説明

無段変速機及び不整地走行車両

【課題】HMTの経年劣化並びに燃料の無駄使いを抑制し得て、しかも、クラッチ電子制御機構を用いることなく発進時斜板傾斜角度制御を行うことができる無段変速機を提供する。
【解決手段】エンジン11から駆動輪12に至る動力伝達経路のエンジン出力軸11a寄りに配置された機械式トランスミッション(MT)13と、MT13に並設されて流体の静圧エネルギーを利用する静液圧式トランスミッション(HST)14と、によって無段階の変速を行うハイドロメカニカルトランスミッション(HMT)15と、エンジン11とHMT15との間のエンジン出力軸11aに配置された自動遠心クラッチ機構16と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の無段変速機、特に、機械式トランスミッションが入力軸と出力軸との間に介装されると共に、この機械式トランスミッションに静液圧式トランスミッションを並設した無段変速機及び不整地走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バスやトラック等の大型車両や各種建設機械用車両、トラクタ等の各種農業機械用車両、四輪バギー車等の不整地走行車両(ATV)といったレジャー・スポーツ産業車両、等の各種車両には、機械式トランスミッション(Mechanical Transmission;以下、「MT」と称する。)が入力軸と出力軸との間に介装されると共に、このMTと、流体の静圧エネルギーを利用する静液圧式トランスミッション(Hydro Static Transmission;以下、「HST」と称する。)とを、遊星歯車機構等を介して組み合わせることにより、無段階の変速を行うようにしたハイドロメカニカルトランスミッション(Hydro Mechanical Transmission;以下、「HMT」と称する。)を搭載したものが周知である。
【0003】
また、このような無段変速機としてのHMTとしては、例えば、図5に示すように、エンジン1から駆動輪2に至る動力伝達経路に、クラッチ機構3と遊星歯車機構4とで構成されたMT5と、エンジン1側に連結された斜板6aを有する液圧ポンプ6と駆動輪2側に連結された斜板7aを有する液圧モータ7とを接続したHST8と、を並列に配設してHMT9を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
さらに、図6に示すように、駆動輪2の入力側にブレーキスイッチ10を介在し、ブレーキペダル(図示せず)踏み込み量に応じて電気的にクラッチを開放すると共に停車中は変速比を中立制御する構成も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−236969号公報
【特許文献2】特開2000−127780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の如く構成された無段変速機にあっては、例えば、特許文献1に開示の技術では、アイドリング時においても常にHMT9が作動を継続してしまうため、HMT9の経年劣化が早まってしまうばかりでなく、燃料を無駄に使用してしまうという問題が生じていた。
【0006】
また、特許文献2に開示の技術では、停車中にクラッチを開放及び変速比を中立としてしまうことから、発進時斜板傾斜角度で待機することができず、急発進が不可能となってしまうという問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、HMTの経年劣化並びに燃料の無駄使いを抑制し得て、しかも、クラッチ電子制御機構を用いることなく発進時斜板傾斜角度制御を行うことができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無段変速機は、エンジンから駆動輪に至る動力伝達経路のエンジン出力軸寄りに配置された機械式トランスミッションと、該機械式トランスミッションに並設され且つ前記エンジンの出力軸側に液圧ポンプ及び前記駆動輪の入力軸側に液圧モータをそれぞれ接続した流体の静圧エネルギーを利用する静液圧式トランスミッションと、によって無段階の変速を行うハイドロメカニカルトランスミッションを搭載した無段変速機において、前記エンジンと前記ハイドロメカニカルトランスミッションとの間の前記エンジン出力軸に、自動遠心クラッチ機構を配置したことを特徴とする。
【0009】
また、車両走行状態の有無を検出する走行状態検出手段と、前記エンジンのエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記ハイドロメカニカルトランスミッションの入力回転数及び出力回転数を検出するHMT入力回転数検出手段及びHMT出力回転数検出手段と、前記液圧ポンプの斜板傾斜角度を検出する斜板傾斜角度検出手段と、前記HMT入力回転数検出手段及びHMT出力回転数検出手段で検出した各回転数に基づいて変速比を算出した後に斜板傾斜角度を算出する演算手段と、前記自動遠心クラッチ機構が切断状態にあるときに前記斜板傾斜角度検出手段で検出した斜板傾斜角度と前記演算手段で算出した斜板傾斜角度とを比較して発進時斜板傾斜角度を修正する発進時斜板傾斜角度修正手段と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記斜板傾斜角度検出手段で検出した斜板傾斜角度と前記演算手段で算出した斜板傾斜角度とを相関曲線に対応付けして記憶する記憶手段を備え、前記発進時斜板傾斜角度修正手段は前記記憶手段に記憶された相関曲線に対応付けして発進時斜板傾斜角度を修正することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の不整地走行車両には、請求項1乃至請求項3に記載の無段変速機が搭載されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無段変速機は、HMTの経年劣化並びに燃料の無駄使いを抑制し得て、しかも、クラッチ電子制御機構を用いることなく発進時斜板傾斜角度制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の一実施形態に係る無段変速機について、四輪バギー車等の不整地走行車両(ATV)に適用し、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の模式図、図2は本発明の一実施形態に係る無段変速機の説明図、図3は本発明の一実施形態に係る無段変速機における制御回路による制御ルーチンのフロー図、図4は変速比と斜板角度との相関のグラフ図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る無段変速機は、エンジン11から駆動輪(本実施の形態では後輪)12に至る動力伝達経路のエンジン出力軸11a寄りに配置された機械式トランスミッション(以下、単に「MT」と称する。)13と、MT13に並設されて流体の静圧エネルギーを利用する静液圧式トランスミッション(以下、単に「HST」と称する。)14と、によって無段階の変速を行うハイドロメカニカルトランスミッション(以下、単に「HMT」と称する。)15と、エンジン11とHMT15との間のエンジン出力軸11aに配置された自動遠心クラッチ機構16と、を備えている。
【0016】
MT13は、エンジン出力軸11aに自動遠心クラッチ機構16を介して連結されたギヤ17と、駆動輪入力軸12aに連結されてギヤ17と噛み合う遊星歯車機構18と、を備えている。
【0017】
HST14は、エンジン出力軸11a側に連結された斜板19aを有する液圧ポンプ19と、駆動輪入力軸12a側に連結された斜板20aを有する液圧モータ20と、これら液圧ポンプ19と液圧モータ20とを接続した流体の静圧エネルギーを利用する油圧機構21と、を備えている。
【0018】
自動遠心クラッチ機構16は、エンジン出力軸11aの中途部に配置されてこのエンジン出力軸11aを入力側と出力側とに分離しており、エンジン11が駆動してエンジン出力軸11aが回転している時にエンジン出力軸11aの入力側と出力側とを接続し且つエンジン出力軸11aが回転していない時にはエンジン出力軸11aの入力側と出力側とを切断する。
【0019】
この際、自動遠心クラッチ機構16は、エンジン11が駆動していても車両走行状態に無い、所謂、アイドリング時よりも遅い回転数のエンジン出力軸11aの回転を出力側に伝達しないように切断設定されている。従って、自動遠心クラッチ機構16は、小型化が可能であると同時に、アイドリング時におけるエンジン出力軸11aの回転はMT13には伝達しないため、電磁クラッチ等の電気的な制御を行うことなく、HMT15の機械的な経年劣化や燃費消費無駄を抑制することができる。
【0020】
一方、エンジン11のエンジン回転数は制御回路22に出力される。また、この制御回路22には、スロットルポジションセンサ23からのスロットル信号が入力される他、HMT15の入力回転数及び出力回転数並びに液圧ポンプ19の斜板19aの傾斜角度、等が入力される。さらに、制御回路22は、ROM24に格納された制御プログラムに基づいて車両走行に係る各種制御を実行する。尚、ROM24は、本発明に係る発進時斜板傾斜角度修正プログラムも格納しており、この発進時斜板傾斜角度修正プログラムを実行する制御回路22とでマイクロコンピュータを構成している。
【0021】
これにより、制御回路22は、スロットルポジションセンサ23からのスロットル信号とエンジン回転数とに基づいて車両走行状態の有無を検出する。また、制御回路22は、HMT入力回転数及びHMT出力回転数に基づいて変速比を算出すると共に、その変速比をメモリ25に格納する。さらに、制御回路22は、メモリ25に格納した変速比に基づいて斜板19aの傾斜角度を算出する。また、制御回路22は、検出した斜板19aの傾斜角度と算出した斜板19aの傾斜角度とを比較して発進時斜板傾斜角度を修正し、その修正結果をメモリ25にフィードバック(学習)する。
【0022】
尚、制御回路22は、例えば、
(1)スロットルポジションセンサ23=全閉
(2)HMT出力回転数=0
(3)エンジン回転数≠HMT入力回転数
(4)エンジン回転数≒アイドリング回転数
の何れか或いは任意の組み合わせが成立した時に、発進時に要求される斜板角度への制御を実行する。
【0023】
これにより、スロットル開度と車速とに応じたエンジン目標回転数を予め設定することで、制御回路22により目標変速比を算出して斜板角度をモータ等(図示せず)により制御することができる。この際、制御回路22は、環境条件(機構内温度や外気温等)によって実際に要求される変速比とそれに対応する斜板角度との関係に誤差が生じ、状況によっては、HMT作動中にフィードバック(学習)が効かなくなって発進時の斜板角度・発進斜板角度に誤差となってしまう虞がある。
【0024】
従って、制御回路22は、自動遠心クラッチ機構16が接続されて動力伝達状態にあるとき、即ち、エンジン回転数とHMT入力回転数とが同じである複数の任意変速比における斜板角度を学習してメモリ25に格納しておく。
【0025】
次に、このような制御回路22による発進時斜板傾斜角度修正ルーチンの一例を、図3のフロー図を参照しつつ説明する。
【0026】
(ステップS1)
ステップS1では、制御回路22は、自動遠心クラッチ16が切断状態、即ち、車両走行状態にあるか否かを判定し、走行状態にあるときにはステップS2へと移行し、走行状態にないときには継続してステップS1を監視する。
【0027】
尚、制御回路22は、自動遠心クラッチ16が機械的にエンジン出力軸11aの入力側と出力側とを接続・切断する機構であるため、この自動遠心クラッチ16が接続状態にあるということを、車両走行状態にあるということで判定する。従って、制御回路22は、本実施の形態においては、スロットルポジションセンサ23≠全閉で、エンジン回転数=HMT入力回転数の時に、車両走行状態にあると判定する。
【0028】
(ステップS2)
ステップS2では、制御回路22は、斜板19aの角度を検出する検出センサ(図示せず)を利用して、斜板19aの実際の斜板傾斜角度を取得すると共に、HMT入力回転数及びHMT出力回転数に基づいて変速比を算出したうえで、その算出した変速比を用いて斜板19aの傾斜角度を算出し、実際の斜板傾斜角度から算出した斜板傾斜角度を減算した値(絶対値)が「0(ゼロ)」の場合にはステップS3へと移行し、実際の斜板傾斜角度から算出した斜板傾斜角度を減算した値(絶対値)が「0(ゼロ)」でない場合にはステップS4へと移行する。
【0029】
(ステップS3)
ステップS3では、制御回路22は、例えば、図4に示したグラフのように、変速比と斜板角度との相関曲線に対して、ステップ2で算出した斜板傾斜角度が相違する場合、相関曲線を算出した傾斜角度へと修正を行い、修正した相関曲線をROM24に格納してステップS5へと移行する。
【0030】
(ステップS4)
ステップS4では、制御回路22は、ステップS2における実際の斜板傾斜角度と算出した斜板傾斜角度とに関連付けした変速比をメモリ25に格納し、実際の斜板傾斜角度と算出した斜板傾斜角度が一致するようにフィードバック制御を実行してステップS1へとループする。
【0031】
(ステップS5)
ステップS5では、制御回路22は、ステップS3で修正した相関曲線に基づいて、発進時斜板角度を修正してこのルーチンを終了する。
【0032】
この際、制御回路22は、車両停止状態直前の車両走行状態における環境条件の変化に対応して修正された相関曲線に基づいて、発進時斜板角度を決定することができる。
【0033】
しかも、制御回路22は、自動遠心クラッチ16が切断状態にあるときに、最適な発進時斜板角度を決定し、その発進時斜板角度に斜板19aの角度を制御することができるため、発進時加速性に優れ、特に不整地走行車両等にあっては、運転者のイメージするスムーズな発進加速を実現することができ、車両コントロールが困難な不整地走行時における操作性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る無段変速機の説明図、
【図3】本発明の一実施形態に係る無段変速機における制御回路による制御ルーチンのフロー図、
【図4】本発明の一実施形態に係る無段変速機における変速比と斜板角度との相関のグラフ図である。
【図5】従来に係る無段変速機を搭載した車両の模式図である。
【図6】従来に係る他の無段変速機を搭載した車両の模式図である。
【符号の説明】
【0035】
11…エンジン
12…駆動輪
11a…エンジン出力軸
13…機械式トランスミッション(MT)
14…静液圧式トランスミッション(HST)
15…ハイドロメカニカルトランスミッション(HMT)
16…クラッチ機構(遠心クラッチ機構)
18…遊星歯車機構
19…液圧ポンプ
19a…斜板
20…液圧モータ
20a…斜板
21…油圧機構
22…制御回路
24…ROM
25…メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪に至る動力伝達経路のエンジン出力軸寄りに配置された機械式トランスミッションと、該機械式トランスミッションに並設され且つ前記エンジンの出力軸側に液圧ポンプ及び前記駆動輪の入力軸側に液圧モータをそれぞれ接続した流体の静圧エネルギーを利用する静液圧式トランスミッションと、によって無段階の変速を行うハイドロメカニカルトランスミッションを搭載した無段変速機において、
前記エンジンと前記ハイドロメカニカルトランスミッションとの間の前記エンジン出力軸に、自動遠心クラッチ機構を配置したことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
車両走行状態の有無を検出する走行状態検出手段と、前記エンジンのエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記ハイドロメカニカルトランスミッションの入力回転数及び出力回転数を検出するHMT入力回転数検出手段及びHMT出力回転数検出手段と、前記液圧ポンプの斜板傾斜角度を検出する斜板傾斜角度検出手段と、前記HMT入力回転数検出手段及びHMT出力回転数検出手段で検出した各回転数に基づいて変速比を算出した後に斜板傾斜角度を算出する演算手段と、前記自動遠心クラッチ機構が切断状態にあるときに前記斜板傾斜角度検出手段で検出した斜板傾斜角度と前記演算手段で算出した斜板傾斜角度とを比較して発進時斜板傾斜角度を修正する発進時斜板傾斜角度修正手段と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記斜板傾斜角度検出手段で検出した斜板傾斜角度と前記演算手段で算出した斜板傾斜角度とを相関曲線に対応付けして記憶する記憶手段を備え、
前記発進時斜板傾斜角度修正手段は前記記憶手段に記憶された相関曲線に対応付けして発進時斜板傾斜角度を修正することを特徴とする請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の無段変速機が搭載されていることを特徴とする不整地走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−280040(P2009−280040A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132987(P2008−132987)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】