説明

燃料圧力制御装置

【課題】アイドルストップから速やかに内燃機関を再始動する燃料圧力制御装置を提供する。
【解決手段】燃料圧力制御装置は、アイドルストップ要求フラグがオンであり(S400:Yes)、エンジン回転数が低下中の吸入制御を実行する時間同期のタイミングであれば(S404:Yes)、燃料供給ポンプに燃料を吸入させてコモンレールに燃料を圧送させる。そして、コモンレール圧の実圧と、アイドルストップ中またはエンジン始動開始時のいずれかに応じて設定された目標圧との差圧ΔPcが減圧弁を開弁してコモンレール圧を減圧する必要がある駆動許可判定値よりも大きく、かつ駆動許可フラグがオンであれば(S424:Yes)、燃料圧力制御装置は、減圧弁に通電する最終通電時間を算出し(S428〜S436)、最終通電時間に基づいて減圧弁を開閉駆動してコモンレー圧を減圧する(S438)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給ポンプから供給されコモンレールで蓄圧された燃料を燃料噴射弁から内燃機関の各気筒に噴射する燃料噴射システムに適用され、コモンレール内の燃料圧力を制御する燃料圧力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料供給ポンプから供給されコモンレールで蓄圧された燃料を燃料噴射弁から内燃機関の各気筒に噴射する燃料噴射システムが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
ここで、特許文献2では、内燃機関を停止状態から始動するときの始動時間を短縮するために、内燃機関が停止するときに燃料供給ポンプに燃料を吸入しておき、内燃機関が始動するときに燃料供給ポンプ内に吸入しておいた燃料をコモンレールに圧送する技術が開示されている。これにより、始動時に燃料供給ポンプから速やかに燃料を圧送し始動に必要な燃料圧力を短時間で得ようとしている。
【0004】
特に、信号待ち等で車両が所定時間以上停止する場合に、燃料噴射弁からの燃料噴射を停止してアイドルストップを実行する燃料噴射システムにおいては、運転者が走行再開の操作をしたときにアイドルストップから内燃機関を速やかに始動させることにより運転者に不快感を与えないことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−128163号公報
【特許文献2】特開2002−371873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2では、イグニションスイッチをオフしてから内燃機関が停止するまでの間、燃料供給ポンプに燃料を吸入することはできるが圧送できない回転数にエンジン回転数が低下するまで燃料吸入を待機する。つまり、燃料噴射弁からの燃料噴射を停止すると、燃料供給ポンプは燃料を圧送しない。
【0007】
この状態では、アイドルストップ中に燃料噴射システムから燃料がリークすることによりコモンレール圧が低下するので、アイドルストップを解除し内燃機関を再始動するときに、再始動に必要な燃料圧力、つまり燃料噴射弁から燃料を噴射可能な燃料圧力にコモンレール圧が達していない恐れがある。その結果、予め吸入していた燃料を燃料供給ポンプが速やかに圧送しても、コモンレール圧が再始動に必要な燃料圧力に達するまで再始動が遅れるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、アイドルストップから速やかに内燃機関を再始動する燃料圧力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1から6に記載の発明によると、アイドルストップを開始する場合、内燃機関が停止するまでの内燃機関の回転数低下中に、圧力制御手段は、圧送制御手段に指令して燃料供給ポンプから燃料を圧送させ、圧力検出手段が検出するコモンレール圧を所定圧に調圧する。
【0010】
このように、アイドルストップを開始する場合、内燃機関の回転数低下中に燃料供給ポンプから燃料を圧送するので、コモンレール圧を上昇させて所定圧に調圧することができる。これにより、アイドルストップ中に燃料噴射システムから燃料がリークしてコモンレール圧が低下しても、燃料供給ポンプから燃料を圧送しない場合に比べ、再始動時のコモンレール圧を高圧にできる。その結果、燃料噴射弁からの燃料噴射を再開し、アイドルストップから内燃機関を速やかに再始動できる。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、所定圧は、アイドルストップから内燃機関を始動するための始動圧よりも高く設定されている。
これにより、アイドルストップ中に燃料噴射システムから燃料がリークしてコモンレール圧が所定圧から低下しても、内燃機関を再始動するときに必要な始動圧よりもコモンレール圧が低下することを極力防止できる。その結果、アイドルストップから内燃機関を速やかに再始動できる。
【0012】
ところで、アイドルストップに移行するときの内燃機関の回転数低下中に、燃料供給ポンプの圧送量を高精度に制御することは困難である。したがって、燃料供給ポンプの圧送量を制御するだけでは、コモンレール圧を所定圧に調圧することは困難である。
【0013】
そこで、請求項3に記載の発明によると、圧力制御手段は、アイドルストップが開始されてからアイドルストップが解除され燃料噴射弁からの燃料噴射が開始されるまでの間、コモンレール圧が所定圧よりも高いと減圧弁を制御してコモンレール圧を減圧する。
【0014】
これにより、アイドルストップに移行するときの内燃機関の回転数低下中に、燃料供給ポンプから燃料を圧送してコモンレール圧を所定圧よりも一旦高圧にしてから、減圧弁を制御してコモンレー圧を所定圧に調圧できる。その結果、コモンレー圧を所定圧に調圧するための燃料圧送量の高精度な制御が不要である。そして、減圧弁によりコモンレー圧を所定圧に高精度に調圧できる。
【0015】
ところで、内燃機関の回転数低下中は、内燃機関の回転角度同期の周期が徐々に長くなるので、減圧弁の制御間隔も徐々に長くなる。したがって、減圧弁を制御してコモンレール圧を調圧する頻度が低下する。その結果、減圧弁を制御してコモンレール圧を所定圧に調圧することが困難になる。
【0016】
そこで、請求項4に記載の発明によると、圧力制御手段は、燃料噴射弁からの燃料噴射が停止されアイドル運転状態からアイドルストップ状態に内燃機関の運転状態が移行すると、内燃機関の回転角度同期から時間同期に切り替えて時間同期に基づく所定の駆動周期で減圧弁を制御する。
【0017】
これにより、内燃機関の回転数低下中に内燃機関の回転角度同期の周期が長くなっても、一定の駆動周期で減圧弁を制御し、コモンレール圧を所定圧に調圧できる。
請求項5に記載の発明によると、時間同期の複数周期が駆動周期の1周期に設定されており、圧力制御手段は、1回の駆動周期で減圧弁を1回開弁してコモンレール圧を減圧する。
【0018】
このように、時間同期のタイミング毎に減圧弁を開弁するのではなく、時間同期タイミングを間引いて時間同期の複数周期を1周期とする1回の駆動周期で減圧弁を1回開弁するので、減圧弁を開閉駆動する頻度が低下する。その結果、減圧弁が開閉するときの作動音を低減できる。
【0019】
また、時間同期のタイミング毎に減圧弁を駆動する場合に比べ減圧弁の駆動頻度が低下するので、減圧弁の寿命を延ばすことができる。
ところで、減圧弁の開弁時間を決定する通電時間は、アイドルストップ中の目標圧である所定圧と圧力検出手段が検出するコモンレール圧との差圧から算出される。
【0020】
しかし、減圧弁に対する1回当たりの通電時間が長くなると、減圧弁の温度上昇が大きくなるので、減圧弁に対する1回当たりの通電時間の最大値が設定されている。
また、1回当たりの通電時間が短くても、複数回の駆動周期で連続して減圧弁に通電する場合、駆動周期に対する通電時間の割合(デューティ)が所定値を超えると、減圧弁の温度上昇が大きくなる。そこで、1回の駆動周期において通電デューティの上限値が設定されている。
【0021】
そこで、請求項6に記載の発明によると、圧力制御手段は、所定圧とコモンレール圧との差圧に基づいて算出される減圧弁に対する通電時間と、減圧弁に対して1回の通電で許可される最大通電時間と、減圧弁に対して1回の駆動周期で許可される通電デューティから算出される上限通電時間とのうち最小の通電時間を、1回の駆動周期で減圧弁に通電する通電時間とする。
【0022】
これにより、減圧弁の温度上昇を極力抑制しつつ、減圧弁を開弁してコモンレール圧を高精度に所定圧に調圧できる。
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態による燃料噴射システムを示すブロック図。
【図2】減圧弁を示す断面図。
【図3】アイドルストップ制御時の燃料圧力の変化を示すタイムチャート。
【図4】(A)は減圧弁の間引き制御を示すタイムチャート、(B)はコモンレール圧の高低に応じた、ΔPcと通電時間との関係を示す特性図、(C)は駆動周期における通電時間のガード処理を示すタイムチャート。
【図5】アイドルストップに移行してから内燃機関を再始動するまでのコモンレール圧の制御ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1に、本実施形態の燃料噴射システム10を示す。
(燃料噴射システム10)
蓄圧式の燃料噴射システム10は、燃料供給ポンプ16、コモンレール20、圧力センサ22、減圧弁30、燃料噴射弁60、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)70、電子駆動装置(EDU:Electronic Driving Unit)72等から構成されており、内燃機関として図示しない4気筒のディーゼルエンジン(以下、単にエンジンとも言う。)の各気筒に燃料を噴射する。尚、図の煩雑さを避けるため、図1においては、EDU72から1個の燃料噴射弁60への制御信号線だけを示している。
【0025】
燃料フィルタ14は、燃料タンク12から燃料供給ポンプ16が吸入する燃料中の異物を除去する。燃料供給ポンプ16は、燃料タンク12から燃料を吸入するフィードポンプを内蔵しており、吸入した燃料を加圧し供給配管200を通してコモンレール20に圧送する。
【0026】
燃料供給ポンプ16は、カムシャフトのカムの回転にともないプランジャが往復移動することにより加圧室に吸入した燃料を加圧する公知のポンプである。ECU70が燃料供給ポンプ16の図示しない調量弁に供給する電流値を制御することにより、燃料供給ポンプ16が吸入行程で吸入する燃料吸入量が調量される。そして、燃料吸入量が調量されることにより、燃料供給ポンプ16の燃料圧送量が調量される。尚、燃料供給ポンプ16の吐出側に調量弁を設置して燃料圧送量を調量してもよい。
【0027】
コモンレール20は、燃料供給ポンプ16が圧送する燃料を蓄圧してエンジン運転状態に応じた所定の高圧に燃料圧力を保持し、噴射配管202を通して燃料噴射弁60に燃料を供給する。圧力センサ22は、コモンレール20の内部の燃料圧力(コモンレール圧)に応じた信号を出力する。
【0028】
減圧弁30は、開弁することによりコモンレール20の内部の燃料を低圧側のリターン配管204に排出する。
図2に示すように、減圧弁30の弁ボディ32は、コモンレール20にねじ結合している。弁部材38はシリンダ36に往復移動自在に支持されており、スプリング42の荷重により平板状の弁座部材34に付勢されている。弁部材38の弁座部材34側に形成された凹部にボール40が嵌合している。ボール40が弁座部材34に着座することにより、コモンレール20内と低圧側との連通は遮断される。
【0029】
コイル44はステータコア46に巻回されている。コネクタのターミナル50を介してEDU72からコイル44に通電されると、弁部材38はスプリング42の荷重に抗してステータコア46に向けて吸引され、それに伴いボール40が弁座部材34から離座する。
【0030】
すると、弁ボディ32、弁座部材34、シリンダ36、ステータコア46、スクリュウナット48等に形成された燃料通路100、102、104、106、108、110を通り、コモンレール20内の燃料がリターン配管204を通り燃料タンク12に排出される。
【0031】
図1に示す燃料噴射弁60は、4気筒のディーゼルエンジンの各気筒に搭載され、コモンレール20が蓄圧している燃料を気筒内に噴射する。燃料噴射弁60は、エンジンの運転状態に基づいて、1回の燃焼サイクルにおいてメイン噴射の前後にパイロット噴射およびポスト噴射を含む多段噴射を行う。燃料噴射弁60とコモンレール20とは噴射配管202で接続されている。
【0032】
燃料噴射弁60は、ノズルニードルに閉弁方向に燃料圧力を加える背圧室の圧力を制御することにより燃料噴射量を制御する公知の電磁駆動式の噴射弁である。燃料噴射弁60の電磁駆動部は、ピエゾアクチュエータまたは電磁コイルで構成されている。
【0033】
背圧制御弁62は、燃料噴射弁60の背圧室の圧力が所定圧を超えると開弁し、背圧室の燃料をリターン配管204に排出する。これにより、燃料噴射弁60の背圧室の圧力が所定圧を超えることを防止する。
【0034】
ECU70は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等の書換可能な不揮発性メモリ、入出力インタフェース等を中心とするマイクロコンピュータ(マイコン)から主に構成されている。
【0035】
ECU70は、圧力センサ22、クランク角センサ80、カム角センサ82、アクセルペダルの開度(ACC)を検出するアクセルセンサ84、水温センサ等の各種センサの出力信号からエンジン運転状態を取得する。そして、ECU70は、各種センサから出力信号を取り込み、エンジン運転状態を制御する。
【0036】
クランク角センサ80は、エンジンのクランクシャフトが所定角度回転する毎にパルス信号を出力する。ECU70は、単位時間当たりにクランク角センサ80が出力するパルス信号数からエンジン回転数を検出する。
【0037】
カム角センサ82は、ディーゼルエンジンの4気筒の気筒位置を判別するセンサであり、例えば、カムシャフトが1回転する間に特定の気筒位置を判別するパルス信号を出力する。ECU70は、クランク角センサ80およびカム角センサ82が出力するパルス信号に基づき、エンジンのクランク角度位置を検出するとともに、気筒を判別する。
【0038】
ECU70は、ROMまたはフラッシュメモリに記憶されている制御プログラムを実行することにより、燃料噴射システム10の各種制御を実行する。例えば、ECU70は、燃料供給ポンプ16の吐出量、および減圧弁24の開閉を制御して、圧力センサ22の出力信号から検出するコモンレール圧の実圧と、エンジン運転状態に基づいて設定するコモンレール圧の目標圧との差圧に基づいてコモンレール圧を目標圧に追随させるF/B制御を実行する。
【0039】
また、ECU70は、燃料噴射弁60の噴射量、噴射時期、およびメイン噴射の前後にパイロット噴射、ポスト噴射等を実施する場合の多段噴射のパターンを制御する。
ECU70は、燃料噴射弁60の噴射時期および噴射量を制御する噴射制御信号としてパルス信号をEDU72に出力する。
【0040】
EDU72は、ECU70が出力する制御信号に基づいて減圧弁24、燃料噴射弁60に駆動電流または駆動電圧を供給するための駆動装置である。
(コモンレール圧制御)
本実施形態の燃料噴射システム10は、図3に示すように、エンジン運転状態がアイドル状態である等の所定のアイドルストップ条件が成立すると、燃料噴射弁60からの燃料噴射を停止しエンジンの回転を停止するアイドルストップを実行する。
【0041】
そして、ECU70は、アイドルストップが開始されてからアイドルストップが解除され燃料噴射弁60からの燃料噴射が開始されるまでの間、エンジンを速やかに再始動するために、以下に説明するコモンレール圧制御を実行する。
【0042】
(1)エンジン停止途中
ECU70は、アイドルストップ条件が成立するとアイドルストップ要求フラグをオンにし、アイドルストップ中におけるコモンレール圧の目標圧である残圧制御圧をアイドル運転時の目標圧(アイドル圧とも言う。)よりも高く設定する。
【0043】
そして、アイドルストップ要求フラグがオンになると、燃料供給ポンプ16に対する通常のF/B制御を停止し、調量弁を閉弁し燃料供給ポンプ16の吸入量を一旦0にする停止制御を実行する。すなわち、燃料供給ポンプ16からの燃料圧送を停止し、圧送量を0にする。
【0044】
また、アイドルストップ要求フラグがオンになると、ECU70は、減圧弁30に対する制御をクランク角度同期からタイマ割り込みによる時間同期に変更する。
そして、ECU70は、燃料噴射弁60からの燃料噴射を停止し、エンジン回転数が所定回転数に低下すると、調量弁を開弁して燃料供給ポンプ16に燃料を吸入し、燃料供給ポンプ16からコモンレール20に燃料を圧送する。この場合、燃料供給ポンプ16の吸入量、つまり圧送量は調量弁により固定値に設定される。
【0045】
燃料供給ポンプ16から燃料が圧送されることによりコモンレール圧は上昇する。この調量弁による吸入量を固定した吸入制御中において、実圧が目標の残圧制御圧を超えると、実圧と目標圧との差圧の大きさに基づいて減圧弁30が開弁される。
【0046】
このとき、時間同期のタイミングで減圧弁30が制御される。例えば、図4の(A)に示すように、時間同期の3周期を1周期とする1回の駆動周期で減圧弁30の開閉駆動が1回実行される。
【0047】
このように、時間同期のタイミングで割り込んで減圧弁30に対する制御は起動されるが、減圧弁30の駆動が許可されていない時間同期のタイミングを間引いて減圧弁30を開閉駆動することにより、時間同期のタイミング毎に減圧弁30を開閉駆動する場合に比べ、減圧弁30の開閉による作動音を低減できる。また、減圧弁30に対する開閉駆動頻度が低下するので、減圧弁30の寿命が延びるという効果がある。
【0048】
尚、図4の(A)では、3回の時間同期の周期のうち1周期だけに減圧弁30に対する駆動を許可しているが、駆動を許可する時間同期の周期の数は、後述する減圧弁30に対する1回当たりの最終通電時間内であれば、駆動周期内で複数の時間同期の周期にまたがってもよい。
【0049】
図4の(B)に示すように、減圧弁30に通電する通電時間の長さは、実圧と目標圧との差圧ΔPcと、そのときのコモンレール圧とにより決定される。以後、コモンレール圧を減圧する調圧制御のために、実圧と目標圧との差圧ΔPcと、そのときのコモンレール圧とにより決定される減圧弁30に対する通電時間を「初期通電時間」とも言う。差圧ΔPcが大きくなるほど、そして、コモンレール圧が低くなるほど、初期通電時間は長くなる。
【0050】
ただし、1回の駆動周期において最終的に許可される減圧弁30に対する通電時間は、減圧弁30に対する最大通電時間と、駆動周期内における通電オン時間の割合である通電デューティから算出された上限通電時間とに基づいて制限される。
【0051】
最大通電時間は、1回の通電による減圧弁30の温度上昇量が所定値以上にならないように設定された時間である。また、通電デューティは、複数の駆動周期で減圧弁30を連続して開閉駆動する場合に、減圧弁30の温度上昇量が所定値以上にならないように設定された、駆動周期に対する通電時間のデューティ上限値である。
【0052】
図4の(A)では、3回の時間同期の周期のうち2周期において減圧弁30に対する駆動が許可されていないが、デューティ上限値は、時間同期の3周期を1周期とする1回の駆動周期に対して設定されている。尚、図4の(A)のように、時間同期の複数周期のうち1周期だけに駆動許可が与えられている場合、許可されている時間同期の1周期に対して、通電時間のデューティ上限値を設定してもよい。
【0053】
そして、1回の駆動周期において減圧弁30に通電できる通電時間は、初期通電時間と、最大通電時間と、上限通電時間とのうち最小の通電時間に設定される。
例えば、図4の(C)に示すように、駆動周期毎に差圧ΔPcと、そのときのコモンレール圧とに基づいて初期通電時間t1、t2が算出された場合を考えてみる。
【0054】
初期通電時間t1は、最大通電時間以下であり、かつ駆動周期に対する割合も通電デューティ以下であるから、そのまま初期通電時間t1の長さで減圧弁30に通電される。
一方、初期通電時間t2は、差圧ΔPcが大きいために初期通電時間t1よりも長くなっている。そして、初期通電時間t2は、最大通電時間よりは短いものの、駆動周期に対する割合が通電デューティを超えるので、ガード処理が実行される。そして、ガード処理された時間が減圧弁30に対する通電時間として採用される。
【0055】
(2)エンジン停止
図3に示すように、エンジンが停止すると、燃料供給ポンプ16から燃料は圧送されなくなるので、コモンレール圧の上昇は停止する。このとき、ECU70は燃料供給ポンプ16の調量弁を閉弁する停止制御を実行し、燃料供給ポンプ16からの燃料リーク量を極力低減する。また、燃料噴射弁60がピエゾアクチュエータ駆動式の場合には、燃料噴射弁60からの燃料リーク量を殆ど0にできる。
【0056】
尚、減圧弁30による前述したコモンレール圧の調圧制御は、実圧と目標圧との差圧ΔPcに基づいて継続して実行される。
(3)エンジン再始動
(3−1)始動気筒判別前
ブレーキペダルの踏み込み解除等によりアイドルストップ条件が成立しなくなると、ECU70は、スタータを回転させる。そして、燃料供給ポンプ16の吸入量、つまり圧送量は調量弁により再始動用の固定値に設定される。
【0057】
尚、スタータを回転させてもエンジンの始動気筒の判別が終了するまでは、燃料噴射弁60から燃料は噴射されない。ECU70は、始動気筒の判別が終了し燃料噴射弁60が燃料を噴射するときに燃料が適正に燃焼してエンジンが始動できるように、減圧弁30を開閉駆動してコモンレール圧の目標圧を残圧制御圧から始動圧に低下させる。
【0058】
そして、始動気筒の判別が終了するまでの間、減圧弁30による前述したコモンレール圧の時間同期による調圧制御は、実圧と目標圧である始動圧との差圧に基づいて継続して実行される。
(3−2)始動気筒判別後
クランクシャフトおよびカムシャフトの回転が進み、クランク角センサ80およびカム角センサ82の出力信号から始動気筒が判別されると、ECU70は燃料噴射弁60に始動気筒からの燃料噴射を指令する。これに合わせて、アイドルストップ要求フラグはオフになる。その結果、ECU70は、減圧弁30による時間同期に基づくアイドルストップ用のコモンレール圧の調圧制御を終了し、実圧と目標圧との差圧に基づくF/B制御を実行する。
【0059】
燃料噴射弁60から燃料が噴射されエンジン回転数が所定の回転数に達すると、ECU70は、コモンレール圧の目標圧を始動圧からアイドル圧に設定する。その後、エンジン回転数は上昇し、目標のアイドル回転数に達する。
【0060】
(コモンレール圧制御ルーチン)
次に、アイドルストップ時にECU70が実行するコモンレール圧制御ルーチンについて図5に基づいて説明する。図5のルーチンは、時間割り込みで所定時間周期で実行される。図5において「S」はステップを表している。
【0061】
S400においてECU70は、アイドルストップ要求中であるか否かを判定する。この判定は、アイドルストップ要求フラグがオンカオフかで判定する。前述したように、アイドルストップ要求フラグは、アイドルストップ条件が成立し、燃料噴射弁60からの燃料噴射が停止されてからアイドルストップが解除され始動気筒が判別されるまでの間オンに設定され、それ以外はオフに設定される。
【0062】
アイドルストップ要求フラグがオフの場合(S400:No)、ECU70は通常の調量弁および減圧弁30によるコモンレール圧のF/B制御を実行し(S402)、本ルーチンを終了する。
【0063】
アイドルストップ要求フラグがオンの場合(S400:Yes)、S404においてECU70は調量弁を開閉して燃料供給ポンプ16に対する吸入制御を実行するか停止制御を実行するかを判定する。
【0064】
吸入制御(S404:Yes、S406)または停止制御(S404:No、S408)を実行後、S410においてECU70は、減圧弁30に対して駆動制御を実行する時間同期のタイミングであるか否かを判定する。図5のルーチンでは、時間同期の複数周期にまたがらず、時間同期の3回に1回の周期だけに減圧弁30に対する駆動制御が許可される。
【0065】
駆動制御を実行する時間同期タイミングであり駆動条件が成立していれば(S410:Yes)、S412でECU70は駆動許可フラグをオンにし、駆動制御を実行するタイミングではなく駆動条件が成立していなければ(S410:No)、S414でECU70は駆動許可フラグをオフにする。
【0066】
次に、S416でECU70は、アイドルストップが解除されてスタータが駆動された状態で、始動気筒の判別前であるエンジン始動状態であるか否かを判定する。
エンジン始動状態であれば(S416:Yes)、S418でECU70はコモンレール圧の目標圧を始動圧に設定し、エンジン始動状態でなければ(S416:No)、S420でECU70はコモンレール圧の目標圧をアイドルストップ中の残圧制御圧に設定する。
【0067】
次に、S422でECU70は、コモンレール圧の実圧と目標圧との差圧ΔPcを算出する。そして、S424においてECU70は、ΔPcが減圧弁30を開弁してコモンレール圧を減圧する必要がある駆動許可判定値よりも大きく、かつ駆動許可フラグがオンであるか否かを判定する。差圧ΔPcが駆動許可判定値以下の場合は、実圧が目標圧に十分に近く、減圧弁30を開弁してコモンレール圧を減圧する必要がないと判断する。
【0068】
ΔPcが駆動許可判定値以下か、駆動許可フラグがオフであれば(S424:No)、S426でECU70は、減圧弁30への通電時間を0に設定して減圧弁30を開弁せずに本ルーチンを終了する。
【0069】
ΔPcが駆動許可判定値より大きく、かつ駆動許可フラグがオンであれば(S424:Yes)、S428でECU70は、図4の(B)に基づき、コモンレール圧と差圧ΔPcとから初期通電時間Taを算出する。
【0070】
S430においECU70は、前述した最大通電時間と上限通電時間とのうち小さい方の時間を1回の時間同期周期において減圧弁30に通電できる通電ガード時間Tbとして設定する。
【0071】
そして、Ta<Tbであれば(S432:Yes)、今回の時間同期周期において減圧弁30に対する通電時間を初期通電時間Taに設定する(S434)。Ta≧Tbであれば(S432:No)、今回の時間同期周期において減圧弁30に対する通電時間を通電ガード時間Tbに設定する(S436)。
【0072】
そして、S438においてECU70は、S434またはS436で設定した最終通電時間に基づいて減圧弁30を開閉駆動し、本ルーチンを終了する。
以上説明した上記実施形態では、アイドルストップ条件が成立すると、燃料噴射弁60からの燃料噴射が停止されエンジンが停止するまでのエンジン回転数の低下中に燃料供給ポンプ16からコモンレール20に燃料を圧送するので、コモンレール圧を上昇させて所定圧に調圧することができる。
【0073】
これにより、アイドルストップ中に燃料噴射システム10から燃料がリークしてコモンレール圧が低下しても、アイドルストップからエンジンを再始動するときに必要な燃料圧力を保持できる。
【0074】
また、アイドルストップ条件が成立すると、クランク角による角度同期から時間同期に切り替えて減圧弁30に対する開閉駆動を制御するので、エンジン回転数の低下中に角度同期の周期が徐々に長くなっても、一定の時間同期のタイミングで減圧弁30を制御し、コモンレール圧を所定圧に調圧できる。
【0075】
上記実施形態では、ECU70が本発明の燃料圧力制御装置に相当する。
また、図5のS402、S406、S408の処理が本発明の圧送制御手段が実行する機能に相当し、S422の処理が本発明の圧力検出手段が実行する機能に相当し、S406、S408、S、426、S434〜S438の処理が本発明の圧力制御手段が実行する機能に相当する。
【0076】
[他の実施形態]
上記実施形態では、アイドルストップ条件が成立すると、燃料噴射弁60からの燃料噴射が停止されエンジンが停止するまでのエンジン回転数の低下中に燃料供給ポンプ16からコモンレール20に燃料を圧送してコモンレール圧を上昇させ、さらに減圧弁30を開閉駆動してコモンレール圧を所定の残圧制御圧に調圧した。これに対し、調量弁による燃料供給ポンプ16からの圧送量制御だけで、コモンレール圧を所定の残圧制御圧に調圧してもよい。
【0077】
また、時間同期のタイミングを間引かず、時間同期のタイミング毎に減圧弁30に対する開閉駆動を実行してもよい。
上記実施形態では、圧送制御手段、圧力検出手段、圧力制御手段の機能を、制御プログラムにより機能が特定されるECU70により実現している。これに対し、上記複数の手段の機能の少なくとも一部を、回路構成自体で機能が特定されるハードウェアで実現してもよい。
【0078】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
10:燃料噴射システム、16:燃料供給ポンプ、20コモンレール、30:減圧弁、60:燃料噴射弁、70:ECU(燃料圧力制御装置、圧送制御手段、圧力検出手段、圧力制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を蓄圧するコモンレールと、
前記コモンレールに燃料を圧送する燃料供給ポンプと、
前記コモンレールで蓄圧された燃料を内燃機関の各気筒に噴射する燃料噴射弁と、
を備える燃料噴射システムに適用され、前記コモンレール内の燃料圧力であるコモンレール圧を制御する燃料圧力制御装置において、
前記燃料供給ポンプの燃料圧送を制御する圧送制御手段と、
前記コモンレール圧を検出する圧力検出手段と、
アイドルストップを開始する場合、前記内燃機関が停止するまでの前記内燃機関の回転数低下中に、前記圧送制御手段に指令して前記燃料供給ポンプから燃料を圧送させ、前記圧力検出手段が検出する前記コモンレール圧を所定圧に調圧する圧力制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料圧力制御装置。
【請求項2】
前記所定圧は、アイドルストップから前記内燃機関を始動するための始動圧よりも高く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料圧力制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射システムは、通電制御により開弁し前記コモンレール内の燃料を排出して前記コモンレール圧を減圧する減圧弁を備え、
前記圧力制御手段は、アイドルストップが開始されてからアイドルストップが解除され前記燃料噴射弁からの燃料噴射が開始されるまでの間、前記コモンレール圧が前記所定圧よりも高いと前記減圧弁を制御して前記コモンレール圧を減圧する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料圧力制御装置。
【請求項4】
前記圧力制御手段は、前記燃料噴射弁からの燃料噴射が停止されアイドル運転状態からアイドルストップ状態に前記内燃機関の運転状態が移行すると、前記内燃機関の回転角度同期から時間同期に切り替えて前記減圧弁を制御することを特徴とする請求項3に記載の燃料圧力制御装置。
【請求項5】
前記時間同期の複数周期が駆動周期の1周期に設定されており、
前記圧力制御手段は、時間同期の複数周期を1周期とする1回の駆動周期で前記減圧弁を1回開弁して前記コモンレール圧を減圧する、
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料圧力制御装置。
【請求項6】
前記圧力制御手段は、前記所定圧と前記コモンレール圧との差圧に基づいて算出される前記減圧弁に対する通電時間と、前記減圧弁に対して1回の通電で許可される最大通電時間と、前記時間同期の1周期または複数周期を1周期とする駆動周期において前記減圧弁に対して許可される通電デューティから算出される上限通電時間とのうち最小の通電時間を、1回の前記駆動周期で前記減圧弁に通電する通電時間とすることを特徴とする請求項4または5に記載の燃料圧力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−132872(P2011−132872A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292495(P2009−292495)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】