説明

発振器及びそれを用いた周波数生成回路並びに無線通信システム

【課題】LC型発振器において、高調波歪みによる位相雑音の劣化が小さく、かつ発振振幅の増大化を図り、これにより良好な低位相雑音特性を有する発振器及びそれを用いた通信システムを提供する。
【解決手段】トランジスタからなる少なくとも1つ以上の電圧-電流変換部と、1対の容量性素子と誘導性素子からなるLCタンクを2つ有している共振器とを具備して成り、前記の電圧-電流変換部の出力端子は、前記の共振器に接続され電流-電圧変換されたのちに、前記電圧-電流変換部の入力端子に接続されることにより、帰還ループが構成されて成り、前記共振器を構成している2つのLCタンクを構成する誘導性素子が相互誘導結合されており、前記相互結合係数がおおよそ-0.6であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発振器及びそれを用いた周波数生成回路並びに通信システムに係り、特に、共振器マイクロ波、ミリ波周波数帯の通信システム及びレ−ダシステムの搬送波信号を発生するために組込まれるのに適したLC型の発振器及びそれを用いた周波数生成回路並びに通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、容量からなる共振器を持つLC型発振器の一例として、特許文献1に記載のものが知られている。また、非特許文献1には、小信号モデルにおける発振器の位相雑音電力について記載されている。さらに、非特許文献2には、大信号モデルにおける位相雑音電力について記載されている。一方、非特許文献3には、LCクロスカップル型発振器からテ−ル電流源を取除き、差動増幅器の共通接地点を回路グラウンドに直結した発振器の例が記載されている。非特許文献4にも、テ−ル電流源の無いLCクロスカップル型発振器の例が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、並列共振回路の直列共振周波数を並列共振周波数に限りなく近づけることで、位相雑音特性を改善した発振回路の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−260301号公報
【特許文献2】特開2004−023762号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. B. Leeson, “A Simple Model of Feedback Oscillator Noise Spectrum,” Proc. IEEE , vol. 54,pp. no.2, 329-330, Feb. 1966
【非特許文献2】A. Hajimiri and T. H. Lee, “A general theory of phase noise in electrical oscillators,” IEEE J.Solid-State Circuits, vol. 33, pp. 179-194, Feb. 1998
【非特許文献3】P. -C. Huang, “A 131 GHz Push-push VCO in 90-nm CMOS Technology”, IEEE RFIC, 2005
【非特許文献4】T. Song, “A 5GHz Transformer-Coupled CMOS VCO Using Bias-Level Shifting Technique”, IEEE RFIC 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発振器の性能を表す重要な指標として、位相雑音がある。非特許文献2に記載のように、理想的な発振器の出力スペクトルは線スペクトルで示されるのに対して、実際の発振器のスペクトルは回路内部や回路外から流入した雑音が起因となり発生する位相変動が、式(1)のように位相変調されることで発振周波数の両側に広がるスカ−ト特性を持つ。
【0007】
【数1】

【0008】
式(1)において、ω0は発振器の発振周波数、βsimωmtは周波数ωm(<<ω0)の正弦波と仮定した場合の発振信号の位相変動を表している。式(1)の2行目の第2項目のA0cosω0tは、理想的な発振器の信号であり、その両側の第1,3項目は位相変調されω0近傍へ周波数変換された雑音信号、つまり位相雑音を表している。位相雑音は発振周波数における発振出力レベルと、発振周波数からある一定の周波数離れた周波数における雑音レベルとの比によって定義される。位相雑音の特性は、通信システムの品質を保ち、誤り無く情報を伝達するために最重要視される特性である。
【0009】
非特許文献1によると、小信号モデルにおける発振器の位相雑音電力は次式(2)で表される。
【0010】
【数2】

【0011】
ここで、fc、Δf、Q、Po、Fvはそれぞれ、発振周波数、fcからの離調周波数、共振器のクオリティファクタ、発振電力、発振器の雑音指数を表している。雑音指数は発振器内で発生する雑音成分の大きさを表し、熱雑音を発生するトランジスタ、抵抗成分などがその原因となる。基本的にはFvは回路内のトランジスタ数、抵抗数に依存する。集積回路内に実装される発振器においては、トランジスタから発生するチャネル熱雑音がFvに関与する雑音成分では主要因となる。
【0012】
一方、非特許文献2では、式(3)に示すインパルス感度関数ISF(Impulse Sensitivity Function)Γを用いて位相雑音のモデル化を行っている。
【0013】
【数3】

【0014】
インパルス感度関数ISFは、発振端子にインパルス電流を注入した際の位相変動を表している。つまり、電流入力に対する位相変動のインパルス応答である。
【0015】
式(3)に示されるとおり、インパルス感度関数ISFは発振周波数を基本波周波数とする周期関数で表され、その概形は、発振電圧波形の第1階微分したものとなる。式(2)中のC0,Cnはインパルス感度関数をフーリエ級数展開した際のフーリエ係数を表し、C0はインパルス感度関数のDC成分、Cnは、n=1が基本波成分で、n=2,3,・・・はそれぞれ2次高調波成分、3次高調波成分を表している。通常、MOSFETやバイポーラトランジスタなどの能動素子は、非線形特性を持つため、発振器の発振電圧振幅が大きいほど第2次高調波、第3次高調波などの歪み成分は増加していき、その結果、インパルス感度関数Γの歪み成分も増加する。
【0016】
大信号モデルにおける位相雑音電力はインパルス感度関数を用いて次式(4)で表される。
【0017】
【数4】

【0018】
ここで、qmax,in,Cnはそれぞれ発振ノ−ドにおける最大電荷蓄積量、雑音電流注入量、インパルス感度関数Γをフ−リエ級数展開した際のフ−リエ係数を表している。
【0019】
上記qmax、inは前述の式(2)におけるPoとFvに関連するパラメ−タであり、qmaxが大きいほど、inが小さいほど位相雑音は改善する。ここで、Cnは前述の通り、発振波形の歪み成分を表す係数であり、歪みの無い理想的な正弦波においてはn>1の場合に零となる。現実の電子式の発振器においてはトランジスタの非線形性等の影響により、n>1においてCnは零にならない。Cnが小さい、つまり発振波形の歪みが小さい場合は位相雑音が改善されることが式(3),(4)より明らかである。
【0020】
式(2),式(3),式(4)より、位相雑音低減のためには、(1)発振振幅の増加、(2)共振器のQの増加、(3)トランジスタ、抵抗の熱雑音に起因する雑音指数の低減、(4)発振波形を低歪み化という4つの要素が重要となることがわかる。
【0021】
しかしながら、以下に述べるように、特許文献1、特許文献2に記載の例も含めて、従来の発振器は上記発振波形の歪みの低減に関しての十分な配慮がなされていない。
【0022】
図28は、LC型発振器として一般的に用いられる従来のLCクロスカップル型発振器の一例を示す回路図である。この発振器は、Q1, Q2からなる差動増幅回路と、LC共振器からなる負荷から構成される。差動回路の出力信号はドレイン端子から取り出され所望の発振周波数に調節された共振周波数をもつLC共振器により、周波数選択されて増幅されたのち、他方のトランジスタのゲート端子へ入力される。この動作を繰り返すことで所望の周波数において発振動作を発生し、維持することができる。差動増幅回路の共通接地部分に接続されたテ−ル電流源I1は、発振動作時において発振信号の振幅を一定値に抑え、発振波形を低歪みにする効果を持つ。
【0023】
一方、図29は、図28のLCクロスカップル型発振器からテ−ル電流源を取除き、差動増幅器の共通接地点を回路グラウンドに直結した発振器の一例を示す回路図である。この発振器の構成は、テ−ル電流源の電圧降下が無いため、図28の発振器と比較して大振幅を得ることが可能となる。また、テ−ル電流源を構成するトランジスタ、抵抗素子を除去したため発振器の雑音指数を下げる効果がある。これにより、上記位相雑音低減への4要素の内、(1)発振振幅の増加、(3)雑音源の低減による位相雑音の低減の効果がある。
【0024】
しかし、図29の発振器は、テール電流源による電圧振幅調整機能が無いため、発振電圧波形に大きな高調波歪みが生じてしまう問題がある。このために、上記位相雑音低減への4要素の内の(1)発振振幅の増加は改善するが(4)発振波形を歪みが劣化することで、位相雑音改善効果は限定的となる。
【0025】
ここで、図29の発振器の高調波歪みに対する位相雑音劣化を考察するために、図29の発振器に関する前述のISFの導出を以下に行う。まず第1に高調波が存在せず発振周波数のみの周波数しか存在しない理想的なLCクロスカップルのISFを導出する。
【0026】
図30の(A)に符号401、402で示されるVOP, VOMはそれぞれ発振器の出力端子における差動出力電圧波形であり、最大振幅値で正規化した波形を表している。トランジスタQ1に着目した場合には、VOPがドレイン-ソース端子間電圧、VOMがゲート-ソース間端子間電圧となり、VOPがトランジスタの出力電圧となる。図30の(B)の符号406は、前記トランジスタQ1のドレイン出力端子におけるISFを示している。ここで、図29の発振器における主要な雑音の発生源は、トランジスタQ1, Q2のチャネル熱雑音である。前記チャネル熱雑音は、次式(5)で表され、ドレイン-ソース間に並列に接続される電流源としてモデルされる。
【0027】
【数5】

【0028】
式(5)中のKはボルツマン定数、Tは絶対温度、γはチャネル熱雑音係数、gmはトランジスタQ1のトランスコンダクタンスを表している。
前記のゲート-ソース間電圧VOM用いて式(5)を変形すると以下の式(6)を導くことができる。尚前記のとおり、VOPは発振器の出力電圧のために、周期的な時間変動を伴う。
【0029】
【数6】

【0030】
式(6)に示されるように、VOMの周期的な時間変動に伴い、チャネル熱雑音電流も周期的な時間変動を伴う。図30の(C)の符号407は、上記チャネル熱雑音の時間変動を表し、ピーク時の雑音電力密度で正規化したものである。図29の発振器の主要な雑音源であるチャネル熱雑音は、図30の(C)に示したように周期的な時間変動を伴うため、図30の(B)で導出したISFもこの時間変動を考慮する必要がある。上記ISFの時間変動は、図30の(B)のISFと図30の(C)のチャネル熱雑音の正規化波形の乗算で表される。図30の(D) の符号408は、上記の周期的時間変動を考慮した発振器のISFを表している。
【0031】
第2に、発振周波数の整数倍の高調波信号が存在する実際の発振器におけるLCクロスカップルのISFを導出する。尚、高調波は、解析の複雑化を回避するために2次についてのみ考慮している。図32の(A)のVOP(401), VOM(402)はそれぞれ発振器の差動出力端子’における基本波周波数における出力電圧波形を表し、これらと第2次高調波出力電圧波形403をそれぞれ分離した状態で表している。次に、上記出力端子における基本波信号と第2次高調波の位相の関係が図32の(A)のようになる理由を説明する。図29に記載されるLCクロスカップル発振器の第2次高調波は、差動出力端子において同相信号にみえる。ここで、基本波信号と第2次高調波との位相の関係は以下のように導出することができる。図29の発振器に振幅Am, 発振角周波数ω0, 初期位相が0度の正弦波発振電圧信号が入力された際の出力電流は、次式(7)となる。
【0032】
【数7】

【0033】
ここで、VODは、トランジスタQ1のオーバードライブ電圧である。
【0034】
式(7)のように、トランジスタQ1で電圧-電流変換された信号には、トランジスタの非線形性により、第2次高調波が生じていることが分かる。上記トランジスタQ1にて電圧-電流変換された電流信号は、LC共振器に入力され電圧に変換される。
【0035】
図31は、一つの並列共振周波数を持つLC共振器のインピーダンスと位相の関係を表している。並列共振周波数すなわち発振周波数における位相シフトは0度であるのに対し、第2次高調波における位相シフトは-90度になることが分かる。上記LC共振器に、式(7)で表される信号電流を入力した際の、出力電圧は、次式(8)となる。
【0036】
【数8】

【0037】
式(8)より、基本波電圧信号が、帰還ループを一巡した時の基本波と、電圧-電流変換部で発生した第2次高調波の電圧信号の位相は、ともに0度であることがわかる。ただし実際には、前記第2次高調波信号は、再び電圧-電流変換器,共振器を一巡することにより、式(8)の第2次高調波位相は正確には0度とはならない。しかし、第2次高調波に対する一巡ループ利得は、基本波周波数の信号の一巡ループ利得と比較して十分小さいため、式(8)に示される第2次高調波位相と大きく異なることはない。つまり、図29のLCクロスカップル型発振器の基本波信号と第2次高調波信号との位相の関係は、図32の(A)のようになることは明らかである。
【0038】
図32の(B)の符号404、405は図32の(A)に示した前記VOP, VOMを、基本波信号及び第2次高調波を分離しない状態で、かつ最大振幅値で正規化した電圧波形を示すものである。図30の(A)に記載される理想的な発振器の発振電圧波形(VOP, VOM)と比較して歪が生じていることが明らかである。図32の(C)は、前述した理想的な発振器と同様の手順で導出したISFの波形406を示すものである。以下、同様に図32の(D)はチャネル熱雑音の正規化周期波形(チャネル熱雑音電流波形)407を示し、図33はチャネル熱雑音の周期的変動を考慮したISF(チャネル熱雑音ISF)408をそれぞれ表している。
【0039】
次に、表1は、理想的なLCクロスカップル型発振器と、第2次高調波の影響を考慮した実際のLCクロスカップル型発振器におけるチャネル熱雑音のISF波形をフーリエ級数展開し、各フーリエ係数を導出した結果を表したものである。尚、下記の結果は、基本波と2次高調波の電圧振幅比を1:0.3と仮定して導出を行ったものである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、従来の構成のLCクロスカップル型発振器は、高調波による歪み成分によりチャネル熱雑音に対するISFが劣化していることが分かる。特に、低周波雑音を位相雑音へ変換してしまうC0の項が発生してしまうため、周波数に逆比例して雑音電力密度が増加する1/f雑音に対する影響が強く現れる。式(3)の位相雑音モデルを拠り所とすると、発振器の位相雑音の劣化を引き起こしていることは明らかである。
【0042】
つまり、従来例のLCクロスカップル型発振器では、発振器の発振電圧の増大に伴う電圧波形の高調波歪みにより、前記発振電圧の増大による位相雑音の低減効果を得ることは困難である。
【0043】
本発明の課題は、LC型発振器において、高調波歪みによる位相雑音の劣化が小さく、かつ発振振幅の増大化を図り、これにより良好な低位相雑音特性を有する発振器及びそれを用いた通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。本発明の発振器は、電流-電圧変換を行う少なくとも1つの電圧-電流変換部と、少なくとも1つの共振器とを具備して成り、前記共振器は、並列に接続された容量性素子と誘導性素子から構成された一対のLCタンクを有しており、前記電圧-電流変換部の出力端子は前記共振器に接続され、該共振器の出力端子が前記電圧-電流変換部の入力端子に接続された帰還ループが構成されて成り、前記共振器を構成している前記一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士が相互誘導結合されており、前記一対のLCタンクを構成する2つの容量性素子の容量値は実質的に同じであり、また2つの誘導性素子は共に実質的に同じ自己インダクタンスを有しており、前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、発振器から生成される基本波信号と第2次高調波の位相関係に基き、予め所定の値に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器及びそれを用いた通信システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る発振器の概念を示す回路図である。
【図2】本発明の第1の実施例になる発振器の回路構成を示す回路図である。
【図3A】第1の実施例の発振器を構成する共振器の、マスクレイアウトの一例を示す図である。
【図3B】図3Aのマスクレイアウトの斜視図である。
【図4】第1の実施例になる発振器を構成する共振器の原理を説明するための、検証回路図である。
【図5】第1の実施例になる発振器を構成する共振器において、K=−0.6の場合の周波数特性を示すグラフである。
【図6】比較例として、第1の実施例に相当する共振器において、K=+0.6とした場合の周波数特性を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施例になる発振器における、基本波と第2次高調波の位相関係を示す電圧波形等の特性を示す波形図である。
【図8】第1の実施例に相当する共振器において、K=−0.6の前後でK値を変えた場合の位相雑音の特性、及び、K=−0.6とし、周波数を基本波周波数の2倍の前後でずらした場合の位相雑音の特性を示す図である。
【図9】第1の実施例に相当する共振器において、K=−0.4とした場合の周波数特性を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施例になる発振器の回路構成を示す回路図である。
【図11】本発明の第3の実施例になる発振器の回路構成を示す回路図である。
【図12A】本発明の第3の実施例になる発振器を構成する共振器の原理を示す第1の検証回路図である。
【図12B】本発明の第3の実施例になる発振器を構成する共振器の原理を示す第2の検証回路図である。
【図12C】本発明の第3の実施例になる発振器を構成する共振器の原理を示す第3の検証回路図である。
【図12D】本発明の第3の実施例になる発振器を構成する共振器の原理を示す第4の検証回路図である。
【図13】本発明の第3の実施例になる発振器を構成する共振器の周波数特性を示すグラフである。
【図14】第3の実施例に相当する共振器において、結合係数Kを-0.1から-0.9まで変えた場合の位相雑音の特性、及び、結合係数K=−0.6とし、周波数を基本波周波数の2倍の前後でずらした場合の位相雑音の特性を示す図である。
【図15】第1の実施例に相当する共振器において、K=−0.4とした場合の周波数特性を示す図である。
【図16】本発明の第4の実施例になる発振器の回路構成を示す回路図である。
【図17】本発明の第5の実施例になる発振器の原理を説明するための回路構成図である。
【図18】本発明の第5の実施例になる発振器の実際の回路構成を示す回路図である。
【図19A】本発明の第5の実施例になる発振器を構成する相互誘導結合したインダクタのマスクレイアウトの例を示す図である。
【図19B】図19Aのマスクレイアウトの斜視図である。
【図20】本発明の第5の実施例になる発振器と、従来例の発振器の位相雑音特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図21A】従来例の発振器の、過渡解析のシミュレーション結果を示す図である。
【図21B】本発明の第5の実施例になる発振器の、過渡解析のシミュレーション結果を示す図である。
【図22】本発明の第5の実施例に相当する共振器において、結合係数Kを-0.1から-0.9まで変化させた時の、位相雑音特性の変化をシミュレーションした結果、及び、結合係数K=−0.6の前後でK値を変えた場合の位相雑音の特性を示す図である。
【図23】本発明の第6の実施例になる発振器の回路構成を示す回路図である。
【図24】本発明の第7の実施例になる2逓倍型発振器を示すブロック図である。
【図25】本発明の第8の実施例になる周波数生成回路を示すブロック図である。
【図26】本発明の第9の実施例になるダイレクトコンバージョン方式の無線送受信システムのブロック図である。
【図27】本発明の第10の実施例になるスーパーヘテロダイン方式の無線送受信システムのブロック図である。
【図28】従来の発振器の構成例を示す回路図である。
【図29】従来の発振器の他の構成例を示す回路図である。
【図30】従来の発振器の基本波のみを考慮した場合の、発振電圧の波形、及び各種特性を示す波形図である。
【図31】従来の発振器に用いられている共振器の周波数特性を示すグラフである。
【図32】従来の発振器の、基本波と第2次高調波の位相関係を示す電圧波形、及び各種特性を示す波形図である。
【図33】従来の発振器において、基本波と第2次高調波を考慮した場合に導出したチャネル熱雑音に対するインパルス感度関数の波形である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は本発明の、実施の形態に係る発振器の概念を示す回路図である。本発明の発振器は、トランジスタからなる少なくとも1つ以上の電圧-電流変換部1と、並列接続された容量性素子と誘導性素子から構成される、一対のLCタンクからなる共振器10とを具備して成り、前記の電圧-電流変換部1の出力端子は、前記の共振器10に接続され電流-電圧変換されたのちに、前記電圧-電流変換部1の入力端子に接続されることにより、帰還ループが構成されている。また、前記共振器10を構成している2つのLCタンクを構成する誘導性素子が相互誘導結合されており、その相互結合係数Kが、基本波信号と第2次高調波の位相関係に基づいて、所定の値に定められていることを特徴とする。
【0048】
本発明のより具体的な構成例を示すと、前記相互結合係数Kは、おおよそ−0.5〜−0.8である。すなわち、前記共振器10は2つの並列共振周波数を有し、前記共振器を構成する2つの相互誘導係数Kが-0.6もしくはその近傍の値(‐0.5~‐0.8)となる関係の場合において、低周波側から数えて第1の並列共振周波数と、第2の並列共振周波数がおおよそ2倍となり、前記おおよそ2倍という値は、前記共振器を構成する誘導性素子、容量性素子の素子値によらずに一定となる。前記の原理については実施例の項において詳細に説明する。すなわち前記共振器を有する本発明の発振器は、前記共振器の低周波側から数えて第1の並列共振周波数を発振周波数とした場合において、第2の並列共振周波を、前記発振器から発生する第2次高調波の周波数とほぼ一致させることができる。すなわち、2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができる。
【0049】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0050】
本発明の第1の実施例になる発振器について、図2ないし図9を参照しながら説明する。図2は、第1の実施例になる発振器の回路構成を示す図である。本実施例の発振器は、トランジスタQ1からなる電圧―電流変換部1と共振器10(10A,10B)で構成されている。電圧-電流変換部1は、第1,第2の端子を有する。第1の端子は、共振器Bからの出力電圧を入力するための入力端子n-g1であり、第2の端子は、電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子n-d1である。一対の共振器10A,10Bは、容量C(CA,CB)とインダクタL(LA,LB)から構成される。前記2つのLCタンクを構成する2つの容量性素子(CA,CB)の容量値は実質的に同じであり、また2つの誘導性素子(LA,LB)は共に実質的に同じ自己インダクタンスを有している。(以下に述べる各実施例でも同じ。)また、2つのLCタンクを構成する誘導性素子が相互誘導結合されており、その相互結合係数Kが、基本波信号と第2次高調波の位相関係に基づいて、所定の値に定められている。所定の値の範囲及びその根拠に関しては、後で詳細に述べる。
【0051】
各共振器10A,10Bは、第1、第2、第3の少なくとも3つの端子を有する。本実施例では、共振器10Aの第1の端子は、電圧-電流変換部1からの出力電流を入力するための入力端子n-r1であり、第2,第3の端子は、共振器のDC電源,制御電圧等へのACグラウンド接続端子であり、n-C1,n-L1を含んでいる。一方、共振器10Bの第1の端子は、共振器10Aの第1の端子n-r1から入力された信号電流を共振器10の周波数特性により特定の周波数のみの信号を選択した後に、電圧-電流変換部の入力端子と接続するための出力端子n-r2であり、第2、第3の端子は、共振器のDC電源,制御電圧等への接続端子であり、n-C2,n-L2を含んでいる。各共振器10A,10Bに含まれるインダクタ同士は、相互誘導結合されており、その結合係数はおおよそ-0.6である。
【0052】
本発明の発振器は、電圧−電流変換部1で、電圧から電流に変換された信号を出力端子n-d1から出力し、共振器10Aの入力端子n-c1に接続し、共振器の周波数特性によって、特定の周波数のみを選択した後に、共振器10Bの出力端子n-c2を、前記電圧-電流変換部1の入力端子n-g1にフィードバックさせるという帰還ループを持っている。
【0053】
上記の電圧-電流変換器1を構成するトランジスタQ1をCMOSプロセスで実現した場合、電圧-電流変換器1の出力はドレイン端子となり、入力はゲート端子となる。
【0054】
共振器10は、2つの並列共振周波数を有し、前記共振器を構成する2つの相互誘導係数Kが-0.6もしくはその近傍の値となる関係に構成されている。上記、本実施例の発振器を構成する負方向(Kが-0.6もしくはその近傍)の相互誘導結合したインダクタは、一例を挙げると図3(図3A、図3B)のようなチップレイアウト(マスクレイアウト)とすることで実現できる。図3Bは図3Aの斜視図である。図3Aにおいて、端子500g(図3Bの端子500g')は共振器10の端子n-r1(もしくは端子n-r2)にあたり、端子500d(図3Bの端子500d')は共振器10の端子n-r2(もしくは端子n-r1)にあたり、端子500tは共振器10のn-L1, n-L2にあたる。図3に示すように、インダクタ500_1stが共振器10A側、インダクタ500_2ndが共振器10B側のインダクタである。外巻きのターンと内巻きのターンの配線層を上下それぞれ別の層として積層構造とすることで、結合係数を所望の値に設計することが可能である。すなわち、インダクタ500_1stは図の左側で上層、右側で下層となり、インダクタ500_2ndは図の左側で下層、右側で上層となり、中間地点で上下の層が逆転している。このように、各配線層をそれぞれ別とし、電流の流れる向きが図中の矢印のように同じ方向となるような、トランス構造とすることで、結合係数を所望の値に設計することが可能である。
【0055】
また、図3のレイアウトに示すように、共振器10A側と共振器10B側のインダクタ500_1st、500_2ndはそれぞれ中線に対して線対称となるため、それぞれのインダクタンスはほぼ同じ値になることは明らかである。
【0056】
また、共振器の入力端子である500g, 500d間には、基本波信号に対して差動動作となるため前記外巻きターン500_outと内巻きターン500_inに流れる電流は同一方向となり、信号磁界レベルを強めあうためインダクタのQ値を高めることができる。
【0057】
本実施例の発振器の動作原理について詳細に説明する。図4は、図2の発振器を構成する共振器10の周波数特性を説明するための検証回路である。図4の検証回路は、前記共振器10の入力端子n-r1に解析用の理想的なAC電流源を接続して構成されている。このとき、共振器10の入力端子n-r1における駆動点インピ-ダンスと、出力端子n-r2における伝達インピーダンスより2つの並列共振周波数を求めると、次式(9)を導くことができる。
【0058】
【数9】

【0059】
また、式(9)より、第一並列共振周波数fosc,p1、第二並列共振周波数fosc,p2との周波数比をRと定義すると、Rは以下の式(10)になる。
【0060】
【数10】

【0061】
式(10)においてR=2、つまり本発明の発振器の特徴である低周波側から数えて第1の並列共振周波数と、第2の並列共振周波数がちょうど2倍とするためのKを導出すると、K=±0.6が求められる。つまり、共振器10を構成するLCタンク10AのインダクタLAとLCタンク10BのインダクタLBが相互誘導結合係数±0.6で結合している場合において、第1並列共振周波数fpr1と第2並列共振周波数fpr2の比は、共振器10を構成するインダクタL(LA,LB),キャパシタC(CA,CB)の値によらず常に2となる。
【0062】
前述したインダクタL、キャパシタCの値に依存しないという点は、重要な要素であり、本実施例の発振器をキャパシタCの容量値を電圧で制御して、発振周波数を変化させる電圧制御発振器VCO(Voltage-Controlled-Oscillator)を構成した場合、発振周波数を変化させたとしても、式(10)の関係から、常に第1並列共振周波数fpr1と第2並列共振周波数fpr2の比は、共振器10を構成するインダクタL,キャパシタCの値によらず常に2となる。
【0063】
図5,図6は、図4の検証回路においてL=200pH, C=150fF, Kを+0.6, -0.6という数値例を代入し、回路シミュレータを用いて解析した結果である。図5の(A)は、K=-0.6の場合のインピーダンス特性を示し、図5の(B)は、K=-0.6の場合の位相の周波数特性を示したものである。101aは端子n-r2における伝達インピーダンス、102aは端子n-r1における駆動点インピーダンス、103aは端子n-r2における位相特性、104aは端子n-r1における位相特性を、それぞれ表している。図5の(A)を見て分かるとおり、第1,第2の並列共振周波数は、それぞれ23GHz,46GHzである。つまり、K=-0.6の場合、式(10)に示しめされた通りの結果であるが得られていることが分かる。
【0064】
また、図5の(B)において、端子n-r1とn-r2の位相特性は、発振器の発振周波数となる第1並列共振周波数(23GHz)において180°の位相差が発生し、発振器の第2次高調波周波数と一致する第2次並列共振周波数では同位相であることがわかる。つまり、実施例1の回路は、クロスカップル型などの差動増幅器を用いなくても基本波発振周波数において端子n-r1と端子n-r2の間で差動信号を生成することができ、かつ本発明の特徴である低周波側から数えて第1の並列共振周波数を発振器の発振周波数とし、第2の並列共振周波数を発振器の第2次高調波と一致させることが可能となる。
【0065】
一方、図6は、比較例として、K=+0.6の場合のインピーダンス(A)、及び位相の周波数特性(B)を示したものである。101bは端子n-r2における伝達インピーダンス、102bは端子n-r1における駆動点インピーダンス、103bは端子n-r2における位相特性、104bは端子n-r1における位相特性をそれぞれ表している。図6の(A)を見て分かるとおり、インピーダンスの周波数特性については、K=-0.6の場合と一致する。しかし、図6の(B)から明らかな通り、端子n-r1とn-r2間の位相特性については、K=-0.6の場合とは逆に、第1並列共振周波数においては同位相となり、第2並列共振周波数において180°の位相差が生じている。
【0066】
本発明の実施例1の回路は、発振器の発振条件を満たすため発振周波数においてn-r1とn-r2が逆相信号つまり180°の位相が生じている必要がある。つまり、実施例1相当の比較例の回路(K=+0.6)の場合は、第1並列共振周波数において発振条件を満たすことができず、逆に180°の位相差が発生する第2並列共振周波数で発振動作をする。しかし、第2並列共振周波数を発振器の発振周波数とした場合、本発明の特徴である低周波側から数えて第1の並列共振周波数を発振器の発振周波数とし、第2の並列共振周波数を発振器の第2次高調波と一致させることができず、本発明の効果を得ることはできない。
【0067】
つまり、本発明の発振器に用いる共振器の結合係数Kは負であることが必要条件であり、-0.6の場合に最大の効果を得ることができる。
【0068】
次に、本実施例の発振器におけるISFを前述の従来例と同様に導出する。図2の発振器において、電圧-電流変換器1の入力端子n-g1にVOP=Am sinω0tなる発振周波数の電圧信号を入力した場合を仮定する。電圧-電流変換器1に入力された前記の電圧信号は、電圧から電流に変換され、電圧電流変換器1の出力端子n-d1に出力される。前記電流信号は、前述の式(7)と同様となり、トランジスタQ1の非線形性により基本波周波数以外に第2次高調波周波数の信号を有している。前記端子n-d1から出力された電流信号は、共振器10の入力端子n-r1に入力され、出力端子n-r2において電圧に変換され、電圧-電流変換器1の入力端子に戻される。
【0069】
図5の端子n-r2における位相特性103に示されるように、第1の並列共振周波数fpr1すなわち発振周波数における位相と、第2次高調波の周波数における位相シフトは共に0度であることがわかる。前記帰還ループを経て、一巡してきた電圧信号は、次式(11)のように表される。
【0070】
【数11】

【0071】
また、前記した一周目のループで発生した第2次高調波が、電圧-電流変換器1の端子n-g1に入力され、再びループを通り一巡してきた際の端子n-g1における2次高調波電圧信号Vout_2nd(t)は、次式(12)となる。
【0072】
【数12】

【0073】
式(11),(12)から、基本波として電圧-電流変換器1に入力されループ内で発生した2次高調波の位相と、2次高調波として電圧-電流変換器1に入力して、ループを一巡してきた信号の位相は、一致することが分かる。つまり、図28の従来例における発振器の2次高調波の位相は2ω0t+π/2となり、基本波信号と比較して、ω0t+π/2だけ位相が進んでいることがわかる。
【0074】
図7で、本発明の第1の実施例になる発振器における、基本波と第2次高調波の位相関係を示す電圧波形等の特性について説明する。図7の(A)は、前述の基本波信号と第2次高調波の位相関係を踏まえて、基本波信号105d, 105g、及び第2次高調波106を分離した状態で表した波形であり、図2の発振器の端子n-d1が100d、端子n-g1が100gに対応し、106は端子n-d1,n-g1に同相な信号と見える。図7の(B)は前記基本波電圧信号と第2次高調波電圧信号を分離せずに示した波形であり、図2の発振器の端子n-d1が107d,端子n-g1が107gに対応する。図7の(C)は、従来構成の発振器と同様の手順で導出したISF(108)である。チャネル熱雑音の正規化周期波形109、チャネル熱雑音の周期的変動を考慮したISF(110)をそれぞれ表している。
【0075】
図7の(C)において、前記ISF(108)のピーク時と,前記チャネル熱雑音波形109のゼロクロス点のタイミングがt=1において一致すること、またt=1において前記ISF108が奇対称,チャネル熱雑音波形109が偶対称という波形特性を持つことにより、前記ISF108と前記チャネル熱雑音波形109の乗算で導出されるチャネル熱雑音ISF110のDC成分C0を打ち消すことが可能となる。また、前記チャネル熱雑音波形109と、従来LCクロスカップル型発振器チャネル熱雑音波形とを比較すると分かるとおり、一周期に占めるチャネル熱雑音の発生時間をおおよそ20%低減している。
【0076】
また、表2は、実施例1の発振器のチャネル熱雑音ISF(110)をフーリエ級数展開し、フーリエ係数を導出した結果である。尚、従来例の時と同様に、下記の結果は、基本波と2次高調波の電圧振幅比を1:0.3と仮定して導出を行ったものである。
【0077】
【表2】

【0078】
表2より、実施例1のLC型発振器は、2次高調波による歪み成分が存在するにもかかわらず、C4を除いたチャネル熱雑音ISFの全てのフーリエ係数が従来例より改善されており、理想的なLCクロスカップル型発振器に近いチャネル熱雑音ISFの特性を有していることが分かる。特に、低周波雑音を位相雑音へ変換してしまうC0の項が0になっていることより、周波数に逆比例して雑音電力密度が増加する1/f雑音に対して位相変動が非常に低いことを示している。
【0079】
つまり、本発明の第1の実施例における発振器は、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器及びそれを用いた通信システムを実現することができる。
【0080】
次に、図8の(A)は、回路シミュレータを用いて、本発明の第1の実施例になる発振器における共振器13(13A, 13B)の相互誘導結合係数を−0.1〜−0.9まで変えた時の、1MHzオフセット時の位相雑音のシミュレーション結果を示したものである。尚、K=0の時が従来例のLCクロスカップル型発振器を示している。図8の(A)に示すシミュレーション結果より、本発明の実施例になる発振器の位相雑音は、理論通りに結合係数−0.6で最も改善されていることがわかる。また結合係数は、−0.6限らず、−0.5〜−0.8の間で約5dBの改善効果が得られることが分かる。換言すると、結合係数は理論通りに、−0.6に設計するのが望ましいものの、製造上のばらつきにより、実際の製品の結合係数が−0.6より若干ずれたものと、すなわち、−0.5〜−0.8となっても、かなりの改善効果が得られる。
【0081】
次に、図8の(B)は、K=−0.6とし、周波数を基本波周波数の2倍の前後でずらした場合の位相雑音の特性を示す図である。第2の共振周波数を第1の(基本波)周波数の2としたときに位相雑音の改善効果が最も高いことを示している。また、結合係数の場合と同じ理由により、比率は2のみならずその前後の所定の範囲でも、かなりの改善効果が得られる。
【0082】
図9は、比較例として、回路シミュレータを用いて、本発明の実施例相当の共振器でK=−0.4の場合の、周波数特性を示す図である。図9の(A)は、インピーダンス特性を示し、(B)は、位相の周波数特性を示したものである。図9の(A)、(B)を見て分かるとおり、第1,第2の並列共振周波数は、それぞれ24.5GHz,37.5GHzである。つまり、K=−0.4の場合、発振周波数を基本波周波数の2倍もしくはその近傍の周波数とするような結果は得られていないことが分かる。
【0083】
本実施例によれば、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器を実現することができる。
【0084】
また、本実施例の発振器を構成する負方向の相互誘導結合したインダクタは、電流が同一方向となり、信号磁界レベルを強めあうためインダクタのQ値を高めることができる。さらに、実施例の共振器のレイアウトでは、スパイラルインダクタ1つ分の占有面積にて、2つのインダクタを実装可能なため、チップ面積低減による低コスト化も可能となる。
【実施例2】
【0085】
次に、本発明の第1の実施例における発振器をPush-Push型発振器に応用した本発明の第2の実施例を説明する。Push-Push型発振器は、発振器の第2次高調波を出力信号として取り出すタイプの発振器である。例を挙げると非特許文献3の例がこのPush-Push型発振器に当たる。Push-Push型発振器は、第2次高調波を積極的に出力するため信号波形を大きく歪ませる、つまり多大な高調波信号を出力させる必要がある。しかし、前述のとおり従来例のLCクロスカップル型発振器では、多大な高調波信号によるチャネル熱雑音ISFの影響により、一般的にPush-Push型発振器の位相雑音特性は悪い。ここで、本発明の実施例1における発振器は、発振周波数のちょうど2倍、つまり第2次高調波に当たる周波数に並列共振点が存在するため、第2次高調波の電圧振幅を大きく取ることができる。さらに、第2次高調波による位相雑音の劣化が無いため、位相雑音特性に優れたPush-Push型発振器を実現することができる。
【0086】
図10は、本発明の第1の実施例における発振器をPush-Push型発振器に応用した一例である。図2の発振器の共振器10の入出力端子n-r1とn-r2に、さらに2つの容量301を接続し、その中点n-r2ndから信号を取り出すことで、基本波信号を打ち消し第2次高調波のみを取り出すことができる。これにより、Push-Push型発振器に関しても、第1の実施例と同様に、位相雑音特性を改善できる。
【実施例3】
【0087】
本発明の第3の実施例になる発振器について、図11ないし図15を参照しながら説明する。図11は、本発明の第3の実施例になる発振器の回路構成を示す図である。本実施例の発振器は、共通接地されたトランジスタQ1,Q2からなる電圧―電流変換部1と共振器10(10A,10B)で構成されている。
【0088】
電圧-電流変換部1は、第1,第2の端子を有する。第1の端子は、共振器10Bからの出力電圧を入力するための入力端子と、前記トランジスタQ2で電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d2であり、第2の端子は、共振器10Aからの出力電圧を入力するための入力端子と、電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d1である。一対の共振器10A,10Bは、容量CとインダクタLから構成される。各共振器10A,10Bは、第1、第2、第3の少なくとも3つの端子を有する。
【0089】
本実施例において、共振器10Aの第1の端子は、電圧-電流変換部1からの出力電流を入力し、共振器10の周波数特性により特定の周波数のみの信号を選択した後に、電圧−電流変換部の入力端子に接続するための入力端子n-r1であり、第2,第3の端子は、共振器のDC電源,制御電圧等へのACグラウンド接続端子であり、n-C1,n-L1を含んでいる。一方、共振器10Bの第1の端子は、電圧-電流変換部1からの出力電流を入力し、共振器10の周波数特性により特定の周波数のみの信号を選択した後、共振器のDC電源,制御電圧等への接続端子であり、n-C2,n-L2を含んでいる。共振器10A,10Bに含まれるインダクタ同士は、相互誘導結合されており、その結合係数はおおよそ-0.6である。
【0090】
本発明の発振器は、電圧−電流変換部1の入力端子n-d2(もしくは、n-d1)から入力された電圧信号を電流に変換した後、出力端子n-d1(もしくは、n-d2)から出力し、共振器10A(もしくは、10B)の入力端子n-r1(もしくは、n-r2)に接続し、共振器の周波数特性によって、特定の周波数のみを選択し電流-電圧変換した後に、前記電圧-電流変換部1の入力端子n-d1(もしくは、n-d2)にフィードバックさせるという帰還ループを持っている。この実施例の発振器は、電圧-電流変換部1を構成するトランジスタQ1とQ2がクロスカップルで接続されているため、出力端子n-d1,n-d2における基本波周波数や奇数次高調波を含む出力電圧信号は差動動作となり、第2次高調波等の偶数次高調波の出力電圧信号は同相信号となる。
【0091】
上記の電圧-電流変換器1を構成するトランジスタQ1,Q2をCMOSプロセスで実現した場合、電圧-電流変換器1の端子n-d1はQ1のドレイン端子かつQ2のゲート端子となり、端子n-d2はQ1のゲート端子かつQ2のドレイン端子となる。
【0092】
本実施例の発振器を構成する負方向の相互誘導結合したインダクタは前記実施例1の場合と同様に、図3A、図3Bのようなチップレイアウトをすることで実現できる。
【0093】
本実施例の発振器の動作原理について詳細に説明する。図12A〜図12Dは、図11の発振器を構成する共振器10の周波数特性を説明するための検証回路である。図12A〜図12Dの検証回路は、前記共振器10の入出力端子n-r1に解析用の理想的なAC電流源200を接続し、もう一つの入出力端子n-r2に前記200の電流源と逆相,または同相の解析用の理想的なAC電流源201を接続して構成されている。図12Bの中の共振器11は、図12Aを構成する共振器10Aと10BのインダクタL間の相互結合を、相互インダクタKLを用いて等価変換した共振器10の検証回路である。
【0094】
まず第1に、図12Bの共振器端子n-r1,n-r2にそれぞれ差動となるAC電流を入力した場合、つまり基本波を含む奇数次高調波を入力した場合には、共振器10の中の端子n-r3は仮想接地点として振舞うため、図12Bの共振器10cは、図12Cに示す1対の容量CとインダクタL(1-K)からなる共振器11(11a, 11b)に変換することができる。図12Cに示す共振器11(11a, 11b)からなる共振器の共振周波数fRS,DIFFは次式(13)になる。つまり、実施例2の発振器の発振周波数は式(13)となる。
【0095】
【数13】

【0096】
第2に、図12Bの共振器端子n-r1,n-r2にそれぞれ同相となるAC電流を入力した場合、つまり第2次高調波を含む偶数次高調波を入力した場合には、共振器10の中の相互インダクタKLには、両方のAC電流源から入力された電流がキルヒホフの電流則により加算されて流れ込むため、等価的に2倍のインダクタン2KLを持つインダクタに、1つのAC電流源から電流が流れ込むように見ることができ、図12Bの共振器10cは、図12Dに示す1対の容量CとインダクタL(1+K)からなる共振器12(12a, 12b)に変換することができる。図12Dに示す共振器12(12a, 12b)からなる共振器の共振周波数fRS,COMは次式(14)になる。
【0097】
【数14】

【0098】
式(14)より、差動電流が流れ込む場合の並列共振周波数fRS,DIFFと、式(14)より同相電流が流れ込む場合の並列共振周波数fRS,COMのとの周波数比をR2と定義すると、R2は以下の式(15)になり、実施例1の式(9)と同じ式になる。
【0099】
【数15】

【0100】
実施例1と同様に、式(15)において、K=-0.6を代入しR2を求めると、R=2が導出される。つまり、共振器10を構成するLCタンク10AとLCタンク10BのインダクタLが相互誘導結合係数-0.6で結合している場合において、差動電流が入力される場合の並列共振周波数fRS,DIFFと、同相電流が入力される場合の並列共振周波数fRS,COMの比は、共振器10を構成するインダクタL,キャパシタCの値によらず常に2となる。つまり前記は、差動信号の並列共振周波数を発振器の発振周波数とした場合、同相信号の並列共振周波数fRS,COMが、実施例2の発振器の端子n-d1,n-d2に対して同相信号である第2次高調波周波数と一致することを意味している。また、実施例1と同様に、前述したインダクタL、キャパシタCの値に依存しないという点は、重要な要素であり、本実施例の発振器をキャパシタCの容量値を電圧で制御して、発振周波数を変化させるVCOを構成した場合、発振周波数を変化させたとしても、式(15)の関係から、常に差動信号に対する並列共振周波数fRS,DIFFと同相信号に対する並列共振周波数fRS,COMの比は、共振器10を構成するインダクタL,キャパシタCの値によらず常に2となる。
【0101】
図13は、図12Aの検証回路の一例を回路シミュレータを用いて解析した結果であり、201は端子n-r1における差動信号に対する駆動点インピーダンス、202は端子n-r1における同相信号に対する駆動点インピーダンス、203は端子n-r2における差動信号に対する位相特性、204は端子n-r1における同相信号に対する位相特性をそれぞれ表し、C=80fF,L=0.5nHの場合において第1,第2の並列共振周波数は、それぞれ19.5GHz,39.5GHz、換言すると発振周波数が基本波周波数の2倍となっている。つまり式(15)に示しめされた通りの結果が得られていることが分かる。
【0102】
実施例3の発振器は、実施例1と同様の共振器特性、及び電圧-電流変換器1の変換特性を有するため、端子n-r1,n-r2における基本波発振信号と第2次高調波信号の電圧振幅波形、ISF、チャネル熱雑音波形、及びチャネル熱雑音ISFは、図7の(A)〜(C)に示される諸特性とそれぞれ同様となる。
【0103】
つまり、本発明の第3の実施例における発振器は、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器及びそれを用いた通信システムを実現することができる。
【0104】
図14の(A)は、回路シミュレータを用いて、本発明の第3の実施例になる発振器における共振器13(13A, 13B)の相互誘導結合係数を−0.1〜−0.9まで変化させた時の、1MHzオフセット時の位相雑音のシミュレーション結果を示したものである。尚、K=0の時が従来例のLCクロスカップル型発振器を示している。図14の(A)に示すシミュレーション結果より、本発明の実施例5の発振器の位相雑音は、理論通りに結合係数−0.6で最も改善されていることがわかる。また結合係数は、−0.6に限らず、−0.5〜−0.8の間で約5dBの改善効果が得られることが分かる。
【0105】
図14の(B)は、K=−0.6とし、周波数を基本波周波数の2倍の前後でずらした場合の位相雑音の特性を示す図である。第2の共振周波数を第1の(基本波)周波数の2としたときに位相雑音の改善効果が最も高いことを示している。また、結合係数の場合と同じ理由により、比率は2のみならずその前後の所定の範囲でも、かなりの改善効果が得られる。
【0106】
図15は、比較例として、回路シミュレータを用いて、本発明の実施例相当の共振器でK=−0.4の場合の、周波数特性を示す図である。図15の(A)は、インピーダンス特性を示し、(B)は、位相の周波数特性を示したものである。図15の(A)、(B)を見て分かるとおり、第1,第2の並列共振周波数は、それぞれ24.5GHz,37.5GHzである。つまり、K=−0.4の場合、発振周波数を基本波周波数の2倍もしくはその近傍の周波数とするような結果は得られていないことが分かる。
【0107】
本実施例によれば、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器を実現することができる。
【0108】
また、本実施例の発振器を構成する負方向の相互誘導結合したインダクタは、電流が同一方向となり、信号磁界レベルを強めあうためインダクタのQ値を高めることができる。さらに、実施例の共振器のレイアウトでは、スパイラルインダクタ1つ分の占有面積にて、2つのインダクタを実装可能なため、チップ面積低減による低コスト化も可能となる。
【実施例4】
【0109】
次に、本発明の第4の実施例として、本発明の第3の実施例における発振器をPush-Push型発振器に応用した例を説明する。図16は、第3の実施例の発振器をPush-Push型発振器に応用した一例である。図11の発振器の共振器10の入出力端子n-r1とn-r2に2つの容量301を接続し、その中点n-r2ndから信号を取り出すことで、基本波信号を打ち消し第2次高調波のみを取り出すことができる。
【0110】
実施例3における発振器は、発振周波数のちょうど2倍、つまり第2次高調波に当たる周波数に並列共振点が存在するため、第2次高調波の電圧振幅を大きく取ることができる。さらに、第2次高調波による位相雑音の劣化が無いため、位相雑音特性に優れたPush-Push型発振器を実現することができる。すなわち、Push-Push型発振器に関しても、第3の実施例と同様に、位相雑音特性を改善できる。
【実施例5】
【0111】
本発明の第5の実施例を図17〜図22で説明する。まず、図17は、本発明の第5の実施例になる発振器の原理を説明するための回路構成図である。本実施例の発振器は、共通接地されたトランジスタQ11,Q21からなる第1の電圧―電流変換部1Aと、もう一つの共通接地されたトランジスタQ12,Q22からなる第2の電圧-電流変換部1Bと、第1の共振器13(13A,13B)と、第2の共振器14(14A,14B)で構成されている。
【0112】
第1の電圧-電流変換部1Aは、第1,第2の端子を有する。第1の端子は、共振器13Bからの出力電圧を入力するための入力端子と、前記トランジスタQ21で電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d21であり、第2の端子は、共振器13Aからの出力電圧を入力するための入力端子と、電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d11である。第2の電圧-電流変換部1Bは、第1,第2の端子を有する。第1の端子は、共振器14Bからの出力電圧を入力するための入力端子と、前記トランジスタQ22で電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d22であり、第2の端子は、共振器14Aからの出力電圧を入力するための入力端子と、電圧-電流変換した電流信号を出力するための出力端子を兼ねた端子n-d12である。
【0113】
第1の共振器13A,13Bは、容量CとインダクタLから構成される。各共振器13A,14Bは、第1、第2、第3の少なくとも3つの端子を有する。本実施例において、共振器13A(13B)の第1の端子は、電圧-電流変換部1Aからの出力電流を入力し、共振器13の周波数特性により特定の周波数のみの信号を選択した後に、前記電圧−電流変換部の入力端子に接続するための入力端子n-r11(n-r21)であり、第2,第3の端子は、共振器のDC電源,制御電圧等へのACグラウンド接続端子であり、n-C11,n-L11(n-C21,n-L21)を含んでいる。同様に、共振器14A(14B)の第1の端子は、電圧-電流変換部1Bからの出力電流を入力し、共振器14の周波数特性により特定の周波数のみの信号を選択した後、共振器のDC電源,制御電圧等への接続端子であり、n-C12,n-L12(n-C22, n-L22)を含んでいる。共振器13A,14A(13B,14B)に含まれるインダクタL11, L12(L21, L22)は、それぞれが相互誘導結合されており、その結合係数Kはおおよそ-0.6である。また、インダクタL11,L12,L21,L22は、ほぼ同値のインダクタンスLを有している。
【0114】
本実施例の発振器は、第1の電圧−電流変換部1Aの入力端子n-d21(もしくは、n-d11)から入力された電圧信号を電流に変換した後、出力端子n-d11(もしくは、n-d21)から出力し、共振器13A(もしくは、13B)の入力端子n-r11(もしくは、n-r21)に接続し、共振器の周波数特性によって、特定の周波数のみを選択し電流-電圧変換した後に、前記電圧-電流変換部1Aの入力端子n-d11(もしくは、n-d21)にフィードバックさせるという帰還ループと、第2の電圧−電流変換部1Bの入力端子n-d22(もしくは、n-d12)から入力された電圧信号を電流に変換した後、出力端子n-d12(もしくは、n-d22)から出力し、共振器14A(もしくは、14B)の入力端子n-r12(もしくは、n-r22)に接続し、共振器の周波数特性によって、特定の周波数のみを選択し電流-電圧変換した後に、前記電圧-電流変換部1Bの入力端子n-d12(もしくは、n-d22)にフィードバックさせるという2つの帰還ループを持っている。
【0115】
この実施例の発振器は、電圧-電流変換部1A(1B)を構成するトランジスタQ11とQ21(Q12, Q22)がクロスカップルで接続されているため、出力端子n-d11とn-d21間(n-d21と n-d22間)における基本波周波数や奇数次高調波を含む出力電圧信号は差動動作となり、第2次高調波等の偶数次高調波の出力電圧信号は同相信号となる。
【0116】
上記の電圧-電流変換器1A及び1Bを構成するトランジスタQ11,Q21,Q12,Q22をCMOSプロセスで実現した場合、電圧-電流変換器1Aの端子n-d11はQ11のドレイン端子かつQ21のゲート端子となり、端子n-d21はQ11のゲート端子かつQ21のドレイン端子となる。同様に、電圧-電流変換器1Bの端子n-d12はQ12のドレイン端子かつQ22のゲート端子となり、端子n-d22はQ12のゲート端子かつQ22のドレイン端子となる。
【0117】
図18は、本発明の第5の実施例になる発振器の実際の回路構成を示す回路図である。実際の回路構成では、図17中の共振器13Aと14Aを合成し15Aとし、図17中の共振器13Bと14Bを合成し、15Bとしてまとめた共振器15としている。
【0118】
図18中の共振器15A,15Bは、前記実施例1や実施例3に用いられていた共振器10と同様の構成となり、前記実施例3で原理を説明したとおり、共振器15A(15B)の端子n-r11と端子n-r21(端子n-r12と端子n-r22)に差動信号を入力した場合の共振周波数fRS,DIFFが前記式(13)となり、同相信号を入力した場合の共振周波数fRS,COMは前記式(14)となる。前記原理はまた、共振周波数fRS,DIFFにおいて、端子n-r12と端子n-r11の間(端子n-r21と端子n-r22間)が差動モードで動作することが分かる。
【0119】
また、前記実施例3と同様に、差動電流が入力される場合の並列共振周波数fRS,DIFFと、同相電流が入力される場合の並列共振周波数fRS,COMの比は、共振器15A,15Bを構成するインダクタL,キャパシタCの値によらず常に2となる。つまり、差動信号の並列共振周波数fRS,DIFFを発振器の発振周波数とした場合、同相信号の並列共振周波数fRS,COMが、本実施例5の発振器の端子n-d11,n-d21, n-d12, n-d22に対して同相信号である第2次高調波周波数と一致することを意味している。
【0120】
また、実施例1や3と同様に、前述したインダクタL、キャパシタCの値に依存しないという点は、重要な要素であり、本実施例の発振器をキャパシタCの容量値を電圧で制御して、発振周波数を変化させるVCOを構成した場合、発振周波数を変化させたとしても、式(15)の関係から、常に差動信号に対する並列共振周波数fRS,DIFFと同相信号に対する並列共振周波数fRS,COMの比は、共振器10を構成するインダクタL,キャパシタCの値によらず常に2となる。
【0121】
本実施例の発振器を構成する負方向の相互誘導結合したインダクタは、一例を挙げると図19(図19A、図19B)のようなチップレイアウトをすることで実現できる。図19Aは、本発明の第5の実施例になる発振器を構成する相互誘導結合したインダクタのマスクレイアウトの例を示す図であり、図19Bは、図19Aのマスクレイアウトの斜視図である。図19において、中線503に対して左側のインダクタ501_1が図17の第1の共振器13を構成するL11、インダクタ502_1が第2の共振器14を構成するL12、前記中線503に対して右側のインダクタ501_2が第1の共振器13を構成するL21、インダクタ502_2が第2の共振器14を構成するL22にそれぞれ対応する。また、図19Aの端子501_r11は図17の第1の共振器13の端子n-r11にあたり、同様に端子501_r21は第1の共振器13の端子n-r21、端子502_r12は第2の共振器14の端子n-r12、端子502_r22は第2の共振器14の端子n-r22にそれぞれ対応する。端子501t、502tは共振器のDC電源等への接続端子である。外側のインダクタ(501_1,501_2)は厚みのある最上層メタルで、内側のインダクタ(502_1,502_2)は厚みの薄い下位層メタルをそれぞれ用いることで、4つのインダクタのインダクタンス値をほぼ等しく、さらに相互結合係数を所望の値に設計することが可能である。
【0122】
第1の共振器13を構成する2つのインダクタ(L11とL21)、第2の共振器14を構成する2つのインダクタ(L12とL22)は、各々、相互誘導作用を無視できる、すなわち、結合係数Kを無視できる程度に離間してチップ上に配置されている。逆に、第1の共振器13のインダクタ501_1(L11)と第2の共振器14のインダクタ502_1(L12)、第1の共振器13のインダクタ501_2(L22)と第2の共振器14のインダクタインダクタ502_2(L21)は、結合係数Kによる相互誘導作用を確実なものにするために、互いに近接して、例えば上下の層としてチップ上に配置されている。
【0123】
また、図19の共振器の入力端子である端子501_r11, 端子501_r21間(並びに端子502_r12,端子502_r22間)には、基本波信号に対して差動動作となるため外側のインダクタ(501_1,502_1)と内側のインダクタ(501_2,502_2)に流れる電流は同一方向となり、信号磁界レベルを強めあうためインダクタのQ値を高めることができる。本実施例の共振器のレイアウトでは、スパイラルインダクタ1つ分の占有面積にて、4つのインダクタを実装可能なため、チップ面積低減による低コスト化も可能となる。
【0124】
実施例5の発振器は、実施例1と同様の共振器特性、及び電圧-電流変換器1の変換特性を有するため、端子n-d11,n-d21(n-d12, n-d22)または、端子n-d11,n-d12(n-d21,n-d22)における基本波発振信号と第2次高調波信号の電圧振幅波形、ISF、チャネル熱雑音波形、及びチャネル熱雑音ISFは、図7の(A)〜(C)に示される諸特性とそれぞれ同様となる。
【0125】
つまり、本発明の第5の実施例における発振器は、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ発振器及びそれを用いた通信システムを実現することができる。
【0126】
図20のグラフは、回路シミュレータを用いて、図29に示す従来例の発振器の位相雑音60、図17の実施例5の発振器の位相雑音50を、同一の発振周波数(20.5GHz)かつ同一消費電力にて導出した結果を表している。本発明の第5の実施例の発振器の位相雑音は、図29の従来例の発振器と比較して、オフセット周波数1kHzにおいて23.5dB、オフセット周波数1MHzにおいて7.5dBの改善効果が得られていることが分かる。
【0127】
図21Aは、回路シミュレータを用いて、図29に示す従来例の発振器の発振波形を過渡解析で導出し、基本波信号71と第2次高調波信号72に分離して表示したものである。一方、図21Bは、同様に図17に示す本発明の第5の実施例に当たる発振器の発振波形を過渡解析で導出し、基本波信号81と第2次高調波信号82に分離して表示したものである。
【0128】
図21Aでは、式(8)に示すとおり、基本波71と第2次高調波72との位相関係が、基本波71:sinω0t, 第2次高調波:‐sin2ω0tとなっていることが分かる。つまり、2次高調波によるチャネル熱雑音ISFの劣化が大きな位相の関係となっている。一方、図21Bに示した本発明の実施例5における発振器の基本波81と第2次高調波82との位相関係は、式(11)の通りに、おおよそ、基本波81:sinω0t, 第2次高調波82:sin(2ω0t − π/2)となっていることがわかる。つまり、本発明の効果に記載したとおり、2次高調波によるチャネル熱雑音ISFの劣化が小さい位相関係になっていることで、位相雑音が改善されていることが明らかにわかる。
【0129】
図22の(A)は、回路シミュレータを用いて、本発明の第5の実施例になる発振器における共振器13(13A, 13B)の相互誘導結合係数を−0.1〜−0.9まで変えた時の、1MHzオフセット時の位相雑音のシミュレーション結果を示したものである。尚、K=0の時が従来例のLCクロスカップル型発振器を示している。図22の(A)に示すシミュレーション結果より、本発明の実施例になる発振器の位相雑音は、理論通りに結合係数−0.6で最も改善されていることがわかる。また結合係数は、−0.6限らず、−0.5〜−0.8の間で約5dBの改善効果が得られることが分かる。結合係数は理論通りに、−0.6に設計するのが望ましいものの、製造上のばらつきにより、実際の製品の結合係数が−0.6より若干ずれたものと、すなわち、−0.5〜−0.8となっても、かなりの改善効果が得られる。
【0130】
次に、図8の(B)は、K=−0.6とし、周波数を基本波周波数の2倍の前後でずらした場合の位相雑音の特性を示す図である。第2の共振周波数を第1の(基本波)周波数の2としたときに位相雑音の改善効果が最も高いことを示している。また、結合係数の場合と同じ理由により、比率は2のみならずその前後の所定の範囲でも、かなりの改善効果が得られる。
【実施例6】
【0131】
図23は、本発明の第5の実施例になる発振器を、Push-Push型発振器に応用した一例である。本発明の第5の実施例の発振器においても、前述の実施例3と同様に発振周波数のちょうど2倍、つまり第2次高調波に当たる周波数に並列共振点が存在するため、第2次高調波の電圧振幅を大きく取ることができる。さらに、第2次高調波による位相雑音の劣化が無いため、位相雑音特性に優れたPush-Push型発振器を実現することができる。すなわち、図23の発振器の共振器13(もしくは14)の入出力端子n-r11とn-r21(もしくは、n-r12とn-r22)に2つの容量302(もしくは、303)を接続し、その中点n-r2nd_1(もしくは、n-r2nd_2)から信号を取り出すことで、基本波信号を打ち消し第2次高調波のみを取り出すことができる。
【実施例7】
【0132】
本発明の第7の実施例になる2逓倍型発振器を、図24で説明する。本実施例の2逓倍型発振器は、前記実施例1~6における発振器91の出力部93,94を、周波数2逓倍回路92に接続する構成となっている。これにより、前記発振器91から出力される基本波信号を減衰させ、第2次高調波のみを効果的に取り出すことができる。本発明における実施例1~6の発振器は、発振周波数のちょうど2倍、つまり第2次高調波に当たる周波数に並列共振点が存在するため、出力端子93, 94における2次高調波の振幅が大きく、さらに効果的に大振幅の2倍波信号を取り出せる。さらに、本発明の実施例1~6の発振器から発生する第2次高調波電圧の位相は、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させているため、発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音な2逓倍型発振器を構成することができる。
【実施例8】
【0133】
次に、図25は、本発明の第8の実施例になる周波数生成回路の一構成を示すブロックである。この周波数生成回路300はPLL(Phase-Locked-Loop)にて構成されており、前記いずれかの実施例の発振器を周波数温度特性の良好な基準周波数発生器として採用する。すなわち、周波数生成回路は、前記いずれかの実施例の発振器を有し外部制御電圧にて周波数を変化させることのできる電圧制御発振器VCO91を設け、この電圧制御発振器にて発振させた高周波信号を、外部からの制御信号により分周数を変化させることのできる分周器301によりN分周するように構成されている。N分周された信号は、位相比較器302にてリファレンスクロック305との位相比較が行われ、上記、N分周された信号とリファレンスクロックとの位相差に比例した時間だけチャージポンプ303をONする切替え信号を出力する。上記チャージポンプは、次段のループフィルタに上記N分周された信号とリファレンスクロックとの位相差に比例して電流を注入または引き抜く動作を行い、VCOに入力される制御電圧の値をコントロールする。上記ループがロックした場合、VCOの出力信号周波数は、fOUT=N・fREFとなる。
【0134】
一般にPLLを用いた周波数生成回路は、PLLのループ帯域内のVCOの位相雑音を低減させることができる。しかしながら、PLLのループ帯域外のVCOの位相雑音については低減することができず、さらにPLLのループ帯域を広げすぎるとVCOの発振周波数fOUTから±fREF分だけ離れた周波数にスプリアスが発生するという問題があるため、一定以上にループ帯域を上げることができない。つまり、VCO自身の位相雑音が十分低いことが求められる。
【0135】
本発明の発振器は、従来例に関して(1)~(4)で説明した課題を解決し、高調波歪みに対する位相変動感度が低く、かつ発振電圧振幅を大きくすることができ、また上記特徴は前述の通り、可変容量を用いて発振周波数を変化させても常に成立するため、低位相雑音を有する周波数生成回路が実現可能となる。
【実施例9】
【0136】
次に、本発明の第9の実施例になるダイレクトコンバージョン方式の無線送受信システムについて説明する。図26は本発明の第9の実施例になる無線通信システムの一例を示すブロック図である。本実施例では、ダイレクトコンバージョン形式の無線送受信機に前記各実施例で述べたいずれかの発振器を適用した場合を示している。
【0137】
本実施例の無線送受信機は、ベースバンドIC320と、本発明の発振器を含むRFIC500と、送信アンテナ311、受信アンテナ312から構成される。RFIC500は送信系ユニット321Aと受信系ユニット321B、及び周波数生成回路300を備えている。送信系ユニット321Aでは、ベースバンドIC320から供給されるディジタルのI信号とQ信号をディジタルからアナログへ変換するD/Aコンバータ305a, 305bを通し、アナログ領域に変換されたI, Q信号は、ローパスフィルタ306a, 306bにて不要周波数成分を減衰し、2つのミキサ307a,307bの入力信号とし、周波数発生回路300から生成したローカル信号は、90度移相器319により、90°の位相差をつけ、前記ミキサの307a,307bの入力信号とする。前記ミキサの周波数変換機能により、RF周波数帯にアップコンバートされ、なおかつI位相に変換された入力信号は、加算器308によって一つのパスとなり、パワーアンプ309で電力増幅が行われ、バンドパスフィルタ310で不要周波数成分を減衰させた後、送信アンテナ311へと供給され、空間へ放射される。
【0138】
一方、受信系ユニット321Bでは反対に、受信アンテナ312で受信されたRF周波数帯の受信信号は、バンドパスフィルタ313によって不要周波数成分を減衰させた後、低雑音増幅器314にてSNRを良好に保ちつつ信号を増幅した後、2つのミキサ315a,315bに入力される。周波数発生回路300から生成したローカル信号は、90度移相器319により、90°の位相差をつけ、前記ミキサの315a,315bの入力信号とする。前記ミキサの出力においては、受信信号はベースバンド周波数に周波数変換されるとともに、I相,Q相の信号へ分離されローパスフィルタ316a,316bにより不要周波数成分を減衰させ、可変利得増幅器317a,317bにより適切な受信信号レベルを得た後に、A/D変換器318によりディジタル領域の信号へ変換され、ベースバンド回路ICへ信号を出力する。
【0139】
このように構成されるダイレクトコンバージョン形式の無線通信システムの周波数生成回路300は、前記各実施例で述べたいずれかの発振器が組み込まれている。これにより、良好な位相雑音特性を持つ周波数生成回路を作製できるため、無線伝送距離が長く、ビット誤り率の低い無線通信システムが実現可能となる。
【0140】
本実施例では、RFIC内にA/D,D/A変換器を内蔵しディジタル信号をベースバンドICとやり取りしているが、ベースバンドIC側にA/D,D/Aを置き、RFICとベースバンドIC間ではアナログ信号をやり取りする構成としても良い。
【0141】
本実施例によれば、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ通信システムを実現することができる。
【実施例10】
【0142】
次に、本発明の第10の実施例になるスーパーヘテロダイン方式の無線送受信システムについて説明する。図27は、本発明の無線通信システムの一例を示すブロック図である。本実施例では、スライディングIF方式のスーパーヘテロダイン送受信機に前記各実施例で述べたいずれかの発振器を適用した場合を示している。
【0143】
本実施例の無線送受信機は、ベースバンドIC320と、本発明の発振器を含むRFIC600と、送信アンテナ311、受信アンテナ312から構成される。RFIC600は送信系ユニット322Aと受信系ユニット322B、及び周波数生成回路300を備えている。送信系ユニット322Aでは、ベースバンド回路IC320から供給されるディジタルのI信号とQ信号をディジタルからアナログ信号へ変換するD/Aコンバータ305a, 306bを通し、アナログ信号へ変換されたI,Q信号は、ローパスフィルタ306a,306bにて不要周波数成分を減衰し、2つのミキサ324a,324bの入力信号とし、周波数発生回路300から生成したローカル信号は、送信RFミキサ325,受信RFミキサ328への入力信号となるとともに、周波数1/2分周器323でローカル信号周波数の1/2にされた後、90度移相器319により、90°の位相差をつけ、前記ミキサの324a,324bと受信側IFミキサ329a,329bの入力信号となる。
【0144】
前記ミキサの周波数変換機能により、IF(Intermediate Frequency)周波数帯にアップコンバートされ、なおかつI位相に変換された入力信号は、加算器308によって一つのパスとなり、RFミキサ325への入力信号となる。前記RFミキサの出力において、RF周波数帯にアップコンバートされ、ハイパスフィルタ326で、高域の不要周波数成分を減衰させた後、パワーアンプ309で電力増幅が行われ、バンドパスフィルタ310で不要周波数成分を減衰させた後、送信アンテナ311へと供給され、空間へ放射される。
【0145】
一方、受信系ユニット322Bでは反対に、受信アンテナ322Bで受信されたRF周波数帯の受信信号は、バンドパスフィルタ313によって不要周波数成分を減衰させた後、低雑音増幅器314にてSNRを良好に保ちつつ信号を増幅した後、RFミキサ328の入力信号となる。前記RFミキサの出力においては、受信信号はIF周波数に周波数変換され、バンドパスフィルタ327にて不要周波数成分を減衰させた後、IFミキサ329a,329bに入力される。受信信号はベースバンド周波数に周波数変換されるとともに、I相,Q相の信号へ分離されローパスフィルタ316a,316bにより不要周波数成分を減衰させ、可変利得増幅器317a,317bにより適切な受信信号レベルを得た後に、A/D変換器318によりディジタル領域の信号へ変換され、ベースバンド回路ICへ信号を出力する。
【0146】
このように構成されるスーパーヘテロダイン形式の無線通信システムの周波数生成回路300は、前記実施例のいずれかの発振器が組み込まれている。これにより、良好な位相雑音特性を持つ周波数生成回路を作製できるため、無線伝送距離が長く、ビット誤り率の低い無線通信システムが実現可能となる。
【0147】
本実施例では、RFIC内にA/D,D/A変換器を内蔵しディジタル信号をベースバンドICとやり取りしているが、ベースバンドIC側にA/D,D/Aを置き、RFICとベースバンドIC間ではアナログ信号をやり取りする構成としても良い。
【0148】
本実施例によれば、発振器から発生する第2次高調波電圧の位相を、チャネル熱雑音のISFが最小となる位相へ固定させることができ、その結果として発振電圧波形の歪みによる位相雑音の劣化を低減し、かつ発振電圧振幅を増加させることが可能となり、低位相雑音特性を持つ通信システムを実現することができる。
【符号の説明】
【0149】
1,1A,1B…電圧-電流変換部、
10,10A,10B,10C,11,11a,11b,12,12a,12b,13,13A,13B,14,14A,14B,15,15A,15B…共振器、
Q1,Q2,Q11,Q12,Q21,Q22…トランジスタ,
n-r1,n-r2,n-r11,n-r12,n-r21,n-r22, 500g, 500d,500t,501_r11,501_r21,501t,502_r12,502_r22,502t n-L1, n-L2, n-c1, n-c2, n-L11, n-L12, n-L21, n-L22…共振器の入出力端子、
n-d1,n-g1, n-d2, n-d11, n-d21, n-d12, n-d22…電圧−電流変換部の入出力端子、
L, 500_LA,500LB,501_1,501_2,502_1,502_2,L11,L12,L21,L22…インダクタ、
K…相互誘導結合係数、
VOP, VOM, 71,72,81,82,401,402,403,404,405,105d,105g,106,107d,107g…発振電圧波形、
108,406…ISF、
109,407…チャネル熱雑音電流波形、
110,408…チャネル熱雑音ISF、
101,102,201,202,398…共振器のゲイン周波数特性、
103,104,203,204,399…共振器の位相周波数特性、
n-r2nd, n-r2nd_1, n-r2nd_2…Push-Push発振器出力端子、
306a,306b,316a,316b…ローパスフィルタ、
307a,307b,315a,315b,324a,324b,325,328,329a,329b…ミキサ、
309…電力増幅器、
314…低雑音増幅器、
311,312…アンテナ、
310,313…バンドパスフィルタ、
326…ハイパスフィルタ、
319…90度移相器、
323…1/2分周器、
317a,317b…可変利得増幅器、
320…ベースバンド回路IC、
321A,322A…RFIC、
321B,322B…受信システム、
321A,322B…送信システム、
318a,318b…アナログ-ディジタル変換器、
305a,305b…ディジタル-アナログ変換器、
92…周波数2逓倍回路、
301…分周器、
305…基準周波数発生回路、
302…位相比較器、
303…チャージポンプ、
304…ループフィルタ、
90,91,300…周波数生成回路、
I…交流電流源、
VDD…電源電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流-電圧変換を行う少なくとも1つの電圧-電流変換部と、少なくとも1つの共振器とを具備して成り、
前記共振器は、並列接続された容量性素子と誘導性素子から構成される一対のLCタンクを有しており、
前記電圧-電流変換部の出力端子は前記共振器に接続され、該共振器の出力端子が前記電圧-電流変換部の入力端子に接続された帰還ループが構成されて成り、
前記共振器を構成している前記一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士が相互誘導結合されており、
前記一対のLCタンクを構成する2つの容量性素子の容量値は実質的に同じであり、また2つの誘導性素子は共に実質的に同じ自己インダクタンスを有しており、
前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、発振器から生成される基本波信号と第2次高調波の位相関係に基き、予め所定の値に設定されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、おおよそ−0.5〜−0.8である
ことを特徴とする発振器。
【請求項3】
請求項1において、
前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、おおよそ−0.6である
ことを特徴とする発振器。
【請求項4】
請求項1において、
前記共振器の第1並列共振周波数と第2並列共振周波数の比がおおよそ2である
ことを特徴とする発振器。
【請求項5】
請求項1において、
前記一対のLCタンクを構成する前記容量性素子は、複数の対交流接地間容量の合成容量である
ことを特徴とする発振器。
【請求項6】
請求項5において、
前記複数の対交流接地間容量のうち、そのうちの少なくとも1つの容量性素子は付加される電圧によって容量値が変化する
ことを特徴とする発振器。
【請求項7】
請求項5において、
前記電圧-電流変換部が、MOSトランジスタもしくはバイポーラトランジスタから構成され、
前記電圧−電流変換部の入力端子が、前記MOSトランジスタもしくは前記バイポーラトランジスタのゲート端子もしくはベース端子になり、出力端子がドレイン端子もしくはコレクタ端子となる
ことを特徴とする発振器。
【請求項8】
請求項7において、
前記電圧−電流変換部の入力端子と出力端子との間に、2つの抵抗素子もしくは2つの容量性素子が直列に接続され、その中点が前記発振器の前記出力端子である
ことを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項1において、
前記共振器の一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士は、外巻きのターンと内巻きのターンの配線層が上下別々の層として積層して構成され、中間地点で前記上下の層が逆転し、電流の流れる向きが同じ方向となるように構成されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項10】
請求項9において、
前記共振器の一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士は、それぞれ中線に対して線対称に構成されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項11】
請求項1において、
前記共振器が、第1の共振器と第2の共振器とを備えて成り、
前記第1の共振器を構成する第1、第2の誘導性素子、前記第2の共振器を構成する第1、第2の誘導性素子は、各々、前記結合係数を無視できる程度に離間してチップ上に配置されており、
前記第1の共振器の前記第1の誘導性素子と前記第2の共振器の前記第1の誘導性素子、前記第1の共振器の前記第2の誘導性素子と前記第2の共振器の前記第2の誘導性素子は互いに近接して前記チップ上に配置されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1の共振器の前記第1の誘導性素子と前記第2の共振器の前記第2の誘導性素子は厚みのある最上層メタルで構成され、
前記第1の共振器の前記第1の誘導性素子と前記第2の共振器の前記第2の誘導性素子は、厚みの薄い下位層メタルで構成されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項13】
請求項1において、
前記誘導性素子は、スパイラルインダクタを2層に積層して負方向の相互誘導結合したインダクタで構成されている
ことを特徴とする発振器。
【請求項14】
発振器と、周波数を整数逓倍にする周波数逓倍器とを具備し、前記発振器から出力された原振信号を周波数逓倍回路に入力することで、逓倍された周波数を出力する周波数生成回路であって、
前記発振器は、
電流-電圧変換を行う少なくとも1つの電圧-電流変換部と、少なくとも1つの共振器とを具備して成り、
前記共振器は、並列接続された容量性素子と誘導性素子から構成される一対のLCタンクを有しており、
前記電圧-電流変換部の出力端子は前記共振器に接続され、該共振器の出力端子が前記電圧-電流変換部の入力端子に接続された帰還ループが構成されて成り、
前記共振器を構成している前記一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士が相互誘導結合されており、
前記一対のLCタンクを構成する容量性素子の容量値は実質的に同じであり、また2つの誘導性素子は共に実質的に同じ自己インダクタンスを有しており、
前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、発振器から生成される基本波信号と第2次高調波の位相関係に基き、予め所定の値に設定されている
ことを特徴とする周波数生成回路。
【請求項15】
請求項14において、
前記共振器を用いて構成された基準周波数発生器と
任意の分周数に可変可能な分周器と、
前記基準周波数発生器の出力信号と前記分周器の出力信号との位相差を検出する位相比較器と、
前記位相差に応じた電圧を発声させるチャージポンプとおよびループフィルタとを具備し、
前記分周器の分周数と前記基準周波数との乗算された周波数を生成する
ことを特徴とする周波数生成回路。
【請求項16】
請求項14において、
前記発振器の誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、おおよそ−0.5〜−0.8である
ことを特徴とする周波数生成回路。
【請求項17】
送信系ユニットと、受信系ユニットと、前記送信系ユニットおよび前記受信系ユニットのうちの少なくともいずれか一方に用いられる周波数を生成するための発振器を有する周波数生成回路とを備えて成り、
前記発振器が、
電流-電圧変換を行う少なくとも1つの電圧-電流変換部と、少なくとも1つの共振器とを具備して成り、
前記共振器は、並列接続された容量性素子と誘導性素子から構成される一対のLCタンクを有しており、
前記電圧-電流変換部の出力端子は前記共振器に接続され、該共振器の出力端子が前記電圧-電流変換部の入力端子に接続された帰還ループが構成されて成り、
前記共振器を構成している前記一対のLCタンクを構成する誘導性素子同士が相互誘導結合されており、
前記一対のLCタンクを構成する2つの容量性素子の容量値は実質的に同じであり、また2つの誘導性素子は共に実質的に同じ自己インダクタンスを有しており、
前記誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、発振器から生成される基本波信号と第2次高調波の位相関係に基き、予め所定の値に設定されている
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項18】
請求項17において、
前記発振器の誘導性素子同士の相互誘導結合係数が、おおよそ−0.5〜−0.8である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項19】
請求項18において、
ベースバンドからのデータ信号を無線周波数へ変調するための第1のミキサと、
前記第1のミキサを駆動するためのローカル信号を生成するための周波数生成回路と、
前記第1のミキサから出力した無線周波数の変調信号の不要周波数成分を減衰するための第1のフィルタ回路と、
前記第1のフィルタ回路から出力した無線周波数の変調信号からアンテナを駆動するための十分な電力を得るための電力増幅器と、
アンテナから受信した無線周波数の変調信号を増幅する低雑音増幅器と、
前記低雑音増幅器の出力信号の不要周波数成分を減衰するための第2のフィルタ回路と、
前記第2のフィルタ回路から出力した変調信号を復調するための第2のミキサと、
前記第2のミキサで復調されたデータ信号から不要周波数成分を減衰するための第3のフィルタ回路と、
前記第3のフィルタ回路から出力したデータ信号を適切な信号レベルに増幅するための可変利得増幅器と
を含んで構成され、
前記ローカル信号を生成するための周波数生成回路が、周波数生成回路を含んでいる
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項20】
請求項18において、
前記周波数生成回路がスーパーヘテロダイン形式の無線通信システムに対応している
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2010−239415(P2010−239415A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85576(P2009−85576)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「ミリ波帯無線装置の低コストの小型ワンチップモジュール化技術の研究開発」 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】