説明

内燃機関

【課題】低負荷領域や高負荷領域に広げた大きな中負荷領域における効率のよい圧縮自着火式の燃焼を実現することができる内燃機関を提供すること。
【解決手段】ピストンと、シリンダヘッド部内面とピストン上面との間の燃焼室と、燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、燃焼室内に連通する燃焼用空気の吸気用配管を開閉する吸気バルブと、燃焼室内に連通する燃焼ガスの排気流路を開閉する排気バルブと、を備えて、運転領域の少なくとも一部領域で燃焼室内の排気タイミングと吸気タイミングとの間に吸気バルブおよび排気バルブの双方を閉じる密閉期間を確保して燃焼室内に導入した噴射燃料の圧縮自着火燃焼を行なわせる内燃機関であって、燃焼室に対して吸気バルブを2組配置されており、当該吸気バルブ毎のバルブリフト量に差を付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関し、詳しくは、燃焼室に導入した噴射燃料の圧縮自着火燃焼を高品質に行ない得るものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関としては、燃焼室内の混合気を火花点火により燃焼させる火花点火式に加えて、燃焼室内の混合気を圧縮して自着火させる圧縮自着火式も提案されており(例えば、特許文献1〜3)、燃焼室の形状に各種工夫を加えたり(例えば、特許文献4)、吸排気に各種工夫をすることが行なわれている(例えば、特許文献5)。
【0003】
この種の圧縮自着火式の内燃機関は、排気タイミングと吸気タイミングの一部を重ねることにより、混合気内に再循環排気ガスを混入させて大幅に希釈するEGR(Exhaust Gas Recirculation)燃焼を採用することによって、火花点火式に比べて、二酸化炭素(CO)の排出を低減することができる。また、圧縮自着火式では、燃焼温度が低いため、所謂、ノックス(NO)がほとんど発生せずに、希薄燃焼運転で課題となるノックスの削減に貢献することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−144711号公報
【特許文献2】特開2006−144714号公報
【特許文献3】特開2006−233839号公報
【特許文献4】特開2005−16347号公報
【特許文献5】特開第4122630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような圧縮自着火式の内燃機関にあっては、特に、特許文献5に記載のように、ピストンの排気上死点付近で吸気弁と排気弁の双方を閉じることにより、燃焼残留ガス(アウトガス)を増加させることで、燃焼室内の筒内温度を自着火可能な温度まで上昇させることができ、この後の圧縮行程における高温・高圧を達成して自着火燃焼させている。
【0006】
しかしながら、内燃機関の低負荷領域では、十分な温度上昇を得ることができず、自着火に至らずに失火してしまう場合があり、また、高負荷領域では、燃焼室内の混合気が略同時に着火することによる急速燃焼により燃焼室内の筒内圧力(最大値)が極めて高くなって破損させてしまう可能性がある。このことから、自着火運転可能な領域が狭くなり、二酸化炭素やノックスの十分な抑制効果を得ることができていない。
【0007】
そこで、本発明は、低負荷領域や高負荷領域に広げた大きな中負荷領域における効率のよい圧縮自着火式の燃焼を実現することができる内燃機関を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第1の態様は、シリンダ内を上下動するピストンと、前記シリンダのヘッド部内面と前記ピストンの上面との間に形成されて噴射燃料を導入し燃焼させる燃焼室と、該燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射器と、前記燃焼室内に連通する燃焼用空気の吸気流路を開閉する吸気弁と、前記燃焼室内に連通する燃焼ガスの排気流路を開閉する排気弁と、を備えて、運転領域の少なくとも一部領域で前記燃焼室内に導入した噴射燃料の圧縮自着火燃焼を行なわせる内燃機関であって、前記燃焼室の1つに対して前記吸気弁を複数配置されており、当該吸気弁毎の開口量に差を付けるように調整されることを特徴とするものである。
【0009】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第2の態様は、上記第1の態様の特定事項に加え、前記ピストンは、前記吸気流路から吸入する前記燃焼用空気を流入させるキャビティが上面に形成されており、該キャビティは、前記開口量の大きな前記吸気弁側に前記開口量の小さな前記吸気弁側よりも大きな流入空間が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第3の態様は、上記第1または第2の態様の特定事項に加え、前記燃料噴射器は、前記開口量の小さな前記吸気弁側よりも多くの燃料を前記開口量の大きな前記吸気弁側に噴射するように燃料噴射量が設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第4の態様は、上記第3の態様の特定事項に加え、前記燃料噴射器は、燃料の噴射口数に差を付けることにより前記燃料噴射量が設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第5の態様は、上記第3の態様の特定事項に加え、前記燃料噴射器は、燃料の噴射角度を前記燃料噴射量の設定に応じて調整されていることを特徴とするものである。
【0013】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第6の態様は、上記第1から第5のいずれか1つの態様の特定事項に加え、前記燃料噴射器は、前記燃焼室内に導入した噴射燃料ガスの圧縮期間の行程後半で燃料を再度噴射するように制御されることを特徴とするものである。
【0014】
上記課題を解決する内燃機関に係る発明の第7の態様は、上記第1から第6のいずれか1つの態様の特定事項に加え、前記燃焼室内の排気期間と吸気期間との間に前記吸気弁および前記排気弁の双方を閉じる密閉期間を確保して前記圧縮自着火燃焼を行なわせることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明の上記の第1の態様によれば、複数の吸気弁の開口量に差を付けている(燃焼室内に燃焼用空気を均等に吸入しない)ので、吸気弁の配列面方向の吸気量の差に応じた燃焼用空気の流れを燃焼室内に生じさせることができ、混合気を均質化するのではなく、濃度に差を生じさせる、所謂、成層化することができる。したがって、低負荷領域でも高濃度範囲の混合気から自着火させることができ、失火が生じることを抑制することができる。また、高負荷領域では燃焼室内の混合気内で自着火に至るタイミングを局所的な範囲で差を生じさせることができ、燃焼を緩慢にさせて瞬間的な燃焼による高圧力・高温度を避けることができる。この結果、圧縮自着火式燃焼の運転領域を拡大することができる。
【0016】
本発明の上記の第2の態様によれば、吸気弁の開口量に応じた大きさのピストン上面の流入空間内に、吸入する燃焼用空気を流入させることができ、燃焼室を形成するシリンダヘッド部内面とピストン上面との間の対面方向の燃焼用空気の流れを吸気弁の開口量に合わせるように調整することができる。したがって、より効率よく混合気を成層化させることができ、より高品質な圧縮自着火を実現することができる。
【0017】
本発明の上記の第3〜5の態様によれば、燃料噴射器の燃料噴射口数に差を付けたり、燃料噴射器の燃料噴射角度を調整などすることにより、吸気弁の開口量に応じた燃焼用空気の流れに合わせる設定量の燃料を噴射することができる。したがって、より効率よく混合気を成層化することができ、より高品質な圧縮自着火を実現することができる。
【0018】
本発明の上記の第6の態様によれば、燃焼室内の噴射燃料ガス(混合気)の圧縮期間行程後半に再度燃料を追加することができ、より濃度差ある混合気の成層化を達成することができる。したがって、混合気の成層化をより効果的に実現することができ、より高品質な圧縮自着火を実現することができる。
【0019】
本発明の上記の第7の態様によれば、混合気内に燃焼室内における燃焼済みガスのアウトガスを混合させることができ、圧縮自着火での、所謂、内部EGR燃焼を起こさせることができる。したがって、二酸化炭素の排出を低減やノックス(NO)の抑制をも達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る内燃機関の一実施形態を示す図であり、その基本構造の概略全体構成を示す透視立面図である。
【図2】その吸気バルブおよび排気バルブの構成部品のレイアウトを示す立面図である。
【図3】そのインジェクタを含む吸気バルブ側の構成部品のレイアウトを示す斜視図である。
【図4】そのクランク角に対するバルブリフト量を説明するグラフである。
【図5】そのクランク角に対する排気タイミングと吸気タイミングを説明するグラフである。
【図6】その燃焼室内に噴射した燃料の領域に応じた燃焼方式(自着火燃焼、火花点火燃焼)を説明するグラフである。
【図7】その自着火燃焼における吸気タイミング時の吸気バルブのリフト量を説明するグラフである。
【図8】その図7に示すリフト量制御による作用効果を説明するグラフである。
【図9】その自着火燃焼における燃料の噴射量の偏りを説明する平面図である。
【図10】その自着火燃焼に適したピストン上面の構造を示す平面図である。
【図11】その図10に示すピストン上面構造による作用効果を説明する平面図である。
【図12】その図10に示すピストン上面構造による作用効果を説明する一部断面透視立面図である。
【図13】その自着火燃焼による作用効果を説明するグラフである。
【図14】その自着火燃焼における燃料の噴射タイミングを説明するグラフである。
【図15】その他の態様を示す図であり、その自着火燃焼における燃料の噴射量の偏りを説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図14は本発明に係る内燃機関の一実施形態を示す図である。
【0022】
図1において、内燃機関10は、例えば、車両に搭載して走行などに必要な駆動源となるエンジンであり、シリンダ11内を上下動するピストン12を不図示のクランクシャフトにコンロッド13を介して連結することにより、ピストン12の往復運動を回転運動に変換して伝達するようになっている。
【0023】
この内燃機関10は、シリンダ11のヘッド部の内面11aとピストン12の上面12aとの間に形成される空間を燃焼室14として、図中左側の吸気側配管(吸気流路)15を吸気バルブ(吸気弁)16で開閉するとともに、図中右側の排気側配管(排気流路)17を排気バルブ(排気弁)18で開閉するようになっている。内燃機関10は、ピストン12の上下動と、吸気バルブ16および排気バルブ18の開閉とを同期させつつ、燃焼室14内にインジェクタ(燃料噴射器)19から燃料F(図9を参照)を噴射導入させて、プラグ20による火花点火燃焼または予混合圧縮自己着火燃焼(HCCI:Homogeneous-Charge Compression Ignition)によって燃焼させたときの爆発力でピストン12を上下動させることができ、燃焼室14内での燃焼用空気の吸入、混合気の圧縮・燃焼、この燃焼による膨張、燃焼ガスの排気を繰り返す。
【0024】
吸気バルブ16と排気バルブ18は、図2および図3に示すように、燃焼室14の上面を構成するシリンダ11ヘッド部の内面11aに、吸気側配管15と排気側配管17の開口15a、17aがそれぞれ2つずつを並列されているのに対して、その吸気側配管15と排気側配管17の開口15a、17aをそれぞれ開閉するように2組ずつが配置されており(図3には吸気バルブ16側のみ図示)、それぞれの弁部16a、18aが燃焼室14内の上面11aに対してリフトされる状態に変位することにより隙間を形成して燃焼用空気や燃焼ガスの流通を許容する。
【0025】
この吸気バルブ16と排気バルブ18は、バルブシャフト21と、スプリング22と、ピボット23と、ロッカアーム24と、制御軸25と、ローラ26と、規制部材27と、揺動ローラ(カムフォロア)28と、カム軸29と、駆動カム30と、を備えて構築されている。
【0026】
バルブシャフト21は、先端部側に弁部16a、18aを備えている。スプリング22は、バルブシャフト21を引上方向(リフト解消方向)に付勢する。ピボット23は、先端部にロッカアーム24の一端側を突き当てた状態で揺動自在に支持する。このロッカアーム24は、他端側に、バルブシャフト21の後端部をスプリング22の付勢力により突き当てられつつ中間部の支持ピン26aにより回転自在に軸支されているローラ26を規制部材27により衝止されることにより揺動自在に取り付けられる。制御軸25は、規制部材27を後述するバルブリフトのタイミングに応じた回転位置にネジ止め固定されるとともに、揺動ローラ28が一体回転するように固設されている。規制部材27は、ロッカアーム24の中間部のローラ26を衝止する圧接位置に応じてバルブシャフト21先端部の弁部16a、18aのリフト量(開口量)を規制する。揺動ローラ28は、制御軸25の軸心から離隔する位置の支持軸28aにより回転自在に支持されつつ、この制御軸25を中心にする時計回り方向に不図示の付勢部材により付勢されている。カム軸29は、シリンダ11内のピストン12の往復移動に同期するように回転駆動する。駆動カム30は、カム軸29に固設されて、制御軸25を中心にする時計回り方向の付勢力により揺動ローラ28の外周面が圧接されるカム面30aを有する。
【0027】
これにより、吸気バルブ16と排気バルブ18は、ピストン12の上下運動(クランクシャフトの回転角)に同期するようにカム軸29と駆動カム30が一体回転して、その駆動カム30のカム面30aに圧接する揺動ローラ28を揺動させることができ、その揺動ローラ28と一体の規制部材27を介して、この規制部材27にローラ26を圧接させているロッカアーム24を揺動させることができる。このため、吸気バルブ16と排気バルブ18は、ロッカアーム24の揺動に追従するように、後端部を突き当てているバルブシャフト21をスプリング22の付勢力に抗して引き上げる(軸方向に変移させる)ことができ、そのバルブシャフト21の先端部の弁部16a、18aを配管15、17の開口15a、17aからリフトさせて離隔させることができる。また、吸気バルブ16と排気バルブ18は、バルブシャフト21をスプリング22の付勢力により軸方向に変移させて先端部の弁部16a、18aを配管15、17の開口15a、17aに密接させて閉塞することができる。
【0028】
この吸気バルブ16と排気バルブ18の規制部材27は、揺動ローラ28の左右(制御軸25の軸方向の両側)に隣接して、ロッカアーム24のローラ26が圧接する圧接面27aを備えており、その圧接面27aの形状(プロフィール)として、制御軸25への位置決め固定位置に応じてその中心軸からの離隔距離が変化するとともに、揺動ローラ28と一体の回転位置に応じてもその中心軸からの離隔距離が変化するように形成されている。この規制部材27は、圧接面27aのロッカアーム24のローラ26との圧接位置(相対回転位置)に応じて、図4に示すように、そのロッカアーム24の揺動量を調整することができ、例えば、車両の加減速操作に対応するアクセル操作(スロットル開度)に応じた低負荷から高負荷に連動するようにバルブシャフト21の先端部の弁部16a、18aのリフト量16L、18Lを変化させることができる。
【0029】
インジェクタ19は、一対の吸気バルブ16の間に配置されて、燃焼室14内に吸気側配管15の開口15aから吸入する燃焼用空気と同様に排気バルブ18側に向かう流れを形成するように燃料Fを噴射するようになっており、吸気バルブ16がピストン12の上下運動(クランクシャフトの回転角)に同期させつつ吸気側配管15の開口15aを開閉するようにリフト動作する際に、燃焼室14内に燃料Fを噴射する。
【0030】
そして、内燃機関10は、吸気バルブ16が吸気側配管15の開口15aを開放する吸気タイミング(期間)を、排気バルブ18が排気側配管17の開口17aを開放する排気タイミングに対して接近または離隔させるように調整するようになっている。
【0031】
燃焼室14内に噴射した燃料Fをプラグ20の火花点火により燃焼させる際には、吸気タイミングと排気タイミングの一部期間が重なる(オーバラップする)ように、カム軸29(駆動カム30)の回転駆動を調整する。これに対して、燃焼室14内に噴射した燃料Fを燃焼室14内の温度と圧力により着火させて燃焼させる予混合圧縮自己着火燃焼(以下、単に自己着火ともいう)の際には、図5に示すように、その吸気タイミングと排気タイミングが重ならない図中矢印で示す密閉期間(所謂、負のオーバラップ)を備えるように、カム軸29の回転駆動を調整する。すなわち、自着火燃焼では、排気タイミングと吸気タイミングとを分けて、燃焼室14の壁面からのアウトガスによる燃焼済み内部ガスを混合させて燃焼させる内部EGR燃焼を採用している。
【0032】
また、内燃機関10は、図6に示すように、エンジン回転数に対応する走行条件に応じたエンジン負荷の低負荷と高負荷では安定した燃焼のために、プラグ20による火花点火燃焼制御を行う。これに対して、走行時に最も利用機会の多い中負荷の領域では、自着火燃焼制御を行なうことにより、プラグ20による点火を省いてエネルギ消費を抑えるようになっており、その中負荷領域における燃焼室14内の燃料Fの流れが自着火燃焼に最適になるように各種工夫がなされている。
【0033】
具体的には、2組の吸気バルブ16A、16Bは、図3に示すように、燃焼室14の上面(シリンダ11ヘッド部の内面)11aの頂部に配設されているプラグ20を挟むようにして、それぞれで排気バルブ18に向き合うように並列されており、吸気バルブ16A、16Bで燃焼室14の上面11aからの弁部16aのリフト量に差を付けることができるようになっている。図7に示すように、本実施形態においては、吸気バルブ16Aは、ピストン12の上面12aに向かって右側に位置して、排気バルブ18と同様なリフト量16LA、18Lに設定されているのに対して、吸気バルブ16Bは、ピストン12の上面12aに向かって左側に位置して、その吸気バルブ16Aの半分程度のリフト量16LBに調整可能になっている。
【0034】
このために、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LBを規制する揺動ローラ28の両側に位置する規制部材27A、27Bは、その揺動ローラ28の揺動に連動して回転するのに伴って、図4における最高リフト量または最低リフト量に吸気バルブ16A、16Bを変移させるように、後述の圧接位置をずらした場合にも、制御軸25の中心軸からの離隔距離が共通になるように圧接面27aが形成されている。この規制部材27A、27Bは、制御軸25に固定する回転方向の位置をずらすことにより、最高リフト量と最低リフト量の間では、吸気バルブ16Bのリフト量16LBを吸気バルブ16Aのリフト量16LAの半分にする特異位置を備えるプロフィール形状に圧接面27aが形成されている。
【0035】
これにより、図8に示すように、吸気バルブ16A、16Bは、リフト量16LA、16LBに差を付けることができ、燃焼室14内に吸気する燃焼用空気の流動強さを調整制御することができる。
【0036】
すなわち、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LBに差がない場合には、吸気側配管15の開口15aと弁部16aと間の隙間が微小なリフト開始時のときから最大開口のタイミングまで、双方からの同量の吸気がなされる。このため、燃焼室14内では、図中に一転鎖線で示すように、徐々に吸気量(開口面積)が増大するのに連れて燃焼用空気が増加してその流動も多少増大する程度である。
【0037】
これに対して、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LBに差を付ける場合には、吸気側配管15の開口15aと弁部16aとの間の隙間が微小なリフト開始時からその開口面積に差が付けられる。このため、燃焼室14内では、図中に実線で示すように、吸気開始時から吸気バルブ16B側よりも大量の吸気を吸気バルブ16A側にさせることができ、また、この吸気開始時には微小な開口面積の隙間から燃焼用空気が吸入されてその吸入速度(流体速度)に差を付けることができる。
【0038】
このことから、リフト量16LA、16LBに差を付ける場合には、燃焼室14内において吸気バルブ16A側から吸気バルブ16B側に向かう、吸気した燃焼用空気の回転流動、所謂、スワール流動S(図11を参照)を生じさせることができ、吸気開始当初から強い流動を発生させることができる。
【0039】
また、インジェクタ19は、少なくとも3つ以上の噴射口を備えるマルチホールインジェクタであり、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LB(吸気量)に合わせて燃焼室14内への燃料Fの噴射量に偏り(差)を付けており、図9に示すように、吸気バルブ16B側よりも多くの噴射口が吸気バルブ16A側を指向するように設定されている。
【0040】
このため、インジェクタ19の先端の噴射口から噴射された燃料Fは、燃焼室14内における燃焼用空気のスワール流動Sに乗せて流動拡散させることができる。ここで、このインジェクタ19先端の噴射口数は、燃焼室14内における上述の燃焼用スワール流動Sなどによる燃料Fの拡散状況に応じて設定すればよい。
【0041】
また、ピストン12は、図10に示すように、シリンダ11のヘッド部の内面11aとの間で燃焼室14を形成する上面12aに、吸気バルブ16の開閉動作により吸気側配管15から吸気される燃焼用空気の吸入方向で対面する領域から、排気側配管17(排気バルブ18)に向かう領域に掛けて、インジェクタ19から噴射される燃料Fの噴射形状に近似する形状のキャビティ(窪み)31が形成されている。このキャビティ31は、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LBによる、図中に矢印の大小で示す燃焼用空気AA、ABの吸気量やインジェクタ19からの燃料Fの噴射量に合わせてその窪み量(容積)に偏りを付けるようになっており、吸気バルブ16A側のキャビティ31Aが吸気バルブ16B側のキャビティ31Bよりも燃焼用空気や噴射燃料Fの流入空間が大容量になるように形成されている。
【0042】
要するに、吸気バルブ16Aのリフト量16LAに応じて吸気される燃焼用空気AAは、上述したように、吸気バルブ16Bのリフト量16LBに応じて吸気される燃焼用空気ABよりも大量で流動速度も速い。また、ピストン12の上面12aには吸気バルブ16B側のキャビティ31Bよりも大容量の吸気バルブ16A側のキャビティ31Aの周縁面が大きく湾曲する形状に形成されている。これにより、図11に示すように、燃焼室14内にはその内周面に沿う方向に周回する横回転の渦巻き、所謂、スワール流動Sを発生させることができ、インジェクタ19から噴射される燃料Fもそのスワール流動Sに乗せて流動拡散させることができる。
【0043】
また、同時に、ピストン12の上面12aのキャビティ31は、吸気バルブ16B側のキャビティ31Bよりも大容量の吸気バルブ16A側のキャビティ31Aの底面が大きく湾曲する形状に形成されている。これにより、図12に示すように、燃焼室14内にはキャビティ31の底面に沿ってシリンダ11のヘッド部の内面11a側に向かう方向に周回する縦回転の、所謂、逆タンブル流動Tを発生させることができ、インジェクタ19から噴射される燃料Fもその逆タンブル流動Tに乗せて流動拡散させることができる。
【0044】
このため、燃焼室14内には、スワール流動Sと逆タンブル流動Tを合成した燃焼用空気の流動、すなわち、燃焼室14のピストン12の上面12a付近から内周面に沿う方向に周回しつつ、すり鉢状の燃焼室14上面(シリンダ11のヘッド部の内面)11aのプラグ20の配置位置に向かう流動を発生させることができる。よって、その燃焼用空気の流動に乗せた噴射燃料Fも、燃焼室14上面11aのプラグ20の配置位置に向かって流動して、そのプラグ20付近における燃料Fの濃度を高くするとともに、そこから徐々に薄くなる濃度分布の成層化された噴射燃料ガス(混合気)を生成することができる。
【0045】
したがって、内燃機関10がプラグ20の火花点火により燃焼室14内の噴射燃料Fを燃焼させる際にも、そのプラグ20付近の燃料Fの濃度を高くして効果的に燃焼開始して広げることができる。また、内燃機関10が図6に示す走行時に最も利用機会の多い中負荷の領域で燃焼室14内を高温・高圧にして自着火により噴射燃料Fを燃焼させる際にも、燃焼室14の上部中心の燃料Fの濃度が高い箇所から燃焼を生じさせてその周囲に広げるように制御することができる。
【0046】
この結果、図13に示すように、燃焼室14内では、従来の自着火燃焼制御を採用すると、噴射燃料Fの雰囲気中における複数箇所で同時に自着火燃焼を生じさせるように調整制御することにより短時間で噴射燃料Fの燃焼を完了することになり、その燃焼室14内での噴射燃料Fの爆発が重なって筒内圧力P2は瞬間的に最大値にまで達する。一方、本実施形態の燃焼室14内では、プラグ20付近を中心とする濃度分布にして、噴射燃料Fの混合気を成層化させるので、その中心から自着火燃焼を開始させて徐々に周囲に広がる緩慢な燃焼を実現することができ、その燃焼室14内での噴射燃料Fの爆発が集中することなく、その筒内圧力P1は緩やかに鈍らせて、先の筒内圧力P2よりも低くすることができる。
【0047】
ここで、本実施形態では、プラグ20の火花点火によるエンジンの低負荷領域と高負荷領域から自着火に切り換える中負荷領域における低負荷側と高負荷側が不安定になる傾向があることから、図14に示すように、吸気バルブ16による吸気タイミング中におけるインジェクタ19からの燃料Fの通常噴射f1に加えて、その後の圧縮・燃焼行程における後半に少量の燃料Fの追加噴射f2をして、燃焼室14内の燃料Fの濃度を上げて自着火燃焼を発生し易くするようになっている。なお、この燃料Fの追加噴射f2は、必須ではなく、内燃機関10の燃焼特性に応じて適宜追加設定すればよく、また、エンジンの低負荷側と高負荷側に近接する中負荷領域だけでなく、その中間領域でも行ってもよいことは言うまでもない。
【0048】
このように本実施形態においては、一対の吸気バルブ16A、16Bのリフト量に差を付けて燃焼用空気を吸入することにより、燃焼室14内に横方向(吸気バルブ16の並列方向)のスワール流動Sを発生させることができる。また、その燃焼用空気の吸入量に合わせて、ピストン12上面12aに容量に偏りのあるキャビティ31A、31Bを形成することにより、燃焼室14内に縦方向の逆タンブル流動Tを発生させることができる。さらに、インジェクタ19からの噴射燃料Fにも偏りを付けて、そのスワール流動Sや逆タンブル流動Tの合成流動に乗せて流動拡散させることにより、燃焼室14内の混合気を均質化させるのではなく、中心付近の燃料F濃度が高濃度になる成層化により自着火燃焼させ易くすることができる。このため、燃焼室14内では、低負荷に近い領域でも高濃度の混合気から失火なく自着火させることができ、高負荷に近い領域では高濃度の混合気側から拡大する自着火にして、瞬間的な燃焼による高圧力・高温度になることなく、緩慢な燃焼を達成することができる。したがって、安定した広い範囲での高品質な自着火を実現して適用可能な運転領域を拡大することができる。
【0049】
また、本実施形態の他の態様としては、図15に示すように、インジェクタ19先端の噴射口からの燃料Fの噴射角度αを、吸気バルブ16A、16Bのリフト量16LA、16LB(吸気量)に合わせて、図中に一転鎖線で図示する吸気バルブ16と排気バルブ18の間の中心線から、吸気バルブ16A側は噴射角度αAに設定するとともに、吸気バルブ16B側は噴射角度αBに設定してもよい。この場合にも、インジェクタ19から燃焼室14内に噴射する燃料Fの噴射量に偏りを設定することができ、吸気バルブ16B側よりも吸気バルブ16A側に燃料Fを多く噴射して、燃焼室14内における燃焼用空気のスワール流動Sや逆タンブル流動Tに乗せて流動拡散させることができる。
【0050】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
10 内燃機関
11 シリンダ
12 ピストン
12a 上面
14 燃焼室
15 吸気側配管
16、16A、16B 吸気バルブ
16L、16LA、16LB、18L リフト量
17 排気側配管
18 排気バルブ
19 インジェクタ
20 プラグ
24 ロッカアーム
25 制御軸
26 ローラ
27、27A、27B 規制部材
27a 圧接面
28 揺動ローラ
29 カム軸
30 駆動カム
31、31A、31B キャビティ
AA、AB 燃焼用空気
F 燃料
f1 通常噴射
f2 追加噴射
S スワール流動
T 逆タンブル流動
α、αA、αB 噴射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を上下動するピストンと、前記シリンダのヘッド部内面と前記ピストンの上面との間に形成されて噴射燃料を導入し燃焼させる燃焼室と、該燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射器と、前記燃焼室内に連通する燃焼用空気の吸気流路を開閉する吸気弁と、前記燃焼室内に連通する燃焼ガスの排気流路を開閉する排気弁と、を備えて、
運転領域の少なくとも一部領域で前記燃焼室内に導入した噴射燃料の圧縮自着火燃焼を行なわせる内燃機関であって、
前記燃焼室の1つに対して前記吸気弁を複数配置されており、
当該吸気弁毎の開口量に差を付けるように調整されることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記ピストンは、前記吸気流路から吸入する前記燃焼用空気を流入させるキャビティが上面に形成されており、
該キャビティは、前記開口量の大きな前記吸気弁側に前記開口量の小さな前記吸気弁側よりも大きな流入空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記燃料噴射器は、前記開口量の小さな前記吸気弁側よりも多くの燃料を前記開口量の大きな前記吸気弁側に噴射するように燃料噴射量が設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記燃料噴射器は、燃料の噴射口数に差を付けることにより前記燃料噴射量が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記燃料噴射器は、燃料の噴射角度を前記燃料噴射量の設定に応じて調整されていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記燃料噴射器は、前記燃焼室内に導入した噴射燃料ガスの圧縮期間の行程後半で燃料を再度噴射するように制御されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記燃焼室内の排気期間と吸気期間との間に前記吸気弁および前記排気弁の双方を閉じる密閉期間を確保して前記圧縮自着火燃焼を行なわせることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−72325(P2013−72325A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210898(P2011−210898)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】