光検査方法及びその装置
【課題】
光検査装置において、検出する光が微弱な場合に問題となる量子ノイズの影響を抑制する。
【解決手段】
光検査装置を、試料に光を照射する光照射手段と、参照光を発射する参照光手段と、光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、試料からの透過光または散乱光または反射光の状態または参照光手段から発射された参照光の状態または光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも一つを変換する光変換手段とを備えて構成した。
光検査装置において、検出する光が微弱な場合に問題となる量子ノイズの影響を抑制する。
【解決手段】
光検査装置を、試料に光を照射する光照射手段と、参照光を発射する参照光手段と、光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、試料からの透過光または散乱光または反射光の状態または参照光手段から発射された参照光の状態または光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも一つを変換する光変換手段とを備えて構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を試料に照射してその反射光を検出することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板や薄膜基板等の製造ラインにおいて、製品の高い歩留まりを得るために、試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置が広く用いられている(例えば、特許文献1、2)。一般に光検査装置では、数十μmの幅に集光した光を試料表面上に照射し、欠陥からの透過光または散乱光または反射光を集光・検出して欠陥検出を行う。現在実用化されている装置では、数十nm以上の欠陥を検査することができる。
【0003】
一方、微細加工技術の進歩に伴い、より微小な欠陥を検査したいという要求が高まっている。微小な欠陥では、照明光が照射された欠陥から得られる光は微弱となるため、より高感度で高性能な欠陥検出技術が必要となる。特に、微弱光では量子ノイズと呼ばれる量子力学の不確定性原理に基づく不可避な揺らぎの影響が無視できなくなるため、量子ノイズの影響を抑えることが重要となる。
【0004】
この微小な欠陥を検出する方法として、例えば特許文献3に記載されているような、ホモダイン検出やヘテロダイン検出のように試料から得られる光と参照光との振幅差・位相差に関する情報に基づいて欠陥の有無を識別する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−304289号公報
【特許文献2】特開2006−201179号公報
【特許文献3】特開2007−232667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の装置では、まず参照光と干渉させた光を検出器により電気信号に変換した後、得られた電気信号に対して欠陥検出を行っていた。この際、検出器により光を検出した後では本質的に量子ノイズの影響を抑制することはできないため、検出前に量子ノイズの影響を抑制する処理が必要となる。しかし、従来では、参照光との干渉において量子ノイズの影響を抑制するための変換がされていなかったため、光量が微弱になると良好な欠陥検出性能が得られなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、以下の光検査方法及びその装置により前記課題を解決する。
すなわち、本発明では、光検査装置を、試料に光を照射する光照射手段と、参照光を発射する参照光手段と、光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、試料からの透過光または散乱光または反射光の状態または参照光手段から発射された参照光の状態または光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも一つを変換する光変換手段とを備えて構成した。
【0008】
このように、光を検出する前に光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出感度を向上する、あるいは、欠陥検出感度を維持した上で検査時間を短縮することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記光変換手段において、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更することを特徴とする。
【0010】
量子ノイズの影響を受けにくい参照光の位相は、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類によって異なる。これに対し、本発明により、参照光の位相を要求値に応じて最適化することができる。
【0011】
また、本発明は、前記光変換手段において、欠陥がある場合とない場合の少なくとも一つにおいて試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を計算し、前記量子状態に基づいて前記参照光の位相を変更することを特徴とする。
【0012】
このように、識別したい状態を量子状態としてモデル化することにより、量子ノイズの影響を考慮して参照光の位相を適切に最適化することができる。この際、欠陥がある場合における量子状態を計算することにより、欠陥がある場合に正しく検出する確率(検出正解率)を制御することができるし、欠陥がない場合における量子状態を計算することにより、欠陥がない場合に誤って欠陥があると識別してしまう確率(虚報率)を制御することができる。欠陥がある場合とない場合両方の場合における量子状態を計算すれば、検出正解率と虚報率を制御することができる、高い適切な検出を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、前記光変換手段において、前記参照光、または前記参照光を干渉させる前の光、または前記参照光を干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いることにより、前記欠陥識別手段において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換することを特徴とする。
【0014】
欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換するためには、非線形変換が必要であることが知られている。非線形変換とは、出力光を表す電磁場が、入力光を表す電磁場に比例しないような変換である。従来の光学媒質では強い非線形光学効果を得ることは困難であったが、近年研究開発が盛んに行われているフォトニック結晶により、強い非線形光学効果が得られることが知られている。フォトニック結晶を光検査装置に適用して、検出器の前に設置することにより、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換し、量子ノイズの影響を抑えることができる。
【0015】
また、本発明は、前記光変換手段において、前記欠陥識別手段において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように前記参照光に対してフォトニック結晶を用いて光の状態を変換することを特徴とする。
【0016】
微小な欠陥を検出するためには、試料から散乱または反射された光に含まれる欠陥からの微弱な信号を検出する必要がある。しかし、光の状態を変換すると、光学媒質の材質の不均一性や光軸調整の精度不足などの要因のため、光変換手段により少なからず意図しない擾乱を与えてしまう。本発明では、欠陥からの微弱な信号を含む光に対しては光変換手段により光の状態を変更することはせず、参照光に対してのみ光変換手段により光の状態を変更することにより、擾乱による性能低下を防ぐことができる。
【0017】
また、本発明は、前記欠陥識別手段において、欠陥の有無だけでなく欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする。
【0018】
試料から散乱または反射された光には、欠陥の有無だけでなく欠陥の種類に関する情報も含まれる。欠陥検出と同様の装置構成において、欠陥の種類に関する多くの情報が得られるように光変換手段を用いて光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑えながら欠陥の種類に関する情報も得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、参照光を干渉させることにより試料から透過または散乱または反射された光の状態を変換する光変換手段において、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施例における光検査装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図2A】図2Aは、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり状態を調整する光変換手段106を備えていない場合における確率分布である。
【図2B】図2Bは、図2Aのグラフ201と比較してそれぞれの確率分布213、214の平均の差232を大きくすることにより、確率分布の重なり232の面積を小さくした状態を示すグラフである。
【図2C】図2Cは、それぞれの確率分布の平均の差233は図2Aの差231と同じであるが、確率分布の形状を変えることにより、確率分布の重なり223の面積を小さくした状態を示すグラフである。
【図3】図3は、図1で説明した光変換手段106に替えて光変換手段306を設けて、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更して調整できるように構成した光検査装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、欠陥サイズと検出率の関係の概略を示したグラフである。
【図5A】図5Aは、ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図5B】図5Bは、バランス型ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図5C】図5Cは、ヘテロダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、位相シフタを備えて光変換手段を構成した実施例における光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図7A】図7Aは、欠陥の形状や種類の例を示すパターン又は欠陥の断面図である。
【図7B】図7Bは、欠陥がある場合と無い場合における対象光の状態を表す位相空間表現の例で、対象光がxc軸とxs軸とで等方的な揺らぎを持っている状態を示すグラフある。
【図7C】図7Cは、欠陥がある場合と無い場合における対象光の状態を表す位相空間表現の例で、対象光がxc軸とxs軸とで異なる揺らぎを持っている状態を示すグラフある。
【図8】図8は、参照光の位相を変えることにより量子ノイズの影響を抑えられることを示した検出信号の平均値とその確率分布を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図である。
【図9B】図9Bは、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図で、欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域922、欠陥がある場合の対象光の状態を実線の領域923で示している。
【図9C】図9Cのグラフ904は、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図で、欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域931、欠陥がある場合の対象光のうち、欠陥の種類が欠陥Aの場合の対象光の状態を破線の領域932、欠陥の種類が欠陥Bの場合の対象光の状態を実線の領域933で示している。
【図10】図10は、光の位相シフト量を変更する位相シフタの概略の構成を示すブロック図である。
【図11A】図11Aはホモダイン検出に対応する構成で、対象光と参照光を光干渉手段で干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いた非線形変換器で非線形変換を行い、この非線形変換された干渉光を検出器で検出する構成を示す。
【図11B】図11Bはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、対象光と参照光を光干渉手段で干渉させた後の光に対して、それぞれフォトニック結晶を用いた非線形変換器で非線形変換を行ってそれぞれの干渉光を検出器で検出し出力信号の差を演算器で算出する構成の例を示す図である。
【図11C】図11Cはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、図11Bの構成に対して、さらに対象光と参照光に対しても非線形変換を行う例を示す図である。
【図11D】図11Dはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、参照光に対して非線形変換を行う例を示す図である。
【図12A】図12Aは、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に周期を乱す構造を意図的に導入することにより、導波路や光の閉じ込めなどの機能を実現したフォトニック結晶の構造に関する例を示す図である。
【図12B】図12Bは、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に周期を乱す線状の領域を2つ意図的に導入することにより、これら2つの線状の領域を導波路として機能させたフォトニック結晶の構造に関する例を示す図である。
【図13A】図13Aは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の構成の例を示すブロック図である。
【図13B】図13Bは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の具体的な構成の一実施例を示すブロック図である。
【図14】図14は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段を示すブロック図である。
【図16A】図16Aは、非線形変換を行わなかった場合の欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態を表す位相空間表現のグラフである。
【図16B】図16Bは、非線形変換を行った場合の欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態を表す位相空間表現のグラフである。
【図17A】図17Aは、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備え落射照明により欠陥を検出する光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図17B】図17Bは、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備え斜方照明により欠陥を検出する光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18A】図18Aは、照明光学系に近接場光照明手段を用い、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備えた光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18B】図18Bは、照明光学系に先端部分から近接場光を放出する近接場ヘッドを有する照明手段を用い、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備えた光検査装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置に係り、特に検出する光が微弱な場合に問題となる量子ノイズの影響を抑制する光検査装置および検査方法を提供することにある。以下、本発明に係る実施の形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
[図1説明]図1は、実施例1における光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置101の一例を示す図である。
【0023】
光検査装置101は、試料111に光を照射する光照射手段102と、試料から散乱または反射された光と参照光光源手段113から発射された参照光を干渉させる光干渉手段103と、干渉後の光を検出する光検出手段104と、干渉光を検出した光検出手段104から出力された検出信号を処理して欠陥の有無の識別を行う欠陥識別手段105を備えて構成される。光照射手段102から試料111に照射する光は、空間分解能を高めるため試料111上で集光させ、その集光した光を試料上で走査することが多いが、これに限らない。光干渉手段103では、通常ビームスプリッタ(BS)112を用いて、試料111からの反射光のうちビームスプリッタ(BS)112を透過した反射光と参照光光源手段113から発射された光のうちビームスプリッタ(BS)112で反射した参照光を干渉させる。
【0024】
さらに、光検査装置101は、欠陥の有無のそれぞれに対応する検出信号に対する確率分布の重なりが小さくなるように、光を変換する光変換手段106を有する。図1に示した構成では、光変換手段106を参照光光源手段113から発射された参照光の光路上に配置して参照光の状態を変換する例を示してあるが、光変換手段106は、試料からの反射光の光路上に設置して反射光の状態を変換するようにしても良く、または光干渉手段103と光検出手段104との間に配置して干渉後の光の状態を変換するようにしても良い。
【0025】
[図1効果]このように、光を検出する前に光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出感度を向上する、あるいは、欠陥検出感度を維持した上で検査時間を短縮することが可能となる。
【0026】
[図1補足]なお、光照射手段102では、用途等に応じて適した光を照射すれば良い。例えば、単一の発振周波数を持つレーザ光であっても良いし、複数の発振周波数を持っていても良い。また、断続的な光であるパルス光であっても良いし、連続的な光であっても良い。光の状態が偏光していても良いし、光の振幅・位相・周波数のいずれかが変調していても良い。通常のレーザ光の状態であるコヒーレント状態の光であっても良いし、スクイーズド状態の光であっても良い。
【0027】
また、図1に示した構成では、光照射手段102と参照光光源手段113とが分離されていて別々の光源を備えている構成となっているが、光照射手段102と参照光光源手段113とは光源を共有するように構成しても良い。
【0028】
光干渉手段103では、一種類の参照光のみと干渉させるだけでなく、二種類以上の参照光と干渉させても良い。参照光光源手段113から発射される参照光の光の種類は、光照射手段102から試料111に照射する光と同じでなくとも良い。例えば、光照射手段102ではコヒーレント状態の光を照射して、参照光光源手段113からはスクイーズド状態の光を発射するようにしても良い。
【0029】
光検出手段104では、検査のスループット向上のため、検出器をアレイ状に並べることも多いが、これに限らない。光検出手段104の出力である検出信号は、通常は電気信号である。欠陥識別手段105では、アナログまたはディジタルの電気回路により、欠陥の有無を識別する。欠陥識別手段105では、欠陥の有無のみでなく、欠陥の種類を識別するような処理を行っても良い。
【0030】
[図2説明]図2A乃至図2Cは、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりを表す一実施例図である。図2Aのグラフ201は、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり状態を調整する光変換手段106を備えていない場合における確率分布である。欠陥がある場合の確率分布を実線で、欠陥がない場合の確率分布を破線で表している。横軸は光検出手段104で検出される検出信号I、縦軸は確率Pである(検出信号が連続値の場合には縦軸は確率密度を表す)。確率分布がインパルス関数の場合には、検出信号には不確定さはないが、実際には検出信号は各種ノイズ等の影響により不確定さを持つ。特に検出する光が微弱な場合には量子ノイズによる揺らぎの影響が支配的となる。
【0031】
欠陥がある場合の確率分布211: P1(I)と欠陥がない場合の確率分布212: P0(I)は、重なり221を持っている。距離231は、それぞれの確率分布の平均の差を表している。検査を行うと、この確率分布にしたがって検出信号Iの値が決まる。欠陥ありの場合と欠陥なしの場合の事前確率が等しい場合、平均誤り率が最も少ない欠陥識別を行うためには、得られた検出信号xに対して、P1(x)>P0(x)ならば欠陥あり、P1(x)<P0(x)ならば欠陥なしと判定すれば良い。一般には、事前確率は等しくはなく、また平均誤り率ではない別の評価基準で欠陥識別を行いたい場合も多い(例えば、虚報率を一定値以下に抑えた上でできるだけ欠陥を検出したい等)。しかし、いずれの場合にも、それぞれの確率分布の重なり221の面積はできるだけ小さいほうが望ましい。
【0032】
図2Bのグラフ202は、図2Aのグラフ201と比較してそれぞれの確率分布213、214の平均の差232を大きくすることにより、確率分布の重なり222の面積を小さくしている。また、図2Cのグラフ203は、それぞれの確率分布の平均の差233は差231と同じであるが、確率分布の形状を変えることにより、確率分布の重なり223の面積を小さくしている。グラフ203の例では、欠陥がある場合の確率分布215は確率分布211と同じだが、欠陥がない場合の確率分布216の形状を確率分布212と比べて変化させている。さらに、欠陥がある場合の確率分布の形状を変えることもできる。
【0033】
[図2効果]光変換手段106で検出前の光を適切に変換することにより、このように、確率分布の平均の差を大きくするか、確率分布の形状を変える、またはその両方の効果を得ることが可能である。これにより、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができ、欠陥識別を高精度に行えるようになる。
【0034】
[図2補足]なお、図2A乃至図2Cでは検出信号はスカラー値としたが、複数の検出器を用いて検出信号をベクトル値で表すこともできる。例えば、一般に広く用いられているヘテロダイン受信方式では、検出信号は2個のスカラー値からなるベクトル値で表される。以下、特に断りのない限り、検出信号はスカラー値であるとして説明する。
【0035】
[図3説明]図3は、光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置の構成を示す図である。図3に示した構成は、図1で説明した光変換手段106に替えて光変換手段306を設け、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更して調整できるように構成したことを特徴とする。
【0036】
図1と同一の手段については、図1と同じ番号で示してある。以下、同一の手段やデータ等を表す場合には、同一の番号を振って示すものとする。図3に示した構成では、光変換手段306に欠陥検出感度の要求値を表す要求感度または要求スループットまたは検出対象とする欠陥の種類を表す要求値311を入力している。光変換手段306は、参照光光源手段113から発射された参照光の位相を制御するための位相制御器301および参照光の位相をシフトするための位相シフタ302を備えている。図7〜図10で後述するように、要求感度、要求スループット、欠陥種類毎に、光干渉手段103にて干渉させる参照光の最適な位相は異なるため、光変換手段306において、これらの情報に基づいて参照光の位相を変更する。
【0037】
参照光光源手段113から発射された[図3効果]参照光の位相を変えることは、図2において、欠陥ありの場合と欠陥なしの場合の確率分布の平均の差を変える効果がある。これにより、それぞれの確率分布の平均の差をできるだけ大きくした上での検出が可能となり、量子ノイズの影響を抑制することが可能となる。
【0038】
[図3補足]なお、図3に示した構成では、参照光光源手段113から発射された参照光の位相を光変換手段306で変更して調整する構成について説明したが、光照射手段102により光が照射された試料111からの反射光の位相を変えるように、例えば光変換手段306を光照射手段102と試料111との間に配置して、光照射手段102から試料111に照射する光の位相を変更して調整できるような構成であっても良い。また、光変換手段306を光干渉手段103と光検出手段104との間に設置して、干渉後の光の位相を変更して調整できるように構成しても良い。
【0039】
[図4説明]図4は、欠陥サイズと検出率の関係の概略を示したグラフである。横軸が欠陥サイズ、縦軸が検出率を表す。一般に、(同様の形状・材質であれば)欠陥サイズが大きいほど、欠陥からの光の光量は大きくなるため、高い検出率を得ることができる。グラフ411、412は、それぞれ欠陥サイズがA、Bの場合にできるだけ高い検出率を得るために参照光の位相を調整した場合の性能を表す。欠陥サイズがA、Bの場合に、それぞれ点401、402で示した検出率が得られる。しかし、参照光の位相を調整しない限りそれらの性能を両立させることはできない。一方、要求する欠陥サイズ(すなわち、要求感度)は、用途により異なる。例えば、サイズAより大きい欠陥を検出できるような高感度な検出を行う必要がある場合もあるし、サイズBより大きい欠陥が検出できれば良い場合もある。
【0040】
[図4効果]そこで、要求感度に応じて図1や図3に示した構成で光の状態を変換することにより、それぞれの要求に適した性能を得ることができる。検出器(光検出手段104)に到達する光の量を増やすことにより欠陥の検出率を上げることはできるが、光量を増やすためには通常スループットが犠牲になる。これに対して本実施例の用に光の状態を調整することにより、感度とスループットまたは検出率の両立を実現することができる。要求スループットや検出対象とする欠陥の種類に対してもトレードオフの関係があるが、同様に光の状態を適切に変更することにより良好な性能を得ることができる。
【0041】
[図5説明]図5A〜図5Cは、図1における光干渉手段103および光検出手段104の変形例を示す図である。以下、光照射手段102で光が照射された試料111からの反射光を対象光と呼ぶ。また、参照光光源手段113から発射された光を参照光と呼ぶ。
【0042】
図5Aは、ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光511のうちビームスプリッタ501(図1又は図3のビームスプリッタ112に相当)を透過した光と参照光513のうちビームスプリッタ501を透過した光とは干渉し、干渉後の光を検出器502(図1又は図3の光検出手段104に相当)により検出して検出信号512を出力する。ビームスプリッタ501は、光の偏光状態によって反射率が変わる偏光ビームスプリッタであっても良い。
【0043】
図5Bは、バランス型ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光531と参照光533をビームスプリッタ521(透過率50%のハーフビームスプリッタ)を用いて干渉させる。干渉後の光534、535をそれぞれ検出器522、523で検出し、演算器524で、検出された各々の信号の差を求める。演算器524の出力を検出信号532とする。
【0044】
図5Cは、ヘテロダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光551と参照光554をビームスプリッタ541を用いて干渉させ、干渉後の光555、556に対して、それぞれホモダイン検出542、543を行うことによって、二種類の検出信号552、553を得る。ホモダイン検出542、543はそれぞれ、図5Aで説明した構成を用いる。
【0045】
図5A〜図5Cで説明した検出方法では、参照光の量子的揺らぎが抑制されて対象光の振幅や位相に関する情報が検出信号に現れるため、検出信号を用いて欠陥検出を行うことができる。
【0046】
[図6説明]図6は、図5A〜図5Cで説明した光干渉手段および光検出手段に対して、さらに光変換手段を加えた構成の例を示す図である。この図6に示した構成は、図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出系に図3で説明した光変換手段306を組合わせた構成となっており、要求感度に応じて参照光の位相を変更することができる。
【0047】
対象光611の平均振幅が時間tの関数としてAsin(wt+k)と表せるとする(A>0は最大振幅、wは角周波数)。欠陥がない場合にはk=0、欠陥がある場合にはk=αと、欠陥の有無によって対象光の位相kが変わるものとする。ただし、対象光の振幅は、量子ノイズ等による揺らぎを含む。そこで、検出信号から位相kを推定し、欠陥の有無を識別したい。参照光の平均振幅をBsin(wt)と表せるとする(B>0)。要求感度613が入力された位相制御器605により制御された位相シフタ606により、参照光612は光614のようにBsin(wt+θ)に変換されるとする。対象光611と位相シフタ606で位相制御された参照光614とはハーフビームスプリッタ601でそれぞれ光量の半分が反射し半分が透過してそれぞれ干渉光を発生し、これらの干渉光がそれぞれ検出器602と603で検出される。検出器602と603からの出力は演算器604に入力して演算され、検出信号615として出力される。この場合、バランス型ホモダイン検出を行うと、検出信号Iの平均値<I>はABcos(α−θ)に比例する。θは既知であるため、ABの積を予め測定しておけば対象光の位相kを推定することができる。
【0048】
[図8説明]次に図8を用いて、図6の例において量子ノイズの影響を抑えるために参照光の位相θを適切な値に設定する必要があることを示す。量子ノイズが支配的であるような微弱光の場合を考える。グラフ801は、図6における参照光612の位相シフト量θと検出信号の平均値<I>∝cos(α−θ)との関係を示した図である。グラフ811、812は、それぞれ、欠陥がある場合(k=α)と欠陥がない場合(k=0)のグラフである。この例では、0<α<π/2である。
【0049】
グラフ802に、θ=0と設定したときの、k=0、αの場合における検出信号Iの確率分布を示す。検出信号の平均値<I>はk=0、αそれぞれにおいてI0、I0cosαとなり、その差はI0(1−cosα)となる。量子ノイズが重畳するため、検出信号Iの確率分布はある幅を持つ。検出信号Iの分散は、コヒーレント光の場合にはI0に比例して、θやαには依らない。グラフ802の場合、斜線のハッチで示した領域821が、欠陥がある場合とない場合のそれぞれに対応する確率分布の重なりを表している。
【0050】
グラフ803は、θ=(π+α)/2と設定したときの、検出信号Iの確率分布である。検出信号の平均値<I>はk=0、αそれぞれにおいてI0cos((π+α)/2)、I0cos((π−α)/2)となり、その差はθ=0と設定した場合と比べると大きくなる。測定値の分散はθ=0の場合と同じであるため、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり822は、θ=0の場合と比べて小さくなる。
【0051】
[図8効果]このように、θによって欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりの大きさを変更できることがわかる。欠陥がある場合と欠陥がない場合に推定される光の状態を用いて、θを適切な値に設定することが可能となる。なお、この例では光はコヒーレント光としたが、スクイーズド光や他の状態の光でも同様の議論が成り立つ。
【0052】
[図7説明]図7Aは、欠陥の形状や種類の例である。(a)は、欠陥がない位置における試料715の例である。701の矢印は、試料への照射光を表し、702の矢印は試料から反射した対象光を表している。(b)は、欠陥711を含んだ試料の例である。照射光701が欠陥711に当たり、欠陥711からの散乱光を含む反射光である対象光702が発生している。(a)の場合と比べると欠陥の高さの分だけ光路長が異なるため、対象光702の位相が(a)の場合とは異なる。(c)は欠陥711と同じ高さで断面形状が異なる欠陥712を含んだ試料の例である。(b)の欠陥711と(c)の欠陥712とは高さが同じであるため光路長は同じであるが、試料の種類や形状が異なると、試料と光の相互作用の仕方が変化するために、一般に対象光の振幅や位相は変化する。(d)は、欠陥がない位置における(a)の例とは異なる試料の例である。この例では、試料715には凹凸パターン713が形成されているが欠陥がない状態を示している。(e)は、試料715には凹凸パターン713が形成されているがその一部の欠陥714を含んだ場合の例である。凹凸パターン713の一部が欠けており、これも欠陥の一種である。(d)に示した欠陥がない試料715と比べると光路長や試料と光の相互作用が異なるため、この場合でも対象光702の振幅や位相に影響を与える。(f)は、欠陥がない位置における試料717の例である。この例では、試料717からの透過光718を対象光としている。(g)は、欠陥719を含んだ試料717の例である。欠陥719により、透過光718’の状態が変化する。検査したい試料や欠陥の種類等によって、試料からの透過光を対象光とするか、参照光または反射光を対象光とするかは異なるが、何れの場合でも欠陥がある場合とない場合では対象光の状態は変化するため、その変化を検出することができれば欠陥の有無を識別することができる。
【0053】
図7B、図7Cは、対象光の状態を表す位相空間表現の例である。原点からの距離が対象光の振幅、xc軸との角度が対象光の位相を表す。ノイズが全く重畳しておらず振幅や位相が決まった値しかとらないならば、光の状態は位相空間表現において1点で表されるが、実際には量子ノイズが必ず重畳するために振幅・位相に関して不確定さをもつ。このような不確定さを持った光の状態は、(xc、xs)座標で表された2次元空間に対する確率密度分布で表現される。ここでは、ある一定以上の確率となる領域を円や楕円で示している。
【0054】
図7Bにおいて、領域721は、欠陥がない場合(例えば図7A(a)の場合)の対象光702の状態である。領域722は、欠陥がある場合(例えば図7A(b)の場合)の状態である。領域721と比べると対象光702の平均振幅(原点Oから各領域の中心までの距離)は同じであるが、平均位相(原点Oと各領域の中心を結ぶ線とXc軸との成す角)が異なっている。領域723は、領域722とは別の欠陥がある場合(例えば図7A(c)の場合)の状態である。領域722と比べると対象光702の平均振幅も異なっている。図7Cは、図7Bとは異なる状態の光を試料に照射した場合の例である。この例のように、対象光702の状態はxc軸とxs軸で等方的な揺らぎを持っているとは限らない。照射光701としてコヒーレント状態の光を用いた場合に試料715で反射した対象光702は図7Bのようにxc軸とxs軸で等方的な揺らぎを持つことが多いが、照射光701としてスクイーズド状態の光を用いた場合には、対象光702は例えば領域731のようにxc軸の揺らぎを大きくする代わりに、xs軸の揺らぎを抑えることができる。同様に、欠陥が有る場合には、領域732,733のような特性を持つ揺らぎにすることができる。照射光701としてコヒーレント状態以外の光を用いることにより、対象光702において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりを抑えることができ、欠陥識別をより高精度に行うこともできる。
【0055】
[図9説明]図9A乃至図9Cは、図7B、図7Cで説明した位相空間表現に基づいて、図6の構成における参照光614の位相シフト量θの適切な値を求める方法を示した図である。図9Aのグラフ901は、図7Bで説明した位相空間表現である。検出信号の確率分布は、xc、xs軸で張られる2次元空間で示された確率分布を、ある直線上に射影することで求められる。例として、xs軸と平行な直線に射影した場合の確率分布をグラフ903に示す。確率分布917、918が、それぞれ領域913、914の射影に対応している。このとき、位相シフト量θは、xc軸との角度で表される。確率分布の重なり916をできるだけ小さくするためには、直線911のようにxc軸と角度θBをなす直線上に射影すれば良いことがわかる。欠陥がある場合とない場合の対象光の平均振幅が等しい場合には、θB=(π+α)/2となり、図8で説明したθの最適値と一致する。
【0056】
別の欠陥として、欠陥がある場合の状態が図9Aの領域915で表される場合を考える。この場合、領域913と領域915を直線上に射影して得られる確率分布の重なりをできるだけ小さくするためには、直線912のような直線を選べばよいことがわかる。なお、この例では、領域915と領域914を表す対象光の平均位相は同じだが、平均振幅は異なる。このとき、直線912のxc軸との角度θCはθBとは異なっている。このように、最適な位相シフト量θは、対象光の平均位相のみでなく平均振幅によっても異なることがわかる。
【0057】
図9Bのグラフ902は、図9Aのグラフ901とは異なる例である。欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域922、欠陥がある場合の対象光の状態を実線の領域923で示している。検出される欠陥のサイズ、形状、種類等が予め分かっていない場合には、欠陥がある場合の振幅・位相の確率分布は複雑な形状になる(グラフ902では複数個の円で表現している)。この場合にも、参照光の位相シフト量θを適切に設定したい。設定方法の一つとして、領域924で示したような、想定される欠陥の中で最も検出が困難な欠陥がある場合を表す対象光の状態と、領域922で示した状態ができるだけ分離するような直線921を求め、その直線とxc軸とのなす角θを算出すれば良い。領域924以外の領域で示された欠陥は領域924で示された欠陥よりは検出率が高いため、総合的に高い検出率を達成することが可能である。
【0058】
また、別の設定方法として、領域923で示した欠陥がある場合の状態を様々な位相シフト量に対する直線上に射影したときの確率分布を精度良く求め、領域922で示した状態に対応する確率分布との重なりが小さくなる参照光の位相シフト量を算出しても良い。位相シフト量は、試料を光に照射する前に予め算出しておく量であるため、通常は高速に算出する必要はなく、ある程度時間をかけて算出することができる。参照光の位相シフト量を算出するときには、検出され得る欠陥の検出頻度や、その欠陥の検出の重要度等を考慮しても良い。
【0059】
図9Cのグラフ904は、図9Aのグラフ901、図9Bのグラフ902とは別の例である。欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域931、欠陥がある場合の対象光のうち、欠陥の種類が欠陥Aの場合の対象光の状態を破線の領域932、欠陥の種類が欠陥Bの場合の対象光の状態を実線の領域933で示している。実線で示した直線935に射影したときに、平均誤り率の規準において欠陥の有無を最も高精度に識別できるとする。欠陥の有無のみではなく、欠陥の種類も高精度に識別したい場合には、図9Bのグラフ905のように、欠陥がない場合の確率分布941と、欠陥の種類別の確率分布(欠陥A、Bの確率分布を942、943で示す)を求め、その重なりを調べる必要がある。これらの確率分布の重なり944が小さくなるように参照光の位相シフト量を求めればよい。例えば、図9Cのグラフ904に破線で示した直線934に射影したときに、平均誤り率の規準において欠陥の有無および各欠陥の種類を最も高精度に識別できる。この直線934は、一般に欠陥の種類の識別を考慮せずに最適化を行った直線935とは異なる位相シフト量を持つ。このように、欠陥の種類毎の確率分布を求め、その重なりが小さくなるように光の状態を変換することにより、欠陥の有無および欠陥の種類を高精度に識別することができる。
【0060】
対象光の振幅や位相の分布を表すためには、状態を量子状態として表現する必要がある。この例のような位相空間表現に対応する量子状態の表現として、Wigner関数やGlauberのP関数のような複素平面z上で定義されるc数関数F(z、z*)がある(*は複素共役)。量子状態の別の表現としては、波動関数(の集合)や、複素ヒルベルト空間上の半正定値作用素などがある。対象光の状態を量子状態として表現することにより、振幅や位相の揺らぎを求めることができ、欠陥がある場合とない場合の確率分布や、その重なりを計算することができる。
【0061】
識別したい状態を量子状態としてモデル化することにより、適切な光の変換方法を計算することができる。例えば、量子ノイズの影響を考慮して参照光の位相を適切に最適化することができる。この際、欠陥がある場合における量子状態を計算することにより、欠陥がある場合に正しく検出する確率(検出正解率)を制御することができるし、欠陥がない場合における量子状態を計算することにより、欠陥がない場合に誤って欠陥があると識別してしまう確率(虚報率)を制御することができる。欠陥がある場合とない場合両方の場合における量子状態を計算すれば、検出正解率と虚報率を制御することができる、高い適切な検出を行うことができる。
【0062】
[図10説明]図10は、光の位相シフト量を変更する位相シフタ(図3の302及び図6の606に対応)の構成の例を示す図である。まず、入力光1011である参照光113(図3)または612(図6)が1/4波長板1001に入射した後、そこから透過した光が1/2波長板1002、1/4波長板1003に順次入射する。1/4波長板1003から透過される光が位相シフタの出力光1012となる。3枚の波長板1001〜1003は、異方性のある材質で作られている。また、各波長板は円筒形の形状をしており、光はその中心軸を通る。入力光は偏光しているものとする。この構成において、1/2波長板を回転させると、入力光の偏光方向との角度に応じて入力光の位相がシフトする。そこで、1/2波長板を回転させるための回転器1004を備え、この回転器を要求感度等の要求値1013に応じて位相制御器1005により制御することで、要求感度等に応じて光の位相を変更することができる。
【0063】
[図10補足]光の位相シフト量を変更する位相シフタは、図10で示した実施例とは別の構成であっても良い。例えば、液晶変調器を用いる方法や、MEMS変調器を用いる方法、可変遅延光路を用いる方法を用いても良い。
【実施例2】
【0064】
図1に示した構成において、光変換手段106として、非線形変換を行う手段を用いた例を図11A乃至図16を用いて説明する。
【0065】
[図11説明]図11A〜Dは、図1に示した光変換手段106を、対象光、または参照光、または対象光と参照光を干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いた非線形変換を行うことにより光の状態を変換する光変換手段に置き換えた例を示す図である。非線形変換とは、出力光を表す電磁場が、入力光を表す電磁場に比例しないような変換である。フォトニック結晶とは、屈折率の異なる材料が周期的に並んだ構造体であり、従来の光学素子にはない性質が得られることで知られている。特に、強い非線形性を有する素子を製作することができ、この性質を利用することで量子ノイズの影響を抑制した欠陥検出が可能となる。
【0066】
図11Aは、対象光1111と参照光1112を光干渉手段1101で干渉させた後の光に対して、非線形変換器1102を用いて非線形変換を行い、この非線形変換された干渉光を検出器1103で検出して検出信号1113を出力する例であり、図5Aで説明したホモダイン検出に対応する構成である。
【0067】
図11Bは、図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、対象光1111と参照光1112を光干渉手段1121で干渉させた後の光1132、1133に対して、それぞれ非線形変換器1122、1123を用いて非線形変換を行ってそれぞれの干渉光を検出器1124と1125とで検出し、それぞれの検出器1124と1125とからの出力信号の差を演算器1126で算出し、その結果を検出信号1131として出力する構成の例を示す図である。
【0068】
図11Cも図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、図11Bの構成に対して、さらに対象光1111と参照光1112に対しても非線形変換を行う例である。非線形変換器1144に入力する光と出力する光の本数は必ずしも1本ずつ(すなわち1入力1出力)である必要はなく、図11Cに示した例では、非線形変換器1144に対象光1111と参照光1112の2本の光を入力し、2本の光を出力して、この出力された2本の光線を光干渉手段1141で干渉させる。光干渉手段1141以降の処理は、図11Bで説明したものと同じであるので省略する。
【0069】
図11Dも図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、参照光1112に対して非線形変換器1162で非線形変換を行う例である。光干渉手段1161以降の処理は、図5Bで説明したものと同じであるので省略する。
【0070】
[図11効果]欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換するためには、非線形変換が必要であることが知られている。従来の光学媒質では強い非線形光学効果を得ることは困難であったが、近年研究開発が盛んに行われているフォトニック結晶により、強い非線形光学効果を得ることができる。フォトニック結晶を光検査装置に適用して、検出器の前に設置することにより、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換し、量子ノイズの影響を抑えることができる。
【0071】
微小な欠陥を検出するためには、対象光に含まれている欠陥からの微弱な信号を検出する必要がある。しかし、光変換手段により光の状態を変換する際、光学媒質の材質の不均一性や光軸調整の精度不足などの要因のため、光に対して少なからず意図しない擾乱を与えてしまう。本発明では、欠陥からの微弱な信号を含む対象光に対しては光変換手段により光の状態を変換することはせず、参照光に対してのみ光変換手段により光の状態を変換することにより、擾乱による性能低下を防ぐことができる。
【0072】
[図11補足]なお、図11ではホモダイン検出を行う場合に、対象光、または参照光、または対象光と参照光を干渉させた後の光に対して非線形変換を行う構成について説明したが、ヘテロダイン検出や他の検出を行う場合にも同様の非線形変換を行うことができる。
【0073】
[図12説明]図12A、図12Bは、フォトニック結晶の構造の例を示す図である。図12Aのフォトニック結晶1201では、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に、周期を乱す構造1204を意図的に導入することにより、導波路や光の閉じ込めなどの機能を実現することができる。1205は空洞になっており、光は1211から入力してこの1205の内部を伝搬して1212から出力する。図12Aの例では、面1202上に空孔1203を2次元的に周期的に配列して、その中に周期を乱す線状の領域1204(空孔1203が存在しない帯状の領域)を導入している。領域1204が光の導波路として機能する。また、図12Bのフォトニック結晶1221の例では、同様に周期的に配置した空孔1222に対して、周期を乱す線状の領域1223、1224を導入している。これらの線状の領域が光の導波路として機能する。これらの線状の領域を途中で近接させることにより、線状の領域1223、1224から成る二つの導波路の間に近接場光等による相互作用を発生させることができる。この例では、2本の入力光1231、1232を途中で相互作用させ、2本の光1233、1234を出力する。導波路(線状の領域)1223、1224の間にある空孔1225を他の空孔とは異なる媒質とすることにより、非線形光学効果を高めても良い。
【0074】
[図12効果]フォトニック結晶の屈折率、周期、周期を乱す構造を制御することにより、光の群速度を大きく低下させるなど、従来の素子にはない分散関係を得ることができる。この結果、光カー効果などの3次以上の非線形光学特性が強く現れる素子を実現することが可能である。このような強い非線形光学特性を持つ素子を用いて光を変換することにより、欠陥がある場合とない場合の確率分布の重なりを小さくすることができる。
【0075】
[図12補足]なお、図12A及び図12Bでは、空孔が周期的に並んだ構造に対して周期を乱す線状の構造(領域)を導入するフォトニック結晶の例を示したが、非線形光学特性を示すフォトニック結晶であればこの構造でなくとも良い。
【0076】
[図13説明]図13Aは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の構成の一実施例図である。非線形変換器1301は、フォトニック結晶1302のみから構成される単純な例であり、入力光1311が非線形変換器1301を構成するフォトニック結晶1302に入力し、非線形変換された出力光1312が得られる。フォトニック結晶を含むより複雑な非線形変換器を考えることもでき、例えば図13Bに示した非線形変換器1321では、内部に2種類のフォトニック結晶1326、1327を含む。また、ビームスプリッタ1322、1324や、ミラー1323、1325も備えており、入力光1331をビームスプリッタ1322で2本の光に分割した後、片方の光に対してフォトニック結晶1326により非線形変換を行った後、ミラー1323と1325で形成された光路を通ったもう片方の光とビームスプリッタ1324で干渉させる。干渉後の光に対して、別のフォトニック結晶1327により非線形変換を行う。非線形変換器は、フォトニック結晶を含んでいればこれ以外の構成であっても良い。
【0077】
[図14説明]図14は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段の一実施例である。この例では、光変換手段1401は、参照光の位相を変更する位相シフタ1406と、複数種類のフォトニック結晶からなる素子1403とその素子を駆動する駆動部1404を備え、位相シフタ1406と駆動部1404を制御手段1405により制御する。図14は、素子1403と駆動部1404を横から見た図であるが、上から見た図を図15に示す。素子1403は、4種類のフォトニック結晶1502〜1505からなっており、駆動部1404によりy方向に駆動させることができる。これにより、入力光1506(1411)を、フォトニック結晶1502〜1505のうちの一つに入力させ出力光1507を得る。一方、要求感度や要求スループット、欠陥種類などの入力情報1412に基づいて制御手段1405で制御された位相シフタ1406を透過して位相が制御された参照光1413がビームスプリッタ1402に入射し、素子1403から出力された出力光1507と干渉して干渉光1414が出力される。これにより、光の非線形変換方法を要求感度等に応じて制御することができる。
【0078】
[図14補足]なお、非線形変換方法を変える方法としては、図14のように異なる種類のフォトニック結晶を用いる方法の他に、フォトニック結晶の非線形光学特性を変化させる方法を用いても良い。例えば、熱や電場を与えてフォトニック結晶の屈折率を変化させる方法や、フォトニック結晶の空孔にロッドを挿入する方法、微小なアクチュエータを用いてフォトニック結晶を伸縮させる方法を用いても良い。
【0079】
[図16説明]図16A及び図16Bは、図11A乃至図15で説明した非線形変換手段を用いて非線形変換を行った場合の対象光の状態を表す位相空間表現の概略図である。図16Aのグラフ1601の領域1611、1612は、非線形変換を行わなかった際の、欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態である。ホモダイン検出を行うときは、直線1613の軸に射影すると、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができる。しかし、非線形変換を行わない限り、図9で説明したように射影する方向を変える方法以外には、量子ノイズの影響を抑えることはできない。
【0080】
これに対し、フォトニック結晶を用いて非線形変換を行えば、量子ノイズの影響を抑えることが可能となる。図16Bのグラフ1602の領域1614、1615は、非線形変換を行った際の、欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態である。確率分布の形状を変えることによって、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができる。この例の場合は、直線1616の軸に射影することにより、非線形変換を行わない場合に比べてより高い検出率が得られる。この際、参照光の位相シフト量に基づいて非線形変換の方法を変えることにより、確率分布の重なりを小さくすることが可能である。
【実施例3】
【0081】
[図17説明]図17A、図17Bは、実施例1又は2で説明した光干渉手段103と光変換手段106又は306試料に対して光を照射して、試料からの反射光を実施例1又は2で説明した光干渉手段103と光変換手段106又は306などで受信する光検査装置の構成を示す図である。
【0082】
図17Aは、光源1701からテーブル1721上に載置された試料1705に対して上方から垂直に光を照射する落射照明により欠陥を検出する検査装置の構成を示す。光源1701から発射された光1706は、レンズ1703により試料1705上で集光されて試料1705を落射照明する。試料1705で反射された光のうちレンズ1704の方向に反射された光1707はレンズ1704により集光され、受信器1702に入力される。受信器1702は、実施例1又は実施例2で説明したような光干渉手段(103)、光変換手段(106又は306又は1401など)、光検出手段(104など)を備えている。受信器1702は複数個備わっていても良く、例えば、レンズ1709と受信器1708のように、光1707とは異なる方位への散乱光または反射光を受信するような配置であっても良い。受信器1702、1708での検出信号を用いて欠陥識別手段1710により欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。試料1705はステージ1721の上に設置されており、ステージ1721をxy方向に動かすことにより、試料上の光照射位置を制御することができる。
【0083】
図17Bは、試料1716に対して垂直方向ではなく斜め方向から光源1711から発射された光1719をレンズ1712で集光し斜方照射して、試料1716からレンズ1715の方向に反射した散乱光または反射光1717を受信器1713で受信し、レンズ1714の方向へ反射した光を受信器1718で受信する。この構成により、試料1716に光を集光し、集光位置における欠陥の有無や欠陥の種類に関する情報を受信器1713及び1718で受信した光を用いて欠陥識別手段1720で識別することができる。
【0084】
[図18説明]図18A、及び図18Bには、試料に対して光を照射して、試料からの光を受信する、図17とは別の光検査装置の構成を示す一実施例の図である。図18Aに示した構成では、光源1801から発射した光を試料1804に照射する。光1811は近接場光発生器1803に入力され、その先端1822から近接場光を放出する。近接場光発生器1803は近接場光が試料1804に到達する程度にまで試料1804に近接させる。試料1804からの散乱光または反射光1812は、照射光1811と同じ光路1806を通り、ビームスプリッタ1802により反射して受信器1805に入力される。ビームスプリッタ1802は、光源1801からの照射光は透過し、試料からの光は反射するようにしておく。これは、例えば、光源1801からの光を偏光させておき、1/4波長板1807を光路に配置し、かつビームスプリッタ1802を偏光ビームスプリッタとすることにより実現できる。受信器1805は、実施例1又は実施例2で説明したような光干渉手段(103)、光変換手段(106又は306又は1401など)、光検出手段(104など)を備えている。受信器1805での検出信号を用いて欠陥識別手段1808により欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。試料1804はステージ1821の上に設置されており、ステージ1821をxy方向に動かすことにより、試料上の光照射位置を制御することができる。
【0085】
図18Bは、近接場光を試料に照射する、図18Aとは別の構成の例を示す図である。近接場ヘッド1812と近接場ヘッド支持部1811を備え、近接場ヘッド1812は、その先端から放出される近接場光がステージ1822に載置された試料1814に到達する程度にまで試料1814に近接させる。試料1814から散乱または反射した光1816をレンズ1813で集光して受信器1815に入力して受光し、受信器1815からの出力信号を欠陥識別手段1817で処理することにより欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。図17の構成と比較し、図18の構成を用いることにより、試料上のより狭い領域に光を集光することができるため、微小な欠陥からの散乱光または反射光を強い強度で得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
101…光検査装置 102…光照射手段 103…光干渉手段 104…光検出手段 105…欠陥識別手段 106…光変換手段 111…試料 112…ビームスプリッタ 113…参照光 201…光変換手段を備えていない場合の確率分布 202…光変換手段を備えた場合の確率分布 211…欠陥がある場合の確率分布 212…欠陥がない場合の確率分布 221…それぞれの確率分布の重なり 231…それぞれの確率分布の平均の差 301…位相制御器 302…位相シフタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を試料に照射してその反射光を検出することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板や薄膜基板等の製造ラインにおいて、製品の高い歩留まりを得るために、試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置が広く用いられている(例えば、特許文献1、2)。一般に光検査装置では、数十μmの幅に集光した光を試料表面上に照射し、欠陥からの透過光または散乱光または反射光を集光・検出して欠陥検出を行う。現在実用化されている装置では、数十nm以上の欠陥を検査することができる。
【0003】
一方、微細加工技術の進歩に伴い、より微小な欠陥を検査したいという要求が高まっている。微小な欠陥では、照明光が照射された欠陥から得られる光は微弱となるため、より高感度で高性能な欠陥検出技術が必要となる。特に、微弱光では量子ノイズと呼ばれる量子力学の不確定性原理に基づく不可避な揺らぎの影響が無視できなくなるため、量子ノイズの影響を抑えることが重要となる。
【0004】
この微小な欠陥を検出する方法として、例えば特許文献3に記載されているような、ホモダイン検出やヘテロダイン検出のように試料から得られる光と参照光との振幅差・位相差に関する情報に基づいて欠陥の有無を識別する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−304289号公報
【特許文献2】特開2006−201179号公報
【特許文献3】特開2007−232667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の装置では、まず参照光と干渉させた光を検出器により電気信号に変換した後、得られた電気信号に対して欠陥検出を行っていた。この際、検出器により光を検出した後では本質的に量子ノイズの影響を抑制することはできないため、検出前に量子ノイズの影響を抑制する処理が必要となる。しかし、従来では、参照光との干渉において量子ノイズの影響を抑制するための変換がされていなかったため、光量が微弱になると良好な欠陥検出性能が得られなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、以下の光検査方法及びその装置により前記課題を解決する。
すなわち、本発明では、光検査装置を、試料に光を照射する光照射手段と、参照光を発射する参照光手段と、光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、試料からの透過光または散乱光または反射光の状態または参照光手段から発射された参照光の状態または光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも一つを変換する光変換手段とを備えて構成した。
【0008】
このように、光を検出する前に光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出感度を向上する、あるいは、欠陥検出感度を維持した上で検査時間を短縮することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記光変換手段において、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更することを特徴とする。
【0010】
量子ノイズの影響を受けにくい参照光の位相は、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類によって異なる。これに対し、本発明により、参照光の位相を要求値に応じて最適化することができる。
【0011】
また、本発明は、前記光変換手段において、欠陥がある場合とない場合の少なくとも一つにおいて試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を計算し、前記量子状態に基づいて前記参照光の位相を変更することを特徴とする。
【0012】
このように、識別したい状態を量子状態としてモデル化することにより、量子ノイズの影響を考慮して参照光の位相を適切に最適化することができる。この際、欠陥がある場合における量子状態を計算することにより、欠陥がある場合に正しく検出する確率(検出正解率)を制御することができるし、欠陥がない場合における量子状態を計算することにより、欠陥がない場合に誤って欠陥があると識別してしまう確率(虚報率)を制御することができる。欠陥がある場合とない場合両方の場合における量子状態を計算すれば、検出正解率と虚報率を制御することができる、高い適切な検出を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、前記光変換手段において、前記参照光、または前記参照光を干渉させる前の光、または前記参照光を干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いることにより、前記欠陥識別手段において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換することを特徴とする。
【0014】
欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換するためには、非線形変換が必要であることが知られている。非線形変換とは、出力光を表す電磁場が、入力光を表す電磁場に比例しないような変換である。従来の光学媒質では強い非線形光学効果を得ることは困難であったが、近年研究開発が盛んに行われているフォトニック結晶により、強い非線形光学効果が得られることが知られている。フォトニック結晶を光検査装置に適用して、検出器の前に設置することにより、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換し、量子ノイズの影響を抑えることができる。
【0015】
また、本発明は、前記光変換手段において、前記欠陥識別手段において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように前記参照光に対してフォトニック結晶を用いて光の状態を変換することを特徴とする。
【0016】
微小な欠陥を検出するためには、試料から散乱または反射された光に含まれる欠陥からの微弱な信号を検出する必要がある。しかし、光の状態を変換すると、光学媒質の材質の不均一性や光軸調整の精度不足などの要因のため、光変換手段により少なからず意図しない擾乱を与えてしまう。本発明では、欠陥からの微弱な信号を含む光に対しては光変換手段により光の状態を変更することはせず、参照光に対してのみ光変換手段により光の状態を変更することにより、擾乱による性能低下を防ぐことができる。
【0017】
また、本発明は、前記欠陥識別手段において、欠陥の有無だけでなく欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする。
【0018】
試料から散乱または反射された光には、欠陥の有無だけでなく欠陥の種類に関する情報も含まれる。欠陥検出と同様の装置構成において、欠陥の種類に関する多くの情報が得られるように光変換手段を用いて光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑えながら欠陥の種類に関する情報も得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、参照光を干渉させることにより試料から透過または散乱または反射された光の状態を変換する光変換手段において、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施例における光検査装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図2A】図2Aは、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり状態を調整する光変換手段106を備えていない場合における確率分布である。
【図2B】図2Bは、図2Aのグラフ201と比較してそれぞれの確率分布213、214の平均の差232を大きくすることにより、確率分布の重なり232の面積を小さくした状態を示すグラフである。
【図2C】図2Cは、それぞれの確率分布の平均の差233は図2Aの差231と同じであるが、確率分布の形状を変えることにより、確率分布の重なり223の面積を小さくした状態を示すグラフである。
【図3】図3は、図1で説明した光変換手段106に替えて光変換手段306を設けて、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更して調整できるように構成した光検査装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、欠陥サイズと検出率の関係の概略を示したグラフである。
【図5A】図5Aは、ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図5B】図5Bは、バランス型ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図5C】図5Cは、ヘテロダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、位相シフタを備えて光変換手段を構成した実施例における光干渉手段の周辺の構成を示すブロック図である。
【図7A】図7Aは、欠陥の形状や種類の例を示すパターン又は欠陥の断面図である。
【図7B】図7Bは、欠陥がある場合と無い場合における対象光の状態を表す位相空間表現の例で、対象光がxc軸とxs軸とで等方的な揺らぎを持っている状態を示すグラフある。
【図7C】図7Cは、欠陥がある場合と無い場合における対象光の状態を表す位相空間表現の例で、対象光がxc軸とxs軸とで異なる揺らぎを持っている状態を示すグラフある。
【図8】図8は、参照光の位相を変えることにより量子ノイズの影響を抑えられることを示した検出信号の平均値とその確率分布を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図である。
【図9B】図9Bは、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図で、欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域922、欠陥がある場合の対象光の状態を実線の領域923で示している。
【図9C】図9Cのグラフ904は、位相空間表現を用いて、参照光の位相シフト量の適切な値を求める方法の例を示す図で、欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域931、欠陥がある場合の対象光のうち、欠陥の種類が欠陥Aの場合の対象光の状態を破線の領域932、欠陥の種類が欠陥Bの場合の対象光の状態を実線の領域933で示している。
【図10】図10は、光の位相シフト量を変更する位相シフタの概略の構成を示すブロック図である。
【図11A】図11Aはホモダイン検出に対応する構成で、対象光と参照光を光干渉手段で干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いた非線形変換器で非線形変換を行い、この非線形変換された干渉光を検出器で検出する構成を示す。
【図11B】図11Bはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、対象光と参照光を光干渉手段で干渉させた後の光に対して、それぞれフォトニック結晶を用いた非線形変換器で非線形変換を行ってそれぞれの干渉光を検出器で検出し出力信号の差を演算器で算出する構成の例を示す図である。
【図11C】図11Cはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、図11Bの構成に対して、さらに対象光と参照光に対しても非線形変換を行う例を示す図である。
【図11D】図11Dはバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、参照光に対して非線形変換を行う例を示す図である。
【図12A】図12Aは、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に周期を乱す構造を意図的に導入することにより、導波路や光の閉じ込めなどの機能を実現したフォトニック結晶の構造に関する例を示す図である。
【図12B】図12Bは、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に周期を乱す線状の領域を2つ意図的に導入することにより、これら2つの線状の領域を導波路として機能させたフォトニック結晶の構造に関する例を示す図である。
【図13A】図13Aは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の構成の例を示すブロック図である。
【図13B】図13Bは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の具体的な構成の一実施例を示すブロック図である。
【図14】図14は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段を示すブロック図である。
【図16A】図16Aは、非線形変換を行わなかった場合の欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態を表す位相空間表現のグラフである。
【図16B】図16Bは、非線形変換を行った場合の欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態を表す位相空間表現のグラフである。
【図17A】図17Aは、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備え落射照明により欠陥を検出する光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図17B】図17Bは、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備え斜方照明により欠陥を検出する光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18A】図18Aは、照明光学系に近接場光照明手段を用い、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備えた光検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18B】図18Bは、照明光学系に先端部分から近接場光を放出する近接場ヘッドを有する照明手段を用い、検出光学系に、実施例1及び実施例2で説明した光干渉手段、光変換手段、光検出手段を備えた光検査装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置に係り、特に検出する光が微弱な場合に問題となる量子ノイズの影響を抑制する光検査装置および検査方法を提供することにある。以下、本発明に係る実施の形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
[図1説明]図1は、実施例1における光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置101の一例を示す図である。
【0023】
光検査装置101は、試料111に光を照射する光照射手段102と、試料から散乱または反射された光と参照光光源手段113から発射された参照光を干渉させる光干渉手段103と、干渉後の光を検出する光検出手段104と、干渉光を検出した光検出手段104から出力された検出信号を処理して欠陥の有無の識別を行う欠陥識別手段105を備えて構成される。光照射手段102から試料111に照射する光は、空間分解能を高めるため試料111上で集光させ、その集光した光を試料上で走査することが多いが、これに限らない。光干渉手段103では、通常ビームスプリッタ(BS)112を用いて、試料111からの反射光のうちビームスプリッタ(BS)112を透過した反射光と参照光光源手段113から発射された光のうちビームスプリッタ(BS)112で反射した参照光を干渉させる。
【0024】
さらに、光検査装置101は、欠陥の有無のそれぞれに対応する検出信号に対する確率分布の重なりが小さくなるように、光を変換する光変換手段106を有する。図1に示した構成では、光変換手段106を参照光光源手段113から発射された参照光の光路上に配置して参照光の状態を変換する例を示してあるが、光変換手段106は、試料からの反射光の光路上に設置して反射光の状態を変換するようにしても良く、または光干渉手段103と光検出手段104との間に配置して干渉後の光の状態を変換するようにしても良い。
【0025】
[図1効果]このように、光を検出する前に光の状態を変換することにより、量子ノイズの影響を抑制し、欠陥検出感度を向上する、あるいは、欠陥検出感度を維持した上で検査時間を短縮することが可能となる。
【0026】
[図1補足]なお、光照射手段102では、用途等に応じて適した光を照射すれば良い。例えば、単一の発振周波数を持つレーザ光であっても良いし、複数の発振周波数を持っていても良い。また、断続的な光であるパルス光であっても良いし、連続的な光であっても良い。光の状態が偏光していても良いし、光の振幅・位相・周波数のいずれかが変調していても良い。通常のレーザ光の状態であるコヒーレント状態の光であっても良いし、スクイーズド状態の光であっても良い。
【0027】
また、図1に示した構成では、光照射手段102と参照光光源手段113とが分離されていて別々の光源を備えている構成となっているが、光照射手段102と参照光光源手段113とは光源を共有するように構成しても良い。
【0028】
光干渉手段103では、一種類の参照光のみと干渉させるだけでなく、二種類以上の参照光と干渉させても良い。参照光光源手段113から発射される参照光の光の種類は、光照射手段102から試料111に照射する光と同じでなくとも良い。例えば、光照射手段102ではコヒーレント状態の光を照射して、参照光光源手段113からはスクイーズド状態の光を発射するようにしても良い。
【0029】
光検出手段104では、検査のスループット向上のため、検出器をアレイ状に並べることも多いが、これに限らない。光検出手段104の出力である検出信号は、通常は電気信号である。欠陥識別手段105では、アナログまたはディジタルの電気回路により、欠陥の有無を識別する。欠陥識別手段105では、欠陥の有無のみでなく、欠陥の種類を識別するような処理を行っても良い。
【0030】
[図2説明]図2A乃至図2Cは、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりを表す一実施例図である。図2Aのグラフ201は、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり状態を調整する光変換手段106を備えていない場合における確率分布である。欠陥がある場合の確率分布を実線で、欠陥がない場合の確率分布を破線で表している。横軸は光検出手段104で検出される検出信号I、縦軸は確率Pである(検出信号が連続値の場合には縦軸は確率密度を表す)。確率分布がインパルス関数の場合には、検出信号には不確定さはないが、実際には検出信号は各種ノイズ等の影響により不確定さを持つ。特に検出する光が微弱な場合には量子ノイズによる揺らぎの影響が支配的となる。
【0031】
欠陥がある場合の確率分布211: P1(I)と欠陥がない場合の確率分布212: P0(I)は、重なり221を持っている。距離231は、それぞれの確率分布の平均の差を表している。検査を行うと、この確率分布にしたがって検出信号Iの値が決まる。欠陥ありの場合と欠陥なしの場合の事前確率が等しい場合、平均誤り率が最も少ない欠陥識別を行うためには、得られた検出信号xに対して、P1(x)>P0(x)ならば欠陥あり、P1(x)<P0(x)ならば欠陥なしと判定すれば良い。一般には、事前確率は等しくはなく、また平均誤り率ではない別の評価基準で欠陥識別を行いたい場合も多い(例えば、虚報率を一定値以下に抑えた上でできるだけ欠陥を検出したい等)。しかし、いずれの場合にも、それぞれの確率分布の重なり221の面積はできるだけ小さいほうが望ましい。
【0032】
図2Bのグラフ202は、図2Aのグラフ201と比較してそれぞれの確率分布213、214の平均の差232を大きくすることにより、確率分布の重なり222の面積を小さくしている。また、図2Cのグラフ203は、それぞれの確率分布の平均の差233は差231と同じであるが、確率分布の形状を変えることにより、確率分布の重なり223の面積を小さくしている。グラフ203の例では、欠陥がある場合の確率分布215は確率分布211と同じだが、欠陥がない場合の確率分布216の形状を確率分布212と比べて変化させている。さらに、欠陥がある場合の確率分布の形状を変えることもできる。
【0033】
[図2効果]光変換手段106で検出前の光を適切に変換することにより、このように、確率分布の平均の差を大きくするか、確率分布の形状を変える、またはその両方の効果を得ることが可能である。これにより、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができ、欠陥識別を高精度に行えるようになる。
【0034】
[図2補足]なお、図2A乃至図2Cでは検出信号はスカラー値としたが、複数の検出器を用いて検出信号をベクトル値で表すこともできる。例えば、一般に広く用いられているヘテロダイン受信方式では、検出信号は2個のスカラー値からなるベクトル値で表される。以下、特に断りのない限り、検出信号はスカラー値であるとして説明する。
【0035】
[図3説明]図3は、光を試料に照射することにより試料表面に存在する微小な欠陥を検査する光検査装置の構成を示す図である。図3に示した構成は、図1で説明した光変換手段106に替えて光変換手段306を設け、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相を変更して調整できるように構成したことを特徴とする。
【0036】
図1と同一の手段については、図1と同じ番号で示してある。以下、同一の手段やデータ等を表す場合には、同一の番号を振って示すものとする。図3に示した構成では、光変換手段306に欠陥検出感度の要求値を表す要求感度または要求スループットまたは検出対象とする欠陥の種類を表す要求値311を入力している。光変換手段306は、参照光光源手段113から発射された参照光の位相を制御するための位相制御器301および参照光の位相をシフトするための位相シフタ302を備えている。図7〜図10で後述するように、要求感度、要求スループット、欠陥種類毎に、光干渉手段103にて干渉させる参照光の最適な位相は異なるため、光変換手段306において、これらの情報に基づいて参照光の位相を変更する。
【0037】
参照光光源手段113から発射された[図3効果]参照光の位相を変えることは、図2において、欠陥ありの場合と欠陥なしの場合の確率分布の平均の差を変える効果がある。これにより、それぞれの確率分布の平均の差をできるだけ大きくした上での検出が可能となり、量子ノイズの影響を抑制することが可能となる。
【0038】
[図3補足]なお、図3に示した構成では、参照光光源手段113から発射された参照光の位相を光変換手段306で変更して調整する構成について説明したが、光照射手段102により光が照射された試料111からの反射光の位相を変えるように、例えば光変換手段306を光照射手段102と試料111との間に配置して、光照射手段102から試料111に照射する光の位相を変更して調整できるような構成であっても良い。また、光変換手段306を光干渉手段103と光検出手段104との間に設置して、干渉後の光の位相を変更して調整できるように構成しても良い。
【0039】
[図4説明]図4は、欠陥サイズと検出率の関係の概略を示したグラフである。横軸が欠陥サイズ、縦軸が検出率を表す。一般に、(同様の形状・材質であれば)欠陥サイズが大きいほど、欠陥からの光の光量は大きくなるため、高い検出率を得ることができる。グラフ411、412は、それぞれ欠陥サイズがA、Bの場合にできるだけ高い検出率を得るために参照光の位相を調整した場合の性能を表す。欠陥サイズがA、Bの場合に、それぞれ点401、402で示した検出率が得られる。しかし、参照光の位相を調整しない限りそれらの性能を両立させることはできない。一方、要求する欠陥サイズ(すなわち、要求感度)は、用途により異なる。例えば、サイズAより大きい欠陥を検出できるような高感度な検出を行う必要がある場合もあるし、サイズBより大きい欠陥が検出できれば良い場合もある。
【0040】
[図4効果]そこで、要求感度に応じて図1や図3に示した構成で光の状態を変換することにより、それぞれの要求に適した性能を得ることができる。検出器(光検出手段104)に到達する光の量を増やすことにより欠陥の検出率を上げることはできるが、光量を増やすためには通常スループットが犠牲になる。これに対して本実施例の用に光の状態を調整することにより、感度とスループットまたは検出率の両立を実現することができる。要求スループットや検出対象とする欠陥の種類に対してもトレードオフの関係があるが、同様に光の状態を適切に変更することにより良好な性能を得ることができる。
【0041】
[図5説明]図5A〜図5Cは、図1における光干渉手段103および光検出手段104の変形例を示す図である。以下、光照射手段102で光が照射された試料111からの反射光を対象光と呼ぶ。また、参照光光源手段113から発射された光を参照光と呼ぶ。
【0042】
図5Aは、ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光511のうちビームスプリッタ501(図1又は図3のビームスプリッタ112に相当)を透過した光と参照光513のうちビームスプリッタ501を透過した光とは干渉し、干渉後の光を検出器502(図1又は図3の光検出手段104に相当)により検出して検出信号512を出力する。ビームスプリッタ501は、光の偏光状態によって反射率が変わる偏光ビームスプリッタであっても良い。
【0043】
図5Bは、バランス型ホモダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光531と参照光533をビームスプリッタ521(透過率50%のハーフビームスプリッタ)を用いて干渉させる。干渉後の光534、535をそれぞれ検出器522、523で検出し、演算器524で、検出された各々の信号の差を求める。演算器524の出力を検出信号532とする。
【0044】
図5Cは、ヘテロダイン検出と呼ばれる検出方法を実現するための構成を示す図である。対象光551と参照光554をビームスプリッタ541を用いて干渉させ、干渉後の光555、556に対して、それぞれホモダイン検出542、543を行うことによって、二種類の検出信号552、553を得る。ホモダイン検出542、543はそれぞれ、図5Aで説明した構成を用いる。
【0045】
図5A〜図5Cで説明した検出方法では、参照光の量子的揺らぎが抑制されて対象光の振幅や位相に関する情報が検出信号に現れるため、検出信号を用いて欠陥検出を行うことができる。
【0046】
[図6説明]図6は、図5A〜図5Cで説明した光干渉手段および光検出手段に対して、さらに光変換手段を加えた構成の例を示す図である。この図6に示した構成は、図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出系に図3で説明した光変換手段306を組合わせた構成となっており、要求感度に応じて参照光の位相を変更することができる。
【0047】
対象光611の平均振幅が時間tの関数としてAsin(wt+k)と表せるとする(A>0は最大振幅、wは角周波数)。欠陥がない場合にはk=0、欠陥がある場合にはk=αと、欠陥の有無によって対象光の位相kが変わるものとする。ただし、対象光の振幅は、量子ノイズ等による揺らぎを含む。そこで、検出信号から位相kを推定し、欠陥の有無を識別したい。参照光の平均振幅をBsin(wt)と表せるとする(B>0)。要求感度613が入力された位相制御器605により制御された位相シフタ606により、参照光612は光614のようにBsin(wt+θ)に変換されるとする。対象光611と位相シフタ606で位相制御された参照光614とはハーフビームスプリッタ601でそれぞれ光量の半分が反射し半分が透過してそれぞれ干渉光を発生し、これらの干渉光がそれぞれ検出器602と603で検出される。検出器602と603からの出力は演算器604に入力して演算され、検出信号615として出力される。この場合、バランス型ホモダイン検出を行うと、検出信号Iの平均値<I>はABcos(α−θ)に比例する。θは既知であるため、ABの積を予め測定しておけば対象光の位相kを推定することができる。
【0048】
[図8説明]次に図8を用いて、図6の例において量子ノイズの影響を抑えるために参照光の位相θを適切な値に設定する必要があることを示す。量子ノイズが支配的であるような微弱光の場合を考える。グラフ801は、図6における参照光612の位相シフト量θと検出信号の平均値<I>∝cos(α−θ)との関係を示した図である。グラフ811、812は、それぞれ、欠陥がある場合(k=α)と欠陥がない場合(k=0)のグラフである。この例では、0<α<π/2である。
【0049】
グラフ802に、θ=0と設定したときの、k=0、αの場合における検出信号Iの確率分布を示す。検出信号の平均値<I>はk=0、αそれぞれにおいてI0、I0cosαとなり、その差はI0(1−cosα)となる。量子ノイズが重畳するため、検出信号Iの確率分布はある幅を持つ。検出信号Iの分散は、コヒーレント光の場合にはI0に比例して、θやαには依らない。グラフ802の場合、斜線のハッチで示した領域821が、欠陥がある場合とない場合のそれぞれに対応する確率分布の重なりを表している。
【0050】
グラフ803は、θ=(π+α)/2と設定したときの、検出信号Iの確率分布である。検出信号の平均値<I>はk=0、αそれぞれにおいてI0cos((π+α)/2)、I0cos((π−α)/2)となり、その差はθ=0と設定した場合と比べると大きくなる。測定値の分散はθ=0の場合と同じであるため、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なり822は、θ=0の場合と比べて小さくなる。
【0051】
[図8効果]このように、θによって欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりの大きさを変更できることがわかる。欠陥がある場合と欠陥がない場合に推定される光の状態を用いて、θを適切な値に設定することが可能となる。なお、この例では光はコヒーレント光としたが、スクイーズド光や他の状態の光でも同様の議論が成り立つ。
【0052】
[図7説明]図7Aは、欠陥の形状や種類の例である。(a)は、欠陥がない位置における試料715の例である。701の矢印は、試料への照射光を表し、702の矢印は試料から反射した対象光を表している。(b)は、欠陥711を含んだ試料の例である。照射光701が欠陥711に当たり、欠陥711からの散乱光を含む反射光である対象光702が発生している。(a)の場合と比べると欠陥の高さの分だけ光路長が異なるため、対象光702の位相が(a)の場合とは異なる。(c)は欠陥711と同じ高さで断面形状が異なる欠陥712を含んだ試料の例である。(b)の欠陥711と(c)の欠陥712とは高さが同じであるため光路長は同じであるが、試料の種類や形状が異なると、試料と光の相互作用の仕方が変化するために、一般に対象光の振幅や位相は変化する。(d)は、欠陥がない位置における(a)の例とは異なる試料の例である。この例では、試料715には凹凸パターン713が形成されているが欠陥がない状態を示している。(e)は、試料715には凹凸パターン713が形成されているがその一部の欠陥714を含んだ場合の例である。凹凸パターン713の一部が欠けており、これも欠陥の一種である。(d)に示した欠陥がない試料715と比べると光路長や試料と光の相互作用が異なるため、この場合でも対象光702の振幅や位相に影響を与える。(f)は、欠陥がない位置における試料717の例である。この例では、試料717からの透過光718を対象光としている。(g)は、欠陥719を含んだ試料717の例である。欠陥719により、透過光718’の状態が変化する。検査したい試料や欠陥の種類等によって、試料からの透過光を対象光とするか、参照光または反射光を対象光とするかは異なるが、何れの場合でも欠陥がある場合とない場合では対象光の状態は変化するため、その変化を検出することができれば欠陥の有無を識別することができる。
【0053】
図7B、図7Cは、対象光の状態を表す位相空間表現の例である。原点からの距離が対象光の振幅、xc軸との角度が対象光の位相を表す。ノイズが全く重畳しておらず振幅や位相が決まった値しかとらないならば、光の状態は位相空間表現において1点で表されるが、実際には量子ノイズが必ず重畳するために振幅・位相に関して不確定さをもつ。このような不確定さを持った光の状態は、(xc、xs)座標で表された2次元空間に対する確率密度分布で表現される。ここでは、ある一定以上の確率となる領域を円や楕円で示している。
【0054】
図7Bにおいて、領域721は、欠陥がない場合(例えば図7A(a)の場合)の対象光702の状態である。領域722は、欠陥がある場合(例えば図7A(b)の場合)の状態である。領域721と比べると対象光702の平均振幅(原点Oから各領域の中心までの距離)は同じであるが、平均位相(原点Oと各領域の中心を結ぶ線とXc軸との成す角)が異なっている。領域723は、領域722とは別の欠陥がある場合(例えば図7A(c)の場合)の状態である。領域722と比べると対象光702の平均振幅も異なっている。図7Cは、図7Bとは異なる状態の光を試料に照射した場合の例である。この例のように、対象光702の状態はxc軸とxs軸で等方的な揺らぎを持っているとは限らない。照射光701としてコヒーレント状態の光を用いた場合に試料715で反射した対象光702は図7Bのようにxc軸とxs軸で等方的な揺らぎを持つことが多いが、照射光701としてスクイーズド状態の光を用いた場合には、対象光702は例えば領域731のようにxc軸の揺らぎを大きくする代わりに、xs軸の揺らぎを抑えることができる。同様に、欠陥が有る場合には、領域732,733のような特性を持つ揺らぎにすることができる。照射光701としてコヒーレント状態以外の光を用いることにより、対象光702において欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりを抑えることができ、欠陥識別をより高精度に行うこともできる。
【0055】
[図9説明]図9A乃至図9Cは、図7B、図7Cで説明した位相空間表現に基づいて、図6の構成における参照光614の位相シフト量θの適切な値を求める方法を示した図である。図9Aのグラフ901は、図7Bで説明した位相空間表現である。検出信号の確率分布は、xc、xs軸で張られる2次元空間で示された確率分布を、ある直線上に射影することで求められる。例として、xs軸と平行な直線に射影した場合の確率分布をグラフ903に示す。確率分布917、918が、それぞれ領域913、914の射影に対応している。このとき、位相シフト量θは、xc軸との角度で表される。確率分布の重なり916をできるだけ小さくするためには、直線911のようにxc軸と角度θBをなす直線上に射影すれば良いことがわかる。欠陥がある場合とない場合の対象光の平均振幅が等しい場合には、θB=(π+α)/2となり、図8で説明したθの最適値と一致する。
【0056】
別の欠陥として、欠陥がある場合の状態が図9Aの領域915で表される場合を考える。この場合、領域913と領域915を直線上に射影して得られる確率分布の重なりをできるだけ小さくするためには、直線912のような直線を選べばよいことがわかる。なお、この例では、領域915と領域914を表す対象光の平均位相は同じだが、平均振幅は異なる。このとき、直線912のxc軸との角度θCはθBとは異なっている。このように、最適な位相シフト量θは、対象光の平均位相のみでなく平均振幅によっても異なることがわかる。
【0057】
図9Bのグラフ902は、図9Aのグラフ901とは異なる例である。欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域922、欠陥がある場合の対象光の状態を実線の領域923で示している。検出される欠陥のサイズ、形状、種類等が予め分かっていない場合には、欠陥がある場合の振幅・位相の確率分布は複雑な形状になる(グラフ902では複数個の円で表現している)。この場合にも、参照光の位相シフト量θを適切に設定したい。設定方法の一つとして、領域924で示したような、想定される欠陥の中で最も検出が困難な欠陥がある場合を表す対象光の状態と、領域922で示した状態ができるだけ分離するような直線921を求め、その直線とxc軸とのなす角θを算出すれば良い。領域924以外の領域で示された欠陥は領域924で示された欠陥よりは検出率が高いため、総合的に高い検出率を達成することが可能である。
【0058】
また、別の設定方法として、領域923で示した欠陥がある場合の状態を様々な位相シフト量に対する直線上に射影したときの確率分布を精度良く求め、領域922で示した状態に対応する確率分布との重なりが小さくなる参照光の位相シフト量を算出しても良い。位相シフト量は、試料を光に照射する前に予め算出しておく量であるため、通常は高速に算出する必要はなく、ある程度時間をかけて算出することができる。参照光の位相シフト量を算出するときには、検出され得る欠陥の検出頻度や、その欠陥の検出の重要度等を考慮しても良い。
【0059】
図9Cのグラフ904は、図9Aのグラフ901、図9Bのグラフ902とは別の例である。欠陥がない場合の対象光の状態を点線の領域931、欠陥がある場合の対象光のうち、欠陥の種類が欠陥Aの場合の対象光の状態を破線の領域932、欠陥の種類が欠陥Bの場合の対象光の状態を実線の領域933で示している。実線で示した直線935に射影したときに、平均誤り率の規準において欠陥の有無を最も高精度に識別できるとする。欠陥の有無のみではなく、欠陥の種類も高精度に識別したい場合には、図9Bのグラフ905のように、欠陥がない場合の確率分布941と、欠陥の種類別の確率分布(欠陥A、Bの確率分布を942、943で示す)を求め、その重なりを調べる必要がある。これらの確率分布の重なり944が小さくなるように参照光の位相シフト量を求めればよい。例えば、図9Cのグラフ904に破線で示した直線934に射影したときに、平均誤り率の規準において欠陥の有無および各欠陥の種類を最も高精度に識別できる。この直線934は、一般に欠陥の種類の識別を考慮せずに最適化を行った直線935とは異なる位相シフト量を持つ。このように、欠陥の種類毎の確率分布を求め、その重なりが小さくなるように光の状態を変換することにより、欠陥の有無および欠陥の種類を高精度に識別することができる。
【0060】
対象光の振幅や位相の分布を表すためには、状態を量子状態として表現する必要がある。この例のような位相空間表現に対応する量子状態の表現として、Wigner関数やGlauberのP関数のような複素平面z上で定義されるc数関数F(z、z*)がある(*は複素共役)。量子状態の別の表現としては、波動関数(の集合)や、複素ヒルベルト空間上の半正定値作用素などがある。対象光の状態を量子状態として表現することにより、振幅や位相の揺らぎを求めることができ、欠陥がある場合とない場合の確率分布や、その重なりを計算することができる。
【0061】
識別したい状態を量子状態としてモデル化することにより、適切な光の変換方法を計算することができる。例えば、量子ノイズの影響を考慮して参照光の位相を適切に最適化することができる。この際、欠陥がある場合における量子状態を計算することにより、欠陥がある場合に正しく検出する確率(検出正解率)を制御することができるし、欠陥がない場合における量子状態を計算することにより、欠陥がない場合に誤って欠陥があると識別してしまう確率(虚報率)を制御することができる。欠陥がある場合とない場合両方の場合における量子状態を計算すれば、検出正解率と虚報率を制御することができる、高い適切な検出を行うことができる。
【0062】
[図10説明]図10は、光の位相シフト量を変更する位相シフタ(図3の302及び図6の606に対応)の構成の例を示す図である。まず、入力光1011である参照光113(図3)または612(図6)が1/4波長板1001に入射した後、そこから透過した光が1/2波長板1002、1/4波長板1003に順次入射する。1/4波長板1003から透過される光が位相シフタの出力光1012となる。3枚の波長板1001〜1003は、異方性のある材質で作られている。また、各波長板は円筒形の形状をしており、光はその中心軸を通る。入力光は偏光しているものとする。この構成において、1/2波長板を回転させると、入力光の偏光方向との角度に応じて入力光の位相がシフトする。そこで、1/2波長板を回転させるための回転器1004を備え、この回転器を要求感度等の要求値1013に応じて位相制御器1005により制御することで、要求感度等に応じて光の位相を変更することができる。
【0063】
[図10補足]光の位相シフト量を変更する位相シフタは、図10で示した実施例とは別の構成であっても良い。例えば、液晶変調器を用いる方法や、MEMS変調器を用いる方法、可変遅延光路を用いる方法を用いても良い。
【実施例2】
【0064】
図1に示した構成において、光変換手段106として、非線形変換を行う手段を用いた例を図11A乃至図16を用いて説明する。
【0065】
[図11説明]図11A〜Dは、図1に示した光変換手段106を、対象光、または参照光、または対象光と参照光を干渉させた後の光に対して、フォトニック結晶を用いた非線形変換を行うことにより光の状態を変換する光変換手段に置き換えた例を示す図である。非線形変換とは、出力光を表す電磁場が、入力光を表す電磁場に比例しないような変換である。フォトニック結晶とは、屈折率の異なる材料が周期的に並んだ構造体であり、従来の光学素子にはない性質が得られることで知られている。特に、強い非線形性を有する素子を製作することができ、この性質を利用することで量子ノイズの影響を抑制した欠陥検出が可能となる。
【0066】
図11Aは、対象光1111と参照光1112を光干渉手段1101で干渉させた後の光に対して、非線形変換器1102を用いて非線形変換を行い、この非線形変換された干渉光を検出器1103で検出して検出信号1113を出力する例であり、図5Aで説明したホモダイン検出に対応する構成である。
【0067】
図11Bは、図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、対象光1111と参照光1112を光干渉手段1121で干渉させた後の光1132、1133に対して、それぞれ非線形変換器1122、1123を用いて非線形変換を行ってそれぞれの干渉光を検出器1124と1125とで検出し、それぞれの検出器1124と1125とからの出力信号の差を演算器1126で算出し、その結果を検出信号1131として出力する構成の例を示す図である。
【0068】
図11Cも図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、図11Bの構成に対して、さらに対象光1111と参照光1112に対しても非線形変換を行う例である。非線形変換器1144に入力する光と出力する光の本数は必ずしも1本ずつ(すなわち1入力1出力)である必要はなく、図11Cに示した例では、非線形変換器1144に対象光1111と参照光1112の2本の光を入力し、2本の光を出力して、この出力された2本の光線を光干渉手段1141で干渉させる。光干渉手段1141以降の処理は、図11Bで説明したものと同じであるので省略する。
【0069】
図11Dも図5Bで説明したバランス型ホモダイン検出に対応する構成であり、参照光1112に対して非線形変換器1162で非線形変換を行う例である。光干渉手段1161以降の処理は、図5Bで説明したものと同じであるので省略する。
【0070】
[図11効果]欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換するためには、非線形変換が必要であることが知られている。従来の光学媒質では強い非線形光学効果を得ることは困難であったが、近年研究開発が盛んに行われているフォトニック結晶により、強い非線形光学効果を得ることができる。フォトニック結晶を光検査装置に適用して、検出器の前に設置することにより、欠陥の有無のそれぞれに対応する確率分布の重なりが小さくなるように光の状態を変換し、量子ノイズの影響を抑えることができる。
【0071】
微小な欠陥を検出するためには、対象光に含まれている欠陥からの微弱な信号を検出する必要がある。しかし、光変換手段により光の状態を変換する際、光学媒質の材質の不均一性や光軸調整の精度不足などの要因のため、光に対して少なからず意図しない擾乱を与えてしまう。本発明では、欠陥からの微弱な信号を含む対象光に対しては光変換手段により光の状態を変換することはせず、参照光に対してのみ光変換手段により光の状態を変換することにより、擾乱による性能低下を防ぐことができる。
【0072】
[図11補足]なお、図11ではホモダイン検出を行う場合に、対象光、または参照光、または対象光と参照光を干渉させた後の光に対して非線形変換を行う構成について説明したが、ヘテロダイン検出や他の検出を行う場合にも同様の非線形変換を行うことができる。
【0073】
[図12説明]図12A、図12Bは、フォトニック結晶の構造の例を示す図である。図12Aのフォトニック結晶1201では、屈折率が異なる領域が周期的に配置された構造体の中に、周期を乱す構造1204を意図的に導入することにより、導波路や光の閉じ込めなどの機能を実現することができる。1205は空洞になっており、光は1211から入力してこの1205の内部を伝搬して1212から出力する。図12Aの例では、面1202上に空孔1203を2次元的に周期的に配列して、その中に周期を乱す線状の領域1204(空孔1203が存在しない帯状の領域)を導入している。領域1204が光の導波路として機能する。また、図12Bのフォトニック結晶1221の例では、同様に周期的に配置した空孔1222に対して、周期を乱す線状の領域1223、1224を導入している。これらの線状の領域が光の導波路として機能する。これらの線状の領域を途中で近接させることにより、線状の領域1223、1224から成る二つの導波路の間に近接場光等による相互作用を発生させることができる。この例では、2本の入力光1231、1232を途中で相互作用させ、2本の光1233、1234を出力する。導波路(線状の領域)1223、1224の間にある空孔1225を他の空孔とは異なる媒質とすることにより、非線形光学効果を高めても良い。
【0074】
[図12効果]フォトニック結晶の屈折率、周期、周期を乱す構造を制御することにより、光の群速度を大きく低下させるなど、従来の素子にはない分散関係を得ることができる。この結果、光カー効果などの3次以上の非線形光学特性が強く現れる素子を実現することが可能である。このような強い非線形光学特性を持つ素子を用いて光を変換することにより、欠陥がある場合とない場合の確率分布の重なりを小さくすることができる。
【0075】
[図12補足]なお、図12A及び図12Bでは、空孔が周期的に並んだ構造に対して周期を乱す線状の構造(領域)を導入するフォトニック結晶の例を示したが、非線形光学特性を示すフォトニック結晶であればこの構造でなくとも良い。
【0076】
[図13説明]図13Aは、フォトニック結晶を用いた非線形変換器の構成の一実施例図である。非線形変換器1301は、フォトニック結晶1302のみから構成される単純な例であり、入力光1311が非線形変換器1301を構成するフォトニック結晶1302に入力し、非線形変換された出力光1312が得られる。フォトニック結晶を含むより複雑な非線形変換器を考えることもでき、例えば図13Bに示した非線形変換器1321では、内部に2種類のフォトニック結晶1326、1327を含む。また、ビームスプリッタ1322、1324や、ミラー1323、1325も備えており、入力光1331をビームスプリッタ1322で2本の光に分割した後、片方の光に対してフォトニック結晶1326により非線形変換を行った後、ミラー1323と1325で形成された光路を通ったもう片方の光とビームスプリッタ1324で干渉させる。干渉後の光に対して、別のフォトニック結晶1327により非線形変換を行う。非線形変換器は、フォトニック結晶を含んでいればこれ以外の構成であっても良い。
【0077】
[図14説明]図14は、要求感度等に応じて、非線形変換方法を変更する光変換手段の一実施例である。この例では、光変換手段1401は、参照光の位相を変更する位相シフタ1406と、複数種類のフォトニック結晶からなる素子1403とその素子を駆動する駆動部1404を備え、位相シフタ1406と駆動部1404を制御手段1405により制御する。図14は、素子1403と駆動部1404を横から見た図であるが、上から見た図を図15に示す。素子1403は、4種類のフォトニック結晶1502〜1505からなっており、駆動部1404によりy方向に駆動させることができる。これにより、入力光1506(1411)を、フォトニック結晶1502〜1505のうちの一つに入力させ出力光1507を得る。一方、要求感度や要求スループット、欠陥種類などの入力情報1412に基づいて制御手段1405で制御された位相シフタ1406を透過して位相が制御された参照光1413がビームスプリッタ1402に入射し、素子1403から出力された出力光1507と干渉して干渉光1414が出力される。これにより、光の非線形変換方法を要求感度等に応じて制御することができる。
【0078】
[図14補足]なお、非線形変換方法を変える方法としては、図14のように異なる種類のフォトニック結晶を用いる方法の他に、フォトニック結晶の非線形光学特性を変化させる方法を用いても良い。例えば、熱や電場を与えてフォトニック結晶の屈折率を変化させる方法や、フォトニック結晶の空孔にロッドを挿入する方法、微小なアクチュエータを用いてフォトニック結晶を伸縮させる方法を用いても良い。
【0079】
[図16説明]図16A及び図16Bは、図11A乃至図15で説明した非線形変換手段を用いて非線形変換を行った場合の対象光の状態を表す位相空間表現の概略図である。図16Aのグラフ1601の領域1611、1612は、非線形変換を行わなかった際の、欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態である。ホモダイン検出を行うときは、直線1613の軸に射影すると、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができる。しかし、非線形変換を行わない限り、図9で説明したように射影する方向を変える方法以外には、量子ノイズの影響を抑えることはできない。
【0080】
これに対し、フォトニック結晶を用いて非線形変換を行えば、量子ノイズの影響を抑えることが可能となる。図16Bのグラフ1602の領域1614、1615は、非線形変換を行った際の、欠陥がない場合とある場合のそれぞれの対象光の状態である。確率分布の形状を変えることによって、それぞれの確率分布の重なりを小さくすることができる。この例の場合は、直線1616の軸に射影することにより、非線形変換を行わない場合に比べてより高い検出率が得られる。この際、参照光の位相シフト量に基づいて非線形変換の方法を変えることにより、確率分布の重なりを小さくすることが可能である。
【実施例3】
【0081】
[図17説明]図17A、図17Bは、実施例1又は2で説明した光干渉手段103と光変換手段106又は306試料に対して光を照射して、試料からの反射光を実施例1又は2で説明した光干渉手段103と光変換手段106又は306などで受信する光検査装置の構成を示す図である。
【0082】
図17Aは、光源1701からテーブル1721上に載置された試料1705に対して上方から垂直に光を照射する落射照明により欠陥を検出する検査装置の構成を示す。光源1701から発射された光1706は、レンズ1703により試料1705上で集光されて試料1705を落射照明する。試料1705で反射された光のうちレンズ1704の方向に反射された光1707はレンズ1704により集光され、受信器1702に入力される。受信器1702は、実施例1又は実施例2で説明したような光干渉手段(103)、光変換手段(106又は306又は1401など)、光検出手段(104など)を備えている。受信器1702は複数個備わっていても良く、例えば、レンズ1709と受信器1708のように、光1707とは異なる方位への散乱光または反射光を受信するような配置であっても良い。受信器1702、1708での検出信号を用いて欠陥識別手段1710により欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。試料1705はステージ1721の上に設置されており、ステージ1721をxy方向に動かすことにより、試料上の光照射位置を制御することができる。
【0083】
図17Bは、試料1716に対して垂直方向ではなく斜め方向から光源1711から発射された光1719をレンズ1712で集光し斜方照射して、試料1716からレンズ1715の方向に反射した散乱光または反射光1717を受信器1713で受信し、レンズ1714の方向へ反射した光を受信器1718で受信する。この構成により、試料1716に光を集光し、集光位置における欠陥の有無や欠陥の種類に関する情報を受信器1713及び1718で受信した光を用いて欠陥識別手段1720で識別することができる。
【0084】
[図18説明]図18A、及び図18Bには、試料に対して光を照射して、試料からの光を受信する、図17とは別の光検査装置の構成を示す一実施例の図である。図18Aに示した構成では、光源1801から発射した光を試料1804に照射する。光1811は近接場光発生器1803に入力され、その先端1822から近接場光を放出する。近接場光発生器1803は近接場光が試料1804に到達する程度にまで試料1804に近接させる。試料1804からの散乱光または反射光1812は、照射光1811と同じ光路1806を通り、ビームスプリッタ1802により反射して受信器1805に入力される。ビームスプリッタ1802は、光源1801からの照射光は透過し、試料からの光は反射するようにしておく。これは、例えば、光源1801からの光を偏光させておき、1/4波長板1807を光路に配置し、かつビームスプリッタ1802を偏光ビームスプリッタとすることにより実現できる。受信器1805は、実施例1又は実施例2で説明したような光干渉手段(103)、光変換手段(106又は306又は1401など)、光検出手段(104など)を備えている。受信器1805での検出信号を用いて欠陥識別手段1808により欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。試料1804はステージ1821の上に設置されており、ステージ1821をxy方向に動かすことにより、試料上の光照射位置を制御することができる。
【0085】
図18Bは、近接場光を試料に照射する、図18Aとは別の構成の例を示す図である。近接場ヘッド1812と近接場ヘッド支持部1811を備え、近接場ヘッド1812は、その先端から放出される近接場光がステージ1822に載置された試料1814に到達する程度にまで試料1814に近接させる。試料1814から散乱または反射した光1816をレンズ1813で集光して受信器1815に入力して受光し、受信器1815からの出力信号を欠陥識別手段1817で処理することにより欠陥の有無や欠陥の種類の識別を行う。図17の構成と比較し、図18の構成を用いることにより、試料上のより狭い領域に光を集光することができるため、微小な欠陥からの散乱光または反射光を強い強度で得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
101…光検査装置 102…光照射手段 103…光干渉手段 104…光検出手段 105…欠陥識別手段 106…光変換手段 111…試料 112…ビームスプリッタ 113…参照光 201…光変換手段を備えていない場合の確率分布 202…光変換手段を備えた場合の確率分布 211…欠陥がある場合の確率分布 212…欠陥がない場合の確率分布 221…それぞれの確率分布の重なり 231…それぞれの確率分布の平均の差 301…位相制御器 302…位相シフタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光検査装置であって、
試料に光を照射する光照射手段と、
参照光を発射する参照光手段と
前記光照射手段により光が照射された前記試料からの透過光または散乱光または反射光と、前記参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、
前記光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、
前記光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、
前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記参照光手段から発射された参照光の状態、または前記光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち、少なくとも一つを変換する光変換手段と
を有することを特徴とする光検査装置。
【請求項2】
前記光変換手段は、前記光検出手段により前記干渉光を検出して得られた検出信号において欠陥を含む信号の確率分布と欠陥を含まない信号の確率分布との重なりが小さくなるように前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記参照光手段から発射された参照光の状態、または前記光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも何れか一つの状態を変換することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項3】
前記光変換手段は、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相または前記光照射手段により照射する光の位相を調整することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項4】
前記光変換手段は、欠陥がある場合又はない場合の少なくとも何れかの場合における前記光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を推定した情報に基づいて前記参照光の位相を調整することを特徴とする請求項2記載の光検査装置。
【請求項5】
前記光変換手段は、前記光照射手段により光が照射された前記試料からの透過光または散乱光または反射光、または前記参照光手段から発射された参照光、または前記光干渉手段により生成した干渉光のうち、少なくとも一つに対してフォトニック結晶を用いてその光の状態を調整することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項6】
前記光変換手段は、前記参照光に対してフォトニック結晶を用いることにより該参照光の状態を変換することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項7】
前記欠陥識別手段は、更に欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項8】
光検査方法であって、
試料に光を照射する光照射ステップと、
参照光を発射するステップと、
前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、前記発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉ステップと、
前記光干渉ステップにより生成した干渉光を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップで前記干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別ステップと、
前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記発射された参照光の状態、または前記光干渉ステップにより生成された干渉光の状態のうち、少なくとも何れか一つの光の状態を変換する光変換ステップと
を有することを特徴とする光検査方法。
【請求項9】
前記光変換ステップにおいて、前記光検出ステップで前記干渉光を検出して得られた検出信号において欠陥を含む信号の確率分布と欠陥を含まない信号の確率分布との重なりが小さくなるように前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記発射された参照光の状態、または前記光干渉ステップにより生成した干渉光の状態のうち少なくとも何れか一つの光の状態を変換することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項10】
前記光変換ステップは、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相または前記光照射ステップにより照射する光の位相を調整することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項11】
前記光変換ステップは、欠陥がある場合又はない場合の少なくとも何れかの場合における前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を推定した情報、前記推定した量子状態に基づいて前記参照光の位相を調整することを特徴とする請求項9記載の光検査方法。
【請求項12】
前記光変換ステップは、前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光、または前記発射された参照光、または前記生成した干渉光のうち、少なくとも一つに対してフォトニック結晶を用いてその光の状態を調整することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項13】
前記光変換ステップは、前記参照光に対してフォトニック結晶を用いることにより該参照光の状態を変換することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項14】
前記欠陥識別ステップは、更に欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項1】
光検査装置であって、
試料に光を照射する光照射手段と、
参照光を発射する参照光手段と
前記光照射手段により光が照射された前記試料からの透過光または散乱光または反射光と、前記参照光手段から発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉手段と、
前記光干渉手段により生成した干渉光を検出する光検出手段と、
前記光検出手段により干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別手段と、
前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記参照光手段から発射された参照光の状態、または前記光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち、少なくとも一つを変換する光変換手段と
を有することを特徴とする光検査装置。
【請求項2】
前記光変換手段は、前記光検出手段により前記干渉光を検出して得られた検出信号において欠陥を含む信号の確率分布と欠陥を含まない信号の確率分布との重なりが小さくなるように前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記参照光手段から発射された参照光の状態、または前記光干渉手段により生成した干渉光の状態のうち少なくとも何れか一つの状態を変換することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項3】
前記光変換手段は、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相または前記光照射手段により照射する光の位相を調整することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項4】
前記光変換手段は、欠陥がある場合又はない場合の少なくとも何れかの場合における前記光照射手段により光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を推定した情報に基づいて前記参照光の位相を調整することを特徴とする請求項2記載の光検査装置。
【請求項5】
前記光変換手段は、前記光照射手段により光が照射された前記試料からの透過光または散乱光または反射光、または前記参照光手段から発射された参照光、または前記光干渉手段により生成した干渉光のうち、少なくとも一つに対してフォトニック結晶を用いてその光の状態を調整することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項6】
前記光変換手段は、前記参照光に対してフォトニック結晶を用いることにより該参照光の状態を変換することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項7】
前記欠陥識別手段は、更に欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする請求項1記載の光検査装置。
【請求項8】
光検査方法であって、
試料に光を照射する光照射ステップと、
参照光を発射するステップと、
前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光と、前記発射された参照光とを干渉させて干渉光を生成する光干渉ステップと、
前記光干渉ステップにより生成した干渉光を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップで前記干渉光を検出して得られた検出信号に基づいて欠陥の有無を識別する欠陥識別ステップと、
前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記発射された参照光の状態、または前記光干渉ステップにより生成された干渉光の状態のうち、少なくとも何れか一つの光の状態を変換する光変換ステップと
を有することを特徴とする光検査方法。
【請求項9】
前記光変換ステップにおいて、前記光検出ステップで前記干渉光を検出して得られた検出信号において欠陥を含む信号の確率分布と欠陥を含まない信号の確率分布との重なりが小さくなるように前記試料からの透過光または散乱光または反射光の状態、または前記発射された参照光の状態、または前記光干渉ステップにより生成した干渉光の状態のうち少なくとも何れか一つの光の状態を変換することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項10】
前記光変換ステップは、欠陥検出の要求感度、要求スループット、検出対象とする欠陥の種類の少なくとも一つに応じて、前記参照光の位相または前記光照射ステップにより照射する光の位相を調整することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項11】
前記光変換ステップは、欠陥がある場合又はない場合の少なくとも何れかの場合における前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光の状態を表す量子状態を推定した情報、前記推定した量子状態に基づいて前記参照光の位相を調整することを特徴とする請求項9記載の光検査方法。
【請求項12】
前記光変換ステップは、前記光が照射された試料からの透過光または散乱光または反射光、または前記発射された参照光、または前記生成した干渉光のうち、少なくとも一つに対してフォトニック結晶を用いてその光の状態を調整することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項13】
前記光変換ステップは、前記参照光に対してフォトニック結晶を用いることにより該参照光の状態を変換することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【請求項14】
前記欠陥識別ステップは、更に欠陥の種類に関する情報も取得することを特徴とする請求項8記載の光検査方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【公開番号】特開2012−181154(P2012−181154A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45468(P2011−45468)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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