説明

創薬標的タンパク質及び標的遺伝子、並びにスクリーニング方法

【課題】新規の創薬標的タンパク質および遺伝子、ならびにこれらを用いる新規医薬を開発し得る手段を提供すること。
【解決手段】CALBINDIN D28Kタンパク質およびその遺伝子;CALBINDIN D28Kタンパク質の機能を調節し得る化合物およびその塩;薬物(例えば、抗中枢神経疾患薬)のスクリーニング方法;疾患(例えば、中枢神経疾患)の調節剤;薬物誘導体の製造方法;薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを含む複合体、およびその製造方法;薬物またはその塩を含むキット;所定の疾患の発症または発症リスクの判定方法、薬物に対する感受性の判定方法、および該方法に用いられる判定用キットなど。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経疾患治療薬等の創薬の標的タンパク質および標的遺伝子;中枢神経疾患治療薬等の薬物のスクリーニング方法および該スクリーニング方法により得られる物質;中枢神経作用等の薬理作用の調節剤;薬物の誘導体および該誘導体の製造方法;ならびに薬物とその標的タンパク質とを含む複合体および当該複合体の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)の調査では、世界人口の3−6%がうつ病に罹患しており、今後も増加傾向が続くと予想されている。また、うつ症状を有する人は、精神症状とともに、不眠、疲労、倦怠感、食欲低下、消化器症状(便秘や下痢など)、その他の自律神経症状などの身体症状を有することが多く、例えば、睡眠障害は世界主要国で2,000万人以上が患っているとされる。また、強迫性障害の有病率は2〜3%とされ、総患者数は全世界で5000万人以上であると推測されている。さらに、世界の年間自殺者約80万人のうち、6―8割はうつが原因と考えられている。従って、気分障害(うつ病あるいは双極性障害など)、睡眠障害(不眠症など)、不安障害などの精神疾患は患者の生活の質を損なうだけでなく、社会的損失も非常に大きく、これらの精神症状および身体症状に対する効果的な治療薬が強く望まれている。
【0003】
気分障害(うつ病あるいは双極性障害など)、睡眠障害(不眠症など)、不安障害に対する治療薬の1群として各種ベンゾジアゼピン系化合物が知られており、バルビツール酸系化合物に比して催眠作用に優れ、安全性も高いことから、特に精神安定剤あるいは睡眠導入剤の第一選択薬として有効に臨床応用されている。しかし、ベンゾジアゼピン系化合物にも、筋弛緩作用による転倒・骨折、呼吸抑制、記憶障害、認知機能の低下、持ち越し効果、依存性、離脱症状、耐性形成、反跳性不眠、奇異反応など副作用も多く、その改善が望まれている。
【0004】
γ−アミノ酪酸(GABA)作動性神経は、大脳皮質・海馬・扁桃体・視床・小脳・脊髄後角などの抑制性介在ニューロン、および、黒質・線条体の投射ニューロンとして存在する。また、GABA受容体は、GABA受容体、GABA受容体、GABA受容体の3つのサブタイプが知られている。ベンゾジアゼピン系化合物の標的分子としてGABA受容体が同定されている。GABA受容体は、細胞内へのClイオン流入に関わるイオンチャンネル型受容体であり、GABA結合部位の他に、ベンゾジアゼピン結合部位、バルビツール酸結合部位、ピクロトキシン結合部位などを有する。GABA受容体のサブユニットとして、α〜α、β〜β、γ〜γ、δ、ε、π、θなど16種類のサブユニットおよびそれらのスプライス・バリアントの存在が知られており、例えばαサブユニット2本−βサブユニット2本−γサブユニット1本などのサブユニット構成でGABA受容体が構成される。構成するサブユニットの組み合わせが、ベンゾジアゼピン結合部位を初めとするGABA受容体の薬物結合ポケットの多様性を生み出していると推測されている。GABA受容体にGABAあるいはGABAアゴニストが結合すると、イオンチャンネルが開いてClイオンが細胞内へ流入し、抑制性シナプス後電位(inhibitory postsynaptic potential;IPSP)が発生する。GABA結合部位にGABAが結合した状態でベンゾジアゼピン結合部位にベンゾジアゼピン系アゴニストが結合すると、GABA結合部位のGABA親和性が増大してClイオンチャンネルのClイオン流入が増加し、IPSPが増強される。GABA受容体は、大脳皮質、海馬、小脳、網膜で発現が認められ、催眠作用、鎮静作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用、健忘作用、抗不安作用、視覚などに関与するとされている。
【0005】
GABA受容体のベンゾジアゼピン結合部位はベンゾジアゼピン系化合物の分子的な機作に関わる重要な部位であるけれども、ベンゾジアゼピン系化合物の有する多様な薬理作用および有害作用に関する機作が、GABA受容体のベンゾジアゼピン結合部位だけですべて説明されているわけではない。ベンゾジアゼピン系化合物の多様な薬理作用を最大限に活用するためには、GABA受容体だけでなく、他の標的候補分子をも考慮した理論的な創薬を実施する必要がある。
【0006】
一方、近年、世界的なレベルで様々な生物のゲノム配列の解明とその解析が進められており、特にヒトのゲノムについては世界的な協力体制のもとでその解析が進められて、2003年4月に全配列解析の終了が宣言された。全ゲノム配列が解明されたことにより、全ての遺伝子の機能や制御、あるいは遺伝子間、タンパク質間、細胞間さらには個体間における相互作用のネットワークとして複雑な生命現象を解析することが可能になりつつある。このようなゲノム情報は単に学術分野における重要性のみならず、医薬品開発等の各種産業にも大きな変革をもたらしている。
【0007】
例えば、これまでに汎用されてきた医薬品の標的タンパク質は約480種であり、また、それら標的タンパク質は、膜受容体、酵素、イオンチャネル、あるいは核内受容体等に限定されることが報告されている(非特許文献1)。これに対して、ゲノム情報に基づく標的タンパク質探索が行われることによって、従来の標的タンパク質の範疇に属さない新規タンパク質も含め、極めて多数の標的タンパク質が次々と見出され、その総数は約1,500種類になるのではないかと予想されている(非特許文献2)。
【0008】
しかし、ゲノム情報のような大量のデータに対応するためのインフラ整備と、臨床開発費用の高騰等によって、製薬企業の研究開発費はますます増大しているにも関わらず、新薬の承認数はむしろ減少する傾向にある(非特許文献3)。これは、上記のようなゲノム情報の活用が実際には効率的に行われていないことを示している。
【0009】
これらの状況を解決するための手段として、永島らは「医療および他の用途に用いる化合物の発見および創製のための方法、システム、装置、および機器」を発明し、特許出願した(特許文献1)。
【0010】
この出願では、化合物とタンパク質との相互作用を評価するために有用でありかつ医療および他の分野における化合物の発見を目的とするそのような評価の結果として生ずる情報を利用するために有用な方法、システム、データベース、ユーザーインターフェース、ソフトウェア、媒体、およびサービスが開示されており、さらに創薬のための新規標的タンパク質の非常に大きなプール、新規薬物を設計するための新規な方法および治療的な目的のための従前には思いもよらない仮想的に合成された低分子のプールを生成することをめざした。
【0011】
具体的には、この出願には、以下の段階を含む、新規の創薬標的として適当であるタンパク質または部分タンパク質を同定する方法:
(i)選択された標的化合物に対して所望の親和性および特異性をもつ複数のタンパク質または部分タンパク質を選択する段階;
(ii)該タンパク質または該部分タンパク質の構造および機能を特定する段階;および
(iii)所望の機能をもつ単一タンパク質または単一部分タンパク質を選択する段階
であり、また、以下の段階を含む、薬物の発見方法:
(i)上記の方法を用いて選択された該標的化合物の化学構造を検討する段階;および
(ii)選択された該標的化合物の構造を化学的に修飾して、新規の薬物標的として適当である該タンパク質または該部分タンパク質に対して、修飾された化合物の親和性および特異性を最適化する段階が開示されていた。
【0012】
さらにここで開示された方法の特徴は、選択された該標的化合物が医療用として承認されたものであることであった。従来、使用されてきた医薬品には、その標的タンパク質が知られていないもの、あるいは標的タンパク質が知られていても、そのタンパク質を介したメカニズムでは、その医薬品の薬効や副作用のすべてを説明できないもの、が数多く存在する。
【0013】
また、上記の公開特許の発明者の一人である平山らは、日本国内で市販されている約1,500種類の医薬品について、それらの構造と物性データを統合したデータベースを作成し、既存の医薬品化合物に共通の構造的な特徴があることを見出している(非特許文献4)。従来汎用されてきた医薬品は、その開発過程において、体内移行性や安全性の問題をクリアしてきた優等生である。それら医薬品をプローブとして新規標的タンパク質探索を行い、さらにそれら医薬品の構造を基に新規開発候補化合物を考案することは、非常に合理的かつ効率的と考えられる。
【0014】
次に、新規標的タンパク質を探索する過程において、どのようにゲノム情報を活用していくかが問題となる。単にゲノム配列が決定されただけで、全ての遺伝子の機能が明らかになり、創薬標的タンパク質が見出されるわけではない。ヒトには約3〜4万種類の遺伝子が存在すると推測されており、さらにオルタナティブスプライシングによるバリアントも考慮に入れると10万種以上のmRNAが存在すると言われている。そこで、ゲノム配列から明らかにされてくる膨大な量の新しい遺伝子のなかで、医薬品開発等の産業利用において有用な機能を有するものを、効率的に選別同定していくことが重要となる。
【0015】
真核生物のゲノム配列は多くの場合、一つの遺伝子がイントロンによって複数のエキソンに分断されているため、遺伝子の配列情報だけからそれによってコードされるタンパク質の構造を正確に予測することはできない。これに対して、イントロンが除かれたmRNAから作製されるcDNAでは、タンパク質のアミノ酸配列の情報が一つの連続した配列情報として得られるため、容易にその一次構造を明らかにすることが可能である。
【0016】
特に完全長cDNAを対象とした解析を行うことにより、その5’末端配列からゲノム配列上でのmRNA転写開始点が特定できる上、その配列の中に含まれるmRNAの安定性や翻訳段階での発現制御に関わる因子の解析が可能である。また、翻訳開始点であるATGコドンを5’側に含むことから、正しいフレームでタンパク質への翻訳を行うことができる。したがって、適当な遺伝子発現系を適用することで、そのcDNAがコードするタンパク質を大量に生産したり、タンパク質を発現させてその生物学的活性を解析することも可能になる。このように、全長cDNAから発現されたタンパク質を用いた解析を行うことにより、ゲノム配列解析のみでは得られない重要な情報が得られ、さらには従来の創薬標的タンパク質の範疇に属さないような新規標的タンパク質を発見することが可能であると考えられる。
【0017】
ところで、特許文献2および3では、Calbindin D28Kの産生増強に基づく神経細胞保護作用を有するアミノフェノキシアセタミド誘導体が開示されている。しかし、これらはCa2+バッファー作用を有するCalbindin D28Kの細胞内濃度を全般的に増大させうる発現誘導化合物の開示であり、Calbindin D28Kに直接的に結合する化合物は開示されていなかった。Calbindin D28Kは、単なるCaイオンバッファーとして機能しているだけでなく、種々の重要な他のタンパク質との相互作用を介して、中枢神経、末梢神経、女性生殖器官(卵管、子宮、胎盤など)、消化器あるいは腎における細胞機能の調節に関与することが知られている。例えば、Calbindin D28Kは、ホスファチジルイノシトール合成経路に必須の酵素myo-inositol monophosphatase(IMPase)に結合して、IMPase活性をCaイオン濃度依存性に増強することが報告されている(非特許文献5および6)。また、Calbindin D28Kと微小管重合に関与するRan-binding protein M(RanBPM)との相互作用(非特許文献7)、および、Calbindin D28KがCaspase-3活性を抑制して骨芽細胞のアポトーシスを制御して骨形成に関わることも報告されている(非特許文献8)。さらには、古典的な抗けいれん薬として知られるリチウム(Li)イオン、バルプロ酸(VPA)およびカルバマゼピンは、双極性感情障害に対する精神安定作用を有する化合物でもあるが、いずれも、Myo-inositol枯渇をその作用機作として共有することが示唆されている(非特許文献9)。
【0018】
従って、多様なCalbindin D28Kの機能を選択的に標的とする新規医薬品化合物の創出には、Calbindin D28Kに直接的に結合しうる化合物のスクリーニング法と、このスクリーニングを用いることによってCalbindin D28Kに結合する薬理活性を有する化合物を獲得するか、あるいは、排除することが必須となる。本発明は、Calbindin D28Kとの結合に好適な構造を開示するものであり、しかもその多くがCalbindin D28Kの機能に関連する薬理活性あるいは副作用を有する医薬品の構造モチーフであることから、本発明が開示する構造を出発点とすることにより薬効あるいは安全性の高い化合物を効率的にスクリーニングあるいはデザインすることが可能となる。
【特許文献1】特表2004−509406号公報
【特許文献2】特表2002−527477号公報
【特許文献3】特表2004−501079号公報
【非特許文献1】J. Drews, Science, 297, 1960-1964, 2000)
【非特許文献2】A.L.Hopkins & C. R. Groom, Nature Reviews; Drug Discovery, 1, 727-730, 2002
【非特許文献3】S. Franz & A Smith, Nature Reviews; Drug Discovery, 2, 95-96, 2003
【非特許文献4】I. Fujii et al., Chem-Bio Informatics Journal, 1, 18-22, 2001
【非特許文献5】Berggard T. et al., J.Biol.Chem., vol.277, 41954-41959 (2002)
【非特許文献6】Schmidt H et al., Proc.Natl.Acad.Sci, vol.102, 5850-5855 (2005)
【非特許文献7】Lutz W et al., BBRC, vol.303, 1186-1192 (2003)
【非特許文献8】Bellido T et al., J.Biol.Chem., vol.275, 26328-26332 (2000)
【非特許文献9】Williams RSB et al., Nature, vol.417, 292-295 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、創薬の標的タンパク質およびこれと結合しうる化合物、標的遺伝子、並びにこれらを利用する新規医薬品を開発し得る種々の手段などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、ヒトタンパク質と医薬品として使用されてきた化合物の相互作用をSEC−MS法で解析することにより、新規医薬の開発に有用であり得る新規創薬標的タンパク質について鋭意探索したところ、神経特異的カルシウム結合タンパク質(Calbindin D28K)が創薬、例えば中枢神経疾患治療薬の標的タンパク質の1つであり得ることを見出した。すなわち、細胞内シグナル伝達の第二メッセンジャーであるホスファチジルイノシトール合成経路に必須の酵素IMPase活性を中枢神経細胞特異的に増強するCalbindin D28Kに対してベンゾジアゼピン化合物を含む複数の医薬品化合物が相互作用することを見出した。一方、古典的な抗けいれん薬として知られるリチウム(Li)イオン、バルプロ酸(VPA)およびカルバマゼピンは、双極性感情障害に対する精神安定作用を有する化合物でもあるが、いずれも、Myo-inositol枯渇をその作用機作として共有することが示唆されている(Williams RSB et al, Nature, vol.417, 292-295 (2002))。催眠鎮静作用を有するベンゾジアゼピン化合物は、GABA受容体アゴニストであると同時に、Calbindin D28K を介して古典的な抗けいれん薬の精神安定作用と共通のIMPase活性に介入しうることを見出した。重要な点は、古典的な抗けいれん薬と異なり、ベンゾジアゼピン化合物は組織選択性の低いIMPase活性を直接的に抑制するのではなく、中枢神経系で選択的に発現してIMPase活性を増強するCalbindin D28K に結合してIMPase活性に介入しうるため、安全性に優れている可能性があるということである。また、逆に、これは、Calbindin D28Kに結合する化合物が催眠作用という副作用を有する可能性を示唆するものでもある。この知見より、本発明者らは、Calbindin D28Kタンパク質に結合しうる化合物、または、Calbindin D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質が、薬物として有用であり得る物質であること、並びに薬物、例えば抗中枢神経疾患薬を開発するためには、Calbindin D28Kタンパク質に結合しうる物質(あるいは、逆に、結合しない物質)、または、Calbindin D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質をスクリーニングすればよいこと、あるいはCalbindin D28Kタンパク質に結合してその機能を調節しうるか、または、Calbindin D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得る(あるいは、逆に、Calbindin D28K非結合性でCalbindin D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能に介入しない)ように薬物を誘導体化すればよいことを着想し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明は、下記の通りである:
[1]以下の式(I)〜(VI)からなる群から選ばれる化合物である、CalbindinD28Kタンパク質に対する結合能を有する化合物またはその塩;
式(I):
【0022】
【化1】


式(II):
【0023】
【化2】


式(III):
【0024】
【化3】


式(IV):
【0025】
【化4】


式(V):
【0026】
【化5】


式(VI):
【0027】
【化6】


〔式中、R1は、水素原子;ハロゲン原子;あるいはニトロ基;を示し、
R2は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R3は、水素原子;あるいはヒドロキシ;を示し、
R4は、水素原子;あるいはハロゲン原子;を示し、
R5は、水素原子;あるいはニトロ基;を示し、
R6は、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ;アミノ:チオール;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R7は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキルを有していてもよい炭素数1〜9のアルキルピペラジニルアルキル;を示し、
R8は、水素原子;炭素数1〜7のアルキル;炭素数1〜7のアルキルカルボニル;ハロゲン原子、カルボン酸、シアノ、ヒドロキシ、チオール、およびアミノからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよいフェニル基;を示し、
但し、R6とR8は一緒になって環を形成していてもよい。〕。
[2]上記式(I)〜(VI)からなる群から選ばれる化合物またはその医薬として許容される塩を有効成分として含有する、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬の治療または予防薬。
[3]被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、薬物のスクリーニング方法。
[4]薬物が、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に関わる作用あるいは活性の調節薬である、上記[3]の方法。
[5]薬物がCALBINDIN D28Kタンパク質に関連する作用を調節し得る物質である、上記[3]の方法。
[6]薬物がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質である、上記[3]に記載の方法。
[7]以下の工程(a)〜(c)を含む、上記[5]または[6]の方法:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下における該タンパク質の機能レベルを測定し、該機能レベルを被験物質の非存在下における該タンパク質の機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該タンパク質の機能レベルの変化をもたらす被験物質を選択する工程。
[8]下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、上記[5]または[6]の方法:
(a)被験物質とCALBINDIN D28Kタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞における該タンパク質または該遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における該タンパク質または該遺伝子の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該タンパク質または該遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
[9]下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、上記[5]または[6]の方法:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の該タンパク質に対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、該タンパク質に対する結合能を有する被験物質を選択する工程。
[10]下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、上記[5]または[6]の方法:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
[11]CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、またはそれらの誘導体である、上記[10]の方法。
[12]被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質に対するCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の結合能を調節し得るか否かを評価することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
[13]CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kに結合能を有するそれらの誘導体である、上記[12]の方法。
[14]以下の工程(a)〜(c)を含む、上記[12]の方法:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
[15]上記[3]〜[14]のいずれかの方法により得られる物質。
[16]上記[3]〜[14]のいずれかの方法により得られる物質を含有する、薬理作用の調節剤。
[17]CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有する、薬理作用の調節剤。
[18]薬理作用が不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に対する治療的作用または予防的作用である、上記[17]の剤。
[19] CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節剤である、上記[17]の剤。
[20]CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質が、以下(i)、(ii)のいずれかであるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を抑制する物質である、上記[17]の剤:
(i)CALBINDIN D28Kアンチセンス核酸、CALBINDIN D28Kリボザイム、CALBINDIN D28Kデコイ核酸、CALBINDIN D28KsiRNA、CALBINDIN D28K抗体をコードする核酸、CALBINDIN D28Kドミナントネガティブ変異タンパク質をコードする核酸からなる群より選ばれる核酸、または当該核酸を含む発現ベクター;あるいは
(ii)CALBINDIN D28K抗体、CALBINDIN D28Kドミナントネガティブ変異タンパク質からなる群より選ばれるタンパク質。
[21]CALBINDIN D28Kタンパク質、又はCALBINDIN D28Kタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含有する、薬理作用の調節剤。
[22]CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物を含有する、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節剤。
[23]CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kに結合能を有するそれらの誘導体である、上記[22]の剤。
[24]CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、薬物誘導体の製造方法。
[25]薬物が不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に対する治療的作用あるいは予防的作用を有するベンゾジアゼピン系薬物である、上記[24]の方法。
[26]薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン又はベトニシンである、上記[24]の方法。
[27]CALBINDIN D28Kタンパク質に対する結合能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質の誘導体の製造方法。
[28]薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するそれらの誘導体である、上記[27]の方法。
[29]上記[24]〜[28]のいずれかの方法により得られる物質。
[30]上記[24]〜[28]のいずれかの方法により得られる物質を含有する、薬理作用の調節剤。
[31]薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを含む複合体。
[32]薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを接触させることを含む、薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを含む複合体の製造方法。
[33]以下(i)、(ii)を含む、キット:
(i)薬物またはその塩;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクターまたはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞。
【発明の効果】
【0028】
本発明のCalbindin D28Kタンパク質および遺伝子は、抗中枢神経疾患薬等の創薬などを可能とする。本発明のスクリーニング方法および本発明の誘導体の製造方法は、中枢神経疾患等の疾患の予防・治療剤、並びに該疾患の研究用試薬の開発などを可能とする。本発明の調節剤および誘導体は、中枢神経疾患等の疾患の予防・治療に、並びに該疾患の研究用試薬などに使用できる。本発明の複合体およびキットは、本発明のスクリーニング方法などに使用できる。本発明の判定方法および判定用キットは、動物における疾患の発症または発症可能性の評価、並びに薬物に対する感受性の評価などを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1.CALBINDIN D28Kタンパク質及びその遺伝子
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質および遺伝子を提供する。
【0030】
CALBINDIN D28K タンパク質は、主として神経細胞あるいは腎臓に特異的に発現するEFハンドモチーフを有するカルシウムイオン結合タンパク質の一種である。
【0031】
本明細書中、CALBINDIN D28Kタンパク質は、ヒトCALBINDIN D28Kタンパク質に限定されず、異種動物のオルソログをも含む。なお、ヒトCALBINDIN D28Kは、後述の実施例に記載されるFLJ30319クローンあるいはFLJ50773クローン由来のタンパク質である。
【0032】
本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質は、天然タンパク質又は変異タンパク質であり得る。このような天然タンパク質は、例えば、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。なお、ヒトCALBINDIN D28Kタンパク質は、FLJ番号(NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)タンパク質cDNA構造解析プロジェクトにおける登録番号):FLJ30319、GenBankアクセッション番号:AK054881およびFLJ番号:FLJ50773、GenBankアクセッション番号:(非公開)、H-Invitationalデータベース(H−Inv DB)におけるH−Inv cDNA ID:HIT000011495、およびH−Inv ローカスID:HIX0007639として登録され(Nat. Genet. 36(1), 40-45 (2004) 参照)、また、本発明者らにより、ベンゾジアゼピン化合物を含む実施例記載の化合物と相互作用することが見出された。また、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質は、OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man:登録商標)にOMIM 114050としても登録されている。
【0033】
また、CALBINDIN D28Kタンパク質の変異タンパク質は、例えば、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ薬物に対して相互作用を示すタンパク質であり得る。
【0034】
置換、欠失、付加または挿入されるアミノ酸の数は、機能が保持される限り限定されないが、例えば約1〜30個、好ましくは約1〜20個、より好ましくは約1〜10個、さらにより好ましくは約1〜5個、最も好ましくは1または2個である。アミノ酸の置換、欠失、付加または挿入が施される部位は、機能が保持される限り限定されないが、例えば、EFハンドモチーフの部位、ミリストイル化部位、並びにこれらの部位以外の部位であり得る。
【0035】
さらに、本発明の変異タンパク質は、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列において、例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらにより好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性(但し、100%の相同性を除く)を有するアミノ酸配列からなり、且つ薬物に対して相互作用を示すタンパク質であり得る。ここで、上記相同性の数値は、配列解析ソフトウェアであるDNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて、例えば、マキシマムマッチング法のコマンドを実行することにより算出される。その際のパラメータは、デフォルトの設定(初期設定)とする。
【0036】
本発明のタンパク質が相互作用を示す薬物はCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物である。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物とは、CALBINDIN D28Kタンパク質を介して薬効または副作用を示す薬物であり、このような薬物としては、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質(例えば、中枢神経作用を調節し得る物質)、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質などが挙げられる。なお、薬物とは、医薬および試薬を含むものとする。好ましくは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物は、後述の化合物であり得る。
【0037】
本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質を使用する場合、該タンパク質は標識されていても未標識であってもよく、また、標識タンパク質と未標識タンパク質を所定の割合で含む混合物も使用できる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
【0038】
本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子は、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質をコードするものである限り限定されない。例えば、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子は、上記アミノ酸配列からなるタンパク質に対応するものであり得る。好ましくは、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子は、配列番号1または3で表されるヌクレオチド配列からなる。なお、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子は、上記のヒト遺伝子に限定されず、異種動物のオルソログをも含む。
【0039】
また、本発明によれば、配列番号1または3で表されるヌクレオチド配列と相補的な配列に対してストリンジェント条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなり、且つ薬物に対して相互作用を示すタンパク質に対応する遺伝子も提供される。ここで、ストリンジェント条件下でハイブリダイズするとは、例えば、6×SSC、0.5%SDS、50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリダイゼーションシグナルが観察されることを意味する。
【0040】
本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質およびその遺伝子は、種々の疾患、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患に対する医薬の開発、あるいは該疾患に対する研究用試薬の開発などに有用である。以下、それぞれの疾患について詳述する。
【0041】
(I.CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患)
「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が適用される疾患または該薬物の副作用に相当する疾患を意味する。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物により改善または増悪され得る。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患としては、例えば、中枢神経疾患、その他の疾患が挙げられる。
【0042】
「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す作用(薬理作用、副作用を含む)と同種の作用または反対の作用を意味する。換言すれば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用は、「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患」の改善または増悪を引き起こし得る作用である。即ち、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患が中枢神経疾患である場合、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用は、中枢神経作用、抗中枢神経作用である。なお、「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用」は、「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患」の説明により自ずと明らかになるであろう。
【0043】
(中枢神経疾患)
中枢神経疾患とは、中枢神経系である脳、脊髄の異常に伴う疾患である限り特に限定されない。中枢神経疾患としては、例えば、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛あるいは疼痛が挙げられる。
【0044】
(その他の疾患)
中枢神経疾患以外の疾患としては、例えば、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬が挙げられる。また、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の一例は、ベンゾジアゼピン化合物に関連する疾患であり得る。
【0045】
可能性のある疾患または状態の別の例は、OMIMに登録されている疾患または状態である。このような疾患または状態は、例えば、H−Inv DBにおいてH−Inv ID番号またはH−InvクラスターID番号を入力することで容易に検索できる。本出願におけるCalbindin D28K遺伝子について、その遺伝子の存在する染色体、遺伝子ローカスと、その遺伝子が関連することが予想されるオーファン疾患のOMIM情報は次の通りである。
【0046】
【数1】

【0047】
可能性のある疾患または状態の別の例は、標的遺伝子Yの発現部位における、または標的遺伝子Yが単離されたライブラリーが由来する組織における異常を伴う疾患または状態である。該発現部位および該組織は、例えば、H−Inv DBにおいてH−Inv cDNA ID番号またはH−InvローカスID番号を入力することで容易に検索でき、これより、当業者であれば、疾患または状態についても類推できる。
【0048】
可能性のある疾患または状態のさらに別の例は、標的遺伝子Yまたは下流遺伝子と相同な遺伝子が関与する疾患または状態である。当業者は、相同性検索により相同遺伝子を同定し、次いで該相同遺伝子が関与する疾患または状態を公知の方法により精査することで、このような疾患または状態を類推できる。
【0049】
本発明の標的タンパク質、標的遺伝子は、例えば、所定の疾患または状態に対する医薬の開発、あるいは該疾患または状態に対する研究用試薬の開発などに有用である。
【0050】
ベンゾジアゼピン化合物に関連する疾患とは、ベンゾジアゼピンが適用される疾患またはベンゾジアゼピンの副作用に相当する疾患を意味する。ベンゾジアゼピンは、GABA受容体増強剤などとして知られている。なお、ベンゾジアゼピン化合物の標的としては、GABA受容体などが知られている。ベンゾジアゼピン化合物が適用される疾患としては、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬等が例示される。一方、ベンゾジアゼピン化合物の副作用としては、ふらつき、倦怠感、眠気・残眠感、口渇、呼吸抑制、健忘、大量投与又は連用中における投与量の急激な減少ないし中止による退薬症候(けいれん発作・せん妄・振戦・不眠・不安・幻覚・妄想等)、依存性、舌根の沈下による上気道閉塞、刺激興奮、錯乱、循環性ショック、睡眠中の多呼吸発作、肝機能障害、黄疸、炭酸ガスナルコーシス、横紋筋融解症、悪性症候群、意識障害、間質性肺炎、女性型乳房、ポテンツ低下等が例示される。
【0051】
さらに、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患は、CALBINDIN D28K結合化合物に関連する疾患であり得る。CALBINDIN D28K結合化合物としては、例えば、Flufenamic acid、Flutamide、Trifluoperazine、Nitrazepam、Nordiazepam、Diazepam、Clonazepam、Flunitrazepam、Oxazepam、Benzethonium、Suloctidil、Famotidine、Betonicineが例示できる。
【0052】
Nitrazepam(ニトラゼパム)に関連する疾患とは、ニトラゼパムが適用される疾患またはニトラゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。ニトラゼパムに関連する疾患としては、不眠症、麻酔前投薬、異型小発作群(点頭てんかん,ミオクロヌス発作,失立発作等)、焦点性発作(焦点性けいれん発作,精神運動発作,自律神経発作等)などが例示できる。一方、ニトラゼパムの副作用としては、ふらつき、倦怠感、眠気・残眠感、口渇、呼吸抑制、薬物依存、大量投与又は連用中における投与量の急激な減少ないし中止による退薬症候(けいれん発作・せん妄・振戦・不眠・不安・幻覚・妄想等)などが例示できる。
【0053】
Nordiazepam(ノルジアゼパム)に関連する疾患とは、ノルジアゼパムが適用される疾患またはノルジアゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。ノルジアゼパムに関連する疾患としては、神経症における不安・緊張・抑うつ、うつ病における不安・緊張、心身症(消化器疾患、循環器疾患、自律神経失調症、更年期障害、腰痛症、頸肩腕症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ、脳脊髄疾患に伴う筋けいれん・疼痛時の筋緊張の軽減、麻酔前投薬などが例示できる。一方、ノルジアゼパムの副作用としては、依存性、舌根の沈下による上気道閉塞、呼吸抑制、刺激興奮、錯乱、循環性ショックなどが例示できる。
【0054】
Diazepam(ジアゼパム)に関連する疾患とは、ジアゼパムが適用される疾患またはジアゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。ジアゼパムに関連する疾患としては、神経症における不安・緊張・抑うつ、うつ病における不安・緊張、心身症における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ、脳脊髄疾患に伴う筋けいれん・疼痛における筋緊張の軽減、麻酔前投薬、麻酔前・麻酔導入時・麻酔中・術後・アルコール依存症の禁断(離脱)症状・分娩時における不安・興奮・抑うつの軽減、てんかん様重積状態・有機リン中毒・カーバメート中毒けいれんの抑制などが例示できる。一方、ジアゼパムの副作用としては、薬物依存、精神分裂病等の精神障害者の場合の刺激興奮、錯乱等、慢性気管支炎等の呼吸器疾患の場合の呼吸抑制などが例示できる。
【0055】
Clonazepam(クロナゼパム)に関連する疾患とは、クロナゼパムが適用される疾患またはクロナゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。クロナゼパムに関連する疾患としては、小型(運動)発作、精神運動発作、自律神経発作などが例示できる。一方、クロナゼパムの副作用としては、依存性、呼吸抑制、睡眠中の多呼吸発作、刺激興奮、錯乱等、肝機能障害、黄疸などが例示できる。
【0056】
Flunitrazepam(フルニトラゼパム)に関連する疾患とは、フルニトラゼパムが適用される疾患またはフルニトラゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。フルニトラゼパムに関連する疾患としては、不眠症、麻酔前投薬(全身麻酔の導入、局所麻酔時の鎮静)などが例示できる。一方、フルニトラゼパムの副作用としては、依存性、統合失調症患者における刺激興奮・錯乱、呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス、肝機能障害、黄疸、横紋筋融解症、悪性症候群(Syndrome malin)、意識障害などが例示できる。
【0057】
Oxazepam(オキサゼパム)に関連する疾患とは、オキサゼパムが適用される疾患またはオキサゼパムの副作用に相当する疾患を意味する。オキサゼパムに関連する疾患としては、神経症における不安・緊張・抑うつ、うつ病における不安・緊張、高血圧症・動脈硬化症・自律神経失調症・更年期障害・月経前緊張症・神経性頻尿・筋肉痛・関節痛における不安・緊張・抑うつなどが例示できる。
【0058】
Flutamide(フルタミド)に関連する疾患とは、フルタミドが適用される疾患またはフルタミドの副作用に相当する疾患を意味する。フルタミドに関連する疾患としては、前立腺癌などが例示できる。一方、フルタミドの副作用としては、重篤な肝障害(劇症肝炎等)、間質性肺炎、女性型乳房、ポテンツ低下などが例示できる。
【0059】
Flufenamic acid(フルフェナム酸)に関連する疾患とは、フルフェナム酸が適用される疾患またはフルフェナム酸の副作用に相当する疾患を意味する。フルフェナム酸に関連する疾患としては、慢性関節リウマチ、変形性関節症、変形性脊椎症、腰痛症、肩甲関節周囲炎、関節炎、症候性神経痛、抜歯後、歯髄炎、歯根膜炎、膀胱炎、前立腺炎、帯状疱疹、湿疹・皮膚炎、紅斑症、急性上気道炎、各科領域の手術後並びに外傷後の消炎・鎮痛・解熱などが例示できる。一方、フルフェナム酸の副作用としては、胃腸障害、出血性大腸炎などが例示できる。
【0060】
Trifluoperazine(トリフロペラジン)に関連する疾患とは、トリフロペラジンが適用される疾患またはトリフロペラジンの副作用に相当する疾患を意味する。トリフロペラジンに関連する疾患としては、統合失調症などが例示できる。一方、トリフロペラジンの副作用としては、悪性症候群、突然死、血圧降下、心電図異常(QT間隔の延長、T波の平低化や逆転、二峰性T波ないしU波の出現等)、麻痺性イレウス、遅発性ジスキネジア、眼障害(長期又は大量投与による角膜・水晶体の混濁、網膜・角膜の色素沈着)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、再生不良性貧血、SLE様症状などが例示できる。
【0061】
Benzethonium(ベンゼトニウム)に関連する疾患とは、ベンゼトニウムが適用される疾患またはベンゼトニウムの副作用に相当する疾患を意味する。ベンゼトニウムに関連する疾患としては、咽頭炎、扁桃炎、口内炎、急性歯肉炎、舌炎、口腔創傷などが例示できる。一方、ベンゼトニウムの副作用としては、発疹、掻痒、口腔・咽頭の刺激感、口中のあれなどが例示できる。
【0062】
Suloctidil(スロクチジル)に関連する疾患とは、スロクチジルが適用される疾患またはスロクチジルの副作用に相当する疾患を意味する。スロクチジルに関連する疾患としては、抗血栓剤、末梢性血管拡張薬、血管攣縮、脳機能保護剤などが例示できる。
【0063】
Famotidine(ファモチジン)に関連する疾患とは、ファモチジンが適用される疾患またはファモチジンの副作用に相当する疾患を意味する。ファモチジンに関連する疾患としては、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善、侵襲ストレス(手術後に集中管理を必要とする大手術、集中治療を必要とする脳血管障害・頭部外傷・多臓器不全・広範囲熱傷)による上部消化管出血の抑制、麻酔前投薬などが例示できる。一方、ファモチジンの副作用としては、ショック、アナフィラキシー様症状、汎血球減少、無顆粒球症、再生不良性貧血、溶血性貧血、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症、肝機能障害、黄疸、横紋筋融解症、QT延長、意識障害、けいれん、間質性腎炎、急性腎不全、間質性肺炎などが例示できる。
【0064】
Betonicine(ベトニシン)に関連する疾患とは、ベトニシンが適用される疾患またはベトニシンの副作用に相当する疾患を意味する。ベトニシンに関連する疾患としては、ベトニシン含有薬用植物抽出物の薬効からの推定として、鼻出血、消化管出血、痔核などが例示できる。
【0065】
(II.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患) 「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能または発現量、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子が関与するシグナル伝達系においてCALBINDIN D28Kタンパク質の下流に位置付けられる遺伝子(下流遺伝子)の機能または発現量の変化に伴い引き起こされ得る疾患をいう。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子またはその下流遺伝子の機能の変化は、例えば、該遺伝子の変異(例えば、多型)によりもたらされ得る。該変異としては、例えば、コーディング領域におけるその機能を促進または抑制させる変異、非コーディング領域におけるその発現を促進または抑制させる変異などが挙げられる。発現量の変化としては、発現量の増加または低下が挙げられる。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患は、CALBINDIN D28Kタンパク質により改善または増悪され得る。
【0066】
「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質が実際に示す機能と同種の機能または反対の機能を意味する。換言すれば、「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能」は、「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患」の改善または増悪を引き起こし得る機能である。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能としては、例えば、Caイオン緩衝機能、神経細胞保護機能、アポトーシス抑制機能、caspase3活性制御機能、骨形成調節機能、Caイオン吸収制御機能、IMPase活性制御機能、ホスファチジルイノシトール代謝経路賦活機能、Ran-binding protein M結合機能、微小管形成制御機能などが挙げられる。
【0067】
また、本発明のCALBINDIN D28Kタンパク質を、SwissProt及びRefSeqに対してBLASTP検索し、その解析結果に基づきGO(Gene Ontology)カテゴリー分類情報によるさらなる解析に供したところ、MF(分子機能)としてはカルシウムイオン結合(GO:0005509)//タンパク質結合 (GO:0005515)に分類されるという結果が得られている。従って、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能としては、上述の機能の他、これらのGOカテゴリー分類情報から導き出せる機能も挙げることもできる。
【0068】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患としては、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子が生体内で種々の生理学的機能を担っていると考えられることを考慮すれば、実に様々な疾患が想定されるが、例えば、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬などが挙げられる。
【0069】
(III.CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物)
式(I)乃至(VI)で表される本発明の化合物について説明する。
【0070】
式(I)乃至(VI)で表される化合物は、基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成方法を適用して製造することができる。例えばアルキル化、アシル化、アミノ化、イミノ化、ハロゲン化、還元、酸化、縮合、環化等が挙げられ、通常当分野で用いられる反応または方法が利用できる。
【0071】
「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0072】
「炭素数1〜5のアルキル」および「炭素数1〜7のアルキル」は、直鎖または分岐鎖であり得、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec−ペンチル、tert−ペンチル(以上、炭素数1〜5のアルキル)、ヘキシル、イソヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル等(以上、炭素数1〜7のアルキル)が挙げられる。
【0073】
「炭素数1〜7のアルキルカルボニル」は、上記「炭素数1〜6のアルキル」を有するカルボニルであり得、例えば、メチルカルボニル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、sec−ブチルカルボニル、tert−ブチルカルボニル、ペンチルカルボニル、イソペンチルカルボニル、ネオペンチルカルボニル、sec−ペンチルカルボニル、tert−ペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル、イソヘキシルカルボニル、2−エチルブチルカルボニル等が挙げられる。
【0074】
「炭素数1〜5のアルキルを有していてもよい炭素数1〜9のピペラジニルアルキル」における「炭素数1〜9のピペラジニルアルキル」は、ピペラジニルを有する炭素数1〜5のアルキルであり得、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル等の置換基を1位あるいは/および4位に有するピペラジン等(例、ピペリジン−1−イル)−アルキル、4−アルキル−ピペリジン−1−イル)−アルキル)が挙げられる。好ましい構造としては、次の構造が挙げられる。
【0075】
【化13】

【0076】
R6とR8が環を形成する好ましい態様としては、以下の化合物が挙げられる。
【0077】
【化14】

【0078】
R6とR8が一緒になって形成される環は、フェニル基と縮合していてもよい。フェニル基と縮合していてもよい、このような環としては、例えば、チアジン、ジヒドロピラジン、オキサジン、ジヒドロピリジン、チアゼピン、ジアゼピン、オキサゼピン、アゼピン等が挙げられ、
【0079】
【化15】

【0080】
等が好ましく、
【0081】
【化16】

【0082】
がより好ましい。
【0083】
また、式(II)においてR6とR8が環を形成した構造としては、以下が挙げられる(式中、Xは、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を示す)。
【0084】
【化17】

【0085】
式(I)で表される化合物の具体例としては、ノルジアゼパム(nordiazepam)、オキサゼパム(oxazepam)、ジアゼパム(diazepam)、ニトラゼパム(nitrazepam)、クロナゼパム(clonazepam)、フルニトラゼパム(flunitrazepam)が挙げられる。式(II)で表される化合物の具体例としては、フルタミド(flutamide)、フルフェナム酸(flufenamic acid)、トリフロペラジン(trifluoperazine)が挙げられる。式(III)で表される化合物は、ベンゼトニウム(benzethonium)である。式(IV)で表される化合物は、スロクチジル(suloctidil)である。式(V)で表される化合物は、ファモチジン(famotidine)である。式(VI)で表される化合物は、ベトニシン(betonicine)であり得る。
【0086】
本発明の化合物は、医薬として許容され得る塩を形成していてもよく、該塩としては酸付加塩、例えば無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等)等が挙げられる。尚、本発明の化合物またはその塩は水和物等の溶媒和物であってもよい。
【0087】
2.スクリーニング方法、および該方法により得られる成果物
本発明は、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、薬物のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングされる薬物の種類の観点から、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(例えば、中枢神経作用)を調節し得る物質、およびCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質をスクリーニングする方法に大別できる。本発明のスクリーニング方法はまた、インビトロ、インビボまたはインシリコで行うことができる。なお、本発明のスクリーニング方法により得られるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を調節し得る物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質の量を調節し得る物質と同義であり、所定の組織または細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の存在量、あるいは所定の細胞内位置におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の存在量を変化させ得る物質であり得る。従って、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を調節し得る物質としては、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子からのCALBINDIN D28Kタンパク質の生合成を調節し得る物質のみならず、CALBINDIN D28Kタンパク質の細胞内局在を調節し得る物質、CALBINDIN D28Kタンパク質の代謝(例えば、代謝による分解)を調節し得る物質もまた含まれる。
以下、それぞれのスクリーニング方法を詳述する。
【0088】
2.1.CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法I)
本発明は、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法を、必要に応じて「スクリーニング方法I」と省略する。
【0089】
スクリーニング方法Iは、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価し、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得る被験物質を選択することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法Ia)、並びに被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価し、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得ない被験物質を選択することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(なかでも、既知標的分子に関連する作用)を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法Ib)に大別できる。スクリーニング方法Iaは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患または状態の調節薬の開発などに有用であり得る。また、スクリーニング方法Ibは、既知標的分子に関連する作用の調節能を有し、且つCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が示す副作用が低減した医薬の開発などに有用であり得る。
【0090】
2.1.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得る被験物質を選択することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法Ia)
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。被験物質は、標識されていても未標識であってもよく、また、標識体と未標識体を所定の割合で含む混合物も被験物質として使用できる。標識用物質は、上述したものと同様である。
【0091】
一実施形態では、スクリーニング方法Iaは、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下における該タンパク質の機能レベルを測定し、該機能レベルを被験物質の非存在下における該タンパク質の機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該タンパク質の機能レベルの変化をもたらす被験物質を選択する工程。
【0092】
上記(a)〜(c)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論I」と省略する。
方法論Iの工程(a)では、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質と接触条件下におかれる。被験物質の該タンパク質に対する接触は、溶液中での単離されたCALBINDIN D28Kタンパク質と被験物質との接触、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質を発現可能な細胞又は組織と被験物質との接触により行われ得る。なお、アッセイにおいて、他のタンパク質(例、Myo inositol monophosphatase(IMPase)、RAN binding protein M(RanBPM)、Transient receptor potential vanilloid(TRPV、特にTRPV5)、あるいは、Caspase、特にCaspase 3)を併用する場合、あるいはそのようなタンパク質をCALBINDIN D28Kタンパク質の活性の検出指標として用いる場合、そのようなタンパク質もまた被験物質と接触され、あるいはそのようなタンパク質もまた発現する細胞又は組織が用いられ得る。
【0093】
CALBINDIN D28Kタンパク質は自体公知の方法により調製できる。例えば、上述した発現組織からCALBINDIN D28Kタンパク質を単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量にCALBINDIN D28Kタンパク質を調製し、また、ヒトCALBINDIN D28Kタンパク質を調製するためには、遺伝子組換え技術により組換えタンパク質を調製するのが好ましい。組換えタンパク質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。
【0094】
CALBINDIN D28Kタンパク質を発現可能な細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質を発現するものである限り特に限定されず、CALBINDIN D28Kタンパク質の発現組織(例、脳(特に小脳)、骨、歯、感覚器(特に内耳)、胎盤、卵管、乳腺、膵、小腸、腎(特に遠位尿細管)など)由来の細胞(例えば、神経細胞、小脳プルキンエ細胞、骨芽細胞、腎または小腸の上皮細胞など)、あるいは、CALBINDIN D28Kタンパク質発現ベクターで形質転換された細胞などであり得る。該細胞は、当業者であれば容易に同定又は調製でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質を発現している細胞株としては、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来細胞株PC12、ウシ正常腎臓由来の細胞株Madin Darby bovine kidney細胞MDBK(NBL-1)などが挙げられる。CALBINDIN D28Kタンパク質を発現可能な組織は、上述した発現組織を使用できる。
【0095】
方法論Iの工程(b)では、被験物質の存在下における該タンパク質の機能レベルが測定される。機能レベルの測定は、上述した「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能」を測定可能な自体公知の方法により行われ得る。好ましくは、CALBINDIN D28Kタンパク質の機能レベルは、Ca2+イオンセンサー活性(例、Berggard T. et al, J.Biol.Chem., vol.277, 16662-16672 (2002)参照)、IMPase活性(例、Berggard T. et al, J.Biol.Chem., vol.277, 41954-41959 (2002)、Schmidt H. et al, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, vol.102, 5850-5855 (2005)参照)、Ca2+イオン輸送制御活性(例、Lambers T.T. et al, EMBO Journal, vol.25, 2978-2988 (2006)参照)、RanBPM結合活性(例、Lutz W. et al, Biochem.Biophys.Res.Comm., vol.303, 1186-1192 (2003)参照)、アポトーシス制御活性あるいはCaspase 3制御活性(例、Bellido T. et al, J.Biol.Chem., vol.275, 26328-26332 (2000)、Rabinovitch A. et al, Endocrinology, vol.142, 3649-3655 (2001)参照)の測定により行うことができる。
【0096】
また、機能レベルは、CALBINDIN D28Kタンパク質の総機能レベルに基づいて測定するのではなく、CALBINDIN D28Kタンパク質の個々のアイソフォーム(例えば、スプライシングバリアント)に対する機能レベルあるいはアイソフォーム間の機能レベル比に基づいて測定してもよい。例えば、配列番号1または配列番号3で表されるヌクレオチド配列は、ヒトCALBINDIN D28K遺伝子のスプライシングバリアントの可能性があり、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質は互いにアイソフォームであり得る。従って、これらのアイソフォームに対する機能レベルあるいはアイソフォーム間の機能レベル比に基づいて測定することが可能である。
【0097】
次いで、被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の機能レベルが、被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の機能レベルと比較される。機能レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の機能レベルは、被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の機能レベルの測定に対し、事前に測定した機能レベルであっても、同時に測定した機能レベルであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した機能レベルであることが好ましい。
【0098】
方法論Iの工程(c)では、該タンパク質の機能レベルの変化をもたらす被験物質が選択される。該タンパク質の変化をもたらす被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質の機能を促進または抑制し得る。このように選択された被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患または状態の調節に有用であり得る。
【0099】
別の実施形態では、スクリーニング方法Iaは、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記(a)〜(c)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論II」と省略する。
【0100】
方法論IIの工程(a)では、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培養培地中で行われ得る。
【0101】
「CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の産物、例えば、転写産物、翻訳産物の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を天然で発現可能な細胞であり得、一方、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。
【0102】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を天然で発現可能な細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を潜在的に発現するものである限り特に限定されず、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を恒常的に発現している細胞、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を誘導条件下(例えば、薬物での処理)で発現する細胞などであり得る。該細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。
【0103】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入されている。
【0104】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などを挙げることができる。
【0105】
レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク又は酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUS(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0106】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に対する生理的な転写調節因子を発現し、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を天然で発現可能な細胞が好ましい。
【0107】
被験物質とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞とが接触される培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0108】
方法論IIの工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。
【0109】
例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞として、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を天然で発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の産物、例えば、転写産物又は翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などが使用できる。
【0110】
一方、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞として、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0111】
また、発現量は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の総発現量に基づいて測定するのではなく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の個々のアイソフォーム(例えば、スプライシングバリアント)に対する発現量あるいはアイソフォーム間の発現比に基づいて測定してもよい。
【0112】
さらには、発現量は、細胞膜への局在に基づいて測定することもできる。細胞に局在するCALBINDIN D28Kタンパク質の量は、自体公知の方法により測定できる。例えば、GFP遺伝子等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子と融合させたCALBINDIN D28Kタンパク質を適切な細胞に導入し、培養培地において被験物質の存在下で培養する。次いで、共焦点顕微鏡により細胞膜における蛍光シグナルを観察し、被験物質の非存在下での該器官における蛍光シグナルと比較すればよい。また、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する抗体を用いる免疫染色によっても、細胞膜に局在するCALBINDIN D28Kタンパク質の量を測定できる。
【0113】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0114】
方法論IIの工程(c)では、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を調節する被験物質が選択される。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の調節は、発現量の促進または抑制であり得る。このように選択された被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節に有用であり得る。
【0115】
別の実施形態では、スクリーニング方法Iaは、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の該タンパク質に対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、該タンパク質に結合能を有する被験物質を選択する工程。
上記(a)〜(c)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論III」と省略する。
【0116】
方法論IIIの工程(a)では、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質と接触条件下におかれる。被験物質の該タンパク質に対する接触は、溶液中での被験物質と該タンパク質との混合により行われ得る。
【0117】
CALBINDIN D28Kタンパク質は自体公知の方法により調製できる。例えば、天然タンパク質は、上述したCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現組織からCALBINDIN D28Kタンパク質を単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量にCALBINDIN D28Kタンパク質を調製し、また、ヒトCALBINDIN D28Kタンパク質を調製するためには、遺伝子組換え技術により組換えタンパク質を調製するのが好ましい。組換えタンパク質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に結合能を有する変異タンパク質もまた、当業者であれば、自体公知の方法により容易に調製できる。変異タンパク質は上述の通りである。
【0118】
方法論IIIの工程(b)では、該タンパク質に対する被験物質の結合能が測定される。結合能の測定は、自体公知の方法により行われ得る。また、結合能の他、結合強度、該タンパク質に対する結合における被験物質の濃度依存性などがさらに測定できる。結合強度、濃度依存性は、測定手段を適宜選択することで測定できる。
【0119】
結合能の測定は、例えば、SEC−MS(サイズ排除クロマトグラフィー/質量分析)法により行われ得る(Moy, F. J. et al., Anal. Chem.,2001, 73, 571-581参照)。SEC−MS法では、(1)精製したタンパク質に混合した多重化化合物標品を添加した後、遊離の化合物とタンパク質とをSECで分離する工程と、(2)タンパク質分画に含まれる結合化合物をMSによって同定する解析工程とから構成される。SEC−MS法は、タンパク質、被験物質の双方とも非修飾、非固定の状態で結合能を解析できる点で優れている。SEC−MS法では、被験物質のタンパク質に対する結合能のみならず、タンパク質に対する結合における被験物質の濃度依存性などについても同時に測定できる。
【0120】
結合能の測定はまた、表面プラズモン共鳴を利用した測定手段、例えば、Biacoreにより行われ得る。Biacoreでは、チップ上に固定したタンパク質において、被験物質のタンパク質に対する結合及び解離を測定し、被験物質を含有しない溶液をチップ上にロードした場合と比較する。そして、結合及び解離の速度あるいは結合量についての結果に基づいて、タンパク質に結合能を有する被験物質が選択される。Biacoreでは、被験物質のタンパク質に対する結合能のみならず、結合強度(例えば、K値)などについても同時に測定できる。
【0121】
結合能を測定し得る他の方法としては、例えば、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法、二面偏波式干渉計(Dual Polarization Interferometer:DPI)法、Coupled Waveguide Plasmon Resonance法等のSPRあるいは光学的な手法、免疫沈降法、等温滴定および示差走査カロリメトリー、キャピラリー電気泳動法、エナジートランスファー、蛍光相関分析等の蛍光分析法、さらにはX線結晶構造解析、Nuclear Magnetic Resonance(NMR)等の構造解析法が挙げられる。
【0122】
また、結合能の測定に際しては、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質をコントロールとして用いることもできる。
【0123】
「CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質」とは、CALBINDIN D28Kタンパク質と直接的に相互作用可能な化合物であり、例えば、タンパク質、核酸、糖質、脂質、低分子有機化合物であり得る。好ましくは、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質は、上述したCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物であり得るが、例えばニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、CALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するその誘導体、あるいはそれらの塩、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質と相互作用するタンパク質(例、IMPase、RanBPM、TRPV5あるいはカスパーゼ3)であり得る。
【0124】
塩としては、特に限定されないが、医薬上許容され得る塩が好ましく、例えば無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム、アンモニウム)、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン)、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸)、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、リジン、オルニチン)または酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩などが挙げられる。
【0125】
さらに、結合能は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の総結合能に基づいて測定するのではなく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の個々のアイソフォーム(例えば、スプライシングバリアント)に対する結合能あるいはアイソフォーム間の結合能比に基づいて測定してもよい。
【0126】
また、結合能の測定は、インシリコで行うこともできる。例えば、結合能の測定は、SBDD(Structure-Based Drug Design: SBDD)、CADD(Computer-Aided Drug Design)に基づいて行われ得る。このようなスクリーニングの例としては、バーチャルスクリーニング、de novoデザイン、ファーマコフォー分析、QSAR(Quantitative Structure Activity Relationship)などが挙げられる。このようなスクリーニングの際にタンパク質自体、あるいはタンパク質の標的部位の立体構造の情報が必要とされる場合、NMR、X線結晶解析、放射光解析等の構造解析法により立体構造が判明しているならばその情報が使用され、立体構造が判明していないならばhomology法、Threading法等の構造予測法により得られる情報などが使用される。また、バーチャルスクリーニングでは、自体公知のプログラムを用いることができ、このようなプログラムとしては、例えば、Dock(Kuntz, I. D. et al., Science, 1992, 257, 1078)、Gold(Jones, G. et al., J. Mol. Biol., 1995, 245, 43)、FlexX(Rarey, M. et al., J. Mol. Biol., 1996, 261, 470)、AutoDock(Morris, G. M. et al., J. Comput. Chem., 1998, 19, 1639)、ICM(Abagyan, R. A. et al., J. Comput. Chem., 1994, 15, 488)などが挙げられる。
【0127】
方法論IIIの工程(c)では、CALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有する被験物質が選択される。該タンパク質に結合能を有する被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質の機能を促進または抑制し得る。このように選択された被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の調節に有用であり得る。
【0128】
さらに別の実施形態では、スクリーニング方法Iaは、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質を、CALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
上記(a)〜(c)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論IV」と省略する。
【0129】
方法論IVの工程(a)では、被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質のいずれもがCALBINDIN D28Kタンパク質と接触条件下におかれる。被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する接触は、溶液中での被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質、該タンパク質の混合により行われ得る。また、該タンパク質に対して被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質を接触させる順番は特に限定されず、いずれかを先に該タンパク質に接触させても、同時に接触させてもよい。
【0130】
CALBINDIN D28Kタンパク質は自体公知の方法により調製できる。例えば、該タンパク質の調製は、方法論IIIで上述した方法により行われ得る。
【0131】
CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質は、標識されていても未標識であってもよく、また、標識体と未標識体を所定の割合で含む混合物もCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質として使用できる。標識用物質は上述の通りである。
【0132】
方法論IVの工程(b)では、先ず、被験物質の存在下、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量が測定される。結合量の測定は、用いたCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の種類、標識の有無などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。また、結合量の他、結合強度(例えば、K値)、該タンパク質に対する結合における被験物質の濃度依存性などがさらに測定できる。結合強度、濃度依存性は、測定手段を適宜選択することで測定できる。
【0133】
結合量の測定は、例えば、標識されたCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質を用いて行われ得る。該タンパク質に結合したCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質と未結合のCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質は、結合量の測定前に分離され得る。より詳細には、このような測定は、方法論IIIと同様に行われ得る。
【0134】
また、結合能は、CALBINDIN D28Kタンパク質への総結合量に基づいて測定するのではなく、CALBINDIN D28Kタンパク質の個々のアイソフォーム(例えば、スプライシングバリアント)に対する結合能あるいはアイソフォーム間の結合能比に基づいて測定してもよい。
【0135】
次いで、被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量が、被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量と比較される。結合量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量は、被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量の測定に対し、事前に測定した結合量であっても、同時に測定した結合量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した結合量であることが好ましい。
【0136】
方法論IVの工程(c)では、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質が選択される。結合量の変化は、例えば、結合量の低下または増加であり得るが、結合量の低下が好ましい。このように選択された被験物質は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節に有用であり得る。
【0137】
スクリーニング方法Iaは、(d)(i)選択された被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節、例えば促進または抑制し得ることを確認する工程(確認工程)、または(ii)選択された被験物質が有する作用の種類を同定する工程(同定工程)をさらに含むことができる。確認工程または同定工程は、例えば、正常な動物に対し、あるいは「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患」の動物またはモデル動物に対し、被験物質を投与することで行われ得る。あるいは、これらの工程は、被験物質を細胞に接触させ、接触後の細胞の表現型の変化を評価することで行うこともできる。また、かかる同定工程によれば、選択された被験物質が有する「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用」の種類を決定でき、選択された被験物質が医薬または研究用試薬のいずれか、あるいはその両方として使用可能であるか否かを、および該被験物質が使用可能な医薬または研究用試薬の種類を確認できる。
【0138】
スクリーニング方法Iaはまた、動物への被験物質への投与により行うこともできる。この場合、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量のみならず、CALBINDIN D28Kタンパク質の発現量(例えば、被験物質が投与された動物の所定の組織または細胞におけるCALBINDIN D28Kタンパク質の存在量、細胞膜局在)もまた測定され得る。該動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類が挙げられる。動物を用いて本発明のスクリーニング方法が行われる場合、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を調節する被験物質が選択され得る。
【0139】
スクリーニング方法Iaは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニングを可能とする。従って、スクリーニング方法Iaは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)の予防・治療剤、並びに該疾患の研究用試薬の開発などに有用である。
【0140】
2.1.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得ない被験物質を選択することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法Ib)
本発明は、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価し、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得ない被験物質を選択することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(なかでも、既知標的分子に関連する作用および/またはCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す薬理作用)を調節し得る物質(例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す薬理作用を有する、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物と同様の医薬用途に用いられ得る物質であって、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す副作用を有しないまたは該副作用が低減された物質)のスクリーニング方法を提供する。
【0141】
スクリーニング方法Ibは、上述した方法論I〜IVの工程(c)において変化をもたらさない、あるいは結合能又は調節能を有しない被験物質を選択すること以外は、方法論I〜IVと同様に行われ得る。
【0142】
スクリーニング方法Ibでは、用いられる被験物質は、既知の標的分子の発現または機能を調節し得るもの、あるいは被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(なかでも、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す薬理作用)を有するものであり得る。従って、スクリーニング方法Ibは、被験物質が既知の標的分子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、既知の標的分子に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法と組合せて用いることができる。既知の標的分子に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法は、上述したスクリーニング方法Iaと同様に行われ得る。あるいは、スクリーニング方法Ibは、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(なかでも、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す薬理作用)を調節し得るか否かを評価することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質のスクリーニング方法と組合せて用いることができる。このようなスクリーニング方法は、動物または細胞を用いて、上述したスクリーニング方法Iaの工程(d)と同様に行われ得る。
【0143】
スクリーニング方法Ibは、既知標的分子に関連する作用の調節能および/またはCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が実際に示す薬理作用を有し、且つCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が示す副作用が低減した医薬の開発を可能とする。従って、スクリーニング方法Ibは、既知標的分子に関連する作用の調節能を有する既存医薬の改良などに有用である。
【0144】
2.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法II)
本発明は、被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質に対するCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の結合能を調節し得るか否かを評価することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法を、必要に応じて「スクリーニング方法II」と省略する。
【0145】
一実施形態では、スクリーニング方法IIは、下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物を、CALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
【0146】
上記の工程(a)〜(c)を含む方法論は、「CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質」の代わりに「CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物」を用いること以外は、方法論IVと同様である。
【0147】
スクリーニング方法IIは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質に対するプローブのスクリーニングなどを可能とする。従って、スクリーニング方法IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の予防・治療剤、並びに該疾患の研究用試薬のスクリーニングなどに有用である。
【0148】
2.3.スクリーニング方法により得られる成果物
本発明は、上記スクリーニング方法、例えばスクリーニング方法I、IIにより得られる成果物を提供する。
【0149】
本発明のスクリーニング方法により提供される成果物は、本発明のスクリーニング方法により得られる物質、および該スクリーニング方法により得られる物質を含有する、薬理作用の調節剤であり得る。
【0150】
本発明のスクリーニング方法により提供される成果物は、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の予防・治療に、あるいは該疾患の研究用試薬などとして有用である。
【0151】
3.調節剤
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有する、薬理作用の調節剤を提供する。本発明の調節剤は、調節される薬理作用の観点から、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(例えば、中枢神経作用)の調節剤、およびCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節剤に大別できる。以下、それぞれの調節剤を詳述する。
【0152】
3.1.CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節剤(調節剤I)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現又は機能を調節する物質を含有する、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節剤を提供する。
本調節剤を、必要に応じて「調節剤I」と省略する。
【0153】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現又は機能を調節する物質は、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質であり得る。発現とは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子翻訳産物が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、発現を抑制する物質は、遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及びタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0154】
詳細には、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質としては、転写抑制因子、RNAポリメラーゼ阻害剤、RNA分解酵素、タンパク質合成阻害剤、核内移行阻害剤、タンパク質分解酵素、タンパク質変性剤等が例示されるが、細胞内で発現する他の遺伝子・タンパク質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。
【0155】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質の例は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。
【0156】
アンチセンス核酸の長さは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
【0157】
アンチセンス核酸の標的配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子もしくはその機能的断片の翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、mRNAの全配列であっても部分配列であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0158】
さらに、アンチセンス核酸は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNA形態のCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0159】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質の別の例は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0160】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質のさらに別の例は、デコイ核酸である。デコイ核酸とは、転写調節因子が結合する領域を模倣する核酸分子をいい、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子であり得る。
【0161】
デコイ核酸としては、例えば、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、又はリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチドなど、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
【0162】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質のさらに別の例は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNA、いわゆるsiRNAである。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。siRNAとしては、後述の通り自ら合成したものを使用できるが、市販のものを用いてもよい。
【0163】
アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製できる。デコイ核酸、siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0164】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質の別の例は、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する抗体である。該抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。さらに、該抗体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)もまた、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質として好ましい。
【0165】
例えば、ポリクローナル抗体は、CALBINDIN D28Kタンパク質あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアタンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0166】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0167】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
【0168】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現又は機能を調節する物質はまた、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能を抑制する物質であり得る。
【0169】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能を抑制する物質としては、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、他の遺伝子・タンパク質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能を特異的に抑制する物質としては、CALBINDIN D28Kタンパク質のドミナントネガティブ変異体、該変異体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)が例示される。
【0170】
CALBINDIN D28Kタンパク質のドミナントネガティブ変異体とは、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のCALBINDIN D28Kタンパク質と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。該ドミナントネガティブ変異体は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、EFハンドモチーフの部位、ミリストイル化部位、並びにこれらの部位以外の部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。該変異は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により導入できる。
【0171】
CALBINDIN D28Kタンパク質の機能を調節する物質としてはまた、上記化合物またはその塩が挙げられる。
【0172】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を抑制する物質が、核酸分子である場合、本発明の調節剤は、該核酸分子をコードする発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
【0173】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0174】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子
導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0175】
CALBINDIN D28Kタンパク質の発現又は機能を調節する物質はまた、上述したCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物であり得るが、例えばニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、またはCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するその誘導体(後述)、あるいはそれらの塩であり得る。
【0176】
調節剤Iは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0177】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0178】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0179】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0180】
調節剤Iの投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0181】
調節剤Iは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節、例えば抑制又は促進を可能とする。従って、調節剤Iは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)の予防・治療に、並びに該疾患の研究用試薬などに有用である。
【0182】
3.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節剤(調節剤II)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物を含有するCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節剤を提供する。
本調節剤を、必要に応じて「調節剤II」と省略する。
【0183】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物は、上述の通りであり得るが、例えばニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、またはCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するその誘導体(後述)、あるいはそれらの塩であり得る。
【0184】
調節剤IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に加え、任意の担体、例えば、医薬上許容され得る担体を含むことができる。調節剤IIの投与量は、調節剤Iと同様である。
【0185】
調節剤IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節、例えば抑制又は促進を可能とする。従って、調節剤IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の予防・治療、並びに該疾患の研究用試薬などに有用である。
【0186】
4.誘導体の製造方法、および該方法により得られる成果物
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、薬物誘導体の製造方法、及びその成果物を提供する。本発明の製造方法は、得られる誘導体の作用または機能の種類の観点から、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用(例えば、中枢神経作用)を調節し得る薬物誘導体、およびCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る薬物誘導体の製造方法に大別できる。以下、それぞれの製造方法を詳述する。
【0187】
4.1.CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る薬物誘導体の製造方法(製造方法I)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る薬物誘導体の製造方法を提供する。
本製造方法を、必要に応じて「製造方法I」と省略する。
【0188】
誘導体化とは、リード化合物中の特定の原子または基を、他の原子または基で置換することにより得られる化合物、あるいはリード化合物に対する付加反応により得られる化合物を仮想的に、または実際に合成することを意味する。例えば、リード化合物は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物であり得る。
【0189】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体化は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を保持するように、必要に応じて、得られる誘導体の水溶性/脂溶性、安定性、体内動態、バイオアベイラビリティー、毒性等のその他の性質についても考慮するように行われ得る。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体化は、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を向上し得るように誘導体化され得る。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体化はまた、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得るように誘導体化され得る。
【0190】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を保持するようなCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体化は、例えば、SBDD(Structure-Based Drug Design)、CADD(Computer-Aided Drug Design)に基づいて行われ得る。このような設計の例としては、バーチャルスクリーニング、de novoデザイン、ファーマコフォー分析、QSAR(Quantitative Structure Activity Relationship)などが挙げられる。このような設計の際にタンパク質自体、あるいはタンパク質の標的部位の立体構造の情報が必要とされる場合、NMR、X線結晶解析、放射光解析等の構造解析法により立体構造が判明しているならばその情報が使用され、立体構造が判明していないならばhomology法、Threading法等の構造予測法により得られる情報などが使用される。また、バーチャルスクリーニングでは、自体公知のプログラムを用いることができ、このようなプログラムとしては、例えば、DOCK(Kuntz, I. D. et al., Science, 1992, 257, 1078)、Gold(Jones, G. et al., J. Mol. Biol., 1995, 245, 43)、FlexX(Rarey, M. et al., J. Mol. Biol., 1996, 261, 470)、AutoDock(Morris, G. M. et al., J. Comput. Chem., 1998, 19, 1639)、ICM(Abagyan, R. A. et al., J. Comput. Chem., 1994, 15, 488)などが挙げられる。
【0191】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を保持するようなCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体化はまた、例えば、生物学的検証に基づいて行われ得る。この場合、例えば、上述の方法論I〜IVが用いられ得る。さらに、上述したSBDD、CADD等の方法と生物学的検証とを併用してもよい。
【0192】
誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の原子は、リード化合物中に存在する原子である限り限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、炭素原子などが挙げられる。
【0193】
誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の基は、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中に存在する基である限り限定されず、例えば分子量1〜500、好ましくは分子量1〜300、より好ましくは分子量1〜200、最も好ましくは分子量1〜100の基であり得る。該特定の基としては、例えば、置換されていてもよいC〜C炭化水素基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基あるいは炭素数2〜8のアシル基でモノまたはジ置換されたアミノ基、アミジノ基、カルバモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたカルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたスルファモイル基、カルボキシル基、炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基、ヒドロキシ基、1〜3個のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、1〜3個のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜5のアルケニルオキシ基、炭素数3〜7のシクロアルキルオキシ基、炭素数7〜9のアラルキルオキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、チオール基、1〜3個のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数7〜9のアラルキルチオ基、炭素数6〜14のアリールチオ基、スルホ基、シアノ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基などが挙げられる。
【0194】
置換されていてもよいC〜C炭化水素基は、例えば、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基であり得る。
【0195】
置換されていてもよいC1〜Cアルキル基のC1〜Cアルキル基としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数1〜6であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられる。
【0196】
置換されていてもよいC〜Cアルケニル基のC〜Cアルケニル基としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル等が挙げられる。
【0197】
置換されていてもよいC〜Cアルキニル基のC〜Cアルキニル基としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル等が挙げられる。
【0198】
置換されていてもよいC〜Cアシル基のC〜Cアシル基としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、ホルミル、アセチル、プロピノイル、ブタノイル、2−メチルプロピノイル等が挙げられる。
【0199】
置換されていてもよい芳香族C〜C14炭化水素環基の芳香族C〜C14炭化水素環基としては、単環式、二環式または三環式のいずれでもよく、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0200】
置換されていてもよい非芳香族C〜C14炭化水素環基の非芳香族C〜C14炭化水素環基としては、飽和または不飽和の単環式、二環式または三環式のいずれでもよく、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、シクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、3−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル、3−シクロヘキセン−1−イル)、シクロアルカジエニル基(例えば、2,4−シクロペンタジエン−1−イル、2,4−シクロヘキサジエン−1−イル、2,5−シクロヘキサジエン−1−イル)等が挙げられる。
【0201】
置換されていてもよい芳香族C〜C14複素環基の芳香族C〜C14複素環基としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含有する単環式、二環式または三環式の芳香族複素環基であり、好ましくは炭素数3〜12である。単環式芳香族C〜C14複素環基の例としては、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサジアゾリル、フラザニル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニルなどが挙げられる。また、2環式または3環式の芳香族複素環基の例としては、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ[b]チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリル、キナゾリル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、α−カルボニリル、β−カルボニリル、γ−カルボニリル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、インドリジニル、ピロロ[1,2−b]ピリダジニル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリジル、イミダゾ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−b]ピリダジニル、イミダゾ[1,2−a]ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピリジル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−b]ピリダジニルなどが挙げられる。
【0202】
置換されていてもよい非芳香族C〜C14複素環基の非芳香族C〜C14複素環基としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含有する単環式、二環式または三環式の飽和又は不飽和の複素環基であり、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、オキシラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ピロリジニル、ピペリジノ、モルホリノ、チオモルホリノなどが挙げられる。
【0203】
置換されていてもよい任意の基における置換基の種類は、誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の基(上述)と同様であり得る。
【0204】
誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の原子または基の数は、製造される誘導体が、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を有し得る限り、例えばCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有する限り特に限定されないが、例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらにより好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個であり得る。
【0205】
置換に使用される特定の原子または基(即ち、置換部位に導入される原子または基)の種類は、誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の原子または基と同様であり得る。
【0206】
誘導体の製造のためCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に付加される原子または基(即ち、付加反応に使用される原子または基)は、誘導体の製造のため置換されるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物中の特定の原子または基(上述)のうち、付加反応が可能なもの、例えば、水素原子、ハロゲン原子等の原子、求核試薬または求電子試薬として作用し得る基である。
【0207】
誘導体の製造のためCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に付加される原子または基の数は、製造される誘導体が、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能の調節能を有し得る限り、例えばCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有する限り特に限定されないが、例えば6個未満、好ましくは4個未満、より好ましくは2個未満であり得る。
【0208】
製造方法Iは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)の予防・治療剤、あるいは該疾患の研究用試薬の開発などに有用である。
【0209】
4.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る薬物誘導体の製造方法(製造方法II)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する結合能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る薬物誘導体の製造方法を提供する。
本製造方法を、必要に応じて「製造方法II」と省略する。
【0210】
薬物の誘導体化は、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する結合能を保持するように、必要に応じて、得られる誘導体の水溶性/脂溶性、安定性、体内動態、バイオアベイラビリティー、毒性等のその他の性質についても考慮するように行われ得る。薬物の誘導体化は、例えば、該結合能を向上し得るように行われ得る。
【0211】
該結合能を保持するような薬物の誘導体化は、例えば、SBDD、CADDに基づいて行われ得る。
【0212】
該結合能を保持するような薬物の誘導体化はまた、例えば、生物学的検証に基づいて行われ得る。この場合、例えば、上述の方法論IVと同様に行われ得る。さらに、上述したSBDD、CADD等の方法と生物学的検証とを併用してもよい。
【0213】
誘導体の製造のため置換されるリード化合物中の特定の原子および基、並びにそれらの数は、上述と同様であり得る。置換に使用される特定の原子または基(即ち、置換部位に導入される原子または基)、誘導体の製造のため薬物に付加される原子または基(即ち、付加反応に使用される原子または基)、それらの数についても、上述と同様である。
【0214】
製造方法IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の予防・治療剤、あるいは該疾患の研究用試薬の開発などに有用である。
【0215】
4.3.誘導体の製造方法により得られる成果物
本発明は、上記製造方法I、IIにより得られる成果物を提供する。
【0216】
上記製造方法により提供される成果物は、本発明の製造方法により得られるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の誘導体、および該誘導体を含有する、薬理作用の調節剤(上述)であり得る。
【0217】
上記製造方法により提供される成果物は、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の予防・治療に、あるいは該疾患の研究用試薬などとして有用である。
【0218】
5.複合体、及びその製造方法
本発明は、薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質またはその変異体とを含む複合体を提供する。
【0219】
薬物は上述したCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物であり得、例えば、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するその誘導体などが挙げられる。
【0220】
本発明はまた、薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質またはその変異体とを接触させることを含む、薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質またはその変異体とを含む複合体の製造方法を提供する。該接触は、例えば、溶液中での薬物、タンパク質の混合により行われ得る。
【0221】
本発明の複合体、及び当該複合体の製造方法は、例えば、本発明のスクリーニング方法、本発明の誘導体の製造方法を行う際に、あるいは、複合体の構造解析を行い、薬物とタンパク質との相互作用の様式を精査する場合などに有用であり得る。
【0222】
6.キット
本発明は、薬物またはその塩を含むキットを提供する。
【0223】
一実施形態では、本発明のキットは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)薬物またはその塩;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写調節領域及び該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む発現ベクター。
【0224】
本発明のキットがタンパク質を含む場合、タンパク質は薬物と複合体を形成していない状態にある。
【0225】
発現ベクター、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の転写調節領域及び該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子は、上述と同様である(例えば、「2.スクリーニング方法、及び該方法により得られる成果物」を参照)。
【0226】
本発明の上記キットは、例えば、本発明のスクリーニング方法、本発明の誘導体の製造方法、並びに本発明の複合体の製造方法を行う際などに有用であり得る。
【0227】
7.疾患の発症または発症リスクの判定方法および判定用キット
本発明は、所定の疾患の発症または発症リスクの判定方法・判定用キットを提供する。本発明の判定方法・判定用キットは、測定される対象の観点から、発現量および多型の測定に基づく判定方法・判定用キットに大別でき、さらに、発症または発症リスクの判定が所望される疾患の観点から、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)、ならびにCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症または発症リスクの判定方法・判定用キットに分類できる。以下、それぞれの判定方法・判定用キットを詳述する。
【0228】
7.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、疾患の発症または発症リスクの判定方法および判定用キット
7.1.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症または発症リスクの判定方法(判定方法I)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症または発症リスクの判定方法を提供する。
本判定方法を、必要に応じて「判定方法I」と省略する。
【0229】
一実施形態では、判定方法Iは、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定する工程;
(b)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量に基づきCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症または発症可能性を評価する工程。
上記(a)〜(b)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論V」と省略する。
【0230】
方法論Vの工程(a)では、動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量が測定される。動物は特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒト等の霊長類などの哺乳動物が挙げられる。
【0231】
生体試料は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現組織を含む試料である限り特に限定されない。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現組織は、上述の通りである。
【0232】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の産物、例えば転写産物又は翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。
【0233】
方法論Vの工程(b)では、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量に基づき、動物がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患しているか否かが評価される。詳細には、先ず、測定されたCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量が、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患していない動物(例えば、正常な動物)におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患していない動物におけるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量は、自体公知の方法により決定できる。
【0234】
次いで、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の比較結果より、動物がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患している可能性があるか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断される。特定の疾患を発症した動物では、当該疾患に関連する遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。また、特定の疾患の発症前に、特定の遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。従って、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の解析より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症あるいは発症可能性を判断することが可能である。
【0235】
判定方法Iは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)の有無、あるいは該疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定方法Iは、例えば、該疾患の容易且つ早期の発見などに有用である。
【0236】
7.1.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症または発症リスクの判定用キット(判定用キットI)
本発明は、判定方法Iを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットI」と省略する。
【0237】
一実施形態では、判定用キットIは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定し得る手段;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量との関係を記録した媒体。
【0238】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定し得る手段は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を定量可能である限り特に限定されず、例えばCALBINDIN D28Kタンパク質を定量可能な手段(例えば、抗体、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物)、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子転写産物を定量可能な手段(例えば、核酸プローブ、プライマー対)に大別される。該手段は、標識用物質で標識されていてもよい。また、該手段が標識用物質で標識されていない場合、本発明の判定用キットは、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質は上述の通りである。
【0239】
判定用キットIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)の有無、あるいは該疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定用キットIは、例えば、該疾患の容易且つ早期の発見などに有用である。
【0240】
7.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、疾患の発症リスクの判定方法および判定用キット
7.2.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症リスクの判定方法(判定方法II)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
本判定方法を、必要に応じて「判定方法II」と省略する。
【0241】
一実施形態では、判定方法IIは、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定する工程;
(b)多型のタイプに基づきCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症可能性を評価する工程。
上記(a)〜(b)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論VI」と省略する。
【0242】
方法論VIの工程(a)では、動物から採取された生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプが測定される。動物は上述の通りである。
【0243】
生体試料は、方法論Vで上述したものを使用できるが、本方法論VIによれば、生体試料として毛髪、爪、皮膚、粘膜等のゲノムDNAを含む任意の組織も使用できる。入手の容易性、人体への負担等を考慮すれば、生体試料は、毛髪、爪、皮膚、粘膜、血液、血漿、血清、唾液などが好ましい。
【0244】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型とは、ある母集団において、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を含むゲノムDNAに一定頻度で見出されるヌクレオチド配列の変異を意味し、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を含むゲノムDNAにおける1以上のDNAの置換、欠失、付加(例えば、SNP、ハプロタイプ)、並びに該ゲノムDNAの反復、逆位、転座などであり得る。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型は、例えば、H−Inv DB等の公知のデータベースに登録されている。本判定方法に用いられるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子における全てのタイプの多型のうち、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患した動物と罹患していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異であり、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現の変化、またはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能(例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対するCALBINDIN D28Kタンパク質の結合能)の変化をもたらすものであり得る。このような多型のタイプは、連鎖解析等の自体公知の方法により決定できる。
【0245】
多型のタイプの測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型解析)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、TaqMan PCR法、インベーダー法などが使用できる。
【0246】
方法論VIの工程(b)では、多型のタイプに基づき、動物がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。特定の疾患を発症しやすい動物では、当該疾患に関連する遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。従って、多型の解析より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症可能性を判断することが可能である。
【0247】
判定方法IIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定方法IIは、該疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
【0248】
7.2.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症リスクの判定用キット(判定用キットII)
本発明はまた、判定方法IIを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットII」と省略する。
【0249】
一実施形態では、判定用キットIIは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定し得る手段(例えば、核酸プローブ、プライマー対);
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型との関係を記録した媒体。
【0250】
判定用キットIIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定用キットIIは、該疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
【0251】
7.2.3.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症リスクの判定方法(判定方法III)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
本判定方法を、必要に応じて「判定方法III」と省略する。
【0252】
一実施形態では、判定方法IIIは、下記の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを測定する工程;
(b)多型のタイプに基づきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症可能性を評価する工程。
【0253】
判定方法IIIでは、発症リスクの判定に使用される多型のタイプは、CALBINDIN D28Kタンパク質のCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する結合性を変化させるものである。このような多型のタイプは、バインディングアッセイ等の自体公知の方法により決定できる。
【0254】
判定方法IIIにおける上記(a)、(b)の工程を含む方法論は、測定されるべきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを除き、方法論VIと同様である。
【0255】
判定方法IIIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定方法IIIは、該疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
【0256】
7.2.4.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症リスクの判定用キット(判定用キットIII)
本発明はまた、判定方法IIIを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットIII」と省略する。
【0257】
一実施形態では、判定用キットIIIは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定し得る手段;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型との関係を記録した媒体。
【0258】
判定用キットIIIでは、発症リスクの判定に使用される多型のタイプは、CALBINDIN D28Kタンパク質のCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する結合性を変化させるものである。このような多型のタイプは、バインディングアッセイ等の自体公知の方法により決定できる。
【0259】
判定用キットIIIの構成要素は、測定されるべきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを除き、判定用キットIIと同様である。
【0260】
判定用キットIIIは、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、判定用キットIIIは、該疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
【0261】
8.薬物に対する感受性の判定方法および判定用キット
本発明は、薬物に対する感受性の判定方法・判定用キットを提供する。本発明の判定方法・判定用キットは、発現量の測定、および多型の測定に基づく判定方法・判定用キットに大別でき、さらに、感受性の判定が所望される疾患の観点から、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)、ならびにCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患における判定方法・判定用キットに分類できる。以下、それぞれの判定方法・判定用キットを詳述する。
【0262】
8.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、薬物に対する感受性の判定方法および判定用キット
8.1.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法(判定方法IV)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法を提供する。
【0263】
本判定方法を、必要に応じて「判定方法IV」と省略する。
一実施形態では、判定方法IVは、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定する工程;
(b)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量に基づきCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果を予測する工程。
上記(a)〜(b)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論VII」と省略する。
【0264】
方法論VIIの工程(a)は、方法論Vの工程(a)と同様である。
【0265】
方法論VIIの工程(b)では、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量に基づき、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の動物に及ぼし得る効果が評価される。詳細には、先ず、測定されたCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量が、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量とCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性との相関性に関するデータと照合される。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量とCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性との相関性は、自体公知の方法により決定できる。
【0266】
次いで、照合結果より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性が推定される。CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子を高発現している動物では、薬物に対する感受性が高い(または低い)と考えられ、低発現する動物は、感受性が低い(または高い)と考えられる。従って、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の解析より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性を判断することが可能である。例えば、薬物の効き易さまたは効き難さ、あるいは薬物の副作用が発現する確率を判断することが可能である。
【0267】
判定方法IVは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定を可能とする。従って、判定方法IVは、例えば、特定の動物に対するCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0268】
8.1.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症または発症リスクの判定用キット(判定用キットIV)
本発明は、判定方法IVを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットIV」と省略する。
【0269】
一実施形態では、判定用キットIVは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量を測定し得る手段;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現量との関係を記録した媒体。
【0270】
判定用キットIVの構成要素は、(ii)の媒体以外は、判定用キットIと同様である。
【0271】
判定用キットIVは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の容易な判定を可能とする。従って、判定方法IVは、例えば、特定の動物に対するCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0272】
8.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法および判定用キット
8.2.1.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法(判定方法V)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法を提供する。
本判定方法を、必要に応じて「判定方法V」と省略する。
【0273】
一実施形態では、判定方法Vは、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定する工程;
(b)多型の特定のタイプの有無に基づきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果を予測する工程。
上記(a)〜(b)の工程を含む方法論を、必要に応じて「方法論VIII」と省略する。
【0274】
方法論VIIIの工程(a)は、方法論VIの工程(a)と同様である。
【0275】
方法論VIIIの工程(b)では、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプに基づき、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果が評価される。詳細には、先ず、測定されたCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプが、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプと、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性との相関性に関するデータと照合される。該相関性は、自体公知の方法により決定できる。
【0276】
次いで、照合結果より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性が予想される。薬物に対する感受性が高い動物では、該CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。従って、多型の解析より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性を判断することが可能である。例えば、薬物の効き易さまたは効き難さ、あるいは薬物の副作用が発現する確率を判断することが可能である。
【0277】
判定方法Vは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の容易な判定を可能とする。従って、判定方法Vは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0278】
8.2.2.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患の発症リスクの判定用キット(判定用キットV)
本発明はまた、判定方法Vを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットV」と省略する。
【0279】
一実施形態では、判定用キットVは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定し得る手段;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型との関係を記録した媒体。
【0280】
判定用キットVの構成要素は、(ii)の媒体以外は、判定用キットIIと同様である。
【0281】
判定用キットVは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患(例えば、中枢神経疾患)におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定を可能とする。従って、判定用キットVは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0282】
8.2.3.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法(判定方法VI)
本発明は、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定方法を提供する。
本判定方法を、必要に応じて「判定方法VI」と省略する。
【0283】
一実施形態では、判定方法VIは、下記の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを測定する工程;
(b)多型の特定のタイプの有無に基づきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の効果を予測する工程。
【0284】
本判定方法では、感受性の判定に使用される多型のタイプは、CALBINDIN D28Kタンパク質のCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する結合性を変化させるものである。このような多型のタイプは、バインディングアッセイ等の自体公知の方法により決定できる。薬物に対する結合能が増強または低下するような多型のタイプを含む標的遺伝子を有する動物では、薬物に対する感受性が高い(または低い)と考えられ、該結合能が低下するような多型のタイプを含む標的遺伝子を有する動物は、感受性が低い(または高い)と考えられる。従って、このような多型のタイプの解析より、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性を判断することが可能である。
【0285】
判定方法VIにおける上記(a)、(b)の工程を含む方法論は、測定されるべきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを除き、方法論VIIIと同様である。
【0286】
判定用キットVIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の容易な判定を可能とする。従って、判定用キットVIは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0287】
8.2.4.CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型の測定に基づく、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患の発症リスクの判定用キット(判定用キットVI)
本発明はまた、判定方法VIを容易に行うことを可能とする判定用キットを提供する。
本判定用キットを、必要に応じて「判定用キットVI」と省略する。
【0288】
一実施形態では、判定用キットVIは、以下(i)、(ii)を含む:
(i)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型を測定し得る手段;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する疾患とCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型との関係を記録した媒体。
【0289】
判定用キットVIでは、発症リスクの判定に使用される多型のタイプは、CALBINDIN D28Kタンパク質のCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する結合性を変化させるものである。このような多型のタイプは、バインディングアッセイ等の自体公知の方法により決定できる。
【0290】
判定用キットVIの構成要素は、測定されるべきCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の多型のタイプを除き、判定用キットVと同様である。
【0291】
判定用キットVIは、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に対する感受性の判定を可能とする。従って、判定用キットVIは、例えば、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する疾患におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の作用の評価などに有用である。
【0292】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【実施例】
【0293】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【0294】
[参考例1] ヒト完全長cDNAクローンからのタンパク質発現方法
InvitrogenのGatewayシステムのPCRクローニング法によって、ヒト完全長cDNAクローンをクローニングベクターGatewaypDONR201とBP反応させて、エントリークローンを得た。このエントリークローンを、GatewayシステムのデスティネーションベクターpDEST17とLRクロナーゼにより25℃60分間LR反応させて、発現プラスミドを作製した。この発現プラスミドによって、大腸菌コンピテントセルBL21star(DE3)pLysSを形質転換し、発現ベクターが導入されたクローンを選択してFrozenStockを作製した。形質転換体をLB培地に植菌して前培養後、SB培地中に移して本培養を行い、IPTG発現誘導をかけた菌体を凍結保存した。
【0295】
[参考例2] ヒト完全長cDNAクローンの発現タンパク質精製方法
ヒト完全長cDNAクローンをN末Hisタグ付きのタンパク質として発現させ、BioRobot8000(Qiagen)あるいはACTA Crystal(Amersham)を用いて実施した。BioRobot8000による精製では、参考例1の発現誘導をかけた凍結保存菌体を解凍してリゾチームで溶菌後、Ni-NTA Superflow 96 BioRobot Kit(Qiagen)を用いてアフィニティー精製した。ACTA Crystalによる精製では、HisTrap HPカラムによるアフィニティー精製後に、Gel Filtration Column HiLoad 16/60 または 10/30 Superdex 75 prep gradeカラムによるゲルろ過精製を実施した。精製分画のSDS-PAGEを実施して、推定分子量と純度を検定してから相互作用解析に使用した。
【0296】
[参考例3] サイズ排除クロマトグラフィー法を用いたヒトタンパク質−医薬品相互作用解析方法
汎用医薬品とヒト全長cDNAクローンから発現したタンパク質との相互作用を、タンパク質と化合物の双方とも非修飾・非固定の状態で解析するために、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と質量分析を組み合わせた手法を用いた(図1、2)。具体的な手順は次の通りである。
ステップ1.
単一の医薬品溶液、あるいは、複数の医薬品(8、16、24種など)を混合した多重化化合物溶液を、参考例2で精製したタンパク質に添加した。
ステップ2.
ステップ1で調製した化合物とタンパク質の混合物のSECカラムによるクロマトグラフィーを実施し、化合物とタンパク質とをSECで分離し、タンパク質分画に含まれる結合化合物あるいはタンパク質と相互作用した化合物を質量分析計によって解析した。
精製タンパク質標品は、限外ろ過法による濃縮と緩衝液置換を行い、最終的に10mM ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)Buffer (pH6.5)-300mM NaCl水溶液中で25μM以上の濃度になるまで濃縮した。また、通常は終濃度100μMの mineral ion cocktail(Ca(OAc)2、Zn(OAc)2・2H2O、Cu(OAc)2・H2O、Co(OAc)2・4H2O、Mn(OAc)2・4H2O、Mg(OAc)2・4H2O、FeCl3・6H2O)を添加した。ただし、濃度依存性を調べる実験では、原則として、金属イオンを添加した場合としない場合の2種の条件でSEC−MS実験を行った。タンパク質濃度はBCA Protein Assay(PIERCE)を用いて測定し、SDS-PAGEで算定した純度を考慮した。
医薬品化合物は、1.25mM濃度の単一化合物のDMSO(Dimethyl sulfoxide)溶液あるいは複数(8あるいは16種)の化合物を混合した多重化化合物のDMSO溶液を調製して相互作用解析に用いた。また、再現性を確認する試験あるいは濃度依存性を調べる試験では、各種濃度の単一化合物のDMSO(Dimethyl sulfoxide)溶液を用いた。
質量分析は、ESIプローブを装着したLCQ DECA XP(Thermoelectron)あるいはQ-TOF micro(Micromass)を用いて行った。また、LCポンプはAgilent1100(Yokogawa Analytical Systems)、オートサンプラーはクーリングスタッカーを搭載したHTC-PAL(CTC Analytics)を使用した。
384穴スピンカラムを用いたSEC法では、ユニフィルター100(Whatman)に乾燥容量10μLのBio-Gel P6(BIO-RAD)を充填し、milliQ水で膨潤させたものをSECカラムとして使用した。タンパク質を含まないリファレンス標品および25μM濃度のタンパク質標品13.3μLと、各25μM濃度の医薬品化合物の多重化液(5% DMSO水溶液)0.7μLとを混合し、その9μLをSECスピンカラムに分注した。アセトニトリルを分注した384穴U底プレート上にSECスピンカラムを上乗せして遠心し、タンパク質分画であるSECスピンカラムのろ液を50%アセトニトリル中に回収した。アセトニトリルによって生じたタンパク質沈殿を遠心およびフィルターろ過で除去して、除タンパク質操作を行い、そのろ液を遠心濃縮後に10μLの50%Methanolで再溶解して、質量分析サンプルとした。質量分析計への移動相は、Positive ionモードの場合には0.1%ギ酸/50%methanol溶液、Negative ionモードの場合には0.1%アンモニア/50%methanol溶液を、40μL/minの流速で用いた。オートサンプラーを用いて質量分析サンプル2μLずつを2分間間隔でインジェクションして化合物の質量スペクトル強度を測定し、SECスピンカラムのろ液(SECからのタンパク質溶出分画)に含まれる医薬品化合物のスペクトル強度を得た。タンパク質標品を添加したSECサンプルから得られた質量分析サンプル中の化合物のスペクトル強度が、タンパク質が添加されていないリファレンスのSEC標品の質量分析サンプル中のその化合物のスペクトル強度よりも大きい場合に、相互作用ありと判定した。また、濃度依存性を
調べる試験においては、SECサンプルの化合物濃度あるいは/およびタンパク質濃度を増加させた時に、SECスピンカラムのろ液(SECからのタンパク質溶出分画)に含まれる医薬品化合物のスペクトル強度が増大する場合に、濃度依存性の相互作用と判定した。
【0297】
[実施例1] FLJ30319クローン由来タンパク質とベンゾジアゼピン化合物との相互作用解析
参考例1および参考例2の方法に従ってFLJ30319クローンに由来するタンパク質の発現精製を行い、参考例3の方法に従ってFLJ30319から発現精製したタンパク質と、ベンゾジアゼピン化合物との相互作用を解析した。その結果を表1〜表3に示した。なお、各化合物に関して標準化合物濃度に対するMS強度の検量線を作成することにより、スピンカラムろ液中の各化合物のMS強度を化合物濃度に変換した。以下の表中の値は、MS強度から見積もられた濃度換算値(μM)で表示した。ベンゾジアゼピン化合物とFLJ30319発現タンパク質の両者の用量に依存して、SECスピンカラムのろ液(SECからのタンパク質溶出分画)に含まれる医薬品化合物の濃度換算値が増大しており、濃度依存性の相互作用と判定した。
【0298】
【表1】

【0299】
【表2】

【0300】
【表3】

【0301】
同様に、ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬クロナゼパム、ベンゾジアゼピン系催眠・鎮静薬フルニトラゼパム、ベンゾジアゼピン系抗うつ薬オキサゼパムについても、FLJ30319由来タンパク質との相互作用が認められた。従って、FLJ30319由来タンパク質は、催眠・鎮静薬、抗不安薬、抗てんかん薬、抗うつ薬としての効能が認められているベンゾジアゼピン化合物の標的タンパク質の1つであることが判明した。このことより、FLJ30319由来タンパク質とスクリーニング候補物質とを作用させることで、新規抗不安薬のスクリーニングを行うことができる。すなわち、FLJ30319由来タンパク質と候補物質との相互作用を、例えば実施例1の方法で検出するような系を構築することによって、新規な催眠・鎮静薬、抗不安薬、抗てんかん薬、抗うつ薬のスクリーニングを行うことができる。
【0302】
[実施例2] FLJ30319クローン由来タンパク質とトリフルオロメチルベンゼン構造を有する化合物との相互作用解析
参考例1および参考例2の方法に従ってFLJ30319クローンに由来するタンパク質の発現精製を行い、参考例3の方法に従ってFLJ30319から発現精製したタンパク質と、各種化合物との相互作用を解析した。その結果を表4〜表6に示した。なお、各化合物に関して標準化合物濃度に対するMS強度の検量線を作成することにより、スピンカラムろ液中の各化合物のMS強度を化合物濃度に変換した。以下の表中の値は、MS強度から見積もられた濃度換算値(μM)で表示した。トリフルオロメチルベンゼン構造を有する化合物とFLJ30319発現タンパク質の両者の用量に依存して、SECスピンカラムのろ液(SECからのタンパク質溶出分画)に含まれる医薬品化合物の濃度換算値が増大しており、濃度依存性の相互作用と判定した。
【0303】
【表4】

【0304】
【表5】

【0305】
【表6】



【0306】
従って、FLJ30319由来タンパク質は、抗癌剤(フルタミド)、解熱・鎮痛・抗炎症薬(フルフェナム酸)、統合失調症治療薬(トリフロペラジン)としての効能が認められているトリフルオロメチルベンゼン構造を有する化合物の標的タンパク質の1つでもあることが判明した。
【0307】
[実施例3] FLJ30319クローン由来タンパク質と各種化合物との相互作用解析
参考例1および参考例2の方法に従ってFLJ30319クローンに由来するタンパク質の発現精製を行い、参考例3の方法に従ってFLJ30319から発現精製したタンパク質と、各種化合物との相互作用を解析した。その結果を表7〜表9に示した。なお、各化合物に関して標準化合物濃度に対するMS強度の検量線を作成することにより、スピンカラムろ液中の各化合物のMS強度を化合物濃度に変換した。以下の表中の値は、MS強度から見積もられた濃度換算値(μM)で表示した。各種化合物とFLJ30319発現タンパク質の両者の用量に依存して、SECスピンカラムのろ液(SECからのタンパク質溶出分画)に含まれる医薬品化合物の濃度換算値が増大しており、濃度依存性の相互作用と判定した。
【0308】
【表7】

【0309】
【表8】

【0310】
【表9】

【0311】
従って、FLJ30319由来タンパク質は、これらの各種化合物の標的タンパク質の1つであることが判明した。このことより、FLJ30319由来タンパク質とスクリーニング候補物質とを作用させることで、新規医薬のスクリーニングを行うことができる。すなわち、FLJ30319由来タンパク質と候補物質との相互作用を、例えば実施例1の方法で検出するような系を構築することによって、新規医薬のスクリーニングを行うことができる。
【0312】
[実施例4] FLJ50773クローン由来タンパク質とベトニシンとの相互作用解析
参考例1および参考例2の方法に従ってFLJ50773クローンに由来するタンパク質の発現精製を行い、参考例3の方法に従ってFLJ50773から発現精製したタンパク質と、各種化合物との相互作用を解析した。その結果、ベトニシンとFLJ50773発現タンパク質との相互作用が認められた。
【0313】
古典的な抗けいれん薬として知られるリチウム(Li)、バルプロ酸(VPA)およびカルバマゼピンは、双極性感情障害(以前の躁うつ病)に対する精神安定作用を有する化合物でもある。
構造が異なるこれらの化合物はいずれも、Myo-inositol枯渇を機作として共有することが判明し、現在ではこれが精神安定作用の主たる作用点であると考えられている。すなわち、リチウムイオンなどによって、Inositol monophosphate phosphatase(IMPaseと略す)が阻害されることにより、脳内における細胞内 Myo-inositolが枯渇し、これがGPCRの重要な二次メッセンジャーの1つであるPIP2を減少させて、シナプスの過剰反応を長時間に渡って抑制するというものである。
一方、現在、精神安定剤として臨床で用いられているベンゾジアゼピン類に関しては、これらがGABA受容体に結合して抑制性のGABA作用を増強することがその作用機作と推定されている。
SEC-MS法において、一部のベンゾジアゼピン化合物がFLJ30319(Calbindin D28K)と相互作用することが判明した。これはベンゾジアゼピン類の精神安定化作用の機作に関わる可能性があると考えている。
【0314】
多くのGPCR あるいは チロシンキナーゼ型受容体は、アゴニスト結合によってphosphoinositide-specific phospholipase C (PLC)を活性化し、phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate(PtdIns(4,5)P2)を分解して2つの二次メッセンジャー、すなわち、細胞膜内のdiacylglycerol(DAG)部分と可溶性のinositol 1,4,5-trisphosphate(Ins(1,4,5)P3)部分、を産生する。産生された可溶性のIns(1,4,5)P3は細胞質内を拡散してIns(1,4,5)P3受容体(Ins(1,4,5)P3R)に結合して小胞体からCaイオンを遊離させる。Ins(1,4,5)P3は、さらに、5’-phosphatase あるいはCa2+-sensitive 3’-kinaseによって、inositol 1,4-bisphosphateあるいはinositol 1,3,4,5-tetrakisphosphate(Ins(1,3,4,5)P4)などの各種の誘導体に代謝されるが、最終的に、Inositol monophosphate phosphatase(IMPase)によってmyo-inositolに代謝された後、再び、フォスファチジルイノシトールを生産する原料となる。
【0315】
phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate(PtdIns(4,5)P2)からPLCによって産生された可溶性二次メッセンジャーIns(1,4,5)P3は、最終的にmyo-inositolに代謝された後、再び、フォスファチジルイノシトールを生産する原料となる。myo-inositol生成の最終段階を触媒する酵素がInositol monophosphate phosphatase(IMPase)であり、Liイオンはこの酵素を直接的に阻害することによってホスファチジルイノシトールリン酸の原料であるmyo-inositolを枯渇させるとされているが、LiイオンによるIMPase阻害は脳特異性が低いため、副作用も多い。
【0316】
Calbindin D28Kは、主に中枢神経細胞に発現するCaイオン結合性のタンパク質で、従来はCaイオンbufferとして機能すると考えられてきた。しかし、最近、このCalbindin D28Kは、単なるCaイオンbufferではなく、Caイオン依存性に他のタンパク質の活性を変調させるモジュレーターであることが判明した。例えば、そのモジュレーター機能の1つとして、Calbindin D28KがIMPaseに特異的に結合して、その活性を増強することが、Berggard T. et al(2002)によって報告されている。
【0317】
従って、Calbindin D28Kは、IMPaseに結合してその活性を制御している可能性が示唆されており、SEC-MSスクリーニングはベンゾジアゼピン化合物のいくつかがこのCalbindin D28Kに結合することを新たに見出したことになる。
つまり、SEC-MSの結果は、ベンゾジアゼピン化合物の精神安定作用も、Calbindin D28K結合を介したIMPase の抑制による細胞内myo-inositol枯渇という他の精神安定化剤と同じ機作を共有することを示唆するものである。
また、ベンゾジアゼピン化合物が脳で特異的に発現するCaイオン依存性のIMPaseモジュレーターであるCalbindin D28Kへの結合を介してIMPase活性を減弱させると考えると、ベンゾジアゼピン化合物がLiイオンに比して副作用が低い精神安定剤であることを説明できる。
【図面の簡単な説明】
【0318】
【図1】図1は、スピンカラムを用いたSEC相互作用スクリーニングシステムの概略を示す。
【図2】図2は、スピンカラムを用いたSEC相互作用解析の概略を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)〜(VI)からなる群から選ばれる化合物である、CALBINDIN D28Kタンパク質に対する結合能を有する化合物またはその塩;
式(I):
【化1】


式(II):
【化2】


式(III):
【化3】


式(IV):
【化4】


式(V)
【化5】


式(VI):
【化6】


〔式中、R1は、水素原子;ハロゲン原子;あるいはニトロ基;を示し、
R2は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R3は、水素原子;あるいはヒドロキシ;を示し、
R4は、水素原子;あるいはハロゲン原子;を示し、
R5は、水素原子;あるいはニトロ基;を示し、
R6は、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ;アミノ:チオール;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R7は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキルを有していてもよい炭素数1〜9のアルキルピペラジニルアルキル;を示し、
R8は、水素原子;炭素数1〜7のアルキル;炭素数1〜7のアルキルカルボニル;ハロゲン原子、カルボン酸、シアノ、ヒドロキシ、チオール、およびアミノからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよいフェニル基;を示し、
但し、R6とR8は一緒になって環を形成していてもよい。〕。
【請求項2】
以下の式(I)〜(VI)からなる群から選ばれる化合物またはその医薬として許容される塩を有効成分として含有する、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬の治療または予防薬;
式(I):
【化7】


式(II):
【化8】


式(III):
【化9】


式(IV):
【化10】


式(V)
【化11】


式(VI):
【化12】


〔式中、R1は、水素原子;ハロゲン原子;あるいはニトロ基;を示し、
R2は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R3は、水素原子;あるいはヒドロキシ;を示し、
R4は、水素原子;あるいはハロゲン原子;を示し、
R5は、水素原子;あるいはニトロ基;を示し、
R6は、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ;アミノ:チオール;あるいは炭素数1〜5のアルキル;を示し、
R7は、水素原子;あるいは炭素数1〜5のアルキルを有していてもよい炭素数1〜9のアルキルピペラジニルアルキル;を示し、
R8は、水素原子;炭素数1〜7のアルキル;炭素数1〜7のアルキルカルボニル;ハロゲン原子、カルボン酸、シアノ、ヒドロキシ、チオール、およびアミノからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよいフェニル基;を示し、
但し、R6とR8は一緒になって環を形成していてもよい。〕。
【請求項3】
被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、薬物のスクリーニング方法。
【請求項4】
薬物が、不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に関わる作用あるいは活性の調節薬である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
薬物がCALBINDIN D28Kタンパク質に関連する作用を調節し得る物質である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
薬物がCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用を調節し得る物質である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程(a)〜(c)を含む、請求項5または6に記載の方法:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下における該タンパク質の機能レベルを測定し、該機能レベルを被験物質の非存在下における該タンパク質の機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該タンパク質の機能レベルの変化をもたらす被験物質を選択する工程。
【請求項8】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、請求項5または6に記載の方法:
(a)被験物質とCALBINDIN D28Kタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞における該タンパク質または該遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における該タンパク質または該遺伝子の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該タンパク質または該遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
【請求項9】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、請求項5または6に記載の方法:
(a)被験物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の該タンパク質に対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、該タンパク質に対する結合能を有する被験物質を選択する工程。
【請求項10】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、請求項5または6に記載の方法:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
【請求項11】
CALBINDIN D28Kタンパク質結合性物質が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、またはそれらの誘導体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
被験物質がCALBINDIN D28Kタンパク質に対するCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の結合能を調節し得るか否かを評価することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kに結合能を有するそれらの誘導体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
以下の工程(a)〜(c)を含む、請求項12に記載の方法:
(a)被験物質、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物をCALBINDIN D28Kタンパク質に接触させる工程;
(b)被験物質の存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量を測定し、該結合量を被験物質の非存在下におけるCALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物の該タンパク質に対する結合量の変化をもたらす被験物質を選択する工程。
【請求項15】
請求項3〜14のいずれかに記載の方法により得られる物質。
【請求項16】
請求項3〜14のいずれかに記載の方法により得られる物質を含有する、薬理作用の調節剤。
【請求項17】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有する、薬理作用の調節剤。
【請求項18】
薬理作用が不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に対する治療的作用または予防的作用である、請求項17に記載の剤。
【請求項19】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物に関連する作用の調節剤である、請求項17に記載の剤。
【請求項20】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を調節する物質が、以下(i)、(ii)のいずれかであるCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現または機能を抑制する物質である、請求項17に記載の剤:
(i)CALBINDIN D28Kアンチセンス核酸、CALBINDIN D28Kリボザイム、CALBINDIN D28Kデコイ核酸、CALBINDIN D28KsiRNA、CALBINDIN D28K抗体をコードする核酸、CALBINDIN D28Kドミナントネガティブ変異タンパク質をコードする核酸からなる群より選ばれる核酸、または当該核酸を含む発現ベクター;あるいは
(ii)CALBINDIN D28K抗体、CALBINDIN D28Kドミナントネガティブ変異タンパク質からなる群より選ばれるタンパク質。
【請求項21】
CALBINDIN D28Kタンパク質、又はCALBINDIN D28Kタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを含有する、薬理作用の調節剤。
【請求項22】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物を含有する、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能の調節剤。
【請求項23】
CALBINDIN D28Kタンパク質標的薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kに結合能を有するそれらの誘導体である、請求項22に記載の剤。
【請求項24】
CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の機能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、薬物誘導体の製造方法。
【請求項25】
薬物が不安症、睡眠障害、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー症、脳梗塞、けいれん、パーキンソン病、ハンチントン病、アルコール依存症、偏頭痛、疼痛、過敏性腸症候群、消化器潰瘍、がん、骨粗しょう症、不整脈、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)あるいは乾癬に対する治療的作用あるいは予防的作用を有するベンゾジアゼピン系薬物である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン又はベトニシンである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
CALBINDIN D28Kタンパク質に対する結合能を調節し得るように薬物を誘導体化することを含む、CALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子に関連する機能を調節し得る物質の誘導体の製造方法。
【請求項28】
薬物が、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、フルタミド、フルフェナム酸、トリフロペラジン、ベンゼトニウム、スロクチジル、ファモチジン、ベトニシン、あるいはCALBINDIN D28Kタンパク質に結合能を有するそれらの誘導体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれかに記載の方法により得られる物質。
【請求項30】
請求項24〜28のいずれかに記載の方法により得られる物質を含有する、薬理作用の調節剤。
【請求項31】
薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを含む複合体。
【請求項32】
薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを接触させることを含む、薬物とCALBINDIN D28Kタンパク質とを含む複合体の製造方法。
【請求項33】
以下(i)、(ii)を含む、キット:
(i)薬物またはその塩;
(ii)CALBINDIN D28Kタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクターまたはCALBINDIN D28Kタンパク質遺伝子の発現を測定可能な細胞。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174495(P2008−174495A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9832(P2007−9832)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)タンパク質−汎用低分子医薬品相互作用の重点的解析による創薬研究のための基盤技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501260082)株式会社リバース・プロテオミクス研究所 (15)
【Fターム(参考)】