説明

半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】GaN系電界効果トランジスタをノーマリオフで動作させつつ、チャネルの電流密度を増加する。
【解決手段】窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層と、前記チャネル層に電子を供給する電子供給層であって前記チャネル層に対向する面の反対面に溝部を有する電子供給層と、前記電子供給層の前記溝部に形成されたp形半導体層と、前記p形半導体層と接して形成された、または、前記p形半導体層との間に中間層を介して形成された制御電極と、を備えた半導体装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。本発明は、特に、窒化ガリウム等の窒素を含む3−5族化合物半導体を用いたヘテロ接合電界効果トランジスタ等の半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系のへテロ接合電界効果トランジスタは、高周波の動作が可能で、かつ大電力での使用が可能なスイッチング素子としての用途が期待されている。たとえば、n形AlGaNと真性GaNとの界面に生成される二次元ガス(2DEG)をチャネルに用いるデバイスが、AlGaN/GaN−HEMT(高電子移動度トランジスタ)として実用化されている。AlGaN/GaN−HEMTに求められる特性として、ゲートに電圧を印加しない状態でもソース・ドレイン間がハイインピーダンスになるノーマリオフ形、つまりエンハンスメントモードでの動作が可能なことがある。これにより、単極性電源での動作、低消費電力等が実現できる。
【0003】
エンハンスメントモードでのトランジスタ動作を実現することを目的として、たとえばゲート領域の電子供給層(AlGaN/GaN−HEMTの場合のAlGaN層)の厚みを他の領域に比較して薄く形成するリセス(溝部)を有する構造が知られている。たとえば、非特許文献1には、ドライエッチングによりAlGaN層にゲートリセス構造を形成したノーマリオフ形のAlGaN/GaNトランジスタが開示されている。
【非特許文献1】R.Wang他著、「Enhancement−Mode Si3N4/AlGaN/GaN MISHFETs」、IEEE Electron Device Letters,Vol.27,No.10、2006年10月、793〜795頁
【0004】
AlGaN層の一部に溝部を形成することにより、溝部領域に対向する2DEG領域の電子濃度を低下させ、AlGaN層/GaN層界面の2DEGの一部を空乏化できる。これによりゲート電圧を印加しない状態においてもチャネルが遮断された状態を実現でき、その結果、トランジスタのソース・ドレイン間がハイインピーダンスになるノーマリオフ形の状態を実現できる。ゲート電極に電圧を印加して、溝部領域に対向する2DEG領域に電子が誘起されれば、チャネルが導通してエンハスメントモードの動作が実現される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載のトランジスタでは、チャネル電流の電流密度を充分に大きくできない課題があることを本発明者は見出した。すなわち、電子供給層(AlGaN層)の溝部の厚みを薄くしてエンハンスメントモードを実現できる一方、溝部の底面には結晶の不完全性に起因する中間準位が存在する。ゲート電極に印加される電圧により当該中間準位に電子が充電されると、充電された電子は2DEGを形成する電子と反発するので、チャネル抵抗を増大させ、チャネルの電流密度を低下させる。スイッチ素子用途では、+1V〜+3V程度の比較的高い閾値での動作が要請されるが、前記したチャネル電流密度の低下の結果、+2V程度の閾値であっても、実用に耐える程度の低い素子抵抗を実現できない問題がある。
【0006】
溝部底部の空間電荷による電流密度の低下は、溝部を2DEG領域から遠ざける、つまり溝部深さを小さくすることにより、ある程度の対策にはなり得る。しかし、溝部深さを小さくすることはゲート閾値を負側にシフトさせるので、ノーマリオフを実現できなくなる。つまり、チャネルの電流密度を増加させることとノーマリオフの実現(ゲート閾値の増加)とはトレードオフの関係にあり、スイッチング素子の性能を向上させるには限界があった。
【0007】
また、非特許文献1に記載のトランジスタでは、チャネル領域の溝部内部にゲートリークの低減を目的とする絶縁膜が形成される。このため溝部底面のソース端およびドレイン端にはゲート電圧によって制御され難い空乏部が残り、この空乏部が導通時においても寄生抵抗として作用して、チャネルの電流密度を低下させる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層と、前記チャネル層に電子を供給する電子供給層であって前記チャネル層に対向する面の反対面に溝部を有する電子供給層と、前記電子供給層の前記溝部に形成されたp形半導体層と、前記p形半導体層と接して形成された、または、前記p形半導体層との間に中間層を介して形成された制御電極と、を備えた半導体装置を提供する。
【0009】
第1の形態において、前記p形半導体層は、窒素を含む3−5族化合物のp形半導体層であってよく、前記p形半導体層は、InGaN層、AlGaN層またはGaN層であってよい。また、第1の形態において、前記p形半導体層は、AlGa1−xNであってよい。ただし、0≦x≦0.5の条件を満たしてよい。前記制御電極は、前記p形半導体層との間に絶縁層を介して形成されてよく、前記絶縁層は、SiO、SiN、SiAl、HfO、HfAl、HfSi、HfN、AlO、AlN、GaO、GaOおよびTaO、TiNから選択された少なくとも1つの絶縁性化合物を有する層であってよい。ここで、添え字x、yもしくはzを含む化学式は絶縁性化合物を示しており、元素の構成比が化学量論比で示される化合物、または、欠陥もしくは非晶質構造を含むことにより元素の構成比が化学量論比では示されない化合物を表す。
【0010】
また、第1の形態において、前記電子供給層を覆い、前記溝部の開口に一致する開口部を有するパッシベーション層、をさらに備えてよい。前記電子供給層は、前記チャネル層と格子整合または擬格子整合して、前記p形半導体層は、前記電子供給層と格子整合または擬格子整合してよい。前記チャネル層は、GaN層、InGaN層またはAlGaN層であってよく、前記電子供給層は、AlGaN層、AlInN層またはAlN層であってよい。前記制御電極は、Ni、Al、Mg、Sc、Ti、Mn、Ag、Sn、PtおよびInから選択された少なくとも1つの金属を有してよい。
【0011】
本発明の第2の形態においては、窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層および前記チャネル層に電子を供給する電子供給層を有し、前記電子供給層が表面を為す基板を用意する段階と、前記電子供給層の表面に溝部を形成する段階と、前記電子供給層の前記溝部にp形半導体層を形成する段階と、前記p形半導体層を形成した後に、制御電極を形成する段階と、を備えた半導体装置の製造方法を提供する。
【0012】
第2の形態において、前記電子供給層を覆うパッシベーション層を形成する段階と、前記溝部が形成される領域の前記パッシベーション層に開口部を形成する段階と、をさらに備え、前記溝部を形成する段階は、前記パッシベーション層の前記開口部に露出した前記電子供給層をエッチングして、前記溝部を形成する段階であってよい。この場合、前記p形半導体層を形成する段階は、前記パッシベーション層の前記開口部に露出した前記電子供給層に、前記p形半導体層となるエピタキシャル層を選択的に成長させる段階であってよい。第2の形態において、前記溝部を形成する段階は、前記電子供給層の一部を覆うマスクを形成する段階と、前記マスクで覆った領域以外の前記電子供給層に、さらに電子供給層を形成する段階と、前記マスクを除去する段階と、を有する段階であってよい。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本実施形態の半導体装置100の断面例を示す。同図において半導体装置100は一つのトランジスタ素子として図示するが、半導体装置100は多数のトランジスタ素子を備えていてよい。半導体装置100は、基板102、バッファ層104、チャネル層106、電子供給層108、溝部110、p形半導体層112、絶縁層114、制御電極116、入出力電極118、パッシベーション層120および素子分離領域122を備える。
【0016】
基板102は、エピタキシャル成長用の下地基板であってよく、たとえば単結晶のサファイア、シリコンカーバイト、シリコン、ガリウムナイトライドが例示できる。基板102は、エピタキシャル成長用の基板として市販されているものが使用できる。基板102は、絶縁形が好ましいがp形またはn形も使用できる。
【0017】
バッファ層104は、基板102の上に形成され、材料として、窒素を含む3−5族化合物半導体が適用できる。たとえば、バッファ層104は、アルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)、アルミニウムナイトライド(AlN)、ガリウムナイトライド(GaN)の単層であってよく、これら単層を積層したものであってもよい。バッファ層104は、その膜厚に特に制限はないが、300nmから3000nmの範囲が好ましい。バッファ層104は、有機金属気相成長法(MOVPE)、ハライドVPE法または分子線エピタキシ法(MBE)などを用いて形成できる。バッファ層104の形成材料として市販の有機金属原料、たとえばトリメチルガリウムあるいはトリメチルインジウム等を用いることができる。
【0018】
チャネル層106は、バッファ層104の上に形成され、窒素を含む3−5族化合物半導体であってよい。チャネル層106として、GaN層が好ましいが、InGaN層またはAlGaN層も例示できる。チャネル層106の膜厚に特に制限はないが、300nmから3000nmの範囲が好ましい。チャネル層106の形成方法として、バッファ層104の形成方法と同様な方法が例示できる。
【0019】
電子供給層108は、チャネル層106に電子を供給する。電子供給層108は、チャネル層106の上に形成され、電子供給層108とチャネル層106との界面のチャネル層106の側には2DEGが形成される。電子供給層108は、チャネル層106に接して直接形成されてもよく、適切な中間層を介して形成されてもよい。電子供給層108は、チャネル層106と格子整合または擬格子整合してよく、AlGaN層、AlInN層またはAlN層であってよい。
【0020】
電子供給層108は、その膜厚を、チャネル層106と電子供給層108との格子定数差から見積もられる臨界膜厚より小さい範囲内で決定できる。臨界膜厚とは、格子不整合により発生した応力により結晶格子に欠陥が発生して応力が緩和される膜厚であってよい。臨界膜厚は、各層のAl組成あるいはIn組成に依存するが、10nmから60nmの範囲が例示できる。電子供給層108の形成方法としてバッファ層104の形成方法と同様な方法が例示できる。
【0021】
電子供給層108は、電子供給層108のチャネル層106に対向する面の反対面に溝部110を有する。電子供給層108に溝部110を形成して、溝部110の下部の2DEGを空乏化しやすくできる。この結果、トランジスタのノーマリオフ動作を実現しやすくできる。
【0022】
溝部110の膜厚は、p形半導体層112の組成、膜厚およびトランジスタの閾値に応じて決定する。溝部110の膜厚として、たとえば5nmから40nmの範囲が例示できる。好ましくは7nmから20nmnの範囲が例示でき、より好ましくは9nmから15nmの範囲が例示できる。さらに好ましくは10nmから13nmの範囲が例示できる。
【0023】
溝部110は、電子供給層108にたとえば溝部110が形成される領域に開口が形成されたマスクを適用して、当該マスクの開口部に露出した電子供給層108をドライエッチング等の異方性エッチング法によりエッチングして形成できる。マスクとして、ホトレジスト、SiO等の無機膜あるいは金属など、エッチングにおいて電子供給層108との選択性を有する材料であれば任意に適用できる。エッチングガスとして、Cl、CHClなどの塩素系ガスおよびCHF、CFなどのフッ素系ガスが使用できる。
【0024】
あるいは溝部110は、電子供給層108の形成後の溝部110に対応する領域にマスクを形成して、当該マスクが存在する様態でさらに電子供給層108を形成した後、マスクを除去して形成できる。マスクとして、SiNあるいはSiOが利用でき、この場合、選択成長法が適用できる。選択性長法としてはMOVPE法が使用できる。なお、電子供給層108の膜厚を適切に形成することで、溝部110を形成しなくてよい場合がある。
【0025】
p形半導体層112は、電子供給層108のチャネル層106に対向する面の反対面に形成された溝部110に形成される。p形半導体層112は、電子供給層108と格子整合または擬格子整合してよい。p形半導体層112は、窒素を含む3−5族化合物のp形の半導体であってよく、たとえばInGaN層、AlGaN層またはGaN層が例示できる。特に、p形半導体層112は、AlGa1−xN層(ただし、0≦x≦0.5)であってよい。xの組成は指定された範囲で適宜選択できるが、AlGaN結晶はAl組成が高くなると結晶性が劣化するので、0≦x≦0.4が好ましく、0≦x≦0.3がより好ましく、0≦x≦0.20がさらに好ましい。
【0026】
電子供給層108の溝部110にp形半導体層112を形成することにより、p形半導体層112を介してチャネルの電位を制御して、チャネル電流が変調できる。すなわち、制御電極116の電位に応答して溝部110に接したp形半導体層112の電位が変位でき、さらにp形半導体層112に接した溝部110の底面部におけるすべての範囲で電位が変位できる。この結果、従来のトランジスタで見られたような溝部(リセス)底面のソース端およびドレイン端での寄生抵抗の発生を防ぐことができる。これにより電流密度の大きい半導体装置100を作製することができる。
【0027】
また、溝部110の底面に配置されるp形半導体層112がp形半導体であるので、同じ厚みの電子供給層108に酸化膜等の絶縁膜を配置するよりも、チャネルのポテンシャルをより引き上げることができる。この結果、半導体装置100の閾値を大きくすることができる。
【0028】
p形の導電形を得るには、Mgなどのp形不純物をドーピングすればよい。ドーパントの濃度は、p形となる濃度であれば良い。ただし、ドーズ量をあまりに高濃度にすると、結晶性の悪化が懸念されるので、1×1015cm−2から1×1019cm−2の範囲が例示できる。p形不純物のドーズ量は、5×1015cm−2から5×1018cm−2が好ましく、1×1016cm−2から1×1018cm−2がより好ましく、5×1016cm−2から5×1017cm−2がさらに好ましい。
【0029】
さらにp形半導体層112は、電子供給層108の溝部110に形成されるので、ノーマリオフ動作を実現しやすくなり、溝部110にp形半導体層112を形成することにより、溝部110の電子供給層108の膜厚を厚くできる。電子供給層108に溝部110を形成する場合であっても、中間準位が存在する溝部110の底面とチャネルとの距離を離すことができ、従来のノーマリオフトランジスタと比較して電流密度の大きなトランジスタを作ることができる。
【0030】
p形半導体層112の膜厚は、2nmから200nmの範囲であってよく、好ましくは5nmから100nmの範囲、さらに好ましくは7nmから30nmの範囲であってよい。p形半導体層112は、たとえばMOVPE法により形成できる。p形半導体層112を溝部110に形成する場合、溝部110に選択的に形成できる。たとえば電子供給層108の溝部110以外の領域をMOVPE法ではエピタキシャル成長されない阻害膜で覆い、当該阻害膜に開口した特定の領域にp形半導体層112となるエピタキシャル膜をエピタキシャル成長させる選択成長法が適用できる。阻害膜はエッチングにより除去されてもよく、パッシベーション層120として残してもよい。阻害膜として、たとえば10nmから100nm程度の膜厚の窒化シリコン膜あるいは酸化シリコン膜が例示できる。
【0031】
絶縁層114は、p形半導体層112の上に形成できる。絶縁層114を形成することにより、制御電極116からチャネルへのリーク電流を低減できる。絶縁層114は、SiO、SiN、SiAl、HfO、HfAl、HfSi、HfN、AlO、AlN、GaO、GaOおよびTaO、TiNから選択された少なくとも1つの絶縁性化合物を有してよい。添え字x、yもしくはzを含む化学式は上記の通り絶縁性化合物を示しており、元素の構成比が化学量論比で示される化合物、または、欠陥もしくは非晶質構造を含むことにより元素の構成比が化学量論比では示されない化合物を表す。絶縁層114は、スパッタ法、CVD法などを利用して形成できる。絶縁層114の膜厚は、それぞれが有する誘電率、絶縁耐圧を考慮して決定できる。絶縁層114の膜厚として、たとえば2nmから150nmの範囲が例示でき、好ましくは5nmから100nmの範囲が、より好ましくは7nmから50nmの範囲が、さらに好ましくは9nmから20nmの範囲が例示できる。
【0032】
制御電極116は、p形半導体層112と接して形成されてよい。すなわち、絶縁層114を備えなくてもよい。あるいは制御電極116は、p形半導体層112との間に中間層である絶縁層114を介して形成されてよい。なお、中間層として、絶縁層114に代えて真性(絶縁形)の半導体層を形成してもよい。
【0033】
制御電極116は、Ni、Al、Mg、Sc、Ti、Mn、Ag、Sn、PtおよびInから選択された少なくとも1つの金属を有することができ、Al、Mg、Sc、Ti、Mn、AgまたはInが好ましい。あるいは制御電極116は、Al、TiまたはMgがより好ましい。制御電極116は、たとえば蒸着法などを用いて形成できる。
【0034】
入出力電極118は、電子供給層108の上に形成される。入出力電極118は、たとえばTiおよびAlなどの金属を蒸着法などで形成した後、リフトオフ法などで所定の形状に加工した後、700℃から800℃程度の温度でアニール処理することにより形成できる。
【0035】
パッシベーション層120は、制御電極116および入出力電極118が形成された領域以外の領域の電子供給層108を覆う。パッシベーション層120は、前記の通り選択性長法のマスクとして機能させることができ、その場合、パッシベーション層120は、溝部110の開口に一致する開口部を有する。パッシベーション層120は、たとえば10nmから100nm程度の膜厚の窒化シリコン膜あるいは酸化シリコン膜が例示できる。
【0036】
素子分離領域122は、トランジスタの活性領域を取り囲むように、電子供給層108を貫いて形成される。素子分離領域122は、電流が流れる領域を規定する。素子分離領域122は、たとえばエッチングにより分離溝を形成して、窒化物等の絶縁体を埋め込むことにより形成できる。あるいは素子分離領域122は、窒素または水素を形成領域にイオン打ち込みにより打ち込んで形成できる。
【0037】
図2から図10は、半導体装置100の製造過程における断面例を示す。図2に示すように、窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層106およびチャネル層106に電子を供給する電子供給層108を有して、電子供給層108が表面を為す基板102を用意する。基板102には、バッファ層104を有してよく、バッファ層104、チャネル層106および電子供給層108が順次形成されて電子供給層108が表面を為す基板はHEMT形成用のエピタキシャル基板として供給されているものであってよい。
【0038】
図3に示すように、電子供給層108を覆うパッシベーション層120を形成した後、パッシベーション層120の上にレジスト膜130を形成する。レジスト膜130は、適切なレジスト材料を基板にスピンコートしてプリベーク、露光およびポストベークの後に、露光領域を除去して開口部132を形成する。開口部132は、溝部110を形成する領域に形成する。
【0039】
図4に示すように、溝部110が形成される領域(開口部132)のパッシベーション層120に開口部を形成する。そして、パッシベーション層120の開口部に露出した電子供給層108をエッチングして、溝部110を形成する。すなわち溝部110は、レジスト膜130をマスクとして、パッシベーション層120をエッチングする第1段階のエッチングと、レジスト膜130をマスクとして、電子供給層108をエッチングする第2段階のエッチングとで形成できる。なお、第2段階のエッチングでは、レジスト膜130を除去して、パッシベーション層120をマスクとしてエッチングできる。また溝部110は、溝部110の底部に相当する膜厚の電子供給層を予め形成して、電子供給層108の一部を覆うマスクを形成した後、マスクで覆った領域以外の電子供給層108に、さらに電子供給層108を形成して、マスクを除去することで形成することもできる。
【0040】
図5に示すように、電子供給層108の表面に、窒素を含む3−5族化合物のp形半導体層112を形成する。p形半導体層112は、電子供給層108の溝部110に形成されてよい。パッシベーション層120の開口部に露出した電子供給層108に、p形半導体層112となるエピタキシャル層を選択的に成長させてよい。その後、p形を示す不純物たとえばMgを、たとえばイオン打ち込みによりドープする。
【0041】
図6に示すように、溝部110のp形半導体層112とパッシベーション層120とを覆うレジスト膜134を形成する。レジスト膜134は、適切なレジスト材料を基板にスピンコートしてプリベーク、露光およびポストベークの後に、露光領域を除去して開口部136を形成する。開口部136は、入出力電極118が形成される領域に形成する。その後、レジスト膜134をマスクにしてパッシベーション層120をエッチングする。
【0042】
図7に示すように、たとえば蒸着法により入出力電極118となる金属膜を形成した後、レジスト膜134を除去して開口部136に金属膜を残すリフトオフ法により、入出力電極118を形成する。入出力電極118を形成した後、加熱によりアニールを実行してもよい。金属膜は金属積層膜であってよい。
【0043】
図8に示すように、レジスト膜138を形成して、溝部110のp形半導体層112を露出させる開口部140を形成する。そして、図9に示すように、絶縁層114および制御電極116となる絶縁膜142および金属膜144を各々形成する。絶縁膜142および金属膜144は、各々、絶縁膜の積層膜あるいは金属膜の積層膜であってよい。
【0044】
図10に示すように、レジスト膜138を除去して開口部140に絶縁膜142および金属膜144を残すリフトオフ法により、絶縁層114および制御電極116を形成する。すなわちp形半導体層112を形成した後に、制御電極116を形成する。
【0045】
その後、素子分離領域122となる領域に開口を有する適切なマスクを形成して、当該マスクの開口部に選択的にイオンを打ち込み、素子分離領域122を形成する。素子分離領域122に打ち込むイオンはたとえば窒素または水素であってよく、電子供給層108およびチャネル層106が絶縁体となるイオンであれば任意に選択できる。以上のようにして、図1の半導体装置100が製造できる。
【0046】
本実施形態の半導体装置100とその製造方法によれば、制御電極116の下部にp形半導体層112を形成するので、半導体装置100をノーマリオフで動作させつつ、チャネル電流密度を増加でき、また、閾値を高くすることができる。さらに、p形半導体層112を溝部110に形成するので、溝部110の効果が相乗され、よりノーマリオフ動作をさせやすく、またチャネル電流密度を増加できる。
【0047】
(実験例)
基板102としてサファイアを適用した。基板102の上に、バッファ層104としてGaN層を、チャネル層106としてGaN層を、電子供給層108としてAlGaN層を、順次MOVPE法を用いて形成して、HEMT用エピタキシャル基板とした。各層の膜厚は、各々100nm、2000nm、30nmとした。AlGaNの電子供給層108のAl組成は25%とした。
【0048】
AlGaNの電子供給層108の上に、パッシベーション層120としてSiN層を、スパッタリング法により100nmの膜厚で形成した。SiNのパッシベーション層120の上にレジスト膜130を形成して、リソグラフィーにより溝部110が形成される位置のレジスト膜130に開口部132を形成した。開口部132の寸法は30μm×2μmとした。
【0049】
CHFガスを用いたICPプラズマエッチングにより、レジスト膜130の開口部132に露出したSiNのパッシベーション層120を除去した。このようにして開口部を有するSiNのパッシベーション層120を形成した。ついでエッチングガスをCHClガスに切り替えて、AlGaNの電子供給層108を20nmの深さまでエッチングした。これにより電子供給層108に溝部110を形成した。
【0050】
表面のレジスト膜130をアセトンで除去した後、基板102をMOVPE反応炉に移して、選択成長法により溝部110にGaN膜を20nmの膜厚になるまでエピタキシャル成長させた。そしてGaN膜にMgをドーピングしてp形半導体層112を形成した。ドーピングした後のp形半導体層112のホール濃度は5×1017cm−2であった。
【0051】
基板102を反応炉から取り出した後、レジスト膜134を形成して、リソグラフィーにより、入出力電極118の形状にレジスト膜134の開口部136を形成した。前記と同様の手法で開口部136に露出したSiNのパッシベーション層120を除去した。そして蒸着法により、Ti/Al/Ni/Auの積層膜を形成して、リフトオフにより、入出力電極118の形状に加工した。その後、基板102を窒素雰囲気、800℃、30秒間の条件でアニールした。このようにして一対の入出力電極118を形成した。
【0052】
レジスト膜138を形成して、リソグラフィーにより、GaNのp形半導体層112上のレジスト膜138に、開口部140を形成した。開口部140の幅は1.5μmとした。蒸着法により、SiOの絶縁膜142を10nmの膜厚で、金属膜144としてNi/Auの金属積層膜を形成して、リフトオフにより、Ni/Auの制御電極116および絶縁層114を形成した。さらにレジスト膜をマスクとして素子周辺部に窒素をイオン打ち込みにより打ち込み、素子分離領域122を形成した。このようにして図1に示す半導体装置100を作製した。
【0053】
(比較例)
実験例と同様にサファイアの基板102に、GaNのバッファ層104、GaNのチャネル層106、AlGaNの電子供給層108を形成してHEMT用エピタキシャル基板とした。実験例と同様にSiNのパッシベーション層120、溝部110、一対の入出力電極118を形成した。溝部110にp形半導体層112を形成せず、実験例と同様の手法で、溝部110の底面に直接SiOの絶縁層114となる絶縁膜142および制御電極116となる金属膜144を形成して、絶縁層114および制御電極116を形成した。さらに実験例と同様の手法で素子分離領域122を形成した。
【0054】
図11は、実験例および比較例で作成した半導体装置100のDC評価におけるドレイン電流の遷移特性グラフを示す。実線は実験例を、破線は比較例を示す。横軸はドレイン電圧を、縦軸はドレイン電流を示す。比較例の最大電流密度が、ゲート電圧3V付近で約50mA/mmであるのに対して、実験例では、ゲート電圧3.5V付近で110mA/mmと高い値を示した。上記実験例と比較例との比較結果が示すとおり、p形半導体層112を備えることにより、半導体装置100をノーマリオフで動作させつつ、チャネルの電流密度を増加させることができた。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態の半導体装置100の断面例を示す。
【図2】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図3】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図4】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図5】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図6】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図7】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図8】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図9】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図10】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図11】実験例および比較例で作成した半導体装置100のDC評価におけるドレイン電流の遷移特性グラフを示す。
【符号の説明】
【0057】
100 半導体装置
102 基板
104 バッファ層
106 チャネル層
108 電子供給層
110 溝部
112 p形半導体層
114 絶縁層
116 制御電極
118 入出力電極
120 パッシベーション層
122 素子分離領域
130 レジスト膜
132 開口部
134 レジスト膜
136 開口部
138 レジスト膜
140 開口部
142 絶縁膜
144 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層と、
前記チャネル層に電子を供給する電子供給層であって前記チャネル層に対向する面の反対面に溝部を有する電子供給層と、
前記電子供給層の前記溝部に形成されたp形半導体層と、
前記p形半導体層と接して形成された、または、前記p形半導体層との間に中間層を介して形成された制御電極と、
を備えた半導体装置。
【請求項2】
前記p形半導体層は、窒素を含む3−5族化合物のp形半導体層である、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記p形半導体層は、InGaN層、AlGaN層またはGaN層である、
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記p形半導体層は、
AlGa1−xN、ただし、0≦x≦0.5、
である、
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記制御電極は、前記p形半導体層との間に絶縁層を介して形成された、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記絶縁層は、SiO、SiN、SiAl、HfO、HfAl、HfSi、HfN、AlO、AlN、GaO、GaOおよびTaO、TiNから選択された少なくとも1つの絶縁性化合物を有する層である、
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記電子供給層を覆い、前記溝部の開口に一致する開口部を有するパッシベーション層、をさらに備えた、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記電子供給層は、前記チャネル層と格子整合または擬格子整合し、
前記p形半導体層は、前記電子供給層と格子整合または擬格子整合する、
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記チャネル層は、GaN層、InGaN層またはAlGaN層であり、
前記電子供給層は、AlGaN層、AlInN層またはAlN層である、
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記制御電極は、Ni、Al、Mg、Sc、Ti、Mn、Ag、Sn、PtおよびInから選択された少なくとも1つの金属を有する、
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
窒素を含む3−5族化合物半導体のチャネル層および前記チャネル層に電子を供給する電子供給層を有し、前記電子供給層が表面を為す基板を用意する段階と、
前記電子供給層の表面に溝部を形成する段階と、
前記電子供給層の前記溝部にp形半導体層を形成する段階と、
前記p形半導体層を形成した後に、制御電極を形成する段階と、
を備えた半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記電子供給層を覆うパッシベーション層を形成する段階と、
前記溝部が形成される領域の前記パッシベーション層に開口部を形成する段階と、
をさらに備え、
前記電子供給層の表面に溝部を形成する段階は、前記パッシベーション層の前記開口部に露出した前記電子供給層をエッチングして、前記溝部を形成する段階である、
請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記p形半導体層を形成する段階は、前記パッシベーション層の前記開口部に露出した前記電子供給層に、前記p形半導体層となるエピタキシャル層を選択的に成長させる段階である、
請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記電子供給層の表面に溝部を形成する段階は、
前記電子供給層の一部を覆うマスクを形成する段階と、
前記マスクで覆った領域以外の前記電子供給層に、さらに電子供給層を形成する段階と、
前記マスクを除去する段階と、
を有する段階である請求項11に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−231395(P2009−231395A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72583(P2008−72583)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】