説明

硬化促進剤、硬化性樹脂組成物及び電子部品装置

【課題】優れた流動性、耐リフロークラック性、高温放置特性を発現させるとともに、吸湿時であっても優れた硬化性を示すことが可能な硬化促進剤、硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化性樹脂組成物で封止された素子を備える電子部品装置を提供すること。
【解決手段】下式(I)で示されるホスホニウムシラノレートを含む硬化促進剤を使用する。


(式(I)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基からなる群より選ばれ、2以上のR1が互いに結合して環状構造を形成してもよく;RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRまたはRが互いに結合して環状構造を形成してもよく;mは1〜4の整数であり、nは0〜4の整数であり、pは0以上の数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化促進剤、硬化促進剤を含有する成形材料、積層板用及び接着剤用材料として好適な硬化性樹脂組成物、ならびにそのような硬化性樹脂組成物を用いて封止された素子を備える電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、成形材料、積層板用及び接着剤用材料等の分野では、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂が広く使用されている。これらの硬化性樹脂には、生産性向上の観点から速硬化性が要求されるため、硬化性樹脂組成物には硬化反応を促進する化合物、すなわち硬化促進剤が一般に用いられている。例えば、トランジスタ、IC等の電子部品の素子に関する封止技術の分野では、硬化性樹脂の中でも、特にエポキシ樹脂をベースとした組成物が広く用いられている。その理由としては、エポキシ樹脂が成形性、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性においてバランスがとれているためである。特に、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック硬化剤との組み合わせは、上記諸特性において優れたバランスを有するため、IC封止用成形材料のベース樹脂として主流になっている。そして、そのようなエポキシ樹脂組成物においても、一般に、3級アミン、イミダゾール等のアミン化合物、及びホスフィン類、ホスホニウム等のリン化合物といった硬化促進剤が使用されている。
【0003】
一方、近年、電子部品の素子の封止技術では、電子部品のプリント配線板への高密度実装化が進んでおり、これに伴って従来のピン挿入型パッケージよりも表面実装型パッケージが主流となりつつある。しかしながら、ピン挿入型パッケージと比較して表面実装型パッケージでは、はんだ付け時のパッケージクラックに対する耐性、いわゆる耐リフロークラック性が低下する傾向にある。すなわち、IC、LSI等の表面実装型ICでは、実装密度を高くするために素子のパッケージに対する占有体積がしだいに大きくなり、パッケージの肉厚は非常に薄くなっている。さらに、表面実装型パッケージは、そのはんだ付け工程において、ピン挿入型パッケージよりも、より過酷な条件下にさらされることになる。より具体的には、ピン挿入型パッケージでは、ピンを配線板に挿入した後に配線板裏面からはんだ付けを行うため、パッケージが高温に直接さらされることがない。これに対し、表面実装型ICでは配線板表面に仮止めを行った後に、はんだバスやリフロー装置等で処理を行うため、パッケージは高温のはんだ付け温度に直接さらされることになる。その結果、ICパッケージが吸湿した場合、はんだ付け時に吸湿水分が急激に膨張してパッケージクラックに至ることがあり、パッケージ成形における大きな問題になっている。
【0004】
このような状況下、表面実装型パッケージにおける耐リフロークラック性を改良するために、無機充填剤の含有量を高めたエポキシ樹脂組成物が報告されている。しかし、無機充填剤の含有量の増加に伴って、樹脂組成物の流動性が低下し、成形時に充填不良、ボイド発生等の成形上の障害、またはICチップのボンディングワイヤの断線による導通不良の発生といった、パッケージの性能低下を招くことが多い。そのため無機充填剤の含有量の増加には限界があり、その結果として耐リフロークラック性の著しい改善を達成することは困難であった。特に、そのようなエポキシ樹脂組成物に速硬化性の観点からトリフェニルホスフィン等のリン系硬化促進剤や1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のアミン系硬化促進剤を添加した場合には、樹脂組成物の流動性が著しく低下する傾向がある。そのため、パッケージの耐リフロークラック性の改善に加えて、樹脂組成物の流動性の改善が望まれているのが現状である。
【0005】
無機充填剤を高比率で含有するエポキシ樹脂組成物の流動性を改善するために、例えば、トリフェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加反応物を硬化促進剤として用いる方法が提案されている(特許文献1を参照)。別法として、ホスホニオフェノラートを硬化促進剤として用いる方法が提案されている(特許文献2、3を参照)。
【特許文献1】特開平9−157497号公報
【特許文献2】特開2004−156035号公報
【特許文献3】特開2004−156036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、表面実装型パッケージの分野では、環境問題等の見地から、封止用エポキシ樹脂組成物におけるハロゲン含有難燃剤の含有量を規制する動きがある。そのため、それら難燃剤を使用せずにパッケージの高難燃化を実現するために、またパッケージの熱伝導性をさらに向上させるために、無機充填剤の含有量は益々高くなる傾向にある。このような状況下では、封止用エポキシ樹脂組成物における流動性低下の改善に向けて提案された上記リン系硬化促進剤を使用した場合であっても、十分な流動性を得ることは困難となる傾向がある。そのため、流動性をはじめとして各種特性において良好となる硬化促進剤のさらなる開発が望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、優れた流動性、耐リフロークラック性、高温放置特性を発現させるとともに、吸湿時であっても優れた硬化性を示すことが可能な硬化促進剤、そのような硬化促進剤を含む硬化性樹脂組成物、及びその硬化性樹脂組成物によって封止された素子を備える電子部品装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のリン化合物を硬化促進剤として使用することによって、吸湿時の硬化性、流動性及び耐リフロークラック性に優れる硬化性樹脂組成物が得られ、所期の目的を達成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に関する。
【0010】
(1)ホスホニウムシラノレートを含有することを特徴とする硬化促進剤。
【0011】
(2)上記ホスホニウムシラノレートが、下記一般式(I)で示されることを特徴とする上記(1)に記載の硬化促進剤。
【化1】

【0012】
(式(I)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のR1が互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
mは1〜4の整数であり、nは0〜4の整数であり、pは0以上の数である)
(3)(A)上記(1)又は(2)に記載の1種以上の硬化促進剤と、(B)硬化性樹脂とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【0013】
(4)(B)硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有することを特徴とする上記(3)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0014】
(5)さらに(C)硬化剤を含有することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0015】
(6)さらに(D)無機充填剤を含有することを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0016】
(7)(B)硬化性樹脂に含まれるエポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、からなる群より選ばれる1種以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0017】
(8)(C)硬化剤が、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、からなる群より選ばれる1以上の樹脂を含有することを特徴する上記(5)〜(7)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0018】
(9)上記(3)〜(8)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を用いて封止された素子を備えることを特徴とする電子部品装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明による硬化促進剤は、優れた流動性、硬化性、耐リフロークラック性、高温放置特性を発現させることが可能であるため、かかる硬化促進剤を用いた硬化性樹脂組成物は、吸湿時の硬化性に優れるとともに、流動性等の各種特性に優れる。このような硬化性樹脂組成物を用いてIC、LSI等の電子部品の素子を封止することによって、後述の実施例から明らかとなるように耐リフロークラック性及び高温放置特性が良好で、信頼性に優れる電子部品装置を提供することが可能となり、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
〔硬化促進剤〕
本発明による硬化促進剤は、硬化性樹脂の硬化を促進するのに有効に使用することが可能であり、ホスホニウムシラノレートを含有することを特徴とする。本明細書で使用する用語「ホスホニウムシラノレート」は、ホスホニウムカチオンと、シラノールからプロトンが脱離したアニオンとが対を成してなる分子間塩を意味し、それらは1種以上のカチオンとアニオンとの組み合わせ、すなわち1種以上の分子間塩を含んでもよい。ホスホニウムシラノレートの具体的な例としては、下記一般式(I)で示される化合物を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【化2】

【0022】
(式(I)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のR1が互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
mは1〜4の整数であり、nは0〜4の整数であり、pは0以上の数である)
上記一般式(I)のR1は、先に定義したように、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のR1が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0023】
ここで、用語「炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基」は、炭素数1〜18を有し、置換されても又は非置換であってもよい脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含むことを意味する。
【0024】
より具体的には、上記置換又は非置換の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、アリル基、ビニル基等の脂肪族炭化水素基、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、水酸基、アミノ基、及びハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0025】
また、上記置換又は非置換の脂肪族炭化水素基には、置換又は非置換の脂環式炭化水素基も含まれる。置換又は非置換の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロペンテニル基、及びシクロヘキセニル基等、並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、水酸基、アミノ基、及びハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0026】
上記置換又は非置換の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基等のアリール基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基等のアルキル基置換アリール基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、tert−ブトキシフェニル基等のアルコキシ基置換アリール基が挙げられ、それらはさらにアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものであってもよい。
【0027】
一般式(I)のRとして記載した用語「2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよい」とは、2〜4つのRが結合し、全体としてそれぞれ2〜4価の炭化水素基となる場合を意味する。例えば、P原子と結合して環状構造を形成し得るエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン等のアルキレン基、エチレニル、プロピレニル、ブチレニル基等のアルケニル基、メチレンフェニレン基等のアラルキレン基、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン等のアリーレン基が挙げられ、それらはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、水酸基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
【0028】
なお、上記一般式(I)のR1としては、特に限定されるものではないが、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる1価の置換基であることが好ましい。中でも、原料の入手しやすさの観点から、フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、m-メトキシフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、m-ヒドロキシフェニル基、o-ヒドロキシフェニル基、2,5-ジヒドロキシフェニル基、4-(4-ヒドロキシフェニル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-(2-ヒドロキシナフチル)基、1-(4-ヒドロキシナフチル)基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基; メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等の鎖状又は環状のアルキル基から選ばれる置換基がより好ましい。フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、m-メトキシフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-ヒドロキシフェニル基、m-ヒドロキシフェニル基、o-ヒドロキシフェニル基、2,5-ジヒドロキシフェニル基、4-(4-ヒドロキシフェニル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-(2-ヒドロキシナフチル)基、1-(4-ヒドロキシナフチル)基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基であることがさらに好ましい。
【0029】
上記一般式(I)中のRは、先に定義したように、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよい。また、Rは、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0030】
ここで、用語「炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基」は、炭素数1〜18を有し、かつ置換されても又は非置換であってもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素オキシ基、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素カルボニル基、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素オキシカルボニル基、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素カルボニルオキシ基等を含むことを意味する。
【0031】
より具体的には、上記置換又は非置換の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、先に説明した通りである。
【0032】
上記脂肪族炭化水素オキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の上述の脂肪族炭化水素基に酸素原子が結合した構造を有する基、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものが挙げられる。上記芳香族炭化水素オキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、ブトキシフェノキシ基、フェノキシフェノキシ基等の上述の芳香族炭化水素基に酸素原子が結合した構造を有する基、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0033】
上記カルボニル基としては、ホルミル基、アセチル基、エチルカルボニル基、ブチリル基、シクロヘキシルカルボニル基、アリルカルボニル等の脂肪族炭化水素カルボニル基、フェニルカルボニル基、メチルフェニルカルボニル基等の芳香族炭化水素カルボニル基等、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0034】
上記オキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等の脂肪族炭化水素オキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、メチルフェノキシカルボニル基等の芳香族炭化水素オキシカルボニル基、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0035】
上記カルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、アリルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基等の脂肪族炭化水素カルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基、メチルフェニルカルボニルオキシ基等の芳香族炭化水素カルボニルオキシ基、及びそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン等で置換したものが挙げられる。
【0036】
また、一般式(I)のRとして記載した用語「2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよい」とは、2又は3つのRが結合し、全体としてそれぞれ2又は3価の有機基となる場合を意味する。例えば、Si原子と結合して環状構造を形成し得るエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン等のアルキレン基、エチレニル、プロピレニル、ブチレニル基等のアルケニル基、メチレンフェニレン基等のアラルキレン基、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン等のアリーレン基、及びこれらアルキレン基、アルケニル基、アラルキレン基、アリーレン基のオキシ基又はジオキシ基が挙げられ、それらはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、水酸基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
【0037】
また、一般式(I)のRとして記載した用語「2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく」とは、2〜4のRが結合し、全体としてそれぞれ2〜4価の有機基となる場合を意味する。例えば、Si原子と結合して環状構造を形成し得るエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン等のアルキレン基; エチレニル、プロピレニル、ブチレニル基等のアルケニル基; メチレンフェニレン基等のアラルキレン基; フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン等のアリーレン基; 及びこれらアルキレン基、アルケニル基、アラルキレン基、アリーレン基のオキシ基又はジオキシ基が挙げられ、それらはさらにアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、水酸基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
【0038】
なお、上記一般式(I)のRとしては、特に限定されるものではないが、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基が好ましい。中でも原料の入手しやすさの観点からは、水素原子; 水酸基; メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基; フェノキシ基、p-トリルオキシ基、m-トリルオキシ基、o-トリルオキシ基等のアリールオキシ基; フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基; メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等の鎖状又は環状のアルキル基から選ばれる置換基がより好ましい。水素原子; 水酸基; フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基; メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等の鎖状又は環状のアルキル基から選ばれる置換基がさらに好ましい。
【0039】
上記一般式(I)のRとしては、特に限定されるものではないが、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基が好ましい。中でも原料の入手しやすさの観点からは、水素原子; メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基; フェノキシ基、p-トリルオキシ基、m-トリルオキシ基、o-トリルオキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基; メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等の鎖状又は環状のアルキル基から選ばれる置換基がより好ましい。水素原子; フェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、p-メトキシフェニル基、等の非置換或いはアルキル基又は/及びアルコキシ基又は/及び水酸基置換のアリール基; メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等の鎖状又は環状のアルキル基から選ばれる置換基がさらに好ましい。
【0040】
式(I)で示されるホスホニウムシラノレートの好ましい一形態としては、特に限定されるものではないが、原料の入手しやすさの観点からは、Rの少なくとも1つが置換又は非置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはRの少なくとも1つがフェニル基、トリル基、メトキシフェニル基又はヒドロキシフェニル基であり、R及びRの少なくとも1つが置換又は非置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはR及びRの少なくとも1つがフェニル基である場合が挙げられる。
【0041】
なお、上記一般式(I)において、mは1〜4の整数を示すが、原料の入手しやすさの観点からは、1又は2が好ましい。nは0〜4の整数を示すが、原料の入手しやすさの観点からは、1〜3が好ましい。pは0以上の数を示すが、pは出発原料及び製造方法によって任意に決まる数であり、本発明による作用効果の観点からは特に限定されるものではない。
【0042】
上記一般式(I)で示される化合物の製造方法としては、目的の化合物が製造できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、ホスホニウムハライド等のホスホニウムの分子間塩とシラノール化合物とを塩基性条件下で反応させる方法、ホスホニオフェノラート等の分子内ホスホニウム塩とシラノール化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0043】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明による硬化性樹脂組成物は、(A)硬化促進剤と、(B)硬化性樹脂とを含有するものであって、(A)硬化促進剤が、先に説明した本発明による硬化促進剤を1種以上含むことを特徴する。本発明による硬化性樹脂組成物は、上記成分(A)及び(B)に、さらに(C)硬化剤及び(D)無機充填剤を含有するものであってもよい。また、必要に応じて、カップリング剤、イオン交換体、離型剤、応力緩和剤、難燃剤、着色剤といった各種添加剤を追加したものであってもよい。以下、本発明による硬化性樹脂組成物を構成する主な成分について説明する。
【0044】
(A)硬化促進剤
本発明による硬化性樹脂組成物では、硬化促進剤として、1種以上の本発明による硬化促進剤を使用することを必須とするが、それらに加えて周知の硬化促進剤を1種以上併用してもよい。組成物における(A)硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成できれば特に制限はない。しかし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性における改善の観点からは、(B)硬化性樹脂の合計100重量部に対し、(A)硬化促進剤を合計で好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは1〜7.0重量部配合することが望ましい。配合量が0.1重量部未満では短時間で硬化させることが困難であり、10重量部を超えると硬化速度が速すぎて良好な成形品が得られない場合がある。
【0045】
本発明による硬化促進剤と併用可能な周知の硬化促進剤としては、例えば、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケン等のシクロアミジン化合物、及びその誘導体; それらのフェノールノボラック塩及びこれらの化合物に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物; トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン類及びこれらの誘導体; 2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート; 2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩; トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン類; これら有機ホスフィン類と有機ボロン類との錯体; それら有機ホスフィン類と無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物; これら有機ホスフィン類と4-ブロモフェノール、3-ブロモフェノール、2-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、3-クロロフェノール、2-クロロフェノール、4-ヨウ化フェノール、3-ヨウ化フェノール、2-ヨウ化フェノール、4-ブロモ-2-メチルフェノール、4-ブロモ-3-メチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジメチルフェノール、4-ブロモ-3,5-ジメチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-クロロ-1-ナフトール、1-ブロモ-2-ナフトール、6-ブロモ-2-ナフトール、4-ブロモ-4´-ヒドロキシビフェニル等のハロゲン化フェノール化合物とを反応させた後に、脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる分子内分極を有する化合物(特開2004−156036号公報に記載)が挙げられる。これら硬化促進剤を併用する場合、中でも、流動性の観点からは有機ホスフィン類とπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン類とハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素して得られる分子内分極を有する化合物、硬化性の観点からは有機ホスフィン類とハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素して得られる分子内分極を有する化合物が好ましい。
【0046】
上述の周知の硬化促進剤を併用して(A)硬化促進剤を構成する場合、(A)硬化促進剤全量に対する本発明による1種以上の硬化促進剤の含有量は、合計で好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上とすることが望ましい。本発明による硬化促進剤の含有量が30重量%未満となると、吸湿時の硬化性及び/又は流動性が低下し、本発明によって達成可能な効果が低下する傾向がある。
【0047】
(B)硬化性樹脂
本発明において使用可能な(B)硬化性樹脂としては、本発明による(A)硬化促進剤によって硬化が促進される樹脂であれば、特に制限はない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ケイ素系樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂が挙げられ、これら樹脂のうち1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。中でも、本発明による(A)硬化促進剤による硬化促進効果が十分に発揮されるという観点からは、(B)硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0048】
(B)硬化性樹脂の成分としてエポキシ樹脂を使用する場合、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることができる。そのようなエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂;
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等のジグリシジルエーテル(ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂)、
ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;
フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
アニリン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したもの等のグリシジル型またはメチルグリシジル型のエポキシ樹脂;
分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;
パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;
ハイドロキノン型エポキシ樹脂;
トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;
オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂;
フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物;
硫黄原子含有エポキシ樹脂
が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記エポキシ樹脂の中でも、耐リフロークラック性及び流動性の点でビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物が好ましく、それらのいずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、それらの性能を発揮するためには、エポキシ樹脂全量に対して、それらを合計で30重量%以上使用することが好ましく、50重量%以上使用することがより好ましい。以下、好ましいエポキシ樹脂の具体例を示す。
【0050】
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂の中でもRのうち酸素原子が置換している位置を4及び4´位とした時の3,3´,5,5´位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYX-4000H(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、全てのRが水素原子である4,4´−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル、全てのRが水素原子の場合及びRのうち酸素原子が置換している位置を4及び4´位とした時の3,3´,5,5´位がメチル基でそれ以外が水素原子である場合の混合品であるYL-6121H(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化3】

【0051】
(式(II)中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数4〜18のアリール基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0052】
スチルベン型エポキシ樹脂としては、スチルベン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(III)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(III)で示されるエポキシ樹脂の中でも、Rのうち酸素原子が置換している位置を4及び4´位とした時の3,3´,5,5´位がメチル基でそれ以外が水素原子でありR10の全てが水素原子の場合と3,3´,5,5´位のうちの3つがメチル基、1つがtert−ブチル基でそれ以外が水素原子でありR10の全てが水素原子の場合の混合品であるESLV-210(住友化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化4】

【0053】
(式(III)中、R及びR10は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0054】
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、ジフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(IV)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(IV)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R11の全てが水素原子でありR12のうち酸素原子が置換している位置を4及び4´位とした時の3,3´,5,5´位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYSLV−80XY(新日鐵化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化5】

【0055】
(式(IV)中、R11及びR12は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0056】
硫黄原子含有型エポキシ樹脂としては、硫黄原子を含有するエポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂が挙げられる。下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R13のうち酸素原子が置換している位置を4及び4´位とした時の3,3´位がtert−ブチル基で6,6´位がメチル基でそれ以外が水素原子であるYSLV−120TE(新日鐵化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化6】

【0057】
(式(V)中、R13は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0058】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂をエポキシ化したエポキシ樹脂であれば、特に限定されるものではないが、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化等の手法を用いてエポキシ化したエポキシ樹脂が好ましく、例えば下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R14の全てが水素原子でありR15がメチル基でi=1であるESCN−190、ESCN−195(住友化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化7】

【0059】
(式(VI)中、R14及びR15は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0060】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料としてエポキシ化したエポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂が好ましい。下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0であるHP−7200(大日本インキ化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化8】

【0061】
(一般式(VII)中、R16は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0062】
サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂としては、サリチルアルデヒド骨格を持つ化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば特に制限はないが、サリチルアルデヒド骨格を持つ化合物とフェノール性水酸基を有する化合物とのノボラック型フェノール樹脂等のサリチルアルデヒド型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂等のサリチルアルデヒド型エポキシ樹脂が好ましく、下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、k=0である1032H60(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、EPPN−502H(日本化薬株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化9】

【0063】
(式(VIII)中、R17及びR18は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、kは0〜4の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0064】
ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂としては、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されるものではないが、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を用いたノボラック型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものが好ましく、下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂の中でも、R21がメチル基でi=1であり、j=0、k=0であるNC−7300(日本化薬株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化10】

【0065】
(式(IX)中、R19〜R21は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、jは0〜2の整数、kは0〜4の整数を示し、pは平均値で0〜1の正数を示し、l、mはそれぞれ平均値で0〜11の正数であり(l+m)は1〜11の正数を示す)
上記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂としては、l個の構成単位及びm個の構成単位をランダムに含むランダム共重合体、交互に含む交互共重合体、規則的に含む共重合体、ブロック状に含むブロック共重合体が挙げられ、これらのいずれか1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物としては、フェノール、クレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルやこれらの誘導体から合成されるフェノール樹脂を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール、ジメチルナフトール等のナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルやこれらの誘導体から合成されるフェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものが好ましく、下記一般式(X)及び(XI)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(X)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、R40が水素原子であるNC−3000S(日本化薬株式会社製商品名)、i=0、R40が水素原子であるエポキシ樹脂と一般式(II)の全てのRが水素原子であるエポキシ樹脂を重量比80:20で混合したCER-3000(日本化薬株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。また、下記一般式(XI)で示されるエポキシ樹脂の中でも、i=0、j=0、k=0であるESN−175(新日鐵化学株式会社商品名)等が市販品として入手可能である。
【化11】

【0067】
(式(X)及び(XI)において、R37〜R41は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、jは0〜2の整数、kは0〜4の整数を示す)
【0068】
上記一般式(II)〜(XI)中のR〜R21及びR37〜R41について、「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」とは、例えば、式(II)中の8〜88個のRの全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。他のR〜R21及びR37〜R41についても、式中に含まれるそれぞれの個数について全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。また、R〜R21及びR37〜R41はそれぞれが同一でも異なっていてもよい。例えば、RとR10の全てについて同一でも異なっていてもよい。
【0069】
上記一般式(II)〜(XI)中のnは、0〜10の範囲である必要があり、10を超えた場合は(B)成分の溶融粘度が高くなるため、硬化性樹脂組成物の溶融成形時の粘度も高くなり、未充填不良やボンディングワイヤ(素子とリードを接続する金線)の変形を引き起こしやすくなる。1分子中の平均nは0〜4の範囲に設定されることが好ましい。
【0070】
以上、本発明による硬化性樹脂組成物に使用可能な好ましいエポキシ樹脂の具体例を上記一般式(II)〜(XI)に沿って説明したが、より具体的な好ましいエポキシ樹脂として、耐リフロークラック性の観点からは、4,4´−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3´,5,5´−テトラメチルビフェニルが挙げられ、成形性及び耐熱性の観点からは、4,4´−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−ビフェニルが挙げられる。
【0071】
(C)硬化剤
本発明による硬化性樹脂組成物には、必要に応じて(C)硬化剤を用いることができる。(B)硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、使用可能な硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させることができる化合物であれば、特に限定されるものではない。例えば、フェノール樹脂等のフェノール化合物、ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の無水有機酸、ジカルボン酸、ポリカルボン酸等のカルボン酸化合物が挙げられ、これら化合物の1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。中でも、(A)硬化促進剤の効果が十分に発揮されるという観点からは、フェノール樹脂が好ましい。
【0072】
(C)硬化剤として使用可能なフェノール樹脂としては特に制限はない。例えば、硬化剤として一般に使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂であってよく、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物;
フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;
フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;
パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;
メラミン変性フェノール樹脂;
テルペン変性フェノール樹脂;
フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンから共重合により合成される、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;
シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;
多環芳香環変性フェノール樹脂;
ビフェニル型フェノール樹脂;
トリフェニルメタン型フェノール樹脂;
これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂
が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
上述のフェノール樹脂の中でも、耐リフロークラック性の観点からはアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型とアラルキル型の共重合型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。これらアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型とアラルキル型の共重合型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂は、そのいずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、それらの性能を発揮するためには、フェノール樹脂全量に対して、それらを合計で30重量%以上使用することが好ましく、50重量%以上使用することがより好ましい。
【0074】
アラルキル型フェノール樹脂としては、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルやこれらの誘導体から合成されるフェノール樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(XII)〜(XIV)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【化12】

【0075】
(式(XII)〜(XIV)において、R22〜R28は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、kは0〜4の整数、jは0〜2の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
上記一般式(XII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、R23が全て水素原子であるMEH−7851(明和化成株式会社商品名)等が市販品として入手可能である。
【0076】
上記一般式(XIII)で示されるフェノール樹脂の中でも、i=0、k=0であるXL−225、XLC(三井化学株式会社製商品名)、MEH−7800(明和化成株式会社商品名)等が市販品として入手可能である。
【0077】
上記一般式(XIV)で示されるフェノール樹脂の中でも、j=0、R27のk=0、R28のk=0であるSN−170(新日鐵化学株式会社商品名)等が市販品として入手可能である。
【0078】
ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂としては、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂が好ましい。下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂の中でもi=0であるDPP(新日本石油化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化13】

【0079】
(式(XV)中、R29は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0080】
サリチルアルデヒド型フェノール樹脂としては、サリチルアルデヒド骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0081】
下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂の中でもi=0、k=0であるMEH−7500(明和化成株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化14】

【0082】
(式(XVI)中、R30及びR31は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、kは0〜4の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0083】
ベンズアルデヒド型とアラルキル型との共重合型フェノール樹脂としては、ベンズアルデヒド骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型フェノール樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0084】
下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂の中でもi=0、k=0、q=0であるHE−510(エア・ウォーター・ケミカル株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。
【化15】

【0085】
(式(XVII)中、R32〜R34は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、kは0〜4の整数、qは0〜5の整数、l、mはそれぞれ平均値で0〜11の正数であり(l+m)は1〜11の正数を示す)
【0086】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール類及び/又はナフトール類とアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるフェノール樹脂であれば特に限定されるものではないが、下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂が好ましい。
【0087】
下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂の中でもi=0、R35が全て水素原子であるタマノル758、759(荒川化学工業株式会社製商品名)、HP−850N(日立化成工業株式会社商品名)等が市販品として入手可能である。
【化16】

【0088】
(式(XVIII)中、R35及びR36は水素原子又は炭素数1〜18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0〜3の整数、kは0〜4の整数、nは平均値であり、0〜10の正数を示す)
【0089】
上記一般式(XII)〜(XVIII)におけるR22〜R36について記載した「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」は、例えば、式(XIV)中のi個のR22の全てが同一でも相互に異なっていてもよいことを意味している。他のR23〜R36についても、式中に含まれるそれぞれの個数について全てが同一でも相互に異なっていてもよいことを意味している。また、R22〜R36は、それぞれが同一でも異なっていてもよい。例えば、R22およびR23の全てについて同一でも異なっていてもよく、R30およびR31の全てについて同一でも異なっていてもよい。
【0090】
上記一般式(XII)〜(XVIII)におけるnは、0〜10の範囲である必要があり、10を超えた場合は(B)硬化性樹脂成分の溶融粘度が高くなるため、硬化性樹脂組成物の溶融成形時の粘度も高くなり、未充填不良やボンディングワイヤ(素子とリードを接続する金線)の変形を引き起こしやすくなる。1分子中の平均nは0〜4の範囲に設定されることが好ましい。
【0091】
本発明による硬化性樹脂組成物において(B)硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用し、そのエポキシ樹脂の(C)硬化剤としてフェノール樹脂を使用する場合、上記成分(B)と(C)との配合比率は、全エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する全フェノール樹脂の水酸基当量の比率(フェノール樹脂中の水酸基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)で0.5〜2.0の範囲に設定することが好ましく、上記比率は0.7〜1.5であることがより好ましく、0.8〜1.3であることがさらに好ましい。上記比率が0.5未満ではエポキシ樹脂の硬化が不充分となり、硬化物の耐熱性、耐湿性及び電気特性が劣る傾向がある。一方、上記比率が2.0を超えるとフェノール樹脂成分が過剰となり、硬化効率が低下するだけでなく、硬化樹脂中に多量のフェノール性水酸基が残るため、パッケージの電気特性及び耐湿性が低下する傾向がある。
【0092】
(D)無機充填剤
本発明の硬化性樹脂組成物には、(D)無機充填剤を必要に応じてさらに配合することができる。特に、硬化性樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、(D)無機充填剤を配合することが好ましい。本発明において用いられる(D)無機充填剤としては、一般に封止用成形材料に用いられるものであってよく、特に限定されるものではない。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の微粉未、又はこれらを球形化したビーズが挙げられる。さらに、難燃効果のある無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛が挙げられる。中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。これらの無機充填剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
(D)無機充填剤の配合量は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、硬化性樹脂組成物に対して55〜90体積%の範囲であることが好ましい。これら無機充填剤は硬化物の熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等の改良を目的に配合するものであり、配合量が55体積%未満ではこれらの特性の改良が不十分となる傾向があり、90体積%を超えると硬化性樹脂組成物の粘度が上昇して流動性が低下し成形が困難になる傾向がある。
【0094】
また、(D)無機充填剤の平均粒径は1〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。1μm未満では硬化性樹脂組成物の粘度が上昇しやすく、50μmを超えると樹脂成分と無機充墳剤とが分離しやすくなり、硬化物が不均一になったり硬化物特性がばらついたり、狭い隙間への充填性が低下したりする傾向がある。
【0095】
流動性の観点からは、(D)無機充填剤の粒子形状は角形よりも球形が好ましく、(D)無機充填剤の粒度分布は広範囲に分布したものが好ましい。例えば、無機充填剤を75体積%以上配合する場合、その70重量%以上を球状粒子とし、0.1〜80μmという広範囲に分布したものが好ましい。このような無機充填剤は最密充填構造をとりやすいため配合量を増加させても材料の粘度上昇が少なく、流動性に優れた硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0096】
(各種添加剤)
本発明による硬化性樹脂組成物では、必要に応じて上述の成分(A)硬化促進剤、(B)硬化性樹脂、(C)硬化剤、(D)無機充填剤に加えて、以下に例示するカップリング剤、イオン交換体、離型剤、応力緩和剤、難燃剤、着色剤といった各種添加剤を追加してもよい。しかし、本発明による硬化性樹脂組成物には、以下の添加剤に限定することなく、必要に応じて当技術分野で周知の各種添加剤を追加してもよい。
【0097】
(カップリング剤)
本発明の封止用硬化性樹脂組成物には、樹脂成分と無機充填剤との接着性を高めるために、必要に応じて、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を添加することができる。
【0098】
カップリング剤の配合量は、(D)無機充填剤に対して0.05〜5重量%であることが好ましく、0.1〜2.5重量%がより好ましい。0.05重量%未満ではフレームとの接着性が低下する傾向があり、5重量%を超えるとパッケージの成形性が低下する傾向がある。
【0099】
上記カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−[ビス(β−ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン系カップリング剤; イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、二級アミノ基を有するカップリング剤が流動性及びワイヤ流れの観点から好ましい。
【0100】
(イオン交換体)
本発明の硬化性樹脂組成物には、陰イオン交換体を必要に応じて配合することができる。特に硬化性樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、陰イオン交換体を配合することが好ましい。本発明において用いられる陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、ハイドロタルサイト類や、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマスから選ばれる元素の含水酸化物が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式(XIX)で示されるハイドロタルサイトが好ましい。
【0101】
(化17)
Mg1−XAl(OH)(COX/2・mHO (XIX)
(0<X≦0.5、mは正の数)

これらの陰イオン交換体の配合量は、ハロゲンイオン等の陰イオンを捕捉できる十分な量であれば特に制限はないが、(B)硬化性樹脂に対して0.1〜30重量%の範囲が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。
【0102】
(離型剤)
本発明の硬化性樹脂組成物には、成形時に金型との良好な離型性を持たせるため離型剤を配合してもよい。本発明において用いられる離型剤としては特に制限はなく従来公知のものを用いることができる。例えば、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスが挙げられ、これらの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、酸化型又は非酸化型のポリオレフィン系ワックスが好ましく、その配合量としては(B)硬化性樹脂に対して0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。ポリオレフィン系ワックスの配合量が0.01重量%未満では離型性が不十分な傾向があり、10重量%を超えると接着性が阻害される可能性がある。ポリオレフィン系ワックスとしては、例えば市販品ではヘキスト社製のH4、PE、PEDシリーズ等の数平均分子量が500〜10000程度の低分子量ポリエチレンが挙げられる。また、ポリオレフィン系ワックスに他の離型剤を併用する場合、その配合量は(B)硬化性樹脂に対して0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。
【0103】
(応力緩和剤)
本発明の硬化性樹脂組成物には、シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤等を必要に応じて配合することができる。応力緩和剤を配合することにより、パッケージの反り変形量、パッケージクラックを低減させることができる。使用できる応力緩和剤としては、一般に使用されている公知の可とう剤(応力緩和剤)であれば特に限定されるものではない。一般に使用されている可とう剤としては、例えば、シリコーン系、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エラストマー、NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンパウダー等のゴム粒子、メタクリル酸メチル−スチレン−ブタジエン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル−シリコーン共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体等のコア−シェル構造を有するゴム粒子が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリコーン系可とう剤が好ましく、シリコーン系可とう剤としては、エポキシ基を有するもの、アミノ基を有するもの、これらをポリエーテル変性したものが挙げられる。
【0104】
(難燃剤)
本発明の硬化性樹脂組成物には、難燃性を付与するために必要に応じて難燃剤を配合することができる。本発明において用いられる難燃剤としては特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機若しくは無機の化合物、金属水酸化物が挙げられ、これらの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。難燃剤の配合量は、難燃効果が達成されれば特に制限はないが、エポキシ樹脂等の(B)硬化性樹脂に対して1〜30重量%が好ましく、2〜15重量%がより好ましい。
【0105】
(着色剤)
また、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を配合しても良い。
【0106】
先に説明した本発明の硬化性樹脂組成物は、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できる。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分に混合し、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を均一に撹拌、混合し、予め70〜140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練、冷却し、粉砕する等の方法で得ることができる。樹脂組成物は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び重量でタブレット化すると取り扱いが容易である。
【0107】
〔電子部品装置〕
本発明による電子部品装置は、上述の硬化性樹脂組成物によって封止した素子を備えることを特徴とする。電子部品装置としては、例えば、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載したものが挙げられ、それら素子部を本発明の硬化性樹脂組成物で封止したものが挙げられる。より具体的には、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤボンディングやバンプで接続した後、本発明の硬化性樹脂組成物を用いてトランスファー成形等によって封止した、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC、テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、本発明の硬化性樹脂組成物で封止したTCP(Tape Carrier Package)、配線板やガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子及び/又はコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子を、本発明の硬化性樹脂組成物で封止したCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール、裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、本発明の硬化性樹脂組成物で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)が挙げられる。また、プリント回路板においても本発明の硬化性樹脂組成物を有効に使用することができる。
【0108】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いて、電子部品装置を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的ではあるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明について実施例によってより具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例によって限定されるものではない。
【0110】
〔硬化促進剤の調製〕
硬化性樹脂組成物の調製に先立ち、本発明による各実施例において硬化促進剤として使用する化合物を以下に示す合成例1〜9に従って調製した。なお、各合成例において、出発原料となる、4-トリフェニルホスホニオフェノラート、2-トリフェニルホスホニオフェノラート、3-トリフェニルホスホニオフェノラート、2,6-ジメチル-4-トリフェニルホスホニオフェノラート、3-トリ-p-トリルホスホニオフェノラート、及びシクロヘキシルジフェニルホスホニオフェノラートは、それぞれ特開2004−156036号公報に記載の方法に従って合成したものを使用した。
【0111】
また、各合成例で調製した化合物の分析は、以下の方法に従って実施した。
(1)H−NMR
化合物を約0.5mlの重アセトンに溶かし、φ5mmの試料管に入れ、ブルカーバイオスピン社製AV−300Mで測定した。シフト値は、溶媒に微量含まれるCHDC(=O)CD(2.04ppm)を基準とした。
(2)31P−NMR
化合物を約0.5mlの重メタノール又は重アセトンに溶かし、φ5mmの試料管に入れ、ブルカーバイオスピン社製AV−300Mで測定した。シフト値は、リン酸水溶液(0ppm)を基準とした。
(3)IR
Bio−Rad社製FTS 3000MXを用い、KBr法に従い測定した。
【0112】
(合成例1)
4-トリフェニルホスホニオフェノラート10.9g(30.8mmol)をアセトン100mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらジフェニルシランジオール10.0g(46.2mmol)を添加した。溶液中の淡黄色の4-トリフェニルホスホニオフェノラートの粉末は、徐々に白色へと変化した。このような変化は、ジフェニルシランジオールがアセトンに可溶であることから考えて、アセトンに一部溶解した4-トリフェニルホスホニオフェノラートがジフェニルシランジオールと反応して、徐々に消費され、4-トリフェニルホスホニオフェノラートとジフェニルシランジオールとの塩として析出したことに起因すると推測される。反応混合物を室温にて12時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、16.3gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図1〜3に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XX)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物1」と称す)。収率は93%であった。
【化18】

【0113】
(合成例2)
4-トリフェニルホスホニオフェノラート30.0g(84.6mmol)をアセトン60ml及び蒸留水30mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらジフェニルシランジオール18.3g(84.6mmol)を添加した。ジフェニルシランジオールを添加するにつれ、4-トリフェニルホスホニオフェノラートがいったん溶け、すぐに白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて30分攪拌し、エバポレーターでアセトンを約30ml留去した後、ろ過及び乾燥することによって、43.5gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、合成例1と同様のスペクトルが得られた。そのため、生成物は合成例1と同様に先に示した式(XX)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物1」と称す)。収率は90%であった。
【0114】
(合成例3)
4-トリフェニルホスホニオフェノラート10.9g(30.8mmol)をアセトン100mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール25.5g(46.2mmol)を添加した。溶液中の淡黄色の4-トリフェニルホスホニオフェノラートの粉末が徐々に白色へと変化した。このような変化は、トリフェニルシラノールはアセトンに可溶であることから考えて、アセトンに一部溶解した4-トリフェニルホスホニオフェノラートがトリフェニルシラノールと反応し、徐々に消費され、4-トリフェニルホスホニオフェノラートとトリフェニルシラノールとの塩として析出したことに起因すると推測される。反応混合物を室温にて12時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、25.3gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図4〜6に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXI)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物2」と称す)。収率は91%であった。
【化19】

【0115】
(合成例4)
4-トリフェニルホスホニオフェノラート20.0g(56.4mmol)をアセトン40ml及び蒸留水20mlに溶解させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール31.2g(112.5mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると、すぐに白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて30分攪拌し、エバポレーターでアセトンを約30ml留去した後、ろ過及び乾燥することによって、45.7gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、合成例3と同様のスペクトルが得られた。そのため、生成物は合成例3と同様に先に示した式(XXI)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物2」と称す)。収率は89%であった。
【0116】
(合成例5)
2-トリフェニルホスホニオフェノラート6.4g(18.1mmol)をアセトン30ml及び蒸留水7.5mlに溶解させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール15.0g(54.3mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると、徐々に白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて2時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、13.8gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重アセトン中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図7〜9に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXII)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物3」と称す)。収率は84%であった。
【化20】

【0117】
(合成例6)
3-トリフェニルホスホニオフェノラート6.4g(18.1mmol)をアセトン60mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール15.0g(54.3mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると、3-トリフェニルホスホニオフェノラートの溶解性が上がった(不溶解粉末の量が減少した)後に、すぐに白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて2時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、13.6gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図10〜12に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXIII)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物4」と称す)。収率は83%であった。
【化21】

【0118】
(合成例7)
2,6-ジメチル-4-トリフェニルホスホニオフェノラート6.9g(18.1mmol)をアセトン30ml及び蒸留水7.5mlに溶解させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール15.0g(54.3mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると、徐々に白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて2時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、9.8gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重メタノール中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図13〜15に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXIV)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物5」と称す)。収率は82%であった。
【化22】

【0119】
(合成例8)
3-トリ-p-トリルホスホニオフェノラート7.2g(18.1mmol)をアセトン50mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール15.0g(54.3mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると、3-トリ-p-トリルホスホニオフェノラートの溶解性が上がった(不溶解粉末の量が減少した)後に、すぐに白色粉末が析出した。反応混合物を室温にて2時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、15.8gの白色固体として生成物を得た。
【0120】
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重アセトン中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図16〜18に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXV)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物6」と称す)。収率は92%であった。
【化23】

【0121】
(合成例9)
シクロヘキシルジフェニルホスホニオフェノラート6.6g(18.1mmol)をアセトン30mlに分散(一部溶解)させ、その溶液に攪拌しながらトリフェニルシラノール15.0g(54.3mmol)を添加した。トリフェニルシラノールを加えると一旦溶解した。その後、ヘキサン60mlを加えることによって、徐々に白色粉末が析出した。ヘキサン投入し、約6時間攪拌した後、ろ過及び乾燥することによって、9.1gの白色固体として生成物を得た。
得られた生成物について、H−NMR測定、31P−NMR測定(重アセトン中で測定)、及びIR測定を行った結果、それぞれ図19〜21に示すスペクトルが得られた。各スペクトルを同定したところ、生成物は下式(XXVI)で示される構造を有すると考えられる(以下、「化合物7」と称す)。収率は55%であった。
【化24】

【0122】
〔硬化性樹脂組成物の調製及びその特性評価〕
(実施例1〜14及び比較例1〜10)
各実施例では以下のものを使用した。
【0123】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂1:エポキシ当量196、融点106℃のビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名YX−4000H)
エポキシ樹脂2:エポキシ当量192、融点79℃のジフェニルメタン骨格型エポキシ樹脂(新日鐡化学株式会社製商品名YSLV−80XY)
難燃効果のあるエポキシ樹脂(臭素化エポキシ樹脂):エポキシ当量393、軟化点80℃、臭素含有量48重量%の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(硬化剤)
硬化剤1:水酸基当量176、軟化点70℃のフェノールアラルキル樹脂(三井化学株式会社製商品名ミレックスXL−225)
硬化剤2:水酸基当量199、軟化点89℃のビフェニル骨格型フェノール樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH−7851)
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:合成例1又は2で調製した化合物1
硬化促進剤2:合成例3又は4で調製した化合物2
硬化促進剤3:合成例5で調製した化合物3
硬化促進剤4:合成例6で調製した化合物4
硬化促進剤5:合成例7で調製した化合物5
硬化促進剤6:合成例8で調製した化合物6
硬化促進剤7:合成例9で調製した化合物7
硬化促進剤A:トリフェニルホスフィン(比較の硬化促進剤)
硬化促進剤B:トリフェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加反応物
硬化促進剤C:4-トリフェニルホスホニオフェノラート
硬化促進剤D:2-トリフェニルホスホニオフェノラート
添加剤1:ジフェニルシランジオール
添加剤2:トリフェニルシラノール
なお、硬化促進剤A〜D、及び本発明による硬化促進剤の前駆体に相当する添加剤1及び2は、いずれも比較のために使用した。
【0124】
無機充填剤:平均粒径17.5μm、比表面積3.8m/gの球状溶融シリカ
カップリング剤:エポキシシラン(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA−100)
離型剤:カルナバワックス(株式会社セラリカNODA製)
難燃剤:三酸化アンチモン
上述の成分をそれぞれ表1及び表2に示す重量部で配合し、混練温度80℃、混練時間15分の条件でロール混練を行うことによって、それぞれ実施例1〜14、及び比較例1〜10の硬化性樹脂組成物を得た。
【表1】

【表2】

【0125】
次に、実施例1〜14及び比較例1〜10によって得られたそれぞれの硬化性樹脂組成物を、以下に示す各種試験によって評価した。評価結果を表3及び表4に示す。なお、硬化性樹脂組成物の成形は、トランスファー成形機を用い、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件下で行った。また、後硬化は175℃で6時間行った。
【0126】
(1)スパイラルフロー(流動性の指標)
EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、上記条件で硬化性樹脂組成物を成形して流動距離(cm)を測定した。
【0127】
(2)熱時硬度
硬化性樹脂組成物を上記条件で直径50mm×厚さ3mmの円板に成形し、成形後直ちにショアD型硬度計を用いて測定した。
【0128】
(3)吸湿時熱時硬度
硬化性樹脂組成物を25℃/50%RHの条件で72時間放置後、上記(2)の条件でショアD型硬度計を用いて測定した。
【0129】
(4)耐リフロークラック性1
42アロイフレームに、銀ペーストを用いて、寸法8×10×0.4mmのテスト用シリコンチップを搭載した。さらに硬化性樹脂組成物を用いて上記条件で成形、後硬化することによって、外形寸法14×20×2.0mmのQFP80ピンのパッケージを作製した。作製したパッケージを30℃、85%RHの条件で168時間吸湿させた後、ベーパーフェーズリフロー装置により、215℃、90秒の条件でリフロー処理を行って、クラックの発生の有無を確認し、試験パッケージ数(5個)に対するクラック発生パッケージ数について評価した。
【0130】
(5)耐リフロークラック性2
85℃、60%RHの条件で168時間吸湿させた以外は、上記(4)と同じ条件で評価した。
【0131】
(6)耐リフロークラック性3
85℃、85%RHの条件で168時間吸湿させた以外は、上記(4)と同じ条件で評価した。
【0132】
(7)高温放置特性
テスト素子として、外形サイズが5×9mmで5μmの酸化膜を有するシリコン基板上にライン/スペースが10μmのアルミ配線が形成されたものを使用した。このテスト素子を、部分的に銀メッキが施された16ピン型DIP(Dual Inline Package)42アロイリードフレームに銀ペーストを用いて搭載した。次いでサーモニックワイヤによって、200℃で素子のボンディングパッドとインナーリードとをAu線によって接続した。さらに硬化性樹脂組成物を用いて上記条件下で成形、後硬化することによってパッケージを作製した。上述のようにして作製したパッケージを、200℃の条件下で500時間、1000時間にわたり保管した後、取り出して導通試験を行い、不良パッケージ数を調べ、試験パッケージ数(10個)に対する不良発生パッケージの数によって評価した。
【表3】

【表4】

【0133】
表3及び4から分かるように、本発明による硬化促進剤を含有する実施例1〜14は、いずれにおいても流動性、熱時硬度、吸湿時熱時硬度、耐リフロークラック性及び高温放置特性に優れる結果となった。
【0134】
これに対して、本発明による硬化促進剤とは異なる種類の硬化促進剤を含む比較例1〜10では、硬化促進剤を除き同じ樹脂組成を有する実施例と比較して、流動性に劣っている。特に、実施例で使用した硬化促進剤の前駆体を別々に加えた比較例4、5、9及び10については本発明に基づく実施例と比較して、流動性に劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明による硬化促進剤として調製された化合物1のH−NMRスペクトルである。
【図2】本発明による硬化促進剤として調製された化合物1の31P−NMRスペクトルである。
【図3】本発明による硬化促進剤として調製された化合物1のIRスペクトルである。
【図4】本発明による硬化促進剤として調製された化合物2のH−NMRスペクトルである。
【図5】本発明による硬化促進剤として調製された化合物2の31P−NMRスペクトルである。
【図6】本発明による硬化促進剤として調製された化合物2のIRスペクトルである。
【図7】本発明による硬化促進剤として調製された化合物3のH−NMRスペクトルである。
【図8】本発明による硬化促進剤として調製された化合物3の31P−NMRスペクトルである。
【図9】本発明による硬化促進剤として調製された化合物3のIRスペクトルである。
【図10】本発明による硬化促進剤として調製された化合物4のH−NMRスペクトルである。
【図11】本発明による硬化促進剤として調製された化合物4の31P−NMRスペクトルである。
【図12】本発明による硬化促進剤として調製された化合物4のIRスペクトルである。
【図13】本発明による硬化促進剤として調製された化合物5のH−NMRスペクトルである。
【図14】本発明による硬化促進剤として調製された化合物5の31P−NMRスペクトルである。
【図15】本発明による硬化促進剤として調製された化合物5のIRスペクトルである。
【図16】本発明による硬化促進剤として調製された化合物6のH−NMRスペクトルである。
【図17】本発明による硬化促進剤として調製された化合物6の31P−NMRスペクトルである。
【図18】本発明による硬化促進剤として調製された化合物6のIRスペクトルである。
【図19】本発明による硬化促進剤として調製された化合物7のH−NMRスペクトルである。
【図20】本発明による硬化促進剤として調製された化合物7の31P−NMRスペクトルである。
【図21】本発明による硬化促進剤として調製された化合物7のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホニウムシラノレートを含有することを特徴とする硬化促進剤。
【請求項2】
前記ホスホニウムシラノレートが、下記一般式(I)で示されることを特徴とする請求項1に記載の硬化促進剤。
【化1】

(式(I)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の炭化水素基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のR1が互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子及び炭素数1〜18の置換又は非置換の有機基からなる群より選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよく、2以上のRが互いに結合して環状構造を形成してもよく、
mは1〜4の整数であり、nは0〜4の整数であり、pは0以上の数である)
【請求項3】
(A)請求項1又は請求項2に記載の1種以上の硬化促進剤と、(B)硬化性樹脂とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項3に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(C)硬化剤を含有することを特徴とする請求項3又は4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに(D)無機充填剤を含有することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(B)硬化性樹脂に含まれるエポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、からなる群より選ばれる1種以上のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
(C)硬化剤が、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、からなる群より選ばれる1以上の樹脂を含有することを特徴する請求項5〜7のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を用いて封止された素子を備えることを特徴とする電子部品装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−233189(P2006−233189A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7386(P2006−7386)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】