説明

操舵支援装置

【課題】隣接車両の回避時に操舵支援制御を継続しつつ運転者の操舵入力との干渉を低減した操舵支援装置を提供する。
【解決手段】走行車線内の目標走行位置(Xc,Z)を自車両が走行するよう操舵機構10へ操舵トルクτを付与する操舵支援装置において、自車両前方の環境を認識する環境認識手段110と、目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段130と、隣接車両を検出する隣接車両検出手段140と、隣接車両の自車両に対する接近度を算出する接近度算出手段150と、運転者による操舵方向及び入力トルクを検出する操舵操作検出手段160と、自車両が目標走行位置を走行するよう操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵制御手段190とを備え、操舵制御手段は、操舵方向が隣接車両から遠ざかる方向である場合、接近度及び入力トルクに応じて隣接車両へ近づく方向への操舵トルクを低減する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられ、所定の目標走行位置を自車両が走行するよう支援する操舵支援装置に関し、特に、隣接車両の追い抜き時等における運転者の回避操作との干渉を低減したものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、カメラ等を用いて自車両前方の車線を認識し、操舵機構に操舵トルクを付与して車両を車線内に維持して走行させる操舵支援装置が知られている。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、車線とは典型的には左右一対の白線等に挟まれた自車両の走行レーンを指すものとする。
操舵支援装置は、例えば、車線の中央部に目標走行位置を設定し、目標走行位置から自車両がずれた場合には、その変位量に応じて復元方向への操舵力を発生する車線維持支援制御を行う。
例えば、特許文献1には、ステレオカメラを用いて自車両前方の白線形状を認識し、その中央部に目標走行位置を設定して、車両の操舵支援制御を行うとともに、車線幅の変更等に応じて目標走行位置を補正する車線追従支援装置等が記載されている。
【0003】
また、自車両の走行車線と隣接する車線を走行する他車両と並走したり、追い抜く場合には、他車両との間隔を多くとるため運転者が意図的に目標走行位置から離れた位置を走行したい場合がある。このような場合に、通常の操舵支援制御を継続した場合、運転者の操舵操作との干渉が生じて運転者に違和感を与えてしまう。
これに対し、例えば特許文献2には、車線逸脱防止装置及び車線追従支援装置において、車両前方の立体物と車線位置との関係に基づいてドライバが意図的に車線を逸脱しようとしているか判定し、この判定が成立した場合には操舵支援制御を停止することが記載されている。
【特許文献1】特開2007−261449号公報
【特許文献2】特開2007−264717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、隣接車から離れる方向に回避しつつ隣接車両と並走し続けることは稀であって、通常は追い抜き後短時間のうちに車線中央を走行する通常の走行に復帰することが多い。この場合、運転者は操舵支援制御の継続を望む場合が多いと考えられ、隣接車両を検出する都度制御がキャンセルされると、煩わしい感覚を与えてしまい利便性が損なわれる。
本発明の課題は、隣接車両の回避時に操舵支援制御を継続しつつ運転者の操舵入力との干渉を低減した操舵支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、走行車線内の目標走行位置を自車両が走行するよう操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵支援装置において、自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、前記環境認識手段を用いて自車両の走行車線内に前記目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段と、前記環境認識手段を用いて自車両の前方で自車両の走行車線と隣接して走行する隣接車両を検出する隣接車両検出手段と、前記隣接車両の自車両に対する接近度を算出する接近度算出手段と、運転者によるステアリング操作の操舵方向及び入力トルクを検出する操舵操作検出手段と、前記目標走行位置と自車両との横位置偏差に基づいて自車両が前記目標走行位置を走行するよう前記操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵制御手段とを備え、前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、前記接近度及び前記入力トルクに応じて前記隣接車両へ近づく方向への前記操舵トルクを低減することを特徴とする操舵支援装置である。
【0006】
請求項2の発明は、前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両に近づく方向である場合、前記接近度及び前記入力トルクに応じて前記操舵トルクを増大すること
を特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置である。
【0007】
請求項3の発明は、前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向であり、かつ前記接近度が所定の接近度閾値以上であり、かつ前記入力トルクが所定のトルク閾値以上である場合に、前記操舵トルクを低減することを特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置である。
【0008】
請求項4の発明は、前記接近度算出手段は、前記隣接車両の左右端部を検出し、自車両の走行車線のうち前記隣接車両側の走行車線端と前記隣接車両の自車両側の端部との横方向の距離に基づいて前記接近度を算出することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の操舵支援装置である。
【0009】
請求項5の発明は、自車両の走行路の横方向における勾配を検出するカント検出手段を備え、前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、さらに前記勾配に応じて前記隣接車両へ近づく方向への前記操舵トルクを低減することを特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置である。
【0010】
請求項6の発明は、運転者からの減速操作を検出する減速操作検出手段を備え、前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、前記減速操作の検出時には非検出時よりも前記操舵トルクを低減することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の操舵支援装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)運転者による操舵方向が隣接車両から遠ざかる方向でありかつ入力トルクが大きい場合は、運転者が隣接車両を回避するために目標走行位置から意図的に離れようとしているものとして、目標走行位置へ復元するよう隣接車両へ近づく方向に作用する操舵トルクを低減することによって、運転者の操舵操作に対する干渉を低減し、操舵支援制御を継続した場合にも運転者に与える煩わしさや違和感を軽減することができる。
また、操舵トルクを低減する度合を、接近度が大きい(隣接車両が近い)場合に大きくすることによって、運転者による回避動作をより容易にすることができる。
【0012】
(2)操舵方向が隣接車両に近づく方向である場合、接近度及び入力トルクに応じて操舵トルクを増大することによって、隣接車両への衝突を防止して安全性を向上することができる。
(3)操舵方向が隣接車両から遠ざかる方向であり、かつ接近度が所定の接近度閾値以上であり、かつ入力トルクが所定のトルク閾値以上である場合に、自車両との接触リスクが高い隣接車両を運転者が意図的に回避しているものとして、操舵トルクを低減することにより運転者の操舵操作との干渉を防止することができる。
(4)接近度算出手段は、隣接車両の左右端部を検出し、自車両の走行車線のうち隣接車両側の走行車線端と隣接車両との自車両側の端部との横方向の距離に基づいて接近度を算出することによって、仮に自車両の車線逸脱が生じた場合の接触リスクを適切に検出することができる。
(5)カント検出手段を備え、操舵方向が隣接車両から遠ざかる方向である場合、さらに勾配に応じて隣接車両へ近づく方向への操舵トルクを低減することによって、カントによる車両の流れと操舵支援制御による操舵トルクとの相乗効果によって自車両が隣接車両側へ変位することを防止できる。
(6)減速操作検出手段を備え、操舵方向が隣接車両から遠ざかる場合、減速操作の検出時には、運転者による危険回避操作が行われている可能性が高いとして、操舵支援制御による操舵トルクを低減することによって、運転者による操作の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、隣接車両の回避時に操舵支援制御を継続しつつ運転者の操舵入力との干渉を低減した操舵支援装置を提供する課題を、自車両の走行車線端との距離が小さい隣接車両を検出し、かつ、運転者が所定値以上の入力トルクで隣接車両から離れる方向に操舵した場合には、意図的に回避操作が行われているものとして、操舵支援制御による操舵トルクを低減することによって解決した。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を適用した操舵支援装置の実施例について説明する。実施例の操舵支援装置は、例えば、前二輪を操舵する乗用車等の四輪自動車に備えられる。
図1は、実施例の操舵支援装置を含む車両のシステム構成を示す図である。
操舵支援装置は、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0015】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、運転者が操舵操作を入力する環状の操作部材である。
ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによってハウジングHを回転させ、操舵を行う。
【0016】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0017】
EPS制御ユニット20は、運転者の操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ21、舵角センサ22、トルクセンサ23等が接続されている。
電動アクチュエータ21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
舵角センサ22は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステアリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
トルクセンサ23は、電動アクチュエータ21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ23が検出するトルクは、運転者がステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。
【0018】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うものである。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34等が接続されている。
【0019】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横Gセンサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
【0020】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して前後のディファレンシャルへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
【0021】
また、実施例の操舵支援装置は、以下説明する操舵支援制御ユニット100を備えている。
操舵支援制御ユニット100は、上述したEPS制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60と、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して接続され、各種情報や信号を取得可能となっている。
【0022】
また、操舵支援制御ユニット100は、環境認識手段110、自車進行路推定手段120、目標走行位置設定手段130、隣接車両検出手段140、接近度算出手段150、操舵操作検出手段160、カント検出手段170、制動検出手段180、操舵制御手段190等を備えて構成されている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0023】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両の走行車線の形状や先行車、障害物等の形状、サイズ、位置等を認識するものである。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
【0024】
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して環境認識手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0025】
環境認識手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0026】
環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状、及び、先行車両の位置、形状、サイズ等を認識する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
図2は、自車両、車線(白線)、走行目標位置及び自車進行路の平面的配置の一例を示す図である。
【0027】
環境認識手段110は、基準画像のデータから、画素の輝度データに基づいて白線L部分の画素群を検出する。自車両に対する白線L部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を車線の輪郭として認識する。そして、当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
そして、環境認識手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
【0028】
また、環境認識手段110は、先行車両についても白線と同様に方位及び距離を検出するが、先行車両の距離の検出には、画像データと併せて、あるいは画像データに代えてミリ波レーダ等のレーダを用いてもよい。
そして、環境認識手段110は、先行車両に係る画像データから輪郭を抽出し、車幅方向における左右両端点の画素を抽出する。
【0029】
自車進行路推定手段120は、環境認識手段110からの情報、舵角センサ22、車速センサ32、ヨーレートセンサ33等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車両の進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の横位置を算出する。注視距離Zは、自車両前方の所定の距離であって、例えば自車両が数秒後(例えば約2秒程度)に到達する位置に設定される。
自車両の重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車進行路の横位置Xeは、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0030】
目標走行位置設定手段130は、自車両の目標走行位置を設定するものである。目標走行位置は、例えば、注視距離Zにおける車線幅の中央部(左右白線までの横位置が等しくなる点)に設定される。ただし、目標走行位置の設定箇所は、車線幅の中央部に限らず、適宜変更が可能である。
【0031】
隣接車両検出手段140は、環境認識手段110を用いて自車両の走行車線と隣接する車線(隣接車線)を走行する先行車(隣接車両)を検出するものである。具体的には、画像データにおける隣接車線上に所定の特徴を具備する像が存在する場合に、この像を隣接車両の像として検出する。
図3は、自車両、車線、及び、隣接車両の平面的配置の一例を示す図である。図3に示す状態では、隣接車両LVは自車両OVの走行車線の右側の車線を走行している。このため、運転者が左側への操舵入力を行い、車両を車線維持制御における目標走行位置よりも左側へ進行させようとしている。(運転者意志経路が走行目標位置の左側へずれている。)
接近度算出手段150は、隣接車両検出手段140が検出した隣接車両の画像データを用いて、隣接車両の自車線側の端点と、自車両と隣接車両との間の白線との横方向距離d(図3参照)を算出する。この横方向距離dは、隣接車両の自車両走行車線への接近度合を示す度合(接近度)である。なお、ここで隣接車両の自車両側の端点として、隣接車両の画像を構成する画素のうち、水平方向における位置が最も自車両走行車線側の画素を用いることができる。また、隣接車両検出手段140及び接近度算出手段150は、先行車画像をパターン認識し、先行車画像内に占める位置及び色彩からウインカ(ターンシグナルランプ)やブレーキランプ、あるいはこれらをアセンブリ化したリアコンビネーションランプ等を抽出し、これらのうち一つを隣接車両の端点として用いることもできる。
【0032】
操舵操作検出手段160は、EPS制御ユニット20とCAN通信してトルクセンサ23の出力値を取得する。操舵操作検出手段160は、トルクセンサ23の出力値に基づいて、運転者がステアリングホイール11に対して入力した操舵操作の入力トルクを検出する。また、操舵操作検出手段160は、入力トルクの極性や舵角センサ22の出力等を用いて、操舵操作の方向を検出する機能を備えている。
【0033】
カント検出手段170は、車両が走行している路面の横方向の傾斜(カント)を検出するものである。カントは、例えば、車速、ヨーレート、横加速度に基づいて検出される。
カント検出手段170は、車速センサ32が検出した車速及びヨーレートセンサ33が検出したヨーレートに基づいて推定される推定横加速度と、横Gセンサ34が検出した実際の横加速度との差分に基づいて傾斜角を算出する。
制動検出手段180は、例えばHCU31が各車輪のブレーキのホイールシリンダに付与されるブレーキフルード圧力等を検出することによって、運転者による制動操作(減速操作)を検出するものである。
【0034】
操舵制御手段190は、自車進行路推定手段120、目標走行位置設定手段130、接近度算出手段150、操舵操作検出手段160、カント検出手段170、制動検出手段180等を用いて、操舵支援制御(車線追従支援制御)に係る目標操舵トルクを設定するものである。この目標操舵トルクの設定については、後に詳しく説明する。
そして、目標操舵トルクが設定されると、操舵制御手段190は、EPS制御ユニット20に対して指示を出し、電動アクチュエータ21を駆動させて操舵機構10に操舵トルクを付与させる。
【0035】
次に、実施例の操舵支援装置における車線追従支援制御について説明する。車線追従支援制御は、所定の注視距離における目標走行位置と自車両の推定進行路との横方向の偏差に応じてこの偏差を低減する方向への操舵トルクを発生させ、車両に目標走行位置(車線中央部)を走らせる制御である。具体的には、偏差及びこの偏差を三乗した値に、それぞれ所定のゲインを乗じた値を加算して電動アクチュエータ21が操舵機構10に付与する操舵トルクを算出する。
【0036】
以下、実施例の操舵支援装置における車線維持支援制御時の動作について説明する。
図4は、車線維持支援制御時の動作を示すフローチャートである。
図5は、図4におけるゲイン設定時のサブルーチンを示すフローチャートである。
先ず、図4の各ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS10:環境認識>
環境認識手段110は、ステレオカメラ111を用いて自車両の走行車線の形状を認識する。その後、ステップS20に進む。
<ステップS20:走行状態検出>
自車進行路推定手段120は、自車進行路の推定に必要な舵角、車速等の車両の走行状態に関する情報を取得する。その後、ステップS30に進む。
<ステップS30:自車進行路推定>
自車進行路推定手段120は、ステップS02で取得した情報を用いて、上述した式1により自車進行路を推定する。その後、ステップS40に進む。
<ステップS40:車線維持目標地点算出>
目標走行位置設定手段130は、車線維持目標地点(Xc,Z)を算出する。この車線維持目標地点は、自車両に対して所定の注視距離前方であって、車線幅の中央部に設定される。その後、ステップS50に進む。
【0037】
<ステップS50:自車進行路と車線維持目標地点との偏差Δe算出>
操舵制御手段190は、自車両から注視距離Z前方における自車進行路と車線維持目標地点との横方向偏差を式2の通り算出する。

Δe=Xc−Xe ・・(式2)

その後、ステップS60に進む。
【0038】
<ステップS60:ゲイン設定>
操舵制御手段190は、偏差Δe及びΔeの三乗値にそれぞれ対応するゲインを設定する。
以下、このゲイン設定について、図5の各ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS61:隣接車両有無判断>
操舵制御手段190は、隣接車両検出手段140を用いて、自車両に接近する隣接車両の有無を検出する。隣接車両が自車両に接近しているか否かの判断は、例えば、自車両から隣接車両までの距離の時間履歴をモニタすることによって、両者の相対速度を算出することによって行う。自車両に接近する隣接車両が有る場合はステップS62に進み、無い場合はステップS65に進む。
<ステップS62:隣接車両接近度判断>
操舵制御手段190は、接近度算出手段150が算出した隣接車両の自車線側端点と白線との距離dを所定の閾値d1(例えば、0.3m程度)と比較し、dがd1よりも小さい場合は接近度が大きいものとしてステップS63に進み、その他の場合はステップS65に進む。
【0039】
<ステップS63:トルクセンサ値判断>
操舵制御手段190は、操舵操作検出手段160を用いてトルクセンサ23の出力に基づいて算出される運転者からステアリングホイール11への入力トルク値であるトルクセンサ値Nを取得する。そして、このトルクセンサ値Nを所定の閾値N1(例えば、1.0N・m程度)と比較し、NがN1よりも大きい場合は、運転者が意図的に回避操作を行っているものと推定してステップS64に進み、その他の場合はステップS65に進む。
<ステップS64:操舵方向判断>
操舵制御手段190は、トルクセンサ値の極性から、運転者による操舵操作の方向を検出し、操舵操作方向が隣接車両から遠ざかる方向の場合はステップS66に進み、隣接車両に近づく方向の場合はステップS69に進む。
【0040】
<ステップS65:基本ゲイン>
操舵制御手段190は、予め設定された基本ゲインを設定する。その後、メインルーチンに復帰してステップS70に進む。
<ステップS66:ゲイン低下>
操舵制御手段190は、上述した基本ゲインに対して低下されたゲインを設定する。
図6は、基本ゲイン時及びゲイン低下時における偏差Δeと目標操舵トルクτとの相関を示すグラフである。図6(a)は偏差Δeに比例する1次成分を示し、図6(b)は偏差Δeの3乗に比例する3次成分を示している。なお、実際の目標操舵トルクは、これらの1次成分及び3次成分を合成し、さらにその他の付加的操舵トルクを加算して算出される。図6において、横軸はΔeを示し、縦軸は目標操舵トルクτを示している。ゲインの低下(1次のゲインをG1からG2へ、3次のゲインをG3からG4へ変更)により、同じΔeに対して、1次成分、3次成分ともに低下することがわかる。その後、ステップS67に進む。
【0041】
<ステップS67:カント補正>
操舵制御手段190は、自車両が走行中の路面に、隣接車両側が低く反隣接車両側が高いカントがあり、かつ、その傾斜角が所定値以上である場合には、ゲインをさらに所定値又は所定の割合だけ低下させる補正を行う。その後、ステップS68に進む。
<ステップS68:ブレーキ補正>
操舵制御手段190は、制動検出手段180によって検出されたブレーキフルード液圧が所定の閾値以上である場合は、運転者が危険回避等のための制動操作を行っているものとして、操舵制御手段190にゲインをさらに所定値又は所定の割合だけ低下させる補正を行う。その後、メインルーチンに復帰してステップS70に進む。
<ステップS69:ゲイン増加>
操舵制御手段190は、上述した基本ゲインに対して増加されたゲインを設定する。その後、メインルーチンに復帰してステップS70に進む。
【0042】
<ステップS70:操舵トルク設定>
操舵制御手段190は、以下の式3を用いて、目標操舵トルクτを設定する。

τ=G1X・Δe+G3X・Δe
=G1X・(Xc−Xe)+G3X・(Xc−Xe)・・(式3)
1X:1次ゲイン
3X:3次ゲイン

なお、実際にはこのような偏差に応じたフィードバック項のみではなく、例えば車線形状(自車両前方のカーブ曲率)に基づいて設定されるフィードフォワード制御による項を目標操舵トルクτに付加してもよい。その後、ステップS80に進む。
<ステップS80:操舵力発生>
操舵制御手段190は、ステップS70で設定した目標操舵トルクτに基づいて、EPS制御ユニット20に指示を出し、電動アクチュエータ21によって操舵機構10に対して操舵トルクを付与する。その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0043】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)運転者による操舵方向が隣接車両LVから遠ざかる方向でありかつ入力トルクが大きい場合は、運転者が隣接車両を回避するために目標走行位置から意図的に離れようとしているものとして、目標走行位置へ復元するよう隣接車両へ近づく方向に作用する操舵トルクτを低減することによって、運転者の操舵操作に対する干渉を低減し、操舵支援制御を継続した場合にも運転者に与える煩わしさや違和感を軽減することができる。
また、操舵トルクを低減する度合を、接近度が大きい(隣接車両LVが近い)場合に大きくすることによって、運転者による回避動作をより容易にすることができる。
【0044】
(2)操舵方向が隣接車両LVに近づく方向である場合、隣接車両と車線との距離d及び入力トルクNに応じて操舵トルクτを増大することによって、隣接車両LVへの衝突を防止して安全性を向上することができる。
(3)操舵方向が隣接車両LVから遠ざかる方向であり、かつ距離dが所定の閾値d1以下であり、かつ入力トルクNが所定のトルク閾値N1以上である場合に、自車両OVとの接触リスクが高い隣接車両LVを運転者が意図的に回避しているものとして、操舵トルクτを低減することにより運転者の操舵操作との干渉を防止することができる。
(4)隣接車両LVの左右端部を検出し、自車両の走行車線のうち隣接車両側の走行車線端(白線L)と隣接車両LVの自車両側の端部との横方向の距離dに基づいて接近度を算出することによって、仮に自車両OVの車線逸脱が生じた場合の接触リスクを適切に検出することができる。
(5)カント検出手段170を備え、操舵方向が隣接車両LVから遠ざかる方向である場合、さらに勾配に応じて隣接車両へ近づく方向への操舵トルクτを低減することによって、カントによる車両の流れと操舵支援制御による操舵トルクτとの相乗効果によって自車両OVが隣接車両LV側へ変位することを防止できる。
(6)減速操作検出手段180を備え、操舵方向が隣接車両から遠ざかる場合、減速操作の検出時には、運転者による危険回避操作が行われている可能性が高いとして、操舵支援制御による操舵トルクを低減することによって、運転者による操作の自由度を高めることができる。
【0045】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例ではステレオカメラによって環境認識を行う構成としたが、本発明はこれに限らず、例えば先行車の距離をミリ波レーダ、レーザレーダ、超音波等を用いて検出する構成としてもよい。また、自車両の走行車線に関する情報を、例えばナビゲーション装置用として準備された地図データから取得する構成としてもよい。
(2)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオン軸を駆動するピニオンアシストタイプ、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプ、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプ等であってもよい。
(3)隣接車両の自車両に対する接近度を算出する手法は、実施例のものに限定されず、適宜変更することができる。例えば、隣接車両の自車両側の端点を検出するものに限らず、隣接車両の重心位置等に基づいて接近度を算出してもよい。また、自車両走行車線側の基準位置も白線に限定されない。また、隣接車両の自車両側の端点を検出する場合、検出する手法も限定されない。
(4)自車両の走行路の横方向における勾配を検出する手法は、実施例のものに限定されず、他の手法を用いてもよい。同様に、減速操作を検出する手法も実施例のものに限定されず、例えば、ブレーキフルード液圧に代えてブレーキランプスイッチのオンオフに基づいて検出してもよい。また、車体に作用する加速度、車輪速の変化等に基づいて減速操作を検出してもよい。さらに、ブレーキを用いた減速に限らず、アクセルペダルの全閉操作や変速機のダウンシフト操作に基づいて減速操作を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した操舵支援装置の実施例を含む車両のシステム構成を示す図である。
【図2】自車両、車線、目標走行位置、及び、自車進行路の平面的配置の一例を示す図である。
【図3】自車両、車線、及び、隣接車両の平面的配置の一例を示す図である。
【図4】図1の操舵支援装置における車線維持支援制御時の動作を示すフローチャートである。
【図5】図4の動作におけるゲイン設定時のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図6】図1の操舵支援装置における偏差と操舵トルクとの相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御装置
21 電動アクチュエータ 22 舵角センサ
23 トルクセンサ 30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 40 エンジン制御ユニット
50 トランスミッション制御ユニット
60 車両統合ユニット
100 操舵支援制御ユニット 110 環境認識手段
111 ステレオカメラ 112 画像処理部
120 自車進行路推定手段 130 目標走行位置検出手段
140 隣接車両検出手段 150 接近度算出手段
160 操舵操作検出手段 170 カント検出手段
180 制動検出手段 190 操舵制御手段
OV 自車両 LV 隣接車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車線内の目標走行位置を自車両が走行するよう操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵支援装置において、
自車両前方の環境を認識する環境認識手段と、
前記環境認識手段を用いて自車両の走行車線内に前記目標走行位置を設定する目標走行位置設定手段と、
前記環境認識手段を用いて自車両の前方で自車両の走行車線と隣接して走行する隣接車両を検出する隣接車両検出手段と、
前記隣接車両の自車両に対する接近度を算出する接近度算出手段と、
運転者によるステアリング操作の操舵方向及び入力トルクを検出する操舵操作検出手段と、
前記目標走行位置と自車両との横位置偏差に基づいて自車両が前記目標走行位置を走行するよう前記操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵制御手段と
を備え、
前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、前記接近度及び前記入力トルクに応じて前記隣接車両へ近づく方向への前記操舵トルクを低減すること
を特徴とする操舵支援装置。
【請求項2】
前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両に近づく方向である場合、前記接近度及び前記入力トルクに応じて前記操舵トルクを増大すること
を特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項3】
前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向であり、かつ前記接近度が所定の接近度閾値以上であり、かつ前記入力トルクが所定のトルク閾値以上である場合に、前記操舵トルクを低減すること
を特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項4】
前記接近度算出手段は、前記隣接車両の左右端部を検出し、自車両の走行車線のうち前記隣接車両側の走行車線端と前記隣接車両の自車両側の端部との横方向の距離に基づいて前記接近度を算出すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の操舵支援装置。
【請求項5】
自車両の走行路の横方向における勾配を検出するカント検出手段を備え、
前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、さらに前記勾配に応じて前記隣接車両へ近づく方向への前記操舵トルクを低減すること
を特徴とする請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項6】
運転者からの減速操作を検出する減速操作検出手段を備え、
前記操舵制御手段は、前記操舵方向が前記隣接車両から遠ざかる方向である場合、前記減速操作の検出時には非検出時よりも前記操舵トルクを低減すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の操舵支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−102435(P2010−102435A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271988(P2008−271988)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】