説明

化合物半導体の製造方法

【課題】化合物半導体素子全体を加熱することなくサポート基板を接合することを可能とし、また接合時間を短縮化し、化合物半導体素子の製造時間全体の短縮化を図ること。
【解決手段】サポート基板106を光透過性の部材で形成し、サポート基板106を介して、例えばフラッシュランプ2から、サポート基板106は透過するがはんだ層111、105には吸収される波長のパルス光(閃光)を照射する。これにより、化合物半導体層102,103,104とサポート基板106の間に設けられた接合剤層111,105のみを瞬間的に加熱して融解させ、サポート基板106が接合される。なお、サポート基板106に金属層を設け、この金属層を加熱させてはんだ層を融解させてもよい。また、サポート基板としてシリコン基板を用い、フラッシュランプの代わりに、YAGレーザやCOレーザを用いて、赤外レーザ光を照射してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)等の発光デバイス、またはフォトダイオード等の受光デバイスに使用される窒化物半導体などの化合物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に化合物半導体素子は、基板上に気相成長法を用いて化合物半導体を積層成長する事によって得られる。化合物半導体素子の製造方法の概略を、図14を用いて説明する。なおここでは、窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体により形成される半導体発光素子(LED)を例にして説明する。
(1)図14(a)に示すように、サファイア基板101上に、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いて窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体よりなる窒化ガリウム(GaN)層102を形成する。
(2)図14(b)に示すように、GaN層102の表面に、発光層であるn型半導体層103とp型半導体層104とを積層する。例えば、n型半導体としてはシリコンがドープされたGaNを用い、p型半導体としてはマグネシウムがドープされたGaNを用いる。なお、以下では、GaN層102、n型半導体層103、p型半導体層104のことを合せて半導体層と呼ぶことがある。
(3)図14(c)に示すように、p型半導体層104上に、発光する光を反射するミラー層110を銀などにより形成し、さらにその上に導電性物質により電極109を形成する。そして、電極109上に、スパッタなどにより、導電性の接合剤層であるはんだ層105を形成する。なお、化合物半導体素子の中には、ミラー層110やはんだ層105を電極として利用し、あらためて電極109を形成しないものもある。
【0003】
(4)図14(d)に示すように、はんだ層105上にサポート基板106を取付ける。サポート基板106は例えば銅とタングステンの合金からなる。そして、加熱炉により化合物半導体素子全体(サファイア基板101、GaN層102、n型半導体層103、p型半導体層104、ミラー層110、電極109、はんだ層105、サポート基板106)を、およそ5分から10分間加熱することによりはんだを融解し、サポート基板106と電極109を接合する。
(5)図14(e)に示すように、サファイア基板101の裏面側から、サファイア基板101とGaN層102との界面に向けてGaN層102に吸収される波長のレーザ光107(例えば波長248nmのKrFエキシマレーザ)を照射し、GaN層102を分解する。これにより、サファイア基板101をGaN層102から剥離する。なお、GaNの融解温度は約800°Cである。
(6)図14(f)に示すように、サファイア基板101から剥離後のGaN層102の表面に透明電極であるITO108を蒸着により形成する。
【0004】
このようなLEDの製造工程については、例えば特許文献1や、特許文献2に記載がある。
上記したように、サポート基板106は、例えば銅とタングステンの合金であり導電性である。そこで、このサポート基板106とはんだ層105を介して電極109と、透明電極ITO108との間に電流を流すことにより、半導体層103、104から光が放射する。光は図14(f)の下側方向に出射する。ミラー層110は、上側に向かう光を下側方向に反射する役割をはたす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6071795号明細書
【特許文献2】特表2007−534164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記図14(d)に示したように、サポート基板106は、はんだ105により、電極105やミラー層110を介して半導体層102,103,104と接合される(以下、これをサポート基板と半導体層との接合と呼ぶことがある)。この時、はんだ105を溶かすために、化合物半導体素子全体が加熱炉により加熱される。
加熱炉において、化合物半導体素子全体は、はんだが溶ける温度にまで加熱される。しかし、800°C以上になると、化合物半導体素子を構成する窒化ガリウム(GaN)が融解する。そこで、はんだは、GaNの融解温度以下の温度で融ける、例えば約250°C〜400°Cで融解するものが選択される。
しかし、化合物半導体素子(即ちLED素子)全体をこのような比較的高い温度にさらすと、化合物半導体素子が予期せぬ熱ダメージを受ける可能性がある。化合物半導体素子の受けた熱ダメージはLED素子の製品不良の原因となることがある。
また、上記したように、加熱炉による加熱とその後の冷却に必要な時間は、およそ5分間から10分間であり、化合物半導体素子の製造時間を短くするために、短縮化が望まれている。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するものであって、化合物半導体素子全体を加熱することなくサポート基板を取り付けることが可能であり、化合物半導体素子が熱ダメージを受ける心配がなく、また、サポート基板と半導体層との接合時間を短縮化し、化合物半導体素子の製造時間全体の短縮化を図ることができる化合物半導体素子の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、次のように前記課題を解決する。
(1)第1の基板上に化合物半導体層を形成し、該化合物半導体層に第2の基板(サポート基板)を接合する化合物半導体素子の製造方法において、第2の基板(サポート基板)を光透過性の部材で形成し、該サポート基板を介して、サポート基板は透過するが接合剤層には吸収される波長のパルス光(閃光)を照射し、上記化合物半導体層とサポート基板にの間に設けられた接合剤層のみを瞬間的に加熱して融解させ、サポート基板と化合物半導体層とを接合する。
具体的には、上記第2の基板(サポート基板)上に接合剤層あるいは金属層を設け、また、上記第1の基板上に形成された化合物半導体層上に接合剤層または金属層を設ける。
そして、接合剤層または金属層を設けた化合物半導体層上に、接合剤を介在させて第2の基板(サポート基板)を重ね合わせ、上記光透過性基板である第2の基板(サポート基板)を介して、上記接合剤層に閃光を照射して該接合剤層を加熱し、上記接合剤層を融解する。なお、サポート基板の接合剤層側の表面に金属層を形成した場合は、この金属層にパルス光(閃光)が吸収されて加熱し、その熱により接合剤層が融解する。
(2)上記(1)において、上記光透過性の部材をガラスとし、キセノンフラッシュランプからの閃光を照射する。
(3)上記(1)において、上記光透過性の部材をシリコンとし、YAGレーザまたはCOレーザからの閃光を照射する。
(4)上記(2)(3)において、上記化合物半導体層を窒化ガリウムから構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)閃光照射により、接合剤層を瞬間的に加熱して融解し、サポート基板と化合物半導体層とを接合しており、化合物半導体素子全体を加熱しないので、化合物半導体素子が熱ダメージを受けるのを防ぐことができる。
(2)閃光照射により、接合剤層は瞬間的に加熱され、サポート基板と半導体層とは1秒以下で接合が可能になる。したがって、サポート基板の接合のため時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例を示す図(1)である。
【図2】本発明の第1の実施例を示す図(2)である。
【図3】本発明の第1の実施例を示す図(3)である。
【図4】第1の実施例において、閃光照射の条件を求めるための実験例(計算例)を説明するための図である。
【図5】第1の実施例において、3種類の閃光照射を行った場合のサンプルの各構成部分の温度を示す図である。
【図6】キセノンフラッシュランプの分光分布を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施例を示す図(1)である。
【図8】本発明の第2の実施例を示す図(2)である。
【図9】銅の光の波長に対する反射率を示すグラフである。
【図10】第2の実施例において、閃光照射の条件を求めるための実験例(計算例)を説明するための図である。
【図11】第2の実施例において、4種類の閃光照射を行った場合のサンプルの各構成部分の温度を示す図である。
【図12】サポート基板と半導体層を接合させるための組み合わせ例を説明する図(1)である。
【図13】サポート基板と半導体層を接合させるための組み合わせ例を説明する図(2)である。
【図14】従来の化合物半導体素子の製造方法の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明における化合物半導体素子の製造方法について説明する。
1.第1の実施例
本実施例は、閃光照射により接合剤を直接加熱して、サポート基板を接合させることにより化合物半導体素子を製造するものであり、図1、図2、図3に本実施例の化合物半導体素子の製造方法の概略を示す。
なお、本実施例では、窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体により形成される半導体発光素子(LED)を例にして説明する。
(1)まず、図1(a)に示すように、サファイア基板101上に、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いて窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体よりなる窒化ガリウム(GaN)層102を形成する。
(2)図1(b)に示すように、GaN層102の表面に、発光層であるn型半導体層103とp型半導体層104とを積層する。例えば、n型半導体としてはシリコンがドープされたGaNを用い、p型半導体としてはマグネシウムがドープされたGaNを用いる。
【0012】
(3)図1(c)に示すように、p型半導体層104上に、半導体層から発光する光を反射するミラー層110を銀などにより形成し、さらにその上に導電性物質により電極109を形成する。なお、化合物半導体素子の中には、ミラー層110やはんだ層105を電極として利用し、あらためて電極109を形成しないものもある。
(4)図1(d)に示すように、電極109上に、スパッタなどにより、導電性の接合剤層である第1のはんだ層105を形成する。ここで、前述したように窒化ガリウム(GaN)層102、n型半導体層103、p型半導体層104を合わせて半導体層(化合物半導体層)10と呼ぶ。なお、ここまでは、図14に示した従来例と同じである。
【0013】
(5)次いで、図2(e)に示すように、サポート基板106として光透過性の基板、例えばガラス基板を準備する。この光透過性のサポート基板の表面に、スパッタなどにより1μm程度の第2のはんだ層(第2の接合剤層)111を形成する。なお、サポート基板106には配線を通すための孔112が、あらかじめ形成されている。
(6)図2(f)に示すように、第1のはんだ層105上に、第2のはんだ層111を形成したサポート基板106を、第2のはんだ層111が第1のはんだ層105と向かい合うようにして置く。
そして、サポート基板106側から、キセノンフラッシュランプ2を備える閃光光照射装置1からの閃光を照射する。閃光光照射装置1からの光は、ガラスであるサポート基板106を通過し、第2のはんだ層111に照射され吸収される。
【0014】
図6は、キセノンフラッシュランプの分光分布を示す図である。同図において横軸は波長(nm)、縦軸は放射する光の相対強度である。同図に示すように、キセノンフラッシュランプは、波長約220nm〜800nm以上の光を放射する。また、点灯電源の設計により、閃光照射のパルス幅は、およそ0.1μs〜1ms範囲で設定が可能である。
サポート基板106はガラスであるので、ランプからの波長300nm〜800nmの領域の光はほとんど透過し、第2のはんだ層111に照射され、吸収される。
光を吸収した第2のはんだ層111は温度が上昇し融解する。融解した第2のはんだ層111は、第1のはんだ層105と溶け合って一体となる。これによりサポート基板106が半導体層と接合する。以下、一体となったはんだ層105,111を合わせてはんだ層111という。
【0015】
(7)次に、図3(g)に示すように、サファイア基板101の裏面側から、サファイア基板101とGaN層102との界面に向けてGaN層102に吸収される波長のレーザ光107(例えば波長248nmのKrFエキシマレーザ)を照射し、GaN層102を分解する。これにより、サファイア基板101をGaN層102から剥離する。
(8)サファイア基板101から剥離後のGaN層102の表面に、図3(h)に示すように透明電極であるITO108を蒸着により形成する。
サポート基板106の配線通過孔112に配線Lを通し、この配線Lをはんだ層111を介して電極109と接続する。また、透明電極ITO108にも配線Lを接続する。これらの配線を介して電極109と透明電極ITO108との間に電流を流すことにより、半導体層103、104から光が放射する。
【0016】
図4、図5は、サポート基板を取り付けるための、閃光照射の条件を求めるための実験例(計算例)を説明するための図である。
図4は、計算に使用したサンプルの構造を示す図である。
同図に示すように、サファイア基板101として厚さ400μmのサファイア(熱伝導率:42W/m・K(常温)、融点:2050°C)、半導体層10(102,103,104)として厚さ5μmの窒化ガリウム(GaN)(熱伝導率:130W/m・K(常温)、融点:2500°C)、ミラー層110として厚さ1μmの銀(熱伝導率:407W/m・K(300°C)、融点:961°C)、はんだ層105として5μmのスズ(熱伝導率:32W/m・K(300°C)、融点:232°C)、サポート基板106として厚さ100μmの石英(熱伝導率:〜16W/m・K(200°C:1.55、300°C:1.67)、軟化点:1600°C)、サポート基板106に形成する第2のはんだ層として厚さ1μmのスズ(熱伝導率:32W/m・K(300°C)、融点:232°C)を仮定した。なお、本サンプル構造においては、電極109は設けていない。
【0017】
このサンプルを用いて、前記図2(f)に示したようにサポート基板106側から、キセノンフラッシュランプ2の閃光を照射した場合に、第2のはんだ層111を構成する厚さ1μmのスズが、全域にわたって融点である約230°C以上になる、即ち、半導体層側に形成した第1のはんだ層105と界面で溶け合って接合するように加熱できるキセノンフラッシュランプの閃光照射の条件を計算した。また、それとともに、その時の半導体層102,103,104の温度も求めた。
【0018】
図5は、3種類の閃光照射を行った場合の、サンプルの各構成部分の温度を示す図である。同図(a)の横軸はサポート基板106(ミラー層110が形成されている面とは反対側)の表面からの距離(μm)であり、縦軸は閃光照射時の温度(°C)である。
なお、同図(a)中で横軸方向に示される、A,B,C,D,Eは、それぞれサポート基板106、第2のはんだ層111、はんだ層105、ミラー層110、半導体層10(半導体層102,103,104)、サファイア基板101を示す。
3種類の閃光照射の条件は、同図(b)に示すように次の通りである。
<条件1>:パルス半値幅2μs、パルスエネルギー1.1J/cm
<条件2>:パルス半値幅5μs、パルスエネルギー1.85J/cm
<条件3>:パルス半値幅10μs、パルスエネルギー2.7J/cm
【0019】
いずれの条件で照射した場合であっても、第2のはんだ層111と第1のはんだ層105の界面の温度は約250°Cになり、第2のはんだ層111と第1のはんだ層105は溶け合う。これにより、サポート基板106は半導体層10と接合する。
一方、この時の半導体層10(半導体層102,103,104)は、条件1の場合約80°C〜約70°C、条件2の場合約120°C〜約100°C、条件3の場合約150°C〜約140°Cとなり、従来のように基板全体を加熱炉で加熱する場合に比べて低い温度に維持される。したがって、半導体層10の熱ダメージを防ぐことができる。
ただし、閃光照射において、パルス半値幅が短い方が、半導体層10の温度が低くなる傾向があるので、パルス半値幅はできるだけ短い方が良い。
【0020】
以上説明したように、サポート基板を光透過性基板とし、サポート基板側から、サポート基板は透過するが接合剤であるはんだ層には吸収される波長の光を閃光照射することにより、はんだ層は融解する230°C以上に上昇するが、化合物半導体層10(p型半導体層104、n型半導体層103、GaN層102)の温度は従来に比べて高温にならない。したがって、化合物半導体素子が熱ダメージを受けるのを防ぐことができる。
さらに、接合剤層を加熱して融解する閃光照射のパルス半値幅は、2μ秒〜10μ秒であり、即ち1秒以下の照射時間でサポート基板と半導体層との接合を行うことができる。したがって、従来5分から10分かかっていたサポート基板と半導体層との接合時間を、大幅に短縮することができる。
なお、本実施例においては、接合剤層であるはんだ層を、半導体層上とサポート基板上の両方に形成したが、いずれか一方の層に金属層が形成されている場合には、他方のいずれか一方にはんだ層を形成するようにしても良い。
【0021】
2.第2の実施例
第2の実施例は、閃光照射により金属膜を加熱し、加熱した金属膜により接合剤を加熱する例である。図1、図7、図8に、本実施例の化合物半導体素子の製造方法の概略を示す。
(1)図1(a)〜(d)間での工程は第1の実施例と同じであり、ここでの説明は省略する。
(2)図7(e)に示すように、サポート基板106として光透過性の基板、例えばガラス基板を準備する。この光透過性のサポート基板の表面に1μm程度の厚さの金属層(例えば銅層)113を、蒸着などにより形成する。なお、サポート基板106には配線を通すための孔112が、あらかじめ形成されている。
(2)図7(f)に示すように、はんだ層105を形成した電極109上に、銅層113を形成したサポート基板106を、銅層113がはんだ層105と向かい合うようにして置く。そして、サポート基板106側から、キセノンフラッシュランプ2を備える閃光光照射装置1からの閃光を照射する。閃光光照射装置1からの光は、ガラスであるサポート基板106を通過し、銅層113に照射される。
図6に示したように、キセノンフラッシュランプは、波長約220nm〜800nm以上の光を放射する。サポート基板106はガラスであるので、ランプからの波長300nm〜500nmの領域の光をほとんど透過する。しかし、金属層113である銅はこの波長領域の光を約50%〜70%吸収する。
【0022】
図9は、銅の光の波長に対する反射率を示すグラフであり、横軸が波長、縦軸が反射率である。同図に示すように、波長300nm〜500nmの光の銅の反射率は、約25%〜30%であり、したがってランプ2からの光の70%〜75%が吸収される。
光を吸収した銅層113は温度が上昇する。これにより銅層113に接触しているはんだ層105も温度が上昇し融解する。これによりサポート基板106が、半導体層103,104上に形成した電極109に接合される。
(3)図8(g)に示すように、サファイア基板101の裏面側から、サファイア基板101とGaN層102との界面に向けてGaN層102に吸収される波長のレーザ光107(例えば波長248nmのKrFエキシマレーザ)を照射し、GaN層102を分解する。これにより、サファイア基板101をGaN層102から剥離する。
(4)図8(h)に示すように、サファイア基板101から剥離後のGaN層102の表面に透明電極であるITO108を蒸着により形成する。
そして、サポート基板106の配線通過孔112に配線Lを通し、この配線Lを電極109と接続する。また、透明電極ITO108にも配線Lを接続する。これらの配線Lを介して電極109と透明電極ITO108との間に電流を流すことにより、半導体層103、104から光が放射する。
【0023】
図10、図11は、サポート基板を取り付けるための、閃光照射の条件を求めるための実験例(計算例)を説明するための図である。
図10は、計算に使用したサンプルの構造を示す図である。
同図に示すように、サファイア基板101として厚さ400μmのサファイア(熱伝導率:42W/m・K(常温)、融点:2050°C)、半導体層10(102,103,104)として厚さ5μmの窒化ガリウム(GaN)(熱伝導率:130W/m・K(常温)、融点:2500°C)、ミラー層110として厚さ1μmの銀(熱伝導率:407W/m・K(300°C)、融点:961°C)、はんだ層105として6μmのスズ(熱伝導率:32W/m・K(300°C)、融点:232°C)、サポート基板106として厚さ100μmの石英(熱伝導率:〜16W/m・K(200°C:1.55、300°C:1.67)、軟化点:1600°C)、サポート基板106に形成する金属層113として厚さ1μmの銅(熱伝導率:381W/m・K(300°C)、融点1083°C)を仮定した。なお、本サンプル構造においては、電極109は設けていない。
【0024】
このサンプルを用いて、はんだ層105を構成する厚さ6μmのスズが、全域にわたって融点である232°C以上になるように加熱できる、キセノンフラッシュランプの閃光照射の条件を計算した。また、それとともに、その時の半導体層102,103,104の温度も求めた。
図11は、4種類の閃光照射を行った場合の、サンプルの各構成部分の温度を示す図である。同図(a)の横軸はサポート基板106(金属層113が形成されている面とは反対側)の表面からの距離(μm)であり、縦軸は閃光照射時の温度(°C)である。なお、同図(a)中で横軸方向に示される、A,B,C,D,Eは、それぞれサポート基板106、金属層(銅層)113、はんだ層105、ミラー層110、半導体層10(半導体層102,103,104)、サファイア基板101を示す。
4種類の閃光照射の条件は同図(b)に示すように次の通りである。
<条件1>パルス半値幅0.5μs、パルスエネルギー3.8J/cm
<条件2>パルス半値幅2μs、パルスエネルギー3.9J/cm
<条件3>パルス半値幅5μs、パルスエネルギー4.5J/cm
<条件4>パルス半値幅10μs、パルスエネルギー5.3J/cm
【0025】
条件1で照射した場合、金属層(銅層)113は約450°Cになり、厚さ6μmのはんだ層(スズ)105は、金属層113から一番遠いミラー層(銀)110の境界付近で、約234°Cになる。したがって、はんだ層(スズ)105は全域にわたって融点(232°C)以上となり、サポート基板106は、はんだ105により半導体層10と接合する。
一方、この時の半導体層10(104,103,102)は、約230°Cから約170°Cの範囲であり、従来のように基板全体を加熱炉で加熱する場合に比べて低い温度に維持される。したがって、半導体層の熱ダメージを防ぐことができる。
条件2で照射した場合、金属層(銅)113は約420°Cになり、はんだ層(スズ)105はミラー層(銀)110の境界付近で、約233°Cである。条件1と同様に、はんだ層(スズ)105は全域にわたって融点(232°C)以上となり、サポート基板106を半導体層10と接合させることができる。
また、この時の半導体層10(104,103,102)の温度も、約230°Cから約180°Cの範囲であり、半導体層の熱ダメージを防ぐことができる。
【0026】
条件3で照射した場合、金属層(銅)113は約380°Cになり、はんだ層(スズ)105はミラー層(銀)110の境界付近で、約238°Cである。条件1と同様に、はんだ層(スズ)105は全域にわたって融点(232°C)以上となり、サポート基板106を半導体層10と接合させることができる。
また、この時の半導体層10(104,103,102)の温度も、約230°Cから約200°Cの範囲であり、半導体層の熱ダメージを防ぐことができる。
条件4で照射した場合、金属層(銅)113は約330°Cになり、はんだ層(スズ)105はミラー層(銀)110の境界付近で、約237°Cである。条件1と同様に、はんだ層(スズ)105は全域にわたって融点(232°C)以上となり、サポート基板106を半導体層10と接合させることができる。
また、この時の半導体層10(104,103,102)の温度も、約230°Cから約220°Cの範囲であり、半導体層10の熱ダメージを防ぐことができる。
しかし、閃光照射において、パルス半値幅が短い方が、半導体層の温度が低くなる傾向があるので、パルス半値幅はできるだけ短い方が良い。
なお、サポート基板に形成する金属層やはんだ層の厚さや種類により、閃光光の照射条件は変わるが、それに対しては、実験や計算により適宜最適な照射条件を求めればよい。
【0027】
本実施例においては、サポート基板に金属層を形成し、接合剤層を、金属(銅)層を介して加熱したが、この方法は、接合剤が光を吸収しにくい(光の反射率が高い)ものである場合に有効である。接合剤が光を吸収しにくい、即ち加熱されにくい場合であっても、サポート基板に、光を吸収して加熱しやすい材料で構成した金属層を形成することにより、接合剤層を効率よく高温に加熱し融解することができる。
以上説明したように、サポート基板を光透過性基板とし、この光透過性基板に金属層を形成し、金属層を電極上に形成したはんだ層に向けておき、サポート基板側から、サポート基板は透過するが金属層には吸収される波長の光を閃光照射することにより、はんだ層は融解する230°C以上に上昇するが、化合物半導体層10(p型半導体層104、n型半導体層103、GaN層102)の温度は従来に比べて高温にならない。したがって、化合物半導体素子が熱ダメージを受けるのを防ぐことができる。
さらに、接合剤層を加熱して融解する閃光照射のパルス半値幅は、0.5μ秒〜10μ秒であり、即ち1秒以下の照射時間でサポート基板と半導体層との接合を行うことができる。したがって、従来5分から10分かかっていたサポート基板と半導体層との接合時間を、大幅に短縮することができる。
なお、本実施例においては、サポート基板側に接合剤層であるはんだ層を形成しなかったが、第1の実施例と同様に、サポート基板に形成した金属層の上にさらにはんだ層を形成しても良い。
【0028】
3.サポート基板と半導体層の接合の組み合わせの例
以上の説明では、サポート基板と半導体層上にはんだ層を形成する場合、サポート基板上に銅層等の金属層を形成し半導体層上にはんだ層を形成する場合について説明したが、これらを含めて組み合わせ例を示すと、図12、図13に示すようになる。なお、図12(b)は接合できない例であり、その他の例は、サポート基板と半導体層を接合することができる場合を示している。
図12(a)は、サポート基板106側に接合剤層であるはんだ層111を形成し、半導体層側に金属層(電極または電極と兼用されるミラー層、この場合は電極109)が形成されている場合を示す。このような構成の場合、前記したように、サポート基板側から光を閃光照射することにより、はんだ層111を溶融させ、はんだ層111と電極109とを接合させることができる。
図12(b)は、サポート基板106側にはんだ層が形成されておらず、半導体層側のみにはんだ層105が形成されている場合を示す。このような構成の場合、前記したように、サポート基板106側から光を閃光照射しても、サポート基板106にはんだ層が設けられていないため、サポート基板106を接合することはできない。
【0029】
図12(c)は、サポート基板106側にはんだ層111を形成し、半導体層側にもはんだ層105が形成されている場合を示す(第1の実施例と同じ)。このような構成の場合、前記したように、サポート基板側から光を閃光照射することにより、前記したようにはんだ層111、105を溶融させ、はんだ層111とはんだ層105とを接合させることができる。
図13(a)は、サポート基板106側に金属層113とはんだ層111を形成し、半導体層側に金属層(電極または電極と兼用されるミラー層、この場合は電極109)が形成されている場合を示す。このような構成の場合、前記したように、サポート基板側から光を閃光照射することにより、前記第2の実施例で説明したように、金属層113が光を吸収して温度が上昇し、これにより金属層113に接触しているはんだ層111を融解させ、これによりサポート基板106が、半導体層103,104上に形成した電極109に接合される。
【0030】
図13(b)は、サポート基板106側に金属層113を形成し、半導体層側にはんだ層105が形成されている場合を示す(第2の実施例と同じ)。この構成の場合、サポート基板側から光を閃光照射することにより、前述したように金属層113が光を吸収して温度が上昇し、これによりはんだ層105を融解させ、これによりサポート基板106が、半導体層103,104上に形成した電極109に接合される。
図13(c)は、サポート基板106側に金属層113とはんだ層111を形成し、半導体層側にはんだ層105が形成されている場合を示す。この構成の場合も、サポート基板側から光を閃光照射することにより、金属層113が光を吸収して温度が上昇し、これによりはんだ層111、はんだ層105を融解させ、サポート基板106が、半導体層103,104上に形成した電極109に接合される。
【0031】
4.その他の実施例
なお、以上の説明では、キセノンフラッシュランプを用いる場合について説明したが、サポート基板をシリコン基板とし、赤外レーザ光を照射することにより接合剤を融解するようにしても良い。シリコン基板は赤外領域の光を透過する。閃光照射を行う光源としては、YAGレーザ(波長1.06μm)や、COレーザ(波長10.6μm)を使用する。このような組み合わせにより、半導体層の温度上昇を防ぎつつはんだを溶かして、サポート基板であるシリコン基板を半導体層と接合することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 閃光光照射装置
2 キセノンフラッシュランプ
10 半導体層(化合物半導体層)
101 サファイア基板
102 窒化ガリウム(GaN)層
103 n型半導体層
104 p型半導体層
105 はんだ層(接合剤層)
106 サポート基板
108 透明電極(ITO)
109 電極
110 ミラー層
111 はんだ層(接合剤層)
112 配線通過孔
113 金属層(銅層)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に化合物半導体層を形成し、該化合物半導体層に第2の基板を接合する化合物半導体素子の製造方法において、
上記第2の基板は光透過性基板であり、
上記化合物半導体層に第2の基板を接合する工程は、
上記第2の基板上に接合剤層あるいは金属層を設け、接合剤層または金属層が設けられている化合物半導体層上に、接合剤層を介在させて上記第2の基板を置く第1の工程と、
上記光透過性基板である第2の基板を介して、上記接合剤層に閃光を照射して該接合剤層を加熱し、上記接合剤層を融解する第2の工程とを含む
ことを特徴とする化合物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
上記光透過性基板はガラスであり、照射する閃光はキセノンフラッシュランプからの光である
ことを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
上記光透過性基板はシリコンであり、照射する閃光はYAGレーザまたはCO2レーザからの光であることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
上記化合物半導体層は、窒化ガリウム系化合物半導体からなる
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の化合物半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−33589(P2012−33589A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170149(P2010−170149)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】