説明

気相成長装置及び気相成長方法

【課題】 気相成長した半導体膜の面内の特性のばらつきを抑制する。
【解決手段】 気相成長装置100は、基板44の表面に半導体膜を成長させる。気相成長装置100は、気相成長室38と、攪拌室2と、連通路14と、調整装置1を有する。気相成長室38は、基板44が載置される載置台34を有する。攪拌室2は、複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガス10を生成する。連通路14は、気相成長室38と攪拌室2を連通する。調整装置1は、混合原料ガス10を気相成長室38内に対して導入する導入量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に半導体膜を成長させる気相成長技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面に半導体膜を気相成長させる方法が知られている。気相成長方法では、基板の表面の半導体膜が成長するのに伴って、半導体膜の成長速度が次第に遅くなることが知られている。この現象は、半導体膜の成長に伴い発生した副生成物が、半導体膜の成長を阻害するからだと考えられている。
【0003】
特許文献1には、原料ガス(半導体膜を成長させるガス)を所定時間供給し、その後、原料ガスの供給を停止した状態で希釈ガス(半導体膜を成長させないガス)を所定時間供給する技術が開示されている。すなわち、特許文献1の技術では、気相成長室内に供給するガスを、原料ガスと希釈ガスで経時的に切換える。
【0004】
原料ガスを供給する時間と希釈ガスを供給する時間を経時的に切換えることで、基板上に残存する副生成物を希釈ガスで置換することができる。これにより、希釈ガスを供給して半導体膜の成長を停止させる時間が設けられることによって、半導体膜の成長する時間が断続的であっても、その断続的な成長時間では半導体膜が高速で成長することから、結果として、半導体膜の成長速度を速く維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−105328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、半導体膜の成長速度を速く維持すると、成長した半導体膜の特性が、その半導体膜の面内でばらつくことが分かってきた。本明細書で開示される技術は、上記知見を契機として創作されたものであり、気相成長した半導体膜の面内において特性がばらつくことを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
成長した半導体膜の特性が面内でばらつく原因を探求したところ、複数の原料ガスが均一に混合されないままに、基板の表面に供給されていることが判明した。特に、半導体膜の成長速度を速く維持するために、原料ガスを供給する時間と希釈ガスを供給する時間を短時間で切換えると、気相成長室内で複数の原料ガスが混合されないうちに、希釈ガスを供給する時間に切換わる。このため、半導体膜の成長速度を速く維持するために、原料ガスを供給する時間と希釈ガスを供給する時間を短時間で切換えると、ますます複数の原料ガスが均一に混合されなくなり、半導体膜の面内における特性のばらつきが悪化する。
【0008】
本明細書で開示される技術は、複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガスを生成した後に、その混合原料ガスを気相成長室内に導入することを特徴とする。すなわち、本明細書で開示される技術は、基板の表面に複数の原料ガスを供給することに先立って、複数の原料ガスを攪拌し、複数の混合ガスが均一に混合された状態を予め生成しておくことを特徴とする。均一に混合された混合原料ガスを予め生成しておくことで、基板の表面のどの位置に対しても均一の混合比の混合原料ガスを供給することができる。そのため、例えば、原料ガスを供給する時間と希釈ガスを供給する時間を短時間で切換えたとしても、半導体膜の特性が面内でばらつくことを抑制することができる。
【0009】
本明細書に開示する技術は、基板の表面に半導体膜を成長させる気相成長装置に具現化することができる。その気相成長装置は、気相成長室と攪拌室と連通路と調整装置を有する。気相成長室は、基板が載置される載置台を有する。攪拌室は、複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガスを生成する。連通路は、気相成長室と攪拌室を連通する。調整装置は、混合原料ガスを気相成長室に対して導入する導入量を調整する。ここでいう導入量とは、基板の単位面積当たりに導入される単位時間当たりのガスのモル量である。
【0010】
なお、攪拌室は、気相成長室と複数の原料ガスが貯蔵されているガス貯蔵槽との間に設けられており、気相成長室の空間とは異なる空間で構成されている。攪拌室は、複数の原料ガスを強制的に拡散させる強制拡散手段を備えている。このため、攪拌室には、複数の原料ガスが自然拡散のみによって混合されるようなものは含まれない。強制拡散手段には、後述するように、入力された外部エネルギーを用いて複数の原料ガスを強制的に拡散させるアクチュエータが含まれる。あるいは、強制拡散手段には、外部エネルギーを用いずに、複数の原料ガスを強制的に拡散させるものも含まれ、例えば、複数の原料ガスに対して強制的に乱流を起こさせる立体形状を備えた空間が含まれる。
【0011】
上記の気相成長装置によると、半導体膜を成長させるための複数の原料ガスが、気相成長室内に導入された時点でほぼ均一に混ざり合っている。そのため、基板上に供給される混合原料ガスは、基板の表面のどの位置に対しても均一な混合比で供給される。これにより、半導体膜の特性が、その半導体膜の面内でばらつくことを抑制することができる。
【0012】
攪拌室は、複数の原料ガスを攪拌するためのアクチュエータを有していることが望ましい。攪拌室に導入される各原料ガスの導入量に応じてアクチュエータを制御することができる。例えば、各原料ガスの導入量が多い場合は、アクチュエータの運動量を大きくすれば、複数の原料ガスが均一に混合されることを保証することができる。簡単な構造のアクチュエータとして、攪拌子が挙げられ、具体的には攪拌羽が望ましい。
【0013】
本明細書に開示する気相成長装置は、気相成長室内に設けられており、基板の表面に向けて光を照射する光照射装置をさらに備えていることが好ましい。ここでいう「光照射装置」は、光源で生成された光を基板の表面に向けて照射する装置のことをいう。なお、光源は、気相成長装置内に配置してもよいし、気相成長装置外に配置してもよい。光源を気相成長装置外に配置する場合、光ファイバー等を利用して、光源で生成された光を光照射装置に導入することができる。光照射装置に用いる光は、基板の材料の種類、あるいは、基板の表面に吸着する副生成物の種類に応じて選択することができる。基板の表面に向けて光を照射することにより、基板の表面の温度を局所的に上昇させることができる。あるいは、基板の表面に向けて光を照射することにより、基板表面における基板と副生成物との結合を切ることができる。その結果、基板の表面の副生成物を基板の表面から速やかに脱離させることができ、単位時間あたりの半導体膜の成長速度をより速くすることができる。
【0014】
上記した調整装置は、混合原料ガスの導入量が基板の中心部よりも端部に多くなるように調整して導入する部分調整手段を有することが望ましい。これにより、基板の端部には中心部よりも多くの混合原料ガスが供給される。例えば、載置台に載置された基板が回転していると、気相成長室に導入された混合原料ガスが基板の中心部に引き寄せられる。そのため、基板の端部における半導体膜の成長速度が中心部よりも遅くなり、端部の厚みが中心部よりも薄くなる。部分調整手段を用いて混合原料ガスの導入量を基板の表面の位置に応じて適宜調整すれば、基板の表面に均一に混合原料ガスを供給することができる。これにより、半導体膜の厚みが半導体膜の面内でばらつくことを抑制することができる。
【0015】
部分調整手段は、基板の中心部に向けて混合原料ガスを導入する第1導入開口部と、基板の端部に向けて混合原料ガスを導入する第2導入開口部を有していることが望ましい。この場合、混合原料ガス中の原料ガスの濃度の割合を変えて、第1導入開口部から原料ガスの濃度が濃い混合原料ガスを導入し、第2導入開口部から原料ガスの濃度が薄い混合原料ガスを導入してもよい。あるいは、第1開口部から導入する混合原料ガスの流量(基板に単位面積当たりに導入される単位時間当たりの混合原料ガスの体積)を多くし、第2開口部から導入する混合原料ガスの流量を少なくしてもよい。前者の場合、複数の攪拌室を有することが望ましい。後者の場合、1つの攪拌室に2つのバルブを設ければ、複数の攪拌室を有していなくても、第1導入開口部及び第2導入開口部に供給する混合原料ガスの流量を変えることができる。
【0016】
本明細書は、基板の表面に半導体膜を成長させる気相成長方法を開示する。その方法は、複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガスを生成する工程と、混合原料ガスを気相成長室に対して導入する導入量を調整し、半導体膜が成長する第1段階と半導体膜が成長しない第2段階を繰返す工程とを有する。
【0017】
上記の気相成長方法では、第1段階と第2段階を経時的に繰り返す。混合原料ガスを連続して長時間導入すると、基板の表面に副生成物が蓄積し、半導体膜の成長速度が次第に遅くなる。第1段階と第2段階を経時的に繰り返すと、第1段階で生じた基板上の副生成物を、第2段階で除去することができる。それにより、半導体膜の成長速度を速く維持することができる。さらに、上記気相成長方法では、第1段階で導入される混合原料ガス中の各原料ガスが均一に混合されている。そのため、半導体膜の成長速度を速く維持しても、基板の表面のどの位置に対しても均一の混合比の混合原料ガスが供給され、半導体膜の特性が半導体膜の面内でばらつくことが抑制される。
【0018】
上記した複数の原料ガスは、気相成長する半導体膜にドーパントを提供するドーパントガスを含むことができる。本明細書で開示される技術によると、半導体膜に含まれるドーパントの量を、半導体膜の面内のどの位置に対しても均一にすることができる。なお、ここでいう「ドーパントガス」とは、半導体膜に対してドナー、又は、アクセプタとなる不純物のことをいう。従来の気相成長方法では、原料ガスを供給する時間と希釈ガスを供給する時間を短時間で切換えると、特に、半導体膜に含まれるドーパントの量が半導体膜の面内においてばらつく。そのため、例えば、半導体膜の抵抗率が、半導体膜の面内においてばらつく。一方、本明細書で開示される気相成長方法は、基板の表面のどの位置に対してもドーパントガスを均一に供給することができるので、半導体膜の抵抗率が半導体膜の面内でばらつくことが抑制される。
【0019】
上記した第1段階の継続期間は50秒以下であることが好ましい。これにより、半導体膜の成長速度を速く維持することができる。ところが、本発明者らの検討によると、予め複数の原料ガスを攪拌しない従来の気相成長方法では、第1段階の継続時間を50秒以下にすると、半導体膜の特性の面内でのばらつきが顕著に悪化することが分かってきた。一方、本願明細書で開示される気相成長方法は、第1段階の継続期間が50秒以下であっても、半導体膜の特性の面内でのばらつきを抑制することができる。本願明細書で開示される気相成長方法は、半導体膜の高速成長と特性ばらつきの抑制を両立することができる。
【0020】
上記した第2段階では、気相成長室内に希釈ガスを導入することが好ましい。「希釈ガス」とは、混合原料ガスに含まれるガスの一つであることが望ましい。これにより、第2段階で用いるためだけのガスを用意する必要がない。
【0021】
第2段階で希釈ガスを用いる場合、第1段階で気相成長室内に導入する混合原料ガスの導入量と第2段階で気相成長室内に導入する希釈ガスの導入量が異なっていることが好ましい。混合原料ガスと希釈ガスは、ガスの組成の相違により、気相成長室からの排出速度が相違する。そのため、混合原料ガスと希釈ガスを同じ導入量で導入すると、第1段階と第2段階で気相成長室内の圧力が変化し、気相成長室内が高圧の状態から低圧の状態に切換わるときに、気相成長室内が排出側よりも負圧になってしまう。気相成長室が排出側よりも負圧になると、排出ガスが気相成長室に逆流し、逆流したガス中の副生成物が半導体膜の成長を阻害してしまう。第1段階で気相成長室内に導入する混合原料ガスの導入量と第2段階で気相成長室内に導入する希釈ガスの導入量を異ならせることで、第1段階と第2段階のいずれにおいても、気相成長室へのガスの導入量と気相成長室からのガスの排出量のバランスをとることができる。排出ガスが気相成長室に逆流することが抑制され、半導体膜の成長が阻害されることを抑制することができる。
【0022】
第2段階で希釈ガスを用いる場合、混合原料ガスの粘性が希釈ガスの粘性よりも高く、第1段階で気相成長室内に導入する混合原料ガスの導入量が、第2段階で気相成長室内に導入する希釈ガスの導入量よりも少ないことが好ましい。粘性が高いガスは、粘性が低いガスよりも気相成長室から排出されにくい。そのため、混合原料ガスの導入量と希釈ガスを同じ導入量で導入すると、混合原料ガスから希釈ガスに切換えたときに、気相成長室が負圧になってしまう。その結果、排出ガスが気相成長室に逆流し、逆流したガス中の副生成物が半導体膜の成長を阻害してしまう。第1段階における混合原料ガスの導入量と第2段階における希釈ガスの導入量を上記のようにすれば、第1段階と第2段階のいずれにおいても、気相成長室へのガスの導入量と気相成長室からのガスの排出量のバランスをとることができる。排出ガスが気相成長室に逆流することが抑制され、半導体膜の成長が阻害されることを抑制することができる。
【0023】
上記した第2段階では、基板の表面に向けて光を照射することが好ましい。照射に用いる光は、基板の材料の種類、あるいは、基板の表面に吸着する副生成物の種類に応じて選択することができる。光を照射することにより、基板の表面の温度を局所的に上昇させることができる。あるいは、光を照射することにより、基板と副生成物の結合を切ることができる。その結果、第2段階の時間を短縮することができ、単位時間あたりの半導体膜の成長速度をより速くすることができる。
【0024】
第1段階では、基板に供給する混合原料ガスを、基板の中心部よりも端部に多く供給することが好ましい。基板の表面に均一に混合原料ガスを供給することができる。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示される技術によると、面内において特性のばらつきが抑制された半導体膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、第1実施例の気相成長装置の要部断面図を示す。
【図2】図2は、気相成長室に導入されるTCSガスの濃度を経時的に示す。
【図3】図3は、混合原料ガスに含まれるTCSガスの濃度と、半導体膜の成長速度との関係を示す。
【図4】図4は、混合原料ガスを気相成長室に導入する時間と、半導体膜の成長速度との関係を示す。
【図5】図5は、混合原料ガスの導入時間と、半導体膜の抵抗率の面内におけるばらつきとの関係を示す。
【図6】図6は、混合原料ガスの導入時間と、半導体膜の厚みの面内におけるばらつきとの関係を示す。
【図7】図7は、第2実施例の気相成長装置の要部断面図を示す。
【図8】図8は、第3実施例の気相成長装置の要部断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書で開示される技術的特徴の幾つかを以下に整理して記す。
(特徴1)気相成長室への混合原料ガスの導入量が気相成長室からの排出量に等しく、気相成長室への希釈ガスの導入量が気相成長室からの排出量に等しい。
(特徴2)気相成長室へ導入する混合原料ガスはトリクロロシランガスと水素ガスを含んでおり、気相成長室へ導入する希釈ガスは水素ガスである。希釈ガスは、混合原料ガスの原料として使用される水素ガスと同じガス槽から供給される。そのため、希釈ガスのためだけのガス槽を用意する必要がない。
(特徴3)第1段階及び第2段階の継続時間は、夫々2秒である。
(特徴4)気相成長室と攪拌室の間に、気相成長室からの混合原料ガスの排出量を調整するためのバルブが設けられている。
(特徴5)部分調整手段には、混合原料ガスの導入量が基板の中心部よりも端部に多くなるように調整可能な様々な手段が含まれる。例えば、部分調整手段の一例には、気相成長室に設けられたシャワープレートの開口率が異なるものが含まれる。このシャワープレートでは、基板の中心部に対向する範囲の開口率が小さく、基板の端部に対向する範囲の開口率が大きく形成されている。
【実施例1】
【0028】
図1を参照し、気相成長装置100について説明する。気相成長装置100では、シリコンウエハ44の表面にエピタキシャル膜を成長させる。シリコンウエハ44は基板の一例であり、エピタキシャル膜は半導体膜の一例である。
【0029】
気相成長装置100は、気相成長室12と、攪拌室2と、気相成長室12と攪拌室2を連通する連通路14と、複数のバルブ4a,6a,8aで構成された調整装置1を備えている。
【0030】
気相成長室12は、チャンバ38を形成する内室42と、シリコンウエハ44が載置される載置台(サセプタ)34と、載置台34の内部に設けられた抵抗加熱型のヒータ32と、内室42の周囲に設けられた水冷管24と、チャンバ38の上部に設けられたシャワープレート20と、チャンバ38の底面に接続されている排気通路28を備えている。チャンバ38の内面は、高純度石英又はSiCで被覆されている。載置台34は、図示しないモータによって、矢印30に示すように最大で1000rpmで回転することができる。ヒータ32は、シリコンウエハ44を、最大で1200℃まで加熱することができる。なお、ヒータ32により、シリコンウエハ44の温度を±1℃で制御することができる。水冷管24には、冷水を流通させることができる。これにより、内室42の側壁42aを冷却することができる。チャンバ38内に導入された混合原料ガス10が、内室42の表面で反応することが防止される。
【0031】
シャワープレート20は、攪拌室2で攪拌された混合原料ガス10が連通路14を通じてチャンバ38内に導入される導入開口部である。シャワープレート20の開口率は、シリコンウエハ44の中心部に対向する範囲では小さく、シリコンウエハ44の端部に対向する範囲では中心部よりも大きい。すなわち、シャワープレート20の端部に形成されている第2導入開口部20bは、中心部に形成されている第1導入開口部20aよりも大きい。そのため、混合原料ガス10の導入量は、シリコンウエハ44の中心部よりも端部の方が多い。すなわち、シャワープレート20は、混合原料ガス10の導入量(単位時間当たりの混合原料ガス10の体積)がシリコンウエハ44の中心部よりも端部に多くなるように調整して導入する部分調整手段に相当する。
【0032】
排気通路28は、図示しない排気ポンプに接続されている。排気ポンプを作動することにより、チャンバ38内の圧力を0〜760Torrに調整することができる。なお、混合原料ガス10の導入量と排気ポンプの排気量とを調整することにより、チャンバ内を正圧(加圧)にすることもできるし、負圧(減圧)にすることもできる。気相成長装置100では、混合原料ガス10の導入量と排気ポンプの排気量とが等しくなるように調整されている。
【0033】
攪拌室2は、調整装置1を介して、Hガス(水素ガス)槽4とSiHClガス(トリクロロシランガス)槽6とPHガス(リン化水素ガス)槽8に連通している。ガス槽4,6,8から攪拌室2に供給するガス流量は、調整装置1のバルブ4a,6a,8aによって調整することができる。攪拌室2とチャンバ38の間には、ガスの流量を調整する手段が設けられていない。このため、チャンバ内に導入されるガス流量は、調整装置1によって制御される。攪拌室2は攪拌羽3を備えており、その攪拌羽3を利用して攪拌室2に導入されたHガスとSiHClガスとPHガスを強制的に攪拌する。そのため、攪拌室2の出口5を通過するガスは、HガスとSiHClガスとPHガスとがよく混ざり合っている。よって、シリコンウエハ44上に供給される各原料ガス(Hガス、SiHClガス、PHガス)の割合が、シリコンウエハ44上のどの位置でも均一になる。また、以下の説明では、HガスとSiHClガスとPHガスが混合したガスを、混合原料ガスと称する。
【0034】
なお、HガスとSiHClガスは、互いに反応してシリコンウエハ44の表面にエピタキシャル成長層を形成する。すなわち、HガスとSiHClガスは、エピタキシャル成長層(シリコン成長膜)の原料ガスの一例である。また、PHガスは、エピタキシャル成長膜中にリンをドーピングするためのドーパントガスの一例であり、原料ガスの一例である。
【0035】
気相成長装置100はさらに、チャンバ38内に設けられた光照射装置15を備えている。光照射装置15は、内室42の側壁42aに取付けられている。光照射装置15は、シリコンウエハ44の表面に向けて、シリコンウエハ44の表面が加熱される光を照射することができる。このような光の波長は、300nm〜1000nmである。本実施例では、波長が804nmの光を照射する。なお、光照射装置15は、シリコンウエハ44の表面に向けて、基板の表面に吸着する副生成物の格子振動に相当する光を照射してもよい。この場合、主に中赤外領域の波長を照射する。光照射装置15は、シャワープレート20から載置台34までのガス流路(矢印18)よりも外側で、内室42に取付けられている。そのため、光照射装置15がガス流路を遮ることはない。シャワープレート20から排気通路28までのガスの流れが乱れることが抑制される。光照射装置15は、載置台34上のシリコンウエハ44の全面に光を照射することができる。図示は省略しているが、光照射装置15は、シリコンウエハ44に照射するための光を生成する光源に接続されている。光源は、気相成長装置100内に配置してもよいし、気相成長装置100外に配置してもよい。光源を気相成長装置100外に配置する場合、光源で生成された光は、光ファイバー等を利用して光照射装置15に導入される。
【0036】
シリコンウエハ44の表面にエピタキシャル膜を成長させる処理について説明する。まず、載置台34にシリコンウエハ44を載置した後、図示しない排気ポンプでチャンバ38内の圧力を760Torr以下に保持する。さらに、水冷管24内に冷水を流通させて、内室42の側壁42aを冷却する。載置台34を回転させつつヒータ32を作動させることにより、シリコンウエハ44の温度を適値に保持する。そして、攪拌室2から連通路14,シャワープレート20を通じてチャンバ38内に混合原料ガス10を導入する。
【0037】
バルブ4a,6a,8aの開度を制御することにより、混合原料ガス10中の夫々のガガス濃度が調整される。攪拌室2では、SiHClガスとHガスとPHガスが、攪拌羽3によって強制的に攪拌される。それにより、SiHClガスとHガスとPHガスが均一に混合された混合原料ガス10を生成することができる。なお、Hガスは、SiHClガスの濃度を調整するための希釈ガスに相当する。本実施例では、HガスとSiHClガスとPHガスを含む混合原料ガス10をチャンバ38内に2秒間導入した後、Hガスのみをチャンバ38内に2秒間導入する工程を繰返し実施する。これにより、混合原料ガス10がシリコンウエハ44の表面に供給される第1段階と、Hガスのみがシリコンウエハ44の表面に供給される第2段階が交互に訪れる。第1段階ではシリコンウエハ44の表面にエピタキシャル膜が成長し、第2段階ではシリコンウエハ44の表面にエピタキシャル膜が成長しない。以下の説明では、SiHClガスをTCSガスと称し、Hガスを希釈ガスと称し、PHガスをドーパントガスと称する。
【0038】
第1段階でチャンバ38内に導入された混合原料ガス10は、矢印18に示すようにシャワープレート20からシリコンウエハ44に向かって流れる。混合原料ガス10は、シリコンウエハ44の表面近傍に到達すると、矢印16に示すようにシリコンウエハ44の外周に向かって流れる。載置台34の外周まで流れた混合原料ガス10は、矢印26に示すように排気通路28からチャンバ38の外部に排出される。第2段階でチャンバ38内に導入された希釈ガスも、矢印18,矢印16,矢印26に示すように流れる。
【0039】
上記したように、シリコンウエハ44は、ヒータ32によって加熱されている。そのため、シリコンウエハ44の表面近傍に達した混合原料ガス10は、シリコンウエハ44の表面で反応を起こす。すなわち、TCSガスと希釈ガス(Hガス)とが、以下の反応式で示す反応を起こす。
SiHCl+H→Si+3HCl
【0040】
上記反応式に示す反応により生成されたSi(シリコン)は、シリコンウエハ44の表面に固着する。すなわち、上記反応式に示す反応によって、シリコンウエハ44の表面にエピタキシャル成長膜(単結晶シリコン膜)が成長する。このときに、エピタキシャル成長膜内に、PHガスが含有するリン原子が取り込まれる。これにより、エピタキシャル成長膜は、n型のシリコン膜となる。
【0041】
上記反応式に示すように、混合原料ガスがシリコンウエハ44の表面で反応すると、Siが生成されるのと同時に副生成物である塩酸ガス(HClガス)が生成される。HClガスがシリコンウエハ44の表面に残存すると、シリコンウエハ44の表面では、以下の反応式に示す反応が起こる。
Si+3HCl→SiHCl+H
【0042】
上記反応式は、上述した成膜反応に対する逆反応である。すなわち、HClガスとシリコンウエハ44のSi(シリコン)とが結びついて、SiHClガスとHガスが生成される。この反応により、シリコンウエハ44の表面がエッチングされ、シリコン膜の成長速度が遅くなる。第1段階と第2段階を繰り返すことにより、シリコンウエハ44の表面にHClガスが残存することを抑制することができる。そのため、シリコン膜の成長速度が遅くなることを抑制することができる。なお、第2段階では、光照射装置15からシリコンウエハ44の表面に向けて、波長が804nmの光が照射される。その結果、シリコンウエハ44の温度が上昇し、シリコンウエハ44の表面からのHClガスの脱離が促進される。
【0043】
図2は、チャンバ38内に導入されるTCSガスの濃度を経時的に示す。グラフの横軸は時間を示し、縦軸はTCSガスの濃度を示す。図2に示すように、チャンバ38内にTCSガスを導入する期間t1,t3,t5,t7,t9と、チャンバ38内にTCSガスが導入されない(すなわち、TCSガスの濃度が0%)期間t2,t4,t6,t8が交互に訪れている。期間t2,t4,t6,t8では、バルブ6a,8aを閉じて、バルブ4aだけを開放する。それにより、期間t2,t4,t6,t8には、チャンバ38内に希釈ガスが導入される。すなわち、期間t1,t3,t5,t7,t9は第1段階であり、期間t2,t4,t6,t8は第2段階である。上記したように第1段階では、シリコンウエハ44の表面に副生成物が増加する。第2段階を行うことにより、副生成物をチャンバ38の外部に排出する。すなわち、第1段階と第2段階を繰り返すことにより、シリコンウエハ44の表面のHClガスを、Hガスに置換する。それにより、シリコン膜の成長速度が低下することを抑制することができる。なお、期間t1〜t9は夫々2秒である。
【0044】
以下、図3〜図6を参照し、複数の原料ガスを攪拌してチャンバ内に導入する利点について説明する。図3〜図6に示すデータは、攪拌室を有しない気相成長装置の実験結果を示す。図3は、混合原料ガスに含まれるTCSガスの濃度と、エピタキシャル膜の成長速度の関係を示す。グラフの横軸はTCSガスの濃度を示し、グラフの右側に向かうに従って濃度が濃い。縦軸はエピタキシャル膜の成長速度GRを示す。なお、図3は、混合原料ガスを300秒間連続してチャンバ内に導入したときの結果を示す。図3には、載置台の回転速度を3段階に変えた結果を示している。曲線62は、載置台を基準回転速度で回転させた結果を示す。曲線61は、載置台を曲線62よりも低速で回転させたときの結果を示す。曲線63は、載置台を曲線62よりも高速で回転させたときの結果を示す。破線60は、載置台の回転速度が低速(曲線61と同じ回転速度)であり、TCSガスの濃度が薄いときのシリコン膜の成長速度の結果を示す。
【0045】
図3から明らかなように、エピタキシャル膜の成長速度は、TCSガスの濃度が増加するに従って速くなる。また、曲線61,62,63に示すように、載置台の回転速度が速くなるほど、エピタキシャル膜の成長速度は速くなる。この結果から、エピタキシャル膜の成長速度を速くするためには、TCSガスの濃度を濃くし、載置台の回転速度を速くすることが有効であることがわかる。なお、曲線60,61に示すように、TCSガスの濃度が薄いときは、TCSガスの濃度と成長速度が比例の関係を示す。しかしながら、TCSガスの濃度が濃くなると、TCSガスの濃度と成長速度が比例の関係でなくなる。曲線62、63も同じ傾向を示す。
【0046】
曲線60,61の結果から、TCSガスの濃度を濃くする(反応速度を増加させる)に従って、TCSガスの濃度と成長速度が比例関係であれば得られるはずである成長速度と、実際の成長速度との差が大きくなっている。この結果は、TCSガスの濃度が濃くなるに従って、生成される副生成物が増大し、成長速度の増加が鈍ることを示している。図3の結果から、TCSガスの濃度を濃くするだけでは、エピタキシャル膜の成長速度が飽和し、TCSガスの濃度に見合った効果が得られないことが判明した。
【0047】
図4は、混合原料ガスをチャンバ内に導入する時間と、エピタキシャル膜の成長速度の関係を示す。グラフの横軸は混合原料ガスの導入時間(秒)を示し、縦軸は成長速度GRを示す。図4には、チャンバ内に導入するTCSガスの濃度を3段階に変えた結果を示している。曲線66は、チャンバ内に基準濃度のTCSガスを導入した結果を示す。曲線65は、チャンバ内に基準濃度よりも薄い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。曲線67は、チャンバ内に基準濃度よりも濃い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。なお、載置台の回転速度は、曲線65,66,67の順に速く調整されている。
【0048】
図4の結果からも、エピタキシャル膜の成長速度を速くするためには、TSCガスの濃度を濃くし、載置台の回転速度を速くすることが有効であることがわかる。また、混合原料ガスの導入時間(エピタキシャル成長時間)が長くなるに従って、エピタキシャル膜の成長速度が飽和している。曲線65,66,67を比較すると明らかなように、TSCガスの濃度が濃くなるに従って、成長速度が飽和する時間が短くなっている。すなわち、TSCガスの濃度が濃いほど、成長速度を速く維持することができる時間が短い。曲線65では、混合原料ガスの導入時間がおよそ30秒まではエピタキシャル膜の成長速度を速く維持することができる。曲線66では、混合原料ガスの導入時間がおよそ10秒まではエピタキシャル膜の成長速度を速く維持することができる。曲線67では、混合原料ガスの導入時間がおよそ2秒まではエピタキシャル膜の成長速度を速く維持することができる。図4の結果から、TCSガスの濃度を濃くして、混合原料ガスをチャンバ内に導入する時間を短くすることにより、エピタキシャル膜の成長速度を速くすることができることが判明した。
【0049】
図5は、混合原料ガスの導入時間(エピタキシャル成長時間)と、エピタキシャル膜の抵抗率の面内ばらつきを示す。グラフの横軸は混合原料ガスの導入時間(秒)を示し、縦軸はエピタキシャル膜の抵抗率の面内ばらつき(±%)を示す。符号86(■)は、チャンバ内に基準濃度のTCSガスを導入した結果を示す。符号85(▲)は、チャンバ内に基準濃度よりも薄い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。符号87(◆)は、チャンバ内に基準濃度よりも濃い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。なお、載置台の回転速度は、符号85,86,87の順に速く調整されている。
【0050】
図5に示すように、何れの条件においても、混合原料ガスの導入時間を短く(50秒程度に)することにより、抵抗率の面内ばらつきが大きくなっている。混合原料ガスの導入時間を50秒以下にすると、抵抗率の面内ばらつきは、最大で80%を超える。矢印88に示すように、混合原料ガスの導入時間を長く(300秒程度に)すると抵抗率の面内ばらつきが±1%程度になる。すなわち、図5のデータより、シリコン基板上に供給されるドーパントの量は、混合原料ガスの導入時間を長くすれば面内で均一になるものの、混合原料ガスの導入時間が短いと面内で大幅にばらつくことが確認された。また、TSCガスの濃度が濃いほど、抵抗率の面内ばらつきが大きい。上記したように、TCSガスの濃度を濃くして、混合原料ガスの導入時間を短くすると、エピタキシャル膜の成長速度を向上させることができる。すなわち、拡散槽を有していない気相成長装置の場合、エピタキシャル膜の成長速度を向上させるほど、抵抗率の面内でばらつきが大きくなることが判明した。
【0051】
図6は、混合原料ガスの導入時間と、エピタキシャル膜の厚みの面内のばらつきの関係を示す。グラフの横軸は混合原料ガスの導入時間(秒)を示し、縦軸はエピタキシャル膜の面内ばらつき(±%)を示す。符号81(■)は、チャンバ内に基準濃度のTCSガスを導入した結果を示す。符号80(▲)は、チャンバ内に基準濃度よりも薄い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。符号82(◆)は、チャンバ内に基準濃度よりも濃い濃度のTCSガスを導入した結果を示す。載置台の回転速度は、符号80,81,82の順に速く調整されている。なお、符号80に示す結果におけるTCSガスの濃度及び載置台の回転速度は、図5の符合85に示す結果のものと同じである。符号81に示す結果におけるTCSガスの濃度及び載置台の回転速度は、図5の符合86に示す結果のものと同じである。符号82に示す結果におけるTCSガスの濃度及び載置台の回転速度は、図5の符合87に示す結果のものと同じである。
【0052】
図6に示すように、何れの条件においても、混合原料ガスの導入時間を短く(50秒程度に)することにより、エピタキシャル膜の厚みの面内ばらつきが大きくなっている。すなわち、エピタキシャル膜の抵抗率の面内ばらつきと同様に(図5を参照)、エピタキシャル膜の成長速度を向上させるほど、エピタキシャル膜の厚みの面内ばらつきが大きくなることが判明した。しかしながら、TCSガスの濃度を濃くしても、混合原料ガスの導入時間を短くしても、エピタキシャル膜の厚みの面内ばらつきは、エピタキシャル膜の抵抗率の面内ばらつきと比較して極めて小さい。この結果は、混合原料ガスの導入時間を短くしても、TCSガスと希釈ガスはシリコン基板の全面に概ね行き渡るものの、ドーパントガスはシリコン基板の一部にしか行き渡らないことを示している。換言すると、TCSガスの濃度を濃くして、混合原料ガスの導入時間を短くすると、ドーパントガスを少量だけ含む混合原料ガスが供給される部分と、ドーパントガスを大量に含む混合原料ガスが供給される部分が存在することを示している。図5及び図6の結果は、拡散槽を有していない気相成長装置の場合、チャンバ内に導入される混合原料ガス中の夫々の原料ガスの割合が部分的に異なることを示している。拡散槽を有していない気相成長装置の場合、良質なエピタキシャル膜を得るためには、TCSガスの濃度を濃くして、混合原料ガスの導入時間を短くする(例えば2秒以下)ことができない。
【0053】
上記したように、気相成長装置100は、攪拌室2内において、TCSガスと希釈ガスとドーパントガスが強制的に攪拌される。そのため、チャンバ38内に導入される混合原料ガスに含まれるTCSガスと希釈ガスとドーパントガスの割合は、均一化されている。シリコンウエハ44上に供給されるTCSガスと希釈ガスとドーパントガスの割合は、シリコンウエハ44の面内でほぼ一定である。そのため、気相成長装置100の場合、TCSガスの濃度を濃くして、混合原料ガス10の導入時間を短くしても、エピタキシャル膜の抵抗率が面内で大幅にばらつくことを抑制することができる。少なくとも、エピタキシャル膜の厚みのばらつきと同程度(数%)に抑制することができる。すなわち、攪拌室2内でTCSガスと希釈ガスを攪拌することにより、エピタキシャル膜を高速で成長させることができるとともに、エピタキシャル膜の抵抗率が面内でばらつくことを抑制することができる。
【0054】
気相成長装置100の他の特徴について説明する。上記したように、第2段階において、光照射装置15からシリコンウエハ44の表面に向けて、波長が804nmの光が照射される。シリコンウエハ44の表面からの副生成物の脱離が促進されるので、第2段階の時間を短くすることができる。エピタキシャル膜が成長しない第2段階の時間を短くすることにより、相対的にエピタキシャル膜が成長する第1段階の時間を長くすることができる。単位時間あたりのエピタキシャル膜の成長速度が速くなる。すなわち、エピタキシャル膜を高速で成長させることができる。なお、波長が804nmの光を照射することに代えて、シリコンウエハ44の表面に吸着するSiClの格子振動に対応する光を照射してもよい。その場合、光の波数は531カイザー(cm−1)(およそ11000nm)であり、SiClの振動エネルギーに共鳴する。そのため、そのような光をシリコンウエハ44の表面に向けて照射すると、光が選択的、効率的に吸着されるので、SiとClの結合が切れ、副生成物の離脱を促進させることができる。
【0055】
エピタキシャル膜は、載置台34上のシリコンウエハ44を回転させながら成長させる。シリコンウエハ44が回転していると、チャンバ38内に導入された混合原料ガス10は、シリコンウエハ44の中心に引き寄せられる。混合原料ガス10の導入量がチャンバ38内で均一である場合、エピタキシャル膜の周辺部の厚みが中央部よりも薄くなったり、エピタキシャル膜の周辺部の抵抗率が中央部よりも高くなることがある。このような傾向は、第1段階の時間を短くするほど顕著になる。
【0056】
上記したように、気相成長装置100では、シャワープレート20の開口率が、シリコンウエハ44の中心部に対向する範囲では小さく、シリコンウエハ44の端部に対向する範囲では中心部よりも大きい。そのため、混合原料ガス10がシリコンウエハ44の中心に引き寄せられる力が作用しても、混合原料ガス10は、シリコンウエハ44の端部に十分に供給される。その結果、エピタキシャル膜の厚み及び抵抗率が、エピタキシャル膜の面内でばらつくことを抑制することができる。
【0057】
気相成長装置100では、第1段階における混合原料ガス10の導入量よりも、第2段階における希釈ガスの導入量の方が多くなるようにガス流量が調整される。混合原料ガス10は希釈ガスよりも重量が重く、さらに粘性が高い。そのため、混合原料ガス10は、希釈ガスよりもチャンバ38から排出されにくい。混合原料ガス10と希釈ガスの導入量が等しい場合、混合原料ガス10の導入量と排出量のバランスが取れるように排気ポンプの排気量を調整すると、希釈ガスを導入しているときに、希釈ガスの排出量が導入量を上回ってしまう。その結果、チャンバ38内が負圧になり、エピタキシャル膜の成長過程で生じた副生成物がチャンバ38内に逆流し、エピタキシャル膜の厚みが面内でばらついたり、エピタキシャル膜の抵抗率が面内でばらついたりする。そのため、第2段階における希釈ガスの排出量が導入量を上回らないようにするために、第2段階における希釈ガスの導入量を第1段階における混合原料ガス10の導入量よりも多くすれば、第2段階においても希釈ガスの導入量と排出量のバランスをとることができる。それにより、副生成物がチャンバ38内に逆流することを抑制することができる。第1段階と第2段階の双方において希釈ガスの導入量と排出量のバランスをとることができ、エピタキシャル膜の厚みの面内ばらつき及びエピタキシャル膜の抵抗率の面内ばらつきを抑制することができる。
【0058】
なお、第1段階における混合原料ガス10の導入量よりも、第2段階における希釈ガスの導入量の方が多くなるようにガス流量を調整すれば、エピタキシャル成長時に生じた副生成物を効率的に排出することもできる。エピタキシャル膜が成長しない第2段階の時間を短くすることが可能となり、エピタキシャル膜を高速で成長させることができる。
【実施例2】
【0059】
図7に、気相成長装置200示す。気相成長装置200は気相成長装置100の変形例である。気相成長装置100と同じ構成については、気相成長装置100と同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する。気相成長装置200は、混合原料ガス10と希釈ガスとを切換える構造が気相成長装置100と異なる。気相成長装置200は、希釈ガスをHガス槽4から攪拌室2に導入する経路と、希釈ガスをHガス槽4から連通路14に導入するバイパス経路とを切換える切換弁50を有している。
【0060】
気相成長装置200は、希釈ガスをHガス槽4からバイパス経路を経由してチャンバ38内に導入するときは、バルブ2aによって、攪拌室2から連通路14への混合原料ガスの導入が停止される。そのため、攪拌室2内に導入されたTCSガスと希釈ガスとドーパントガスは、チャンバ38内に希釈ガスが導入されている間(第2段階)も攪拌され続ける。そのため、混合原料ガスを長期間攪拌することができ、混合原料ガスに含まれるガス成分を、より均一にすることができる。あるいは、攪拌室2内において複数回分の混合原料ガスを攪拌し続け、第1段階が訪れたときに、バルブ2aによって所定量の混合原料ガスをチャンバ38内に導入することもできる。
【実施例3】
【0061】
図8に、気相成長装置300示す。気相成長装置300は気相成長装置100の変形例である。気相成長装置100と同じ構成については、気相成長装置100と同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する。気相成長装置300は、2つの攪拌室2x,2yを有することを特徴とする。攪拌室2xには、シャワープレート20の中央部と連通する連通路14xが接続されている。攪拌室2xに供給するガス流量は、調整装置1xのバルブ4a,6a,8aによって調整することができる。そのため、シャワープレート20の中央部に導入される混合原料ガス10xの流量及び混合原料ガス10x中の原料ガスの濃度は、調整装置1xによって制御される。攪拌室2yには、シャワープレート20の端部と連通する連通路14yが接続されている。攪拌室2yに供給するガス流量は、調整装置1yのバルブ4a,6a,8aによって調整することができる。そのため、シャワープレート20の端部に導入される混合原料ガス10yの流量及び混合原料ガス10y中の原料ガスの濃度は、調整装置1yによって制御される。
【0062】
気相成長装置300の場合、2つの攪拌室2x,2yを有しているので、シャワープレート20の中心部に形成されている第1導入開口部20aに供給される混合原料ガス10xの濃度,流量と、シャワープレート20の端部に形成されている第2導入開口部20bに供給される混合原料ガス10yの濃度,流量とを別々に調整することができる。そのため、シリコンウエハ44の端部に供給される混合原料ガスの導入量(原料ガスの濃度、あるいは、混合原料ガスの流量)を、シリコンウエハ44の中央部に供給される混合原料ガスの導入量よりも多くすることができる。なお、気相成長装置300の場合、第1導入開口部20aと第2導入開口部20bの開口率が等しくてもよい。また、調整装置1x、1yを別々に制御することができるので、第1導入開口部20aと第2導入開口部20bの開口率によって混合原料ガスの導入量を調整するよりも、混合原料ガスの導入量を調整しやすい。なお、気相成長装置300においても、気相成長装置200と同様に、バイパス経路及び切換弁を設けてもよい。混合原料ガスを長期間攪拌することができ、混合原料ガス中のガス成分を、より均一にすることができる。
【0063】
上記実施例では、混合原料ガス10と、混合原料ガス10の一成分であるHガスとを交互に導入したが、混合原料ガス10と、混合原料ガス10の成分ではないガスとを交互に導入してもよい。このようなガスとして、Heガス、Arガス等が挙げられる。エピタキシャル膜を成長させるガス(混合原料ガス)と、エピタキシャル膜を成長させないガス(Hガス、Heガス、Arガス等)を交互に導入すれば、エピタキシャル膜の成長速度を速くすることができる。
【0064】
光照射装置15を配置する位置は、チャンバ38を形成している内室42の側壁42aに限られない。例えば、光照射装置15をシャワープレート20と載置台34の間に配置し、シリコンウエハ44の表面に向けて光を照射してもよい。この場合、シリコンウエハ44に向けて垂直に光を照射することができ、シリコンウエハ44の表面のどの位置においても、光の強度を一定にすることができる。なお、光照射装置15をシャワープレート20と載置台34の間に配置しても、シャワープレート20からシリコンウエハ44に向けて混合原料ガス10を供給することは可能である。例えば、光照射装置15を載置台34の中心から端部に向かって伸びる長尺状とし、載置台34の一部にだけ対向させればよい。上記したように、エピタキシャル膜を成長させる場合、載置台34を回転させる。そのため、光照射装置15が載置台34の中心から端部に向かって伸びていれば、光照射装置15が載置台34の一部にだけ対向していても、載置台34上のシリコンウエハ44の全面に光を照射することができる。
【0065】
また、上記実施例では、シリコンウエハ44の表面にシリコン膜を形成する例について説明した。しかしながら、基板はシリコンウエハに限られず、また、成長させる膜もシリコンに限られない。種々の材質からなるウエハ(例えば、SiC、サファイア等)に対して、種々の膜(例えば、SiC、窒化物半導体等)を成長させる装置に本発明を適用することができる。
【0066】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0067】
2:攪拌室
2a,4a,6a,8a:調整装置
3:攪拌羽
14:連通路
15:光照射装置
34:載置台
38:気相成長室
44:基板
100,200,300:気相成長装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に半導体膜を成長させる気相成長装置であって、
前記基板が載置される載置台を有する気相成長室と、
複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガスを生成する攪拌室と、
前記気相成長室と前記攪拌室を連通する連通路と、
前記混合原料ガスを前記気相成長室に対して導入する導入量を調整する調整装置と、
を有する気相成長装置。
【請求項2】
前記攪拌室は、前記複数の原料ガスを攪拌するためのアクチュエータを有する請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、攪拌子を有する請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記気相成長室内に設けられており、前記基板の表面に向けて光を照射する光照射装置をさらに備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記調整装置は、前記混合原料ガスの導入量が前記基板の中心部よりも端部に多くなるように調整して導入する部分調整手段を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記部分調整手段は、前記基板の中心部に向けて前記混合原料ガスを導入する第1導入開口部と、前記基板の端部に向けて前記混合原料ガスを導入する第2導入開口部を有している請求項5に記載の気相成長装置。
【請求項7】
基板の表面に半導体膜を成長させる気相成長方法であって、
複数の原料ガスを攪拌して混合原料ガスを生成する工程と、
前記混合原料ガスを前記気相成長室に対して導入する導入量を調整し、前記半導体膜が成長する第1段階と前記半導体膜が成長しない第2段階を繰返す工程と、を有する気相成長方法。
【請求項8】
前記複数の原料ガスが、前記半導体膜にドーパントを提供するドーパントガスを含む請求項7に記載の気相成長方法。
【請求項9】
前記第1段階の継続期間が50秒以下である請求項7又は8に記載の気相成長方法。
【請求項10】
前記第2段階では、前記気相成長室に希釈ガスを導入する請求項7〜9のいずれか一項に記載の気相成長方法。
【請求項11】
前記第1段階で前記気相成長室に導入する混合原料ガスの導入量と前記第2段階で前記気相成長室に導入する希釈ガスの導入量が異なっている請求項10に記載の気相成長方法。
【請求項12】
前記混合原料ガスの粘性が前記希釈ガスの粘性よりも高く、
前記第1段階で前記気相成長室に導入する混合原料ガスの導入量が、前記第2段階で前記気相成長室に導入する希釈ガスの導入量よりも少ない請求項10に記載の気相成長方法。
【請求項13】
前記第2段階では、前記基板の表面に向けて光を照射する請求項7〜12のいずれか一項に記載の気相成長方法。
【請求項14】
前記第1段階では、前記基板に供給する前記混合原料ガスを、前記基板の中心部よりも端部に多く供給する請求項7〜13のいずれか一項に記載の気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−192772(P2011−192772A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57168(P2010−57168)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】