磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット及びその製造方法
【課題】保護部材を介在させても回転数等の検出精度が維持でき、保護部材による損傷防止と磁気性能を両立させた磁気エンコーダが装着される磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】磁気エンコーダ26の磁極形成リング27は、磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石である。非磁性材料からなる保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように設けられる。
【解決手段】磁気エンコーダ26の磁極形成リング27は、磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石である。非磁性材料からなる保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転数を検出するために用いられる磁気エンコーダを備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のスキッド(車輪が略停止状態で滑る現象)を防止するためのアンチスキッド、又は有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール(発進や加速時に生じやすい駆動輪の不要な空転の制御)などに用いられる回転数検出装置としては、次のような構造が知られている。すなわち、回転数検出装置は、磁性によってパルス発生をなすエンコーダと、このエンコーダの磁性パルスを感知する感知センサとからなっており、その一般的な構造としては、軸受を密封するシール装置にエンコーダを併設して配置し、密封手段と回転数検出手段とを一体化した回転数検出装置付シールを構成しているものが最も多く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のシール付回転数検出装置は、図12に示すように、外輪100に取り付けられるシール部材102と、内輪101に嵌合されたスリンガ103と、スリンガ103の外側面に取り付けられて磁気パルスを発生する磁性体からなるエンコーダ104と、エンコーダ104からの磁性パルスを検出するようにエンコーダ104を近接配置される回転数検出センサ105とから構成されている。ここで、軸受は、このシール付回転検出装置によって、内部のグリースの漏洩と、外部からの水分あるいは異物の侵入などが防止されている。
【0004】
またエンコーダ104は、ゴムあるいは、樹脂等の弾性素材に磁性粉を混入せしめた弾性磁性材料で形成されており、型内で接着剤の塗布されたスリンガ103のフランジ部103aへプレス造形されることで、接合されている。一般的にエンコーダ用として用いられているのは、磁性粉としてフェライトを含有したニトリルゴムが用いられており、ロールで練られることで、機械的に磁性粉が配向された状態になっている。
【0005】
また、磁石部104が外方に露出した構成では、悪路走行等によって、磁石部104と回転数検出センサ105との間に石等の異物が噛み込み、磁石部104に摩耗・割れ等の損傷が発生する虞がある。このために、従来、磁石部を覆うように保護板を設けることが提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)
【特許文献1】特開2001−255337号公報
【特許文献2】特開2002−333033号公報
【特許文献3】特開2003−240007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2,3に記載の磁気エンコーダの磁石部は、フェライトを含有させたニトリルゴムからなり、機械的に磁性粉が配向されたエンコーダでは、間に非磁性の保護板を介在させると磁気特性が低下し、回転数等の検出精度に悪影響が出る虞があった。
【0007】
そこで本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、その目的は、保護部材を介在させても回転数等の検出精度が維持でき、保護部材による損傷防止と磁気性能を両立させた磁気エンコーダが装着される磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成によって達成される。
(1) 固定輪と、回転輪と、固定輪と回転輪との間で周方向に転動自在に配置される複数の転動体と、回転輪に固定されるとともに回転数計測用の磁気センサによって検出される磁性パルスを発生する磁気エンコーダと、を備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットであって、
磁気エンコーダは、回転数検出用の磁気センサと対向するようにして回転体に固定され、且つ円周方向に多極に着磁される略円環状の磁石部、を備え、
磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、
非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(2) プラスチック磁石材料のバインダーは、少なくとも熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(3) プラスチック磁石材料は、ジフェニルアミン系化合物とp−フェニレンジアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種類のアミン系酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする(2)に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(4) 保護部材が、固定輪と回転輪のいずれか一方に固定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(5) 磁気エンコーダが磁性材料のスリンガをさらに備えた、(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法であって、
異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、
射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁石部をスリンガに接着接合する工程と、
を備えることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられるので、保護板を介在させても回転数等の検出精度が維持でき、磁気エンコーダは、保護板による損傷防止と磁気性能を両立させることができる。
【0010】
また、本発明の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法によれば、異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁石部をスリンガに接着接合する工程と、を備えるので、磁石部は、磁場射出成形によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、また、射出成形時にスリンガと磁石部の接合が可能になり、生産性及び信頼性の高い転がり軸受ユニットを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態として、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するためのハブユニット軸受2aに、本発明を適用した場合について示している。尚、本発明の特徴以外の構成及び作用については、従来から広く知られている構造と同等であるから、説明は簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0013】
ハブユニット軸受2aは、固定輪である外輪5aと、車輪(図示せず)を固定するための取付フランジ12と一体回転する回転輪(回転体)であるハブ7a及び内輪16aと、外輪5aとハブ7a及び内輪16との間で形成される環状隙間で周方向に転動自在に配置され、保持器18によって案内される複数の転動体である玉17a,17aとを備える。また、内輪16aには磁気エンコーダ26が固定され、回転数検出用の磁気センサ(回転数検出センサ)28によって検出される磁性パルスを発生する。
【0014】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げる事により形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付ける事で、ハブ7aに結合固定されている。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取付フランジ12に円周方向に所定間隔で植設されたスタッド8によって、結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0015】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれ密封装置であるシールリング21a、21bが設けられる。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面とハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた環状隙間と外部空間とを遮断している。
【0016】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0017】
また、図2に示すように、磁気エンコーダ26は、内輪16aに外嵌可能な円筒部25aと、円筒部25aの軸方向端部に湾曲部25bを介して連設され半径方向外方に広がるように形成されるフランジ部25cとを有するスリンガ25と、スリンガ25のフランジ部25cの外側面にインサート成形時に硬化反応が進む接着剤によって取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部である磁極形成リング27と、を備える。磁極形成リング27は、回転数検出用の磁気センサ28と対向するようにして内輪16aにスリンガ25を介して固定される。
【0018】
図3に示すように、磁極形成リング27は多極磁石であり、その周方向には、交互にN極とS極が形成されている。そして、磁気センサ28は、磁極形成リング27の軸方向外側で対向配置され、また、非磁性材料からなる保護部材である保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように、磁気エンコーダ26に接着剤によって固定されている。
【0019】
本発明では、磁気エンコーダ26の磁極形成リング27の磁石材料としては、特に限定されないが、スリンガ25及び保護カバー30への接合性を考慮すると、磁性粉を50〜80体積%程度含有し、熱可塑性樹脂をバインダーとしたプラスチック磁石コンパウンドを好適に用いることができる。磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄等の希土類磁性粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタン等の希土類元素を混入させたものであってもよい。磁性粉の含有量が50体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になり、好ましくない。それに対して、磁性粉の含有量が80体積%を越える場合は、バインダー量が少なくなりすぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下する。
【0020】
バインダーとして熱可塑性樹脂を用いる場合は、射出成形可能なものが好適であり、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド12からなるハードセグメントとポリエーテル鎖あるいはポリエステル鎖からなるソフトセグメントとからなるブロック共重合体である変性ポリアミド12、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステルからなるハードセグメントとポリエーテル鎖あるいはポリエステル鎖からなるソフトセグメントとならなるブロック共重合体である変性ポリエステル等を用いることができる。尚、エンコーダに融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるので、吸水性が少ないポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリアミド12、変性ポリエステルを樹脂バインダーとするほうが、より好ましい。
【0021】
更に、エンコーダの使用環境で想定される急激な温度変化(熱衝撃)による亀裂発生を防止するバインダーとしては、添加することで、曲げたわみ性、耐亀裂性向上材として機能する変性ポリアミド12、変性ポリエステル、あるいは変性ポリアミド12とポリアミド12との混合物、変性ポリエステルとポリエステル樹脂との混合物としたものが最も好適である。
【0022】
耐衝撃性向上材としては、その他加硫ゴム超微粒子を用いることができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴムの中から選ばれる少なくとも一種類で、平均粒子径で30〜300nmの範囲に入る微細な微粒子である。平均粒子径で30nm未満の場合は、製造上コストがかかると共に、微細すぎて劣化しやすく好ましくない。平均粒子径で300nmを越える場合は、分散性が低下すると共に、耐衝撃性の改善を均一に行うことが難しく好ましくない。
【0023】
上記説明した加硫ゴム超微粒子の中で、ペレット製造及び実際の磁石部成形時の劣化を考慮すると、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが好適であり、更にその中でも、分子構造中に、カルボキシル基やエステル基などの有機官能基を有するものが樹脂バインダーとの相互作用が比較的強く更に好適で、具体的にはカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムである。これらの加硫ゴム超微粒子は、熱や酸素での劣化を防止して、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤、2−メルカプトベンズイミダゾール等の二次老化防止剤等を含有させたものとしてもよい。
【0024】
更に耐衝撃性向上材として混入させるものとしては、その他エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、エチレン/アクリレート共重合体、アイオノマー等も使用可能である。これらの化合物はペレット状であり、磁性体粉、熱可塑性樹脂などと混合して押出機でペレット化する際に、流動化し、バインダー中にミクロ分散される。
【0025】
また、上記変性樹脂あるいは加硫ゴム超微粒子等からなる耐衝撃性向上材の添加量は、熱可塑性樹脂と併せたバインダー全量中で、5〜60重量%、より好ましくは10〜40重量%である。添加量が5重量%未満の場合は、少なすぎて耐衝撃性の改善効果が少なく好ましくない。添加量が60重量%を越える場合は、耐衝撃性は向上するものの、樹脂成分が少なくなることで引張強度等が低下するため実用性が低くなる。
【0026】
更に、バインダーである熱可塑性樹脂及び耐衝撃性向上材(変性樹脂あるいは加硫ゴム超微粒子等)の熱による劣化を防止するために、元々材料に添加されている物の他に、酸化防止効果の高いアミン系酸化防止剤を添加すると、熱による劣化が防止でき、より好適である。使用されるアミン系酸化防止剤としては、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系化合物、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系化合物が好適である。
【0027】
上記アミン系酸化防止剤の添加量としては、熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなるバインダー重量と酸化防止剤重量を加えた合算重量に対して、0.5〜2.0重量%程度である。アミン系酸化防止剤の添加量が0.5重量%未満の場合は、酸化防止の改善効果が十分でなく好ましくない。また酸化防止剤の添加量が2.0重量%を越える場合は、酸化防止の効果があまり変らなくなると共に、その分、磁性体粉やバインダーの量が減るため、磁気特性や機械的強度の低下に結びつき好ましくないと共に、場合によっては成形品の表面にブルーム等を引き起こし、これがスリンガとの接着に悪影響を及ぼすことが想定でき好ましくない。
【0028】
また、磁性粉として、コスト、耐酸化性を考慮すると、フェライト系が最も好適であるが、磁気特性を優先して希土類系を使用した場合、フェライト系に比べて、耐酸化性が低いので、長期間に渡って安定した磁気特性を維持させるために、露出した磁石表面に、更に表面処理層を設けてもよい。表面処理層としては、電気あるいは無電解ニッケルメッキ、エポキシ樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜、フッ素樹脂塗膜等を具体的に用いることができる。
【0029】
スリンガ25の材質としては、磁石材料の磁気特性を低下させず、尚且つ使用環境からいって、一定レベル以上の耐食性を有するフェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の他、更にMo等を添加して耐食性を向上させたSUS434、SUS444等の高耐食性フェライト系ステンレスなどの磁性材料が好適である。
【0030】
保護カバー30の材質は、磁気センサ28の磁気エンコーダ26の回転数検出を妨げない非磁性材料であればいずれでも良く、衝撃強度等を考慮すると、非磁性金属や、線維強化プラスチック等が好適である。非磁性金属の場合は、スリンガ25と同じく耐食性を有するSUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスが最も好適である。繊維強化プラスチックの場合、熱可塑性である時はプラスチック磁石と成形によって一体化するのであれば、使用するベース樹脂の融点に充分に注意を要する。ベース樹脂は、接着性、耐水性(耐融雪剤性)、耐熱性を考慮して、融点が200℃以上のポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミドMXD6、変性ポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂の他、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。これらのベース樹脂に、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維を、20〜60重量%配合して補強し、機械的強度を向上して用いられる。
【0031】
また、保護カバー30は、磁極形成リング27の検出面側部分である上面27aを覆うような鍔部30aを有するものであればよいが、図2に示すように、磁極形成リング27の外周面及びスリンガ25のフランジ部25cの外周面を覆う環状筒部30bを有することで、スリンガ25と磁極形成リング27との接着面からの水の浸入を防止することができる。
【0032】
本発明で用いられるスリンガ25の磁石接合面は、接着剤との接合力を向上させるために微細な凹凸を設けたほうが好適であり、凹凸の設ける方法としては、ショットブラスト処理やプレス成形時の金型表面の凹凸転写による方法などの機械的なものの他、一度表面処理した表面を酸などによって化学エッチングするものであってもよい。磁石接合面に凹凸を設けると、そこに接着剤が入り込み、アンカー効果により磁極形成リング27とスリンガ25との接合力が強固になり、より好適である。また、非磁性金属からなる保護カバー30とプラスチック磁石を成形で一体化する場合は、保護カバー30の磁石接合面にも上記の凹凸を設けるとより好適である。
【0033】
本実施形態の磁気エンコーダに用いられる接着剤は、インサート成形時に、溶融した高圧のプラスチック磁石材料やゴム磁石材料の流動物によって、脱着して流失しない程度まで半硬化状態になっており、溶融樹脂・流動ゴムからの熱、あるいはそれに加えて成形後の2次加熱によって完全に硬化状態となる。使用可能な接着剤としては、溶剤での希釈が可能で、2段階に近い硬化反応が進むフェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が、耐熱性、耐薬品性、ハンドリング性を考慮して好ましい。
【0034】
磁石材料が熱可塑性プラスチックをバインダーとするプラスチック磁石の場合、エンコーダ部の成形は、内径厚み部から溶融したプラスチック磁石材料が同時に金型中に高圧で流れ込み、金型中で急冷され固形化する、ディスクゲート方式あるいはそれと類似のリングゲート方式の射出成形が好ましい。どちらのゲート方式でも溶融樹脂はディスク状に広がってから、内径厚み部にあたる部分の金型に流入することで、中に含有する燐片状の磁性粉が面に対して平行に配向する。特に、内径厚み部近傍の、回転センサの検出する内径部と外径部との間の部分はより配向性が高く、厚さ方向に配向させたアキシアル異方性に非常に近い状態になっている。成形時に金型に、厚さ方向に磁場をかけるようにすると、異方性は更に完全に近いものとなる。尚、磁場成形を行っても、ゲートをディスクゲート、リングゲート以外の、例えばピンゲートとした場合、徐々に固形化に向って樹脂粘度が上がって行く過程で、ウェルド部での配向を完全に異方化するのは困難であり、それによって、磁気特性が低下すると共に、機械的強度が低下するウェルド部に長期間の使用によって、亀裂等が発生する可能性があり好ましくない。
【0035】
例えば、磁石材料がプラスチック磁石の場合、粗面化されたスリンガ25と保護カバー30の表面に、フェノール系樹脂とエポキシ系樹脂の群からなる少なくとも一方を含有する熱硬化性接着剤を半硬化状態で塗布し、この接着剤が塗布されたスリンガ25と保護カバー30をコアにしてプラスチック磁石材料の射出成形(インサート成形)を、磁場射出成形機80を用いて行なう。
【0036】
磁場射出成形機80は、図4に示されるように、支持台81上に型締め装置82と射出装置83とを備える。型締め装置82は、トグル機構等の可動機構84により、支持台81に固定されたハウジング85に対して移動可能な可動部86と、支持台81に固定された固定部87と、可動部86をハウジング85と固定部87間で案内する4本のタイバー88とを有する。可動部86と固定部87は、可動側金型89と固定側金型90をそれぞれ備える。また、可動部86及び固定部87の側面には、コイル91,92が配置されており、電源装置93によって通電される。制御装置94は、可動機構84、電源装置91、射出装置83に接続されており、これらを制御するように構成される。
【0037】
図5(a)に示されるように、可動側金型89は、当板95にボルト固定された複数の可動側金型片89a〜89cからなり、固定側金型90も、複数の固定側金型片90a〜90cからなる。そして、可動側金型89と固定側金型90との対向面間には、キャビティ96とディスクゲート97が形成される。これにより、射出装置83のノズル98から射出された溶融したプラスチック磁石材料は、スプルー部99からディスクゲート97を介してキャビティ96内に充填される。図5(b)に示されるように、可動側金型片89a,89b間には、スリンガ25の円筒部25aを収容する環状空間が構成されており、中央に位置する固定側金型片90aは、その外径側に位置する固定側金型片90bよりも可動側金型89に向けて突出しており、固定側金型片90aは、収容されたスリンガ25と径方向に重なって位置する。また、キャビティ96内には、保護カバー30が保持されており、磁極形成リング27の外周面を覆うための環状筒部30bの内周面をスリンガ25のフランジ部25cの外周面に当接させると共に、磁極形成リング27の上面と接合される鍔部30aを固定側金型片90bの面にセットする。
【0038】
また、磁場射出成形機80に取り付けられた金型89,90中で溶融したプラスチック磁石材料の射出時に併せて、コイル電流を金型89,90の両端のコイル91,92に印加して、厚み方向に発生する一方向(極性同一)の磁界でプラスチック磁石材料を着磁し、磁性体粉を配向させる。その後、金型89,90中で冷却時に着磁方向と逆方向の磁界で脱磁する脱磁と、着磁時のコイル電流より高い初期コイル電流に始まって極性が交互に反転し振幅が徐々に小さくなる複数のパルス電流を金型両端のコイル91,92に印加して脱磁する反転脱磁の少なくとも一方の工程により脱磁を行なう。次に、ゲート部を除去してから、恒温槽等で一定温度、一定時間加熱することで、接着剤を完全に硬化させ、磁極形成リング27、スリンガ25及び保護カバー30を強固に接合する。なお、場合によっては、高周波加熱等で高温、短時間加熱することで、完全に硬化させても良い。その後、周知のオイルコンデンサ式等の脱磁機を用いて、2mT以下、より好ましくは1mT以下の磁束密度まで、更に脱磁する。その後の工程で、周知の着磁ヨークと重ね合わせて多極着磁する。
【0039】
このようにして形成された磁極形成リング27の極数は70〜130極程度、好ましくは90〜120極である。極数が70極未満の場合は、極数が少なすぎて回転数を精度良く検出することが難しくなる。それに対して、極数が130極を越える場合は、各ピッチが小さくなりすぎて、単一ピッチ誤差を小さく抑えることが難しく、実用性が低い。
【0040】
従って、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁極形成リング27は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように設けられる。これにより、磁極形成リング27は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁極形成リング27の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護カバー30を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護カバー30による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼性の高い転がり軸受ユニットとなる。
【0041】
また、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法によれば、異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁極形成リング27をスリンガ25に接着接合する工程と、を備えるので、磁極形成リング27は、磁場射出成形によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、また、射出成形時にスリンガ27と磁極形成リング27の接合が可能になり、生産性及び信頼性の高い転がり軸受ユニットを製造することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0043】
図6に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40は、固定輪である外輪41と、回転輪(回転体)である内輪42と、外輪41と内輪42との間に形成された環状隙間で周方向に転動自在に配置され、且つ保持器44により円周方向に等間隔に保持される複数の転動体である玉43とを備える転がり軸受と、前記環状隙間の開口端部に配置される密封装置45と、磁気エンコーダ46と、センサ47と、保護部材である保護板48を備えている。
【0044】
密封装置45は、外輪41の内周面に装着されたシール部材50と、シール部材50よりも軸受外方に配置され且つ内輪42の外周面に固定されたスリンガ60とを有しており、シール部材50とスリンガ60とによって前記環状隙間の開口端部を塞ぎ、埃等の異物が軸受内部に進入することを防止すると共に軸受内部に充填された潤滑剤が漏洩することを防止している。スリンガ60は、第1実施形態と同様、内輪42に外嵌する円筒部60aと、円筒部60aの軸方向端部に湾曲部60bを介して連設されて半径方向外方に広がるように形成された鍔状のフランジ部60cを有する。そして、磁気エンコーダ46は、スリンガ60とこのスリンガ60に取付けられた磁石部である磁極形成リング61と、から構成されており、磁極形成リング61はスリンガ60を固定部材として内輪42に固定されている。
【0045】
シール部材50は、断面略L字形の円環状に形成された芯金51により、同じく断面略L字形の円環状に形成された弾性材52を補強して構成されており、外輪41に内嵌して装着されている。弾性材52の先端部は複数の摺接部に分岐しており、各摺接部は、スリンガ60のフランジ部60cの軸受内方に面する端面、または円筒部60aの外周面に、全周に亙ってそれぞれ摺接している。これにより高い密封力を得ている。
【0046】
また、保護板48は、内輪42の肩部外周面に設けられた段差部42aに圧入固定される環状筒部48aと、環状筒部48aから半径方向外方に延びて磁極形成リング61の検出面側部分と対向する鍔部48bとを有する。そして、保護板48は、スリンガ60の円筒部60aを内輪42の肩部外周面に外嵌させた後に、環状筒部48aを段差部42aに圧入することで、鍔部48bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間或いは接触した状態で、内輪42に取り付けられる。これにより、非磁性材料からなる保護板48が磁極形成リング61と磁気センサ47との間に介在するように設けられる。
【0047】
保護板48と磁極形成リング61との間に隙間を設ける場合は、隙間に砂等の異物の侵入を防止するために、隙間は0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。隙間が0.5mmを越えると、異物が入り込みやすくなると共に、回転センサとのエアギャップが大きくならざるを得なくなり、好ましくない。
【0048】
なお、本実施形態では、保護板48が磁気エンコーダ46と別体であるため、磁気エンコーダ46の成形方法は、保護板48と別に形成される点で第1実施形態と異なるのみであり、磁極形成リング61は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料を磁場射出成形で異方性とすると共に、インサート成形時に硬化反応が進む接着剤によってスリンガ60と接着接合される。また、磁気エンコーダ46の組成や、保護板48の材質等については、第1実施形態のものと同様である。
【0049】
従って、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁極形成リング61は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁極形成リング61の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護カバー48を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護板48による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼製の高い転がり軸受ユニットとなる。
【0050】
なお、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの構成は、図1に示すようなハブユニット軸受にも適用可能であり、図7に示すように、保護板48を、内輪16aに設けられた段差部16bに圧入固定して、磁極形成リング61の検出面側部分と接触させて配置することができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0052】
図8に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Aは、保護部材である保護板70が、静止輪である外輪41に取り付けられる点において、第2実施形態のものと異なる。
【0053】
即ち、保護板70は、外輪41の肩部内周面に設けられた段差部41aに圧入固定される環状筒部70aと、環状筒部70aから半径方向内方に延びて磁極形成リング61の検出面側部分と対向する鍔部70bとを有する。そして、保護板70は、シール部材50を外輪41の肩部内周面に、スリンガ60の円筒部60aを内輪42の肩部外周面にそれぞれ嵌合させた後に、環状筒部70aを段差部41aに圧入することで、鍔部70bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間を持って、外輪41に取り付けられる。これにより、非磁性材料からなる保護板70が磁極形成リング61と磁気センサ47との間に介在するように設けられる。
【0054】
保護板70と磁極形成リング61との間の隙間は、0.1mm〜0.5mmの範囲で設定される。隙間が0.1未満の場合は、軸受の回転に伴う熱膨張によって、磁気エンコーダ46の磁極形成リング61と接触してしまい、軸受の回転及び回転数検出に支障をきたす虞があり、好ましくない。また、隙間が0.5mmを越えると、異物が入り込みやすくなると共に、磁気センサ47とのエアギャップが大きくならざるが得なくなり、好ましくない。なお、磁気センサ47は、保護板70とのエアギャップを小さくするため、鍔部70bと接触させることが好ましい。
その他の構成及び作用については、第2実施形態のものと同様である。
【0055】
なお、本実施形態では、保護板70を外輪41の肩部内周面に形成された段差部41aに圧入固定したが、図9に示される磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Bのように、保護板71は、環状筒部71aを外輪41の外周面に形成された段差部41bに圧入固定し、鍔部71bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間を持って、外輪41に取り付けられるようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの構成も、図1に示すようなハブユニット軸受にも適用可能であり、さらに、図10に示すように、環状に形成される保護板の代わりに、外輪5aの内周面に固定される保護部材としての保護カバー73が、内輪16a及びハブ輪7aのかしめ部23の形状に沿って、外輪5aの軸方向一端開口を塞ぐように形成されてもよい。このハブユニット軸受では、保護カバー73が外輪5aと内輪16aとの環状空間の軸方向一端を覆うので、シールリング21bを設ける必要がない。この保護カバー73は、外輪5aの軸端内周面に嵌合固定されているが、軸端外周面に嵌合固定されてもよい。
【0057】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0058】
図11に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Cは、保護部材である保護板70がシールリップ72を有する点において、第3実施形態のものと異なる。
【0059】
即ち、保護板70は、その鍔部70bの内周端部に、内輪42の肩部外周面と摺接するゴム製のシールリップ72を有している。これにより、保護板70が外部からの異物の浸入を防止するシール構造を構成するので、転がり軸受ユニット40Cの信頼性をさらに向上することができる。
その他の構成及び作用については、第3実施形態のものと同様である。
【0060】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【実施例】
【0061】
ここで、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0062】
成形試験用磁石材料としては、以下の構成材料からなるストロンチウムフェライト含有異方性プラスチック磁石コンパウンドが使用された。
【0063】
・磁場配向用異方性ストロンチウムフェライト 89.5wt%
(FERO TOP FM−201、戸田工業製)
・PA12 7.0wt%
(PA12パウダーP3012U、ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有;宇部興産製)
・変性PA12 3.0wt%
(UBEPAE1210U、ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有;宇部興産製)
・シランカップリング剤 0.3wt%
(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、A−1100;日本ユニカー製)
・アミン系酸化防止剤 0.2wt%
(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ノクラックDP、大内新興化学工業製)
【0064】
また、スリンガとしては、No.2B仕上げ(Ra 0.06程度)が施された厚さ0.6mmのSUS430を母材に使用した。そして、ショットブラストで磁石接合部(Raで0.8程度)のみ凹凸を設けた。シール摺動面側は未処理である。
【0065】
接着剤としては、ノボラック型フェノール樹脂を主成分とする固形分30%のフェノール樹脂系接着剤(東洋化学研究所製メタロックN−15)を、更にメチルエチルケトンで3倍希釈し、浸漬処理でスリンガ表面に塗布した。その後、室温で30分乾燥してから、120℃で30分乾燥器中に放置することで半硬化状態とした。
【0066】
保護カバーとしては、No.2B仕上げ(Ra 0.06程度)が施された厚さ0.3mmのSUS304を母材に使用した。ショットブラストで磁石接合部(Raで0.8程度)のみ凹凸を設けた。磁気センサ対向側は未処理である。
【0067】
磁石部は、成形時厚み方向に磁場をかけて、接着剤が塗布されたスリンガ及び保護部材をコアにしてディスクゲートで成形した。その後、金型での冷却時に反転脱磁を行い、磁石を完全に脱磁した後、着磁ヨークと一緒にして、96極にNS交互にして着磁を行った。このように磁場成形を行うことで、最大エネルギー積を1.9MGOe(14.8kJ/m3)とした。また、接着剤を完全に硬化させるために、150℃で1hr加熱した。なお、成形される磁石部の厚さは、0.9mmとした。
【0068】
このようにして構成される実施例の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられる。これにより、磁石部は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁石部の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護部材を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護部材による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼性の高い転がり軸受ユニットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図2】第1実施形態の磁気エンコーダを備えた密封装置を示す断面図である。
【図3】磁極形成リングの円周方向に多極磁化された例を示す斜視図である。
【図4】磁場射出成形機を示す模式図である。
【図5】キャビティを形成する可動側金型と固定側金型の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図12】従来の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
2a 車輪支持用転がり軸受ユニット(磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット)
5a 外輪
7a ハブ
8 スタッド
11 結合フランジ
12 取付フランジ
15 小径段部
16a 内輪
18 保持器
21a,21b シールリング
22a,22b 弾性材
23 かしめ部
24b 芯金
25 スリンガ
26 磁気エンコーダ
27 磁極形成リング(磁石部)
30 保護カバー(保護部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転数を検出するために用いられる磁気エンコーダを備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のスキッド(車輪が略停止状態で滑る現象)を防止するためのアンチスキッド、又は有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール(発進や加速時に生じやすい駆動輪の不要な空転の制御)などに用いられる回転数検出装置としては、次のような構造が知られている。すなわち、回転数検出装置は、磁性によってパルス発生をなすエンコーダと、このエンコーダの磁性パルスを感知する感知センサとからなっており、その一般的な構造としては、軸受を密封するシール装置にエンコーダを併設して配置し、密封手段と回転数検出手段とを一体化した回転数検出装置付シールを構成しているものが最も多く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のシール付回転数検出装置は、図12に示すように、外輪100に取り付けられるシール部材102と、内輪101に嵌合されたスリンガ103と、スリンガ103の外側面に取り付けられて磁気パルスを発生する磁性体からなるエンコーダ104と、エンコーダ104からの磁性パルスを検出するようにエンコーダ104を近接配置される回転数検出センサ105とから構成されている。ここで、軸受は、このシール付回転検出装置によって、内部のグリースの漏洩と、外部からの水分あるいは異物の侵入などが防止されている。
【0004】
またエンコーダ104は、ゴムあるいは、樹脂等の弾性素材に磁性粉を混入せしめた弾性磁性材料で形成されており、型内で接着剤の塗布されたスリンガ103のフランジ部103aへプレス造形されることで、接合されている。一般的にエンコーダ用として用いられているのは、磁性粉としてフェライトを含有したニトリルゴムが用いられており、ロールで練られることで、機械的に磁性粉が配向された状態になっている。
【0005】
また、磁石部104が外方に露出した構成では、悪路走行等によって、磁石部104と回転数検出センサ105との間に石等の異物が噛み込み、磁石部104に摩耗・割れ等の損傷が発生する虞がある。このために、従来、磁石部を覆うように保護板を設けることが提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)
【特許文献1】特開2001−255337号公報
【特許文献2】特開2002−333033号公報
【特許文献3】特開2003−240007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2,3に記載の磁気エンコーダの磁石部は、フェライトを含有させたニトリルゴムからなり、機械的に磁性粉が配向されたエンコーダでは、間に非磁性の保護板を介在させると磁気特性が低下し、回転数等の検出精度に悪影響が出る虞があった。
【0007】
そこで本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、その目的は、保護部材を介在させても回転数等の検出精度が維持でき、保護部材による損傷防止と磁気性能を両立させた磁気エンコーダが装着される磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成によって達成される。
(1) 固定輪と、回転輪と、固定輪と回転輪との間で周方向に転動自在に配置される複数の転動体と、回転輪に固定されるとともに回転数計測用の磁気センサによって検出される磁性パルスを発生する磁気エンコーダと、を備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットであって、
磁気エンコーダは、回転数検出用の磁気センサと対向するようにして回転体に固定され、且つ円周方向に多極に着磁される略円環状の磁石部、を備え、
磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、
非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(2) プラスチック磁石材料のバインダーは、少なくとも熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなることを特徴とする(1)に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(3) プラスチック磁石材料は、ジフェニルアミン系化合物とp−フェニレンジアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種類のアミン系酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする(2)に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(4) 保護部材が、固定輪と回転輪のいずれか一方に固定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
(5) 磁気エンコーダが磁性材料のスリンガをさらに備えた、(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法であって、
異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、
射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁石部をスリンガに接着接合する工程と、
を備えることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられるので、保護板を介在させても回転数等の検出精度が維持でき、磁気エンコーダは、保護板による損傷防止と磁気性能を両立させることができる。
【0010】
また、本発明の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法によれば、異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁石部をスリンガに接着接合する工程と、を備えるので、磁石部は、磁場射出成形によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、また、射出成形時にスリンガと磁石部の接合が可能になり、生産性及び信頼性の高い転がり軸受ユニットを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態として、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するためのハブユニット軸受2aに、本発明を適用した場合について示している。尚、本発明の特徴以外の構成及び作用については、従来から広く知られている構造と同等であるから、説明は簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0013】
ハブユニット軸受2aは、固定輪である外輪5aと、車輪(図示せず)を固定するための取付フランジ12と一体回転する回転輪(回転体)であるハブ7a及び内輪16aと、外輪5aとハブ7a及び内輪16との間で形成される環状隙間で周方向に転動自在に配置され、保持器18によって案内される複数の転動体である玉17a,17aとを備える。また、内輪16aには磁気エンコーダ26が固定され、回転数検出用の磁気センサ(回転数検出センサ)28によって検出される磁性パルスを発生する。
【0014】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げる事により形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付ける事で、ハブ7aに結合固定されている。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取付フランジ12に円周方向に所定間隔で植設されたスタッド8によって、結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0015】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれ密封装置であるシールリング21a、21bが設けられる。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面とハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた環状隙間と外部空間とを遮断している。
【0016】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0017】
また、図2に示すように、磁気エンコーダ26は、内輪16aに外嵌可能な円筒部25aと、円筒部25aの軸方向端部に湾曲部25bを介して連設され半径方向外方に広がるように形成されるフランジ部25cとを有するスリンガ25と、スリンガ25のフランジ部25cの外側面にインサート成形時に硬化反応が進む接着剤によって取り付けられ、円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部である磁極形成リング27と、を備える。磁極形成リング27は、回転数検出用の磁気センサ28と対向するようにして内輪16aにスリンガ25を介して固定される。
【0018】
図3に示すように、磁極形成リング27は多極磁石であり、その周方向には、交互にN極とS極が形成されている。そして、磁気センサ28は、磁極形成リング27の軸方向外側で対向配置され、また、非磁性材料からなる保護部材である保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように、磁気エンコーダ26に接着剤によって固定されている。
【0019】
本発明では、磁気エンコーダ26の磁極形成リング27の磁石材料としては、特に限定されないが、スリンガ25及び保護カバー30への接合性を考慮すると、磁性粉を50〜80体積%程度含有し、熱可塑性樹脂をバインダーとしたプラスチック磁石コンパウンドを好適に用いることができる。磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄等の希土類磁性粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタン等の希土類元素を混入させたものであってもよい。磁性粉の含有量が50体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になり、好ましくない。それに対して、磁性粉の含有量が80体積%を越える場合は、バインダー量が少なくなりすぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下する。
【0020】
バインダーとして熱可塑性樹脂を用いる場合は、射出成形可能なものが好適であり、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド12からなるハードセグメントとポリエーテル鎖あるいはポリエステル鎖からなるソフトセグメントとからなるブロック共重合体である変性ポリアミド12、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステルからなるハードセグメントとポリエーテル鎖あるいはポリエステル鎖からなるソフトセグメントとならなるブロック共重合体である変性ポリエステル等を用いることができる。尚、エンコーダに融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるので、吸水性が少ないポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリアミド12、変性ポリエステルを樹脂バインダーとするほうが、より好ましい。
【0021】
更に、エンコーダの使用環境で想定される急激な温度変化(熱衝撃)による亀裂発生を防止するバインダーとしては、添加することで、曲げたわみ性、耐亀裂性向上材として機能する変性ポリアミド12、変性ポリエステル、あるいは変性ポリアミド12とポリアミド12との混合物、変性ポリエステルとポリエステル樹脂との混合物としたものが最も好適である。
【0022】
耐衝撃性向上材としては、その他加硫ゴム超微粒子を用いることができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴムの中から選ばれる少なくとも一種類で、平均粒子径で30〜300nmの範囲に入る微細な微粒子である。平均粒子径で30nm未満の場合は、製造上コストがかかると共に、微細すぎて劣化しやすく好ましくない。平均粒子径で300nmを越える場合は、分散性が低下すると共に、耐衝撃性の改善を均一に行うことが難しく好ましくない。
【0023】
上記説明した加硫ゴム超微粒子の中で、ペレット製造及び実際の磁石部成形時の劣化を考慮すると、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが好適であり、更にその中でも、分子構造中に、カルボキシル基やエステル基などの有機官能基を有するものが樹脂バインダーとの相互作用が比較的強く更に好適で、具体的にはカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムである。これらの加硫ゴム超微粒子は、熱や酸素での劣化を防止して、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤、2−メルカプトベンズイミダゾール等の二次老化防止剤等を含有させたものとしてもよい。
【0024】
更に耐衝撃性向上材として混入させるものとしては、その他エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、エチレン/アクリレート共重合体、アイオノマー等も使用可能である。これらの化合物はペレット状であり、磁性体粉、熱可塑性樹脂などと混合して押出機でペレット化する際に、流動化し、バインダー中にミクロ分散される。
【0025】
また、上記変性樹脂あるいは加硫ゴム超微粒子等からなる耐衝撃性向上材の添加量は、熱可塑性樹脂と併せたバインダー全量中で、5〜60重量%、より好ましくは10〜40重量%である。添加量が5重量%未満の場合は、少なすぎて耐衝撃性の改善効果が少なく好ましくない。添加量が60重量%を越える場合は、耐衝撃性は向上するものの、樹脂成分が少なくなることで引張強度等が低下するため実用性が低くなる。
【0026】
更に、バインダーである熱可塑性樹脂及び耐衝撃性向上材(変性樹脂あるいは加硫ゴム超微粒子等)の熱による劣化を防止するために、元々材料に添加されている物の他に、酸化防止効果の高いアミン系酸化防止剤を添加すると、熱による劣化が防止でき、より好適である。使用されるアミン系酸化防止剤としては、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系化合物、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系化合物が好適である。
【0027】
上記アミン系酸化防止剤の添加量としては、熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなるバインダー重量と酸化防止剤重量を加えた合算重量に対して、0.5〜2.0重量%程度である。アミン系酸化防止剤の添加量が0.5重量%未満の場合は、酸化防止の改善効果が十分でなく好ましくない。また酸化防止剤の添加量が2.0重量%を越える場合は、酸化防止の効果があまり変らなくなると共に、その分、磁性体粉やバインダーの量が減るため、磁気特性や機械的強度の低下に結びつき好ましくないと共に、場合によっては成形品の表面にブルーム等を引き起こし、これがスリンガとの接着に悪影響を及ぼすことが想定でき好ましくない。
【0028】
また、磁性粉として、コスト、耐酸化性を考慮すると、フェライト系が最も好適であるが、磁気特性を優先して希土類系を使用した場合、フェライト系に比べて、耐酸化性が低いので、長期間に渡って安定した磁気特性を維持させるために、露出した磁石表面に、更に表面処理層を設けてもよい。表面処理層としては、電気あるいは無電解ニッケルメッキ、エポキシ樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜、フッ素樹脂塗膜等を具体的に用いることができる。
【0029】
スリンガ25の材質としては、磁石材料の磁気特性を低下させず、尚且つ使用環境からいって、一定レベル以上の耐食性を有するフェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の他、更にMo等を添加して耐食性を向上させたSUS434、SUS444等の高耐食性フェライト系ステンレスなどの磁性材料が好適である。
【0030】
保護カバー30の材質は、磁気センサ28の磁気エンコーダ26の回転数検出を妨げない非磁性材料であればいずれでも良く、衝撃強度等を考慮すると、非磁性金属や、線維強化プラスチック等が好適である。非磁性金属の場合は、スリンガ25と同じく耐食性を有するSUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスが最も好適である。繊維強化プラスチックの場合、熱可塑性である時はプラスチック磁石と成形によって一体化するのであれば、使用するベース樹脂の融点に充分に注意を要する。ベース樹脂は、接着性、耐水性(耐融雪剤性)、耐熱性を考慮して、融点が200℃以上のポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミドMXD6、変性ポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂の他、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。これらのベース樹脂に、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維を、20〜60重量%配合して補強し、機械的強度を向上して用いられる。
【0031】
また、保護カバー30は、磁極形成リング27の検出面側部分である上面27aを覆うような鍔部30aを有するものであればよいが、図2に示すように、磁極形成リング27の外周面及びスリンガ25のフランジ部25cの外周面を覆う環状筒部30bを有することで、スリンガ25と磁極形成リング27との接着面からの水の浸入を防止することができる。
【0032】
本発明で用いられるスリンガ25の磁石接合面は、接着剤との接合力を向上させるために微細な凹凸を設けたほうが好適であり、凹凸の設ける方法としては、ショットブラスト処理やプレス成形時の金型表面の凹凸転写による方法などの機械的なものの他、一度表面処理した表面を酸などによって化学エッチングするものであってもよい。磁石接合面に凹凸を設けると、そこに接着剤が入り込み、アンカー効果により磁極形成リング27とスリンガ25との接合力が強固になり、より好適である。また、非磁性金属からなる保護カバー30とプラスチック磁石を成形で一体化する場合は、保護カバー30の磁石接合面にも上記の凹凸を設けるとより好適である。
【0033】
本実施形態の磁気エンコーダに用いられる接着剤は、インサート成形時に、溶融した高圧のプラスチック磁石材料やゴム磁石材料の流動物によって、脱着して流失しない程度まで半硬化状態になっており、溶融樹脂・流動ゴムからの熱、あるいはそれに加えて成形後の2次加熱によって完全に硬化状態となる。使用可能な接着剤としては、溶剤での希釈が可能で、2段階に近い硬化反応が進むフェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が、耐熱性、耐薬品性、ハンドリング性を考慮して好ましい。
【0034】
磁石材料が熱可塑性プラスチックをバインダーとするプラスチック磁石の場合、エンコーダ部の成形は、内径厚み部から溶融したプラスチック磁石材料が同時に金型中に高圧で流れ込み、金型中で急冷され固形化する、ディスクゲート方式あるいはそれと類似のリングゲート方式の射出成形が好ましい。どちらのゲート方式でも溶融樹脂はディスク状に広がってから、内径厚み部にあたる部分の金型に流入することで、中に含有する燐片状の磁性粉が面に対して平行に配向する。特に、内径厚み部近傍の、回転センサの検出する内径部と外径部との間の部分はより配向性が高く、厚さ方向に配向させたアキシアル異方性に非常に近い状態になっている。成形時に金型に、厚さ方向に磁場をかけるようにすると、異方性は更に完全に近いものとなる。尚、磁場成形を行っても、ゲートをディスクゲート、リングゲート以外の、例えばピンゲートとした場合、徐々に固形化に向って樹脂粘度が上がって行く過程で、ウェルド部での配向を完全に異方化するのは困難であり、それによって、磁気特性が低下すると共に、機械的強度が低下するウェルド部に長期間の使用によって、亀裂等が発生する可能性があり好ましくない。
【0035】
例えば、磁石材料がプラスチック磁石の場合、粗面化されたスリンガ25と保護カバー30の表面に、フェノール系樹脂とエポキシ系樹脂の群からなる少なくとも一方を含有する熱硬化性接着剤を半硬化状態で塗布し、この接着剤が塗布されたスリンガ25と保護カバー30をコアにしてプラスチック磁石材料の射出成形(インサート成形)を、磁場射出成形機80を用いて行なう。
【0036】
磁場射出成形機80は、図4に示されるように、支持台81上に型締め装置82と射出装置83とを備える。型締め装置82は、トグル機構等の可動機構84により、支持台81に固定されたハウジング85に対して移動可能な可動部86と、支持台81に固定された固定部87と、可動部86をハウジング85と固定部87間で案内する4本のタイバー88とを有する。可動部86と固定部87は、可動側金型89と固定側金型90をそれぞれ備える。また、可動部86及び固定部87の側面には、コイル91,92が配置されており、電源装置93によって通電される。制御装置94は、可動機構84、電源装置91、射出装置83に接続されており、これらを制御するように構成される。
【0037】
図5(a)に示されるように、可動側金型89は、当板95にボルト固定された複数の可動側金型片89a〜89cからなり、固定側金型90も、複数の固定側金型片90a〜90cからなる。そして、可動側金型89と固定側金型90との対向面間には、キャビティ96とディスクゲート97が形成される。これにより、射出装置83のノズル98から射出された溶融したプラスチック磁石材料は、スプルー部99からディスクゲート97を介してキャビティ96内に充填される。図5(b)に示されるように、可動側金型片89a,89b間には、スリンガ25の円筒部25aを収容する環状空間が構成されており、中央に位置する固定側金型片90aは、その外径側に位置する固定側金型片90bよりも可動側金型89に向けて突出しており、固定側金型片90aは、収容されたスリンガ25と径方向に重なって位置する。また、キャビティ96内には、保護カバー30が保持されており、磁極形成リング27の外周面を覆うための環状筒部30bの内周面をスリンガ25のフランジ部25cの外周面に当接させると共に、磁極形成リング27の上面と接合される鍔部30aを固定側金型片90bの面にセットする。
【0038】
また、磁場射出成形機80に取り付けられた金型89,90中で溶融したプラスチック磁石材料の射出時に併せて、コイル電流を金型89,90の両端のコイル91,92に印加して、厚み方向に発生する一方向(極性同一)の磁界でプラスチック磁石材料を着磁し、磁性体粉を配向させる。その後、金型89,90中で冷却時に着磁方向と逆方向の磁界で脱磁する脱磁と、着磁時のコイル電流より高い初期コイル電流に始まって極性が交互に反転し振幅が徐々に小さくなる複数のパルス電流を金型両端のコイル91,92に印加して脱磁する反転脱磁の少なくとも一方の工程により脱磁を行なう。次に、ゲート部を除去してから、恒温槽等で一定温度、一定時間加熱することで、接着剤を完全に硬化させ、磁極形成リング27、スリンガ25及び保護カバー30を強固に接合する。なお、場合によっては、高周波加熱等で高温、短時間加熱することで、完全に硬化させても良い。その後、周知のオイルコンデンサ式等の脱磁機を用いて、2mT以下、より好ましくは1mT以下の磁束密度まで、更に脱磁する。その後の工程で、周知の着磁ヨークと重ね合わせて多極着磁する。
【0039】
このようにして形成された磁極形成リング27の極数は70〜130極程度、好ましくは90〜120極である。極数が70極未満の場合は、極数が少なすぎて回転数を精度良く検出することが難しくなる。それに対して、極数が130極を越える場合は、各ピッチが小さくなりすぎて、単一ピッチ誤差を小さく抑えることが難しく、実用性が低い。
【0040】
従って、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁極形成リング27は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護カバー30が磁極形成リング27と磁気センサ28との間に介在するように設けられる。これにより、磁極形成リング27は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁極形成リング27の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護カバー30を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護カバー30による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼性の高い転がり軸受ユニットとなる。
【0041】
また、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法によれば、異方性磁石となるようにプラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって磁極形成リング27をスリンガ25に接着接合する工程と、を備えるので、磁極形成リング27は、磁場射出成形によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、また、射出成形時にスリンガ27と磁極形成リング27の接合が可能になり、生産性及び信頼性の高い転がり軸受ユニットを製造することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0043】
図6に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40は、固定輪である外輪41と、回転輪(回転体)である内輪42と、外輪41と内輪42との間に形成された環状隙間で周方向に転動自在に配置され、且つ保持器44により円周方向に等間隔に保持される複数の転動体である玉43とを備える転がり軸受と、前記環状隙間の開口端部に配置される密封装置45と、磁気エンコーダ46と、センサ47と、保護部材である保護板48を備えている。
【0044】
密封装置45は、外輪41の内周面に装着されたシール部材50と、シール部材50よりも軸受外方に配置され且つ内輪42の外周面に固定されたスリンガ60とを有しており、シール部材50とスリンガ60とによって前記環状隙間の開口端部を塞ぎ、埃等の異物が軸受内部に進入することを防止すると共に軸受内部に充填された潤滑剤が漏洩することを防止している。スリンガ60は、第1実施形態と同様、内輪42に外嵌する円筒部60aと、円筒部60aの軸方向端部に湾曲部60bを介して連設されて半径方向外方に広がるように形成された鍔状のフランジ部60cを有する。そして、磁気エンコーダ46は、スリンガ60とこのスリンガ60に取付けられた磁石部である磁極形成リング61と、から構成されており、磁極形成リング61はスリンガ60を固定部材として内輪42に固定されている。
【0045】
シール部材50は、断面略L字形の円環状に形成された芯金51により、同じく断面略L字形の円環状に形成された弾性材52を補強して構成されており、外輪41に内嵌して装着されている。弾性材52の先端部は複数の摺接部に分岐しており、各摺接部は、スリンガ60のフランジ部60cの軸受内方に面する端面、または円筒部60aの外周面に、全周に亙ってそれぞれ摺接している。これにより高い密封力を得ている。
【0046】
また、保護板48は、内輪42の肩部外周面に設けられた段差部42aに圧入固定される環状筒部48aと、環状筒部48aから半径方向外方に延びて磁極形成リング61の検出面側部分と対向する鍔部48bとを有する。そして、保護板48は、スリンガ60の円筒部60aを内輪42の肩部外周面に外嵌させた後に、環状筒部48aを段差部42aに圧入することで、鍔部48bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間或いは接触した状態で、内輪42に取り付けられる。これにより、非磁性材料からなる保護板48が磁極形成リング61と磁気センサ47との間に介在するように設けられる。
【0047】
保護板48と磁極形成リング61との間に隙間を設ける場合は、隙間に砂等の異物の侵入を防止するために、隙間は0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。隙間が0.5mmを越えると、異物が入り込みやすくなると共に、回転センサとのエアギャップが大きくならざるを得なくなり、好ましくない。
【0048】
なお、本実施形態では、保護板48が磁気エンコーダ46と別体であるため、磁気エンコーダ46の成形方法は、保護板48と別に形成される点で第1実施形態と異なるのみであり、磁極形成リング61は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料を磁場射出成形で異方性とすると共に、インサート成形時に硬化反応が進む接着剤によってスリンガ60と接着接合される。また、磁気エンコーダ46の組成や、保護板48の材質等については、第1実施形態のものと同様である。
【0049】
従って、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁極形成リング61は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁極形成リング61の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護カバー48を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護板48による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼製の高い転がり軸受ユニットとなる。
【0050】
なお、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの構成は、図1に示すようなハブユニット軸受にも適用可能であり、図7に示すように、保護板48を、内輪16aに設けられた段差部16bに圧入固定して、磁極形成リング61の検出面側部分と接触させて配置することができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0052】
図8に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Aは、保護部材である保護板70が、静止輪である外輪41に取り付けられる点において、第2実施形態のものと異なる。
【0053】
即ち、保護板70は、外輪41の肩部内周面に設けられた段差部41aに圧入固定される環状筒部70aと、環状筒部70aから半径方向内方に延びて磁極形成リング61の検出面側部分と対向する鍔部70bとを有する。そして、保護板70は、シール部材50を外輪41の肩部内周面に、スリンガ60の円筒部60aを内輪42の肩部外周面にそれぞれ嵌合させた後に、環状筒部70aを段差部41aに圧入することで、鍔部70bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間を持って、外輪41に取り付けられる。これにより、非磁性材料からなる保護板70が磁極形成リング61と磁気センサ47との間に介在するように設けられる。
【0054】
保護板70と磁極形成リング61との間の隙間は、0.1mm〜0.5mmの範囲で設定される。隙間が0.1未満の場合は、軸受の回転に伴う熱膨張によって、磁気エンコーダ46の磁極形成リング61と接触してしまい、軸受の回転及び回転数検出に支障をきたす虞があり、好ましくない。また、隙間が0.5mmを越えると、異物が入り込みやすくなると共に、磁気センサ47とのエアギャップが大きくならざるが得なくなり、好ましくない。なお、磁気センサ47は、保護板70とのエアギャップを小さくするため、鍔部70bと接触させることが好ましい。
その他の構成及び作用については、第2実施形態のものと同様である。
【0055】
なお、本実施形態では、保護板70を外輪41の肩部内周面に形成された段差部41aに圧入固定したが、図9に示される磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Bのように、保護板71は、環状筒部71aを外輪41の外周面に形成された段差部41bに圧入固定し、鍔部71bが磁極形成リング61の検出面側部分と僅かな隙間を持って、外輪41に取り付けられるようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの構成も、図1に示すようなハブユニット軸受にも適用可能であり、さらに、図10に示すように、環状に形成される保護板の代わりに、外輪5aの内周面に固定される保護部材としての保護カバー73が、内輪16a及びハブ輪7aのかしめ部23の形状に沿って、外輪5aの軸方向一端開口を塞ぐように形成されてもよい。このハブユニット軸受では、保護カバー73が外輪5aと内輪16aとの環状空間の軸方向一端を覆うので、シールリング21bを設ける必要がない。この保護カバー73は、外輪5aの軸端内周面に嵌合固定されているが、軸端外周面に嵌合固定されてもよい。
【0057】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。
【0058】
図11に示すように、本実施形態の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット40Cは、保護部材である保護板70がシールリップ72を有する点において、第3実施形態のものと異なる。
【0059】
即ち、保護板70は、その鍔部70bの内周端部に、内輪42の肩部外周面と摺接するゴム製のシールリップ72を有している。これにより、保護板70が外部からの異物の浸入を防止するシール構造を構成するので、転がり軸受ユニット40Cの信頼性をさらに向上することができる。
その他の構成及び作用については、第3実施形態のものと同様である。
【0060】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【実施例】
【0061】
ここで、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0062】
成形試験用磁石材料としては、以下の構成材料からなるストロンチウムフェライト含有異方性プラスチック磁石コンパウンドが使用された。
【0063】
・磁場配向用異方性ストロンチウムフェライト 89.5wt%
(FERO TOP FM−201、戸田工業製)
・PA12 7.0wt%
(PA12パウダーP3012U、ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有;宇部興産製)
・変性PA12 3.0wt%
(UBEPAE1210U、ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有;宇部興産製)
・シランカップリング剤 0.3wt%
(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、A−1100;日本ユニカー製)
・アミン系酸化防止剤 0.2wt%
(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ノクラックDP、大内新興化学工業製)
【0064】
また、スリンガとしては、No.2B仕上げ(Ra 0.06程度)が施された厚さ0.6mmのSUS430を母材に使用した。そして、ショットブラストで磁石接合部(Raで0.8程度)のみ凹凸を設けた。シール摺動面側は未処理である。
【0065】
接着剤としては、ノボラック型フェノール樹脂を主成分とする固形分30%のフェノール樹脂系接着剤(東洋化学研究所製メタロックN−15)を、更にメチルエチルケトンで3倍希釈し、浸漬処理でスリンガ表面に塗布した。その後、室温で30分乾燥してから、120℃で30分乾燥器中に放置することで半硬化状態とした。
【0066】
保護カバーとしては、No.2B仕上げ(Ra 0.06程度)が施された厚さ0.3mmのSUS304を母材に使用した。ショットブラストで磁石接合部(Raで0.8程度)のみ凹凸を設けた。磁気センサ対向側は未処理である。
【0067】
磁石部は、成形時厚み方向に磁場をかけて、接着剤が塗布されたスリンガ及び保護部材をコアにしてディスクゲートで成形した。その後、金型での冷却時に反転脱磁を行い、磁石を完全に脱磁した後、着磁ヨークと一緒にして、96極にNS交互にして着磁を行った。このように磁場成形を行うことで、最大エネルギー積を1.9MGOe(14.8kJ/m3)とした。また、接着剤を完全に硬化させるために、150℃で1hr加熱した。なお、成形される磁石部の厚さは、0.9mmとした。
【0068】
このようにして構成される実施例の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、非磁性材料からなる保護部材が磁石部と磁気センサとの間に介在するように設けられる。これにより、磁石部は、磁場配向によって高い磁気特性が達成できる異方性プラスチック磁石となり、磁石部の検出面側部分に異物破損防止用の非磁性保護部材を配置しても、回転数を検出する磁束密度を一定レベル以上に維持でき、検出精度を低減させることがなく、保護部材による損傷防止と磁気性能向上の両立が図られた信頼性の高い転がり軸受ユニットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図2】第1実施形態の磁気エンコーダを備えた密封装置を示す断面図である。
【図3】磁極形成リングの円周方向に多極磁化された例を示す斜視図である。
【図4】磁場射出成形機を示す模式図である。
【図5】キャビティを形成する可動側金型と固定側金型の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の他の変形例に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図12】従来の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
2a 車輪支持用転がり軸受ユニット(磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット)
5a 外輪
7a ハブ
8 スタッド
11 結合フランジ
12 取付フランジ
15 小径段部
16a 内輪
18 保持器
21a,21b シールリング
22a,22b 弾性材
23 かしめ部
24b 芯金
25 スリンガ
26 磁気エンコーダ
27 磁極形成リング(磁石部)
30 保護カバー(保護部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪と、回転輪と、前記固定輪と前記回転輪との間で周方向に転動自在に配置される複数の転動体と、前記回転輪に固定される磁気エンコーダと、を備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットであって、
前記磁気エンコーダは、回転数検出用の磁気センサと対向するようにして回転体に固定され、且つ円周方向に多極に着磁される略円環状の磁石部、を備え、
前記磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、
非磁性材料からなる保護部材が前記磁石部と前記磁気センサとの間に介在するように設けられることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記プラスチック磁石材料のバインダーは、少なくとも熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記プラスチック磁石材料は、ジフェニルアミン系化合物とp−フェニレンジアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種類のアミン系酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする請求項2に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記保護部材が、固定輪と回転輪のいずれか一方に固定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記磁気エンコーダが磁性材料のスリンガをさらに備えた、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記異方性磁石となるように前記プラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、
前記射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって前記磁石部を前記スリンガに接着接合する工程と、
を備えることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法。
【請求項1】
固定輪と、回転輪と、前記固定輪と前記回転輪との間で周方向に転動自在に配置される複数の転動体と、前記回転輪に固定される磁気エンコーダと、を備えた磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットであって、
前記磁気エンコーダは、回転数検出用の磁気センサと対向するようにして回転体に固定され、且つ円周方向に多極に着磁される略円環状の磁石部、を備え、
前記磁石部は磁性体粉を含有した熱可塑性樹脂をバインダーとするプラスチック磁石材料からなる異方性磁石で、
非磁性材料からなる保護部材が前記磁石部と前記磁気センサとの間に介在するように設けられることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記プラスチック磁石材料のバインダーは、少なくとも熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記プラスチック磁石材料は、ジフェニルアミン系化合物とp−フェニレンジアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種類のアミン系酸化防止剤をさらに含有することを特徴とする請求項2に記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記保護部材が、固定輪と回転輪のいずれか一方に固定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記磁気エンコーダが磁性材料のスリンガをさらに備えた、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記異方性磁石となるように前記プラスチック磁石材料を磁場射出成形する工程と、
前記射出成形時に硬化反応が進む接着剤によって前記磁石部を前記スリンガに接着接合する工程と、
を備えることを特徴とする磁気エンコーダ付転がり軸受ユニットの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−101443(P2007−101443A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293841(P2005−293841)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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