説明

放電用電極体、放電用電極アセンブリおよび放電処理装置

【課題】 放電方向に均一な放電を発生させ、放電効率を高める構造を提供すること。
【解決手段】 放電用電極体9,10は電極2,3と電極2,3を覆う固体誘電体とを備えたものであって、固体誘電体の放電側表面が希土類元素を含む酸化物からなる。また、放電用電極アセンブリ100は、放電用電極体を2つ備えてなり、これら放電用電極体を対向させてなる。放電処理装置は、放電用電極アセンブリを用いてプラズマを発生させるようになしたものである。これらにより、放電効率が向上するとともに、放電用電極体の放電側表面のプラズマに対する耐食性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ放電により表面処理を行う装置に使用される放電用電極体および放電用電極アセンブリに関する。特に、一対の対向する放電用電極体の間でプラズマ放電を行わせるための放電用電極アセンブリに関する。また、その放電用電極アセンブリを用いた放電処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FPD(フラット・パネル・ディスプレイ)の製造工程、およびIC,太陽電池などの半導体デバイス製造工程は、ガラス基板,半導体ウエハなどの各種基板の上に、有機物または無機物の薄膜形成が繰り返し行われる。
【0003】
これらの処理の際には、前処理としての表面改質が必要とされる。この前処理は、例えばレジスト塗布前の処理、現像処理前の処理、現像処理後のレジスト残留物除去、ウエットエッチング前の処理,ウエット洗浄前の処理などである。
【0004】
このような前処理において、最近では、プラズマ化した反応ガスによって、大気圧近傍の圧力の下に被処理基板の表面処理を行うプラズマ表面処理装置が使用され始めている。
【0005】
特許文献1には、プラズマ化した反応ガスによる表面処理において、被処理基板の損傷を低減したい場合にダウンストリーム方式を採用することが開示されている。これは高周波電圧が加えられたリアクタの対向電極を被処理基板と直交するように配置し、この対向電極の間に反応ガスを通してプラズマ化し、このプラズマ化した反応ガスを被処理基板に噴射供給するものであり、残留物の除去等による密着性向上や乾燥等にも使用されている。
【0006】
また、特許文献2には、被処理基板が通過する対向電極の間隙に向け、被処理基板の導入側と排出側に設けたガス噴射口の双方から、反応ガスを間隙内に閉じこめるように噴射供給するプラズマ処理装置が開示されている。
【0007】
これらに使用される対向電極は、例えばアルミニウムなどの金属で製作され、その周囲はセラミックスなどの固体誘電体で覆われているものであった。ここで、対向電極は平板状であり、平板状の対向電極を固体誘電体で覆うのは、対向電極の金属によって被処理基板が汚染されるのを防ぐためである。
【0008】
特許文献3には、前記固体誘電体として誘電率10以上の高誘電率固体誘電体を用い、これを電極側に配置し、誘電率10未満の低誘電率固体誘電体を放電面側に配置した放電プラズマ処理装置用の放電用電極部材が開示されている。
【0009】
図6に示すように、この放電用電極部材200は、プラズマ放電面となる放電側表面8に、第1固体誘電体である誘電率の低い固体誘電体15a,15bと、第2固体誘電体16a,16bである誘電率の高い固体誘電体が存在する。なお、図6中の11は高周波電源、12,13はそれぞれ電極、19,20はそれぞれ電極体、Wは被処理基板である。
【特許文献1】特開平4−358076号公報
【特許文献2】特開2004−76122号公報
【特許文献3】特開2003−133291公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献に開示された技術のいずれにおいても、固体誘電体がプラズマと接すると腐食が徐々に進行して、セラミック焼結体の表面や結晶粒界からハロゲン化物が蒸発し消耗していくことが考えられる。これはプラズマ中で生成されるアルミニウム成分あるいはシリコン成分とハロゲン系ガスとの化合物の融点が低いためである。このため、さらに耐食性の高い材料が望まれていた。
【0011】
また、図6に示す放電用電極部材200では、電圧を印加したときに、電磁界エネルギーが分散し、その結果、プラズマ発生に寄与する電磁界エネルギーの割合が少なくなるので、放電効率が低下することが考えられる。特に、2つの固体誘電体の界面で極端にプラズマの濃度が変化するなどにより放電効率が低下することが考えられる。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みなされたもので、耐プラズマ性が高く、放電方向に均一な放電を発生させ、放電効率を高め、さらに剛性が高く大型化にも対応でき得る、放電用電極体、放電用電極アセンブリおよび放電処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を鑑み、本発明の一形態に係る放電用電極体は、電極と該電極を覆う固体誘電体とを備えた放電用電極体であって、前記固体誘電体の放電側表面が希土類元素を含む酸化物からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一形態に係る放電用電極アセンブリは、上記放電用電極体を2つ備えてなり、これら放電用電極体を対向させてなることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の一形態に係る放電処理装置は、上記放電用電極アセンブリを用いてプラズマを発生させるようになしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一形態に係る放電用電極体および放電用電極アセンブリによれば、前記放電用電極体の放電側表面は希土類元素を含む酸化物からなるので、放電効率が向上するとともに、前記放電用電極体の放電側表面のプラズマに対する耐食性が向上する。
【0017】
また、本発明の一形態に係る放電処理装置によれば、上記の放電用電極アセンブリを用いてプラズマを発生させるので、放電効率が高く、異常放電が発生しにくい、長寿命で高効率な放電処理装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について模式的に示した図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、放電用電極アセンブリ100は、2つの放電用電極体を備えたものであり、これら放電用電極体の間で放電を行わせるべく構成されている。すなわち、一対の対向する放電用電極体9,10の間でプラズマ放電を行わせるためのものであって、放電用電極体9,10のそれぞれの放電側表面8は、希土類元素を含む酸化物(特に、希土類元素の酸化物を主成分とする)からなることを特徴とする。
【0020】
ここで、放電用電極体9,10は、電極2,3と、電極2,3を覆う固体誘電体(第1固体誘電体5a,5bおよび第2固体誘電体6a,6b)とを備えたものであり、少なくとも固体誘電体の放電側表面が希土類元素を含む酸化物からなる。
【0021】
また、第1固体誘電体5a,5bと第2固体誘電体6a,6bとが一体に形成されていてもよく、固体誘電体の全体が同一材質でもよい。すなわち、図5(a),(b)に示すように、例えば放電用電極体9において、固体誘電体の全体が第2固体誘電体6aからなるように構成してもよい。この場合、特に、固体誘電体の材質がイットリアまたはセリアであれば、放電用電極体の放電側表面のプラズマに対する耐食性がさらに向上する。その結果、放電効率が向上するとともに、プラズマに対する耐食性をより向上させることができる。
【0022】
図5(a)の電極2は放電用電極体9の厚みの1/2以下の厚みであり、固体誘電体で電極2の放電側表面を厚く保護しているのに対して、図5(b)の電極2は放電用電極体9の厚みの1/2より厚く形成し、固体誘電体による保護を薄くしたものである。放電効率の点では、図5(a)放電用電極体9の方が図5(b)のそれよりもよい点で好ましい。この理由は、電極2が薄く保護されているので放電側に電界が集中しやすいためであると考えられる。
【0023】
この場合において、耐破壊絶縁性を向上させつつ放電効率を向上させるためには、第2固体誘電体6aの厚みを0.1〜3mmに設定すればよいことを確認した。第2固体誘電体6aの厚みを厚くすれば耐絶縁破壊性が向上するものの、放電効率は低下する傾向がある。一方、第2の固体誘電体6aを薄くすれば放電効率が向上するものの、耐絶縁破壊性は低下する傾向がある。このため、両特性(放電効率、耐絶縁破壊性)を向上させるために、第2固体誘電体6aの厚みを0.1〜3mmに設定すればよい。放電効率が向上すれば、より低電圧で放電プラズマを発生させることが可能となる。
【0024】
放電プラズマが発生する放電側表面が、希土類元素を含む酸化物が固体誘電体として機能することにより、放電効率が向上するとともに、放電用電極体9,10のそれぞれの放電側表面8のプラズマに対する耐食性が向上し、処理ガスによる生成物の付着も低減することが可能となる。
【0025】
電極2,3の材質としては、銅,アルミニウム,金等の金属単体、ステンレス,真鍮等の合金、金属間化合物等を挙げることができる。このような電極2,3を固体誘電体で覆う構造としているので、被処理基板Wが上記材料の成分からも汚染されないようにすることができる。
【0026】
また、固体誘電体は希土類元素を含む酸化物であるので、固体誘電体の比誘電率を大きくすることができる。また、固体誘電体の表面間に電界が集中するので、固体誘電体の間隙が、実質的な電極間隙とすることができる。すなわち、放電用電極体9,10の間隙が放電間隙4となる。この放電間隙4の距離は、被処理物の表面の改質性能に大きい変化を与える。なお、放電処理の際に処理ガスの方向は、図中の矢印方向であり、放電間隙4に導入され、プラズマ化される。
【0027】
電極2,3のそれぞれの内部に冷却用空洞を設けてもよく、この冷却用空洞に冷却液である純水等の絶縁液体が循環圧送されることにより、電極2,3の発熱が抑えられるのでよい。
【0028】
電極2,3は、高周波電源1から給電される。ここで、この高周波電源1は昇圧トランスを介して電極2,3に高周波電力を供給するように構成され、図示されているように一方の電極3に接続される出力端子を接地している。なお、この高周波電源1には、各電極2,3に上記昇圧トランスの二次側が接続されて生じる並列共振回路の共振周波数の変動に、高周波周波数を追従させるPLL回路が備えられ、無効電力を最小にして電力の供給効率が高められている。一方、高周波電源1の他方の出力端子は電極と接続されている。なお、この電極2,3と被処理基板Wとの間にはシールド導体板を配置してもよい。
【0029】
固体誘電体を構成する希土類元素を含む酸化物とは、例えば、イットリウム(Y)の酸化物であるイットリア(Y)、セリウム(Ce)の酸化物であるセリア(CeO)、アルミニウム(Al)とイットリウム(Y)を含む複合酸化物(例えば、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:YAl12:))、ランタン(La)、Ce、ネオジム(Nd)、Yのうち少なくとも2種以上を含む複合酸化物、そしてこれらの酸化物および複合酸化物から選択された少なくとも2種以上を含む固体等である。例えば、この固体としては、アルミナ(Al)を主成分(50質量%以上)として含有し、さらにYAGを含有するものであってもよい。固体誘電体に含まれる結晶相(crystalline phase)は、X線回折法を用いて分析することができる。
【0030】
また、希土類元素を含む酸化物としては、焼結体バルクとして形成されたものはいうまでもなく、各種薄膜形成法により成膜されたものであってもよい。放電用電極体9,10の放電側表面8の表層に、上述した成分の膜材が形成されていればよい。
【0031】
なお、膜として形成する場合は、CVD、PVD、イオンプレーティング、メッキまたは溶射などの方法で行われればよい。
【0032】
また、本実施形態の好ましい形態としては、放電用電極体9,10は、放電用電極体9,10を構成する電極2,3の放電側に、第1固体誘電体5a,5bと、第1固体誘電体5a,5bよりも誘電率が大きい第2固体誘電体6a,6bとが順次放電側に積層されていることを特徴とする。
【0033】
この場合、第1固体誘電体5a,5bの一例としてはアルミナまたは石英が挙げられ、第2固体誘電体6a,6bとしては、上述した希土類元素を含む酸化物が挙げられる。
【0034】
第2固体誘電体6a,6bが誘電率が大きいため、電圧を印加したときに、第2固体誘電体6a,6bに電磁界エネルギーが集中する。その結果、プラズマ発生に寄与する電磁界エネルギーの割合が多くなるので、放電効率が向上する。また、対向する第2固体誘電体6a,6b間に均一なプラズマが発生するため、アーク放電などの異常放電が発生しない放電用電極アセンブリ100とすることができる。
【0035】
また、第1固体誘電体5a,5bは、電極2,3を覆うように、電極2,3上に隙間無く形成されていることが好ましい。これにより、アーク放電を抑制することができる。
【0036】
第1固体誘電体5a,5bと第2固体誘電体6a,6bの接合方法に関しては、機械的な締結はもちろんのこと、エポキシ系接着剤などの樹脂による接着、メタライズなどの金属層を介在させての接合、またはガラスなどの無機接着剤による接合を行ったものであってもよい。ただし、第1固体誘電体5a,5bと第2固体誘電体6a,6bとの界面において、均一な厚みで接合層を形成すれば、全体としての固体誘電体の誘電率に大きなばらつきが生じることがなく、得られる放電プラズマも安定したものになる。好ましくはスクリーン印刷などを行う。なお、成膜する場合は膜厚を均一にする。
【0037】
さらに、本実施形態の好ましい形態としては、第2固体誘電体6a,6bを形成する希土類元素を含む酸化物の希土類元素は、イットリウムまたはセリウムであるとよい。例えば、イットリア(Y)、セリア(CeO)、アルミニウムとイットリウムの複合酸化物(例えばYAG)から選択された少なくとも1種以上を含有すればよい。特に、YAGを含有することが好ましい。
【0038】
これらの材質により第2固体誘電体6a,6bを形成することで、放電用電極体9,10の放電側表面8のプラズマに対する耐食性がさらに向上する。その結果、放電効率が向上するとともに、放電プラズマに対する耐食性をさらに向上させることができる。
【0039】
本実施形態のさらに好ましい形態としては、第1固体誘電体5a,5bがアルミナを主成分(第1固体誘電体5a,5b中のアルミナが50質量%超)とし、第2固体誘電体6a,6bが希土類元素を含む酸化物を主成分(第2固体誘電体6a,6b中の希土類元素を含む酸化物が50質量%超)とするものであればよい。例えば、第1固体誘電体5a,5bがアルミナで、第2固体誘電体6a,6bがイットリアの組み合わせであれば、熱膨張係数が近いものどうしの組合せとなるので、放電時の発熱による熱応力を緩和することができる。これにより、放電時の第1固体誘電体5a,5bおよび第2固体誘電体6a,6bの破損を低減することができる。
【0040】
また、第2固体誘電体6a,6bが膜材で形成されている場合、表面の剥離の懸念があるが、これらの組み合わせであれば、密着力の高い放電用電極体9,10が得られる。
【0041】
また、第1固体誘電体5a,5bはアルミナを主成分とすることで、ヤング率が300GPaの高い剛性を備えた支持体とすることができる。これにより、この支持体が大型化した場合で両端を支持するような構造となっても、支持体の自重によるたわみの小さい構造を得ることができる。
【0042】
放電処理装置100は、高周波電源1によって印加電極2と接地電極3間に電圧を印加し、第2固体誘電体6a,6bにプラズマを発生させ、放電を行うものである。
【0043】
第1固体誘電体5a,5bおよび第2固体誘電体6a,6bの厚みは、0.1〜3mmが好ましく、より好ましくは0.3〜2mmである。
第1、第2固体誘電体全体の厚みは、0.1〜5mmであることが好ましい。5mmよりも厚すぎると放電プラズマを発生するのに高電圧を要することがあり、0.1mmよりも薄すぎると電圧印加時に絶縁破壊が起こり、アーク放電が発生することがある。
【0044】
図1に示すように、第1固体誘電体5a,5bは電極2,3をそれぞれ囲繞していることが好ましく、より好ましくは電極側が凹曲面を形成していることである。これにより、囲繞する場合に生じる接合部分を無くすことができ、アーク放電などの異常放電が起きても、その影響を受け難い構造とすることができる。
【0045】
また、第2固体誘電体6a,6bは平板状であることが好ましい。対向する2つの固体誘電体の隙間を均一にすることができ、放電面全体にわたって、プラズマの密度を均一にすることが可能となるからである。また、電極2,3から直接放電されることがなく、放電面4に水平な方向から垂直な方向までの広い角度で、アーク放電などの異常放電を特に抑制することができる。
【0046】
さらに、第2固体誘電体6a,6bの放電側表面8の算術平均高さ(Ra)は、6.3μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以下である。このように、算術平均粗さ(Ra)を所定値以下とすることで、放電面に局所的な強電界が発生することを抑制できる。なぜなら、表層の極端な凸部の存在によって避雷針のようにプラズマ放電を集中させることがないからである。すなわち、算術平均高さ(Ra)が6.3μm以下であることで、放電面全体にわたって、プラズマの密度を均一にすることができるとともに、特に高電圧を印加して放電させた場合でも、アーク放電などの異常放電が起こりにくい。また、この放電側表面8の周縁部は図示のようにR面またはC面に面取りされていることが好ましい。なぜなら、これにより放電側表面8の周縁部に電界が集中しにくくなるためであり、放電側表面8全体にわたって、プラズマの密度を均一にすることができるとともに、放電側表面8の周縁部におけるアーク放電などの異常放電の発生を特に抑制することができる。
【0047】
電極2,3の形状としては、プラズマ放電が安定であれば、特に限定されない。しかし、電界集中によるアーク放電の発生を避けるために、電極2,3間の距離が一定となる構造であることが好ましく、より好ましくは電極2,3の対向部が平行平坦部分を有する形状とする。特に、電極2,3の対向部が略平面とするのが好ましい。
【0048】
第2固体誘電体6a,6b間の距離は、第1固体誘電体5a,5b、第2固体誘電体6a,6bの厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して適宜決定されるが、0.1〜50mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。この距離が上記範囲内であることにより、第1固体誘電体5a,5b、第2固体誘電体6a,6bを設置するスペースを充分にとることができ、均一な放電プラズマを発生させることができる。
【0049】
図2に示すように、放電用電極アセンブリ100を用いた放電処理装置101は、電極2,3間に、パルス波、高周波、マイクロ波等の電界が印加され、プラズマを発生させるが、パルス電界を印加することが好ましく、特に、電界の立ち上がりおよび/又は立ち下がり時間が、10μs(マイクロ秒)以下である電界が好ましい。この時間の範囲内にすれば、放電状態がアークに移行しにくく安定となり、高密度プラズマ状態を保持することができる。立ち上がり時間および立ち下がり時間が短いほどプラズマ発生の際のガスの電離が効率よく行われるが、40ns(ナノ秒)未満の立ち上がり時間のパルス電界を実現することは、実際には困難であるので、より好ましい前記の立ち上がり時間は50ns〜5μsである。なお、ここでいう立ち上がり時間とは、電圧(絶対値)が連続して増加する時間、立ち下がり時間とは、電圧(絶対値)が連続して減少する時間を指すものとする。
【0050】
また、上記パルス電界の電界強度は、10〜1000kV/cmとなるようにするのが好ましく、より好ましくは20〜1000kV/cmである。これにより、効率よく処理が行え、アーク放電の発生が抑えられる。
【0051】
上記パルス電界の周波数は、0.5kHz以上であることが好ましい。これにより、適度なプラズマ密度で短時間で処理が可能となる。なお、上限は特に限定されないが、常用されている13.56MHz、あるいは試験的に使用されている500MHzといった高周波帯でも構わない。負荷との整合のとり易さや取り扱い性を考慮すると、500kHz以下が好ましい。このようなパルス電界を印加することにより、処理速度を大きく向上させることができる。
【0052】
上記パルス電界におけるひとつのパルス継続時間は、200μs以下であることが好ましい。これにより、アーク放電に移行しにくくなる。なお、ひとつのパルス継続時間とは、ON、OFFの繰り返しからなるパルス電界における、ひとつのパルスの連続するON時間をいう。
【0053】
本実施形態の放電処理装置101は、どのような圧力下でも用いることができるが、常圧放電プラズマ処理に用いるとその効果を十分に発揮でき、特に、大気圧近傍下の圧力下で用いるとその効果が十分に発揮される。上記大気圧近傍の圧力下とは、1.333×104〜10.664×104Paの圧力下を指すものとする。中でも、圧力調整が容易で、装置が簡便になる9.331×10〜10.397×10Paの範囲が好ましい。
【0054】
大気圧近傍の圧力下では、ヘリウム、ケトン等の特定のガス以外は安定してプラズマ放電状態が保持されずに瞬時にアーク放電状態に移行することが知られているが、パルス状の電界を印加することにより、アーク放電に移行する前に放電を止め、再び放電を開始するというサイクルが実現されると考えられる。
【0055】
本実施形態で処理できる被処理基板Wとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂等のプラスチック、ガラス、セラミック、金属等が挙げられる。
【0056】
基材の形状としては、板状、フィルム状等のものが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0057】
本実施形態の放電用電極アセンブリ100を用いた放電処理装置101によれば、様々な形状を有する基材の処理に容易に対応することができる。
【0058】
本実施形態で用いる処理ガスとしては、電界を印加することによってプラズマを発生するガスであれば、特に限定されず、処理目的により種々のガスを使用できる。
【0059】
上記処理用ガスとして、CF、C、CClF、SF等のフッ素含有化合物ガスを用いることによって、撥水性表面を得ることができる。また、処理用ガスとして、O、O、水、空気等の酸素元素含有化合物、N、NH等の窒素元素含有化合物、SO、SO等の硫黄元素含有化合物を用いて、基材表面にカルボニル基、水酸基、アミノ基等の親水性官能基を形成させて表面エネルギーを高くし、親水性表面を得ることができる。また、アクリル酸、メタクリル酸等の親水基を有する重合性モノマーを用いて親水性重合膜を堆積することもできる。
【0060】
さらに、Si、Ti、Sn等の金属の金属−水素化合物、金属−ハロゲン化合物、金属アルコラート等の処理用ガスを用いて、SiO、TiO、SnO等の金属酸化物薄膜を形成させ、基材表面に電気的、光学的機能を与えることができ、ハロゲン系ガスを用いてエッチング処理、ダイシング処理を行ったり、酸素系ガスを用いてレジスト処理や有機物汚染の除去を行ったり、アルゴン、窒素等の不活性ガスによるプラズマで表面クリーニングや表面改質を行うこともできる。
【0061】
経済性および安全性の観点から、上記処理用ガス単独雰囲気よりも、以下に挙げるような希釈ガスによって希釈された雰囲気中で処理を行うことが好ましい。希釈ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガス、窒素気体等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。また、希釈ガスを用いる場合、処理用ガスの割合は0.01〜10体積%であることが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る放電処理装置によれば、プラズマ発生空間中に存在する気体の種類を問わずグロー放電プラズマを発生させることが可能である。
【0063】
また、公知の低圧条件下におけるプラズマ処理はもちろん、特定のガス雰囲気下の大気圧プラズマ処理においても、外気から遮断された密閉容器内で処理を行うことが必須であったが、本実施形態のグロー放電プラズマを用いた放電処理装置101を用いた方法によれば、開放系、あるいは、気体の自由な流失を防ぐ程度の低気密系での処理が可能となる。
【0064】
本実施形態のパルス電界を用いた大気圧で使用可能な放電処理装置101によると、全くガス種に依存せず、電極間において直接大気圧下で放電を生じせしめることが可能であり、より単純化された電極構造、放電手順による大気圧プラズマ装置、および処理手法でかつ高速処理を実現することができる。
【0065】
また、パルス周波数、電圧、電極間隔等のパラメータにより処理に関するパラメータも調整できる。
【0066】
図3および図4は、それぞれ放電用電極アセンブリの他の実施形態を示す略断面図である。図3に示す放電用電極アセンブリは、電極2,3に直接、第2固体誘電体6a、6bを接触させる構造を特徴とする。つまり、第2固体誘電体6a、6bは第1固体誘電体5a、5bおよび電極2,3に接合されている。図4に示す放電用電極アセンブリは、第2固体誘電体6a、6bの外周部が第1固体誘電体5a、5bで覆われていることを特徴とする。
【0067】
図4に示す放電用電極アセンブリは、図1または図3に示す放電用電極アセンブリと比較して、第1固体誘電体5a,5bが第2固体誘電体6a,6bを囲繞する構造となるため、放電用電極体としての強度が増す。つまり、第2固体誘電体6a,6bと第1固体誘電体5a,5bが長期使用していく過程において、部材の熱膨張や熱応力などが原因で、ズレを起こすような場合でも、全体形状を保持可能とすることができる。また、図3および図4に示す放電用電極アセンブリのいずれも、電圧を印加したときに、第1固体誘電体5a,5bを介することなく、第2固体誘電体6a,6bに、直接、電磁界エネルギーを集中させることができるため、放電効率を向上させることができる。
【0068】
これらの構造は、図1の構造とともに、プラズマ放電を行う電極2,3に対応した面に界面が存在しないので、放電プラズマのばらつきのない放電用電極アセンブリとすることができる。
【0069】
固体誘電体の誘電率を測定する方法としては、試料として外径50mm、厚み1mmの試験片を、研削加工により採取する。そして、ネットワークアナライザーを用い、試験片を誘電体円柱共振器法(JIS R 1601)により、室温にて、13.56MHzの周波数で測定する。
【0070】
次に、本実施形態の放電プラズマ処理装置101は、下方を開放した細長い箱形のシールドケースを作り、その内部に高周波電力1の供給される放電用電極アセンブリ100を配置したものである。放電プラズマ処理装置101は、被処理基板Wに対してプラズマ活性化した反応ガスを噴射して被処理基板Wの表面処理を行うための装置であって、図2のように、被処理基板Wを載置して搬送するコンベア102の搬送経路上に配置される。
【実施例】
【0071】
<実施例1>
図1に示す放電用電極アセンブリを有する放電処理装置を用い、放電プラズマ処理を行った。電極は600mm×60mm×厚み15mmのSUS製の平行平板電極を用いた。
【0072】
この電極に配設される第1固体誘電体にはアルミナ(純度99.5質量%)を、放電面を有する第2固体誘電体にはセリア(純度99.8質量%)をそれぞれ用い、両電極を1mmの間隔をおいて設置し、処理ガスとして、N:80体積%とO:20体積%の混合希釈ガス中に、TEOS(テトラエチルオルソシリケート系ガス)を0.02g/分となるように放電空間に導入し、電極間に電圧20kVPP、周波数10kHzのパルス電界を印加し、発生したプラズマをSiウェーハ基材上に吹き付けた。
【0073】
その結果、プラズマは均一に発生して良好であり、電極の周縁部においても異常放電が生ぜず、基材上には100nmのSiO膜が形成された。形成した薄膜は、電極長手方向(幅方向)全体に渡って膜厚±5%以内の均一なものであった。また、このときの出力波形をシンクロスコープで測定すると、アークノイズは認められず、良好なプラズマが発生していたことが確認された。その後、使用時間が250日を超えた時点で、グロー放電が不安定となり、膜厚が±5%を超える結果となった。
【0074】
この結果より、第2固体誘電体の材質を希土類元素の酸化物、セリアとすることで、プラズマに対する耐食性が向上することを確認できた。
【0075】
<実施例2>
図1に示す放電用電極アセンブリを有する放電処理装置を用い、放電プラズマ処理を行った。ここで、電極として、600mm×60mm×厚み15mmのSUS製の平行平板電極を用いた。
【0076】
この電極に配設される第1固体誘電体には、実施例1と同様なアルミナを、放電面を有する第2固体誘電体にはイットリア(純度99.8質量%)をそれぞれ用い、両電極を1mmの間隔をおいて設置し、処理ガスとして、N:80体積%とO:20体積%の混合希釈ガス中にTEOSを0.02g/分となるように放電空間に導入し、電極間に電圧20kVPP、周波数10kHzのパルス電界を印加し、発生したプラズマをSiウェーハ基材上に吹き付けた。
【0077】
その結果、プラズマの発生は均一に発生して良好であり、電極の周縁部においても異常放電が生ぜず、基材上には100nmのSiO膜が形成された。形成した薄膜は、電極長手方向(幅方向)全体に渡って膜厚±3%以内の均一なものであった。また、このときの出力波形をシンクロスコープで測定すると、アークノイズは認められず、良好なプラズマが発生していた。その後、使用時間が360日を超えた時点でも、グロー放電が安定しており、膜厚も±3%以内の均一なものであった。
【0078】
この結果より、第2固体誘電体の材質を希土類元素の酸化物であるイットリアとすることで、プラズマに対する耐食性がさらに向上することを確認できた。また、膜厚についても±3%以内と、放電効率がさらに向上することが確認できた。
【0079】
<比較例1>
図1に示す放電用電極アセンブリを有する放電処理装置を用い、放電プラズマ処理を行った。ここで、電極として、600mm×60mm×厚み15mmのSUS製の平行平板電極を用いた。
【0080】
この電極に配設される第1固体誘電体にはアルミナ(99.0質量%)を、放電面を有する第2固体誘電体にもアルミナ(99.8質量%)を用い、両電極を1mmの間隔をおいて設置し、処理ガスとして、N:80体積%とO:20体積%の混合希釈ガス中にTEOSを0.02g/分となるように放電空間に導入し、電極間に電圧20kVPP、周波数10kHzのパルス電界を印加し、発生したプラズマをSiウェーハ基材上に吹き付けた。
【0081】
その結果、プラズマは均一に発生し良好であり、電極の周縁部においても異常放電が生ぜず、基材上には100nmのSiO膜が形成された。形成した薄膜は、電極長手方向(幅方向)全体に渡って膜厚±5%以内の均一なものであった。また、このときの出力波形をシンクロスコープで測定すると、アークノイズは認められず、良好なプラズマが発生していた。その後、使用時間が50日を超えた時点で、グロー放電が不安定となり、膜厚が±5%を超える結果となった。
【0082】
<比較例2>
図4に示す電極を有する装置を用い、放電プラズマ処理を行った。ここで、電極として、600mm×60mm×厚み15mmのSUS製の平行平板電極を用いた。
【0083】
この電極の平面部に高誘電率固体誘電体としてチタン酸バリウム(99.0質量%)を、電極の周縁部に低誘電率固体誘電体としてアルミナ(99.8質量%)を用い、両電極を1mmの間隔をおいて設置し、処理ガスとして、N:80体積%とO:20体積%の混合希釈ガス中にTEOSを0.02g/分となるように放電空間4に導入し、電極間に電圧20kVPP、周波数10kHzのパルス電界を印加し、発生したプラズマをSiウェーハ基材上に吹き付けた。
【0084】
プラズマは均一に発生し良好であり、電極の周縁部においても異常放電が生ぜず、基材上には100nmのSiO膜が形成された。薄膜は、電極長手方向(幅方向)全体に渡って膜厚±8%程度と、バラツキが大きいものであった。また、このときの出力波形をシンクロスコープで測定すると、プラズマは発生したものの、マイクロアークが認められた。その後、使用時間が10日を超えた時点で、アーク放電が発生し、絶縁破壊が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一形態に係る放電用電極アセンブリの一例を模式的に示す略断面図である。
【図2】本発明の一形態に係る放電処理装置の一例の外観を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の一形態に係る放電用電極アセンブリの一例を模式的に示す略断面図である。
【図4】本発明の一形態に係る放電用電極アセンブリの一例を模式的に示す略断面図である。
【図5】(a),(b)はそれぞれ本発明の一形態に係る放電用電極体の一例を模式的に示す略断面図である。
【図6】従来の放電プラズマ処理装置を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1、11・・・高周波電源
2、3、12、13・・・電極
4、14・・・放電間隙
5、15・・・第1固体誘電体
6、16・・・第2固体誘電体
8・・・放電側表面
9、10、19、20・・・放電用電極体
100・・・放電用電極アセンブリ
101・・・放電処理装置
102・・・コンベア
W・・・被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と該電極を覆う固体誘電体とを備えた放電用電極体であって、前記固体誘電体の放電側表面が希土類元素を含む酸化物からなることを特徴とする放電用電極体。
【請求項2】
前記希土類元素がイットリウムおよびセリウムのうちの1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の放電用電極体。
【請求項3】
前記酸化物がイットリアまたはセリアであることを特徴とする請求項1に記載の放電用電極体。
【請求項4】
前記固体誘電体は第1固体誘電体と該第1固体誘電体よりも誘電率が大きい第2固体誘電体とを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電用電極体。
【請求項5】
前記第1固体誘電体がアルミナを主成分とし、前記第2固体誘電体が希土類元素を含む酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項4に記載の放電用電極体。
【請求項6】
前記希土類元素がイットリウムおよびセリウムのうちの1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の放電用電極体。
【請求項7】
前記第1固体誘電体は前記第2固体誘電体で覆われていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の放電用電極体。
【請求項8】
前記第2固体誘電体は前記第1固体誘電体および前記電極に接合されていることを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の放電用電極体。
【請求項9】
前記第2固体誘電体の外周部は前記第1固体誘電体で覆われていることを特徴とする請求項4乃至8のいずれかに記載の放電用電極体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の放電用電極体を2つ備えてなり、これら放電用電極体を対向させてなることを特徴とする放電用電極アセンブリ。
【請求項11】
請求項10に記載の放電用電極アセンブリを用いてプラズマを発生させるようになしたことを特徴とする放電処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−135095(P2009−135095A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278627(P2008−278627)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】