説明

プロキシミティヘッドの表面形状変更

【解決手段】一実施形態例では、ウェットシステムは、プロキシミティヘッドと、基板(例えば半導体ウエハ)のためのホルダとを含む。プロキシミティヘッドは、メニスカスとしての水性流体の流れをプロキシミティヘッドの表面にわたって生じさせるように構成される。プロキシミティヘッドの表面は、流れを通じて基板の表面に作用する。ヘッドの表面は、流れを閉じ込める、維持する、及び/又は促進する表面形状変更を伴った非反応性材料(例えば熱可塑性プラスチック)で構成される。表面形状変更は、(例えばダイヤモンド又はSiCの先端を伴った)円錐状のスクライブによって表面に彫り込まれてよい、又はテンプレートを使用して表面上にメルトプリントされてよい。これらの変更は、準ウィッキング又は超疎水性を生じさせえる。ホルダは、基板の表面を流れに曝す。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
半導体ウエハを処理するための一部の新しいシステムでは、熱可塑性のプロキシミティヘッドが、水性流体を堆積させる及び吸い込む穿孔の使用を通じてヘッドの表面にわたって水性流体を流動させることによって、メニスカスを形成する。このメニスカスは、半導体ウエハの表面をエッチング、洗浄、すすぎ等の工程を実施するために、半導体ウエハの表面に作用する。「Enhanced Wafer Cleaning Method(強化されたウエハ洗浄方法)」と題された共同所有の米国特許第7,329,321号を参照せよ。
【0002】
このようなシステムでは、メニスカスの流れの維持、閉じ込め、及び促進は、とりわけ、(1)例えばエッチング、洗浄、又はすすぎなど、水性流体によって実行される機能に応じて大きく異なる、システムが堆積させている水性流体の性質及び組成と、(2)堆積の流量及び吸い込みの流量などのパラメータとに依存する。
【0003】
このようなシステムでは、(プロキシミティ(近接)ヘッドに相対的に移動しているであろう)半導体ウエハの表面の上の所望の場所又は位置におけるメニスカスの流れを閉じ込める、維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることによって)促進するための、効率的で(例えば比較的安価で且つ信頼性で)尚且つ効果的なやり方が必要とされている。以下で特許請求される発明は、このような手段を提供するが、この特定の状況以外でも、広い用途を有する。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態例では、ウェットシステムは、プロキシミティヘッドと、基板(例えば半導体ウエハ)のためのホルダとを含む。プロキシミティヘッドは、(例えば水性流体)のメニスカスをヘッドの表面にわたって流れさせるように構成される。ヘッドの表面は、メニスカスを介して基板の表面に作用する。ヘッドの表面は、メニスカスの流れを閉じ込める、維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることによって)促進する表面形状変更を伴った非反応性材料(例えば熱可塑性プラスチック)で構成される。表面形状変更は、直接的に彫り込まれてよい、又はテンプレートを使用してメルトプリントされてよい。これらの変更は、準ウィッキング特性を表面に導入しえる。あるいは、適切な形状によって、超疎水性の挙動が実現可能である。
【0005】
別の実施形態例では、ウェットシステムのための自動化された方法は、2つの工程を含む。方法の第1の工程では、ウェットシステムは、(例えば水性流体の)メニスカスをプロキシミティヘッドの表面にわたって流れさせる。プロキシミティヘッドの表面は、メニスカスの流れを閉じ込める、維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることによって)促進する表面形状変更を伴った非反応性材料(例えば熱可塑性プラスチック)で構成される。表面形状変更は、直接的に彫り込まれてよい、又はテンプレートを使用してメルトプリントされてよい。これらの変更は、準ウィッキング又は超疎水性を生じえる。方法の第2の工程では、ウェットシステムは、基板(例えば半導体ウエハ)の表面をメニスカスの流れに曝す。
【0006】
別の実施形態例では、プロキシミティヘッドを製造するための自動化された又は部分的に自動化された方法は、2つの工程を含む。方法の第1の工程は、(a)水性流体を供給するための穴及び部分的真空のための穴を含む構成要素と、(b)水性流体を供給するための穴に接続された供給穿孔、及び部分的真空のための穴に接続された吸い込み穿孔を有する非反応性表面(例えば熱可塑性プラスチック)を含む構成要素とで、プロキシミティヘッドを形成することを伴う。方法の第2の工程は、供給穿孔と吸い込み穿孔との間における(例えば水性流体の)メニスカスの流れを閉じ込める/維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることよって)促進する表面形状変更を生じさせるために、非反応性表面を粗面化することを伴う。
【0007】
発明の原理を例として示した添付の図面に関連させた以下の詳細な説明から、本発明の利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1a】液体と固体表面との間の接触角を説明した簡略図である。
【0009】
【図1b】準ウィッキングを説明した2つの簡略図を含む図である。
【0010】
【図1c】超疎水性を説明した簡略図である。
【0011】
【図2】一実施形態例に従う、線形ウェットシステムにおけるプロキシミティヘッドのペアを示した簡略図である。
【0012】
【図3】実施形態例に従う、プロキシミティヘッドの様々な作用表面を示した簡略図である。
【0013】
【図4a】一実施形態例に従う、熱可塑性固体の表面が彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の比較を示した複合図である。
【0014】
【図4b】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の比較を示した複合図である。
【0015】
【図5a−1】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0016】
【図5a−2】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0017】
【図5a−3】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0018】
【図5a−4】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0019】
【図5b−1】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0020】
【図5b−2】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0021】
【図5b−3】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0022】
【図5b−4】一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。
【0023】
【図6】一実施形態例に従う、基板(例えば半導体ウエハ)の表面をメニスカスの流れに曝すためのプロセスのフローチャートである。
【0024】
【図7】一実施形態例に従う、プロキシミティヘッドの作用表面の形状に変更を生じさせるためのプロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明では、実施形態例の完全な理解を可能にするために、多くの詳細が特定されている。しかしながら、当業者ならば明らかなように、実施形態例は、これらの詳細の一部を特定しなくても実施されえる。また、実装の詳細及びプロセスの工程のうち、既に周知であるものは、詳細に説明されていない。
【0026】
図1aは、液滴と固体表面との間の接触角を説明する簡略図である。この図に示されるように、接触角θCは、固体表面100と、(a)液滴102の接線であるとともに(b)液滴102と固体表面100との交点を起点とする線101との間に形成される角度である。この図に表示されているその他の項目は、3つの異なる相(気体、液体、及び固体)に関連した界面エネルギすなわち表面エネルギを示しており、これらは、当業者ならばわかるように、ヤングの式におけるパラメータである。この図は、液体の性質に関して、例えばそれが水性であるかなどの想定をしていない。もし液滴の液体が、固体表面100に強く引き付けられる場合は、その液滴102は、固体表面100上で完全に広がり、接触角θCは、0度に近くなることがわかる。
【0027】
液体が水性である場合は、このような表面は、超親水性だとみなすことができる。それほど強い親水性ではない固体は、最大90度までの接触角を呈するのが一般的である。反対に、固体表面が疎水性である場合は、接触角は、90度を超える傾向がある。強い疎水性の表面上では、接触角は、150度、あるいは180度近くに達することがある。このような表面上では、水滴は、表面を実際にどれほども濡らすことなく単に表面上に載っているにすぎない。これらの表面は、超疎水性だとみなすことができ、例えば、微細パターンを形成されたフッ素化表面(例えばテフロン(登録商標)様のコーティングを施された表面)上で得られている。
【0028】
図1bは、準ウィッキングを説明した2つの簡略図を含む。これらの図及び「準ウィッキング」という用語は、公表文献:Jose Bico, Uwe Thiele, and David Quere, Wetting of Textured Surfaces, Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, Vol. 206, No. 1 (July 2002), pp. 41-46に由来する。ここで、ウィッキングは、毛管作用の別称であること、及びろうそくの芯の機械的性質を暗に示していることが想起される。上段の図110に示されるように、準ウィッキングは、スポンジと同程度に水滴102を吸い上げて固体表面100を親水性又は超親水性にする微小流路112を固体表面100が含むときに発生しえる。実際、高い抽象化レベルでは、準ウィッキングは、二次元のスポンジを伴ったものと考えることができる。上段の図110は、水滴102が全ての微小流路112を満たすのに十分な大きさでない場合を図示している。したがって、水滴は、dxで記された矢印によって示されるように右に移動する前部113を有する。下の図111は、水滴102が微小流路112を満たすのに十分である場合を図示している。この場合、水滴102は、親水性の表面に対して予期されるように、90度未満の明白な接触角θ*を有する。
【0029】
図1cは、超疎水性を説明した簡略図である。この図もやはり、公表文献:Wetting of Textured Surfacesに由来する。この図に描かれるように、水滴102は、固体表面100の微小流路112の上に座している。微小流路112の間には、エアポケット114があり、これらは、固体表面100を疎水性又は超疎水性にするのに役立つ。水滴102は、dxで記された矢印によって示されるように右に移動する前部113を有する。水滴102は、疎水性又は超疎水性の表面に対して予期されるように、90度を超える明白な接触角θ*を有する。近年の研究は、水性流体の低摩擦流を助長するために超疎水性が使用されえることを示唆している。例えば、Cecile Cottin-Bizonne, Jean-Louis Barrat, Lyderic Bocquet, and Elisabeth Charlaix, Low-friction Flows of Liquid at Nonpatterned Interfaces, Nature Materials, Vol. 2 (April 2003), pp. 237-240を参照せよ。
【0030】
図2は、一実施形態例に従う、線形ウェットシステムにおけるプロキシミティヘッドのペアを示した簡略図である。この図では、線形ウェットシステム200は、作用表面206aを伴う上部プロキシミティヘッド204と、作用表面206bを伴う下部プロキシミティヘッド203とを含む。これらの各プロキシミティヘッドは、半導体ウエハ202を載せるピンを伴うキャリア201によって半導体ウエハ202が直線状に運ばれる際に通過し、その表面に曝す流体メニスカス205を形成する。メニスカスの範囲は、半導体ウエハ202の表面の狭い又は広い部分を網羅しえる。この点については、2006年9月29日に出願され「Carrier for Reducing Entrance and/or Exit Marks Left by a Substrate-Processing Meniscus(基板処理メニスカスによって残される入口及び/出口マークを減らすためのキャリア)」と題された共同所有の米国特許公開出願第2008/0081775号を参照せよ。
【0031】
一実施形態例では、メニスカスは、第1の方向(例えばプロキシミティヘッドの長軸の方向)ではウエハ直径よりも広くて尚且つ第1の方向に直交する第2の方向(例えばウエハ移動の方向)では幅がおよそ2cmであってよい。一実施形態例では、流体は、脱イオン水(DIW)などの水溶液であってよい。半導体ウエハ202及びキャリア201が流体メニスカス205に対して出入りするときに、メニスカスは、それを曲げえる、引き付けえる、又はそれ以外のやり方でメニスカスの閉じ込めを崩壊させえる力に直面する。同様の力は、たとえ半導体ウエハ202がメニスカス205の内部にあるとき又はウエハが存在しないときでもメニスカスの閉じ込めを崩壊させえる。
【0032】
代替の一実施形態例では、線形ウェットシステム200は、プロキシミティヘッドのペアではなく、上部プロキシミティヘッド204のみ又は下部プロキシミティヘッド203のみを有してよい。また、代替の一実施形態例では、ウェットシステムは、線形ウェットシステムではなく、回転式又はスピン式のウェットシステムであってよい。
【0033】
図3は、一実施形態例に従う、プロキシミティヘッドの様々な作用表面を示す簡略図である。本明細書で言うプロキシミティヘッドの作用表面とは、その上方、下方、又は側方に位置する(キャリア201上の半導体ウエハ202などの)基板に(例えば水性流体を媒介として)作用するヘッドの表面である。一実施形態例では、作用表面は、ポリ塩化ビニリデン(PVDF)又はKYNAR(HYLAR若しくはSYGEFとも呼ばれる)などの非反応性熱可塑性プラスチックで作成されてよい。その他の代替の実施形態例では、作用表面は、エチレン塩化三フッ化エチレン(ECTFE)又はHALARなどの非反応性熱可塑性プラスチックで作成されてよい。また、表面形状に対する変更なしでは、KYNARなどの非反応性熱可塑性プラスチックは、超疎水性ではなく疎水性である傾向にあることもわかる。
【0034】
作用表面によって堆積される水性流体は、それ自体が反応性である、又は反応性である流体若しくは固体をエッチングする、洗浄する、若しくはすすぐと考えられるので、作用表面は、非反応性であると有利であることがわかる。しかしながら、代替の実施形態例では、作用表面は、非反応性熱硬化プラスチック又は非反応性セラミックで作成されてよい。要するに、作用表面の材料として、熱可塑性プラスチックを任意の適切な(例えば、非反応性で、尚且つ彫り込み可能な、微細加工可能な、粗面化可能な、設定可能な、成形可能ななどの)材料で置き換えることが可能である。
【0035】
図3に示されるように、作用表面206(図2より、206a又は206b)は、2セットの穿孔を含んでよい。内側の穿孔セットは、水性流体(例えばDIW)を堆積させてよく、この水性流体は、次いで、外側の穿孔セット(例えばVAC)によって吸い込まれ、内側の穿孔セットと外側の穿孔セットとの間にメニスカスの流れを形成する。この穿孔配置は、301aに示される抜粋と一致する。抜粋301b及び301cは、作用表面上の穿孔の代替配置を示している。抜粋301bでは、水性流体を吸い込むための外側の穿孔セットの上側がなく、抜粋301cでは、水性流体を吸い込むための外側の穿孔セットの下側がない。後者2つの各代替配置は、ウエハ移動に対して一方向のみではあるが、メニスカスの流れをサポートすることがわかる。
【0036】
図4a及び図4bは、一実施形態例に従う、熱可塑性固体の表面が彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の比較を示した複合図である。図4aは、熱可塑性固体の表面が彫り込まれていない場合を示している。図に示されるように、熱可塑性固体は、この一実施形態例では、KYNAR(例えばKYNAR 740)であってよい。このような固体は、固体の表面上に水滴が置かれているときに存在する液相及び固相に対して低い表面(すなわち界面)エネルギを有する。要するに、固体の表面は、疎水性である。この疎水性は、固体の表面上の(例えば0.035mlの)水滴405の写真401に示されている。固体の表面が傾いていないときは、水滴405は、表面上に載っており、表面上で広がって表面を濡らすことはしない。固体の表面が30度傾いたときは、水滴405は、表面を滑り落ちるが広がりは呈さない。三次元表面402は、固体の表面に非接触型プロフィロメータを適用した結果として得られる。二次元グラフ403は、固体の表面に接触型プロフィロメータを適用した結果として得られる。三次元表面402は、例えばおよそ+1.5ミクロンから−1.5ミクロンまでの間などの比較的狭い範囲内で表面の正規化高さが変化することを示した二次元グラフ403に合致して、比較的平坦である。
【0037】
図4bは、準ウィッキングを生じさせるために熱可塑性固体の表面が彫り込まれた場合を示している。図に示されるように、彫り込みは、以下で更に詳しく説明されるように、表面内に小さい(又は微小な)流路を彫り込んだ結果として得られてよい。彫り込みゆえに、固体の表面は親水性である。この親水性は、固体の表面上の(例えば0.035ml)の水滴413の写真410に示されている。固体の表面が傾いていても傾いていなくても、水滴413は、表面上で広がる。三次元表面411は、固体の表面に非接触型プロフィロメータを適用した結果として得られる。二次元グラフ412は、固体の表面に接触型プロフィロメータを適用した結果として得られる。三次元表面411は、例えばおよそ+20ミクロンから−15ミクロンまでの間(例えば彫り込まれた流路がおよそ30ミクロンから35ミクロンまでの範囲の深さである)などの比較的広い範囲内で表面の正規化高さが変化することを示した二次元グラフ403に合致して、数々の頂点と谷底とを含む。
【0038】
熱可塑性表面の準ウィッキングは、以下で更に論じられるように、様々なやり方で得られてよい。例えば、(頂点と谷底又は柱と溝からなる)所望のパターンは、表面を直接的に彫り込む(例えばマクロ加工する)ことによって、又は所望のパターンのネガを伴うように予め加工された(例えば不活性金属若しくはセラミックで作成された)テンプレートすなわちマスタを使用して表面上に所望のパターンをメルトプリントすることによって得られてよい。代替の実施形態例では、熱可塑性の表面は、Scotch-Brite(商標)などの研磨材料を使用して粗面化されてよいが、任意の適切な研磨材料で代用することが可能である。
【0039】
図4a及び図4bに示された実施形態例では、KNYNARの表面内の小さな(又は微小な)流路は、例えば、60度の円錐状で尚且つダイヤモンド又は炭化ケイ素すなわちSiCで先端を作成された円錐状のスクライブ(例えば「光ファイバ」スクライブ)などのスクライブによって形成されてよいが、この目的には、別の類似のスクライブ(例えばくさび状のスクライブ)も適しているであろう。実施形態例では、これらの流路は、対象範囲内に1mmごとに彫り込まれたおよそ10〜30本の直線であってよい。そして、これらの各直線は、およそ30〜150ミクロンの深さであってよい。
【0040】
プロキシミティヘッドの作用表面と併せて使用されるときは、準ウィッキングを実現するために、メニスカスの流れの方向に直線を彫り込んでよい。(その他の実施形態例では、線は、真直ぐでなくてよく、任意の適切な向き、パターン、又は構成をとってよい。)このような準ウィッキングは、水性流体の堆積及び吸い込みのための穿孔の使用数を少なくして作用表面を濡らすことを可能にしえる。これは、ひいては、プロキシミティヘッド内部における流体供給網の複雑さを軽減する。同様に、このような準ウィッキングは、濡らされた表面の単位面積あたりの総液体流量を低くしえるとともに、基板にわたる流れの均一性を向上させえる(例えば、メニスカスは、容易に拡大し、それが占有するように設計された作用表面上の全体積を満たす)。また、液体は、平坦な疎水性表面上よりも、準ウィッキングを伴った作用表面上を流れやすいので、準ウィッキングは、メニスカスの維持及び/又は閉じ込めに役立つ。そして、作用表面は、より容易に濡らされるので、メニスカスの三相接触線は、その表面上を自由に移動し、メニスカス下に気泡が捕捉される可能性を引き下げ、これは、ひいては、完全に展開されたメニスカスを得るのに役立つ。他で論じられたように、同様な利点は、低摩擦流を助長する超疎水性によっても得られるであろう。
【0041】
図5a−1、5a−2、5a−3、5a−4及び図5b−1、5b−2、5b−3、5b−4は、一実施形態例に従う、熱可塑性固体がその表面を彫り込まれている場合及び彫り込まれていない場合の表面性状パラメータの比較を示した複合図である。図5aは、熱可塑性固体(例えばKYNAR 740)がその表面を彫り込まれていない場合を示している。この図における表面性状パラメータの値は、図4a及び図4bに示されたデータを得るために使用された接触型プロフィロメータではなく、垂直走査干渉計によって測定された。
【0042】
図5a−2は、5つの標準的な粗度パラメータの値を示している。(a)Raは、平均表面粗度すなわち平均偏差であり、およそ15.82マイクロインチ(約0.4012ミクロン)の値を有する。(b)Rqは、高さ分布の二乗平均平方根すなわち一次モーメントであり、およそ19.85マイクロインチ(約0.5042ミクロン)の値を有する。(c)Rtは、サンプル上における最大の頂点−谷底間高さであり、およそ234.21マイクロインチ(約5.9489ミクロン)の値を有する。(d)Rskすなわち歪度は、高さ分布の二次モーメントであり、およそ−0.49の値を有する。(e)Rkuすなわち尖度は、高さ分布の三次モーメントであり、(0から8までの段階評価で)およそ3.36の値を有する。図5a−1は、固体の表面上に、その表面上で広がって表面を濡らすことなく水滴501が載っている写真を示している。図5a−3は、(ミルを単位とした)正規化高さに関してほとんど分散を示さないヒストグラム502であり、例えば、表面は、比較的平坦である。この平坦具合は、三次元表面504に表されている。
【0043】
図5a−4は、x軸上におけるパーセンテージ(例えばデータカットパーセント)及びy軸上におけるミルを単位とした高さ(およそ+0.041ミルからおよそ−0.06ミルまでにわたる)として表された支持比のグラフ503を示している。支持比は、任意の指定の深さにおける支持表面の長さ対評価長さの比である。支持比は、支持表面に対する摩耗の影響をモデル化している。
【0044】
図5aには、パラメータV1及びV2も示されている。パラメータV1は、およそ0.47マイクロインチ(約0.012ミクロン)の値を有する。パラメータV1は、導入期間中に除去される材料の量であり、支持比分析の一環をなしている。パラメータV2は、およそ1.73マイクロインチ(約0.0439ミクロン)の値を有する。パラメータV2は、残留する潤滑剤の見込み量であり、やはり支持比分析の一環をなしている。
【0045】
図5bは、準ウィッキングを生じさせるために熱可塑性固体(例えばKYNAR 740)がその表面を例えば上述の円錐状のスクライブを使用して彫り込まれた場合を示している。繰り返して言うが、この図における表面性状パラメータの値は、垂直走査干渉計によって測定された。図5b−2は、5つの標準的な粗度パラメータの値を示している。(a)Raは、およそ178.19マイクロインチ(約4.5260ミクロン)の値を有する。(b)Rqは、およそ250.56マイクロインチ(約6.3642ミクロン)の値を有する。(c)Rtは、およそ2.16ミル(例えば2160マイクロインチ、約54.9ミクロン)の値を有する。(d)Rskは、およそ1.67の値を有する。(e)Rkuは、(0から8までの段階評価で)およそ6.65の値を有する。
【0046】
図5a−2に示された対応するパラメータ値との比較で見ると、これらのパラメータ値は、大幅に粗度が増した表面性状を示している。図5b−1は、また、彫り込まれた表面上に水滴514が広がっている写真も示している。図5b−3は、(ミルを単位とした)正規化高さに関してかなりの分散を示したヒストグラム511であり、例えば、表面は、比較的ぎざぎざである。このぎざぎざ具合は、三次元表面513に表されている。図5b−4は、x軸上におけるパーセンテージ及びy軸上におけるミルを単位とした高さ(およそ+1.2ミルからおよそ−0.6ミルまでにわたる)として表された支持比のグラフ512を示している。
【0047】
図5bには、パラメータV1及びV2も示されている。パラメータV1は、およそ50.06マイクロインチ(約1.272ミクロン)の値を有する。パラメータV2は、およそ4.28マイクロインチ(約0.109ミクロン)の値を有する。
【0048】
(a)上述の彫り込み(微細加工)、メルトプリント、及び粗面化は、準ウィッキングはもちろん超疎水性を生じさせるためにも使用されえること、並びに(b)他で説明されたように、メニスカスの流れを閉じ込める、維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることによって)促進するために、準ウィッキングの代わりに超疎水性が使用されえることがわかる。超疎水性を生じさせるための一実施形態例として、公表文献:David Quere, Surface Chemistry: Fakir Droplets, Nature Materials, Vol. 1 (September 2002): pp. 14-15に記載されるように、幅がおよそ50ミクロンの柱と、幅がおよそ100ミクロンで且つ深さがおよそ148ミクロンの溝とを有することが挙げられる。
【0049】
図6は、一実施形態例に従う、基板(例えば半導体ウエハ)の表面をメニスカスの流れに曝すためのプロセスのフローチャートである。プロセスの第1の工程601では、(例えば線形又は回転式)ウェットシステムは、供給穿孔及び吸い込み穿孔と、メニスカスの流れを閉じ込める、維持する、及び/又は促進するための形状的変更とを伴う作用表面を有するプロキシミティヘッドに水性液体を注入する。一実施形態例では、これらの形状的変更は、他で説明されたように、準ウィッキングをサポートする彫り込み/インプリント/粗面化された微小流路を含んでよい。代替の実施形態例では、これらの形状的変更は、やはり他で説明されたように、低摩擦流につながる超疎水性を生じさせる彫り込み/インプリント/粗面化された微小流路を含んでよい。
【0050】
プロセスの第2の工程602では、ウェットシステムは、吸い込み穿孔に真空を施すことによって作用表面にわたってメニスカスの流れを生じさせる。プロセスの第1及び第2の工程は、一実施形態例では、ほぼ同時に起きてよいことがわかる。プロセスの第3の工程603では、ウェットシステムは、基板(例えば半導体ウエハ)の表面をプロキシミティヘッドの作用表面の下及び/又は上に位置決めする。次いで、プロセスの第4の工程604では、ウェットシステムは、基板の表面をエッチングする、洗浄する、又はすすぐためにメニスカスの流れを使用する。繰り返して言うが、プロセスの第3及び第4の工程は、一実施形態例では、ほぼ同時に起きてよいことがわかる。
【0051】
図7は、一実施形態例に従う、プロキシミティヘッドの作用表面の形状に変更を生じさせるためのプロセスのフローチャートである。プロセスの第1の工程701では、プロキシミティヘッドは、(1)水性流体を供給するための穴及び部分的真空のための穴を伴った構成要素と、(2)(a)水性流体を供給するための穴に接続された供給穿孔及び(b)部分的真空のための穴に接続された吸い込み穿孔を有する作用表面(例えば水性流体を媒介として基板に作用する)を伴った構成要素とで、プロキシミティヘッドが形成される。一実施形態例では、プロキシミティヘッドの形成は、2つの構成要素を熱的に接合する自動化された又は部分的に自動化されたシステムによって実施されてよい。
【0052】
プロセスの第2の工程702では、供給穿孔と吸い込み穿孔との間における(例えば水性流体の)メニスカスの流れを閉じ込める/維持する、及び/又は(例えば広がりを助長する若しくは摩擦を低減させることによって)促進する表面形状変更を生じさせるために、作用表面が粗面化される。繰り返して言うが、作用表面の粗面化は、(a)準ウィキングをサポートする又は(b)超疎水性を生じさせる微小流路を彫り込む又はインプリントする自動化された又は部分的に自動化されたシステムによって実施されてよい。代替の実施形態例では、粗面化は、Scotch-Brite(商標)などの研磨材料によって実現されてよい。
【0053】
以上の実施形態例は、理解を明瞭にする目的で幾らか詳しく説明されてきたが、添付の特許請求の範囲内において、特定の変更及び修正が実施されてよいことは明らかである。例えば、代替の実施形態例では、メニスカスの流れの中の流体は、親水性又は疎水性に類似した挙動を呈する非水性流体であってよい。あるいは、代替の実施形態例では、プロキシミティヘッドは、熱可塑性プラスチックでも熱硬化プラスチックでもセラミックでもない不活性(又は比較的不活性な)材料で作成されてよい。したがって、実施形態例は、例示的であって限定的ではないとみなされ、発明は、ここで与えられた詳細に限定されず、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内で変更されえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロキシミティヘッドであって、メニスカスとしての水性流体の流れを前記プロキシミティヘッドの表面にわたって生じさせるように構成され、前記プロキシミティヘッドの前記表面は、前記流れを介して基板の表面に作用し、前記プロキシミティヘッドの前記表面は、前記流れを変化させる表面形状変更を伴う材料で構成される、プロキシミティヘッドと、
前記基板のためのホルダであって、前記基板の前記表面を前記流れに曝すホルダと、
を備える装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記流れに対する前記変化は、前記流れを閉じ込める、維持する、及び促進する変化からなる群より選択された1つ又は2つ以上の変化を含む、装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部をより親水性にする、装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部に準ウィッキングを呈させる、装置。
【請求項5】
請求項3に記載の装置であって、
前記変更は、直接的な彫り込みを通じて前記プロキシミティヘッドの前記表面に切り込まれた溝を含む、装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置であって、
前記変更は、ダイヤモンド及びSiCからなる群より選択される先端を有する円錐状のスクライブによって前記プロキシミティヘッドの前記表面に切り込まれた溝を含む、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部をより疎水性にする、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部に超疎水性を生じさせる、装置。
【請求項9】
請求項7に記載の装置であって、
前記変更は、フォト加工されたテンプレートによって前記プロキシミティヘッドの前記表面上に形成されるパターンを含む、装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置であって、
前記テンプレートをフォト加工するためにレーザが使用される、装置。
【請求項11】
メニスカスとしての水性流体の流れをプロキシミティヘッドの表面にわたって供給し、前記表面は、前記流れを変化させる表面形状変更を伴う材料で構成され、
基板の表面を前記流れに曝すこと、
を備える方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記流れに対する前記変化は、前記流れを閉じ込める、維持する、及び促進する変化からなる群より選択された1つ又は2つ以上の変化を含む、方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、
前記表面形状変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部をより親水性にする、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部に準ウィッキングを呈させる、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記変更は、直接的な彫り込みを通じて前記プロキシミティヘッドの前記表面に切り込まれた溝を含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記変更は、ダイヤモンド及びSiCからなる群より選択される先端を有する円錐状のスクライブによって前記プロキシミティヘッドの前記表面に切り込まれた溝を含む、方法。
【請求項17】
請求項11に記載の方法であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部をより疎水性にする、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
前記変更は、前記プロキシミティヘッドの前記表面の少なくとも一部に超疎水性を生じさせる、方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、
前記変更は、フォト加工されたテンプレートによって前記プロキシミティヘッドの前記表面上に形成されるパターンを含む、方法。
【請求項20】
水性流体を供給するための少なくとも1つの穴及び部分的真空のための少なくとも1つの穴を含む第1の構成要素と、前記水性流体を供給するための少なくとも1つの穴に接続された供給穿孔及び前記部分的真空のための少なくとも1つの穴に接続された吸い込み穿孔を有する表面を含む第2の構成要素とで、プロキシミティヘッドを形成することと、
前記供給穿孔と前記吸い込み穿孔との間におけるメニスカスとしての前記水性流体の流れを変化させる表面形状変更を生じさせるために、前記表面を粗面化することと、
を備える方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a−1】
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【図5a−2】
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【図5a−3】
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【図5a−4】
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【図5b−1】
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【図5b−2】
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【図5b−3】
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【図5b−4】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−527785(P2012−527785A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512082(P2012−512082)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035874
【国際公開番号】WO2010/135719
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(592010081)ラム リサーチ コーポレーション (467)
【氏名又は名称原語表記】LAM RESEARCH CORPORATION
【Fターム(参考)】