説明

堆積膜形成方法

【課題】膜厚や膜特性の均一性に優れた堆積膜を歩留まり良く形成する方法。
【解決手段】底部材および蓋部材ならびに底部材および蓋部材から絶縁されている壁部材からなる反応容器の中に基体および基体を保持している基体ホルダを入れ、基体ホルダの一端と底部材とを電気的に接続し、基体ホルダの他端と蓋部材とを電気的に接続する工程(i)と、蓋部材、基体ホルダおよび底部材からなる電気が伝わる経路の電気抵抗値を測定する工程(ii)とをこの順に有し、電気抵抗値が所定値以下である場合、底部材および蓋部材を反応容器の外部で電気的に接続し、反応容器に堆積膜形成用原料ガスを導入し、反応容器に導入された堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して基体上に堆積膜を形成する工程(iii)に進み、電気抵抗値が所定値を超える場合、工程(iii)に進まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応容器に導入された堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して基体上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来非単結晶材料で構成された半導体用の堆積膜が提案され、実用に供されている。例えば水素およびハロゲン(例えばフッ素、塩素)の少なくとも一方で補償されたアモルファスシリコンが光受容部材として用いられている。このような光受容部材は、例えば半導体デバイス、電子写真感光体、画像入力用ラインセンサ、撮像デバイス、光起電力デバイス、その他各種エレクトロニクス素子、光学素子に用いることができる。
【0003】
上述の堆積膜を利用した電子写真感光体は、電子写真装置のデジタル化・カラー化に伴い、堆積膜の均一性と画像欠陥の低減とが従来以上に求められている。特に高画質なカラー電子写真装置は階調性が著しく向上したため、従来は実用上問題とはならなかった堆積膜の不均一性が形成画像に視覚可能なむらを生じさせる可能性がでてきた。そのため基体の長手方向での膜特性の均一性の向上が求められている。
【0004】
特許文献1には堆積膜形成装置内のプラズマ処理の基板長手方向での均一性を向上させた堆積膜形成装置が提案されている。この堆積膜形成装置は減圧可能な反応容器と、前記反応容器内に設置される、基体を装着するための基体ホルダと、前記基体ホルダの長手方向の一端側を保持し、前記反応容器と電気的に接続された基体ホルダ保持手段とを有している。前記反応容器内に導入された堆積膜形成用の原料ガスを励起させることで励起種を生成して前記基体上に堆積膜を形成している。
【0005】
前記反応容器は導電性棒状体を備え、前記導電性棒状体は、前記基体ホルダの長手方向に移動または伸縮して、前記基体ホルダ保持手段が配置されている前記一端側とは逆側となる前記基体ホルダの他端側に位置する前記反応容器に電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−031363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の堆積膜形成装置を使用した堆積膜形成方法では、前記導電性棒状体と前記反応容器とが接触しているにもかかわらず、必ずしも電気的接続が十分ではない状態で堆積膜が形成されてしまう場合があった。このような状態で堆積膜を形成するとプラズマが十分に均一に形成されず、基板長手方向の膜厚や膜特性が十分に均一にはならない場合があった。このような膜厚や膜特性が不均一な不良品の発生は堆積膜の歩留まりを損なう原因となっていた。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであり、膜厚や膜特性の均一性に優れた堆積膜を歩留まり良く安定して形成することができる堆積膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、底部材および蓋部材ならびに該底部材および該蓋部材から絶縁されている壁部材からなる反応容器の中に基体および該基体を保持している基体ホルダを入れ、該基体ホルダの一端と該底部材とを電気的に接続し、該基体ホルダの他端と該蓋部材とを電気的に接続する工程(i)と、該蓋部材、該基体ホルダおよび該底部材からなる電気が伝わる経路の電気抵抗値を測定する工程(ii)とをこの順に有する堆積膜形成方法であって、該工程(ii)で測定して得られた該電気抵抗値が所定値以下である場合、該底部材および該蓋部材を該反応容器の外部で電気的に接続し、該反応容器に堆積膜形成用原料ガスを導入し、該反応容器に導入された該堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して該基体上に堆積膜を形成する工程(iii)に進み、該工程(ii)で測定して得られた該電気抵抗値が所定値を超える場合、該工程(iii)に進まないことを特徴とする堆積膜形成方法である。
【発明の効果】
【0010】
堆積膜形成装置内のプラズマ強度の基体長手方向での均一性を向上し、膜厚や膜特性の均一性に優れた堆積膜を歩留まり良く安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る堆積膜形成装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る堆積膜形成装置のさらなる一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る堆積膜形成装置の接続体の詳細を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の具体的な実施形態について図面を参照して説明する。図1および図2は本発明の堆積膜形成方法に適用することができる堆積膜形成装置1の一例を示す模式的な断面図である。
【0013】
(工程(i))
本発明は堆積膜を形成する工程に先立って、底部材2および蓋部材3ならびに該底部材および該蓋部材から絶縁されている壁部材4からなる反応容器20の中に基体7および該基体を保持している基体ホルダ8を入れ、該基体ホルダの一端と該底部材とを電気的に接続し、該基体ホルダの他端と該蓋部材とを電気的に接続する工程(i)を有することを特徴とする。図1および2に示すように、底部材2、および蓋部材3、ならびに底部材2および蓋部材3から絶縁体5および6により絶縁されている壁部材4から反応容器20が構成されている。底部材2は架台31に支持され接地されている。本発明の堆積膜形成方法に適用することができる堆積膜形成装置1は従来と異なり、蓋部材3が常態的には接地されていないことを特徴とする。
【0014】
蓋部材3を開き、基体7および基体7を保持している基体ホルダ8を反応容器20の中に入れ、基体ホルダ8の底部に位置する一端をホルダ受け部材10に嵌合させる。ホルダ受け部材10の嵌合部にはステンレス製の弾性部材12が装備されており、弾性部材が基体ホルダ8の内周面に押し当てられることによりホルダ受け部材10と電気的に接続される。
【0015】
ホルダ受け部材10と底部材2は電気的に接続されているため、基体ホルダ8の底部に位置する一端は底部材2と電気的に接続される。ホルダ受け部材10は不図示の回転機構により回転するようにしてもよい。
【0016】
基体ホルダ8が保持する基体7および補助基体9は基体ホルダ8と電気的に接続されており、これらが全体として基体ホルダセット60を構成している。基体ホルダセット60は高周波電力が投入される壁部材2の対向電極となる。必要に応じて基体7、補助基体9、および基体ホルダ8が互いに十分に導通が確保されているか確認してもよい。
【0017】
基体ホルダ8をホルダ受け部材10に嵌合させると同時に、基体ホルダ8の頭部に位置する他端が接続体42と嵌合する。接続体42と導電性棒状体40は電気的に接続されているため、基体ホルダ8の頭部に位置する他端は導電性棒状体40と電気的に接続される。
【0018】
次に蓋部材3を閉じ、導電性棒状体40を移動装置41により上方に移動または伸長させ、導電性棒状体40と蓋部材3を接触させる。これにより、蓋部材3、導電性棒状体40、接続体42、基体ホルダセット60、ホルダ受け部材10および底部材2からなる電気が伝わる経路が形成される。
【0019】
移動装置41として、空圧、油圧、水圧を用いたシリンダ機構による駆動方式や、電動モータ駆動のボールネジ機構を用いた駆動方式を用いることができる。
【0020】
図3に接続体42の詳細を示す。接続体42はすべて導電性の材料で構成されており、反応容器20の底部材2に固定された筒状の支持体48の上部に取り付けられている。接続体42は、支持体48に固定された台座50と、台座50の上に弾性体51を介して配置された間座52と、基体ホルダ8の上面46に設けられた開口部と嵌合し基体ホルダ8とつれ回りする接続部54を有している。間座52と接続部54の間には導電性の摺動体53が配置されている。また、接続部54と導電性棒状体40の間には導電性の摺動体55が配置されている。なお、本実施形態では導電性棒状体40および支持体48は底部材2に対して電気的に絶縁されている。
【0021】
摺動体53、55は、板バネ、ワイヤブラシ、渦巻きバネ、ベアリングの如き金属製のもの、窒化硼素、黒鉛、二硫化タングステンの如き固体潤滑材が使用可能である。なかでも、発塵や高温下での密着性、繰り返し使用時の耐久性の点からベアリングや固体潤滑材が好ましい。また、導電性棒状体40の先端部分は接触子47で構成されている。接触子47は導電性の材料であり交換可能になっている。
【0022】
(工程(ii))
本発明は堆積膜を形成する工程に先立って、基体ホルダの一端と底部材とを電気的に接続し、基体ホルダの他端と蓋部材とを電気的に接続する工程(i)の後に、蓋部材3、基体ホルダセット60、および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気抵抗を測定する工程(ii)を有することを特徴とする。本実施形態においては蓋部材3、基体ホルダ8との間に導電性棒状体40および接続体42が介在している。また基体ホルダ8と底部材2との間に、ホルダ受け部材10と弾性部材12が介在している。この時点では蓋部材3は基体ホルダセット60を介してのみ底部材2に電気的に接続している。電気抵抗を測定する工程は以下のように実施することができる。
【0023】
図1に示す第1の実施形態では、抵抗測定器39のプローブ43を蓋部材3および底部材2に接触させることにより、蓋部材3、基体ホルダセット60、および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気抵抗を測定する。
【0024】
図2に示す第2の実施形態では、蓋部材3は支持アーム34に支持され、かつ電気的に接続されている。支持アーム34は支持柱32に支持され、かつ絶縁スリーブ33により支持柱32と電気的に絶縁されている。架台31は支持柱32および反応容器20の底部材2を支持している。これらは電気的に接続され接地されている。
【0025】
スイッチ36は支持アーム34と支持柱32との間を電路35及び37で電気的に接続する経路Aと、電路35、38および抵抗測定器39により電気抵抗を測定する経路Bを選択することができる。スイッチ36で経路Bを選択することにより、蓋部材3、基体ホルダセット60、および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気抵抗を測定する。
【0026】
電気抵抗値が所定値以下である場合には堆積膜を形成する工程(iii)に進む。特に電気抵抗値が10Ω以下の場合、蓋部材3、基体ホルダセット60、および底部材2が均一なプラズマを形成ために十分な電気的な接続状態となっており、略同電位であるとみなすことができる。本発明では高周波電力が投入される壁部材2の対向電極となる基体ホルダセット60が反応容器20の内部で十分に接地されたことが確認された状態で堆積膜を形成する工程が実施される。その結果、常にプラズマが安定して均一に生成され膜厚や膜特性の均一性に優れた堆積膜を形成することができる。
【0027】
電気抵抗値が所定値を超える場合には堆積膜を形成する工程(iii)に進まない。特に電気抵抗値が10Ωを超える場合、蓋部材3、導電性棒状体40、接続体42、基体ホルダセット60、ホルダ受け部材10および底部材2からなる電気が伝わる経路のどこかに電気的な接続が不十分な部位があると推測される。摺動または反復的な押し当てを受ける部材は消耗により経時的に物理的な状態が変化していく場合がある。したがって摺動部または反復的な押し当て部を介した電気的な接続の状態は必ずしも安定しているとみなすことはできず、この点に着目して本発明らは本発明を考案するに至った。
【0028】
高周波電力が投入される壁部材2の対向電極となる基体ホルダセット60が蓋部材3および底部材2と電気的な接続が不十分で同電位と見なすことができない状態で堆積膜を形成する工程を実施するとプラズマの生成が不均一となり、膜厚や膜特性の不均一を生じる。そこで、本発明では電気抵抗値が所定値を超える場合には堆積膜を形成する工程(iii)に進まないことにより、膜厚や膜特性の不均一な不良品の発生を未然に防ぎ生産の歩留まり低下を抑制することができる。
【0029】
電気抵抗値が所定値を超える場合には反応容器20から基体ホルダ8を取り出し電気的な接続が不十分な個所を修繕し、再度工程(i)からやり直すことができる。電気的な接続が不十分になる可能性がある部位は、例えば弾性部材12、弾性部材12が押し当てられて接触する基体ホルダ8の内周面、摺動体55、摺動体55が摺動接触する導電性棒状体40、接触子47、接触子47が押し当たって接触する蓋部材3が考えられる。また、ホルダ受け部材10が回転可能に構成されている場合、回転駆動機構と底部材2の接触部も電気的な接続が不十分になる可能性がある。これらの部材を交換するかまたは部分的に研磨紙で研磨するなどの方法により電気的な接続が不十分な個所を修繕することができる。
【0030】
電気抵抗を測定する工程(ii)は基体ホルダ8をヒータ11で加熱し、堆積膜を形成する工程と略同じ温度で実施することが好ましい。また、ホルダ受け部材10を回転しながら堆積膜を形成する場合、堆積膜を形成する工程と略同じ回転速度でホルダ受け部材10を回転しながら実施することが好ましい。なぜなら、加熱または回転時の電気的接続は常温、静止時と異なる可能性があるからである。回転時には測定される電気抵抗が振れる場合があり、この場合には抵抗値の振れ幅の最大値が所定値を超えるかどうかで判断する。すなわち、本発明の堆積膜形成方法においては、電気抵抗値を測定する工程(ii)における基体ホルダの加熱状態または回転状態は、堆積膜を形成する工程(iii)における基体ホルダの加熱状態または回転状態と略同一の状態とすることを特徴としている。
【0031】
また、特に蓋部材3と導電性棒状体40の電気的接続に着目して電気抵抗を測定する工程(ii)を実施する場合には、導電性棒状体40および支持体48は底部材2に対して電気的に接続された状態で実施してもよい。
【0032】
(工程(iii))
本発明の堆積膜の形成工程である工程(iii)ではまず底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続する。工程(ii)において蓋部材3、基体ホルダセット60、および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気的な接続は確立される。しかしながら、蓋部材3と底部材2の電気的な接続が反応容器20の内部だけでなされただけの状態で堆積膜を形成すると膜厚や膜特性が十分には均一にはならない場合がある。そのため、底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続することが必要である。
【0033】
すなわち、底部材2と蓋部材3が反応容器20の内部および外部の両方の経路で電気的に十分に接続されることにより、シリンダ上の電位勾配が緩和され常にプラズマが安定して均一に生成され膜厚や膜特性の均一性に優れた堆積膜を形成することができる。
【0034】
図1に示す第1の実施形態ではプローブ43を蓋部材3と底部材2から離し、代わりに別に用意してあるアーシングケーブル44を蓋部材3と底部材2のそれぞれに設けられた端子45に接続する。これにより底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続する。
【0035】
図2に示す第2の実施形態ではスイッチ36で経路Aを選択することにより底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続する。
【0036】
次に反応容器20に堆積膜形成用原料ガスを導入し、反応容器20に導入された堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して基体上に堆積膜を形成する。堆積膜の形成が終了したら基体7を保持している基体ホルダ8を反応容器20から取り出し、必要に応じて反応容器20内に堆積した堆積膜および粉状の副生成物をクリーニング処理する。底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続する状態を解除し、再度工程(i)から実施することができる。
【0037】
堆積膜を複数層にわたって積層する場合は工程(iii)に続けて、ある層の堆積膜を形成後、底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続する状態を一旦解除し、次の層の堆積膜を形成する前に再度電気抵抗を測定する工程(iv)を実施してもよい。電気抵抗値が所定値以下である場合には次の層の堆積膜を形成する工程(v)に進むことができる。電気抵抗値が所定値を超える場合には次の層の堆積膜を形成する工程(v)に進まないことにより、次の層以降の堆積膜形成にかかる時間や原料を無駄にすることがなくなり、全体として不具合発生時の損害を抑制することができる。また、工程(iv)及び工程(v)を複数回繰り返して実施することもできる。
【0038】
なお、工程(ii)及び工程(iv)において導電性棒状体40および支持体48は底部材2に対して電気的に絶縁された状態で実施した場合であっても、工程(iii)及び工程(v)においては導電性棒状体40および支持体48は底部材2に対して電気的に接続された状態で実施してもよい。
【0039】
以下、堆積膜を形成する工程を図1を参照して説明する。まず、真空ポンプユニット(不図示)により排気口27から排気配管28を通じて反応容器20内を排気する。排気された反応容器20内に、ミキシング装置23、原料ガス流入バルブ24、接続配管25および原料ガス導入管26を介して、基体7の加熱に必要なAr、He等のガスを導入する。そして、反応容器20内を所定の圧力になるように、真空計30を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の排気速度を調整する。この調整は、例えば、真空ポンプユニット(不図示)のメカニカルブースターポンプの回転周波数を調整することによって行うことができる。次に、所定の圧力になった後、基体加熱用のヒータ11により基体7の温度を例えば200℃〜450℃、より好ましくは250℃〜350℃の温度に制御する。
【0040】
堆積膜形成用の複数の原料ガスをミキシング装置23を介して混合して、原料ガス導入管26を介して反応容器20内に導入する。その際、反応容器20内が例えば13.3mPa〜1330Paの所望の圧力になるように、真空計30を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の排気速度を調整する。この調整は、前記したように、真空ポンプユニット(不図示)のメカニカルブースターポンプの回転周波数を調整することによって行うことができる。
【0041】
堆積膜形成時に使用する主原料ガスとしては、例えばシラン(SiH)、ジシラン(Si)のごときアモルファスシリコン形成用の原料ガス、またはそれらの混合ガスを用いることができる。希釈ガスとしては、例えば水素(H)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)を用いることができる。また、特性改善ガスとして、窒素原子を含むもの、酸素原子を含むもの、炭素原子を含むもの、またはフッ素原子を含むもの、あるいはこれらの混合ガスを併用してもよい。この際に用いる窒素原子を含むものとしては、例えば窒素(N)、アンモニア(NH)が挙げられる。酸素原子を含むものとしては、例えば酸素(O)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、酸化二窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)が挙げられる。炭素原子を含むものとしては、例えばメタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、アセチレン(C)、プロパン(C)が挙げられる。フッ素原子を含むものとしては、例えば四フッ化珪素(SiF)、六フッ化二珪素(Si)が挙げられる。また、ジボラン(B)、フッ化硼素(BF)、フォスフィン(PH)などの特性改善ガスを同時に放電空間に導入してもよい。
【0042】
次に、反応容器20内の圧力が安定した後、高周波電源22を所望の電力に設定して、高周波電力を高周波マッチングボックス21を介して壁部材4に供給することにより、壁部材4と、接地されている基体ホルダセット60との間に高周波グロー放電が生起する。供給電力は、例えば、RF帯、特に13.56MHzの周波数とすることができる。この放電エネルギーによって、反応容器20内に導入された堆積膜形成用ガスが励起されて励起種が生成され、すなわち分解されて、基体7上に所望のシリコン原子を主成分とする堆積膜が形成される。
【0043】
以上のようにして基体7の外周面上に堆積膜が形成される。堆積膜が形成された後には、堆積膜形成用の原料ガスおよび高周波電力の供給および基体の加熱を停止し、反応容器20内を排気する。その後、反応容器20、原料ガス導入管25内をパージガス、例えは、Ar、He、Nのごとき不活性なガスを用いてパージ処理する。パージ処理完了後、基体7が所望の温度(例えば、室温)まで下がったら、基体7が装着された基体ホルダ8を反応容器20内から搬出する。
【0044】
その後に、必要に応じて、手順としては、まず、クリーニング用ダミー基体を装着した基体ホルダ8を反応容器20内に搬入し、真空ポンプユニット(不図示)により反応容器20内を排気する。続いて、反応容器20内にミキシング装置23および原料ガス導入管25を介してクリーニング処理に必要なクリーニング性ガスを導入する。そして、反応容器20内を所定の圧力になるように真空計30を確認しながら真空ポンプユニット(不図示)の排気速度を調整する。この調整は、前記したように、真空ポンプユニット(不図示)のメカニカルブースターポンプの回転周波数を調整することによって行うことができる。
【0045】
クリーニング処理時に使用するクリーニング性ガスとしては、例えばCF、CFとOの混合ガス、SF、NF、ClF(三フッ化塩素)が挙げられる。また、本実施形態においては、クリーニング性ガスの濃度を調整するためにも、希釈用の不活性ガスを用いることが有効である。この不活性ガスとしては、例えばHe、Ne、Arが挙げられるが、なかでもArを用いることが好ましい。
【0046】
反応容器20内の圧力が安定した後、高周波電源22を所望の電力に設定して、高周波電力を高周波マッチングボックス21を介して壁部材4に供給することにより、反応容器20内に高周波グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって、反応容器20内に導入されたクリーニング性ガスが分解され、堆積膜および副生成物と反応して反応ガスが排気されて反応容器20内がクリーニング処理される。
【0047】
次に、クリーニング処理後に高周波電力の供給を停止し、反応容器20内を排気する。その後、反応容器20、原料ガス導入管25内をパージガス、例えは、Ar、He、Nのごとき不活性なガスを用いてパージ処理する。パージ処理完了後、クリーニング用のダミー基体が所望の温度(例えば、室温)まで下がったら、クリーニング用のダミー基体が装着された基体ホルダ8を反応容器20内から搬出する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の説明では上述した実施形態において示したのと同じ部分に対しては同じ符号を用いて説明する。
【0049】
(実施例1)
図2に示す堆積膜形成装置1を用いて電子写真感光体の堆積膜を形成した。抵抗測定器39としてデジタルマルチメーター(FULUKE社製 型番8808A)を用いた。図3に示す接続体42の摺動体53および55として二硫化タングステンからなる固体潤滑剤(富士ダイス株式会社製 型番FWD−430L)を用いた。
【0050】
まず工程(i)として、前記した手順で基体および基体を保持している基体ホルダ8を反応容器20内に設置して底部材2と電気的に接続した。そして導電性棒状体40をエアシリンダからなる移動装置41で上方に移動させて蓋部材3と接触させることにより、基体ホルダ8を蓋部材3と電気的に接続した。
【0051】
次に反応容器20の内部をアルゴン(Ar)で置換し、Arを1500sccmの流量で反応容器20内に導入し、内圧60Paとなるように真空ポンプユニット(不図示)の排気速度を調整した。ヒータ11に通電して基体7の温度が250℃となるように制御した。不図示の回転手段によりホルダ受け部材10を2rpmの回転速度で回転させた。
【0052】
次に工程(ii)として、スイッチ36で経路Bを選択し、蓋部材3、導電性棒状体40、接続体42、基体ホルダセット60、ホルダ受け部材10および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気抵抗を抵抗測定器39で測定した。電気抵抗値が10Ω以下である場合には堆積膜を形成する工程(iii)に進んだ。10Ωを超える場合には工程(iii)には進まず、反応容器20から基体ホルダ8を取り出し電気的な接続が不十分な個所を修繕し、再度工程(i)からやり直した。
【0053】
工程(iii)に進む場合、まずスイッチ36で経路Aを選択することにより底部材2および蓋部材3を反応容器20の外部で電気的に接続した。次に反応容器20に堆積膜形成用原料ガスを導入した。反応容器20に導入された堆積膜形成用原料ガスを高周波電力により励起させて励起種を生成し基体7の上に表1に示す条件で下部阻止層、光導電層、表面層のシリコン堆積膜をそれぞれ形成して電子写真感光体を作製した。基体ホルダ8を反応容器20から取り出し、反応容器20内に堆積した堆積膜および粉状の副生成物はClF(三フッ化塩素)を用いてクリーニング処理した。最後にスイッチ36で経路Bを選択することにより、底部材2および蓋部材3が反応容器20の外部で電気的に接続している状態を解除した。
【0054】
【表1】

【0055】
(実施例2)
実施例1における堆積膜を形成する工程(iii)において、下部阻止層を形成したのち一旦高周波電力の印加を中断し、スイッチ36で経路Bを選択することにより、底部材2および蓋部材3が反応容器20の外部で電気的に接続している状態を解除した。次に工程(iv)として、蓋部材3、導電性棒状体40、接続体42、基体ホルダセット60、ホルダ受け部材10および底部材2からなる電気が伝わる経路の電気抵抗を抵抗測定器39で測定した。電気抵抗値が10Ω以下である場合には光導電層および表面層となる堆積膜を形成する工程(v)に進み電子写真感光体を作製した。10Ωを超える場合には工程(v)には進まず、反応容器20から基体ホルダ8を取り出し電気的な接続が不十分な個所を修繕し、再度工程(i)からやり直して電子写真感光体を作製した。実施例1と同様に反応容器20内部をクリーニング処理し、最後にスイッチ36で経路Bを選択することにより、底部材2および蓋部材3が反応容器20の外部で電気的に接続している状態を解除した。
【符号の説明】
【0056】
1 堆積膜形成装置
2 底部材
3 蓋部材
4 壁部材
5、6 絶縁体
7 基体
8 基体ホルダ
10 ホルダ受け部材
39 抵抗測定器
40 導電性棒状体
42 接続体
43 プローブ
44 アーシングケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部材および蓋部材ならびに該底部材および該蓋部材から絶縁されている壁部材からなる反応容器の中に基体および該基体を保持している基体ホルダを入れ、該基体ホルダの一端と該底部材とを電気的に接続し、該基体ホルダの他端と該蓋部材とを電気的に接続する工程(i)と、
該蓋部材、該基体ホルダおよび該底部材からなる電気が伝わる経路の電気抵抗値を測定する工程(ii)と
をこの順に有する堆積膜形成方法であって、
該工程(ii)で測定して得られた該電気抵抗値が所定値以下である場合、該底部材および該蓋部材を該反応容器の外部で電気的に接続し、該反応容器に堆積膜形成用原料ガスを導入し、該反応容器に導入された該堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して該基体上に堆積膜を形成する工程(iii)に進み、
該工程(ii)で測定して得られた該電気抵抗値が所定値を超える場合、該工程(iii)に進まない
ことを特徴とする堆積膜形成方法。
【請求項2】
前記電気抵抗値を測定する工程(ii)を、前記基体ホルダを加熱した状態で実施する請求項1に記載の堆積膜形成方法。
【請求項3】
前記堆積膜を形成する工程(iii)を、前記基体ホルダを加熱した状態で実施し、かつ、前記堆積膜を形成する工程(iii)における前記基体ホルダの加熱状態を、前記電気抵抗値を測定する工程(ii)における基体ホルダの加熱状態と略同一の状態とする請求項2に記載の堆積膜形成方法。
【請求項4】
前記電気抵抗値を測定する工程(ii)を、前記基体ホルダを回転した状態で実施する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の堆積膜形成方法。
【請求項5】
前記堆積膜を形成する工程(iii)を、前記基体ホルダを回転した状態で実施し、かつ、前記堆積膜を形成する工程(iii)における前記基体ホルダの回転状態を、前記電気抵抗値を測定する工程(ii)における基体ホルダの回転状態と略同一の状態とする請求項4に記載の堆積膜形成方法。
【請求項6】
前記堆積膜を形成する工程(iii)の後で、前記底部材および前記蓋部材を前記反応容器の外部で電気的に接続した状態を解除し、前記蓋部材、前記基体ホルダおよび前記底部材からなる電気が伝わる経路の電気抵抗値を測定する工程(iv)を実施し、
該工程(iv)で測定して得られた該電気抵抗値が所定値以下である場合、該底部材および該蓋部材を該反応容器の外部で電気的に接続し、該反応容器に堆積膜形成用原料ガスを導入し、該反応容器に導入された該堆積膜形成用原料ガスを励起させて励起種を生成して該基体上に堆積膜を形成する工程(v)に進む
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の堆積膜形成方法。
【請求項7】
前記電気抵抗値の所定値が10Ωである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の堆積膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60626(P2013−60626A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199707(P2011−199707)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】