説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の制御装置に関し、ノックを抑制する制御に伴う弊害を小さくすることを目的とする。
【解決手段】外部EGRガス生成気筒の排気ガスのみを外部EGRガス生成気筒以外の気筒を含む複数の気筒の吸気側に還流させる外部EGRの実行中にノックが検出された場合に、そのノックの発生要因を判定し、ノックを抑制することのできる複数の方法のうちの何れを優先して実行するかをノック発生要因に基づいて決定し、その決定されたノック抑制方法を実行するノック抑制手段を備える。内部EGR量の過多がノック発生要因であると判定された場合には、外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する方法を優先する。一部の気筒の空気量の過多がノック発生要因であると判定された場合には、一部の気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制する方法を優先する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2003−506619号公報には、特定の気筒の排気ガスのみを吸気側に還流させる外部EGRを行うことのできる多気筒内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−506619号公報
【特許文献2】特開2007−231779号公報
【特許文献3】特開2001−221105号公報
【特許文献4】特開2001−263119号公報
【特許文献5】特開2008−128029号公報
【特許文献6】特開平11−210539号公報
【特許文献7】特開平7−42656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、内燃機関のノックは、空気量の過多が原因で発生する場合がある。その一方で、内部EGR量の過多が原因でノックが発生する場合もある。
【0005】
本発明者の知見によれば、上述したような、特定の気筒の排気ガスのみを吸気側に還流させる外部EGRを行う内燃機関の場合、気筒間で空気量や内部EGR量に差が出易い傾向がある。このため、一部の気筒の空気量の過多あるいは内部EGR量の過多が原因となって、その気筒のみでノックが発生する場合が多くなる。
【0006】
ノックを抑制する方法として、点火時期を遅角する方法が広く用いられている。しかしながら、点火時期を遅角すると、出力トルクが低下する。このため、一部の気筒で発生したノックを抑制するために全気筒の点火時期を一律に遅角すると、他の気筒の出力トルクまで無駄に低下させることとなり、燃費に悪影響がある。
【0007】
一方、ノックを発生した気筒のみで点火時期を遅角したとすると、そのノックの原因が内部EGR量の過多であった場合、次のような問題がある。内部EGR量が他の気筒より多い気筒は、その分、空気量が他の気筒より少なくなっているので、他の気筒より出力トルクが小さい状態にある。内部EGR量が他の気筒より多い気筒でノックが発生した場合にその気筒のみ点火時期を遅角すると、その気筒の出力トルクが更に小さくなり、他の気筒とのトルク差が更に拡大する。その結果、トルク変動が大きくなるという問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ノックを抑制する制御に伴う弊害を小さくすることのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
排気ガスを吸気側に還流させることのできる気筒である外部EGRガス生成気筒と、それ以外の気筒と、EGR通路とを有し、前記外部EGRガス生成気筒の排気ガスのみを前記EGR通路を介して前記外部EGRガス生成気筒以外の気筒を含む複数の気筒の吸気側に還流させる態様で外部EGRを実行可能な多気筒内燃機関と、
ノックを検出するノック検出手段と、
前記外部EGRの実行中にノックが検出された場合に、そのノックの発生要因を判定し、ノックを抑制することのできる複数の方法のうちの何れを優先して実行するかを前記判定されたノック発生要因に基づいて決定し、その決定されたノック抑制方法を実行するノック抑制手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記ノック抑制手段は、前記判定されたノック発生要因に基づいて、気筒間のトルク差を拡大させることのないようなノック抑制方法を優先して実行することを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記ノック抑制手段は、前記判定されたノック発生要因に基づいて、気筒間のトルク差を縮小させることのできるノック抑制方法を優先して実行することを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記ノック抑制手段は、内部EGR量の過多がノック発生要因であると判定された場合に、前記外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する方法を優先して実行することを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、
前記ノック抑制手段は、一部の気筒の空気量の過多がノック発生要因であると判定された場合に、前記一部の気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制する方法を優先して実行することを特徴とする。
【0014】
また、第6の発明は、第5の発明において、
前記一部の気筒の点火時期の遅角量を、前記一部の気筒と他の気筒とのトルク差が解消されるような遅角量となるように制御する点火遅角量制御手段と、
前記点火遅角量制御手段によって制御される制御遅角量と、ノックを抑制するために必要とされる要求遅角量とを比較し、前記制御遅角量が前記要求遅角量に満たない場合に、前記外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによって補完的にノックを抑制する補完手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、ノック発生要因を判定し、その要因に応じて、なるべく弊害のないノック抑制方法を優先して実行することができる。このため、ノックを抑制する制御に伴う弊害を小さくすることができる。
【0016】
第2の発明によれば、ノックを抑制する制御を行う際に、気筒間のトルク差が拡大することを避けることができ、トルク変動を抑制することができる。
【0017】
第3の発明によれば、ノックを抑制する制御を行う際に、気筒間のトルク差を縮小させるという副次的効果が得られ、トルク変動を低減することができる。
【0018】
第4の発明によれば、内部EGR量の過多がノック発生要因である場合に、外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制することにより、気筒間のトルク差が拡大することを避けることができ、トルク変動を抑制することができる。
【0019】
第5の発明によれば、一部の気筒の空気量の過多がノック発生要因である場合に、一部の気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制することにより、気筒間のトルク差を縮小させるという副次的効果が得られ、トルク変動を低減することができる。
【0020】
第6の発明によれば、ノック発生気筒の点火時期を遅角することにより、ノックを抑制すると同時に、気筒間のトルク差を解消してトルク変動を十分に低減することができる。また、その際に、外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正するノック抑制方法を補完的に用いることにより、ノックをより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】外部EGRの実行中における内燃機関の燃焼効率と、#4気筒の空燃比との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】点火時期遅角量と、この点火時期遅角量と同等のノック抑制効果を得るために必要な#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fとの関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、火花点火式の内燃機関10を備えている。内燃機関10は、車両等に搭載される。本実施形態の内燃機関10は、#1〜#4の四つの気筒を有する直列4気筒型のものである。内燃機関10の各気筒には、点火プラグ52、燃料インジェクタ54、吸気弁、排気弁等がそれぞれ設けられている。燃料インジェクタ54は、吸気ポート内あるいは筒内に燃料を噴射するように設けられる。各気筒の吸気ポートは、吸気マニホールド12に接続されている。吸気マニホールド12には、吸気通路14が接続されている。
【0023】
本実施形態の内燃機関10には、ターボチャージャ16が備えられている。ターボチャージャ16は、排気ガスのエネルギによって回転するタービン18と、このタービン18によって駆動されるコンプレッサ20とを有している。#1、#2および#3気筒の排気ポートには、排気マニホールド22が接続されている。排気マニホールド22は、タービン18の入口に接続されている。タービン18の下流側の排気通路24には、排気ガスを浄化する排気浄化触媒26が設置されている。コンプレッサ20は、吸気通路14の途中に配置されている。吸気通路14の入口には、エアクリーナ28が設置されている。コンプレッサ20と、吸気マニホールド12との間の吸気通路14には、コンプレッサ20で圧縮された吸入空気を冷却するインタークーラ30と、吸入空気量を制御するためのスロットル弁32とが設置されている。スロットル弁32を通過した吸入空気は、吸気マニホールド12を通って、#1〜#4の各気筒に分配されて流入する。
【0024】
#4気筒の排気ポートには、EGR通路34の一端が接続されている。EGR通路34の他端は、吸気マニホールド12に接続されている。EGR通路34と吸気マニホールド12との接続部には、EGR弁36が設置されている。EGR通路34と、タービン18の下流側の排気通路24とは、排気通路42によって接続されている。排気通路42の途中または端部には、第2EGR弁44が設置されている。なお、EGR通路34の上記他端は、吸気マニホールド12とスロットル弁32との間の吸気通路14に接続されていてもよい。
【0025】
上述したように、本実施形態では、#1〜#3気筒の排気ポートはEGR通路34に連通しておらず、#4気筒の排気ポートのみがEGR通路34に連通する。このため、EGR通路34による外部EGRを行う場合、#4気筒の排気ガスのみが外部EGRガスとして吸気マニホールド12内に還流し、新気と混合して#1〜#4の各気筒の吸気弁から吸入される。
【0026】
EGR弁36を全開とし、第2EGR弁44を全閉状態とした場合には、#4気筒の排気ガスの全量が、EGR通路34を通って吸気マニホールド12に送られ、#1〜#4気筒の吸気側に還流する。この状態では、内燃機関10の全4気筒のうち、一つの気筒(#4気筒)の排気ガスの全量が外部EGRガスとなる。このため、各気筒の排気ガス量が等しいとした場合、外部EGR率は、正確に25%となる。よって、この状態とすることにより、機関回転速度や機関負荷にかかわらず、外部EGR率を所定割合(本実施形態では25%)に正確且つ確実に維持することができる。
【0027】
また、EGR弁36を中間開度とし第2EGR弁44を全開状態とした場合、あるいはEGR弁36を全開状態とし第2EGR弁44を中間開度とした場合には、EGR通路34内の排気ガスの一部が排気通路42を通ってタービン18の下流側の排気通路24へ流出する。このため、外部EGR量は、#4気筒の排気ガスの全量から、排気通路42を通過した排気ガス量を差し引いた量となる。従って、この場合は、25%を下回る外部EGR率となる。外部EGR率の目標値が25%を下回る場合には、この状態とし、EGR弁36あるいは第2EGR弁44の開度を制御することにより、目標の外部EGR率を実現することができる。
【0028】
また、外部EGRを停止する場合には、EGR弁36を全閉状態とし、第2EGR弁44を全開状態とする。この状態では、#4気筒の排気ガスの全量が、排気通路42を通って、タービン18の下流側の排気通路24に流出する。
【0029】
本実施形態の内燃機関10は、更に、吸気弁と排気弁との開弁期間の重なりであるバルブオーバーラップの大きさを変化させることのできる可変動弁装置56を備えている。可変動弁装置56によってバルブオーバーラップを大きくすることにより、そのバルブオーバーラップの期間に、排気ポート内の排気ガスを気筒内へ逆流させる、いわゆる内部EGRを行うことができる。
【0030】
本明細書では、可変動弁装置56によってバルブオーバーラップを大きくする意図的な内部EGR制御を実行した場合に気筒内に還流する排気ガスだけでなく、気筒内の既燃ガスが排気行程で排出し切れずに残った残留ガスも含めて、「内部EGRガス」と表記する。また、この内部EGRガスの量を「内部EGR量」と称する。
【0031】
本実施形態のシステムは、更に、以下に述べる各センサを含むセンサ系統と、内燃機関10に対して設けられた各アクチュエータの作動を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。クランク角センサ58は、内燃機関10のクランク軸の回転に同期した信号を出力する。ECU50は、クランク角センサ58の出力に基いてクランク角および機関回転速度を検出することができる。エアフローメータ60は、吸気通路14に吸入される新気量を検出する。アクセル開度センサ62は、車両の運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出する。
【0032】
ノックセンサ64は、シリンダブロックに取り付けられ、内燃機関10に発生するノックを検出する。本実施形態において、ノックセンサ64は、気筒毎に設置されており、ノックを気筒毎に検出することができる。すなわち、本実施形態では、ノックを発生した気筒を検出することができるように構成されている。
【0033】
あるいは、単一のノックセンサ64を用いて、その信号を解析することにより、ノックを発生した気筒を検出するようにしてもよい。例えば、ノックセンサ64の信号とクランク角との位相に基づいて、ノックを発生した気筒を判別することができる。また、本発明では、ノックを検出する方法はノックセンサに限定されるものではなく、例えば、各気筒に設けた筒内圧の出力に基づいて、ノックを気筒毎に検出するようにしてもよい。
【0034】
また、センサ系統には、上記の他にも、車両やエンジンの制御に必要な各種のセンサ(例えばエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、上述したスロットル弁32、EGR弁36、第2EGR弁44、点火プラグ52、燃料インジェクタ54、可変動弁装置56のほか、各種のエンジン制御用アクチュエータが接続されている。
【0035】
ECU50は、センサ系統によりエンジンの運転情報を検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ58の出力に基いて機関回転速度とクランク角とを検出し、エアフローメータ60により吸入空気量を検出する。また、吸入空気量、機関回転速度等に基いて燃料噴射量を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定した後に、燃料インジェクタ54および点火プラグ52を駆動する。
【0036】
一般に、直列4気筒型の内燃機関では、各気筒のサイクルが180°ずつずれていることから、バルブオーバーラップ状態のときに位相が180°遅い関係にある他気筒の排気ブローダウンによって排気マニホールド内の圧力が高くなるため、残留ガス量が多くなり易い傾向がある。残留ガス量(内部EGR量)が増えると、筒内の空気量(新気量)は少なくなる。通常の直列4気筒型内燃機関の場合、爆発順序を#1→#3→#4→#2とすると、#1気筒は#3気筒の排気ブローダウンの影響を受け、#2気筒は#1気筒の排気ブローダウンの影響を受け、#3気筒は#4気筒の排気ブローダウンの影響を受け、#4気筒は#2気筒の排気ブローダウンの影響を受ける。このため、各気筒共、上記傾向となるので、気筒間で残留ガス量(内部EGR量)や空気量に大きな不均衡が生ずることはない。
【0037】
これに対し、本実施形態の内燃機関10では、#4気筒の排気系(EGR通路34)が、#1〜#3気筒の排気系(排気マニホールド22)から独立しているため、#1気筒および#2気筒は通常の直列4気筒型内燃機関の場合と同様にそれぞれ#3気筒および#1気筒の排気ブローダウンの影響を受けるが、#3気筒は#4気筒の排気ブローダウンの影響を受けなくなる。このため、#3気筒は、他の気筒と比べて、残留ガス量(内部EGR量)が少なくなり、空気量が多くなる傾向がある。
【0038】
また、#4気筒は、単独の排気系となり、#4気筒自身の排気ブローダウンによって排気脈動が単振動となる。この単振動の負圧波がバルブオーバーラップに同期する場合には、#3気筒と同様に、残留ガス量(内部EGR量)が少なくなり、空気量が多くなる。逆に、単振動の正圧波がバルブオーバーラップに同期する場合には、#1気筒および#2気筒のように、残留ガス量(内部EGR量)が多く、空気量が少なくなる。負圧波がバルブオーバーラップに同期するか、正圧波がバルブオーバーラップに同期するかは、機関回転速度などに応じて変化する。
【0039】
このようなことから、本実施形態の内燃機関10では、気筒間で内部EGR量や空気量の不均衡が生じ易い傾向がある。空気量が多いと、ノックが発生し易くなる場合がある。また、内部EGR量が多いときも、ノックが発生し易くなる場合がある。このため、本実施形態の内燃機関10では、気筒間の内部EGR量や空気量の不均衡に起因して、一部の気筒のみでノックが発生する場合がある。すなわち、他の気筒と比べて内部EGR量が過多の気筒でノックが発生する場合と、他の気筒と比べて空気量が過多の気筒でノックが発生する場合とがある。
【0040】
ノックを抑制する方法としては、点火時期を遅角する方法が一般的であるが、内部EGR量が過多の気筒でノックが発生した場合にその気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制したとすると、次のような問題がある。内部EGR量の過多が原因でノックが発生した気筒は、内部EGR量が他の気筒より多い気筒であり、空気量は他の気筒より少ないので、他の気筒と比べて出力トルクが小さい状態にある。このため、この気筒の点火時期を遅角すると、この気筒の出力トルクが更に小さくなり、他の気筒とのトルク差が更に拡大する。その結果、トルク変動が大きくなる。
【0041】
また、上記の場合に、全気筒の点火時期を一律に遅角したとすると、ノックを発生していない他の気筒の出力トルクまで無駄に低下させることとなり、燃費に悪影響がある。
【0042】
以上のように、一部の気筒の内部EGR量の過多が原因でその気筒にノックが発生した場合、点火時期の遅角によってノックを抑制する方法は、上記のような弊害が伴うため、あまり好ましい方法ではない。
【0043】
本実施形態の内燃機関10では、外部EGRの実行中であれば、点火時期の遅角以外に、次のような方法によって、ノックを抑制することができる。一般に、空燃比(以下、「A/F」と略記する場合がある)をリッチにするほど、排気ガス中に多くの水素(H2)が生成する。外部EGRの実行中に#4気筒の空燃比をリッチにすると、#4気筒の排気ガス、つまり外部EGRガス中に多量の水素が生成するので、水素が各気筒の吸気側に還流する。水素は燃焼速度が極めて速いので、水素が流入することにより、燃焼が促進されて全体の燃焼速度も速くなるので、ノックを抑制することができる。この方法でノックを抑制すれば、内部EGR量が過多の気筒(ノックを発生した気筒)と、他の気筒とのトルク差が拡大することを防止することができる。
【0044】
図2は、外部EGRの実行中における内燃機関10の燃焼効率と、#4気筒の空燃比との関係を示す図である。図2中、(a)は全気筒を平均した燃焼効率を示し、(b)は#1〜#3気筒の燃焼効率を示し、(c)は#4気筒の燃焼効率を示す。
【0045】
図2(b)に示すように、#4気筒の空燃比をリッチにするほど、#1〜#3気筒の燃焼効率は向上する。これは、#4気筒の空燃比をリッチにするほど、水素の還流量が多くなり、燃焼が促進されて効率が良くなるためである。一方、図2(c)に示すように、#4気筒を空燃比をリッチにし過ぎると、#4気筒自身は、燃焼が悪化し、燃焼効率が低下する。このため、図2(a)に示すように、全気筒平均の燃焼効率、すなわち内燃機関10全体としての燃焼効率が最良となるような#4気筒の空燃比が存在する。通常時は、#4気筒の空燃比は、内燃機関10全体としての燃焼効率が最良となるような値(以下、「通常A/F」と称する)に制御される。
【0046】
ノックを抑制する場合には、#4気筒の空燃比を、通常A/Fよりリッチ側に補正することにより、水素の還流量を増大させ、燃焼を促進する。図2に示すように、この補正幅をΔA/Fとする。#4気筒の空燃比を通常A/Fよりリッチにすると、#4気筒の燃焼効率は低下するが、#1〜#3気筒の燃焼効率は更に向上する。このため、内燃機関10全体としての燃焼効率の低下幅Δηは、大きくなりにくい。
【0047】
以上のように、一部の内部EGR量の過多が原因でその気筒にノックが発生した場合、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制することにより、内部EGR量が過多の気筒(ノックを発生した気筒)と他の気筒とのトルク差が拡大することを防止することができ、且つ、内燃機関10全体としての効率低下を抑制することができる。したがって、一部の内部EGR量の過多が原因でその気筒にノックが発生した場合には、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する方法が好ましいと言える。
【0048】
これに対し、一部の気筒の空気量の過多が原因でその気筒にノックが発生した場合には、次のような理由から、ノックを発生した気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制する方法が好ましい。空気量の過多が原因でノックが発生した気筒は、他の気筒より空気量が多いので、他の気筒より出力トルクが大きい状態にある。このため、その気筒の点火時期を遅角して出力トルクを低下させることにより、他の気筒とのトルク差を小さくすることができる。また、ノックを発生した気筒のみ点火時期を遅角すれば、他の気筒の出力トルクを無駄に低下させることがないので、内燃機関10全体としての効率低下を抑制することができる。このように、一部の空気量の過多が原因でその気筒にノックが発生した場合には、ノックを発生した気筒の点火時期を遅角することにより、ノックを抑制する効果と同時に、気筒間のトルク差が小さくなるという副次的効果が得られ、且つ、内燃機関10全体としての効率低下を抑制することができる。
【0049】
本実施形態では、以上説明したような理想を実現するため、外部EGRの実行中にノックが発生した場合には、そのノックの発生要因を判定し、ノック発生要因に応じて、優先して実行するノック抑制方法を選択することとした。図3は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、内燃機関10で外部EGRが実行されている場合に実行される。
【0050】
図3に示すルーチンによれば、まず、一部の気筒でノックが発生したか否かがノックセンサ64の出力に基づいて判断される(ステップ100)。このステップ100で、一部の気筒でノックが発生したと判定された場合には、ノックを発生した気筒が#1気筒あるいは#2気筒であるか否かが判断される(ステップ102)。
【0051】
前述したように、#1気筒および#2気筒は、排気ブローダウンの影響を受け易いため、特に#3気筒と比べて、内部EGR量が多く、空気量が少ない傾向がある。このため、#3気筒でノックが発生していないにもかかわらず#1気筒あるいは#2気筒でノックが発生した場合には、その発生要因が空気量の過多であるとは考えられないので、ノック発生要因は内部EGR量の過多であると判断できる。よって、上記ステップ102で、ノックを発生した気筒が#1気筒あるいは#2気筒であると認められた場合には、ノック発生要因は内部EGR量の過多であると判定できる。したがって、この場合には、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する方法が好ましいと判断できる。そこで、この場合には、まず、#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが算出される(ステップ104)。
【0052】
ECU50は、ノックセンサ64で検出されるノックのレベルに応じて、そのノックを点火時期の遅角によって抑制する場合に必要な点火時期の遅角量(以下、「要求遅角量」と称する)を所定のマップに基づいて算出している。ノックのレベルが高い場合には、低い場合に比して、要求遅角量も大きくなる。点火時期の遅角に代えて、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する場合も、ノックのレベルが高いほど、#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが大きくなる。図4は、点火時期遅角量と、この点火時期遅角量と同等のノック抑制効果を得るために必要な#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fとの関係を示すマップである。ECU50には、図4に示すマップが予め記憶されている。上記ステップ104では、図4に示すマップに上記要求遅角量を当てはめることにより、#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが算出される。これにより、点火時期の遅角に代えて#4気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制するために必要となる#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fを算出することができる。
【0053】
上記ステップ104で#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが算出された後、#4気筒の空燃比A/Fを、その要求リッチ量ΔA/Fだけ、リッチ側に補正する処理が実行される(ステップ106)。これにより、水素の還流量が増大し、ノックが発生した気筒を含む各気筒で燃焼が促進されるので、ノックが発生した気筒のノックを抑制することができる。
【0054】
一方、上記ステップ102で、ノックを発生した気筒が#1気筒でも#2気筒でもないと判定された場合には、ノック発生要因が空気量の過多であるか否かが、以下のようにして判断される(ステップ108)。前述したように、EGR通路34内の排気脈動の負圧波が#4気筒のバルブオーバーラップに同期するような機関回転速度においては、#4気筒の空気量は、#1気筒および#2気筒と同様に、少なくなる傾向がある。これに対し、EGR通路34内の排気脈動の正圧波が#4気筒のバルブオーバーラップに同期するような機関回転速度においては、#4気筒の空気量は、#1気筒および#2気筒と比べて、多くなる傾向がある。一方、#3気筒の空気量は、#1気筒および#2気筒と比べ、恒常的に多くなる傾向がある。
【0055】
EGR通路34内の排気脈動の負圧波が#4気筒のバルブオーバーラップに同期することによって#4気筒の空気量が比較的少なくなるような所定の機関回転速度範囲にある場合について考察すると、この場合、#4気筒の空気量は、#3気筒の空気量より少ないと考えられる。このため、#3気筒でノックが発生していないにもかかわらず#4気筒でノックが発生した場合には、その発生要因が空気量の過多であるとは考えられないので、ノック発生要因は内部EGR量の過多であると判断できる。したがって、ステップ108において、上記のケースに該当する場合には、ノック発生要因は、空気量の過多ではなく、内部EGR量の過多であると判定される。そこで、この場合には、上述したステップ104および106の処理が実行される。
【0056】
これに対し、ステップ108において、上記のケースに該当しない場合には、ノック発生要因は、空気量の過多であると判定できる。この場合には、まず、トルク差吸収遅角量が算出される(ステップ110)。トルク差吸収遅角量とは、空気量の過多が原因でノックが発生した気筒のトルクを、#1気筒および#2気筒のトルクと同程度まで低下させることにより両者のトルク差を解消することのできるような点火時期遅角量である。ECU50には、#3気筒および#4気筒のそれぞれについて、#1気筒および#2気筒の空気量との差(以下、「空気量差」と称する)を機関回転速度および機関負荷に基づいて算出するためのマップ(以下、「空気量差マップ」と称する)が予め記憶されている。この空気量差マップは、上述したような#3気筒および#4気筒の各々の空気量の傾向を予め調べた結果に基づいて作成されたものである。空気量差は、#1気筒および#2気筒とのトルク差と相関するので、そのトルク差を解消するために必要な点火時期遅角量(すなわちトルク差吸収遅角量)とも相関する。ECU50には、空気量差からトルク差吸収遅角量を算出するためのマップ(以下、「トルク差吸収遅角量マップ」と称する)が記憶されている。上記ステップ110では、ノックを発生した気筒の空気量差が上記空気量差マップに基づいて算出され、その算出された空気量差を上記トルク差吸収遅角量マップに当てはめることにより、トルク差吸収遅角量が算出される。
【0057】
続いて、上記ステップ110で算出されたトルク差吸収遅角量と、要求遅角量とが比較される(ステップ112)。トルク差吸収遅角量が要求遅角量以上である場合には、ノックを発生した気筒の点火時期をトルク差吸収遅角量だけ点火時期を遅角すれば、トルク差が解消されるととも、ノックを抑制する目的も同時に達成できる。このため、この場合には、ノックを発生した気筒が#3気筒であるか#4気筒であるかが判断され(ステップ118)、#3気筒がノック発生気筒である場合には#3気筒の点火時期をトルク差吸収遅角量だけ遅角する処理が実行され(ステップ120)、#4気筒がノック発生気筒である場合には#4気筒の点火時期をトルク差吸収遅角量だけ遅角する処理が実行される(ステップ122)。これにより、ノックを抑制することができると同時に、ノック発生気筒と#1気筒および#2気筒とのトルク差を解消することができる。このため、内燃機関10のトルク変動をより確実に低減することができる。
【0058】
これに対し、上記ステップ112で、トルク差吸収遅角量が要求遅角量より小さいことが認められた場合には、ノックを発生した気筒の点火時期をトルク差吸収遅角量だけ遅角することのみでは、ノックが完全に抑制されるには至らないと予測できる。そこで、本実施形態では、このような場合には、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正する方法を併用することにより、補完的にノックを抑制する。具体的には、まず、補完的にノックを抑制するために必要な#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが算出される(ステップ114)。すなわち、要求遅角量とトルク差吸収遅角量との差を図4に示すマップに当てはめることにより、#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fが算出される。これにより、トルク差吸収遅角量が要求遅角量に満たないことによるノック抑制効果の不足分を補完するために必要な#4気筒の要求リッチ量ΔA/Fを算出することができる。次いで、このステップ114で算出された要求リッチ量ΔA/Fだけ、#4気筒の空燃比A/Fをリッチ側に補正する処理が実行される(ステップ116)。その後、上述したステップ118以下の処理が行われることにより、ノック発生気筒の点火時期をトルク差吸収遅角量だけ遅角する処理が実行される。以上の処理により、ノックを十分に抑制することができるとともに、ノック発生気筒と#1気筒および#2気筒とのトルク差が解消され、内燃機関10のトルク変動をより確実に低減することができる。
【0059】
上述した実施の形態1においては、ノック発生要因を、内部EGR量の過多と空気量の過多との何れかであると判定するものとして説明したが、本発明では、他にもノック発生要因が考えられる場合には、その要因も含めて判定するようにしてもよい。例えば、気筒間で外部EGR量が不均衡となり、外部EGR量が過少となった気筒で、そのことが原因となってノックが発生する場合が考えられる。EGR通路34内の排気脈動の正圧波が吸気行程に同期する気筒では外部EGR量が多くなり、負圧波が吸気行程に同期する気筒では外部EGR量が少なくなる。このため、機関回転速度等に基づいて、気筒毎の外部EGR量の多寡を推定することができるので、外部EGR量の過少がノック発生要因であるか否かを判定することができる。
【0060】
また、上述した実施の形態1においては、ノック抑制方法として、#4気筒の空燃比をリッチ側に補正する方法と、ノック発生気筒の点火時期を遅角する方法とを用いているが、本発明では、これ以外のノック抑制方法(例えば、水素、エタノールなどの、ノックを起こしにくい副燃料を用意しておき、ノック発生気筒にその副燃料を供給することによってノックを抑制する方法や、外部EGRガスを冷却するEGRクーラの冷却量を可変とし、EGRクーラの冷却量を増大することによってノックを抑制する方法など)をノック発生要因に応じて用いるようにしてもよい。
【0061】
上述した実施の形態1においては、#4気筒が前記第1の発明における「外部EGRガス生成気筒」に、トルク差吸収遅角量が前記第6の発明における「制御遅角量」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、図3に示すルーチンの処理を実行することにより前記第1、第2、第3、第4および第5の発明における「ノック抑制手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより前記第6の発明における「点火遅角量制御手段」が、上記ステップ112,114および116の処理を実行することにより前記第6の発明における「補完手段」が、それぞれ実現されている。
【0062】
また、本発明における内燃機関の気筒数および気筒配置は、直列4気筒に限定されるものではなく、例えば、直列3気筒、直列6気筒、V型6気筒、V型8気筒など、各種の多気筒内燃機関に本発明を適用可能である。また、外部EGRガス生成気筒の数が一つである構成に限らず、二つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 内燃機関
12 吸気マニホールド
14 吸気通路
16 ターボチャージャ
18 タービン
20 コンプレッサ
22 排気マニホールド
24 排気通路
30 インタークーラ
32 スロットル弁
34 EGR通路
36 EGR弁
42 排気通路
44 第2EGR弁
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを吸気側に還流させることのできる気筒である外部EGRガス生成気筒と、それ以外の気筒と、EGR通路とを有し、前記外部EGRガス生成気筒の排気ガスのみを前記EGR通路を介して前記外部EGRガス生成気筒以外の気筒を含む複数の気筒の吸気側に還流させる態様で外部EGRを実行可能な多気筒内燃機関と、
ノックを検出するノック検出手段と、
前記外部EGRの実行中にノックが検出された場合に、そのノックの発生要因を判定し、ノックを抑制することのできる複数の方法のうちの何れを優先して実行するかを前記判定されたノック発生要因に基づいて決定し、その決定されたノック抑制方法を実行するノック抑制手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記ノック抑制手段は、前記判定されたノック発生要因に基づいて、気筒間のトルク差を拡大させることのないようなノック抑制方法を優先して実行することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記ノック抑制手段は、前記判定されたノック発生要因に基づいて、気筒間のトルク差を縮小させることのできるノック抑制方法を優先して実行することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記ノック抑制手段は、内部EGR量の過多がノック発生要因であると判定された場合に、前記外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによってノックを抑制する方法を優先して実行することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記ノック抑制手段は、一部の気筒の空気量の過多がノック発生要因であると判定された場合に、前記一部の気筒の点火時期を遅角することによってノックを抑制する方法を優先して実行することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記一部の気筒の点火時期の遅角量を、前記一部の気筒と他の気筒とのトルク差が解消されるような遅角量となるように制御する点火遅角量制御手段と、
前記点火遅角量制御手段によって制御される制御遅角量と、ノックを抑制するために必要とされる要求遅角量とを比較し、前記制御遅角量が前記要求遅角量に満たない場合に、前記外部EGRガス生成気筒の空燃比をリッチ側に補正することによって補完的にノックを抑制する補完手段と、
を備えることを特徴とする請求項5記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236793(P2011−236793A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108154(P2010−108154)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】