ガス導入孔は真空容器にあってもよいし、陰極を中空として陰極に原料ガス導入孔をもうけてもよい。電極を大型化した場合、陰極に原料ガス導入孔がある方が真空容器にあるよりも陰極−接地電極間に均一にガスを供給できるため好ましい。
【0024】
本発明のプラズマCVD装置において使用される電極は、被成膜基板を置くための接地電極と、該接地電極と2〜500mmの間隔を空けて配置され前記高周波電源に接続された陰極と、該陰極と前記接地電極との間に配置された電位シールド板とからなる。接地電極は、基準電位に接続されており、通常は接地される。陰極は、基準電位(通常は接地)に高周波電源、マッチングボックス、直流電流阻止コンデンサを通じて接続される。電位シールド板は、任意の電位を印加できるように基準電位(通常は接地)に直流可変電源を通じて接続される。電位シールド板を接地電極と同電位にする場合は可変電源を省いてもよい。
【0025】
また、本発明のプラズマCVD装置において使用される陰極は、前記接地電極に対向する側に配置された複数の凹部と対向面とを有している。ここで、凹部とは、陰極の内部に側面を有した開口により該開口の内部に側面で囲まれた一定の空間を形成するものであり、開口を接地電極に投影した図形の内接する最大の円の直径が2mm以上であり、対向面を基準とした側面の奥行きが2mm以上である。凹部の開口の接地電極に投影した図形の内接する最大の円の直径が2mmよりも小さければパッシェンの法則により凹部の内部にプラズマを発生しにくくなる。また、凹部の対向面を基準とした奥行きが2mmより小さい場合はホローカソード放電が起こらないかまたはごく限定的であり、成膜速度つまりは生産性が低下してしまう。
また、凹部は陰極に均一に配置されていることが膜厚分布を均一にする観点から好ましい。
【0026】
また、対向面とは、陰極において接地電極に対向している面のことである。陰極に反応ガスの導入孔を配置する場合はこの面上に設けることになる。
【0027】
また、本発明のプラズマCVD装置において使用される電位シールド板は、複数の貫通孔を有し、基準電位(通常は接地)に対して任意の電位を印加できる機構を持つ。プラズマの閉じ込めを考慮した場合、その電位シールド板8の貫通孔9の中心軸が、陰極3に形成された凹部4の中心軸と重なるように配置されることが好ましい。凹部4中には、ホローカソード放電によるプラズマが発生すると考えられ、貫通孔9と凹部4の中心軸が一致していると、プラズマから接地電位又は負電位である電位シールド板8までの距離が均等となり、プラズマの放電が安定するためである。また、電位シールド板8は、陰極の凹部4と相対する位置に、該各凹部の電位シールド板と平行な平面への投影面積の50〜250%の投影面積を有する貫通孔9が形成されている(本明細書において、単に投影面積と言うときは、該電位シールド板と平行な平面への投影面積を言うものとする)。貫通孔9の投影面積が各凹部の投影面積の50%より小さいとプラズマからの活性種の拡散が抑えられ成膜速度が著しく低下し、逆に250%よりも大きいとプラズマの閉じ込めが不十分となる。また、後述する第2の領域で発生するプラズマによりパウダーが生成した場合、貫通孔の投影面積が大きいと電位シールド板でパウダーが被成膜基板上へ到達するのを遮蔽する効果が小さくなる。好ましくは凹部4の投影面積の65〜150%の範囲、より好ましくは80〜120%の範囲である。電位シールド板8の貫通孔9の形状はテーパー状等の形状となっていてもかまわない。電位シールド板8に接続する直流可変電源 16は電位をかけられるものであれば問題なく、周波数がkHzオーダー以上の交流電源であれば自己バイアスが発生し直流電位をかけることができるので、本願発明においてはkHz程度の交流電源も、自己バイアスが発生し直流電位をかけることができるものについては直流可変電源と見なすものとする。接地電位とするのであれば直流可変電源16は不要でそのまま接地すればよい。
【0028】
また、本発明のプラズマCVD装置において、陰極とシールド板とは、後述する第1の領域における両電極の間隔(以降第1の間隔と記す)が0.1〜20mmとなるように配置されている。第1の間隔が0.1mmより小さいと異常放電を起こす可能性が高まり、また20mmよりも大きいと陰極と電位シールド板との間でプラズマが生じやすくなるため、陰極と電位シールド板との間に、被成膜基板上に落ちるとピンホールの原因となるパウダーを生じやすくなり、パウダーをクリーニングするため装置の稼働率が低下してしまう。第1の間隔が0.2〜5mmであるとより好ましい。
【0029】
また本発明のプラズマCVD装置において、陰極と電位シールド板とは、陰極の対向面と電位シールド板の間には、間隔が、0.1〜20mmである第1の領域10aと、凹部および/または貫通孔の間に陰極とシールド板との間隔が1〜30mmであり且つ第1の領域の電極の対向面と電子シールド板との間隔よりも広い第2の領域10bが連結路をなして形成されるように、陰極および/または電位シールド板の対向面が堀込まれている。かかる第2の領域10bを通じてエネルギーの高い電子やイオンが各凹部の間を行き来することで、第2の領域10bが形成されていないときと比べ点火性が向上する。第2の領域10bの陰極とシールド板との間隔(以降第2の間隔と記す)が1mmよりも小さいとエネルギーの高い電子やイオンが行き来するスペースが十分確保できないため点火性向上の効果が得られにくい。第2の間隔が30mmより大きいと、第2の領域10bの中にプラズマが生じパウダーを発生しやすくなるので好ましくない。
【0030】
前記第1の領域10aと第2の領域10bとを電位シールド板に平行な面に投影したとき(図2b)の第1の領域10aの投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の70〜95%であることが好ましい。第1の領域の投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の70%より小さくなる(つまり連通路の割合が大きくなる)と、連通路の部分で発生するプラズマが相対的に多くなるため、陰極4と電位シールド板8との間にパウダーを生じ易くなる。第1の領域の投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の95%よりも大きくなる(つまり連通路の割合が小さくなる)とエネルギーの高い電子やイオンが行き来するスペースが十分確保できないため点火性向上の効果が得られにくい。
【0031】
また、前記電位シールド板には加熱機構が備わっていることが好ましい。これは、シランラジカルが高次シランラジカルへと成長する過程の逐次反応を抑制するためであると同時に点火性向上のためでもある。電位シールド板を加熱することでプラズマ付近のガス温度が上がると、圧力一定条件下ではガス密度が下がり電子やイオンの拡散距離が伸びる。このことによりエネルギーの高い電子やイオンが凹部から隣接する凹部へ移動することが容易となるためである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、以下に説明するとおり、点火時に大電力を投入することなく、また点火時に圧力を低く変更することなく、陰極凹部内にプラズマを発生させることができる。このことにより、複数の凹部を備えた陰極と電位シールド板とを利用したプラズマ閉じ込めによるアモルファスシリコン薄膜の高品質化を大面積に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明にかかる第一実施形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【図2a】電位シールド板の斜視概略図である。
【図2b】第1の領域と第2の領域とを電位シールド板に平行な面に投影した概略図である。
【図3】本発明にかかる第二実施形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【図4】従来のプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【図5】従来のトライオード法を用いたプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【図6】従来の複数の凹部を備えた陰極と電位シールド板とを組み合わせたプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【図7】先行技術を参考に筆者らが考案したプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0035】
[第一実施の形態]
図1は本発明の第一実施の形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【0036】
図1によると本発明のプラズマCVD装置1には、その内部を減圧状態に保持する排気系を備えた真空容器2と、真空容器2内には複数の凹部4を備えた陰極3と、被成膜基板13が置かれる接地電極11が設置されている。
【0037】
陰極3と接地電極11との間隔は2〜500mmである。陰極3に設けられた凹部4の大きさにもよるが、2mmよりも狭いと凹部の真下だけ膜厚が厚くなり膜厚分布が悪化してしまう。一方、間隔を離すに従い成膜速度が低下するため、500mm以上は現実的な生産性が得られない。より好ましくは10〜200mmであり、更により好ましくは20〜60mmである。
【0038】
陰極3にはマッチングボックス14を介して、高周波電源15が接続されている。この高周波電源の周波数は任意に選択が可能で、生産性および均一性の観点から、好ましくは100kHz以上100MHz以下、さらに好ましくは10MHz以上60MHz以下の周波数が選択できるものであればよい。
【0039】
被成膜基板13は接地電極11上に動かないように配置されていればよく、例えば接地電極11に座繰りを設けて被成膜基板13をその中に置いても、別の治具で被成膜基板13を接地電極11に押し付けてもよい。また接地電極11の内部には被成膜基板13を加熱するための加熱機構12が内蔵されていても良い。
【0040】
陰極3にはプラズマを閉じ込める空間となる凹部(ホロー)4が形成されている。なお本発明における凹部とは、陰極の内部に側面を有した開口により該開口の内部に側面で囲まれた一定の空間を形成するものであり、開口を接地電極に投影した図形の内接する最大の円の直径が2mm以上であり、対向面を基準とした側面の奥行きが2mm以上である。凹部の開口の接地電極に投影した図形の内接する最大の円の直径が2mmよりも小さければパッシェンの法則により凹部の内部にプラズマを発生しにくくなる。一方、凹部が大きすぎると凹部の中心と端でのプラズマ強度差が大きくなり膜厚分布が悪化するため、より好ましくは開口部を接地電極に投影した図形の内接する最大の円の直径が50mm以下である。また、凹部の対向面を基準とした奥行きが2mmより小さい場合はホローカソード放電が起こらないまたはごく限定的であり、成膜速度つまりは生産性が低下してしまう。この要件を満たせば図3のように必ずしも端面が閉じている必要はない。本第一実施の形態においては、陰極3は排気口6が設けられた中空構造であり、陰極3に形成された凹部4は、陰極3内部の中空部に連通しており、凹部4を通じて電極上面の排気口6から、図示しない真空ポンプ接続され減圧排気が可能となっている。また、被成膜基板13上の膜厚分布を考えると、この凹部4は陰極表面上に均一に配置されていることが好ましい。
【0041】
また本第一実施の形態においては、陰極3の内部に図1に示すように、原料ガスを供給するための原料ガス導入路7が形成されており、原料ガス導入孔7aは陰極3の対向面に設けられている。原料ガス導入孔7aは陰極表面上に均一に配置されていることが好ましい。また原料ガス導入路をかかる態様で配置することに伴い、電位シールド板8には陰極3の原料ガス導入孔7aに相対する位置に原料ガス導入用の貫通孔が形成されている。原料ガスは、図示しないマスフローコントローラーにより流量をコントロールして前記原料ガス導入路7を経て真空容器2内に供給される。
【0042】
成膜を行う際の排気は陰極3上部に形成された排気口6からのみからの排気でもかまわないが、これ以外に図中にはない排気系を真空容器に設け圧力調整を行っても良い。
【0043】
成膜を行う際の原料ガスには一般的にシランガス(SiH)が用いられるが、ジシラン(Si)やメチルシラン、金属ハロゲン化物、ジボラン、フォスフィン等のガスを選択することも可能である。また水素や、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスで希釈してもかまわない。
【0044】
さらに、図1のプラズマCVD装置には、陰極3の接地電極11の側に、複数の貫通孔9が形成された電位シールド板8が設置されている。
【0045】
この電位シールド板8を設置する目的は、陰極3に形成された凹部4の内部にプラズマを局在化させるためであり、トライオード法の要素を取り入れるためである。そのために電位シールド板8を接地すること、あるいは電位シールド板8に直流可変電源16等を接続し電位を印加して電位を一定に保つことはプラズマをコントロールする上で非常に有効な手段である。電位シールド板8を基準電位(通常は接地電位)または、負電位とすることで、プラズマを凹部4の中に閉じ込め、電位シールド板8と被成膜基板13との間に存在するプラズマを弱めることが可能となる。また、電位シールド板8に接続する直流可変電源16は電位をかけられるものであれば問題なく、周波数がkHzオーダー以上の交流電源であれば自己バイアスが発生し直流電位をかけることができるので、直流電源以外にも、kHz程度の交流電源やRF電源を用いてもよい。電位シールド板を基準電位(通常は接地電位)とするのであれば直流可変電源16は不要でそのまま接地すればよい。
【0046】
プラズマの閉じ込めを考慮した場合、その電位シールド板8の貫通孔9の中心軸が、陰極3に形成された凹部4の中心軸と重なるように配置されることが好ましい。凹部4中には、ホローカソード放電によるプラズマが発生すると考えられ、貫通孔9と凹部4の中心軸が一致していると、プラズマから基準電位(通常は接地電位)又は負電位である電位シールド板8までの距離が均等となり、プラズマの放電が安定するためである。また、電位シールド板8は、陰極4の対向面をカバーすると共に、陰極の凹部4と相対する位置に各凹部の投影面積の50〜250%の貫通孔9が形成されている。貫通孔9の投影面積が各凹部の投影面積の50%より小さいとプラズマからの活性種の拡散が抑えられ成膜速度が著しく低下し、逆に250%よりも大きいとプラズマの閉じ込めが不十分となる。また、後述する溝部分で発生するプラズマによりパウダーが生成した場合、貫通孔の投影面積が大きいと電位シールド板でパウダーが被成膜基板上へ到達するのを遮蔽する効果が薄まる。好ましくは凹部4の投影面積の65〜150%の範囲、より好ましくは80〜120%の範囲である。電位シールド板8の貫通孔9の形状はテーパー状等の形状となっていてもかまわない。
【0047】
このようにしてプラズマを凹部4中に閉じ込めることにより、プラズマは排気の流れの中に存在することになる。このため拡散長の短い高次シランは排気の流れによって排気され、また拡散長の長いSiHラジカルは拡散によって基板方向へと到達することが可能となる。
【0048】
また、電位シールド板8と被成膜基板13との間のプラズマが弱められることにより、電位シールド板8と被成膜基板13との間では新たな活性種の発生はほとんどなくなることになる。これにより成膜に寄与する高次シラン、SiHラジカルや、SiHラジカルは電位シールド板8の貫通孔9より被成膜基板13の方向へ拡散したものに限られることになる。
【0049】
電位シールド板8と被成膜基板13との間で起こる反応としては以下のようなものが考えられる。
Si2m+1 + SiH → Si2m+2 + SiH(mは2以上の整数)
(式1)
SiH + SiH → Si (式2)
SiH + SiH → SiH + SiH (式3)
排気の流れに逆らい被成膜基板13の方向へ拡散した高次シランラジカルは、被成膜基板13の方向へ拡散中に親分子であるSiHと反応し不活性な高次シランになることにより成膜には関与せず排気される(式1)。SiHラジカルは拡散しながら高次シランへ成長していく過程で親分子であるSiHと反応し不活性になることにより、成膜には関与せず排気される(式2)。一方で親分子との反応により変化しないSiHラジカル(式3)は基板へ到達し、選択的に成膜に寄与することにより、高品質な膜を得ることが可能になる。
【0050】
陰極と電位シールド板とは、最近接部の間隔が0.1〜20mmとなるように配置されている。最近接部の間隔が0.1mmより小さいと異常放電を起こす可能性が高まり、また20mmよりも大きいと陰極と電位シールド板との間でプラズマが生じやすくなるため、陰極と電位シールド板との間に、被成膜基板上に落ちるとピンホールの原因となるパウダーを生じやすくなり、パウダーをクリーニングするため装置の稼働率が低下してしまう。
【0051】
陰極の対向面と電位シールド板との間には、間隔が、0.1〜20mmである第1の領域10aと、凹部および/または貫通孔の間に陰極とシールド板との間隔が1〜30mmであり且つ第1の領域の電極の対向面と電子シールド板との間隔よりも広い第2の領域10bが連結路をなして形成されるように、陰極および/または電位シールド板の対向面が堀込まれている。図2aは、かかる第1の領域および第2の領域の1例として、対向面が掘り込まれた電位シールド板の斜視概略図を示している。図2aでは、電位シールド板の対向面のみが掘り込むことで形成されているが、かかる掘り込みによる第2の領域形成は、陰極を掘り込んで形成してもよいし、一部は陰極を一部は電位シールド板を掘り込むことで形成されてもよい。かかる第2の領域10bを通じてエネルギーの高い電子やイオンが各凹部の間を行き来することで、第2の領域10bが形成されていないときと比べ点火性が向上する。第2の領域10bの陰極とシールド板との間隔が1mmよりも小さいとエネルギーの高い電子やイオンが行き来するスペースが十分確保できないため点火性向上の効果が得られにくい。第2の領域10bの陰極とシールド板との間隔が30mmより深いと、その溝の中にプラズマが生じパウダーを発生しやすくなるので好ましくない。より好ましくは、第2の間隔は第1の間隔の120%以上である。第2の間隔が第1の間隔の120%より小さいと、連結路により確保されるエネルギーの高い電子やイオンが行き来するスペースが、連結路がない場合と比べてあまり増加しないので点火性向上の効果が限定的である。
【0052】
前記第1の領域10aと第2の領域10bとを電位シールド板に平行な面に投影したとき(図2b)の第1の領域10aの投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の70〜95%であることが好ましい。第1の領域の投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の70%より小さくなる(つまり連通路の割合が大きくなる)と、連通路の部分で発生するプラズマが相対的に多くなるため、陰極4と電位シールド板8との間にパウダーを生じ易くなる。第1の領域の投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の95%よりも大きくなる(つまり連通路の割合が小さくなる)とエネルギーの高い電子やイオンが行き来するスペースが十分確保できないため点火性向上の効果が得られにくい。
【0053】
また、前記電位シールド板には加熱機構が備わっていることが好ましい。これは、シランラジカルが高次シランラジカルへと成長する過程の逐次反応を抑制するためであると同時に点火性向上のためでもある。電位シールド板を加熱することでプラズマ付近のガス温度が上がると、圧力一定条件下ではガス密度が下がり電子やイオンの拡散距離が伸びる。このことによりエネルギーの高い電子やイオンが凹部から隣接する凹部へ移動することが容易となるためである。
【0054】
[第二実施の形態]
第二実施の形態によるプラズマCVD装置は、図3のように第一実施の形態のプラズマCVD装置の排気口6、原料ガス導入路7の位置を変更させたものである。第二実施の形態では、排気の流れが被成膜基板14から遠のく方向と一致しないため、第一実施の形態と比べ排気流れを利用した高次シランラジカルの選択的除去の効力は落ちるが、電極構造を単純にできる利点があり、既存設備を改造する際には好適である。
【0055】
原料ガス供給や排気を、陰極3を通じてではなく、真空容器2の側面または下面から行っても、本発明の目的である陰極凹部へのプラズマ点火性において第一実施の形態同様の効果が得られる。
(実施例1)
[第一実施の形態]に記載の構造を有し、真空ポンプが機械式ドライポンプであり、陰極と接地電極との間隔が30mmであり、陰極の対向面のサイズが180mm×180mmであり、陰極に85個配置される凹部が直径10mm深さ40mmの円柱形であり、陰極の凹部の電位シールド板の貫通孔の中心軸が重なっており、電位シールド板の貫通孔の電位シールド板に平行な面への投影面積が陰極の凹部の電位シールド板に平行な面への投影面積の100%であり、陰極と電位シールド板との第1の間隔が1mmであり、第2の間隔が4mmであり、第1の領域の電位シールド板に平行な面への投影面積が第1の領域と第2の領域の電位シールド板に平行な面への投影面積の合計の81%であるプラズマCVD装置を用いた。
【0056】
原料ガスにSiHを使い、流量を50sccmとし、圧力を25Paとした。
【0057】
接地電極温度を210℃とし、電位シールド板温度を210℃とし、電力を50Wとする条件で、成膜を実施し、5000オングストローム(500nm)の厚みのアモルファスシリコン膜を成膜した。
成膜時、陰極の凹部すべてにプラズマが発生し、陰極中央の真下に置かれた30mm四方の基板上の膜厚分布は±10%以内であった。
(実施例2)
陰極と電位シールド板との第1の間隔が2mm、第2の間隔が1mm、第1の領域の電位シールド板に平行な面への投影面積が第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の74%であること以外は(実施例1)と同様の装置、条件でアモルファスシリコン膜を5000オングストローム(500nm)成膜した。
成膜時、陰極の凹部すべてにプラズマが発生し、陰極中央の真下に置かれた30mm四方の基板上の膜厚分布は±10%以内であった。
(比較例1)
電位シールド板に溝を配さず、第1の領域が電位シールド板に平行な面に投影した第1の領域と第2の領域の投影面積の合計の100%を占めること以外は(実施例1)と同様の装置、条件でアモルファスシリコン膜を5000オングストローム(500nm)成膜した。
成膜時、陰極の凹部のうち68個だけにプラズマが発生し、陰極中央の真下に置かれた30mm四方の基板上の膜厚分布は±17%であった。
【0058】
このことより、本発明のプラズマCVD装置が、電極の全域にわたり凹部内にプラズマを発生させることを容易とし、良好な膜厚分布が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、プラズマCVD装置およびアモルファスシリコン薄膜形成に限らず、微結晶シリコン薄膜等の各種薄膜形成、エッチング装置や、プラズマ表面処理装置などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 プラズマCVD装置
2 真空容器
3 陰極
4 凹部
5 対向面
6 排気口
7 原料ガス導入路
7a 原料ガス導入孔
8 電位シールド板
9 貫通孔
10a 第1の領域
10b 第2の領域(陰極の対向面と電位シールド板との距離が第1の領域と比べ長い)
11 接地電極
12 基板加熱機構
13 被成膜基板
14 マッチングボックス
15 高周波電源
16 直流可変電源
17 メッシュ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、該真空容器内を減圧下に保持するための排気手段と、高周波電力を印加する高周波電源と、原料ガス導入手段と、
前記真空容器内に、被成膜基板を置くための接地電極と、該接地電極と2〜500mmの間隔を空けて配置され前記高周波電源に接続された陰極と、該陰極と前記接地電極との間に配置された電位シールド板とを備えたプラズマCVD装置であって、
前記陰極は、前記接地電極に対向する側に対向面と複数の凹部とを有し、
前記電位シールド板は、前記陰極の各凹部と相対する各位置に、該各凹部の電位シールド板と平行な平面への投影面積の50〜250%の投影面積を有する貫通孔が形成されたものであり、
かつ、前記陰極と前記電位シールド板とは、最近接部の間隔が0.1〜20mmとなるよう配置され、前記陰極の対向面と前記電位シールド板との間には間隔が、0.1〜20mmである第1の領域と、凹部および/または貫通孔の間に陰極と電位シールド板との間隔が1〜30mmである連通路をなす第2の領域とが形成されるように、
陰極および/または電位シールド板に溝が形成されていることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記第1の領域と第2の領域とを電位シールド板に平行な面に投影したしたときの第1の領域の投影面積が前記第1の領域と前記第2の領域の投影面積の合計の70〜95%である請求項1のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記電位シールド板が加熱可能である請求項2のプラズマCVD装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−54377(P2012−54377A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195391(P2010−195391)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】