半導体装置の製造方法
【課題】半導体装置の製造に使用されるシリコン酸化膜の下地依存性を改善することによって、シリコン酸化膜の狭スペースへの埋め込み性やモフォロジーを向上させる。
【解決手段】半導体素子部を有するSi基板1の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、Si含有分子による吸着層12を形成する。あるいは、Si基板1上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する。吸着層12またはSiリッチなSiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスとオゾン等の活性化された酸素を含むガスとを供給し、Si基板1上にシリコン酸化物からなる絶縁膜13を形成する。
【解決手段】半導体素子部を有するSi基板1の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、Si含有分子による吸着層12を形成する。あるいは、Si基板1上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する。吸着層12またはSiリッチなSiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスとオゾン等の活性化された酸素を含むガスとを供給し、Si基板1上にシリコン酸化物からなる絶縁膜13を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板上に絶縁膜を形成する方法としては、テトラエトキシシラン(TEOS/Si(OC2H5)4)等の有機シリコン材料ガスとオゾン(O3)とを反応させてシリコン酸化膜を形成する方法(CVD法)が知られている。このような方法で形成されるシリコン酸化膜(USG(Undoped Silica Glass)膜)は、狭スペースに対する埋め込み性に優れることから、半導体素子部(半導体回路)の電極間に形成される溝部を埋めるプレメタル絶縁膜(PMD)等として使用されている。
【0003】
CVD法によるシリコン酸化膜は、段差に対してフローしたような形状で成膜されるフロー性を有することから、溝部等に対する埋め込み性に優れる反面、成膜速度が下地に依存するという欠点を有する。シリコン酸化膜の下地となる材料によっては、Si基板上に直接形成する場合に比べて成膜速度が遅くなり、埋め込み部がオーバーハング形状となってボイドが生じたり、またモフォロジーが低下するというような問題が生じる。
【0004】
シリコン酸化膜のフロー性と下地依存性はトレードオフの関係にある。狭スペースへの埋め込みにはフロー性の良い成膜条件を適用する必要があるが、そのような条件は下地依存性が強いという欠点がある。PMD等として用いられるシリコン酸化膜の下地はエッチングストッパとしてのシリコン窒化膜(SiNx膜)となる場合が多く、近年ではトランジスタ性能の向上のために応力が大きいシリコン窒化膜(ハイストレスSiNx膜)が用いられつつある。シリコン酸化膜は特にシリコン窒化膜上では成膜速度が遅く、埋め込み部でのボイドの発生やモフォロジーの低下が生じやすい。
【0005】
特許文献1,2には有機シリコン材料ガスとオゾンとの反応による成膜工程の前処理として、Si基板をTEOS等の有機シリコン材料ガスのみに曝すことが記載されている。特許文献1,2では前処理工程で有機シリコン材料ガスのみを用いることで、Si基板の表面(下地上)にメチル基やエチル基等の有機基を含むシリル基(有機シリル基)による被覆層を形成している。しかしながら、有機シリコン材料ガスのみでは高温での熱処理が必要となり、また実用的な成膜温度ではシリル基(有機シリル基)の吸着が生じにくく、シリコン酸化膜の下地依存性の改善効果を十分に得ることはできない。
【特許文献1】特開平07−094505号公報
【特許文献2】特開平08−031816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シリコン酸化膜の下地依存性を改善し、狭スペースへの埋め込み性やモフォロジーに優れるシリコン酸化膜を適用することによって、半導体装置の信頼性や製造歩留り等を向上させることを可能にした半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、半導体素子部を有する半導体基板の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、前記Si含有分子による吸着層を形成する工程と、前記吸着層上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0008】
本発明の他の態様に係る半導体装置の製造方法は、半導体素子部を有する半導体基板上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する工程と、前記SiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様に係る半導体装置の製造方法によれば、シリコン酸化膜の下地依存性を改善することができる。従って、狭スペースへの埋め込み性やモフォロジーに優れるシリコン酸化膜を備える半導体装置を再現性よく得ることができ、半導体装置の信頼性や製造歩留り等を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の半導体装置の製造方法をMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)の製造に適用した第1の実施形態について、図1ないし図4を参照して説明する。図1ないし図4は半導体装置(MOSFET)の製造工程を示している。まず、図1に示すように、半導体基板としてSi基板1を用意する。Si基板1は素子分離膜2を有している。このようなSi基板1に半導体素子部3を形成する。半導体素子部3はさらに配線等を形成することによりMOSFET回路(トランジスタ回路)を構成するものである。
【0011】
Si基板1にはソース・ドレイン領域4やエクステンション領域5が形成される。このようなSi基板1上にゲート絶縁膜6とゲート電極7とを形成する。ゲート絶縁膜6にはSi酸化物、Si窒化酸化物、金属酸化物、金属窒化酸化物等が適用される。ゲート電極7はポリシリコン、金属、金属化合物等で形成される。ゲート電極7はシリコン窒化物等からなる側壁絶縁膜(スペーサ)8とWシリサイドやTiシリサイド等からなるシリサイド層9とを有している。ゲート電極7の間隔は例えば150nm以下とされる。半導体素子部3に基づくMOSFET回路(トランジスタ回路)はn型およびp型のいずれであってもよく、またCMOS構造であってもよい。
【0012】
次いで、図2に示すように、半導体素子部3上にエッチングストッパ膜として、例えばプラズマCVD法を適用してシリコン窒化膜10を成膜する。プラズマCVD法によるシリコン窒化膜10は、成膜条件に基づいて膜応力を制御できるという利点を有する。MOSFETではゲートに応力を加えることで、キャリアの移動度が変化することが知られている。pMOSであれば圧縮応力、nMOSであれば引張応力を加えることによって、キャリアの移動度、ひいてはトランジスタの性能を向上させることができる。
【0013】
次に、図3に示すように、有機物を含まないSi含有ガス11の雰囲気中にシリコン窒化膜10を暴露することによって、シリコン窒化膜10の最表面にSi含有分子を吸着させる。すなわち、シリコン窒化膜10の表面に有機基を含まないSi含有分子による吸着層12を形成する。図5(a)に示すように有機物を含まないSi含有ガス11中にシリコン窒化膜10を曝すと、図5(b)に示すようにシリコン窒化膜10の最表面にシリル基(SiH3基/有機基を含まないSi含有基)が吸着する。
【0014】
このように、シリコン窒化膜10の表面に有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12を形成し、シリコン窒化膜10の表面をシリコンライクな状態とすることによって、有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとの反応に基づくシリコン酸化物の下地依存性を解消することができる。シリコン窒化膜10の表面をシリコンライクな状態とする上で、吸着層12は有機基を含まないSi含有基(シリル基)で形成される。従って、Si含有ガス11には有機物を含まないSi化合物ガスが用いられる。
【0015】
有機基を含まないSi含有分子の原料としては、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、四塩化ケイ素(SiCl4)および四フッ化ケイ素(SiF4)から選ばれる少なくとも1種のSi化合物ガス(シラン化合物ガス)を用いることが好ましい。これらのうちでも、Si含有基(シリル基)による吸着層12の形成性や取扱い性等に優れることから、SiH4ガスやSiH2Cl2ガスを用いることがより好ましい。
【0016】
有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12の形成は、シリコン窒化膜10を有するSi基板(Siウエハ)1をシリコン酸化膜(USG)の成膜装置のチャンバ内に導入し、SiH4ガスやSiH2Cl2ガス等を流すことにより実施される。この際、チャンバ内の温度は200℃以上500℃以下の範囲(400℃程度が望ましい)とすることが好ましい。このような温度ではCVD反応は進まず、分子レベルでの最表面吸着のみが起こる。従って、シリコン窒化膜10表面のSi原子密度が上がり、Si基板のそれと近くなるため、シリコン酸化膜の下地依存性を解消することができる。
【0017】
シリコン酸化膜(USG)の成膜前に吸着層12をインサイチュー(In−Situ)で形成せずに、吸着層12を一旦大気に暴露してからシリコン酸化膜を成膜(Ex−Situ)すると、吸着層12が酸化されてしまったり、不純物が表面に吸着されてしまうため、吸着層12を形成したことによる効果(シリコン酸化膜の下地依存性の解消効果)が得られなくなる。このため、吸着層12の形成は成膜装置のチャンバ内でシリコン酸化膜の成膜前にインサイチュー(In−Situ)で実施することが好ましい。
【0018】
有機物を含まないSi化合物ガス(シラン化合物ガス)は、上述したように200〜500℃というような温度で熱分解するため、シリコン窒化膜10の表面にシリル基による吸着層12を形成することができる。これに対し、TEOS等の有機物を含むSi化合物ガス(有機シリコン材料ガス)は同温度帯では熱分解がほとんど起こらず、吸着層を効果的に形成することはできない。さらに、メチル基やエチル基等の有機基を含むSi含有基(有機シリル基)による吸着層では表面のSi原子密度が低下し、シリコンライクな状態とはならないため、シリコン酸化物の下地依存性を十分に解消することができない。
【0019】
吸着層12の形成はシリコン窒化膜10の表面がシリル基で飽和するまで実施することが好ましい。このような状態を得る上で、上述したように吸着層12の形成温度を200〜500℃の範囲にすると共に、吸着層12の形成時の圧力を100〜1000Paの範囲とすることが好ましい。このような条件下で吸着層12を形成することによって、シリコン窒化膜10の表面をよりシリコンライクな状態に近づけることができ、シリコン酸化物の下地依存性を効果的に解消することができる。
【0020】
この後、図4に示すように、吸着層12を有するシリコン窒化膜10上にTEOS等の有機シリコン材料ガスとオゾンやプラズマ酸素等の活性化された酸素を含むガス(活性酸素ガス)とを供給し、CVD法によりシリコン酸化物からなる絶縁膜13を形成する。活性化された酸素を含むガスとしては、より良好なフロー性を確保する上でオゾンを用いることが好ましい。絶縁膜(シリコン酸化膜)13の成膜はフロー性の良好な成膜条件下で実施することが好ましい。フロー性の良好なシリコン酸化膜13の成膜条件としては、例えば成膜温度を500℃以下、圧力を20kPa以上とし、TEOSと活性酸素ガスとのガス流量比はTEOSを1としたときに活性酸素ガスを5以上とすることが好ましい。
【0021】
上述したようなフロー性の良好な成膜条件下でシリコン酸化膜13を成膜した場合においても、シリコン酸化膜13の下地依存性は吸着層12により解消されるため、ゲート電極7間に形成される溝部にシリコン酸化膜13を良好に埋め込むことができる。すなわち、シリコン酸化膜13の埋め込み部におけるボイドの発生を抑制し、さらにシリコン酸化膜13の表面のモフォロジーを向上させることができる。これらによって、PMDとしての機能に優れるシリコン酸化膜13を得ることが可能となる。特に、ハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合でも、シリコン酸化膜13の下地依存性が解消されるため、半導体装置の信頼性と性能を共に向上させることが可能となる。
【0022】
ここで、SiH4(またはSiH2Cl2)ガスを用いて吸着層12を形成した後にインサイチューでシリコン酸化膜13を形成した場合のMOSFET(実施例)と、SiH4(またはSiH2Cl2)ガスに代えてTEOSガスを用いたMOSFET(比較例)の表面状態を比較した。TEOSガスによる吸着層の形成はSiH4ガスを用いた場合と同一条件で実施した。各MOSFETにおけるシリコン酸化膜の表面ラフネス(Haze値)を測定した。表面ラフネス(Haze値)は基板(ウエハ)の上方から光を照射した際の基板表面からの散乱成分に基づくものである。
【0023】
その結果、比較例の表面ラフネス(Haze値)は2500ppmであったのに対し、実施例の表面ラフネス(Haze値)は5ppmであり、シリル基による吸着層12を形成することでシリコン酸化膜の表面モフォロジーが改善されることが確認された。このことからも、有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12は、従来のTEOSガスによる吸着層に比べてシリコン酸化膜13の下地依存性の解消に対して有効であることが分かる。従って、埋め込み部の健全性や表面モフォロジーに優れるシリコン酸化膜13を再現性よく提供することが可能となる。
【0024】
次に、本発明の半導体装置の製造方法をMOSFETの製造に適用した第2の実施形態について、図6ないし図9を参照して説明する。図6ないし図9は半導体装置(MOSFET)の製造工程を示している。なお、図6ないし図9において、図1ないし図4と同一部分には同一符号を付し、その説明を一部省略する。
【0025】
まず、図6に示すように、Si基板1上に半導体素子部(MOSFETを構成する素子部)3とシリコン窒化膜(エッチングストッパ膜)10とを形成する。これらは第1の実施形態と同様にして形成する。さらに、シリコン窒化膜(エッチングストッパ膜)10上にSiリッチなSiN系保護膜21を形成する。SiリッチなSiN系保護膜21はSiとNとの原子比がSi/N>3/4の条件を満足するものであり、有機シリコン材料ガスと活性酸素ガスとの反応に基づくシリコン酸化物の下地依存性の解消に効果を発揮する。
【0026】
SiリッチなSiN系保護膜21は、例えば原料ガスとしてヘキサクロロジシラン(HCD/Si2Cl6)ガスとアンモニア(NH3)ガスとを用いた成膜法(HCD−SiN成膜法)、あるいはシラン(SiH4)ガスと亜酸化窒素(N2O)ガスとを用いた成膜法(DARC(Dielectric Anti Reflective Coating)法)を適用することにより形成することができる。
【0027】
HCD−SiN成膜法においては、ヘキサクロロジシラン(HCD)とアンモニア(NH3)とを原料ガスとして用いて、LP−CVD(減圧CVD)法により成膜温度を500℃以下としてSiN膜を形成する。成膜温度は450℃以下とすることが好ましい。また、HCDとNH3のガス流量比はHCDを1としたときにNH3を概ね10以上とすることが好ましい。HCDは元々Si−Si結合を有しており、さらにこのような条件下で成膜することによって、シリコンが過剰なシリコン窒化膜が得られる。
【0028】
DARC法においては、シラン(SiH4)とN2Oガスとを原料ガスとして用いて、既知のプラズマCVD法によりウエハステージ温度を概ね400℃以上としてSiN膜を形成する。この際、SiH4とN2Oのガス流量比はSiH4を1としたときにN2Oを概ね1以上とすることが好ましい。このような条件下で成膜することによって、シリコンが過剰なシリコン窒化膜が得られる。なお、DARC法を適用した場合、シリコン窒化膜中に酸素(O)が一部取り込まれてSiリッチなSiON膜となるが、これもSiリッチなSiN系保護膜21に含まれるものである。
【0029】
次に、図7に示すように、SiリッチなSiN系保護膜21にTEOS等の有機シリコン材料ガスと活性酸素ガス(活性化された酸素を含むガス)とを供給し、CVD法によりシリコン酸化膜22を形成する。活性酸素ガスとしてはオゾンやプラズマ酸素等が用いられる。これらのうちでも、良好なフロー性を確保する上でオゾンを使用することが好ましい。SiN系保護膜21上にはシリコン酸化膜22をSi基板上と同等に形成することができる。従って、シリコン酸化膜13はフロー性の良好な成膜条件、例えば成膜温度が500℃以下、圧力が20kPa以上、TEOSと活性酸素ガスとのガス流量比がTEOSを1としたときにオゾンが5以上である条件下で成膜することができる。
【0030】
ところで、SiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22の下地依存性の解消に効果的であるものの、それ自体の特性はリークレベルが高く、絶縁膜(PMD)として用いた場合に機能が劣るおそれがある。そこで、SiリッチなSiN系保護膜21上には、まず酸素を透過させることが可能な程度の厚さを有する第1のシリコン酸化膜22を形成する(図7)。次いで、図8に示すように、第1のシリコン酸化膜22を酸化ガス23に暴露し、第1のシリコン酸化膜22越しにSiN系保護膜21を酸化する。これによって、SiN系保護膜21をリークレベルの低い絶縁膜に改質することが好ましい。
【0031】
第1のシリコン酸化膜22の酸化は、シリコン酸化膜(USG)の成膜装置のチャンバ内に酸化ガス23、例えばシリコン酸化膜(USG)の成膜用のオゾンやプラズマ酸素を流し、インサイチュー(In−Situ)で実施することが好ましい。この後、図9に示すように、第1のシリコン酸化膜22上に同様なフロー性の良好な成膜条件下で第2のシリコン酸化膜24を形成する。第1のシリコン酸化膜22と第2のシリコン酸化膜24とによって、所望の膜厚を有する絶縁膜(PMD)25が構成される。
【0032】
第1のシリコン酸化膜22は少なくとも絶縁膜24の膜厚より薄く形成される。さらに、第1のシリコン酸化膜22を介してSiN系保護膜21を酸化することを考慮すると、第1のシリコン酸化膜22の膜厚は10nm以下とすることが好ましく、例えば5nmの膜厚で成膜される。第1のシリコン酸化膜22の膜厚が10nmを超えると、SiN系保護膜21を良好に酸化することができない。第2のシリコン酸化膜24は第1のシリコン酸化膜22の合計膜厚が絶縁膜(PMD)25の必要膜厚となるように形成される。
【0033】
第1のシリコン酸化膜22を成膜する前にSiN系保護膜21を酸化して改質してしまうと、シリコン酸化膜の下地依存性が強くなってしまい、SiリッチなSiN系保護膜21による下地依存性の解消効果を得ることができなくなる。この実施形態ではSiリッチなSiN系保護膜21上にシリコン酸化膜22、24を形成しているため、ゲート電極7間に形成される溝部にシリコン酸化膜22、24を良好に埋め込むことができ、さらに表面のモフォロジーも向上させることができる。特に、ハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合でも、シリコン酸化膜22、24の下地依存性を考慮する必要がないため、半導体装置の信頼性と性能を共に向上させることが可能となる。
【0034】
図10にHCD−SiN法で形成したSiリッチなSiN系保護膜21を有するMOSFETの断面写真を示す。図12に示すMOSFETにおいて、SiN系保護膜21は成膜温度を450℃、ガス流量比をNH3/HCD=20とした条件下で形成し、シリコン酸化膜22、24は成膜温度を400℃、圧力を50kPa、ガス流量比をO3/TEOS=10とした条件下で形成した。SiN系保護膜を形成することなくシリコン酸化膜を成膜したMOSFETの断面写真を図13に示す。図13に示すおけるMOSFETは、SiN系保護膜を形成しない以外は図12のMOSFETと同一条件で作製した。
【0035】
図12と図13との比較から明らかなように、SiリッチなSiN系保護膜21を形成することによって、シリコン酸化膜24の表面のモフォロジーを向上させることができる。また、シリコン酸化膜22、24による溝部の埋め込み性(ボイドの有無)も良好であり、加えてSiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22を介して酸化しているため、絶縁膜(PMD)25としての機能も良好であることが確認された。
【0036】
上述したHCD−SiN法によるSiリッチなSiN系保護膜21上にシリコン酸化膜22、24を形成したMOSFET(第1の実施例)において、シリコン酸化膜24の表面ラフネス(Haze値)を測定した。SiリッチなSiN系保護膜21の形成にDARC法を適用する以外は第1の実施例と同様にして形成したMOSFET(第2の実施例)についても、シリコン酸化膜24の表面ラフネス(Haze値)を測定した。これらとの比較としてSiN系保護膜21を適用することなくシリコン酸化膜を形成したMOSFET(比較例)についても、シリコン酸化膜の表面ラフネス(Haze値)を測定した。
【0037】
その結果、比較例の表面ラフネス(Haze値)は2900ppmであったのに対し、第1の実施例の表面ラフネス(Haze値)は9ppm、第2の実施例の表面ラフネス(Haze値)は6ppmであり、SiリッチなSiN系保護膜21を適用することでシリコン酸化膜の表面モフォロジーが改善されることが確認された。このことからも、SiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22、24の下地依存性の解消に対して有効な効果を示すことが分かる。なお、実施例および比較例におけるMOSFETの作製には、SiN系保護膜の形成条件(形成の有無を含む)以外は同一条件を採用した。
【0038】
従って、シリコン窒化膜10、特にハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合においても、シリコン酸化膜22、24をフロー性の良好な成膜条件下で形成することができ、埋め込み性やモフォロジーに優れる絶縁膜25を得ることができる。このような絶縁膜25を適用することによって、信頼性と性能に優れる半導体装置(MOSFET)を再現性よく提供することが可能となる。
【0039】
なお、本発明の半導体装置の製造方法は上記した実施形態に限定されるものではなく、各種のトランジスタ回路(半導体回路)を備える半導体装置の作製に適用することができる。本発明の製造方法を適用して作製される半導体装置の構造は、本発明の基本構成を満足するものであれば種々に変形が可能であり、それらも本発明に含まれるものである。さらに、実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張または変更することができ、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程における半導体回路の形成段階を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるエッチングストッパの形成段階を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSi含有分子による吸着層の形成段階を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図5】Si含有分子による吸着層の形成状態を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程における半導体回路上へのエッチングストッパの形成段階を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSiN系保護膜と第1のシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSiN系保護膜の酸化段階を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程における第2のシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図10】第2の実施形態を適用して作製したMOSFETの断面写真である。
【図11】第2の実施形態との比較例としてSiN系保護膜を適用せずに作製したMOSFETの断面写真である。
【符号の説明】
【0041】
1…Si基板、3…半導体素子部、4…ソース・ドレイン領域、6…ゲート絶縁膜、7…ゲート電極、10…シリコン窒化膜、11…有機物を含まないケイ素化合物ガス、12…有機基を含まないSi含有分子による吸着層、13,25…シリコン酸化物による絶縁膜、21…SiリッチなSiN系保護膜、22…第1のシリコン酸化膜、23…酸化ガス、24…第2のシリコン酸化膜、25…絶縁膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板上に絶縁膜を形成する方法としては、テトラエトキシシラン(TEOS/Si(OC2H5)4)等の有機シリコン材料ガスとオゾン(O3)とを反応させてシリコン酸化膜を形成する方法(CVD法)が知られている。このような方法で形成されるシリコン酸化膜(USG(Undoped Silica Glass)膜)は、狭スペースに対する埋め込み性に優れることから、半導体素子部(半導体回路)の電極間に形成される溝部を埋めるプレメタル絶縁膜(PMD)等として使用されている。
【0003】
CVD法によるシリコン酸化膜は、段差に対してフローしたような形状で成膜されるフロー性を有することから、溝部等に対する埋め込み性に優れる反面、成膜速度が下地に依存するという欠点を有する。シリコン酸化膜の下地となる材料によっては、Si基板上に直接形成する場合に比べて成膜速度が遅くなり、埋め込み部がオーバーハング形状となってボイドが生じたり、またモフォロジーが低下するというような問題が生じる。
【0004】
シリコン酸化膜のフロー性と下地依存性はトレードオフの関係にある。狭スペースへの埋め込みにはフロー性の良い成膜条件を適用する必要があるが、そのような条件は下地依存性が強いという欠点がある。PMD等として用いられるシリコン酸化膜の下地はエッチングストッパとしてのシリコン窒化膜(SiNx膜)となる場合が多く、近年ではトランジスタ性能の向上のために応力が大きいシリコン窒化膜(ハイストレスSiNx膜)が用いられつつある。シリコン酸化膜は特にシリコン窒化膜上では成膜速度が遅く、埋め込み部でのボイドの発生やモフォロジーの低下が生じやすい。
【0005】
特許文献1,2には有機シリコン材料ガスとオゾンとの反応による成膜工程の前処理として、Si基板をTEOS等の有機シリコン材料ガスのみに曝すことが記載されている。特許文献1,2では前処理工程で有機シリコン材料ガスのみを用いることで、Si基板の表面(下地上)にメチル基やエチル基等の有機基を含むシリル基(有機シリル基)による被覆層を形成している。しかしながら、有機シリコン材料ガスのみでは高温での熱処理が必要となり、また実用的な成膜温度ではシリル基(有機シリル基)の吸着が生じにくく、シリコン酸化膜の下地依存性の改善効果を十分に得ることはできない。
【特許文献1】特開平07−094505号公報
【特許文献2】特開平08−031816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シリコン酸化膜の下地依存性を改善し、狭スペースへの埋め込み性やモフォロジーに優れるシリコン酸化膜を適用することによって、半導体装置の信頼性や製造歩留り等を向上させることを可能にした半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、半導体素子部を有する半導体基板の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、前記Si含有分子による吸着層を形成する工程と、前記吸着層上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0008】
本発明の他の態様に係る半導体装置の製造方法は、半導体素子部を有する半導体基板上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する工程と、前記SiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様に係る半導体装置の製造方法によれば、シリコン酸化膜の下地依存性を改善することができる。従って、狭スペースへの埋め込み性やモフォロジーに優れるシリコン酸化膜を備える半導体装置を再現性よく得ることができ、半導体装置の信頼性や製造歩留り等を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の半導体装置の製造方法をMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)の製造に適用した第1の実施形態について、図1ないし図4を参照して説明する。図1ないし図4は半導体装置(MOSFET)の製造工程を示している。まず、図1に示すように、半導体基板としてSi基板1を用意する。Si基板1は素子分離膜2を有している。このようなSi基板1に半導体素子部3を形成する。半導体素子部3はさらに配線等を形成することによりMOSFET回路(トランジスタ回路)を構成するものである。
【0011】
Si基板1にはソース・ドレイン領域4やエクステンション領域5が形成される。このようなSi基板1上にゲート絶縁膜6とゲート電極7とを形成する。ゲート絶縁膜6にはSi酸化物、Si窒化酸化物、金属酸化物、金属窒化酸化物等が適用される。ゲート電極7はポリシリコン、金属、金属化合物等で形成される。ゲート電極7はシリコン窒化物等からなる側壁絶縁膜(スペーサ)8とWシリサイドやTiシリサイド等からなるシリサイド層9とを有している。ゲート電極7の間隔は例えば150nm以下とされる。半導体素子部3に基づくMOSFET回路(トランジスタ回路)はn型およびp型のいずれであってもよく、またCMOS構造であってもよい。
【0012】
次いで、図2に示すように、半導体素子部3上にエッチングストッパ膜として、例えばプラズマCVD法を適用してシリコン窒化膜10を成膜する。プラズマCVD法によるシリコン窒化膜10は、成膜条件に基づいて膜応力を制御できるという利点を有する。MOSFETではゲートに応力を加えることで、キャリアの移動度が変化することが知られている。pMOSであれば圧縮応力、nMOSであれば引張応力を加えることによって、キャリアの移動度、ひいてはトランジスタの性能を向上させることができる。
【0013】
次に、図3に示すように、有機物を含まないSi含有ガス11の雰囲気中にシリコン窒化膜10を暴露することによって、シリコン窒化膜10の最表面にSi含有分子を吸着させる。すなわち、シリコン窒化膜10の表面に有機基を含まないSi含有分子による吸着層12を形成する。図5(a)に示すように有機物を含まないSi含有ガス11中にシリコン窒化膜10を曝すと、図5(b)に示すようにシリコン窒化膜10の最表面にシリル基(SiH3基/有機基を含まないSi含有基)が吸着する。
【0014】
このように、シリコン窒化膜10の表面に有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12を形成し、シリコン窒化膜10の表面をシリコンライクな状態とすることによって、有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとの反応に基づくシリコン酸化物の下地依存性を解消することができる。シリコン窒化膜10の表面をシリコンライクな状態とする上で、吸着層12は有機基を含まないSi含有基(シリル基)で形成される。従って、Si含有ガス11には有機物を含まないSi化合物ガスが用いられる。
【0015】
有機基を含まないSi含有分子の原料としては、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、四塩化ケイ素(SiCl4)および四フッ化ケイ素(SiF4)から選ばれる少なくとも1種のSi化合物ガス(シラン化合物ガス)を用いることが好ましい。これらのうちでも、Si含有基(シリル基)による吸着層12の形成性や取扱い性等に優れることから、SiH4ガスやSiH2Cl2ガスを用いることがより好ましい。
【0016】
有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12の形成は、シリコン窒化膜10を有するSi基板(Siウエハ)1をシリコン酸化膜(USG)の成膜装置のチャンバ内に導入し、SiH4ガスやSiH2Cl2ガス等を流すことにより実施される。この際、チャンバ内の温度は200℃以上500℃以下の範囲(400℃程度が望ましい)とすることが好ましい。このような温度ではCVD反応は進まず、分子レベルでの最表面吸着のみが起こる。従って、シリコン窒化膜10表面のSi原子密度が上がり、Si基板のそれと近くなるため、シリコン酸化膜の下地依存性を解消することができる。
【0017】
シリコン酸化膜(USG)の成膜前に吸着層12をインサイチュー(In−Situ)で形成せずに、吸着層12を一旦大気に暴露してからシリコン酸化膜を成膜(Ex−Situ)すると、吸着層12が酸化されてしまったり、不純物が表面に吸着されてしまうため、吸着層12を形成したことによる効果(シリコン酸化膜の下地依存性の解消効果)が得られなくなる。このため、吸着層12の形成は成膜装置のチャンバ内でシリコン酸化膜の成膜前にインサイチュー(In−Situ)で実施することが好ましい。
【0018】
有機物を含まないSi化合物ガス(シラン化合物ガス)は、上述したように200〜500℃というような温度で熱分解するため、シリコン窒化膜10の表面にシリル基による吸着層12を形成することができる。これに対し、TEOS等の有機物を含むSi化合物ガス(有機シリコン材料ガス)は同温度帯では熱分解がほとんど起こらず、吸着層を効果的に形成することはできない。さらに、メチル基やエチル基等の有機基を含むSi含有基(有機シリル基)による吸着層では表面のSi原子密度が低下し、シリコンライクな状態とはならないため、シリコン酸化物の下地依存性を十分に解消することができない。
【0019】
吸着層12の形成はシリコン窒化膜10の表面がシリル基で飽和するまで実施することが好ましい。このような状態を得る上で、上述したように吸着層12の形成温度を200〜500℃の範囲にすると共に、吸着層12の形成時の圧力を100〜1000Paの範囲とすることが好ましい。このような条件下で吸着層12を形成することによって、シリコン窒化膜10の表面をよりシリコンライクな状態に近づけることができ、シリコン酸化物の下地依存性を効果的に解消することができる。
【0020】
この後、図4に示すように、吸着層12を有するシリコン窒化膜10上にTEOS等の有機シリコン材料ガスとオゾンやプラズマ酸素等の活性化された酸素を含むガス(活性酸素ガス)とを供給し、CVD法によりシリコン酸化物からなる絶縁膜13を形成する。活性化された酸素を含むガスとしては、より良好なフロー性を確保する上でオゾンを用いることが好ましい。絶縁膜(シリコン酸化膜)13の成膜はフロー性の良好な成膜条件下で実施することが好ましい。フロー性の良好なシリコン酸化膜13の成膜条件としては、例えば成膜温度を500℃以下、圧力を20kPa以上とし、TEOSと活性酸素ガスとのガス流量比はTEOSを1としたときに活性酸素ガスを5以上とすることが好ましい。
【0021】
上述したようなフロー性の良好な成膜条件下でシリコン酸化膜13を成膜した場合においても、シリコン酸化膜13の下地依存性は吸着層12により解消されるため、ゲート電極7間に形成される溝部にシリコン酸化膜13を良好に埋め込むことができる。すなわち、シリコン酸化膜13の埋め込み部におけるボイドの発生を抑制し、さらにシリコン酸化膜13の表面のモフォロジーを向上させることができる。これらによって、PMDとしての機能に優れるシリコン酸化膜13を得ることが可能となる。特に、ハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合でも、シリコン酸化膜13の下地依存性が解消されるため、半導体装置の信頼性と性能を共に向上させることが可能となる。
【0022】
ここで、SiH4(またはSiH2Cl2)ガスを用いて吸着層12を形成した後にインサイチューでシリコン酸化膜13を形成した場合のMOSFET(実施例)と、SiH4(またはSiH2Cl2)ガスに代えてTEOSガスを用いたMOSFET(比較例)の表面状態を比較した。TEOSガスによる吸着層の形成はSiH4ガスを用いた場合と同一条件で実施した。各MOSFETにおけるシリコン酸化膜の表面ラフネス(Haze値)を測定した。表面ラフネス(Haze値)は基板(ウエハ)の上方から光を照射した際の基板表面からの散乱成分に基づくものである。
【0023】
その結果、比較例の表面ラフネス(Haze値)は2500ppmであったのに対し、実施例の表面ラフネス(Haze値)は5ppmであり、シリル基による吸着層12を形成することでシリコン酸化膜の表面モフォロジーが改善されることが確認された。このことからも、有機基を含まないSi含有基(シリル基)による吸着層12は、従来のTEOSガスによる吸着層に比べてシリコン酸化膜13の下地依存性の解消に対して有効であることが分かる。従って、埋め込み部の健全性や表面モフォロジーに優れるシリコン酸化膜13を再現性よく提供することが可能となる。
【0024】
次に、本発明の半導体装置の製造方法をMOSFETの製造に適用した第2の実施形態について、図6ないし図9を参照して説明する。図6ないし図9は半導体装置(MOSFET)の製造工程を示している。なお、図6ないし図9において、図1ないし図4と同一部分には同一符号を付し、その説明を一部省略する。
【0025】
まず、図6に示すように、Si基板1上に半導体素子部(MOSFETを構成する素子部)3とシリコン窒化膜(エッチングストッパ膜)10とを形成する。これらは第1の実施形態と同様にして形成する。さらに、シリコン窒化膜(エッチングストッパ膜)10上にSiリッチなSiN系保護膜21を形成する。SiリッチなSiN系保護膜21はSiとNとの原子比がSi/N>3/4の条件を満足するものであり、有機シリコン材料ガスと活性酸素ガスとの反応に基づくシリコン酸化物の下地依存性の解消に効果を発揮する。
【0026】
SiリッチなSiN系保護膜21は、例えば原料ガスとしてヘキサクロロジシラン(HCD/Si2Cl6)ガスとアンモニア(NH3)ガスとを用いた成膜法(HCD−SiN成膜法)、あるいはシラン(SiH4)ガスと亜酸化窒素(N2O)ガスとを用いた成膜法(DARC(Dielectric Anti Reflective Coating)法)を適用することにより形成することができる。
【0027】
HCD−SiN成膜法においては、ヘキサクロロジシラン(HCD)とアンモニア(NH3)とを原料ガスとして用いて、LP−CVD(減圧CVD)法により成膜温度を500℃以下としてSiN膜を形成する。成膜温度は450℃以下とすることが好ましい。また、HCDとNH3のガス流量比はHCDを1としたときにNH3を概ね10以上とすることが好ましい。HCDは元々Si−Si結合を有しており、さらにこのような条件下で成膜することによって、シリコンが過剰なシリコン窒化膜が得られる。
【0028】
DARC法においては、シラン(SiH4)とN2Oガスとを原料ガスとして用いて、既知のプラズマCVD法によりウエハステージ温度を概ね400℃以上としてSiN膜を形成する。この際、SiH4とN2Oのガス流量比はSiH4を1としたときにN2Oを概ね1以上とすることが好ましい。このような条件下で成膜することによって、シリコンが過剰なシリコン窒化膜が得られる。なお、DARC法を適用した場合、シリコン窒化膜中に酸素(O)が一部取り込まれてSiリッチなSiON膜となるが、これもSiリッチなSiN系保護膜21に含まれるものである。
【0029】
次に、図7に示すように、SiリッチなSiN系保護膜21にTEOS等の有機シリコン材料ガスと活性酸素ガス(活性化された酸素を含むガス)とを供給し、CVD法によりシリコン酸化膜22を形成する。活性酸素ガスとしてはオゾンやプラズマ酸素等が用いられる。これらのうちでも、良好なフロー性を確保する上でオゾンを使用することが好ましい。SiN系保護膜21上にはシリコン酸化膜22をSi基板上と同等に形成することができる。従って、シリコン酸化膜13はフロー性の良好な成膜条件、例えば成膜温度が500℃以下、圧力が20kPa以上、TEOSと活性酸素ガスとのガス流量比がTEOSを1としたときにオゾンが5以上である条件下で成膜することができる。
【0030】
ところで、SiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22の下地依存性の解消に効果的であるものの、それ自体の特性はリークレベルが高く、絶縁膜(PMD)として用いた場合に機能が劣るおそれがある。そこで、SiリッチなSiN系保護膜21上には、まず酸素を透過させることが可能な程度の厚さを有する第1のシリコン酸化膜22を形成する(図7)。次いで、図8に示すように、第1のシリコン酸化膜22を酸化ガス23に暴露し、第1のシリコン酸化膜22越しにSiN系保護膜21を酸化する。これによって、SiN系保護膜21をリークレベルの低い絶縁膜に改質することが好ましい。
【0031】
第1のシリコン酸化膜22の酸化は、シリコン酸化膜(USG)の成膜装置のチャンバ内に酸化ガス23、例えばシリコン酸化膜(USG)の成膜用のオゾンやプラズマ酸素を流し、インサイチュー(In−Situ)で実施することが好ましい。この後、図9に示すように、第1のシリコン酸化膜22上に同様なフロー性の良好な成膜条件下で第2のシリコン酸化膜24を形成する。第1のシリコン酸化膜22と第2のシリコン酸化膜24とによって、所望の膜厚を有する絶縁膜(PMD)25が構成される。
【0032】
第1のシリコン酸化膜22は少なくとも絶縁膜24の膜厚より薄く形成される。さらに、第1のシリコン酸化膜22を介してSiN系保護膜21を酸化することを考慮すると、第1のシリコン酸化膜22の膜厚は10nm以下とすることが好ましく、例えば5nmの膜厚で成膜される。第1のシリコン酸化膜22の膜厚が10nmを超えると、SiN系保護膜21を良好に酸化することができない。第2のシリコン酸化膜24は第1のシリコン酸化膜22の合計膜厚が絶縁膜(PMD)25の必要膜厚となるように形成される。
【0033】
第1のシリコン酸化膜22を成膜する前にSiN系保護膜21を酸化して改質してしまうと、シリコン酸化膜の下地依存性が強くなってしまい、SiリッチなSiN系保護膜21による下地依存性の解消効果を得ることができなくなる。この実施形態ではSiリッチなSiN系保護膜21上にシリコン酸化膜22、24を形成しているため、ゲート電極7間に形成される溝部にシリコン酸化膜22、24を良好に埋め込むことができ、さらに表面のモフォロジーも向上させることができる。特に、ハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合でも、シリコン酸化膜22、24の下地依存性を考慮する必要がないため、半導体装置の信頼性と性能を共に向上させることが可能となる。
【0034】
図10にHCD−SiN法で形成したSiリッチなSiN系保護膜21を有するMOSFETの断面写真を示す。図12に示すMOSFETにおいて、SiN系保護膜21は成膜温度を450℃、ガス流量比をNH3/HCD=20とした条件下で形成し、シリコン酸化膜22、24は成膜温度を400℃、圧力を50kPa、ガス流量比をO3/TEOS=10とした条件下で形成した。SiN系保護膜を形成することなくシリコン酸化膜を成膜したMOSFETの断面写真を図13に示す。図13に示すおけるMOSFETは、SiN系保護膜を形成しない以外は図12のMOSFETと同一条件で作製した。
【0035】
図12と図13との比較から明らかなように、SiリッチなSiN系保護膜21を形成することによって、シリコン酸化膜24の表面のモフォロジーを向上させることができる。また、シリコン酸化膜22、24による溝部の埋め込み性(ボイドの有無)も良好であり、加えてSiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22を介して酸化しているため、絶縁膜(PMD)25としての機能も良好であることが確認された。
【0036】
上述したHCD−SiN法によるSiリッチなSiN系保護膜21上にシリコン酸化膜22、24を形成したMOSFET(第1の実施例)において、シリコン酸化膜24の表面ラフネス(Haze値)を測定した。SiリッチなSiN系保護膜21の形成にDARC法を適用する以外は第1の実施例と同様にして形成したMOSFET(第2の実施例)についても、シリコン酸化膜24の表面ラフネス(Haze値)を測定した。これらとの比較としてSiN系保護膜21を適用することなくシリコン酸化膜を形成したMOSFET(比較例)についても、シリコン酸化膜の表面ラフネス(Haze値)を測定した。
【0037】
その結果、比較例の表面ラフネス(Haze値)は2900ppmであったのに対し、第1の実施例の表面ラフネス(Haze値)は9ppm、第2の実施例の表面ラフネス(Haze値)は6ppmであり、SiリッチなSiN系保護膜21を適用することでシリコン酸化膜の表面モフォロジーが改善されることが確認された。このことからも、SiリッチなSiN系保護膜21はシリコン酸化膜22、24の下地依存性の解消に対して有効な効果を示すことが分かる。なお、実施例および比較例におけるMOSFETの作製には、SiN系保護膜の形成条件(形成の有無を含む)以外は同一条件を採用した。
【0038】
従って、シリコン窒化膜10、特にハイストレスのシリコン窒化膜10を適用した場合においても、シリコン酸化膜22、24をフロー性の良好な成膜条件下で形成することができ、埋め込み性やモフォロジーに優れる絶縁膜25を得ることができる。このような絶縁膜25を適用することによって、信頼性と性能に優れる半導体装置(MOSFET)を再現性よく提供することが可能となる。
【0039】
なお、本発明の半導体装置の製造方法は上記した実施形態に限定されるものではなく、各種のトランジスタ回路(半導体回路)を備える半導体装置の作製に適用することができる。本発明の製造方法を適用して作製される半導体装置の構造は、本発明の基本構成を満足するものであれば種々に変形が可能であり、それらも本発明に含まれるものである。さらに、実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張または変更することができ、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程における半導体回路の形成段階を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるエッチングストッパの形成段階を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSi含有分子による吸着層の形成段階を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の半導体装置の製造工程におけるシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図5】Si含有分子による吸着層の形成状態を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程における半導体回路上へのエッチングストッパの形成段階を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSiN系保護膜と第1のシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程におけるSiN系保護膜の酸化段階を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程における第2のシリコン酸化膜の形成段階を示す図である。
【図10】第2の実施形態を適用して作製したMOSFETの断面写真である。
【図11】第2の実施形態との比較例としてSiN系保護膜を適用せずに作製したMOSFETの断面写真である。
【符号の説明】
【0041】
1…Si基板、3…半導体素子部、4…ソース・ドレイン領域、6…ゲート絶縁膜、7…ゲート電極、10…シリコン窒化膜、11…有機物を含まないケイ素化合物ガス、12…有機基を含まないSi含有分子による吸着層、13,25…シリコン酸化物による絶縁膜、21…SiリッチなSiN系保護膜、22…第1のシリコン酸化膜、23…酸化ガス、24…第2のシリコン酸化膜、25…絶縁膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子部を有する半導体基板の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、前記Si含有分子による吸着層を形成する工程と、
前記吸着層上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、
前記Si含有分子の原料として、SiH4、Si2H6、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4およびSiF4から選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物ガスを用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
半導体素子部を有する半導体基板上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する工程と、
前記SiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の半導体装置の製造方法において、
前記絶縁膜の形成工程は、前記SiN系保護膜上に前記絶縁膜の膜厚より薄くなるように前記シリコン酸化物を堆積させ、前記シリコン酸化物の堆積層を介して前記SiN系保護膜を酸化した後、前記シリコン酸化物を前記絶縁膜の膜厚となるように堆積させる工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の半導体装置の製造方法において、
前記Si含有分子による吸着層、もしくは前記SiN系保護膜は、前記半導体素子部を覆うシリコン窒化膜上に形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項1】
半導体素子部を有する半導体基板の表面に有機基を含まないSi含有分子を吸着させ、前記Si含有分子による吸着層を形成する工程と、
前記吸着層上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、
前記Si含有分子の原料として、SiH4、Si2H6、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4およびSiF4から選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物ガスを用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
半導体素子部を有する半導体基板上にSiリッチなSiN系保護膜を形成する工程と、
前記SiN系保護膜上から有機シリコン材料ガスと活性化された酸素を含むガスとを供給し、前記半導体基板上にシリコン酸化物からなる絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の半導体装置の製造方法において、
前記絶縁膜の形成工程は、前記SiN系保護膜上に前記絶縁膜の膜厚より薄くなるように前記シリコン酸化物を堆積させ、前記シリコン酸化物の堆積層を介して前記SiN系保護膜を酸化した後、前記シリコン酸化物を前記絶縁膜の膜厚となるように堆積させる工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の半導体装置の製造方法において、
前記Si含有分子による吸着層、もしくは前記SiN系保護膜は、前記半導体素子部を覆うシリコン窒化膜上に形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−93148(P2010−93148A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263420(P2008−263420)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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