説明

内燃機関の制御システム

【課題】点火時期の過進角による筒内温度の上昇効果を最大限に利用しつつ、内燃機関におけるより広範囲の運転状態においてプラグくすぶりを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】プラグくすぶりのおそれが検出された場合(S101)に、内燃機関の運転状態が過進角可能な領域に属する場合には点火時期の過進角(S103)を行ない、内燃機関の運転状態が過進角不可能な領域に属する場合にはトルクコンバータの容量係数Cを低下して機関回転数を上昇させる(S104)ことで、点火プラグの温度を上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式の内燃機関を制御するシステムに関し、特に、気筒内の点火プラグに燃料またはカーボンが付着することで燃焼が不安定になるプラグくすぶりを抑制する制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、空気と燃料からなる混合気を、気筒に装着された点火プラグの火花放電によって燃焼させている。ところで、気筒内に誘導される燃料が完全に燃焼せずに残存するような状態が継続すると、残留燃料または残留燃料が炭化したカーボンが点火プラグの絶縁体表面に付着する、所謂プラグくすぶりを生じる場合があった。そして、燃料またはカーボンの点火プラグへの付着量が多くなると、点火プラグの電極間の絶縁抵抗が低下し、点火コイルからの点火用高電圧が付着物を通じてリーク電流(漏洩電流)として流れ、火花放電ギャップにて飛火せずに失火などの燃焼不安定を招来する場合があった。
【0003】
このようなプラグくすぶりを抑制する技術として、プラグくすぶりが検出されると、アイドル時であれば目標アイドル回転速度を増大させ、走行時では変速比を低速側にシフトさせることにより、機関回転数を増大させて点火プラグの温度を上昇させ、点火くすぶりを解消する技術が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
また、放電電流の積分値から失火に至る前のプラグくすぶりを検出し、点火時期を、例えば平均有効圧力が大きくなるように一定量進角させるとともに、燃料供給量を低減する技術が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
一方、火花点火式の内燃機関において点火時期をMBTより前へ進角(以下、「過進角」とも称する)させることで、筒内温度のピーク値を効率よく上昇させることができる現象が見出されている。これは、点火時期が過進角された場合は、圧縮上死点前に燃焼する混合気の量が増加するため、混合気の燃焼による昇圧・昇温効果とピストンの上昇動作による昇圧・昇温効果との相乗効果が得られることに因ると考えられる。
【0006】
この過進角を行うことにより点火プラグの温度を上昇させ、効率よくプラグくすぶりを抑制することも考えられる。しかし、内燃機関の運転状態によっては、ノッキング発生のおそれがあるなどの理由から点火時期を過進角させることが困難な場合があり、このような場合には、過進角を行うことによりプラグくすぶりを抑制することが困難な場合があった。
【特許文献1】特開2007−56778号公報
【特許文献2】特開2001−271732号公報
【特許文献3】特開平7−150960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、点火時期の過進角による筒内温度の上昇効果を最大限に利用しつつ、内燃機関におけるより広範囲の運転状態においてプラグくすぶりを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するために、プラグくすぶりが検出された場合に、内燃機関の運転状態が過進角可能な領域に属する場合には点火時期の過進角を行ない、内燃機
関の運転状態が過進角不可能な領域に属する場合には機関回転数を上昇させることで、点火プラグの温度を上昇させることを最大の特徴とする。
【0009】
より詳しくは、火花点火式の内燃機関の点火プラグへの燃料の付着に起因する点火不良のおそれがあることを検出するプラグくすぶり検出手段と、
前記内燃機関の点火時期をMBTより前へ進角させる過進角制御を行う過進角手段と、
前記内燃機関の運転状態が、前記過進角制御が可能な領域に属するか否かを判定する可否判定手段と、
前記内燃機関の機関回転数を上昇させる回転数上昇手段と、
を備え、
前記プラグくすぶり検出手段が前記点火不良のおそれがあることを検出した場合において、前記可否判定手段が前記内燃機関の運転状態は前記過進角制御が可能な領域に属すると判定した場合には前記過進角手段によって前記過進角制御を行うとともに、前記可否判定手段が前記内燃機関の運転状態は前記過進角制御が可能な領域に属しないと判定した場合には前記回転数上昇手段によって前記内燃機関の機関回転数を増加させることを特徴とする。
【0010】
これによれば、内燃機関にプラグくすぶりが発生するおそれがあると判断された場合に、内燃機関の運転状態が過進角制御が可能な運転状態に属するときには、過進角制御を実施することで筒内温度のピークを効率よく上昇させることができ、点火プラグに付着した燃料またはカーボンを除去できる。また、内燃機関にプラグくすぶりが発生するおそれがあると判断された場合に、運転状態が過進角制御が可能な運転状態に属しないときには、機関回転数を上昇させることで点火プラグの温度を上昇させることができる。従って、効率的にプラグくすぶりを抑制可能な過進角制御の効果を最大限に利用しつつ内燃機関のより広範囲の運転状態においてプラグくすぶりを抑制することが可能である。
【0011】
また、本発明においては、前記内燃機関のクランク軸の回転を入力とし、該回転を駆動輪に出力として伝達するとともに、その伝達トルク容量を変更可能な可変容量トルクコンバータをさらに備え、前記回転数上昇手段は、前記可変容量トルクコンバータの伝達トルク容量を低下させることにより前記内燃機関の機関回転数を増加させるようにしてもよい。
【0012】
これによれば、可変容量トルクコンバータの伝達可能なトルク容量(容量係数Cで表される)を変更することで容易に機関回転数を増加することができる。また、この場合には、例えば出力ギア比を変更して機関回転数を増加させる場合と比較して、トルクコンバータにおける動力の伝達効率自体を低下させることができるので、結果的に内燃機関の出力を高めることとなり、より確実に点火プラグの温度を上昇させることが可能となる。
【0013】
また、本発明においては、前記回転数上昇手段が前記内燃機関の機関回転数を増加させた後の前記内燃機関の運転状態が、前記過進角制御が可能な領域に属する場合には、前記過進角手段による前記過進角制御を、機関回転数の増加と併せて行うようにしてもよい。
【0014】
すなわち本発明においては、プラグくすぶりのおそれがあると判定された場合であって、内燃機関の運転状態が過進角制御が可能な領域に属していないときには、機関回転数を増加させる制御が行なわれる。基本的には、この制御によって点火プラグの温度を上昇させることができ、プラグくすぶりを抑制することが可能である。しかし、機関回転数の変更後の運転状態が過進角制御の可能な領域に属しているときには、併せて過進角制御を実行してもよい。そうすれば、より効率よく点火プラグの温度を上昇させることができ、より短期間で、より確実にプラグくすぶりを抑制することが可能となる。
【0015】
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、過進角制御の実行による筒内温度のピーク値上昇効果を最大限に利用しつつ、内燃機関におけるより広範囲の運転状態においてプラグくすぶりを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本実施例における内燃機関の制御システムの概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、複数の気筒2を有する4ストロークサイクルの火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)である。内燃機関1の気筒2は、吸気ポート3を介して吸気通路30に接続されるとともに、排気ポート4を介して排気通路40に接続されている。
【0019】
吸気通路30には、該吸気通路30内を流通する空気量を制御するスロットル弁6が設けられている。スロットル弁6より下流の吸気通路30には、該吸気通路30内の圧力(吸気圧)を測定する吸気圧センサ7が設けられている。スロットル弁6より上流の吸気通路30には、該吸気通路30を流れる空気量を測定するエアフローメータ8が設けられている。
【0020】
一方、排気通路40には、排気浄化装置9が配置されている。排気浄化装置9は、三元触媒などの触媒を排気浄化触媒として具備し、所定の活性温度域にある時に排気を浄化する。
【0021】
また、内燃機関1には、気筒2内に臨む吸気ポート3の開口端を開閉する吸気弁10と、気筒2内に臨む排気ポート4の開口端を開閉する排気弁11が設けられている。これら吸気弁10と排気弁11は、吸気側カムシャフト12と排気側カムシャフト13によりそれぞれ開閉駆動される。
【0022】
気筒2の上部には、該気筒2内の混合気に点火する点火プラグ14が配置されている。また、気筒2内に直接燃料を噴射する直噴式の燃料噴射弁5が配置されている。さらに、気筒2内にはピストン15が摺動自在に挿入されている。ピストン15はコネクティングロッド16を介してクランクシャフト17と接続されている。
【0023】
クランクシャフト17の近傍には、該クランクシャフト17の回転角度を検出するクランクポジションセンサ18が配置されている。更に、内燃機関1には、該内燃機関1を循環する冷却水の温度を測定する水温センサ19が取り付けられている。
【0024】
このように構成された内燃機関1には、ECU20が併設されている。ECU20は、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御ユニットである。このECU20は、前述したエアフローメータ8、吸気圧センサ7、クランクポジションセンサ18、水温センサ19等の各種センサと電気的に接続され、各種センサの測定値を入力可能になっている。また、ECU20は、前記した各種センサの測定値に基づいて燃料噴射弁5、スロットル弁6、点火プラグ14等を電気的に制御する。
【0025】
ここで、内燃機関1においては、例えば、イグニッションONされてから内燃機関1の
暖機が終了する前にイグニッションOFFされるような運転がなされると、その際に気筒2内に導入された燃料が燃焼せずに残留し、点火プラグ14に付着する場合があった。そして、燃料または燃料が炭化したカーボンの点火プラグ14への付着量が多くなると、点火プラグ14の電極間の絶縁抵抗が低下し、点火コイルからの点火用高電圧が付着物を通じてリーク電流(漏洩電流)として流れ、火花放電ギャップにて飛火せずに失火などの燃焼不安定を招来する場合があった。
【0026】
これに対し本実施例においては、内燃機関1においてプラグくすぶりのおそれが生じたことを検出し、プラグくすぶりのおそれが検出された場合には、一定期間に亘って点火プラグの点火時期をMBTより前まで進角させる過進角制御を行うこととした。これにより、当該気筒2の燃焼行程における筒内温度のピーク値を高め、残留している燃料を気化し、カーボンを酸化除去することができる。
【0027】
内燃機関1の点火時期が過進角された場合は、点火時期がMBTに設定された場合及び点火時期が圧縮上死点(TDC)に設定された場合に比べ、圧縮上死点前に燃焼される混合気の量が多くなる。このため、混合気の燃焼により発生する熱エネルギのピークが圧縮上死点前へシフトする。
【0028】
よって、混合気の燃焼による昇温・昇圧効果と、ピストンの上昇動作(下死点から上死点へ向かう動作)による圧縮効果との相乗効果により、圧縮行程から膨張行程までの期間における筒内圧及び筒内温度のピーク値が大幅に上昇する。なお、点火時期のMBTより前への過進角はECU20の指令によって実行されるので、本実施例において過進角手段はECU20を含んで構成される。
【0029】
図2には、気筒2における点火時期とトルク及び、筒内最高温度との関係のグラフを示す。横軸は点火プラグ14の点火時期、縦軸はトルク及び筒内最高温度である。図2から分かるように、点火時期をMBTから進角していくと、トルクは低下していく一方、筒内最高温度は上昇し、ST1で最高となる。
【0030】
このように、点火プラグ14の点火時期をMBTより前まで過進角させることにより、気筒2内の最高温度を上昇させることができる。その結果、点火プラグ14の温度を上昇させることができ、より効率的に、点火プラグ14に付着している燃料を気化し、またはカーボンを酸化除去することができる。
【0031】
しかしながら、高負荷の運転状態において上記の過進角制御を実行すると、ノッキングが生じ易くなるなどの理由から、過進角制御が許可される運転状態は限られている。図3には、過進角制御が許可される運転状態の範囲である過進角許可領域の例について図示する。
【0032】
そこで、本実施例においては、内燃機関1の運転状態が図3における過進角許可領域に属する場合にのみ過進角制御を行ない、内燃機関1の運転状態が図3における過進角不許可領域に属する場合には、機関回転数を上昇させることで点火プラグ14の温度を上昇させ、プラグくすぶりを抑制することとした。
【0033】
図4には、本実施例に係る内燃機関1の動力伝達系を含んだ概略構成を示す。図4において、内燃機関1のクランク軸17には自動変速機25が結合されており、内燃機関1のクランク軸17の回転は、この自動変速機25で変速された後、駆動輪35に伝達される。また、自動変速機25はトルクコンバータ25aとトランスミッション25bによって構成されている。
【0034】
このトルクコンバータ25aは流体を介して動力を伝達する装置で、クランク軸17の回転トルクと回転数を入力とし、その出力軸がトランスミッション25bに対する入力軸となっている。そして、本実施例におけるトルクコンバータ25aは、伝達可能なトルク容量を変更可能な可変容量トルクコンバータである。具体的には、内部のクラッチ(不図示)のON/OFFによって、容量係数Cを2段階に変更可能である。
【0035】
ここで、トルクコンバータ25aで伝達可能なトルク(伝達トルク容量)を示す容量係数Cは以下のように表される。
C=T/N・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここでCは容量係数、Tは入力側トルク、Nは入力側回転数である。
【0036】
また、効率ηは以下のように表される。
η=e×t/C・・・・・・・・・・・・・・(2)
ここでtはトルク比でありt=T/Tである。eは速度比でありe=N/Nである。Tは出力側トルク、Nは出力側回転数である。
【0037】
また、トルクコンバータ25aにおける速度比e、トルク比t、容量係数C、効率ηの関係を図5に示す。すなわち、トルクコンバータ25aの容量係数Cを小さくなる側に変更することで、トルクコンバータ25aにおける効率ηが低減するとともに、(1)式より、同じ入力側トルクTを伝達するための入力側回転数Nは大きくなる。
【0038】
従って、トルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させることにより、機関回転数を上昇させることができ、その結果、点火プラグ14の温度を上昇させてプラグくすぶりを抑制できる。
【0039】
また、本実施例のようにトルクコンバータ35aの容量係数Cを制御することで内燃機関1の機関回転数を変化させる場合は、例えば出力ギア比を変更して機関回転数を増加させる場合と比較して、効率ηを低下させることができるので、結果的に内燃機関1の出力を高めることとなり、より確実に点火プラグ14の温度を上昇させることが可能となる。
【0040】
また、本実施例においてより具体的には、連続ショートトリップ運転回数niが判定基準としての所定回数n(以下、「判定基準回数n」ともいう。)以上となった場合にプラグくすぶりのおそれがあると判定する。ここで、ショートトリップ運転とは、イグニッションONの後、プラグ温度が上昇しないような短時間または短距離の運転をした後にイグニッションOFFするような運転をいう。このようなショートトリップ運転が連続して行なわれると、点火プラグ14に付着した燃料が蒸発しないまま、次のショートトリップ運転が重ねて行われるために、点火プラグ14に燃料およびカーボンが堆積し易くプラグくすぶりが生じ易い。従って、連続ショートトリップ運転回数niは、ショートトリップ運転が連続して行なわれた回数である。
【0041】
なお、1回の運転がショートトリップ運転にあたるか否かは、イグニッションONの間においてエアフローメータ8で検出された空気量の積算値である積算吸入空気流量が閾値Xi未満か否かで判定する。図6には、ショートトリップ運転判定の際の積算空気流量と閾値Xiとの関係について示す。
【0042】
そして、連続ショートトリップ運転回数niが判定基準回数n以上となった場合には、プラグくすぶりのおそれがあると判定されるので、点火時期の過進角が可能な場合には過進角制御を行い、不可能な場合にはトルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させて効率ηを低下させる。これにより点火プラグ14の温度を上昇させ、付着した燃料を気化またはカーボンを酸化除去する。
【0043】
次に、本実施例におけるプラグくすぶり抑制のための具体的な制御フローについて説明する。図7は、本実施例におけるプラグくすぶり抑制ルーチンである。本ルーチンは、内燃機関1の電源がONされている期間中はECU20によって所定期間毎に実行されるルーチンである。
【0044】
本ルーチンが実行されるとまず、S101において、前回のイグニッションOFF時において、連続ショートトリップ運転回数niが予め定められた判定基準回数n以上か否かが判定される。ここで連続ショートトリップ運転回数niが判定基準回数nより少ないと判定された場合には、プラグくすぶりのおそれがないと判断されるので、そのまま一旦本ルーチンを終了する。
【0045】
一方、連続ショートトリップ運転回数niが判定基準回数n以上と判定された場合には、プラグくすぶりのおそれがあると判定されるので、S102に進む。
【0046】
S102においては、内燃機関1の運転状態が過進角許可領域に属するか否かが判定される。ここで、内燃機関1の運転状態が過進角許可領域に属すると判定された場合にはS103に進む。一方、内燃機関1の運転状態が過進角許可領域に属さないと判定された場合には、S104に進む。なお、内燃機関1の運転状態における過進角許可領域は、予め実験などによって定義されてもよいが、その他、ノッキングが発生する閾値としてのトレースノック点がMBTより進角側にある領域として定義されてもよい。
【0047】
S103においては、点火時期の過進角(過進角制御)を実行する。ここでは、n回のショートトリップ運転が連続して行われた際に点火プラグに付着すると推定される燃料及びカーボンを除去するのに充分な時間だけ点火時期の過進角(過進角制御)が継続され、その後通常の点火時期に戻される。S103の処理が終了するとS105に進む。
【0048】
一方、S104においては、トルクコンバータ25aのクラッチ(不図示)を作動させて容量係数Cを低下させる。これによりトルクコンバータ25aにおける効率ηが低下し、内燃機関1の機関回転数Nが相対的に増加する。この作用により点火プラグ14の温度が上昇する。ここでは、n回のショートトリップ運転が連続して行われた際に点火プラグ14に付着すると推定される燃料及びカーボンを除去するのに充分な時間だけ容量係数Cの低下が継続され、その後通常の容量係数Cに戻される。S104の処理が終了するとS105に進む。
【0049】
S105においては、連続ショートトリップ運転回数niの値をリセットする。S105の処理が終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0050】
以上、説明したように、本実施例においては、内燃機関1においてプラグくすぶりのおそれがあると判定された場合には、内燃機関1の運転状態が過進角可能な領域に属するか否かを判定し、過進角可能な領域に属していれば点火時期の過進角を実行する。一方、過進角が可能な領域に属しないと判定された場合にはトルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させて機関回転数Nを増加させることで、点火プラグ14の温度を上昇させる。
【0051】
従って、本実施例によれば、より効率のよい点火プラグ温度上昇手法である点火時期の過進角の効果を最大限に活かしながら、より広範囲の運転状態において点火プラグ14の温度を上昇させ、プラグくすぶりを抑制することが可能となる。
【0052】
また、点火時期の過進角を実行しない場合には、トルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させ内燃機関1の機関回転数Nを相対的に増加させて点火プラグ14の温度を上
昇させるので、単純に出力ギア比を変更して機関回転数を増加させる場合と比較して、内燃機関1の出力の増大を伴わせることができ、より確実に点火プラグ14の温度を上昇させることが可能となる。
【0053】
次に、本実施例におけるプラグくすぶり抑制制御の別の態様について説明する。この場合は、トルクコンバータ25aの容量係数Cを変化させた場合には、内燃機関1の運転状態も変化することに着目したものである。すなわち、トルクコンバータ25aの容量係数Cを変化させた際に、再度、内燃機関1の運転状態が過進角許可領域に属するか否かを判定し、このときに内燃機関1の運転状態が過進角可能となっている場合には、点火時期の過進角を併せて実行する例について説明する。
【0054】
図8には、本実施例におけるプラグくすぶり抑制ルーチン2についてのフローチャートを示す。プラグくすぶり抑制ルーチン2が実行された場合において、S101〜S104の処理は、プラグくすぶり抑制ルーチンと同等であるので説明を省略する。S102において否定判定された場合には本ルーチンでは、S201に進み、トルクコンバータ25aの容量係数Cの低下を開始する。S201の処理が終了するとS202に進む。
【0055】
S202においては、内燃機関1の運転状態が過進角許可領域に属するか否かが判定される。ここで肯定判定された場合にはS203に進む。一方、否定判定された場合にはS204に進む。
【0056】
S203においては、トルクコンバータ25aの容量係数Cの低下に加えて点火時期の過進角(過進角制御)が実行される。ここでは、n回のショートトリップ運転が連続して行われた際に点火プラグ14に付着すると推定される燃料及びカーボンを、トルクコンバータ25aの容量係数Cの低下に加えて点火時期の過進角を実行して除去するのに充分な時間だけ点火時期の過進角が継続され、その後通常の点火時期に戻される。S203の処理が終了するとS205に進む。
【0057】
一方、S204においては、トルクコンバータ25aの容量係数Cの低減制御を継続する。より具体的には、n回のショートトリップ運転が連続して行われた際に点火プラグ14に付着すると推定される燃料及びカーボンを除去するのに充分な時間だけトルクコンバータ25aの容量係数Cの低減制御を継続する。S204の処理が終了するとS205に進む。
【0058】
S205においては、連続ショートトリップ運転回数niをリセットするとともに、トルクコンバータ25aの容量係数Cを通常の値に戻す。S205の処理が終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0059】
以上、説明したように、プラグくすぶり抑制ルーチン2では、プラグくすぶりのおそれがあると判定された場合には、内燃機関1の運転状態が過進角可能な領域に属するかどうかを判定し、過進角可能な領域に属する場合には点火時期の過進角を実行する。一方、過進角が可能な領域に属しない場合にはトルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させて機関回転数Nを増加させる。そして、さらに、トルクコンバータ25aの容量係数Cの低下中における内燃機関1の運転状態が、内燃機関1の運転状態が過進角可能な領域に属するかどうかを判定し、過進角可能な領域に属する場合には点火時期の過進角(過進角制御)を併せて実行する。
【0060】
従って、本実施例によれば、より効率よく点火プラグ14の温度を上昇させることのできる、点火時期の過進角の実行機会をさらに増やすことができ、より短期間で、より確実に点火プラグ14の温度を上昇させることが可能となる。
【0061】
図9には、本実施例におけるプラグくすぶり抑制制御の作用について示す。図9において、実線で示すのは点火プラグ14の温度についての等温線であり、線幅が太い方が温度が高くなることを示す。また、破線で示すのは内燃機関1における等出力線である。Aで示すのは、トルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させた後の運転状態が過進角許可領域に属しない場合である。Bで示すには、トルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させた後の運転状態が過進角許可領域に属する場合である。
【0062】
A、B両方の場合において、容量係数Cの変更後の運転状態は等出力線より上側(より点火プラグ14の温度が高い側)に位置し、トルクコンバータ25aの容量係数Cを低減する手法をとることによって、出力ギア比を変更する手法と比較しても、より効率よく点火プラグ14の温度を上昇させられることが判る。また、Bの場合には、さらに点火時期の過進角を併せて行うことが可能であり、さらに効率よく点火プラグ14の温度を上昇させられることが判る。
【0063】
なお、上記のプラグくすぶり抑制ルーチン及び、プラグくすぶり抑制ルーチン2において、S101の処理を実行するECU20は、プラグくすぶり検出手段を構成する。また、S102及びS202の処理を実行するECU20は、可否判定手段を構成する。また、S104、S201及びS204の処理を実行するECU20は、回転数上昇手段を構成する。
【0064】
また、上記の実施例においては、内燃機関1の運転状態が過進角が可能な領域に属しない場合にはトルクコンバータ25aの容量係数Cを低下させて機関回転数Nを増加させる例についてのみ説明した。これに対し、内燃機関1の運転状態が過進角が可能な領域に属しない場合には例えば出力ギア比を変更するなど、他の手法によって機関回転数を増加させて点火プラグ14の温度を上昇させる制御を行ってもよい。このことによっても、点火時期の過進角による筒内温度の上昇効果を最大限に利用しつつ、内燃機関1におけるより広範囲の運転状態においてプラグくすぶりを抑制できるという効果を得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例における内燃機関及び吸排気系、制御系の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る気筒における点火時期と内燃機関のトルク及び筒内最高温度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例に過進角許可領域と過進角不許可領域の例を示す図である。
【図4】本発明の実施例における内燃機関と動力伝達系を含んだ概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るトルクコンバータ25aにおける速度比e、トルク比t、容量係数C、効率ηの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例におけるショートトリップ運転判定の際の積算空気流量と閾値Xiとの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例におけるプラグくすぶり抑制ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例におけるプラグくすぶり抑制ルーチン2を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例におけるプラグくすぶり抑制ルーチン及び、プラグくすぶり抑制ルーチン2を実行した場合の作用について説明するための図である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・・・内燃機関
2・・・・・気筒
3・・・・・吸気ポート
4・・・・・排気ポート
5・・・・・燃料噴射弁
6・・・・・スロットル弁
7・・・・・吸気圧センサ
8・・・・・エアフローメータ
9・・・・・排気浄化装置
10・・・・吸気弁
11・・・・排気弁
12・・・・吸気側カムシャフト
13・・・・排気側カムシャフト
14・・・・点火プラグ
15・・・・ピストン
16・・・・コネクティングロッド
17・・・・クランクシャフト
18・・・・クランクポジションセンサ
19・・・・水温センサ
20・・・・ECU
25・・・・自動変速機
25a・・・・トルクコンバータ
25b・・・・トランスミッション
30・・・・吸気通路
35・・・・駆動輪
40・・・・排気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式の内燃機関の点火プラグへの燃料の付着に起因する点火不良のおそれがあることを検出するプラグくすぶり検出手段と、
前記内燃機関の点火時期をMBTより前へ進角させる過進角制御を行う過進角手段と、
前記内燃機関の運転状態が、前記過進角制御が可能な領域に属するか否かを判定する可否判定手段と、
前記内燃機関の機関回転数を上昇させる回転数上昇手段と、
を備え、
前記プラグくすぶり検出手段が前記点火不良のおそれがあることを検出した場合において、前記可否判定手段が前記内燃機関の運転状態は前記過進角制御が可能な領域に属すると判定した場合には前記過進角手段によって前記過進角制御を行うとともに、前記可否判定手段が前記内燃機関の運転状態は前記過進角制御が可能な領域に属しないと判定した場合には前記回転数上昇手段によって前記内燃機関の機関回転数を増加させることを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項2】
前記内燃機関のクランク軸の回転を入力とし、該回転を駆動輪に出力として伝達するとともに、その伝達トルク容量を変更可能な可変容量トルクコンバータをさらに備え、
前記回転数上昇手段は、前記可変容量トルクコンバータの伝達トルク容量を低下させることにより前記内燃機関の機関回転数を増加させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項3】
前記回転数上昇手段が前記内燃機関の機関回転数を増加させた後の前記内燃機関の運転状態が、前記過進角制御が可能な領域に属する場合には、前記過進角手段による前記過進角制御を、機関回転数の増加と併せて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−257211(P2009−257211A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107874(P2008−107874)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】