歪検知素子、および血圧センサ
【課題】 本発明の実施形態によれば、感度よく検知できる歪検知素子、および圧力セン
サを提供することができる。
【解決手段】 磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化が膜面垂
直方向を向いている磁化自由層と、磁化を有する参照層と、前記磁化自由層と前記参照層
との間に設けられたスペーサー層と、を備えた積層膜と、前記積層膜の積層面に対して垂
直方向に通電する一対の電極と、前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、前記
基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なる
ことを特徴とする歪検知素子。
サを提供することができる。
【解決手段】 磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化が膜面垂
直方向を向いている磁化自由層と、磁化を有する参照層と、前記磁化自由層と前記参照層
との間に設けられたスペーサー層と、を備えた積層膜と、前記積層膜の積層面に対して垂
直方向に通電する一対の電極と、前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、前記
基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なる
ことを特徴とする歪検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、歪み検知素子圧力検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
極薄磁性膜の積層膜で形成されるスピンバルブ膜が知られている。
【0003】
スピンバルブ膜は、外部磁界に対して抵抗が変化する。この抵抗変化量は、MR(magnetoresistive)変化率として知られている。MR現象は様々な物理的効果に起因する。巨大磁気抵抗効果(GMR effect: Giant magnetoresistive effect)又はトンネル磁気抵抗効果(TMR: Tunneling magnetoresistive effect)が最も一般的に知られている。
【0004】
スピンバルブ膜は、少なくとも2層の強磁性層が、スペーサー層を介して積層された構造から形成される。スピンバルブ膜の磁気抵抗状態は、隣接する強磁性層の磁化方向の相対的な角度によって決まる。一般的な構成では、2つの強磁性層が平行状態のときは、スピンバルブは低い抵抗状態を取り、反平行状態のときには、スピンバルブは高い抵抗状態を取る。隣接する強磁性層の磁化との間の角が中間的な角度の場合には、中間的な抵抗状態になる。
【0005】
少なくとも二層の磁性層のうち、磁化が容易に回転する磁性層は「磁化自由層」として知られている。磁化が変化しにくい磁性層は「参照層」として知られている。
【0006】
スピンバルブ膜の抵抗が外部磁界を通じて変化する現象を用いることで、スピンバルブ膜は高感度な磁界検知素子として用いられる。スピンバルブ膜の感度の良い磁界応答の結果として、スピンバルブ膜は広くHDD(Hard Disk Drive)の読み取りヘッドに用いられている。加えて、スピンバルブ膜はMRAM(Magnetic Random Access Memory)のメモリセルとしても用いられている。
【0007】
外部磁界によって磁化自由層の磁化を変化させるだけでなく、外部歪みによっても磁性層の磁化方向を変化させることができる。係る現象を用いることでスピンバルブ膜は、歪検知素子又は圧力検知素子としてスピンバルブ膜を用いることができる。歪みによる磁化自由層の磁化の変化の物理的な起源は、逆磁歪効果と呼ばれている。係る物理現象の簡単な説明は以下の通りである。
【0008】
磁歪効果は、磁性材料の磁化が変化したときに、磁性材料の歪みが変化する現象である。その歪みの大きさは、磁化の大きさと方向に依存して変化する。従って、歪みの大きさは、これらの磁化の大きさと方向のパラメータを通じて制御できる。また、磁場を印加していったときに歪の量が飽和したときの歪の変化量は磁歪定数λとして知られる。磁歪定数は、磁性材料固有の特性に依存する。
【0009】
磁歪効果の逆の現象として、逆磁歪効果も知られている。逆磁歪効果では、外部歪が印加されたときに、磁性材料の磁化が変化する現象である。この変化の大きさは、外部歪みの大きさ及び磁性材料の磁歪定数に依存する。磁歪効果と逆磁歪効果は、物理的に対称な効果なため、逆磁歪効果の磁歪定数は磁歪効果のときの磁歪定数と同じである。
【0010】
磁歪効果と逆磁歪効果には、正の磁歪定数と負の磁歪定数がある。これらの定数は磁性材料に依存する。
【0011】
正の磁歪定数を有する材料の場合、引っ張り歪みが適用された方向に磁化が揃うように変化する。
【0012】
一方で、負の磁歪定数では逆の場合になる。つまり、圧縮歪みの方向に沿って磁化が変化する。
【0013】
逆磁歪効果はスピンバルブ膜の磁化自由層の磁化方向を変化させるために用いることができる。外部歪が印加されると、逆磁歪効果によって磁化自由層の磁化方向が変化するため、参照層と磁化自由層の相対的磁化角度に差が生じる。これによって、スピンバルブ膜の抵抗が変化する。つまり、歪検知素子として用いることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−148132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のように、歪みを感知することができるスピンバルブ膜の抵抗変化量は歪みが適用される方向に依存する。
【0016】
正の磁歪定数を有する磁化自由層おいて、引っ張り応力を磁化容易軸に沿って適用すると、磁化の変化は生じない。これは、既に低エネルギー状態にあるからである。つまり、圧縮応力のときのみ、敏感に検知することが可能となる。
【0017】
一方、負の磁歪定数を有する磁化自由層においては、圧縮応力を磁化自由層に適用すると、磁化の変化は生じない。これは、既に低エネルギー状態にあるからである。つまり、引っ張り応力のときのみ、敏感に検知することが可能となる。
しかしながら、一般的に外部から圧力が印加されたとき、各部位によって応力状態は異なる。つまり、ある箇所では圧縮応力となり、ある箇所では引っ張り応力となる。すると、あるスピンバルブ膜を用いたときに、圧縮応力か引っ張り応力かのいずれかひとつのみしか、外部応力を敏感に検知することができない。これは、歪検知素子、圧力検知素子として考えたときに、感度良く検知することの実現を大きく阻むものである。
【0018】
本発明の実施形態は、前述のような課題を克服するために、良好な感度の歪検知素子、圧力検知素子を実現するためのスピンバルブ膜構造の改善に関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様に係る歪検知素子、または圧力検知素子は、磁化方向が変化可能で、外部歪が印加されていない状態では膜面垂直の磁化方向を有する磁化自由層と、磁化を有する参照層と、前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、を備えた積層体と、前記積層体の積層面に対して垂直方向に通電する一対の電極と、前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1B】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1C】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1D】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図2A】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図2B】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る第2の変形例を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る第3の変形例を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る第4の変形例を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る第5の変形例を示す図。
【図8】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図9】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11A】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11B】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11C】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図12】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図13】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図14】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図15】第3の実施形態に係る圧力検知機器を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る圧力検知機器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様のものを示す。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
【0022】
発明の実施形態として、2種類の実施形態がある。一つ目は、歪検知素子、二つ目は圧力検知素子である。歪検知素子は、基板の圧縮応力、引っ張り応力を測定する素子である。典型的には図1のように、基板の上にスピンバルブ膜が形成されていれば、歪検知素子として機能する。二つ目の圧力検知素子は、歪検知素子が「メンブレン」の上に形成された、メンブレンまで含めた素子のことである。メンブレンが圧力から歪への変換を行う鼓膜のような役割を果たす。つまり、圧力検知素子という場合には、必ず歪検知素子をそのなかに含有した構造となる。本発明は、歪検知素子のスピンバルブ膜構造に関する発明なため、歪検知素子、圧力検知素子、いずれの場合においても効果を発揮する発明である。
【0023】
圧力検知素子はさらに二つに分類できる。一つ目は、従来のSi等で形成されたメンブレンを用いた圧力検知素子である。二つ目は、従来のSiとは異なる材料によってメンブレンを構成した圧力検知素子である。本発明は、Siで形成されたメンブレンを用いた素子構造においても効果を発揮するが、Si以外の新たな材料、構造でメンブレンが形成された素子構造においても効果を発揮する。
【0024】
典型的な実施例として、従来のSiで形成されたメンブレンを用いた検知素子について発明の実施形態の要点を説明する。次に、従来のSi以外の材料で形成されたメンブレンを用いた場合の実施形態について説明する。
【0025】
メンブレンは、圧力から機械的な歪への変換のために用いられる鼓膜のようなものである。外部から圧力を印加したときに、メンブレンの設計、およびメンブレンの位置に依存して、異なる大きさの歪みが生じる。このようなメンブレンの位置に依存した歪は、メンブレン上に各位置に歪検知素子を形成することで圧力を検知することが可能となる。メンブレン上の各位置の歪をすべて歪検知素子で検知できると、圧力検知素子の性能として、非常に良好になる。しかしながら、前述のように、スピンバルブ膜を用いた歪検知素子では、検知可能な歪と、検知不可能な歪が発生してしまう。
【0026】
図1Aと図1Bは、歪検知素子10を示す。歪検知素子10は、基板15の上に、参照層20と、スペーサー層30と、磁化自由層40とを備えたスピンバルブ膜構造が形成されている。参照層20、および磁化自由層40は磁性材料で形成される。スペーサー層30は、基本的には非磁性材料からなる。しかし、後述するように、磁性材料もスペーサーとして機能するものに関して用いることができる。スピンバルブ膜に電流を流すために、一対の電極が用いられる。CIP(Current−in−plane)配置では、図1Aのように一対の電極501、502が用いられる。CPP(Current−perpendicular−to−plane)配置では、図1Bのように一対の電極511、512が用いられる。スピンバルブ膜から基板への電流を絶縁する目的や、基板表面の荒れを緩和するために、コーティング層150がCIP配置とCPP配置の両方に用いられる。参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40の積層膜の下地として、下地層70を用いる。以下、それぞれの部分について詳細に説明する。積層体は参照層20、スペーサー層30、及び磁化自由層40で定義される。
【0027】
参照層20の目的は磁化自由層40の磁化を「参照」することである。この機能のために、歪みが印加されたときの参照層20の磁化の状態は、磁化自由層40の磁化の状態とは異なる。実施形態の一つは、参照層20の磁化が外部歪みに関わらず固定されていることである。参照層が面内磁化を有する場合、IrMn又はPtMnのようなピニング層(後述)が参照層20の下に用いられる。このような単純なピニング構造の代わりに、参照層/Ru0.9nm/磁性層/ピニング層というシンセティック構造を用いても良い。参照層がハードな磁性膜からなる場合、つまり外部歪が印加されても参照層の磁化方向が変化しない場合には、ピニング層を省略してもよい。
【0028】
また、参照層20の磁化は必ずしも外部歪が印加されたときに固着されている必要は無い。なぜなら、外部歪が印加されたときの参照層20の磁化変化が磁化自由層と異なりさえすれば、参照層と磁化自由層の相対磁化角度は外部歪に依存するため、外部歪を検知することが可能となるからである。参照層20は磁性材料で形成されるため、少なくともFe、Co、又はNiのいずれか一つの元素を含んでいる。なお、参照層の磁化は基板15が歪んでいない場合に固定されている。
【0029】
スペーサー層30は、MR現象の物理的な効果に依存して、数種類のバリエーションを有している。MR現象としてTMR効果を用いる場合、MgOような材料が、典型的な材料として用いられる。Al、Ti、Zn、Si、Hf、Ta、Mo、Wo、Nb、Cr、Mg、又はZrに基づく酸化物、窒化物、または酸窒化物も用いることができる。MR現象としてGMR効果を用いる場合、CIP配置でもCPP配置でもスペーサー層30は、Cu、Au、Ag、Au、又はCrのような金属材料を用いることができる。このような単純金属層だけでなく、CPP配置の場合には、電流狭窄(CCP: Current-Confined-Path)スペーサーを用いることもできる。CCPスペーサーには、絶縁層を上限に貫通する複数のナノオーダーのメタルパスが用いられる。CCPスペーサーを用いることの利点は、MR効果を高めるだけでなく、抵抗の大きさも制御することが可能なことである。CCPスペーサーのメタルパス材料としては、単純金属スペーサーの材料群と同じCu、Au、Ag、Al、又はCrなどであり、絶縁層はAl、Ti、Zn、Si、Hf、Ta、Mo、Wo、Nb、Cr、Mg、又はZrに基づく酸化物、窒化物、又は酸窒化物からなる。
【0030】
磁化自由層40の特徴は、外部歪みがない状態においては、磁化自由層40の磁化方向が膜面に対し略垂直方向に向いていることである。ここが本発明において最も重要な特徴的な構造である。その様子を図1A及び図1Bに示す。この図では、磁化の方向は上向き矢印であるが、下向き矢印も同様に用いることができる。
【0031】
膜面に対し垂直な方向に磁化を有する磁性層をスピンバルブ膜に用いることは、MRAM(Magnetic Random Access Memory)又はSTO(Spin Torque Oscillator)でも研究レベルで検討はされている。しかしながら、本発明において膜面垂直方向の磁化を用いる効果は、MRAM、STOなどとは全く異なる。MRAMの場合、膜面垂直磁化の磁性層のタイプが開発されている理由は、高密度化に有利なためである。メモリの場合、微細化に対するスケーリングが成立しなければならないため、微細化したときの磁化方向が安定である必要がある。膜面内に磁化方向が向いている場合、微細化に伴い反磁界が大きくなってしまうため、磁化を保つことがエネルギー的に不利となり、実現が難しくなる。つまり、メモリとしてのスケーリング則が成立しなくなってしまう。そのため、スケーリングが成立する高密度化のために、膜面垂直磁化が研究検討されている。この事情は、最近のHDDで既に実用化されている、磁気記録媒体において垂直磁気記録(PMR: Perpendicular Magnetic Recording)を用いる理由と全く同じである。
【0032】
STOの応用についても、膜面に対し垂直な磁気異方性を有する磁性層を用いた膜構成が研究されている。この理由は、STOとして動作させるときには素子サイズを微小にしなければ良好な発振特性が得られないため、微細化された素子において磁化が安定な膜面垂直な磁気異方性を用いるほうが安定なためである。つまり、スケーリング則という観点ではないものの、微細化した素子で形成するときには膜面垂直方向の磁化を有することが有利という点で、MRAMと同様の理由である。また、二点目として、膜面垂直な磁気異方性を有する材料のほうが、より大きな磁気異方性を有する材料があるためである。大きな磁気異方性のほうが、STOとしての発振周波数を向上させることが可能となるため、大きな発振周波数を得ようとした場合には、膜面垂直な磁気異方性材料のほうが有利になるためである。
【0033】
上記2つのMRAM,STOに対し、本発明のように歪みセンサ・圧力検知素子に垂直異方性を用いることの効果は全く異なる。前述したように、メンブレン内の歪検知素子が受ける実際の歪みは、配置位置によっても異なり、非常に複雑である。圧縮応力か引っ張り応力かという、極性の違いさえ、メンブレンの位置に依存して生じるうる。このような状態では、面内磁化を有する磁化自由層では抵抗の変化として検知できない場合もあり、検知に関するSNR(Signal to Noise Ratio)劣化を引き起こす原因になる。一方、膜面垂直磁化を有する磁化自由層40の場合、図1C、図1Dに示すように抵抗変化を検知することができる。つまり、理想的な測定環境のみでしか測定できなかったのに対し、測定環境に対して高感度でロバストな、歪検知素子、圧力検知素子を実現することができる。つまり、引っ張り応力、圧縮応力いずれの場合においても、膜面垂直方向の磁化を有する磁化自由層を用いれば、歪を検知可能となる。これは、膜面内に磁化を有する磁化自由層を用いている場合には実現できない。また、この効果は、MRAM、STOにおいて膜面垂直方向の磁化を有する磁性層を用いる理由とは全く異なる。
【0034】
それゆえに、外部歪に対して磁化方向が変化する磁性層である、磁化自由層に垂直異方性が必要となる。一方で、MRAMの場合、面内垂直異方性は磁化自由層と参照層の両方に必ず用いなければ意味がない。これは、参照層が膜面内の磁化を有していては、反磁界の問題が結局生じてしまうからである。これは、垂直異方性を用いる理由が異なっているためである。
また、垂直磁気異方性の磁化自由層を用いる理由が従来のMRAMなどと異なることによって、さらに構成の違いが生じる。その詳細を以下に説明する。
【0035】
磁界の書き込みによるMRAMの場合、磁化自由層の磁化は外部磁界、もしくはスピン注入電流によって駆動させる。こうした原理によって駆動する場合、他のアーティファクトで磁化方向が変化するのは望ましくないため、磁化自由層の良好な軟磁性の実現が必要となる。より具体的には、磁性層の磁歪定数を小さくすることは必須要件となる。この状況は、STOでも同様であり、スピン注入電流によって発振を駆動する素子なため、素子に加わる応力、歪で磁化自由層の磁化が変化することは根本的な動作に影響を与える。そのため、磁性層の磁歪定数を小さくすることは必須要件となる、特に、小さな素子サイズの場合、製造工程において引き起こされる歪みの大きさが大きくなるため、小さい磁歪定数の磁性層を用いることはより必須要件となる。具体的には、磁歪定数の絶対値は少なくとも10−6よりも小さくする必要がある。このような磁歪定数の絶対値の制約は、HDDの読み取りヘッドでも存在し、磁歪定数の絶対値は10−6よりも小さくする必要がある。
【0036】
一方、歪み又は圧力のセンサでは、磁歪定数は外部歪みによって磁化の変化を実現するために、MRAM、STOとは全く逆に、大きい値である必要がある。この必要とされる磁歪定数は下記のように説明される。
磁気弾性エネルギーと静磁エネルギーとのエネルギーバランスで、以下の式のように記載される。
【0037】
(1/2)ΔHkBs=(3/2)Δσλ ・・・(1)
【0038】
ΔHkは外部歪を印加することに伴う磁化自由層の磁化の変化であり、Bsは磁化自由層の飽和磁化、Δσは外部から与えられた歪み、λは磁化自由層の磁歪定数である。この式から、あるΔσが与えられたときに、ΔHkの変化を大きくするためには、磁化自由層の磁歪λを大きくする必要があることがわかる。この必要性は、明らかにHDD、MRAM、STOなどの応用とはまったく逆の必要要件である。前述したように、HDDヘッド、MRAM、及びSTO応用は、磁歪定数の絶対値として10−6よりも小さなλが必要である。しかしながら、そのような小さなλでは歪み検知には応用できない。なぜなら、磁歪定数の絶対値が10−6以下という値は、素子加工などによって生じる外部歪が生じても、スピンバルブ膜の磁化自由層の磁化方向を変化させるほどの逆磁歪効果を発生させないために現状のHDD、MRAM、STOなどの必要スペックとなっている。つまり、本発明のように歪検知素子として考えるときには、充分な逆磁歪効果を発現しないため、歪検知素子としては機能しないことを意味するからである。
【0039】
また、別の理由として、膜面垂直の磁気異方性を有する材料の場合、面内磁化を有する軟磁性材料とは異なり、磁気異方性の大きさは大きい。その理由は、大きな磁気異方性を有しないと、膜面内に磁化が向くことが有利な、形状異方性に打ち勝つことができないためである。このような大きな磁気異方性をもつ磁性層を用いるということは、(1)式におけるHkが大きい材料を用いるということを意味する。つまり、外部歪が印加されていない状態において大きなHkをもつ磁化自由層のHkを外部歪によって変化させて検知するには、ΔHkの値として、充分大きな変化量を発生させないと、変化量として検知できないことになる。つまり、ΔHkを通常の膜面内に磁化を有する磁化自由層を用いる場合よりもさらに大きなΔHkを発生させる必要がでてくる。すなわち、(1)式からわかるように、より大きなλの磁化自由層を用いることが必須となる。小さな磁歪定数λめられる従来の応用と比較すると、歪検知素子として用いる本発明の場合には、少なくとも磁歪定数の絶対値が10-6よりも大きなλは必須となる。より好ましくは、磁化自由層の磁歪定数の絶対値は10-5よりも大きな値を有することが必要とされる。
【0040】
スピンバルブ膜膜の成膜の順序としては、参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40(参照層が下側に存在しているので「ボトムタイプ」と呼ばれる)又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20(参照層が上側に存在しているので「トップタイプ」と呼ばれる)のどちらでも用いることができる。図1A,図1Bにおいてはボトム型における実施例を示しているが、本発明の本質的な効果としては、ボトム型でもトップ型でも違いは発生せず、同等である。
【0041】
参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40のボトム型又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20トップ型のいずれの場合でも下地層70が用いられる。本明細書において「下地層」という言葉は、広い概念を含んで用いる。「下地層」はバッファ層、シード層、又はピニング層(図示せず)のような多層からなる。いくつかのこれらの層は特有の膜構造に依存して省略されていてもよい。バッファ層は、フレキシブル基板から生じる荒れのような予期せぬ効果を避けるために用いられる。コーティング層150でバッファ効果が充分な場合は、下地層におけるバッファ層は省略できる。シード層は、参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20の結晶配向性を制御するために用いられる。ピニング層は必要であれば参照層の磁化を固定するために用いられる。
【0042】
スピンバルブ膜50は、参照層20、スペーサー層30、及び磁化自由層40から構成される。外部歪み又は圧力による抵抗変化を検知するためにスピンバルブ膜50に対してセンス電流を通電させる必要であるので、電極はスピンバルブ膜50に設けられていなければならない。これは、発明の実施形態として最低限必要な要素となる。
【0043】
より詳細には、電極を有するスピンバルブ膜50は図1A及び図1Bに示されている。
【0044】
図1Aでは、スピンバルブ膜50はCIPスピンバルブ(面内通電)、スピンバルブ膜の側面に設けられた一対の電極501、502から構成される。基板15に対するスピンバルブ膜50からのリーク電流漏避けるために、絶縁コーティング層150はスピンバルブ膜50と基板15との間に用いられる。
【0045】
電極501、502において、ハードバイアス(硬磁性材料)が磁化自由層40のシングルドメインを実現するために用いられる(図示せず)。
【0046】
図1Bでは、スピンバルブ膜50はCPP−GMR膜又はTMR膜のようなCPPスピンバルブ(面直通電)から構成される。スピンバルブ膜50に電流を供給するために、下部電極511及び上部電極512が使用される。基板15に対するスピンバルブ膜50からの電流漏れを避けるために、絶縁コーティング層150がスピンバルブ膜50と基板15との間に用いられる。CPPスピンバルブ膜の場合、絶縁膜600がスピンバルブ膜50の側面に使用される必要がある。
【0047】
リソグラフィー技術を用いることで、基板上における下部電極511との電気的な接触は、上部電極512との電気的な接触と同様に実現できる。ここは従来技術で形成できるため、詳細は割愛する。
【0048】
絶縁膜600の一方の側では、ハードバイアス(硬磁性材料)が磁化自由層のシングルドメインを実現するために用いられる(図示せず)。
【0049】
図1A及び図1Bに示すように、電極はCIPとCPPのスピンバルブ構成との間で異なるが、本発明における特徴である磁化自由層、その他動作原理における説明は基本的に同様である。それゆえに、電極の描写は以後の描写及び図から省略して説明する。
(第1の実施形態)
【0050】
発明の第1の実施形態は図1Bのスピンバルブ膜を用いることで示されている。基板15は、たとえばSiから構成され、Siを用いた場合はメンブレン構造は基板の一部を薄膜化して形成する。その薄膜化された構造は図11Aの実施例で示したものとほぼ同様であり、基板の一部が薄膜化された構造になっており、その薄膜化された基板の上にスピンバルブ膜が形成されている。しかしながら、外部歪によって曲がる部分が形成され、その上にスピンバルブ膜が形成されるのならば、Si以外の材料でも形成可能である。たとえば、後で説明するようにフレキシブル基板を用いることも可能である。
【0051】
基板15は、Siで形成されたメンブレン、または曲がりやすい材料を用いたフレキシブル基板である。フレキシブル基板の例として、ポリマー材料などが用いられる。ポリマー材料として以下のような例が挙げられる。たとえば、アクリロニトリルブラジエンスチレン、シクロオレフィンポリマー、弾性を有するエチレンプロピレン、ポリアミド、ポリアミド-イミド、ポリベンジルイミダゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンエーテルケトン、ポリエチルイミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンナフタレン、ポリエステル、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、フェノールホルムアルデヒド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、m−フェニルエーテル、ポリp−フェニルサルファイド、p−アミド、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリビニルクロライド、ポリテトラフルオロエテン、パーフルオロアルコキシ、フッ化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエテン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリエチレンクロロトリフルオエチレン、ポリビニリデンフルオライド、メラミンホルムアルデヒド、液晶性ポリマー、又は尿中ホルムアルデヒドを用いることができる。
【0052】
コーティング層150は、ポリメチルメタクリレート又はポリp−フェニレンサルファイドのような有機材料、又はAl2O3又はSiO2のような無機材料から構成されても良い。コーティング層150の膜厚は、無機材料の場合には10nm以上であり、有機材料の場合には数μm以上であり、積層状態に依存する。
【0053】
コーティング層150には幾つかの目的がある。それは、基板の表面荒れを減らすことである。このことによりMR比を改善でき、感度を向上させることができる。これは、歪検知素子の信頼性と生産性を改善する効果がある。
【0054】
もし、コーティング層150が絶縁性を有してれば、基板15に対する電極511からの電流漏れを避けることができる。絶縁コーティング層150は、基板15から歪検知素子10に対する変換効果に影響を及ぼす。絶縁コーティング層150はより感度が高いことが好ましい。もしコーティング層150が代わりとして導電性を有するなら、電極511の代わりに用いることができる。このようにすることで、歪検知素子10の構造をより簡単にできる。
【0055】
電極511、512は高い導電性を有する金属からなる。Cu、Au、又はAgは典型的な電極材料である。必要であれば、Co、Ni、又はFeのような磁性材料を用いることも可能である。
【0056】
絶縁膜600は、歪検知素子10から周りの材料に電流が漏れるのを避けるために絶縁性を有する。絶縁膜600はAl2O3又はSiO2を用いることができる。
【0057】
下地層70はバッファ層、シード層、及びピニング層を含む。実施形態として、下地層70はTa(3nm)/Ru(2nm)/IrMn(7nm)/CoFe(3nm)/Ru(0.9nm)が用いられる。Taはバッファ層であり、Ruはシード層であり、IrMn/CoFe/Ruはピニング層である。Ru上に磁性層が積層されると、この層はシンセティックピニング層として働く。コーティング層150で基板からの荒れの影響を充分緩和できている場合は、バッファ層は省略することができる。シード層は結晶配向を向上させる目的で用いられる。ピニング層はその上の磁性層を磁化固着するために用いられる。
【0058】
参照層20は、CoFe(2nm)/CoFeB(1nm)からなり、ピニング層によって膜面方向に固定される。
【0059】
スペーサー層30は、MgO(2nm)からなる。スペーサー層30の膜厚は、必要とされるRA(Resistance area product)に依存して決定される。
【0060】
歪検知素子10として機能するためには、MRは十分大きくなければならない。そして磁歪定数は以前記載したように十分大きくなければならない。この二つの要件を満たすことが必要要件となる。前者の大きなMRの必要性はHDDヘッド、MRAM、及びSTOと同様であるが、後者の大きな磁歪定数の必要性は、HDDヘッド、MRAM,およびSTOとは全く逆の要件である。
【0061】
磁化自由層40は前述したように、膜面垂直の磁化を有することが本発明の特徴である。膜面垂直に磁化方向を向けるための一例として、CoFeB(1nm)/TbFe(3nm)などを用いることができる。既に知られているように、MgO上の界面にCoFeBを用いることで、MR比を向上させることができる。しかしながら、CoFeBの単層では垂直磁気異方性を作りづらいため、垂直磁気異方性を示す追加の層を用いる。
【0062】
この機能のため、一例として、TbFe層などが用いられる。Tbが20%atom以上40%atom以下であると、TbFe層は垂直異方性を示す。こうした積層膜構成にすることで、磁化自由層トータルの磁化方向としてはTbFe層による効果で膜面垂直方向に向かせることができ、MR変化率としてはMgO界面のCoFeB層の効果によってMR変化率を低下させることなく、大きなMR変化率を維持することができる。また、TbFe層のメリットとして、膜面垂直な磁気異方性を有することに加え、磁歪定数が正の非常に大きな値を有することである。その値は、約+10−4ある。この大きな磁歪定数により、磁化自由層トータルの磁歪定数としては、少なくとも+10−6よりも大きな値にすることは容易に実現できる。また、より好ましい、+10−5よりも大きな磁歪定数を実現することも実現できる。
【0063】
TbFe層の場合は、本発明の磁化自由層に必要な機能である、膜面垂直に磁化方向が向いていることと、大きな磁歪定数を有することの二つの機能を発現させることが可能である。この材料を基本として、必要に応じて添加元素を加えることも可能である。
【0064】
垂直磁気異方性を実現するために、TbFe以外の材料を用いることも可能である。別の実施例として、磁化自由層40は、CoFeB(1nm)/(Co(1nm)/Ni(1nm))×n(n>=2)を用いることができる。(Co/Ni)多層膜は垂直磁気異方性として機能する。Co、およびNiの膜厚は0.5nmから2nm程度の範囲の膜厚で用いられる。歪検知素子10として機能するためには、磁化自由層トータルの磁歪定数が少なくとも10−6よりも大きくなければならない。磁歪定数を高めるために、大きな磁歪定数を有するFeSiBのような付加層が用いられる。FeSiBは正の大きな磁歪定数約+10−4を示すので、磁化自由層全体として正の大きな磁歪定数を示す。すると、CoFeB(1nm)/(Co(1nm)/Ni(1nm))×n/FeSiB2nmのような膜構成が考えられる。
【0065】
例として記述したように、磁化自由層40の基本的な構造はMp及びMlの積層膜から形成される。Mpは垂直磁気異方性を示す磁性層であり、Mlは大きな磁歪定数を示す磁性層である。Mp/Ml、Ml/Mp、Mp/x/Ml、Ml/x/Mp、x/Ml/Mp、Ml/Mp/x、x/Mp/Ml、またはMp/Ml/xのような多層膜を用いることができる。付加層xは、Ml,Mpだけで機能が充分でない場合に、必要に応じて用いることができる。たとえば、MR変化率を向上させるために、スペーサー層との界面にCoFeB層やCoFe層などをx層として用いることができる。
【0066】
磁性層Mpの材料選択はCoPt−SiO2グラニュラ、FePt、CoPt、CoPt、(Co/Pd)多層膜、(Co/Pt)多層膜、又は(Co/Ir)多層膜を用いることができる。既に述べた、TbFe及び(Co/Ni)多層膜もMpの機能を有する材料郡という位置づけである。多層膜は、2層から10層程度積層したものである。
【0067】
磁性層Mlの材料選択は、Ni、Ni合金(Ni95Fe5のようなNiを多量に含む合金)、SmFe、DyFe、又はCo、Fe、Niを含む磁性酸化材料を用いることができる。TbFe及び(Co/Ni)多層膜は、Mpとしての機能を有すると同時に、Mlとしての機能も有する層としても用いることができる。また、前述したように、FeSiBをベースとしたアモルファス合金層も用いることが可能である。Ni、Niリッチの合金、及びSmFeは、大きな負の磁歪定数を示す。それゆえに、好ましい磁化方向の符号は正の磁歪定数の材料とは反対になる。この場合、磁化自由層トータルの磁歪の符号は負として機能させる。CoOx,FeOx,またはNiOx(0<x<80)などのFe,Co,Niを含む磁性材料の酸化物は大きな正の磁歪定数を示す。ここで、この場合、磁化自由層トータルの磁歪の符号は正として機能させる。
【0068】
膜面垂直な磁気異方性を発現させるために上記のようなMp材料を用いることができるが、上述のスペーサー層との界面に用いられるx層として考えられるCoFeB層でも、Mpとして機能させることも場合によっては可能である。この場合、CoFeB層は1nmよりも薄い膜厚にすることで、膜面垂直な磁気異方性を発現させることも可能となる。
【0069】
図1C及び図1Dは歪検知素子10の動作を示す。破線が参照層20の磁化の向きを示す。実線が磁化自由層40の磁化の向きを示す。
【0070】
図1C及び図1Dは歪みが基板15に適用されている図を示す。この状態では、磁化自由層40の磁化が磁化自由層と参照層との間の角度が外部歪によって変化を受ける。この角度の変化に起因して、抵抗が変化する。この抵抗変化量の大きさによって、歪の大きさを検知することができる。
【0071】
図1Cは歪みが小さい場合を示す。図1Dは歪みが大きい場合を示す。これらの図に示すように、歪みが強くなれば磁化自由層40が受ける磁化の回転の大きさも大きくなる。つまり、歪の大きさによって、参照層と磁化自由層のなす角度が異なる。つまり、歪の大きさによって、抵抗の大きさが異なるため、歪の大きさを検知することができる。外部歪が除去されると、磁化自由層の磁化方向は初期状態に復帰する。つまり、膜面垂直方向に戻る、可逆変化である。
(技術説明)
【0072】
従来技術として、磁化自由層の磁化方向が膜面内にある場合について説明する。図2Aは、磁化自由層の磁化方向が膜面内にある歪検知素子がメンブレン上に配置されたときの比較例を示す。ここで、圧力を歪検知素子に伝える基板、もしくはメンブレンまでを含めたときに、圧力検知素子と呼ぶ。歪検知素子10が基板15上の3つの位置(a)、(b)、(c)に置かれている場合を示す。図2Aは歪検知素子10の一部である磁化自由層40を示す。実線の矢印は歪みの方向を示す。破線の矢印は磁化自由層40の磁化の方向を示す。位置(a)は基板15の中心に設けられている。位置(b)、(c)は基板15の端に設けられている。
【0073】
これらの位置(a)、(b)、(c)は歪みが磁化自由層40の磁化の向きに対して平行である場所を示している。磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って配列できるために、磁化自由層40は正の磁歪定数を有すると想定している。
【0074】
位置(a)の場合、基板15に歪みが適用されると、磁化自由層40の磁化は歪みの方向に回転する。それゆえに、磁気抵抗の変化が検知できる。一方で、位置(b)、(c)の場合では、磁化自由層の磁化は回転しない。なぜなら、磁化自由層40の磁化の向きは既に歪みの方向に向いているからである。つまり、外部歪が印加されたことによる抵抗の変化は生じないため、外部歪を全く検知できていないことになる。これはセンサ全体としてみたときに、検知できる箇所が限られているということになり、SNRとして非常に望ましくない。
(発明の効果)
【0075】
図2Bは歪検知素子10が基板15上の3つの異なる位置(d)、(e)、(f)に置かれている場合を示す。ここで、圧力を歪検知素子に伝える基板、もしくはメンブレンまでを含めたときに、圧力検知素子と呼ぶ。図2Bは歪検知素子10の一部である磁化自由層40を示す。実線の矢印は歪みの方向を示す。破線の矢印は磁化自由層40の磁化の方向を示す。位置(d)は基板15の中心に設けられている。位置(e)、(f)は基板15の端に設けられている。
【0076】
これらの位置(d)、(e)、(f)は歪みが磁化自由層40の磁化の向きに対して垂直である場所を示している。磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って配列できるために、磁化自由層40は正の磁歪定数を有すると想定している。
【0077】
位置(d)、(e)、(f)の場合において、歪みは磁化自由層40の磁化の向きを回転させることができる。面内方向が規定される必要はなく、位置(d)の場合でも磁化自由層40の磁化は回転する。このように、メンブレン上に配置されたあらゆる箇所において本発明の歪検知素子は歪を検知することができる。これは、図2Aの場合に一部の歪検知素子が歪を検知できないところがあったものとは対照的である。これはすなわち、センサ全体としてのSNR改善に大きく寄与する。このような改善が実現できる根本は、磁化自由層の磁化方向が膜面垂直方向に向いていることに起因する。これが本発明の基本的考え方である。
(第1の変形例)
【0078】
図3は歪検知素子10の第1の変形例を示す。歪検知素子10の第1の変形例は2つの強磁性層60、70の存在が第1の実施形態と異なる。強磁性層60、70は基板15上の参照層20に隣接して設けられている。
【0079】
強磁性層60、70からの磁界が参照層20の磁化を配列させる。すなわち、磁化が固定される。強磁性層60、70はFe、Co、及びNiのような遷移金属を用いることができる。典型的な材料としては、CoPt、CoPtCr、又はFePtの合金又は、これらに基づく合金を用いることができる。ほかの材料の候補としては他の材料の合金、またはSmCo又はNd−Fe−Boのような希土類元素及びそれらの合金を用いることができる。
(第2の変形例)
【0080】
図4は歪検知素子10の第2の変形例を示す。歪検知素子10の第2の変形例は、強磁性層80の存在と、参照層20と基板15との間に非磁性層90が存在している点が第1の実施形態と異なる。強磁性層80は基板15上に設けられている。非磁性層90は強磁性層80に設けられている。
【0081】
強磁性層80は参照層20の磁化を固定するために用いられる。強磁性層80は参照層20の異方性よりも強い。強磁性層80はCoPt合金からなる。
(第3の変形例)
【0082】
図5は歪検知素子10の第3の変形例を示す。歪検知素子10の第3の変形例は反強磁性層100、強磁性層110、及び非磁性層120が存在している点が第1の実施形態と異なる。反強磁性層100は基板15に設けられている。強磁性層110は反強磁性層100に設けられている。非磁性層120は強磁性層110に設けられている。この構造はシンセティックアンティフェロ磁性(SAF)を引き起こす。
【0083】
反強磁性層100はIrMn又はPtMnの材料からなる。反強磁性層100の好ましい膜厚は5nmから20nmである。
【0084】
強磁性層110はCoFe合金からなる。
【0085】
非磁性層120はRuからなる。非磁性層120の膜厚は0.5nm以上2nm以下である。
【0086】
SAFを用いる利点は漏洩磁界が小さくなる点である。これは、磁化自由層の磁化安定に寄与する。
(第4の変形例)
【0087】
図6は、歪検知素子10の第4の変形例を示す。歪検知素子10の第4の変形例は異方形状を有している点が第1の実施形態と異なる。スピンバルブ膜50の形状はある特定の方向に沿って伸びている。この構造は、スピンバルブ膜50の長手方向に参照層20の磁化を向けることができる。
【0088】
より異方性の高い形状になれば、その効果はより大きくなる。高いアスペクト比を用いることで面内又は面直に磁化を固定することができる。この異方性を有する形状の構造は磁化自由エネルギーの調整を助けるために上記の設計に用いることができる。
(第5の変形例)
【0089】
図7は歪検知素子10の第5の変形例を示す。歪検知素子10の第5の変形例は2つの強磁性層130、140が存在する点が第1の実施形態と異なる。強磁性層130は参照層20に設けられている。強磁性層140はスペーサー層30に設けられている。係る変形例のスペーサー層30はMgOであり、このようにすることで歪検知素子10はTMRを引き起こす。
【0090】
強磁性層130の磁化の向きは面内である。
【0091】
強磁性層130、140はCoFeBからなる。強磁性層130、140の膜厚は3nm以上又は10nm以下である。
(第2の実施形態)
【0092】
図8は歪検知素子10のアレイを用いた歪検知素子装置200を示す。歪検知素子10は基板15上に規則的に配列されている。それぞれの歪検知素子10の間隔は設計によって決められる。例えば、数十nmから数mmで設計される。間隔を狭くする利点は、SNRの出力信号を高めるために用いられる。一方で多くの装置は沢山の配線や大きな消費電力を要する。全装置数が圧力を検知するのに十分である限り、消費者にとって手ごろな費用で用いるには大きな間隔で用いることが好ましい。
【0093】
しかしながら、このことは、歪検知素子10の大きさの大小、占有面積、及び装置の応用に必要とされる感度の大きさに依存する。
【0094】
それぞれの歪検知素子10は、ワード線220及びビット線230として知られる一対の配線を用いて制御部210に電気的に接続されている。歪検知素子10は配線の交点に配列される。特定のワード線220及びビット線230を選択することで、特定の歪検知素子10は制御部210によってアクセスできる。基板15上に局所的に存在する歪みを決定するために同時に多くの点で基板15の歪みを測定できる。歪検知素子装置200はどの方向からも面内歪みを感知できる歪検知素子10の設計を利用することができる。
【0095】
図9は歪検知素子装置200に接続するために用いられる電極と配線の構造を示す。
【0096】
電極は高い導電性を有する。これらの電極はAu、Cu、又はAlの材料からなる。それぞれの歪検知素子10はワード線220とビット線230を形成する配線に接続される上部電極及び下部電極を有する。
【0097】
ワード線220及びビット線230はそれぞれ交わっており、その交点に歪検知素子10が存在する。ワード線220及びビット線230は隣接する歪検知素子10に対してそれぞれの歪検知素子10を接続している。
【0098】
図10は歪検知素子装置200の好ましい位置を示す。歪検知素子装置200は基板15上に設けられた一つの歪検知素子10を用いる。基板15はSiO2/Si基板からMEMS技術を用いて作成されたSiメンブレンである。かかる設計では、基板15は平面図において円形である。しかしながら、製造を考慮して四角形又は長方形を用いることができる。
【0099】
歪検知素子10は電極260及び電極270の間に設けられている。電極270は基板15に設けられている。電極260は歪検知素子10に設けられている。基板15が、ドープされたポリ3,4−エチレンヂオキシチオフェン、ポリスチレンサルフォネートのようなフレキシブルな導電性メンブレンであれば、電極270は直接歪検知素子10に接続されていなくても良い。配線の数を減らせばよりフレキシブルなメンブレンを作ることができる。
【0100】
歪検知素子10は基板15の中心に設けられている。基板15の中心は等方的な歪みが最も大きい。等方的な歪みの応答に対して歪検知素子装置200は歪検知素子10を利用できる。
【0101】
図11Aは基板15内の電極の構造を示す。基板15は、硬い基板16とメンブレン17からなる。メンブレン17は硬い基板16に固定されている。導電性メンブレン240はメンブレン17に設けられている。この導電性メンブレン240はコーティング層150に付随して用いられる。又は、導電性コーティング層が用いられても良い。歪検知素子10は導電性メンブレン240に設けられている。歪検知素子10は絶縁層250に囲まれている。歪検知素子10の上部は電極260に接続されている。
【0102】
電極260の膜厚は、良好な電気的接続を保証するために、少なくとも100nmである。しかし、良質の積層がなされればより薄い電極260を用いることも可能である。
【0103】
絶縁層250はSiO2又はSi3N4の材料からなる。絶縁層250はポリメチルメタクリレートのような有機材料又は絶縁ドープされたポリ3、4エチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンサルフォネートを用いることもできる。
【0104】
電極260は導電メンブレンとして用いることができる。このようにすることでメンブレン17をより柔らかくし、歪みを均一にすることができる。しかし、歪検知素子10と電気的に接続することがより複雑になるかもしれない。
【0105】
図11B及び図11Cは歪検知素子10の動作を示す。実線の矢印は磁化自由層40の磁化の向きを示す。破線の矢印は参照層20の磁化の向きを示す(ここの層は示されていない)。
【0106】
図11B及び図11Cは、メンブレン17に設けられた基板に歪みが適用されるときの状態を示す。この状態では、磁化自由層40の磁化は磁化自由層と参照層との間の垂直角の構成の変化を受けるために、歪みは磁化自由層40の磁化の回転を引き起こす。
【0107】
なぜなら、基板内に歪みが生じていないときに基板16はフレキシブルでないからである。メンブレン17はフレキシブルである。これは、基板が結合されていない自由な状態の領域で歪みが生じているためである。メンブレンの形状が規定されれば、印加される歪みに対して受ける歪みは一定である。歪検知素子10は歪みが起こる最も有利な位置のメンブレンに設けられる。
【0108】
図11Bは歪みが小さい場合を示す。図11Cは歪みが大きい場合を示す。これらの図が示すように、歪みがより大きくなれば磁化自由層40の磁化受ける回転の大きさは大きくなる。
【0109】
歪検知素子10に歪みが適用されれば、磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って回転する。この回転は参照層20と磁化自由層40の磁化との間の角度を作る。歪検知素子10が歪みを受けていないときには、磁化自由層40の磁化の向きはもとに戻る。
【0110】
図12は基板16内の電極の構造を示す。歪検知素子10は電極270と電極260との間に設けられている。電極260は電極270と交わらないで、メンブレン17に対して歪検知素子10の上部に設けられている。
【0111】
外部からの影響を絶縁するためにさらに誘電層が電極上に設けられても良い。
【0112】
図13は基板15上の複数の歪検知素子10を用いた歪検知素子装置200を示す。
【0113】
歪検知素子10は、正方形のパターンとして基板15に設けられ、電気的にホイートストーンブリッジ配列を形成している。歪検知素子10にかかる電圧は典型的なホイートストーンブリッジの動作として正方形の中央で端末から読み出される。複数の歪検知素子10は基板15に設けられているので、ほかの測定ブリッジ回路を用いても良い。
【0114】
図14は、基板15に設けられた複数の歪検知素子10を用いる歪検知素子装置200を示す。
【0115】
歪検知素子10は連続して接続されている。これは信号の強度と多くのセンサから得られるデータの平均出力を向上させるためである。この構造はい補正の歪みの方向に関係なく基板15の様々な場所で動作する歪検知素子10に利用できる。よって多くの歪検知素子10を用いることができる。個々に接続している歪検知素子10のように、機能に依存して他の代わりとなる回路配列も用いることができる。ゆえに、制御部とは別にアクセスすることができ、制御部の結果を処理することができ、他の接続された出力システムの処理をすることができる。
(第3の実施形態)
【0116】
図15は歪検知素子10に応用される機器300を示す。
【0117】
機器300は血圧センサを示す。図15の上図は血液が拡張していない動脈の状態を示す。図15の下図は血圧によって動脈が拡張している状態を示す。
【0118】
機器300は腕又は体に巻きつけられる。腕又は体の表面近傍には動脈があり心拍数を測定するのに用いられる。
【0119】
心臓が鼓動をうつとき、動脈は血液と一緒に拡張する。これは脈として知られている。動脈からの圧力が基板に適用されると歪みを引き起こす。この歪みは基板15に設けられた歪検知素子10によって検知される。そして磁気抵抗の変化の結果は歪検知素子10を測定する制御部で電気的に記録される。動脈の拡張が示す電気的な信号と周波数の発生はコンピュータで測定されたデータから変換される。これにより心拍数と血圧を決定することができる。
【0120】
図16は歪検知素子10に応用される機器400を示す。
【0121】
機器400は切り替え装置である。図16の上図はボタンが押されていない状態を示す。図16の下図はボタンが押されている状態を示す。
【0122】
機器400は、リモートコントロールのような一般的な切替えである。ボタン410はメンブレン17を固定している硬い基板16に設けられている。
【0123】
ボタン410が押されるとメンブレン17に対して圧力が加わり、歪みによりメンブレン17が歪む。係る場合、歪検知素子10はメンブレン17の下に設けられている。この位置に設けることでボタンを押すことによる衝撃を減らすことができる。この位置もまた、歪検知素子が圧縮歪みよりも引っ張り歪みを受けていることを保証している。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
10 … 歪検知素子、15 … 基板、20 … 参照層、30 … スペーサー層、40 … 磁化自由層、50 … 磁気抵抗素子、70 … 下地層
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、歪み検知素子圧力検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
極薄磁性膜の積層膜で形成されるスピンバルブ膜が知られている。
【0003】
スピンバルブ膜は、外部磁界に対して抵抗が変化する。この抵抗変化量は、MR(magnetoresistive)変化率として知られている。MR現象は様々な物理的効果に起因する。巨大磁気抵抗効果(GMR effect: Giant magnetoresistive effect)又はトンネル磁気抵抗効果(TMR: Tunneling magnetoresistive effect)が最も一般的に知られている。
【0004】
スピンバルブ膜は、少なくとも2層の強磁性層が、スペーサー層を介して積層された構造から形成される。スピンバルブ膜の磁気抵抗状態は、隣接する強磁性層の磁化方向の相対的な角度によって決まる。一般的な構成では、2つの強磁性層が平行状態のときは、スピンバルブは低い抵抗状態を取り、反平行状態のときには、スピンバルブは高い抵抗状態を取る。隣接する強磁性層の磁化との間の角が中間的な角度の場合には、中間的な抵抗状態になる。
【0005】
少なくとも二層の磁性層のうち、磁化が容易に回転する磁性層は「磁化自由層」として知られている。磁化が変化しにくい磁性層は「参照層」として知られている。
【0006】
スピンバルブ膜の抵抗が外部磁界を通じて変化する現象を用いることで、スピンバルブ膜は高感度な磁界検知素子として用いられる。スピンバルブ膜の感度の良い磁界応答の結果として、スピンバルブ膜は広くHDD(Hard Disk Drive)の読み取りヘッドに用いられている。加えて、スピンバルブ膜はMRAM(Magnetic Random Access Memory)のメモリセルとしても用いられている。
【0007】
外部磁界によって磁化自由層の磁化を変化させるだけでなく、外部歪みによっても磁性層の磁化方向を変化させることができる。係る現象を用いることでスピンバルブ膜は、歪検知素子又は圧力検知素子としてスピンバルブ膜を用いることができる。歪みによる磁化自由層の磁化の変化の物理的な起源は、逆磁歪効果と呼ばれている。係る物理現象の簡単な説明は以下の通りである。
【0008】
磁歪効果は、磁性材料の磁化が変化したときに、磁性材料の歪みが変化する現象である。その歪みの大きさは、磁化の大きさと方向に依存して変化する。従って、歪みの大きさは、これらの磁化の大きさと方向のパラメータを通じて制御できる。また、磁場を印加していったときに歪の量が飽和したときの歪の変化量は磁歪定数λとして知られる。磁歪定数は、磁性材料固有の特性に依存する。
【0009】
磁歪効果の逆の現象として、逆磁歪効果も知られている。逆磁歪効果では、外部歪が印加されたときに、磁性材料の磁化が変化する現象である。この変化の大きさは、外部歪みの大きさ及び磁性材料の磁歪定数に依存する。磁歪効果と逆磁歪効果は、物理的に対称な効果なため、逆磁歪効果の磁歪定数は磁歪効果のときの磁歪定数と同じである。
【0010】
磁歪効果と逆磁歪効果には、正の磁歪定数と負の磁歪定数がある。これらの定数は磁性材料に依存する。
【0011】
正の磁歪定数を有する材料の場合、引っ張り歪みが適用された方向に磁化が揃うように変化する。
【0012】
一方で、負の磁歪定数では逆の場合になる。つまり、圧縮歪みの方向に沿って磁化が変化する。
【0013】
逆磁歪効果はスピンバルブ膜の磁化自由層の磁化方向を変化させるために用いることができる。外部歪が印加されると、逆磁歪効果によって磁化自由層の磁化方向が変化するため、参照層と磁化自由層の相対的磁化角度に差が生じる。これによって、スピンバルブ膜の抵抗が変化する。つまり、歪検知素子として用いることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−148132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のように、歪みを感知することができるスピンバルブ膜の抵抗変化量は歪みが適用される方向に依存する。
【0016】
正の磁歪定数を有する磁化自由層おいて、引っ張り応力を磁化容易軸に沿って適用すると、磁化の変化は生じない。これは、既に低エネルギー状態にあるからである。つまり、圧縮応力のときのみ、敏感に検知することが可能となる。
【0017】
一方、負の磁歪定数を有する磁化自由層においては、圧縮応力を磁化自由層に適用すると、磁化の変化は生じない。これは、既に低エネルギー状態にあるからである。つまり、引っ張り応力のときのみ、敏感に検知することが可能となる。
しかしながら、一般的に外部から圧力が印加されたとき、各部位によって応力状態は異なる。つまり、ある箇所では圧縮応力となり、ある箇所では引っ張り応力となる。すると、あるスピンバルブ膜を用いたときに、圧縮応力か引っ張り応力かのいずれかひとつのみしか、外部応力を敏感に検知することができない。これは、歪検知素子、圧力検知素子として考えたときに、感度良く検知することの実現を大きく阻むものである。
【0018】
本発明の実施形態は、前述のような課題を克服するために、良好な感度の歪検知素子、圧力検知素子を実現するためのスピンバルブ膜構造の改善に関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様に係る歪検知素子、または圧力検知素子は、磁化方向が変化可能で、外部歪が印加されていない状態では膜面垂直の磁化方向を有する磁化自由層と、磁化を有する参照層と、前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、を備えた積層体と、前記積層体の積層面に対して垂直方向に通電する一対の電極と、前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1B】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1C】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図1D】第1の実施形態に係る歪検知素子を示す図。
【図2A】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図2B】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る第1の変形例を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る第2の変形例を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る第3の変形例を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る第4の変形例を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る第5の変形例を示す図。
【図8】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図9】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11A】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11B】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図11C】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図12】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図13】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図14】第2の実施形態に係る圧力検知装置を示す図。
【図15】第3の実施形態に係る圧力検知機器を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る圧力検知機器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様のものを示す。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
【0022】
発明の実施形態として、2種類の実施形態がある。一つ目は、歪検知素子、二つ目は圧力検知素子である。歪検知素子は、基板の圧縮応力、引っ張り応力を測定する素子である。典型的には図1のように、基板の上にスピンバルブ膜が形成されていれば、歪検知素子として機能する。二つ目の圧力検知素子は、歪検知素子が「メンブレン」の上に形成された、メンブレンまで含めた素子のことである。メンブレンが圧力から歪への変換を行う鼓膜のような役割を果たす。つまり、圧力検知素子という場合には、必ず歪検知素子をそのなかに含有した構造となる。本発明は、歪検知素子のスピンバルブ膜構造に関する発明なため、歪検知素子、圧力検知素子、いずれの場合においても効果を発揮する発明である。
【0023】
圧力検知素子はさらに二つに分類できる。一つ目は、従来のSi等で形成されたメンブレンを用いた圧力検知素子である。二つ目は、従来のSiとは異なる材料によってメンブレンを構成した圧力検知素子である。本発明は、Siで形成されたメンブレンを用いた素子構造においても効果を発揮するが、Si以外の新たな材料、構造でメンブレンが形成された素子構造においても効果を発揮する。
【0024】
典型的な実施例として、従来のSiで形成されたメンブレンを用いた検知素子について発明の実施形態の要点を説明する。次に、従来のSi以外の材料で形成されたメンブレンを用いた場合の実施形態について説明する。
【0025】
メンブレンは、圧力から機械的な歪への変換のために用いられる鼓膜のようなものである。外部から圧力を印加したときに、メンブレンの設計、およびメンブレンの位置に依存して、異なる大きさの歪みが生じる。このようなメンブレンの位置に依存した歪は、メンブレン上に各位置に歪検知素子を形成することで圧力を検知することが可能となる。メンブレン上の各位置の歪をすべて歪検知素子で検知できると、圧力検知素子の性能として、非常に良好になる。しかしながら、前述のように、スピンバルブ膜を用いた歪検知素子では、検知可能な歪と、検知不可能な歪が発生してしまう。
【0026】
図1Aと図1Bは、歪検知素子10を示す。歪検知素子10は、基板15の上に、参照層20と、スペーサー層30と、磁化自由層40とを備えたスピンバルブ膜構造が形成されている。参照層20、および磁化自由層40は磁性材料で形成される。スペーサー層30は、基本的には非磁性材料からなる。しかし、後述するように、磁性材料もスペーサーとして機能するものに関して用いることができる。スピンバルブ膜に電流を流すために、一対の電極が用いられる。CIP(Current−in−plane)配置では、図1Aのように一対の電極501、502が用いられる。CPP(Current−perpendicular−to−plane)配置では、図1Bのように一対の電極511、512が用いられる。スピンバルブ膜から基板への電流を絶縁する目的や、基板表面の荒れを緩和するために、コーティング層150がCIP配置とCPP配置の両方に用いられる。参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40の積層膜の下地として、下地層70を用いる。以下、それぞれの部分について詳細に説明する。積層体は参照層20、スペーサー層30、及び磁化自由層40で定義される。
【0027】
参照層20の目的は磁化自由層40の磁化を「参照」することである。この機能のために、歪みが印加されたときの参照層20の磁化の状態は、磁化自由層40の磁化の状態とは異なる。実施形態の一つは、参照層20の磁化が外部歪みに関わらず固定されていることである。参照層が面内磁化を有する場合、IrMn又はPtMnのようなピニング層(後述)が参照層20の下に用いられる。このような単純なピニング構造の代わりに、参照層/Ru0.9nm/磁性層/ピニング層というシンセティック構造を用いても良い。参照層がハードな磁性膜からなる場合、つまり外部歪が印加されても参照層の磁化方向が変化しない場合には、ピニング層を省略してもよい。
【0028】
また、参照層20の磁化は必ずしも外部歪が印加されたときに固着されている必要は無い。なぜなら、外部歪が印加されたときの参照層20の磁化変化が磁化自由層と異なりさえすれば、参照層と磁化自由層の相対磁化角度は外部歪に依存するため、外部歪を検知することが可能となるからである。参照層20は磁性材料で形成されるため、少なくともFe、Co、又はNiのいずれか一つの元素を含んでいる。なお、参照層の磁化は基板15が歪んでいない場合に固定されている。
【0029】
スペーサー層30は、MR現象の物理的な効果に依存して、数種類のバリエーションを有している。MR現象としてTMR効果を用いる場合、MgOような材料が、典型的な材料として用いられる。Al、Ti、Zn、Si、Hf、Ta、Mo、Wo、Nb、Cr、Mg、又はZrに基づく酸化物、窒化物、または酸窒化物も用いることができる。MR現象としてGMR効果を用いる場合、CIP配置でもCPP配置でもスペーサー層30は、Cu、Au、Ag、Au、又はCrのような金属材料を用いることができる。このような単純金属層だけでなく、CPP配置の場合には、電流狭窄(CCP: Current-Confined-Path)スペーサーを用いることもできる。CCPスペーサーには、絶縁層を上限に貫通する複数のナノオーダーのメタルパスが用いられる。CCPスペーサーを用いることの利点は、MR効果を高めるだけでなく、抵抗の大きさも制御することが可能なことである。CCPスペーサーのメタルパス材料としては、単純金属スペーサーの材料群と同じCu、Au、Ag、Al、又はCrなどであり、絶縁層はAl、Ti、Zn、Si、Hf、Ta、Mo、Wo、Nb、Cr、Mg、又はZrに基づく酸化物、窒化物、又は酸窒化物からなる。
【0030】
磁化自由層40の特徴は、外部歪みがない状態においては、磁化自由層40の磁化方向が膜面に対し略垂直方向に向いていることである。ここが本発明において最も重要な特徴的な構造である。その様子を図1A及び図1Bに示す。この図では、磁化の方向は上向き矢印であるが、下向き矢印も同様に用いることができる。
【0031】
膜面に対し垂直な方向に磁化を有する磁性層をスピンバルブ膜に用いることは、MRAM(Magnetic Random Access Memory)又はSTO(Spin Torque Oscillator)でも研究レベルで検討はされている。しかしながら、本発明において膜面垂直方向の磁化を用いる効果は、MRAM、STOなどとは全く異なる。MRAMの場合、膜面垂直磁化の磁性層のタイプが開発されている理由は、高密度化に有利なためである。メモリの場合、微細化に対するスケーリングが成立しなければならないため、微細化したときの磁化方向が安定である必要がある。膜面内に磁化方向が向いている場合、微細化に伴い反磁界が大きくなってしまうため、磁化を保つことがエネルギー的に不利となり、実現が難しくなる。つまり、メモリとしてのスケーリング則が成立しなくなってしまう。そのため、スケーリングが成立する高密度化のために、膜面垂直磁化が研究検討されている。この事情は、最近のHDDで既に実用化されている、磁気記録媒体において垂直磁気記録(PMR: Perpendicular Magnetic Recording)を用いる理由と全く同じである。
【0032】
STOの応用についても、膜面に対し垂直な磁気異方性を有する磁性層を用いた膜構成が研究されている。この理由は、STOとして動作させるときには素子サイズを微小にしなければ良好な発振特性が得られないため、微細化された素子において磁化が安定な膜面垂直な磁気異方性を用いるほうが安定なためである。つまり、スケーリング則という観点ではないものの、微細化した素子で形成するときには膜面垂直方向の磁化を有することが有利という点で、MRAMと同様の理由である。また、二点目として、膜面垂直な磁気異方性を有する材料のほうが、より大きな磁気異方性を有する材料があるためである。大きな磁気異方性のほうが、STOとしての発振周波数を向上させることが可能となるため、大きな発振周波数を得ようとした場合には、膜面垂直な磁気異方性材料のほうが有利になるためである。
【0033】
上記2つのMRAM,STOに対し、本発明のように歪みセンサ・圧力検知素子に垂直異方性を用いることの効果は全く異なる。前述したように、メンブレン内の歪検知素子が受ける実際の歪みは、配置位置によっても異なり、非常に複雑である。圧縮応力か引っ張り応力かという、極性の違いさえ、メンブレンの位置に依存して生じるうる。このような状態では、面内磁化を有する磁化自由層では抵抗の変化として検知できない場合もあり、検知に関するSNR(Signal to Noise Ratio)劣化を引き起こす原因になる。一方、膜面垂直磁化を有する磁化自由層40の場合、図1C、図1Dに示すように抵抗変化を検知することができる。つまり、理想的な測定環境のみでしか測定できなかったのに対し、測定環境に対して高感度でロバストな、歪検知素子、圧力検知素子を実現することができる。つまり、引っ張り応力、圧縮応力いずれの場合においても、膜面垂直方向の磁化を有する磁化自由層を用いれば、歪を検知可能となる。これは、膜面内に磁化を有する磁化自由層を用いている場合には実現できない。また、この効果は、MRAM、STOにおいて膜面垂直方向の磁化を有する磁性層を用いる理由とは全く異なる。
【0034】
それゆえに、外部歪に対して磁化方向が変化する磁性層である、磁化自由層に垂直異方性が必要となる。一方で、MRAMの場合、面内垂直異方性は磁化自由層と参照層の両方に必ず用いなければ意味がない。これは、参照層が膜面内の磁化を有していては、反磁界の問題が結局生じてしまうからである。これは、垂直異方性を用いる理由が異なっているためである。
また、垂直磁気異方性の磁化自由層を用いる理由が従来のMRAMなどと異なることによって、さらに構成の違いが生じる。その詳細を以下に説明する。
【0035】
磁界の書き込みによるMRAMの場合、磁化自由層の磁化は外部磁界、もしくはスピン注入電流によって駆動させる。こうした原理によって駆動する場合、他のアーティファクトで磁化方向が変化するのは望ましくないため、磁化自由層の良好な軟磁性の実現が必要となる。より具体的には、磁性層の磁歪定数を小さくすることは必須要件となる。この状況は、STOでも同様であり、スピン注入電流によって発振を駆動する素子なため、素子に加わる応力、歪で磁化自由層の磁化が変化することは根本的な動作に影響を与える。そのため、磁性層の磁歪定数を小さくすることは必須要件となる、特に、小さな素子サイズの場合、製造工程において引き起こされる歪みの大きさが大きくなるため、小さい磁歪定数の磁性層を用いることはより必須要件となる。具体的には、磁歪定数の絶対値は少なくとも10−6よりも小さくする必要がある。このような磁歪定数の絶対値の制約は、HDDの読み取りヘッドでも存在し、磁歪定数の絶対値は10−6よりも小さくする必要がある。
【0036】
一方、歪み又は圧力のセンサでは、磁歪定数は外部歪みによって磁化の変化を実現するために、MRAM、STOとは全く逆に、大きい値である必要がある。この必要とされる磁歪定数は下記のように説明される。
磁気弾性エネルギーと静磁エネルギーとのエネルギーバランスで、以下の式のように記載される。
【0037】
(1/2)ΔHkBs=(3/2)Δσλ ・・・(1)
【0038】
ΔHkは外部歪を印加することに伴う磁化自由層の磁化の変化であり、Bsは磁化自由層の飽和磁化、Δσは外部から与えられた歪み、λは磁化自由層の磁歪定数である。この式から、あるΔσが与えられたときに、ΔHkの変化を大きくするためには、磁化自由層の磁歪λを大きくする必要があることがわかる。この必要性は、明らかにHDD、MRAM、STOなどの応用とはまったく逆の必要要件である。前述したように、HDDヘッド、MRAM、及びSTO応用は、磁歪定数の絶対値として10−6よりも小さなλが必要である。しかしながら、そのような小さなλでは歪み検知には応用できない。なぜなら、磁歪定数の絶対値が10−6以下という値は、素子加工などによって生じる外部歪が生じても、スピンバルブ膜の磁化自由層の磁化方向を変化させるほどの逆磁歪効果を発生させないために現状のHDD、MRAM、STOなどの必要スペックとなっている。つまり、本発明のように歪検知素子として考えるときには、充分な逆磁歪効果を発現しないため、歪検知素子としては機能しないことを意味するからである。
【0039】
また、別の理由として、膜面垂直の磁気異方性を有する材料の場合、面内磁化を有する軟磁性材料とは異なり、磁気異方性の大きさは大きい。その理由は、大きな磁気異方性を有しないと、膜面内に磁化が向くことが有利な、形状異方性に打ち勝つことができないためである。このような大きな磁気異方性をもつ磁性層を用いるということは、(1)式におけるHkが大きい材料を用いるということを意味する。つまり、外部歪が印加されていない状態において大きなHkをもつ磁化自由層のHkを外部歪によって変化させて検知するには、ΔHkの値として、充分大きな変化量を発生させないと、変化量として検知できないことになる。つまり、ΔHkを通常の膜面内に磁化を有する磁化自由層を用いる場合よりもさらに大きなΔHkを発生させる必要がでてくる。すなわち、(1)式からわかるように、より大きなλの磁化自由層を用いることが必須となる。小さな磁歪定数λめられる従来の応用と比較すると、歪検知素子として用いる本発明の場合には、少なくとも磁歪定数の絶対値が10-6よりも大きなλは必須となる。より好ましくは、磁化自由層の磁歪定数の絶対値は10-5よりも大きな値を有することが必要とされる。
【0040】
スピンバルブ膜膜の成膜の順序としては、参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40(参照層が下側に存在しているので「ボトムタイプ」と呼ばれる)又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20(参照層が上側に存在しているので「トップタイプ」と呼ばれる)のどちらでも用いることができる。図1A,図1Bにおいてはボトム型における実施例を示しているが、本発明の本質的な効果としては、ボトム型でもトップ型でも違いは発生せず、同等である。
【0041】
参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40のボトム型又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20トップ型のいずれの場合でも下地層70が用いられる。本明細書において「下地層」という言葉は、広い概念を含んで用いる。「下地層」はバッファ層、シード層、又はピニング層(図示せず)のような多層からなる。いくつかのこれらの層は特有の膜構造に依存して省略されていてもよい。バッファ層は、フレキシブル基板から生じる荒れのような予期せぬ効果を避けるために用いられる。コーティング層150でバッファ効果が充分な場合は、下地層におけるバッファ層は省略できる。シード層は、参照層20/スペーサー層30/磁化自由層40又は磁化自由層40/スペーサー層30/参照層20の結晶配向性を制御するために用いられる。ピニング層は必要であれば参照層の磁化を固定するために用いられる。
【0042】
スピンバルブ膜50は、参照層20、スペーサー層30、及び磁化自由層40から構成される。外部歪み又は圧力による抵抗変化を検知するためにスピンバルブ膜50に対してセンス電流を通電させる必要であるので、電極はスピンバルブ膜50に設けられていなければならない。これは、発明の実施形態として最低限必要な要素となる。
【0043】
より詳細には、電極を有するスピンバルブ膜50は図1A及び図1Bに示されている。
【0044】
図1Aでは、スピンバルブ膜50はCIPスピンバルブ(面内通電)、スピンバルブ膜の側面に設けられた一対の電極501、502から構成される。基板15に対するスピンバルブ膜50からのリーク電流漏避けるために、絶縁コーティング層150はスピンバルブ膜50と基板15との間に用いられる。
【0045】
電極501、502において、ハードバイアス(硬磁性材料)が磁化自由層40のシングルドメインを実現するために用いられる(図示せず)。
【0046】
図1Bでは、スピンバルブ膜50はCPP−GMR膜又はTMR膜のようなCPPスピンバルブ(面直通電)から構成される。スピンバルブ膜50に電流を供給するために、下部電極511及び上部電極512が使用される。基板15に対するスピンバルブ膜50からの電流漏れを避けるために、絶縁コーティング層150がスピンバルブ膜50と基板15との間に用いられる。CPPスピンバルブ膜の場合、絶縁膜600がスピンバルブ膜50の側面に使用される必要がある。
【0047】
リソグラフィー技術を用いることで、基板上における下部電極511との電気的な接触は、上部電極512との電気的な接触と同様に実現できる。ここは従来技術で形成できるため、詳細は割愛する。
【0048】
絶縁膜600の一方の側では、ハードバイアス(硬磁性材料)が磁化自由層のシングルドメインを実現するために用いられる(図示せず)。
【0049】
図1A及び図1Bに示すように、電極はCIPとCPPのスピンバルブ構成との間で異なるが、本発明における特徴である磁化自由層、その他動作原理における説明は基本的に同様である。それゆえに、電極の描写は以後の描写及び図から省略して説明する。
(第1の実施形態)
【0050】
発明の第1の実施形態は図1Bのスピンバルブ膜を用いることで示されている。基板15は、たとえばSiから構成され、Siを用いた場合はメンブレン構造は基板の一部を薄膜化して形成する。その薄膜化された構造は図11Aの実施例で示したものとほぼ同様であり、基板の一部が薄膜化された構造になっており、その薄膜化された基板の上にスピンバルブ膜が形成されている。しかしながら、外部歪によって曲がる部分が形成され、その上にスピンバルブ膜が形成されるのならば、Si以外の材料でも形成可能である。たとえば、後で説明するようにフレキシブル基板を用いることも可能である。
【0051】
基板15は、Siで形成されたメンブレン、または曲がりやすい材料を用いたフレキシブル基板である。フレキシブル基板の例として、ポリマー材料などが用いられる。ポリマー材料として以下のような例が挙げられる。たとえば、アクリロニトリルブラジエンスチレン、シクロオレフィンポリマー、弾性を有するエチレンプロピレン、ポリアミド、ポリアミド-イミド、ポリベンジルイミダゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンエーテルケトン、ポリエチルイミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンナフタレン、ポリエステル、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、フェノールホルムアルデヒド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、m−フェニルエーテル、ポリp−フェニルサルファイド、p−アミド、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリビニルクロライド、ポリテトラフルオロエテン、パーフルオロアルコキシ、フッ化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエテン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリエチレンクロロトリフルオエチレン、ポリビニリデンフルオライド、メラミンホルムアルデヒド、液晶性ポリマー、又は尿中ホルムアルデヒドを用いることができる。
【0052】
コーティング層150は、ポリメチルメタクリレート又はポリp−フェニレンサルファイドのような有機材料、又はAl2O3又はSiO2のような無機材料から構成されても良い。コーティング層150の膜厚は、無機材料の場合には10nm以上であり、有機材料の場合には数μm以上であり、積層状態に依存する。
【0053】
コーティング層150には幾つかの目的がある。それは、基板の表面荒れを減らすことである。このことによりMR比を改善でき、感度を向上させることができる。これは、歪検知素子の信頼性と生産性を改善する効果がある。
【0054】
もし、コーティング層150が絶縁性を有してれば、基板15に対する電極511からの電流漏れを避けることができる。絶縁コーティング層150は、基板15から歪検知素子10に対する変換効果に影響を及ぼす。絶縁コーティング層150はより感度が高いことが好ましい。もしコーティング層150が代わりとして導電性を有するなら、電極511の代わりに用いることができる。このようにすることで、歪検知素子10の構造をより簡単にできる。
【0055】
電極511、512は高い導電性を有する金属からなる。Cu、Au、又はAgは典型的な電極材料である。必要であれば、Co、Ni、又はFeのような磁性材料を用いることも可能である。
【0056】
絶縁膜600は、歪検知素子10から周りの材料に電流が漏れるのを避けるために絶縁性を有する。絶縁膜600はAl2O3又はSiO2を用いることができる。
【0057】
下地層70はバッファ層、シード層、及びピニング層を含む。実施形態として、下地層70はTa(3nm)/Ru(2nm)/IrMn(7nm)/CoFe(3nm)/Ru(0.9nm)が用いられる。Taはバッファ層であり、Ruはシード層であり、IrMn/CoFe/Ruはピニング層である。Ru上に磁性層が積層されると、この層はシンセティックピニング層として働く。コーティング層150で基板からの荒れの影響を充分緩和できている場合は、バッファ層は省略することができる。シード層は結晶配向を向上させる目的で用いられる。ピニング層はその上の磁性層を磁化固着するために用いられる。
【0058】
参照層20は、CoFe(2nm)/CoFeB(1nm)からなり、ピニング層によって膜面方向に固定される。
【0059】
スペーサー層30は、MgO(2nm)からなる。スペーサー層30の膜厚は、必要とされるRA(Resistance area product)に依存して決定される。
【0060】
歪検知素子10として機能するためには、MRは十分大きくなければならない。そして磁歪定数は以前記載したように十分大きくなければならない。この二つの要件を満たすことが必要要件となる。前者の大きなMRの必要性はHDDヘッド、MRAM、及びSTOと同様であるが、後者の大きな磁歪定数の必要性は、HDDヘッド、MRAM,およびSTOとは全く逆の要件である。
【0061】
磁化自由層40は前述したように、膜面垂直の磁化を有することが本発明の特徴である。膜面垂直に磁化方向を向けるための一例として、CoFeB(1nm)/TbFe(3nm)などを用いることができる。既に知られているように、MgO上の界面にCoFeBを用いることで、MR比を向上させることができる。しかしながら、CoFeBの単層では垂直磁気異方性を作りづらいため、垂直磁気異方性を示す追加の層を用いる。
【0062】
この機能のため、一例として、TbFe層などが用いられる。Tbが20%atom以上40%atom以下であると、TbFe層は垂直異方性を示す。こうした積層膜構成にすることで、磁化自由層トータルの磁化方向としてはTbFe層による効果で膜面垂直方向に向かせることができ、MR変化率としてはMgO界面のCoFeB層の効果によってMR変化率を低下させることなく、大きなMR変化率を維持することができる。また、TbFe層のメリットとして、膜面垂直な磁気異方性を有することに加え、磁歪定数が正の非常に大きな値を有することである。その値は、約+10−4ある。この大きな磁歪定数により、磁化自由層トータルの磁歪定数としては、少なくとも+10−6よりも大きな値にすることは容易に実現できる。また、より好ましい、+10−5よりも大きな磁歪定数を実現することも実現できる。
【0063】
TbFe層の場合は、本発明の磁化自由層に必要な機能である、膜面垂直に磁化方向が向いていることと、大きな磁歪定数を有することの二つの機能を発現させることが可能である。この材料を基本として、必要に応じて添加元素を加えることも可能である。
【0064】
垂直磁気異方性を実現するために、TbFe以外の材料を用いることも可能である。別の実施例として、磁化自由層40は、CoFeB(1nm)/(Co(1nm)/Ni(1nm))×n(n>=2)を用いることができる。(Co/Ni)多層膜は垂直磁気異方性として機能する。Co、およびNiの膜厚は0.5nmから2nm程度の範囲の膜厚で用いられる。歪検知素子10として機能するためには、磁化自由層トータルの磁歪定数が少なくとも10−6よりも大きくなければならない。磁歪定数を高めるために、大きな磁歪定数を有するFeSiBのような付加層が用いられる。FeSiBは正の大きな磁歪定数約+10−4を示すので、磁化自由層全体として正の大きな磁歪定数を示す。すると、CoFeB(1nm)/(Co(1nm)/Ni(1nm))×n/FeSiB2nmのような膜構成が考えられる。
【0065】
例として記述したように、磁化自由層40の基本的な構造はMp及びMlの積層膜から形成される。Mpは垂直磁気異方性を示す磁性層であり、Mlは大きな磁歪定数を示す磁性層である。Mp/Ml、Ml/Mp、Mp/x/Ml、Ml/x/Mp、x/Ml/Mp、Ml/Mp/x、x/Mp/Ml、またはMp/Ml/xのような多層膜を用いることができる。付加層xは、Ml,Mpだけで機能が充分でない場合に、必要に応じて用いることができる。たとえば、MR変化率を向上させるために、スペーサー層との界面にCoFeB層やCoFe層などをx層として用いることができる。
【0066】
磁性層Mpの材料選択はCoPt−SiO2グラニュラ、FePt、CoPt、CoPt、(Co/Pd)多層膜、(Co/Pt)多層膜、又は(Co/Ir)多層膜を用いることができる。既に述べた、TbFe及び(Co/Ni)多層膜もMpの機能を有する材料郡という位置づけである。多層膜は、2層から10層程度積層したものである。
【0067】
磁性層Mlの材料選択は、Ni、Ni合金(Ni95Fe5のようなNiを多量に含む合金)、SmFe、DyFe、又はCo、Fe、Niを含む磁性酸化材料を用いることができる。TbFe及び(Co/Ni)多層膜は、Mpとしての機能を有すると同時に、Mlとしての機能も有する層としても用いることができる。また、前述したように、FeSiBをベースとしたアモルファス合金層も用いることが可能である。Ni、Niリッチの合金、及びSmFeは、大きな負の磁歪定数を示す。それゆえに、好ましい磁化方向の符号は正の磁歪定数の材料とは反対になる。この場合、磁化自由層トータルの磁歪の符号は負として機能させる。CoOx,FeOx,またはNiOx(0<x<80)などのFe,Co,Niを含む磁性材料の酸化物は大きな正の磁歪定数を示す。ここで、この場合、磁化自由層トータルの磁歪の符号は正として機能させる。
【0068】
膜面垂直な磁気異方性を発現させるために上記のようなMp材料を用いることができるが、上述のスペーサー層との界面に用いられるx層として考えられるCoFeB層でも、Mpとして機能させることも場合によっては可能である。この場合、CoFeB層は1nmよりも薄い膜厚にすることで、膜面垂直な磁気異方性を発現させることも可能となる。
【0069】
図1C及び図1Dは歪検知素子10の動作を示す。破線が参照層20の磁化の向きを示す。実線が磁化自由層40の磁化の向きを示す。
【0070】
図1C及び図1Dは歪みが基板15に適用されている図を示す。この状態では、磁化自由層40の磁化が磁化自由層と参照層との間の角度が外部歪によって変化を受ける。この角度の変化に起因して、抵抗が変化する。この抵抗変化量の大きさによって、歪の大きさを検知することができる。
【0071】
図1Cは歪みが小さい場合を示す。図1Dは歪みが大きい場合を示す。これらの図に示すように、歪みが強くなれば磁化自由層40が受ける磁化の回転の大きさも大きくなる。つまり、歪の大きさによって、参照層と磁化自由層のなす角度が異なる。つまり、歪の大きさによって、抵抗の大きさが異なるため、歪の大きさを検知することができる。外部歪が除去されると、磁化自由層の磁化方向は初期状態に復帰する。つまり、膜面垂直方向に戻る、可逆変化である。
(技術説明)
【0072】
従来技術として、磁化自由層の磁化方向が膜面内にある場合について説明する。図2Aは、磁化自由層の磁化方向が膜面内にある歪検知素子がメンブレン上に配置されたときの比較例を示す。ここで、圧力を歪検知素子に伝える基板、もしくはメンブレンまでを含めたときに、圧力検知素子と呼ぶ。歪検知素子10が基板15上の3つの位置(a)、(b)、(c)に置かれている場合を示す。図2Aは歪検知素子10の一部である磁化自由層40を示す。実線の矢印は歪みの方向を示す。破線の矢印は磁化自由層40の磁化の方向を示す。位置(a)は基板15の中心に設けられている。位置(b)、(c)は基板15の端に設けられている。
【0073】
これらの位置(a)、(b)、(c)は歪みが磁化自由層40の磁化の向きに対して平行である場所を示している。磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って配列できるために、磁化自由層40は正の磁歪定数を有すると想定している。
【0074】
位置(a)の場合、基板15に歪みが適用されると、磁化自由層40の磁化は歪みの方向に回転する。それゆえに、磁気抵抗の変化が検知できる。一方で、位置(b)、(c)の場合では、磁化自由層の磁化は回転しない。なぜなら、磁化自由層40の磁化の向きは既に歪みの方向に向いているからである。つまり、外部歪が印加されたことによる抵抗の変化は生じないため、外部歪を全く検知できていないことになる。これはセンサ全体としてみたときに、検知できる箇所が限られているということになり、SNRとして非常に望ましくない。
(発明の効果)
【0075】
図2Bは歪検知素子10が基板15上の3つの異なる位置(d)、(e)、(f)に置かれている場合を示す。ここで、圧力を歪検知素子に伝える基板、もしくはメンブレンまでを含めたときに、圧力検知素子と呼ぶ。図2Bは歪検知素子10の一部である磁化自由層40を示す。実線の矢印は歪みの方向を示す。破線の矢印は磁化自由層40の磁化の方向を示す。位置(d)は基板15の中心に設けられている。位置(e)、(f)は基板15の端に設けられている。
【0076】
これらの位置(d)、(e)、(f)は歪みが磁化自由層40の磁化の向きに対して垂直である場所を示している。磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って配列できるために、磁化自由層40は正の磁歪定数を有すると想定している。
【0077】
位置(d)、(e)、(f)の場合において、歪みは磁化自由層40の磁化の向きを回転させることができる。面内方向が規定される必要はなく、位置(d)の場合でも磁化自由層40の磁化は回転する。このように、メンブレン上に配置されたあらゆる箇所において本発明の歪検知素子は歪を検知することができる。これは、図2Aの場合に一部の歪検知素子が歪を検知できないところがあったものとは対照的である。これはすなわち、センサ全体としてのSNR改善に大きく寄与する。このような改善が実現できる根本は、磁化自由層の磁化方向が膜面垂直方向に向いていることに起因する。これが本発明の基本的考え方である。
(第1の変形例)
【0078】
図3は歪検知素子10の第1の変形例を示す。歪検知素子10の第1の変形例は2つの強磁性層60、70の存在が第1の実施形態と異なる。強磁性層60、70は基板15上の参照層20に隣接して設けられている。
【0079】
強磁性層60、70からの磁界が参照層20の磁化を配列させる。すなわち、磁化が固定される。強磁性層60、70はFe、Co、及びNiのような遷移金属を用いることができる。典型的な材料としては、CoPt、CoPtCr、又はFePtの合金又は、これらに基づく合金を用いることができる。ほかの材料の候補としては他の材料の合金、またはSmCo又はNd−Fe−Boのような希土類元素及びそれらの合金を用いることができる。
(第2の変形例)
【0080】
図4は歪検知素子10の第2の変形例を示す。歪検知素子10の第2の変形例は、強磁性層80の存在と、参照層20と基板15との間に非磁性層90が存在している点が第1の実施形態と異なる。強磁性層80は基板15上に設けられている。非磁性層90は強磁性層80に設けられている。
【0081】
強磁性層80は参照層20の磁化を固定するために用いられる。強磁性層80は参照層20の異方性よりも強い。強磁性層80はCoPt合金からなる。
(第3の変形例)
【0082】
図5は歪検知素子10の第3の変形例を示す。歪検知素子10の第3の変形例は反強磁性層100、強磁性層110、及び非磁性層120が存在している点が第1の実施形態と異なる。反強磁性層100は基板15に設けられている。強磁性層110は反強磁性層100に設けられている。非磁性層120は強磁性層110に設けられている。この構造はシンセティックアンティフェロ磁性(SAF)を引き起こす。
【0083】
反強磁性層100はIrMn又はPtMnの材料からなる。反強磁性層100の好ましい膜厚は5nmから20nmである。
【0084】
強磁性層110はCoFe合金からなる。
【0085】
非磁性層120はRuからなる。非磁性層120の膜厚は0.5nm以上2nm以下である。
【0086】
SAFを用いる利点は漏洩磁界が小さくなる点である。これは、磁化自由層の磁化安定に寄与する。
(第4の変形例)
【0087】
図6は、歪検知素子10の第4の変形例を示す。歪検知素子10の第4の変形例は異方形状を有している点が第1の実施形態と異なる。スピンバルブ膜50の形状はある特定の方向に沿って伸びている。この構造は、スピンバルブ膜50の長手方向に参照層20の磁化を向けることができる。
【0088】
より異方性の高い形状になれば、その効果はより大きくなる。高いアスペクト比を用いることで面内又は面直に磁化を固定することができる。この異方性を有する形状の構造は磁化自由エネルギーの調整を助けるために上記の設計に用いることができる。
(第5の変形例)
【0089】
図7は歪検知素子10の第5の変形例を示す。歪検知素子10の第5の変形例は2つの強磁性層130、140が存在する点が第1の実施形態と異なる。強磁性層130は参照層20に設けられている。強磁性層140はスペーサー層30に設けられている。係る変形例のスペーサー層30はMgOであり、このようにすることで歪検知素子10はTMRを引き起こす。
【0090】
強磁性層130の磁化の向きは面内である。
【0091】
強磁性層130、140はCoFeBからなる。強磁性層130、140の膜厚は3nm以上又は10nm以下である。
(第2の実施形態)
【0092】
図8は歪検知素子10のアレイを用いた歪検知素子装置200を示す。歪検知素子10は基板15上に規則的に配列されている。それぞれの歪検知素子10の間隔は設計によって決められる。例えば、数十nmから数mmで設計される。間隔を狭くする利点は、SNRの出力信号を高めるために用いられる。一方で多くの装置は沢山の配線や大きな消費電力を要する。全装置数が圧力を検知するのに十分である限り、消費者にとって手ごろな費用で用いるには大きな間隔で用いることが好ましい。
【0093】
しかしながら、このことは、歪検知素子10の大きさの大小、占有面積、及び装置の応用に必要とされる感度の大きさに依存する。
【0094】
それぞれの歪検知素子10は、ワード線220及びビット線230として知られる一対の配線を用いて制御部210に電気的に接続されている。歪検知素子10は配線の交点に配列される。特定のワード線220及びビット線230を選択することで、特定の歪検知素子10は制御部210によってアクセスできる。基板15上に局所的に存在する歪みを決定するために同時に多くの点で基板15の歪みを測定できる。歪検知素子装置200はどの方向からも面内歪みを感知できる歪検知素子10の設計を利用することができる。
【0095】
図9は歪検知素子装置200に接続するために用いられる電極と配線の構造を示す。
【0096】
電極は高い導電性を有する。これらの電極はAu、Cu、又はAlの材料からなる。それぞれの歪検知素子10はワード線220とビット線230を形成する配線に接続される上部電極及び下部電極を有する。
【0097】
ワード線220及びビット線230はそれぞれ交わっており、その交点に歪検知素子10が存在する。ワード線220及びビット線230は隣接する歪検知素子10に対してそれぞれの歪検知素子10を接続している。
【0098】
図10は歪検知素子装置200の好ましい位置を示す。歪検知素子装置200は基板15上に設けられた一つの歪検知素子10を用いる。基板15はSiO2/Si基板からMEMS技術を用いて作成されたSiメンブレンである。かかる設計では、基板15は平面図において円形である。しかしながら、製造を考慮して四角形又は長方形を用いることができる。
【0099】
歪検知素子10は電極260及び電極270の間に設けられている。電極270は基板15に設けられている。電極260は歪検知素子10に設けられている。基板15が、ドープされたポリ3,4−エチレンヂオキシチオフェン、ポリスチレンサルフォネートのようなフレキシブルな導電性メンブレンであれば、電極270は直接歪検知素子10に接続されていなくても良い。配線の数を減らせばよりフレキシブルなメンブレンを作ることができる。
【0100】
歪検知素子10は基板15の中心に設けられている。基板15の中心は等方的な歪みが最も大きい。等方的な歪みの応答に対して歪検知素子装置200は歪検知素子10を利用できる。
【0101】
図11Aは基板15内の電極の構造を示す。基板15は、硬い基板16とメンブレン17からなる。メンブレン17は硬い基板16に固定されている。導電性メンブレン240はメンブレン17に設けられている。この導電性メンブレン240はコーティング層150に付随して用いられる。又は、導電性コーティング層が用いられても良い。歪検知素子10は導電性メンブレン240に設けられている。歪検知素子10は絶縁層250に囲まれている。歪検知素子10の上部は電極260に接続されている。
【0102】
電極260の膜厚は、良好な電気的接続を保証するために、少なくとも100nmである。しかし、良質の積層がなされればより薄い電極260を用いることも可能である。
【0103】
絶縁層250はSiO2又はSi3N4の材料からなる。絶縁層250はポリメチルメタクリレートのような有機材料又は絶縁ドープされたポリ3、4エチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンサルフォネートを用いることもできる。
【0104】
電極260は導電メンブレンとして用いることができる。このようにすることでメンブレン17をより柔らかくし、歪みを均一にすることができる。しかし、歪検知素子10と電気的に接続することがより複雑になるかもしれない。
【0105】
図11B及び図11Cは歪検知素子10の動作を示す。実線の矢印は磁化自由層40の磁化の向きを示す。破線の矢印は参照層20の磁化の向きを示す(ここの層は示されていない)。
【0106】
図11B及び図11Cは、メンブレン17に設けられた基板に歪みが適用されるときの状態を示す。この状態では、磁化自由層40の磁化は磁化自由層と参照層との間の垂直角の構成の変化を受けるために、歪みは磁化自由層40の磁化の回転を引き起こす。
【0107】
なぜなら、基板内に歪みが生じていないときに基板16はフレキシブルでないからである。メンブレン17はフレキシブルである。これは、基板が結合されていない自由な状態の領域で歪みが生じているためである。メンブレンの形状が規定されれば、印加される歪みに対して受ける歪みは一定である。歪検知素子10は歪みが起こる最も有利な位置のメンブレンに設けられる。
【0108】
図11Bは歪みが小さい場合を示す。図11Cは歪みが大きい場合を示す。これらの図が示すように、歪みがより大きくなれば磁化自由層40の磁化受ける回転の大きさは大きくなる。
【0109】
歪検知素子10に歪みが適用されれば、磁化自由層40の磁化は歪みの方向に沿って回転する。この回転は参照層20と磁化自由層40の磁化との間の角度を作る。歪検知素子10が歪みを受けていないときには、磁化自由層40の磁化の向きはもとに戻る。
【0110】
図12は基板16内の電極の構造を示す。歪検知素子10は電極270と電極260との間に設けられている。電極260は電極270と交わらないで、メンブレン17に対して歪検知素子10の上部に設けられている。
【0111】
外部からの影響を絶縁するためにさらに誘電層が電極上に設けられても良い。
【0112】
図13は基板15上の複数の歪検知素子10を用いた歪検知素子装置200を示す。
【0113】
歪検知素子10は、正方形のパターンとして基板15に設けられ、電気的にホイートストーンブリッジ配列を形成している。歪検知素子10にかかる電圧は典型的なホイートストーンブリッジの動作として正方形の中央で端末から読み出される。複数の歪検知素子10は基板15に設けられているので、ほかの測定ブリッジ回路を用いても良い。
【0114】
図14は、基板15に設けられた複数の歪検知素子10を用いる歪検知素子装置200を示す。
【0115】
歪検知素子10は連続して接続されている。これは信号の強度と多くのセンサから得られるデータの平均出力を向上させるためである。この構造はい補正の歪みの方向に関係なく基板15の様々な場所で動作する歪検知素子10に利用できる。よって多くの歪検知素子10を用いることができる。個々に接続している歪検知素子10のように、機能に依存して他の代わりとなる回路配列も用いることができる。ゆえに、制御部とは別にアクセスすることができ、制御部の結果を処理することができ、他の接続された出力システムの処理をすることができる。
(第3の実施形態)
【0116】
図15は歪検知素子10に応用される機器300を示す。
【0117】
機器300は血圧センサを示す。図15の上図は血液が拡張していない動脈の状態を示す。図15の下図は血圧によって動脈が拡張している状態を示す。
【0118】
機器300は腕又は体に巻きつけられる。腕又は体の表面近傍には動脈があり心拍数を測定するのに用いられる。
【0119】
心臓が鼓動をうつとき、動脈は血液と一緒に拡張する。これは脈として知られている。動脈からの圧力が基板に適用されると歪みを引き起こす。この歪みは基板15に設けられた歪検知素子10によって検知される。そして磁気抵抗の変化の結果は歪検知素子10を測定する制御部で電気的に記録される。動脈の拡張が示す電気的な信号と周波数の発生はコンピュータで測定されたデータから変換される。これにより心拍数と血圧を決定することができる。
【0120】
図16は歪検知素子10に応用される機器400を示す。
【0121】
機器400は切り替え装置である。図16の上図はボタンが押されていない状態を示す。図16の下図はボタンが押されている状態を示す。
【0122】
機器400は、リモートコントロールのような一般的な切替えである。ボタン410はメンブレン17を固定している硬い基板16に設けられている。
【0123】
ボタン410が押されるとメンブレン17に対して圧力が加わり、歪みによりメンブレン17が歪む。係る場合、歪検知素子10はメンブレン17の下に設けられている。この位置に設けることでボタンを押すことによる衝撃を減らすことができる。この位置もまた、歪検知素子が圧縮歪みよりも引っ張り歪みを受けていることを保証している。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
10 … 歪検知素子、15 … 基板、20 … 参照層、30 … スペーサー層、40 … 磁化自由層、50 … 磁気抵抗素子、70 … 下地層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化方向が膜面垂直方向を向いている磁化自由層と、
磁化を有する参照層と、
前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面垂直方向に通電する一対の電極と、
前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、
前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項2】
磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化方向が膜面垂直方向を向いている磁化自由層と、
磁化を有する参照層と、
前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面積層面に対して平行方向に通電する一対の電極と、
前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、
前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項3】
前記磁化自由層の磁歪定数の絶対値が10−6以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項4】
前記磁化自由層は磁性層Mp及び磁性層Mlの少なくとも二つの磁性層の積層膜から形成され、前記磁性層Mpは垂直磁気異方性を示し、前記磁性層Mlの磁歪定数の絶対値が10−4より大きな磁歪定数を示すことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項5】
前記参照層の磁化方向は外部歪が印加された状態においても固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項6】
前記磁性層MpはCoPt−SiO2のグラニュラ膜、TbFe、FePt、CoPt、(Co/Ni)多層膜、(Co/Pd)多層膜、(Co/Pt)多層膜、又は(Co/Ir)多層膜から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項7】
前記磁性層MlはTbFe、SmFe、DyFe、FeSiB、FeOx、CoOx、NiOx(0<x<80)、及びNiを含む合金などから選択される、いずれかひとつの材料を含むことを特徴とする請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項8】
前記磁性層Mp、前記磁性層Mlに加え、前記スペーサー層界面に、CoFeB層、またはCoFe層を磁化自由層として有することを特徴とする、
請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項9】
前記基板が、Siで形成され、一部薄膜化されたメンブレン構造を有することを特徴とする、前記請求項1〜7記載のいずれか一項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項10】
前記基板が、ポリマー材料で形成されていることを特徴とする、前記請求項1〜7記載のいずれか一項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項11】
請求項1〜9記載の圧力検知素子を用いた、血圧センサ。
【請求項1】
磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化方向が膜面垂直方向を向いている磁化自由層と、
磁化を有する参照層と、
前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面垂直方向に通電する一対の電極と、
前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、
前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項2】
磁化方向が変化可能で外部歪が印加されていない状態では磁化方向が膜面垂直方向を向いている磁化自由層と、
磁化を有する参照層と、
前記磁化自由層と前記参照層との間に設けられたスペーサー層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面積層面に対して平行方向に通電する一対の電極と、
前記一対の電極の何れか一方に設けられた基板と、
前記基板が歪むと、前記磁化自由層の磁化の回転角度と前記参照層の磁化の回転角度が異なることを特徴とする歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項3】
前記磁化自由層の磁歪定数の絶対値が10−6以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項4】
前記磁化自由層は磁性層Mp及び磁性層Mlの少なくとも二つの磁性層の積層膜から形成され、前記磁性層Mpは垂直磁気異方性を示し、前記磁性層Mlの磁歪定数の絶対値が10−4より大きな磁歪定数を示すことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項5】
前記参照層の磁化方向は外部歪が印加された状態においても固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項6】
前記磁性層MpはCoPt−SiO2のグラニュラ膜、TbFe、FePt、CoPt、(Co/Ni)多層膜、(Co/Pd)多層膜、(Co/Pt)多層膜、又は(Co/Ir)多層膜から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項7】
前記磁性層MlはTbFe、SmFe、DyFe、FeSiB、FeOx、CoOx、NiOx(0<x<80)、及びNiを含む合金などから選択される、いずれかひとつの材料を含むことを特徴とする請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項8】
前記磁性層Mp、前記磁性層Mlに加え、前記スペーサー層界面に、CoFeB層、またはCoFe層を磁化自由層として有することを特徴とする、
請求項4に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項9】
前記基板が、Siで形成され、一部薄膜化されたメンブレン構造を有することを特徴とする、前記請求項1〜7記載のいずれか一項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項10】
前記基板が、ポリマー材料で形成されていることを特徴とする、前記請求項1〜7記載のいずれか一項に記載の歪検知素子または圧力検知素子。
【請求項11】
請求項1〜9記載の圧力検知素子を用いた、血圧センサ。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−78186(P2012−78186A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223175(P2010−223175)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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